【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 5冊目 (775レス)
上下前次1-新
650: 2016/11/14(月)00:52 ID:bzIdgMTY(1/30) AAS
〜夕乃の嫁入り 後編〜
午後十時 崩月邸 夕乃の部屋
「ん...」
真九郎が目を覚ますと、そこは崩月邸の来客用の寝室だった。
どうやら、風呂場での乱痴気騒ぎのあと散鶴共々のぼせてしまったらしい。
「あ、真九郎さん。気が付かれたんですね」
「ええ。まだ頭がフラフラするんですけど...意識ははっきりしてます」
省19
651: [sage saga] 2016/11/14(月)00:52 ID:bzIdgMTY(2/30) AAS
柔らかく、まるで母の温もりを思い出させるようなその豊かな胸に
顔を埋めた真九郎は夕乃の愛撫に身を委ねながら、ゆっくりと自分の腕を
夕乃の体に巻き付ける。
一方の夕乃も母が子を慈しむように真九郎の全身をなで続ける。
布団の上に座りながら、二人は体を揺らしながらこの至福の一時を
いつまでも味わい続ける。
「どうして俺は、夕乃さんのことを避け続けてたんだろ...?」
「こんなにも暖かくて幸せな気持ちにしてくれるのに....」
「それは真九郎さんは恥ずかしがり屋で弱虫さんだったからですよ」
「自分の気持ちに蓋をして見栄や嘘を優先するから私を避けたんです...」
省14
652: [sage saga] 2016/11/14(月)00:53 ID:bzIdgMTY(3/30) AAS
真九郎の自分を抱きしめる力が強まったことを夕乃は感じ取った。
ここが崩月夕乃にとっての一世一代の大一番。
真九郎の心の闇を理解せずして、何が真九郎にとっての一番の女か?
(私には、真九郎さんの闇を晴らすことは出来ないかも知れない)
(けど、隣に並び立って貴方の手を引いて一緒に歩いて生きたい)
上手く全てを伝えられるかどうか分からない。失敗するリスクもある。
しかし、それでも夕乃は真九郎が自分を都合の良い逃げ道にするのには
耐えられなかった。
何故なら、真九郎の持つ心の弱さに立ち向かう強さこそが、夕乃を
省12
653: [sage saga] 2016/11/14(月)00:53 ID:bzIdgMTY(4/30) AAS
「嘘つき。やっぱり...俺なんかいなくても良かったんじゃないか...」
抱きしめた真九郎が戦慄きながら体をガタガタと震わせるその変化にも
夕乃は平然と自分を崩すこと無く向き合っていた。
「真九郎さん。血のつながりがなくても私達は家族です」
「たとえ真九郎さんが逃げ出したとしても、何度でも見つけ出します」
「口だけならなんとでも言えるよ...」
「そうかもしれませんね。でも、真九郎さんは必ず戻ってきます」
「どうやってそれを証明するのさ...」
省13
654: [sage saga] 2016/11/14(月)00:54 ID:bzIdgMTY(5/30) AAS
「うっ....ううううううっ....」
ダメだ。
もう...この温もりを知ってしまえば、揉め事処理屋なんて到底出来ない。
毎日命懸けで雀の涙の金を稼ぐような仕事が本気で馬鹿らしく思える。
離れたくない。夕乃と一緒になりたい。
かつて抱いた強さへの憧れが、愛する夕乃への想いに塗り潰されていく。
「お、姉ちゃん...」
「はい。夕乃は、真九郎さんのお姉さんで、将来のお嫁さんですよ?」
省13
655: [sage saga] 2016/11/14(月)00:54 ID:bzIdgMTY(6/30) AAS
「もうっ!一年もの間、弟の癖に生意気にもプチ家出なんかして!!」
「大体おじいちゃんは散鶴と真九郎を甘やかしすぎなの!」
「一人でなんでも出来ると思ったら大間違いなのよ?真九郎」
「ごめんなさい。本当は背伸びしたかっただけなんだ」
今日まで誰かに心を曝け出して甘えることなく過ごしてきた真九郎にとって
今の夕乃はまさにその辛さを全て忘れて受け入れてくれる存在だった。
夕乃や崩月の家を守る為なら、例え自分の五体が砕け散っても今まで
忌避し続けてきた戦いに意味を見いだすことが出来る。
省6
656: [sage saga] 2016/11/14(月)00:55 ID:bzIdgMTY(7/30) AAS
「夕乃さん...俺を受け入れてくれて、ありがとう」
「我が儘ばっかりして、迷惑かけ続けてたのに...」
「ううん。そんなことはもういいのよ」
「でも、真九郎さん。崩月に戻る前にやるべき事があるでしょう?」
夕乃の笑顔に真九郎は遂にこれからのことを考えることを放棄した。
省15
657: [sage saga] 2016/11/14(月)00:55 ID:bzIdgMTY(8/30) AAS
「次に、悪宇商会の人達と村上さんとは縁を切りなさい」
「あんな関われば害しか無い人でなしと関わる必要はありません」
「確かにそうだけど...」
「斬島さんや星嚙さんのことを真九郎さんは誤解しています」
「忘れたんですか?」
省16
658: [sage saga] 2016/11/14(月)00:55 ID:bzIdgMTY(9/30) AAS
「じゃあ真九郎さんは村上さんが攫われたら一々救いに行けるんですか?」
「それは...できる限り...」
「じゃあ紫ちゃんが同じ時に攫われたらどっちを優先するんですか?」
「そ、それは....」
「そんな状況になって、果たして真九郎さんは冷静でいられますか?」
省12
659: [sage saga] 2016/11/14(月)00:56 ID:bzIdgMTY(10/30) AAS
いやしくも自分と張り合って真九郎を横取りしようとした泥棒猫の
息の根を止めることが出来る。そう思うと心が躍った。
夕乃の愛の本質は、ただ一人の人間を狂おしく愛する独占欲。
その為に夕乃は自分の気持ちを押し殺し、愛する人の為に尽くしてきた。
そして、その努力が実って真九郎は自分に己の全てを打ち明け、身も心も
委ねてくれたのだ。
省13
660: [sage saga] 2016/11/14(月)00:56 ID:bzIdgMTY(11/30) AAS
自分よりも先に紫が、真九郎を「強い男」に変えたという事実。
それが夕乃にとってはこの上なく不愉快だった。
真九郎を導いたのが紫という事実のあまりの悔しさに夕乃は涙を流す。
「真九郎さんの、大馬鹿...なによ、私のことを夢中にさせといて...」
「それで最後には紫ちゃんを選んで、私を端に追いやるのね...」
省17
661: [sage saga] 2016/11/14(月)00:57 ID:bzIdgMTY(12/30) AAS
(そう...ですよね)
(紫ちゃんは本音で、私は手練手管で...ふふふ、ふふふふ...)
