[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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185: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:37 ID:7w+pZ8Vdo(12/13) AAS
月は再び分厚い雲で覆い隠され、雨は勢いを増す。
髪の毛や服から滴るほど、マミは全身くまなく濡れていた。
最早、信じて待つのも限界だった。
魔法が解けたかのように、今では悲観的な思考しか浮かばない。
希望を抱いた分、失望も大きかった。
暗がりで独り、ぬか喜びの代償を噛み締める。
眺める街の明かりがひとつ、またひとつと消え、マミの瞳からも光が失われていく。
灰よりもなお暗い色に変わっていく。
やがて世界が漆黒に染まっても。
遂に夕木命は現れなかった。
186: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:41 ID:7w+pZ8Vdo(13/13) AAS
ここまでで一区切り
3話Aパートでしょうか
続きは少し後になるかもしれませんが、来週また経過報告は
基本的には、さやかまどかほむらを鋼牙担当というか主に絡む役割、マミ杏子を零が担当と考えています
2話3話はマミと杏子が中心だったので、必然的に零が目立ったと
>>130
私見ですが、零が本当の意味でシルヴァに感謝と愛情を抱くようになったのは、庇って壊れてからじゃないかな
と思っています
大人と子供で言えば、一期の途中までは子供っぽさがあり、それがミステリアスな雰囲気にも繋がっていた
「俺たちは魔戒騎士じゃないのか!」のあたりから変わったような気がします
197: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/03/26(火)01:44 ID:ksaxkj7Po(1) AAS
ちょっと展開が煮詰まってないので、まだあまり書けていない状況です
その分、wikiの追加や手直しなどしようかと
いつも多くのコメントありがとうございます
>>193
スピンオフとは予想外で楽しみです
法師の派手な戦いが見られそうで期待
>>194>>195
恐縮です。期待にこたえられるよう頑張ります
202(2): ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/04/01(月)02:40 ID:XAZFz7zqo(1) AAS
遅れて申し訳ありません
続きは現在鋭意製作中です
今週末には投下したいと思います
また、明日にでもwikiに3話前半を載せる予定です
闇を照らす者が早いところでは今週から開始ですが、ここでのネタバレはご遠慮ください
今さらかもしれませんが念の為
205: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/04/08(月)02:25 ID:/VuK8cjjo(1) AAS
今日はちょっと追い付きませんでした
明日には必ず
207: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/09(火)03:54 ID:SeCyawNro(1/5) AAS
明朝、さやかは眠い目を擦りながら通学路を歩く。
足取りは重く、表情は暗い。昨日の雨が嘘みたいに空は晴れているのに、憂鬱な気持ちでいっぱいだった。
今日ほど学校に行きたくないと思う日もなかった。
昨日の放課後は色々あって、まだ気だるさが残っている。
何だか疲れてしまって、病院にも寄らず真っ直ぐ帰宅した。
それでも一昨日やその前に比べれば、まだ軽いと言えなくもない。
考えてみれば、鋼牙と出会った日から毎日、何かしら命の危険を感じている。
あの日から、すべてが変わってしまった。
何事もなく一日を終えられることがどれほど幸運だったか、今では痛感している。
さやかは深く溜息をつく。
平穏無事に一日を終えられる日が来るのはいつになるのか。
それとも、そんな日は二度と来ないのか。
そして非日常に片足を突っ込んだのみならず、日常までが崩壊を始めている。
具体的には、幼馴染のまどかと親友の仁美との関係。
仁美に魔法少女の秘密を隠し、そのせいで不信を抱かせた。彼女を除け者にして傷つけ、怒らせた。
まどかとの方は、もっと深刻だった。
始まりの夜――転校生、暁美ほむらと彼女が、走れないさやかをホラーの前に置き去りにして逃げた。
真実は不明だ。ただ状況からは、そうとしか考えられなかった。
駆けつけた鋼牙のお陰で事なきを得たものの、直後に助け起こそうとしてくれたまどかの手を払ってしまい、
今日まで尾を引いて仲をギクシャクさせている。
208: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/09(火)03:56 ID:SeCyawNro(2/5) AAS
本当は疑いたくなんかない。
まどかを信じたい。
でも、あの暗闇で植えつけられた絶望は、疑念は、心の奥底に根を張っていて、ふとしたきっかけで芽を出す。
昨日も、まどかがほむらを疑わないという、ただそれだけで発作的に酷い言葉をぶつけてしまった。
今は激しく後悔している。
しかし、また暴言を吐かない自信はない。さやかの意思では、どうにもならなかった。
どうやって接したらいいか、わからなくなっていた。マミにも、仁美にも、まどかにも。
それでも足は、いつもの待ち合わせ場所に向かっている。
自分だけが先に行って二人を待ちぼうけさせてしまったら、それこそ裏切りだからだ。
――でも……もし、誰もいなかったら……。
二人に愛想を尽かされていたら。
考えると足が竦む。手に汗がにじみ、動悸が激しくなる。
――あぁ……弱虫だなぁ、あたし。
疑っちゃいけないのに。それだけでも裏切りなのに。
どうしても抑えられない。たったそれだけが、こんなにも怖い……。
何で、こうなっちゃったんだろう――
あの夜、心がぽっきり折れて以来、はっきりとは実感できないが、自分の内で何かが変わった。
そのひとつとして、臆病になった。日常の温かさと脆さを思い知った分、失うことが堪らなく怖くなった。
非日常に踏み入るのも、周囲の人間との関係が変わるのも嫌だった。
こんな時、頭に浮かぶのは、何度も自分を守ってくれた冴島鋼牙の白い背中と黄金の鎧。
不思議と顔よりも、後姿の方が脳裏に焼き付いている。
209: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/09(火)03:59 ID:SeCyawNro(3/5) AAS
――恭介のこと考える時は、顔やヴァイオリンの演奏が真っ先に浮かぶのに、何で冴島さんは背中なのかな……。
単純に顔よりも眺めていた時間が長かった。それもある。
さやかが最も強い衝撃を受けたのが、死の間際で救ってくれた瞬間だったのもあるが、
それ以外にも彼が常に背を向けて弱者を守り、敵と戦っていたからだ。
広くて、逞しくて、雄々しい背中。
あの日から、不安や恐怖に囚われた時、いつも思い出す。
目蓋を閉じれば、いつでも思い出せる。なけなしの勇気を奮い立たせてくれる。
たった数日なのに、恭介とはまた違ったベクトルで自分を支えてくれる人。
だが、それだけに弱く情けない己が浮き彫りになり、失望する。
――ひょっとしたら、マミさんもこんな気持ちだったのかな……。
