遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」 (296レス)
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171: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/01(水)15:26 ID:/dcHJZ9Q0(4/4) AAS
―――――
目が覚めると、朝日が昇っていた。
どういうことだ。俺は、千鳥足テレポートに失敗しすぎて遂に時空を超えてしまったのか。
なんてことはなく、酔っぱらっていることが条件の千鳥足テレポートの燃料補給にと酒をしこたま飲んだせいで酔いつぶれてしまったらしい。
結局、俺は一度たりとも千鳥足テレポートを成功させることができなかった。
遊び人曰く、二人でやると成功率があがる。とのことだったが、それにしたって10割失敗というのはどういうことだろう。
俺には、まだ千鳥足テレポートを使いこなすことができないのだろうか。
真っ先に思いつくのは、俺が呪文を間違っていた可能性だ。
だが、この魔法は妙な条件付けが為されている一方で呪文に関しては非常に簡易なものである。
俺は遊び人の隣で、幾度となくこの魔法の呪文を聞いて来た。一言一句違えていないはずだ。
省34
172: 2019/05/01(水)22:38 ID:jcsr/CODO携(1) AAS
乙
若いって良いなあ
173: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:29 ID:KfriHW7I0(1/15) AAS
――――――
「いらっしゃいませ」
マスターの声に、俺は胸をほっと撫でおろす。
店の奥には、一人の女がカウンターに突っ伏している。
ブロンドの美しい髪、屋内でも決してとることのない赤いマフラー、そしてまるで道化師のような派手な服。
彼女は、そこにいた。
「あ……」
「こんなところにいたのか」
省16
174: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:29 ID:KfriHW7I0(2/15) AAS
――――――
なんとか『千鳥足テレポートが成功しない』を解決したかと思えば、今度は『千鳥足テレポートの期間術式が発動しない』だ。
問題が発生したら、むやみやたらに試行錯誤を繰り返すよりも、まずは状況を整理する。一見遠回りに見えるが、これが一番いいことは既に経験済みだ。
そもそも、千鳥足テレポートとは、二つのテレポートによって構成されている。
まず1つ目のテレポート、これが成功すると、テレポートの行使者は酒のある屋内へとランダムテレポートする。
ただし、そのランダム性には行使者の嗜好、望む場所が影響を与える。
俺が、初めて飛んだのは、ラムランナーの秘密倉庫。
そして先日は、炎魔将軍の便……いや、思い出すのはよしておこう。
まあ、あそこは魔王軍の幹部の隠れ家だ、おそらく相当な量の酒をため込んでいたに違いない。
そして2つ目が帰還術式によるテレポートだ。
省16
175: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:30 ID:KfriHW7I0(3/15) AAS
……って、俺は阿呆か。なんて無駄な思案を巡らせていたんだ。
今、この場において問題は既に解決されたも同然ではないか。なんたってここには、千鳥足テレポートを開発した大賢者がいるのだから。
「ムダよ……アタシが何の手段も講じずに、ここでカクテルを楽しんでいたとでも思うの?」
表情から、俺が何を考えているのか察したのだろう。遊び人が、水を差してくる。
……いや、キミの場合、それが十分にありえるのだが。
「残念ですが。これはあなた方の問題でしょう。私が口出しするのは野暮ってものですよ」
省26
176: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:30 ID:KfriHW7I0(4/15) AAS
ふむ、手詰まりだ。
自身の魔法への知見が浅いとは思わないが、これだけ複雑の条件付けが為されているとお手上げだ。
少なくとも、酒が入っている状態で取り組むべき問題ではない気がしてきた。
俺は、再びカウンターを乗り越え客側へと戻った。
当然のことだが、俺の酒は彼女の隣に置かれたままだ。正直なところ、気まずさから席を一人分空けたい気分ではあるが。
それでは、俺が逃げたみたいで実に情けないではないか。
俺は、覚悟を決め彼女の隣へ座った。
彼女の手元にあるものと同じ、強い赤みを帯びた琥珀色の酒に口をつける。
マンハッタンといったか。いったいどういう意味なのだろうか。
省21