(私は卑しい女、だから...だから真九郎さんは、私なんかよりも)
しかし、真九郎の出した答えは夕乃の想像の斜め上だった。
「ごめんね、夕乃さん。俺の為にいっつも苦しんで...」
省13
662: [sage saga] 2016/11/14(月)00:57 ID:bzIdgMTY(13/30) AAS
大好きな人にお前だけを愛すると言われなかった無念と、ようやく
真九郎が自分のことを守るべき大切な存在として認めてくれた嬉しさの
板挟みになりながらも、夕乃はそれでも必死に真九郎の愛を自分だけの
ものにしようと最後の悪足掻きをした。
「イヤです!真九郎さん!お願いだから私だけを愛して下さい!!」
「紫ちゃんにも、ちーちゃんにも貴方を渡したくなんかないの!」
省10
663: [sage saga] 2016/11/14(月)00:57 ID:bzIdgMTY(14/30) AAS
「夕乃さん」
涙を浮かべ、唇を震わせる夕乃に覆い被さった真九郎はそのまま
自分の唇を夕乃に重ねた。
固く結んだ唇をこじ開け、緩んだ歯の間から様子を伺う夕乃の舌を
引っ張りだして、その上に自分の想いを乗せる。
省11
664: [sage saga] 2016/11/14(月)00:58 ID:bzIdgMTY(15/30) AAS
先程までとは立場が逆になったことに戸惑う夕乃の動揺を見抜いた
真九郎はそのまま夕乃をモノにすべく一気にたたみかける。
「ねぇ、夕乃さん?」
「夕乃さんは紅夕乃になってくれないの?」
「ぁぅ...///」
省19
665: [sage saga] 2016/11/14(月)00:58 ID:bzIdgMTY(16/30) AAS
ブンブンと頭を振って一瞬だけ脳裏に浮かんだ、真九郎と紫と散鶴との
夢のハーレムライフで一番の寵愛を受ける自分とその腕に抱かれている
真九郎との間に出来た愛する我が子。
「だ、ダメですよ。ま、まだ真九郎さんも私も大人じゃないのに...」
「だ、大体、真九郎さんはどう責任を取るおつもりなんですか?」
夕乃の最後の抵抗に、真九郎は悩むことなく即答した。
省10
666: [sage saga] 2016/11/14(月)00:59 ID:bzIdgMTY(17/30) AAS
「はい。こちらこそ末永くよろしくお願いします」
「うふふ...。今日はまるで夢みたいな事ばかり起きますね」
「本当に嘘じゃないかって、私疑ってるんですよ?」
申し訳なさそうに頭を掻く真九郎は抱きかかえた夕乃を降ろした。
布団の上に寝かされた夕乃は、嬉し涙を流し、真九郎の告白を快諾した。
省15
667: [sage saga] 2016/11/14(月)00:59 ID:bzIdgMTY(18/30) AAS
「まだ、紫がどうなるか分からないですけど...」
「でも、俺頑張りますから」
「夕乃さんと紫とちーちゃんを護れる男になります!!」
「はい。その意気ですよ、真九郎さん」
「これからは一人で悩まずに私に相談して下さいね。旦那様?」
省11
668: [sage saga] 2016/11/14(月)01:00 ID:bzIdgMTY(19/30) AAS
「ち、ちーちゃん?い、いつの間に?」
驚く姉に向き直り、弱気な瞳に強い嫉妬を滲ませた散鶴は夕乃に
対して宣戦布告をした。
「おねーちゃん!おにーちゃんはわたしのなの!」
そして夕乃が惚けている間に、散鶴は再び真九郎にキスをした。
省12
669: [sage saga] 2016/11/14(月)01:00 ID:bzIdgMTY(20/30) AAS
上品に笑う冥理に抱きしめられた真九郎の隣では、夕乃と散鶴の仁義なき
姉妹喧嘩が勃発し、それを法泉が面白そうに見守っている。
「おねーちゃんのうそつき!さいしょからだましてたんでしょ!」
「う、嘘なんか言ってないわよ。結果的に目的は達成したじゃない」
「ううう...妹を出し抜いて一人だけ特別扱いなんてひきょうだよぉ...」
省10
670: [sage saga] 2016/11/14(月)01:01 ID:bzIdgMTY(21/30) AAS
「ちーちゃん、ちーちゃん。お話聞いてもらえるかな?」
「やだやだやだぁ!!おにーちゃんのお嫁さんにしてくれなきゃやだぁ!」
「そんな事言うと夕乃さんがちーちゃんのおしりぺんぺんしちゃうよ?」
「やだあああああああああああ!!!!」
「あーあ。今夕乃さんがすごーく怖い顔でちーちゃんの後ろに立ってるよ?」
省9
671: [sage saga] 2016/11/14(月)01:01 ID:bzIdgMTY(22/30) AAS
「ぐすっ、おにーちゃんはわたしよりおねーちゃんがすきなの?」
「うん。でも、ちーちゃんも夕乃さんと同じ位大好きだよ?」
「でも、わたしは愛人で、おねーちゃんは正妻なんでしょ?」
「今のところはそうなるかな?でも、ちーちゃん」
「?」
省11
672: [sage saga] 2016/11/14(月)01:01 ID:bzIdgMTY(23/30) AAS
