[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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241: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/21(月)02:28 ID:OuKAohIbo(2/8) AAS
 そこから続いているのは、細い小道。
十分は確実に縮まる絶好のショートカットコースだが、街灯もひとつかふたつしかない。
何となく気味が悪くて、昼間でも避けて通りがちだった。

 まして昨日の今日である。街灯の下を歩くのでさえ一人では怖いのに、裏道なんて考えただけで足が竦む。
さやかほどでなくても、暗闇を身体が拒否しているよう。
闇に潜む魔女や魔獣が、口を開けて手招いている気すらした。

 だが、まどかは立ち止り、向きを変える。そして闇をじっと睨み、ゴクリ、と唾を呑み下した。
 夜も裏道も怖いが、叱られるのはもっと怖いし、心配を掛けるのは申し訳ないという思いが勝った。

「……よしっ」 

 拳を握り、ありったけの勇気を振り絞る。
 大丈夫、何も出る訳がない。夜に通ったことも何度かある。怖いと思うから怖いんだ。
 そう自分に言い聞かせて。

 まどかは一歩を踏み出し――続けて二歩、三歩と交互に足を前に出す。
 ピッチは徐々に速まり、数秒と経たず全力疾走に変わった。
 息を切らせて、それでも足は止めず、前もろくに見ず、頭の中を空っぽにして駆け抜ける。
そうでもしないと、恐怖に呑まれて一歩も動けなくなりそうだった。

 だが、走り出して数分後、周囲に神経を巡らすあまり鋭敏になった聴覚は、無意識に風以外の物音を拾った。

「ひっ!?」

 まどかは短い悲鳴を上げて立ち止った。それは道端から。軽い金属音だったように思えたが、はっきりとはわからなかった。
242: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/21(月)02:30 ID:OuKAohIbo(3/8) AAS
「何の音……誰かいるの……?」

 答えは返らない。
 それでも感じる確かな気配と息遣い、薄らと輪郭が見えるような見えないような。
何者かと対峙しているのは間違いなかった。
 
――まさかホラーか魔女……!?

 想像した途端、全身が戦慄く。まどか自身が、際限なく膨らむ魔物のイメージを闇の中に創り出す。
 逃げようにも足が動いてくれない。前にも後ろにも進めず、声を出すことも忘れていた。
 無力な女子中学生を金縛りにするのに、魔女も魔獣も必要ない。
 ただ闇と少女自身の想像力があれば。

 辛うじて、震える足がアスファルトを踏み鳴らした瞬間――。

 ニャーッと、間延びした鳴き声。
 まどかが目を凝らすと、

「なぁんだ……猫かぁ」

 黒猫がまどかをじっと警戒していた。どうやら野良猫が空き缶を転がしただけらしい。
 まどかは、ほっと安堵の息を自嘲も込めてついた。幽霊の正体見たり何とやら、である。
 が、安心したのも束の間。

「――っっ……!?」

 迫る足音を聞き取り、息が止まった。
 今度は断じて犬や猫ではない。ふたつの足が地面を踏む音。
 再び、まどかの全身を震えが襲った。
243: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/21(月)02:34 ID:OuKAohIbo(4/8) AAS
 ホラーだろうか。それとも魔女?
 人間同様に二足歩行する魔女がいないと言い切れるほど、まどかは魔女を知らない。
或いはもっと現実的な恐怖、不良や変質者かもしれない。既に普通の通行人という可能性は、頭から消え去っていた。

 隠れる場所もなく、頼れるのは後方にある街灯のか細い明りのみ。欠け始めた月も、今は雲に隠れて光は届かない。
 思考を恐怖で塗り潰されながらも、まどかはどうにか覚束ない足取りで後退る。
その間も、足音から一瞬たりとも目を離さない。

 まるで熊か何かから逃げてでもいるかのよう。
 だが最悪の場合なら、向かってきているのは獣よりも遥かに恐ろしい怪物だ。
 視線を外したり、しゃがみ込んでしまえば、待つのは絶対の死。生存への一縷の希望が冷静さを保たせていた。 

 もう少しで街灯という辺りで、足音が加速した。後退を悟られたのだ。
 つまり、まどかの存在に気付いている。
 背筋を悪寒が駆け上がった。
 ならばこちらもと急いで離れようとしたが、足が縺れて転んでしまう。

「ひゃっ――」

――もう駄目!
 
 終わりかと絶望しかけるまどかに足音は更に近付き、その姿が明かりに照らされ出した。
244: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/21(月)02:37 ID:OuKAohIbo(5/8) AAS
「ここで何をしている」

 声の相手は白いロングコートの男。
 魔女や魔獣とは対極に位置する存在。
 夕方に別れたばかりの魔戒騎士、冴島鋼牙だった。

「ふぇっ…………はぁあ〜〜」

 まどかは無様に尻餅をついたままにも拘らず、深々と息を吐き出した。
極度の緊張と、そこからの急激な解放で、完全に脱力してしまった。
 胸を押さえて深呼吸を繰り返し、暫くして立ちあがろうとするが、

「あ、あれ?」

 腰が抜けて立てない。
 それどころか、腕までもガクガクで力が入らない。 
 まどかが戸惑っていると、目の前に手が差し出された。

「立てるか?」

「あ、すみません……」

 広がっていたスカートの裾を押さえ、真赤に恥じらいながら手を取るまどか。
小柄な少女とはいえ、鋼牙はいとも容易く引き上げた。
 立ちあがったまどかは制服の汚れを払うと、改めて頭を下げる。

「あの、ありがとうございました」
245: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/21(月)02:41 ID:OuKAohIbo(6/8) AAS
「何を考えている。言ったはずだ、夜は危険だと。今の街はなおさらだ」

 にこやかに笑うまどかだったが、返ってきたのは厳しい言葉だった。
 険しい視線と表情で、静かだが重い声で叱責された。
 魔の存在への恐怖からは解放されたが、その分、別に恐れていた大人からの説教が増えてしまった。
無論、命の危機とは比べ物にならないが。

「はい、ごめんなさい……」

 しょんぼりと項垂れるまどか。
 一言も言い返せるはずがない。数時間前にホラーや魔女は夜、人気のない場所に注意しろと言われたばかり。
それを無視したのだから自業自得だった。
しかも鋼牙の纏う厳格な雰囲気は、学校の怖い教師を思い起こさせて、萎縮してしまうのだ。

『そうでなくても、子供が夜に一人で歩くには不用心な道だな』

「その……早く帰らなきゃと思ってつい近道を……」
246: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/21(月)02:42 ID:OuKAohIbo(7/8) AAS
 鋼牙とザルバの言は至極もっともで、釈明の声も尻すぼみになる。
 遂には沈黙する鋼牙の仏頂面に耐えかねて、

「本当にすみませんでした……。これからはちゃんと気を付けます」

 告げるなり一礼して背を向ける。そして、とぼとぼと歩き出した。

「どこへ行く気だ」

「いえ、大通りに戻ろうかと……」

 と言っても、道も半ば過ぎ。帰るのも行くのも大差ないのだが。
 家に帰るのは更に遅くなりそうだが、鋼牙に叱られた手前、仕方がなかった。
 すると鋼牙もまどかに背を向け、首だけ振り返り一言。

「急いでいるんだろう。送っていく、ついてこい」

 最初は何を言っているのかわからなかった。
 やがて理解が追い付くにつれ、まどかの顔はパァッと明るくなっていき――。

「え……あ、はい!」

 歩を進める鋼牙の斜め後ろに駆け寄った。
247: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/21(月)02:59 ID:OuKAohIbo(8/8) AAS
このパートも今日最後まで行きたかったのですが、間に合いませんでした
プレデターさえなければ……残念ながら明日か明後日に
もう少しで二話も終わりの予定です

