[過去ログ] 【腐女子カプ厨】巨雑6495【なんでもあり】 [無断転載禁止]©2ch.net (321レス)
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137: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:10:05.75 d AAS
 つぅ、とベルトの跡まで指先でなぞる。
 たったそれだけで、びくっ、びくっ、と肩が跳ねた。

「こっちも、もう良いだろう。ほら、腰を上げろ」
「ひっ……オレ、やっぱり無理……」
「なんだ、お前は百万円欲しくないのか? 大好きなリヴァイ兵長とやらのために」

 彼のパートナーの名を出すと、ハの字眉だった表情は一変した。
 気の強そうな瞳の奥に、ぎらぎらとした獣を飼っている。

「兵長のために……あなたに賞金は渡しません」

 意を決したらしく、エレンの体から、ふっと力が抜けた。
 抵抗をする気は無いらしい。

「えらく従順だな。よく躾されている」
「……あの、オレはどうしたら……」
「気持ちよくなってくれれば、それでいい」
「……兵長と同じ顔で……」

 エレンは顔を真っ赤にさせて、足をぎこちなく開いた。
 兵士なだけあって、その体はえれりんよりも固くて筋肉質だった。
 どうやら、普段から甘い言葉をかけられることに慣れていないらしい。
 リヴァイプロデューサーは結合部をじっと見つめるエレンの視線を感じながら、ついに挿入した。

「ぐ……あ、あぁ……」
「入っていくぞ……」

 痛いのか、エレンは目の縁に涙を溜めて唇を噛んだ。

「は、あっ……入っちゃった……あぁ……くるし……」

 ついにリヴァイプロデューサーの逸物を根本まで飲み込み、少し悲しそうな顔をするエレン。
 無垢そのものだ、と思う。

「なぁ、エレン。バイブって知っているか?」
「バイブ?なんですかそれ……」

 それどころではないエレンに向かって囁く。
 リヴァイプロデューサーが取り出した、文明の利器であるバイブを見ても、きょとんとしていた。
 いわゆる大人の玩具……アダルトグッズ。
 張り型ぐらいは知っているかもしれないが、これはさすがに分からなくて当然だろう。

「……対巨人用の罠か何かですか?」

 頭の中は巨人のことでいっぱいらしい。
 少しばかり意地悪をしてやりたくなってしまう。

「これはこう使うんだ」

 電動の音を響かせて、バイブが震える。
 まだ肌に当てる前からエレンはびくっと体を震わせた。
138: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:10:21.43 d AAS
「な、なんだ!? え? アッ、ひっ」

 戸惑う彼をよそに、先端を陰嚢に触れさせてみる。

「いやだっ、ああああっびりびりくるっ……アァッ……やだそれ!」

 初めての感覚にエレンはよがった。
 弱々しい抵抗を見せながら、じたばたと暴れている。

「っは……!」
「なんだ、バイブでイッちまったのか?」

 バイブの快感に屈してしまったエレンは、ぴゅっぴゅっと射精をして自分の腹を汚した。

「それ……やめてくださ……! もう、イきたくない……っ!」
「俺はまだピストンもしてないんだぞ? ほら、愛しの兵長にイッてるところ見てもらえ」
「へぁ……?」

 潤んだ瞳で見上げた先に、紛れも無いリヴァイの姿を見つけてしまう。
 それどころか、目が合ってしまった。
 じわり、とエレンの大きな目の縁に涙が盛り上がる。
 そのタイミングを見計らって、リヴァイプロデューサーはようやく律動を開始した。

「アアッ見ないでぇ……へいちょうっ、あっ、うあっ」

 足を大きく開かされて、揺さぶられているエレンはいとけない。
 ぷっくりと膨らんだ乳首にバイブを当てながら、リヴァイプロデューサーが最奥を突く。

「すげぇ締まるな……見られていた方が興奮するか?」
「あっあっあっ、も、ブルブルやだっ」

 バイブが嫌な様子だ。
 こんな道具、見たことも初めてで恐いのかもしれない。
 初な様子が庇護欲をそそる。
 リヴァイプロデューサーはエレンの片足を持ち上げて、体勢を変えた。

「な、なに、ひぁっ」
「松葉くずしって言うんだ。覚えておいて損はない」

 エレンの細い腰が目に入る。

「このまま百万円いただきてぇところだな……」

 ぼそり、と呟いた声にエレンが反応する。
 快楽に蕩けてはいるが、眼の奥にぎらりと光るものがあった。

「だめ……オレの中でイかせてやる……」

 自ら片足を持ち、結合部を見せつけてきた。

「あっ、もっと……!もっとおく……ぅ」

 エレンは意図してなのか、中をぎゅうっと締め付けてきた。
 それだけではなく、自分で乳首を指先で転がし始めた。
 動きに迷いがない。
139: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:10:25.01 d AAS
「はっ……初なツラして……やることやってんだな? 慣れてやがる」
「一人遊びは得意なんです……兵長のために、受け入れる体にする準備は怠りません……ん、アッ」

 自慰は彼の日常でもあるらしい。
 それがリヴァイのため、というのだから泣かせる。
 ひいては自分のためでもあるが、よほど『兵長』を大事にしているのだろう。

「兵長は抱いてくれないのか? 毎晩準備万端にしてるんだろう」
「兵長はお忙しい方だから……ん、自分で乳首弄ったり……張り型使うんですよ……あっあっ」

 受け入れる造りをしていない男の体を、毎晩どんな気持ちで準備しているのだろう。
 どんな顔をして自分で弄り、ベッドの中でひっそりと上官を待っているのだろう。

「こんなに敏感で大丈夫、か?」
「でも……オレの中、気持ちいいでしょう?」

 にこ、とエレンは妖艶に笑った。
 さっきまで童貞処女のような顔をしていたのに、急にオンナの顔になった。
 まるで手練の娼婦だ。
 ぞくりと背筋を這うものがある。

「ね、ほら……イッて……オレの中で出してもいいんですよ……」
「馬鹿……煽るな」
「出したいだろ……ん、あんたもえれりん以外の男に中出しするん、ですねっ?」
「あいつはビッチだから興奮しそうだけどな……」

 ため息混じりに言うと、エレンは目を見開いた。

「……あんた、意外と何も分かってないんだ」
「何がだ」
「えれりんのこと。あいつ、絶対嫉妬深いですよ」

 嫉妬深いえれりんなんて、想像もつかない。
 いつも仕事に一生懸命で、それでいてセックスが好きそうな素振りを見せるのに。

「まさか……あいつは男だったら誰でも良いって思っているふしがあるぞ」
「そんなわけありません。全部嫉妬の裏返しですよ……自分だけを見てもらいたいっていう……だから男好きなふりをする……そうすれば、リヴァイプロデューサーに構ってもらえるから」
「……ふぅん」
「アァッ! きゅ、急に動かないで……」
「ずいぶん余裕だなと思ってな」

 リヴァイプロデューサーはエレンの片足を抱えたまま、バイブのスイッチを入れる。
140: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:10:40.85 d AAS
「!? ま、待って……それもう嫌……やだ、ぶるぶるしないで……」
「何故嫌がる? 気持ちいいだろう?」

 がつがつ、と奥を突いて、振動を最大にしたバイブをエレンのペニスに押し付けた。

「あああっ! ああっ、こわれちゃ、うっ! だめだめ……っ! アッ……」

 びくっ、びくっ、と痙攣して、エレンはぷしっ、と潮を噴いた。
 無意識なのだろうが彼の肉壁はペニスを咥え込むようにしてうねり、リヴァイプロデューサーは目的も忘れて射精してしまった。

「あー……お前の中、あったけぇな」

 電光掲示板を確認すると、表示された数字は四十九回で止まっている。
 あともう一歩だったのに。

「惜しいことをしたな……」
「あ……あ……どうしよ……」

 エレンはぶるぶると震えて、この世の終わりのような顔をしている。

「どうした。腹でも下したか」
「オレ……おしっこ……漏らした……?」

 どうやら、エレンはまだ潮というものを知らないらしい。
 もしかして初の潮吹きを奪ってしまったんだろうか。
 それは悪いことをした。
 リヴァイプロデューサーはゆっくり腰を引いて、エレンの顔を覗き込む。
 瞳の縁には涙が盛り上がっている。
 ――そそる泣き顔をしている。
 潮を教えてやるべきかどうか迷い、結局黙っていることにした。
 呆然としているエレンの尻からは、とろとろと白濁液が零れ落ちた。
 それを見て、ギャラリーが興奮したように指を差している。

『はい! リヴァイプロデューサーさん残念でした! エレンくんもバイブが癖になってしまわないことを祈ります!』
141: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:10:44.93 d AAS
Cリヴァイ兵長×オメガエレン

「絶対に……射精しないでくださいね」

 オメガエレンが念を押すように言い、リヴァイはじろりと睨む。
 その視線だけでオメガエレンはぞくぞくと背筋を震わせているとも知らずに。
 現代に生きるアルファリヴァイと違い、兵士である男の視線は少々刺激が強すぎたようだ。
 それに四十代であるアルファリヴァイは色々と落ち着いて、見た目とは裏腹に仕草は優しい。
 けれどリヴァイ『兵長』は野獣を思い起こさせるほど、強い眼差しをしている。
 まるでこの身を捧げに来た気分だ。

「……お前こそ、準備はいいんだろうな」

 リヴァイは首元のクラバットをしゅるしゅると解いた。

「は、はい……」

 急に顔を赤らめたオメガエレンに、リヴァイは訝しむ。
 なんだかしおらしくなったような気がする。
 ただ見ていただけなのに、その視線をどう受け取ったのかオメガエレンは自ら服を脱ぎだした。
 上等な布を使った服だ。
 二十代のオメガエレンは栄養があるものを食べているらしく、自分が知っているエレンよりも肉付きが良かった。
 それは決して太っているわけではない。
 肌ツヤが良く、全身の血色も良い。
 触り心地の良さそうな太ももに、悩ましい腰のラインに、どうしようもなく心をかき乱された。
 ふっくらと赤く色づいた乳首は、普段から愛されている証だ。
 そう、この体は常日頃から愛情をたっぷりと注がれた形をしている。
 顔つきは未来のエレンなのに、どこか別人とすら思える。

「あの……あまり見ないでください……」

 その恥じらい方は、これから起こる快楽を知っている。
 十五歳のエレンであれば、色気も情緒もあったものじゃない。
 兵士らしく素早く脱衣し、全裸になったとしても今頃敬礼しているような少年だ。
 それが……オメガエレンは男の悦ばせ方を熟知している。
 どんな視線が、どんな表情が、どんな脱ぎ方が、自分の体のどこが魅力的か、全て知っている。
142: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:11:00.55 d AAS
 全裸になったオメガエレンはさりげなく、股間を隠して佇む。肖像画にしたら良い、と言ったら彼は怒るだろうか。

「……薄いな」

 つい思ったことをそのまま口に出してしまった。
 股間の茂みが薄くて、まるで思春期前の少年のようだった。
 成熟した体の中で、そこだけが目を引いてしまう。

「ホルモンの関係上、体毛が薄くなってしまうんです……あんまり見ないでください」

 いよいよオメガエレンの顔が羞恥に染まる。
 なるほど、これはなかなか趣がある。

「あの、では……どうぞ。もう挿入できます」

 ぱかっと足を開く様は、やはりエレンだなと思う。思いきりがいい。

「慣らさなくていいのか」
「も、もう濡れてるんで……っ」

 オメガエレンは耳まで真っ赤にさせて、言った。声が裏返っている。

「濡れる?」

 リヴァイは指先をオメガエレンの足の間へ滑りこまされる。陰毛が生えていない分、とてもさわり心地が良い。
 くちゅ……といやらしい音が、予想以上に響いてしまう。
 さらに、滑って指が奥へと飲み込まれてしまった。
 オメガエレンの中に入った指は、温かい媚肉にぎゅうぎゅうと締め付けられる。

「おい……なんだこれは」

 尋ねながら指をかき回すように動かす。
 そうしながら、彼の良いところを探す。

「アッ……ちょ、指……!あああっ」
「びしょ濡れじゃねぇか。何かこの奥に仕込んでるのか?」
「し、仕込んでません!こうなっちゃうんです」
「お前……女なのか?いや、女だってこんなに濡れねぇだろ?聞けよ、ほらこの音。すげぇな?」

 硬い声で責めるように尋問する。
 濡れすぎて、リヴァイの手のひらはオメガエレンの愛液まみれだ。

「やっ……アッ、ん、んんっ……」

 勃っていたオメガエレンのペニスから、少量の精液が溢れた。

「……まさか、これだけでイッたわけじゃねぇよな?」
「ご、ごめんなさい…オレ……イッちゃいました……」
「これがオメガっていうやつなのか? 俺の手をこんなに汚しやがって」

 漏らした訳でもないのに、オメガエレンの股間はぐっしょりと濡れていた。
 彼の目の前に指を持って行くと恥ずかしそうに視線を逸らした。
143: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:11:03.99 d AAS
「綺麗にしろ。できるよな?」
「は、はい…」

 ドキドキと胸を高鳴らせながら、オメガエレンはおずおずとリヴァイの指に舌先を伸ばす。
 最初は仔犬のようにぺろぺろと、それからねっとりと舌全体で舐める。
 まるでフェラチオをしているような顔と舌使いになっている。

「…舐めてるだけなのに腰が揺れてるぞ」
「す、すみません…!あ、あの…オレもう…もう我慢できなく、て」

 先程からオメガの性器が疼いて仕方がない。
 若い時のアルファリヴァイが目の前にいるようで、オメガエレンの思考回路は段々と蕩けてきた。

「ほぅ…確かに、今はゲームの最中だったしな。セックスしねぇと終わらねぇもんな」
「どうぞ…オレの中で果ててください」

 挑むような目つきでリヴァイを見上げる。

「四つん這いになれ」

 めったに命令されないオメガエレンは、言われたとおりの体勢になる。
 少しだけ…ほんの少しだけ命令されて胸を高鳴らせていた。
 ちょっと乱暴にされると、体の奥の方が熱くなる。
 リヴァイはオメガエレンの後ろに周り、そのまろい尻を撫でた。
 たったそれだけで白い体が震える。
 日焼けしていない綺麗な肌だ。

「…う、あ…後ろめたいんですか?」
「何がだ」
「バックの姿勢を取らせるからです。そっちのエレンに申し訳が立たない?」

 オメガエレンは肩越しに振り返り、ふふ、と艶やかに笑った。
 もう少年ではない、青年の大人びた笑い方だ。

「…お前こそ」

 図星を突かれて、リヴァイはばつが悪くなった。
 ぺしっと尻を叩いてやった。
 軽く叩いたつもりなのに、彼は嬉しそうに双丘を跳ねさせた。

「ん!うちは寛大なんです…たぶん…いつも優しい。でも…優しいのが時々嫌になる」

 語尾は小さくなった。
 なんだか不満があるらしい。

「…そっちのアルファリヴァイはずいぶん余裕があるように見えるが」

 自分と違い。
 自分はいつも余裕が無い。
 いつも一回り以上年下の少年に翻弄されている。
 どう愛してやったらいいのか、分からない。

「余裕があるからムカつくんですよ。オレだってたまには嫉妬されたいし…あの余裕のある顔を崩してやりたい」
144: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:11:19.66 d AAS
「そうだ…今頃若いエレンにぶちこんで、あの余裕な顔してるんだ。オレが他の男に孕まされてもいいって言うんだ、きっと」

 オメガエレンの頬を綺麗な涙がほろ、と滑っていった。

「顔は同じでもみんな違う。どのリヴァイさんも違う」
「…射精しないように努力する」

 エレンの泣き顔は苦手だ。
 固くて無骨な指で、彼の透明な涙を拭ってやった。

「優しいですね…兵士のリヴァイさんは。顔はすげぇ怖いけど。そっちのエレンは幸せでしょうね」
「どうだか…いつもベッドの中で辛そうな顔してやがる」
「自分をさらけ出すのが怖いんですよ」

 オメガエレンはくるん、と寝転がって仰向けになる。
 シーツに広がった柔らかそうなダークブラウンの髪は自分の知っているエレンと変わらなそうだった。

「オレを抱いてください」

 この異質な空間で、頭の中が麻痺しそうになる。
 いや……もう、とっくの昔に頭の中はおかしくなっている。

「ああっ、あ」
「油もいらねぇって体は…不思議なもんだな」

 無理やりに押し込んだ自分の陰茎は、オメガエレンが根本までしっかり咥え込んでいる。
 嬉しそうにきゅうきゅうと締め付けて、愛液を垂れ流していた。
 正常位のままオメガエレンは白い首元を反らして荒い呼吸を繰り返している。

「む、無理やり、挿れたぁ…裂けちまう…っ」
「お前は痛い方が好きなのか?」

 色づいた乳首を強めに摘んでやると、甲高い声が上がった。
 ぎゅうっと締め付けられて、危うくイくところだった。

「痛いのはっ、嫌い…!」
「その割には気持ち良さそうだ」

 さらに強く乳首を引っ張ってやると、「ひああっあっ」とよがりながら達した。
 びくっびくっと体が痙攣したかのように跳ねていた。

「お前…ドライでイッたのか?」
「雌イキ…覚えたばっかれ…あぁ」
「お前、ちょっと乱暴にされるとすぐにイくな」

 達したばかりで敏感になっている体を、さらに責め立てる。
 潤いすぎたオメガエレンの体内から、激しい水音が響き渡る。

「はっ、あっ、はしたない音、聞かないでぇ…っ!」
「本当は聞かせてぇくせに」

 腰を掴んでがつがつと揺さぶってやった。
145: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:11:23.26 d AAS
 ふと、視線を上げた先、潤んだ双眸と目が合った。
 エレンだ。自分の恋人であるエレンだ。
 なんで、こんな時に。
 自分以外の男に犯されているエレンは、泣きながら「見ないでっ」と叫んでいた。
 相手はもちろん自分と同じ顔なのだけれど、例えようもない嫉妬心が芽生えた。
 それ以上に、自分が今傷ついている事実に驚く。

「……ショックですか?」
「あ?」

 オメガエレンが同情するような顔で、リヴァイを見上げている。

「慰めてあげます」

 彼は両手を伸ばし、リヴァイの頬を包み込んだ。
 労るような、優しい仕草だった。

「……お前だって、同じだろう」

 リヴァイは彼の指を軽く噛んでやった。

「ん……」

 オメガエレンの膝裏を持ち、ぐっと引き倒してやった。
 まるで上からプレスするかのように律動を始める。

「アッ、ああっ、ふか……あ!」
「お前、体柔けぇな」
「ひ、ああ、」

 乱暴な腰つきでオメガエレンを責め立てた。
 どことなく嬉しそうな表情は気のせいか。

「何笑ってやがる……!」
「必死で、可愛いな、って……」
「何が可愛いだ。俺の方が年上だぞ」

 おちょくられているようで、面白くない。
 オメガエレンの体をひっくり返して、後背位の体勢で穿つ。

「あっ……がっ! だめ……出しちゃだめっ、です」
「運次第だ」
「中出ししないで、お願いっ」
「俺だってしたくねぇよ」

 オメガエレンは必死にシーツを掴んでいる。
 駄目、と言いつつ、彼の中は射精を促すようにうねっている。
 男を悦ばせるための造りをしている。
 熱くて、蕩けそうで、濡れていて……最高にいやらしい。

「はらむっ……孕んじゃう……っ!ナマでされて……ど、どうしよっんっ」

 もう熱に浮かされて、何がなんだかわかっていないらしい。
 オメガエレンは泣き笑いしながら、喘いでいる。
 ――まずい……このままだと……本当に――……
146: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:11:38.61 d AAS
『はーい!そこまでー!リヴァイ兵長おめでとうございます!見事、百万円ゲットですー!』

 プァーッ!とラッパのような音が室内に響き渡る。
 光で数字を映し出す板(電光掲示板)が五十という数字でカウントストップし、点滅している。

『さすが人類最強のリヴァイ兵長!下半身も最強のようです!オメガエレンくん、中出しされなくてちょっと残念かなー!?』

 ふざけた司会者はさておき、リヴァイは慌てて自分の男根を抜いた。
 一拍置いて、ビュッビュッと熱い残滓がオメガエレンの尻や太ももの裏を汚した。

「は、あ…あぁ…あちゅい…はは……リヴァイさん以外の男に汚されちゃった…」

 肩で息をしながら、彼は気だるげに起き上がる。
 達していたらしく、オメガエレンの太ももは自分の精液と彼の精液で酷く汚れていた。

「…俺もリヴァイだが」
「中出しされなくてちょっとホッとしましたけど、なんか物足りないかも…」
「オイ」
「それにちょっと悔しいんですよね…オレの中じゃ満足していただけませんでした? ガバマンでした?」

 完全にスイッチが入っている。いや、確信犯か。

「その辺にしろ。いい加減、俺も怒る」

 オメガエレンの後ろから、額に青筋を浮かべるアルファリヴァイがぬっと手を伸ばして腰を抱いた。

「珍しい。リヴァイさんが怒ってる」
「当たり前だ」
「…いつも余裕のくせに」
「余裕なわけあるか。隠してるんだ、これは」
「どうして隠しているんですか?」
「格好悪いところ、見せられねぇだろうが」
「…どんな姿だって、格好いいですよ」

 オメガエレンはアルファリヴァイの体へ寄り掛かる。

「物足んねぇんだろ?なら、抱かせろよ」

 アルファリヴァイの凶悪的な陰茎は、すっかり天を向いている。
 オメガエレンの瞳がとろん、としている。

「はい……どうぞ…今度はたっぷり中出しして欲しいです」

 オメガエレンは自ら秘所を指で広げて、アルファリヴァイを誘った。
 広げられたそこは熱を孕んで潤み、男根を待ちわびている。

「ひくひくさせやがって…淫乱め」

 リヴァイの目の前でアルファリヴァイとオメガエレンに覆いかぶさった。
147: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:11:42.30 d AAS
「……俺をだしに使いやがって」
「り、リヴァイ兵長!」

 溜息をついているところへ、自分の部下であるエレンが走り寄ってきた。
 そのまま勢い余って抱きついてくる。
 公私共に真面目な彼は、今まで絶対こんなことはしなかった。
 触れ合う時ですら緊張して肩を上げているような少年だったのに。
 今はぎゅうっと全裸の体を自分に押し付けている。

「……エレン」
「リヴァイ兵長はやはり凄いです! ひゃくまん……? とにかく凄い大金を手に入れるなんて……! それに比べてオレは、お役に立てず……」

 とろ、とエレンの内ももを粘着いた白い液体が流れていく。

「……よく頑張った」

 リヴァイは極めて優しい声を意識して、彼の丸い頭を撫でた。

「あ、ありがとうございます……あの、オレを軽蔑、しないんですか?」

 同じリヴァイと言えど他の男に中出しされたんですよ?とその瞳は訴えかけてくる。

「するわけねぇだろ」
「……あの、オレ毎晩リヴァイ兵長を待って、中をほぐしてるんです。兵長が気持ちよくなれるように、張り型使って自慰を……」

 エレンはぽつり、ぽつりと自分の罪を告白するかのように、打ち明ける。

「知っている」
「え!?」
「お前が準備してくれていたことは、体に聞けばすぐわかる。あと、張り型の隠し場所……机の引き出しは止めておいた方がいい。すぐに見つかる」
「う、うわあああああ! 恥ずかしい! 気づかれていたんですか! 恥ずかしい!」
「……もう変な緊張せずに、俺に全てを預けてくれるか。エレン」
「もちろんです……ですが、あの」
「なんだ」
「オレ、さっき……初めて潮吹き、した、みたいで……」

 初めては全部兵長が良かった、と小さく呟く彼が愛おしい。

「いや、以前から時々していたぞ。暗かったからわからなかったか? だが、すげぇ水音させてただろ」
「……えっ」
「安心しろ、エレン。お前の初めての相手はすべて俺だ」

 エレンはようやく安心したように笑い、それから恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせていた。
148: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:11:58.56 d AAS
「ふぅっ……疲れた。でも、良いトレーニングになりました。次のライブではもっと良いパフォーマンスができそうです」

 えれりんは大きく伸びをして、堂々と全裸で立っている。
 努力家な彼を、リヴァイプロデューサーは普段と違った見方で見つめていた。

「リヴァイプロデューサー。オレ、これくらい楽勝ですよ。何ならここにいる全員の男とハメたっていい。だから……いつでもオレを使ってください」

 その言葉はきっと本心なんだろう。
 だからこそ、気高い。
 どんなに汚れようとも彼は綺麗なままだ。

「なぁ、えれりん。足を開くのは俺の前だけにしろ」
「え?」
「嫉妬で気が狂いそうになる」
「オレが……ほかの人とエッチすると?」
「そうだ。そんなことをされたら、お前を監禁したくなる。誰の目にも触れないところへ隠したくなる」

 堂々としていたえれりんは急に下を向いてしまった。
 その表情は見えないが、彼の可愛らしい耳が真っ赤に染まっている。

「リヴァイプロデューサーが嫌がることは……絶対しません」
「なら、良かった」

 リヴァイプロデューサーがえれりんを抱きしめると、彼は急に初な少年に戻ってしまった。
 ただ抱きしめているだけなのに、腕の中で恥ずかしそうに身を硬くさせている。
 いつもの娼婦のような艶やかさはみじんもない。
 初恋を知った少年だ。

「ほら、帰るぞ」

 キングリヴァイは早々に身支度を整えて、ブリリアントエレンを振り返る。
 いつもであれば服を素早く着て、キングリヴァイの背後に控えているはずだ。
 だが、今日は全裸のままコートを抱きしめた状態で座り込んでいる。

「おい、どうした」
「……したい」
「あ?」
「あの、今すぐ……せ、性行為をしたくて……」

 恥ずかしそうに視線を逸らしながらブリリアントエレンは呟く。
 彼から誘ってきたのは初めてのことだ。
 いつもキングリヴァイが命令といった形で、体を暴くのだから。

「……今してただろう」

 アルファリヴァイと。

「オレは、キングとしたいんです!」

 彼は必死に叫ぶように言った。
 こんなに素直に自分の気持ちを伝えてくるブリリアントエレンに驚いてしまう。
149: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:12:02.75 d AAS
 急にしおらしくなって、一体どうしたというのだ。
 いつも生意気に憎まれ口を叩き、ぎらつく瞳で睨んでくるのに。

「お願いします…オレを離さないで」
「誰が離してやるかよ」
「あなたに捨てられたら…困る…」
「これはハニートラップか?」

 キングリヴァイは口角を上げながら、座り込んだままのブリリアントエレンの額へ口づけをした。

「…く、口にしてください」

 ブリリアントエレンは歳相応の顔を見せて、強請った。
 この淀んだ空気の室内で拍手が沸き起こる。

『皆さん、おめでとうございます…皆さんの悩みを少しでも軽くすることができたでしょうか…さぁ、足元にお気をつけてお帰りください…』

 ぐわんぐわんと反響する声で、司会者が何やら言っている。
 開け放たれたドアから、新鮮な空気が流れ込み、頬をねぶっていった。
 リヴァイが目を覚ました時、そこはエレンの部屋だった。
 隣には全裸のエレンが気持ち良さそうに眠っている。
 ――夢、だったのか…?
 とても長くていやらしい夢を見ていた気がする。
 床には脱ぎ捨てられた衣服があり、昨晩エレンと体を繋げたことは覚えている。
 時刻はまだ夜明け前。
 身支度を整えて、自分の部屋に戻るとしよう。
 リヴァイは体を起こし、自分が脱いだ服を拾い上げる。

「へいちょう…」
「なんだ、起きたのか」
「はい…あの、今から、しませんか?もう一度」
「…どうした?」
「オレ、なんか変な夢見て…ウズウズしちゃって…」
「奇遇だな、俺もだ」

 恥ずかしそうにしているエレンを再びベッドへ押し倒して、マウントポジションを取る。

「せっかくランプに火を入れたが…消すか?」
「いえ…大丈夫です」
「いいのか?」
「恥ずかしいけど全部、見て欲しいんです」
「悪いが…今日は俺も途中で止まれそうにない」
「中に出して…いいですよ」

 うっすら笑って、リヴァイの眉間に唇を寄せる。
 エレンへの愛しさがこみ上げて、もう止まりそうになかった。

 二人の影が重なり合うベッドの上。
 その足元に大量の紙幣が詰まった包みが置かれていることに気づくのは、もう少し後のことである。

END(屁爆)
150: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:12:38.12 d AAS
〜これまでのお話〜

大学教授のリヴァイ(α)と大学生エレン(Ω)が紆余曲折を経て、番になりました。
リヴァイが発明した触手のテンタクル(またの名をオメガ専用防犯アイテム)と一緒に楽しく暮らしています。
3月30日、無事に20歳を迎えたエレンは……!?

