[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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(37): ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/12(火)02:05 ID:h9MsaQuTo(1/5) AAS
特撮ドラマ『牙狼〈GARO〉』と『魔法少女まどか☆マギカ』のクロスオーバーSSです。
まどか☆マギカ、牙狼ともに本編の設定に加え、外伝などからも取り入れていきたいと思います。

時系列としては、まどかは最初から。
牙狼は暗黒魔戒騎士篇(TV本編)→白夜の魔獣(OVA)→RED REQUIEM(劇場版)終了後から更に後、
使徒ホラーをすべて封印した直後くらいと考えています。

後の MAKAISENKI(TV第二期)、蒼哭ノ魔竜(劇場版第二弾) に無理なく繋がる範囲で、登場人物、用語が登場するかもしれません。
ネタバレにはご注意ください。

牙狼の映像作品はすべて目を通しましたが、設定資料集は未読。
どちらも設定と食い違う可能性があります。また、意図的に改変する場合もあります。
詳しい方はどんどん突っ込みを入れていただければと思います。
その際、軌道修正できるものは修正。できなければ独自設定ということで補完をお願い致します。

牙狼PS2ゲーム、パチンコ、まどか☆マギカ ポータブルはプレイしていません。
経験者の方、使えそうなネタがあれば是非教えていただければ幸いです。

前スレ
さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜
vip2chスレ:news4ssnip

前々スレ
まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇
vip2chスレ:news4ssnip

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2: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/12(火)02:11 ID:h9MsaQuTo(2/5) AAS


 マミは雨の中を直走る。
 右手に折り畳み傘、左手に鞄。白い息を切らし、胸を弾ませて。

 進路相談は具体的な話を何ひとつできず、無駄に長い時間を浪費しただけだった。
 運が悪かったのは、他にも同じような生徒がいたらしく、
マミの番が終わり学校を出た時には、もう日も暮れかけて薄暗くなっていた。
 それから急いで約束の場所に向かう途中、雨に降られたのだ。

 たまたま折り畳み傘は持っていたものの、今のマミはほぼ全力疾走に近い。
小さな傘では、身体のすべてを覆いきれるはずがなかった。
 いよいよ本降りになると、はみ出した鞄や肩は濡れ、路面の水や泥がソックスに跳ねる。
 身体は熱いのに、手足の末端は冷たいのが不快感を煽る。それでも、マミは止まらなかった。
 
 数分後、約束のオープンカフェに到着した頃にはずぶ濡れ。
傘に収まらなかった部分からは水が滴っていた。
 しかも、ようやく着いたのに屋外に展開した席には待ち人はいなかった。
それどころか客も店員も、誰一人いない。

 マミは肩を落とし――ふと視線を移すと、客は全員が店内に入っていた。
 この雨である。考えてみれば当然だった。

 そんなことも忘れていたなんて。
 冷静さを欠いた自分を気恥かしく思いながら店内に入ると、
窓際の席に水色の髪の少女が座っていた。
3: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/12(火)02:13 ID:h9MsaQuTo(3/5) AAS
 美樹さやか――マミの中学の後輩であり、魔法少女候補でもある少女。
 マミは急ぎ彼女に駆け寄り、

「ごめんなさい! 思ったより時間がかかって遅れちゃって……」 

 開口一番、深々と頭を下げる。
 自分が誘ったくせに、こんな時間まで待たせてしまった。責められても仕方ないと思う。
 しかし、さやかは怒るでも茶化すでも許すでもなかった。どれだけ待っても、返事がない。
 
「美樹さん……?」

 顔を上げると、さやかは確かにこちらを向いてはいるのだが、マミを見て呆然としている。
彼女を見つけた時も、魂が抜けたみたく、ぼんやり外を眺めていた。

「マミさん……」

「あの……美樹さん、何かあったの? あ、そういえば命さんはまだ来ていないのかしら」

 命――その名が出た瞬間、さやかはビクンと肩を震わせた。
 青ざめていく表情が証明しているのは、明らかな怯え。一目で何かあったのだと察する。
 つい昨日、こんな反応を見た覚えがある。あれは何の話をしている時だったか。
4: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/12(火)02:14 ID:h9MsaQuTo(4/5) AAS
 記憶を掘り起こそうとするが、すぐには思い出せない。
 まずは、さやかが先だ。
とりあえず疑問は置いておいて、マミはそっとさやかの肩に手を乗せた。

「大丈夫よ、大丈夫。何があったのか話してくれる?」

 子供をあやすように目線を合わせ、優しく語りかける。
店員や周囲の客から好奇の視線を感じるが、気にしていられない。
 そこまでして、ようやくさやかは平静を取り戻した。

「あ、いえ、それが……何から話していいのか、て言うか、あたしも何が何だかわかんなくて……」
 
「落ち着いて。ゆっくりでいいから、ね」

 マミは向かいの席に腰掛け、じっと言葉を待つ。
 さやかが口を開いたのは、注文した紅茶が運ばれてからだった。
 ゆっくりと、最初からさやかは語り出す。この場所で、何が起こったのかを。
 
 赤い魔法少女。
 そして、さやかが感じた恐怖。
 その対象と、彼女に刻まれたトラウマの対象が重なったと聞かされ――。
 今度は反対に、マミが平常心を失っていくのだった。
5: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/12(火)02:17 ID:h9MsaQuTo(5/5) AAS
とりあえず、ここまで
続きは週末を目標に
同じようなスレタイでもつまらないので、少し変えてみました
行き当たりばったりなところも多いので、食い違うかもしれませんが
39: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/02/18(月)02:40 ID:l7KDvAhLo(1) AAS
すみません
明日には必ず
一挙もあり、映画公開まであと一週間を切りましたので、どうにか波に乗りたいところ
40: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:38 ID:RCd/gL2Bo(1/5) AAS
「あたしもここに来たのは少し遅れたんだけどさ……」