177: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:30 ID:KfriHW7I0(5/15) AAS
「まだ怒ってる?」
顔中の皺という皺を眉に寄せ、口を真一文字に結び、腕を組んで正面を凝視する俺の様子を窺うように、遊び人が俺の顔を覗き込んできた。
「俺は、そもそも怒ってなんかいない」
「いや、怒ってたよ」
省34
178: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:31 ID:KfriHW7I0(6/15) AAS
「かつて俺はキミに約束した。俺が君を守ると」
「いや、そんな約束した覚えがないけど」
「す、すまない、気のせいだったかもしれない」
あれ?気のせいだったか?俺の記憶違いなのだろうか。
いや、確かに以前そんな約束をした気がする。
景気づけに、カウンターから再び一本ウイスキーをとる。
あける。飲み干す。
実に燃費の悪い身体である。そうして、ドーピングを重ねないと本心を明かすことができないなんて。
省15
179: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:31 ID:KfriHW7I0(7/15) AAS
〜〜〜〜〜〜
「ビールの苦みはホップに由来するものなのよ」
「ホップ?」
「そ、ホップステップジャンプのホップ」
遊び人のにやけ面からするに、これは冗談を言っているのだろう。
省5
180: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:32 ID:KfriHW7I0(8/15) AAS
〜〜〜〜〜〜
「うんうん、そうだな。俺も、君の中身のほうを楽しみたいものだ」
〜〜〜〜〜〜
181: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:32 ID:KfriHW7I0(9/15) AAS
〜〜〜〜〜〜
「それを言うなら、遊び人さんは。地獄のサルの尻のように顔が赤い」
「女性の顔を、エテ公の尻に例えるたあ、勇者様のデリカシーのなさに磨きがかかってきましたなあ。というか、地獄のサルって何よ……」
「いや、なんとなく旨い事言おうとして失敗しただけだから深堀しないで」
「……ならもっと可愛いものに例えなさいよ」
省11
182: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:33 ID:KfriHW7I0(10/15) AAS
かつての、自身の発言が走馬灯のように駆け巡っていく。
その光は、俺の全身を青白く照らした後、反転急上昇、今度は真っ赤に染め上げていく。
今度は、遊び人に変わって俺が机に突っ伏す番だった。
今ならわかる。彼女が、そうしたのはそういうことだったのだ。
俺は恥ずかしさのあまりに、顔をあげることができなくなってしまっていた。
隣では、彼女が「うえっへっへっへ」とそこいらの酒場に溢れる下品な親父みたいな、汚らしい笑い声を漏らしていた。
「おや、問題は片付いたようですね」
マスターが小人の扉を潜り、店の中へと戻ってくる。
氷を買いに行くと言っていたはずが、その手には何も握られていなかった。
省10
183: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:33 ID:KfriHW7I0(11/15) AAS
俺は、マスターの意図を探る。
いくら俺たちがマンハッタンを二人して飲んでいるからと言って、その由来を意味深に語る意味はなんだ。
そんなのは考えるまでもない、これはマスターからの餞。すなわち、俺たちが抱えている帰還できないという問題のヒントになっているのだ。
解決法を自身で見つけろと言いながらヒントを与える。
マスターが作り出した魔法が原因となっていることはさておいたとしても、なんともまあ、お人好しな好々爺ではないか。
夕日が沈む前に、人々は帰路につくべき……ね。
「つまり、足元が暗くなる前に帰りなさい」ということだ。
だが、果たして酔っ払いが日も変わらぬ前に家路につくか?いや、そんなことはありえない。
酔っ払いであればあるほど、その楽しいひと時を延ばしたいと家には帰りたがらない。
省21
184: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:34 ID:KfriHW7I0(12/15) AAS
……マスターの言うとおりだ。
いったい俺はいつから、こんなにも弱くなってしまったのだろう。
例え初めての経験だろうと、その勇気をもって臨むのが勇者ではなかったか。
その名に恥じぬ男ぶりを見せないで、何が勇者であろうか。
俺は、覚悟を決める。
彼女の目に正面から向かう。
遊び人は相変わらず疑問符を頭上に浮かべたままキョトンとしている。
