[過去ログ] あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part313 (750レス)
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(5): 2012/07/07(土) 18:38:22.71 ID:8DOw3BhB(1)調 AA×
>>950

2chスレ:anichara
外部リンク:www35.atwiki.jp
したらば板:otaku_9616
624: 2012/07/25(水) 20:23:23.84 ID:O6Ff9LnZ(1)調 AAS
真・雀鬼の倉田てつをさんは渋かっこいい
シミケンの賽を止めたのは笑ったな
625: デュープリズムゼロの人 [sage ] 2012/07/25(水) 20:31:54.53 ID:wUfjKck4(3/10)調 AAS
第三十話『愛に全てを』

「で…アンリエッタが消えてから直ぐにここに来たって訳ね…」

「はい、女王陛下からは何か有事の際にはあなた方を頼れと…城内の誰よりも、あなた方お二人は信ずるに値する唯一無二の親友であると私は聴いております…故に、恥を忍んでお願いしたい!どうか、女王陛下の捜索にご助力を!!」

惚れ薬の解毒も完了し、先日のラグドリアン湖での一件がようやく片付いたと思えば間を置かず現れた新たな面倒事にミントは露骨に肩を落として項垂れた…
双月が空を彩る頃、魔法学園のルイズの部屋にアンリエッタ消失の報を持って突然訪ねてきたのは女王近衛隊、通称『銃士隊』の隊長であるアニエス・シュバリエ・ド・ミランだった。
元平民にして先のタルブ開戦の武勲からシュバリエの称号を承けて、現在、メイジ延いては貴族不信に半ば陥っているアンリエッタの側近として徴用された女傑である。
既にアニエスとミント達は以前に城で面通しが行われていたので互いの事情は良く知っている…

「で…どうする、ルイズ?」
ミントは腰掛けた椅子の背もたれに寄りかかり、首をだらりと後方へと寝かせてベッドの上で寝間着から制服へと大慌てに着替えて身支度を調えるルイズに訪ねる。

「決まってるでしょ!?直ぐにお城に向かうわ!!」

「はい、はい…それじゃあ、あたしはタバサにシルフィード出して貰えるように頼んでくるわ。ここでこの間のタバサへの貸し一つチャラになるのは勿体無いけどそうも言ってられないしね…」

「えぇ、お願いねっ!!」

黒色のタイツにその細い足を通しながら、まるで食堂に食事にでも向かうかのようにいつもと変わらない足取りで部屋を出て行くミントをルイズは見送った…と、同時に慌てて着替えていた弊害か、タイツを穿いている姿勢でベッドへと倒れ込んだ…

「ミス・ヴァリエール、女王陛下の事何とぞお願い致します…」

「えぇ、任せて!!何があろうと陛下は私達が取り戻すわ!!」
626: デュープリズムゼロの人 [sage ] 2012/07/25(水) 20:35:49.72 ID:wUfjKck4(4/10)調 AAS
畏まるアニエスにルイズは締まらない姿勢のまま力強く答えたのだった…

_____ トリステイン領 ラグドリアン湖周辺上空

あの後、タバサは二言返事でミント達にシルフィードの貸し出しと任務への協力を申し出た。同時に、その時偶然一緒に居たキュルケも共に行く事になったのだが…
国家の大事に外国からの留学生二人をも巻き込む事に難色を僅かに示したルイズだったがミントの身もふたも無い一言に納得せざるを得なくなる…
「ていうか、この四人でトリステインの人間あんただけじゃん、今更何言ってんの?」

そんな訳で、シルフィードの最高速度でトリステイン王城に辿り着いた一行は、ルイズの女王付き女官の特権から魔法衛士隊の隊長から捜査状況等の一切合切を聞きだした…

曰く、王女は賊に連れ去られ、又その賊に対してアンリエッタが抵抗した様子は見られず、直ぐに異変に気が付いた女中の報告でラグドリアン方面へと逃げた賊を追い、現状でのトリステイン最速のヒポグリフ隊が追撃を行い、逃亡する賊の足を止めているであろう事…