 さやかは目線を斜め下に落としたまま、最初の言葉を呟いた。

「あたしが来た時、あの人はもういたよ。それで笑って手を振って、あたしを呼んだの」

「あの人っていうのは……命さんのこと?」

 こくり、とさやかは緊張した面持ちで頷く。
 命の名前が出た瞬間、また彼女が身を硬くするのを、マミは見逃さなかった。
 
「それでお茶とケーキご馳走になって、それから楽譜をもらった」

 さやかは鞄から紙を取り出すと、マミに見せた。
 紙の上には音符や記号が踊っている。読み方は知らないが、何の変哲もない楽譜だ。

「これは……?」

「あの人の恋人が作りかけだった、オリジナルのヴァイオリンの曲だって。
その人が事故で弾けなくなって、たぶん……その、亡くなったから私に……」

「もしかして、入院してる美樹さんの幼馴染の男の子に?」

「マミさんも聞いていたんだ。そ、上条恭介って言うんだけど……。
あの人、あたしにこれを渡して、頑張ってる人の背中を押してあげたくなるって言ってた……」
41: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:41 ID:RCd/gL2Bo(2/5) AAS
 つい昨日会ったばかりの少女に、命がそんな大事な物を渡した理由。
 さやかを気遣って、花を持たせる為。その彼に夢への活力を取り戻させると同時に、恋人に叶えられなかった夢を託したくて。
 きっとそうだ。彼女は少々馴れ馴れしくて他人の事情に深入りするきらいがあるが、優しく包容力のある大人の女性だから。

 そんなふうに彼女の側から踏み込んで来てくれたからこそ、マミも打ち明けられた。
 関係ないのに、何故か自分のことのように誇らしくて、胸に喜びが溢れる。
 嗚呼――と、感嘆の息を吐きながら、口元を綻ばせながら、マミは言った。 
 
「そうだったの……」

 相槌に含まれた感動の色に気付いたのか、さやかは顔を上げ、マミを見返してきた。
 睨むような目つきは非難にも似ている。これは美談なんかじゃない、勘違いしてくれるな。
そう目が教えていた。

 「嬉しかった。凄く嬉しかった。きっと、あの人も同じ立場で、
あたしの気持ちをわかって応援してくれたんだって。でも!」

 さやかは膝に乗せた拳を固く握り締めた。

「一時間くらい話して、本当に楽しかった。優しくて、話し上手で、会えてよかったって思った。
でも暗くなってきて、伝言は任せて帰ったらって勧められた。
そして帰ろうとしたあたしに、あの人が笑って言ったの……」

 身体を小刻みに戦慄かせるさやか。
 しかし、今の彼女を支配しているのは恐怖ではない。
 憤怒だ。
42: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:43 ID:RCd/gL2Bo(3/5) AAS
「彼も私が背中を押してあげたんだから、って……!」

 押し殺してもなお怒りのこもった声で、絞り出すように、さやかは言った。
 マミも即座に言わんとするところを察する。しかし問い返すしかできない。
 頭に浮かんだ意味を信じたくなかった。
 
「それってどういう……」

「恭介は雨の夜、交通事故に遭った。恭介は誰かに突き飛ばされた気がするって言ってた。
はっきりとは覚えてないらしいけど」

「待って、美樹さん。それだけじゃ、命さんが犯人とは決められないわ。
何か別の意味で言ったのかも……」

 早口に捲し立てたさやかをマミが宥めようとした直後――バン! と、平手がテーブルを叩く。

「そんなはずない! 昨日あたしは交通事故としか言ってない。
なのに雨の夜ってことも、恭介がヴァイオリンを庇って左手を怪我したってことまで言い当てたんだよ!?
そんなの無関係なあの人がどうやってわかるのさ!?」

「それは……」

 さやかが腰を浮かせ、前のめりになる。
 その剣幕に気圧され、マミは黙るしかなかった。
 脳内では様々な可能性が浮かんでは消える。

 当事者でなければ身内か警察、病院や保険会社の関係者でもなければ知り得ない情報。
 彼女が、そのいずれかである可能性はゼロではない。
或いは、その誰かから聞いたのかもしれない。

 しかし、明かした理由も、笑った訳も、何より言葉の意味がまるでわからなかった。
 それでも。
43: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:45 ID:RCd/gL2Bo(4/5) AAS
「命さんはそんな酷い人じゃないわ……。
仮にそうだとしても、説明のつかないことが多過ぎるでしょう?」

 とにかく命を庇う論理を並べようとして、口から出たのは根拠のない擁護。
 それがどれだけ説得力に欠けるか自覚していながら。
 
「そりゃあ、あたしだって訳わかんないよ。今だって頭ん中ごちゃごちゃで……でもさ」

 一旦さやかは口を閉じ、マミを見る。もう非難がましい視線はなかった。
 ただ単純に、純粋に、不思議そうにマミに問いかける。

「言い切れるほど、マミさんはあの人を知ってるの?」

「えっ……」

――私は、命さんをどれくらい知っているんだろう……。

…………知らない。

何も、知らない。

美樹さんが知っているようなことでさえ――

「でも、私にはそうは思えない。だって、だって命さんは……命さんは……」

 表情が切なく歪んでいくのが自分でも理解できた。
 語尾はか細くなり、最後には消えていく。
 マミはとにかく何か言おうとして、結局は何も言えなかった。
44: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:46 ID:RCd/gL2Bo(5/5) AAS
目標まではいけませんでしたが、ここまで
続きは蒼哭ノ魔竜公開までには
47: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/23(土)04:30 ID:BGorv0Bko(1/9) AAS
「マミさん……」

 驚きを含んだ、意外そうな声。
 さやかの目は信じられないものを見るようでもあった。
 何故、彼女はそんな顔をしているのだろう。すぐに理由には思い至った。
 
――あぁ……それだけ今の私が酷い顔をしているのね……。

 狼狽えて、弱さを晒してしまった。後輩である彼女の前で。
 その事実が、落胆が、プライドを砕いていく。
先輩として、しっかりしないといけないのに。
 傷付く弱い自分を許容できずに、更に傷付く負のスパイラル。
 
 これまでの自分が上手くイメージできない。
まるで仮面の被り方を忘れてしまったかのよう。
 居た堪れなくなり、逃げ出したくなる。
 
「ごめん……マミさんに当たっても仕方ないよね」

 さやかは一言詫び、着席する。
 気遣われた。憐れまれた。
 それを惨めに感じ、そう思ってしまう自分に腹が立つ。
事実がどうあれ、心の弱さ以外の何物でもないから。

 暫し、気まずい無言の時が続いた。互いに切り出す機会を窺っていた。

 マミは目を閉じ、紅茶を啜る。
その味と香り、喉から身体に沁み渡る温もりが心地いい。
 いつもの自分を思い出させてくれる。
48: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/23(土)04:32 ID:BGorv0Bko(2/9) AAS
 マミは戦闘後に紅茶を飲む場合が多い。
 余裕を忘れない為。緊張を解し、心を落ち着ける為。精神を戦闘から切り替えるスイッチ。
 理由は様々だが、偏にマミにとって紅茶は習慣であり日常の象徴だった。
 そして今日も気分を落ち着け、頭の中を整理するのに一役買ってくれた。