それでも思ってしまう。
いつか、あの背中に追い付きたいと。
あの背中に笑われない自分に、力では無理でも、同じくらい心の強さを持てたら。
決意と呼ぶにはほど遠く、なれたらいいなという子供じみた憧れ。
叶わないとわかりきっている、薄っぺらな願望だったが。
やがて待ち合わせの場所に着くと、歩道の端に二人の女生徒の姿が見えてくる。
遠目からでもわかる。まどかと仁美だった。
さやかは勇気を振り絞り、声を発した。
「その、おはよ、二人とも」
ぎこちなく挨拶をするさやかに、彼女らも気付いて振り向く。
二人を見て、さやかは一瞬ギョッと目を見張った後に察した。
210: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/09(火)04:00 ID:SeCyawNro(4/5) AAS
「さやかさん、おはようございます」
「あ……おはよう、さやかちゃん」
二人とも、昨日の出来事を忘れてはいない。それどころか、今も気に病んでいる。
さやか同様、どこか無理をした陰のある笑顔。きっと、ここにいる理由も同じ。
来たくはなかった。しかし、より状況が悪化すると思ったから、来ざるを得なかった。
「うん……お待たせ。じゃ、行こっか」
一昨日もそうしたように、先頭に立って振り返らないさやか。
内心で、見放されていなかったと安堵すると同時に、まだ許されていなかったとしょげている。
自分で何も行動しない内から好転するなんて、ある訳がないのに。
三人が三人とも仲直りしたいと思っていながら、きっかけが見つからない。
互いに会話もなく、黙り込んだまま歩く。
せめて三人だけなら他愛ない話題もあったかもしれないが、今日は彼も一緒にいる。
「(あんたもいたんだ)」
さやかは言葉を頭に思い浮かべた。
背後のまどかを、正確には彼女の肩に乗った白い小動物を一瞥して。
『おはよう、さやか』
赤い目の小動物――キュゥべえは無表情で首を傾げ、口を開かずに言った。
キュゥべえという異物が傍にいると、どうも調子が狂ってしまう。
さっきも危うく仁美に動揺を悟られるところだった。
いや、所詮は言い訳に過ぎない。
本当の問題は自身の心にあることも、さやかはわかっていた。
わかっていても、素直な謝罪の言葉は出てこなかった。
211(1): ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/09(火)04:05 ID:SeCyawNro(5/5) AAS
短いですが、ここまで
勘を取り戻すのに時間がかかっていますが、週末までにもう一度くらい
闇を照らす者は雰囲気は変わっていますが、これはこれで面白そうですね
遅れて生放送でもあるようで
>>204
バランスが悪いと感じてはいますが、まだサブタイトルも言ってませんし、
もう少し続けたいと思います
228(1): ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/04/15(月)02:27 ID:rcS4ORp7o(1) AAS
このところ調子を崩しているので、もう少し時間をいただきたいと思います
こんなスローペースなのに、いつも感想や情報提供ありがとうございます
とても励みになります
ネタバレについて
3期に関してはニコ生もありますし、どうやっても見られない方はそうはいないでしょうし、
生放送後でしたら大丈夫かと思います
>>204の時点ではネット配信を知らなかったので
蒼哭に関しましては、上映館の都合で見られない方もいるかと思い、
遠慮していただくようお願いしていたのですが、そういう声がないようでしたら、これも特に構いません
雑談はご自由にしていただいて結構ですが、
ここは牙狼×まどか☆マギカのSSスレですので、なるべくそれに沿った話題でお願いします
具体的には、やはり単純に牙狼本編の感想や考察を言い合ったりするだけであれば、
特撮板のスレや他にもありますし、それらの場でやりにくい話――まどか☆マギカを絡めた話をしたい際に使うということで
ただ、絶対に単体の話をするなという訳ではなく、明確な線引はできませんので、脱線し過ぎないようにだけ留意していただければ
上から物を言うようで恐縮ですが、今後ともよろしくお願いいたします
232: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/22(月)02:36 ID:F/JdhsS8o(1/6) AAS
そして授業中、さやかは上の空で教師の話を聞き流していた。
まどかと仁美とは、教室に着くまで一言も口を利かず、今に至る。
キュゥべえはというと、教室の後ろで丸くなっていた。
「(あの……さやかちゃん、いいかな?)」
突然のまどかの声。しかもキュゥべえの仲介する念話だ。
さやかは驚いて、ついていた頬杖から滑り落ちる。
まどかを見ると、申し訳なさそうに目配せしていた。
「(どうしたのよ、いきなり)」
「(昨日は、マミさん何の話だったの?)」
「(そんなの別に今じゃなくてもいいでしょ。ていうか授業中だし)」
「(ちょっと、気になっちゃって。ダメ……かな)」
まどかにしては、やけに食い下がる。だが、それも当然だろう。
一晩で見違えるほど憔悴したマミが、それでも話したいと望んでいた。
彼女がああなった原因も、おそらく関係している。魔法少女に関わる大事な話とやら。
まどかにとっても他人事とは言えない。
授業なんてまともに聞く気分じゃないし、応じてもよかったのだが。
「(いいよ。じゃ、昼休みにでも……)」
少し考えて、さやかは答えた。
今この場で話すのは気が進まなかった。
233: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/22(月)02:38 ID:F/JdhsS8o(2/6) AAS
「(でも……それじゃダメだよ。また仁美ちゃんと一緒にお昼できなくなっちゃうもん)」
言われて、はたと気付く。
仁美を交えて昨日の話はできない。かと言って二人だけになれば、また仁美を除け者にしてしまう。
故に、彼女のことを出されると断りにくかった。
「(……そうだね。でもさ、これってキュゥべえが中継してるんでしょ?)」
『そうなるね。僕にも聞かれたらまずいことかい?』
「(そうじゃないけど。他の魔法少女に聞かれてるんじゃないの?)」
「(どういう意味?)」
『暁美ほむらのことなら心配ないよ。僕から彼女に繋がない限り――』
「(それあるけど、そうじゃなくって、その……マミさんとか)」
言葉を濁しながらも、さやかは本心を口にした。
現在進行形で聞き耳を立てられているのかもしれないが、この先はマミに聞かれたくなかった。
客観的に語ろうとしても、主観が混じるのは避けられない。マミが気分を害すると思った。
『それも問題ない。マミは今、校内にいないからね。どうやら欠席してるみたいだ』
それだけに、キュゥべえから知らされた時は驚いた。
「(欠席……!? どうして……?)」
まどかが代わりに驚きを口にしてもなお、さやかは何も言わなかった。
234: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/22(月)02:40 ID:F/JdhsS8o(3/6) AAS
言えなかった。聞かされた瞬間、頭が疑問で埋め尽くされたから。
ほぼ間違いなく、昨夜のことが関係している。
あれから命は現れなかったのだろうか、それとも。
様々な可能性が浮かんでは消える。
ただ、
――言い切れるほど、マミさんはあの人を知ってるの?