ラグドリアン湖方面への街道に沿って、四人を乗せたシルフィードは全速力で飛行し続け、また、タバサもシルフィードの疲労を和らげる為、魔法を使い続けていた…
一行に不安と焦りが見え隠れする中、一刻が経過した頃、街道の脇に数頭のヒポグリフと幾名かの魔法衛士隊の隊員が倒れている姿をシルフィードが発見した…

「酷い…」
ルイズは口元を覆いその凄惨な光景を見回す…余程激しい闘いになったのであろうか、街道は焼け、抉れ、また地に伏した隊員達は皆一様に深い致命傷を負って絶命していた…

「ぅ…う…」
そんな中でもたった一人だけ、辛うじて息がある隊員がいた…
「大丈夫っ!?何があったの??姫様は!?」

直ぐさまルイズ達はその隊員へ駆け寄り、応急処置を行いながら声をかける。すると、隊員は激痛に苛まれながらも辛うじて言葉を紡ごうと口を開き始めた…
627: 2012/07/25(水) 20:40:51.79 ID:dRfWjHQ2(1/2)調 AAS
支援するよー
628: デュープリズムゼロの人 [sage ] 2012/07/25(水) 20:40:54.47 ID:wUfjKck4(5/10)調 AAS
「確かに…首を落としたのに、うぅ…心臓だって…あいつ等はなんで死なないんだよ…」

まるで魘されるようにそう言い残すと隊員は気を失ってしまった…何にせよ周囲には馬の足跡が残っている以上、賊は引き続き王女を連れて逃亡をしている事が覗える…

(首を撥ねても死なない?…嫌な予感しかしないわね…)

隊員の言葉に全員が困惑を浮かべる中で、ミントはタバサを急かすようにいち早く、シルフィードの背に飛び乗ると未だ予断を許さないこの状況に対し、忌々しそうに唇を噛んだ…

それからしばらくシルフィードで賊を再び追っているとラグドリアン湖の湖畔近くで今度こそターゲットである賊の一行を全員の目が捉えた…
先日精霊を訪ねた場所とは大分離れた場所ではあり、これより先は木々も深く、捜索も追跡も難易度が格段に上がる事となる。ここで追いつく事が出来たのはミント達にとっての行幸だ。

「あんた達、止まりなさーい!!」

賊の進路を塞ぐように、先回りしたシルフィードの背からミントとキュルケはそれぞれ炎の魔法で馬を狙い、嘶きながら馬は火に囲まれた事によって目論見通りに足を止める。
そうしてようやく同じ大地に足を揃えて賊と相対してみれば、賊の先頭に立つフードで顔を隠したリーダーらしき男の乗る馬の背には確かに顔を伏せて震えるアンリエッタの姿があった…

「姫様!!お助けに参りました!!」
「どこの誰だか知らないけど舐めた真似してくれたわね。アンリエッタを返してもらうわよ!!」

「ルイズ…ミントさん…」
ミントとルイズの言葉にアンリエッタは一際大きく震え、顔を上げると二人の姿を確認した。しかし、アンリエッタはその事で安堵をしたと言うよりはますます憂いと困惑をその顔へと浮かび上がらせる…

そのアンリエッタの様子にミントは少々違和感を覚えたもののアンリエッタの奪還を行うと言う事に変わりは無い。ミントが戦闘態勢に移りデュアルハーロウを構えるとルイズ達も杖を抜いて賊の一行へと最大限の警戒へと移った。
629: デュープリズムゼロの人 [sage ] 2012/07/25(水) 20:47:52.19 ID:wUfjKck4(6/10)調 AAS
それに会わせて誘拐犯達もリーダーを除き、馬から降りて杖を構える…その数は5名。普通に考えて魔法衛士隊の一個小隊を圧倒するには余りに戦力が少ない。