「今夜、俺の部屋に泊っていけ」
省18
185: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:34 ID:KfriHW7I0(13/15) AAS
――――――
光が収まり、バーは再び間接照明の落ち着いた色に染まる。
静けさを取り戻した店内には、老いた店の主人の姿しかなかった。
「二人とも消えたということは、あの娘も彼を受け入れたとみて良さそうかな」
マスターは、店内に誰もいないことを確認すると、鼻をズズッとすすり、懐から出したハンカチで目元を拭った。
「まったく、世話の焼けるお客様だ」
省6
186: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:35 ID:KfriHW7I0(14/15) AAS
――――――
朝日が、カーテンの隙間から部屋に差し込んでくる。
大きなあくびを一つ上げ、ググっと伸びをする。
アルコールの強烈な香りが鼻をついてくるせいで、とても清々しい朝だとは言えなかった。
床には割れたワインの瓶が転がっている。昨晩、彼女と飲みなおそうと教会から貰ってきたものだ。
宿屋の主人には悪いが、あの自家製酒はもう口にしたくなかった。
「まだ、結構残っていたはずだ。勿体ないことをしたな」
シャツを脱ぐと、襟から胸元にかけて赤いシミがべっとりついていた。
どうやら、頭からワインを被ってしまったらしい。いったいどんな寝ぼけ方をしたのやら。
省11
187: 今日はここまでです◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:36 ID:KfriHW7I0(15/15) AAS
――――――
3杯目 カクタル思い
おわり
――――――
188: 2019/05/03(金)19:59 ID:Ux4VZ+H6o(1) AAS
おつおつ
こっちが恥ずかしくなったわ!
これは読み直して二度面白い奴だな
189: 2019/05/04(土)00:44 ID:6qKfvimDO携(1) AAS
乙
勇気が有るって良いな…
190: 今日はここまでです◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/07(火)20:44 ID:WrTit5G+0(1) AAS
春の陽気のせいか、身にまとったクロークの下は汗でびっしょりだった。
だが、これを脱いでしまうと、時折吹く冷たい風に誘われて身体が震えてしまう。これがいっそのこと、ひたすら暑ければ諦めもつくし、寒ければ身にまとう服の枚数を増やせばいいさ。だが、春は中途半端に過ぎる。だからこそ、俺は春が嫌いなのだ。
この半年間、俺は酒を飲んでは飛び、酒を飲んでは飛びと、千鳥足テレポートを繰り返した。
以前の失敗から、千鳥足テレポートの要領は得ていた。ただ酒に酔うのではダメなのだ。陽気な気分で足を右へ左へ自由気ままに進め、まるでステップを踏むかのようにリズミカルに、それでもなお前のめりに。そういう心持ちでなくては千鳥足テレポートは成功しない。
俺は、千鳥足テレポートを使うたびに、彼女との旅の思い出を呼び起こした。その短くも濃厚な時間は、俺の20数年積み上げてきた、どんな思い出よりも楽しく、鮮烈で、俺を千鳥足へと容易に誘ってくれた。そして、千鳥足テレポートの成功は、まるでその代償と言わんばかりに、彼女が消えてしまったという強い喪失感を俺に思い出させるのだった。
最近は、魔王軍関連の場所にはあまり飛べなくなってきた一方で、知らない酒場へとたどり着くことが増えてきた。千鳥足テレポートは、行使者の願いと強く結びついた魔法だ。その名の通り、ふらふらと何処に飛ばされるかわからないというランダム性を持ちこそすれど、確かに前には進んでいる。すなわち、行使者が望む場所へといつかはたどり着く。そういう魔法だ。
俺がたどり着いた酒場は、ことごとく彼女好みの旨い酒を出していた。……いつしか俺は、勇者としての使命を忘れ、憎き魔王の首よりも愛らしい彼女の尻を望むようになっていたのだ。
今の俺は、果たして『勇者』と呼べる存在なのだろうかと、ふと疑問に思う。いや、ここにいるのはタダの間抜けだ。その身にかけられた使命を忘れ、国が禁じている酒を、毎晩浴びるように飲み、夜が明けぬ内にベッドの中から消えた女に思いを馳せるだけの男が、どうして勇者であるなどと呼べるだろうか。
だが、安心してほしい。どうやら俺の酒浸りの毎日も、今日で年貢の納め処のようだ。もう、酒を飲む理由が無くなってしまったのだ。あの日から、日を追うごとに飲む酒の量が増えていった俺だけど、ついに許容量を超えてしまったらしい。
省4
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