あたしのせいかもしれない。
――もう絶対あの人と一緒は嫌だから。
心ない言葉が、マミを傷つけたかもしれない。
そう思ったら気が気でなかった。
別れる時点で、既にマミは無理して余裕を取り繕っていた。
店の窓ガラスが曇っていた為よくは見えなかったが、
去り際に外から見えたマミは――泣いてはいなかったか?
『さぁね。僕も、一昨日の夜からマミと会っていないから』
「(放課後、お見舞いに行ってみようか。ね、さやかちゃん)」
そんなさやかの気持ちなど知らず、キュゥべえがつれなく言い放ち、
まどかに誘われてから、ようやくさやかは我に返った。
「(う、うん。そだね……)」
何があったのか、マミ自身の口から聞けたなら、それが一番いい。
しかし、またひとつ頭痛の種が増えたことに、さやかは嘆息を禁じ得なかった。
235: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/22(月)02:44 ID:F/JdhsS8o(4/6) AAS
『それで、さやか、これで君の問題はクリアされたけど、どうするんだい?』
「うん……ま、いいよ。あたしは別に話しても)」
そうして、さやかはまどかに昨夜の一連の出来事を語った。
夕木命との再会、彼女の豹変、赤い魔法少女と黒い男、マミとの衝突。
特にマミが心を許していた命が消えたことと、その後のマミとの会話は、
彼女の欠席とも関係していそうで口が重くなった。
ただし、命がホラーかもしれない、とは言わなかった。
マミに釘を刺されたように、思い過ごしという可能性もないではない。
ここで命を悪し様に語るのは、ばつが悪かった。
「(そうなんだ……。じゃあ、マミさんの話が何だったのかは……)」
「(そ、わかんないまんま)」
「(その、新しい魔法少女の娘のこと、キュゥべえは知ってるの?)」
『彼女のことならマミが詳しい。僕もマミの知ってる以上のことは知らないよ』
マミの知り合いでも、現在の関係は円満とはいかないようだ。
この街はマミの縄張りらしいが、これで魔法少女は3人に増えたことになる。
まだ自分たちに直接の関係はないとはいえ、心配には違いない。
236: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/22(月)02:44 ID:F/JdhsS8o(5/6) AAS
いずれにせよ、ここで気を揉んでも仕方がない。
もっと重大な、自身の問題に直面しているのだから。
さやかは深呼吸した後、
「(まどかは、さ……)」
「(え?)」
「(まどかは、あの後ちゃんと帰れたの?)」
思い切って訊いてみる。
ずっと気になっていたし、このことが仲直りのきっかけになれば、という期待もあった。
「(あぁ、うん……)」
まどかは頷きかけて、
「(うぅん。やっぱり、さやかちゃんには話しておくべきなのかも……)」
首を振り、そう続けた。
その重々しい口調、神妙な顔つきから、何事かあったのだと、さやかも察した。
「(少し長くなるけど、付き合ってもらえる……?)」
237: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/04/22(月)02:51 ID:F/JdhsS8o(6/6) AAS
ここまで
2週も休んでしまいましたが、
調子も戻ってきたのでもっと早く、最低でも週一は保持したいと思います
流牙は子供っぽさ、未熟さがありますが、2話以降、好感が持てるようになりました
雰囲気は変わりましたが、クオリティは落ちていないようでモチベーションも上がります
263: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/29(月)03:19 ID:IOHaG7RAo(1/5) AAS
*
そしてまどかの記憶は、昨日の夕方まで遡る。
まどかはほむらと保健室に入ったが、生憎と外出中のようで誰もいなかった。
仕方がないので、ほむらに促され、勝手にベッドに寝かせてもらった。
ずっと頭が重かったが、ベッドに横たわって枕に預けてしまうと楽になった。
火照った頬に、ひんやりした枕の感触が気持ちいい。
ちらと傍らに立っているほむらを見やると、ちょうど目が合う。
「私は先生が帰るまで待ってるわ。気にしないで」
素っ気なく言うと、ほむらはまた目を逸らした。会話をする気はないようだ。
白い天井に目を移す。1,2分ほど何とはなしに見つめていたが、すぐに眠気が襲ってくる。
抗わずに、まどかは目を閉じた。
よほど疲れていたのか、次第に曖昧になっていく意識。
するとどこからか、
「今は何も考えなくていいから。全部忘れて、ゆっくり休んで……まどか」
と、声が聞こえた気がした。
264: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/29(月)03:22 ID:IOHaG7RAo(2/5) AAS
魔法少女のこと、マミのこと、仁美のこと、鋼牙のこと、さやかのこと――自分のこと。
あれもこれも考えなければと悩み、それが余計に頭痛を激しくしていた。
今も頭の片隅に引っ掛かっていて、どこか気が抜けきれなかったのだが。
しかし、この瞬間――まどろみの世界で届いた、優しく温かい声音は、
それらの重荷を取り払ってくれた。
ふっと、まどかの全身から力が抜ける。意識が完全に闇に溶ける。
声に背中を押されるように、まどかは安らかな眠りに落ちていく。
果たして声の主が誰だったのか、思い至ることもできないままに。
その後、頬の熱と目蓋越しに感じる光で、まどかは覚醒した。
うっすら目を開いた途端、オレンジ色が眩しい。
窓に目を向けると、光はカーテンの隙間から射し込んでいた。
どれくらい眠っていたのだろう。
いつの間にか落ちかけている夕日に目を細め、
とろとろしながらも時間を掛けて意識を揺り起こす。
「目が覚めたみたいね。気分はどう?」
と、横から声と共に体温計が差し出された。
ほむらだった。
長い黒髪が夕日に照らされてキラキラ艶めき、ある種の人形めいた美貌を見せている。
そんな彼女は見惚れるくらい綺麗で、まどかは暫し言葉を忘れてしまった。
「もしかして、ほむらちゃんがずっと付いててくれたの?」
「ええ。先生に頼まれたし、特に予定もなかったから」
265: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/29(月)03:24 ID:IOHaG7RAo(3/5) AAS
相変わらず口調や表情には、一切の愛想が感じられない。
しかし理由はどうあれ、今まで付いていてくれたことは素直に嬉しかった。
体温計を脇に挿みつつ、まどかは額に手を当ててみる。
「うん……だいぶ良くなったかな。ありがとうね、ほむらちゃん」
数分後、体温計を確認したが、ほぼ平熱まで下がっていた。
ふと、無表情でこちらを見ているほむらに気付く。
何か他の言葉を待っているのだと思い、
「昨日はちょっと、いろいろと考え事してたら疲れちゃったみたい。えへへ……」
「それは、美樹さやかのこと?」
照れ臭そうに説明したまどかに、ほむらはあくまで真顔。
ほむらの指摘に、まどかは俯いた。
昨日、生活サイクルを崩した直接の原因は鋼牙だが、さやかの件も無関係ではない。
「あなたは、どうして何も言わないの?