オメガテンタクルBirthday0330

 リヴァイ・アッカーマン、バースタイプはアルファ。
 職業は大学教授。
 大学の生徒であった運命の番を見つけ、現在同棲中。
 番の名はエレン・イェーガー、バースタイプはオメガ。
 大学二年生。
 来月からは三年生へ進級する。
 彼と同棲を始めて一年経つが、大学を卒業するまでは役所に届け出もしない約束だ。
 もう自他共に認める夫婦のような生活をしているので、今さら法で縛ったところで何が変わるわけでもない。
 あぁ、エレンの苗字は変わるが。
 それだけだ。
 番の契約という、血よりも濃い絆を結んだ瞬間に、リヴァイはすでに覚悟をいろいろと決めていた。
 自身が研究する分野ではあったけれど、運命の番なんてものは半信半疑だった。
 どの文献やデータを読んでも、いまいちピンとは来なかった。
 それも今なら納得できる。
 運命の番というものは、言葉で簡単に説明できるものではない。
 血に引き寄せられるのだ。
 そのことが分かっただけでも、自分は成長したのかもしれない。
 隣にエレンがいて、とても充実した毎日を送っている。
 番馬鹿かもしれないが、なにしろエレンは可愛い。
 器量がいい。
 度量もあるし、内なる獣を飼っているような激情家なところが気に入っている。
151: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:12:45.67 d AAS
 そんなエレンも、ようやく二十歳の誕生日を迎えた。
 三月三十日の桜舞い散る季節、エレンはこの世に生を受けた。

「やっと飲める!」
「とりあえず、いろいろと用意してみたが」

 エレンは瞳の奥をきらきらと輝かせて、はしゃいでいた。
 二人分のワイングラスと、リヴァイが運んできたビーフシチューを交互に見つめている。
 あんなに楽しそうな彼は久しぶりに見た。
 とくにここ最近は年度末ということもあって、リヴァイも忙しく、家に帰るのは夜遅くになる日が度々あった。
 エレンは健気にも自分を待っていてくれている時もあったが、大半が先に眠っていた。
 仕方がないのだが、しんとした室内が寂しくて、すやすやと眠っているエレンの頬をつついて遊んだりした。

「ううん!」

 寝ているのに、眉間に皺を寄せて怒られた。
 それでもめげずに、エレンの半開きの唇にキスをすると、

「おあえり……りばいさん……おやしみ」

 なんて、むにゃむにゃと喋って、すぐに寝息が聞こえてきた。
 寝顔が幼くて可愛い。
 本当は起こして、夜の営みとやらをしたいところだが、彼は滅多に承諾してくれない。
 同棲をしたばかりの頃は、よく体を繋げていたのに。
 それはもう獣のように、液体まみれになってエレンを抱き潰してしまった。
 それがアルファの性なのかもしれない。
 エレンだけが必要で、とにかく頭の中は彼のことでいっぱいになる。
 今は誘ってもだいたいが「NO」だ。理由を聞いても、

「どうせ三ヶ月に一度の発情期があるんですから、ヤらなくたっていいじゃないですか」

 と答えられてしまう。
 それはそれ、これはこれ、だ。
 リヴァイとしては、毎日抱いても抱き足りないのだ。
 でも彼はヒートがあるのだから、それ以外はセックスしたくないと言う。
152: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:13:01.67 d AAS
 これがマンネリというやつだろうか。
 番なのに、エレンはあまりにそっけなくて心配になってしまう。
 まさか他に男ができたのか?
 もしくは女がいいのか?
 自分にはもう飽きてしまったのか。
 番の契約を結んでいるのだから、そんなことはない……と信じたい。
 リヴァイは毎晩ベッドで眠るエレンのうなじの匂いを嗅いで、何も混じってないか確かめた。
 自分の匂いとは違う男の匂いが混じっていれば、それはエレンが不貞をはたらいたということになる。
 でも、何の匂いも混じっていない。
 むしろ彼の甘い匂いに、興奮してしまった。
 おかげ様で、最近は右手が恋人である。
 エレンの寝顔を見つめながら、右手を動かした。
 彼は全く起きなくて、虚しさだけが募った。
 エレンのスウェットの胸元から、勝ち誇ったかのようなテンタクルが出てきた時は怒りでガラスケースに閉じ込めようかと思った。
 そう、リヴァイとエレンの住む家には、もう一匹(?)家族のようなものがいる。
 触手のテンタクル。
 薄紅色で半透明。
 スライム状でぬるぬるとしており、大きさなど体を変幻自在に変えられる。
 これはオメガであるエレンを外敵から守るため、リヴァイが発明した防犯アイテムだ。
 なかなか優秀だが、自分のアルファ遺伝子を移植してあるため、エレンが大好きという同じ特徴が生まれてしまった。
 アルファの男たちにいいようにされてきたエレンは、以前まで男性恐怖症だった。
 なので、この便利なテンタクルに依存してしまい、リヴァイは一度これを破壊している。
 その時のエレンの落胆と怒りときたら!
 リヴァイがいるというのに「番なんかいらない」と喚き散らされた。
 結局は無事に結ばれたが、今でもテンタクルは油断ならない。
153: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:13:05.35 d AAS
 いわば、恋敵だった。
 扱いに困ってしまうが、背に腹は代えられないので、リヴァイがそばにいない時のエレンの警護を、テンタクルに一任している。
 最近のテンタクルは、リヴァイの言うことも聞かない。
 エレンの味方ばかりする。
 仮にも親はリヴァイだというのに。
 テンタクルはキュッキュッと体を鳴らして、エレンの体を這いずりまわっていた。

「……の、やろ」

 こっちはお預けを食らっているというのに、羨まし過ぎる。
 エレンいわく、最近テンタクルは乳首にはまっているらしい。
 普段から触手が吸い付いているせいか、エレンの乳首は敏感だった。
 全部、テンタクルのせいだ。
 リヴァイはチッと大きな舌打ちを一つ。
 すると、見ろよ、と言わんばかりにテンタクルは触手を器用に使って、エレンの上半身の裾を捲り上げた。
 寒い室内に、エレンの白い腹と桃色に膨らんだ乳首が姿を現す。
 テンタクルに悪戯をされているというのに、仰向けで寝ている彼は全く起きない。
 一発挿入しても、起きないのでは……?とすら思えてくる。
 本当はむしゃぶりつきたいところを、ぐっと堪える。
 しかし、触るくらい良いんじゃないか?
 その柔らかい乳首を転がして、舐めて、硬くさせて、吸い付くような肌を堪能して……頭の中はいやらしい妄想でいっぱいになる。
 エレンが足りない。
 やっぱり、彼に触れたい。
 いや、それは自分のプライドが許さない。
 エレンの意識がない時に触るなんて、フェアじゃない。
 自分の欲望だけで手を出すわけじゃない。
 欲求不満の自分を押し殺し、リヴァイはエレンの服の乱れを直し、羽毛布団をかけてやった。
154: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:13:20.55 d AAS
 それからトイレで抜いた。
 恋人がいるのに、なんて虚しい。
 でも、今日はエレンの誕生日だ。
 記念日だ。
 今日くらいはエレンもセックスしてくれるのではないか、という甘い期待を抱かずにはいられない。

「何を飲む?」
「ワイン! あっ、リヴァイさん、チーズも用意してくれたんですか。それっぽい」
「サラミもある」
「わ、おつまみいっぱいじゃないですか」

 エレンが子どものような声を上げる。事実、自分よりはうんと年下で、子どものようなものだ。
 そう言うと、きっと彼は怒るだろう。
 エレンの二十歳の誕生日はどこかへ食べに行くか、と提案したが、彼は家が良いと言った。
 一番くつろげて、リヴァイと二人きりでいられるからだ、とはにかみながら答える姿は脳裏に焼き付いている。
 だから、今日の料理はほとんどリヴァイが作って、用意した。
 作っている最中、何度もキッチンにやって来て、テーブルの上の料理をつまみ食いしていくエレンを「こら」と叱った。
 そのたびに、嬉しそうに笑ってリヴァイの後ろ姿を眺めていた。
 これが幸せか、としみじみ思う。
 エレンへの誕生日プレゼントは、もう一週間も前に渡してある。
 彼の希望で、欲しがっていた有名ブランドのスニーカーを一緒に買いに行った。

「もっと高いやつでもいいぞ」

 と提案したが、

「これが良いんです。大事にしますね」

 と嬉しそうに靴の箱を抱えていた。
 いつから履いて行こうと悩んでいたが、結局四月から使うことに決めたらしい。

「誕生日おめでとう」
「へへ……ありがとうございます」

 二人で乾杯をして、グラスを傾けた。

「あ、おいしい」
「お前、酒は強いのか?」
「どうですかねぇ……でもなんか強い気がする」

 エレンはぐいぐいとワインを煽った。
 飲みっぷりがいいので、見ていて気持ちがいい。
 リヴァイも酒はザルなので、一緒に飲めるのなら嬉しい。
155: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:13:24.26 d AAS
 同学年で一番誕生日が遅い彼は、この日を待ちわびていたらしい。
 これで大人の仲間入り。
 酒を嗜む年齢になった。
 浮かれていたせいなのか、何なのか。
 エレンは早々に酔っ払った。

「うぃ……」
「エレン、お前……顔が真っ赤だぞ。全然強くねぇだろうが」

 リヴァイが止める間もなく、エレンはすっかり出来上がっていた。

「えっ、オレ全然いけますよ! 大丈夫ですよ!」

 顔は赤いが、受け答えははっきりしている。
 だが、酔っぱらいの「大丈夫」は極力信じない。

「いいから、酒はストップだ。水を持ってくる」

 エレンから飲みかけのグラスを取り上げて、リヴァイは席を立つ。

「ぶぅ」

 不満そうに頬を膨らませている。

「そんな顔したって可愛くねぇぞ」

 可愛いけれど。
 しかし、リヴァイの考えは甘かった。
 自分が席を立った数分の間に、エレンは一升瓶を抱えて飲んでいたのだ。
 一体どこから引っ張り出してきたのか。
 リヴァイが隠し持っていた蒸留酒だ。

「馬鹿、お前何飲んで……!」

 慌ててエレンから瓶を奪いとった。
 心配したのは急性アルコール中毒だ。

「らいじょうぶ、らいじょぶれすって」

 エレンは先程よりも顔を真っ赤にして、ニコニコと笑っている。
 呂律すらまわっていない。
 体はメトロノームのように左右に揺れていた。

「気分は悪くないのか」
「ん、平気、れす」

 とろんと瞳をとろかせているエレンは、情事中を彷彿させた。
 相手は酔っぱらいだというのに、肌がしっとりと汗ばんで、色っぽい。

「ほら、水」
「飲ましてくらさい。んー」

 なんて言って甘えてくる。
 普段と全く違う様子に、理性がぐらつく。
 エレンはリヴァイに寄りかかり、唇を尖らせている。
 その唇にそっとキスをしてやって、水のグラスをエレンに持たせた。
156: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:13:39.46 d AAS
「飲ましてくださいってば! ほら、口移し!」

 怒ったように服を引っ張る。
 酒が入っているせいで、大胆になっているらしい。
 甘えたになっているのか。

「わかった、わかったから引っ張るな。服が伸びる」

 リヴァイは仕方がない、とばかりに水を自分の口に含んでから、エレンの口の中へ上手に流してやった。
 濃厚な酒の香りがする。
 エレンの舌は発熱しているかのように熱い。

「ん……ふ……あ、これ酒じゃない……」

 しゅん、とエレンは眉尻を下げて、悲しそうな顔をする。
 とても酷いことをしているような気になるが、これは仕方がない。

「当たり前だ。水を飲め」
「はぁい」

 二回、三回と口移しを続けた。

「ふふふ……水ぬるい……」

 変な笑い方をして、エレンはソファにもたれかかった。
 ご機嫌だ。
 酔い方は可愛らしいので、しばらくの間エレンを見ていたい。
 本当は今日くらいセックスしたかったけれど、またお預けだろう。
 こんな状態の彼を組み敷くなんて、罪悪感に悩まされそうだ。

「……おしっこ」
「トイレ行けるか」

 エレンの腕を引いて立ち上がらせようとするが、彼の四肢に力は入らない。

「無理……ここでする……」
「馬鹿言え、こんなところで漏らす気か!?」
「テンタクルー……おいでぇ」

 エレンが呼ぶと、ぬるぬるとキッチンの方からテンタクルが触手を使ってやって来た。
 今日は体内に入れず、放し飼い(?)にしていたのだ。
 テンタクルの見た目は気持ち悪いスライム状の触手だが、エレンの言うことには従順だ。

「テンタクル、餌だぞ」

 そう言って、エレンはスウェットのズボンのゴムを引っ張った。服の中に入れ、と促している。
157: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:13:43.20 d AAS
 テンタクルはにゅるん、とその服の中に体を滑りこませる。

「おい……エレン。まさか」
「ん……出すぞぉ……ちゃんと飲めよぉ」

 しょろ……と軽い水音がリビング内に響き渡る。
 だらしなく足を広げた状態でソファに座り、その体勢のまま、しょろしょろしょろ……と排尿の音が聞こえていた。
 彼はグレーのスウェット着ていたが、見た目には何の変化もない。
 股間のあたりに漏らしたような跡は一つも見えない。

「ん……んっ、はぁ」

 色っぽいエレンの吐息と、じゅるじゅると何かすするような音が混ざる。
 後者は間違いなく、テンタクルがエレンの尿を吸い取る音だ。
 テンタクルの餌は、主人の体液である。
 それはもちろん尿も例外ではない。
 テンタクルは喜々として、エレンの股間に張り付き、餌を吸い取っている。

「おしっこ、いっぱいでちゃった」

 エレンは体をもぞもぞと動かせて、排尿が終わったことを知らせる。
 少しだけ……ほんの少しだけ、ここで粗相をしてしまったエレンを見てみたいと思ったのは秘密である。

「お前……だらしねぇ下半身しやがって」

 リヴァイは大きく舌打ちする。
 すると、エレンは大きな瞳を動かして、

「あれ? どうした、テンタクル。まだメシ足んねぇの」

 と、リヴァイに向かって語りかけた。

「……あ?」
「仕方ねぇなぁ……ほら、おっぱい飲むか?」

 エレンは上半身の裾を捲り上げて、自ら乳首を露出させた。
 いつぞや夜中に見た彼の白い腹が、また露わになった。

「お、おい、ちょっと待て。エレン」
「? どうしたんだ、いつも飛びつくのに。おっぱいいらないのか?」
「……いる」

 素直に答えてしまったが、そうじゃない。問題はそこじゃない。
158: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:13:58.23 d AAS
「エレン、待て。俺はテンタクルじゃない」

 エレンはどうしてそうなったのか、リヴァイをテンタクルだと思い込んでいる。
 会話が咬み合わない。
 どこをどう見たら、自分とテンタクルを間違えるのだ。

「うん、わかった。今日もセックスごっこしような」

 エレンはとろけた顔で、リヴァイの頭を撫でてくる。
 愛おしげに滑る彼の指先に、苛立ちが芽生える。

「……お前、いつもテンタクルと何してやがんだ」

 自分が居ない時、そんないやらしい行為をしていたのか。
 自分の誘いは断るくせに、テンタクルはいいのか。
 いや、テンタクルとしているからリヴァイとする必要がないのか。
 ほぅ、面白い。
 リヴァイはテンタクルになりすますことに決めた。
 これで普段から、彼がどんな生活をしているのか分かる。

「おいで、おっぱいやるから」

 エレンはリヴァイの後頭部を、自分の裸の胸に引き寄せる。
 準備万端に服の裾を鎖骨まで捲り上げて、リヴァイを待っている。
 自分の目の前に、エレンの乳首があった。
 弄られすぎて敏感なそれは、ふっくらとしていて愛らしい。
 彼の甘い匂いが、より濃厚になる。
 リヴァイはそっと唇を寄せて、待ちわびた尖りを吸い込んだ。

「んっ! きょ、きょうは強くねぇか……お前……そんなにこれが欲しかったのか?」
「あぁ、そうだよ」

 リヴァイは強めにエレンの乳首を吸った。
 舌先でとんとんと弾いたり、ねっとりと舐めたり、時折歯を立てたり、強く吸い上げたり。
 開いた片方の乳首はリヴァイの指先が、悪戯を仕掛けた。
 指で弾いたり、手のひらで乳首を転がしたり、乳輪を軽く引っ掻いたり、胸全体を強く揉んだり。
 触手にはできない愛撫を施してやった。

「はぁ……あ、んっ……今日のはっ、違い過ぎ……! んんっ」

 エレンの唇から、嬌声が溢れ始める。
 違って当然、テンタクルではないのだから。
 むしろ、同じと言われたらプライドが傷つく。

「ん、はぁ……よしよし」

 エレンの乳首から母乳が出ることはないが、彼の手のひらが温かくて気持ちよかった。
 自分が幼い子どもになったような気すらしてくる。
159: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:14:01.93 d AAS
 テンタクルが足先のズボンの裾から、ひょっこりと顔を出した。
 床に広がって、ソファの上でいかがわしいことをする二人を見上げている。
 リヴァイはそっと、エレンの股間を撫でた。

「あっ」

 もじもじと太ももを擦り合わせている。
 間違いなく、服の下でそこは硬くなっていた。
 リヴァイはエレンの胸に吸い付きながら、スウェットのズボンの中に手を滑り込ませた。
 すべすべの肌に、柔らかな下生えを感じる。
 一時期、パイパンにハマって全部剃っていたこともあったな、と思い返す。
 剃らなくともエレンの陰毛は薄いので(しかもふわふわで手触りがいい)、生えていたって全然問題ない。
 エレンなら濃くても問題ないが。

「んん……きもちぃよ、テンタクル……」

 エレンは慣れているのか、腰を浮かせて自分からズボンと下着を脱ぎ捨てた。
 それから律儀に足を大きく広げた。
 片足はソファの背もたれに引っ掛けて、丸見えである。
 明るいリビングの下、色素沈着もない美しい裸体が目の前に晒される。
 エレンの陰茎は赤く、ぬるぬると光っていた。
 リヴァイは指で輪を作って、ごしごしと扱き始めた。

「あっ、テンタクル……いいっ……リヴァイさんの、手みたいで……すげぇ」

 エレンの体は熱い。
 まだ、自分をテンタクルだと勘違いしているのか。

「いつも俺の誘いは断るくせに、ずるい奴だな」
「うぅ……ごめんなさい……ゆるして」

 半ば熱に魘されたように、エレンは呟く。
 そっと忍び込ませた、足の奥……そこはびしょびしょに濡れそぼっている。
 ――挿れたい。
 エレンに包まれたいという欲望に火が付いた。

「テンタクル……もう、いいだろ……入って来いよ……」

 自分から、くぱ、と蜜孔を広げて誘ってくる。
 普段からテンタクルにこんな表情を見せているのかと思うと、腹が立ってくる。
 テンタクルに人間のような感情はないが、それでも面白くない。
160: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:14:17.48 d AAS
 リヴァイは一瞬の罪悪感に目を瞑り、早急に前立てを緩めた。
 数回扱いてから、ぴたり、とエレンのアナルの縁に当てる。
 もう何もしなくとも、彼の媚肉が飲み込んでしまいそうだった。

「あつっ……おまえ、こんなになっちゃったのか……?」

 いつもとは様子の違うテンタクルに、エレンはきょとんと首を傾げている。

「……犯してやる」

 リヴァイは半ば無理やり、エレンの中へ自身を押し込んだ。
 いつもはもっと入念に前戯をするのに。

「く、ああっ……あっ!」

 エレンは海老反りになって跳ねた。
 よほどの衝撃だったのだろう。

「つ、貫かれてる……オレっ……あぁ……テンタクル、お前でかさも長さも、リヴァイさんみたいっ、良いっ」

 乱暴にされて、エレンは喜んでいる。

「テンタクル、エレンのちんぽも弄ってやれ」

 リヴァイは良い子にしているテンタクルに声をかけた。
 了解、とばかりにそいつは触手を伸ばしてきた。
 天井を向いて透明な液体を止めどなく流しているエレンのペニスを、にゅるん、と飲み込んでしまった。

「ひぁっ……な、なに……」

 テンタクルはリヴァイの指示を上手に理解して、オナホのように彼の陰茎をねっとり包み込む。

「休憩している暇は無ぇぞ、エレン」

 ギシ、ギシ、ギシ、……とソファが悲鳴を上げて揺れ始めた。
 リヴァイが激しく律動を開始したのだ。

「中出ししてやろうか。それとも顔射がいいか」
「んあっ、あぁうっ、あっ、前も、後ろも、やばいっ」
「前と後ろじゃねぇだろ……? お前のここは」
「オレのっ、ちんちん、と、お、おしりっ……」
161: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:14:21.11 d AAS
 ぎゅう、と胸が締め付けられるような不思議な感覚。
 こんなに淫乱で可愛い男が、自分のものだと証明したい。
 エレンの体の弱い部分は知り尽くしている。
 そこを徹底的に突いてやった。

「あっ、あっ、あっ……あ、出るっ」

 熱を持ったその体が大きく跳ねた。
 その瞬間に、エレンの精子がぴゅっ、ぴゅっ、と飛び出す。
 テンタクルは新しい餌を見つけて、じゅううう、と音を立てて吸い上げた。

「んああっ」

 達したばかりの更なる刺激に、エレンは甲高い悲鳴を上げた。
 ――潮、噴くか?
 ちょっとした好奇心が芽生えて、再び彼の前立腺を突く。
 テンタクルもペニスへの刺激を止めない。
 濡れ過ぎた結合部は、ぐちゅっ、ぐちゅっ、と恥ずかしい音を垂れ流している。

「えっ、ちょっと、だめだっ……それ以上したらっ、出ちゃうから!」
「何が出るって?」
「し、しお……! ああっ、恥ずかしいからっやだっ! 見るな! はぁっ、あっ……」

 エレンの腰が浮く。
 そして、ペニスの先端からびゅーっと勢い良く透明な液体を噴射した。
 それはテンタクルが吸い上げる間もなく、リヴァイの腹にかかった。
 部屋着がぐっしょりと濡れて色が変わってしまったけれど、とても良い気分だった。
 テンタクルは不服そうに、萎えたエレンのペニスに纏わり付いている。
 潮噴いた瞬間、リヴァイは少しだけ中で射精してしまった。
 予想外の動きをした体内に、我慢ができなかった。
 ゆっくり腰を引いて自身を抜き取ると、エレンのアナルは寂しそうにひくひくしていた。

「潮噴いたな、エレン」
「はぁ、はぁ……ん、だから出るって言った……」

 エレンは全身しっとりと汗をかいて、桜色に染まっていた。
 頬だけが赤く、熟れたように艶めいている。
 どことなく全身色っぽい。
162: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:14:36.83 d AAS
「……だったらどうする?」

 わざとそう言ってみると、エレンの両目は零れそうになるほど、大きく見開かれた。
 それからすぐに、キッと獣のように睨み上げてくる。

「絶対許さない」

 エレンは急に起き上がった。

「テンタクル、リヴァイさんを拘束してくれ」

 テンタクルは勝手にリヴァイの命令を解除して、キュキュッと触手を触れ合わせて鳴いた。
 エレンのペニスから移動して、俊敏な動きでリヴァイの両手を封じる。
 本当にこいつはリヴァイよりもエレンの命令を優先しやがる。

「……今度は何だ」

 リヴァイは動じない。
 後ろ手にテンタクルが両手を封じ込んでいる。
 ちょっと力を加えれば、簡単に解けそうだったがリヴァイはあえてそうしない。

「浮気は絶対許せねぇんで。これ……オレ以外の奴に挿れたんですか?」

 皮肉げに唇を歪めて、リヴァイの剛直を数回手で扱いた。
 その唇に吸い付きたいと思っているのだから、自分もだいぶ呑気である。

「駄目ですよ、オレのものなんですから」

 エレンはリヴァイの体を押し倒した。
 後ろ手に縛られた腕と、それを拘束するテンタクルが潰れた。
 もっとも、テンタクルは変幻自在なので、さほどダメージは食らっていないだろう。
 ギュッ、と変な音が聞こえたが、たぶん……大丈夫なはずだ。

「誰と性行為したのか言ってください」
「……言ってどうするんだ」
「……そいつ……どうしてやりましょうね」

 エレンは危険とも言える笑顔で、含みを混ぜる。
 まるで人を襲いそうな声音だ。
 ぞくぞくする。
 この獣のような思いは、まっすぐ自分に向けられているのだから。
 こんなに興奮することはない。

「教えない」
「……ふん、どうせ……どっかの尻の軽い男、引っ掛けてきたんでしょう。いや、相手は女性? 全く、腹が立つったら」

 チッ、とエレンは舌打ちを一つした。
 そのやり方が、リヴァイにそっくりだった。
 一緒にいるので、段々と癖が移っていたのかもしれない。
163: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:14:40.51 d AAS
「……リヴァイさん、よーく見ててください。今から、このガチガチのちんぽがどうなるか」

 エレンは片足を床に付き、足を広げてリヴァイに跨る。
 自分から騎乗位の体勢で、リヴァイのペニスを挿れてくれるらしい。
 恋人の大胆さに、こちらも興奮してしまう。
 ゆっくりと腰を落としていき、いやらしいエレンの後孔は難なくリヴァイを飲み込んでいく。

「あぁぁ…すげ、奥までくる…はぁっ」

 彼は白い喉元を晒して、快感に震える。
 根本まで入りきった時、エレンは呼吸がすでに乱れていた。

「悪さをするちんぽは、お仕置きですよ!」

 エレンは腰をグラウンドさせ、妖艶に振り始めた。
 ぱちゅ、ぱちゅ、と水音と肌が触れ合う音は、よく響いていた。
 発情期でもないのに、淫らに乱れていく。
 時にゆっくりと、時に激しく動いて、エレンはリヴァイを責め立てる。
 いつの間にこんなテクニックを身につけたのか、彼の中は精子を絞りとるみたいにうねった。

「ねぇ……リヴァイさん。オレと……その浮気相手の奴、どっちが気持ちいい? 教えてくださいよ」

 エレンは腰を振りながら、質問する。

「どうだったか……忘れた」
「! オレの方が気持ちいいだろ! ほらっ、どっちが気持ちいいのか、言えよ!」
「……エレンの方が気持ちいい」
「当たり前です! オレの中はリヴァイさんの形になってるんだから……! ほらっ、早く精子出して!」

 エレンの体内は、リヴァイの射精を促した。
 それに流されて、勢い良く彼の中に射精した。
 ドピュッ、ドピュッ、と濃い精子がエレンの最奥に注ぎ込まれる感覚。

「うっ……」
「はは……いっぱい、出しましたね」

 ちゅぽ、という可愛い音を鳴らして、リヴァイのペニスを引き抜いた。
 とたんに、粘り気のある白い液体がとろとろと溢れる。
164: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:14:56.33 d AAS
「ほら……すごい……こんなに濃い」

 いやらしい顔をしたエレンは、白濁液を掬いあげて自分のペニスになすりつける。
 自分がどんなに卑猥なことをしているのか、分かっているのか。

「今の気分はどうです?」
「……最高だ」
「なんですか、それ……オレのことは飽きたくせに」
「飽きねぇよ。そもそも浮気なんかしてねぇからな」
「……嘘だ」
「俺はお前以外と性行為をしたいと思わねぇ」
「……オレが淫乱でも?」
「俺相手限定だったら、最高だ」

 エレンはそっと屈みこんで、リヴァイと唇を重ね合わせた。
 間近で見る彼の顔は、すこし照れくさそうだった。

 ギュウ、とリヴァイの下から聞こえて、エレンが「あっ」と声を上げた。

「テンタクル、ごめんな」

 リヴァイが体を起こすと、もういいでしょ?と言わんばかりにテンタクルがにゅるにゅると姿を現した。
 エレンは気まずそうに、床へ足をつく。
 その後孔からはとろとろと精液と彼の愛液が混ざったものが、溢れ出た。
 上に捲りっぱなしだった上半身の服の裾も引っ張って、元の位置に戻した。
 下半身だけ何も穿いていないという卑猥な格好だ。

「せっかくの誕生日なのに……」

 食事そっちのけで、自分たちはこんなことをしている。
 前にもこんなことがあった気がする。
 中途半端に食べたテーブルの上の料理を、エレンは申し訳無さそうに見つめた。

「エレン」
「ん? はい?」

 おつまみ用のサラミを口に咥えて、リヴァイを振り返った。

「続き」
「えっ、まだ? だって、どっちも射精したじゃないですか」
「射精したら終わり、なんてルールは無ぇだろ」

 目の前にある白い双丘を、リヴァイは包み込むように撫でた。
 エレンの尻は美しい曲線を描いている。

「ん、変な触り方して……」
「頼む」
「……仕方がないなぁ」

 エレンは二、三枚サラミを食べてから、ティッシュを二、三枚取った。
 足の間を流れるものをティッシュで拭ってから、ソファに腰掛けた。
165: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:14:59.96 d AAS
「オレの誕生日なのに」
「ちょっとぐらい、おじさんの相手してくれてもいいだろう」
「いつもしてるじゃないですか」

 言いながら、エレンの手はリヴァイのペニスへと伸びる。
 指先でくりくりと亀頭を弄り、裏筋をくすぐった。
 また天を向いて硬くなっている。

「もっとだ」
「どうして欲しいですか? また、おっぱい吸いたい?」

 エレンは人の悪い笑みを浮かべている。

「酔っ払ってる間の記憶はちゃんとあるんだな」

 リヴァイは口角をひっそりと上げる。
 先ほど、酔っ払った彼の胸にむしゃぶりついたのを、ちゃんと覚えているらしい。
 いや、むしろそれを促したのはエレンの方だ。こっちに非はない。

「ふふ……リヴァイさん、すげぇ赤ん坊みてぇだった」
「じゃあ、お前がママになるか?」
「……なりません」

 エレンは拗ねたように唇を尖らせた。頬が赤い。
 彼の体はオメガだ。
 今は学生であるとはいえ、いずれ母になれる体を持っている。
 それに、リヴァイはいつか……自分の子どもを孕んで欲しいと願っている。
 もちろん、それはエレンが了承してくれたらの話だ。
 嫌だ、と言われたら……仕方がない。
 自分一人の問題ではないのだ。
 エレンに断られたからと言って、愛情が冷めるわけじゃない。
 それとこれとは別の話だ。

「……そうだな」

 リヴァイは呟き、隣のエレンの体にもたれかかった。
 肩から伝わる、熱いほどの体温が心地良い。

「今はまだ、です」

 エレンがぽつり、と囁いた。

「な、なんにも考えていないわけじゃありませんから! そ、そりゃあ、オレたち番なわけだし……」
「……ありがとうな」
「なんでお礼言うんですか! お礼言われるほどのことじゃないですよ。恥ずかしいじゃないですか!」

 照れる彼を見ていると、こちらにもそれが伝染して照れくさくなる。
166: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:15:15.79 d AAS
「なぁエレン……いつも、どうやってるんだ」
「え、いつもって……?」
「いつもテンタクルと、イイコトしてるみてぇじゃねぇか。俺をテンタクルと間違えるくらい」
「そ、それは……」

 エレンが目に見えて、うろたえ始める。
 忘れたわけじゃないだろう。
 酒を飲んでもしっかりと記憶がある彼なら。

「テンタクル使って、いつもやってること見せてくれよ。セックスごっこってなんだ?」
「無理! 無理無理無理! ほんっとに無理ですからっ」
「テンタクル」

 リヴァイが呼ぶと、テーブルの下にいたテンタクルは触手を伸ばしてエレンを捕らえた。
 本当に今日は人使い……もとい触手使いが荒いので、後で休ませてやらねばなるまい。

「ちょっと、おい、テンタクル! 今日はしないって!」
「いいじゃねぇか、すればいい。今日も」

 今日も、のところを強調して言うと、エレンは泣きそうな顔になった。
 テンタクルはいつものように、キュッキュッと触手を鳴らしながら、エレンの上半身から服を抜き取ってしまう。
 明るいリビングで、今度こそ全裸となってしまった。
 室内は一応暖房が効いているはずだが、エレンは寒そうに震えた。
 いや、寒くて……というよりは、興奮に震えているようだ。
 半透明の無数の触手たちが、一斉にエレンの体を包み込む。
 初めて触手を見た時、エレンはかなり怯えてぎゃんぎゃん泣き叫んだものだ。
 それが今やどうだ。気持ち良さそうに身を任せている。

「あっ……へんなとこ触るなって、ん……」

 触手はエレンの体を拘束するのではなく、優しく愛撫している。
 さわさわと全身を撫で擦ったり、つんと勃起した乳首に吸い付いたり、足を広げてペニスを苛めたり、ひくつくアナルに入り込んではすぐに出て行ったり……決定的な快感を与えない。

「んんっ……はぁ……リヴァイさん、見てる……?」
「おう、見てるぞ。いつもこんなことやってんのか」
「……うん。留守番……してる時……こうやって」

 言いながら、エレンの手は自分の陰茎に伸びる。
 テンタクルの触手と一緒にぬるぬると扱き始める。
167: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:15:19.43 d AAS
 これはただの自慰だ。
 リヴァイの目の前でオナニーショーをしているようなものだ。
 普段、どうやって自分の体を慰めているのか、丸わかりだ。
 エレンの指先の動きは辿々しく、けれど、とても大胆だった。
 ペニスの先端を指で弄るたび、広げたアナルの縁が収縮していた。
 テンタクルの体が半透明なため、何もかも透けて見える。

「恥ずかし……リヴァイさんに、見られてる……ううっ……は、ぁ」

 エレンに気づかれないように、ごくりと唾を飲み込む。

「テンタクル……いつもの、あれ、やって……」

 心得たように、テンタクルの形状がうねうねと変化する。
 想像以上に大きい。
 それはまるで人間の形だった。
 エレンはテンタクルが創りだしたその巨大な人形に、抱きつく。
 腕だけでなく足まで絡ませて、密着する。
 ――これがセックスごっこかよ。

「ん、はぁ、テンタクル……んちゅ」

 あろうことか、エレンはその人形にキスまでしている。
 熱に浮かされた顔をして、ちゅ、ちゅ、と唇を吸い付かせ、舌でぺろぉ、と舐めたりしている。
 見せろ、と言ったのは自分だが、なんだか面白く無い。

「あっ、あっ、あっ、……腰っ動いちゃう……あっ」

 エレンはテンタクルにペニスを擦り付けるように、腰をへこへこと振った。
 半透明なテンタクルの体に、熱り立ったペニスが押し付けられているのが見える。
 ぬるぬると滑って、気持ちいいらしい。
 エレンは、だんだんとその行為に夢中になっていく。
 リヴァイがここにいることなど、忘れてしまったかのようだ。
 テンタクルを押し倒し、覆いかぶさるような格好でエレンは淫らに腰を揺らめかせる。
 リヴァイの方に向けられた尻は濡れそぼって、糸を引いている。
 おそらくテンタクルではなく、エレン本人の愛液だろう。
 寂しそうなアナルがリヴァイを誘っている。
 苛立っていたリヴァイは、そっとエレンの背後に音もなく近づいた。
 それから一気に、逸物をエレンの中へ挿入した。