「そうね……今、そのことについて言い争っても仕方ないわ。
最後は本人に確かめるしかない。それより、続きを話してくれる?」

 マミは唇からカップを離すと、おもむろに口を開いた。
 もう面子も何もないに等しいが、彼女の前では毅然としていたかった。

「あ……うん」

 どこか釈然としないようだったが、さやかは従って話を再開する。

「どこまで話したっけ……そこへ現れたのが、あの二人組だったの。
一人は二十歳くらいの男の人。もう一人は……あたしたちと同じ年頃の女の子。赤い髪の」

「赤い髪……」

 まさか――。
 脳裏に浮かんだのは、かつて親しい仲にあった一人の少女。
 マミは、固唾を呑んで続く言葉を待った。

「男の方があの人に、ちょっと付き合ってって言ってたけど、ナンパって感じじゃなかったな。
その二人もカップルとか兄妹には見えなかったけど。
あたしは女の方にいきなり引っ張られて、路地裏に連れ込まれた」

「連れ込まれた、ですって……!?」
49: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/23(土)04:33 ID:BGorv0Bko(3/9) AAS
「そいつは魔法少女だった。ソウルジェムから槍を出して、あたしに突きつけて言ったの。
あんたがホラーって化け物だろうって」

 カシャン――と、ティーカップが音を立てた。
マミが指からカップを取り落としたのだ。
転がったカップからは残った紅茶が流れ出し、テーブル上に広がる。

 にも拘らず、マミは愕然と目を見開いたまま。 

「って、マミさん、こぼれてるこぼれてる!」

 慌ててお絞りで拭くさやかに詰め寄った。

「それで、その娘は!? 美樹さんはどうしたの!?」

「え……あたしは違うって言ったよ。当たり前じゃん。
マミさんに助けてもらって、自分がまだ契約してない魔法少女候補だって言ったんだ。
そしたらさ、なんか話が違うとか言って、一言謝ったらダーッて走って行っちゃった」

 驚くマミと対照的に、さやかは妙に冷静だった。
 普通、暗がりに連れ込まれて槍を突きつけられれば、もっと怯えたり嫌そうに語って当然なのだが。
彼女にとって、それは大して恐れるには値しないのだろうか。
 命のことは名前を聞いただけで警戒し、口に出すのも忌避しているのに。

「帰ったら、もう誰もいなかった。
それで雨が降ったから、あたしはここでマミさんを待ってたの」

「そう……だったの」
50: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/23(土)04:35 ID:BGorv0Bko(4/9) AAS
 佐倉杏子。
 間違いない。十中八九、彼女しかいない。
 彼女が、この街に戻ってきたこと。さやかに接触したこと。ホラーを探していること。
すべてが驚きだった。

「ねぇ、マミさん。あの魔法少女、マミさんの知り合いなの?」

「ええ、昔のね……。
それでも、一般人を脅したり傷つけたりするような娘じゃなかったのに……」

 やはり、あの出来事が彼女を変えてしまったのだろうか。
 杏子を信じたい気持ちはある。だが、もしも命やさやかに手を出すなら、その時は――。
 マミは私情を殺して、考えられる可能性を口にする。

「その男の人が怪しいわね。二人で結託して、その娘が美樹さんを遠ざけてるうちに、
命さんを連れ去ったのかもしれない。
あの娘が何を企んでるのかわからないけれど、私に任せてちょうだい。心当たりを探ってみるわ」

「でも……」

「大丈夫。どんな事情があっても、怖い思いをさせた分、あなたにはちゃんと謝らせるから」

「違うよ、マミさん……。そりゃあ確かに怖かったけど……おかしいんだ。
顔の真横に槍が刺さったのに――」

 またしても、さやかの表情が曇る。全身が強張るのが見て取れる。
 段々わかってきた。彼女がこんなふうに怯えるのは、決まってホラーについて話す時だ。
51: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/23(土)04:36 ID:BGorv0Bko(5/9) AAS
「あたしは"あの人"に手を握られただけの方が、ずっとずっと恐ろしかった……!」

「え……?」

「だから変かもしれないけど、あの人から逃がしてくれて逆に感謝してるくらい。
少なくとも、握った手を解いた男の人からは悪い感じはしなかった」

 今度はマミが取り残される番だった。
 さやかとの温度差についていけない。何を言っているのか、理解はできても共感できずにいた。

「あの人の手、まるで死人……ううん、氷みたいに冷たくて凍えそうだった。
強く掴まれたんじゃない。ただ軽く触られただけなのに、怖くて声も出せなかった。
もしも、あの人にどこか連れて行かれそうになっても、あたし抵抗できなかったと思う。
そうなってたら、きっと今頃あたし生きてない……」

 思い出すだけで恐怖が蘇るのか、さやかの身体が震えだす。
 両腕で自分を抱き締めて、それでも彼女は止まらない。
勢いのまま吐露する。マミが、最も恐れる想像を。

「一昨日、あのモールの暗闇で会った不良と同じ雰囲気だった……。
あの魔法少女、誰かと間違ったみたいだったし、もしかしてあの人が――」
52: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/23(土)04:37 ID:BGorv0Bko(6/9) AAS
「いい加減にして!」

 マミは声を張り上げた。
 聞きたくない。考えたくない。あり得ない。
 そんな不安が膨らんで、思わず声を荒げていた。
さやか同様、自分の中の恐怖に押し潰されまいと、胸の想いを吐き出したのだ。

「いくら本人がいないからって、言っていいことと悪いことがあるわ……。
他人を証拠もないのに化け物呼ばわりするなんて、本気なら私も怒るわよ……!」

 カッとなって止まらなかった。
 さやかを睨みつけ、低く震える声で戒める。
 いや、抑えていても、それは恫喝と大差なかった。つい昨日も彼女にしてしまったように。

 射竦められたさやかは小さく、
 
「ごめん……」

 とだけ呟いて俯いてしまった。
 さやかの潤んだ瞳を目にした瞬間、マミはハッと我に返り、激しい自己嫌悪に襲われた。
 
――私は何をやっているの……!
美樹さんの気持ちを見誤って、それどころか怒鳴って、余計に怯えさせて。
彼女はただ怖かっただけなのに……。
こんなの最低じゃない……――