美樹さやかに、私が嫌がるあなたを無理やり連れて逃げたって言えばいいのに」
まどかは答えあぐねた。
何故?
理由は自分でも判然としない。それに一言で表せるものでもない。
266: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/29(月)03:25 ID:IOHaG7RAo(4/5) AAS
「別に言ってもいいわよ。私が全部悪いんだって。そうすれば、彼女も余計な誤解を解くわ」
「じゃあ、ほむらちゃんは、どうしてさやかちゃんを助けてくれなかったの? どうして私だけ……」
「満足に歩くこともできない美樹さやかを担ぎ、同時にあなたの手を取って逃げるのは難しい。
もたもたしているとホラーに追い付かれる危険もあった」
ならば、ほむらがさやかを担いで逃げ、自分が後を付いていく形ではダメだったのか。
思わないでもなかったが、まどかは口に出さなかった。
まどかは未だ彼女の魔法のからくりを知らない。
しかし、そうできたなら、そうしたはず。しなかったなら、相応の理由があったのだ。
まどかはほむらを手放しに信用している訳ではないが、さやかのように敵視してもいなかった。
「冴島鋼牙が現れなければ、あなたたちは、いいえ、私も含め全員ホラーの餌食になっていてもおかしくなかった。
だから一人でも確実に助けられる方を選んだ。四人揃って死ぬよりはマシでしょう?」
信じたのは、ほむらの冷静な判断力。ホラーという未知の怪物を相手にし、
マミの必殺の一撃も通じなかった危機的状況において、彼女は思考を止めなかった。
少なくとも、まどかの目にはそう映り、自分には絶対できないと思い知らされた。
「私は判断を誤ったとは思っていないわ。あの時は、あれが最善だった。
罵りたければ構わない。軽蔑されてもいい。私は残酷な命の取捨選択をしたのだから。それでも――」
私は間違っていない。
滔々と捲し立てたほむらの眼は、言外に語っていた。
まどかは彼女を責めなかった。責められるはずがなかった。
267: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/04/29(月)03:34 ID:IOHaG7RAo(5/5) AAS
ここまで。GW中にもう一度くらい投下できたら
いつもコメントありがとうございます
大変励みになります
上のような議論は拙作を見直す上でとても為になります
自分としては、それほどねじくれてるように書いてる自覚はなかったりするので
>>239
と言っても寝不足や肩こりくらいですが、なかなか万全でないと手が進まないので
でも言い訳臭かったですね。もう言わないようにします
>>259-260
ありがとうございます
長いのに新たに見てくださって、とても嬉しく思います
274: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/05/07(火)02:35 ID:KTdzHMbGo(1) AAS
ちょっとスランプ気味ですが、今週中には必ず
277: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:45 ID:WK12HDz4o(1/5) AAS
「……もういいよ」
「私のことを怒ってないの?」
「さやかちゃんを見捨てたのは……やっぱり納得できない。でも、ほむらちゃんを憎むことはできないよ。
だって、ほむらちゃんは私の命を助けようとしてくれたんだから。
ほむらちゃんのお陰で私が助かったのは間違いないから」
そして自分は間違ってないと言った彼女の表情。
彼女の冷静さは冷徹や冷酷とも取れる。しかし、この時は違った。
そこに見えたのは、微かな苦渋の色。それだけでも、彼女が心底から利己的な人間ではないと思えた。
「ほむらちゃんのせいにはできないもん。
さやかちゃんが辛くて一番いてほしい時に、傍にいられなかったのは事実だし」
命の恩人を悪く言いたくはないが、それとは別に、まどか自身にも負い目があった。
怒りとも悲しみともつかない感情。きっと、さやかの胸の内に渦巻いているのは、そんな思い。
度々こちらを不安そうに見る目には、ほむらと同じ迷いがあった。
一昨日、あの暗闇で伸ばした手を払った、さやかの目を思い出す。
激情から一転、子供のように怯えを露わにした瞳。
わからないのかもしれない。どうしたいのか、どうすればいいのか。
「理屈じゃないんだよ。さやかちゃんは考えるより感じるって言うか、
思ったら突っ走っちゃう娘だし」
「でも、あなたはそれでいいの? 真実を話さなければ、彼女は納得しない。
あなたへの怒りだって治まらないと思うけど」
「これまで私は、さやかちゃんに返し切れないくらい、たくさんのものをもらってるから。
やり切れない気持ちの捌け口にでもなれるなら、受け止めるのが友達……だと思うから」
278: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:49 ID:WK12HDz4o(2/5) AAS
まどかは困ったふうに、小さく笑った。
当然、さやかとすれ違ったままでいいとは思わない。
それでも、まどかはこうも思っていた。
自分とさやかの仲は、これしきで揺らぎはしない。これっきりで終わる訳がないと。
絆を、友情を信じる。しかし、それは信じたい、積み重ねた時間に縋りたいという願望。
不安の裏返し。
この二日、積極的にさやかとの関係を修復しようとしてこなかったのには、もうひとつ理由がある。
敢えて語らなかったのは、ほむらにも触れられたくなかったから。
黒い陰を儚い微笑の裏に隠して、自分に言い聞かせるようにまどかは言う。
「大丈夫。さやかちゃんとも時間が経てば、仲直りできると思う。
本当は、すごく優しい娘だから。できれば、ほむらちゃんとも――」
「そう……あなたがそう言うのなら、この件については、もう何も言わないわ」
言わんとするところを察したのか、ほむらが遮った。
事実上の拒絶を受けて、まどかは続く言葉を紡ぐ気になれなかった。
「でも、もうひとつ、これだけは覚えておいて。冴島鋼牙――彼は確かに人を守りし者。
絶対の信頼を寄せていい相手かもしれない。あなたが人である限りは」
唐突に話が変わり、戸惑うまどか。訳もわからず相槌を打つが、最後の一言が引っ掛かった。
その意味を問う間もなく、ほむらは続ける。
「でも、全能じゃない。事実、彼があの場に現れたのはまったくの偶然。
助けてくれたのも、単なる幸運。二度目、三度目があるとは限らない。
もし私があなたを連れて逃げなければ、彼が来なければ。少しでも歯車がズレていれば、あなたは確実に死んでいた。
巴マミは斃れ、あなたと美樹さやかは手を握り合ったまま切り裂かれ、他にも大勢の人間が喰われたでしょうね」
279: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:51 ID:WK12HDz4o(3/5) AAS
その口調は淡々としていながらも厳しく、疑問を差し挟むことを許さない。
「うん……わかってるよ。ほむらちゃんには感謝してる……」
「感謝も謝罪も必要ない。そんな言葉、何の意味もない。私は二度と危険に近付かないでほしいだけ」
有無を言わせぬ眼力に射抜かれる。
彼女の纏う雰囲気に、まどかは気圧されていた。