いつも貴重なご意見ありがとうございます
この作品でのマミのキャラに不満を感じる方には申し訳ありません
こんなことを言うのもおこがましいですが、できるなら長い目でいただたければ色々な意味で助かります
今後も不快にさせることは多々あると思いますが、それでもよければ御覧ください

>>237-239
流れを切ってしまい、すみません
他キャラのverも考えると、いくらでも出てきて面白いです
258: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/05/24(木)02:52 ID:iy8+U+rDo(1) AAS
もう少しかかりそうです
ちょっと大事なところなので、なかなか"らしさ"が出せず
259: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)02:52 ID:JqNzRaySo(1/9) AAS
 まどかは鋼牙と連れ立って夜道を歩く。
 一歩引いて鋼牙の横に並ぶまどかは、時折チラチラと彼を窺っていた。
 精悍な横顔は前だけを見据え、眼は微動だにしない。

 それでいてまどかの様子も的確に把握しているらしく、まどかの早歩きに歩幅を揃えている。
疲れて少し歩調を緩めると、合わせてもくれた。
 見た目ではわかりにくいが、彼が優しく、信用の置ける人物であることは改めて実感できた。
 故に魔物に対する不安や恐怖は、もう欠片も残っていない。何せ最強の存在が傍にいるのだから。

 しかし今、まどかの表情には不安が浮かんでいる。
 彼の隠れた優しさは素直に嬉しいのだが、気難しい性格にまどかは戸惑っていた。
 静寂の夜道を歩く間、二人は一言も口を利いていないのだ。
 
 鋼牙はおそらく沈黙を重苦しいと感じておらず、無駄な会話も必要としないだろう。
そんな彼と何を話せばいいのやら。
 平然と歩く鋼牙の横で、まどかは内心悶々としていた。

――世間話……なんて駄目だよね、全然続く気がしないもん。
じゃあ、ホラーのこととか……。でも何を訊いていいのかわからないし、
知っちゃいけないかもしれないし……。
何か……あぁっ、思いつかないよ急に〜!――

 そもそも大人の男なんて父親や教師以外に馴染みがないまどかである。
まして相手はテレビから出てきたみたいなヒーロー。一般人とは違う、ともかく凄い人間という認識。
 雑談が成り立つはずもない。まどかにとって鋼牙は未知の生物に等しかった。
 考え過ぎて目が回りそうになっていると、

「どうかしたのか?」

 鋼牙が振り向いた。
 どうやら、頭を振って悩んでいるところを不審がられたものと思われる。
260: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)02:55 ID:JqNzRaySo(2/9) AAS
 何を話せばいいか迷っていた、などと本人を前にして言えるはずもない。

「い、いえ! 何でもないです!」

 また首を振って、慌てて否定した。
 ますます不審さが増して、鋼牙は訝しげに視線を合わせてくる。
それが更にまどかを混乱させるとも知らずに。
 そして遂には涙目になって頭を下げてしまう。

「あの、ごめんなさい……」

「何を謝る?」

「私、緊張しちゃって……。パパ以外の男の人と二人で歩くなんて初めてで、
何を話したらいいかわからなくって……」

 しどろもどろになり、消え入りそうな声で俯く。
聞こえたかどうかもさだかでなかったが、鋼牙は正面に視線を戻し言った。

「無理に話す必要はない」

 端的だが、どこか穏やかな色も含んだ声音。
自分を励まし、慰めようとしてくれているのが、まどかにも理解できた。
 だがその励ましが、慰めが、より彼との違いを浮き彫りにする。

 切っ掛けは、ほんの些細なこと。だが自分は満足に受け答えもできなかった。
それが恥ずかしくて、情けなくて、まどかの気持ちは沈んでいく。
261: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)02:57 ID:JqNzRaySo(3/9) AAS
 無理に話す必要はない。そんなことはわかっている。
 わかっていてもできない。
 すぐに実行できることでも、なかなか勇気が持てない。 

――はぁ……どうしてこうなっちゃうんだろう……。
臆病で、弱虫で、自信が持てなくて。
迷って、振り返って、立ち止まって。
私、そんな自分が大嫌い……。

 もし私も冴島さんみたいに、マミさんみたいに輝けたなら。 
先の見えない暗闇でも、迷わず前だけを向いて歩けるんじゃないかって思えるのに……。

 でも、どうすればいいんだろう。この人なら、その答えを持ってるのかな……。
 訊いてみたい。どうしても知りたい。
 今なら訊ける。うぅん、今を逃したらもうチャンスはないかもしれない。
 だから私は――

 まどかは胸に当てた拳をキュッと握り、鋼牙を見つめる。
そして、なけなしの勇気を込めて質問をぶつけた。

「あの……訊いていいですか? どうやったら、冴島さんみたいに強くなれるんですか?」

「……強くなりたいのか?」

 突然の質問に流石の鋼牙も戸惑ったのか怪訝な顔で訊き返すが、急ぐまどかへの配慮か、足は止めなかった。
 まどかは肯定も否定もせず、鋼牙の横を歩きながら話を続ける。
262: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:00 ID:JqNzRaySo(4/9) AAS
「私って、昔から何の取り柄もなくて……これから先ずっと、誰かの役に立つこともないまま、
人に迷惑ばかりかけていくのかなって、そう思ったら凄く嫌で……」

 鋼牙は何も言わなかった。じっと黙して続きを待っている。
 取り留めのない想いを、ゆっくりと言葉に変換して紡ぐ為の時間。そう考えたら沈黙も悪くない気がした。

「ずっと考えていたんです、昨日のこと、今日のこと……。
私を助けてくれた二人は眩しかったんです。それでキュゥべえに素質があるって言われて、
同じことが私にもできるなら、私やさやかちゃんを助けてくれたみたいに誰かを守れたなら。
きっと、これ以上嬉しいことはないだろうなって……」

「だが――」

「命懸けだってことはわかってます! 今日の戦いも、とっても怖かった。でも、私……」

 だとしても憧れは止めらない。
 それで望む自分に成れるのなら。
未だ迷いは晴れないが、その為なら戦いを受け入れてもいいとすら思い始めていた。

 甘いと怒られるだろうか。現実を知らないと笑われるだろうか。
いや、彼なら認めてくれそうな気がする。
 確かな根拠がある訳じゃない。ただ、彼の寡黙な優しさを昨日も今日も見てきたから。
きっと真摯に受け止めてくれて、何かアドバイスをくれると思った。

「あっ、その、まだ決めた訳じゃないんですけど……願い事だって決まってないし……。
ただ私もマミさんや冴島さんみたいに誰かの助けになれたら、
黄金騎士みたいにかっこよくなれたら、輝けたなら……それくらいなんです、私の願いなんて。
強くなりたいって言うより、胸を張って誇れる自分になりたいって言うか。
だからキュゥべえと契約して魔法少女になることで叶えられるなら、私も……」
263: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:01 ID:JqNzRaySo(5/9) AAS
――絶望に暮れる人に希望を示せる、そんなあなたや彼女に少しでも近付ける。

 はにかんで頬を赤らめるまどか。
しかし、照れを誤魔化すような笑顔を向けられた鋼牙が彼女に応えることはない。
目を閉じ、何事か思案している様子。
 まどかが緊張しながら待つと、やがて鋼牙が目と口を開く。

