[過去ログ] 宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど (1002レス)
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634: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:09 ID:JcV85rst0(1/30) AAS
 スクワイヤ少尉はひと通り艦内の設備をワーウィック大尉に案内した。とはいえ彼女らの乗るサラミス改は古い改造艦で、それほど案内できる部分もない。案内が済んでしまうと特にやる事も無かったので、休憩室でドリンク片手に休んでいた。
「少尉は何処の生まれなんだ?」
 簡易ソファに腰掛けたワーウィック大尉が聞いた。
「地球生まれです」
 少し離れた椅子に座ったスクワイヤ少尉は簡潔に答えた。あれこれ喋ることは日頃からあまりなかった。
「そうか。何かあって宇宙に?」
「まあ…色々」
 彼女は過去の話があまり好きではない。ほぼ反射的に浮かぶ、ある男の顔が必ずと言っていいほど胸の内をかき乱す。
「なるほどな。私は君とは逆に、最近まで地球にいたんだ」
「あちらは激戦が続いていると聞きました」
省2
635: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:10 ID:JcV85rst0(2/30) AAS
「あの時は正直死んだと思ったよ。起きたら病室だったんだが、現実の心地がしなくてな」
「へえ…!」
「?…この手の話が好きなんだな」
 目を輝かせた少尉に気付いた様で、大尉が微笑みかけた。
「死んだらどんな心地なのかは…興味があります」
「それはまた」
「変だとか、気を病んでるとか色々言われますけど」
「私はそうは思わんよ。ただ、少し危ういな」
「"死にたがりのゲイル"なんて言われるくらいには」
 そういってドリンクを手で弄びながら自嘲気味に笑った。
省6
636: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:11 ID:JcV85rst0(3/30) AAS
「お呼び立てして申し訳ないな大尉」
 到着した我々に気付いた艦長は、いかにもといった風に資料へと目を通していた。普段は成人向け雑誌を読んでいるところしか見たことがない。
「そんな。私は部下です艦長」
「いやいや!何でも前の戦線ではガンダムと肩を並べて戦っていたというじゃないかね!大尉もニュータイプというやつですかな」
「ニュータイプというのは…私の様な茫洋な男とは似ても似つきません」
 ガンダム…ニュータイプ…。遠い世界のものだと思っていた単語が大尉と結びつくと、彼への興味は更に増した。

「それで、状況に動きが?」
 中尉が相変わらずの姿勢の良さのまま切り出した。
「おう、それなんだがね。遂に司令部が敵さんの目的を察知したそうだ。やはり月面都市の占拠を狙っているらしい」
 そう言いながら、再度資料に目を落とした艦長は髭をいじっている。
省11
637: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:12 ID:JcV85rst0(4/30) AAS
「この敵の動きに対して、我々も後手には回らん。偵察は程々にして、ぐるりと月の裏側にいけとの事だ」
「ん?でもフォン・ブラウンは表側でしょ?…あ」
 スクワイヤ少尉が突っ込んだ。しかし突っ込んだ後で気付いてしまった。
「そう!我々は、主力がフォン・ブラウン側で敵とやり合ってる間、グラナダにちょっかいを出されない様に張り付くのが仕事と言う訳だ!」
「はあ…いつも通りじゃないですか」
 少尉は大きく溜息をついた。やはり主戦場にはお呼びでないと言うわけだ。偵察の次は見張り…結局そういう役回りなのだ。
「少尉、主戦場だけが花ではないぞ。我々の任務がなければ、主力は思う存分戦うことができない」
 フジ中尉がもっともらしいことを言う。わかりきったことを懇切丁寧に説明してくれるのでありがたい。
「まあ、必ずしもフォン・ブラウンが本命とは限らんさ。仮にそうだとしても敵としてもアンマンからの掩護などはなるべく牽制したいだろうし、それなりの規模の戦闘にはなるはずだ」
 早くも大尉は、戦いたがっている少尉の本音を察しているらしい。
省4