いや、何も言えなかったのは、それだけが理由ではない。
まったくの正論で、反論の余地がなかったからだ。ぐうの音も出ないほど。
「あなたがあの場に行かなければ、美樹さやかも行かなかった。
結果だけ見れば、あなたは彼女を危険に巻き込んだとも言える」
「うん……」
と、まどかは力なく答えるしかなかった。
最初に改装区画に立ち入ったのは結果論で済むかもしれない。
だが、ほむらは知らない。
さやかが走れなかったのは何故か。
誰を庇って両足に傷を負ったのか。
この一点だけは、言い逃れのしようがないほど、まどかに原因があるのだ。
ほむらにも責任転嫁できない。
理解していたはずなのに、改めて言葉にされると突き刺さった。
280: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:52 ID:WK12HDz4o(4/5) AAS
――私のせいで、さやかちゃんが死ぬかもしれなかった。
命こそ助かったけど、心に消えない傷を負ったかもしれない。
だから……さやかちゃんに拒絶されても仕方ないんだ……。
それでも離れたくないと思う私は……ずるいのかなぁ――
ギュッと拳を握り、下唇を噛む。
そうでもしないと涙がこぼれそうだった。
まどかの様子を察したのかどうか、やや穏やかな声で、ほむらが言った。
「あなたを責めるつもりはないわ。
あなたの意志の強さや優しさは認める。それでも――」
「私、そんなに優しくも強くもないよ。ううん、むしろずるくて、弱虫で、何の役にも立てない」
慰められるのが耐えられなかった。
まどかは自罰的な衝動に任せ、恐ろしい想像を口にする。
「もし、ほむらちゃんも冴島さんもいなかったら私だって……」
もし、鋼牙が来なかったら。
ほむらに手を引かれていなかったら。
自分は死ぬまで一緒にいられただろうか。最後まで、さやかの手を離さずにいられただろうか。
何度となく胸に問いかけても、答えは出なかった。
一歩一歩、近付くホラー。
迫る死の恐怖。
繋いだ手を振り解いて駆け出すことで、助かる可能性が僅かでも上がるなら。
――さやかちゃんを見捨てて逃げたかもしれないのに。
281: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:55 ID:WK12HDz4o(5/5) AAS
ここまで
なんやかんやで2週も開いてしまいましたが、
明日からはまた本気を出して書こうと思います
287: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/20(月)03:01 ID:OXLduBPHo(1/6) AAS
口にはできなかった。
あまりにも恐ろしくて。
口にすれば、本当に認めてしまいそうで。
まどかは長く沈黙していたが、いつまで経っても催促は聞こえない。
チラリとほむらを窺うと、彼女は今まで見たこともない顔をしていた。
目を丸くし、半開きの口。
一言で表すなら、驚愕。
変化は微細だったが、無表情が常の彼女だからこそ顕著だった。
目が合ったと気付くなり、ほむらは逃げるように目蓋を閉じた。肩に掛かった髪を優雅に払って一息。
目を開けた時、動揺はすっかり消えていた。
「どうかしら。それでも、あなたは、きっと――」
「きっと、なに?」
「……きっと、その前にアイツが契約を唆しにきたでしょうね。そしてあなたは魔法少女になった」
まるで真意を鉄面皮の下に隠すよう。
気にならないでもなかったが、追及はしなかった。彼女が隠すなら、どうせ聞いたところで答えは得られない。
「私にも力があれば……」
誰にともなく呟く。
ほむらの言う通り、そんな状況に追い込まれれば契約したに違いない。
そうすればホラーにも対抗できた。代償として、たった一度の願いをよく考えずに使い切り、
終わらない死闘に身を投じる羽目になるが。
288: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/20(月)03:05 ID:OXLduBPHo(2/6) AAS
「あなたは、力が欲しいの?」
「うん……うぅん、どうなんだろ。わかんない」
力は欲しい。でも、それは手段であって目的じゃない。
では目的とは。
弱い自分を変えたいが為。確固たる自信を持ち、輝ける自分になりたい。
一方で、誰かを救いたい、誰かの役に立ちたいという気持ちもある。
「でも、私なんかじゃ力があっても変われないのかな」
まだマミにもさやかにも明かしていない、秘めた想いを吐露したのは、たった一人にだけ。
魔戒騎士、冴島鋼牙。
昨日たまたま夜道で再会した鋼牙に、まどかは助言を求めた。
自信に溢れ、堂々とした態度。それでいて驕らず、当然の如く他人の為に命を懸けられる正義感の持ち主。
さやかに比べれば控えめでも、その様はまどかにとっても理想像だった。
しかし、結果は素気無くあしらわれてしまったのだが。
「冴島さんにも、そう言われたみたいで……」
「それは、どういうこと?」
まどかは躊躇ったが、ほむらに打ち明けることにした。
彼女ならどう答えるだろうか、知りたかった。
まどかは、昨夜の鋼牙とのやり取りを順を追って話していく。
すべてを話し終えた時、ほむらは一言。
289(1): ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/20(月)03:09 ID:OXLduBPHo(3/6) AAS
「……そうね、もっともだわ。あなたじゃ、彼のようにはなれない。巴マミにも」
「やっぱり、そう……なのかな」
途切れ途切れにしか言葉が出なかった。
密かにがっかりしている自分に気付く。
ほむらなら肯定してくれるかもと、内心では期待していた。出会ってまだ、たったの数日なのに。
鋼牙もそうだった。結局、彼に都合のいい幻想を抱いて、ショックを受けて。
そして、また繰り返す。
こんな甘えた自分が嫌で堪らなかった。
それでも釈然としない。
超人的な身体能力も、卓越した技も、まして黄金の剣と鎧が欲しい訳でもない。
ただ強靭な意志と、鋼牙やマミがしてくれたみたいに、誰かの手を救い上げる力さえあればいい。
それだけで、自分で自分を誇れる。褒めてあげられる。
なのに、それすらも叶わないのか。分不相応な高望みなのかと。
キュゥべえは強い素質があると言っていたのに。
まどかが納得しきれていないと察したのか、ほむらは静かに言い放つ。
「本当に……あなたは何もわかっていない。何も気付いていないのね」
まどかは何も言い返せなかった。
その声には、呆れにも似た落胆が含まれていたから。
290: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/20(月)03:11 ID:OXLduBPHo(4/6) AAS
言葉を失うまどかに構わず、ほむらは窓の外を眺め、
「もう遅いわ。そろそろ帰りましょう」
鞄を手に立ち上がる。
外はいつしか薄暮に染まり、紫が増していた。
すっかり話し込んでしまったらしい。それほど長く感じなかったのに、
この時間の空は、ほんの十数分で大きく色を変える。
「あ、うん……」
続いてまどかも、いそいそと帰り支度を始める。
その間ずっと、ほむらの言ったことが頭の中をグルグル回っていた。
――私がわかってない……気付いてない?
