ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」 (699レス)
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689: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/03/24(日) 01:37:19.98 ID:76domkFH0 …屋外運動場… スカーレット教官「さぁ、頑張って走りましょう……適度な運動は美容にも良いわよ♪」 訓練生A「はぁ……はぁ……」 訓練生B「ひぃ……もうだめ……」 …ハードルや雲梯、綱渡り、匍匐前進など盛りだくさんの障害物が含まれているコースを走らされている訓練生たち……うら若い女性であるスカーレット教官は息も絶え絶えの訓練生たちを励まし、助言をしながら鹿のようにかろやかに走って行く… ドロシー「はっ、はっ……」 スカーレット「ミス・ドロシーはこれで五周目ね?」 ドロシー「そうです、レディ・スカーレット……ふぅ、はぁ……」泥水の溜まった四角い池の上に張り渡されたロープを掴んで渡りながら、途切れ途切れに返事をする…… スカーレット「良い調子ね、頑張って♪」 ドロシー「どうも……」 スカーレット「……ところでミス・マティルダ、貴女は大丈夫?」 マティルダ「はい、私は大丈夫で……ふえっ!」勢い込んでそう返事をした矢先にハードルに脚を引っかけ、派手に顔面から砂場へ突っ込んだ…… 訓練生C「……ぷっ♪」 訓練生D「くすくす……っ♪」 スカーレット「うーん、あまりそうは見えないけれど……それじゃあもうちょっと頑張ってみましょうか」 マティルダ「はい……っ!」 …はきはきと返事をしたマティルダは全体からすれば周回遅れもいいところだが、クサらずいたって真面目に走っている……が、砂まみれのくしゃくしゃ髪や、泥水に落っこちてポタポタとしずくをたらしながらちょこまかと走っている様子を見ていると、庭先ではしゃいでいるヨークシャー・テリアのようにしか見えない……次々と追い抜いていく他の候補生たちの中には、思わず笑い出してしまう者までいる… スカーレット「それじゃあロープをしっかり掴んで、膝裏をロープに引っかけるようにして身体を支えながら、腕の力で前へ引っ張っていくように……」 マティルダ「分かりました……っ!」 スカーレット「そうそう、その調子よ」 マティルダ「よいしょ、こらしょ……ひゃう!?」ロープの上で身体のバランスを崩すと、半回転しながら下の水たまりに落ちて水しぶきをあげた…… 訓練生E「ねぇマティルダ、こんな時期に水遊びなんてしてたら風邪引くわよ?」隣のロープをすいすい進みながら、訓練生が皮肉を言った…… マティルダ「うっぷ……でもあんまり冷たくはないですよ?」 スカーレット「ふふふっ……それなら良かったわ、でも今度は落ちないようになさいね?」思わず失笑してしまうスカーレット…… マティルダ「はいっ、頑張ります!」全身から水を滴らせながら這い出てくると、小型犬のようにぶるぶると身震いをしてしぶきをふるい落とし、また走り出した…… ……… …教室… シルバー教官「では、前回のつづり方のテストを返却しよう……成績トップは満点のミス・アンジェだ、おめでとう」 アンジェ「ありがとうございます」 シルバー「そして残念ながら、最下位だったのは……ミス・マティルダ、君だ」 マティルダ「うぅ……」 シルバー「そうしょげることはない、どうやら君は前回の授業をよく聞いてくれていたようだね。書いた答えのうち、おおよそ半分は合っていたよ」 マティルダ「本当ですか、ミスタ・シルバークラウド!?」ぱっと明るい表情を浮かべた…… シルバー「ああ、本当だとも……記述欄がひとつずつズレていなければ、だが」 マティルダ「あっ……!」 訓練生たち「「くすくす……♪」」 シルバー「うっかりミスは情報部員にとっては致命的な結果を招きかねない、今後はこういったことがないよう注意するように……明後日までにラテン語の書き取り二十枚だ」 マティルダ「はいっ」 シルバー「よろしい……それと、諸君の中にはミス・マティルダより誤答の多い者もいたのだからね。次のテストを考えると、あまり笑ってはいられないのではないかな?」 ドロシー「おやおや、そりゃ一体どこのどいつだろうな?」 アンジェ「……てっきり貴女の事かと思ったけれど、違ったのかしら」 ドロシー「よせやい。練習もしてあるし、カンニングの用意だってバッチリさ」 アンジェ「やれやれね……」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/689
690: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/03/29(金) 01:08:56.06 ID:iRyZjprV0 …ある日・更衣室… 意地悪な訓練生「……それにしても不思議よねぇ、ドロシー」 ドロシー「何が?」 意地悪「マティルダよ、なんであの子が訓練生になれたのかしら? 確か教官は「我々は身分や階層、人種で訓練生をえり好みするようなことはしない」って言っていたけれど、きっと才能もえり好みしなかったのね」 イヤミな訓練生「あら、私は良いと思うけど? あの子が万年最下位にいてくれたらビリにならなくて済むじゃない」 意地悪「それもそうねぇ。それにしてもマティルダってば、いっつも子供みたいに「頑張ります!」って……ふふ、あの子いくらが頑張ったところでどうにもなりはしないのにね♪」 イヤミ「でも、その方が教官には受けが良いじゃない?」 …さしたる努力もせずそれなりの成績でうろうろしているだけの二人が底意地の悪さを発揮してマティルダを馬鹿にしているのを聞いているうちに、溜まっている疲れのせいもあってか、普段は飄々と振る舞っているドロシーも思わずカッとなった… ドロシー「……ま、教官たちも手抜きをする二流よりゃ真面目な三流の方が使いどころがあるって考えてるんじゃないのか?」 イヤミ「へぇ、ドロシーはああいうのがお好み? 確かに小型犬みたいで、足元にはべらせておくには良いかもしれないものねぇ♪」 ドロシー「そうだな。少なくとも主人の可愛がっているカナリアを食い殺してニヤニヤしているような猫どもなんかよりはよっぽどマシだろうよ」 意地悪「ふぅん、それじゃあ少なくともあの子にも一人は味方がいるってわけね」 イヤミ「それも一流訓練生様の♪」 ドロシー「……格闘訓練がしたいんならその時間はあるぜ?」 意地悪「あら、別にそんなつもりじゃないんだけど?」 イヤミ「そんなに恋人のことを言われたのがお気に障ったのかしら♪」 ???「はぁ……くだらない事を言っている暇があるんだったら少しでも訓練したら?」 意地悪「あら、貴女もいたの? アンジェ」 アンジェ「黒蜥蜴星人はどこにでもいるしどこにもいない。