[過去ログ] 気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第9章 (734レス)
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395: 2009/04/05(日) 14:00:43 ID:l6L39yvQ(1/8)調 AAS
僕は今、彼女の部屋に来ていた、というのも、今日は彼女とデートの日なのだ。

「美香。」

「なにー」
「今日はどっか出かけよう。」
「なによいきなり」
「いや、デートといいつつもいつも家にいるだけだし、たまにはいいかなーと思ったんだけれど・・・」
「別に気使わなくてもいいわよ。お金ないんでしょ。」
それは・・・・
「いや、バイトして貯めたんで大丈夫です」
「ふーん、。」「そんでどこ行くのよ。」
「とりあえず買い物でも行こう。」

「んー、」
彼女は少し考えたが、
「そうね。いきましょ。」
僕は、今日の出費はかさみそうだ、と予感した。

僕は彼女と別れる。今日。
彼女が悪いわけじゃないし、僕にほかの好きな人ができたわけでもない。
デートの度、彼女に貢ぐことも、決していやなことじゃない。彼女の幸せは僕の幸せなのだ。
それでも、僕と彼女は今日別れる。

僕が彼女に告白したのは桜が舞う季節だった

その日は中学校の卒業式で、みんな支配からの卒業を喜んだり、全然理解できないが、泣いてたりする人もいた。
かくいう僕も送られる側の人であり、本命の公立高校受験も終わっていたので、心に緩みができていたのかもしれない。

卒業式が終わった後、僕は誰もいない教室で自分の荷物をまとめていた。
最後の荷物をまとめ終わり教室を出て行こうとすると、
「いつから?」
彼女がいた。こちらをじっと見据えていた。
「さっきから。たしか雄介に本貸していたと思ったんだけど。」
僕は、ああ、といって彼女に本を荷物入れから探す。
「どうだった?」
「美香らしい本だった。」
借りた本は江戸川乱歩賞をとったことのある本だそうで、なんというか、ハードボイルドを感じた。

僕は「でもおもしろかったよ。ありがとう。」といって本を手渡す。
396: 2009/04/05(日) 14:02:50 ID:l6L39yvQ(2/8)調 AAS
僕らはそれぞれ別の高校へいく。

美香とは長い付き合いで、生まれたときからずっとお隣さんの、いわゆる幼馴染をしている。
昔から美香は美人だったが、中学に入り成長するにつれ、彼女はますます綺麗に、そして・・・なんというか、ハッキリした物言い(要は男勝り)になっていった。
そのため、同学年に限らず、さらには異性に限らず、多くの人にモテた。

中学一年の秋、その中の一人(女子だが・・・)に美香が僕を煙たくおもっているしあんたと美香はつりあわないから別れなさい、なんて言われた。
別に付き合ってたわけではないのだが、どうやら付き合ってるように見えたらしい。うわさには、というか俗的なものには僕は無頓着だったので全然気づかなかった。
確かに僕が美香の隣にいたら、美香に迷惑がかかるかもしれない。だけど美香は優しいから、言い出せないのだ。
それからは、一緒に登下校するのもやめたし、小学生のころはよく行っていた彼女の部屋にも行かないようにした。
それでも美香は僕の部屋に来ることはあったが、それも次第に減っていった。彼女のためだ、寂しいとは思わない。なのに、たまに胸がキリキリ痛んだ。

「雄介」
少し間をおいて
「それじゃ、あたし帰るから。」

長い沈黙を破った彼女の言葉だった。
「あ、うん・・・」

それが僕にはまるで今生の別れの言葉に聞こえた。
だから僕は

「・・・好きだ。」
つい口を滑滑らせてしまった。
397: 2009/04/05(日) 14:03:40 ID:l6L39yvQ(3/8)調 AAS
「・・・え?」

美香は一瞬ピクリとしたあと、ゆっくり振り返ってこちらをじっと見る。
・・・・背中に冷や汗を感じる。
彼女の瞳の奥からはどんな感情も読み取れなかった。

「なんでもない。じゃあね。」

ぼくは本当になんでもないように彼女に返す。
そうすると彼女はどしどしと僕の近くまで寄ってきた。

「なんでもなくないでしょ。なんていったのよ。」

なんだ。ちゃんと聞こえていたんじゃないか。
彼女にはちょっと、いやかなりサドっ気がある。
ここでごまかせばさらに追求されるだろう・・・。ぼくは覚悟を決めた。

「ずっと好きだった。」

美香はSだが僕はMではない。と思う。たぶん。おそらく。
結果がわかった告白なんてしたくなかったし、答えも聞きたくない。
言ってすぐに僕はその場から逃げるように帰ろうとしたのだが・・・

美香はふーん、と一言いい、
「別にいいわよー。付き合ったげる。」
逃げ出そうとした僕は完全にフリーズした。
たしか彼女には彼氏がいたはずだ。
というか彼氏がいなかったためしがない。いつもとっかえひっかえしていた。

「・・・彼氏は?」
「いまはいないわよ。」

「あと、ひとつ言っておくけど、無理やり襲ってきたらただじゃおかないわよ。」

結局、僕らは幼馴染から恋人へ、よくある展開を遂げたらしい。

らしい、というのも、その後のことはよく思い出せないのだ。気づいたら家にたどり着いていた。

どうやら今日、僕と美香は恋人になったようだ。だが、僕は所詮僕は美香の彼氏と彼氏の中継ぎに過ぎない。
うぬぼれちゃいけない。それでいい。

彼女の幸せは僕の幸せなのだ。
398: 2009/04/05(日) 14:04:45 ID:l6L39yvQ(4/8)調 AAS
--------------------------------

「あー、おいしかったー」
彼女はすっかりご満悦のようで心なしかほほがつやつやしていた。
「それは・・・よかったよ。」
僕らは街で買い物をし、レストランで夕食を取った。
といっても驚いたことに彼女はうさぎのキーホルダーふたつしか買わなかったのだが・・・。
僕はもっと豪快な買い物になることを予想していたため、この日のために財布をふくらませておいたのだが杞憂だったらしい。

僕らは夜の街を背にベンチで食休みをしていた。
秋の寂しさを含んだようなかわいたかぜがほほをなでる。
街の光が遠くに見える。心に安らぎと、そして孤独が広がっていくのを感じた。

今日のデートは概ね成功だったようだ。
あとは彼女と別れるだけ。

美香は僕とはつりあわない。それは彼女もわかっているだろう。これは単なる美香のきまぐれ。
だから僕は彼女にほかの好きな人ができたら分かれようと思っていた。
この前、美香の部屋でデート(?)したとき、僕は偶然ゴミ箱に捨てられていたコンドームの箱を発見してしまったのだ。
僕は彼女とはセックスどころかキスさえしていない。
となると美香に他の彼氏がいるということになる。

僕はそれを見て、潮時だと感じた
美香にとっても他の彼氏がいるのだから僕の存在はうざったいだけだろう。
でも彼女は優しいから、僕に別れを言い出せないのだ。
だから僕から言い出さなければ。彼女のために・・・

「美香・・・」
「なに?」

彼女のために・・・・。
僕は胸に痛みを感じた。それは無視した。

「別れよう」
399: 2009/04/05(日) 14:05:23 ID:l6L39yvQ(5/8)調 AAS
美香は顔をゆっくりこちらに向けてきた。
彼女の大きな瞳は、僕が彼女に告白した時と同じだった。どんな感情も読み取ることができなかった。

「・・・・別れよう?」

「うん、別れよう」
僕はこみ上げる悲しみを感じた。
彼女の幸せは僕の幸せのはずなのに、たまらなく悲しくなって顔をふせた。
数秒の間をおいてから、美香は突如立ち上がり
「なにいってるのよ。あたしのことずっと好きだったんじゃなかったの。あんたから告白したくせに何で逃げるのよ!キスもする度胸もないのになんで告白なんかしたのよ!馬鹿みたいにお金ばっかりわたして!」
叫んだ。

「僕知ってるよ。美香は優しいから、僕の告白断れなかったんだろ?でももういいんだって・・・」
彼女のつめたい両手が突如僕の両ほほを包むのを感じた。ひっぱらっれるのに釣られて僕は立ち上がる。
僕は引っぱたかれるのを覚悟して目を瞑った。

・・・?
唇に暖かい感触を受ける。
美香の仕業だった。
美香が僕にキスしていた。

「・・・!」
唇が離れる。
「これ、あたしのファーストキスだから。」
というがはやいかもう一度口付けられる。
こんどは舌を入れられ、もう僕の頭は沸騰寸前だった。

「みっ、美香っ!」
僕は彼女の体を強引に離す。

彼女は泣いていた。
400: 2009/04/05(日) 14:06:05 ID:l6L39yvQ(6/8)調 AAS
「あたしね、怖かったの。ゆーくん中学校はいったら急によそよそしくなったから・・・。」
「彼氏たくさんいるってのも全部嘘。ゆーくんの気を引きたかっただけ。ゆーくんがくれたお金も一円も使ってないよ。」

そこまで言うと美香は顔を手で覆う。
僕は美香を抱きしめたい衝動に駆られた。でもできない。
僕はこんな悲しそうな彼女を今までみたことがなかった。

「でもゆーくんはあたしのことどーでもいいんだよね」

「そんなこと・・・」
ない・・・という言おうとしていえなかった。僕は彼女の幸せというものを勝手に勘違いし、勝手に決め付けていたのかもしれない。
結局僕は僕のことしか考えていなかった・・・。

「でもね、あたしゆーくんがいないとだめ。ゆーくんじゃないとだめなんだよ」
「きらいにならないで・・・おねがい・・・」
美香は僕にしがみつき、服に顔をうずめている。時々嗚咽の声がきこえる。

僕は・・・こんなしおらしい美香をしらない。
どっちの美香が美香なのか。中学校に入って、僕と美香は離れすぎてしまった。
もう僕には美香の本当の幸せを見極めることはできない。

「ごめん・・・っ!」
僕は美香をひきはがしてそのまま逃げた。
悔しかった。美香を守れない自分がこの上なく情けなかった。

僕は家に着くと布団にもぐり、そのまま泣いた。

朝なんて来なければいい・・・・
401
(3): 2009/04/05(日) 14:08:24 ID:l6L39yvQ(7/8)調 AAS
初めてSS書きました。
見苦しい点が多々あると思いますが、
もし読んでくださった方いたら歯に衣せずどんどん批評おねがいします。
お目汚し失礼です。
402
(1): 2009/04/05(日) 15:49:13 ID:R/RoBDyr(1)調 AAS
>>401
まさかこれで終わりなんて言うんじゃないだろうな?
続かないとお前を取って喰う
403: 名無しさん@ピンキー 2009/04/05(日) 16:44:08 ID:l6L39yvQ(8/8)調 AAS
時間がなかなかとれず、続き書くまでかなり時間かかると思いますのでとりあえず完結ということで勘弁してください・・・。
もし続き書くとしても恐らく非エロになってしまうかと思います
404: 2009/04/05(日) 18:35:57 ID:8ESEQLEQ(1)調 AAS
こんな悲しい結末嫌だお・・・
405: 2009/04/06(月) 19:53:28 ID:o7cfammK(1)調 AAS
非エロでも構わないんで、お願いします。
いや、マジで。
406
(1): >>401 2009/04/06(月) 21:07:31 ID:Sb27SNS8(1)調 AAS
続き書くことにしました。
ですが僕はかなりの遅筆なので、時間かかると思います・・・
いろいろわがまま言ってほんとすいません
なるべく早く仕上げます・・・
407: 2009/04/06(月) 21:53:40 ID:SpAnedrh(1)調 AAS
>>406
とりあえずコンドームの伏線ぐらいは解決させておくれ
408: 名無しさん@ピンキー 2009/04/07(火) 09:43:50 ID:cER7MCD1(1)調 AAS
美香さんは襲われるの覚悟でコンドーム用意して部屋に入り浸ってたのですが、
いつまでたっても襲わない雄介のヘタレさに呆れと空しさを抱いてすてちゃったみたいです  
409: 2009/04/08(水) 10:04:19 ID:Wao0PqeH(1)調 AAS
続き書く前にネタバレしちゃ駄目だろw
410: >>401 2009/04/09(木) 18:11:48 ID:ibxTcqqq(1/6)調 AAS
雨が降っている。
灰色の空と、灰色の空を映したいつもの道は、どこか幻想的である。

「雨っていいよね。」
僕は雨が好きだ。
でも美香には理解できないらしい。
「ぜんぜんわかんないんだけど・・・。一体これのどこがいいんだか。」
そんなこと言われましても・・・
「・・・においとか?」
そうすると美香は鼻をくんくんさせる。
が案の定彼女はすぐに盛大にむせはじめる。霧雨が気管に入ったらしい。
僕は笑いをかみ殺しながら、美香の背中をさすってやる。
ここで対応を間違えればに死活問題なので僕としても必死にならざるをえない。
・・・と、突如頭部に衝撃を感じた。どうやら真っ赤になった美香が僕の頭を叩いたらしい、結構本気で。
「笑ってんじゃないわよ!あんたのせいなんだからね!」
「やっぱしわかりますぅ・・・?」
「当たり前よ!あんたのことなんて全部わかるんだから!」
「・・・・・」
僕はこの発言にあえて触れなかった。彼女から熱気が伝わってくるのを感じる。かく言う僕も顔から火を噴きそうだった。
今日は本当にいい日だなぁ。