ほむらちゃんも、冴島さんと同じことを……。
私は、何を間違えてるんだろう――
291: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/20(月)03:12 ID:OXLduBPHo(5/6) AAS
「それじゃあ、私は先生に報告してから行くから。あなたは先に帰っていて」
考えながら廊下まで出ていたまどかはハッとなる。
向き直ると、ほむらは既に一人で職員室の方に歩き出していた。
「あっ、ほむらちゃん――」
思わず呼び止めたものの、言葉が見つからなかった。
これ以上、何を話せばいいのか。伸ばしかけた手が、宛てもなく宙を彷徨う。
ほむらは立ち止り、
「彼の言う通り、人の役に立ちたいならボランティアにでも勤しむのが賢明よ。
あなたには、それが似つかわしい」
振り返らずに言うと、また歩き出した。
遠ざかる後姿。まどかは、拳を固く握って見送るしかなかった。
また重くなる頭が、ズキリと痛んだ。
292: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/20(月)03:14 ID:OXLduBPHo(6/6) AAS
短いですが、ここまで
こういうシーンは悩みますが、
次はもう少しサクサク進められると思います
343(1): ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/05/27(月)02:52 ID:ucO/ckBgo(1) AAS
ちょっと半端なので今日は見送り
もう少し書き溜めて、明日には必ず
345(2): ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/05/28(火)03:16 ID:7gQivhLPo(1/9) AAS
遅くなりました。
元はと言えば自分の発言のせいかもしれませんので、少しだけ。
>>318
牙狼にせよ、まどかにせよ、単独の話題は他に相応しい場所がある為、
そちらを優先してほしいのは確かですが、必ずしも止めてほしいという訳ではありません。
>>228で曖昧な書き方をしたのは窮屈になるのを避ける為であり、
何より注意などでレスが消費されることや、険悪な雰囲気になること、荒れることを避けたかったからです。
ですので、善意からとは思いますが、指摘していただく必要はありません。
言葉が足りずに、申し訳ありませんでした。
ここからは皆様に向けてですが、もし気遣っていただけるなら
SSについて◎ 牙狼とまどかについて〇 それぞれ単独について△ それ以外×
といった具合で、△はそこそこに、それ以外は何であれスルー推奨でお願いできればと思います。
雑談や議論や考察からはネタを拾ったり、誤りを訂正できたりするので、とても助かっています。
このSSは多くの方に支えられてできています。
いつもありがとうございます。今後もご協力いただければ幸いです。
以上、長文失礼しました。
346: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/28(火)03:20 ID:7gQivhLPo(2/9) AAS
まどかが靴に履き替え、校舎を出る頃には、外はすっかり暗くなりかけていた。
風は冷たく、夜の匂い。空は分厚い雲に覆われ、月が陰っている。早く帰らないと一雨くるかもしれない。
もうじき最終下校時刻。夜と言っていい時間だ。こんな遅くまで学校に残るなんて、滅多にない経験だった。
しかも前回までと違って、校内をぐるり見渡しても人の気配はない。
ほとんどの生徒は既に下校しているのだろう。運動部も多くが部活動を終えていた。
文化祭などの特別な行事での居残りは、なんだか胸が弾んだのを思い出す。
いつも見る昼間の学校と同じ場所なのに、違う風景がここにある。
しかし、今のまどかは、とてもじゃないが特別な気分に浸れる心境になかった。
人のいない学校の物寂しさも相まって落ち込んでくる。
ほむらの一言一句が残響のように、ずっと繰り返されている。
何もわかっていない。何も気付いていない。
会ってまだ二日なのに、まるで以前から知っていたかのような口振り。
いくら記憶を辿っても面識はない。ただ、夢の中で言葉を交わした気がするだけ。
「ダメだぁ……やっぱりわかんないや」
首を左右に振り、モヤモヤを振り払う。
あまり考えないようにしよう。でないと、また頭痛が再発しそうだった。
たぶん今は頭を休ませる時なのだ。そう言い訳して、思考を放棄した。
そう言えば、ほむらはどうしただろうか。自分の方が先に出たから、まだ校内にいるのだろうが――。
「どうしよう。待った方がいいのかな……」
先に帰れ。その言葉を、どう解釈すべきか。
勝手に帰宅していいのか。それとも、先に行って待っていてという意味か。
普通に考えるなら前者だ。これまで一緒に帰ったこともない。ほむらの家も知らない。
347: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/28(火)03:23 ID:7gQivhLPo(3/9) AAS
でも、自分の看病で居残ってくれたのだとしたら、さっさと帰るのは申し訳ない気がする。
かと言って、今は一緒に帰るのも居心地が悪かった。
あんなことの後で何を話したらいいのか、どんな顔をして隣を歩けばいいのか。
空気が重くなるのは間違いなかった。
まどかは迷いに迷って、校門へと歩き出す。
滅多にない機会だ。悩んでいても仕方ない。この空気を少し味わうのも悪くないと思った。
ゆっくり向かいながら、ほむらが来れば誘ってみよう。出会わなければ先に帰ろう。
我ながら消極的だと思ったが、決断を保留して成り行きに任せることにした。
足は高めに上げ、一歩を大きく、しかし緩やかに。
後ろ手に鞄を持ったまどかは、気分を切り替えてのんびり歩く。
見滝原中学は、まるで美術の本に出てくる外国の建築物のように豪奢だ。
荘厳な校舎は、夜にはまた違った趣を感じさせた。
――ライトアップとかしたらキレイなんだろうなぁ……。
などと見上げていた時だった。
ニャー、と近くで鳴く声。
見ると、校舎の陰から黒猫が顔を出していた。
「うわぁ〜っ」
歓声をあげたまどかは、満面の笑顔で瞳を輝かせた。
その声に黒猫はビクッと身体を震わせたが、
「大丈夫、怖くないよ〜。ほら、おいでおいで」
まどかが屈んで手を差し伸べると、警戒しながら近寄ってくる。
そして恐る恐る指先に鼻をくっつけてヒクヒクさせる。鼻息がくすぐったい。
348: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/28(火)03:26 ID:7gQivhLPo(4/9) AAS
一しきり匂いを嗅ぐと、やがて自分から身をすり寄せてきた。
こうなると撫でても抵抗されなかった。
「ふふっ。ネコちゃんかわいい〜。それにふわふわ」
黒猫の体格は小さく、まだ幼いようだった。だから警戒心も薄いのかもしれない。
少女らしく可愛いもの好きなまどかは、暫く猫を愛で続けた。
黒猫も一分ほどは大人しく可愛がられていたのだが、不意に身を硬くすると、まどかの手をすり抜ける。
「あれ、嫌われちゃったのかな……」
しかし、まどかを嫌ったのではなく、近くで何らかの気配を感じ取って、逃げた。
そんなふうな印象を受けた。
黒猫はまどかから数メートル離れると、身を低く前足を突っ張る。
牙を剥き、唸る声からも警戒しているのは明らか。
「ねぇ、どうしたの? なんでそんなに――」
黒猫の目線の先にあるのは、体育館の裏口。ちょうど、まどかの位置からは角になっていて見えなかった。
立ち上がって近付いても、黒猫は反応しない。
まどかは黒猫の背後から、角を覗き込み――。
「え……あ……」
言葉を失った。
349: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/28(火)03:28 ID:7gQivhLPo(5/9) AAS
それはあまりに自然に、何をするでもなく、そこにいた。
しかし、周囲の景色からは明らかに浮いた――たとえるなら、画用紙に落とされた一点の黒。
決して世界に溶け込むことのない異物。
形も大きさも猫に近いものの、顔のあるべき位置には、ウニさながらの棘を生やした球体があるのみ。
目も鼻も口もない。描き殴ったような白い輪郭もいびつで、毛も皮も肉も内臓もないのか、内にはただ闇を内包している。
この世の生物とは思えない、その異形が何なのか、まどかには一目でわかった。
「魔女の……使い魔……」
呟くと同時に、ぞわっと総毛立つ。
即座に伸ばした首を引っ込めて、身体を掻き抱く。全身の震えで見つかる気がして、腕に力が入る。
――なんで!