そういうものよ」 イヤミ「それで、黒蜥蜴星人さんもあの小型犬のことがお好きなわけ?」 アンジェ「好きも嫌いもないわ。私の邪魔さえしなければ誰が何をしようと別に構わない」 意地悪「あら、私がなにか邪魔をしたかしら?」 アンジェ「ええ……私も早く着替えたいの、油を売っている暇があるのだったら早くどいてもらえるかしら」 意地悪「これは失礼……それじゃあお先に♪」 イヤミ「では一流訓練生様どうし、水入らずでどうぞごゆっくり♪」へらへらと笑いながら出ていった…… ドロシー「……けっ、ドブ川の底みたいに性根が腐ってやがる」 アンジェ「あんな連中の言うことを馬鹿正直に聞いているから頭に血がのぼるのよ、少しは学習しなさい」 ドロシー「ああ、私の悪い癖だな……それにしてもあいつらの憎まれ口だが、ありゃあご本人にゃ聞かせたくないシロモノだな」 アンジェ「それについては同感だけれど、残念ながらそうはいかなかったようね……」 マティルダ「……」 …アンジェが軽くあごでしゃくった先には、ロッカーの陰からひょっこり顔を出しているマティルダ本人がいた……普段どんなにキツい訓練でも泣き顔だけは見せない彼女が、珍しく顔をゆがめて涙をこらえている… ドロシー「……聞いてたのか?」 マティルダ「うん、ちょうど二人がドロシーに話しかけたあたりで……」 ドロシー「そうか……ま、あんな奴らの言い草なんか忘れちまえ」 アンジェ「それに世の中にはもっと大変な事だってたくさんあるわ、あんなので泣いていたら涙が足りなくなるわよ」 マティルダ「そう、だよね……うん、頑張る」 ドロシー「よしよし、その意気だ♪」髪をくしゃくしゃにするように頭を撫で繰り回した…… マティルダ「わひゃあ!?」 ドロシー「ぷっ、なんだよその鳴き声♪」 マティルダ「もうっ、いきなり頭を撫でたりするからでしょ?」 アンジェ「どうやら泣き虫は収まったようね」 マティルダ「ええ、だって一流エージェントはアンジェみたいに表情に出さないものだものね」 アンジェ「……」そう言って純粋な憧憬をたたえた瞳を向けられ、さしものアンジェも困ったような表情をちらりと浮かべた…… http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/690
691: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/04/06(土) 00:59:52.65 ID:IZkqyWJp0 …別の日… 訓練生A「次の時間は……う、ミス・パープルの実技ね///」 訓練生B「あぁ、今日はそうだったっけ……私、あの人に流し目をされただけでドキドキしてきちゃうのよね///」 …ファームの一室、ずっしりと重い樫の扉の奥に広がっている豪華で官能的な雰囲気の漂っている寝室は「ハニートラップ」のしかけ方とその対策を「手取り足取り」教えてくれる美人教官、ミス・パープルの牙城で、たいていの訓練生はパープルとクィーンサイズのベッドの上で数十分過ごすと、格闘訓練を数時間行ったときよりも激しく膝が震えてしまい、その後しばらくは甘い余韻ですっかりグロッキーになってしまう… アンジェ「……」おしゃべりに加わるでもなく、静かに座っている…… ドロシー「なぁアンジェ、ミス・パープルだけどさ……ありゃあきっと人間じゃない、地上の女を骨抜きにするために月あたりから送り込まれてきた異星人だ」 アンジェ「そうね、黒蜥蜴星人である私がいるんだもの。月の人間がいたっておかしくはないわ」 ドロシー「やれやれ……食えないやつだな♪」 …しばらくして・パープルの部屋… マティルダ「し、失礼します……///」 パープル「あら、いらっしゃい♪」 …座り心地のよい肘掛け椅子に腰かけながら少し汗ばんだ白い首筋を軽く拭い、それから艶っぽい仕草で後ろ髪をかき上げるパープル……マティルダはすでに顔を真っ赤にして、なまめかしいパープルの姿を見ないようにと視線をそらしている……パープルはそれに気付いてくすくす笑い、小さな丸テーブルの上に置いてあるポットから紅茶を注いだ… パープル「さぁ、かけて? 紅茶とチョコレートをどうぞ♪」室内に立ちこめた甘い白粉とパープルの肌の匂い…それに蜂蜜のようにねっとりとした、頭がぼんやりするような何かの香水…濃紫と黒を基調にしたドレスの襟ぐりから白くふっくらした胸元をのぞかせ、黒い絹の長手袋に包まれた柔らかな手でチョコレートをひとつつまんでマティルダに差し出す…… マティルダ「い、いただきます……///」黒っぽく艶やかで濃密な味のする高級チョコレートだが、微笑むパープルにじっと見られているせいで味も分からぬまま口に運んでいる…… パープル「おいしい?」 マティルダ「はい、とっても美味しいです……///」 パープル「そう言ってくれて嬉しいわ、マティルダ……だって貴女のために用意しておいたんですもの♪」ふんわりといい香りが漂う、ミルクと砂糖の入った紅茶をすすりながら、濡れたような瞳でじっと見つめる…… マティルダ「///」 パープル「さ……いらっしゃい♪」紅茶を飲み終えてカップをソーサーに置くと、いつくしむような手つきでマティルダの可愛らしいほっぺたを撫でた…… マティルダ「ひゃ……ひゃい///」 パープル「まぁまぁ、ふふ……そんなに固くならないで? 大丈夫、私が優しくしてあげるから……♪」パープルは水中で柔らかなレタスの葉をむくように、着ている物を優しく丁寧に脱がせていく…… マティルダ「はひっ……ひゃう……っ///」 パープル「もう、そんなに真っ赤になっちゃって……可愛い♪」ふっくらとしてリンゴのように赤いマティルダの両頬に手を添え、瞳の奥を見透かすようにじっと凝視するパープル…… マティルダ「ふあぁ……あぅ///」 …ふかふかしたベッドの上で小さく舌なめずりをして、ねっとりとした甘い色をたたえた瞳で次第に迫ってくるパープルと、太ももを擦り合わせてもじもじしているマティルダ……その様子は蛇ににらまれたカエルや蜘蛛の巣に絡め取られたチョウチョのようで、パープルがのしかかるように迫ってくるにつれて、マティルダの身体が徐々に仰向けになっていく… パープル「大丈夫、誰にも聞こえないから……ね、キス……しましょう?」みずみすしく艶やかなローズピンク色の唇がゆっくりと迫ってくる…… マティルダ「ミス・パープル……わ……私、もう……んんぅ///」 パープル「ん、ちゅぅ……ちゅむっ、ちゅ……あら♪」優しくキスをしながらそっとマティルダのふとももへ手を伸ばしたパープルが、思わず驚きの声をあげた…… マティルダ「は、はぁ……ごめんなさい、ミス・パープル……まだキスしただけなのに……ぃ///」ぐっしょりと濡れたペチコートを押さえて、恥ずかしそうに顔を伏せている…… パープル「ふふふっ、いいのよ……それはそれで可愛いわ♪」 マティルダ「でも……」 パープル「だーめ、せっかくベッドの上にいるんですもの……「でも」は禁止♪」チャーミングな笑みを浮かべながらそう言うと「えいっ♪」とマティルダをベッドに押し倒した…… マティルダ「ひゃぁ!?」 