美香と僕は沈黙を守ったまま、家路を歩いていた。
僕は雨の音ととたまにきこえる車の走り去る音の間に、何かを聞いた。気がした。

「・・・うさぎ?」
僕は怪しく思い、音の発信源と思われるダンボールを開いてみたら、なんとうさぎがいた。
「え?何?うなぎ?」
「あ、いやうなぎは確かに食べたいけれども・・・」
「きゃああああ!なにこれなにこれかわいいかわいい!」
「誰かが捨てたのかな。」
「こんなかわいいのに捨てるなんて人間じゃないわ!」
「うん・・・どうしようか。」
僕のうちは母子家庭で、父は僕が幼いうちに亡くなっていた。
なので経済的にかなり圧迫されており、うさぎを飼うことはできないだろう。
美香のうちは・・・かなり裕福な家庭に属すると思う。
「美香んちってペット大丈夫なの。」
「・・・弟がアレルギー持ってる・・・」
困った。
「ここに置いていったら、死んじゃうよね・・・」
「・・・・」
「二回も捨てられることになるよね。ペットになりたくて生まれてきたわけじゃないのに」
「・・・一緒に飼う?」
「うん!」
さっきまでのしおらしい彼女は一転、満面の笑みを向けて返事を返した。
図られた・・・!
でもいい。笑顔が見れたし。
411: >>401の続き 2009/04/09(木) 18:20:53 ID:ibxTcqqq(2/6)調 AAS
美香が泣いている。

僕らはうさぎを公園で飼うことにした。必要な小屋や何やらは拙いながらもぼくと美香が協力してつくった。
食べ物は小学校の行きと帰りに一回ずつ与えることにした。

だがそれも今日で終わり。

僕は、うさぎをを地面にゆっくりおろした。
するとこちらをふりかえり、僕の手をひとなめすると愛する妻と2匹の子供たちのほうへ走り去っていった。

美香のすすり泣く声が雨の音を縫ってわずかに聞こえる

「いっちゃったね・・・。」
「うさぎにとってみれば幸せなことなんだよ。」

ぼくはあえて、うさぎは僕らから離れるべくして離れたのだ、というニュアンスを含んだ物言いをした。
その言葉の半分は自分自身に言いきかせた。
なぜなら、僕たちもいつか家族を持ち、離れ離れになるのだから。

いざその時が来たら、痛みは少ないほうがいい。祝福できるくらいにあたりまえのことになってしまえばいい。

なのに・・・

胸が痛い。

「雄君」

「雄君は・・・雄君だけは・・・・
412: >>401の続き 2009/04/09(木) 18:21:57 ID:ibxTcqqq(3/6)調 AAS
----------------
カチッ、カチッ、カチッ・・・・

時計の規則正しい音が耳の中でこだました。
見ると、すでに昼を回っている。
懐かしい夢を見た・・・。
ぼくはこのまま死ぬまで眠り続けていたい気分だったが、顔を洗いに強引に布団からでた。

顔を洗いながら、僕は昨日見た夢を思い出していた。

美香は・・・
美香はあの時僕に、どこにもいかないでといった。
そうだ。美香は昔から、いつも、たったひとつのことだけを僕に願い続けていた。

でも僕は中学生になって、ゆがんだ価値観を美香に押し付けて、美香の隣から姿を消した。
僕は、美香が美しくなると同時に彼女のことをますます好きになった。
だが、同時に寂しさも深まっていった。結局、僕と美香は相容れぬ者同士なのだと。
もしかしたら、裕福で、美人で、父もいる彼女の幸福に嫉妬していたのかもしれない。
だからそんなゆがんだ価値観が生まれたのかもしれない。
どう転んだって、僕が最低な人間であることにかわりはなさそうだった。
413: >>401の続き 2009/04/09(木) 18:22:33 ID:ibxTcqqq(4/6)調 AAS
RRR、RRR、RRR、・・・
電子音が響く。僕はいま誰とも話したい気分ではなかったが、しぶしぶ受話器をとった。
「はい・・・駒沢です・・・」
「雄介っ?!あんたいままでなにしてたの?!」
「母さん?寝てたんだけど。どうしたのいきなり」
「あんたなにのんきにねてんのよ!この馬鹿息子!美香ちゃんが交通事故にあったの聞いてないの!」
え・・・・・

美香が・・・?
僕は視界が真っ暗になり、受話器を取り落とした。受話器から怒鳴る母さんの声が聞こえる。
飛び出すように家をでた。
そして隣の美香のうちのインターホンを叩く。
でてくれ・・・でてくれ・・・出てよ・・・はやくでて・・・。

インターホンからはなんの反応もなかった。美香のうちは不自然なほどの静けさに包まれていた。

僕は絶望が心を支配するのを感じた・・・

僕は茫然自失となりかけたが、思い出したように携帯電話を取り出し母の携帯にかける。
「ゆうすけ?!あんた今すごい音したけどなに「美香はどこ?」
母は僕の言葉の迫力を感じ取ったのかいいかけた言葉をとめた。
「・・・○○病院の62号室よ。気をつけていきなさいよ。あんたまで事故に・・・」
僕はそこまで聞くと携帯をポケットにねじ込んで走り出した。

美香・・・・みか、みか・・・!
414: >>401の続き 2009/04/09(木) 18:23:35 ID:ibxTcqqq(5/6)調 AAS
ゆーくんに・・・捨てられた。
思えばあたしはゆーくんのことを裏切ってばっかりだった。
少しでもかまってほしくて、離れないでほしくてあたしはゆーくんが好きなあたしを汚していった。
ゆーくんは傷ついたことだろう。捨てられるのも当然のことだ。

あたしはあてもなく歩き続けた。多くの人があたしのまわりを流れていく。
なのにひとりぼっちだった。こんな孤独を感じたことはなかった。いつもゆーくんがいてくれた。

あたしは道端にうずくまり、からっぽの心を涙でうめるように泣いた。

・・・どれだけ時間が過ぎただろう。
さっきは多かった人通りもいまは少なくなり、店の明かりもいつの間にか消えていた。

・・・・帰ろう。
お母さんもお父さんも心配しているだろう。なによりゆーくんにこれ以上迷惑をかけたくなかった。

立ち上がった直後、あたしは手首をつかまれた。
「ねえ、お嬢さん。いくとこないの?いまどきいう家出?」
品のない笑い声が、近くなのに、遠くで聞こえた気がした。
「オレ達といいことしない?」
あたしは大声をだそうとしたが、
もういいや・・・・。もうどうでもいい・・・。
この人たちに犯されるんだったら、それはそれでいい。
卑しいあたしにはしかるべき罰なのかも・・・

そのとき、ポケットから出した片手に引っかかり、うさぎのストラップが落ちた。
ゆーくんがくれたストラップ・・・

直後、あたしはうさぎのストラップを掴むと手を振り払いそのまま走り出した。
助けて・・・助けてゆーくん!
あたしは必死で走った。なるべく人気のあるほうへ走った。
そして、遠くにコンビニの明かりを見て、
十字路をつっきろうとしたとき、あたしの体は真っ白な光に包まれた。
415: >>401の続き 2009/04/09(木) 18:25:32 ID:ibxTcqqq(6/6)調 AAS
------------------

病室の前には、長いすに腰掛けている美香の家族がいた。

美香に似て(美香が似たのか)いつも修司さんをしりにしいているパワフルな香織さんもやつれた顔をして、修司さんのひざの上で寝ていた。
「雄介君・・・」
「あの、修司さん。美香さんの様態は・・・?」
「命に別状はないらしい。・・・だが、頭を打ったらしく意識が戻らないそうだ。こればかりは医者でも治せないらしい。
意識が戻るのは1時間後かもしれないし、あるいは10年後かもしれない。」
修司さんはその後口を固く閉ざした。

ということはもしかしたら死ぬまで植物人間・・・
いや、そんなことは考えたくない・・・美香に限ってありえない
昨日まであんなに笑ってたじゃないか・・・・
なのにぼくは美香の笑顔を思い出すことができなかった。泣いている顔しかイメージできない。

「・・・・失礼します。」
僕は意を決して美香のいる病室へ入った。

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「美香・・・・」
美香は昨日の服装のまま、何も変わらずベッドの上で横たわっていた。
酸素マスクから聞こえる、規則正しい呼吸の音が聞こえる。
ともすれば今にも起き上がりそうに見えた。

「美香、起きて。ほんとは目さめてるんだろ?」
ぼくは美香のからだを弱く揺らした。
小学生だったころは、よく朝に弱い美香を起こしにきてあげたなあ

「美香起きて・・・おきてよ・・・」
ねむりまなこをこする彼女の姿はとてもかわいらしかった。
「おきて・・・みーちゃん・・・早く起きないと・・・・学校遅刻しちゃうよ・・・・・・・・!」
僕はもう、涙を抑えることはできなかった。

すべて僕の責任だ。
僕が美香を知ろうとしなかったからこんな結末になった。
僕が美香に、僕が知っている美香であるように強いて、知らない美香を切り捨てたんだ。
僕は美香が僕をいつか裏切ると思っていたから、
だから必要以上に彼女に接近しようとしなかったし、彼女にもそれを許さなかった。
美香はいつも僕を信じていたのに僕は裏切ったのだった。
こんないい女、世界にどこにもいない。なんでそんな簡単なことずっと気づかなかったのか。
裏切られることが怖かったから心のそこから好きにならないようにしてた。
いまさら気づいても遅い。

顔を上げると窓からは赤い光が差し込んでいた。
長い時間寝ていたようだ・・・・。
僕は美香の酸素マスクをはずした。
美香の赤い唇にそっと口付ける。

僕は美香に口付けながら静かに泣いた。
彼女の顔が僕の涙でぬれていった。
416: 2009/04/09(木) 19:50:45 ID:QzvanxRp(1)調 AAS
支援
417: 2009/04/10(金) 00:22:42 ID:VyTgERlb(1)調 AAS
続き待ってるよぉぉぉ!!!!
418: >>415の続き 2009/04/10(金) 16:36:32 ID:QUqTJPGZ(1/2)調 AAS
ゆっくり唇を離そうとしたとき・・・
誰かの手が僕の頭を掴んだ。

「あんたに寝込みを襲う度胸があったとは知らなかったわ。」
「・・・っ!んっ!んー!」

美香の舌が僕の口の中で狂ったように動きまわる。
彼女の腕で固定された僕の頭はびくともしなかった。
こんな細い腕のいったいどこにそんな力があるのか。

ずいぶん長い間二人はお互いをむさぼった後
二人の唇が名残惜しそうに銀の橋をかけ、離れていく。

「美香・・・っ!」
僕は感極まって彼女に抱きついた。
「えへへーそんなに心配だった?」
美香は僕の頭をなでている。
「僕には美香がいないとだめだから、結婚してほしい。」
こんな歯が浮くような言葉も裏返ることなくいえた。
「そうよ・・・ゆーくんはあたしがいないとだめなんだから・・・気づくの遅いのよ!ばかぁ!」
「ごめん。」
「ばつとしてあたしの言うことしたがってもらうからね。」
「はい。」
「あたし以外の女の人と仲良くなっちゃだめ。」
「うん。」
「あたしの言うこと全部鵜呑みにしちゃだめ。」
「うん。」
「でもあたしが本当に伝えたいことわかって。」
「うん。」
「あたしを・・・きらいにならないで。」
「・・・うん。」

僕は、こんなしおらしい彼女を・・・・知っていた。

小学校にあがる前、美香は今とは正反対の性格をしていた。
だけど僕は、美香に気の強い女の子が好きだといった。
理由なんてあってないようだものだけど、強いてあげるなら僕ばっかり美香にほれるんだと思って
なんだか悔しかったことだろうか。

---------------------------------------------

美香の意識が戻った後も、経過をみるらしく何日か入院していたが、先日退院した。
ただ美香は・・・・骨折した足が完治するまで僕に高校の送迎を命令してきた。
なんだか美香の「気の強さ(?)」というものが最近拍車をかけて強まってきた気がする。

でも僕は知っている。
僕しか知らない美香を。
419
(2): 2009/04/10(金) 16:43:21 ID:QUqTJPGZ(2/2)調 AAS
すいません最後の展開ちょっと悩んで投下一日ずれました

ハッピーエンド要望の声があり、僕としてはこんな感じのストーリーをイメージしてたんですが
いざ文面にしてみると、これご都合主義じゃね?と思い、
いろいろ悩んだ挙句結局はそのままの状態で投下してしまいました。
>>402さんには、作者を取って食う権利があります。
あでもやっぱいやです。痛いのはいやです。

じゃあちょっと半年旅に出てくるんでぼくはこれで。
420: 2009/04/13(月) 02:55:47 ID:d/F1O3jO(1)調 AAS
>>419
GJ。 ハッピーエンドで良かったぜw

それと半年旅に出るならコレ持って行け。
つ [ノートPC][携帯]

旅先からも投下よろしくw
421: 2009/04/13(月) 12:09:52 ID:aWCXJoea(1)調 AAS
GJ!!
良い旅を
お気をつけて
422
(1): 2009/04/18(土) 11:04:55 ID:CbrKPwx+(1)調 AAS
>>419
突然の不幸はいいけど、車で美香ちゃんはねてしまったドライバーが気になる。
ドライバーは会社を首になったんだろうか。
423: 2009/04/26(日) 08:06:26 ID:fFTwP4ph(1)調 AAS
保守アゲ
424: 2009/04/26(日) 10:40:10 ID:YpSW9SMa(1)調 AAS
>>422
はねたドライバーが実は強気な女の子で
会社を首になっていつもバカにしていた
同僚の幼なじみに慰められてしおらしくなる

まで妄想した
425: 2009/04/27(月) 19:15:43 ID:J1sm3iGR(1)調 AAS
SMの女王様がMを装ったS男の超絶テクでおねだりするまで堕とされる
ってのは微妙にスレチかね?
426: 2009/04/27(月) 20:55:07 ID:AI8zyL0a(1)調 AAS
S女が堕ちるならありだろう
427
(1): 保守ネタ 2009/04/27(月) 23:20:21 ID:SXY6nz7A(1/2)調 AAS
本編化する予定はない、何故なら保守だから

俺は今夢を見てるらしい……
毎朝起こしにくるがきっつい性格の幼馴染みが寝てる俺にキスするといいありえない状況、普段なら鳩尾に両膝落としてくるというのに…………

あー、目瞑って一心不乱に貪ってるよー。すげーツボなんすけど
あ、目があったよ……すげー動揺してるよ……頬つねったらマジ痛いんですけど
どうしよう、いや、どうする俺?