638: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:13 ID:JcV85rst0(5/30) AAS
 スクワイヤ少尉達は狭い格納庫へと辿り着いた。本来サラミス級はMSの運用を想定していなかった為、船外にMSを立たせている事が殆どだった。彼女らの艦はその劣悪な整備環境を改善する為に増設された格納庫がある。
「しかし狭いな。整備も大変だろう」
 大尉がこぼす。
「大尉は地球ではカラバの艦にお乗りになっていたとか?ガルダ級はさぞかし広い格納庫があったでしょうな」
 中尉のそれは若干棘のある言い方だった。やっかみかと思いつつも、まあ羨ましい気持ちもわからんではない。サラミス改はMS3機を並べるだけで殆どスペースは無かった。
「良い艦だった。だが、それは格納庫が大きかったからではないな」
 そういって大尉は面々を見つめた。怪訝そうなフジ中尉と、暗い表情のスクワイヤ少尉。それはいつもだが。
「艦の良し悪しは乗員次第だ。私は、皆が帰れる場所を作っていきたいと思っている」
 何ともこの艦には似つかない青臭さだった。しかしスクワイヤ少尉には、大尉の顔の火傷がその青臭さに現実味を帯びさせている様にも思えた。
639: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:13 ID:JcV85rst0(6/30) AAS
「…そうなれば良いですがね。大尉の機体はこちらですよ」
 軽い溜息をついた中尉は傍の手摺りを掴み、手の中で滑らせながら床を軽く蹴って進む。フジ中尉に続くスクワイヤ少尉とワーウィック大尉は、一番奥にある機体へと近付いた。
 そこにあったのは、GMなどと比べると細身の機体だった。一般的な機体しか乗ってこなかったスクワイヤ少尉からすると、あまり見慣れないフォルムだ。大型のバックパックが目を引く。
「Z計画の発展試作機…百式改です。本来ならオリジナルの百式と同じ様に耐ビームコーティングを行う筈だったのですが、如何せんコストがかかりすぎます。その関係で通常装甲のエゥーゴカラーに」
 中尉がまくし立てる。
「これはまた希少な機体を回してくれたものだな。性能は?」
 大尉は腕を組んで機体を見上げている。
「以前乗られていたマラサイよりは高性能です。火力と機動力には目を見張るものがありますよ。とはいえ、それこそZの様なフラッグシップモデルには敵わないといったところでしょうか」
 中尉が即座に応えると、大尉は満足げに微笑んでいた。
「流石フジ中尉、聞きたいことは大体頭に入れてくれている…助かるよ。しかしこの機体、私には十分過ぎるくらいだな」
省6
640: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:14 ID:JcV85rst0(7/30) AAS
「君らはずっとこのGM2か」
 振り返った大尉は、少尉達の機体を眺めている。
「ええ。スポーツカーみたいなの渡されても困りますし…これで良いんです」
 そういいながらも少尉は内心この機体には飽き飽きしていた。反応はイマイチな上、直線の加速もそこそこ。
 かといって特別小回りが利くわけでも無いし、装備出来る火器も大したものはない。
「そういう割に不満はありそうだな?」
 少尉の顔を覗き込む大尉。どうも少尉は考える事が表情に出やすいらしい。
「我々にはこれで十分です。大尉の様に武勲を挙げている訳でもありませんから」
 割り込むようにまた嫌味ったらしく中尉が言う。糞真面目な中尉には、この面白みのない機体がお似合いだ。
「これからは武勲を挙げることになるさ、嫌でもな…。さて、私は機体に慣れておきたい。少し籠もるよ」
省1
641: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:15 ID:JcV85rst0(8/30) AAS
 大尉が機体を触っている間、フジ中尉も自分の機体を調整していた。スクワイヤ少尉も自分の機体の元へ来たものの、前回の損傷を補修したばかりでそんなに弄る部分もない。
 暇を持て余しつつ、コックピットから格納庫の中を眺めていた。
 新入隊長と堅物上司、飲んだくれ艦長…。濃い面子だが、スクワイヤ少尉はこの隊長の加入と新たな作戦指示に少し気持ちが踊る心地がしていた。

『パイロットの諸君!支度は出来ているか』
 その飲んだくれから各員へ通信が入る。