「もしちーちゃんが高校生になっても俺の事を好きでいてくれたら」
「その時は、責任をとってちーちゃんをお嫁さんにするから」
「だから、その時までちーちゃんは友達を沢山つくること。いい?」
「約束だよ?おにーちゃん」
「うん。約束する」
省9
673: [sage saga] 2016/11/14(月)01:02 ID:bzIdgMTY(24/30) AAS
「おじいちゃん、お母さん。私は真九郎さんと結婚したいんです」
「崩月の家の宿命とか、裏十三家の血筋とかそういうのじゃなくて」
「私は真九郎さんを幸せにしてあげたい。この人と一緒になりたいんです」
「真九郎さんとの仲を認めて下さい。お願いします」
将来の義理の息子とその傍らに立って歩いて生きたいと望む自分の娘。
省20
674: [sage saga] 2016/11/14(月)01:02 ID:bzIdgMTY(25/30) AAS
「俺は引き返しません。どんなことがあっても夕乃さんを守ります」
「ちーちゃんも、冥理さんも、師匠も。俺が絶対に守ります」
手放したモノの価値を悼みながら、それでも真九郎は止まる事無く
前に進む事を決意した。
人でなしに墜ちながらも、それでも真九郎は自分が出来る事を選びとる。
省15
675: [sage saga] 2016/11/14(月)01:03 ID:bzIdgMTY(26/30) AAS
十数年前に産んだ娘がまさか学校を卒業する前に結婚相手を見つけ出すとは
予想外だったな、と愛する孫娘を茶化す父の姿を見て冥理は涙ぐんでいた。
真九郎も引き取ってきた時に比べれば、随分成長したなと懐かしく思える。
生きる意味も無く、ただ死にたくないからという理由で生きながらえていた
あの少年が崩月の家を出た途端、途方もない大事に巻き込まれながらも、
省8
676: [sage saga] 2016/11/14(月)01:03 ID:bzIdgMTY(27/30) AAS
背を向けて立ち去る一家の大黒柱に真九郎と夕乃は深く頭を下げた。
そして散鶴も渋渋ながら自分が出る幕はないと悟ったのか、泣きべそを
かきながらふすまを開け、祖父の後を追うように自分の部屋へと戻った。
「真九郎君。紫ちゃんは夕乃より手強いわよ?」
「お母さん...」
省10
677: [sage saga] 2016/11/14(月)01:03 ID:bzIdgMTY(28/30) AAS
「真九郎さんの気持ちは嬉しいです...でも私は鬼の娘ですから...」
「くれぐれも他の女に手を出すときは気をつけて下さいね?」
「私、相手の女が真九郎さんの子供を孕んだら殺しますからね」
「物騒なこと言わないでよ...夕乃さんの手が血で汚れるなんて嫌だよ」
「本気です!」
省18
678: [sage saga] 2016/11/14(月)01:04 ID:bzIdgMTY(29/30) AAS
「ええ。その約束、確かに守ります。それに、信じてますから」
「真九郎さんが世界で一番愛しているのはこの私だって」
「ありがとう。大好きだ、夕乃さん」
本当に、本当に長い長い遠回りだった。
迷い続けた分、明日からはまた新しい世界がきっと開けるだろう。
でも、夕乃の心の中には、なんの苦労もなく真九郎を手に入れる
省8
679: [sage saga] 2016/11/14(月)01:04 ID:bzIdgMTY(30/30) AAS
明日は学校だが、もうそんなのどうでもいいや。
今は楽しめるだけ、自分に与えられた青春を満喫しよう。
命短し恋せよ若人。難しいことはとりあえず後回しでいこう。
「夕乃さんは可愛いなぁ。よし!決めた」
「これからは徹・底・的に夕乃さんを甘やかす!」
「きゃ〜〜〜〜!真九郎さん大好き!もう最高です!」
省6
680: 2016/11/17(木)21:15 ID:vUQ3KXV1(1) AAS
更新乙です
夕乃さんやちーちゃんはどうにかなったけど、紫は説得が難しそう
どうなるか注目ですね
681: [sage saga] 2016/11/24(木)23:10 ID:V3Gh3kBt(1/34) AAS
〜紫の嫁入り 前編〜
4日後 学校
「真九郎さん。お昼食べましょう」
「そうだね。屋上行こうか」
何のことはない日常の1ページ。
省9
682: [sage saga] 2016/11/24(木)23:11 ID:V3Gh3kBt(2/34) AAS
「夕乃さん。恥ずかしいよ...皆の目もあるから控えめに...」
「イヤです。自重するのはもう辞めました。聞きません」
「これからは爛れた二人だけの青春と愛の性活を過ごすんです!」
「『お姉ちゃん』お願いだから、自重しよ?ね?」
「!!」
省5
683: [sage saga] 2016/11/24(木)23:11 ID:V3Gh3kBt(3/34) AAS
屋上
フェンスの近くにあるベンチに腰掛けた真九郎の膝の上に夕乃が乗っかる。
決して小さくはないが、その温もりをより味わう為、真九郎は
