遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」 (296レス)
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277: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:27 ID:ABaWR+nR0(3/20) AAS
「……」

 当然、そこには遊び人の体が捨て置かれていた。その芸術的かつ扇情的に縛り上げられたからだが、魔王へと助けを求めるように体を揺り動かしている。

「……えっと魔王、それは、その」

 俺は、助けを求めるように遊び人を振り向く。すると遊び人は、まるで悪戯が見つかった幼子のように舌をぺろりと出した。
省14
278: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:28 ID:ABaWR+nR0(4/20) AAS
 それは、一か八かの賭けであった。俺は、魔王から繰り出される鉄の拳を目で追う。これを捕らえられなければ、体勢を崩した俺は次撃で死ぬことだろう。そのあまりの緊張感からか、時間がやけに遅く感じられる。俺は、スローモーションの世界の中で魔王の機械の腕を半身で受け流し、そのまま伸び切った腕を脇で固めた。

「うおおおおおおお」

 片腕を、俺に抑えられた魔王が顔面にパンチを入れてくる。だが、腰の入らないパンチに、先ほどまでの威力はない。

「せりゃああああああ!!!」

 俺は、気合をいれ機械の腕をへし折った。鉄の部品が、ガチャンガチャンと音を鳴らしながら崩れ落ちていく。腕は、かろうじて魔王の体に繋がっているものの力が入らないのか振り子のように揺れていた。
省22
279: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:28 ID:ABaWR+nR0(5/20) AAS
 魔王も、千鳥足テレポートが使えるのか。だが何故、普通のテレポートではなく千鳥足テレポートを使ったのだろうか。そんな俺の疑問を察して、遊び人が間髪入れずに声をかけてくる。

「普通のテレポートじゃ、私に逃げ先を悟られると思ったんでしょ! 勇者! 私たちも千鳥足テレポートで追うよ!」

「だめだ……俺は、もう千鳥足テレポートはつかえないんだ」

「はい?」

「なあ、俺の顔を見てくれ。ウイスキーを飲んでも、ちっとも赤くなってないだろう?俺の中の女神の力が、俺を酒に酔えない身体にしてしまったんだ。魔王を倒さない限り、俺の体はこれからもずっと酒に酔うことはないんだ」
省9
280: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:29 ID:ABaWR+nR0(6/20) AAS
「手伝うさ。俺には教会にも頼れる伝手がある。なにも魔王軍を手中におさめる必要はない」

 そうだ、わざわざ自ら危険に飛び込む必要なんてない。もう、魔王のことなんて、俺のことを殺そうとする体のことなんて忘れて、二人でゆっくり暮らすのもいいじゃないか。

「そんな、つまんないこと言わないでよ!」

 遊び人は、その目に大粒の涙をためていた。
 何故だ。なぜキミはそこまで、魔王に執着しているんだ。
省24
281: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:29 ID:ABaWR+nR0(7/20) AAS
 日の光が僅かにさしこむ倉庫。その、両脇には木箱が高く積み上げられ少ない日差しを更に遮っている。どこか懐かしい香りのする場所だ。

 千鳥足テレポートは大成功だった。そこには、扇情的に縛り上げられた彼女の体を片手でほどくこうと苦戦している魔王がいた。

「魔王みいいいいいいいつうううううううううけええええたあああああああああああああ」

 今度は、こちらの番だとばかりに魔王にタックルをかます。俺と魔王は、組み付いたまま積み上げられた木箱に突っ込んだ。魔王は驚きの表情ながらも、突然の来襲に的確に対応した。片腕の力で、組み付く俺と自身の体に無理やり隙間をこじあけ、そこに膝を見舞ってきた。

 魔王の膝蹴りは、見事に俺の腹へとつきささり思わず俺の口から胃液が飛び出す。更に、その凄まじい衝撃は俺の体を倉庫の天井付近まで浮かび上がらせた。
省10
282: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:30 ID:ABaWR+nR0(8/20) AAS
 魔王の驚いた表情を見るのは、今日だけで何度目であろうか。俺たちが、千鳥足テレポートを使えることを知らない魔王にとっては、俺たちがいかにして魔王を追ってこれるのか理解ができないのであろう。