パープル「ねえ、マティルダ……今度は私にキスしてくださる?」押し倒しつつ体を入れ替え、甘えるように両腕を広げて眼を閉じる…… マティルダ「は、はい……ん、んっ///」ぎくしゃくとした動きでパープルの唇にそっと口づけする…… パープル「ん、ちゅっ……んふっ、ふふふっ♪」 マティルダ「あ、あれ……っ?」 パープル「あぁ、ごめんなさい……貴女の口づけがあまりにも可愛いものだから♪」 マティルダ「うぅ、また上手く出来ませんでした……///」 パープル「いいのよ? マティルダのキスったら初々しくて、とってもきゅんきゅんしたわ♪ ……せっかくだから私に何か聞きたいことはある?」優しいお姉さんのようにマティルダを抱きしめ、頭を撫でる…… マティルダ「はい、あの……」 パープル「なぁに?」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/691
692: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/04/11(木) 01:28:23.76 ID:vpROMSsr0 マティルダ「……私、せっかく「ファーム」に入れたんだから、一流のエージェントを目指したいと思っているんです///」あどけない子供っぽさを感じさせるような笑みを浮かべて、頬を赤く染めた…… パープル「まぁ、立派な心がけね♪」 マティルダ「ありがとうございます……でも、そう思って頑張ってはいるんですけどなかなか結果に結びつかなくって」 パープル「そうなの?」 マティルダ「はい。例えばミス・アンジェのように顔色ひとつ変えずに課題をこなそうと思ってもうっかりミスをしてしまうし……」 パープル「あらあら」 マティルダ「ミス・ドロシーみたいに射撃や格闘でいい成績を出そうとしても、射撃はまともに中心に当たってくれないですし、格闘をすれば攻撃が空を切るかちっとも効果がないかのどっちかで……」 パープル「……続けて?」 マティルダ「ミス・パープルみたいに相手をとろけさせるようなキスやえっちをしようとしても「くすぐったい」って言われるか「なんだか妹がじゃれついてきているみたい」って言われちゃうし……私も教官みたいなすべすべの髪とか、フランス人形みたいな綺麗なブルーの瞳だったら良かったのに……ミス・パープル、どうやったら私は一流エージェントらしくなれるでしょうか?」 パープル「なるほど、ずいぶん悩んでいたのね……でも心配はいらないわ、貴女には良いところがいっぱいあるもの♪」髪を撫で、ほっぺたに優しいキスをする…… マティルダ「そうでしょうか?」 パープル「ええ、貴女のその純真無垢な可愛らしさは何物にも代えがたい立派な特質よ? エージェントにはさまざまな性格、偽装が与えられるものだというのは覚えているでしょう?」 マティルダ「はい」 パープル「冷静で目立たず、さらりと会話を盗み聞きするようなタイプもいれば、私みたいな甘い言葉で相手を誘惑するエージェントや、常に派手な交友関係をひけらかして敵をあざむくエージェントもいる……でも、似たようなタイプのエージェントばっかりでは活動できる範囲も限られてしまうし、なによりすぐ敵方にバレてしまう」 マティルダ「つまり、私でもエージェントとして役に立てるってことでしょうか?」 パープル「もちろん。それどころか、むしろ貴女みたいなタイプは情報部にとってはとっても重宝する存在なの。これからもくじけずに頑張って行けば、きっとひとかどの情報部員になれるわ♪」 マティルダ「……ミス・パープルにそう言われたらやる気が出てきました♪」 パープル「そう、良かったわ……私たちは教官なんだから、分からないことや相談したいことがあったら遠慮せずに聞きに来ていいのよ? その時は、美味しい紅茶とお菓子を用意してあげる♪」そう言いながらずっしりした乳房を下から持ち上げるようにして、マティルダの顔に押しつけた…… マティルダ「ふぁ……い///」 パープル「それじゃあ次の娘が待っているから……ね?」人差し指をマティルダの唇にあてがい、チャーミングな笑みを浮かべてみせた…… マティルダ「はい、ありがとうございました♪」 パープル「ええ……またいつでもいらっしゃいね?」 ……… …しばらくして… パープル「……と言うことがありまして」 ブラック「ああ、あの娘か……真面目なことは確かだが射撃全般や爆発物の取り扱いに関しては絶望的だから、その方面では使い物にはならんな。これだけ過程が進んだ段階でも、まだピストルを持つのにおっかなびっくりと言った具合だ」 ホワイト「ふーむ、彼女は徒手格闘も苦手でね。小柄で腕力がないのもあるが、どうにも優しすぎて相手に対する攻撃性が発揮できないようだね……ブルー、君は?」 ブルー「ナイフもダメだ。カカシ相手の訓練で自分の手を切ってしまうようではな……やる気があるのは結構だが、あのセンスのなさではモノにならないだろう」 スカーレット「追跡と監視も、あのちょこまかした歩き方では見つけてくれと頼んでいるようなものでして。本人はしごく真面目でいい娘なのですが……」 マーガレット「ええ、本当にいい子なのですが……いかんせん、お洒落なドレスもお化粧もあまり似合わないのが残念ですわ」衣服や化粧、身ごなしといった分野を担当するマドモアゼル・マーガレットがフランス流に肩をすくめた…… グレイ「同感ですね。マナーに関しては決して悪くはないのですが、どうにも貴族の令嬢には見えません……よくて「庶民のいい子」どまりです」 ブラック「まったく、候補生不足なのか知らんが、上層部はなんであんな娘を候補生として送り込んできたのやら」 ブルー「あれではファームを出ても、誰も引き受けたがらないような地味な監視任務や連絡役にされるのがせいぜいだろうな……」 ブラウン「……」 ブルー「……何か意見がおありのようですな、ミセス・ブラウン?」 ブラウン「まぁ「意見」というほどの物ではないけれども、ちょっとね……」 ホワイト「ミセス・ブラウン、貴女ほどの元エージェントが抱いた感想だ。是非とも拝聴させていただきましょう」 ブラウン「ミスタ・ホワイト、こんなおばさんをからかっちゃいけませんよ……あのね」 ……… … http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/692