「あああっう!」

 突然の挿入にびっくりしたエレンは、海老反りになって嬌声を上げた。
168: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:15:35.16 d AAS
「あっ、なっ、なんで、ちんぽ……いれる、のぉっ!」
「嫌だったか?」
「う、嬉しい……本物が一番いいっ」

 エレンは、嬉しそうに笑い、腰を高く上げた。
 もっと深くまで入ってきて、と促されているようだ。

「早くっう……動いて、……一番奥に、注ぎ込んで……っ」
「このスケベ野郎め。テンタクルといつもあんなことしやがって」

 リヴァイもまた律動を始める。

「だって、アッ、止まんねぇんだもん! エッチいっぱいしたくて、も、わけわかんな……リヴァイさん、いつも、仕事おせぇし……オレ、いつもっ留守番でっ……!」
「あぁ、そうだな……悪かった」
「リヴァイさんのっ、精子がっ、欲しい、よぉ……」

 もう我慢なんてできるはずもない。
 狂ったように、永遠にエレンと繋がっていたいとすら思う。

「アァ……やば、すごいのっ……くるっ……! あ、あ、……んんんっ」

 エレンの中がリヴァイを締め付ける。あっけなく、また達してしまった。
 精液全部、一滴残らず、彼の中に注ぎ込んでやった。
 ぽた、とエレンの白い背中にリヴァイの汗の雫が落ちた。

「ひ……あ……メスイキした……ぁ」

 エレンはすっかり雌の顔で、ぐったりとしている。
 どうやらドライでイッたらしい。
 しかし、これにはテンタクルが大ブーイングだ。
 エレンの下から出てきて、うねうねと無数の触手を動かして抗議の意を唱えている。
 言葉は喋らないが、なんとなくニュアンスは伝わる。

「テンタクルの餌が不足してるってよ」
「えぇ……もう無理です……出尽くした。もうなんにも出ない……」

 汗をびっしょりとかいたエレンは、ぐったりとリヴァイに寄りかかっている。
 テンタクルはエレンの体にまとわりついて、その汗をちゅうちゅうと吸い始めた。
 エレンは疲れきって、テンタクルの望むようにさせている。

「なんか……今日、いっぱいエロいことした気がする……」
「俺もそんな気がする」
「ん……眠い……」

 エレンの双眸は、とろん、と微睡んでいた。
 視界の隅ではテンタクルがご機嫌に、きゅ、と触手を擦り合わせていた。
169: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:16:10.04 d AAS
「リヴァイさん……おはよう、ございます……」
「おはよう。声がガラガラだな」

 リヴァイが朝食用のウィンナーを焼きながら振り返った。
 エレンの体はきちんと綺麗になり、昨日とは違うルームウェアに着替えている。

「リヴァイさんが体……綺麗にしてくれたんですか」
「あぁそうだ」

 フライパンを傾けて、ころころ……と皿の上に転がす。

「……今日何日ですか」
「三十一日」
「うわ……オレの誕生日終わった……」

 エレンは足をずるずる引きずるようにして、キッチンの椅子に腰掛ける。
 それすらもしんどそうだ。

「昨日のケーキ、残ってるぞ。手つけてない」
「オレ思ったんですけど……リヴァイさんとセックスすると、食事が疎かになる」

 今度は卵を二つ取り出して、目玉焼きを作り始める。
 あ、失敗して黄身が割れた。

「食欲よりも性欲が勝るんだろ」
「餓死しそう」
「しねぇよ。これからメシにするぞ」
「オレ、黄身割れた方でいいですよ」
「なんだ、割れたの見えてたのか」
「勘です」
「そうか。残念ながら二つとも黄身は割れてる」
 皿にレタスとミニトマトを添えたら、なんだかぐっと朝食らしくなる。
「ねぇ、リヴァイさん」
「なんだ」
「オレのチン毛知りません?」
「あぁ、昨日捨てといた」
「捨てといた、じゃないですよ! なんてことしてくれたんですか! ツルッツルじゃないですか! またパイパンになってる!」
「案外、気づくのが早かったな」
「さっきトイレ行ったらびっくりですよ。なんですか、アレ」
「パイパンだろ」
「知ってますよ! オレが昨日寝た後に、剃りましたね!? 危ないじゃないですか! オレが寝返りとかして、チンコ切れたらどうしてくれるんです!?」

 怒るところはそこか、とリヴァイは内心思う。

「大丈夫だ。動かないよう、テンタクルに四肢を押さえつけてもらったから」
「くだらないことにテンタクル使って……ただの便利アイテムじゃないですか」
「なかなか楽しかったぞ。剃毛」

 しょりしょり、と泡と一緒に剃るのが快感だった。
 綺麗になった股間はまるで子どものようで、背徳感も増した。

 

うんこ(笑)
170: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:25:09.51 d AAS
雌にされるエレンさんの話
by らいむぎ

 エレンは女遊びの激しい部類の人間だ。
 それ故、セックスフレンドは何人かいたりする。
 それでも社内で変な噂がたたないのは、大人になって相手を選ぶ目が肥えたからだろう。
 この女性ならば面倒なことにはならないと思った相手としか夜を共にしない。
 それは主に年上の女性が多かったが、それ以外でもエレンは女性から誘われることが多く、異性から好かれることが多い。
 一番面倒なのは年下で、自分のことを可愛いと思っている女だ。そういう子には「君にはもっといい男がいるよ」と困ったように笑って言えば、なんやかんやあっても最終的には丸く収まってくれる。

「イェーガーさん、今夜空いてますか?良かったら、ご飯でも一緒にどうかなと思って…」

 少し頬を染めて上目遣いで窺う年下の女性社員は可愛く、不安そうに身を縮ませるものだから胸が寄って柔らかそうに弾んだ。あー、ヤりてぇな。その胸に顔を埋めたらどれだけ心地よいかと想像すると、今すぐにでも誘いに頷いてしまいそうだ。
しかし、この子は明らかに“彼女”という地位に拘るタイプだろう。エレンは面倒なタイプだな、と心の中で溜息をつく。

「あー、ごめん。今日はちょっと約束があって」

 眉を下げて心底申し訳なさそうに謝る。
 本当は約束などなかったし、できればその柔らかそうな体を堪能したかったが、秘書課のお姉さんの家にセックスをしにいく予定ができた。たった今。

「そうなんですか…残念です」
「ごめんな。また今度、皆でどこか食べに行こう」
「はい…」

 決して“二人で”という約束はしない。下手に期待させて踏み込んだ関係を少しでも築いてしまえば面倒な事になるのはわかりきっている。
171: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:25:17.48 d AAS
 彼女は“皆で”と言ったことに少々不満げな顔を見せたが、すぐにその場から去ろうとはしなかった。
 エレンの顔をじっと見つめてくる彼女に、まだ何か用があるのかと首を傾げて見せる。

「何?」
「イェーガーさん、受付の先輩と付き合ってるって本当ですか?」

 拗ねた口調で問われ、エレンは「は?」と聞き返した。
 確かに受け付けには一人、体の関係を持つ女性がいたが…どうやら、二人で会っている所を社員に見られていたらしい。

「いや、付き合ってないよ。ああ、たぶん飲み会が終わった後で、帰る方向が同じだったから送っていった時じゃないかな」

 にっこり笑って答えると、彼女は「そうですか」と言って頭を下げて去って行った。
 受付の子と遊ぶのはしばらくやめておこう。
 今日行こうと思っていた秘書課のお姉さんの所もやめて、社外のセフレの家に行こうかと思案し始める。
 けれど、考えるのも面倒だ。
 学生の頃は良かった。
 何も考えずにセックスできたし、責任だって今ほど重くはない。
 あの頃は感じなかった色々なものが重くのしかかって来て、呼吸がし辛くなる。
 息苦しくて生き苦しい。
しかし、そうは思っても、まあどうにでもなるか、と思ってしまう程にはエレンは楽観的だった。
 だからこそ、こんなにも簡単に“下”を味わうことになってしまったのだ。
172: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:25:34.53 d AAS
「こいつは俺と約束があるんだ」

 エレンは、えっ、と声を上げそうになる。
                  
「どうして課長がイェーガーさんと…?」
「大学の後輩だ」

 本当に?と彼女がエレンの顔を見上げてくる。
 リヴァイがどういうつもりなのかはわからないが、これで腕を離してもらえると言うならうまく合わせるしかない。
 エレンは曖昧に笑って頷いた。

「…わかりました」

 彼女もリヴァイに言われたら従うしかないのだろう。
 渋々ながらも腕を離した彼女の顔は明らかに納得していなかったが、エレンはホッとした。
そうして、二次会へ行くメンバー 早くこの場を去りたいとばかりに頭を下げる。が、

「っ!」

 ぐい、と強い力で腕を掴まれて足が止まる。
 先ほどまで掴まれていた柔らかい手じゃなくて、固くて大きな男の手だ。

「おい、助けてやったんだ。少し付き合え」
「あのオレ約束があるんですけど…」
「キャンセルだ」

 それを決めるのはお前じゃねぇ!と叫びそうになるのを堪えて、じっとリヴァイを見つめる。
 男に腕を掴まれても全く嬉しくない。エレンは柔らかくてすべすべで、暖かい肌が好きなのだ。
173: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:25:38.59 d AAS
 リヴァイは片手で器用に煙草を取り出すと、一本口に咥えるとキンッといい音を立てる金属製のオイルライターで火をつける。
 煙草吸うんだ、と単純な感想が頭に浮かんだ。
                  
「…、吸い終わるまで待ってやる」

 その間に女に連絡しろと言うことなのだろう。
 リヴァイは、エレンのこれからの約束がセフレに会いに行ってセックスをするだけの大した物ではないことだと気が付いているのだ。
 試しに腕を引いてみてもビクともしない。
 力であってもこの男には勝てそうにない。
 エレンは諦めてスマートフォンを取り出すと、女に電話をかける。
 目の前で電話をさせるのだから性質が悪い。
 相手が電話に出る間、リヴァイは余裕で紫煙を吹かす。
 様になっているのが少し腹立たしい。
 エレンは煙草を吸わない。
 女が煙草を吸った後はキスしたくないと言ったからだ。
 まぁ、エレンも特に吸いたいとは思わないし、だからと言って喫煙者を責めるようなことも言わない。
 単に興味がないのだ。

「…もしもし。悪い、今日は行けねぇわ。…うん、また今度」

 電話越しの会話はたったのそれだけだ。
 相手もその辺は割りきっているから文句を言われることもない。
 そう、この程度の約束なのだ。
 エレンが溜息をつきながらスマートフォンをスーツのポケットにしまうと、リヴァイはちょうど足で煙草を踏み消していた。

「行くぞ」

 そしてそのまま強引に腕を引かれて歩き出す。
 どこに行くのか全くわからない。
 リヴァイとは本当に接点がなかったし、これから飲み直すと言われたって決して楽しくはないだろう。
174: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:25:54.52 d AAS
 ようやっと離してもらえた腕を摩って、リヴァイに声を掛けると、彼は何食わぬ顔で上着を脱ぎ始めた。
                  
「エレン」
「えっ、はい」
「お前、先に風呂に入って来い」
「は?どうして風呂に入る必要が?っていうかオレはどうしてここに連れて来られたんですか?」
「うるせぇ。いいから入って来い。俺は潔癖なんだよ」

 こちらの質問は全く無視で、とにかく風呂に入れと言われる。
 リヴァイには何を言っても駄目だということはこの短時間でよくわかった。
 エレンは、まぁ、こんないいホテルの風呂なんてめったに入れないからラッキーくらいに思うことにして、大人しく従った。

 結果的には満足だった。
 風呂はエレンが足を伸ばしても十分すぎるほど広々としていて、何しろジャグジーバスだった。
 さっぱりした気分で部屋に戻ると、リヴァイはこんなところだというのに仕事をしていた。
 本当に仕事人間なんだな、とエレンはイメージ通りなことを一つ見つけた。

「上がりましたけど」
「…ああ」

 リヴァイはパソコンから視線をエレンに向ける。
 なんだか本当に変な感じだ。
 今までろくに会話をしたこともない他の課の課長と高級ホテルの一室に一緒にいて、自分は風呂上がりでバスローブを着ているなんて。
 何だこれ、とエレンは心の中で呟いた。

「えーっと、リヴァイ課長もどうぞ」
「リヴァイでいい」
「? はい。じゃあリヴァイさん?」

 言うと、リヴァイは緩めてあったネクタイをしゅるりと抜いて、こちらに近づいてくる。
 風呂にはいるんだろうな、と思って場所を退く。
175: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:25:58.25 d AAS
だが、それは叶うことなく、まだ機構に新しい手に腕を掴まれて強引に引きずられてしまった。
                  
「えっ!?ちょ、なんですか!?」

 そのまま大きなベッドへと乱暴に転がされる。
 そして、何も言わないリヴァイにマウントポジションをとられてしまった。
 両腕を掴まれたままベッドに押し付けられて全く起きあがることができない。

「お、い!何すんだよ!」
 
 エレンはその手が逃れようと必死でもがくが、驚くほどにリヴァイの体はビクともしなかった。
 嫌な汗が流れる。
 やばい、この状況は危険だ、と頭の中で警報がなっている。

「何をするって?あんだけ女食っておいて今からテメェが何をされるのか本当にわからねぇのか?」
「っ、どけ!」

 わかる。わかるから焦って、逃げようとしているのだ。

「…ハッ、男にこんなことして何が楽しいんだよ、頭おかしいんじゃねぇの…っ?」

 リヴァイを睨み上げ、わざと吐き捨てるように言った。
 怒らせて、少しでも隙ができれば逃げられる。

「生憎、お前をどうにかしたいと思うくらいには頭がイカれちまってるからな。そういう口を利かれるとかえって興奮する」

 顔は笑っていないから到底興奮しているようには見えなかったが、腹に押し付けられている固いものが何なのかくらい分かる。
 エレンは本格的にまずいと焦り、顔を引きつらせた。

「ちょ、ちょっと待ってください、リヴァイさん。落ちついてください、」
「俺は落ちついている。ああ、でも、興奮するなっていう意味ならそれは無理だな」
「ほ、本当に待ってください!オレ男ですよ!?」
「さっき言っただろうが、頭がイカれてるって」

 エレンの抵抗はもうないようなもので、リヴァイは言いながらエレンの両手をネクタイで纏めあげた。
 そして器用に片手で自分のワイシャツを脱ぎ始める。
 徐々に見えてくる筋肉質な体が、今自分の上にのっているのは柔らかい女ではなく男なのだとエレンに分からせた。
176: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:26:15.28 d AAS
「なんで、こんなこと…!」
「お前、女とセックスすんの大好きだろ?そういう奴を自分の雌にしてぇんだよ」
「ク、ソ…!変態野郎…!」

 リヴァイはわざとエレンの耳元で吐息交じりに囁く。
 こうすると相手の体が震えることをエレンはよく知っていた。
 ごりごりと腹に固くなった性器を押し付けられてゾワゾワと不快感が体中に広がった。

「ん!…っ、ゃ、んぅ…っ」

 頭の上で両手を押さえつけられ、顎も掴まれると強引に唇を塞がれる。
 少し唇がカサついていると思ったのは最初だけで、下唇を食まれ、ぬるりと舌をねじ込まれるとすぐにそんなことは忘れた。
 男の舌は思っていたよりも柔らかかった。
 それに、気持ちのいい場所を的確についてくる。
 いつもは自分が相手の唇を好きに貪っているのに、今は逆に貪られている。
 リヴァイの深いキスは食べられてしまいそうなほど強引で、獣のようなキスだった。

「ん、は、ぁ…ぅ、」

 くちゅくちゅと音を立てながら舌で口内をかき混ぜられて、だんだん頭がぼうっとしてくる。
 何も考えられなくなって、リヴァイに支配されてしまったのかもしれないと馬鹿なことを考える。
 だから体に力が入らなくなって、されるがままになっているのだと。
 唇を離したリヴァイが「良い子だ」とでも言うように頬を撫でる。
 エレンは浅く呼吸を繰り返しながら、潤む瞳でリヴァイを睨みあげた。

「おいおい、キスなんて飽きるほどしてんだろうが。ちゃんと応えてみろよ。それとも女にしてもらってんのか?」
「っはあ!?んなわけねぇだろ!」
「じゃあやってみろよ」
「クッソ…!」

 暗にキスが下手くそだと笑われてた。これでも女にはうまいと褒められる。
177: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:26:19.35 d AAS
 そもそもそっちが無理矢理キスしてきたというのに上手いも下手もあるか、とエレンはプライドを傷つけられたようで安い挑発に乗ってしまった。
 縛られた腕をリヴァイの首の後ろに通されて、顔が近くなる。
 エレンはその腕でリヴァイの顔を自分の方へ寄せると、その唇に噛みつくようにキスをした。
 初めは唇をあむあむと食んで、その後で湿った舌を口内にねじ込む。
 上顎をなぞり、相手の舌の裏を舐めあげる。じゅる、と唾液を吸って柔く舌を噛んだ。
                  
「ん、は……ん、……っんん!?」

 いきなりれろりと舌を絡められ、エレンは驚いてくぐもった声を上げる。
 先ほどとは打って変わって大人しかったリヴァイの舌が突如動きだしたのだ。
 頭を枕に押さえつけられて、リヴァイの口内に入りきった舌を吸われ、甘噛みされる。

「ふ、…っん、ぅぅ……はぁっ、」

 先ほどまで握っていた主導権はいとも簡単に奪われて、また食べられてしまいそうな程深いキスにエレンは息をするのも精一杯で、必死にリヴァイの背中をどんどんと叩いた。

「んっ…んぅ!?」

 肌蹴てしまったバスローブの隙間からリヴァイの指がエレンの体に直に触れて、ビクリと跳ねた。
 相変わらず口内への刺激を止めてもらえず、体に力が入らない。
 リヴァイの指がエレンの乳首に触れて、ゆっくりと捏ねられる。
 指の腹でぐりぐりと押しつぶされると、そこからビリビリとした快感が走った。

「ふ、ん、ぁ……ゃめ、っ!」

 そしてぷっくりと腫れてきてしまったそこを、今度は指先で弾かれるように弄られる。
 その度に体がビクビクと跳ねてしまう。
 エレンが女にやるようなことを自分の体にされていた。
 もし自分がするならば次は軽く摘んで少し痛くした後に、それを労わるように舌で愛撫する。
 でもエレンは女じゃない。
 こんな所で感じるわけがないし、リヴァイがそれを男であるエレンにするはずがない。
178: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:26:34.71 d AAS
 エレンは祈るような気持ちでリヴァイの腕から逃れようと必死になった。
 しかしそれは、リヴァイから逃げたいのではなく、確かに感じる快感から逃れたかったのだと気付く。
 いつの間にか唇は解放されていた。
                                      
「ああっ…ぁっ…!」

 散々弄られた乳首にリヴァイの暖かい舌がべろりと這った。
 エレンは目を見開いて体を仰け反らせ、高い声を上げた。言い訳のしようもない喘ぎだった。

「良い声で鳴くな。女の前でもそうなのか?」
「ちが…っん、やめ、…っひぁ!」

 ガリ、と歯を立てられた。
 ビクンッと体が勝手に跳ねる。

「なぁ、気付いてるか?テメェのここ」
「あっ、や…なんで…っ」

 リヴァイの指が触れたソコ。
 熱く、固くなって上を向いている。
 獣のように唇を貪られ、女のように乳首を弄られただけだというのにエレンの性器は固く勃起していた。
 それはリヴァイの愛撫に感じて、興奮してしまったという紛れもない証拠だった。
 エレンは自身が勃ってしまっているということに唖然とした。
 一方でリヴァイは心底楽しそうに笑って、エレンの性器を撫でている。

「一回出させてやる」
「ぁ…っや、やだ…っ」

 もう逃げられないと思ったのか、リヴァイはエレンの上から退くと、その足の間に移動して性器を両手で扱いた。

「あっ…さわんなっ!…ぁ、っく、」

 女のよりもごつごつした掌。
 性器を包みこんで、少し乱暴にも思える扱き方は女にされるそれとは全然違った。
 そして、ぱくり、と大きく口に咥えられた瞬間、エレンは身を捻じって声を上げた。

「ひぅっ!っ、あっあっ、ゃめ、…っ舐め…っぁ!」
「初めてでもねぇだろうが」
「ぁ、ゃだ…っこんな、っ」
179: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:26:38.54 d AAS
 リヴァイの口は大きくて、キスの時のように食われてしまうと思う程深い口淫だった。
 わざとじゅるりと音を立てながら舐めしゃぶられて、尿道の入り口にも強引に舌をねじ込まれる。

「やぁ…っ!たべないで…はぁっ、ぁ」

 クスリとリヴァイが笑った気配がしたけれど、強すぎる快感にエレンは気がつかない。

「あっ、で、でる…っ、んっ…あっ?」
「気が変わった」
「ぁ、なに…っ」

 リヴァイの言っていることの意味を理解できないまま、乱暴にひっくり返される。
 そして尻を高く上げさせられて、四つん這いの格好にされた。

「やめろ…っ何する気だ…っひあ!?」

 べろ、とありえない場所に湿った舌の感触がした。

「ケツでイかせてやる」

このあとめちゃくちゃに奥まで突かれてメスにされた。

中途半端になっちゃったけど時間切れじゃった(笑糞)
180: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:26:55.04 d AAS
 エレンが手の内に堕ちてきたことにリヴァイは少なからず喜んでいた。
 触れるそばから薄い体が跳ねて嬌声が上がる。
ぐずぐずに蕩けた後孔に己の性器をねじ込めば女のようなそこはうねり、きつく締め付けられた。
 気持ちいい、もっと、と向けてくる視線と甘い声が腰にくる。
 普段は澄ましたような顔が真っ赤に染まるのは気分が良かった。
 支配する感覚。
 エレンのことは大学を卒業しても繋がりのあった後輩から話を聞いたことがあった。
 すごくモテる奴がいてめちゃくちゃ女食ってるんですよとかそんな感じだったと思う。
 中には女をとられた奴もいるとも言っていた。
 本当に女にモテる奴と言うのは自分からいかなくても勝手に女から寄ってくるものだ。
 きっとそいつは“とった”んじゃなくて女が馬鹿だったのだろうな、とリヴァイは思った。
 そしてそのエレン・イェーガーが同じ会社に入社していたと知ったのはリヴァイが課長に昇進して何年か経った頃だった。
 女性社員がよく騒いでいる男性社員の名前を聞かされた時リヴァイは記憶の端にあった女遊びの激しい男の名前がエレンだったことを思い出したのだ。
 合同の飲み会の席でリヴァイは初めてエレンをエレンだと認識してその人物を見た。
 隣にはリヴァイの部下である女性社員が座っていて体をべたべたと触られている。
 他の女性社員も皆控えめながらも羨ましそうに視線を向けていた。
 エレンは女遊びが激しいようには見えなかった。
 年下の女性に圧され気味でずっと眉を下げて困っているようだったしどちらかと言えば女性経験が少なそうにも見える。
 部下が豊満な胸を押し付けているというのにエレンは全くそれには動じずに上手に自分を制御しているようだった。
 ああ、わざとか。
 と、すぐにわかった。
 初心な男のような顔をして、おそらくエレンは遊ぶ女をちゃんと選んでいる。
 面白い。あの男を自分のモノしたい。
 リヴァイは酒を煽るふりをして口元を歪ませた。
 エレンを組み敷き、その澄ました顔が快楽に歪んで喘ぐ姿を見たくて堪らなくなった。
 だがそれは、エレンを陥れたいというわけではない。
 女が挙って手に入れたがるエレンを男である自分が支配して、お前らが欲しがる男はこんなにも可愛い顔で強請るんだ、と言う優越感に浸りたかったのだ。
181: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:27:11.83 d AAS
 自分にだけ見せる顔。
 雄の顔ではない、男のリヴァイだけが見ることのできるエレンの雌の顔が見たいのだ。
 
 結果的には…そう、結果的にその顔は見ることができたし、自分のモノにもできたと思う。
 だが、エレンは心までは許してくれなかった。

「ぁ…っん、ァ、…っ…っ」
「良さそうだな、エレン」
「んっ、…は、ぃ…気持ち、いいで…すっ…はぁ、アッ」

 エレンの背中にちゅ、ちゅ、と吸いつきながら、腰を掴んでぐちゅぐちゅになって解れている後孔を何度も穿つ。
 外気に触れれば熱を持つローションがエレンの内側の肉をますます敏感にしてしまうようで、中は火傷しそうなほどに熱かった。
 こうしてセックスするようになって、どのくらい経つだろうか。
 季節は冬から春に変わっていた。
 エレンはやたらセックスをねだるようなことはしなかったが、我慢ができなくなるとリヴァイのところにやってくる、そんな感じだった。
 まだ少し、リヴァイに抱かれることに戸惑っているようだったが、指先でも触れればその体は素直になった。
 だが、エレンは最初の頃よりも声を抑えるようになった。
 息ができているのか心配になるくらい顔を枕に押し付けて、くぐもった喘ぎだけを漏らす。
 手はシーツを強く掴んでいて決して離そうとはしなかった。
 まだ男に抱かれる屈辱に耐えているのかと思いきや、気持ちいいか、と聞けば素直に気持ちいいと言うのだ。
 だったら我慢などせずにもっと喘げばいい。
 縋りつけばいい、そう思っているのにエレンは頑なにそうしようとはしなかった。

「おい、エレン」
「ぁ…な、なに…っン、ぁっ、っ、…アッ、ひあ!」

 声を我慢されるのが不愉快で、一度性器をずるりと抜くと、その体をひっくり返してこちらを向かせた。
182: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:27:28.99 d AAS
 顔を真っ赤にして瞳を潤ませ、荒い息を繰り返すエレンは驚いた様子でリヴァイのことを見た。
                                       
「な、なん…っ」
「たまにはいいだろ。声、我慢するな」
「えっ、ちょっと待っ…アッ、」
「いいな?」
「あぁ…っ、待っ…リヴァイさ、まだ、いれないで…っ」
「ああ?」

 抜いたばかりでまだ少し開く後孔に性器の先端を押しあてようとした所で、エレンがそこに手を伸ばしてそれを阻んだ。

「こっちでするなら、…っ手、縛ってください…っ」
「……なに?」
「お願いします…っ初めての時みたいに、両手、縛ってください…!」

 リヴァイはその懇願に頭がくらくらした。
 確かに初めてエレンとセックスした時はネクタイで両手を縛ったが、あれはエレンが抵抗するからであって、別にリヴァイに緊縛の趣味があるわけではない。

「…理由は?」
「………なんとなく、…っいいから!早く縛れよ!」

 じゃないと入れさせない!みたいに叫ぶものだから、リヴァイは不本意ながらも床に放られた自分のネクタイをとる。
 だが、エレンに「皺にしちゃうからオレのにしてください」と言われて、言うとおりにエレンのネクタイでその両手首を縛った。

「痛くないか?」
「平気です…もっときつくてもいいくらい」

 これでも結構きつめに縛ったのだが、少しの隙間にエレンはまだ不満そうだった。

「跡がついちまうだろうが」
「いい…明日、休みだから」

 そして、手首を縛るために起きあがらせていた上半身をどさりとベッドに横たえると、エレンはリヴァイを見上げて言った。

「ひどく、してください…」

 エレンが何を考えてこんなことを言うのかがわからなかった。
183: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:27:33.09 d AAS
・・・

「…それで、それを聞かせられた私はどうすればいいの?」

 わいわいと騒がしい居酒屋でリヴァイは正面の女性に冷ややかな視線を向けられていた。
 話していた内容は、到底人のいるところでは出来ないほど下世話な話で、この居酒屋が辛うじて個室になっているということだけが救いだった。
 隣の声はもちろん聞こえる。
 まぁ、両隣ともすでに酔っぱらって大騒ぎなので、こちらの会話が聞こえてはいないと思うけれど。
 エレンが縛ってひどく抱いてほしい、と言ってくる。
 と、リヴァイは酒が届くなり言ったのだ。

「俺はアイツと普通にセックスがしたい。優しくしてやりてぇ」
「…すればいいじゃない。」

 自分の話をする時はあんなに嬉々とした表情でマシンガンのように話すくせに、リヴァイの話にどうでも良さそうに答えるのは幼馴染で腐れ縁のハンジ・ゾエだった。

「必死に頼むアイツの顔に弱いんだ」
「それでもしたいならすればいいんだよ。」
「でもアイツは受け入れようとしねぇ。縛れと言われる度に一線を引かれているような気がする」

 ハンジの溜息が聞こえてきた。

「ていうか、もう自分のモノにしたんでしょ?それでいいじゃん。そうして欲しいって言うならやってやりなよ」
「そうだが…いや、そうじゃねぇだろう…」
184: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:28:04.56 d AAS
 それはそうなのだが、リヴァイはそれでは納得できないのだ。
                                      
「どうして?だってさ、君の可愛いエレンはセックスしたい時に来るわけで、リヴァイだって自分の所にきてくれて満足。
彼は気持ちいいし、お互いそれだけの関係でしょう?実際それだけの繋がりでしかないんだし。むしろそれだけの関係ならもっと気持ち良くなりたいと思うんじゃない?」

 女だというのにはっきりと言うハンジに若干ひきつつも、リヴァイは一理あるその言葉に眉を潜めた。

「それじゃあ体だけみてぇじゃねぇか。アイツはセフレじゃない」
「は…本気で言ってる?セフレじゃなかったらなんなの?」

 リヴァイは黙考した。
 エレンはセフレじゃない、と思う。
 確かに会う度にセックス…というかセックスするためにしか会わないけれど、リヴァイの中ではそうではないのだ。
 それだけの関係にしたくない。
 男のエレンが同性のリヴァイに抱かれる。
 そんなのは普通では考えもしないことで、彼が自分の手の中に堕ちてきただけでも僥倖だと言うのに、リヴァイはそれ以上をエレンに求めているのだ。

「リヴァイがそう思ってなくても、きっと彼はそう思ってるよ。だからリヴァイの所に行くし、セックス自体に嫌とも言わない」
「…それでも、アイツは」

 正直に話そう。
 リヴァイはエレンのことを自分のモノにしたいと思っていた時から、たぶん、彼に好意を抱いている。
 支配したいと思うのも、自分のモノにした優越感に浸りたかったのも、全てただの独占欲だったのだ。
185: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:28:08.73 d AAS
 こんな関係になる前、二度も強引に抱いてしまったことを少なからず後悔していたリヴァイは言うなればただの不器用で、これ以上嫌われてしまわないようにするにはどうしたらよいかわからなかった。
 とりあえずもう無理矢理に手を出すことを止めよう。
 そう思っていた。
 けれど、あの日エレンに初めて呼びとめられた。
 何か言いたいことがあるのだろうと、あまり人の入らない保管室に連れていった。エレンは何も言わなかった。
 体に触れてしまうと抑えが利かなくなるから、出来るだけ触れないようにした。
 煽るようなことを言ったのも、エレンがいつでも逃げ出せるように逃げ道を作ったつもりだった。
 けれど、エレンは顔を仄かに赤くして、潤んだような瞳を期待に染める。
 以前とは違う反応だった。
 物欲しそうにリヴァイを見つめ、自分から顔を近づけてくる。
 ああ、可愛い。
 思わず少し笑って、エレンが逃げ出す前に唇を塞いでいた。
 その可愛い顔をもっと見たくなった。
 でも、離れようとしても強くスーツを引き寄せられて、求められた。
 可愛すぎる、このまま食べてやろうか。
 だが、このまま流されてまたセックスしてしまっては関係は変わらないと思った。
 エレンを抱きたい欲求ばかりで埋め尽くされるこの脳みそを冷やす必要がある。
 ちょうど明日から出張だし、この間に頭を冷やして、帰ったらすぐにハンジを呼びだそう。
 そうしてエレンがリヴァイに責任取れと言ってきた日にハンジを呼びつけたのは、一刻も早くエレンとのことをどうにかしたいからだった。
 けれど結局、他の男と寝るなどと言いだしたエレンに腹が立って、強引に腕を引いていた。
 もっと触れて欲しくなるから離せと言うエレンは可愛くて、でも男の所に行くから離せと言うエレンは可愛くなかった。
 他の男などに触れられてたまるか。
186: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:28:25.03 d AAS
 男であるエレンに女を抱くなとは言わない。
 異性を抱きたくなるのは人間として当然のことで、そこまでエレンを縛りつけることはできない。
 リヴァイが抱くのは女も男も関係なくエレン一人で十分だけれど、それはリヴァイが勝手に決めたことだ。
 でも、どうしても、エレンを抱く男は自分だけでありたかった。
 そうしたらエレンは、苦しそうに顔を歪めて自分の元に堕ちてきた。
 女の人のところには行かないで、と声を震わせて。
 エレンももしかしたら自分以外を抱かないでほしいと思ってくれているのかもしれないと思った。
 己だけを求めて欲しいと。
 エレンもリヴァイと同じ気持ちなのかもしれない、と。
 そう思ったら我儘だとわかっていてもエレンの心が欲しくなった。
 優しくして、甘やかして、体だけじゃなくて心も満たせる存在になりたいと思いはじめてしまった。
 エレンは頑なにリヴァイとの間に濃い一線を引いているのだ。それが嫌でたまらない。