自分の正面へと夕乃の座る向きを変える。
「我慢、出来なくなっちゃったんですか?」
省10
684: [sage saga] 2016/11/24(木)23:11 ID:V3Gh3kBt(4/34) AAS
「...」
その瞬間、夕乃の目からハイライトが消えた。
真九郎のポケットから携帯電話を取りだし、電話をかけてきた相手を
確認する。
案の定、その相手は村上銀子だった。
省11
685: [sage saga] 2016/11/24(木)23:12 ID:V3Gh3kBt(5/34) AAS
「夕乃さん。銀子には手を出さないでね」
「真九郎さん...でも...」
通話ボタンを切った真九郎は、恐ろしい威圧感を撒き散らす夕乃に
怯えることなく普通に釘を刺した。
「ちゃんとお別れは自分の口で伝えなきゃ意味が無い。そうでしょ」
省7
686: [sage saga] 2016/11/24(木)23:12 ID:V3Gh3kBt(6/34) AAS
「全く、真九郎さんは罪作りな人ですね」
「夕乃さんには負けるよ。可愛くて純粋で男タラシの罪作りな夕乃さんには」
「なっ。私はそんなふしだらでもなければ男タラシでもないですっ!」
「そうかなぁ?サッカー部の主将が夕乃さん好きだって噂、有名だよ」
「私はあんな人好きでもなければ、眼中にもないですっ」
省11
687: [sage saga] 2016/11/24(木)23:13 ID:V3Gh3kBt(7/34) AAS
「はい。あーん」
「あーん」
昼間から豪勢な夕乃の手作りの料理を頬張る様を本当に嬉しそうに
眺める夕乃は、更に甲斐甲斐しく自分の箸で鮭の切り身を真九郎の口に運ぶ。
真九郎も夕乃と付き合う前は、こうした『女の夢』というものに対して
省5
688: [sage saga] 2016/11/24(木)23:13 ID:V3Gh3kBt(8/34) AAS
「ふふっ...美味しいですか」
「うん。夕乃さんの料理はいつも美味しいよ」
「ふふーん。そうでしょうそうでしょう」
「なんて言ったって真九郎さんへの愛が一番籠もっていますから」
「じゃあ、今度は俺が夕乃さんのお弁当つくってあげる」
省18
689: [sage saga] 2016/11/24(木)23:14 ID:V3Gh3kBt(9/34) AAS
放課後 新聞部部室
最後のHRの終了後、真九郎はいつものように新聞部の部室へ向かう。
誰も部員がいない部室のたった一人の主は、いつもの場所にいた。
「遅い。何してたのよ」
「悪い。夕乃さんと一緒にお弁当食べてたんだ」
「はぁ...また崩月先輩?」
省14
690: [sage saga] 2016/11/24(木)23:14 ID:V3Gh3kBt(10/34) AAS
「ん?46万円ものツケをどう一括払いする算段をつけたかって?」
「えーっと杉原さんの一件で使ったヤクザの組があるんだけどさ...」
「そこの内部でちょっとしたゴタゴタがあったんだ」
「で、そのゴタゴタをなんとかしてくれって俺に直接連絡が来たんだよ」
「アンタ...なに勝手なことを...」
省12
691: [sage saga] 2016/11/24(木)23:14 ID:V3Gh3kBt(11/34) AAS
(あった...)
(一つだけ、あった)
脳裏に浮かぶ、世界の裏を牛耳るどす黒いまでに大きなあの組織。
不幸なことに自分はそこに務める悪党どもを知ってしまっている。
「まさか、真九郎...アンタ、悪宇商会と手を...」
省8
692: [sage saga] 2016/11/24(木)23:15 ID:V3Gh3kBt(12/34) AAS
「これ、今回の資料」
「うん。ありがとう」
必死になり震えを隠そうとする銀子だったが、それは無理な話だった。
いつもと変わらぬ風を装っている真九郎だが、その背後から漂ってくる
血腥い鮮血の匂いが、自分の知っている幼馴染がもう引き返せない所にまで
省12
693: [sage saga] 2016/11/24(木)23:15 ID:V3Gh3kBt(13/34) AAS
この時ばかりは、依頼者の所持する圧倒的暴力が頼もしく思えた。
だが、銀子はあまりにも簡単な事を失念していた。
真九郎が『崩月』だということを..
そして、崩月はあと一人この学校にいるという事を....
心の整理がつかない中、必死に真九郎に何が起ったのかを頭を
省14
694: [sage saga] 2016/11/24(木)23:15 ID:V3Gh3kBt(14/34) AAS
「なんでよ!!アンタあれだけ暴力が嫌いだったじゃない!!」
「揉め事処理屋を辞めるなら一緒にラーメン屋やっていこうって...」
「それなのに!どうして!!」
「どうして...私のこと、待ってくれなかったのよ...」
「銀子は、何も悪くないんだ。悪いのは全部俺だよ」
省12
695: [sage saga] 2016/11/24(木)23:16 ID:V3Gh3kBt(15/34) AAS
なぜなら、それは...