693: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/04/24(水) 02:11:24.91 ID:zZwpKeq00 ブラウン「どんなエージェントでもそれぞれ「使いどころ」というのがあるものよ」 スカーレット「使いどころ、ですか」 ブラウン「ええ……確かにマティルダは「良い子」というだけで、いまのところ訓練生としてこれといった取り柄があるわけではないわ」 ブラック「そこなのだ、ミセス・ブラウン……私だって彼女が無事に訓練を終えて、いつかひとかどのエージェントとして活躍してもらいたいという気持ちはある……だが、この世界ではただの「良い子」にはロクな任務が与えられない事くらいご存じのはずだ。それだったらいっそ早めにあきらめさせて、もっと有意義な方面で活動してもらった方が良いのではないか?」 ホワイト「同感だね。私の同期にもひとり、世間で言う「いい人」に該当するような者がいたが、退屈で実りのないひどい任務ばかり与えられて、みんなに「彼はいいやつなんだが……」と言われ続け、いつしか現場から退けられてしまったよ……ミス・マティルダにはああなって欲しくはないね」 ブラウン「そうね……でもあの子のいかにも「小市民」らしいところ、私は活かしようがあると思っているわよ?」 パープル「まぁ、ミセス・ブラウンがそうおっしゃるということはよっぽどなのね♪」 ブラウン「こらこら、わたしを口説いたって何も出ないわよ?」 パープル「あら、残念」 スカーレット「それで、ミセス・ブラウンのおっしゃる「小市民らしいところ」とはなんでしょう?」 ブラウン「ああ、それね……あの子とおしゃべりしているとね、私は不思議となごやかな気持ちになるのよ。暖炉で暖められた部屋にいて、お気に入りの椅子に腰かけ、テーブルには甘いお茶とケーキがある……そんな気分にね」 パープル「言いたい意味は分かります。どうもあの子と一緒にいると、小さい妹を見ているような気分になります……それだけに、ベッドに入ってもみだらな気分にならないのですけれど♪」 ホワイト「邪気や殺気がないというのは確かだね……生まれ持っての小動物らしさというか「良い子」という呼び方がしっくりくる」 ブラウン「そこなのよ。あの子なら見ず知らずの方のお葬式に参列してもきっと涙を流すでしょうし、たった一ペニーだってお釣りをごまかしたりしない」 ブラック「しかし、それこそエージェント候補生として不適当だと証明しているようなものではないか……バカみたいに法律を破ってまわれとはいわないが、目的のためにはどんな手段もいとわないのが情報部員だ。それができないようでは内勤の使い走りがいいところだ」 ブラウン「ミスタ・ブラック、あなたの言う通りね。そして私が言いたいのもまさにそこなのよ」 ブラック「分からんね。射撃はできない、格闘もダメ。尾行も下手なら色仕掛けもできず、暗号解読も遅いときた……どう使い道がある?」 シルバー「……ミセス・ブラウン、どうやら貴女の言いたいことが分かってきたような気がするよ」 ブラウン「ふふ、そうでしょうとも……つまりね、あの子はおおよそ「スパイとはかくあるべし」の正反対みたいな存在なのよ。それだけにあの子がエージェントだと思うような人間はまずいない。人物調査をしたって返ってくる答えは「冗談言っちゃいけません、あんな良い子がスパイなわけないでしょう?」だと確信できるわ」 ホワイト「いいたいことは分かるが、それにしても彼女は良い子すぎるね。経済的にはごく普通ながらも温かな家庭で両親に愛され、世の中の辛酸を味わわずに済むように育てられた……あの子からはそんな雰囲気を感じるよ」 ???「慧眼だな、ホワイト」 ホワイト「おや、あなたでしたか……熱心ですね」 L「この先に備えるためにも我々にはエージェント候補生が必要だからな……ありがとう」ミセス・ブラウンからお茶のカップを受け取ると礼を言って、空いている椅子に腰かけた…… ブラウン「それで、先ほどミスタ・ホワイトに言った「慧眼」というのはどういう意味かしら?」 L「候補生マティルダのことだ……ごく一般的な暮らし向きの温かい家庭で良い子に育てられた。まさにその通りだ」 シルバー「彼女のことをご存じなので?」 L「候補生の生い立ちについては全て目を通すことにしている……あの子の両親は数年前に交通事故で亡くなったのだ。誕生日だからと家族そろって出かけたところで自動車に突っ込まれてな……それから養育院に入れられたのだが、あの子は性格がねじ曲がることもなく「良い子」のまま育ったというわけだ」 ホワイト「確かに何事にもめげない芯の強さがありますね」 L「だから「ポインター」が候補者として情報を持ってきたときにサインしたのだ……本人いわく「私を養ってくれた人たちの役に立ちたい」とのことでな。実に立派な動機だ」 ブラウン「ほら、ね?」 ブラック「しかし、努力家だからといって実力の伴わない人間を置いておく余裕など情報部にはないはずだ」 L「いかにも。だが使いどころならこちらで見つける、心配は無用だ……ともかくエージェントとしての基本的な知識と技術を教え込んでやってくれ」 ブラウン「ええ、それは間違いなく……あの子は実に真面目な良い子です。確かに覚えの悪い所はありますけれど、要領よく小手先で済ませてしまう娘たちよりもずっと教え甲斐がありますよ」 ホワイト「そこは同感だね」 ブラック「まぁ、一生懸命で真面目な部分は認めるが……」 パープル「あの子がハニートラップに向かないのはあの子のせいではありませんものね」 マーガレット「ウィ、同感ですわ。あのマドモアゼルにはごく普通なつつましい格好が似合います……世の中にはバラだけではなく、道端のヒナゲシだって必要なのですわ」 シルバー「最近はラテン語のつづりも上手になってきましたからね、ここで訓練から脱落させるのは惜しい♪」 L「結構、意見が一致したようだな……では引き続きよろしく頼む」 ……… … http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/693
694: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/05/01(水) 01:11:30.24 ID:Zsm+3rLz0 ドロシー「それでだ……おかしなことにマティルダのやつ、訓練では相変わらずドジばかりだし覚えも悪かったんだが、何だかんだで最初の頃に比べるとずっとできるようになってきてな。むしろ訓練当初にすいすいと課題をこなしていた何人かは付いていけなくなって、結局途中でいなくなっちまったなぁ……」 ベアトリス「へぇ、そういうものなんですね?」 ドロシー「不思議なことにな」そういって肩をすくめた…… ……… ホワイト「なかなかいいぞ、ではもう一本やってみようか。ミス・マロウ、相手をしてあげてくれるかな?」 長身の訓練生「ええ、ミスタ・ホワイト……よろしくね、マティルダ」 マティルダ「はい!」 …お互いに「それまでの経歴や個人の事は聞かない」という暗黙の了解があるとは言え、訓練が進むにつれて「ファーム」の訓練生同士の仲もそれなりに打ち解けてきていた……もちろん意地悪だったりイヤミな訓練生も何人か残っていたが、成績トップクラスのドロシーとアンジェがいる手前わがまま勝手に振る舞うこともできず、そうした連中は少数の取り巻きだけを連れて自然と孤立するような形になっていた……反対にマティルダは生来の「前向きながんばり屋さん」ぶりからある種のマスコットか、訓練生共通の妹のような位置に落ち着いて可愛がられていた… ホワイト「では、任意のタイミングで」 長身「分かりました……はあっ!」 マティルダ「ひゃあ……っ!?」長身から繰り出されるみぞおちへの蹴りをクロスさせた腕でどうにか受けとめたが、勢いに押されて後ろによろめいた…… 長身「ふっ!」その隙を逃さず次の一撃を叩き込む…… マティルダ「……っ!」 長身「しまった……!?」 …どんくさいマティルダが相手だからと気を抜いていた長身の訓練生は、半分転ぶようにして攻撃を回避した彼女のために大きくバランスを崩し、思わず一歩前にのめった… マティルダ「えいっ!」 長身「……っ!」 …脚が長く腰高な訓練生が体勢を崩したところに、むしゃぶりつくようにして飛びかかるマティルダ……普通だったら軽くあしらわれてしまうようなつたない攻撃だったが、足元が乱れている所に来られてはどうしようもない……慌てて受け身を取ろうとしたが、そのまま床にもつれて倒れ込んだ… ホワイト「そこまで。まだ改善の余地はあるが、最初の一撃をかわせたのは成長だ」 マティルダ「あい゛がとうごじあまず……♪」ひっくり返った時にぶつけたのか、鼻血を止めようと鼻を押さえつつも笑顔を浮かべた…… ホワイト「いいや、君自身の成長なんだから私に礼はいらないよ……ところでミス・マロウ、格下だと思った相手に油断するのは君の悪い癖だな。反省も兼ねて、訓練生十人を相手に勝ち抜きできるまで練習だ」そう言うと訓練生たちの中から手際よく十人を選び出す…… 長身「はい……っ!」 ホワイト「さて、ミス・マティルダ。鼻血を出している所に申し訳ないが、もしかしたらコショウまみれの倉庫だとか、鼻を押さえながら格闘するような事態が生じるかもしれない……そのままもう一本やってみようか」 マティルダ「あ゛いっ」 ドロシー「へぇ……マティルダのやつ、なかなかできるようになったじゃないか」 おさげの訓練生「どんくさい所は相変わらずだけどね♪」 ドロシー「ま、お前さんだって人の事は言えないぜ……っと!」よそ見をしていたおさげのことを投げ飛ばし、一気にフォールした…… おさげ「……まいった!」 ドロシー「はんっ、この業界に「まいった」があるかよ」そう言うと補助教官のストップがかかるまで締め上げた…… ……… ベアトリス「……それで、そのマティルダっていう訓練生はどうなったんですか?」 ドロシー「さぁな。私もアンジェもファームの「卒業」が早かったから知らないんだ……ま、やっこさんの成績じゃあ大した任務に付けてもらえたとは思えないが、それでも本人はそれなりに満足していると思うね」 …そのころ・ロンドン市内… 小柄な少女「……えーと「アルビオン・ロイヤル・タイムズ」をください」 中年の新聞売り「はいよ、お嬢ちゃん……いつものお使いかい?」 少女「そうなの、お父さんが新聞を読むのが好きだから……おじさんは?」 新聞売り「はは、おじさんは売る方なら得意だけど読む方はサッパリさ……今度読み方を教えておくれよ♪」 少女「うん、時間があったら教えてあげる♪」 新聞売り「楽しみにしてるよ……そういえばお嬢ちゃん、名前は?」新聞を抱えて立ち去ろうとする、ちょこまかした少女の後ろ姿に声をかけた…… 少女「……マティルダ。マティルダっていうの」 新聞売り「マティルダか、良い名前だ」 マティルダ「ええ。私もお気に入りなの……それじゃあまたね♪」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/694
695: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/05/25(土) 01:10:56.32 ID:J9lrQpcw0 …週末の夜… アンジェ「……おおよその情報が集まったわね、そろそろ誰を「推薦」するか決めましょう」 ドロシー「そうだな。プリンセスとベアトリスが目星を付けたやつの中から、私とお前さんでそれぞれ選んで評価を突き合わせてみるとしよう」 …寮の生徒たちが就寝前の自由時間を勉学やおしゃべりに過ごしている間、アンジェとドロシーは部室にやって来て話し合っている……スカウト候補の生徒にはそれぞれ動物の名前をあてがい、特徴をそれらしい文言に置き換えることで「博物クラブ」の標本コレクションに添える解説文に見せかけてある… アンジェ「ええ……それじゃあ一人目はこの生徒」 ドロシー「そいつか、私も「あり」だとは思ったんだが……」 アンジェ「気に入らない?」 ドロシー「ああ、本人の行動範囲がベアトリスに似通っているんだ。そいつが疑われてベアトリス……ひいては「白鳩」にまで飛び火するのはマズい」 アンジェ「なるほど、それじゃあ貴女の方は?」 ドロシー「それなんだが、こいつはどうだ?」 アンジェ「悪くはないわね。実家が金銭的に少々行き詰まっており、仕送りが満足ではない……」 ドロシー「学費以外は家にねだる訳にもいかず、そのくせ体面があるからつましく過ごすこともできない……上々じゃないか?」 アンジェ「ええ」 ドロシー「いんちきポーカーか何かでカモってやればにっちもさっちも行かなくなって、スカウトが来たら二つ返事で応じるようになるはずさ」 アンジェ「そうね……こっちの二人目はこれよ」 ドロシー「ふむふむ、貴族ではあるが親の爵位に不満を持つ男爵令嬢……か」 アンジェ「理想やきれいごとよりも嫉妬や欲望の方が原動力としての力をもつ。その点で言えばいい素材だと思うわ」 ドロシー「同感だね。ま、おおかた舞踏会か何かで恥をかかされたかなにかしたんだろう……貴族令嬢のくせに貴族社会を裏切ろうって言うんだから、嫉妬ってのは分からないもんだな」 アンジェ「そうね。次はこれ」 ドロシー「例の「プリンセス同好会」のひとりか」 アンジェ「ええ。とにかくプリンセスの事が大好きで、プリンセスに言われたら手を汚すこともいとわない」 ドロシー「そこまでのことを頼むわけじゃないし、後ろめたさもなく活動してくれるはずだな……おしゃべりだったりはしないよな?」 アンジェ「貴女の言う「墓石のように」とまでは言わないけれど、どちらかと言えば口の固い部類に入るわ」 ドロシー「分かった。お次はこれだ……♪」 アンジェ「なるほど、学内での不純な同性との交遊など不品行あり……現状ではそこまで度を過ぎてはいないが、誘惑されやすい」 ドロシー「それに「退学になっても構わない」と腹をくくるようなやつなら脅しも効かないが、幸いにしてそこまで度胸はすわっていないらしい」 アンジェ「そうでしょうね、家族としてみたらとんだスキャンダルになりかねない」 ドロシー「そういうこと。