1.夢だと信じて寝直そう
2.夢だから醒めるまで楽しもう
3.現実みたいだから話し合いを求めよう

マジでどうする、俺!?
428
(2): 保守ネタ 2009/04/27(月) 23:24:47 ID:SXY6nz7A(2/2)調 AAS
幼馴染み視点……秘密がバレる瞬間っていいと思わないかね?

ーがちゃー
お、今日もよく寝てるわね……ーぷにぷにー
よし、これなら起きないわね……いただきます
「ん……くちゅっ……くぷ……んふ……」
寝てる幼馴染みにキスをする。秘かに朝の日課だったりする
流石に顔間近で見ながらキスするのは恥ずかしすぎるから目ぇ瞑ってるけど……
「ぷはぁっ……ハァ……ハァ……ん。」
今日もご馳走様でした。美味しかったです。
……どうしよう。普通に起こしたいけどやっぱり恥ずかしすぎる……今日も蹴り起こして険悪気味な雰囲気にしな……え?
起きてる?……目開いてる?……口に手当てて……頬つねっちゃった!?

どどどどどうしよう!?
凄い恥ずかし……うわー!!ぎゃー!!
…………ほんとどうしよう?

1.首絞めて起こすところからやり直す
2.あくまで夢と白切ってやりたい放題やる
3.諦めて開き直る

…………マジでどうしよう、私
429: 2009/04/29(水) 22:26:33 ID:AxIFwxCX(1)調 AAS
>>428
お互い夢だと思い込みながら好き放題求め合うのが一番好みかな
430: 2009/05/01(金) 00:15:52 ID:w1K5tYd2(1)調 AAS
男は2
女は3
がいいな
431: 2009/05/02(土) 12:25:08 ID:uZVQZhfZ(1)調 AAS
>>427
男1
女3
でおねがいします><
「・・・ZZzz」
グギッ
「覚悟を決めた乙女の純情を踏みにじるのか!!」

みたいな。
432: 2009/05/03(日) 22:47:23 ID:fKW9/PVz(1)調 AAS
ゴールデンウィークで車で遠出するも
1,000円渋滞に巻き込まれてしまい、彼女はついつい彼に当たってしまう。
当然彼だけのせいではないので彼もキレテしまい彼女が謝って、
みたいなのをお願いします。
433: 2009/05/07(木) 05:24:20 ID:Kv8NgbhD(1)調 AAS
「こまかいことばっかり気にする男はモテないわよ」
「なに!」
「あんたなんかモテない男の典型ね。悪戯のラブレターすらもらったことないんじゃない?」
「あ、それなんだが…これ。さっきラブレターもらったんだ」
「…は?」
「正真正銘の本物だ。隣のクラスの奴からもらったが…ほら、読んでみな」
「…」
「はっはっは、何も言えないか!」
「…ごめん…一人にしてくれない…?」
「どうした?」
「なんでもない…」
434: 2009/05/09(土) 10:53:47 ID:Bb7ag2Cs(1)調 AAS
>>428
続きまだ〜?
435: 2009/05/12(火) 12:08:19 ID:3g8NZZad(1)調 AAS
最近は
436
(1): 栄太と由紀(1/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:30:27 ID:rhqzusej(1/10)調 AAS
こっそり置き逃げ。エロなしコメディなので苦手な方はスルーして下さい。

「――うーむ……」
散らかった部屋の真ん中で、俺はひとり唸っていた。
時刻は深夜。そろそろ寝ないと明日起きられそうになく、
またお袋にどやされて朝から最悪の気分で出かけることになってしまう。
しかし俺が今考え込んでいるのは、なかなかに深刻な問題なのだ。
健康的な男子高校生が夜遅くまで悩むことと言えば、そう多くはない。
そう、女だ。
自慢じゃないが、俺は昔から明るいキャラクターで人気を集めてきた。
女の子にキャアキャア言われたことなんて数え切れない。
俺の方も女子、特に可愛い子には熱烈な愛情を注ぎ、機知に溢れたトークと
アグレッシブなパフォーマンスを駆使して彼女らを笑顔にしてきた。
人に笑われるのは馬鹿でもできるが、人を笑わせるのは本当に難しい。
だが気さくで教養に富んだ俺に不可能はなく、どこに行っても人気者で
幸せに満ちた充実した毎日を送っていたのだった。

そんな俺が夜遅くまでこうして悩んでいるのは、
突如として俺の前にイレギュラーな存在が現れたからだ。
数多の女を虜にしてきた百戦錬磨の俺でも手に余る変な女。
正直言って、何を考えているのかさっぱりわからん。
ここ数日俺なりにあいつを分析してはいるが、これがまた困難な作業だ。
乱暴で、惚れっぽくて、だが本人曰く俺は好みじゃないらしい。
俺の方もあんながさつな奴は、生物学的には女と認めても
淑女たるレディーの範疇にはとても入れてやる気になれない。
互いに興味がないはずの俺たちは、そのまま距離を取って
ただの顔見知りでいるのが当たり前のはずだった。中学生のときのように。
なのに現実はそうはいかず、俺はあいつとしょっちゅう顔を合わせては
馬鹿だのアホだのとののしられて痛い目に合わされている。
なぜだろう。俺が何かしたんだろうか。
ひょっとしてイジメですか。そのうち顔の青アザを親に見つかって
「ああ、ちょっと転んじゃって」とか言い訳しないといけなくなるんですか。
黄金の上り坂を駆け上っていたはずの俺が、地獄の餓鬼に引きずり下ろされるんですか。
そんなのは御免だ。何とか対策を練らなくては。
それをこうして考えている訳だが……非情にも現実は厳しく、
力尽きた俺がぐーぐーいびきをかいている間にまた朝が来てしまった。
もちろん寝坊してお袋にどやされた。マジ最悪。
437: 栄太と由紀(2/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:31:14 ID:rhqzusej(2/10)調 AAS
うちの高校はごく普通の学校で、徒歩や自転車で来ている生徒が大半を占める。
俺は今日も晴れ晴れした空に見送られつつ、寝不足の頭をかかえて通学路を歩いていた。
遠くに校舎が見えてきた頃、視界の隅に見慣れた人物を二人ほど発見したので
俺は疲れた体を引きずってそいつらに近づいていった。
「よう啓一」
「あ、栄太」
友人の肩をポンと叩き、一瞬でもう一人に向き直る。
「おはようございます。恵さん」
俺は疲労を体の奥深くに押し込んで、我ながら明るく爽快な笑顔でその女性に挨拶した。
「おはよう、佐藤君」
微笑んだ拍子に長いストレートの黒髪がふわりと揺れ、朝の陽光に舞う。
普段からきっちり手入れされているのは明白だった。
水野恵。2年A組が誇る才媛にして、学校でも指折りの美少女だ。
勉強ができてスポーツも万能で顔が良くて、おまけに優しいとくれば
そりゃあんたどこの完璧超人かと言いたくもなる。
ただ顔のいい女の子ならC組の加藤みたいに他にもいるが、
ここまでパーフェクトな女性は探してもなかなかいそうにない。
しかもなぜか彼女には彼氏がいないという。絶対ありえん。まさに意味不明。

俺たちは恵さんを挟むように並び、学校に向かって歩いていた。
何とか恵さんと会話しようと話しかける俺だが、もっぱらそれに答えるのは
彼女の双子の兄貴の啓一の方だった。
お前、仮にも友人だったら空気読め! すみやかに彼女を俺に提供しろ!
激しい俺の心の声も虚しく、そのまま俺たち三人は校門をくぐってしまった。
と、そこに後ろから飛んでくる影が一つ。
「――恵ぃぃっ !!」
疾風のようなその女は、俺の横にいた恵さんに思い切り飛びかかった。
かなりの勢いのはずだったが、彼女は絶妙なバランス感覚で踏みとどまる。
恵さんは自分に抱きつくそいつを見て、少し呆れたような声を出した。
「由紀、朝から元気ね……」
「何よ恵。友達に向かっておはようのひと言もないの?」
「うん……おはよう」
恵さん、そんなやつに挨拶しないで下さい。もったいない。
俺はまたとてつもない疲労感に襲われながら、そのトラブル製造機を見つめていた。
438: 栄太と由紀(3/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:31:53 ID:rhqzusej(3/10)調 AAS
そいつは短いショートヘアを茶色に染め、細い体を制服に包んでいる。
つり目だが顔の造作は悪くない。しかし性格は極めて悪い。
しかも手癖足癖はそれ以上に悪く、学校一の凶暴娘。
すぐ物を壊すわ人を殴るわで、たしか破壊王だか格闘王だかの異名を持つ。
坂本由紀。それがその生物の名前だった。
そいつは似合いもしない笑顔で、俺の友人の啓一に明るく話しかけた。
「啓一クンもおはよ♪」
「あ、ああ、うん……おはよう」
どう反応すればいいかわからないという顔で啓一が返す。
やはり双子だからか、その表情は恵さんにそっくりだった。
そこに俺が割り込み、坂本を非難する。
「ほら離れろよ。恵さんが迷惑してるだろ」
「……なんだ、あんたもいたの。佐藤」
啓一相手のときとは打って変わって冷たい口調の坂本に、俺は言い返した。
「あんたもいたの、じゃねーよ。朝からうぜーことするんじゃねー」
「だって、ここに恵がいたんだもん」
こいつ、あの恵さんに抱きつくとはなんてうらやましいことを……。
俺は震える怒りを露にして坂本を怒鳴りつけた。
「馬鹿かお前は! 自分のやってることがわかってんのか !?」
「何よ、何か文句あるの !?」
目を吊り上げてこちらをにらみつけてくる坂本に見せつけるように、
俺はそばにいた啓一の体にぎゅうっと抱きついた。

「…………」
「…………」
「…………」
時が止まる。
無関係だった周りの連中もそこに立ち止まり、呆然としてこちらを見ていた。
「どうだ! うらやましいだろう!」
勝ち誇って言う俺に呆気に取られ、坂本もぽかんと口を開けている。
「お前が恵さんにやってることはこういうことなんだぞ、馬鹿め!
 わかったら以後気をつけ――」
「馬鹿はお前だあああぁぁっ !!」
渾身の力を込めた坂本の右ストレートが俺の顔面に炸裂した。
派手に吹っ飛ばされ、背中から地面に落ちる俺。
残念ながら、かろうじて覚えていたのはそこまでだった。
439: 栄太と由紀(4/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:32:42 ID:rhqzusej(4/10)調 AAS
保健室にかつぎ込まれた俺が意識を取り戻して教室に戻ってきたのは
ちょうど一時間目が終わった直後の休み時間だった。
「――訴えたら勝てますよね」
「……はあ?」
不思議そうに聞き返してくる啓一の席の前に座って俺は続けた。
「だから暴行容疑で、あの坂本とかいうキラーマシンを立件できませんかね」
「いや……お前は何を言ってるんだ。むしろ被害者は俺じゃないのか」
悲しいことに親友は冷たく俺を突き放し、自分のノートに目を落としている。
ちょっと男にハグされたからって怒るとは器の小さいやつめ。
第一、休み時間にまで勉強するとかあり得ないだろお前は。
周りじゃ女子が何人かチラチラ優等生のお前の方を見てるじゃねーか。
恵さんが完璧超人なのは素晴らしいが、兄までそうだと腹が立つ。
俺はお前の何百倍かは女性に優しいはずなのに、その俺がなぜあんな
見た目は女・中身はターミネーターの殺人兵器に殴られなきゃならんのか。
理不尽という言葉をびっしりノートに書き込んでも今の俺の気分は晴れないぞ。

何となく疲れた気分になって天井を見やるが、あいにく輝きの衰えた蛍光灯と
シミのついた灰色の板しか目に入らなかった。
ため息と共にぽつりと、思っていたセリフが口から漏れる。
「……なあ啓一」
「どうした?」
「お前、この間あいつを……坂本をフッたんだってな」
「ん……ああ、まあな」
「そうか。俺は恵さんにフラれたよ」
「…………」
「まぁわかってたことだけど、それにしても妙なフラれ方だったなぁ……」
級友たちの喧騒が、どこか遠いところから聞こえてくる。
俺と坂本の接点はこの双子の兄妹だった。
俺と啓一、坂本と恵さんが親しい友達同士なのだ。
そこで俺は何とか恵さんをゲットしようと、
この前の休日に坂本に合同デートを持ちかけたのだった。
綿密に計画を練って四人で行った水族館で、俺は恵さんに、あいつは啓一に告白した。
結果は共に、あえなく玉砕。
よくわからん断られ方をされて疲れ果てた俺は、同じような状態の坂本と
ふらふら帰宅の途についたのだった。
440: 栄太と由紀(5/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:33:43 ID:rhqzusej(5/10)調 AAS
それからだ。俺と坂本の関わりが増えたのは。
清楚で可憐な恵さんのような女性が好みの俺はあんなやつ眼中になく、
それは向こうも同じはずだった。
なのに今日のように、気がつけば顔を合わせて痛い目に合っている俺がいる。
なぜだ。俺はあいつに何も悪いことしてないぞ。
ひょっとして啓一にフラれた八つ当たりですかね。
でも八つ当たりで人を蹴飛ばしたり殴り倒したりするのはどうかと思うんです。
何とかして下さいよ、無敵の水野啓一さん。
俺は心の中で親友に語りかけたが、啓一は何も言わずノートを広げている。
そのときチャイムがなり、俺は思考を中断しておもむろにカバンの中身を出し始めた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