「……無理だな」

 と一言。
 たった一言で、まどかの笑顔が凍りついた。

「え……?」

 まどかが発したのも、言葉にもならぬ掠れた疑問符のみ。
 それきり、いくら待っても続く答えは返らない。

「……それって、どういう意味ですか? 
やっぱり私なんかじゃできっこないってことなんですか……?
私、女だし、体も小さいし、運動も全然できないです……。
とても冴島さんみたいには戦えない、でも……!」

 魔法少女になれば変われるかもしれない。
 そう思っていたのに。

 まどかは歩みを止めない鋼牙に追い縋りながら震えた声で捲し立てるが、仕舞いには言葉を詰まらせてしまう。
 それでも問うと、ようやく鋼牙の顔がまどかに向いた。
264: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:03 ID:JqNzRaySo(6/9) AAS
「女は騎士にはなれん。だが、それ以前の問題だ」

「それ以前の……?」

 訊き返すも、やはり答えは返らない。これ以上はない、ということだろうか。
 まどかには鋼牙の言わんとしていることが、まるで理解できなかった。
そもそも端的過ぎて、正しく相手に伝える意思があるのかも怪しい。
 しかし何とか理解しようと首を捻っていると、鋼牙の足が止まった。

「誰かの役に立ちたいと言ったな」

「は、はい……」

 唐突に質問で返され、戸惑いがちに頷く。
 そして――。

「なら道のゴミ拾いか家の手伝いでもしていろ。今日からでもできる」

 ぞんざいに言い捨てられた言葉に、まどかは耳を疑った。
 後頭部を殴られたような、自分でも信じられないほどのショックに襲われた。
 初めて自覚した。自分が彼の優しさを誤解していたと。

「そんな……私、真剣に相談したのに……」

 助けたのはそれが魔戒騎士の使命だから。送ってくれるのも、その延長。人生相談に付き合う義理などない。
 だから、こんな子供の悩みなど、所詮ちっぽけなものだと思われたのだろうか。だから軽くあしらってもいい、と。
 そんなふうに考えたくないのに考えてしまう。
265: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:05 ID:JqNzRaySo(7/9) AAS
「俺も本気で答えた」

 彼はそう言うが、では他にどんな意味があるというのか。 
 まどかは訳もわからず混乱していた。頭の中はグシャグシャで、堰を切った感情が溢れて整理がつかない。

「酷い……っ」

 言ってしまった直後、あっ――と思わず口をついて出た言葉に驚き、まどかは押し黙る。
 それでも鋼牙は足も止めず、表情ひとつ変えない。
 自分では何をしようが彼を揺らせない、影響を与えられないのだと思い知って、また切なくなる。
 もう彼の隣にはいられなかった。

 気付けば裏道も終わり、また明るい住宅街に出ていた。家までは2,3分といったところか。
 まどかは鋼牙の前に勢い良く走り出る。

「近くなのでここからは一人でも帰れます、ありがとう……ございました……っ」

 顔を見られないようにお辞儀をするなり、反転して駆け出す。
 ずっと堪えているつもりだったが、振り返り際、潤んだ瞳から涙の滴が飛んだ。
 きっと鋼牙にも見られただろう。

 だというのに。
 やはり背後からは声も足音も聞こえてこなかった。
 何故だかわからないけど、それが無性に悔しくて悲しかった。
 それからまどかは休まず、振り返らず、家路を急いだ。

「ただいまっ――!」

 玄関を開け放つと素早く靴を脱ぎ、なおも走る。
266: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:07 ID:JqNzRaySo(8/9) AAS
「おかえり、まどか。心配――」

「まどか! こんな時間まで何……を……」

 この時ばかりは父と母の声も耳に届かなかった。
 床をドタドタ踏み鳴らし、階段を駆け上がる。
自室で鞄を投げ捨て、ベッドに身体ごと飛び込むと、やっと動きを止めた。

 枕に顔を埋めて洟を啜るまどかは、少しだけ冷静になり、鋼牙とのやり取りを思い出す。

――優しさを誤解していた。
 でも、それは冴島さんのせいじゃない。
 勝手に甘えて、期待を抱いて、何でも受け止めてくれるって心のどこかで思い込んでた。
 それで勝手に幻滅して馬鹿みたいだよぉ……――

 これから鋼牙の言葉の意味を考えてみようと思う。しかし鋼牙が何を伝えたかったのか、何を望んでいたのか。
そして、それを受けて自分がどうしたいのか、いつか確かな答えが出せるのだろうか。

――こんな私が、キュゥべえに煽てられたからって、
ちょっと力を得たくらいで冴島さんに並べるなんて、自惚れだったのかな――

 変わらない。
 何も変わらない。
 まだ暗闇を彷徨っているような気分。
 なのに闇に光を与えてくれるはずの黄金騎士の助けは期待できなかった。

「私、どうすればいいの……」
267: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:10 ID:JqNzRaySo(9/9) AAS
ここまで。次も間に合えば日曜深夜に
多くてもあと二回で2話を終わらせたいです

たくさんのコメント、いつもありがとうございます
でも、自分が優しいかどうかはよくわかりません
では今回の鋼牙は優しかったのかどうか

短いのに、これまでで一番苦戦した気がします
こんなのでいいのか、かなり悩みましたが、説明は作中で追々
286: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/06/04(月)02:46 ID:LfLT9Ckwo(1) AAS
いつものことですが、もう少し時間を頂きたいと思います
ニコ生は観ました。本編も配信してくれたら嬉しい
公開までにはもっと進めたいですが……

>>249
前回見落としていて申し訳ありません
まどポは未プレイです。やってみたいとは思うのですが、時間の問題と、変に影響を受けそうなので

>>274
パロロワで書いた経験はありません
ジャンル的には、ちょっと苦手な感じです
でも大勢のキャラの動かし方も、複数人でリレーするのも、凄いとは思います。とても出来る気がしません
290: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:25 ID:tOv9yjbAo(1/9) AAS
 
 夜の病院、廊下を歩く。
 病院特有の臭いと混じって、夕食の匂いが漂ってくる。
もうそんな時間かと時計を見ると、もう面会時間はギリギリ。

 病院食には食欲をそそられないけれど、空きっ腹に食事の匂いは辛い。
 もしかして彼も食事中だろうかと不安を覚えつつも、
それならそれで片手は不便だろうと食事を手伝ってあげるのも有りだろうか。
 
「ご飯を取って口に運んで、あ〜ん……って何を妄想してるんだ、あたしは……」

 さやかは緩んで火照った頬を、ぴしゃりと叩いて引き締める。
 途中トイレで身嗜みと髪型を軽く確かめてから、彼の個室の前に立つ。
 高鳴る胸を押さえ深呼吸。笑顔を作ってドアを叩く。

「恭介、あたしだけど……」

「どうぞ」

 遠慮がちに尋ねると、答えはすぐに返ってきた。
 ドアを開くと、ベッドに彼が座っていた。真っ白の患者衣を着た灰色の髪の少年。
さやかの幼馴染の少年、上条恭介が笑顔で歓迎してくれた。

「いらっしゃい、さやか」

「ごっめーん、遅くなっちゃった。ひょっとして、これから晩ご飯? 迷惑じゃない?」

「いや、さっき食べたところだよ」

「そっか、よかった」
291: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:27 ID:tOv9yjbAo(2/9) AAS
 そう聞いて、さやかは胸を撫で下ろした。
 食事を手伝えなかったのは残念だが、邪魔にならなかっただけで良しとしよう。
普段は家族の来る時間と被らないようにとか、訪ねる時間にも気を使っているのだが、今日はそんな余裕もなかった。
理由は勿論、魔女と魔法少女、ホラーと魔戒騎士の説明会。そして魔女退治の見学と、その後始末である。

