[過去ログ] 宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど (1002レス)
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950: 2020/07/25(土)12:03 ID:XOoY++GB0(1) AAS
乙!
951: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月)00:04 ID:xPbph6ya0(1/6) AAS
 いつかこんな日が来るのだろうとは思っていた。グレッチ艦長は軽く溜息をついた。
「先にひとつ言っとくが、お前の親父さんは確かにティターンズだった。だが、だからって悪人だった訳じゃあない。寧ろ出来た人だった…怖いくらい」
 スクワイヤ少尉は、手に持った水に映る自らの顔を見つめている。
「昔の話になるが、俺は当時イケイケのバリバリだった…」
 それを聞いた少尉が笑って鼻をこする。艦長としては少しでも気を楽にして聞いてほしかった。実際には、当時の艦長は今よりももっと気弱だったものだ。
「そんな俺も、戦艦が沈むとなればどうしようもなくてな。ソロモンでの戦いで乗艦がやられた。だが…当時の上官は退くことを良しとしなかった」
 口にしながらその時のことを思い返す。
952: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月)00:05 ID:xPbph6ya0(2/6) AAS
 一年戦争において、ソロモン戦は敗北の許されないものだった。グラナダを叩くにしろア・バオア・クーを叩くにしろ、ソロモンは絶対に抜かねばならない。そのプレッシャーもあったのだろうが、それでも艦は沈む時には沈むのだ。
 ましてジオンの巨大MAなどと交戦になれば、簡単に基地を攻略など出来はしない。メガ粒子砲を艦体に受け、いよいよとなった当時の上官の焦りと恐怖で歪んだ顔を思い出す。
「…クルーも道連れに玉砕なんて訳にいかねぇ。当時副官だった俺は脱出を提言したよ。上官はおかしくなっちまって、あろうことか俺に銃を向けやがった…。俺が命令を聞けないと言ったその時さ」
 イカれた上官に撃たれるのが先か、艦が沈むのが先か。いずれにせよ死を覚悟したその時、全身が血で塗れた。
「…上官はその場で撃ち殺された。ヴォロ・アイバニーズ…お前の親父さんにな。同じ艦に乗ってたんだ。あっちはパイロットだった。
 艦の被弾時に丁度補給へ戻ってきていて、ブリッジのゴタゴタを聞きつけて来てみたら…俺を撃とうとしてる上官の姿が目に入ったってな訳だ」
 少尉は何も言わず、またコップを覗き込んでいる。何を考えているのか窺い知ることは出来ない。艦長はそのまま話を続ける。
「上官を殺すなり、俺に向かって『あんたが1番階級が高い。指示をくれ』なんて言うからよ。そらもうクルー連れて皆で一目散に逃げ出した。おかげで皆助かったんだ」
 艦が沈んでしまえば、証拠も一緒に消える。わざわざあの上官の事を証言する様なクルーも居なかった。
953: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月)00:05 ID:xPbph6ya0(3/6) AAS
「そんでま…彼とは終戦後も多少交流があったもんでな。…ほんと言うと、ゲイルちゃんがまだガキの頃に何度か会ったりもしてるんだぜ」
「うそん」
 顔を上げた少尉が、当時のまだ子供だった頃の彼女と重なる。丁度思春期真っ只中で父親と上手くいっていなかったのか、その父親が連れてきたグレッチ艦長とも殆ど顔すら合わせようとしなかったのを憶えている。
「デラーズ紛争も終わったあたりの頃だったな。長いこと連絡を取ってなかったら、久々にあっちから寄越してきてよ。…自分の身に何かあれば娘を頼むってさ。最初俺は何の事だかさっぱりわからなかった」
「…それってつまり、ティターンズに入るからってこと?」
「そういうことだった。俺がティターンズに入る様な柄じゃない事はあっちも知ってたからな。同じ連邦とはいえ、詳しいことは伏せたんだろうよ」
 彼自身、娘が軍に入るとは思っていなかったのだろう。あの手この手で護ろうとしていた。その為に、時には汚い仕事もやった筈だ。気付けば…連絡など取れない様なところへ逝ってしまった。
954: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月)00:06 ID:xPbph6ya0(4/6) AAS