 マミは両手で額を覆い、言葉を失った。
 自分で自分が許せなかった。
 何か言わなければと思うのだが、胸の内の不安や恐怖を言葉で表せなかった。 
53: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/23(土)04:39 ID:BGorv0Bko(7/9) AAS
 マミは迷い、

「いえ、私の方こそごめんなさい。つい声を荒げちゃって……。
ともかく、今日はもう遅いから帰った方がいいわ」

 結局その程度しか言えなかった。
 これ以上、一緒にいてはいけない。もっと彼女を傷つけてしまう。
もっと醜い自分を晒してしまう。

「うん、そうする……」

 最悪の空気にさやかも堪えかねたのか、すぐに荷物を手に立ち上がった。

「私のせいで無駄足を踏ませて本当にごめんなさい。
お互い頭を冷やして、また改めて話しましょう?
でも、これだけは約束してほしいの。鹿目さんにも伝えておいて。
私の話を聴くまで、キュゥべえとは絶対に契約しないで。いい?」

 二人とも契約には慎重になれと言ってある。
下手に急いで真実を明かすより、今はこれだけ念を押しておけば充分だろう。

「わかった……でも、あたしからもひとつ」

 さやかは頷くと、はっきりと言った。

「もう絶対あの人と一緒は嫌だから」

「……ええ、私はもう少し待ってみるわね。気をつけて」

 足早に去っていくさやかを、マミは見送るしかなかった。
54: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/23(土)04:44 ID:BGorv0Bko(8/9) AAS
 独りになってようやく、瞳に熱いものが込み上げてくる。
 
「嫌われちゃったかな……」

 でも、これでいいのかもしれない。
 そう言い聞かせても、涙は止まってくれない。
 紅茶を何杯おかわりしても、気分は落ち着かなかった。

 それから数分、マミは何をするでもなく、寂しくなった向かいの席を眺めていた。
 命を探して街を駆け回るべきだろうか。しかし、どこを探せばいいのかもわからない。
 ここで待った方が会える確率はまだ高い。それに、さやかを疑うようで気が進まなかった。 

 その時だった。
 背後に気配と、誰かが着席する音。
 頭が一杯で、今の今まで入店に気付かなかった。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」

 真後ろから、注文を取りにきたウェイトレスの声。
 そして――。

「季節のフルーツパフェと、イチゴのタルトと、クリーミーカスタードプリン。
それからコーヒーゼリーサンデーに、抹茶白玉アイス、ガトーショコラ。
桃のムース、洋梨のミルフィーユ、ブルーベリーパイ、NY風チーズケーキも。
あとは……とりあえず、それだけで」

 聞こえてきたのはマミでも胸焼けがするような大量の注文。
 それも、以前どこかで耳にした声だった。
55: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/23(土)04:45 ID:BGorv0Bko(9/9) AAS
ここまで
続きは来週中
言うまでもないことかもしれませんが、映画のネタバレはご遠慮くださいますようお願いします
私も明日には見に行くつもりですが、ここでネタバレすることはしませんので、ご安心ください
83: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/03/04(月)02:14 ID:jLPz4FeFo(1) AAS
毎度のようで申し訳ありませんが、少し文章で詰まっています
ので、閃きを期待して明日は映画2回目を観に行こうと思います
早ければ明日、遅くとも明後日には一度投下するつもりです
87: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:00 ID:7WDhRFYso(1/6) AAS
 振り返ると、ちょうど目と目が合う。
 大量のデザートを注文したのは――声から察しが付いていたとはいえ――意外にも若い男だった。
それも、マミが見覚えのある。
 
――この人、確か……。

「やぁ、マミちゃん」

 やたら気さくに片手を上げたのは、一昨日の朝、マミに声を掛けてきた男だった。
 彼は謎めいた雰囲気を纏い、マミが魔法少女だと言い当てた。
 ただならぬ気配に危険を感じたマミは、絡んできた不良を零が締め上げている隙に逃げたのだった。

「涼邑零さん……でしたっけ」

 すると零は人懐っこい笑顔を浮かべて、

「嬉しいな、覚えててくれて。それより、まずは……はい」

 差し出したのは――袋に入ったままのお絞り。
 意図がわからずに困惑していると、零は苦笑して自身の目を指差した。

「顔、拭いたら?」

「あっ……」

 と、声を上げるマミ。
 今になってようやく、視界がぼやけているのに気付いた。
瞳には涙が滲み、触れると頬には乾きかけの涙の跡。
88: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:02 ID:7WDhRFYso(2/6) AAS
 こんな情けない顔を知らない男性に晒していたなんて。
 慌てて自前のハンカチで顔を拭う。
 拭いている最中も顔面は朱に染まり、火が出そうなくらい恥ずかしかった。

「それで、マミちゃんはどうしてここに?」

 どうして泣いていたかは訊かれない。彼なりに気を遣ってくれているのだろうか。
 その気配りをありがたくも恥ずかしく思いつつ、マミはぽつりと答える。

「どうしてって、人を待ってるんです」

「へぇ、誰を?」

 零が追及した直後、

「……そんなの、あなたに関係ありません」

 ツンと無愛想に、マミは顔を背けた。
 せっかく気遣いのできる人だと思ったのに、踏み込んでくるなんて。
 そんな落胆もあれば、待ち人が本当に来るのか不安からの苛立ちもあった。

「ごめん。怒らせたなら謝るからさ。機嫌直してよ」

「別に、もういいですから」 

 実際それほど怒っていなかった。怒るほど興味がなかった。
 目下、マミの関心は夕木命にしか向いていなかったからだ。
 にも関わらず、零は一人で話し続ける。
89: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:08 ID:7WDhRFYso(3/6) AAS
「けどマミちゃん。人を待つにしても、中学生が一人でいるには遅い時間だよ。
連絡してみるなり、日を改めるなりした方がいいんじゃない? 
最近このあたりも物騒だから。さっきも警察らしき人を見掛けたし」

 聞き流していたマミがピクリと反応した。

「それは……でも……」

 言い淀む。
 命とは連絡先の交換もしていない。今日を逃せば、次にいつ会えるかわからない。
いや、会えるかどうかさえも。

 ただでさえ不安定だった心は容易く揺さ振られ、零の発言に言及するのも忘れていた。
 目線や立ち振る舞い、身体つきから私服警官を見抜いた彼を訝る余裕もなく、
 彼が魔法少女の存在を知り言い当てたことも、頭の片隅から消え去っていた。