「昨日も結局来れなかったし、今日もだったら悪いからさ」

 さやかは手近なイスに腰掛けながら言った。
 ほぼ毎日見舞いに来ているさやかだったが、昨日は来れず仕舞い、今日は滑り込みと、
恭介を後回しにしているようで、なんとなく気に病んでいた。

「別に毎日のようにお見舞いに来てくれなくてもいいんだよ? さやかだって大変だろ?」

「いいのいいの、来たくて来てるんだから。暇潰しの話し相手くらいにはなるでしょ?
それとも、あたしじゃ不満?」

 少しの謙遜と照れ隠しを込めて探りを入れてみたつもり。彼が自分をどう思っているのか知りたかった。
 少なくとも、さやかは彼に幼馴染以上の感情を抱いている。たぶん、物心ついた頃から、ずっと。
 すると恭介は、にこやかに言い放つのだ。

「暇潰しなんてとんでもない。いつも来てくれてありがとう、凄く嬉しいよ」

 その優しい微笑みに、さやかは頬が熱くなるのを抑えられなかった。
 指で頬を掻きながら、笑って誤魔化す。

「あはは……そうストレートに言われると照れるなぁ」

 恭介の顔を直視できなかった。顔を背けるしかなった。
きっと今、自分の顔はこの上なく赤く染まっているだろうから。
 しかし、喜びに浸っていられたのも束の間。
292: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:29 ID:tOv9yjbAo(3/9) AAS
 直後、さやかは密かに肩を落とした。
 長い付き合い故に知っている。彼は、この手の台詞をごく自然に、しれっと言ってのけるのだ。
 つまり、深い意味はない。

 いつからだろう。そんな言葉に期待してしまうようになったのは。
 その真実に気付いて落胆するようになったのは。
 彼の言葉や仕草に一喜一憂し、その度に馬鹿だと呆れる。
 だが、さやかは慣れているだけあって立ち直りも早かった。軽い溜息ひとつで気分を切り替える。

「あんまり時間もないから手短に。はい、これ。恭介が前に言ってたやつね」

 鞄から一枚のCDを取り出すと、ベッドの上に置いた。クラシックのアルバムである。
本当は他にもあったのだが、昨日は結局買いそびれてしまったので、これ一枚だ。

「うわぁ、ありがとう。これ聴きたかったんだよ」

 喜ぶ恭介をさやかは見ていた。
 湧き上がる気持ちの正体は、自分でもはっきりしない。
ただ、誇らしく微笑ましいような、それでいて悔しくもあり切なくもあるような――清濁混じり合った感情。
 確かなことは、恭介が嬉々としてCDを開く様は、さやかが訪ねてきた時よりも遥かに嬉しそうだった。
 
「じゃあ、帰るね」

 それを悟られまいと、さやかは立ち上がり、早々に帰ろうとするが、

「あ、待ってよ。せっかくだから少しだけ話していかないか?」

 呼び止められて振り向いた顔は微かに笑っていた。
 自分自身、本心では引き止められたかったことを否定できない。
 軽い足取りでイスに座り直す。
293: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:33 ID:tOv9yjbAo(4/9) AAS
「もう、しょうがないな。いいよ、なに?」

「学校とか、最近どうかなって。何か変わったことはあった?」

 変わったこと――そう問われて思い出すのは、何と言っても昨日と今日の出来事。
 信じてきた常識や世界を根底から覆され、自分も関わっていると言われた。
これ以上に変わったことなど、これまでのさやかの人生になかった。

「ん、と……そうだ! 昨日うちのクラスに転校生が来たよ」

「へぇ、どんな人? 男子? 女子?」

 興味を示す恭介に――自分で言っておいて何だが――さやかは渋面を表した。
 さやかにとってほむらは憎き敵であったし、恭介が彼女に興味を示すのも気に食わない。
しかし、本人のいない場所で他人を悪し様に罵る自分を彼はどう思うだろうか。
 さやかは迷った挙句、

「う〜ん……まぁ、女子だよ。運動も勉強もできるし、美人だけど、
あたしはあんまり好きじゃないかな。クールで他人を寄せ付けない感じでさ」

 ふぅん、と恭介は頷き、それ以上の詮索はしなかった。
 彼女にはまだ重大な秘密が隠されているのだが、言えるはずもない。
信じてもらえるとも思えないし、魔法少女としての彼女に興味がなかった。
彼女がどんな魔法少女であろうと、最早ほむらに対する印象は断固として揺るがない。

「それともう一人、ひょんなことから三年の巴マミさんって先輩とも知り合ったんだよ。
すっごい美人で大人っぽい人なんだけど……知ってる?」

「いや、知らないなぁ」

 さやかはマミの評価にも嘘を交えなかった。
 よくよく考えれば、もしこれで恭介がマミに興味を抱いたら。
女として数段格上のマミにさやかは太刀打ちできないのだが――どうにも、それが彼女の生来の性格だった。
294: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:35 ID:tOv9yjbAo(5/9) AAS
「あ、それから――」

 言いかけて、さやかは口を噤んだ。
 朝に目を釘付けにされ、夜に劇的な再会を果たし、最も鮮烈な印象をさやかに焼き付けた男性。
 魔戒騎士、冴島鋼牙。

「それから?」

「それから、え〜っと……何だっけ。忘れちゃった……」

 言えるものなら言いたい。
彼について知っている事実は少ないが、ホラーのこと、黄金騎士のこと、優に一時間は語れそうな気がする。
 だが、そうなれば事情を話さざるを得なくなる。彼は裏の世界の人間、情報の拡散を喜ばないだろう。
 リスクを承知で話してくれた鋼牙を裏切りたくなかった。

「あはは。相変わらずおっちょこちょいだなぁ、さやかは」

「だよね、えへへ……」

 どうやら誤魔化せたらしい。
 乾いた笑いを浮かべ、頭を掻きながら、さやかは改めて思った。
 魔法少女、魔女、ホラー、魔戒騎士――昨夜の出来事はすべて自分の心の中に留めておこうと。

 それから軽く二言三言交わし時計を見ると、そろそろタイムリミットが迫っていた。

「じゃあ、今度こそ帰るね」

「うん、来てくれてありがとう…………さやか?」
295: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:36 ID:tOv9yjbAo(6/9) AAS
 
 恭介が首を傾げた。
 帰ると言ったにも拘らず、さやかがイスから立たないからだ。
 さやかは思い詰めた表情で俯いていたが、やがて意を決して顔を上げた。 

「ねぇ、恭介……もしも、もしもだよ? 願いを何でもひとつだけ叶えられるとしたら、何を願う?」

 何故か、これだけは訊いておきたかった。
 自分の参考にしたかったのもある。
 だが、確かめたかった。彼は今、どんな心持ちでいるのだろうかと。

「何だい、急に?」

「あ〜、いや、今日まどかたちと話しててさ。なんとなく、そんな話題になって」

 曖昧に答えたが、嘘は言ってないからいいだろう。
 まだ首を傾げる恭介だったが、深く追及する気はないようだった。
腕を組んで真剣に考え始める。

「そうだなぁ……」

 恭介は十数秒ほど唸ってから、さやかを見る。
 
「もっともっとヴァイオリンを上手になって、もっと多くの人に聴いてもらうこと、
大勢の人たちを魅了する音楽を演奏することかな。
それでいつか僕だけの最高の音を奏でられたなら……」