やっと放課後になり、俺はひとり帰り道を歩いている。
啓一は部活だ。サッカー部のレギュラーは大変だな。
俺も野球部員のはずなんだが、いつの間にか幽霊になってしまった。
まぁうちはどこのクラブも地区の底辺で、大会とかでもろくに勝ったことがない。
そのためあまり熱心に部活に励む者も少なく、俺のような帰宅部員が大量発生していた。
「うーむ……どーすっかな」
湿布の貼られた頬をさすると、まだ少し痛む。
このまま家に帰るのも何となくためらわれて、俺はちょっと寄り道をすることにした。
夕方前で混み始めてきた駅前にはゲーセンやカラオケが多く、こんなときに丁度いい。
とりあえず馴染みのゲーセンにでも入ろうかと、俺がドアを開いたときだった。

突き出された拳が男の左頬を射抜く。
「――がっ !? てめえぇっ!」
怒りの声をあげたそいつの横を通り抜け、女は二人目の男に飛びかかった。
男は何とかその膝をかわしたものの、まともにバランスをくずしてその場に転んでしまう。
その間に女は既に体勢を立て直し、三人目に向き直っていた。
441: 栄太と由紀(6/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:34:28 ID:rhqzusej(6/10)調 AAS
「…………」
他の客の注目を浴びながらゲーセンの中で大立ち回りをやらかすそいつの姿を、
俺は呆然と眺めている。
なぜだろう。うん、なぜだろう。
なんでこんなとこにあの戦闘民族の女がいて、他校の生徒と喧嘩してるんだろう。
なんかカウンターの後ろで店員が電話してるし。もちろん百十番ですよね先生。
まさかあいつが本当に暴行容疑で捕まる日がくるとは思わなかったが、
俺には所詮関係のない話でしかない。
それなのに、なぜだろう。
気がつけば俺は後ろからそっと忍び寄り、坂本の腕をつかんでいた。
「ちょっと何すんのよ――って佐藤 !?」
「来い! 逃げるぞ!」
俺はもう片方の手で落ちていたあいつのカバンを拾い、
大急ぎで坂本を裏口に引っ張っていった。
やつらの一人が追いかけてきたが、坂本が蹴りを入れひるませて店から脱出する。
その勢いで人通りを一区画ほど走りぬけ、そこでやっと俺たちは立ち止まった。

「――ハァ、ハァハァ……あーしんど」
「ふぅ……」
息を切らした俺とは違い、坂本はすぐに呼吸を整えて落ち着いた。
さすがはアマゾネス。スタミナも人一倍あるらしい。
あいつは安全を確認すると、俺に向かって口を開いた。
「……なんであんたがここにいんのよ」
「なんでって……寄り道してゲーセンに入ろうとしただけだぞ……。
 お前こそ、なんであんなとこで暴れてたんだよ」
不審そうに自分に向けられた視線も気にせず、坂本が返す。
「プリクラの新作が入ったって聞いたから見に行ったのよ。
 それなのにあいつら、女の子専用のコーナーにずかずか入ってきて――」
「そんなの店員に言えよ……」
疲れた声の俺に、あいつは当然のように言い放った。
「だって気に入らなかったんだもん。体が勝手に動いちゃって」
「やっぱ放っといた方が良かった……何このバーサーカー」
「あ! 何よその態度 !?」
怒ってにらみつけてくる女にうんうんうなずく俺。
「……とにかく疲れたから俺もう帰るわ。じゃあな坂本」
俺はそう言ってあいつに背を向け、歩き出した。
442: 栄太と由紀(7/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:35:09 ID:rhqzusej(7/10)調 AAS
……が、今度は俺が腕をつかまれる。
「――ちょい待って」
何すか。また俺、お前に殴られるようなことしましたか。
左の頬を殴られれば右の頬も差し出せとか、そんな愛の溢れること言うんですか。
疲労と不安の入り混じった俺の顔をじろりと見て坂本は言った。
「あそこのお店に入ろ。奢ったげるから」
「はい?」
とうとう来たよ。事務所に連れ込んでボコにするアレ。
原形を留めないほど顔殴られて、怪しい契約書にハンコさせられるやつですよね。
ついにこの歳で俺の人生終わってしまうんですか。
俺は生きる希望を絶たれ、げっそりとして坂本に引っ張られていった。

レジの前でこちらを振り返るあいつ。
「コーヒーと紅茶どっちがいい? あと何か食べる?」
「じゃあ……アイスコーヒーで」
俺はそう言って坂本を残し、先に手近な席に座った。
逃げようと思えば逃げ出せるはずだが、間違いなく捕まってしまうだろう。
坂本の脚力とスタミナは明らかに俺より上だ。
俺は蜘蛛の巣に捕まった獲物の気分で、どっかりと椅子に倒れこんだ。
「――お待たせ。……どうしたのあんた、目が死んでるわよ」
ぐったりした俺を不思議そうに見つめつつ、坂本は湯気のたつコーヒーをすすった。
「ほっぺたどう? あたしが思い切り殴ったから、骨ヤバいかもしれないけど」
「幸いにも、折れてないみたいです……」
「そう、よかったわね」
怒りもせず、自然な様子でそう口にする坂本。
落ち着いて俺と二人きりで話すこいつは、意外にもまともなやつに見えた。
はっ、いかんいかん。騙されるな俺。こいつは混沌の破壊神だぞ。
“よくもあたしの邪魔をしてくれたわね”とか言ってまた殴りかかってくるかもしれん。
俺は静かに椅子に座り直し、アイスコーヒーのストローをくわえた。
443: 栄太と由紀(8/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:35:57 ID:rhqzusej(8/10)調 AAS
「…………」
賑わう喫茶店の中、二人の静寂が続く。
坂本は時折ちらりとこちらを見ては、様子をうかがっているようだった。
半殺しにするべか、それとも皆殺しにするべか。そんなことを考えているのだろうか。
なんかもうどうでもよくなって、俺はコーヒーの底にたまっていたシロップを飲み干した。
蚊の鳴くような声が聞こえてきたのはそのときだ。
「…………ね」
「あん?」
あいつはテーブルの上に視線を落とし、少し落ち着かない様子でもう一度言った。
「――ありがとね」
「え? 何がだよ」
想像もしなかった礼の言葉を聞いて驚く俺。
信じられないことに坂本は、言いにくそうにもじもじと言葉を続けた。
「一応あんた、あたしを助けてくれたでしょ?
 だからこれはそのお礼。別に変な顔しなくていいから……」
「…………」
何だろう。これは夢? 俺は幻覚を見せられているのかっ !?
首を振った拍子に茶色の短い髪がふわりと揺れ、一筋が坂本の目にかかった。
……こいつ見た目は悪くないんだよな。恵さんには全然及ばんけど。

まさか相手も同じことを考えていたとはつゆも思わず、
俺は自分のペースを取り戻そうと、冗談めいた口調で言った。
「礼だって言うなら、何か別のサービスしてくれよ。ちゅーとか」
「な、なななななっ !? 調子に乗るな、この馬鹿!」
顔を真っ赤にして俺をののしる坂本。
聞いたところによるとこいつは面食いでかなり惚れやすいらしく、
あちこちの男にアタックしては啓一みたいにスルーされているそうだ。
ひょっとして男と付き合ったことがないのかもしれないな、と思った俺は
もうちょっとこいつをからかってみたくなった。
「そんなに赤くなっちゃって……お前、ひょっとしてちゅーしたことないのか?」
「ば、馬鹿にしないで! ちゃんとセックスだってしたことあるわよっ !!」
突然大声をあげて立ち上がった坂本に、俺のみならず周りの客も動きを止めた。
「…………」
そこであいつは自分の発言に気づき、旬のりんごのようになって座り直した。
「あ、どうもすいませーん。ごめんなさーい」
そんな坂本を尻目に、へらへらと笑顔で周りに愛想を振りまく俺。
うん、なんか調子が出てきたぞ。やっぱり俺はこうあるべきだよな。
その後も会話は完全に俺が主導権を握り、俺は坂本を散々からかって遊んだのだった。
444: 栄太と由紀(9/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:36:48 ID:rhqzusej(9/10)調 AAS
赤い太陽が西に傾く中、俺と坂本は肩を並べて家路についている。
聞いてみれば、こいつの家は意外とうちの近所らしい。
よく考えたら同じ中学なんだから不思議ではないのだが、
あの頃のこいつとはまるで接点がなかったから知らなかった。
「尾崎って覚えてる? あの子、まだ安井と付き合ってるんだって」
「へえ、まぁ仲良かったからな。健太郎のやつには気の毒だけど」
「それがね、あの二人ったら――」
共通の知人の話題で話が弾む。
こちらを向いて喋る坂本の笑顔が、夕日を受けてほんのり赤く染まっている。
やべ、ちょっと可愛いとか思ってしまった。
落ち着け俺。今日もこいつに気絶するほど殴られたばかりじゃないか。
君は被害者だ、このまま犯罪者に泣き寝入りしていいのか?

「――んでさ、坂本は今付き合ってるやつとかいないの?」

気がつくと、俺はそんな言葉を口走っていた。
「…………」
ジトーっという暗い目つきが俺に向けられ、慌てて身構える。
やっぱり俺地雷踏んじゃいましたかね。今度こそ右頬ですか。
だがそんな俺に、あいつは疲れた声を返しただけだった。
「……あたしが啓一クンにフラれたの知ってるでしょ?
 彼氏なんている訳ないじゃん……」
普段のこいつからは考えられないような、弱々しい返事。
俺はその言葉に促されるように立ち止まった。
「佐藤……?」
つられてあいつも立ち止まり、じっとこちらを見つめてくる。
互いの距離はわずか一メートルほど。周囲に人影はない。
俺たちを見ているのは沈みかけの赤い陽の光だけだった。
445: 栄太と由紀(10/10) ◆cW8I9jdrzY 2009/05/12(火) 23:37:31 ID:rhqzusej(10/10)調 AAS
吸い寄せられるように俺の腕が坂本の細い肩をつかみ、そのまま抱き寄せる。
「さ……佐藤、何すんのよ…… !?」
驚いた声をあげる坂本に構わず、俺は彼女を強く抱き締めた。
「――俺たち、付き合わないか?」
耳元に口を寄せ、自分でも思いもしなかったセリフを言う。
おかしいな、俺おかしくなっちまったんだろうか。
ずっと人外の化け物と思っていたプレデター相手に、まさかこんなことを言うなんて。
しかし彼女は抵抗せず、それどころか両手を俺の背中に回して抱き返してきた。
ぶつかりそうなほどすぐ目の前に坂本の顔がある。
なぜか彼女の目はうるんで、普段とはまるで別の人間のように見えた。
小さなつぶやきが、俺の耳にはっきり届く。
「うん……いいよ……」
俺がおかしくなったのと同じように、こいつも変になってしまったようだ。
不意に笑いを漏らして俺が言う。
「フラれたやつ同士、か……よく似てんじゃね? 俺たち」
「うん、空回りしてるとこなんて特にね」
「なんだ、自覚してんのかよ……」
「何よ……何か言いたいわけ?」
軽く目を吊り上げた坂本の唇を、俺の口が塞ぐ。
「んっ……!」
初めて触れたこいつの唇は思ったより柔らかく、やっぱり女の子だった。
いきなりちゅーして怒るかとも思ったが、向こうも満更ではないらしく俺を離そうとしない。
そのまま俺たちは、息が苦しくなるまでキスを続けた。

やっと顔を離したのは三十秒後か一分後か、よくわからない。
至近で互いの目を合わせると、何となくこいつの気持ちがわかる気がしてきた。
「ふふふふ……」
また笑いがこみあげ、我慢できなくなる。
坂本もそんな俺を見つめ、可愛らしい顔で笑い始めた。
「あはははは……」
「ははは、俺たち何やってんだろうな? はははは……!」
「ホントねー、何やってんのかしら……あははははは……!」
おかしくてたまらないといった感じで、似た者同士は笑い続けた。

こうして、俺に色々と大変な彼女ができました。
446: 2009/05/13(水) 01:42:23 ID:UarHADzd(1)調 AAS
乙J!
447: 2009/05/13(水) 02:46:19 ID:bT2A4asx(1)調 AAS
GJ!!!

続きはあるのかな? この二人の今後が気になるw
448: 2009/05/17(日) 19:55:43 ID:asF53ZZ3(1)調 AAS
>>436
超乙
449: 2009/05/29(金) 20:33:41 ID:4JGTQ65r(1)調 AAS
喜多さんが更新されることはもうないのかなぁ
450: 2009/06/10(水) 16:12:24 ID:TYyTQEVW(1)調 AAS
保守
451: 2009/06/12(金) 01:08:48 ID:MthZ2S6M(1)調 AAS
ホラーとか、災害物とかでのシチュエーションで、そういうシーンを期待した自分がくるスレですか?
・ホラー 男は女と二人で逃げていた。出会った時は近寄る事も許さなかったが、二人で
     困難を乗り越えていく内にお互いを意識し始め、脱出後の二人は…
・災害物 避難中に出会った二人。安全な場所に逃げ込んだ二人は、お互いの事を話して親しくなる。
     そして…脱出後か最期の数時間に二人は…   
452: 2009/06/12(金) 01:28:11 ID:ktQNfzWO(1)調 AAS
それなんて吊り橋効果?
453: 2009/06/16(火) 01:37:47 ID:pIqjOvUC(1)調 AAS
画像リンク

454: 2009/06/16(火) 07:41:12 ID:FAR99wKA(1)調 AAS
気の強い"娘"つってんだろ!

