遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」 (296レス)
上下前次1-新
191: 2019/05/08(水)00:34 ID:617mB4UDO携(1) AAS
乙
192: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:42 ID:uG8tzRkA0(1/5) AAS
「ねえお兄さん。悪いけど、このまま飲み続けられると他のお客さんの分がなくなっちゃうよ」
千鳥足テレポートを使うべく、一心不乱に酒を喉に流し込みつつ、彼女との楽しい思い出に耽っていた俺は、店主に声をかけられるその時まで、自分が周囲から奇異の目で見られていることに一切気づいていなかった。俺の机の周りには、既に空となった酒樽がいくつも転がっている。
「……妙だな」
これだけ飲んだというのに、俺の足元はしっかり地面を踏んでいる。剣士として鍛えた体幹は、いっさい揺るぎない。まるで根を下ろした大木のような安定感だ。とても千鳥足を踏めるような状態ではない。
省11
193: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:44 ID:uG8tzRkA0(2/5) AAS
久しぶりの故郷の空気を吸い込んでも、俺には何の感慨も沸き上がらない。俺は、そもそも孤児だったし、幼い頃から勇者としての厳しい訓練や教育を受けていたためか、ここには何の楽しい思い出もない。浮かぶのは、せいぜいが、勇者としての責務を果たしきれていないことへの罪悪感ぐらいのものだ。
「ほっほっほ、久しいのう勇者様。帰ってきたということは、遂に魔王を打ち取ったか? 」
俺を出迎えたのは、女神正教の司教。かつて、俺に勇者としてのありよう、教会の戒律をしこたま教え込んでくれた人だ。
「申し訳ありません司教様。残念ながら、行き詰って助けを求めに帰って参りました」
司教とは、特に親しいわけではない。だが、教会でも有数の情報通であると言われる彼なら、俺の抱える問題に一筋の光を差し込んでくれるかもしれない。俺は、差しさわりのない程度に俺の置かれている状況について説明をした。
省6
194: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:45 ID:uG8tzRkA0(3/5) AAS
「かつて、お主と同じように女神から力を授かった勇者はたくさんおる。不死の力、莫大な魔力、全てを見通す目、まあ力は様々じゃが、共通している点がひとつ……」
「そ、それは……」
ごくりと唾を飲み込む。
「魔王を打ち倒した後は、力を失い平穏な日常を享受したということじゃ」
「魔王を……」
省7
195: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:45 ID:uG8tzRkA0(4/5) AAS
「……あるが、どうするのじゃ?」
「いえ、酔えなくはなったのですが、せっかくですからここのワインの味ぐらいは確かめて帰ろうかと……」
もし、俺の言葉が司教の怒りに触れたのなら、その時は素直に鞭を受けよう。どうせ、耐性の力のおかげで、たいして痛くはないのだから。そう思った俺は、正直に本音をそのまま司教へと伝えた。
司教は、目をつむり手を顎にあて「うんうん」と唸りだした。
「耐性の力を抑える方法はないが。魔王を見つける手段なら……実のところ……ある」
省10
196: 今日はここまでです◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:46 ID:uG8tzRkA0(5/5) AAS
「少なくとも、幹部級がいるとのことじゃ」
「なぜ、そのような情報をお持ちであったのに、もっと早く知らせていただけなかったのですか!?」
俺の怒りの乗った言葉に、司教には一切悪びれる様子がない。それどころか、口をとがらせて口笛を吹く素振りまで見せている。
「儂が知っている勇者は、戒律どころか法律にも雁字搦めにしばられた男じゃった。そんな男に、こんな俗的な話を聞かせたら、逆に儂を鞭で叩きかねんかったからな。それどころか怒り狂って大聖堂内で綱紀粛正を叫びかねん」
「では、なぜその情報を伝える気になられたのですか?」
省7
197: 2019/05/08(水)20:20 ID:K0tUgFXlO携(1) AAS
おつおつ
198: 2019/05/09(木)00:20 ID:WgKj7BqDO携(1) AAS
乙
メチルはやめとけメチルはwwでも耐性有るから平気か
199: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/09(木)21:58 ID:2o8X2YGF0(1/2) AAS
魔王の秘密基地への奇襲攻撃は、十日後の深夜から明け方にかけて行われることとなった。司教の情報によると、基地内には魔王軍でも精鋭と呼ばれる魔物たちが溢れているらしい。当初は一人で乗りこむつもりだったが、司教の勧めもあって教会の僧兵たちを引き連れていくこととなった。その準備に日を要するとのことだ。手数が多ければ、魔物を逃がしてしまう恐れも少なくなる。断る理由はなかった。