と、ここで続けてリーダーらしき人物もゆっくりと馬から下りる…

「久しぶりだね…ミント君、ミス・ヴァリエール…」

フードで顔を隠した男は言いながら両の足で地面を踏み締め、アンリエッタにも馬から下りる事を促すよう、紳士的に手を差し出した。
その手をアンリエッタは俯いたままおずおずとしながらも自らとって馬から下りる…

「フフフ…こうして僕が再びアンと出会えたのは君達がしっかりとアンを守ってくれていたお陰なのだろうね…」

「あんた…まさか…」

アンリエッタと並び立つ男の声と言いぐさにミントは覚えがあった…だからこそ解せないとばかりに表情は硬く強張る…
ミントのリアクションが期待した物だったのか男は不敵に笑いながら、ゆっくりと頭を覆っていた外套のフードを外しはじめた。

じっとりとした緊張感の最中、現れたのは鮮やかな金の髪、端正な顔立ち…見間違える事等あり得ない、それはあの日ワルドによってルイズの目の前で殺されたはずの紛う事無いウェールズ・テューダーその人の姿であった…

「ウェー…ルズ…皇太子」
驚愕に染まり、限界まで瞳を見開いたルイズが辛うじてその名を呼ぶ…

「ちょっと、どういう事よ?ウェールズ皇太子って死んだんでしょ?それが何で…」
キュルケが口にした疑問はこの場に居る誰もが思っている事であった。

「ウェールズ様、何故お亡くなりになった筈の貴方がこの様な事を!?」

「簡単な事だよミス・ヴァリエール。君達がアルビオンを発ってからあの後、私は偉大なクロムウェル皇帝の虚無によって再びこの世に生を受けた。残念ながら大恩ある皇帝は獄中死されてしまったらしいがね…
その恩に報いる為に、そして、神聖アルビオン帝国、延いてはハルケギニアの明日の為に、僕は愛するアンリエッタを迎えに来たんだよ。僕たち二人ならばそれが出来る。」
630: デュープリズムゼロの人 [sage ] 2012/07/25(水) 20:53:12.56 ID:wUfjKck4(7/10)調 AAS
言ってウェールズはニヤリと笑みを溢すとその手でアンリエッタの肩を抱く。
アンリエッタも一度ビクリと身体を震わせるも、結局はウェールズへとその身体を委ねてしまい、まるでルイズ達に会わす顔が無いと言わんばかりに唯々その視線は足下を泳ぎ続ける…

「お願い、愚かなわたくしを許してルイズ…」
「そんな…姫様!」

アンリエッタの言葉にルイズの表情からは血の気が引いていく…
この状況、幾ら他国の人間とはいえ、キュルケとタバサにとっても余りに大きすぎる…場を絶望が覆おうとしていた…

だが、ルイズとアンリエッタがどれ程、苦しもうが悩もうがそんな物は一切関係の無い少女がこの場には居た…

「で?」

突如、何の前触れも警告も無く、ミントは『アロー』の魔法で誘拐犯の一人の胸部を貫いた。人の頭程の大きさの穴を胸に穿たれて生きている人間が居ようはずも無く、アローの直撃を受けたメイジの身体は地面に伏せる…

「そりゃああんたがあのウェールズでアンがそれを望むなら、このままどこへでも行けば良いけど、あんたはウェールズじゃないわ。『アンドバリの指輪』に操られてる唯の人形よ。
少なくとも、あたしが知ってるウェールズの中身はあんたじゃ無いし、アン、あんたもこのまま付いてけばどうなるか位想像つくでしょ?」
言ってミントは自信満々な態度を示すようにデュアルハーロウを手の中でクルリと遊ばせると再び構えをとって魔法の照準をウェールズへと向けた。