「エレンに距離を置かれるのが嫌なんだ」

 は?とハンジが声を上げる。

「あー…ちょっと待って。話が食い違ってる気がする。この話は緊縛プレイじゃなくて普通にセックスしたいんだけど…っていう話?それとも、セフレじゃなくて恋人にしたいんだけど、っていう話?」
「……後者だ」
「リヴァイは言葉が足りないよ。不器用すぎる」

 ハンジが呆れたように言った。
 自分の頭の中だけで考えすぎて、ハンジとの会話が飛んでしまったらしい。
 昔から、肝心なことが伝えられない。
 仕事になれば話は別だけれど、リヴァイは自分の気持ちを言うのが苦手だった。

「てっきりリヴァイとエレンはただのセフレだと思っていたよ。でも、リヴァイは彼が好きなんだね。だったら初めからそう言ってくれる?何で悩んでるのかわからないけど、そんなの好きだって言っちゃえばいいんだよ」

 簡単に言ってくれる。
 けれど、女とのセックスをそれなりに楽しんでいたエレンを無理矢理にでもあんな体にしてしまったのに、心までも手に入れようだなんてリヴァイは思えなかった。
 好きだと告げてしまえば、彼は二度とリヴァイを求めようとはしない気がする。
 リヴァイがエレンを抱く理由をエレンは聞いてこない。
 それはきっと聞く必要がないからだ。
187: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:28:29.15 d AAS
 大方、告白されただとか、ここに来るまでに変な女に捕まったとかそんなことだろうと安易に予測はついたが、そんなこと言わなければわからないのに、わざわざ風呂に入ろうとするなんて、余程不快だったのだろうか。

「…入って来い」

 エレンは少しホッとしたように息を吐いて、バスルームへと向かった。
 手持無沙汰になってしまったリヴァイは窓際の椅子に腰を下ろして煙草に火をつけた。
 戻って来たエレンは性急に求めてきた。
 温まった体はしっとりとして仄かに赤く色づいている。
 作り出された香料の香りが鼻についたが、いつものエレンの香りではないそれを纏っていると、他人のモノになった彼を抱いているようで少し興奮した。
 唇が腫れてしまいそうなほど貪りながら、エレンが弱いところを攻める。
 乳首はすでにぷっくりと固くなって主張し、指で捏ねたり弾いて引っ掻いたりすれば、エレンはアッ、と短く喘いだ。
 性器はもうとっくに固く勃ち上がっていて、ふるふると震えながら先走りを垂らしている。
 触れたらすぐにでも弾けてしまいそうなそれに何の予告もなしにしゃぶりつけば、エレンは背を反らせて一際大きく喘いだ。

「ひあっ、はぁっ……ゃめ、ん〜っ…」

 女とのセックスが好きだったエレンが口淫されたことがないはずはないだろうに、いつだって彼は嫌がる素振りを見せる。
 初めてエレンとセックスした時は「たべないで」と舌ったらずに言われて、早急に入れたくなるほど興奮した。
 女よりも深く、激しい口淫に食べられちゃうかもしれない、と思っているのだとしたら可愛くて堪らない。

「ンッ、も、でちゃ…から、…あっあっ」

 じゅぶじゅぶと音を立て、吸いながら唇で扱き、舌を性器に絡みつかせた。
 だんだん呼吸が短くエレンに、もう限界なのだと察すると、先端をじゅっと吸ってから口を離した。

「あ、くっ…、〜〜っ」

 イきそうなところで口を離されて、思わず出してしまいそうになるのを耐えるように指がシーツを握りこんだ。
 はぁっはぁっ、と詰めていた息を整えるように呼吸を繰り返して、体を震わせる。
 リヴァイが体を起こせば、エレンは敏感になった体に必死に力を入れて慣れたように背を向けて尻を上げた。
188: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:28:45.40 d AAS
 強張っている背中を撫でればビクビクッと震えて中もヒクつく。
 背中に覆いかぶさって乳首をきゅうっと摘めば中もリヴァイの性器をぎゅっと締め付けた。
                  
「動くぞ、」
「あ…っ、はぃ、突いて、奥、いっぱい突いて…っんっ、ああっ、」

 エレンの顔の横に手をついて、エレンの言う通り奥まで突いてやる。
 その度にガクガクと体が震え、ぢゅ、ぐぢゅ、と中をかき混ぜる音とエレンの甘い声がリヴァイの耳にまで届いた。

「あっ、もっと、ひどくして…っ、んぅ、はぁっ、アッ、アッ中に、中にだしていいからぁっ…もっと、してっ…ひああっ」

 また、エレンは「ひどくして」と乞う。
 瞳を潤ませ、快感に熱い吐息を洩らしつつも、その顔は苦しそうに歪められていた。
 これはエレンの本意ではないと思った。だとしたら、何故そんなことを言うのだろう。
 リヴァイは頭の片隅でそんなことを考えながらも、快感には逆らえずに腰を振った。
 奥を突き、ぎりぎりまで抜く度に聞こえるぐじゅ、ぬりゅ、といやらしい音が思考を鈍らせようとしていた。
 リヴァイの放った白濁がうつ伏せになった状態で荒い呼吸を繰り返しているエレンの背中を汚していた。
 セックスを終えた二人の間に甘い時間などは訪れない。
 リヴァイは口下手であるし、エレンは最近リヴァイに控えめな態度で、セックス中以外はあまり言葉を発しなくなった。
 エレンの背中に吐き出したものを雑に拭ってやる。
 その足でベッドから降りると、なんだかやりきれないような気分になって、断りもなく煙草に火をつけた。

「…中に出していいって、言ったのに」

 独り言のように呟かれたエレンの声はしっかりとリヴァイの耳に届いていた。

「体きつくなるだろうが」
「別に。女じゃあるまいし、子どもができるわけでもねぇんだから中出しでも何でもすればいいじゃないですか」

 やけに棘がある言い方だった。

「そういうことじゃねぇ。お前のことを心配してんだ」
「男なんだからそんなに弱くありません」
「…おい。お前さっきから何を言ってる?」
189: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:28:49.37 d AAS
 リヴァイはまだろくに減ってもいない煙草を灰皿に押し付けて、ベッドに近づいた。
 いつの間にかエレンはリヴァイに背を向けるようにして横になり、体を丸めていた。
                  
「だから、優しくすんなって言ってんですよ」
「ああ?」
「ひどくしていいって何度も、」
「俺にそんな趣味はねぇ」

 最初は無理矢理だった。
 だからこそ、今は優しくしてやりたいし、エレンの体にあまり負担がかからないようにしてやりたいと思っているのに、エレンは何故か苛立っているようだった。
「何が気に入らない?」
「…、」
「何でもすればいいって言うなら、俺はお前にひどいことはしたくねぇ」

 言うと、エレンは体を起こして泣きだしそうな声で叫んだ。

「オレは男なんですよ…っだから、女みたいに抱くんじゃねぇよ…っ」

 リヴァイは目を瞠った。

「そんな風にするなら、他を当たってください」
「エレン」
「女みたいにするなら、女とセックスした方がいいに決まってる」
「おい」

 ベッドから降りようとするエレンの腕を思わず掴んだ。
 エレンを女の代わりだと思ったことはないし、女のように抱いていると思ったこともない。
 ただエレンの体を気遣いたくて、甘やかしてやりたかっただけなのに、それが裏目に出ているというのか。

「離してください」

 ハンジが言っていた。
 長い付き合いの私でさえ勘違いするんだから、エレンはもっとわかっていないよ。
 リヴァイは言葉が足りないから、無理やりにでもわからせるしかないかもね。
190: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:29:04.81 d AAS
 ああ、その通りだ。エレンは何もわかっていなかった。
何も伝えていないのだから、理解しろと言う方が無理かもしれない。
 でも、今リヴァイが何を言ったとしてもきっとエレンは信じようとはしないだろう。
 だったら、わからせてやる。
 その腕を引き寄せ、ベッドに組み敷いた。
 顔には出ないが、明らかに苛立っているリヴァイを見て、エレンが目を大きく見開いて驚いた。

「な、離せよ…っ」
「うるせぇ、黙ってろ」
「んぐっ」             

 リヴァイは大きな掌でエレンの口元を塞ぐと、そのまま押さえつけて耳元で囁いた。

「そんなに言うなら、俺のやりたいように抱いてやる…テメェが言ったんだ、何されても文句言うんじゃねぇぞ」

                  

こりゃ続いちまうやつだ(大爆笑)
191: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:29:08.82 d AAS
 リヴァイとのセックスは気持ち良すぎて堪らなかった。
 腹の奥に男根を埋め込まれ、ぐぽぐぽと出し入れを繰り返されれば敏感な肉はそれを締め付ける。
 まるで女のようだ。
 リヴァイに言われたように本当に雌にでもされたのかと思う程に、与えられる快感にエレンの体は喜んだ。
                  
 エレンには複数の異性のセフレがいる。
 けれど、リヴァイとセックスをするようになってから、めっきり連絡をしなくなった。女とのセックスが嫌になったわけではない。
 だが、女を相手にしたところでリヴァイとのセックス以上に気持ち良くなれるとも思えないのだ。
 そうして自然に連絡が薄れれば、相手からの連絡がくることもなく、関係は消滅していった。
 それだけの関係だ。セフレなんて。
 そんな関係を持つ女が複数いるエレンには、リヴァイとの関係もそれと同じなのだと思うことに時間はかからなかった。
 リヴァイとはセフレだ、とエレンの頭は完結する。

 エレンは長らく、恋というものをしていない。
・・・

 社内でリヴァイの姿を見ると、体が疼く。
 あの禁欲的なスーツの下には見た目よりも筋肉質な体が隠されていて、書類を持つあの指が男であるエレンの体を翻弄する。
 そして限界まで高められた体に追い打ちをかけるように太くて固い、熱が…と考えてエレンはハッとした。
 仕事中なのにこんなことを考えてしまうのなんて初めてだ。
 今まで適度にセフレで性欲を発散してきたエレンには、こんな待ちわびるような、我慢できなくなるほど体が疼くなど経験したことない。
 これも、リヴァイとセックスするようになってからだ。
 女では満足できないエレンの性欲は全てがリヴァイに向けられてしまう。
 以前のエレンであれば、相手の都合など考えずに連絡していたが、リヴァイに同じようにするのは何故か躊躇われた。この躊躇いを煩わしいと思いつつも、エレンはどうしてもリヴァイに対しては強く出られなかった。
 それはエレンが抱かれる側だからかもしれない。
192: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:29:25.94 d AAS
 リヴァイは他の男や女を抱くことはできるが、エレンはリヴァイに拒絶されてしまったらただ取り残されるだけで、その体を自分で慰めなければならないのだ。
 エレンは他の男は駄目だ、というリヴァイの言葉を律儀に守っている。元々、他の男に体を差し出す気など少しもないが。
 幸い、先ほどに会って話をした時、今日は比較的忙しくない、と言っていた。
 たぶん今日ならば断られずに済む。『今日行くから』『セックスさせて』なんてセフレ相手にメッセージを送っていたのに、相手の様子を窺うように『今日空いてますか』とメッセージを送るのは何とも笑える話だった。
・・・
                  
 体は正直で、気持ち良すぎる快感に勝手に逃れようとしてしまう。
 何かに掴まっていないと逃げてしまうからエレンはシーツを握りしめ、枕に顔を押し付けて耐える。
 呼吸も苦しい方がいい。
 思考が快楽で埋め尽くされている今、口を遊ばせていたら何を言ってしまうかわからないからだ。
 気持ちいいと素直に言うことも、もっととねだることも、そのためにセックスしているのだから構わないが、何か余計な事を言ってしまうのではないかと何故か不安だった。

「ぁ…っん、ァ、…っ…っ」
「良さそうだな、エレン」
「んっ、…は、ぃ…気持ち、いいで…すっ…はぁ、アッ」

 背中を吸われて体が揺れた。
 リヴァイは最近、抱き方が変わった。
 以前は強引で、全身を食べられてしまうような、圧倒的な雄の欲望を見せつけられるようなセックスだったように思う。
 抵抗しようとするエレンを力でねじ伏せて、無理矢理言うことを聞かせるような。
 けれど、最近のリヴァイはそうではなかった。簡単に言えば、優しい。
 エレンが抵抗をしなくなったからかもしれないと思ったが、それにしたって優しかった。
 無防備になった背中に小さく口付けられて、確かめるように触れられて、中を穿つ力は強いのに体に触れる指は優しかった。
 リヴァイが強く体を押さえつけてくれないから、エレンは余計にシーツを握る指に力が入る。
193: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:29:30.06 d AAS
 そんな風にリヴァイが抱くから、正面から受け止めるのはどうしても躊躇われた。
 掴むものがなくなってしまうし、リヴァイの優しいキスを正面から受けるのは何故かとても怖かった。
 それなのに、
                  
「おい、エレン」
「ぁ…な、なに…っン、ぁっ、っ、…アッ、ひあ!」

 急に中から性器をずるりと抜かれると、正面を向かされた。
 肩で息をしながら額にうっすらと汗をかくリヴァイが瞳に映る。

「な、なん…っ」
「たまにはいいだろ。声、我慢するな」
「えっ、ちょっと待っ…アッ、」
「いいな?」

 リヴァイの性器がもう一度、ヒクついて欲しがる後孔に狙いを定めた。

「あぁ…っ、待っ…リヴァイさ、まだ、いれないで…っ」
「ああ?」

 駄目、駄目だ。
 エレンは急に焦り出して、咄嗟にそれを手で阻んだ。
 このまま入れられてしまったら駄目だ。
 掴むものを失った手はおそらく目の前の男に縋るように手を伸ばしてしまう。
 そして引き寄せて、自由になった唇はリヴァイの耳元で何を言ってしまうかわからない。
 もうすでに喉元まで出かかっている言葉に、エレンはとても嫌悪している。
194: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:29:46.60 d AAS
 社内で偶然リヴァイを見かけただけで熱くなってしまう体を引きずりながら家に帰ってくると、ご飯も食べずにベッドに横になった。
 油断すれば熱を持つソコに手が伸びてしまいそうになる。
 でもまだ、リヴァイとセックスしてから二日しか経っていない。
 頻繁に連絡して迷惑になるかもしれないと考えるなんて本当に笑える。
 リヴァイから連絡が来たことは一度もなかった。
 むしろあっちから連絡が来れば、遠慮なんてしなくて済むのに。
 リヴァイはセックスしたいと思わないのだろうか。
                  
「…あぁ、」

 エレンは思い出した。
リヴァイはあの日、女は許すと言っていた。
 リヴァイはエレンが他の女とセックスすることに対して何も思わない。
 エレンはリヴァイが抱く他の女を自分と重ね、夢の中の自分にさえ嫉妬したというのに、リヴァイは何とも思わない。
 それはたぶん、リヴァイも他の女を抱いているからだ。
 だからリヴァイはエレンに連絡をしてこない。
 所詮、リヴァイにとってエレンは都合のよいセフレでしかないのだ。

「っだったら、なんで」

 そもそもリヴァイが男であるエレンとセックスをする理由なんて、妊娠のリスクなく快感を得ることができるからに決まっている。
 女のように濡れない体は面倒ではあるが、後に面倒事を引き起こすことはない。
 妊娠しない、体も弱くはない。
 自分の欲望を気兼ねなく発散することのできる体。
195: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:29:50.78 d AAS
 だったらどうしてあんな優しく、壊れ物を扱うように触れるのか。
 そんな風に女も抱いているのか。そう思うと堪らなく嫌だった。
見つめる視線も、その指も、女と比べているんじゃないかと不安になる。
 固いばかりの体が女よりも勝っているところなんてない。
 比べるくらいなら、女とセックスしたほうがいいに決まっている。
 エレンとリヴァイの関係はエレンが一方的に手を伸ばしているようなものだ。
 リヴァイはその手をとることも、遠ざけることもできる。
 だからこの関係はエレンがリヴァイに手を伸ばし続け、リヴァイの愛想がつきないよう適度に距離を保たなければすぐに終わってしまう。
 終わらせたくない、とエレンは思う。
 どうして、と問えば今まで気付かないふりをしていた感情はすぐに答えをくれるかもしれない。
 けれど、この薄っぺらな関係にその感情は重すぎる。
 のせればのせるほど歪んで、終いには壊れてしまうかもしれない。
 エレンはそれが怖かった。
 女のようにされたこの体はもう女を抱くことはできない。
 他の男に抱かれることを望まないエレンはリヴァイとの関係が壊れてしまったら、どうなってしまうのだろう。
196: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:30:07.40 d AAS
・・・
                                     
「あー!エレンくん!」
「お疲れ様です」

 リヴァイと時間をずらして会社を出る時、ちょうどエレベーターで一緒になった年上の女性社員二人に挨拶をする。
 金曜日だからか、気分の良さそうな二人はこれから飲みに行くらしい。

「エレンくんも行かない?」
「女二人じゃつまらないし、エレンくんが来てくれたら嬉しいな」

 細い手がエレンの腕に巻きついて、ぐっと寄せられる。
 もはや抱きつかれているのと同じくらいに近い距離に、エレンは少し眉を顰めた。

「…すみません。これから予定があって、すぐに行かなくちゃならないんです。また機会があれば御一緒させてください」

 そう言って頭を下げると、えーつまんない!という高い声を聞きながら、早足でホテルへと向かった。
 スーツに少しだけ残る女の匂いを消したかった。
 女に触れられたのが不快だったわけではない。
 女に触れられた体をリヴァイに差し出すのが嫌なのだ。

「動くぞ、」
「あ…っ、はぃ、突いて、奥、いっぱい突いて…っんっ、ああっ、」

 背中越しにリヴァイの荒い呼吸が聞こえる。
 リヴァイの性器が動かされる度にぐちゅぐちゅと聞こえる音は自分の体の中で出されているのだとは到底思えなかった。

「あっ、ん、ふ…っ、ぅ、」

 中が擦れる。気持ちいい。
 エレンは熱に浮かされたような頭でぼんやりと考える。
197: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:30:12.00 d AAS
 今リヴァイはどんな顔をしているのだろう。
 しかし、振りかえることも、正面からリヴァイを受け止めることもしたくはなかった。
 その顔を見てしまったら、絶対に彼に縋ってしまうと確信していたからだ。
 リヴァイを求め、その体に腕を回して引き寄せて呼吸を近くて感じたい。
 離したくない、離して欲しくないと口走ってしまいそうになる。
 それを耐えるようにエレンは枕に顔を押し付けて、リヴァイに縋りつきたい衝動をシーツを握りしめて耐えるのだ。

「んっ、…っ、ぅ、はぁっ…あ、」

 無防備な背中をリヴァイの指が滑る。優しくするな、まるで大切だとでも言うように触れるな。

「あっ、もっと、ひどくして…っ、んぅ、はぁっ、アッ、アッ中に、中にだしていいからぁっ…もっと、してっ…ひああっ」

 エレンは「ひどくして」と乞う。
 そうでないと、好きになってしまうから。

 もう、限界だ。
 リヴァイに優しく触れられるのが、女のように触れられるのが辛くて堪らなかった。
 そうじゃない。
 アンタがオレを抱くのはそういうことをしたいからじゃねぇだろう。
198: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:30:28.51 d AAS
 エレンは決めつけて、リヴァイに当たった。
 終わらせたくないと思っていたのに、一度口にしてしまえば止まらなくなった。
                  
「オレは男なんですよ…っだから、女みたいに抱くんじゃねぇよ…っ」
「そんな風にするなら、他を当たってください」
「女みたいにするなら、女とセックスした方がいいに決まってる」

 ああ、終わりだ。
 こんな面倒な事を言う奴はセフレに必要ない。
 だったら、捨てられる前に自分から離れた方がマシだ。
 けれど、リヴァイはエレンの腕を掴んだ。
 強引にベッドに組み敷かれて、視界に映ったリヴァイは明らかに苛立っていた。なんで、どうして。
 アンタはオレを引きとめる程オレを想ってはいないだろう。
 他の女を抱いていいと言う程オレを想っていないくせに。
 ただのセフレとしか思ってないくせに。
 どろどろになっているくせにきつく締め付けてくるエレンの後孔に自分の欲望をねじ込んでから、一体どのくらいの時間が経ったのだろう。
 優しくするな、と言って嫌がるエレンに思考が鈍るくらい甘い愛撫を続けた。
 何度射精したかもわからないし、何度かは出さずに、中で達していたと思う。
 エレンの腰にはもう力が入らずに、リヴァイの手によって支えられているようなものだった。
 こちらに背を向けているエレンの体が可哀想な程に震えていた。

「ぁ…、はぁ、…っ、」

 熱い吐息と小さな喘ぎ。
 挿入してから一度も動かしていない性器はもうエレンの中で溶けてしまったのかと思うくらい馴染んでいた。
 リヴァイも頭がぼうっとしてきていた。
 体中が熱くて、痺れて、神経がむき出しになってしまったみたいに、少し動いたり、呼吸が体に触れるだけでゾクリとした快感が走った。
                  
「…っ、」
「あっ…っ、…っ」

 熱くて熱くて堪らない。
 額をつたった汗が白く震える背中にポタリと落ちる。
 エレンの体がビクッと跳ね、内側の肉がリヴァイを締め付けた。
199: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:30:32.53 d AAS
 熱い。苦しい。動きたい。
 悪戯をするみたいにきゅんきゅんと締め付けてくる後孔を叱りつけるようにめちゃくちゃに突いて、擦って、泣かせてやりたくなる。
 しかし、エレンが自分から手を伸ばし縋りついてくるまでは動いてやる気はなかった。

「ゃ…、動いて…っ動いてくらさ…ぁ、はぅ…っ」
「駄目だ…っ」
「ああっ…、ゃめ…っ」

 体に力が入らず、自ら動かすことのできないエレンは顔を真っ赤にし、回らない舌でリヴァイにねだる。
 可愛い、堪らない。
 我慢できずに項にちゅうっと吸いつけば、エレンの口から甘い声が上がった。
 リヴァイの性器を締め付けるのはもはや反射だった。
 エレンは腹の奥からじわじわと全身に広がり犯すような快感から逃れるように必死にシーツを掴み、枕に頬を押し付けていた。
 もうだめ、やだ、うごいて、あつい、とうわ言のように喘ぐ。
 気持ちいい。
 でも、あと一歩のところで手が届かない。
 快楽という水に溺れ続けているような感覚だった。
 この苦しさから引き揚げられて安心したい。
 そうでなければ、もういっそ力尽きて気を失ってしまいたい。
 でも、リヴァイはそのどちらも許さなかった。
                                         
「っ、は…な、なんで…っ動いてくれな…っぁ、」
「なんで?お前がひどくしろって言ったんだろうが」

 文句は言うなって言ったよな?
 そう言って、耳の裏を舐めしゃぶる。
 たっぷりと唾液を絡めた舌で、じゅるっと音を立ててそこを吸うと、またきつく締め付けられた。
 油断すれば持って行かれそうになる。リヴァイとて限界に近かった。
200: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:30:50.98 d AA×

201: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:30:54.91 d AAS
 強引にこんな体にしてしまったエレンの自由を奪いたくはなかった。
 エレンはリヴァイには抱かれるが、男を好きなわけではない。
 もちろん女とセックスしたくなる時だってあるだろう。
 これから先、一緒に生きていきたいと思う相手も見つけるかもしれない。
 だから、女とセックスすることは許したし、気持ちを告げることもしなかった。
 線を引かれて、心までも渡すつもりはないと思っているのならばそれでも構わなかった。
 だったらせめて、体だけは。セックスしている時くらい恋人のように甘やかして、恋人のように抱き合いたいと思っていた。
 けれど、エレンは決してリヴァイに縋りつこうとはしなかった。
 エレンからメッセージが来る度にホッとして、もっと、とねだられると求められているようで嬉しかった。
 いい歳した男が、年下の男の一挙一動で嬉しくなるし、辛くもなる。
                  
 今だって、エレンが自分の指をちょっと握ってくれただけでぶわりと心の底から沸き上がる何かがあった。
 好きだ、と言ってしまいそうになる。
いっそ告げて、エレンがもう自分の所へこないと言うのならばそれでもいいのかもしれない。
 だったら、最後くらいはエレンが泣いて止めろと言ったって、気を失うまで甘やかしてやりたいと思った。
幸い、エレンは今、今まで散々線を引いてきたリヴァイに縋ってしまう程余裕がないし、もう思考もままならないだろう。
 もしかしたら聞こえていなかった、なんてこともあるかもしれない。
 そんな都合のいいことを考えてしまうくらいにはエレンを手放したくはなかった。
 無理矢理エレンを襲った奴が何を言っているんだ、とリヴァイは自嘲する。
 いくら強い人間でも、弱い部分はある。
 それがリヴァイにとってはエレンだった。
 エレンを自分のモノにしておきたい。でも、縛りつけたくはない。
 この葛藤がリヴァイの判断を鈍らせる。
202: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:31:12.10 d AAS
「ひっ…!?〜〜っ!」
                  
 掴まれた指を放りだすように離して、ぷっくりと固く尖る乳首を指先で刺激する。
 二本の指で挟んで潰すようにねじれば、エレンの体が一際跳ねて、達してしまったのがわかった。
 性器が痛いほどに締め付けられる。その締め付けに性器がさらに大きくなった。
 ゆっくりと、あまり刺激しないように性器をずるりと抜く。
 性器の先端と、ぱくりと開いたままの後孔が粘りのある糸を引いていた。
 頭がくらくらする。少し擦れただけで出してしまいそうになった。

「アッ…っ、ぁ!」

 その小さな刺激でさえエレンは耐えきれずまた達してしまったようだった。  ビクビクと跳ねる性器が先走りと自身の出した精液でどろどろ濡れている光景はなんともいやらしい。
 その力の入らないエレンの体を気遣うようにして仰向けにさせる。
 瞳を潤ませ、とろけた表情を見せるエレンに、さらにリヴァイは興奮して、性器を固く猛らせた。
 はぁ、はぁ…と震えた呼吸が聞こえる。リヴァイは正面からエレンを抱きしめる。
 直に抱きしめたのなんて、初めてかもしれない。

「エレン…、頼むから、俺に触れてくれ…」

 情けない、縋りつくような声だった。
 耳元で、戸惑うように息を呑んだ音が聞こえた気がした。
 まだエレンの手はシーツを弱々しく握っている。

「今日はお前を絶対に縛らない」

 今度こそ、エレンがヒュッと息をしたのを聞いた。

「ゃ、やです…っア!まっ…うぁ…っ」

 エレンの制止の声も聞かず、体の力が入らないのをいいことに太ももを掴みあげると、まだ熱くぬめるそこに性器を押し付け、腰を進めた。
「アアッ!…ぁ、っ…あつ…っま、待ってくださ…っ奥が、熱くて…っあ、んっ…びりびり、する…っ」
                  
 ぬちゅぬちゅと粘りのある液の泡立っている音が聴覚を刺激する。
 今までで一番気持ちが良い。
 女の中のように柔らかくなった後孔がリヴァイを欲しがって締め付ける。
 やっと与えられた快感に体が喜んでいるのがわかる。

「だ、だめ…っア、縛っ、て…っお願い…っああ!ん、ひぁっ」
「縛らないと、よくねぇか?そうじゃないよな?エレン、」
203: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:31:16.02 d AAS
 もちろん、リヴァイが好きだと告げたって素直には信じない。

「どうして駄目なんだ?」

 まるで子供に聞くような声音だった。

「アッ、だって…っセフレ、だから…っん、ひどくしてくれないと…っ優しく、されたらっ、あっ、好きに、なっちゃう…っ」

 エレンは涙をぽろぽろ零しながら必死に言葉を紡いでいた。
 そうか、エレンはセフレだと思っていたから、この関係には体以外はいらないと思っていたのか。
                  
「あっ…!?や、奥…っあ、んあっ、ああっ」

 エレンの体に腕を回し、その体を抱き起こす。
 リヴァイの足の上に跨る姿勢になったことで体重がかかり、エレンの中の性器がもっと奥まで埋め込まれた。
 こうなるともうエレンが掴むものは何もなくなる。
 エレンはその衝撃と快感に無意識にリヴァイの体に腕を伸ばした。

「エレン」

 背を丸め、リヴァイの首元に顔を埋めるエレンの耳に小さく囁いた。
 その体が怯えたみたいにビクッと跳ねた。

「縋っていい、好きになっていい。俺は初めから、お前をセフレだなんて思ってねぇ」
「う、や、聞きたくな…っひ、」
「お前以外を抱きたいとも思わないし、興味もねぇ」

 震えるその背中を撫でた。
 リヴァイは言葉が足りないよ、不器用すぎる。

 そう言われたのを思い出した。気持ちをつたえるのは得意じゃない。
 だったら回りくどいことは言わずにはっきり言えばいい。

「俺はお前が好きだから、お前もそう思ってくれるなら、嬉しいと思う」

 一瞬戸惑うような気配がした。
 そして、ゆっくりと背中に回されたエレンの両手が震えながらリヴァイの体をきつく抱きしめた。

「…女を抱いていいとか、言わないでください…オレはアンタが他の人とセックスするのは嫌です…っオレが好きだって言うなら、最後まで、手放さないでください…!」
 
 オレも好きです、と小さく、微かに震える声がリヴァイの耳を擽った。
                                         

ちからつきた(糞大笑)
204: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:31:34.33 d AAS
 指先で人差し指の腹を擽られる。
 そのまま上って、指と指の間を擦られ、掌を滑った。
 愛撫にも似た触れ方に、エレンは顔を俯け、静かに息を吐いた。
 そして掌が重なると、指を絡められてぎゅうっと握られた。
 手に触れられただけなのに、繋いだだけなのに、嬉しいと感じる。
 だが、同時にもっと触れて欲しいと欲張りにもなった。
 エレベーターが目的の階に着いたと音を告げる。
 今日は会う約束も何もしていなかったから、ドアが開き、リヴァイが一歩足を踏み出せば繋がれた手は離れてしまうのだろう。
 まさか帰りが一緒になるとは思っていなかったから、嬉しくて、余計に離れがたくなってしまう。
 一緒に帰りませんか、飲みに行きませんか、なんて誘うのは簡単だけれど、男同士の恋人という世間的には白い目で見られてもおかしくない関係を気にしすぎて、エレンをさらに躊躇わせていた。
                  
「あ…」

 何と声をかけたらいいだろう、と悩んでいるうちにリヴァイの手がするりと離れた。
 リヴァイはただ、「お疲れ、また明日」と言ってこの箱を自らの足で出た。
 もしかしたらリヴァイの方から誘ってくれるかもしれないと思ったのに、その様子が全くないことにエレンは淋しくなった。
205: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:31:38.24 d AAS
 リヴァイは自分のことを好きだと言ってくれたけれど、エレンがリヴァイを想う程は想ってくれていないのかもしれない。
 エレンもリヴァイもいい大人だ。
 中学生や高校生の頃のように好きだけではいられない。
 それはわかっているけれど。
                 