いや、個人的には好きですけど
455
(1): 2009/06/17(水) 23:10:14 ID:HKbq4zjX(1)調 AAS
武道やってる娘とかいいよね
好きな人の前ではきゅ〜んってなる
456: 2009/06/21(日) 20:57:18 ID:D03c4i4I(1)調 AAS
>>455
その妄想をSSにするんだ!
457: 2009/06/21(日) 23:17:07 ID:TaGQdI4L(1)調 AAS
デートにフリフリのワンピース着たり、作った事も無いお弁当作ったりして
普段抑えてる分、Hの時は抑制きかなくなって求めまくったり
458: 2009/06/21(日) 23:24:08 ID:6fjsgyjm(1)調 AAS
画像リンク


こんな風に言われたい
459: 2009/06/23(火) 15:42:54 ID:otEOjr8R(1)調 AAS
ツンデレスレ落ちたんだな
460: 2009/06/24(水) 01:32:47 ID:aC0uvBcQ(1)調 AAS
2次だけど
るろ剣の薫とか、勝気な性格だった気がする・・
461: 2009/06/27(土) 17:33:43 ID:HEj0WIM6(1)調 AAS
ツンデレスレも終わったのか……職人がいればこのスレにも人が戻ってくるのかね?
462: 2009/07/01(水) 00:24:28 ID:ZquAwGxW(1/2)調 AAS
信長の野望やってたら
「(大名)様、配下の(娘武将)の元に
(他の大名)の者が訪れたようです。」
ってメッセージが出て
プッツンする一方でムラムラと妄想湧き上がった
書いていい?
463: 2009/07/01(水) 23:57:00 ID:ZquAwGxW(2/2)調 AAS
と言うわけで書きます。
464: 2009/07/02(木) 02:48:52 ID:v7Uu5BVK(1/6)調 AAS
最初に言っておきますが、これはうちの信長の野望天翔記やってた時に思いついた
物なんで、当然架空の歴史です。史実に出てくる人も全然史実とは違った人物として
描かれています。秋月緑は勿論史実には出てきません。
465: 2009/07/02(木) 02:52:06 ID:v7Uu5BVK(2/6)調 AAS
「鉄砲姫と不器用な使者」

 島津豊久はため息をついた。命令はこうだ。
 「秋月家の武将である秋月緑に内応の誘いをして来い。」
 (出来るわけねえだろ…。)
 秋月緑は当主種実の実の娘だ。それが応じるわけが無い。おまけに豊久は
元服したと言っても、内応やら偵察やらこの手の仕事が苦手で経験が無い。
 (でも言われた以上はやらなくちゃな。)
 とぼとぼと豊久は秋月領へ進んでいった。
 
 秋月種実。九州で知らない者はいない。武勇に優れたが機会に恵まれず外
交通商と領地経営に人生の殆どを捧げた先代当主の文種の後を継いだ種実は
、当時九州北部の殆どを手中に収め秋月領を完全包囲して多数の軍勢を擁する
大友宗麟相手に、手遅れになる前にと全てを賭けた戦争をしかけ、打ち破っ
てしまった。更に周辺の小大名も攻略し、今では九州は最北端と最南端のわ
ずかな地域を除いて秋月領となっている。その最南端が我らが島津領だった。
優秀な家臣団がいると言っても秋月家には更に多くの優秀な家臣団がある。
滅亡は時間の問題だった。

 秋月緑は古処山城の近辺にいるらしい。古処山城は山奥にある。まるで追
い詰められた弱小大名が立て篭もっているような不便で辺鄙な場所だった。に
も拘らず先代と家臣団の頑張りあって農業収入も商業収入も意外な高さになっ
ている。
 「緑様か…、緑様は只者じゃないぞ。」
 「まだ若いが凄い才能があるそうだぞ。」
 「種実様がそれはそれは大事になさってるんだと。」
 (こりゃますますもって無理そうだな…。)
 豊久は緑の噂話を聞いて更に気が重くなった。

 当主の種実が緑を連れて鉄砲を撃ちに行くと言う。豊久は忍び込む事にした。
466: 2009/07/02(木) 02:57:14 ID:v7Uu5BVK(3/6)調 AAS
 「これでまた一歩鉄砲隊の指揮が上手くなったと思う。隆信の指南は悪くな
いな。うむ褒めてつかわす。」
 忍者の様な仕事が苦手な豊久でも潜り込めたのは運がよかった。当主種実も
また豊久ほどではないにしても潜入や偵察の様な事に詳しくなかったのも、関係
があるのかもしれない。
 「そっちはどうだ…さすがは緑だな。鎮信の言う事をよく聞いてる。」
 (うわ…あ…。)
 不敵な笑みを浮かべていた緑は真剣な顔になると様々な撃ち方で次々に命中
させている。手馴れた動きで鉄砲を構えて、また構えて、余裕を持ってすばや
く戻した。そしてまた口元が微かに上を向いている。
 (ありゃうちの叔父貴たち並みじゃねぇか。それにしても…。)
 豊久は恐れ入ると同時に、緑に惚れ込んでしまった。
 
 「あの姫様はな、こないだの深水氏攻めの時も鉄砲隊率いて大活躍したんだ
ってな。幾ら相手が小勢力だって言っても凄い活躍だったぞ。」
 「鉄砲が得意だが、取っ組み合いでも先代の文種様に勝るとも劣らない才能
がありそうだ。今はまだ完全には花開いてはいないがな。」
 日を置いてまた潜り込む機会に恵まれた豊久は噂話を反芻していた。
 (うむむ。)
 豊久は熱い視線で緑を見ていた。
 「父上、たまにはもっと変わった物を撃ってみたいです。」
 えっ、と皆が驚く中、緑がこっちを向いて、しかし一瞬で元に向き直って撃
った。やはり命中だった。
 「曲撃ちでございますか。緑様の技がこれほどまでに上達したかと思うと…。」
 鎮信が顔をほころばせている。豊久はより正面に近い緑の顔を見れて、そし
て緑の自信に満ちた声聞けて胸が高鳴ったが、その後我に返って気が気ではな
かった。
 (見つかったのか!?)
 結局その後も松浦親子と秋月親子は鉄砲をたくさん撃って、何事も無かった
ように帰った。

 「さて…、うわっ。」
 豊久はさらわれた。
467: 2009/07/02(木) 03:00:28 ID:v7Uu5BVK(4/6)調 AAS
 「あなた誰?」
 「それより帰ったんじゃ…。」
 「従者が傘持ってて見えなかっただろうけど、あれ家来ね。」
 人を馬鹿にしたような顔で緑が言う。豊久をさらったのは、緑だった。
 「僕は、島津家の家臣島津豊久と申します。緑様の数々の功名はかねてより
聞いております。しかし…、…、…。」
 言葉が見つからなくなった。
 「で、寝返れ、と。九州探題に就くのも時間の問題の父上を裏切って、滅亡寸
前のあんた達に寝返れと。無理だね。」
 (冷たい目だ。)
 こうなるのはわかっていた。最初からわかっていた。
 「こんな内応の誘いまでするだなんて、いよいよ悪あがきもなりふりかまわ
なくなってきたみたい。それもこんな使者で。まあ、帰っても追放だの切腹だ
のになることはないと思うよ。最初から期待されてなさそうだし。さあさあ。」
 「あ、あの、ありがとうございました。」

 「で、成果は?」
 「残念ながら秋月緑の心を動かす事は出来ませんでした。出来ればもう一度…。」
 「馬鹿言うなよ。奇跡の為にお前も特訓だ。いつ攻められてもおかしくない
からな。次の季節は稽古がいっぱい待ってるぞ。」

 稽古は厳しかった。そして、秋月家が攻め込んできて、奇跡は起きず、お家
騒動で疲弊した軍はロクに抵抗できず、大名島津家は滅亡した。家臣は殆どが
捕虜になり豊久も捕虜になった。

 「ふむ、お前はうちで働く気があるか。そうか。第二軍団に入れてやる。人
手が足りないからな。ふむ、お前は…おお、いや、第一軍団の家来にしてやろ
う。お前は…。」
 捕虜の運命を秋月家当主種実が次々に決めていった。天下取りを目指す種実
は島津家の優秀な家臣団を気に入ったらしく大勢が登用された。
 「島津家の足軽頭の島津豊久です。」
 「ふむ、悪いけど追放ね。」
 豊久は雷に打たれたような衝撃を受けた。
 「父上」「どうした緑、ん?うんうん?うん?わかった。取り消し。やっぱ
り第一軍団に入れてやる。しっかり励めよ。」
 秋月家に勝手に住み着いてる野良猫がどこかでないた。種実の妻がタカジア
スターゼを飲めと言い、アレは効かないと種実が言った。だが妻は飲み続けな
いから効く物も効かないと言い、胃痛に苦しむ種実は飲んだ。住み着いてる野
良猫を女中が邪険に扱っているのが聞こえてくる。
468: 2009/07/02(木) 03:02:49 ID:v7Uu5BVK(5/6)調 AAS
 九州南部をついに手中におさめた秋月家では様々な式が行われた。式典が終
わるとあちこちで稽古が始まった。豊久もまた、秋月家屈指の強豪木下昌直に
武術の稽古をつけられていた。
 「老いたとは言え…、まだまだお前に遅れをとる程じゃない…。」
 (この人無茶苦茶強いな…。あ!!)
 昌直の次々に繰り出す攻めに立つのがやっとの豊久は、偶然発見した。緑が
いた。緑の武術の稽古相手は、なんと秋月家の一二を争う戦上手の立花宗茂だ
った。
 「緑様の技のキレ、きっとお父上もお喜びになりますな。」
 「ありがとう。」
 あの宗茂を相手に緑は圧倒されていない。勝負になっている。
 「豊久…、油断してるぞ…。」

 豊久が休憩に入り、しばらくして緑もまた休憩に入った。
 「豊久ちょっと。」「ここに。」「特別に教えてやるから来なさい。」
 緑は豊久を連れて歩き始めた。

 (こんなに近くで見るの、初めてだな。やっぱりそそるもんがあるぜ…。)
 緑は古処山城で見た時のように微笑んだ。この世の全てを玩具にしているよう
に静かに微笑んだ。
 「豊久…、あなたはもうすぐ…、わたしの家来になる…。」
 「光栄です。」
 二人ともおし黙った。豊久にはしまってあった疑問をぶつけるチャンスだった。
だが、緑を前にして質問どころではなかった。至福の興奮が余裕を奪っている。
よりによって、家来にされた。一緒に歩いてもいる。
 「そうです。光栄に思いなさい。」
 だが、ここで聞けなかったら、もう聞くことが出来ないと、豊久は決断した。
 「緑様、なぜ、捕虜の戦後処理の時救って下さったのでしょうか。」
 「それは…。」
 緑の顔が緊張した。滅多に見ない顔だった。あの鉄砲を撃っていた時も、さ
っきの稽古でも、豊久をさらった時も助けた時も見せなかった顔だった。緊張
した顔が、膨らみ始めた。
 「緑様?」
 いきなり、緑が脚払いをかけた。疲れきっていた豊久は崩れ落ち、緑が胸倉
をつかんだ。
 
 「み、緑様…。く、苦しい…。」
 「わたしは…、実は…、好きになってた。あなたの事が。年が近い奴は他に
もいっぱいいる。あなたより優秀なのもいっぱいいる。でも、あなたをさらっ
て解放した後、とにかくわたしはあなたを好きになった。不器用な所を守って
やりたくなったと言うか…。」
 顔が近い。だから、姫の荒くなった吐息もかかっている。輝いてる目も見える。
 (緑様も、こんな目をするんだ…。)
 「豊久聞いてる?だから、下手に死なないで…。最後までわたしについてきて
…。豊久ならきっと出来る…。」
 「は…、い…。」
 現実と夢が一緒になったような気分で返事をしていた。
 「じゃあ、この口付けに誓って。」
 幼稚で、その割りに深い口付けだった。
469: 2009/07/02(木) 03:04:52 ID:v7Uu5BVK(6/6)調 AAS
 「どうしよう…、豊久大丈夫?ねえ!!」
 稽古でつかれ切っていた所に口付けまでされて、豊久は気絶していた。緑がう
ろたえていた。豊久には見えなかったが。緑が本当に今まで豊久に見せた事が無
かった顔だった。
 「緑様…、豊久は…。」
 「昌直…、実はぁああ…、稽古つけていたらやり過ぎて。」
 「情けない上に緑様の手を煩わせるとは無礼な…。私が…。」
 「いや…、もうすぐ側近につけられる者だし、わたしが介抱してやる。もう後
はいいから。」