「親父さん…俺に相談出来るのはティターンズに入る前が最後だとわかってたんだろうな。なし崩し的に俺はエゥーゴに入っちまったし。結果的にはそのおかげで上手く行ったけどよ」
「じゃあ…私がいつまでも哨戒任務に就かされてたのは、父さんと艦長のせいってことですか…?」
「まあ…そうだな」
 少尉は何かを言いかけてすぐ口を閉じた。言わんとすることは艦長にも痛いほどわかる。
「ゲイルちゃんの為だった。とにかく死んでほしくなかったんだよ…親父さんは」
「それで自分は死んだっていうんですか!?」
 艦長を遮り少尉が立ち上がった。コップを持つ手が小さく震えていた。
「落ち着け。…続けるぞ?」
 少尉に背を向けるようにして艦長は窓際へ行った。
「この事を知っているのは俺と…ロングホーン大佐だけだ。ティターンズの将校の娘がエゥーゴにいるなんて知れたら、過激なやつが何をするかわからん。とはいえ…この状況下で戦力を遊ばせておくわけにもいかなくなってきた。大佐が最大限に手回しした結果が…」
省2
955: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月)00:07 ID:xPbph6ya0(5/6) AAS
「まあ何にせよ、ゲイルちゃんの活躍で俺達はここまで来れた。もう俺達が守ってやらなくたって…お前はやっていける」
 そういって艦長は少尉を見つめた。
「そんなの…身勝手ですよ…」
 見つめ返してきた少尉の目には、哀しみや憤りが入り混じっていた。背けたくなる気持ちを抑え、じっと見つめる。
「私のこれまでは…私自身の意志で決めてきたと思ってました。でも…」
 彼女が肩を落とす。小さな身体が更に小さく見えた。
「お前はお前だ。父親が誰だろうが、何に乗っていようが、お前はお前なんだ」
「だったら何で父の事を隠していたんです!?何故ガンダムなんか寄越したんです!?」
 少尉が半ば叫ぶ様に吠えた。
「ゲイルちゃん…」
省10
956: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月)00:12 ID:xPbph6ya0(6/6) AAS
 スクワイヤ少尉はひたすら走った。何処に行くでもなくただ走った。流れる涙も拭かず、ぶつかる肩も気に留めなかった。
 父は敵でありながらずっと見守ってくれていたのだろう。それなのに自分はそんな事も知らずにいた。ただ自惚れ、玩具を与えられて喜ぶ子供の様にガンダムに乗っていた。そして父は、少尉も知らぬ所で独り死んでいったというのか。

「はあ…はあ…」
 息が切れ立ち止まった場所は格納庫だった。目の前には、傷だらけのガンダムが佇んでいた。
「お前も…私と一緒か」
 呟いて、コックピットハッチを開く。すっかり乗り慣れたシートに彼女はうずくまった。生死を共にする覚悟で一緒に戦ってきた機体には、長年連れ添った家族の様な気持ちさえ湧いてくる。シートが暖かく少尉を包んだ。
 いわゆるガンダム開発計画の末裔であるマンドラゴラは、本来ならばあってはならない機体だった。エゥーゴにいてはならない人間だった少尉が乗るには、おあつらえ向きだったのかもしれない。鼻つまみ者同士、気が合うわけだ。少尉は自嘲気味に鼻で笑った。
「…」
 艦長から受け取った資料に目をやる。父の全てがここにあると言っていた。鼻をすすりながら手に取ると、ページをめくっていった。
957: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/27(月)00:19 ID:0v0DPqXX0(1) AAS
なんか連投規制掛かりました…笑
変なとこで切れてますが1日お待ちください…
958: 2020/07/27(月)00:51 ID:IZmqZpo70(1) AAS
楽しみにしてます。
959: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火)00:25 ID:m1HvhbmY0(1/7) AAS
 艦長の言う通り、一年戦争時はパイロットとして戦った様だ。終戦後は残党の拠点を虱潰しにまわり、いつしか特務部隊の隊長として任務をこなす様になったことがわかった。そして、ティターンズからの勧誘。そこから先の資料は、黒塗りや切り抜きが急に増えた。
 読める範囲で目を通す限り、東南アジア地域のエゥーゴ・カラバを追う任務についていた様だ。
「これって…」
 エゥーゴ側の資料と、ティターンズ側のものと思われる資料が入り混じっている。父が追っていた部隊というのは、ガルダ級とその戦力だった。そこにあった名に、ページをめくる手が思わず止まる