「また明日も会えるかなんてわかんねぇのに」

 エレンは課長であるリヴァイが周りに期待され、色んな仕事を任されていることを知っている。
 だから頻繁に連絡することも、誘うこともしなかった。
 でもそれは、それでエレンが大丈夫というわけではないのだ。
 もちろん会いたい、もちろん淋しい。
 リヴァイが言ってくれればいくらでも一緒にいるのに。
 少し離れたリヴァイの背中を見ながら、エレンも歩き出した。
 周りには有名な課長と、他課の社員にしか見えないだろう。

「イェーガーさん!」

 高い女性の声に呼びとめられて、ハッとした。
 リヴァイの課のいつもの女性社員だ。
 彼女はビルの玄関の所でエレンを待っていたらしく、先にそこを出たリヴァイにも「お疲れ様です」と挨拶をしていた。
                  
「お疲れ様です!」
「ああ、お疲れ。…オレに何か用事?」

 いつもはオフィス前の廊下で話していることが多いから、社内ではなく外でこうして待ち伏せをされていることに少し違和感があった。

「はい!今日はイェーガーさんのお誕生日だって聞いたので、何かお祝いできないかなと思って」
「あ、そっか…誕生日」

 はい!と嬉しそうに笑う彼女を見て驚く。そうか、今日は誕生日か。
 エレンは完全に忘れていた。
 相変わらず仕事は忙しいし、それ以外はほとんどリヴァイのことを考えていたような気がする。
 今日が何日かをわかっていても、今日が何の日かなんて考えてもいなかった。

「お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう」
「この後何か予定ありますか?なかったらご飯食べに行きませんか?もちろん私が出すので!」
「いや…そんな気にしなくていいよ。おめでとうって言ってくれただけで充分嬉しいから」

 彼女の誘いをやんわりと断る。
 異性であれば、一緒に食事に行くことも何らおかしくはないのに、と思いながら。
206: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:31:56.39 d AAS
 少し落ち込んでしまった彼女は「そう言うと思ってました」と言って困ったように笑った。
 断られることを予想していたのだろう。

「じゃあまた今度、合同で飲み会でもしましょう!」
「…うん、そうだな」

 彼女が自ら大勢で、と言うのは初めてだ。
 いつもエレンが皆で、と言えば渋い顔をしたのは彼女だったからこの提案は意外だったけれど、なんとなく、彼女から二人でご飯食べに行きませんか、と誘われることはもうないような気がした。

 誕生日だと、彼女に言われるまで気がつかなかった。
 今日一日を振り返れば、確かに先輩が少し優しかったり、同期がお昼におかずをくれたりしていた。
 あれはもしかしたらそういうことだったのか、と思い当たる。
 おかげでおかずは一品多く食べることができたし、定時で仕事を終えることができたけれど、彼らが予想していたようなロマンチックな誕生日はおそらく過ごせないだろう。
 恋人であるリヴァイはエレンの誕生日を知らないだろうし、エレン自身も今さら言ったりしない。
 約束を取り付けていないエレンは、仕事が早く終わろうが、残業しようが、今夜を一人で過ごすことに変わりはないのだ。
 晩ご飯はいつもよりも豪華なものを買って行こうか。
 例えば何千円ってする焼き肉弁当だとか。いやあれは予約しないといけないのだった。

「エレン」

 だったら、せめて小さなケーキくらい買って行こうか。
 この時間に残っているかはわからないけれど、この際コンビニのケーキだって構わない。
 …そこまでしなくてもいいか。自分の誕生日なんて一年に一回は必ずやってくる日だ。
 そんなことよりも、一緒にいたい人といられる日の方が何倍も、

「エレン!」
「ぅおっ!?は、はい!」

 ぼんやりと考えながら歩いていたら、急に腕を後ろに引かれて体がグラついたのを何とか踏ん張って振り返る。
 その犯人が誰なのかを認識すると、一瞬にして掴まれた腕が熱くなったような気がした。

「リ、リヴァイさん…!?」
「二回呼んだ」
「え?す、すみません」

 ぼうっとしてて、と言うとリヴァイはわかりやすく溜息をついた
207: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:32:00.59 d AAS
 晩ご飯はいつもよりも豪華なものを買って行こうか。
 例えば何千円ってする焼き肉弁当だとか。いやあれは予約しないといけないのだった。

「エレン」

 だったら、せめて小さなケーキくらい買って行こうか。
 この時間に残っているかはわからないけれど、この際コンビニのケーキだって構わない。
 …そこまでしなくてもいいか。自分の誕生日なんて一年に一回は必ずやってくる日だ。
 そんなことよりも、一緒にいたい人といられる日の方が何倍も、

「エレン!」
「ぅおっ!?は、はい!」

 ぼんやりと考えながら歩いていたら、急に腕を後ろに引かれて体がグラついたのを何とか踏ん張って振り返る。
 その犯人が誰なのかを認識すると、一瞬にして掴まれた腕が熱くなったような気がした。

「リ、リヴァイさん…!?」
「二回呼んだ」
「え?す、すみません」

 ぼうっとしてて、と言うとリヴァイはわかりやすく溜息をついた。
 次にちゃんと話せるのは当分後かもしれないと思っていたから、こうして会えたのは嬉しかったが、先ほどエレベーターで会った時よりも明らかに不機嫌な雰囲気を出しているリヴァイに少し戸惑った。
 呼んでいるのに無視されたら嫌なのはわかるが、さっき「また明日」と言ったのはリヴァイの方なのに、と思ってしまう。

「何か急ぎの」
「今日お前が乗るのはこっちだ」
「はっ?」

 何か急ぎの用ですか、と聞く前に掴まれた腕をそのまま引かれて、エレンが乗る電車とは別の電車のホームに連れて行かれる。
 そっちはリヴァイの家へ向かう電車だ。

「あのっ、どうしてそっちに…今日は何の約束もしてないし、明日だって仕事が…!」

 朝一から昼を跨いで行われるそれに、課長であるリヴァイは出なければいけないはずだ。

「あと腕!離してください!」

 周りからの視線を感じる。
 慌てて、黙ったまま腕を引くリヴァイの手をパシパシと叩いた。

「ちゃんとついていきますから!」
「…、隣」
「はい…」

 ようやく腕を離してくれたリヴァイは、それでもまだ機嫌が悪そうだった。
 後ろをついてくるのではなく、隣を歩けと言われて大人しく従った。
 そんなに疑わなくても、もう逃げないのに、と思う。
208: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:32:17.42 d AAS
 リヴァイと一緒にいられることを嫌だと思うはずがない。
 ただ、リヴァイの迷惑にはなりたくないと思っているだけだ。
 ちょうど到着していた電車に乗り込む。
 この路線はいつもエレンが乗る路線よりも比較的乗客が少ないように思えた。
 吊革を掴むリヴァイの隣に並んで同じように掴んだ。
 リヴァイは元々、口数は少ない方だと思うけれど、今日は不機嫌が相まってもっと少なくて、何だか居心地が悪い。
 オレ何かしたかな、と考えてもピンとくることは思いつかなかった。
                  
「リヴァイさんの家に行くんですか?」
「ああ」
「そ、そうですか」

 会話が続かない。
 リヴァイはそれを口にしたきり自分から話すことはなく、眉を顰めながら、時折、何か考えているようだった。

 駅に着くとすぐ、リヴァイは「先に家に行って風呂でもためてろ」と言って逆方向へ歩いて行ってしまった。
 何がしたいんだ、と思いつつもリヴァイのマンションへと向かう。
 エレンのマンションよりも広く、部屋数も多い綺麗なマンションだ。
 エントランスのパネルに部屋番号を入力して開ける。
 部屋へと繋がる玄関の鍵は以前もらっているから問題はない。
 リヴァイが残業だという時は行かないようにしていたし、勿論アポなしできたこともないので、最初の一回以来この鍵はあまり使ったことはないけれど。
「お邪魔します…」
                                       
 鍵を開けて部屋へ入ると、暗く、静かな部屋が出迎えた。
 電気をつける。
 相変わらずゴミ一つ落ちていない、モデルルームのような部屋だ。
 春らしくなってきたとは言え、まだ少し夜は肌寒くなるので弱めに暖房をつけておいた。
 リヴァイがすぐに帰ってくるのかは分からないけれど、あの口ぶりだとそんなに時間はかからないのだと思う。
 もう少ししてから風呂に湯を張ろうと決めて、ふかふかのソファに腰を下ろした。
209: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:32:21.66 d AAS
 今日はラッキーだと思う。
 エレベーターで一緒になっただけでなく、リヴァイの意図はわからないが夜は一緒に過ごせるらしい。
 誕生日だから、神様が気まぐれでプレゼントしてくれたのかもしれない。
 そんな子どものようなことを考えて、ふ、と笑った。

「秘密にしよ」

 秘密にして、自分だけの誕生日の思い出にしよう。
 リヴァイの誕生日はいつなのだろう。その時まで恋人という関係が続いていたらいいな、と思う。
 もうエレンもリヴァイも誕生日を喜ぶような歳でもないけれど、それでも祝ってもらえるなら嬉しい。
 それが好きな相手なら尚更。
 部屋も暖まった頃、風呂をため始めた。
 リヴァイが帰ってくるまで何もやることがなくてぼうっとして、風呂が溜まったという知らせと玄関を開ける音が耳に入ったのは同時だった。
 すぐにお湯を止めに行って、その足で玄関先を覗く。
 両手にスーパーの袋を持ったリヴァイが靴を脱いでいるのが見えた。

「あの、先にお邪魔してます。風呂もためときました」

 言うと、少し目を丸くしたリヴァイがじっとエレンを見つめている。

「どうかしましたか?」
「…ただいま」
「はい」
「ただいま」
「? お、お帰りなさい」

 その場を動かず何度もただいま、と言うリヴァイに戸惑いつつもそう言えば、彼は満足そうにしてリビングへ消えていった。
 その後ろを追いかける。

「いっぱい買い物してきたんですね。仕舞うの手伝いますか?」
「いい。お前は風呂に入ってこい」
「え、でも」
「ゆっくり浸かって来い」
 キッチンにスーパーの袋を置いて、着替えもせずスーツの上着だけを脱いで何やら作業を始めたリヴァイの有無を言わせない態度にエレンも折れた。
 着替えは以前ここに来た時に揃えたものがあったから、それを寝室のクローゼットから出してきた。
 スーツも皺にならないようにハンガーを借りて掛けさせてもらった。
 おそらく今日は自分の部屋へは帰れないだろうし、朝一で家に帰るにしたってまたこのスーツを着なければならないだろうから。
210: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:32:40.55 d AAS
 キッチンではリヴァイが何かを切っている音が聞こえてくる。
 なかなか手際が良かった。
 リヴァイが料理をするなんて想像もしていなかったけれど、コンビニの弁当などを食べている方が想像できなかったから意外ではなかった。
 何を作ろうとしているのか興味はあったが、聞いてはいけないような雰囲気が漂っていたので見つめるだけにしておいた。
                  
「シャツは洗濯機にいれておけ」
「わ、わかりました」

 視線は手元からはずことはなかったけれど、見つめていたのがバレてしまったようで少し恥ずかしい。
 早足で風呂に向かい、羞恥を晴らすようにして脱いだシャツをバサリと洗濯機の中に放り投げた。
 今日のリヴァイは調子が狂う。
 夜はきっとセックスするのだろうと当然のように思ったので、手が勝手に体を隅々まで綺麗にしていた。
 そして髪も洗って湯船に浸かった後はずっとぼんやりとリヴァイのことを考えていた。
 次第に視界もぼんやりとし始めて、逆上せる寸前だと気がついて急いで上がった。
 少しふらつくような気がするけれど、結果的にリヴァイの指示通りゆっくりはできたと思う。
 脱衣所で少し落ちつくまで蹲っていると、扉が開いた。
                  
「…まさか逆上せたのか?」
「はい…あ、いや、いいえ」
「ほら」

 顔を上げると、額に冷たいものが当てられた。
 冷えたミネラルウォーターだった。

「すみません…ありがとうございます」

 それを受け取ると、リヴァイがエレンのまだ濡れて水滴の垂れる髪をタオルで優しく拭ってくれた。

「落ちついたら、ちゃんと髪乾かしてから来い」

 そう言ってリヴァイは脱衣所から出ていった。
 どのくらい風呂に入っていたのだろう。
 リヴァイが様子を見にくるくらいだから相当時間が経っていたのかもしれない。
 はぁ、と溜息をつくと、ミネラルウォーターを煽る。
 少しだけホッとした。
 そしてしばらくしてから髪を乾かして、リビングへ戻る頃にはすっかり体調は良くなっていた。
211: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:32:44.93 d AAS
 リビングへ続くドアを開けると、いい匂いがしてきた。
 途端に空腹なことにも気が付く。
 空腹で、しかも熱い風呂に長時間入っていればそりゃあ逆上せるな、とエレンは情けなくなった。

「もう平気か?」
「はい、すいません。ちょっと目眩がした程度なのでもう大丈夫です」
「そうか」

 座れ、と促されて椅子に座ると、テーブルの上にはこの短時間に作ったのかと驚くほど綺麗な料理が並べられていた。
 エレンはあまり料理をしないから簡単なものなのか難しいものなのかはわからないが、丼料理じゃないことだけはわかる。

「これ全部リヴァイさんが作ったんですか?」
「急だったからそんなに手間がかかるものは作ってねぇ」

 そうは言いつつも自分では作りそうもない鮭とほうれん草のクリームパスタに、鯛のカルパッチョ、きのこのたくさんのったチキンソテーはガーリックのいい香りがして食欲をそそった。
 レストランで出てくるように綺麗に盛られている料理にエレンは少し感動した。
 いただきます、と手を揃えてさっそく料理を口にすると見た目通り、味もとてもエレン好みで美味しかった。
 食後にはデザートまでついてきた。
 手作りだと言う苺のパンナコッタはとろけるような食感で、苺の酸味がまた爽やかだった。
 リヴァイがこんなに料理ができるとは知らなかったし、好きなのも知らなかった。
 これまで自分たちはセックスするためだけに会っていたから、恋人にならなければ一生知ることもなかったかもしれない。
                                  
「すごく美味しかったです。ご馳走様でした」
「こんなモンしか作ってやれなくて悪かったな」
「いえ全然!美味しかったです」
「もっと前から知ってたらちゃんと準備していた」
「?どうしても今日じゃなくちゃダメだったんですか?」

 首を傾げると、リヴァイが眉を顰めてこちらを見ていた。

「…何ですかその顔」
「お前…今日誕生日なんだろう?」
「どうして知ってるんですか?」
「さっきおめでとうって言われてただろうが…」
「あー…なるほど」
「そういうことは先に言っておけ」

 リヴァイは今日が誕生日だと言うことを教えなかったことに対して少し拗ねていたらしい。
212: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:33:01.89 d AAS
 でも、誕生日だと知って慌ててエレンを連れて来て、料理を作って、祝おうとしてくれていたのか。
 ふは、と思わず笑ってしまった。

「すみません、オレ今日誕生日なんです」
「もう知ってる。…おめでとう。何か欲しいものはあるか?」
「ありがとうございます。美味しい料理作ってもらったんで、それだけで嬉しいです」

 今日という日を自分だけの思い出にしようと思っていたけれど、リヴァイはちゃんと祝ってくれた。
 毎年一回は必ずくるこの日を自分の特別な人と過ごせたことはとても嬉しいことだと思う。
 それだけで今日と言う日が特別になる。

「あ、でもリヴァイさんの誕生日も教えてください」
「…十二月二十五日だ」
「クリスマスなんですか?」

 そうだ、と頷くリヴァイを見ながら結構先だなと思う。
 それまで一緒にいられるかはわからないけれど、今度はエレンが祝ってあげたい、と思った。

「じゃあその日はオレが料理を作るので、それまでしっかり料理教えてください」

 これは、これから先も一緒にいたいというエレンの願いだ。

・・・
                  
 風呂上がりのリヴァイから自分と同じ香りがする。
 正確には、今日はエレンがリヴァイと同じ香りを纏っているのだけど、近すぎて、もう境界線なんてわからない。
 全身を隅から隅まで舐められて、吸われて、とにかく泣きだしたくなるほど甘やかされた。
 そのせいでどこに触れられても体が跳ねてしまうし、シーツに擦れるだけで声が出てしまいそうだった。

「んっ、ぁ、…っも、いいって…っ」
「まだだ」
「ああっ、ぅ、…舌で、ぐりぐりって、しないで…っんあ」

 もうぐずぐずになっているはずの後孔にリヴァイの舌がにゅるりと入ってくる。
 そのまま固く尖らせた舌に内側の肉をぐりぐりと押されて、それを押し返すように締め付ける力が強まった。
 自分の後孔が開いていくのがわかる。リヴァイの優しい愛撫で緊張を解いた後孔が、その指と舌によってどんどん柔らかくなっていった。

「う、んぅ…っリヴァイさん…っも、いれてください…っあ、もう充分、だからっ…ぁ、」

 砕けそうになる腰に頑張って力をいれて、向きを変える。
213: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:33:06.11 d AAS
「ここっ…はやく、ぃれて…ください…っ」

 枕に頭をのせ、腰を少し浮かせて散々解された後孔を自身の指で広げて見せると、ローションがくちゅりと音を立てた。
 自分の指がそのぽってりとした入口に触れただけで体がビクンッと跳ねる。
 ここに早く入れて欲しい。
 その熱くて固い熱を埋め込んで、奥まで激しく突いて欲しい。
                  
「ぁ…っ、」

 そこに、ぴとりとリヴァイの熱が宛がわれる。
 後孔が期待してその先端に吸いつくようにキスしているのがわかった。

「はやく、…っリヴァイさん、いっぱいしてください…っいっぱい、ぎゅってしてください…っん」
「エレン、」

 リヴァイが腰を進めると同時に体を少し前に倒す。
 エレンの大好きなリヴァイが、その体がこんなにも近くにある。
 エレンは腕を伸ばしてリヴァイの背中に回すと、そのままぎゅうっと抱きついた。
 ずっとずっと、こうしたかった。
 でも、好きになってはいけないと、好きになるのが怖いと思ってずっと手を伸ばさないようにしてきた。
 でも今はそんなことしなくてもいい。好きなだけ抱きしめていい。
 もうリヴァイはエレンのもので、エレンはリヴァイのものなのだ。

「アッ、ん、好き、です…っリヴァイさ…っひぅ、」
「…俺もだ、エレン」

 疲れてしまったのか、体を丸めて眠るエレンの顔を見て、はあ、と息をついた。
 エレンが可愛くてたまらない。
                  
 与えてやれるものは何でもしてやりたいと思うのに、どこか遠慮するエレンは今日が誕生日だと言うことも教えてはくれなかった。
 それは単に自分でも忘れていただけだと言っていたが、きっとリヴァイがこうして言わなければずっと言わなかったに違いない。
 渡してあった合鍵もめったに使うことがないのだ。
 ただいま、と言って多少は言わせた感があっても「お帰りなさい」と言ってくれたのは正直嬉しかった。
 リヴァイもエレンも我儘なんて言うような歳でもないし、男だから大体のことは何でもできてしまうけれど、それでも我儘を言って欲しいと思う。
214: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:33:22.37 d AAS
「迷惑なんて、考えなくていい。お前は我慢しすぎだ」

 エレンがリヴァイに迷惑をかけてはいけないと思っていることを知っている。もっと会いたいという願いはリヴァイしか聞いてやることができない。
 リヴァイはただ待っているのだ。エレンが自分から一緒にいたいと望んでくれることを。
「リヴァイさん、起きてください。オレ一旦家に帰るので先に出ます」

 隣でまだ眠っているリヴァイを揺り起す。
 ぐっすり寝ているからこのまま起こさずに帰ろうかとも思ったが、以前、帰る時はいくら寝ていても絶対に声をかけろと言われたのだ。
「…いっしょにいけばいい」
「でもオレ着替えが…」

 昨日勢いでシャツを洗濯機の中に入れてしまったから、着ていくシャツはないし、人の少ない朝の電車でならまだ今着ている服でもあまり人に会わずに帰れる。
 だからできるだけ早く家を出たかった。
 このままじゃ寝ぼけたリヴァイに引きとめられて、帰れなくなってしまう。
 仕方がないから無視して出るか、とベッドを降りようとした。
が、枕に顔を押し付けたままのリヴァイに手首を掴まれてしまった。
 離してください、と言っても全く離す様子もないし、寝ているくせに力が強くて全然外せない。
 このままじゃ本当に、とエレンは焦り出す。

「シャツならある」
「は?オレ、リヴァイさんのは着れませんよ?」
「ちがう、お前の、きのうかってきた」
「え?」

 安いので悪いが、と続けられる。
 昨日、買いものに行った時に一緒にエレンのサイズのシャツを買ってきてくれていたらしい。
                                         
「だからまだ寝れる」

 そう言ってまた布団の中に引きずり込まれて、がっちりと抱きつかれてしまった。
 リヴァイが案外朝に弱いことを知った朝だった。

 二度寝して、さすがにもう起きないとやばいと思ってリヴァイを起こして適当に朝食を食べた後、買ってきてくれたシャツを着てスーツに着替えた。
215: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:33:26.30 d AAS
「あ、」
「どうした、サイズ合わねぇか?」
「それは大丈夫です、ありがとうございます。いや、昨日と同じスーツなのは構わないんですけど、ネクタイも一緒ってのは…って思って」

 スーツもネクタイも昨日と同じなんて、自分の家に帰っていません、と背中に張り付けて歩いているようで少し気が引ける。
 そんなに気にする社員もいないだろうけれど、あの同期ならきっとからかってくるに違いない。

「これやってけ」

 リヴァイがクローゼットからネクタイを一本取り出してくれた。

「え…ありがとうございます」

 落ちついた、少し暗めの青色のネクタイだった。
 触った感触が普段自分のつけているようなものとは少し違っていて、ずっと触っていたくなるような生地だ。

「それお前にやる」
「え!?これすごい高そうなんですけど!?」
「俺が一番気に入ってるやつ」
「そ、そんなん貰えませんよ!」

 つっ返そうとしてネクタイを差し出すと、正面に立ったリヴァイがそれを手にしてエレンの首に回した。

「昨日誕生日だったろうが。使ったやつで悪いが、貰ってくれ」

 そう言って、手際良くきっちりとネクタイを結ばれてしまえば、もう貰うしかない。
 嬉しくないわけがないのだ。

「あ…りがとう、ございます」
「誕生日おめでとう。今度はちゃんと何か買ってやる」

 赤い顔は俯いても隠せない。
 リヴァイが、ふ、と笑う声が聞こえた気がした。

番外編・おわり

エレンちゃんお誕生日おめでとう!

 実は同じ会社でリヴァイともエレンとも違う課にいたアルミン曰く

「あれ、エレン。今日はいつもより大人っぽいね」
「いや大人なんだけど」
「えーっとなんて言うのかな、リヴァイ課長っぽい?」
「!!」
「そうだ、誕生日おめでとう」
「…ありがと」
                
 
ファーーーーーーーーーwwwww
216: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:33:41.53 d AAS
 女を抱くことしか知らなかった体が男に抱かれることを知ってしまった。
 内側を抉られるような刺激は思考も快感に染まり、何も分からなくなるほど気持ち良かった。
 これまでにないほど乱れてしまい、こんなのは違う、オレじゃない、と何度思ったかわからない。
 それでもこれ以上の快感を得ることはこの人意外にはあり得ないとわかっていた。
 繋がりは、体以外に何もない。
 だからこそ、彼を見かけた時はいつもセックスしている姿としか結び付かなくて、体が勝手に疼いて期待しまう。
 そして、その事実にやはりセフレでしかないのだと落胆した。
 落胆してしまう理由には気がつかないふりをした。
 そして、いつかこの関係が終わってしまった時、自分はおかしくなってしまうかもしれないと不安になって、これ以上は踏み込まないように線を引いた。
 心の中にいつの間にか生まれていたリヴァイへの恋心は、エレン自身によって無視されることで迷子になり、孤独になっていた。
 けれど彼に、リヴァイに、縋っていい、好きになっていい、と言われた時、とてつもなく安心した。
 やっと救われたような安心感、幸福感。
 同時に、もう二度とこんな思いはしたくないと思った。

 エレンは心配してくれていた同期に「社食で悪いけど」と言って昼飯を奢ることにした。
 この会社の食堂はなかなか美味しくて、軽食からボリュームのあるものまで、メニューも豊富だから女性社員にも人気だ。
 同期に「一番高くてもいいの?」なんて聞かれて、若干顔をひきつらせ頷くと、冗談だと笑われた。
 まだ時間が早いのか、食堂は席を選べるほどには空いていた。
 結局、同期が選んだボリュームのあるカツ丼と、特に食べたいものがなかったエレンは日替わり定食を頼んで、窓際の席へと座った。近くに座っている者はいなかった。

「解決したっぽい?なんか吹っ切れたっつーか、落ちついた…?いや、ホッとしたような顔してるな、最近」
「…そんな顔してるか?」
「してるしてる。前は毎日不機嫌って感じだったし、一時期戻ったかと思えば今度は背中に闇背負って、無理してます、って感じだった」
217: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:33:45.49 d AAS
 なんだそれ、と言ってしまいそうになったが、まぁ…間違いではないかもしれない。
 訳も分からずリヴァイに強引に抱かれ、そのくせ放っておかれて頭にきていたし、自分のところへ来てくれたリヴァイに少しだけ満足もしたが、その後の関係を維持しようと無理をしていたのも事実だ。
 やっぱり、この同期はふざけていそうに見えて案外人のことをちゃんと見ている。

「…悪かったな、気遣わせて」
「気なんか遣ってねーよ」

 そうは言うけれど、話を聞いてくれようとしたり、食事に誘ってくれたりしてくれていたし、エレンに無理矢理聞くこともせずにいてくれた。
 しかし、それを言ってしまうのは野暮というものだ。
 何があったのかを話すことはできなかった。
 ただ「たぶん、もう大丈夫だと思う」と言えば、彼は「そっか」と笑っただけだった。
 午後は外に出ないといけないからと言って先に食堂を出た同期を見送って、エレンはまだ随分と残っている手もとの昼飯をゆっくりと食べ始めた。
 具合が悪いわけでも、気分が落ちているわけでもない。
 何と言うか、実感がわかないような感じで、気がつけばぼうっとしている。
 急に肩の荷を下ろされて、楽になるどころか何が起きたのかわからない、という感覚なのだ。
 リヴァイに好きだと言われたのは二日前だった、と思う。
 金曜の夜にホテルで会う約束をして、そのまま次の日の朝まで気が狂う程セックスをしていた。
 肉体が溶けたかと思うくらい全身が熱くて、思考もぼんやりとして、体に力が入らなくなった。
 眠る、というよりは気を失いそうになる時に、リヴァイに電話がかかって来たのを覚えている。
218: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:34:20.84 d AAS
 そして、そのやり取りを辛うじて視界に入れていると、ペットボトルのミネラルウォーターを煽ったリヴァイが口移しでその水を飲ませてくれた。
 そういえば喉もカラカラだった。
 冷えた水が体内に流れて少しだけ思考がクリアになる。
「トラブったらしいから行ってくる」と言いながら髪を撫でられて、その心地良さにまた目を閉じた。
 目が覚めた時にはリヴァイはいなくなっていた。そういえば呼び出されていたと思い出して、休日なのに大変だな、とぼんやりと思った。そして、シャワーを浴びて戻ると、スマートフォンに『そろそろ起きたか。
 部屋はそのまま出て構わない。また後で』とメッセージが届いていた。そのメッセージには『お疲れ様です。わかりました』と返したが、また後で、と返さなかったのは無意識だったと思う。
 そして休日が開けて今日まで、連絡は一度も来ていない。リヴァイの課は今日も忙しそうだった。
 好きだ、と言われた。好きです、とも言った。でも、果たしてこの関係は本当に変わったのか、エレンには自信がない。
 気がつけば、昼休憩に入った社員が増えてきたようで、ちらほらと食堂に入ってくる人が増え始めていた。早く食べて出ないと、と食べるペースを速めた。
 エレンの後ろの席に誰かが座った気配がした。椅子の背もたれが、コツリとぶつかる。

「あ、すいません」

 幅を取りすぎていたかもしれないと思って謝ると、背中にドン、と何かがのせられたような重みが増した。
 はぁ…と深い溜息が聞こえる。ああ、この匂いは。

「お…お疲れ様です、…リヴァイさん」
「…ああ」

 椅子を合わせ、エレンの背中を背もたれにするようにして寄りかかられている。
 頭ごと預けるようにするリヴァイの声は疲労に染まっていていつもよりも低かった。
 寄りかかられていて体を動かすことができない。
 食事をすることも躊躇われて、疲れたリヴァイの体が楽になるよう、ひたすら背もたれなりきろうとした。
 食堂にはどんどん人が増えていくが、だからと言って離れてください、なんて言うこともできなくて困ってしまった。
 きっと以前までのエレンであれば言っていたと思うけれど。
219: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:34:24.87 d AAS
「お前今日、定時であがれるのか」
「そうですね、たぶん」
「そうか。じゃあ駅前のカフェで待ってろ」 
「え?仕事終わってからですか?」
「ああ。俺も比較的早く帰れる予定だ…というかそろそろ帰らせてもらわねぇとさすがにきつい」

 珍しく弱音を吐いているような気がする。
 今まで普通の会話らしい会話はほとんどしてこなかったから、聞いたことがないのは当たり前かもしれないけれど。

「そろそろって、もしかしてあれから家に帰っていないんですか?」
「…まあな」

 風呂に入りてぇ、とうんざりしたリヴァイの声を聞いて、だから今日はいつもよりもリヴァイの匂いが濃いのか、と考えて急に恥ずかしくなった。
 自然に体が熱くなる。興奮にも似た高揚に頭を振ると、背中の重さがなくなった。
 立ち上がったらしいリヴァイを振りかえる。

「いくら早いって言ってもお前の方が早いだろうから、待っていてくれ」
「でも、お疲れなんじゃ」
「だからだろ。じゃあな」

 何が“だから”なのか。
 見上げたリヴァイの顔には疲労が浮かんでいたが、そう言って肩に手を置かれてしまえば何も言い返すことができなかった。

 定時を迎え、リヴァイに言われた通り、駅前のカフェに入る。
 仕事終わりの時間帯の店内はそれなりに客がいた。
 ホットコーヒーを頼んで席を探すと、運良く外がよく見える席が一つだけ空いていたのでそこに座った。
 土曜日の朝、休日出勤していた社員によって発覚したミスはかなりひどいものだったらしい。
 それでも他課に影響が出なかったのは課長であるリヴァイの働きによるものだと聞いた。
 さすがだと思ったが、あんなに疲労しているところを見てしまうと、働き過ぎなのではないかと思ってしまう。
 そんな状況で休む時間をエレンが奪ってしまうことは尚更躊躇うし、自分なんかと会うよりもゆっくり休むべきだと思う。
 リヴァイの顔を見たら早く休むように言って帰ろう。
 …言ってもいい立場にいるよな?と不安になったが、たぶん、おそらくだがもう体だけの関係ではないのだと思う。
 はっきりしないな、と思う。
220: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:34:41.06 d AAS
 それにしても、リヴァイからこうして約束を取り付けてくるのは初めてだったから、少し変な感じだ。
 普通の恋人みたいだ。
 だが、これまでセックスしかしてこなかったから、リヴァイとすることと言えばそれぐらいしか思いつかない。
今日だって当然のようにセックスをするのだと思っている。
 ただ、リヴァイからも誘ってくれるようになっただけでやることは今までと変わらないのかもしれない。
 好きだとは言われたけれど、果たしてそれで恋人になったと思ってもいいのだろうか。
 これまでの自分では考えもしなかった男同士の恋人。
 男同士の友情以上を経験したことがないのだから実感がわかないのも当たり前なのかもしれない。
 好きになった女を男として守り、支えていきたいと思うのは当然のことだと思う。
 けれど、リヴァイとの関係の中で男であるエレンはどちらかと言えば守られる側なのだろうし、現にセックスでは抱かれる側なのだ。
 だが、エレンもどうしたって男だから、当たり前のようにそうなってしまうことに抵抗があるのも当然のことなのだ。
 エレンは女のように弱い存在ではないのだから。
 一緒にいる時に女のように扱われていい気はしない。
 それがエレンを好きだと言うリヴァイからの愛情だとしても、男であることを忘れたくはない。
 だから、それを素直に受け止められるのは女側になるセックスの時だけなのだ。
 そう思うと、今まで散々体だけの繋がりだと言っていたセックスこそが自分たちを恋人たらしめるものなのかもしれないと思った。
 考え過ぎだと、思うかもしれない。
 自分が好きだと思った相手も自分のことを好きだった。それならそれでいいじゃないか。
 エレンはまた悩みすぎてしまう思考を掻き消すように首を振った。