『お陰様で万全です。まさかこれほどの機体を回して頂けるとは』
 大尉が嬉しそうに応える。
『いやはや、私も驚いたがね…!戦果を期待しておりますよ』
 モニター越しに手を揉みながら艦長も笑顔である。恐らく彼はこの機体の価値など理解していない。何せ"そんなものもあった"などと言っていたばかりだ。
『慣熟とまではいかなくとも、大尉も実際に機体は動かしておきたいだろう。3機で偵察がてら指定宙域へ先行したまえ。そろそろ艦も動かさねばならん』
省6
642: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:15 ID:JcV85rst0(9/30) AAS
 ワーウィック大尉を先頭に、3機はサラミス改から立った。指定された暗礁宙域はここから程なくのところにある。恐らく敵機と遭遇する事もあるまい。
『2人の操縦技術は評価が高い様だな。それに引き換え、私は慣れない機体でかなり久々の宇宙だ…。背中を預けるつもりでいるから、頼んだぞ』
 大尉はそういいながら百式改で様々な動作を確認していた。ブースターを吹かし、四肢を使ったAMBACの作用と組み合わせて機体の旋回などを行う。
 宇宙では3次元的な動きを求められる為、正確な空間認識能力が無ければたちまち制御を失う。
 しかし大尉の動きを見るに、とても最近宇宙へ上がったばかりとは思えないコントロール技術だった。百式改は高機動な反面、操縦にかなりの技量を要求してくる筈だ。
 開発元の百式も、かの高名な赤い彗星が乗っていると聞く。これ程の機体とパイロットが何故こんな部隊に配備されたのか、少尉も首を傾げざるを得ない。
643: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:16 ID:JcV85rst0(10/30) AAS
「何故大尉は…いや、言い方は悪いかもですけどね…?こんな閑古鳥が鳴いてる様な部隊に来たんです?」
 スクワイヤ少尉は思い切って聞いてみた。
『嫌に自己評価が低い』
 大尉が笑う。中尉は無反応だ。
「だって、そうですよ。オンボロ艦の艦長は飲んだくれだし、私達も糞の役にも立たなくてまともな作戦には参加してませんし」
『また辛辣だな少尉』
 話しながらも彼は機体を動かし続けている。見る限りやはり腕が立つのは明白だった。戦い慣れているのが傍から見ても解る。
『少尉の言うところも、まあわからんではないさ。だが、少数派のエゥーゴが伸び代のある部隊を持て余すと思うか?私の様な前線にいた人間を回して、戦える人員を育てるのも課題なのさ』
「ふーん…」

『まだ少尉は腑に落ちない様だな』
省7
644: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:17 ID:JcV85rst0(11/30) AAS
『私の両翼につけ!各機離れすぎるなよ…。デブリの位置も考えながら動け』
 ワーウィック大尉が指揮を執る。フジ中尉は指示通り右翼についた。
「一旦様子をみますか?」
 中尉は周囲を索敵し、前方の2機以外の機影がないことを確認する。とはいえ何者かわからない以上、下手に動くべきではない。
『いや、目視出来る位置までこのまま接近しよう』
 ジオン上がりのこの男は怖いもの知らずの様だ。或いは余程腕に自信があるのか。確かに並の腕では無いのだろうが…。
「この宙域で敵と遭遇する事自体イレギュラーです。やり過ごすのもひとつかと」
 釘を刺したが、行軍を止める様子はない。
『大丈夫だ。無理はしない』

 敵も動きを止める様子はなく、接触は時間の問題だった。中尉達はデブリの影に隠れつつ距離を詰める。
省6
645: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:18 ID:JcV85rst0(12/30) AAS
 宣言通り敵の中央を突破した百式改は、敵が振り向くより早く反転すると、敵のコックピットを的確にライフルで捉えた。
 撃ち抜かれ沈黙した僚機を置いて、離脱しようとするもう1機のハイザック。中尉が追おうとしたその先に、敵を阻む左翼のスクワイヤ少尉が見えた。
 彼女のGM2は抜刀すると、スプレーガンで牽制しながら敵の進路を絞り込んだ。敵も流石に素通りする気はないらしく、銃撃をかいくぐりながらヒートホークを発熱させる。
 交差する機体とその刃。

『少尉!』