 答えた彼の眼は輝きに満ちていた。その光は、さやかの懸念を一瞬にして払拭する。
 彼は、また弾けたら、などと口にしなかった。
 手首から先が動くか動かないかの瀬戸際に立たされているというのに。
少なくとも今は動かせないままだというのに。
296: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:38 ID:tOv9yjbAo(7/9) AAS
 良く言えば前向き、悪く言えば逃避かもしれないが、
さやかは彼が復活の為に必死にリハビリに励んでいると知っている。
 だからこそ、さやかの答えも決まっていた。

「うん……恭介ならきっと出来るよ。あたし、応援してるから」

 さやかは両拳をグッと握って、ありったけの想いを込めて彼女なりに勇気付けたのだが――。

「そんな簡単なものじゃないさ。
最高の音楽がどんなものかなんて僕にもわからないし、
それこそ神か悪魔の力でも借りないと実現できないものかもわからないしね」

 恭介は虚空を見つめ、呟いた。
 さやかの秘めた想いは、完全には伝わらなかったようだ。
落ち込む気持ちもあったが、それよりもある単語が気に掛かった。

「えぇっ、悪魔って……怖いこと言わないでよぉ……」

 悪魔と聞いて真っ先に連想したのは、この二日間に出くわした魔女と魔獣。
 あんなものに恭介が関わるなんて、考えるだけでも嫌だった。比喩だろうとわかっていても。
 昨夜以来、神経過敏になっているのは、さやかも自覚していた。

「はは、実際に契約とかしたんじゃないよ。ただ、芸術や音楽には付き物の逸話ってだけ。
自分を追い詰めて追い詰め尽くした果てに得た極限状態での閃きを天恵って言って、
自分以外の何かの力を借りて出来た気がしただけだと思う」

「だよね……なぁんだ、びっくりするじゃん」
297: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:41 ID:tOv9yjbAo(8/9) AAS
 ほっと息をつくさやか。
 不安は、恭介が軽く笑い飛ばしてくれた。そういえば、そんな話は聞いた覚えがあるような。
やはり杞憂に過ぎなかったのだと気を取り直した。

「でも僕にも似たような経験はある。
頑張っても頑張っても弾けなかった曲が何かの拍子に突然弾けたり、とか。
大げさだけど、そんな時は奇跡が起こってる気さえした。だから真実は誰にもわからない。
ひょっとしたら、天使や悪魔を見た人だっているかもしれないね」

「へぇ……恭介にも、そんな経験あるんだ……」

「勿論あるさ。もっとも、僕はそこまで極限に迫ったことはないけれど。
もし仮に、そんなものが見えるとしたら、それは本当に凄絶な精神状態だろうね。
過去、数多の芸術家や音楽家が狂気に取り憑かれ、身を削り、滅ぼしながらも作品を遺した時みたいに」

 たぶん恭介も同じ。彼は音楽しか見ていない。彼を想う自分の気持ちも見えていない。
 だが、それでもいいと、さやかは思っていた。
 自分のものにならなくても、他の誰かのものにならないなら。
 誰より近くにいられるのなら。

 それでもいいと、思おうとしていた。

 音楽を語る時、往々にして彼は多弁になる。
 芸を極めようとする人は、多かれ少なかれ他人と違うものが見えているのかもしれない。
素養も素質もさっぱりなさやかには些か理解し難い感覚ではあったが。

 内容は理解できなくても、さやかは彼の話が好きだった。
 彼の音楽が好きだった。
 彼が好きだから。
 理由は、それだけで充分だった。
298
(1): ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:53 ID:tOv9yjbAo(9/9) AAS
ここまで。次こそ2話も終わり
恭介や仁美も自分なりに掘り下げられたら
体調不良やらで2週も開いてしまいました
やっぱり切りの良し悪しに拘らず週一は厳守のペースに戻したいと思います

>>273
今のところは内緒、ということで申し訳ありません
ただ、期待させても悪いので、ひとつだけ。翼は出ません、中途半端な扱いになっても嫌なので
外伝などできれば或いはあるかもしれませんが、基本は鋼牙と零と少女に絞りたいと思います

>>288
ペースが遅くて申し訳ありません
自分でもそうしたいのですが、減らし方の加減がわからないというのが正直なところです
なるべく重要な場面を除いて軽く流せるよう努力します
304: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/06/17(日)23:59 ID:NCqR/890o(1) AAS
 神妙な顔つきで鍵を回して、玄関の扉を開いた。
 出迎える者はなく、室内はシンと静まり返っている。
 つまり見慣れた光景。
いつもなら、どうしようもなく寂しさが襲ってくるところだが、今日のマミは違った。
 
 何故なら、とても大事な――おそらく自分の人生を左右するであろう、重要な問答を控えているからだ。
 手探りで玄関のスイッチを探して明りをつける。暗い各部屋を見遣るが、やはり誰かがいる気配はない。
いや、いたらいたで困るのだが。

 とりあえず、お茶でも飲んで一息つこうかと思い、リビングの電気をつけると――。

「――っ……キュゥべえ……!」

 テーブルの上には、夕方部屋を出た時と変わらぬ様子で白い小動物が鎮座していた。
 意表を突かれたマミが二の句を継げないでいると、

「おかえり、マミ。遅かったね」

 キュゥべえが先んじて喋った。いつものように、表情ひとつ変えず、平然と。
 
「あなた……ずっとここにいたの?」

「そうだよ。酷いなぁ、君が僕を残して戸締まりして行っちゃったんじゃないか」

 などと言っているが、怪しいものだ。
 マミは疑念を抱いていた。神出鬼没の彼なら、この程度は軽く抜け出せるのではないか。
魔女退治に現れなかったのは、鋼牙が同行することでまどかとさやかに危険が及ぶ可能性が低いと考えたのではないか。
或いは、彼の余計な詮索を避ける為に姿を見せなかっただけで、遠巻きから窺っていたのではないか。
だとしたら、まどかとさやかの危機には、必ず現れて契約を迫ったことだろう。
 
305: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/06/18(月)00:54 ID:E+IXGqpEo(1/3) AAS
 マミはそこまでキュゥべえの行動を推察し、そして気付く。
自分の彼を見る目が変わり始めていることに。
咄嗟とはいえ、いや、だからこそ端から訝しんでいたことが衝撃だった。

――何故かしら……今日、あの時まで友達だったはずなのに……

 と、マミは心中で呟き。

――友達……"だった"……?

 またしても自らの変わりように驚き、おののく。
 揺らぎ始めてはいたが、マミとキュゥべえの間には確かな絆があった。
どんな言葉で言い表せばいいのかはっきりしないが、親愛の情が存在していた――はずだった。

 昨日までなら、きっと無理にでも自分を納得させていた。
 しかし今は、それすらも自分が思い込んでいただけ、とすんなり思える。
予てから疑念を感じていたからと言って、不思議なほど簡単に。

 今のマミの状態を一言で表すならば、愛情が薄れているのだろう。
彼に肯定的な――言い換えれば、都合の良い捉え方ができなくなっていた。
 たぶん夕方の鋼牙とキュゥべえの会話のせい。他にはあり得ない。
 あれは、まさしく楔だった。鋼牙の打ち込んだ楔は、本人も気付かぬ間にマミの心に変化をもたらしていた。

 だが、心の変化に思考は追い付かず、マミは混乱する。
 額に手を当て、ふらつく身体をどうにか支える。
 何故、と考えようとすると、頭が軋むように痛く、重い。
 
306: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/06/18(月)03:06 ID:E+IXGqpEo(2/3) AAS
 自分でも気付かぬうちに、秘めていた不満や疑念が表出しているのだ。
 反面、頭ではキュゥべえを信じたいとも思っていた。なにせ彼は、これまで唯一とも呼べる親友だったのだから。
命の恩人でもある彼を裏切りたくなかった。
 だが、信じたいはずが信じられない。感情が拒絶するような感覚に、マミはただただ戸惑うばかりだった。