「エレン。待たせて悪かったな」

 ハッとして顔を上げる。
 外が見える位置に座っていたというのに全く気がつかなかった。
 腕時計を見ると、リヴァイが来たのはエレンがこのカフェに入ってから一時間経った頃だった。
221: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:34:44.88 d AAS
「お疲れ様です。そんなに待っていませんよ。仕事の方はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、何とか。今日の仕事が間に合わないところだったが、あいつらが頑張ってくれたおかげだ」
「そうですか、良かったです」

 いつの間にかエレンの隣が空いていたらしく、リヴァイがそこに座る。
 はぁ、と重い溜息が聞こえた。
 何か飲みますか、と聞くと少し考えた後に、いらない、と返って来た。

「今日は早く帰って休んだ方がいいんじゃないですか?」
「…そうだな、帰ろう。俺の家に行くぞ」
「は?」

 ぽかんとするエレンを無視して立ち上がり、当然かのようにエレンの飲んでいたコーヒー代を払おうとするリヴァイを何とか抑えて自分で会計を済ませると、二人でカフェを後にした。
 どんどん先を歩いて行ってしまうリヴァイの後を慌てて追いかけて、いつもとは違う電車に乗り込んだ。

「リヴァイさんの家に行ってもいいんですか?」
「駄目だったら言ってねぇ」
「でも、疲れてるだろうしオレがいたら休めないんじゃ」
「問題ない」
「でも、」
「しつこい」

 聞き入れないのはそっちだろう、と思いつつも、そういえばこの人ははじめから強引だったと思い出して早々にエレンが諦めた。
 ざっと車内を見ても空いている席はなくて、二人並んで吊革に手を伸ばした。
 窓から見える景色がいつもと違う。
こんな風に並んで電車に乗るのは初めてで、リヴァイのいる右側が妙にむずむずした。
 降りるぞ、と言われて降りたのはたぶん乗ってから五つ目くらいの駅だったと思う。
 綺麗な街で、リヴァイに似合うな、と思った。
 道のわからないエレンはリヴァイのあとをついていくしかなくて、疲れている彼に煩わしいと思われないようにと、一歩後ろをただ無言で歩いた。
 途中でコンビニに寄ってミネラルウォーターなどを買ったが、リヴァイの住むマンションは駅から歩いて十分ほどで、うるさくなりがちな駅前から程良く離れた位置にあった。
 さすが優秀なリヴァイ課長と言いたくなるようなマンションに、エレンは何度も瞬きをした。
222: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:35:16.48 d AAS
「…お邪魔、します」

 玄関を開けた瞬間にリヴァイの匂いがふわりと香った。
 本当にリヴァイの部屋に来てしまったのか、と信じがたいような気分になってしまう。
 今まで会うのはいつものホテルの部屋だったから、リヴァイの家に来るのはもちろん初めてだ。
 彼のことを知っていくのが怖くてセックスする以外で一緒にいることをできるだけ避けていた。
 だから、一緒にいる時間が長くなればなるほど、どんどん新しいことを知っていく。
 例えば吊革を掴むのは左手。
 エレンは電車が揺れる度にぶつかりそうになる手にいちいちドキドキした。
 それと、見かけによらず甘いものが好きらしい。
 コンビニでプリンを買っているのを見てしまって、少し笑いそうになった。
 そうやって一つずつリヴァイのことを知って行けるのは、良いことだと、嬉しいことだと思う。

「道は覚えたか?」
「えっと、はい。たぶん。ほとんど一本道でしたし、それほど駅から離れてないですから」

 リヴァイに促されてソファへと座る。広いリビングは綺麗に片付いていて、少し落ちつかない。

「じゃあ次は一人でも来れるな」
「はあ…」

 ぼんやりとした返事をすれば、リヴァイは何を気にすることもなく隣の部屋へと消えた。
 リヴァイは当然のことのように言ったけれど、一人でここに来るようなことがあるのだろうか。
 今自分がここにいることすら未だに不思議でならないのに、一人で?
 戻って来たリヴァイがリビングのテーブルにコトリと何かを置いた。

「エレン、鍵はここに置いておく。俺は先に風呂に入ってくるからお前は好きにしてろ」

 ソファから振り返ると、確かにテーブルの上に銀色に光る鍵が置かれている。
 わかりました、と答えると、リヴァイは風呂場へと早足で向かった。

「…帰る時は掛けて帰れってことかな」

 エレンはリヴァイのいない部屋でやっと肩の力を抜いた。

「ん、…っ」

 風呂から上がって来たリヴァイが隣に座ったと思えば、すぐに唇を塞がれた。
 やっぱりするのか、と冷静に考えながらも体はどんどん熱くなって、休んで欲しいと思うのにその手を拒むことはできなかった。
223: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:35:20.39 d AAS
 後頭部に回った大きな手に引き寄せられて、口付けが深くなる。
 まだ少し濡れているリヴァイの髪から水滴がぽたりと落ちて、エレンのシャツを濡らした。

「っ、ふ…ぁ、リヴァイさ…っぁ…、は、あの…っ」
「…なんだ」
「その、手、を…」

 今まで伸ばせなかった手を。
 恐る恐るリヴァイの肩に手を伸ばすと、リヴァイが驚いたように何度か瞬きをして、ふ、と笑った。

「どうぞ?」
「…っ」

 腕を持ち上げられて、リヴァイの肩にのせられた。
 その余裕に、おじおじしていた自分が少し恥ずかしくなったけれど、また深いキスをされてしまえばその腕でリヴァイに抱きつかずにはいられなくなった。

「ん、んっ…ぁ、」

 エレンの体はリヴァイに触れられればすぐに反応してしまう。
 体は熱くなって、キスをして舌を絡ませただけでどうしようもなく興奮した。
 現にもうすでにエレンの中心は固くなりはじめているし、リヴァイの指がシャツの裾から入って肌を撫でる度に腰が揺れてしまう。
 もっと、いっぱい触って欲しい、そう欲張りになればなるほど、ぎゅう、と無意識にリヴァイに縋った。

「エレン…腕、少しゆるめろ…」
「え、ぁ…ごめ、なさ…っ」

 ハッとして慌てて腕を解くと、リヴァイの体がぐらりと傾いて、エレンの胸にぽすりと落ちた。

「え?リヴァイさん?」

 すう、と静かな寝息が聞こえてくる。
「寝てる…?」

 やっぱり相当疲れていたんだ。
 軽く背中を叩いてみたが、起きる様子は全くない。
 おそらく、エレンとホテルで会っていたあの日からずっと休まず駆けまわって、眠る暇もなかったのだろう。
 しばらくどうしようか考えたが、寝ているリヴァイを寝室へ運べるほど力はないので、このままソファに寝かせることにした。
 許可もなく入るのは躊躇ったけれど、風邪を引かせるわけにはいけないと、寝室に入って布団を何枚か持ってくる。
 布団からはリヴァイの香りがして、体の熱を取り戻しかけたが、ぐ、となんとか堪えた。
224: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:35:36.49 d AAS
 ちゃんとベッドで横にならないと疲れはとれないだろうけれど、仕方がない。
 エレンは自分の非力さを悔やんで筋トレしようかな、なんて考えてみる。
 いくら鍛えてもリヴァイには勝てそうもないけれど。
 テーブルの上に置いてあった鍵で玄関に鍵をかけると、玄関ポストにそれを落とした。
 終電には十分間に合いそうだ。
 迷わずに駅まで来ると、あと少しも待てば電車が来そうだった。
 スマートフォンを取り出してメッセージアプリを開く。

『鍵はポストに入れておきました。ゆっくり休んでください。』

 すぐに既読がつくことはないだろう。
 セックスもせずに帰ったのは初めてだ。
 リヴァイの寝顔を見るのも初めてで、眉間の皺がなくなって少し可愛く見えた。
 それに、あんな風に人に寄りかかって寝てしまうなんて意外だった。
 それほど疲れていたのかもしれないけれど、他人にはあまり無防備なところは見せない人なのだろうと思っていたから。
 エレンはスマートフォンを仕舞うと、ホームにゆっくりと到着した電車に乗り込んだ。

・・・

 起きてスマートフォンを見ると昨日のメッセージに既読のマークがついていたから、朝はちゃんと起きられたのだと思う。
 少しでも疲れがとれていればいいけれど。
 しかし、会社でばったり顔を合わせて、疲れ云々というよりかは不機嫌そうなことにエレンは首を傾げた。
 明らかに先を急いでいるリヴァイに頭を下げ、その場を去ろうとした腕を掴まれ、人気のない所まで連れて来られた。
 壁に追い詰められ、リヴァイの腕に囲われて、ジロリと睨まれた。
 逃げられそうもない。

「え、と…あの、オレ何かしました…?」
「…帰るなら起こせ」
「でも、ゆっくり寝て欲しかったんです、けど」

 疲れて寝てしまったリヴァイを起こすようなことはしたくなかったし、彼のことを考えての選択だったのだが、ただ起こさなかったことを怒っているのか、勝手に帰ったことを怒っているのか、エレンにはわからなかった。
 リヴァイが、はぁ、と大きな溜息を吐く。
225: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:35:40.22 d AAS
「…次からはいくら寝ていても起こせ」
「わ、わかりました」

 リヴァイが離れる。
 これまでこうして強引に腕を引かれた時は何かされることが多いから、何事もなく体が離れたことに少しホッとした。
 昨日は、キスはしたのにセックスできなかったから、今ここで体にそういう意味で少しでも触れられたら我慢が出来なくなりそうだった。

「それと、お前あの鍵の意味、わかっているか?」
「掛けて行けってことですよね」
「…違う」
「え?」
「まぁいい。次渡した時はそれ使って家で待ってろ。あと返さなくていい」

 時計を見ながらそう言って去っていくリヴァイの背中を見ていた。
 鍵の意味。
 返さなくていい、と言うのはつまりエレンにくれるということなのだろうか。
 もしかして、あれは合い鍵だったのだろうか。
 確かにリヴァイが使っていた鍵はキーケースについていて、エレンに渡したものとは違った。
 あれは合い鍵だったのか。
 だとしたらそう言ってくれればよかったのに。
 でも、合い鍵なんて大事なものは信用のおける人にしか渡すものじゃないと思う。
 例えば、恋人、だとか。

「……、恋人」

 口に出した瞬間、ぶわわ、と顔が熱くなる。
 はっきりしない、実感が沸かない、なんて言ってきたのに、リヴァイが自分のことを恋人だと思っているかもしれないと考えただけで急に恥ずかしくなった。

「なんて単純…」

 エレンはその場に座り込み、思わず笑った。
 うだうだ考えていた。
 自分は女じゃないから守られたくない、なんて意地を張って、そんなことを考える自分はリヴァイの恋人ではいられないのではないかと思っていた。
226: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:35:55.26 d AAS
 だけど、やっぱりそんなのは考えすぎていただけだった。
 男だ、女だ、なんて関係ない。
 エレンはリヴァイという人が好きで、好きな人に恋人だと思ってもらえただけでこんなにも嬉しくてたまらない。
 自分よりも弱い存在だから守るんじゃない、好きな相手だから守るのだ。
 エレンだって好きな相手を守りたいと思うし、心配だってする。
 それはきっとリヴァイだって同じことで、お互いにそう思って、気持ちのうえで対等になれるのが恋人なのだと思う。
 いつかも言ったかもしれない。
 エレンは長らく、恋というものをしていなかった。

「はは、久々すぎて忘れてた」

・・・

 忙しい日が続いて、リヴァイともなかなか連絡がとれなかった。
 それも一段落して、社食で少し遅い昼食を食べ終え、一息ついているところだった。

「イェーガーさん、お疲れ様です!ここいいですか?」
「ああ、お疲れ。どうぞ」

 正面の席に座ったのはリヴァイの課の子だ。彼女は休憩しに来たのか、手には甘い匂いのするカップを持っていた。
 彼女と話すのも久しぶりだ。楽しそうに話すのをエレンはただ合槌をうちながら聞いていた。

「イェーガーさんもしかして恋人できました?」
「…え、なんで?」
「なんか…うーん、落ちついたっていうか…いや前から落ちついた感じではあったんですけど、うーん、とにかく前と何か違う気がします、いい方向に」
「そうかな」

 どう言ったらいいのかわからなくてはっきりしない彼女はいつかの同期の姿と重なるものがあってエレンは、はは、と笑った。
 変わったのかどうか、自分ではわからない。
 でも、あの日から心がすっきりしたような気はしている。
 いつもどこかで抱えていた不安はいつの間にか気にならなくなっていた。

「じゃあ今日ご飯行きませんか?恋人いないならいいですよね?」

 ぐ、とこちらに身を乗り出して言う彼女に「えっと、」と戸惑った声を出してしまった。
227
(1): (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:35:59.35 d AAS
 すると肩にトン、と手が置かれて反射的に顔をそちらに向けた。

「仕事しろ」
「課長!」

 リヴァイだった。
 エレンの肩に手を置いているくせに、その言葉は彼女に向けて言っているものだった。
 そしてそのまま自然にエレンの隣へと座る。

「今休憩中です。って課長、また邪魔する気なんですか?」
「ああ?別に」

 言いながら、ちらりと横目で見られた。

「予定がねぇなら付き合ってくれるんじゃねぇか?」
「え、」

 女と二人でご飯を食いに行っても構わない、と言われているようでエレンは少しショックだった。
 リヴァイはエレンが女とセックスすることも構わないと言っていたし、こうやって時折、手離すようなことを言うのだ。
 好きだと告げた日にそんなことを言うのは止めて欲しい、と言ったのに、未だにそれを許す真意がわからない。
 ふと、どうしたいんだ、と少し苛立つエレンの手に何かが触れた。

「っ、」

 リヴァイの指だ。
 まだ二人はエレンの前で会話を交わしていると言うのに、テーブルの影に隠れて何食わぬ顔で触れてくる。
 ああ、もう。口では「付き合ってくれるんじゃねぇか」なんて言っておいて、行かせる気なんか少しもないではないか。
 掌に冷たい、金属の感触。それは紛れもなく、リヴァイの部屋の鍵。

「もう!冷やかしにきたんですか?」
「ちゃんと用事があってきたが、もう済んだ」

 立ち上がったリヴァイがエレンを見下ろして、少し笑った。

「課長もちゃんと仕事しないと最近できたって言う恋人に愛想つかされちゃいますよ!」
「ああ…それはねぇだろ。お前もそう思うよな?エレン」
「えっ、そ、そうですね…」

 ああ、ああ、もう、本当に。
 エレンの返答を聞いて満足そうに去っていくその背中に飛びついてやりたくなった。
 クソ、とエレンは心の中で呟く。
じわじわと顔が熱くなっていくのを止めるのに躍起になった。
228: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:36:14.30 d AAS
「それで、今日どうですか?」
「ご、ごめん…予定、できたから…」
「なんだ、残念です」

 次渡した時はそれ使って家で待ってろ。
 そう言われたことを、エレンは忘れていなかった。
                                         

 リヴァイがいつも使っているのとは違う、何もついていない鍵で中に入った。
 リヴァイが帰ってくるまで何をしていたのか思い出せないけれど、玄関が空いた瞬間に中に引きずり込んでキスをしたのは覚えている。
 珍しくリヴァイが驚いたような顔をして、体勢を崩していた。
 どうしてか、堪らなく触れたくなった。
 今までずっと触れて欲しいと思うばかりだったのに、今日は自分からリヴァイに触れたくて頭がくらくらした程だった。
 寝室に連れて行かれて、両手を握られたままベッドに座ったリヴァイがこちらを見上げてくる。

「冷や冷やしました。あんなこと言って、オレを試して面白がってるんでしょう?」

 リヴァイの上に乗り上げるようにして跨った。
 自然と腕は彼の頭を抱きこむ形になる。

「リヴァイさんは、まだオレが女を抱いてもいいと思ってるんですか?」
「お前は俺とセックスするが、男が好きなわけじゃねぇだろう?男なんだから女も抱きたくなって当然だ」

 そう言いながら背中に回った手が骨をなぞるように撫でられて、反射的に仰け反った。
 リヴァイはわかっているのだ。
 抱かれる側のエレンが自分で男であることを忘れたくないと、ただ女のように扱われるのが嫌だと思っていることをちゃんとわかっている。
 だから、こうしてそのチャンスを与えるようなことを言うのだ。
 …そんなこと言うから、セフレだと思われるんですよ。
小さく呟いた声はリヴァイの耳にも届いていると思う。

「リヴァイさんはオレ以外も抱きたくなるんですか?…ぁ、」

 首筋をれろりと舐められて、小さく喘ぐ。

「俺はお前しか抱かない」
「でもオレは女とセックスしていいって?」
「男はひっかけるなよ」
「…オレだってリヴァイさんだけです」
229: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:36:18.13 d AAS
 リヴァイだからセックスしたいと思う。
 抱いて欲しいと思う。
 それは間違いなくリヴァイを好きだからで、好きな人に他人とセックスしてもいいなんて言われたら嫌に決まっている。
 本当は自分のことを好きじゃないのかもしれない、と思ってしまうのは当然だ。
                                          
「リヴァイさんはそうやってオレに選択肢を与えようとするけど、そんなの必要ない。もっと縛ってください。…じゃないとオレはどうしていいかわからなくなる…」
「お前を全部、俺のものにしていいのか?」

 じっと顔を見上げられた。

「…好きな人には全部あげたいと思うし、好きな人は誰にも渡したくないって思うのが、普通なんじゃないんですか」
 男同士で好きだ何だ、と言い合うのはどうしても恥ずかしくて顔を背けてしまう。
 けれど、恋人同士であるならどうだろう。
 無償に好きだと言いたくなるし、触れていたくもなる。

「お前はすんなり帰っちまうし、合い鍵を受け取らねぇからその気はないんだと思っていたが…」
「それはリヴァイさんの言葉が足りないんですよ…!」
「……まぁいい。もうお前は俺のものでいいんだな?」

 はい、と言おうとしたその唇を塞がれて、それに応えるようにリヴァイにぎゅうっと抱きついた。

 唇が腫れてしまうかもしれないと思う程にキスをして、自分よりも分厚いリヴァイの手で肌をなぞられ、敏感な部分を擦られて何度も達した。
 今までシーツを掴むしかなかった手でリヴァイに目一杯抱きついて、抑えなくなった声で何度も「好き」とこぼす。
 やはりリヴァイとのセックスは気持ちが良い。
 思いが通じたとなれば、尚更、気持ちが良かった。

「あ、ああっ…ん、んぅ、リヴァイ、さん…っ」

 もう下半身はローションや体液でぐちゃぐちゃで、あんなにきつく閉じていた後孔もリヴァイの舌と指に翻弄されてだらしなくヒクつき、開いたままになっていた。
 すぐに熱いリヴァイのモノで塞いでくれると思ったのに放っておかれて、もの欲しそうに疼いてしまっている。
230: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:36:33.54 d AAS
 仰向けに寝かされ、赤く熟れた乳首に吸いつかれた。
 じゅう、っときつく吸い上げられて背中がビクビクと跳ねあがる。
 快感を押さえつけるように、リヴァイの頭を抱え込めば、また吸い上げられて、カリッと噛まれた。
                                          
「ああっ…んっ!…、はぁっ…、ぁ、噛まな、で…っ」
「でも今のでまたイッただろう、エレン」
「ん、ゃ、…も、おかしく、なりそ…だからっ、入れてください…っ」

 何度もイかされたし、寸止めにもされた。
 もう乳首だけでも達してしまうほど、体中が敏感で、脳が痺れている。
 このままじゃ気を失ってしまいそうだった。
 自ら足を上げて、リヴァイを見上げる。
 余裕をなくして歪むその顔に興奮した。

「アッ…、すご、い…ぐちゅぐちゅ、してる…っ」

 後孔の窄まりに指を伸ばして、ぐずぐずに蕩けてヒクつくそこを見せつけるように開いた。
 我慢できずに少しだけ中に入りこんでしまった指に、粘着質な液体がくちゅりと絡みついた。

「ここ、リヴァイさんので、奥まで、いっぱいにしてください…っ」

 はぁっ、と切羽詰まった呼吸が聞こえて、熱くぬめった後孔に熱く、固くなった性器が押し付けられる。

「ぁ、っ、んっ〜〜〜……っ!」
 
 そのまま躊躇いもなく、ぐ、と腰を進められて、リヴァイの性器が根元まで内側にぐぢゅんっと突っ込まれた瞬間、全身に電気が走ったみたいにガクガクと震えて、大きすぎる快感に、たまらずリヴァイの背中に爪を立てた。

「あっ、あ…、ぁ…ゃ、すご、い…入れただけ、なのに…っ気持ちいい…っはぁ、」

 体に力が入らないのに、後孔はリヴァイの熱をぎゅうっと締め付けて離さない。

「あっ、ん、リヴァイさん…っ熱い、オレの中でびくって、してる…っは、ぁ…っ」
「お前…っ、そりゃわざとか?」
「な、何…っアッ!…ぁ、まだ、奥っ…」
231: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:36:37.14 d AAS
 足を抱えられて、折りたたまれるようにされると奥まで入ったと思っていた性器がもっと奥まで入り込んできた。
 熱い、大きい、固い。
 隙間なくぴったりと埋まる熱は少しの動きでも敏感に反応して、締め付けてしまう。
 耳元で、「悪い、動く」と余裕のない声が聞こえて、え、と思った瞬間には媚肉を強く擦られた。

「アアアッ…〜〜〜っ、っ、ぁ、く、ぁ…っ」

 全身がスプッスプッと震え、中でイッてしまったのがわかった。
 リヴァイにしがみついていないと、自分が今どこにいるのかがわからなくなってしまいそうで、必死にしがみついた。
 ああ、気持ちいい、すごい、死んじゃいそう。

「アッ!あっ、ん、は、あぁっ…!リヴァイさ…っリヴァイさん…っすき、です…っ」
「ああ、っ俺も好きだ」
「い、いっぱい…っしてくださ…っ…ぁ、んぅ、あ、はぁっ」

 性器を出し入れする度に、ぐぢゅ、ぢゅぶ、と恥ずかしい音が聞こえてくる。
 でも繋がっているのだと実感できて興奮した。
 顔を近づけて、キスをせがんだ。

「ん…、食べちゃう、みたいなキス、してください…」
「は、なんだそれ」
「ん、好き、です…っ」

 思えば、あの最初のキスでエレンはもうリヴァイのことを好きになっていたのかもしれない。
                                          

おわり (笑)

内容ごちゃごちゃで本当すいませんでした
ありがとうございました!(大爆笑)
232: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:38:54.15 d AAS
かみやゆすら

「…探している資料があるんだが、調べてもらえるか」
「あ、はい。何の資料ですか?本の名前とか、解りますか」
「本の名前、というか…ウォール時代のことが書いてある文献を探しているんだ」
漠然としたリヴァイの要求をどう受け取ったのか、図書委員は目をぱちりと瞬かせる。そうしてこてんと小首を傾げた。
その動作を困惑と受け取ったリヴァイは、遠慮なしにまた溜息を吐く。やっぱり一年坊主には荷が重たかったか。
「ああ、いい。自分で探すから」
彼に頼るのは諦めて、今の時間内で出来る限り探してみようとリヴァイは踵を返しかけて、くいと袖口を引かれる感覚に足を止める。
振り返れば、遠慮がちに、だがしっかりとリヴァイの制服のジャケットを握り締める手。
潔癖のきらいがあるリヴァイにとっては余り好ましい動作ではなくて、多少の不快感が袖口でざわめいた。
「…てめえ、何しやがる」
「先輩、ご案内します」
リヴァイがぐっと睨みつけてやっても、図書委員は小首をこてんと傾けて少しも怯まなかった。
凛とした声がはっきりと告げてきた言葉に、リヴァイはくいと片眉を上げる。
検索システムを使うような素振りはなかったし、まさか一年のくせに蔵書の場所を覚えているとでもいうのだろうか。それとも当てずっぽうか。
「…場所、わかるのか」
「はい」
リヴァイの問いにひとつ頷いてカウンターから出てきた図書委員は、迷いなく足を図書室の南側へと向けた。
そうして振り返ってこちらの様子を窺ってくるから、一瞬の戸惑いはとりあえず置いておくとして、リヴァイは彼についていくことにする。
リヴァイより少し背の高い、細身の背中。僅かに頭頂部に残った寝ぐせがひょこひょこと揺れるのを何となく眺める。柔らかそうな髪だから、寝ぐせも付きやすいんだろうか。
そんな風にとりとめもなく考えていたら、前を歩く彼はどんどんと図書室の奥の方へと進んでいく。リヴァイにとっては初めて足を踏み入れる領域だ。
ただでさえ静かな空間なのに、奥まったこの場所では更に音は遠ざかって、何だか世界から切り取られたような錯覚を抱く。
棚が並べられた間隔は狭く、譲り合ってようやく人がすれ違える程度の幅しかない。
隙間なくびっしりと並べられた本が左右から迫ってくるように感じられて、リヴァイは思わずごくりと息を飲んだ。
「先輩、ここです」
涼やかな声が前方から静かに届いて、リヴァイは周囲に散らしていた視線をそちらへと戻す。
233: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:39:00.92 d AAS
おいおい図書委員としてそれはいいのか、と多少気になったけれど、午後の授業がもうすぐ始まろうという今、図書室にはもう自分達以外いないことを見て取って、リヴァイは肩を竦めるだけでそれを流すことにした。
「せんぱーい、学生証貸してください」
先程より随分気安くなった口調で、図書委員がリヴァイを呼ぶ。制服のポケットから取り出して渡すと、男にしては華奢な指が丁寧にそれを受け取った。
慣れた手つきでカードリーダーに通せば、パソコンの画面にリヴァイの情報がぱっと表示される。
画面をちらり、そうして手元の学生証をちらり、小首をこてんと傾けた図書委員の視線の動きが気になって何となく追いかけていると。
「リヴァイ、せんぱい」
小さな、小さな声で彼に名を呼ばれてはっとする。
彼の視線は既にリヴァイが借りる本に移ってしまっていて、きっと自分の呟きをリヴァイが拾ったことにも気づいていないんだろう。それでも、聞こえてしまったその響きがどうしようもなくくすぐったい。
いよいよ自分の頬の熱さを自覚して、リヴァイは慌てて彼から目を逸らした。
「貸し出し期間は一週間です。忘れずに返してくださいね」
手続きを終えた図書委員が重ねた本の上に学生証を乗せて、すっと差し出してくる。もごもごと口の中で了解の返答を呟いて、本を受け取った。
腕に伝わる、四冊分の重み。これがあれば課題はどうにかこなせるだろう。
リヴァイの用件はその時点で終わってしまって、だからさっさと教室へ向かえばいいのに何だか立ち去りがたくて、リヴァイは呆然とする。何だろう、この感覚。
「…先輩?」
こてんと、小首を傾げて彼が不思議そうな声を出した。何か、何か言わなければ。
「…名前、」
「…はい?」
「お前、名前、教えろ」
自分の口から飛び出した言葉の余りのたどたどしさに、リヴァイは言った瞬間に頭を抱えたくなった。もうちょっと言いようがあっただろうに、何を緊張しているんだ俺は。
今すぐ消えてしまいたいリヴァイの心境など知る由もない目の前の彼は、一瞬の間の後に、ふんわりとまた花の咲くような笑みを浮かべた。
「…エレン、エレン・イェーガーです。…また来てくださいね、リヴァイ先輩」
エレン、と舌の上で聞いたばかりの名前を転がしてみる。それが何だか癖になりそうな響きで脳に焼き付いて、リヴァイは腕の中の本をぐっと抱き締める。
きっと自分はまた図書室を訪れるだろう。
234: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:39:20.20 d AAS
図書委員としての仕事もそっちのけ、予鈴も聞こえなかったくらい本選びに没頭しているエレンに声を掛けるのが躊躇われた結果、授業には完全に遅刻してしまいそうだ。
けれど、今のリヴァイにとってそんなことは些細なことだった。
「うわっ、わっ、昼休み終わっちゃう!手続きしちゃっていいですかっ」
「ああ、頼む」
確か一週間前も似たような台詞を聞いたなあなんて思い返しながら、リヴァイは何となく満たされた気持ちで小首をこてんと傾けたエレンの作業を眺める。
並べられた三冊の本はどれもリヴァイがまだ読んだことのないものだった。完全にエレンの好みが反映されたそれ。
本の中身そのものよりも、それを読めばエレンの内面に迫れるような気がして期待が膨らんでいく。エレンは、本を通してどんな世界を見たんだろうか。
「おい、エレン」
「へ、あ、はい」
忙しく手を動かすエレンに遠慮なしに声を掛ければ、やや上の空の返事があった。
顔を上げてこてんと小首を傾げる仕草はもう何度も見たことのあるもので、きっとエレンの癖なのだろう。
「お前、受付当番はずっと水曜なのか」
「えっと、その予定です、けど」
「じゃあ来週も来る。その次も。…来るから、本を用意しておいてくれるか」
お前が好きな本をもっと知りたいから。リヴァイの言葉に、エレンはぼんと音がしそうなくらいの勢いで頬を赤らめた。――おいおい、なんだその反応。
予想外のエレンの様子にリヴァイは少しばかりうろたえるけれど、それはやっぱり顔色には表れない。
「今度は一週間猶予があるからな。…期待してるぞ」
内心の動揺を抑えつつ、にやりと笑みを浮かべてリヴァイがそう言うと、エレンは上気した頬のままこくりと頷く。
「…先輩が来てくれるの、待ってますね。本と一緒に」
柔らかな笑みとともにそっと呟かれた言葉は、ちょうど鳴り響いた午後の授業開始を告げるチャイムに掻き消されることなく、リヴァイの耳に届いて甘く響いた。
                                         