司教は、教会の宿舎に泊まれるよう手配すると申し出てくれたが、俺はそれを辞退した。久方ぶりに眠れない夜を過ごしたせいか、頭が割れるように痛く、重かったからだ。人の出入りが多い教会では、ゆっくり休むことは難しいだろう。俺は、街外れの安宿に部屋を取ることにした。
宿のベッドに横になる。安宿だけあって、やたらに固いが文句は言うまい。今は、一刻も早く床につきたかった。宿に辿り着くころには、頭痛はさらに凶悪なものになっていた。
そういえば、眠れない夜を過ごしたのはいつ以来だろうか。魔王を取り逃がし、一人で魔王を追っていた頃は、まともに睡眠をとれた日のほうが少なかった。そして、たとえ眠ることができたとしても、それは体力と精神が限界を迎えることで僅かな時間だけ意識が飛んでしまうもので、それは睡眠というよりも気絶に近かった。
当時の俺は、そういう生活に慣れてしまっていた。魔王を取り逃がしてしまったことへの罪悪感や不安、焦燥感に苛まれることはあっても眠れないことは気にも留めていなかった。だが、こうして、たった一晩の徹夜だけで苦しんでいる自身の様子をみるに、それは勇者の耐性の力によるものではなかったのだろう。慣れることで、眠れない苦しみや痛みに鈍感になっていただけで、痛みは確かにそこにあったのだ。
省7
200: 今日はここまでです。いつもありがとうございます。◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/09(木)21:58 ID:2o8X2YGF0(2/2) AAS
そう、要は「慣れ」なのである。耐性の力に頼らずとも、慣れてしまえば俺は大丈夫なのだ。彼女に逃げられてしまった悲しみにだって慣れてしまえばいいのだ。……いやまて、俺は逃げられたのか? いや、そうじゃないはずだ。あの晩、俺たちは確かに愛し合った。不手際か?俺が、知らぬうちに何かをやらかしてしまっていたのか?突っ込む穴を間違えた?いやまて、だったら、彼女のことだ笑いながら許してくれる……はずだよな? いやいや、仮にそうだとしても。彼女が怒り心頭したとしてもだ。俺の前から、書置きすらなく急に消えることなんてことはないだろう。逃げられたというのは、妥当な推論から最も遠いところにあるはずだ。ならば、なぜ彼女は姿を消したというのだ。……第三者に攫われたとか? いや、いくら俺が女にうつつを抜かしていたといっても、寝ている隙に女を攫われて気づかないはずがない。伊達にも勇者なのだ、そこまで無能を晒すほどやわな男ではない。では、やはり、彼女は自身の意思で……。
ああ、だめだ間に合わなかった。遂に、喧噪の夜が始まってしまった。そう、これだ。不安や不満、焦りや怒り。俺の中にあるありとあらゆる負の感情が、俺の意思とは関係なく思考の滑車をくるくるとまわすこの感じだ。止まらない思考から生み出される推測や、憶測は、更なる不安を呼び、その不安がまた思考を回させる。これが始まったら、もうおしまいだ。今晩もまた、俺は眠りにつくことはないだろう。
慌ててワインを口に含んだところで、それを防ぐことなどできようがなかった。俺はもう、酒に酔うことはできないのだから。
なんとか朝を迎えるが、疲れは一向にとれていなかった。それどころか、ドラゴンの悲鳴が魔王の断末魔にクラスアップしている。いつか聞きたいと願っていたが、こんなところで耳にすることができるとは実に僥倖僥倖。魔王の野太く響く声が実に心地いい。なんとなしに剣の鞘を抜くと、目の下に確りクマができていた。
久しぶりの故郷ではあるが、散歩に出かけるような気は起きなかった。魔王の基地を襲撃するまであと六日。俺は、宿にこもり少しでも体力を温存することにした。
省10
201: 2019/05/09(木)22:37 ID:4L93rNi0o(1) AAS
おつおつ
勇者復活か
202: 2019/05/10(金)10:51 ID:tlMiAUiDO携(1) AAS
乙
無粋でスマンが伊達を使うなら、伊達にも〜じゃなく、伊達に勇者を名乗っている〜とかにした方が良いかと
203: 2019/05/10(金)12:15 ID:2AJt9e5po(1) AAS
いえ、誤字や誤用の指摘は助かります。ありがとうございます。
204: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/12(日)10:49 ID:a8CCrCX80(1/4) AAS
草木も眠る丑三つ時、俺は王都の南西、この国で最も広い流域を持つ大河の辺に立っていた。この地域には、背の高い倉庫がぎゅうぎゅうに敷き詰められており視界がまったく通らない。昼はともかく、夜間ともなれば人気もなくなり何かを隠すにはもってこいの場所なのだろう。巨大な川は、それだけで有用な交通路となる。王都に運び込まれる、もしくは持ち込まれる品の大半は、この倉庫街を経由するとも聞く。今回向かっている魔王軍の拠点も、他の地域から秘密裏に流れてきたムーンシャインを保管する秘密倉庫なのだろう。
俺は、指先に熾した魔法の光で地図を確かめる。地図に従い、倉庫と倉庫の間の狭い路地を進んでいく。倉庫は、どれも似たような造りになっており地図がなければ完全に迷っていただろう。魔王軍の拠点は、そんな迷路のような道の一番奥にひっそりと建っていた。秘密なのはわかるが、こんな迷路の最果てに倉庫を設置して、いったいどうやって荷下ろしをしてるんだ……?