 ワーウィック大尉の声が響く。しかし、舞ったのは切断された武器を握りしめたハイザックの左腕だけだった。
『大丈夫です隊長』
 幸い少尉の機体は無事だったが、そのまま敵機は戦域を離脱していく。
「ワーウィック大尉、如何されますか」
 ここで見逃す男ではあるまい。見逃せるところを敢えて先手で潰しに掛かる様な隊長だ。
省5
646: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:19 ID:JcV85rst0(13/30) AAS
『…中尉がやつならどうする?』
 大尉に問われた。その試す様な物言いが癪に触ったが、今は一刻を争う。
「私なら可能な限り撒きます。母艦から引き離すことができれば少しはやりようもあるでしょう。ここでいう母艦というのは」
『我々の艦だな』
 流石に物分りがいい。分かっていて聞いたかのようで余計に印象は悪いが。
「そうです。気付いたらこちらが敵に囲まれていたなんて事も十分あり得るかと」
 モニターの向こうで少尉が首を傾げているが、彼女に説明している暇はない。
「どうします?」
『それを頭に入れた上で追うとしよう。機影があればすぐに引き返す。中尉の懸念が現実になる前にな』
『とりま追うんですね』
省1
647: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:20 ID:JcV85rst0(14/30) AAS
 付かず離れずの距離を保ちながら敵を追う。GM2のセンサー範囲はハイザックのそれと大凡同じだ。追われていることは確認しているだろう。
 思った通り、敵は直進せずに迂回しながらこちらを気にしている様に見えた。
『中尉、流石に現状の進路から到着地点予測までは出来ないか?』
 大尉が無茶を言う。
「それはいくらなんでも…いや、やってみます」
 敵の推進剤を考えると、撒くとはいっても進路を大きく逸れることは出来ないはずだった。
 同じ母艦の別働隊がいると仮定して、それらと落ち合いつつ自身も母艦に帰還できるポイント…。そんな場所はそう多くは無いだろう。
 フジ中尉は、周囲の座標を確認しつつ、暗礁宙域のデブリやミノフスキー粒子濃度など様々な環境データをかき集める。この辺りの索敵はこれまで散々やってきた。

「…どうでしょう?この辺り」
 絞られた地点は、どれも似たような位置を示していた。デブリが多い為目視が難しく、ミノフスキー粒子を散布した形跡も近くにある。
省11
648: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:21 ID:JcV85rst0(15/30) AAS
 スクワイヤ少尉は殆ど除け者にされた状態で、話だけがトントン拍子に進んでいる。とりあえず2人に付いてきた形だ。
『これは…追いかけてきた甲斐がありましたね』
 中尉が唸る。よくわからないが、敵母艦の居場所を掴んだらしい。
『これだけ判れば長居は無用だ。追撃は中断して帰還するぞ。しかし、まさか中尉がここまで優秀とはな…。』
 ワーウィック大尉が嬉しそうに笑う。それを見て、少尉は何となく嫉妬に近い感情を中尉に抱いた。
「まあ、私が敵を泳がせたからこそですけどね」
『よく言う。仕留め損なっただけだろうに』
 中尉が相変わらず冷徹に言い捨てる。やはりこの男は好きになれない。
 正直いって、あのハイザックは落とせた。その上で意図せず取り逃したのも事実だが、こうも言われれば腹も立つ。
『喧嘩するんじゃない、全く…。中尉だけじゃない、勿論少尉もよくやってくれたさ』
省2
649: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:21 ID:JcV85rst0(16/30) AAS
 追手に警戒しつつ暗礁宙域を抜け、当初指定されていた地点へと到達する。そろそろ艦長達も合流する筈だ。
『ここでサラミスと合流したとして、計画通りに進路を向けてしまうと先程の連中に腹をみせる事になりますね』
 ひと息ついたところでフジ中尉が口を開いた。
『母艦の位置こそ掴んだが、敵の戦力は未知数なままだしな。ここにいた理由も不明だ』
 大尉の言う通り、わざわざボロ艦を待ち伏せするとは思えない以上別の目的がありそうだ。
「偶然出くわしただけかもですよ?あっちも慌ててるかも」
『確かにな。折角だし、これからの作戦遂行の為にも敵の芽は摘んでおきたい。合流したら報告だ』