 「あれ?おおっわっ!!」
 「気がついたみたいね。」
 豊久は驚いた。何故なら、緑が添い寝していたから。
 「今日はすごく疲れたでしょ?ご褒美。」
 そう言うと、緑が豊久の両手を導いて胸に触らせる。
 (母ちゃんより小さい…。けど、おっぱいだ…。)
 「やさしく、軽く、そう。できるじゃない…。そう。そう…。」
 緑の顔が赤らんでいくのが見える。
 「あぁ…。はぁ…。たまらない…。」
 緑の手が緑自身の股間へと伸びていく。何をしているかは、見えない。
 「うぁっ。豊久…あっ…はぁ…。」
 豊久は気になった。女の子が、見た事も無い事をしてる。豊久も息が荒く
なってきている。
 「何…はぁはぁ…してるの…はぁはぁ…?」
 「き気持ちいいこと…うっ…。」
 意味不明な、理解不能な、不可思議な光景だった。豊久は唾を飲んだ。
 (すごい…色っぽい…。)
 そう思った時、緑が顔いっぱいに笑っていった。
 「これから頑張ったら、わたしの機嫌がよかったらこう言うご褒美出すね。
そして、関東まで進撃したら、もっとエッチな事するよっ。」
 「はは…かしこまりました…。」

 それから豊久と緑が歩んだ道は、論文を読めばわかる。秋月幕府が日本を統
一した後、その大偉業に大きく貢献した二人は九州に帰って、表向き主人と家
来のまま、熱々で暮らしたと言う。
(終わり)
470: 2009/07/02(木) 09:43:08 ID:QJXZMv5T(1)調 AAS
GJ
471: 2009/07/05(日) 02:40:55 ID:O6Ib+cgA(1)調 AAS
GJ!
472: 2009/07/06(月) 23:22:18 ID:KvvG0qu3(1)調 AAS
緑様、可愛すぎるw
GJですっ。
秋月家で良くプレイするので、なおのこと!w
473: 2009/07/09(木) 17:33:11 ID:SPYLvqVK(1/9)調 AAS
すいません投下しますすいません
474: 2009/07/09(木) 17:33:40 ID:SPYLvqVK(2/9)調 AAS
俺はブランコに座り、どこを見るともなく、またなにをするでもなくぼうっと、背から差し込む赤く染まった風景を眺めていた。
きい、きい、と長い時間が酸化させた鉄の悲鳴が、何の音もないこの空間に妙に響く。

今、この公園には、どこか奇妙な雰囲気があった。
俺はその奇妙な違和感を具体的に言い表せないが、確かにそこにはあった。輪郭が見えないのに存在感だけがあるその違和感は、俺の中の感情を不安へと変えるのには十分であった。

不安がつのり、そしてそれが一気に途切れる直前、俺はブランコから飛び上がらんほどに立ち上がった。目の前には背の夕日が作るブランコの影。俺の影はない。
俺は恐怖で走り出した。心臓が急速に鼓動し、汗が吹き出る。恐怖におわれただただ走った。とにかくあの異様な空間にはもうこれ以上いたくなかった。
気づくと俺の昔の家の前に立っていた。玄関のドアをひらき家に入る。すると台所から物音が聞こえた。誰かいるのかもしれない。
俺はただ人がいるということに安堵していた。さっきのは悪い夢だったのかもしれない。
そこには、食事を作っている、昔の姿の久美がいた。小学校のころだろうか。なぜ幼い久美がうちで料理しているのかなんてことは考えなかった。俺は声をかけようとした。
すると俺が声を出す前に後ろから声が聞こえた。振り返ると卓也であった。こちらも久美と同年代くらいであった。台所にいる久美の返事が聞こえる。
そして卓也は俺を、まるでそこに誰もいないかのように文字通りすり抜けて台所へ向かっていった。

俺は激しく困惑した。
自分の手のひらを眺めた。俺の手は色がなかった。しろでもなく、また灰色でもない。色がないという事実はまったく形容しがたいものだった。
コルクボードにはられている写真の、左には卓也、右には久美。中心には黒洞々とした何もない空間がひろがっていた。

目を覚ますとすでに朝の気配が漂い始め、カーテンの隙間からはかすかな光が差し込んでいた。小鳥のさえずる音が聞こえる。

壁にかかった額縁の中の、小学校の卒業式のときに三人で取った写真に欠落しているところはどこもなかった。
・・・・・最近、まともに寝れていない。ねれたとしても、夢ばかり見るひどく浅い睡眠だ。
どうせあと学校までは4時間もないのだし、このままベッドで横になっていたとしても寝れるわけもない。
俺はひどくだるいからだを無理やり動かして机に座らせた。考査が近い。俺は何十回繰り返したかわからないその課題をまた1からノートにやり直していった。

右手で機械的に数式をときながらも、頭の中では二日前のことを思い出している。
要約すれば、卓也は、今月末には両親の仕事の都合で引っ越すということ。卓也は久美に・・・あのときからずいぶんかかったが、告白して、そして振られたこと。
そういう内容だった。
475: 2009/07/09(木) 17:35:39 ID:SPYLvqVK(3/9)調 AAS
「朝勉なんてずいぶん勉強熱心じゃないの。」
振り返ると制服姿の久美がいた。そうか、もうそんな時間か。
「ノック位してくれよ」
「したわよ。」
「・・・今日朝早くおきて眠れなかったから勉強してたんさ」
弁解した風に聞こえたかもしれない。だが、俺は以前ほどそのことに関して神経を使わなくなった。何か勘ぐられるかもしれないが、別にいい。
どうせ、今回の試験ですべてが終わる。
「・・・あんた今日学校休みなさいよ。」
「なんでだし。」
「いや・・・なんでもないわ。あたしもういくけど、ご飯作っておいたからあっためて食べて。じゃね。」

うん。まるで母親だ。まあ、久美のような人間は、落ち度ばかりの俺みたいなのは対象外なのかもしれない、とぼんやりそう思った。

俺の家族、両親しかいないが、俺が小学校3年生のときに他界した。
父は根からのまじめな人間で、決してよい役職についていたわけでもなく、上司との関係もよくなかったようだがそれでも一生懸命働いていた。
一方母は父には到底つりあわないような美人で、父と同じ会社で同期であった。
多才な母はすでに出世ルートにのり、給料も父の何倍もあったらしい。
父は俺が小学校三年生のとき、自室で練炭を炊いて自殺した。発見したのは俺で、父の手に握られていた遺書は、当時の俺には理解できなかった。
――――僕のことは気にしないで、もっとよい夫と添い遂げてほしい。そして僕が君を苦しめたことに関しては、死で償うことにする。

父は何を勘違いしていたのかは知らない。単に父が勝手にそう想像していただけなのかもしれないし、
美貌の妻を持つ無能な父をうらやんだ男が父に何か吹き込んだのかもしれない。
父が死んでまもなく、母に求婚してくる男が家をたびたび訪れるようになった。なかには父と同じ会社の上司さえいた。
母は父の他界後まるで幽鬼のようになり、一年後の父の命日の日にまったく同じ場所で同じ方法で他界した。
俺はその日母が死のうとしていたことを知っていた。止めはしなかった。あの時俺は、自分の行動に責任なんかもてなかったし、なにより母に死んでもらいたいわけがない。
だが、こうすることが母にとって一番いいことなのだ、と理解し、俺はその日、小学校に登校していた。きっと俺がいないほうが母も未練なく死ねると考えたからだ。
声も上げず静かに涙を流す俺に、授業中気づいた先生は幾度と声をかけてきたが俺は大丈夫だと言った。
身を引き裂かれるような思いだったが、これが最後の親孝行だと思い血がにじむほど口内をかんだ記憶がある。
とんだ親不孝ものだ。

当時精神が錯乱しかけていた俺を救ってくれたのは久美だった。
母方の親戚から引き取る話があったのだが、結局俺の意思は尊重され、まもなくして俺は幼馴染であった久美のうちに引き取られた。
476: 2009/07/09(木) 17:36:48 ID:SPYLvqVK(4/9)調 AAS
終業を告げるベルが鳴った。
おお、昼休みか、と思いかばんを開けた。いつもはそこにある弁当はなかった。うちに置き忘れたか。
寂しく腹を鳴らして不貞寝していると、どん、と弁当が目の前に置かれた。
「ほら、どうせ置いといても忘れるだろうと思ったから、もってきたわよ。」
「ああ・・・ありがとう久美。愛してるよ。」
「行動で示してもらいたいものね。」
こんなことをいうと、中学生のころは顔を真っ赤にして叩かれたものだが、最近はサラッと受け流されて始末が悪い。

久美は、昔からその頭角は表していたが、とんでもない才女だった。
スポーツはできるわ運動はできるわ、また勝気な性格と美しい容姿もあいまって中学のときは学年の華だった
俺は当然彼女の家に住まわせてもらってることは隠していたが、親しくしているところを見られてはどんな関係なのかを問い詰められたりした。

中学二年生の時。帰り道で他愛もない話をしていたときのことだ。
「・・・秀ちゃんは久美のことどう思ってる?」
俺はこのとき、やっときたか、そう思った。
勝気な久美と気兼ねなく話せる数少ない男子である俺は、よく友人から久美を紹介してくれとか、普段の性格について教えてとか頼まれたものだったが
卓也とこういう話をするのは初めてで、お互いなんとなく避けていた気がする。

「どうって?」
別に卓也の答えにくいように返したわけではない。だが、やはり真意は確認しておきたかった。
「どうって・・・その・・・・・・えと・・・」
口ごもる卓也。
長い沈黙があった。

「・・・僕、久美ちゃんのことすきだ。」
「そうか。」
「うん・・・」
「まあ、うん、がんばってほしい。」
「・・・・」

俺がおもうに、卓也は、久美と付き合うことになっても問題ないような自信は持っていると思う。
久美には及ばないが卓也もかなり勉強はできるほうだし、サッカー部では3年生に混じってレギュラーをとっている。
むしろもっと自信をもっていいんじゃないだろうかと思う。
対して俺は帰宅部で、卓也と比べるべくもない。自信などかけらもない。
自分の本当の感情を吐露するようなおろかなまねだけは絶対にしたくなかった。

「・・・ひでちゃん、本当の事いってよ。秀ちゃんも、久美ちゃんのことすきなんでしょ?」
「ああいう男みたいなのは興味ないんよ。」
「・・・じゃあ僕が久美ちゃんと付き合っても、かまわないんだよね?」
「いいんじゃない」
昔から、なぜか卓也は俺に対して競争心が強かった。
そのほとんどに俺がまけまくってもなお卓也はなにかにつけて勝負を挑むのを好んだ。
そして、今俺は、最後の勝負を挑まれているようだ。

だが俺はこの勝負、絶対に負けたくなかった。負けるくらいなら、棄権でいい。
477: 2009/07/09(木) 17:37:41 ID:SPYLvqVK(5/9)調 AAS
俺が不眠症なのは最近始まったわけでなく、母が自殺してからだった。
久美の家ですむようになってから、隠していたのだが、彼女にはすぐに夜中うなされていることを見破られた。結局見破られてからは一緒に寝るようになった。
中学生に上がってからは俺はもともと用意されていた部屋に一人で寝るようになった。久美はそれでもかわらず俺のベッドに入ってきたが、俺がもう大丈夫だからという旨を暗闇の中伝えたとき
何が大丈夫なのよ、と言い残して部屋を出て行った。当然その日からまたうなされ始めたわけだが、久美を襲わないように自制するよりはいくばくか気が楽だった。

俺は父と母がまだ健在だったころ、よく父に似ていると母にかわいがられた記憶がある。
俺もそれはそれでうれしかった。父が自殺するまでは。

父はあらゆる劣等感を抱いていたんだ、と今の俺ならわかる。あの遺書の意味するところも。
だから、俺は、努力することで、ある一点でいい、久美を抜けたら、あの過去を忘れられるのではないかと思っている。
そうすれば、悪夢にうなされることもなくなるのではないか。本能的にそう直感が告げていた。そして彼女を抜くため必死で勉強してきたのだ。
だが一度も勝てたことはなく、最近は不眠症状もひどくなってきた。
だから今回のテストで久美を抜けなかったら、もうあきらめようと思っている。
478: 2009/07/09(木) 17:39:59 ID:SPYLvqVK(6/9)調 AAS
久美について

壁に耳を当てる。
時折かすかにうめき声が聞こえた。
「・・・・ばっかじゃないの。」
あのやろうは私を拒んで以来・・・もう3年になるか、悪夢にうなされているようだった。
特にここ最近はひどい。ほぼ毎夜のようにうなされている。まともに寝れているのだろうか。
あたしを拒んだ罰だ、自業自得だ、
そうは思いながらも、本当はあいつのところへいって頭をなででやりたい。
小学生のころ、あたしたちはもっとシンプルであれた。でも今は

この壁が疎ましい。

朝、秀明の部屋の扉をそろ〜りあけると、やつは机に向かってかりかり勉強していた。
シャーペンのその音はまるで秀明の命を削っているようであたしは耐えられなくなった。
「朝から勉強熱心なことね。」
秀明が振り返った。目の下には大きなクマができており、目も充血している。
「ノック位してよ」
「したわよ。」
してないけど。
「・・・今日朝早くおきて眠れなかったから勉強してたんさ」
秀明はそういって目をそらす。
そんな死にそうな状態で勉強なんかしてんじゃないわよ このバカ
「・・・あんた学校休みなさいよ。」
「なんでだし。」
「いや・・・なんでもない。あたしもういくけど、ご飯作っておいたからあっためて食べて。じゃね。」
あいつ・・・大丈夫だろうか。どうみても睡眠不足だ。登校途中で車にひかれたりしないだろうか。
さめてしまった秀明の朝ごはんをレンジで暖めながらぼんやり思った。
・・・なんだか最近あいつのことばっかり考えている。
癪だったので、秀明の弁当をかばんにしまった。学校に持っていってやる。あいつの困る顔が目に浮かんだ。