真九郎が日の当たる世界を拒んだことに他ならないからだ。
人の命が蝋燭の灯火のように軽く吹き消され、血と怨嗟と暴力の
屍山血河の世界こそが自分の身の置き場。
「分かった...崩月先輩に誑かされたんでしょ、ねぇ!」
省10
696: [sage saga] 2016/11/24(木)23:16 ID:V3Gh3kBt(16/34) AAS
「銀子の言いたいことは痛いほど分かる」
「でも、さ...」
「サラリーマンとか畑を耕す自分を俺は想像できないんだよ」
「まぁ、例外としてラーメン屋は選択肢にはいってたけどね」
「じゃあ、いまからでも...」
省14
697: [sage saga] 2016/11/24(木)23:17 ID:V3Gh3kBt(17/34) AAS
「...絶交よ。アンタなんか、もう...顔も見たくない」
もう、真九郎の心の中に自分はいないという絶望的な事実に気が付いた
銀子は真九郎を睨み付け、絶交宣言をした。
今の銀子の目には、真九郎がかつて自分達を攫った人身売買組織と
全く変わらない存在にしか見えなかった。
省6
698: [sage saga] 2016/11/24(木)23:17 ID:V3Gh3kBt(18/34) AAS
「帰ってよ!この人でなし!!」
「私利私欲の為にこれから多くの人を傷つけ、殺しまくるんでしょ!」
「出てって!出てけってばぁ!!」
銀子に背を向け、感情任せにその拳に叩かれている真九郎。
分かっている。
省12
699: [sage saga] 2016/11/24(木)23:17 ID:V3Gh3kBt(19/34) AAS
高校から五月雨荘に戻るまで、携帯電話が鳴り止むことはなかった。
着信履歴100件とメールが156通。
我ながらよくもまあここまで酷いことを幼馴染みに出来た物だと
乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
メールの内容を見ると、まだ間に合うから裏社会の闇に染まる前に
省7
700: [sage saga] 2016/11/24(木)23:18 ID:V3Gh3kBt(20/34) AAS
「正直な話、心が痛いですよ」
「銀子の俺への想いが分からないわけじゃなかった」
「だけど、いつかはこうなることはわかりきっていたのに...」
「もう、良いじゃないですか。真九郎さん」
「真九郎さんには私とちーちゃんと紫ちゃんがいます」
省13
701: [sage saga] 2016/11/24(木)23:18 ID:V3Gh3kBt(21/34) AAS
「次は〜○○〜○○行の電車が...」
あれほど鳴り響いていた携帯電話のバイブレーションがいつの間にか
鳴り止んでいた。
ホームに滑り込んできた電車が口を開け、乗客達を吐き出し始める。
「じゃ、また明日学校で」
省9
702: [sage saga] 2016/11/24(木)23:18 ID:V3Gh3kBt(22/34) AAS
五月雨荘
紅真九郎が五月雨荘の自室に戻ったのは午後六時を少し過ぎた所だった。
おんぼろになったドアを開け、自分の部屋に入ると、そこには
小さな天使がいて、自分にほほえみかけていた。
「真九郎!遅かったな。お帰りっ!」
省11
703: [sage saga] 2016/11/24(木)23:19 ID:V3Gh3kBt(23/34) AAS
「真九郎。今日はどうしたというのだ?」
「なにか良いことでもあったのか?」
「いや、むしろ逆...かな。だから、紫に...それを、忘れさせて欲しい」
紫の笑顔に、銀子の泣き顔が重なり真九郎は声を詰まらせた。
紫も今まで笑顔だった真九郎が泣き出しそうになるのを見ていられず、
省10
704: [sage saga] 2016/11/24(木)23:19 ID:V3Gh3kBt(24/34) AAS
七歳の紫に、今の真九郎が抱えている途方もない大きさの悩みを
正しく判断できるわけがなかった。
崩月を継いだ上で、交わることのない表と裏の禁を破り、九鳳院の
一人娘を奪い取ろうとする、そんな大それたことに自分が愛する女を
巻き込もうとするのだ。
省10
705: [sage saga] 2016/11/24(木)23:19 ID:V3Gh3kBt(25/34) AAS
午後7時 五月雨荘
一時間近く泣き続けた真九郎は、泣き疲れてそのまま紫の胸に
抱きつきながら眠りに落ちてしまった。
「うんしょ、うんしょ。ううむ重いな、真九郎の体は」
布団を敷き、その上に真九郎の体を引きずりながら乗せ、学生服を
剥ぎとりパジャマに着替えさせる。
省14
706: [sage saga] 2016/11/24(木)23:20 ID:V3Gh3kBt(26/34) AAS
一番怪しいのは言うまでもなく夕乃で、二番目に怪しいのはやたらと
威圧感はあるが自分を奥の院から出してくれた恩人の紅香である。
3,4に環や闇絵が続くものの、あの二人はなんだかんだ言って
真九郎には優しい気がするから外しても良いだろう。
となると、真九郎を泣かせた犯人は...
省16
707: [sage saga] 2016/11/24(木)23:20 ID:V3Gh3kBt(27/34) AAS
夕乃とは対照的にどこまでもうじうじした散鶴の泣きべそに苛立つ
紫だが、散鶴もそれは同じで真九郎とは対照的に威圧的で偉そうな
紫に反感を覚えていた。
はじめはいつも自分に対して威張っている紫に対するちょっとした
仕返しのつもりだった。
省10
708: [sage saga] 2016/11/24(木)23:21 ID:V3Gh3kBt(28/34) AAS
「おにーちゃん、おねーちゃんにコクハクしてたよ」
「世界で一番おねーちゃんがダイスキですって!」
「う、嘘だ!真九郎がそんなこと夕乃に言うはずがない!」
「嘘じゃないもん!」
「嘘だ!」
省11
709: [sage saga] 2016/11/24(木)23:21 ID:V3Gh3kBt(29/34) AAS
「なっ、何を言うか!真九郎と私は相思相愛で...」