自慢の娘が「寄宿学校でよその貴族令嬢やなんかと乳繰りあっていた」なんて話が漏れた日には破滅だからな」 アンジェ「そうしたとき、親がもみ消そうとすればなおの事こちらの脅しが効くようになる」 ドロシー「ああ、何しろもみ消そうとしたってことは「知らなかった」って言い訳が通じないわけだからな」 アンジェ「その通りね……候補は以上かしら?」 ドロシー「そうだ。マッコール嬢……例のアイリッシュ系のやつだが、そもそも共和国寄りに見えるようなやつだから一緒にいるとあらぬ疑いを招く」 アンジェ「……それに、彼女は臭い気がする」 ドロシー「やっぱりお前さんもそう思うか……私もやっこさんの事は気に入らないんだ。事あるごとに王国のお嬢様たちと喧嘩してみたり、金欠ぶりを見せびらかしてみたり、アイルランドの血筋をひけらかしたりしてな……あいつはどうも共和国に親近感を感じている生徒を探り出すために王国が送り込んだんじゃないかって気がするんだよな」 アンジェ「同感ね。私たちからすれば露骨な餌だけれど、罠をしらない「共和国かぶれ」のお嬢様方なら簡単に引っかかる」 ドロシー「ああ……それじゃあ報告する「スカウト候補」はこれでいいな?」 アンジェ「ええ」 ドロシー「これでちっとは楽ができるようになるといいな?」 アンジェ「この任務が続く以上、その期待は望み薄ね」 ドロシー「相変わらず冷たいやつ……♪」 アンジェ「黒蜥蜴星人だもの……それに冷たいのではなくて「現実的」と言って欲しいわね」 ドロシー「はいはい♪」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/695
696: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/06/04(火) 01:11:59.76 ID:c3x55s1d0 〜Case・プリンセス×アンジェ×ドロシー「The cocktail of death(死のカクテル)」〜 …ロンドン市内・とあるパブ… L「ご苦労、待っていたぞ」 ドロシー「どうも……じきじきにお目見えとは光栄だな」 L「なにしろ懸案の課題が片付いた訳だからな……どうだ?」レミーマルタンのボトルを指し示す…… ドロシー「ああ、もらおうか」 L「水か氷は?」 ドロシー「いいや、ストレートで」 L「うむ」グラスにとろりとした琥珀色の液体が注がれる…… ドロシー「どうも」 L「……なかなか大変な任務だったようだな。ずいぶん疲れているように見える」 ドロシー「まぁ、色々とな……」 L「そうか。とにかく報告を聞こうか」 ドロシー「ああ」 …数週間前… ドロシー「……暗殺?」 L「うむ。この六ヶ月間に四人消された。我が方のエージェントが二人、協力者が一人……それに共和国との融和を唱えていた王国側の有力者が一人。いずれも公的には「急な発作」ということになっている」 ドロシー「そう何人も相次いで発作を起こすってのはおかしいよな」 L「その通り。こちらとしては王国側による暗殺だと考えている」 ドロシー「まぁそうだろうな……石ころを投げれば王国情報部の工作員に当たるようなご時世だ、おかしくもない」 L「うむ、こちらとしても実行を指示したのがどこかという事については悩んでなどいない……ただ」 ドロシー「ただ、なんだ?」 L「……暗殺の手段が分からんのだ」 ドロシー「へぇ?」 L「エージェントのうちの一人は共和国・王国間で取引を行っている貿易商という触れ込みで王国入りしていたのでな、大使館を通じて遺体はこちらに引き渡されたのだが……検死を行ってみても、これと言った外傷や内傷は見当たらない」 ドロシー「鉛玉を心臓に詰まらせた「発作」じゃないってわけか」 L「いかにも。死因は物理的なものではなく何らかの毒かショックだと思われるが、本人たちも十分注意を払っていたうえ、直前に一人きりになるような事もなかった」 ドロシー「つまり、オーダーメイドの毒を盛られるような機会がなかった」 L「さよう」 ドロシー「ホテルのルームサービスを頼んだり、誰かにもらったキャンディーをうっかりつまんだり……なんていうのもなし?」 L「なしだ」 ドロシー「……じゃあ誰が下手人かも分からない?」 L「うむ。それだけに状況は厳しい……誰が王国の工作員か分からず、かつどうやって暗殺を行っているのかも不明ときてはな」 ドロシー「それで私たちにお鉢が回ってきたというわけか」 L「そうだ。君たちの「植え込み」に関してはこちらも慎重を期してきた……昨日今日で慌てて送り込んだ粗製濫造のエージェントとは訳がちがう。その切り札を使わざるを得ないほどの事態だと思えば、こちらがどういう状態にあるか分かってくれるだろう」 ドロシー「スペードのエースを切らなきゃならないほど切羽詰まっているってことか……今度の任務もずいぶんキツそうだ」 L「君たちに過度の負担を強いていることは私も理解している。とはいえ六ヶ月に四人だ、このままでは王国での活動そのものに支障が生じかねん」 ドロシー「分かった分かった……それじゃあまた追加の「お小遣い」をねだらせてもらっても良いよな?」 L「額にもよるが、無事に解決してくれれば君らの活動予算に色を付けることもやぶさかではない」 ドロシー「よし、決まりだ。 それじゃあさっそく、小遣いついでにもう一杯もらおうかな♪」そう言ってグラスを軽く揺さぶってみせる…… L「いいだろう、そのくらいの価値はある」 ……… … http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/696
697: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/06/13(木) 01:28:46.50 ID:6K0VhKh+0 アンジェ「……暗殺、ね」 ドロシー「ああ、おまけに手段も下手人も分からないときた」 アンジェ「だとしたら、暗殺された人物から地道に共通項を探していくしか方法はないわね」 ドロシー「そうだな」 アンジェ「まずはそれぞれのカバー(偽装)ね。