 木箱の山のお次は、樽が大量に敷き詰められた石造りの部屋だった。部屋には冷たい空気が満ちていた。どうやら、何かの保管庫らしい。そこには、窓が一つもなく蝋燭の灯だけがゆらゆらと俺たちの姿を照らしている。

 
 魔王が、樽を抱え上げ俺へと投げつけてくる。樽の剛速球を、なんとか受け止め地面に置く。樽の中身が、ちゃぷんちゃぷんと液体特有の音をあげる。間髪おかずに、二個目三個目の樽が飛んでくるが、俺はそれを受け止めつつ魔王へと前進を続ける。

 足を止めない俺を見て魔王の表情に、恐怖が浮かぶ。

「こっちに来るなあああああああああ!」
省16
283: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:30 ID:ABaWR+nR0(9/20) AAS
 どうしてこの魔法を使った後は、みんな驚いた表情で出迎えてくれるのだろうか。いや、突然何もないところから腰から頭を吊り下げた男が現れたらそうなるのも仕方ないか。というわけで、大柄で禿頭の男は俺たちを見て開いた口がふさがらない様子を見せつけてくれている。

 その手には、酒をグラス注ごうと傾けられたビンが握られており、驚きで固まった大男は既にグラスが酒で満ち溢れているのに構わず注ぐ手を休めようとしていない。……って、この大男、いつかの宿屋の主人ではないか。

「ままままたかよ! 頭のない死体を担いだ片腕の男の次は、頭を腰に吊り下げた男かよ……って、兄ちゃんどこかで?」

 主人に構わず視線を動かすと、今まさに遊び人の体を担いだ魔王が更なる千鳥足テレポートで飛び立つ瞬間だった。
省9
284: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:31 ID:ABaWR+nR0(10/20) AAS
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 転移先は、実に騒がしいところだった。大樽や、パイプが張り巡らされたそこは死角が多く視線が通らない。だが、各所から沸き上がる雄々しい叫び声でそこに大勢の人や魔物たちが争っていることが見て取れる。

「魔王軍の秘密醸造所!? 戻ってきたのか」

 機材の間をかきわけ、中央の最も大きな通路へ出ると魔物たちと白装束の男たちが剣やこん棒を手に血と汗を散らしていた。
省9
285: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:31 ID:ABaWR+nR0(11/20) AAS
 
 魔王は、隻眼のミノタウロスに支えられ小さな樽に腰かけている。周囲の魔物たちが、これでもかと甲斐甲斐しく介抱し魔王は幾分かの体力を取り戻したようだ。

 
 俺は、決戦に備えクロークをぬぎ、剣をはずす。すると、頼みもしないのに僧兵の一人が恭しくそれを預かってくれた。

「勇者、ついに使命を果たす時がきたな」

 なんとか息を整えた大司教が、俺の背をポンと叩く。

「しっかりやってこい!」
省6
286: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:32 ID:ABaWR+nR0(12/20) AAS
 俺は、軽やかにステップを踏み身体の調子を整える。対する魔王は、付けたばかりの義手を相変わらずグルングルンとまわしている。

「合図が必要だな」

 焦れたミノタウロスが、そう呟き隣に立っていた僧兵から兜を奪い取る。そして、それを持っていた斧でカーンと打ちならした。

 
 魔王の右ストレートが、俺の左頬へと突き刺さる。あまりの速さに、俺は魔王の動きを全く捕らえられなかった。意識が転よりも高く飛びあがりそうなのを、歯を食いしばって耐える。