帰りのHRが終わった。
机の中から教科書を引き出してかばんにしまう。
・・・たまには、秀明とも帰ってみるか。
中学のころは周りの目がなんちゃらとか色気づいたことをいいやがって、あんまり一緒に帰りたがらなかったあいつだったが、
もう高校生だ。そんなこと気にしないだろ。
それに、話したいこともある。

帰りの支度が終わり、秀明の席をみてみると机に突っ伏してあいつは眠っていた。

「おーい秀明ー、もう放課後だぞー起きろー」
私は、秀明の頭を叩く友人の手を全力で握り満面の笑顔で
「コイツはあたしが起こすから、お前はもう帰れ。」
というとひええぇええあひゃああとかいいながら帰っていった。
とにかく、私はコイツに少しでも長く休んでいてほしかった。
479: 2009/07/09(木) 17:41:51 ID:SPYLvqVK(7/9)調 AAS
目を覚ますと、目の前に久美の顔があり、少なからず驚いた。
いや、少なからずというよりは、息が詰まるほど驚いた。それで完全に目が覚めて、体を起こしてみると、日は傾き夕焼けがまぶしい。
もうこんな時間か。
となりで薄笑いを浮かべ、なんかむにゃむにゃ寝言を言う久美をみながらぼーっとしていた。幸せそうだとぼんやり思う。
いつも見ている顔だ。なのになんだか懐かしい。
妙に感傷的な気分だ。って全然柄じゃないか。
「う、んー?」
「おお、やっと起きたか。」
「あ・・・う、うっさいわね!!もうあたしなんかあんたの寝顔見守るの疲れて寝ちゃったわよ!」
言うと、久美は妙に慌て出した。
「じゃなくて!勉強してたら眠くなっちゃった!そんだけ!」
あせあせと机に広げた勉強道具を片付けていく。

これ以上勉強されると追いつけなくなるからやめてほしいのだけれど。

地平線の向こうの太陽の光を反射する雲を見上げる。
日は完全に落ちて、あたりはすっかり暗くなっている。

俺は週に二度か三度、以前俺の引き取りの話があった親戚、つまり叔父さんや叔母さんなのだが、顔を出している。
叔父さんはそこで道場を構えていて、俺は毎回帰宅途中に脚を運んではボロ雑巾のようにめためたにされているのだった。
近所の子供たちに教えているときは、まるで別人の用に優しい笑顔で優しい指導をするのだが、俺との実戦練習のときはまるで鬼のような顔で鬼のような技が出てくる。
叔父いわく、君はセンスがいいから本気でやらないと勝てないんだよねー、だそうだ。
青は藍より出でて藍よりも青し。もう6年以上も通っているんだから一度くらい勝たせてくれよと思う。

俺はこのことをあんまり卓也や久美に知られたくなかった。
だから、なるべく一緒に帰らないようにはしていたので、久美と帰るのは久しぶりだった。
別に何を話すでもないが、別に気まずいわけではない。
沈黙が心地よかった。
480: 2009/07/09(木) 17:42:56 ID:SPYLvqVK(8/9)調 AAS
「あ、あのさー。」
久美が突然切り出す。
「えとですね、えー・・・」
普段は歯切りのいい久美だが、なんかどもっている。
「・・・・この前帰り道に・・・」
「はあ。」
「・・・卓也に告白され・・・たんだけど。」
「そか」
おかしい。
卓也の話では久美はその場で卓也の告白を断った、と聞いている。
ならばなぜ俺にそのことを話す必要があるのか。

「それで付き合うことにしたのか」
「あうん、いやまあ、まだ保留してるんだけど・・・どうすればいいかなーって・・・」
「久美はどうしたいんだよ」
「・・・秀明はどう思うの。」
「久美がしたいようにすればいいと思う。」
「・・・秀明の言うとおりにする、って言ったら?」
「なんだよそれ。」
「言葉通りの意味だけど」
「つまりそれって俺が断ってほしいっていったら久美は断るのか。」
「・・・まあ、そうだけど」
「うーん」

俺は考えるそぶりを見せながら、反対に頭ではまったく違うことをほぼ反射的に考えていた。
そして俺は、その頭に思いついた最低な考えが悪くないと思っている自分に気がついた。
「俺は卓也と付き合ってほしい。」
久美が足を止めた。
俺も足を止める。
蛙の鳴き声が遠くに聞こえた。

久美はほとんど聞こえないようなかすかな声でわかった、とだけいい走り出した。というか家はすぐそこだ。
これでよかったのか・・・・。
卓也は、俺が安易な同情から、いましてしまったことを知ったら憤慨するだろう。少なくとも友達ではいられなくなる。
だが卓也の心中を考えたら、こうする他思いつかなかった。小学生のころからあいつは想っているのだ。
そして、真面目なあいつのことだから転校してもずっと想っているのだろう。

これでいい。

夜がすぐそこまで迫っていた。
481: 2009/07/09(木) 17:46:51 ID:SPYLvqVK(9/9)調 AAS
すいません投下終了ですすいません

半年ROMるって言ったのにすいませんでした。
あと今回題名入れ忘れたので次回入れますすいません。
題名は「ナイト・ホークス」です 意味は特に無いです。
僕の好きな画家の作品から取らせていただいたので、他に好きな方がいたらすいませんでした。
482: 2009/07/09(木) 19:33:50 ID:TovDwO/U(1)調 AAS
さぁ、続きを書くんだ
俺は最後まで読みたいぞ
483: 2009/07/09(木) 23:50:36 ID:bFq+tDQl(1)調 AAS
全裸待機している
484: 2009/07/10(金) 16:19:05 ID:VIGnq+7o(1)調 AAS
あーこんなにはっ倒したくて、それでいて愛おしいキャラは久しぶりだな。>秀明
できれば続き書いてください。
485: 2009/07/11(土) 00:27:10 ID:/gHwRJ9U(1)調 AAS
GJ
続きに期待
486: 2009/07/11(土) 18:17:07 ID:QVZ0i7b0(1)調 AAS
幼馴染のすれ違いかぁ。せつなひ。
書き出しから冷水浴びせられた感じがしてる俺なんぞ、
秀明に幸多きことを祈る、なんぞ思っちゃ間違いなのかな…。
続きが気になるよ
487: 2009/07/14(火) 19:16:20 ID:dW0YscvW(1)調 AAS
画像リンク

488: 2009/07/16(木) 13:34:27 ID:WouI1QRs(1)調 AAS
保守
489: 2009/07/19(日) 21:29:27 ID:Pv6ItL/g(1)調 AAS
つくづく駄目ね、アンタ。
まあ折角だし、保守してあげないこともないわ。
490: 2009/07/20(月) 01:09:32 ID:Wvk4O0Hr(1/6)調 AAS
投下遅れたことをおわびもうしあげます
要望があったようなのではっ倒してみました
491: ないと・ほーくすその2 2009/07/20(月) 01:11:11 ID:Wvk4O0Hr(2/6)調 AAS
駅の乗り場へ続く階段に俺は座っている。                
俺、なにしてんだろう。早く帰らなくては。

階段を下りると、いくつかある、色褪せて硬そうなベンチのひとつに男がたったひとり座っていた。
しわのある背広。まるまった背筋。大きくて、くたびれた背中。

「おとうさん」
父さんは、俺の記憶にある大きな父さんのままだった。
自分の声まで幼くなったような気がする。

父がゆっくりとこちらに振り返った。
穏やかな顔だった。
「しをしった、あなたにきく。いきることとはなにか。」
父は答えない。
俺は父の穏やかな表情を長い間眺めていた。
でも、それは本当に長い間だったかはわからない。
父が口を開いた。
「秀明は、なににおびえているんだい」
おびえている?俺が?
そうか、俺はおびえているのか。
何にだ。

父はまた背中を向けた。
父は答えない。

電車が乗り場に、音もなく入ってきた。
父が立ちあがる。俺は見守る。

父は何かを言った。うまく聞き取れなかった。
電車のドアがしまる。
ゆっくりと動き出していく。
やがて電車の光が闇に溶けた。

乗り場には、俺が一人残っていた。
俺、何してんだろう。早く帰らなくては。
492: ないと・ほーくすその2 2009/07/20(月) 01:12:04 ID:Wvk4O0Hr(3/6)調 AAS
目覚まし時計の轟音が部屋を叩く。
俺は時計の電源を切っておきだした。
今日は二日に分かれてやる試験の一日目である。

部屋から出ると、久美の部屋のドアがあきっぱなしになっていることに気づいた。すでに登校したらしい。
久美の両親は共働きで、夜遅くにならないと帰ってこない。
だから、いつもは食事は久美が作るのだが、昨日は久美が部屋に鍵をかけて閉じこもったから、結局俺が作らざるをえなかった。
昔から彼女は機嫌を損ねればだいたい部屋にこもる。
ちなみに俺の料理は・・・下手の横好きという言葉がある。
だから、久美の部屋の前においておいた料理の盆が消えていることから、ちゃんと食べてくれたかと俺は安堵した。

外に出るとひどい湿気がほほを撫でた。
空は分厚い雲で覆われていて、朝から陰鬱な気分だ

テスト終了のベルが鳴った。
俺はシャーペンを置いて深呼吸をした。
数学のテストは、毎回久美に百点を取られているので、それを阻止するためか、毎回最後の設問にえぐい問題がある。
だが今回はそれがさらに顕著であった。
とりあえず方針を立ててそれに従い最後までといてみたものの、もともとあってないような自信が完全に砕かれたことを感じていた。

俺は淡い絶望を感じながら、憔悴しきって椅子にもたれかかり、天井でせわしく首を回している扇風機の風にあたっている。
あっ!俺の体から真っ白な灰が!とか馬鹿なことを考えていた。

生徒が流れ出ていく校門に卓也を見つけた。
「よ。」
俺は挨拶代わりに軽く片手をあげた。
卓也は何もいわずついてくる。その表情は硬かった。

俺は絶望的な気持ちで空を見上げる。
鉛色の空ごと今にも降ってきそうだった。
493: ないと・ほーくすその2 2009/07/20(月) 01:13:23 ID:Wvk4O0Hr(4/6)調 AAS
お互い無言が続く。この張り詰めた雰囲気はなんだ。いいたいことがあるなら早めにしてほしい。胃に穴が開きそう。
そう思いながらもくもくと歩く。

久美のうちと卓也のうちへの別れ道で、卓也が立ち止まった。

「今日久美から告白された。」
「・・・そうか」
「僕は・・・断ったよ。」
「なんでだよ」
「秀明・・・・久美に何を言ったんだ。」
「なにも言ってねえよ。・・・前は動揺して、卓也の告白を素直に受け取れなかっただけじゃないの。」

ほほに衝撃を感じた。視界が回る。
俺はその衝撃で塀に背中を激突させた。

「久美は泣いていた!泣きながら告白してきたんだぞ!」

頬から鋭い痛みが走った。血の味が口の中で広がる
どうやら俺は殴られたようだった。
「立て、秀明、勝負だ。」

秀明は卓也の顔を仰ぎ見た。
この眼だ。
力強い自信の光が宿っている。
久美の目にも宿っている。
いつも正しくある人間の光だ。
俺はこの光が怖い
494: ないと・ほーくすその2 2009/07/20(月) 01:14:39 ID:Wvk4O0Hr(5/6)調 AAS
「負け戦はしない主義だ。」
卑怯な言い方だ。だがもう何とも戦う気が起きなかった。

「じゃあ僕の不戦勝だ。」
「ああ。」
「敗者は勝者の言うことを聞かなければいけない。」
「・・・ああ。」
償えるなら何でもしてやる、と思った。

「君は久美に告白しなければいけない。」
「なんでだ。」
前言を撤回します。
「・・・教えてやらない。」

俺は立ち上がって制服を手で払った。
「・・・いますぐか」
「自分で考えなよ。」

そういって卓也は歩き出した。
だんだん遠ざかっていく。

俺は一瞬口に出すのをためらった。だが叫んだ。
「お前は、それで、いいのか!」
「いいわけないだろ!」
怒鳴り返された。卓也が走り出す。すぐに角を曲がって姿が見えなくなった。

分かれ道には俺と鋭い痛みだけが残った。

「後悔してばっかりだ・・・。」
首筋にひやりとした冷温を感じた。
空を見上げる。
塵を多く含んだ大粒の雨が顔を叩いた。雨が地面に叩きつけられる音が俺を包んだ。

それは大きい音のはずなのに、俺はなぜだか静寂を感じていた。
495
(1): 2009/07/20(月) 01:23:42 ID:Wvk4O0Hr(6/6)調 AAS
自分は未熟で不器用なもんで、一回で納得できる文がなかなか書けないんですね
なので何回も添削かけるんですが、繰り返してるうちに何かいても納得できないという無限ループに陥ったりします。
なので至らない点が多々あるかと思うんですが、目を通してくださった方にはほんと感謝します。ありがとです
496: 2009/07/20(月) 08:07:28 ID:Y3Xk61sN(1)調 AAS
まぁ、創作するのは大変な作業だとは分かっている
が、俺は続きを読みたいから楽しみに待ってるぜ
書きたいように書くと良い
497: 2009/07/20(月) 10:26:40 ID:sUoU3P/Y(1)調 AAS
スリリングだな
ちょっと下がりすぎたから上げる
498: 2009/07/20(月) 13:57:53 ID:htTQAgb3(1)調 AAS
はっ倒してくれて感謝。
いや秀明は気に入ってんのよ?誤解無きよう。
あーやべぇマジ続きが読みてー。
499: 2009/07/21(火) 16:37:00 ID:YkLRsu8n(1)調 AAS
>>495
しおらしくなる瞬間待ってます
500: 2009/07/27(月) 01:17:17 ID:ZG+vLdD/(1)調 AAS
まだかなー
501: 2009/07/27(月) 14:37:03 ID:D0hhW7nW(1)調 AAS
GJ!頑張って完成させてください
502: 2009/07/30(木) 03:29:41 ID:6WrJpvav(1)調 AAS
楽しみにしてる
503: 2009/08/02(日) 18:03:56 ID:TqFIvVau(1)調 AAS
保守
504: 2009/08/07(金) 13:48:36 ID:HlXSwq2A(1/7)調 AAS
投下します
505: ナイト・ホークスそのさん 2009/08/07(金) 13:49:09 ID:HlXSwq2A(2/7)調 AAS
目を覚ました
ここは俺の知っている、今では見慣れた自室とは違う。
どこだろう?・・・いや、どこだったろう?
つまるところ、俺はこの部屋を知っている。
・・・そうだった。思い出した。思い出して、吐き気を催した。
ここは父と母の寝室だ。
ここは父と母が死んだ部屋だ。