どうして、使い魔がこんなところに!?
どうしよう……どうすれば――
理解した。足下の猫が警戒していたのは、あれだったのだと。
視線が安定しないあたり、見えてはいないのかもしれない。
それでも良くないものが近くにいることを、本能で感じているのだろう。
猫に霊が見えるなんて嘘だと思っていたけれど、今は少し信じる気になった。
マミから聞いた話では、使い魔も人を喰らう。
魔戒騎士や魔法少女にとっては雑魚でも、ただの人間には立派な脅威。見つかれば危険に変わりない。
なのに今、ここにはマミも鋼牙もいなかった。
350: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/28(火)03:32 ID:7gQivhLPo(6/9) AAS
頼れるとしたら、ただ一人。
魔法少女である、暁美ほむら。
まどかは助けを求めて周囲を見回すが、彼女の姿はない。
猫と戯れている間に帰ってしまったのだろうか。
まさか大声を張り上げて呼べるはずもなく、全神経を緊張させたまま、まどかは立ち尽くしていた。
それでも、ここ数日で少しは慣れたのだろうか。こんな状況でも、辛うじて思考を止めずにいられる。
その時だった。
ボールの跳ねる音が体育館から響いたのは。
「――っ!」
声と一緒に心臓が飛び出そうになり、まどかは慌てて口を塞ぐ。
体育館には煌々と明かり。小窓からそっと中を窺うと、
ジャージ姿の女子が一人、バスケットボールを抱えて運んでいた。
おそらく部員が自主練に残り、そろそろ切り上げるところか。
――お願い! どうか見つからないで……!
"あの娘が"が狙われませんように――
自分よりも、今は彼女が心配だった。彼女は何も知らない。危機に気付くことすらできないのだから。
まどかは祈りながら、再び角から顔を覗かせる。
だが、まどかの願いとは裏腹に、使い魔はのそのそと体育館に向かっていた。
――ダメ! 行かないで!
不意に使い魔が足を止めた。が、まどかの願いが通じた訳ではない。
351: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/28(火)03:35 ID:7gQivhLPo(7/9) AAS
使い魔は、館内から漏れた光で照らされている範囲に立ち入ろうとはしなかった。
おそらく光を嫌う性質を持っているのだろう。
ホッと一息ついたが、危機は去っていない。
体育館の電気が消されるか、彼女が明かりのない場所に移動するか。
彼女がやらなくても、他の誰かが消すとしたら同じことだ。必ず犠牲が出る。
遅かれ早かれ、使い魔は動く。遅くても数分以内には、早ければ一分と待たず。
もう一度、周囲を見回して、ほむらを探す。
やはり彼女の姿はない。
既に日は沈み、視界は狭くなっている。
ところどころに電灯はあるが、首を振っただけで見つけられるとは思えない。
これから夜が更けるにつれ、闇も深まる。
あれが自由に行動できるようになるのは、もはや時間の問題だった。
先刻、ほむらに言い返せなかった悔しさから握った拳。
それを今は別の意味で、より固く、強く、握り締める。
迅速かつ静かに、この場を離れ、ほむらを探す。
それが考え得る限りで最善の手段。
352: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/28(火)03:38 ID:7gQivhLPo(8/9) AAS
しかし、
――でも、そんなの絶対に間に合わない……。
私が……やらなきゃ!――
心の中で声がした。
声に従い、身体が動く。
まどかは足下の小石を掴み――使い魔目掛けて投げた。
何故そんなことをしたのか、まどか自身にも理解できなかった。
ただ、勇気なんて呼べるほど崇高な感情じゃない。
もっと脆く、あやふやな、得体の知れない衝動に駆られていた。
小石は頼りない放物線を描いて、目標の手前でカツンと地に落ちる。
使い魔は不気味に首を捻じ曲げ、まどかの方を向いた。
その顔には、やはり目も鼻も存在しないが、まどかは直感で悟った。
自分が、獲物として捉えられたことを。
353: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/28(火)03:42 ID:7gQivhLPo(9/9) AAS
ここまで
次も日曜に間に合えば
今回はわかりにくいかもしれません
見滝原中学は普通の中学校じゃないので
どう書いていいか、よくわからなかったり
366: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/06/10(月)02:04 ID:j2Al/keCo(1) AAS
なんやかんやあって遅れています
うまくいけば明日にでも投下できると思うのですが
もうしわけありません
367: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/06/16(日)23:56 ID:dIMx0AmUo(1) AAS
小石を投げてすぐ、まどかは踵を返して駆け出した。一目散に。脱兎の如く。
とにかく全力で走る。重くて邪魔な鞄はすぐに放り捨てた。
振り向くと、使い魔もまた走り出していた。
走りは見た目と同じくネコ科のそれに近いのだが、関節が存在しないのか、四肢は前後左右、自在に動いた。
かなり不気味だったが、鈍足のまどかよりも遅いのが、せめてもの救いだった。
狙い通りに使い魔の注意はこちらに向き、狙い通りに追ってきている。
館内の少女は何も知らずに片付けを続け、黒猫もどこかへ逃げた。
人ひとりの命が救われた。これでよかったんだ。後悔はしていない。
そう思おうとしたが――。
無理だった。
後悔ならしている。投げた瞬間に。
そして今も。何故、あんな馬鹿なことを、と。
だが、半分。もう半分は、これしかなかったという自己弁護。
それに、まどかに後悔している暇はなかった。
今は、これからどうするかが最優先事項だ。
落ち着いて考えられる精神状態ではなかったが、それでも。
絶対に思考を放棄してはならない。考えなければ、待っているのは絶対の死。
故に、走りながら必死に知恵を絞る。
マミは今頃、約束の店に着いているだろうか。それとも、まだ向かっているだろうか。
アドレスを交換していないので、さやかを介して連絡がついたところで戻るまで数十分かかる。