 もしも警官に見咎められ、帰れと言われれば帰らざるを得ないだろう。
店外のどこかで待とうにも、制服姿では目立つ。
二度目は学校や親戚へ連絡されるかもしれない。

 深々と溜息をつくマミ。
 いつだって、ままならないのだ。

 常識、世間、社会。
 如何に人が恐れる怪物を葬る力を手にしていても、
人の中で生きていくには、それらの枠組みを逸脱できない。

 この力は、どこまで行っても暴力。排斥されない為には、隠して生きていくしかない。
自分を取り囲む人の世界に対しては無力に等しい。
 彼女のように欲望に任せて力を振るうことも、こっそり小賢しく利用することも、
マミにはできそうになかった。
90: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:09 ID:7WDhRFYso(4/6) AAS
 進退窮まったところへ、零が奇妙な提案を持ちかけた。

「俺でよかったら保護者役、引き受けるけど?」

 マミは一瞬ハッとなり、

「何が目的ですか……?」
 
 即座に眉間にしわを寄せ、不信感を露わにした。
 明らかに胡散臭い。何か罠があると警戒するのは当然だった。
 
「別に。今日は俺も振られちゃったからさ。
俺が店にいる間、話し相手になってくれるだけでいいよ。もちろん、君のお相手が来るまで」

 しかし、渡りに船の申し出だったのも確か。
 まだ帰りたくない。帰れない。ただ、それだけしか頭になかった。
 だからこそ。
91: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:11 ID:7WDhRFYso(5/6) AAS
「それじゃあ、よろしくお願いします……」

  マミは長く逡巡した末に、その提案を受け入れた。
 零を信用した訳じゃない。
 軽薄な男の戯言に、いっとき付き合うだけで済むならよし。
 もしも零が何か良からぬ企みをしていても、対抗できる自信があった。

 魔法少女の力を人界で振るえるとしたら、それは不当な暴力に対してのみ。
 自分と誰かの身を守る為にだけ、人間への行使を許される。
 そう、マミは考えていた。

 単純に力で捩じ伏せていいなら、こんな簡単なことはない。
 彼が何者であろうと負ける気はない。
 魔法少女以外で自分に対抗できるとしたら、それは数少ない例外だけ。

 魔戒騎士、冴島鋼牙。
 またの名を黄金騎士、牙狼。
 彼のような例外中の例外が、そうそう現れるはずがないと、マミは高を括っていた。 
92: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:16 ID:7WDhRFYso(6/6) AAS
短いですが、ここまで
もう少しで一区切りなので、明日も短いでしょうが書きたいと思います
映画は冴島鋼牙、最後の戦いに相応しい内容でした
ラストシーンとEDは何度でも見たくなります
109: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/07(木)02:11 ID:PsMjcm9go(1/3) AAS
 そしてマミが零を対面の席に受け入れて数分。
 マミは沈黙し、ほとんど零が一方的に話していた。
 とはいえ当たり障りのない、深くは踏み込まない、うわべをなぞるような会話。

 彼は仕事のことを話したりもしたが、結局どんな仕事なのか掴めなかった。
 どうとでも取れる曖昧な口振り。
わかったのは、いつも独りで大変な仕事をしている、としか。
 
 コートの上からではわかり辛いが、見る限り零は均整の取れた体格である。
この尋常でない糖分とカロリーに釣り合う仕事なら、さぞかし辛い肉体労働なのだろう。
 その程度と気にも留めず、マミは時計ばかり気にしていた。

 こうしている間にも、刻々と時間は過ぎていく。
 焦りが募る。
 不安が心を覆い尽くす。
 そうしてマミは徐々に俯いていった。
 
「そんなに時間が気になる?」

 顔を上げると、零がスプーン片手にマミを見ていた。
 既に幾つかの皿は平らげられ、今も食べかけのゼリーが彼の前に置かれている。

「あんまり遅くなると家の人が心配するからかな」

 つい昨日、この場所で、彼女もそう言っていた。
 誰も同じだ。魔女退治の帰りにも、何度となく聞いた。
 中学生には帰るべき温かい家があって、親が迎えてくれるのが当然だと思っている。
110: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/07(木)02:14 ID:PsMjcm9go(2/3) AAS
「あなたも……同じことを言うんですね」

 昨夜と同じ言葉でも、マミの反応は昨夜とは違う。
 薄く儚く、それでいて呆れたような笑みを浮かべる。
 それは柔らかな拒絶。

「いいえ……なんでもありません。いいんです、どうせ帰ったって誰もいませんし。
私、一人暮らしで親もいませんから」

 マミは早口に捲し立ててから、少し後悔した。
 気付けば勝手に口が動いていたのだ。
 半端な同情なんて、されたくもないのに。

 だが、こう言ってしまえば、それ以上は訊かれないだろう。
 自ら一線を引いて、触れられたくない過去を守れるなら。
彼が口を噤んでくれるなら、この際どうでもよかった。

 しかし――。

「そっか。なら、俺と同じだ」

 と、零はこともなげに言い放つ。
 予想外の反応に、マミは続く言葉を失った。
111: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/07(木)02:20 ID:PsMjcm9go(3/3) AAS
ここまで
なるべく明日も
小刻みですが書いてしまった方が、いっそ迷わずに済むかと思ったので
一段落するまでは

たくさんのコメントありがとうございます
こうした議論は、自分でも気付かなかった発見もあって嬉しいです

3期は、よりハードなストーリーになるみたいで
鎧がフルCGでスーツがなくなるそうで、少々寂しくもあり、不安でもあり
121: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/08(金)03:00 ID:Jp/GoSdMo(1/4) AAS
 零が、あまりにも平然と言ってのけたから面食らってしまった。
一瞬、ちゃんと理解しているのか不安になったほど。
 マミの場合、単に親元から離れての一人暮らしではない。
家族とは死別して、どうやっても会えないのだ。
 
 どうしよう。
 マミは内心うろたえてしまった。たぶん顔にも出てしまっているだろう。
 零が気まずくなって黙るのを期待していただけに、何を話していいのかわからない。

 だというのに、零は返事を待つ間も甘味を堪能している。
 とても真面目な話をする姿勢とは思えない。幸せそうな表情が憎らしかった。
 だが、だからこそマミは心の内を見つめる余裕ができた。