「カラバに合流していたエゥーゴの構成員…ワーウィック大尉とアトリエ…中尉」
 彼らは父と交戦していた様だ。偶然とはいえ、その事実に少尉は震えた。嫌な予感がする。しかしここで資料を閉じることはどうしても出来なかった。
 そして、その予感は的中する。ニューギニア基地攻略作戦。ここで父の情報が途切れる。最後まで戦っていたことだけはわかったが、父が戦った最後の相手は…試作機のマラサイとガンダムだった。
「そんなことってあるの…?いや、でも…」
 父を殺したのはワーウィック大尉なのか。或いはアトリエ大尉なのか。しかし、この資料にどれ程の信憑性があるのかもわからない。
「…本人に聞けば」
省2
960: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火)00:26 ID:m1HvhbmY0(2/7) AAS
 しかし疑問も残る。何故ロングホーン大佐とグレッチ艦長は、この事を知りながら同じ部隊に2人を配置したのか。
「…ああ、そういうことか」
 あくまでも推測だが、万が一少尉がティターンズと繋がりがあった場合に対処できる様、特務部隊と交戦経験のある大尉を呼んだのだ。大尉の着任をまともに把握していない風だったグレッチ艦長はともかく、大佐の様な立場の人間ならその位は考えるだろう。
 そして、もし何かあった時に揉み消せる機体…マンドラゴラを寄越したのだとすれば辻褄も合う。
 しかし、それ程ティターンズとの内通を警戒していたのなら大尉に話していてもおかしくないのではないか。少尉は疑心暗鬼に陥っていた。
961: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火)00:27 ID:m1HvhbmY0(3/7) AAS
「ここに居たんだな…。大丈夫か?」
 ハッチの外の声に驚き、少尉は思わず顔を上げた。フジ中尉だった。
「ああ…中尉ですか…」
 資料をシートに隠してハッチを開けた。
「大尉じゃなくて悪かったな。廊下で声を掛けても無視して走っていったから、何事かと」
 気づかなかった。それどころではなかったのだが、少し悪いことをした。
「何でもないですよ。ただ、ガンダムが気になって」
「ふん、それならいい。無理に話す必要はあるまいよ」
 察したのか、中尉はそれ以上深く聞かなかった。
「…あ、そういえばあのデータ…」
省18
962: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火)00:27 ID:m1HvhbmY0(4/7) AAS
 艦長との一件の後、少しの時間が経った。スクワイヤ少尉達はコンペイトウでの休息を終え、アイリッシュもまたコンペイトウを後にすることとなった。アンマンに戻り、グラナダのアナハイムチームによるガンダム改修や新型機の受領を行う為だった。
 小さくなっていた月も随分大きくなり、長い戦いがひとまず終わったのだという実感も少し感じられる。そんな月をしばらく眺めた後、少尉は自室を出た。
 ワーウィック大尉の容態もすっかり快方に向かい、そろそろ彼も自室での待機を許される頃合いだ。スクワイヤ少尉は大尉を手伝う為、医務室へと向かった。

「ああ、済まないな少尉」
 大尉は丁度身支度を始めているところだった。
「言っても病み上がりですもん。手伝いますよ」
「少尉こそ…ここのところ、あまり元気がないみたいだが。…大丈夫か?」
 あの一件以来、艦長ともギクシャクしたままだった。ワーウィック大尉にもどう接すればいいのか測りかねているところがある。
「別に…。さ、行きましょ」
 大尉についていく形で医務室を後にする。2人で廊下を歩きながら、何か話題がないか探した。
省12
963: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火)00:28 ID:m1HvhbmY0(5/7) AAS
「まあ、そうだよな。構わんよ。…立ち話もなんだし、取り敢えず荷物を置いてきていいか?」
 そういって大尉は荷物を受け取り、そそくさと自室へ入っていく。少尉はつい彼の袖を掴んだ。
「私…」
 誰を信じたらいいのかわからなかった。そのことを伝える術も、無かった。
「…入るか?散らかってるが…」
 少尉は頷いた。彼は優しく部屋へ迎え入れてくれた。
 病室にしばらくいたせいか、部屋は少し埃っぽい。物はそんなに多くもないが、生活感のある部屋だった。大尉がバタバタと衣服を片付ける。
「すまんな、普段はもうちょっと片付いてるんだが…」