俺はベッドに倒れたままの体をはねおこした。
部屋を照らすものは月明かりしかなく薄暗かった。

汗が滝のように流れる。体が痙攣した。
俺は震えながらも月明かりを頼りに壁沿いに千鳥足でドアを目指す。
ドアノブに手をかける。狂ったようにドアノブをまわした。
だがいくら押してもあかない。引いてもびくとも、きしむ音さえ立てない。それは生と死を分かつ壁のように揺るがなかった。

助けてくれと叫ぼうとしたがのどからはひゅうひゅうとかすれた吐息しか漏れてこなかった。
見るとドアはいつのかにか鏡になっている。俺の顔があるべきそこには父の顔があった。
506: ナイト・ホークスそのさん 2009/08/07(金) 13:49:36 ID:HlXSwq2A(3/7)調 AAS
眼前に斑点状に湿った白いなにかがあった。

なんだこれ。俺の汗か。ノートか。

半ば転げ落ちるようにして勉強机を離れた。大量の汗をかいているのに、寒い。とてつもなく寒かった。
誰か、誰かいないか。母さん、父さん。
いや、そうか、そうだった、いないんだった。俺の家族は誰一人この世にいない。
壁に手をついて肩で息をした。丁度手を突いた先に、写真の中の三人が笑いかけている。俺と、卓也と・・・・

部屋のドアをこじあけて、久美の部屋の前まで走る。ドアの取っ手を回した。・・・しまっている。
おい久美、とドアを叩こうとしてやめた。

なにやってんだ俺は。

取っ手の冷たさが頭を少しだけ冷やした。
久美は昨日から部屋にこもってたんだった。
深呼吸をする。幾分か気持ちが落ち着いた。

と、突然取っ手に押された。
「うっさいわねこんな夜遅くに何してんのよ」
「うをー。」
床に無様に全力でしりもちをついた。痛い。
完全に腰を抜かしたようだった。
「いっ、いやあ、やっ、夜分遅くにすいませんねええへへへ」
「ちょっとあんた大丈夫?!なにその汗!」
顔を両手でがっちりつかまれた。手がひんやりとして気持ちいい反面抑える力が強すぎて痛い。
「だっ大丈夫で・・・」
「うっさい!大丈夫ってゆうな!」
なら聞くなよ、と思った。
「ちょっとタオル取ってくるから、おとなしく待ってなさいよ」

言うとすとすとと風呂場のある一階に降りていった。
かえってきたときに、腰ぬかした、なんて恥ずかしくていえるわけがないので、俺は必死の形相でほふくで自室を目指す。
「おとなしくしてろって言ったわよね」
ちょっと戻ってくるの早すぎやしないだろか。
「まったく、馬鹿じゃないのほんとに・・・」
といって抱き起こされる。俗に言うお姫様抱っこだ。
「くっ久美さん!それだけはやめましょうよ!ほら!」
「黙れ。」
ぴしゃっといわれた。
507
(1): ナイト・ホークスそのさん 2009/08/07(金) 13:50:11 ID:HlXSwq2A(4/7)調 AAS
ベッドに放り投げられる。俺は布団を引き寄せて丸くなった。多分今日のことは一生忘れられないだろう。死のう。死ぬしかない。
「どきなさいよあたしが入れないでしょ。」
というなり俺を足で押しのけてベッドに入ってきた。
「ちょここで寝んのかよ」
「いい加減にしなさいよあんたがいつもうなされてる限りあたしだって安眠できないんだからね。」
全部ばれてたのか。いよいよ死ぬしかなさそうだった。
「いっとくけど襲ってきたら生きたままホルマリン漬けの輪切りにしてやっから覚悟しときなさい。」
久美はどっかのマフィアも猿轡をのどに詰まらせそうなほど怖いことをサラッと言った。
「わかってないな。俺は紳士なんだ。イングリッシュマンなんだ。」
久美に背を向ける。とたんにまぶたが重くなった。久美が背で何かつぶやいていたようだがよく聞こえなかった。
久美と寝るなんていつ振りだろうか。
悪夢の恐怖におびえない夜なんてもうほとんど忘れかけていた。

目を覚ましたときには既に久美はいなかった。
昨日のは夢だったのだろうか。久美が寝ていたあたりの枕のにおいかいでみる。甘いにおいがした。
いかんいかん。あいむあんいんぐりっしゅまん。

下に降りてみると久美がちゃぶ台で朝食をとっていた。その隣でおじさんはビール片手に肩身狭そうにちびちびしている。
久美はめちゃくちゃ機嫌が悪そうだ。
「朝からビールって頭おかしいんじゃないの」
おじさんはさらに縮こまる。こころなしかビールを持つ手が震えていた。

すると、なんともきまずそうにテレビを見ていたおじさんの目がこちらへ向いた。
「お、おお、秀明いたのか、話がある。」
というが早いか俺の手を掴んで台所まで連れて行かれる。
「おい、秀明、おぬし久美に一体何をしたんだ。たまの休みくらい朝から酒飲んだっていいだろう。なのになんだあのキレ方は」
俺が起きてくる前に何をされたかはわからないが、さっき震えているように見えたのは気のせいでないということはわかった。ものすごい気の毒に思った。
「俺にもわからないですよ。あの、おばさんは?」
「ん、ああ。なんだかな。今日会議で企画だかなんやらを発表するらしくてな。発表内容のパワーポイントの最終調整だとかで朝早くに出て行った。」

「秀明!遅れんわよ!」
おじさんは久美の叫び声にヒッ、と小さく声を上げると、「じゃ、じゃあ後はおぬしに任せたぞ。うまくやれよ」といってそそくさ二階へあがっていった。気の毒すぎた。
508: ナイト・ホークスそのさん 2009/08/07(金) 13:53:43 ID:HlXSwq2A(5/7)調 AAS
悪夢のようなテスト期間が終わりを告げ、クラスは爽快感と開放感に満ち溢れていた。今日は金曜というからなおさらだ。
そこらじゅうで遊ぶ計画を立てている。

「秀明ー、今日カラオケ行かない?」
「うん、行かない。」俺は答える。
「なんだよーつれねーなー」
というとまた友人の輪の中に戻っていった。
そんなこと言うんなら否定形で聞いてくるなよ。しかしそれが日本人というものかもしれない。

カラオケは嫌いじゃないが、俺としてはテスト結果が帰ってくるまではもろ手を挙げて遊びに興じるなんてできそうもなかった。

テストの出来を確認するのはもう毎回恒例となっている。
当然、いつもそれとなく聞いてるわけだが。
「これからカラオケ行かないか」
冷たい目で一瞥された。
「冗談だけどさ・・・」
「テストどうだったのよ。そんな軽口たたけるからさぞよかったんでしょーね。」
聞こうとしたことを先に聞かれてしまった。なにやってるんだ俺は。
「だめでした」
「それ以外聞いたことないんだけど。」
「だろうよ。」
誰も彼女に向かってよくできたなんて言えないだろうよ
「久美はどうなん」
「まあまあね」
「はあ。」
まあまあですか、俺もこれ以外聞いたことがないきがする。そしてそのたび涙を呑んでいる。
これでは勉強期間より待ってるほうがつらいかもしれない。
・・・なんだか疲れた。腹のそこに泥のように積もった疲労感があった。
509: ナイト・ホークスそのさん 2009/08/07(金) 13:55:42 ID:HlXSwq2A(6/7)調 AAS
木の寿命か、すっかり重くなった引き戸をがんばって引く。懐かしいにおいがした。
中をのぞいてみると先生が近所の子供たちに稽古をつけていた。
「こんにちはー」
こんにちはー、お兄ちゃん久しぶりー、と囲まれた。もうすっかり顔なじみの子ばかりだ。

「ああ、久しぶりに来たところで悪いんだけど秀明君、この子達に稽古つけてくれないか。
ちょっと娘を幼稚園に迎えに行かなきゃならない時間なんでね。」
とにやけながらの先生。
「はあ、いいですけど」
やったー、お兄ちゃんーあそぼーと黄色い声が館内に響く。じゃあよろしくと先生は出て行ってしまった。

稽古をつけると先生は言ったが、実際のところはいわゆるお守りだ。
前に、初めて稽古を頼まれたときにまじめに稽古をつけてやろうとしたが誰一人従う子はいなかった。いや、近所の綾子ちゃんだけは俺の言うことを聞いてくれたか。
一人だけ女の子が味方についてくれた時は年甲斐もなく目頭が熱くなった。

「ねねー、今日は何して遊ぶのー?」
遊ぶじゃないよ、まったく。
不思議なことに、先生の指導にはまじめに従うのに、俺には全然従わない。子供たちはちゃんとわかってるんだなぁとそう思う。
「はい、じゃあまずは基本から」
師いわく、うちの流派はなんでも護身用だそうで、相手の攻撃をのらりくらり受け流す動作が基本である。
こちらからの攻めはけっして主力でなく、相手の攻撃を誘う一種のおとり動作と教わった。

えーあそばないのーと抗議が殺到する。群がられてなんかぽこぽこなぐられる。

「やっっかましいわ!ひでにーの言うこと聞けこの愚民どもが!」
すると突然叫び声が耳を貫いた。
館内は一瞬で静まり返る。それからすぐに子供たちはそそくさと二人組みになり基本練習をはじめた。
・・・愚民・・・・?いや、なにかの聞き間違いだろう・・・。

「いやーありがとう綾子ちゃん・・・綾子ちゃんだけだよ言うこと聞いてくれるの」
「いっ!いえそんな!ひで兄さんにはいつも教わっていて悪いですし・・・」
と顔を赤くして照れている。
いい子だ・・・。ほろりとなった。

でも、綾子ちゃんの言うことは聞くのに、俺の言うことは聞かないって。なんだろう、この気持ち。

哀愁にふけっていると突然、綾子ちゃんの笑顔がかすんだ。俺は足をもつらせて派手に転ぶ。
「いてて・・」
「だっ大丈夫ですか!顔色悪いですよ」
「ああ・・・だいじょうぶ・・・」
心配かけまいと、すぐに立ち上がろうとしたが足に力が入らず体制を崩して床に体をほうった。
吐き気と頭痛が交互に襲ってくる。大丈夫じゃないことは自分が一番よくわかった。
「ごめん・・・ちょっと疲れただけ・・」
それは自分に言っているのか綾子ちゃんに言っているのかわからなかったが
何とかそういって俺は壁に背をもたれる。胸が苦しい。視界の黒い斑点が次第に大きくなっていった。
「・・・!・・・・・!」
綾子ちゃんが何か叫んでいる。俺は答えようとして、息を激しく吐き出すことしかできなかった。
510: ナイト・ホークスそのさん 2009/08/07(金) 14:01:22 ID:HlXSwq2A(7/7)調 AAS
>>507に訂正があります。すいませんでした
×>下に降りてみると久美がちゃぶ台で・・・・・・
○>下に降りてみると久美がダイニングテーブルで・・・・・
ちゃぶ台って何でしょうね。サザエさんですかね。
511: 2009/08/07(金) 20:38:43 ID:5fruQ2aT(1)調 AAS
つづききてたー
しおらしくなる瞬間が楽しみです
気長に待ってます
512: 2009/08/07(金) 21:36:45 ID:ajoYO9kl(1)調 AAS
なんという引き……!
wktkせざるをえない。

>ちゃぶ台
キレた久美がひっくり返すんだろうと思ってたが、そんなことはなかったぜ!
513: 2009/08/08(土) 10:53:26 ID:tZJl2Wfd(1)調 AAS
和風な家なのかとおもったぜ
514
(1): 2009/08/08(土) 20:27:07 ID:3ATlurrr(1)調 AAS
股引きに腹巻にタオル鉢巻きした綾子を妄想しかけて止まった
515: 2009/08/09(日) 15:52:58 ID:thdYSn7j(1)調 AAS
>>514
いや、そのまま続けて。
516: 2009/08/11(火) 21:45:21 ID:guotz5Nz(1)調 AAS
気がつくとドライアイになりそうなくらい読みふけってたぜ
ナイトホークスの人GJ!!
517: 2009/08/16(日) 22:40:56 ID:r2BC944p(1)調 AAS
保守
518: 2009/08/19(水) 19:46:55 ID:wDsEp1mb(1)調 AAS
age
519: 2009/08/22(土) 02:24:39 ID:4tVjlks3(1)調 AAS
ほしゆ
520: 2009/08/25(火) 16:01:31 ID:zLry3ANI(1)調 AAS
ほしゅあげ
521: 2009/08/27(木) 00:46:51 ID:Jirx83Sl(1)調 AAS

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