正面の大扉も締まっているが、わずかに光が漏れている。近づくと、倉庫の中に多くの気配を感じた。俺は、中の様子を伺えないかと建物の周囲をぐるりと回ってみることにした。建物の側面に回り込むが、窓が一つもない。そのまま裏へと回ってみる。
「なるほどな、こんな所でもやっていけるわけだ……」
倉庫の背後には、大河がひろがっていた。建物から直に伸びた桟橋が、河へと突き出ている。荷物の搬入搬出は、全て水路を利用しているというわけだ。偵察と呼べるほどの成果はなかったが、突入は実にやりやすくなった。出入口が二つしかないということは、つまり、敵を逃してしまう可能性が少ないということだ。
省6
205: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/12(日)10:49 ID:a8CCrCX80(2/4) AAS
ごごごごご。大扉は、大きな音をたてながら少しずつ開いていく。すると、その音を聞きつけて倉庫の奥から男が出てきた。背が大きく、シャツの上からでもその屈強さが伺われるほど筋肉が張っている。なるほど、一見すると倉庫街で働く大男といったところだ。
「なんだぁ、おまえ?」
「……俺はただ眠りたいだけなんだ」
「じゃあ、家に帰って眠れば?」
省7
206: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/12(日)10:50 ID:a8CCrCX80(3/4) AAS
「今度、人間に化ける時はしっかり靴を履いておけ」
二人の大男は、地面に倒れ伏せ、しゅうしゅうと煙があげ魔物の姿へと変わっていく。変身魔法だ。大男たちの頭から二本の角が、尻からは尻尾が生え、つま先は蹄へと変わっていく。ミノタウロスだ。そりゃあ、蹄があるのだから靴をはく習慣はないだろうさ。
しかし、こいつらいつかの倉庫で出会った連中じゃなかろうな。いや、俺に魔物の顔は見分けられないし、仮にそうだとしても再開を喜び合う関係ではない。
倉庫の中には、信じられないほどの大きさの大樽が並んでいた。大樽からは、あちこちに俺の腕ほどの太さがある配管が伸びている。なんだこれは、ただのラムランナーの拠点とは到底思えない。ここは、何か別の目的を持った施設なのかもしれない。
倉庫の最奥には、中二回になっているところが見える。そこには、倉庫の中だというのに更に小さな建物がぽつんと立っていた。一先ず、あそこを目指してみよう。
省7
207: 今日はここまでです◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/12(日)10:50 ID:a8CCrCX80(4/4) AAS
魔物たちの第二陣がやってきて、俺を取り囲んだ。先ほどの、戦いぶりをみて警戒しているのだろう。単なる力押しでは勝てないと踏んだのだ。しばしの膠着状態は、一人の男によって崩された。
「勇者め! ついにこんなところまで来たか!」
その声は、倉庫の中二階から聞こえてきた。見ると、赤い褐色肌のオーガが立っている。その姿、誰が忘れようか炎魔将軍。
あいつは、遊び人の顔に傷をつけた糞野郎だ。「手加減は抜きだ」と、剣を鞘から抜こうとしたその時、突然背中に激痛が走った。俺の体は宙に浮き、前方へと逆九の字で吹き飛ばされる。
「だめだ、やっばり刃が通らない」
省11
208: 2019/05/12(日)13:34 ID:s2iT3OnXo(1) AAS
久々のバトルに興奮を隠せない
おつおつ
209: 2019/05/12(日)20:46 ID:Y77BCRwDO携(1) AAS
乙
盛り上がってキタ!
210: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/14(火)20:56 ID:X2S/KtAR0(1/4) AAS
炎魔将軍の持つ刃から、ユラユラと揺らめく空気が昇っている。あの刃は、相当な熱を帯びているのだろう。その鋭さは、俺の骨すら断てるかもしれんと、思わず額から冷や汗が滴り落ちる。
すると、まるで俺の恐怖を読み取ったかのように、炎魔将軍が先に動いた。地面を強く蹴り、一瞬で俺との間合いを縮めその炎の剣を横なぎに振るう。俺は、かろうじて後ろへ一歩退き剣をかわした。
背後では、それを待っていたと言わんばかりにミノタウロスが斧を上段に構え待ち構えていた。無理な後退で体制を崩した状態では、斧を避けることは適わない。俺は、勢いそのままにミノタウロスに背中から突っ込む。懐に入られては、ミノタウロスも斧を振れまいという算段だ。
案の定、ミノタウロスは斧を持て余してしまったようだ。せっかくの武器を放り投げ、その逞しい腕で俺につかみかかってきた。しかし、巨体ゆえかその動きは緩慢で俺を捕らえるには至らない。俺は、ミノタウロスの股の下を潜り抜け、その背後に回る。そして、まるで岩山を上るかのようにその背中を登り、遂にはうなじにまで到達し、その首へと手をかける。
だが、その首はあまりに太く俺の腕では到底回りようがない。俺は、ミノタウロスの首に剣をあて、鞘の両端を持ち渾身の力で後ろへと引いた。呼吸ができなくなったミノタウロスは、俺を振り落とそうと体を揺らしにかかる。だが、こちらとて全力を込めているのだそう簡単には振り落とされない。
「ぐおおおおおおおおお」
省8
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