「それでマミ、僕に何か用なんじゃないのかい?」

 すべて見通したような口振りに、マミは正気に戻ると同時に、再び警戒する。
 全身の緊張と冷や汗、ひりつく喉の渇きは自身に対するものか、それともキュゥべえに対してか。
今のマミには、どちらも理解できないことは確かだった。
 
――だから、私は確かめなくちゃいけない……。

 素直に己が心に従うべきか。
 それとも、心を騙して仮初の友人関係を続けるべきか。
 答えは目の前にある。

 方法は至極簡単だ。一言、尋ねればいい。
 これまでは真実を知るのが怖くて訊けなかった。
彼を信じられなくなったら、真に独りぼっちになってしまうから。

 でも、今なら問い質せる。
 その為の勇気はもらった。
 彼女に――今日、出会ったばかりの新たな友人、夕木命に。

「あのね、キュゥべえ……私、どうしてもあなたに訊きたいことがあるの……」

 ありったけの勇気を振り絞り、キュゥべえに質問をぶつけようとした、その時。
 ふと、マミの脳裏を、ある思考が掠めた。
 それはマミが寄る辺とする勇気の正体だったのかもしれない。
307: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/18(月)03:35 ID:E+IXGqpEo(3/3) AAS
ここまで。もう1レス行きたかったのですが、考えがまとまらないので明日に。
308: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/19(火)02:08 ID:cA/hk6mBo(1/5) AAS
――命さんの存在があったから、私は真実を確かめる勇気を持てた。
 その勇気は、果たして私が思っているほど素晴らしい感情なのかしら――

 一度でも考えてしまったが最後、疑惑は膨らんでいく。
 悪い方へ、悪い方へと、転がるように思い詰めてしまう。 
 
――たった一人でいい。私を愛してほしい。最初は、ただそれだけだったはず。
 なのに私は、命さんがいるからキュゥべえを失っても耐えられると考えてた。
 それは、より満たされる一人と出会ったら、前の一人はいなくてもいいと思っていることにならないの?
 私は、キュゥべえと秤にかけて命さんを選んでいたとでも?

 正体も定かでない謎の生物であるキュゥべえよりも、同じ女性の……ううん、同じ人間だから?
 私に隠し事をしている彼よりも、私を温かく包んでくれる人だから?

 だから、キュゥべえを失っても耐えられる……?

 いなくなってもいい……?

 いえ、むしろ……。

 キュゥべえは……もう、いらない……?――
309: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/19(火)02:10 ID:cA/hk6mBo(2/5) AAS
 マミは愕然とした。
 膝から力が抜け、床にへたり込む。
 自分がよりどころとしていた勇気が、純粋だと信じた想いが、その実エゴにまみれているかもしれない。
そう気付いて、心が激しく揺さ振られた。

 まるで泥沼から抜け出そうと握り締めたロープが、泥よりも遥かに穢れて悪臭を放つ汚物であったかのような。
 そして、気付けば触れた全身までもが穢れ、身体がグズグズと腐り落ちていくような。
 
 それほどまでにマミは"勇気"を信じ、希望を託していた。
 それが偽りだとしたら、もう何を信じたらいいのかもわからなかった。 

「どうしたんだい、マミ」

 混乱の最中でキュゥべえの声も届かなかった。

――こんなこと、如何に彼が不審で、私が不信を抱いていようが、言い訳できる行為じゃない。
 新しい友達ができたからって、数年来の関係で、しかも命の恩人に後足で砂をかけて他人に乗り換えようとしている。
 まるで、古くなった服を想い出と一緒に捨て去るみたいな感覚で。

 これが……私の本性……?
 本当の私?
 本当の私は、どこまでも臆病で、寂しがり屋で……卑怯で、狡猾で、矮小な人間――
310: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/19(火)02:12 ID:cA/hk6mBo(3/5) AAS
「違う! そんなはずない!」

 自分が酷く醜い存在に思えて、マミは千切れんばかりに首を振った。
 頭を両手で押さえても、頭痛は止むどころか激しさを増す。
 マミは直ちに考えるのを止めた。考えるほど自分が嫌で嫌で堪らなくなる。

 急がなくては。すぐに蓋をして、胸の奥深くに沈めて封印しなくては。
 己の中に、こんな醜い打算があるなんて信じたくなかった。
 こんなの、勇気なんて綺麗な言葉で飾ってはいけない。

 これは闇だ。
 目を背けたい、黒く淀んだ心の闇。
 即ち、陰我。

――これが、こんなものが、私の陰我なの……?
311: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/19(火)02:12 ID:cA/hk6mBo(4/5) AAS
 数分間、マミは頭を押さえてうずくまっていた。
 頭痛が治まり、暗くなっていた視界が光を取り戻すまで。 
 ようやく顔を上げると、キュゥべえは微動だにせずマミを見ていた。

「落ち着いたかい?」

「え、ええ……」

 荒い呼吸を整えて、なんとか一言だけ答える。
 キュゥべえはマミの様子を窺い、少し間を置いて言った。  

「いいよ、マミ。僕に答えられることであれば、何でも答えよう」

 そう言われても、頭が真っ白になって何から訊いていいものか。
 順序立てて考えていた質問も吹っ飛び、心の支えも信じられなくなった。
 いっそ、うやむやにしたくなる。

 だが、無理だ。今さら、なかったことにはできない。忘れ去るなんてできない。
 真実を明らかにしなければ、このままでは一歩も進めないから。
 マミは深呼吸して、最も訊かなければいけない質問を思い浮かべ、口を開く。
  
――魔女の正体は、魔法少女なの?

「私とあなたは……まだ、友達なの……?」
312: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/19(火)02:15 ID:cA/hk6mBo(5/5) AAS
ここまで。次は最後まででき次第
アクションやCGで魅せられない分、このへんを拘りたいと思ったのですが
書いてる方も暗中模索な感じです
343
(2): ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/06/25(月)02:16 ID:k/TZ03YCo(1) AAS
>>298にはああ書きましたが、今回はまとめて行きたいので延期します
ちょっと体調不良で遅れていますが、月曜か火曜にはおそらく
347: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:05 ID:2bCS3gDYo(1/8) AAS
 頭で考えていたこととは異なる言葉が口をついて出て、マミはハッと唇を押さえた。
 最も肝心な魔女の正体について問うつもりが、ほぼ無意識に喋っていた。
 それは未だ思考と乖離した感情の仕業、言わば心の声。

 マミは大いに困惑したが、どの道はっきりさせておかなければならない。
でなければ、彼が秘密を明かしたとして正直に受け取るか疑うかも違ってくる。
 妙な話だが、彼に対する感情でマミの真実は変わり得るのだ。
 そして、特に迷う素振りもなくキュゥべえは言う。

「君は僕をどう思っているんだい?」

 肯定でも否定でもなく、逆に質問で返された。
 それを確かめたくて訊いたのに、そのまま返されては答えようがない。
 だがマミは、

「私は……あなたを友達……だと思っているわ」

 と、言葉に詰まりつつも答えた。
 嘘ではない。信じたい気持ちは今も変わらない。
 
「じゃあ僕は君の友達だろうね」

 だが、キュゥべえは即答だった。
 しかし、そんな引っ掛かる物言いでマミが納得できるはずもなく。
 むしろ怒りに火を点けた。

「じゃあ? だろう? どういう意味? 変な誤魔化しは止めて!」

 マミが激昂しかける。
 いっそ、否定された方がまだ良い。それなら諦めもつく。
仕方がないと、自ら離れたのではなく彼に切り捨てられたのだと自分を慰められる。
348: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:09 ID:2bCS3gDYo(2/8) AAS
「誤魔化しでも何でもないよ」