――そもそも、こんな話を続けて私はどうしたいの?
何を訊きたいっていうの?
さっきまでのように黙っていればいいのに。
私は、何を知りたいんだろう――

 拒んだ手前、問い詰めるのも気が引けたし、自分の事情を話す気にもなれなかった。
 何よりも、零の身の上を聞いて、それが自分よりも悲惨な境遇だったら。
 比べるのが、比べられるのが怖かった。

 だから訊くなら、たった一言。
 ただ、核心を。

「あなたは……独りぼっちでも寂しくないんですか?」
122: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/08(金)03:02 ID:Jp/GoSdMo(2/4) AAS
「そうだな……」

 零は食べる手を止め、考える。
 答えが返るまで、時間はかからなかった。

「耐えられなくはない、かな。
独りで辛くて、寂しくても、慣れれば我慢できないほどじゃない」

 彼は笑みを絶やさなかったが、その笑顔は少し変わっていた。
 気のせいかもしれない。注視しなければ気付かない、微細な変化。
さっきまでの軽さはなく、心なしか哀しそうでも、懐かしむようでもあった。

 マミは止めていた息をゆっくり吐く。全身の緊張が僅かに和らいだ。
 もし、平気だとか、痛くも痒くもない、なんて言われていたら。
 きっと、その時点でマミは彼を理解することも、理解を求めるのも諦めていた。

 そんな鋼のような精神を持った人間の考えなんて、きっと聞いても共感も理解もできない。
だからこそ鋼牙が高みの存在に思え、複雑な感情を抱いてしまう。
123: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/08(金)03:04 ID:Jp/GoSdMo(3/4) AAS
「家族も何もかも全部なくなったように思えても、
独りぼっちで生きてくのも、意外になんとかなるもんさ。
何か、ひとつでも残っていればね」

 そう、零はどこか遠い目をして語った。

 彼は平気だとは言わなかった。
 それを聞いて、少し安心した。自分だけじゃなかった。
 誰だって孤独が辛くないはずがない。怖くないはずがない。

 それでも、彼は耐えられると言った。
 鋼牙ほど歳は離れていないだろうに、背負った過去を窺わせる。
 擦り減って鈍くなったのか。鍛えられて強くなったのか。

 どちらであろうと、確かな事実がひとつ。
 自分が子供であり、彼が大人であるということ。

 あれは誰かの本で読んだのだったか。
 大人になるとは、鈍くなること。
 痛みや苦しみ、悲しさや寂しさ。喜びや快楽も含め、あらゆる刺激に慣れることだと。

 魔戒騎士じゃなくても同じ。
 世の大人たちは誰もが彼のように、大なり小なり折り合いをつけて生きているのかもしれない。
 だからキュゥべえは十代の少女を選んだのか。

「でも、私はあなたみたいに強くなれそうにない……」
124: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/08(金)03:07 ID:Jp/GoSdMo(4/4) AAS
ここまで
明日で区切りまで行けるかどうか
賛否あるでしょうが、3話は自分なりの零のイメージが強く出てる感じです
136: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/03/09(土)02:30 ID:4P36rRFho(1) AAS
ちょっと時間をいただきたいと思います
大事な場面なので
でも日曜には必ず
141: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/11(月)02:14 ID:dcMMMx5vo(1/3) AAS
 目を伏せ、蚊の鳴くような声で絞り出す。
 どうしてもイメージできなかった。
 今でさえ、こんなにも胸が苦しい。心がバラバラになりそうなくらい。

 孤独の痛みを抱えたまま、それに耐えて生きていくなんて、できる気がしなかった。
 まして自分は魔法少女。
既にまともな人間じゃなく、いつか怪物に変わるなんて事実、独りで抱えるには重過ぎる。

「そいつはどうかな」

「えっ……」

 独り言を拾われ、マミは戸惑う。
 しかも意図がわからない。
ただ、マミの苦悩故に漏れてしまった弱音を否定しているらしかった。

「それ、どういう意味ですか?」
 
 ややムッとして訊き返す。
142: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/11(月)02:20 ID:dcMMMx5vo(2/3) AAS
 私のことは私が一番よく知っている。慰めなんか求めていない。
 もっとも肯定されても、それはそれで不愉快だったろうが。
 零が根拠のない気休めや無責任な精神論を振りかざすなら、すぐにでも席を立つつもりだった。

「自分より自分のことを知ってる人間はいない。
けど、自分のすべてを知ってると思ったら大間違いだぜ?」

「私でも、強くなれると……?」

「さぁ? 俺はマミちゃんのことを全然知らないから」

 意味が判然としない内に突き放された。零はマミの望む答えを返さなかった。
 そこが零の、命で大きく異なる部分。
零は優しいようでいて、彼もまた一線を引いている気がした。

 たった数時間でも、命は必ずマミの欲しい言葉をくれたのに。
 しかし、命がホラーだとしたら、それも罠だったのだろうか。
 否定したくても、疑心暗鬼を止められない。

 わからなくなる。いったい誰を信じ、誰を疑えばいいのか。

――でも、一番信じられないのは私……。
迷ってばかりの私自身。
私は、こんなにも弱い人間だったかしら。いつから、どうして、こうなってしまったのか。
私は、私がわからない――
143: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/11(月)02:29 ID:dcMMMx5vo(3/3) AAS
ここまで
明日こそ何とかしたいです
筋はできてるんですが

風〜旅立ちの詩〜は早くCDで聴きたいです
いろいろ捗りそうなので
157: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/03/13(水)02:44 ID:ImEDd0jLo(1) AAS
昨日はすみませんでした
連日の夜更かしが祟って少々調子を崩していたもので
ここまできたら最後まで書き溜めたいので、もう少し
174: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/03/18(月)04:18 ID:7w+pZ8Vdo(1/13) AAS
前スレにも書きましたが、
キャラクターに対しては荒れる原因にもなりますので、言葉を選んでいただければと思います
もちろん「俺の〇〇はこんなじゃない」「魅力が出せていない」「捉え方がおかしい」
といった形なら、つまりSSへの批評批判でしたら歓迎ですが

ネタ、妄想に関しては、(上記の件についてもですが)
気になるかもしれませんが、悪気あってではないでしょうし、あったならなおのことスルーでお願いできないでしょうか

小ネタを書く方は自由ですが、書き込む前に他の方が不快にならないかどうか御一考ください
それと技名等データについては私がお願いしたものなので、ご理解ください

以上の理由から分ける必要はないと考えます

ですが、このスレ、SSとまったく関係ないものとして立てるのでしたら止める権利はありません

遅くなりましたが、投下します
175: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:20 ID:7w+pZ8Vdo(2/13) AAS
 だとしたら、零の指摘は正しい。
 おそらく彼は違う意味で言ったのだろうが。