どんな人物として壁のこちら側に潜り込んでいたのか」 ドロシー「消されたのは年若い植民地帰りのインド成金、それから裕福な商人とその取引相手という触れ込みで接触していた二人組、最後の一人はエージェントじゃなくて王国政界の有力者だ……いずれもそれなりに大物との付き合いがあって、金にも不自由はしていなかった」 アンジェ「それじゃあそれぞれ「成金」「貿易商」「取引相手」「名士」とでも呼ぶことにしましょうか……いずれにせよ、それだけでは何とも言えないわね」 ドロシー「とはいえ共通項はその程度なんだよな……」 …そういって肩をすくめるとスコーンにジャムとクローテッドクリームを塗り、それから口に運んだ……そばに置いてあるティーセットはケイバーライト革命風で、カップは歯車をあしらった絵柄が金色の絵付けで施され、ケイバーライトを模した青緑色の縁取りが施されている……ドロシーは時々思い出したように銀のティースプーンでカップの中をかき回しながら、暗殺されたエージェントたちの特徴を並べていく… ドロシー「まず「成金」だが、インドにいた時分はサイだの象だのといった大物撃ちのハンティングが好きで、こっちに帰ってきてからは金にあかせて贅沢なパーティなんかを楽しんでいた。「貿易商」の方はパーティや食事、観劇は好きだが運動の苦手なタイプで「取引相手」は観劇こそ共通項だが暮らし向きはまるで違って、テニスに乗馬、クリケットの好きなスポーツマンタイプだ。通っていた社交クラブも違う」 アンジェ「なら、王国穏健派の「名士」というのは?」 ドロシー「人物名鑑や新聞記事で漁ってみたが、これもまたタイプが違う……趣味はキツネ狩りと犬の育種で、持っている猟犬や血統書付きの犬はケネル・クラブでも高い評価を得ているって言う大の犬好きだが、テニスもクリケットも好きじゃなかった。観劇も劇場から券をもらっていた手前義理で来ていたが、本人よりもっぱら夫人の方が楽しみにしていたらしい」 アンジェ「見事にバラバラね」小さく首を傾げてみせた…… ドロシー「ああ、まさに「あちらが立てばこちらが立たず」さ……」 アンジェ「どこかで一緒になるような機会はあったのかしら」 ドロシー「それも調べてみたが結果はなし……こっちのエージェントはみんな、王国防諜部が目を光らせているはずの王国穏健派の有力者には近づかないよう指示されているからな」 アンジェ「それもそうね」 ドロシー「とりあえず以上がこっちで調べてみて分かったことだ……そっちは?」 アンジェ「私の方は死因とタイミング……社交界のニュースを微に入り細を穿って書き連ねてくれるゴシップ記事には感謝しないといけないわね……亡くなったのはいずれも食事のあと」 ドロシー「……初めて共通点が出てきたな」 アンジェ「ええ。貿易商は夕食を済ませたあとにホテルのベッドで苦しみだして、医者を呼んだときにはもう手の施しようがなかった」 ドロシー「取引相手は?」カップをかき回す手を止めてティースプーンをソーサーに置くと、手を組んで少し身を乗り出した…… アンジェ「途中で軽食を挟んだクリケットの試合中に身もだえを始め、お抱え運転手がストランド街のかかりつけ医へ飛ばしていったけれど間に合わず」 ドロシー「ふーむ……それじゃあ穏健派の名士ってのは?」 アンジェ「ケネル・クラブで犬の品評会のあと開催された昼食会で突然のたうち回り始めて意識不明、居合わせたキツネ狩り仲間の医師が処置するも助からず」 ドロシー「……やっぱり毒物じゃないのか」 アンジェ「だとしても「誰が」「どうやって」という疑問が残る……もし飲食物に毒を盛るとしても、不特定多数の人間がいるところでその人物にだけ毒を仕込むのは難しいわ」 ドロシー「そうでもないさ。給仕やメイドのフリをしたエージェントがそいつの皿にだけ混ぜればいい」 アンジェ「残念ながら、名士の場合は自分で好きなように料理を取るビュッフェ・スタイルの昼食会だった……どの食器を使うか、どの料理を取るかまでは分からない。まさか会場の全員に毒を盛るわけにもいかない」 ドロシー「くそっ、それじゃあ振り出しだな」 アンジェ「ええ。とはいえどこで誰が盛ったか分からないままでは困る」 ドロシー「仕方ない、それじゃあまずはパーティの料理を担当した連中をあたってみるか」 アンジェ「私は参加者名簿を洗ってみる。まさか引っかかるとは思えないけれど」 ドロシー「気を付けろよ? 探りに来たことがバレたらこっちだって毒を盛られるだろうからな」 アンジェ「そのくらい予見はしているわ……ところで、コントロールはなにか言っていた?」 ドロシー「いいや。現状ではどんな毒物を……毒物だとしての話だが……使ったのか分からない以上、予防薬も解毒薬も作りようがないとさ」 アンジェ「頼もしいことね」 ドロシー「ま、いつものことだな」 アンジェ「それじゃあお互いに気を付けるとしましょう」 ドロシー「そうだな……耳よりな情報が入ったら教えてくれ」 アンジェ「そうするわ」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/697
698: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/06/21(金) 02:03:12.62 ID:5+XpPk3K0 …下町の食堂… 労働者の女性「定食を一つとビールを半パイント」 食堂の給仕「はいよ!」 女性「ふぅ……」 …ロンドンの水蒸気と煤煙に夕陽も薄汚れて見える日暮れ時、勤めを終えた労働者たちが一斉に入ってきて騒がしい下町の安食堂……くすんだダークチェリー色のドレスとチョッキ、頭には薄汚れて灰色がかった白のハーフボンネットという「いかにも」な労働者の女性が座り、ぞんざいな態度で置かれた食事に手をつける… 女性「……」 …安食堂のメニューは日替わりの一つきりで、この日の献立は肉よりも軟骨の方が多いようなごわごわのポーク・ソーセージと表面のこげた肉パイ、それに匂いの強いチェダー・チーズが添えてある… ドロシー「……隣、いいかい?」 女性「別にあたしの店じゃないんだし、好きにすれば良いわ」 ドロシー「どうも……今日の定食とエールをパイントでくれ。それとプディングはあるか?」 給仕「ああ」 ドロシー「それじゃあそいつもだ♪」 女性「……なかなか景気がいいみたいね」 ドロシー「なぁに、ちょっとした臨時収入があってね……良かったらおごるぜ?」シリング硬貨をテーブルの上に置いた…… 女性「そう、そんなら……ビール、もう半パイントちょうだい! ……で、その「臨時収入」って?」 ドロシー「それなんだが、この間ケネル・クラブで急死騒ぎがあったろ?」 女性「ああ、お金持ちの病気だとかなんとか言うやつでしょ……ぜいたくな物ばっかり飲んだり食べたりしてるから胃でもおかしくしたのね」 ドロシー「かもな。で、その時の事を聞きたがっているブンヤ(記者)がいて、いろいろ話したら半クラウンもくれたのさ」 女性「へぇ……?」 ドロシー「いや、実を言うとあたしは関係も何もなかったんだが、適当な事を吹き込んでやったら大喜びでさ……」 女性「ツキがあるのね……あたしなんてその会場にいたって言うのに、聞いてくれる人なんて居やしなかったわ」 ドロシー「現場に?そりゃ本当かい? 何でもえらい騒ぎだったそうだけど……」あらかじめ当日雇われていたことを調べておいた上で接触した女性に対し、さも驚いたような……そして聞きたそうな様子をして見せるドロシー…… 女性「ええ。