「でも今すぐケッコンは無理だよね」
「そっ、それは...」
「うっ、ぐすっ...だ、黙れ散鶴!し、真九郎が一番好きなのは、この...」
「おにーちゃん、おねーちゃんを下さいっておじいちゃんに言ってたよ」
省11
710: [sage saga] 2016/11/24(木)23:21 ID:V3Gh3kBt(30/34) AAS
「うわああああああん!夕乃と散鶴の大馬鹿ものーっ」
「何してるんだ紫!どうしたんだよ!」
この時、真九郎は紫が自分と夕乃の間にあったことを知った事に
気が付いてしまった。
そして、紫の大号泣にいかに自分が浅はかで最低なことを崩月家の
省9
711: [sage saga] 2016/11/24(木)23:22 ID:V3Gh3kBt(31/34) AAS
〜夕乃の視点〜
明日の真九郎さんのお弁当の仕込みをしているときに、電話が鳴った。
おそらく電話の主はおじいちゃんの友達か、町内会の人だろう。
「ちーちゃ〜ん。お電話出て〜」
「はーい」
省12
712: [sage saga] 2016/11/24(木)23:22 ID:V3Gh3kBt(32/34) AAS
「ふふふ...おにーちゃんはおねーちゃんの恋人。だから...」
「紫ちゃんはもうウワキ相手だね」
「散鶴ッ!」
妹を押しのけ、電話の受話器を取る。
「紫ちゃん?!紫ちゃん!!」
省12
713: [sage saga] 2016/11/24(木)23:23 ID:V3Gh3kBt(33/34) AAS
「おねーちゃん!行っちゃダメ!行っちゃやだよぉ!」
妹が、あの泣き虫だった妹が賢明に通せんぼうをして、私の目の前に
立ちふさがった。
「ちーちゃん...良い子だから、ね?そこをどいて」
「やだぁ!」
省14
714: [sage saga] 2016/11/24(木)23:23 ID:V3Gh3kBt(34/34) AAS
理解できないが故に、散鶴の抱いている感情は最も正しい。
人権すらない『道具』を人として扱い、この先の人生を共に過ごす事が
どれだけのリスクと危険を犯さなければならないのか。
それを自覚できないまま真九郎は紫を、これから彼女が独り立ちが
出来る歳まで守っていく役目を担おうと言うのだ。
紫と散鶴を天秤にかけたとしても、絶対に散鶴を選ぶのが夕乃の本心。
省9
715: 2016/11/27(日)07:20 ID:DCGibjW7(1) AAS
乙です
まさに修羅場ですね
続き楽しみにしてます
716: [sage saga] 2016/12/01(木)01:05 ID:qO1WsCuS(1/43) AAS
〜紫の嫁入り 中編〜
散鶴の涙に大きく自分の心を揺さぶられながらも、夕乃はそれでも
懸命になって、なんとか妹を説得しようと試みた。
だが、どう考えても今すぐに散鶴を説得できる力を持った言葉や
想いが中々浮かばない。
省7
717: [sage saga] 2016/12/01(木)01:06 ID:qO1WsCuS(2/43) AAS
内気で人見知りの妹。
まだ物事の分別がつかないけど、あの子は自分によく似ていてどこか
危ういくらいにまで思い込む癖がある。
これは散鶴自身の純粋さの裏返しともとれるし、同時に一番の弱点でもある
だから自分と異なる他人と打ち解けられない。打ち解けられないけど、
省8
718: [sage saga] 2016/12/01(木)01:06 ID:qO1WsCuS(3/43) AAS
「ちーちゃんは私よりも真九郎さんを幸せにしたい?」
「...うん」
「そっか。真九郎さん、優しいもんね。独り占めしたいよね?」
「...うん...」
「でもね、ちーちゃん。それはお姉ちゃんも紫ちゃんも同じなんだよ」
省7
719: [sage saga] 2016/12/01(木)01:07 ID:qO1WsCuS(4/43) AAS
「ちーちゃん。ちーちゃんは何が怖いの?」
「紫ちゃん」
「どうして?」
「だって...乱暴だし、いつも偉そうで...上から目線でイヤなんだもん...」
「でも、でも...おにーちゃんはそんな紫ちゃんが私より好きで...」
省6
720: [sage saga] 2016/12/01(木)01:07 ID:qO1WsCuS(5/43) AAS
その上、自分と同じ歳くらいで大人のように振る舞い、自分の全ての
何段階も上を行く紫が、真九郎が夕乃を愛するのと同じ次元で互いの将来を
誓うという事実をどうしても散鶴は認められない。認めたくなかった。
だって、それを認めてしまえば...自分は一生紫や夕乃のおこぼれに
あずかりながら、指をくわえて真九郎の側にいることしか出来なくなると
省8
721: [sage saga] 2016/12/01(木)01:07 ID:qO1WsCuS(6/43) AAS
そう、崩月夕乃は最初から自分が真九郎に最も相応しいと思っている。
好きな男を自分の手元に縛り付ける為にはなんだってする。
流石に大切な家族を犠牲には絶対させないが、それ以外のことなら
真九郎を自分の側から離さない為なら何だってする覚悟がある。
真九郎が望むなら、七面倒くさい表と裏の利権が絡み合う紫と自分との
省10
722: [sage saga] 2016/12/01(木)01:08 ID:qO1WsCuS(7/43) AAS
「散鶴。真九郎さんの側にいたければ崩月の修行をちゃんとしなさい」
「いつまでも弱虫の貴女には何も魅力なんか生まれっこありません」
「修行したら、おにーちゃんは私のこと好きになってくれる?」
「もうとっくに真九郎さんはちーちゃんのこと、大好きになってますよ」
「そっか...えへへ」
省14
723: [sage saga] 2016/12/01(木)01:08 ID:qO1WsCuS(8/43) AAS
午後八時
一方、九鳳院紫は騒ぎを聞きつけた闇絵と環の取りなしによって
一旦二人が落ち着くまで、それぞれ預かるという形で引き離されていた。
紫は闇絵、真九郎は環。
「ううう...真九郎のバカ、大馬鹿ものぉ...」