鋼牙に至っては、どこにいるのか見当もつかない。
368: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/06/17(月)00:03 ID:batJAy8lo(1/11) AAS
やはり、頼れるとしたら、ほむらしかいない。
自ら進んで危機に陥っておきながら、都合良く頼る自分を、彼女は厳しく非難するだろう。
軽蔑されても、罵られても文句は言えない。本当に、心から申し訳ないと思う。
それでも助けを求めれば無碍にはしないはず。
まどか自身にも、そんな卑怯な打算が胸の奥に潜んでいる可能性を否定しきれなかった。
――ごめんね、ほむらちゃん……。
でも、お願い。今だけは……――
頭を振り、自責の念を振り切って、次の段階に進む。その間も、決して足は止めない。
では、ほむらに縋るにはどうすればいいか。
思い返してみると、自分は校門への最短ルートからは外れていない。
黒猫との戯れにしたって、そんなには移動していないし、誰か後ろを通れば気付いたと思う。
つまり、ほむらはまだ校門の外には出ていない。裏門などから出ていない限りは。
なるべくルートを外れないように走りながら、ほむらを見つけられればよし。
もしかしたらもしかして、使い魔を撒けるかもしれない。
確実どころか高いとも言えない可能性だが、まどかには賭けるより他になかった。
職員室にでも逃げ込むという手もあるが、これは最後の手段。
使い魔が諦めなければ、無関係な他人が多く巻き込まれる。諦めたとしても、代わりに誰かが犠牲になる。
それは絶対に避けたかった。
まどかは真っ直ぐには走らず、蛇行したり、かと思えば真横に走ったりした。
使い魔から距離を取るには非効率だが、これには理由がある。
ひとつは校舎内に入らない為。
明かりが消えていたり、施錠されている扉もある校内よりは、外の方がまだ走りやすい。
369: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/06/17(月)00:09 ID:batJAy8lo(2/11) AAS
そして、もうひとつ。
僅かでも明るい場所を選んでいたからだった。
月は陰っているとはいえ、まだ仄かな光は差しているし、ところどころ電灯も設置されている。
電灯の下を潜った時、疑惑は確信に変わった。
――あの使い魔……やっぱり光が嫌いなんだ。
光の近くでは動きが遅くなってる。
私なんかに追い付けないのも、月光や学校の光で鈍くなってるのかも――
これからは暗くなる一方だ。
すなわち、この月がまどかの生命線。
月が完全に雲に隠れてしまわないよう、神に祈りたい気分だった。
それから数分、校舎を三周はしただろうか。
まどかの体力は限界に近づいていた。
最初のうちは足を溜め、呼吸を整える余裕もあったが、月は祈りを裏切るかのように、雲間に隠れてしまった。
使い魔の動きが、にわかに機敏になる。
もはやなりふり構っていられず、全力疾走でやっと距離を保てる程度。
「はぁ……はぁ……」
足が、胸が、脇腹が痛い。息が苦しい。マラソンでも、ここまで苦しくなかった。
それでも走りを止められない。ペースを落とすことさえ、死に繋がる。
霞みがかった視界。それが突然に揺れて地面が迫り、
「あぅっ!」
まどかは転倒した。
370: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/06/17(月)00:14 ID:batJAy8lo(3/11) AAS
ただでさえ足下が暗いところに、前と上ばかりに注意がいって、ちょっとした段差に気付けなかった。
結果、つまずき、地面を滑った。
終わった。もう逃げられない。自分はここで死ぬ。
弱気な考えが脳裏を過ぎる。
しかし――。
次の瞬間には、まどかは豪然と身を起こしていた。
ついた両手を掻くように後ろに払い、同時に両足で地面を思いっきり蹴る。
完全に立ち上がるのももどかしく、低い姿勢からクラウチングスタートに近い形で、再び走り出した。
倒れていた時間は三秒にも満たなかっただろう。
走りながら状態を確かめる。
左足首に違和感がある。右の膝が擦りむけて痛い。手のひらには血が滲んでいた。
――でも……まだ行ける。走れる!
にもかかわらず、目の輝きは未だ失われていない。
一昨日のさやかの怪我に比べれば、全然軽い。この程度でへこたれていては、さやかに笑われる。
そうやって精一杯、己を鼓舞する。
これまでは、マミや鋼牙の背中に隠れていれば、彼らがなんとかしてくれた。
今は違う。
助けを求めるのは同じでも、そこまでは自らの力だけで生き残らなければ。
生への渇望が、死の恐怖が、まどかを衝き動かしていた。
倒れていた分の距離は詰められたが、走り出してからの差は縮まっていない。
変わらない速度を保てている証拠だ。
371: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/06/17(月)00:20 ID:batJAy8lo(4/11) AAS
既に残り少ない体力もほぼ使い果たし、気力で足を動かしている状態。
それでも、まどかは希望を捨てていなかった。
自分が、自分で思うよりも強かったこと。少しだけ自信を持てる、勇気が湧いてくる気がした。
もう少し走れば、また電灯の下に出られる。
光と、僅かな安心。そして今度こそという希望を求めて、角を曲がった先。
そこには、厚く高い壁が立ちはだかっていた。
「え……」
サァッ――と、まどかの表情から血の気が引いていく。
火照った身体と汗が一瞬にして冷える気がした。
「嘘……なんで……!?」
右も左も、通り抜ける隙間などない完全な行き止まり。
目で見たものが信じられず、ぺたぺた手で触れて確かめる。紛れもなく本物の壁だ。
これは結界の中なのか。それとも使い魔の幻覚か。いや、そのどれでもない。
導き出されるのは、ごく単純な結論。
道を、間違えた。
ありふれた、普段なら他愛のない失敗。
だが、絶え間なく判断を迫られ、ひとつひとつの選択が生死を分ける現状では致命的だ。最悪と言っていい。
同じ場所でも、昼と夜では景色が異なる。
慣れ親しんだつもりでも、曲がる場所を一本間違えるくらいはある。
加えて、転んだことの焦りと、体勢が変わったことにより、道を誤った。
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