「ミントさん!!」
これに反応したアンリエッタは思わず反射的に水晶の杖を震える手でミントへと向ける…
アンリエッタにもミントが言った様に解っているのだ…この自分の目の前のウェールズがまやかしであるという事は。しかしそれでもアンリエッタはそのまやかしに縋り付かざるをえないのだ…

「良い覚悟ね、アン…こういう事になったのは残念だけど、あたしはウェールズの心とあんたを助ける為にも全力で行くわよ。精々壁でも作って自分とウェールズを守りなさい。」
631: デュープリズムゼロの人 [sage ] 2012/07/25(水) 20:57:20.02 ID:wUfjKck4(8/10)調 AAS
「やれやれ仕方ないな…僕とアンの道を阻むならば、残念だが君達にはここで死んでもらうとしよう。」

ミントに対してウェールズも不敵な笑みを絶やす事無くアンリエッタを庇うように一歩前へと進み出ると杖を抜いて構える。続いてウェールズへと随行していた内、無事な4人のメイジもそれぞれ杖を傾けると呪文の詠唱を始めた…

だが次の瞬間、突然ミントの両脇をすり抜けるかのような軌道で、街道を走る強烈な熱を帯びた鎌鼬がウェールズとアンリエッタを避ける形でアルビオンのメイジ達を襲う!

「愛しあう王族二人の逃避行…この演劇、応援したいのは山々ですが、残念ながらわたくしが見たいのはハッピーエンドですの、アンリエッタ王女殿下。」
「…このままじゃ色々台無し。」

キュルケとタバサは再び杖を構えてミントの隣に並び立つ…と、先程の魔法によるダメージの少なかったメイジの一人がが立ち上がろうとした瞬間、その身体は突如爆発に包まれ後方へと吹き飛んだ…
ミントはその光景にニヤリと口元を緩める…

「…勝手に話を進めないでよね…陛下をお救いするのは私なんだから。」

「あんたが変に悩んでるからでしょうが。」

キュルケとミントの間からズイとルイズが歩み出る。その瞳には迷いも戸惑いも無い…
ミントもタバサもキュルケも知っている…こういう目をした時のルイズの心は本当に強いのだと言う事を…

「ルイズ…貴女までわたくしの邪魔をするの?わたくしはただウェールズ様と共に居たいだけなのに…」

「…はい、申し訳ありませんがこのまま女王陛下を行かせる訳には参りません。真の忠誠と友情を尽くす為に、このルイズ・フランソワーズ、今この時だけはこの杖を女王陛下へ向けさせて頂きます!!」
ルイズははっきりと言い切るとその杖の切っ先をウェールズとアンリエッタへと向けて又一歩を踏み出す…それに会わせてアンリエッタはルイズのその行動にショックを受けたのか口元を押さえて一歩ヨロヨロと下がる…

「アン…心配する事は無い。君は僕が必ず守るから…だから君は唯僕にその身を委ねてくれれば良いんだ。それにアルビオンの勇者達はあの程度では倒れないよ…絶対にね。」
632: デュープリズムゼロの人 [sage ] 2012/07/25(水) 20:59:17.60 ID:wUfjKck4(9/10)調 AAS
アンリエッタの不安を拭うようにウェールズが言うと同時に後方でタバサ達の魔法の直撃を受けて倒れていたメイジ達が立ち上がる。
そればかりかミントの魔法で致命傷を受けていた一人までもが平然と立ち上がる…それだけでも十分異様だが、さらに不可思議な事に彼等全員は既に傷一つ無い健全な身体を取り戻していたのだった…

「嘘…」

「これがあの隊員さんが言ってた事なのね…」

「…………」

「フフフ…これが、クロムウェル皇帝の虚無の力さ…」

「アンドバリの指輪の力でしょう?」

ウェールズの含み笑いをミントは鼻で笑う。ウェールズが指輪の力を虚無の力だと本気で信じているのなら滑稽な話だ…
ミントはそんなウェールズと睨み合うとデュアルハーロウを構え直す…