ポロポロと涙を流しながら、闇絵に抱きしめられた紫はぼんやりと
省10
724: [sage saga] 2016/12/01(木)01:08 ID:qO1WsCuS(9/43) AAS
崩月夕乃。
かつて飛行機事故で家族を失った真九郎を自分が生まれる前から
8年もの間、ずっと真九郎と寝食を共にし、絆を育んでいた女。
そして、その崩月の力に紫は何度も窮地を助けられてきた。
だから、婉曲な見方をすれば紫は夕乃に恩を受けていることになる。
その夕乃こそが、今回の紫が我を忘れて取り乱すような事態を
省2
725: [sage saga] 2016/12/01(木)01:09 ID:qO1WsCuS(10/43) AAS
九鳳院紫は紅真九郎を愛している。
それは生を受けたときから、光当たることなく一生を終える宿命の紫に
生きることの素晴らしさや、自分では抗うことの出来なかった運命を
意図も容易く、我が身を省みることなくぶち壊してくれたただ一人の
男だからだ。
省7
726: [sage saga] 2016/12/01(木)01:10 ID:qO1WsCuS(11/43) AAS
理由は分かっている。
真九郎ほどいい男は他にいない。
自分の他にも彼と一緒に添い遂げたいと願う女が沢山いることも
理解している。
夕乃、銀子、切彦...環と闇絵はまぁ、アレだが。
省9
727: [sage saga] 2016/12/01(木)01:10 ID:qO1WsCuS(12/43) AAS
「少女よ。君は...恋は素晴らしいと話していただろう?」
いつまでも泣き続ける紫を見かねたのか、闇絵は少しだけ紫の中にある
懊悩を解きほぐしてやろうかと思い、その腰を少し上げた。
紫も、その鷹揚な態度にいつもの自分を若干取り戻したのか、
どうしても晴れない自分の心のもやもやを少しずつ打ち明け始めた。
省9
728: [sage saga] 2016/12/01(木)01:11 ID:qO1WsCuS(13/43) AAS
「どうしてだ!!なぜ、闇絵はそんなことを言える?」
「君の倍ほど生きていれば、いくらでもそういうことは言えるさ」
「楽もあれば苦もある。山もあれば谷もある」
「君も少年も、今が一つの山場といえるな」
「歩け。考えろ。そうして答えをいくつも出して人は前に歩くのだ」
省5
729: [sage saga] 2016/12/01(木)01:11 ID:qO1WsCuS(14/43) AAS
家を飛び出し、電車を乗り継ぎ五月雨荘の最寄り駅に着いたのが午後八時。
「真九郎さん...」
そしてこれから紫に対し、自分の中ではっきりとさせたいことを頭の中で
整理しながら、夕乃は五月雨荘へと急いでいた。
真九郎が巻き込まれた紫のいざこざの一応の顛末を夕乃は知っている。
省6
730: [sage saga] 2016/12/01(木)01:11 ID:qO1WsCuS(15/43) AAS
真九郎はそういう物事の裏を見ないで、ただ単に紫という少女の
境遇があまりにも哀れで、助けられずにはいられないという理由で
無謀な賭けに出て、奇跡的に成功したに過ぎない。
だから夕乃は紫に九鳳院の道具としてではなく、一人の自分という
『個』としての本心とこれからどうしたいのかを見定めなければならない。
省9
731: [sage saga] 2016/12/01(木)01:12 ID:qO1WsCuS(16/43) AAS
「真九郎...戻っているのか?」
「ああ」
「そうか」
環と闇絵。
二人のそれぞれの助言を得た紫と真九郎は部屋に戻り、どちらが
省3
732: [sage saga] 2016/12/01(木)01:12 ID:qO1WsCuS(17/43) AAS
「真九郎。さっきな、散鶴から電話があったんだ」
「散鶴の奴、真九郎が自分と夕乃の男だと私に言い放ったんだ」
「うん」
「それでな、散鶴は真九郎が夕乃に愛の告白をした」
「崩月の家の人間はそれを祝福したとも言っていた」
省5
733: [sage saga] 2016/12/01(木)01:13 ID:qO1WsCuS(18/43) AAS
「ああ。勿論だ」
「ふふ、信じるとも。真九郎は私に嘘をついた事は一度も無いんだからな」
「聞かせてくれ、真九郎。夕乃をどうして選んだのかを...」
「...俺は、ずっと悩んでた」
「最初は夕乃さんに押し倒されて、そこから体の関係でずるずるいって」
省9
734: [sage saga] 2016/12/01(木)01:13 ID:qO1WsCuS(19/43) AAS
「なぁ...紫。俺は、どうすりゃいいんだよ」
「...ごめんなぁ。真九郎。お前はそんなに私を想ってくれていたのか...」
「つくづく私は果報者だな。お前に謝るのは私の方だ。すまぬ」
「はぁ...しかし夕乃は本当に重くて面倒くさい女だな」
「そんなにガチガチに縛れば真九郎が潰れてしまうではないか」
省7
735: [sage saga] 2016/12/01(木)01:14 ID:qO1WsCuS(20/43) AAS
「真九郎。お前はまだ、私に恋をしているか?」
「ああ。ずっと恋しているし、もうとっくに惚れてるよ」
「そうかそうか。ふふん、夕乃の奴め。詰めが甘いな」
「まぁこの調子だと、真九郎にあやつも泣かされた筈だ」
「そして、真九郎が夕乃を泣かせられるたった一つの理由、それは」
省5
736: [sage saga] 2016/12/01(木)01:14 ID:qO1WsCuS(21/43) AAS
「だが、な...真九郎。今から聞く質問には真剣に答えてくれ」
「お前と出会ってからの数ヶ月、大変な事が沢山あった」
「竜士兄様のこと、理津のこと、切彦のこと、そして夕乃とのこと」
「その度に私もお前も窮地に陥りながら、なんとか切り抜けてこられた」
「真九郎の言葉とその想いに私は何度も救われた」
省7
737: [sage saga] 2016/12/01(木)01:15 ID:qO1WsCuS(22/43) AAS
午後九時
「こんばんは。紫ちゃん」