 そういって大尉が深く息を吐いた時、サラミスからの識別信号が届いていた。
650: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:22 ID:JcV85rst0(17/30) AAS
『遅くなってすまんな!』
 何も知らない艦長の能天気な声が響く。ちょっと散歩にでも出てきた様な風情だ。
『艦長、急ぎお伝えしたいことがあります』
 大尉が真剣な面持ちで返す。
『ふむ、収穫が既にあるとは流石だな!補給がてら帰投したまえ』
 モニター越しの艦長は見るからに満足げである。実際のところ、ここ最近の任務に退屈していたのは少尉だけではなかったのかもしれない。
 こんなに活き活きしている艦長を見るのは久しぶりだった。
 3機とも着艦すると、機体をメカニックに任せてブリッジへと急ぐ。到着すると出発前と変わらない様子の艦長が出迎えた。

「艦長、この先に敵母艦が居る可能性がかなり高いです」
 ヘルメットを脇に抱えたまま、単刀直入に大尉が切り出した。
省12
651: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:23 ID:JcV85rst0(18/30) AAS
「ありがとうございます。…ご覧の通り、このまま直進すれば確実に接敵します」
 中尉が指し示すマップに表示された月面拠点アンマンへの進路の途中、ここからすぐの位置で接触が考えられた。中尉はそのまま説明を続ける。
「迂回して躱す事も出来ますが、時間が掛かりすぎます。
 それに恐らく敵はこちらに居場所を掴まれている事を知りません。この辺りに駐軍している目的は不明ですが、先手で叩いておいた方が憂いは無いかと」
 そこまで一気に話し終えると、フジ中尉は艦長を見つめた。腕組みをして唸る艦長。
「しかしなぁ…こちらも寡兵だ。相手の戦力を把握していない以上、危険じゃないか?」
 珍しく艦長が真っ当な物言いをしたので、少尉はいささか驚いた。また顔に出ていたのか、艦長が不満げな顔で少尉を見る。
「なんだあ?少尉…。俺だって仕事くらいするぞ!それとも何か案でもあるのか?」
「いやぁ、物珍しくて…。私は攻めるのに賛成ですよ。だって敵がそこにいるんでしょ?」
「馬鹿にしてんな小娘め…。だが敵を避けるのは確かに歯痒いな」
省6
652: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:23 ID:JcV85rst0(19/30) AAS
「そこですが」
 中尉が大尉と目を合わせる。
「大尉に単騎で先行して頂きたい」
「なんちゅうことを言う!」
 早速艦長が取り乱す。この提案は少尉も予想していなかった。
「私は構いませんよ。百式があればやれます」
 当のワーウィック大尉は全く動じている様子がない。2人で案を照らし合わせてはいない筈だが、大尉も確信がある様だ。
「勿論我々も出ます。しかし敵との戦力があまりに違い過ぎた時、大尉以外は足手まといになりかねません。
 何かあっても大尉単独なら帰還できるはずです。大尉からの指示を受けるまでGM2は少し後方で待機すべきかと」
 中尉は淡々と述べた。少尉としてはワーウィック大尉に付いていきたいのだが、そうも言っていられない。
省7
653: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)23:26 ID:JcV85rst0(20/30) AAS
「…無茶な作戦だな全く」
 格納庫へ軽く駆けながら大尉が口を開いた。そう言う割に口元は少し緩んでいる。
「急な立案をさせられて出てくるものなど、たかが知れてますからね」
 性懲りもなく毒づく中尉。
「まあ、私は隊長なら大丈夫だと思いますよ。強いし」
 少尉なりに元気付けようと言ってみた。実際、彼なら敵を退けてしまいそうな感がある。これまでの様々な情報が積み重なって、いくらか大袈裟に見積もっているのかもしれないが。
「少尉にも期待している。2人共、支援を頼む」
 乗機のもとへ辿り着くと、3人は手早く機体へと乗り込んだ。行き当たりばったりな作戦にも思える。
 下手をするとここで早々に全滅も有り得るのだが、頭の中で退屈しながら死を弄ぶ事に比べると遥かに心躍る時間になりそうだ。

5話 先行
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