続く(大爆笑)
235: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:39:23.79 d AAS
それはイケナイ愛情表現♡

by かみやゆすら

 本当にツいてない。
 ツいてない日は徹頭徹尾ツいてないもんだと思い知らされた。
 エレン・イェーガー十六歳。
 この世のなにもかもが極彩色に見える、花の高校二年生である。
 それなのに、だ。今日は最初からまったくもってツいてなかった。不運ばかりに見舞われた。
 今日ほどツいてないことなんて、一生のうちにそうそうあるものではない。
 エレンは押しこめられた病院のベッドの上で、真っ白い天井を見上げながらふうと嘆息した。
そもそも発端はなんだったか。朝からの己を振り返る。
 朝、寝坊した。登校するため慌てて自転車に乗って家を出たら、五分もしないうちにみるみる空模様が変わり、あっという間に真っ暗になったかと思うと、嘘みたいな土砂降りの夕立になった。
 朝なのに夕立ってなんだそれ、ありえんのかよ、なんて悪態を吐きつつも、自転車を漕ぐ脚は止めなかった。
 雨宿りなんかしてたら完璧に遅刻するからだ。
 生活指導に釘を刺されていて、これ以上一日だって遅刻してみろ、進級できんからな、などと脅されていたことを思い出す。
 進級できないとなると、母カルラが角を出して怒り狂うのは目に見えている。母ちゃんには弱い。世の男どもの常に、エレンも当て嵌まる。
 仕方ねえな、着いたら体操着にでも着替えるか、なんてびしょ濡れのまま学校を目指していたら、今度は目の前に猫が飛び出してきた。しかもひょろくて小さい仔猫である。
「嘘だろ?!」
 絶対に! 何が何でも! 轢きたくない!
 キュッと急操作したハンドルは、間一髪のところで仔猫を避けた。
 けれど、濡れたアスファルトは細いタイヤをするすると滑らせる。
 ずしゃあっっと横滑りした挙句、乗っていたエレンごと吹っ飛ばして盛大に倒れてしまった。
「いってえええええ!!」
 気づいた時には地面とお友達。
 もうすでにびしょ濡れだったから、自分の身は諦めがつくものの、前かごに入れていた通学かばんもずっぽりと水たまりに浸かってしまった。
236: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:39:39.43 d AAS
「ああああああ! チクショウ、母さんの弁当!!」
 慌てて拾いにいく途中で、さきほど自分が避けた仔猫に気づく。
 生後間もないキジトラは、豪雨のせいでびっしょびしょになっていた。
 冷えてしまったのか小刻みに震えている。
(やべえ、これ病院連れていかなきゃ死んじゃうフラグか?!)
 仔猫は冷えることに大層弱い。エレンも昔、猫を飼っていたことがあるのでわかる。
 こんなチビのうちに体温を奪われてしまえば、あっという間に儚くなってしまう。
 そっと抱き寄せると、案の定仔猫は抵抗する気力もなく、エレンの腕のなかに収まって丸まった。
(進級か! このちっこい猫か!)
 エレンは本当に本気で悩んだ。とてつもなく重い二択だった。
 しかして、うんうん唸りながら悩んでいたエレンの耳に、別方向から小さな鳴き声が聞こえてくる。
 にゃう、と掠れた微かなそれは、チビ猫が蹲っていたのとまったく逆の車道側。
「は?!」
 声のする方へバッと目をやると、そこには同じような大きさのキジトラがもう一匹。
 兄弟なのかもしれない。
 そう悠長に考える間もなく、そのもう一匹は車道へぴょこんと飛び出してしまったではないか。
「ばっかやろ!」
 そこからはもう、考える余地もなく身体が動いていた。
 地面を蹴る。
 身を躍らせて腕を伸ばす。
 どうかこの手が届きますように、と強烈に願ったところで、エレンの意識はブラックアウトした。
237: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:39:42.99 d AAS
(痛え……)
 ふ、とそう思いついたところで、エレンの意識はふわり浮上した。
 なんだかよくわからないが、身体のあちこちが痛む。
 肘や肩、背中のあたりがじわりと痛い。それから下半身。
 どうも足の感覚がない。
 どこかに寝かされているらしいことはわかったが、頭もぼーっとしているためいまいち状況はわからない。
 そのうちに足音が近づいてきて、見知らぬ女性の声があがった。
「先生、患者さんの意識戻りました!」
 バタバタっと離れていく気配。そのすぐ後に、今度は人数を増やして近づいてくる足音。
 なにやら近くで機械を操作するような音がして、エレンはうっすらと瞼を開けた。
(男の……人……)
 じわじわと開けた視界で、こちらを覗きこんでいる男の姿。
 すっきりと撫でつけた髪。汚れひとつない眩しいほどの白衣に聴診器。
 小柄で少し目つきの悪いその人は、ふ、と安堵の溜息を漏らして見せた。
「生きてて良かったな、死に急ぎ高校生」
「……は?」
 ぱちぱち、と瞼をしばたかせる。少しずつ見えてきたのは、自分が真っ白な部屋へ寝かされているということ。
(病院か)
 あー、そっかそっか。やっぱりなー。なんて暢気な感想が巡る。
 仕方ない。車道に飛び出したのは自分だ。車に轢かれてお陀仏、なんて結果にならなかっただけマシだ。
 生きてるだけで儲けもん。そんなフレーズが頭に浮かんで消える。
「イェーガーさん、左足の腓骨骨折、並びに右手指基節骨骨折で入院決定です」
「え?」
「聞こえなかったか? 左足の膝下と、右手の指が折れてるって言ったんだ。ぽっきり。見事に」
「はあ……」
「とりあえず今日はこのまま入院してもらう。お前の意識が戻らないうちにお母さんがいらしたが、ついさっき入院用の準備をするために帰宅なさった。詳しい説明はまた後で、お母さんが戻られた時にさせてもらう」
「はあ……、そうですか」
「なんだ、素直だな。まだ麻酔が効いてるか?」
 ぼんやりするのは麻酔のせいなのか、と納得する。効果が切れたらきっと痛みに悶えるのだろう。
238: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:40:14.78 d AAS
「俺、足と手、骨折したってことですか?」
「そうだな」
「車に轢かれた?」
「いいや、それは免れた。居合わせたドライバーのテクニックに感謝しろ。お前は自分から幹線道路の中央分離帯に突っ込んで、反射板に激突して怪我したんだ」
「マジでか」
「まったく、運動神経がよくても判断力がないと困るな」
 腕を組んで呆れたように嘆息する。
「で、入院すんの?」
「そうだ」
「そっかー」
 仕方ねえな、と苦笑すると、白衣の先生は驚いたように瞠目した。眇められていた目元が和らぎ、印象が柔らかくなった気がした。
「それでいいのか、お前」
「だって仕方ないじゃん。怪我しちゃったもんは」
 でも先生には面倒かけてごめんなさい。
 そう言って首だけぺこりと動かしたら、先生はまるで珍しいものでも見るかのように目を見張った。
「……」
「あー、先生」
 はっきりしない頭で、ひとつだけ気になることを思い出す。
「なんだ?」
「猫は?」
 あいつらは無事だったのか。そこだけは確かめておきたい。あんなちっちゃい猫たちだ。俺なんかの無駄に丈夫な体とは違う。
 俺の言葉を聞くと、先生はさも可笑しそうに片眉を跳ね上げた。
「骨折して死にかけた自分より猫の心配か?」
「悪いかよ」
「いや、面白い」
「はあ?」
 面白がられる筋合いはない。ムッと唇を尖らせると、先生は手をのばしてふわふわと俺の頭を撫でた。それも至極優しい手つきで。
「お前が意識を失ってもまだ猫を抱いて離さないもんだから、駆けつけた救急隊員が二匹とも保護をして警察へ渡したそうだ。いまのところ拾得物で預かってくれているそうだぞ」
「そっか」
 いまも寒さに震えているのかと思っていたから、これでひとまず安心できた。ふう、と安堵の嘆息をつく。
 母さんに相談して、うちで引き取れないか頼んでみよう。それから忘れていたけど進級を逃した件も正直に白状しよう。
239: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:40:18.79 d AAS
 こっぴどく叱られる覚悟をしつつも、自分が守りたかった命の無事を聞き、ほっと安心する。
「今夜は熱がでるかもしれん。薬は出しておく。遠慮せずに具合が悪くなったらいつでもナースコールするように」
 ぽんぽんと頭の天辺をあやすように撫でられる。
(優しい先生でよかった)
 ありがとう、と呟くと、白衣の医師は目尻を細めた。
「ああ、お大事に」

 などという、まったくツいてなかった昼間の回想をしながら、エレンはひとり痛みと闘っていた。
 時間は真夜中。病棟はすっかり静まり返っており、時折廊下をひたひたと歩くナースだか警備だかの足音しか聞こえない。
(うう……痛え……)
 全身が熱を孕んでだる重く、折れた足に至ってはずきずきと派手に疼く。
 昼間、医者の先生が言っていたことは本当だったな、と妙なところで納得する。
 あともう少しだけ我慢してみて耐えられないようなら、恥ずかしいけどナースコールしようと思った時だった。
 個室の引き戸がするりと開いた。と、同時に小さく声がかけられる。
「イェーガーさん、入りますよ?」
「……っ?」
 暗闇に姿を見せたのは、昼間の医師だった。
「ああ、起きてたのか」
 ぱっちりと目の開いたエレンを認めると、やっぱりなという顔をした。
「せんせ……いたい……」
 ふにゃりと弱音を吐いたエレンに寄り添うと、額の汗を拭ってくれた。ひやりとした掌が気持ちいい。
「ああ、そうだろう。ナースコールがないと聞いたから眠れてるのかと思ったが、やっぱり違ったか。耐えてもいいことなんかなにもない。さっさと俺たちを呼べばいいものを」
「……まだいけるかと思って」
「馬鹿。つまらん我慢大会なんかするな」
 そう呆れつつも、医師はてきぱきと処置をしてくれた。最初からこの状況を見越して準備してきてくれたのだと思う。
「あと少しだけ待て。薬が効いてきたら楽になる」
 うん、と頷いたら、いい子だというようにまた頭を撫でられた。
 なんだろう。これ、とても安心する。
「痛みが引いたら眠れるだけ眠れ。明日の朝、また看てやるから」
「先生、名前教えて」
「俺のか? リヴァイだ。外科医のリヴァイ。お前の担当医だ、覚えとけ」
「うん」
 胸の中で、いま聞いたばかりの名前を反芻する。
240: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:40:33.83 d AAS
 リヴァイ先生。
 優しくて頼れる、俺の担当の先生。
 今日は朝からまるでツいてない日だったけれど、良かったことがあったとしたら猫たちが助かったこととそれから――。
(リヴァイ先生に担当してもらえたことかもな)
 そんなことを考えながら、エレンはうとうとと眠りの世界へ引き込まれて行った。

(安心したって、そう思ったばっかなのに!)
 詐欺かよ! と脳内で叫んだエレンは、急転直下の事態に混乱していた。
 入院三日目の夜。エレンの様子を看るために病室を訪れたリヴァイが、とんでもないことを言い出したのだ。
「やりたい盛りの高校生なのに、右手がそれじゃ不自由だろ。手伝ってやる」
 白いギプスに包まれたエレンの右手を差し、真顔でずいと迫ってきた。
「はあ?!」
 なにを言っているのだろう。なんのことだろう。なんとなく薄ぼんやりと想像はついたが、はっきりと形にして考えてはいけないと頭の中で警鐘が鳴る。
「なに? なんなの、先生!」
 また具合を悪くしているのではないかと、心配して様子を見に来てくれたのだとばかり思っていた。この三日あまりの検査や処置の丁寧さで、すっかりリヴァイに心を許していたエレンだったから、この混乱は凄まじい。
「なにじゃねえよ、言葉通りだ。溜まってるんじゃないかと心配してるだけだろ」
「たまっ、たまってるって……!」
「違うのか、病室でそんな雑誌見てるくせに」
 そんな、と言いながらエレンの枕元にあったグラビア誌を指す。
「これは! そういうのじゃなくて……!」
 昼間、見舞いに来てくれたクラスメイトのジャンとコニーが、面白がって置いて行ったものだ。
 その右手じゃ抜けるもんも抜けねえな、とかなんとか笑いながら。
241: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:40:37.67 d AAS
「水着のグラビアか。お前、このアイドルが好きなのか? 乳でけえな」
 ペラと捲られて、カーッと赤面した。
「違う! 好きじゃない!」
 いや、これは嘘だ。
 おっぱいに憧れるのは、あらゆる高校生男子の通る道ではないだろうか。
 昼間、その写真集を捲りながら、股間に感じるものがあったことは絶対に言えない秘密である。
 確かに抜きたいと思った。エレンだって、骨折をしている以外は健康な男子なのだから当然だ。
 けれど思いとどまった。
 いまは怪我に障るかもしれないと思ったからだ。
 それなのに、このわけのわからない担当医は「抜いてやる」などとほざいている。
(冗談じゃねえ!)
「ほう、乳は好きじゃないのか。じゃ、なんだ。ケツか」
「うるせえな! 俺の嗜好がなんだっていいだろ!」
「いや、よくない」
「え?」
 そういうことが治療に関係するのか? と一瞬だけ思ったが、いや、そんなはずはない、と頭を振る。
「っいや! とにかく先生には関係ないから!」
 無事に動く左腕をバリケードのようにして身を守る。
 夜中の病室でする攻防では絶対にないけれど、いまは自分の身を守るのが最優先だ。
「関係ある」
「へっ? なんで?」
 大真面目に言われたから、毒気を抜かれた。つい普通に聞き返す。
 すると目の前の男は、薄く形の良い唇をすうっと引いて楽しげに笑んだ。
「俺はお前に一目惚れしたんだ。好きなヤツの好みくらい把握しておきたいだろ」
「……はあっ?!」
 いまなんと言われたのだろうか。嘘か、冗談か、さもなくば新手のギャグか。
 聞き間違いでなければ、一目惚れなどと頭の湧いた単語が耳に入った気がする。
(なに、なんなのこれ、からかってんの、正気なの、詐欺なの、この先生アタマ大丈夫かよ!?)
 ベッドに横たわって寝ているはずなのに、背中に冷たい汗が伝わった気がする。
(そうだ! 俺、こんな身体で逃げらんねえ!)
 走って逃げようにも、足はこの有様。立派なギプスにガチガチに固められ、挙上されている。
 これでは逃げ場などどこにもない。
(マズイ! ヤバい!)
 危険を察知する赤いランプがエレンについていたなら、きっともう忙しなく点滅しているのだろうと思った。
242: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:40:53.40 d AAS
「先生、マジで! なに言ってんのかわかんないから!」
「まあそう言うな。大丈夫だ、ちょっと手伝ってやろうってだけだから」
「ちょっとってなんだよ!」
「ちょっとって言ったらちょっとだ。お前の気持ちいいことしかしねえよ」
 ベッド脇に立ったまま、薄がけの布団をさらっと剥がす。
「ちょっ、待って! なに!」
 慌てている間に、パジャマの腰からするりと手を挿し入れられた。骨ばった男らしい掌にぎゅっと股間を握り締められ、急所を押えられたショックで硬直してしまう。
「っ!」
 下着の上からガシッと掴まれたそこを、次にはやわやわと揉みこまれる。
「ぁッ!」
 小さく声が漏れた。
「ほう、いい声出すじゃないか」
 リヴァイの瞳がキラリと光ったように見えた。
「違う! 脊髄反射!」
 枕の上で頭をほとほとと振り乱し、やめろ、いやだと繰り返す。するとリヴァイは耳元に直接口をつけ、言うにことかいて「すらっとして形のいいペニスだな」と吹き込んできた。
 かあっと顔に血が上る。日常ではあまり耳にしない直截な単語。それだけで己の股間を凄まじく意識してしまう。
ついには下着の上から押さえられていたそこが、ぴくりと反応してしまった。
「おい、いやなんじゃなかったのか? 硬くしてるぞ」
「……ッ!」
 幹を辿るように、根元から先へ向けてにゅくにゅくと扱きあげられる。
 そうしているうちにもどんどん血液がそこへ集まり、芯を持って首を擡げ始めるのがわかる。
 違う。これは自分の意思じゃない。そう反論したいけれど、いま口を開けば不本意な嬌声が漏れそうで怖かった。
(先生の手、なんでこんなに熱いんだよ!)
 じわりとした熱と、驚くほど巧みな指捌き。
 下着ごしに根本の叢をすりすりと擽られて、身悶えるほど焦れったい。
 撓り、完全に勃ちあがったそれを悦ぶように、今度は裏筋から辿られる。
243: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:40:57.53 d AAS
 ねっとりした指の動きに、電流のようなビリッとした痺れが背中を伝わった。
(やべ……気持ちいい……っ)
 正直な腰がぶるりと震える。
 すっかり臨戦態勢になってしまったエレンのエレン自身も、これ以上ボクサーパンツの中に収まっているのは窮屈だと訴える。
 悔しいけれど、もう後に引けないところまで引きずり出されてしまったと悟った。
(チクショウ、イキたい、もっと強く触って欲しい)
 絶対に口には出したくない恥ずかしい欲求と攻防する。ここまで来てしまったら、下腹部に溜まった熱を吐き出してしまわないことには治まらない。
 乱暴なまでの衝動が湧きあがる。下唇を噛んで耐えていると、リヴァイはもう一方の手を伸ばし、やっている行為とはかけ離れた優しい指先でそこに触れた。
「噛むな、傷つくぞ」
 それは最初の夜、薬を飲ませてくれたときと同じ手つき。優しい人だと思った、最初の印象を思い出す。
(酷くは……されないかな……)
 ふいに舞い降りた思考が、エレンをがっしりと捕らえる。
(酷いことや痛いことされないんなら、このまま流されちゃっても……)
 若い身体は熱の出口を求めていた。理性の糸はいままさに焼切れようとしている。
 一回だけなら、抜いてもらうだけなら。気持ちいいし。もう戻れないし。このままイキたい。イカせてほしい。
 拒絶の言葉ばかり考えていた脳内が、快楽でぼんやりと霞みはじめる。
 そこへ来て、リヴァイの指先が少し強めにエレンを刺激した。
「……ッア!」
 腰が引けるほどの快感。体内を電流のように這い上がる。
 あと少し。あともう何回か強く扱いてくれれば、この荒れ狂う欲望から解放される。
「ぁあ、……っく!」
 はやく、と思わず口に出しそうになったところで、エレンのペニスを弄んでいた手がいきなりゆるゆるとした緩慢な動きに変わった。
「えっ」
 残念そうな声が漏れる。発した後でしまったと思ったがもう遅い。
 目の前の男は、にやりと悪い顔で笑った。
「イキたいか?」
「……ッ」
「睨むなよ。ちゃんと責任もってイカせてやるから。それもいままでで一番、最高に気持ち良かったって言わせてやる」
 ゆっくり横へ引いた唇の端で、柘榴色の舌がぺろりと顔を覗かせる。
 あまりに艶めかしく見えて、エレンはもう目が離せなくなった。
244: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:41:13.63 d AAS
 リヴァイの片手はゆるゆると股間を刺激し続けている。
 そして空いていたもう一方の手を使い、パジャマの前ボタンをプチプチとひとつずつ開けていく。
 露わになる素肌。開けたそこへ、リヴァイは躊躇なく顔を伏せた。
「アッ……!」
 ねろり、と熱くて滑った感触が肌を滑る。舐められているのだ、と理解したときにはもう、彼の舌はエレンの胸の上をぬ、ぬ、と卑猥な仕草で辿っていた。
「っ、……ッつ!」
 声を殺さねばならないほど、官能的な感触。
 肉厚な舌は、エレンの胸の真ん中を躊躇なく進むと、今度は喉元から左の鎖骨へと移動する。
 骨の真上を辿られたとき、ぞわぞわっとした震えが走った。
(ヤバい、なに、なにこれ……っ)
 下肢を直撃するような快感。くすぐったいのとも少し違う、動悸が一気に跳ね上がるような熱が生まれる。
 鎖骨を辿った舌は、ぴちゃ、と淫らな水音をたてながら首筋を這い上がる。
「あっ、あっ、やっ」
 皮膚の薄い場所を攻められ、本能的に首を竦めて逃げようとするも、それは許されなかった。
 ぬかるむ舌だけではない。それと同時に、彼の鼻先で表皮を擽られる。
 進む先に耳朶を見つけたリヴァイは、ふふっ、と息だけで笑った。それを耳から直接吹き込まれ、エレンはとうとう泣きそうになる。
「あっ、んんっ、せん、せ……っ」
「力抜いていい。痛いことも、お前が嫌がることもしない。約束する」
「んっ、んう、う、ほん……と……っ?」
「本当だ。大丈夫。気持ちよくなればいい、エレン」
「う、う……あ、んっ」
 にゅくり、と耳殻から尖らせた舌が挿し入れられた。その先の小さな穴を、舌の先端で抉るように動く。
「ああぁぁぁ……っ」
 ぐちゅ、じゅっ、にゅ、と、はしたない水音が頭いっぱいに響き、まるで脳ミソそのものをいやらしく舐められているかのように錯覚した。
「あっ、あっ、あっ」
 穴を十分探った後には、耳殻の軟骨をこりこりと味わうように唇で食まれた。痛くはない絶妙な力加減で。
「お前はいい匂いがする」
245: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:41:17.44 d AAS
 耳の裏に鼻を埋め、すうと深呼吸をしたあとでそんなことを言われる。
 もう頭がおかしくなってしまったのではないかというほどの酩酊感を味あわされる。
「エレン、こっちの腕あげてみろ」
「ん……」
 ぐったりした身体は、もう彼の言葉に逆らう気力がなかった。
 言われるがまま、怪我をしていない左手を枕の方へ移動させる。
片腕だけ万歳をさせられたような、そんな奇妙な格好になる。
「薄いな」
 脇の下の茂みを見てそう言ったのだろうか。
 リヴァイは目を細めて嬉しげな顔をし、次の瞬間にはそこへ顔を埋めた。

「んんんんん〜〜ッ!」
 さり、という感触の後で、ぬろ、と熱が追いかけてくる。
「ああああんっ、い、やっ、いやぁ……!」
 窪みにそって執拗に舐めあげられた。何度も何度も伸ばされた舌がそこを行き来する。
 敏感な皮膚は、縦横無尽に動き回る舌の感触を逐一拾い上げる。
 ぬるぬるする熱。ぴちゃぴちゃと卑猥な水音。
 あげた腕をリヴァイががっちりと固定しているから、エレンには感覚を逃がす術はない。
 震えて悶える。ゾクゾクする。気持ちいい。
 滴るほどの唾液にまみれた後で、薄生えごとぢゅっと吸われたときには、エレンの下肢でとぷっと熱が溢れた。
 そこを握ったままのリヴァイが目を細める。
「少し出たな」
「……っはあ、あっ、うう……」
「でもまだ足りないだろう?」
 慣れない快感に溶け、すっかり考える力を失ったエレンは、欲望のままコクンと頷いた。
「可愛い。可愛いな、エレン」
 リヴァイのブルーグレーの瞳がきらりと輝く。
 もうすっかり従順な獲物に満足しているのかもしれない。
 薄く整った彼の唇が唾液でてらてらと濡れているのを目にした時、エレンは逆らうというコマンドを捨て去った。
「こっちも可愛がってやる」
 そう言って彼の舌が伸ばされたのは胸。
 お飾りのようについていた小さな乳首を、まるで美味だと言わんばかりにしゃぶられる。
246: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:41:35.69 d AAS
「んあああっ、あっ、あう、そこっ(笑)」
ビリビリした刺激が下腹を直撃する。
 口腔内でころころ転がされぷっつりと勃ちあがったそこの先端を、舌でこそぐように弄ばれる。
 生まれて初めて体験する感覚。
「……は、あんっ、ああ……せんせ、そこ、や、なに……っ(笑)」
「気持ちいいか? 男の乳首も性感帯だ、覚えとけ(笑)」
「う、んんっ、あっ、あぁ、……もちい……ぃ(笑)」
 じゅるっと吸いあげられた。もっと、というようにエレンの背がびくびくと撓る。
 充血した乳首が薔薇色になるまで堪能される。
 リヴァイはその後で薄い腹をぬらぬらと舐め辿り、臍へも舌を挿し入れた。
「あぅ……は、あ……(笑)」
 腹の内深く。内臓までしゃぶられているような錯覚。皮膚の薄い腹を何度も舐め啜った後で、リヴァイの頭はエレンの下生えへと移動した。
「エレン、まだイクなよ(笑)」
 そう言ったかと思うと、次の瞬間には熱く滑った口腔内へ迎え入れられていた。
「〜〜ッ!(笑)」
 身悶えするほどの快感。
 火傷しそうなほどの熱に包まれ、エレンはあまりの衝撃に呼吸を止める。
(なにこれぇっ!(笑))
 狭くてぎゅうぎゅう圧迫される洞。体験したことのない感触。
 瞼の裏で快感の火花がチカチカと点滅する。
 ずっぽりと咥えこまれていた。
 やわやわと動く彼の唇が、そして舌が、エレンの欲望を丸ごと深く包み込む。
 彼の鼻先が腹に当たっている。それほど深くまで飲み込まれ、エレンは背を弓のように反らせて震えた。
「……アアアアア……!(笑)」
 じゅっ、じゅぽっと水音をたて、彼の口がエレンの勃起を上から下までくまなく愛撫する。
「あっ、あああっ、せんせっ、それっ、あっ、イっちゃう、イっちゃう!(笑)」
 追い上げられるような悦楽に、内股が痙攣する。
 もう出してしまいたい。いますぐにでも白濁を放ってしまいたい。
 なのに、意地悪なリヴァイの指に根元を戒められている。
 堰き止められた熱が、出口を求めて身体の中で荒れ狂う。
「イ、きた、ぁいっ、せんせぇ、ねっ、も、もっ、やだぁ……!(笑)」
 下腹に伏せるリヴァイの後頭部を、左手でぐっと掴んだ。
247: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:41:39.22 d AAS
 けれど彼は動くのを止めてはくれない。痛いほどに嵩を増したペニス。
 その皮膚の張りを楽しむように、何度も何度も幹を舐めあげる。
 そして、幹に走る血管を舌先で執拗に舐め辿る。
 粘る音は彼の唾液なのか、エレンの先走りなのかもう判別はつかない。
 彼の頭が卑猥な上下動をするたびに、綺麗に撫でつけられていた前髪がはらりと落ちてエレンの皮膚を擽る。
 まるで底なし沼だと思うほど奥深くまで飲み込まれて、エレンは自分の腰が浮くような錯覚を覚えた。
 いや、事実浮いていたのかもしれない。痛いほど張った先端が、こつんこつんと行き止まりを突いていたのだから。
 本能の欲求が、エレンのすべてを支配していた。
「うううう、もっ、むりっ、せんせえっ、イキたい! イカせてっ!」
「ん、もう、少し」
 泡立つほどにぐじゅぐじゅとこねくり回され、終いに先端の丸みをざらりとした舌の表面で撫でられたときには腰が砕けてしまうかと思った。
「あああ、んっ、やだっ、むりっ、も、ダメだからぁ!」
「もうちょっと」
 まだ舐めたい、と聞こえてきた時には、エレンの顔はいまにも泣き出しそうに歪められた。
 舐められすぎて、充血したペニスはもう痛いほどだ。
 彼の口の中で揉みくちゃに捏ねまわされ、まるで感電したかのようにビリビリと疼いている。
 気が狂う。このままでは、焦らされすぎて発狂してしまう。
 とろりと蕩けたエレンの瞳には、生理的な涙が溢れた。
「せんせっ、お願いっ、あああ、あんっ、も、うっ、むりぃ……イキたっ、イキたぁいぃ……!」
「ん、む……あともうちょっと……」
 ちゅぽ、と唇を外し、リヴァイはさも楽しそうに薄く笑う。
 その瞳と視線が絡まった瞬間、エレンの中の何かが爆発した。
「う……うえ……え……」
 ぶわっと盛り上がった涙を止める術はなかった。
「えっ、ック……うえ、ええぇぇっ」
 まるで幼児のように、手放しでしゃくりあげる。
「ふえええぇ、んん、や、だぁっ、も、やだって、言ってるのに……ぃ!」
 えっく、ひっくと喉が鳴る。取り繕う余裕もなく、真っ赤な顔で泣きじゃくる。
「もうさきっぽ痛いからぁ……! せんせっ、イキたいぃ……!
248: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:41:54.36 d AAS
 それを見て、リヴァイはさも楽しそうに片眉を跳ね上げた。
「限界か、よくできたな」
 根元を戒めていた指を緩める。反射的にびゅくっと滴が溢れ出す。
 でもまだ足りない。もっと出したい。最後の最後、枯れてしまう一滴まで。
「ああっ」
「イけ、エレン」
 リヴァイはもう、意地悪をしなかった。先端にキスをしながら搾り取るように即物的な動きで扱き上げる。
「ああああっ、クるっ、すごいのっ、クるよぉっ! あああアアアッ……!」
 えも言われぬ絶頂感が身体の中を雷のように駆け抜ける。
 爪先までビリビリと痺れる。ナイアガラの滝へ身を躍らせたような、どこまでも落ちていく浮遊感。
 エレンの放埓は、一滴も余さずにリヴァイの中へ消えて行った。
 残滓ですら惜しいというように啜られ、エレンはビクビクと四肢を震わせながら、恍惚とした顔のまま意識を手放した。