 俺は、お返しとばかりに拳をふりあげ、魔王の顎を砕いてやる。確かな感触があった。だがしかし、魔王は倒れない。
省6
287: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:32 ID:ABaWR+nR0(13/20) AAS
 一体何発のパンチを見舞い、何発のパンチをもらっただろうか。膝が震え、肩を揺らし、目は腫れ視界がかすむ。まともな人間、まともな魔族であれば幾百回の死を迎えるであろう威力を正面から受け止め俺と魔王はともに限界を迎えつつあった。

 白く霞んだ世界から、突然魔王の拳が目の前に現れた。精神が高まっているせいか、その拳はひどくゆっくりと俺に向かって飛んでくる。何とか交わそうと、上体を揺らすが力が思うように入らない。

 魔王の拳が、俺の額にあたった。乾いたパンという音に、限界を迎えた肉体と精神が同じくはじけ飛んだ。俺は、前のめりにゆっくりと崩れおちた。

 ミノタウロスが駆け寄ってきて、高らかに腕をあげカウントをはじめる。

「1、2、3……」
省11
288: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:33 ID:ABaWR+nR0(14/20) AAS
 ミノタウロスが、俺の顔を覗き込んでくる。

「やれるが?」

 俺は、目だけで肯定を伝える。

「よじ、やれ! ふぁいっ!」
省6
289: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:33 ID:ABaWR+nR0(15/20) AAS
 翌朝、目が覚める。傍らには、遊び人の頭が転がっていた。すやすやと気持ちよさそうに、寝息を立てている。
 周囲を見渡すと、倉庫の地べたに魔物も僧兵たちも入り混じれて雑魚寝している。倉庫の中には血や汗、そしてビールの混じり合った酷い匂いが立ち込めている。どうやら、勇者の祝勝会と魔王の残念会が同時に、そして盛大に行われたらしい。

 ひどい頭痛に、思わず頭をおさえ唸り声をあげる。

「起きたか……勇者」

 大樽に寄りかかった魔王が、声をかけてくる。その腫れあがった顔が、昨日の激戦を思い起こさせる。だが、その程度気にもとめないばかりに、魔王の右手にはビールジョッキが握られていた。
省17
290: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:33 ID:ABaWR+nR0(16/20) AAS
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エピローグ

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291: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:34 ID:ABaWR+nR0(17/20) AAS
 目の前に置かれた逆三角形のグラスには、赤い液体で満たされ、更にその中にはチェリーがプカプカと浮かんでいる。

「マンハッタンでございます」

 マスターに、「ありがとう」と感謝の意を伝え、グラスに口をつける。

「ねえ、私の話きいてた?」

 白と黒のチェック柄のワンピースに、赤いマフラーをまとった、金髪の美少女が不満げに話しかけてくる。
省6
292: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:34 ID:ABaWR+nR0(18/20) AAS
「ん」

「だからさ、また旅に出ようよって話をしてるの」

「旅だって?なんだって今更」

「だってパパは私たちのことを認めてくれたけど、勇者はまだママに会ってないじゃん」

「ママ?」
省10
293: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:35 ID:ABaWR+nR0(19/20) AAS
――――――

遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」 

おわり

――――――
294: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/06/08(土)22:41 ID:ABaWR+nR0(20/20) AAS
長らくお付き合いいただき有難うございました。
変なところがあれば指摘してもらえると助かります。頂いたご指摘は、小説家になろうに投降している同作品の方で修正していきます。

酔いどれ勇者は、今日も千鳥足で魔王を追っています!
外部リンク:ncode.syosetu.com

どうぞこちらのほうにも、感想評価をよろしくお願いします。
重ね重ね、ありがとうございました。
295: 2019/06/09(日)00:01 ID:4R9QK5Njo(1) AAS
おつおつ
次も期待しているぞ!
魔王倒したから酔えるようになったのかなめでたい!
296: 2019/06/09(日)01:54 ID:AxKE45/DO携(1) AAS
そういやなろうの方も有ったんだわな
もうガラケーから見れないから忘れてた
何はともあれお疲れ様
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