あたしは臨時雇いで厨房の皿洗いをしてたんだけど、騒がしいから何が起こったのかスーに聞いたら……スーってのは料理を運んでた女の子だけどね……酒を飲んでいたお客のひとりが急に泡を吹いて倒れたとかって……」 ドロシー「大変だったろうな」 女性「そりゃあもう……何人かは初めての参加者だったらしいけど、ほとんど知り合いみたいな物だったそうだし……てんやわんやよ」 ドロシー「まさかそんな騒ぎを生で見るとはねぇ……せっかくだからもっと聞かせてくれよ♪」 女性「まぁいいけど、そんなに詳しく見聞きしたわけじゃないんだよ?」 ドロシー「まぁまぁ、どうせ部屋に帰ったってボロいベッドで寝るだけなんだ。時間つぶしにはちょうどいいや……しゃべっていると喉も乾くだろ、もう一杯頼んだらどうだ?」 女性「そう? それなら……」 ……… …別の日・部室にて… ドロシー「……ジギタリスにイヌサフラン(コルチカム)、はたまたトリカブト……リコリス(ヒガンバナ)なんていう極東からの新顔もいるな」 プリンセス「綺麗な花なのにみんな毒があるのね」 …プリンセスが王宮の図書室から持ってきた植物図鑑をめくって、症状の特徴が似ているものを探す… ドロシー「美しいバラには棘があるってことだな……どうだいプリンセス、誰か黙らせて欲しいやつはいるかい?」 プリンセス「いいえ、大丈夫です」 ドロシー「そうかい、そりゃなによりだ」 プリンセス「ええ……それにもし誰かを黙らせるつもりなら手を汚さずに済ませたりしないで、ちゃんと自分で手を下すつもりですから♪」 ドロシー「……そりゃどうも」 プリンセス「実は今もドロシーさんのお紅茶に……」 ドロシー「ごほっ……勘弁してくれ。プリンセス、最近冗談のキツさがアンジェに似てきたんじゃないか?」 プリンセス「まぁ、アンジェと似ているだなんて……ふふっ♪」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/698
699: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2024/06/28(金) 00:46:32.00 ID:mGr6PveU0 …同じ頃・会員制社交クラブ… うら若い女性「あらぁ、久しぶりねぇ♪ずいぶんとご無沙汰だったじゃない?」 アンジェ「ええ、ここしばらく機会がなくて……」 女性「そう、だったらその分を取り返さないとね?」 …そう言うとニコッとえくぼを浮かべてアンジェの手を取る女性……すべすべした白絹の長手袋越しに肌の暖かさが伝わって来ると同時に恋人つなぎで指を絡められ、同時に空いている方の手に手際よくシャンパンのグラスを握らせてくる… アンジェ「え、ええ……///」ここでは純朴な令嬢を演じているアンジェは恥ずかしげに下を向き、ぎゅっと握りしめてくる手を弱々しく握り返す…… 女性「ふふふ……ミス・クィンったら可愛いわね♪」 アンジェ「は、恥ずかしいですから言わないで下さい……///」 女性「そうね、このままでは失神してしまいそうだものね……奥の個室へ行きましょう♪」社交ダンスのステップを踏むような軽やかな足取りで、分厚いカーテンが引かれた奥のエリアへとアンジェをいざなう…… …数十分後… 女性「さ、もう一ついかが?」 アンジェ「いえ、その……///」 女性「どうか遠慮なさらないで?わたくしが貴女に食べさせてあげたいの……はい、あーん♪」ブドウをひとつぶ房からもぐと、指ごとくわえなければ食べられないような手つきでつまんで差し出す…… アンジェ「あーん……///」 女性「ふふふ、可愛いわ……わたくしの妹にしたいくらい♪」 アンジェ「お、お気持ちは嬉しいですけれど……///」 女性「おうちの方が許して下さらないのよね?」 アンジェ「はい……」 女性「世の中、なかなかままならないものね……良かったらもう一杯いかが?」飲み口はいいが意外と度数の強いシャンパンをいくども勧めてくる…… アンジェ「いえ、それがかなり酔ってしまって……」 女性「あらあら、わたくしったらいつもこうね。貴女が可愛いものだから、つい……酔いが治まるまで少し休みましょうか♪」 …女性は豪奢な寝椅子の方へとアンジェを引き寄せると「苦しくないように」と胸元のリボンをゆるめる……が、長手袋を外したしなやかな白い手は徐々に本性を現し、次第にアンジェの細い身体をまさぐり始める…… アンジェ「あ、あ……いけません……っ///」 女性「どうして? わたくしと貴女の間でいけないことなんてあるかしら?」笑みを浮かべてうそぶくと、シャンパンで濡れた唇をアンジェの鎖骨に這わす……寝椅子の上で組み敷かれたアンジェはドレスの裾をたくし上げられ、胸を波打たせている…… ……… …数時間後… 女性「はぁ、はぁ……とっても素晴らしかったわ♪」 アンジェ「はぁ……はぁ……はぁ……」ドレスも乱れ肩で息をしているアンジェと、手の甲で額に滴る汗を拭い、爛々とした瞳に肉食獣のような欲望をたたえている女性…… 女性「ふぅ……もしわたくしが死ぬようなことがあったら、こんな風に美少女と一緒に果てて逝きたいわ♪」 アンジェ「私、冗談でもそんなことを言ってほしくありません……」 女性「まぁ、嬉しい事を言ってくれるのね♪ でも分からないわよ?この間のクリケットの会みたいに、急に心臓の具合をおかしくする人だっているんだもの」 アンジェ「私も新聞で見ましたけれど、怖いですね……会に参加していた皆さんも知り合いだったそうですし、目の前でお友達が発作を起こすだなんて、考えただけでも……」そういうと母親の後ろに隠れる幼児のように、ぎゅっと女性にしがみついた…… 女性「ふふ、大丈夫よ……でも、前回あの会はお友達だけだった訳ではないみたいよ?」 アンジェ「そうなんですか?」 女性「ええ。参加していたうちの一人と少し話す機会があったのだけれど、なんでもあの時は新規加入を希望する人たちへの説明会みたいなものだったから、いつもの仲間以外に十人あまりの新顔が来ていたって」 アンジェ「それじゃあ、いきなりそんなことがあって驚いたでしょうね」 女性「それもだけれど、後でスペシャル・ブランチ(ロンドン警視庁公安部)や内務省の取り調べが大変だったようね……もっとも、急な発作と言うことでカタがついたみたいだけれど」 アンジェ「お詳しいんですね」 女性「ええ、知り合いの令嬢がちょっとね……なぁに、妬いているの?」 アンジェ「べ、別に……///」 女性「まぁまぁ、可愛い嫉妬だこと♪ でも大丈夫、貴女はわたくしの「特別」よ……♪」そう言ってもう一度寝椅子に押し倒した…… アンジェ「あ……っ///」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1520954906/699
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