「こんばんはだな。夕乃」
静かに扉を開け、真九郎と紫の部屋に入ってきた夕乃は真九郎を
一瞥することなく、ただ紫だけを見つめていた。
「真九郎さん。私は今から紫ちゃんとお話しをします」
省6
738: [sage saga] 2016/12/01(木)01:15 ID:qO1WsCuS(23/43) AAS
「ねぇねぇ真九郎君。紫ちゃん一人にして大丈夫なの?」
「夕乃ちゃん。今までに無いくらいヤバい感じで極まっちゃってるよ?」
「分かってます。でも、俺は夕乃さんのこと信じてますから」
「まぁ、真九郎君がそういうならいいんだけどさ〜」
廊下で事の顛末を見守る環と二、三言葉を交わした真九郎は、二人の
省6
739: [sage saga] 2016/12/01(木)01:15 ID:qO1WsCuS(24/43) AAS
「夕乃よ。真九郎とのことを話す前に一つ聞かせて欲しいことがある」
「なんですか?」
「夕乃は私のことをどう思っているのだ」
「どう思ってるって、それは...」
「恋敵か?それとも表と裏の因縁ある家系の子供か?」
省6
740: [sage saga] 2016/12/01(木)01:16 ID:qO1WsCuS(25/43) AAS
「真九郎さんを手に入れた後、貴女のことを伝えられました」
「貴女を手に入れる為に、私に自分と名字を一緒にしろと」
「私の懇願を最後まで撥ねつけた上で、貴女を捨てられないから、と」
「最後まで貴女の未来に対して責任があると、貴女を案じていました」
紫の質問に淡々と答えながら、夕乃は真九郎が自分に言い放った
省7
741: [sage saga] 2016/12/01(木)01:16 ID:qO1WsCuS(26/43) AAS
「そうか...。夕乃よ、だとすれば私は貴女に謝らなければならないな」
「すまぬ。私のせいで夕乃の心を深く傷つけてしまった」
紫は真九郎の本心が本当だった事に安堵しながらも、同時に自分の
せいで夕乃の恋が成就とはほど遠いものになったことを薄々感づいていた。
自分が他人の人生の足を引っ張ったことに対する責任の取り方を
省14
742: [sage saga] 2016/12/01(木)01:16 ID:qO1WsCuS(27/43) AAS
「もっと簡単にいきましょうか。私は、貴女のことが憎いです」
「好きか嫌いか、と聞かれれば...そうですね、やっぱり嫌いです」
曖昧に濁された質問の答えを、あえてはっきりと断言した夕乃の瞳には
情の一欠片も残されていなかった。
人間味を一切廃しながらも、半端でない程の強烈な怨みの感情が
省11
743: [sage saga] 2016/12/01(木)01:17 ID:qO1WsCuS(28/43) AAS
「嫌いな理由というのは、これは私の個人的な感情ですけど...」
「同族嫌悪的な感情を私は貴女に感じています」
「同族、嫌悪?」
「私は、あまり自分を夕乃と似ていると感じたことはないが?」
やっとのことで絞り出したその声は夕乃の耳に届くことはない。
省12
744: [sage saga] 2016/12/01(木)01:17 ID:qO1WsCuS(29/43) AAS
「でも、一番は、私よりも先に真九郎さんの心を手に入れたから」
「これが私が貴女を嫌う理由ですね」
「そうか...」
そう、夕乃に言われなくても全部理解しているのだ。
自分が奥ノ院の宿命から逃げたせいで夕乃は苦しんでいる。
省14
745: [sage saga] 2016/12/01(木)01:18 ID:qO1WsCuS(30/43) AAS
例え、紫の心が砕けようと夕乃が止まることはない。
何故なら今の夕乃は恋に狂ってまともな精神状態ではないのだから。
「貴女が真九郎さんと添い遂げようとすると、また軋轢が生じます」
「わかりやすく言うと、九鳳院の九割が今度は真九郎さんの敵になります」
「崩月を預かる身としては、これ以上の厄介は抱え込みたくありませんが」
省11
746: [sage saga] 2016/12/01(木)01:18 ID:qO1WsCuS(31/43) AAS
「いいえ。今度ばかりはそうなります」
「だって、貴女が人質に取られれば真九郎さんは何も出来なくなるからです」
「そうなる前に、貴女は現実を知るべきでは?」
「くっ...だが、そ、そうなるとはまだ決まったわけでは...」
「なら、今度は自分から進んで九鳳院の役目を果すと?」
省11
747: [sage saga] 2016/12/01(木)01:19 ID:qO1WsCuS(32/43) AAS
「夕乃は、卑怯だ!」
「私だって本当は九鳳院みたいな所に生まれたくなかった!」
「普通の家庭に生まれて、普通の家族と普通に過ごしたかった!」
「友達を作って!好きな人に恋をして!楽しいこと一杯やって!」
「家族が一人も欠ける事無く、全員で仲良くしたかった!」
省12
748: [sage saga] 2016/12/01(木)01:19 ID:qO1WsCuS(33/43) AAS
「貴女は九鳳院で私は崩月の一人娘」
「そして真九郎さんは私達崩月が育て上げた戦鬼」
「いずれ、あの人は近いうちに望もうと望むまいと人を殺める筈です」
「どこかの財閥と関わったばかりに...なんてことでしょう」
「夕乃...お前....!!」
省5
749: [sage saga] 2016/12/01(木)01:24 ID:qO1WsCuS(34/43) AAS
夕乃が真九郎を信じるように紫もまた真九郎のことを信じている。
優柔不断ですぐに泣くが、本当は誰よりも弱さに逃げずに立ち向かう
勇気を持つ男。紫にとって真九郎はそんな男だった。
だから、迷うことなく自信を持って答えを出せる。
自分は真九郎を信じるという、たった一つの真実を。
省8
上下前次1-新書関写板覧索設栞歴
あと 26 レスあります
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ AAサムネイル
ぬこの手 ぬこTOP 0.033s