「なら、私に合わせて答えを変えたの!?」

「君に合わせて変えたのでもない。君の答えが、そのまま僕たちの関係の答えなんだ。
これは似ているようで違うことだよ」

 ますます釈然としない。
 煙に巻かれているよう。そういえば、これまでにも何度かあったことだ。
それも、決まって彼の秘密に触れようとした時に。

「僕はただ魔法少女をサポートする存在だからね。
君が僕を友達と思うなら僕は友達になるし、ただの道具だと思うなら、そうなる。
とどのつまり、僕は"そういうもの"なんだ」

「……敵だと思えば、敵になる?」

「敵と言われるのは心外だけど、君がそう思ったとしても咎める権利は僕にはないよ。
実際、契約が済んでしまえば、僕が魔法少女にできることは少ない。
君にも僕にも、さほど不都合はないと思う」

 キュゥべえが何かを強制したことは一度たりともない。
相手の意思を尊重していると言えば聞こえはいいが、
本当は一切の執着がないだけなのだと気付いたのはいつだったろうか。

 そんな彼が執着し、場合によっては強制するとしたら。
 それは、きっと契約のみだろう。
349: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:10 ID:2bCS3gDYo(3/8) AAS
「僕を天使と呼ぶ少女もいた。不本意だけど悪魔ともね。妖精なんていうのもあったかな。
わかるかい? 君たちにとっての僕は、君たちの価値観次第でどうにでも変わる。
僕に対する認識なんて、それくらい曖昧なんだ」

「じゃあ、私をどう思っているの? あなたは私を……」

 執着がないということ。それは関心がないのと同義だ。ひいては愛も同じ。
 それでもマミは訊かずにおれなかった。
敵と思われても構わないなどと言っている時点で、わかりきっているのに。

「君はとても優秀な魔法少女だよ。誇っていい。僕が見てきた中でもかなりの――」

「そうじゃない! 私が聞きたいのはそんなことじゃないわ! あなた個人の意思を訊いているの!」

 キュゥべえの台詞を遮って叫ぶマミ。瞳にはいっぱいの涙が溜まっている。
 本当に、彼にとっての自分の価値は利用価値の有無でしか測れないのか。
 友達だと思っていたのは自分だけだったのか。

 目覚めて挨拶する相手がいることに感謝した朝。
 休日や学校帰りに一緒にお茶を飲んで安らいだ昼。
 魔女との戦いで傷ついた心身が、彼を抱いて眠ることで癒された夜。
 
 数えきれない時間を一緒に過ごした。
 キュゥべえがいてくれたから寂しくなかった。
 すべての想い出が嘘だなんて信じたくなかった。

 しかし、マミがいくら泣こうが叫ぼうが、キュゥべえは微塵も揺れることなく訊き返す。
350: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:13 ID:2bCS3gDYo(4/8) AAS
「それは、君たちで言うところの"友情"が存在するのか、という意味かな?」

 望みは薄かったが、僅かな期待を込めてマミは頷く。
 そうだ。この関係が友達と呼べるのか、そんなことはどうでもいい。
 大事なのはひとつだけ。
 自分が彼を大切に想っているように、彼が同じように想ってくれているのかどうか。
それを確認しなければ、不安に駆られてどうにかなりそうだった。

「友情か。それが僕に理解できたなら、僕と君が出会うことはなかっただろうね」

 最初、キュゥべえの言葉が何を意味しているのか理解できなかった。
 が、どうやら答えが"否"であるらしいことは伝わった。 
 そして、

「僕には感情というものは存在しない。個々の意思も、個の概念もね。
僕はただ契約を交わし、願いを叶える代わりに少女を魔法少女にする。
そして魔法少女をサポートする、その為だけの存在だよ」

 直後、儚い望みは粉砕され、マミは手をついて項垂れる。
 じっとフローリングの床を見つめる眼差しは虚ろ。
心の中が空っぽになったみたいだった。残ったのは無力感と虚無感、微かな寂寥感。
 憎しみも、何も感じなかった。怒ることすら馬鹿馬鹿しかった。まだ、この時までは。

「……っ!」

 マミは左胸に右手をやり、きつく握り締めた。噛んだ唇から呻きが漏れる。
身体が痛みを訴えてもなお、力を込め続けた。

 何なのだろう、この感覚は。
 空っぽになったはずなのに、その隙間を埋めんと、やるせなさが涙と一緒になって止め処なく湧いてくる。
 身体の痛みなんかより遥かに痛かった。
351: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:15 ID:2bCS3gDYo(5/8) AAS
「でも、感情の有無がそんなに大事なことかな? 
少なくとも、僕たちは良好な関係を築けていたじゃないか。
僕は君の、君は僕の、お互いに利益となってきたはず。
愛、なんてあやふやなものがないくらい、何の問題もないと思うけどね」

 キュゥべえは、そんなマミを見下ろして平然と告げる。
 痛みを痛みで紛らわせても相殺しきれず身悶えるマミに、キュゥべえの言葉を受け止める余裕はなかった。
それでも心と別に、思考は薄ぼんやりと理解してもいた。

 キュゥべえの言葉は、それでも間違ってはいないのだと。

 知らなければ、ずっと彼を友達と信じていられた。小さな棘のようなわだかまりは胸に刺さったままでも、
自分が死ぬか壊れるまで騙し騙しやっていけたと思う。
 キュゥべえは、騙していたという認識などないのだろう。感情がない彼は常にあるがままだった。
ただ役目を果たしていた彼を、友達として見ていたのはマミの方。

――そう、だから悪いのは私……。
 キュゥべえは蓄積したそれらしい反応を、状況に合わせて見せていただけ。
 それを唯一無二の好意と勘違いして、私が勝手にショックを受けているだけ。
 でも、それはあくまで理屈。
 そして、この気持ちは理屈じゃない――

 だからこそ、こんなに胸が苦しい。
 彼も、あの日々も、最初から虚構だった。もう二度と戻ってこない。
 キュゥべえは、これまで通りの日常を送ることを拒まないだろう。
しかし、マミには到底、許容できなかった。
 
「もういいわ……。結局、私の一人遊びだった訳ね」

 マミが静かに、自嘲気味に呟く。
 口に出して、少しだけ心が諦めに傾いた。
352: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:17 ID:2bCS3gDYo(6/8) AAS
 ずっと支えとしてきたものが、お人形遊びに等しかったと思い知らされた。
 馬鹿な少女が現実を知って、ひとつ大人になった。
 辛くて悲しいことだが、これをバネに成長すればいい。幸い、自分には新たに支えてくれる人がいる。

 そんなふうに思えたかもしれない。
 話が、これで終わりだったなら。
 マミが、ただの人間だったなら。

「でも、これで遠慮なしに訊けるのは、良かったのかもしれない……」

 立ち上がり言うや否や、マミの身体は光に包まれ、魔法少女の衣装を纏う。
 マミは毅然とキュゥべえを見降ろし、言った。

「あなたが隠していることを話して。全部、一切、包み隠さずに」

 空気が張り詰める。マミは全身を緊張させ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 キュゥべえはまだ動かず、答えようともしない。
 マミはキュゥべえの無機質な瞳から一瞬たりとも目を逸らさないが、思考はフル回転していた。