 彼は苦笑いしながら、まとめた衣類を籠に投げ込む。そんな大尉を眺めていると、少尉も少し気持ちが落ち着いた。ふと傍の棚に目をやる。何処かの格納庫で撮影したのだろうか、部隊の集合写真が目に入った。

「これって」
省16
964: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火)00:30 ID:m1HvhbmY0(6/7) AAS
 大尉は色んな話を聞かせてくれた。アトリエ大尉との出会い、先程の少女…メアリーのこと。カラバの仲間の話や、ジオン残党との共同作戦も興味深い話だった。今更だが、ワーウィック大尉がどんな道程を辿ってきたのか知ることが出来たのも少尉にとって嬉しいことではある。
 しかし、やはり1番聞きたいのは交戦したティターンズのことだった。
「ずっと同じ部隊と戦ってたんですね」
「ティターンズ自体特殊部隊の延長線みたいなものだが、交戦していた部隊はその中でも更に特務部隊と呼ばれていたらしい」
 やはり父の小隊だったのだろう。少なくともあの資料の裏付けになった。
「結局、彼らとはニューギニア基地の攻略まで戦うことになってしまった。途中でガルダ級が沈みかけたりもしたが」
「…よほど手強かったんですね」
「正直、アレキサンドリアの試験部隊よりも連中の方が練度は高かったな。特に隊長機は別格だった」
965: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/28(火)00:34 ID:m1HvhbmY0(7/7) AAS
なんですかねこれ…また連投規制…。
めちゃめちゃいいとこですが、この感じだと1日1話が限界かもです…。
966: 2020/07/29(水)00:13 ID:v51igk6v0(1/2) AAS
乙です!
967: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水)01:02 ID:c3b+Gpyy0(1/3) AAS
 それから大尉の話はニューギニア基地攻略作戦へと移っていく。
「私とアトリエ大尉は、カラバに地上部隊を任せて基地へと侵攻した。特務部隊の連中をどうにか退けて司令部を目指したんだが、我々が到達した頃にはもう上層部の連中は壊滅した後だった」
「先を越された?」
「いや、仲間割れみたいなものだな。待ち構えていたのは、ひと仕事終えた特務部隊の隊長だったよ」
 それも父の戦いだったのだろう。資料にも、エゥーゴによる占拠時にはニューギニア基地におけるティターンズ首脳部は壊滅した後だったと記されていた。

 大尉はごろりとベッドに寝転がって天井を見上げた。
「あの隊長のことは…忘れられないだろうな」
「…何故?」
 遠い目をした大尉を見つめながら、少尉は訊いた。
「まず何より強かった。もしまたあんな敵と戦うことがあるなら、今度こそ死ぬな」
省7
968: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水)01:04 ID:c3b+Gpyy0(2/3) AAS
「大尉と似てたんですか?」
 少尉からすれば不思議だった。彼女の知る父の姿と大尉の姿はあまり重なる部分は無い。父は口数も少なく、只々厳格な男だった。
「かつての自分と話しているようだった。憎しみに囚われて、独りで戦うことでしか存在を証明出来なかった…。人に、自分の何かを託すのは難しいことだからな」
 それを聞いて、ようやく少尉は腑に落ちた。連邦に所属している事を周囲に隠す為軍服姿も見せず、我が子にすら己を見せなかったのが父だ。それが嫌いでもあった。
「…だが、俺はアトリエ大尉を始めとした仲間に助けられた。やつを倒すにしても私一人では無理だったが、皆の協力で戦えた。それが…生死を分けた大きな差だったんだろうな」
 大尉らしい答えだった。だからこそグロムリンとの戦いでも、身を挺して少尉を守ってくれたのだろう。彼が仲間に助けられたのと同じ様に。

「大尉って、優しいんですね」
「ん?どうした急に」
 上体を起こした大尉に、少尉は力なく微笑んだ。
「だって殺されかけたわけですよね。傷まで負わされて、生死の境を彷徨って…。そんな風に思えないですよ普通」
省6
969: ◆tyrQWQQxgU 2020/07/29(水)01:06 ID:c3b+Gpyy0(3/3) AAS
また変な切れ方したら嫌なのでここで切ります!
第2章も長いこと書いてきましたが、次でラストです。
多分明日あたり投下するので、お楽しみに…!
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