「いえ、あなたの言う通りかもしれません。私は、私のことを知らない……。
でも、だからこそ、会わなくちゃいけないんです。でないと私……」

 目蓋が震える。
 マミは太股に落ちた拳をギュッと固く握った。気を抜くとまた泣いてしまいそうだった。
 ダメだ、まだ泣くなと、必死で己に言い聞かせる。
 
「生きる意味を見失ってしまう。何も残らなくなる……」

――キュゥべえに裏切られた私に残された……ううん、裏切ったのは私。
彼は私が友達だと思う限り友達だと言った。
彼は鏡のような存在で、大事なのは私の心ひとつ。
だからこそ、疑いと憎しみを抱いたら二度と友達とは見られなかった。

だからキュゥべえと決別した。
命さんは成り行きとはいえ私の正体を知り、受け入れてくれた。友達になってくれた。
命さんがいてくれれば、もう彼はいらないと思ったのかもしれない。

美樹さんは冴島さんに憧れている。それに今日のことで、きっと私にも幻滅したはず。
鹿目さんも美樹さんも、魔法少女の真実を知ってしまった以上、仲間には誘えない……。

一緒にいたら彼女たちはともかく、私は二人を求めてしまう。
二人は魔女とも、魔法少女とも……私とも関わりを持たない普通の生活に戻るべき。
私にはもう命さんしかいないのに、あの人を失ったら私は――
176: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:22 ID:7w+pZ8Vdo(3/13) AAS
 マミは俯き、沈んだ。
 あれこれ独りで考えていると、どうしても悲観的になってしまう。
 そこへ頭上から軽い調子の声。

「生きる意味なんて考えてる人の方が珍しいよ。
かくいう俺も意味なんてよくわかんないしね」

 だから生きる意味なんてなくたって平気だとでも言うのか。
そんなふうに、気楽に生きられない人間だっているのに。
 最初からないのと、あったものを失うのとでは、大きな差異がある。 
世界が色褪せて、何もかもが無味乾燥に感じられるのだ。

 その気楽さへの呆れは怒りに変わり、ひとこと言ってやろうとマミが顔を上げると――。
 同時に黒い物体が鼻先に突き出された。

「それでも、美味いケーキとお茶があれば、ちょっとは生きてて良かったって思える」

 ふわりと鼻腔をくすぐる香しさ。
 この香りは――チョコレート。
 零が注文していたチョコレートケーキだった。
 
「ほら。マミちゃんも食べなよ」

 いりません、と突っぱねようとした瞬間。

 クゥ〜、という音が。
177: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:24 ID:7w+pZ8Vdo(4/13) AAS
「あ……」

 発生源はマミのお腹からだった。
 小さな音だったが、マミは露骨に表情に表してしまった。
当然、耳聡い零が聞き逃すはずがない。

 そういえば昨日の夕方から何も食べていないと、今になって思い出す。
 泣き疲れて眠り、惰性で登校し、授業中も昼休みも物思いに耽っていただけだった。
その間、食事のことなど忘れていたし、空腹も感じなかった。
 心に引き摺られて、身体までもが生きるのを拒んでいた。

 それがどうだ。
 チョコレートケーキの香りを嗅いだ瞬間、死んでいた全身の細胞が生き返ったかのよう。
 灰色だった世界が色付いていく。

 目に飛び込んできたのは、テーブルに所狭しと並べられたスイーツの数々。
 彩り鮮やかなデコレーションが眩しく、甘い香りは否応にも食欲を刺激する。
今の今まで目にも映らなかったのに、自分でも不思議だった。
 
 ごくり――と、無意識に唾液を嚥下する。
 今度は最初より大きく腹の虫が鳴いた。

「や、やだ……」
 
 マミは顔を真っ赤にして恥じらい、両手で腹を押さえながら縮こまった。
 零は、くつくつと苦笑しながら、マミの前に新しいフォークを添えて皿を置くと、
 
「さ、どうぞ召し上がれ」

 右手を差し出し、恭しげに促した。
178: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:26 ID:7w+pZ8Vdo(5/13) AAS
 マミは悔しそうに零を見上げて数秒。
 観念したように息を吐いた。
 身体が求めている以上、虚勢を張っても仕方がない。言い訳の余地がない完敗だった。
 
 軽く会釈した後、フォークを手に取ると、まず全体を見回す。
 チョコを練り込んだ生地。
 層になったチョコクリーム。
 表面を白く覆う雪のような粉砂糖。

 シンプルで派手さはないが、他のケーキに微塵も見劣りしない。
見た目ほとんど黒と茶だけなのに、むしろ高貴ですらある。
 今まで見ていた、褪せた灰色の景色とは比べ物にならない美しさ。

 既に零に対する屈辱感は頭になく、マミの胸は期待に踊っていた。
 いつもお菓子を前にすると、日々の疲れや不安を束の間でも忘れ、幸せな気分に浸れた。
 流石に普段ほどではないが、無気力、無感動に錆ついていた心は確実に動き出していた。
 
 フォークで突き刺して、一部を口に運ぶ。
 甘さとほろ苦さが絶妙に組み合わさり、舌の上で解ける。
 一口にチョコレートの美味しさが凝縮されていた。

 食べ進めるごとに、忘れていた食欲が目覚めていく。
 もっと、もっと食べたいと欲している。
 生きる意味も見失い途方に暮れていたのに、身体は生きたいと渇望していた。

 大げさだが、今この瞬間だけは心の底から思う。
 生きていて良かった、と。

 
179: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:27 ID:7w+pZ8Vdo(6/13) AAS
 たった一個のケーキに、こんなにも揺さ振られるなんて。
 こんなことが堪らなく嬉しい単純な自分が情けなかしかった。

 そして、悲しくて寂しかった。
 キュゥべえや杏子と、何度も一緒に談笑しながら食べた想い出が蘇って。
 まどかやさやかと食べることがもう叶わなくて。

 お菓子が美味しかった理由。お茶会が幸せだった理由。
それは単に味だけじゃない。大切な誰かと時間を共有できたから。
 もし一緒だったなら、どんなに楽しかったろう。きっと何倍も美味しかったはず。