 マミが魔法少女の衣装を纏った理由。
 ひとつは、前の質問からの切り替えの為。
 これから別のことを問わねばならない。ただの少女でなく、魔法少女として。

 もうひとつは、自分が本気であるという決意の証。そして絶対に逃がさないという意思表示。
 キュゥべえが逃げれば拘束してでも問い質すつもりだ。

 もし万が一抵抗したり、明らかに虚偽とわかる回答をしたならば――。
 いや、そうでなくても真実の闇の深さによっては、そのまま衝動に任せて縊り殺してしまうかもしれない。
 故にマミは理性を総動員し、様々な意味で自身を律する必要があった。

 それほどまでに重いことは、知る前から察しがついていた。
 鋼牙が推理しながらも敢えて口を噤み、ほむらが自分の胸だけに秘めなければならなかったのだ。
 だからこそマミも、暗闇の中で己を見失わないよう、不安に押し潰されないよう、他者との繋がりを求めた。
命が心の支えとなったのも、今になってキュゥべえとの絆を必死に再確認しようとしたのも、その為。 
 だが、おそらく杞憂に終わるだろうとも思っていた。
353: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:19 ID:2bCS3gDYo(7/8) AAS
「あなたが何者で、どこから来て、何の為に契約しているのか。
魔女とは、魔法少女とは、ソウルジェムとは何か。
あなたの口から聞かせてほしい。あなたの言うことなら、私……信じるから」

 これまで隠したり、話を逸らしたりはしても、彼は一度も嘘をつかなかった。
 また、マミの予想が真実だとしたら、それを知ることは魔法少女にとって絶望の宣告であると同時に、
少なからずメリットにもなる。
どうせ彼は人の心など汲み取ってくれないのだから、損得勘定の天秤さえ動かせば、冷徹に、淡々と語ってくれるだろう。

 これまでのような無条件の信頼とは違う。いくつかの材料から判断しただけの冷たい論理。
 自分の内に、まだ彼への友情や親愛と呼べる感情が残っているかは、マミにもわからない。
ただ、目の前で装束を身に付け暗に脅迫している時点で、最早そんなものを信じていないのは確かだった。

「わかったよ、マミ。君に本当のことを話そう」

 彼の中で天秤の釣り合いが取れたのだろう。キュゥべえがマミを見返して言った。
 マミは答えず首肯すると、自分も着席しようと移動する。
その間も、キュゥべえを警戒するのは忘れない。

 この部屋でキュゥべえと二人きり。
 つい昨日までは、マミが唯一安心できる状況だった。
 友達である彼を捕らえようなんて思いもよらなかった。

 それを今は自然に警戒している自分に、マミは内心で驚くが、表情を殺すと同時に頭の中から消し去った。
 優雅ながらも、決して隙を見せない動作で着席する。魔女と相対するように。
 キュゥべえは身動きせず声も発さなかったが、やがて一言。

「ただし――君に、その勇気があるのなら」

 マミに意思確認をした。
 言うまでもなく、答えは決まっている。
 軽く目を閉じ、再び開くと、キュゥべえと視線が交差した。

「いいわ……話して」

 マミの長い夜は、まだ始まったばかりだった。
354: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:29 ID:2bCS3gDYo(8/8) AAS
ここまで第二・2話。まだ次回予告とサブタイトルが完成していないので、明日か明後日あたりに
思えば2話は、バトルも説明もと欲張って詰め込み過ぎたと反省しています
ここまで応援、お気遣いありがとうございました
ちょっと喉の炎症の痛みで集中できなかっただけで、通院した今は問題ありません

>>346
特に意識していませんでしたが、言われてみれば似ているかもしれません
でも、そこに至った経緯で反応は違ってくると思うので、そのへんもご期待下さい
367: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/30(土)02:06 ID:GONWpbJyo(1/3) AAS
次回予告(まどか☆マギカver)



マミ「空っぽの身体。空っぽの心。なのに何故、私はまだ生きているの……?」
マミ「……やっと気が付いた、私の中に在る唯一の願い」

第3話

マミ「もう何も信じない」


368: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/30(土)02:09 ID:GONWpbJyo(2/3) AAS
次回予告(牙狼ver)



何も失うものがないという孤独。
それでも、土壇場で己を衝き動かすものは残っている!

次回『孤影』

最期の慟哭、それを聴くのは誰だ!


369: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/30(土)02:14 ID:GONWpbJyo(3/3) AAS
以上、次回予告
牙狼は内容を抽象的に表現しないといけない
まどかは本編で同じ台詞を使わないといけない
一番悩んで閃き任せな部分

続きは日曜深夜から少しずつでも進めたいですが、
まだ構成が固まっていないのでどうなるか
411: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/07/02(月)01:53 ID:sWn9nTOBo(1) AAS
やはりまだ考えがまとまっていないので、今日は見送らせていただきます
代わりという訳ではありませんが、wikiに2話をまとめました

これまで2chでしか書いたことがなく、感想ももらえないことが多々あったので、批判であれ感想は嬉しく思います
一連の議論も、忘れていたこと、気付かされることが多々あり、
ひょっとしたら自分より深く考察していただいているかもしれません。ありがとうございます
ですが、なるべくなら荒れない発言を皆様心がけていただけるようお願い致します

>>382
ただ、キャラの扱いや悪感情については改善しろと言われて希望にそうことも、この場で展開や方向性を語ることもできません
言い訳になるかもしれませんが、アンチやヘイトや贔屓の意図は一切なく
私なりに両作品とキャラクターに愛着を持って書いているつもり、とだけは強調しておきます

話の進展速度については、要所を除いて早くしたいとは思っていますが、まだまだ調整力が未熟なのは反省しています
ですが、やはり自分で納得いく物を書きたいので、その為に長くなる場合があることはご理解ください

長くなりましたが、3話以降もよろしくお願いします
423: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/07/09(月)03:23 ID:c/OVR7AYo(1/8) AAS
 真実。
 本当のこと。嘘偽りのないこと。
 人の真実。物事の真実。
 多くの人が追い求めるもの。
 
 だが、知らなくていい真実もある。聞き古した言葉だけれど、この時、私はつくづく思い知った。
 所詮は情報。知ったところで、既にある物の形や有様自体が変わる訳でもないのに。
 しかし、時に物の価値や目に見える世界まで変えてしまう。
 世界は己の認識で創られているのだから。

 昨日まで友達だった人間が敵になり、宝だった物がゴミにもなり得る。
過去に遡って想い出までもが書き換えられる。
 また、他人や自分自身の心の深奥を――真実を覗いてしまった時。
 そして、それが歪んでいた時。
 人は深い絶望に囚われるのだと、私は知った。

 この時の私たちは戸惑い、翻弄されるばかりだった。
 目を背け、耳を塞ぐ者。ただ打ちひしがれる者。
 いずれにせよ真実はこの手に余り、誰かを気遣う余裕もなく、誰もが自分のことだけで精一杯だった。

 肉体の痛みだけでなく、心の痛み、重みに耐え、目を背けずにいられる。
 屈せず、惑わされず己を貫ける。
 真実に打ち克てるとしたら、きっとそんな人。
 そう、彼らのように。

 私たちは、それぞれの立場から彼らと出会い、それぞれに異なる想いを抱いた。
 憧憬、思慕、尊敬。嫉妬、敵意、憎悪。とても綺麗とは呼べない感情もあった。
 だが、彼らが"守りし者"であったことに異を唱える者は一人としてしないだろう。
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