「救急に運び込まれたお前を見て、好みだなと思った」
 数秒か、数分か、数十分か。
 しばらくして意識を取り戻したエレンを確認すると、リヴァイは幾分ホッとした顔を見せた。
 そして悪びれもせず、こんなことをのたまった。
「最初は顔が好みだなと思っただけだったんだが、その後で言葉を交わしたら、ますます俺の好みだと思った」
「はあ……」
「可愛いなと思ったら、もう駄目だった。お前を舐めたくて舐めたくて……」
「……先生ってだいぶキワいんですね」
 呆れる以外の感情が見当たらない。
 ベッドの上から彼を見上げる。涼しい顔をしている医者が、まるで宇宙人のように思えてくる。
(好みだからってあんなことするヤツはそうそういないと思う)
 ついさっきまでの自分の痴態も思い出し、エレンは目元を赤く染めながら唇を尖らせた。
 怪我をして動けなかったとはいえ、ナースコールを押すなどと逃れる手段はあった。
 けれど、途中で理性を押し流され、性欲に負けてしまった自分もはっきりと覚えている。
 気持ち良く抜いてもらった。
 この事実だけを考えれば、リヴァイひとりを糾弾するには後ろめたさが残る。
249: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:41:57.98 d AAS
 行為の最中エレンはこのままここで犯されてしまうのかと思った。
 男同士のあれやこれやを、知識としては知っている。
 そういう話題に事欠かない高校生だ。
 あんなとこ使うセックスなんて無理に決まってる、なんて笑いながら同級生と雑談をしたこともある。
 一生使う予定のなかったそこを開かれてしまうのかもしれないという怯えはあった。リヴァイはそうしなかった。
(なんなんだよ…)
 彼に呆れると同時に、自分にも呆れている。
 目を覚ましたとき、エレンのパジャマはきちんと直されていて、その下の素肌にも違和感は残っていなかった。
 意識を失っている間にきっとリヴァイが始末をし、清拭までしてくれたのだろうと思う。
 この人なら酷いことはしなさそうだ、と最中に思った。
 そもそも、最初の印象が「優しそうなお医者さん」だった。
(ヤバい、なにこれ……)
 頬が火照る。意味がわからない。
 エレンは左の掌で、熱い顔半分をぺちりと覆った。
「せんせ……」
「なんだ」
「先生は……いいの?」
「なにがだ?」
「その……抜かないで……」
 彼の股間をちらりと見やる。男の欲望は身を持って知っているつもりだ。
 自分を気に入ったというのなら、彼にもそういう欲求を向けられても不思議ではない。
「俺だけで、いいの?」
 おずおずとしたエレンの申し出の意味を察し、リヴァイはふっと笑った。
「お前だけでいいって言ったろ」
「でも……」
「気にするな。ああでも、どうしてもお前が気になるって言うなら……」
「言うなら?」
 なんだろう、と鸚鵡返しする毒気のないエレンの顔を見て、リヴァイは目を細める。
「お前の怪我が治ったら、さっきのをもう一回したい」
「っ!」
 うぐ、と喉が詰まる。
 さっきの、と言われて、エレンの頭は反芻してしまった記憶のあれやこれやで沸騰寸前になる。
「あんな……っ!」
「ああ、あんな、だ。俺は死ぬほど楽しかったぞ」
「〜〜っ!」
「エレン、舐めたい」
「せんせっ!」
「舐めさせてくれるよな?」
 リヴァイは赤く艶やかな舌を覗かせ、薄い下唇をゆっくりと擦り舐めて見せる。
「!!」 
 さも満足げに笑むリヴァイの前で、エレンは自分の身体の奥深い場所がジンと痺れるのを自覚した。
250: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:42:13.55 d AAS
続・銭湯へようこそ

by かみやゆすら

「リヴァイさんの腹筋、まじチョコモ○カジャンボだった」
 しみじみとした口調で吐露する男子高校生は、深い溜息を吐いて肩を落とした。
 哀しい訳ではない。悔しい訳でも。
 ただ、人間はあまりに深い感銘を受けると、手放しで喜ぶようなことにはならないのだと、齢十五にして悟ってしまっただけ。
「はあああああ」
 牛乳パックから伸びるストローを浅く咥えたまま、エレンは校舎の屋上から青い夏空をふり仰ぐ。
 そのなめらかな頬は、熟れた林檎のごとく真っ赤に染まっている。アーモンドのような形の良い瞳はうるうるに潤み、まるで恋する乙女のような風情。
 悩ましげな嘆息を何度も繰り返しながら、行き場のない感動に身悶えていた。
「…深刻なんだか笑っていいんだかわからないんだけど」
 持参した弁当をつつきながら、向かい合うアルミンが苦笑する。
 幼馴染とのランチタイム。屋上の一角を三人で陣取り昼食を取るのがエレンたちの恒例となっていた。
 この高校には冷房設備がない。熱気の籠もる教室にいるより屋上にある大きな時計塔の下で日陰に入り、風に吹かれている方が断然涼しい。
 グラウンドからは野球部が練習している声。吹奏楽部が練習するヘタクソな楽器の音も聞こえてくる。
 夏休み真っ最中のいま夏期講習に参加しなくてはいけない鬱屈もあるにはあったが、それよりもエレンは「理想の肉体」に出会った感動をいまだ引き摺っていた。
 母の作ってくれた弁当を前にしながら、今日何度目かの溜息を吐く。
 エレンの事情をよく呑み込めていないアルミンは小首を傾げつつ苦笑している。
 そしてもう一人の幼馴染ミカサは、仁王もかくやという憤怒の表情のまま、漆黒のオーラを撒き散らしながら静かに特製タマゴササミサンドをもっしゃもっしゃと咀嚼していた。
「そんなにすごかったの、リヴァイさんて人の筋肉?」
「ああ。アルミンもあの腹筋を目にすればわかる。すげえものに出会っちまったんだ、俺は。あんな理想的な人間が存在するなんて、夢にも思わなかった」
 すごい、とんでもない、信じられない、とひたすらうわ言のように繰り返すエレンを、アルミンは珍しいものを見るといった表情で眺めていた。
 筋肉フェチではないアルミンには、理解しがたい世界である。
251: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:42:17.08 d AAS
「チョコモ○カジャンボって、表面ボッコボコじゃない。そんな人間、本当にいる?」
「いるよ! アルミン、いるんだよ!」
 見せてやりてえ! と拳を握ったすぐ後に、いやでも迂闊に見せるのはもったいない! と、まるで宝物を独り占めしたい幼児のような台詞を放つ。
 くねくねと身悶えしたかと思うとまたも空を仰ぎ、悩ましい溜息を吐く。いまどき小学生でも、こんなにわかりやすい憧憬の表し方はないのではないか。
 しかし残念なことに、エレンが大好きなリヴァイさんのチョコモ○カジャンボとやらは、アルミンに対してはまったくもって無価値だった。
「いや、いいよ。別に見たくないし」
「俺もさあ! 最初は信じられなかった!」
 差し込まれたアルミンの冷静な感想は黙殺された。完全に無視である。
「ちょ、エレン……」
「信じられなかったけど、俺はこの目で見たんだ!」
 すっかりリヴァイの肉体に魅了されているエレンの勢いは止まらない。
 呆れる友人をよそ目に、その思考は理想の筋肉への賛辞で埋め尽くされていた。オーバーなくらいの身振り手振りを交えて、その感動をなんとか伝えようとする。
「アルミンは見たことないだろ。完璧なバランスの人間を!」
「は? え……っと……」
「大体、筋肉ってものは動いてるうちについてくるってのが理想なんだよ。一部分だけ無理矢理バルクアップして、不自然に強調したりするもんじゃない。スポーツや力仕事で自然と培われた肉体! これこそが本来の筋肉の在るべき姿だと、俺は思う!」
 エレンの熱弁に、アルミンはよくあるボディビルダーの姿を思い浮かべた。曰く、リヴァイさんとやらの肉体は、そういうものたちとは種類が違うらしい。
 幼馴染の筋肉マニアっぷりはよく知っているつもりだったが、その中にも好みというものがあるとは想像したこともなかった。
 新しい発見をした、という意味で「へえ」と感嘆の声を漏らすと、なにを勘違いしたのか友人は語りの熱量を上げた。うっかり火に油を注いでしまったのだ。
252: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:42:32.51 d AAS
「そういう意味で、俺はリヴァイさんの肉体は最高だと思う。まず無駄がない。主張しすぎない大胸筋も理想的だし、三角筋から上腕二頭筋の流れの美しさも文句なしだ。それから僧帽筋と広背筋の繋がり方と言ったらもう……!
 ほら美術室にあんだろ。デッサンに使う真っ白い石膏像。ああいう芸術的な美しさがあるっていうかさ、ほんとに全体が完璧なバランスなんだよ!」
 立て板に水のごとく、すらすらと賛美の言葉が流れ出る。
 エレンの美術の成績を知っているアルミンは、その口から「美しい」という単語が出たことにまず驚いた。
「はあ……そうなんだ……」
「そう! そうなんだよ! わかってもらえるか、アルミン!」
「う、うん、……多分」
 迫る勢いに気圧されながらもかろうじて笑顔で答えたが、多少引き攣っていたのはご愛嬌。心許ない返答にもエレンが満足気な顔をしてくれたのだから、ここはそれでよしとしよう。
 アルミンは大人しくこの話を聞くことが一番早く解放される道なのだと、直感的に悟っていた。触らぬ神になんとやらだ。
「俺が見たリヴァイさんの身体ってのは、そういうものなんだ。いままで見てた筋肉が農薬バリバリで品種改良された野菜だとしたら、リヴァイさんは自然なままのものってことだ。わかるだろ!」
「へ、へえ、そっか」
「それにあの人の腹直筋ときたらさあ! ガチガチに硬いだけじゃない。柔軟さも兼ね備えてんだよ。マジすげえ!」
「柔軟って……エレン、もしかして触ったの?」
「柔らかさなんて触ってみなきゃわからない。なら、触ったってこと? エレンのその指で、どこのだれかもわからないオッサンの汚い腹を直接触ったってこと?」
「ミカサ、お前なんてこと言うんだ! 汚くねえよ! リヴァイさんの腹筋は綺麗だよ!」
「いいえ、汚い。絶対。そうに決まってる」
「風呂入った後だったし、汚くなんかない! そんでリヴァイさんのことを悪く言うな! 俺、誘惑に負けてついガン見しちゃったのに、あの人『気にするな』って許してくれたんだぞ!」
 覗いたんだ、という嘆息混じりの感想は、アルミンの胸の内だけに消えた。
「それに、そんなに筋肉好きならって、触らせてまでくれる優しい人なんだ。あの時の腹筋の感触、マジ神がかってた」
「……ちょろイェーガー」
 ボソッと漏れたアルミンの本音を、ミカサは黙殺した。
253: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:42:36.17 d AAS
「腹筋なんて、私だってついた。エレン、そんな汚い男の腹よりも、こっちのトレーニングの成果を見て」
 セーラー服の裾を躊躇なく捲り上げようとするミカサを慌てて制止するのは、必然的にアルミンの役目になる。
「ちょっと! 落ち着いて、ミカサ!」
「止めないでアルミン。エレンの目を覚まさせないと」
 ギャーギャー言い合うふたりをよそに、エレンはその場ですっくと立ち上がる。
「ミカサの腹筋がすごいのは俺も知ってる。でもな、あの人は腹筋だけじゃねえんだよ。大胸筋も上腕二頭筋も、それに……だ、だ、大臀筋も……!」
 言っちゃった、恥ずかしい、と顔を両手で覆う。
 赤らめた頬を確認するやいなや、ミカサがもう我慢ならんと立ち上がり、飲みかけの牛乳パックをぐしゃりと踏み潰した。
「ダメ、絶対。エレンはそのチビともう会ってはダメ。二度と。永久に。金輪際。銭湯のバイトも辞めるべき。すぐに。いますぐ。たったいま」
 エレンが言い難いなら私が言う、とポケットから携帯を取り出し、いまにもハンネスにコールせんばかりの勢いを見せる。
「バカ! やめろ、ミカサ!」
「エレンに悪い虫がつく前に、打てるべき手はすべて打つ」
「はあ?! なに言ってるのかわかんねえよ! とにかくやめろ! リヴァイさんは虫なんかじゃねえ!」
「エレン、あなたは筋肉に弱い。弱すぎる。精神的な意味でも、物理的な意味でも」
「物理ってなんだよ」
「細すぎるってこと」
「はあっ!?」
「もしも、その汚い中年腹筋男があなたに邪な気持ちを抱いていたとしても、あなたは自分の力では逃げられない。いいえ、むしろ仮説なんかじゃない。
もうすでにそのオッサンはエレンをそういう目で見ていると考えるべき。そうでもなければ、自分の腹筋をわざわざ触っていいなんて言う人間はいないと思う」
 アルミンは胸の中で、「ごもっとも」と頷く。
「邪な腹筋男にあなたが捕らわれたとして、抵抗して勝てると思う? 押さえつけられたりした時に、腕力で敵う? 無理でしょ。負けるに決まってる。だから弱いと言った。私は間違ってない。絶対に」
254: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:42:52.05 d AAS
 だってあなたは、私にも勝てないから。
 涼しい顔でそう続けたミカサを見つめ返し、エレンはぐぬぬと口をへの字に曲げた。
 言い返せなかったのだ。
 実際、格闘技を始めてからのミカサは強い。
 並みいる同年代の男性陣も、もうミカサには勝てないほど強い。
 何度も試合を応援しに行ったのだから、エレンもそれはよくわかっている。だからミカサの言うこともよく理解できる。
しかし理解できるからこそ、とてつもなく悔しかった。
 自分のことを弱いと言われたことだけではない。リヴァイという人間をそんな風に言われたことが、心底悔しかった。
 あの人はそんなんじゃない。そんな風にこき下ろされていい人じゃない。
 ふつふつと負けん気が湧きあがる。
「クッソ! 見てろよ! 俺が強くなりゃいいんだろ?! お前にもリヴァイさんにも負けないくらい鍛えれば文句ないんだろ?! なら、強くなったうえで証明してやるよ。リヴァイさんはいい人だって!」
 覚えとけ! と、まるで某新喜劇のチンピラのような台詞を残し、エレンは肩を怒らせて屋上から走り去った。
 熱情の滾りにまかせて突っ走ってしまったことで弁当の残骸を残したままにしてしまい、代わりに片付けさせられたアルミンに小言と拳骨ひとつ食らうというオマケつきの昼下がりになった。

「リヴァイさん、お願いがあります!!」
 男湯の暖簾をくぐった顔を見るや否や、エレンは座っていた番台から声を張り上げた。
「は?」
 風呂屋に足を踏み入れた瞬間名前を叫ばれた男の方は、驚いたようにぴたりと動きを止める。
 脱衣所にいた他の客たちも、何ごとかと入口を注視する。
 皆エレンの顔は知っているので、またあの元気な坊主がなにかやらかし始めるらしい、と興味津々の顔つきである。
「いらっしゃいませ、お待ちしてました! どうぞどうぞ、今日もゆっくり風呂入ってってください! でもその前にお願いがあります!」
255: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:42:55.88 d AAS
 いそいそと番台から降りたエレンは土間で固まったままの男の前に立ち、きっちり腰を九十度に曲げて頭を下げた。
(断られて元々だ)
 その覚悟を胸に、今日一日考え続けてきたことを口にする。
「俺に筋トレつけてください!!」
 言った。言ってやった。人知れぬ達成感に胸がすく。
 そんな清々しい気持ちを味わうエレンとは対照的に、困惑を浮かべる男がひとり。
「……はあ?」
 暖簾をひらりと押し上げた手もそのままに、リヴァイは形の良い唇から気の抜けた声を漏らした。
「なんだって?」
「俺に! 筋トレ! つけてください!」
 勢い込んで言ってしまったから、聞き漏らされたのかもしれない。
 そう思ったからもう一度ゆっくり区切って一語ずつ繰り返したのだが、リヴァイはますます訝しげな顔をした。
「ちょっと待て、言ってることはわかる。いや、日本語はわかるって意味だ。が、内容がさっぱりわからん」
「俺、リヴァイさんみたいな身体になりたいんです! いますぐ! で、腕っぷしも強くなりたくて! 無理なお願いだとわかってますが、そこをなんとかお願いします!」
 再度の最敬礼。
 断られては話にならないと、切実に懇願する。
(理想の肉体を持つリヴァイさんにこそ、指導してもらわねえと!)
 ミカサに対する一方的な宣言の後、エレンは考えに考えた。
 自身の肉体を鍛えあげるために必要なのは、なによりもまず適切な指導を受けることであると。
 細いと酷評された己の身体を一から作り直すためには、自己流なんかでちんたらやっている場合ではない。
 そして一番に思いついた指導者こそ、他でもないリヴァイ本人だったのだ。
256: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:43:11.59 d AAS
「どうしても! お願いします!」
 完全に体育会系のノリで声を張り上げる。
 しかして勢いだけは一人前だが、いろんなことをすっ飛ばしている。
 案の定、面食らったリヴァイは困惑したように目を眇めた。
「おいおいおい、ちょっと落ち着け。説明になってない」
 深々と下げられた頭の天辺をぺちりと叩く。
 そして土間から一段あがると、ポケットを探り小銭をエレンに握らせた。
「ほら、まず入浴代」
「あ、こりゃ毎度どうも」
「で、なんだって? 鍛えたいだ?」
「はい! ぜひリヴァイさんに指導してもらいたくて!」
 脱衣所へ移動する間もリヴァイの後ろをぴったりと追い、きゃんきゃんとそればかり繰り返す。強くなりたい、もっと鍛えたいと訴える姿はまるで仔犬のようである。
 リヴァイ以外の入浴客たちは早々に状況を察し「エレンの筋肉好きがまた始まった」と苦笑した。
「俺、どうしても見返したいヤツがいるんです。だからそいつより強くなりたいんです」
「ほう。しかしお前、それなりにトレーニングしてるって言ってたじゃないか。それじゃ駄目なのか」
「駄目なんです! そいつキックボクシングやってて、俺なんかよりもよっぽどできあがった身体してるから、ちょっとやそっとじゃ追いつけない! お願いします! 俺の理想の肉体であるリヴァイさんならきっと、効果的なトレーニング指導してくれると思ったんです!」
 必死に訴えるエレンの話を聞いていたリヴァイは、そのうちひとつフム、と頷いた。
「なんだかよくわからんが、とりあえずお前の要望はわかった。だがな、俺はまず風呂に入りたい。お前もまだバイト中だろ」
 脱衣所の籐かごに持参してきたタオルを引っかけ、リヴァイはそのままシャツの裾に手をかける。
 いまにも上半身のシャツを脱いでしまいそうに見えた。
 それを見て、エレンの頭も幾分冷える。
 入浴の邪魔をしてはならないと、雀の涙ほど残っていた番台としての理性が働いた。
「あ、はい。そうでした。すみません」
「営業終了後にもう少し詳しい話を聞かせてくれ。時間あるか?」
「はい、そりゃもう! よろしくお願いします!」
 一刀両断に断られなかった。彼がお願いを聞いてくれる可能性はまだ残されている。それだけでもエレンの胸は躍る。
257: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:43:15.26 d AAS
 営業終了まであと一時間ほど。
 時計の長針が一回りするのを、エレンはそわそわしながら待った。
 あまりに待ちきれず、リヴァイの衣類が残された籐かごの前を無駄にうろうろする。
 その光景は他の常連客たちに、「エレンに飼い主ができたらしい」と思わせるには十分な仔犬っぷりであったという。

 暗い夜道をふたり並んでそぞろ歩く。
 下町の住宅街だ。
 夜十時を過ぎれば人通りもほとんどなく、町内の道は時折横切る猫くらいにしか出会わない。
 風呂上りのリヴァイと並んで、エレンは自宅方面へと向かっていた。「家まで送るから、その間に話をしよう」と彼が提案してくれたからだ。
 高校生である自分へ配慮してくれたリヴァイが、ますます慕わしく思える。そして憧れの人とふたりきりで話ができるというシチュエーションにも単純に喜んでいた。
「で、エレン。鍛えたいとか言ってたが本気か?」
 リヴァイは面白がるような顔をしていた。さっきの訴えを、まだそれほど真剣に受け止めていないのかもしれない。
「本気ですよ。本気じゃなかったらこんなこと頼まないです。俺、マジで鍛えたいんです」
 決意を込めた瞳でリヴァイを見る。彼はそれに感心したようにふむと頷いた。
「ほう、悪くない」
「マジでお願いします。リヴァイさん、前にアドバイスくれたじゃないですか。俺の腹筋の仕方とか。そういうのでいいんで、効果的な筋トレ教えてください。サボらずちゃんとやりますから」
「サボらずやるのは当たり前だが……、アドバイスだけでいいのか? それだけでお前は一人でこなしていけるのか?」
 畳みかけるように言われ、ウッと言葉に詰まる。
「や、ります」
 多分、と続けそうになった弱い心を叱咤し、エレンはぐっと顎を引いた。
(やるんだ。やらなくちゃ勝てない。なんとか結果を出してミカサを見返してやらないと、このままじゃリヴァイさんの名誉も守れない!)
 自分が弱いと言われたことは事実だから仕方ないとしても、こんなに優しいリヴァイを誤解されたままというのはどうしても納得がいかなかった。
 ぐっと握り締めた拳に気づいたのか気づかなかったのか、リヴァイはしばらく考え込むように沈黙した。
 そして次の角を曲がればエレンの家が見える、というところまで来て、「提案だが」と口を開いた。
258: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:43:30.32 d AAS
「最初だけ、俺と一緒にトレーニングするってのはどうだ。やり方さえ覚えちまえばあとはひとりでもできるだろう。だが、最初に間違った方法を覚えるのだけはまずい。その後に続くものの意味がなくなっちまうからな」
 願ってもない申し出である。一も二もなく飛びつく。
「お願いします! てか、いいんですか?! ほんとに?!」
「ああ、そのくらいなら俺にも協力できる。自宅にいくつかマシンもある。それでよければ使うといい」
「自宅にマシン!? なんだそれすげえ! いつ行けばいいですか! 明日ですか!」
「別にすげくはねえが……、お前本当にいいのか、それで」
 こちらの勢いに押されたのか、リヴァイは呆れたように片眉を跳ね上げた。
「いいのかって、なにがですか?」
 あ、明日はまずかったですか、と続けると、彼は苦虫でも噛み潰したような顔をした。
「危なっかしいってよく言われないか、お前」
「はあ?」
 いったいなんのことを話しているのか見当がつかなくて首を捻ると、リヴァイは小さく嘆息してそれ以上を言葉にすることはなかった。
「まあいい。次の土曜にでも来い」
 そう言って携帯を取り出し、アドレスを交換した。
 この番号の先で彼と繋がれるのだと思うと、エレンの心は軽やかに踊る。
(リヴァイさんが直接稽古つけてくれる! やった!)
 喜びで頭がいっぱいになる。
「よろしくお願いします!」
 嬉しさを込めて叫ぶ。気合を入れ過ぎたエレンの声は夜の街に響き渡り、ご近所さん数軒の電燈が灯ったとか灯らなかったとか。

 かくして土曜。
 リヴァイの自宅マンションへ招かれたエレンは、玄関で開口一番「つまらないものですが!」と叫んだ。
 エレンが両手で捧げ持つのはメロン。白い紙箱に入った、少々お高いやつだ。
「なんだこれは」
「メロンです!」
「いや、メロンはわかる。箱にそう書いてある。そうじゃなくて、なんでこんなもん…」
 困惑するリヴァイにメロンをぐいと押しつけ、エレンは深々と頭を下げた。
「近所の八百屋のおっちゃんに、一番甘そうなやつ選んでもらいました! 今日はご指導よろしくお願いします!」
「は? あ、ああ……それはいいが……」
「これはほんの気持ちです! あ、ちゃんとシガンシナ湯でバイトした給料で買いましたから、気兼ねなさらずに!」
259: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:43:34.04 d AAS
 どうぞ、どうぞ、と勢いよく言うエレンに押され、リヴァイはメロンとエレンを一緒に招き入れることとなった。
 シガンシナ湯から徒歩五分に位置する真新しいマンションの一室。
 リヴァイの自宅は2LDKで、エレンの家と比べると飾り気のないシンプルなインテリアだった。
 それがとても新鮮で、「大人の男の部屋って感じだな」とついそわそわしてしまう。
 リビングダイニングと寝室、そしてもう一部屋がマシン専用の筋トレルーム。わざわざ床や壁を補強して設置したと聞いた時には、贅沢ですね、とエレンは感嘆の声をあげた。
「贅沢かと言われたらそうかもしれんが、独身で他にはこれといった趣味もないおっさんだからな。まあこのくらいはできる」
 案内された筋トレルームの扉を開けるや否や、エレンは驚いて叫んだ。
 八畳ほどの部屋にマシンが数台並んでいた。まるでどこかのスポーツジムと錯覚するほど本格的だ。
 シットアップベンチ、フィットネスバイク、床に転がっているのはダンベル。角柱の骨組みにラックやベンチが装備してあるマシンの名前はわからないが、バーベルシャフトに大きなプレートが設置してあるからにはベンチプレスを行えるものに違いない。
 個人宅にある設備としては夢のような豪華さで、エレンはアーモンドのように大きな瞳を零れんばかりに見開いて興奮した。
「やべえ! すげえ! かっけえ!」
「……落ち着け」
「落ち着いてられませんよ!すごい! これでリヴァイさんのあの肉体が作られてるのかと思うと、俺!もう…!」
 言葉にならない感激を、小刻みに震えて表す。
 気持ちを素直に体現するエレンを、リヴァイがますます好ましく思っているとは露ほども想像していない。
「リヴァイさん、どれから使うんですか?」
「どれ、じゃねえよ。最初からマシンなんぞ使わせるか。まずは柔軟だ、柔軟」
「へ?」
 部屋にあるマシンには目もくれず、リヴァイは細長いヨガマットをフローリングの床へ敷いた。
「ストレッチすっ飛ばして筋トレなんかやってみろ、早々に怪我をする。ストレッチで身体を解したら、次は身体を温めるためのウォーミングアップとしてジョギングや縄跳びだ」
「へえ」
「今日は基礎中の基礎からやるぞ。お前のペラい身体を見る限り、先は長そうだ。せっかくやるからにはそれなりの効果があるように教えてやる」
260: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:43:49.11 d AAS
 リヴァイが本気で指導してくれようとしている。
 それがひしひしと伝わり、エレンは背筋をびしりと正した。
「はい! よろしくお願いします!」
 己の体力の限界を知る土曜は、こうして幕を開けた。
 すっかり床に伸びたエレンに、「今日はここまでだ」とリヴァイが告げたのが午後四時。トレーニングを初めて約二時間後のことである。
「はあっ、はあっ、はあ……っ!」
 まだまだ息の荒いエレンとは対照的に涼しい顔をしたリヴァイは、汗だくになったエレンの頭をポンと撫で、「よく頑張った」と労ってくれた。
「初日にしちゃやれた方だ。お前、ガッツあるな」
「はあっ、はあっ、ありっ、が、とうっ、……ざまっ」
 大の字に寝転がったまま、指一本も動かせない。それほどみっちりとしたトレーニング指導を受け、エレンはいま充実感を味わっていた。
(すっげえ辛かったけど、すっげえ楽しかった!)
 身体はあちこち痛むが心は弾んでいる。
 宣言通りストレッチから始まったメニューは、まず軽いウォーキングをこなし、息が上がるほどの縄跳びを経て、柔軟体操へ移行していった。「まだ若いくせに案外硬いな」などと言われながら、これまで意識したこともなかったような関節をぐいぐい刺激されて悲鳴をあげた。
 筋肉の作りや繋がりを説明されながら受けるトレーニングはとてもわかりやすく、そのすべてをいちいちメモに控えることも忘れなかった。
(しっかり覚えて忘れないようにしねえと!)
 手取り足取り教えてもらえるのはいまのうちだけ。
 リヴァイもそう言っていた。
 覚えられるだけ吸収して、文字通りしっかりと身に着けていきたい。
 熱心に受けた基礎メニューレッスンがみっちり二時間。
 着ていたTシャツはすっかり汗にまみれ、濡れそぼっている。
 疲れ果ててはいるが、充実感が凄まじい。
 やりきったという達成感とともに、リヴァイからの思わぬご褒美を受け取ることができたからだ。
(あ〜、やっぱリヴァイさんの身体ハンパなかった……)
 トレーニングの終盤、自宅でもできる腹筋運動について指導を受けていたときだ。
 リヴァイは唐突にトレーニングウェアを脱ぎ捨てた。
 上半身裸となってエレンの前で動きの見本を見せてくれたのだ。
261: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:43:52.65 d AAS
「この運動によってどこの筋肉が動いてるのか、しっかり確かめておけ」
 裸体となった自分の身体を一部分ずつ指し示しながら、身体を動かして見せた。
「ただ闇雲に動いてるだけじゃもったいねえ。必ず頭も使え。その運動がどこの筋肉のどの部分に作用しているのか、そこを意識しながら動くことは重要だ」
「はい!」
「たとえば腹直筋。一概に腹筋と言っても範囲は広い。肋骨の真ん中あたりに始まり、終点は恥骨まである」
 そう言いながら自分の胸の真ん中あたりから臍の下までを指ですすっと撫で下ろす。
 エレンがチョコモナ○ジャンボと表現した八つの隆起。その真ん中を彼の指が通る。
(リヴァイさんの腹筋リヴァイさんの腹筋リヴァイさんの腹筋…)
 その完成された肉体を見て、思わず生唾を飲み込んだエレンはまったくもって正直な人間であると言わざるを得ない。
「いいか、エレン。腹筋てのはな、上の方では呼吸に働き、下の方では腹圧に係わる」
「へえ」
「まず自宅でクランチをやる場合、手伝ってくれる人間がいなければシットアップは無理だろ?」
「あ、はい。足首を押さえててもらうやつですね」
 一般的な腹筋運動をイメージする。
「そうだ。だからひとりでやる場合はこういうやり方が有効になる」
 そう言ってリヴァイは床にあおむけになり、膝下だけを低めのベンチの上へ乗せた。
「両手は腹の上でも頭の下でもいい。まずはこの状態で、自分の腹を覗き込むように身体を丸める」
「丸める」
「間違っても上体をがっつり起こそうとするなよ。顎や首から動かし始めるのもNGだ。ゆっくり息を吐きながら自分の腹直筋を丸めるように刺激する。これが正しい基本のクランチだ」
 そう言いながら、エレンの目の前で実践して見せる。
 それは確かに彼の言う通り上体を丸める運動。
 けして派手な動きではないのに負荷がかかるたびリヴァイの腹直筋がぐぐっと収縮して盛り上がる。
 確実にそこへ効いているのだということが目で見て理解できエレンは感嘆の溜息を吐いた。
「丸められる限界まで来たら、そこで息を吐ききって体制をキープする。身体を戻す時は息を吸いながら、なるべくゆっくりやるといい。
それから繰り返す場合は背中を床にべったりとくっつけるなよ。自分で決めたセット数をこなすまで、床すれすれで浮いた状態にしておけ」
262: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:44:08.23 d AAS
「エレン……」
「俺、いまだからほんとのこと言いますけど、幼馴染にリヴァイさんのこと悪く言われて悔しかったんです。だから見返してやろうと思って、俺も鍛えたかったんだ。なのに、そのリヴァイさん本人からそんなこと言われると……」
 ぐっと唇を噛んだ。
 なにをそのくらいのことで、と笑われるかもしれない。
 けれどエレンは本気で悔しかった。
 自分が好きになった人のことを、たとえ本人であろうとも卑下するようなことを言ってほしくなかった。
「リヴァイさんはすげえ人だって、俺は思ってます」
 真っ直ぐ見つめる。
 床にへたばったままで格好がつかなかったけれど、それでも気持ちを伝えたい一心で真っ直ぐに彼の目を見あげる。
「こんな風呂屋のバイトにも優しくしてくれるし、一円の得にもならねえのにこうやって筋トレ教えてもくれるし、面倒見がよくて真面目でカッコイイ人です。俺の……俺の憧れの人だから……リヴァイさんは」
 自信をもって欲しかった。
 誰かわからない他人に評価されなくても、自分はこんなに慕っているということを知って欲しかった。
 リヴァイは虚をつかれたかのように、しばし無言でこちらを見返していたが、しばらくしてふっと頬を緩めた。
「まいった」
「へ?」
「お前に言われると、俺みたいなおっさんにもそれなりの価値があるかのように思えてくる。不思議だな」
「だから! リヴァイさんに価値がないなんてそんなことねえって言ってるのに!」
 聞いてました? と唇を尖らせる。不服だ、と顔で表すと今度は声を漏らして笑われた。
「はは、エレン。お前すげえな」
「え?」
「勘違いしちまいそうだ」
「え……?」
 なんのことかと聞き返す前に、リヴァイはすっと立ち上がる。
「そろそろお前の持って来たメロンが冷えてるころだぞ。食うか?」
「あっ、はい。でもあれはリヴァイさんにお土産で……」
「一人暮らしのおっさんがあんなもん丸々一個消費できるか。半分に割って真ん中にバニラアイス入れてやる。食ってけ」
「っ、はい!」
 慌てて身を起こし、部屋を出る彼を追いかけた。
 リヴァイの背中が、なんとなく嬉しそうに見えた。
263: (スププ Sdb8-xdvH) 2016/09/28(水) 06:44:12.27 d AAS
 そう思いついてしまったら、急に気持ちがそわそわ浮足立つ。
 今晩、彼が銭湯にやってきたらチラシを見せよう。
 もし風呂に来なかったならメールすればいい。
 予定を聞いて、一緒にどうかと誘ってみる。そして彼が、
「いいぞ、付き合ってやる」
 と応えてくれたら――。
 そこまで想像して、エレンは突然耳の辺りがカーッと熱くなるのを感じた。
 首筋から頬、耳にかけてじわりと熱を持つ。
「なんだ、これ」
 頭の中で彼の答えを想像しただけだ。いつもの彼の声で。彼の口調で。
 なのに、なぜだか突然羞恥心が湧きあがった。
 おかしいな、あっ残暑ってやつか、あはは、と独り言ちて手のひらで顔をパタパタと仰ぐ。
 身の置き所がなくて咄嗟に壁時計を見る。
 午後四時。風呂は開いているが、客はまだ常連のじいさんたちだけだ。
「あ、い、いまのうちに飲み物の補充しとくか……」
 そそくさと在庫の箱を手に取る。
 十分後、どう見ても内容の偏ったドリンクケースが完成していた。
 スポーツドリンクがやたら多く見えるのは、きっと気のせいに違いない。

 異種格闘技フェスティバルとやらは、シガンシナにある公立体育館を貸し切って行われた。
 近所にあるジムやら道場やらが何軒も集まり、夏休み最後のお祭り騒ぎとしてこのイベントを企画したらしい。
 体育館内では試合が行われているが、体育館の外では本物の夏祭りさながらに出店が並び賑わっていた。
 親子連れも多い。輪投げやスーパーボール掬いの店の前には、小さいながら列もできている。
 イベントのタイトルにそぐわない、かなり長閑な雰囲気だ。
「リヴァイさん、腹減りませんか? 牛串売ってますよ」
 隣に歩く男の服をちょいと引っ張り、エレンは出店の方を指差した。
「あっ、チョコバナナもある! あっちは焼きそば。やべえ、いい匂い」
 体育館の入口へ辿り着くまでに、何度となくエレンが足を止める。
 必要以上にきょろきょろしてしまうのは、リヴァイとふたりきりなのが妙に落ち着かないからだ。
「食い物は後だ。先に観戦席に収まらねえと、お前の知り合いの試合も終わっちまうぞ」
「そうなんですけど」
 つい、と頭を掻いて笑う。
 リヴァイも釣られたように頬を緩めた。
 きっと呆れているに違いない。
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