 でも、ここにいてほしい人は誰もいない。
 それでも、ケーキはやっぱり美味しかった。

 喜怒哀楽。
 様々な感情が一気に押し寄せて、胸が詰まって言葉にならない。
 瞳の端から、ずっと堪えていた涙が溢れる。

 ポロポロ零れて止まらない涙。
 マミは拭うこともせず、一口一口を大事そうに噛み締めた。
 口内を満たすのは甘味と苦味。それと少しの塩味――。
180: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:29 ID:7w+pZ8Vdo(7/13) AAS
  
 皿を綺麗に平らげたマミは、紅茶を含んで口を洗う。
鼻から息を吐くと、紅茶の香りと心地良い満足感だけが残った。
 不安から逃げる為、がぶ飲みしても得られなかった精神の安定。
それが僅かだが戻ってきた。
 
 何故だろう。それほど長く、激しく泣いた訳でもないのに、心が軽くなった。
独りの時は、何時間泣いても澱のように溜まっていく一方だったのに。
 零の前で泣いたことも後悔はしていない。彼のおかげで気持ちが楽になったのは紛れもない事実。
 
 ただ、ひとつ問題がないではなかった。

――は、恥ずかしい……。

 落ち着くと、猛烈な羞恥心が湧いてきた。
 そう思えるだけの余裕が戻ったのは喜ばしいのかもしれないが。
 マミは伏せた顔をなかなか上げられずにいた。

 泣きながらケーキにがっつく女を見て、彼はどう思っただろうと。
 また笑われるか。それとも、親身になって同情されるか。
 
 数十秒の後、そ〜っと上目遣いで零を窺う。
 結果は、どちらでもなかった。
 零はこちらに見向きもせず、頬杖をついて窓の外を眺めていた。
食べている間、ずっとそうしていたのだろうか。
 
 今がチャンスと、急ぎ取り繕うマミ。
 顔と口元を拭いて、お絞りで頬の火照りを冷まし、深呼吸。
 ようやく人に晒せる表情になってから、もしかしたら、と思う。
181: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:31 ID:7w+pZ8Vdo(8/13) AAS
――これも、この人なりの気遣いだったのかしら……。
それとも、本当に深入りする気がなかっただけ……?
どっちにしても、私にとって一番嬉しい対応だったけど――

 マミも零の視線を追ってみた。
 彼が見上げる空には、欠け始めた月が雲の切れ間から覗いていた。
 雨脚も弱まっている。

 それから長い間、マミと零は月を見上げていた。
 二人とも一言も発しなかったが、気まずい沈黙とは無縁だった。
 周囲の雑音も気にならない。何も語らなくてもいいのだと思えた。

 もしかしたら、もしかして。
 このまま、すべてがうまくいくんじゃないか。
 雨がいつか必ず上がり、黒雲が晴れ、夜明けが来るように。
 甘えた考えだとしても、期待せずにいられなかった。

 実際は何も変わっていない。気持ちがやや上を向いたに過ぎない。
 なのに、映る世界は違って感じられた。
 
「あの……せっかくですから、少しお話しませんか……?」

 切り出したのはマミから。
 一歩を踏み出せば、何かが変わるかもしれない。
そんな、何の根拠のない漠然としたプラス思考。
 その瞬間、マミは希望を垣間見ていた。
182: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:32 ID:7w+pZ8Vdo(9/13) AAS
 共通の嗜好を持つ者同士だった為か、それなりに話は弾んだ。
 この街で美味しい店を教えたり、
逆にこれまで行った店で特に美味しかった店を聞いたり。

 零は自分が注文したスイーツを気前よくマミにも分けてくれた。
 マミも最初こそ遠慮したものの、最後には誘惑に抗えず、厚意を受け取った。

 彼は本当に命とは真逆だった。
 他人に深入りしないし、胡散臭い発言もある。
かと思えば、妙に紳士的だったりもする。
 温かいのか冷たいのかわからなくて、どうしていいか混乱してしまう。
 
――何て言ったらいいんだろう。本当に掴みどころのない人……。
でも、不思議と嫌いじゃない――

 命との会話がひたすら安らぎに満ちていたのに対し、零は気が抜けない。
良くも悪くも緊張感のある時間。少なくとも退屈はしなかった。
もし彼を詳しく知る機会があったなら、それが良い方に傾いただろうか。

 そう思う程度には、マミは零に心を開きつつあった。
 態度も軟化し、ぎこちない笑顔を浮かべもした。

 しかし――。
183: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:34 ID:7w+pZ8Vdo(10/13) AAS
 閉店が近付くにつれ、マミは次第に無口になっていった。
 命はまだ来ない。
 零と話す前より強い焦燥に駆られる。

 笑顔が翳っていくのは止められなかった。
マミ自身にも、零にも、誰にも。

 そしてオーダーストップを経て、閉店。
 肩を落として店を出たマミに、零が言った。

「それで、マミちゃんはこれからどうする?」

「私も、帰ります」

 訊かれるだろうと、あらかじめ用意していた答えだった。
 零は真剣な顔つきで何か言いたげにしていたが、

「そっか。じゃ、気を付けて」

 と、背を向けて去っていく。
 その背中を、マミは一礼して見送った。

「ご馳走様でした。それと……ありがとうございました」

 暫く反対に歩いたマミは立ち止って振り返る。
 零が見えなくなったのを確認すると踵を返し、また店の前まで戻ってきた。
184
(1): ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:35 ID:7w+pZ8Vdo(11/13) AAS
――涼邑さん……ひょっとして私の嘘に気付いてたかも。
最後まで読めない人だったな……――

 零との時間は楽しい。しかし、求めていたものではない。
 彼では命の代わりにはなり得ないし、代わりなんて零にも失礼だ。
もうキュゥべえの時のような自己嫌悪に苛まれるのは嫌だった。

 運良く通りから見えにくく、店の周囲を見張れる物陰に入る。
 自分の執着が異常だという自覚はある。でも、どうしても諦めきれなかった。
せめて、もう一度だけでも会って確認したかった。

 故にマミは、この場に残ることを選択した。
 零には悪いと思っているが、心配を掛けたくなかったのだ。

 もう春だが、まだ雨が降ると冷える。ずっと暖かい店内にいたせいか、外は余計に寒かった。
 一応ここは建物の陰ではあるが、雨を完全には凌げない。
冷たい雨が時間を掛けて全身を濡らし、体温を奪う。

 それでもマミは吐息で手を温めながら、命を待った。
 待って、待って、待ち続けて。

 いつの間にか日付が変わっていた。
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ぬこの手 ぬこTOP 0.464s*