アンリエッタの事をミントはバカだと思う…それでも…だからこそこの様な…死者を冒涜し、乙女の恋心を陵辱するような真似がミントには許せなかった…

そう、唯許せなかったのだ…

正義の味方でも愛の使者でも無いミントが戦う理由は唯一つ、レコンキスタのやり方が陰険で陰湿で腹が立つからなのだから…
633
(1): デュープリズムゼロの人 [sage ] 2012/07/25(水) 21:01:55.05 ID:wUfjKck4(10/10)調 AAS
以上で終わりです。まだしばらくは原作の大まかな流れを追う形になりますが
早い所話を進められるように頑張りたいです。
それでは、また。
634: 2012/07/25(水) 21:09:44.02 ID:RtXE3IYh(1)調 AAS
ちょっと三点リーダ多いカモ?
ともあれ乙でした
635: 2012/07/25(水) 21:59:28.89 ID:YsOT2wVC(1)調 AAS
>>619

幹部連中忘れてるかもしれないがBLACKの変身機能破壊して太陽に向かって宇宙に捨てた筈なのに
RXに進化して生身で大気圏突入して帰ってきたのが光太郎・・・・・・

未来から増援に来なくてもホントどうしようもないなおい
636: 2012/07/25(水) 22:28:19.07 ID:cTjbEH+6(1)調 AAS
>>633
デュープリの人乙です
最近読んでるなかでこの辺まで話が進んだのもひさしぶりな希ガス
637: 2012/07/25(水) 22:48:59.94 ID:re6AQioG(1)調 AAS
投下乙

RXがきたらエルフの毒もバイオライダーで血清が作れるな
RXも空は飛べないから空中戦なら勝ち目が・・・と思ったがバイオライダーになられたら攻撃当たらないな
638: 2012/07/25(水) 22:58:28.99 ID:gQggCyeH(1)調 AAS
アトリームにもRXはいましたよ
639: 2012/07/25(水) 23:21:32.32 ID:P9E7bIM/(1)調 AAS
地球のRXとは比較にならないほど強力なRXがね
640: ゼロのドリフターズ ◆IxJB3NtNzY 2012/07/25(水) 23:33:36.81 ID:W/Y5xTEC(1/9)調 AAS
こんばんは、40分くらいから投下します。
641: ゼロのドリフターズ-12 2012/07/25(水) 23:40:14.37 ID:W/Y5xTEC(2/9)調 AAS
「随分と派手にやったみたいだねえ」
キッドは見渡しながら軽く言った。姿は相当汚れてはいるものの、シャルロットに怪我はないように見受けられる。
とにかく大技をぶつけ合い、シャルロットが勝ったのだろうという程度の認識。
いつだったかのフーケ戦で披露した実力とあのインパクトたるや凄絶の一言。
よもやシャルロットが追い詰められたほどの死闘があったことは、露知るわけもなかった。

「はい・・・・・・まぁ」
シャルロットはなんとはないバツの悪さに返答を濁すも、キッドは特段気にした風を見せなかったのでそのまま続ける。
「ところでキッドさん、"スキルニル"の父様は?」
セレスタンと呼ばれた残党を捕えて、どこかに待たせてあるのだろうか。
一体どこで手に入れてきたのか、キッドだけが馬に乗って戻って来るなんて少し不自然ではあった。
「ああ、それがちょっと面倒なことになってね――」

 キッドがどこから説明しようかと迷っていると、シャルロットが長くなりそうな気配に話を止める。
「いえ・・・・・・とりあえず後にしましょう。街道沿いで今まさに誰かがやって来るとも限りません」
「ん、そうだな。それと、この馬借り物だから・・・・・・――」
――『フライ』で飛んで行くことは無理だということ伝える。
「わかりました、急ぎましょう」

 シャルロット一人で『飛行』することも考えるが、正直しんどかった。
長年溜めた精神力そのものに未だ余裕はあるものの、心労が別として蓄積されている。
残党の元へ案内される手前、空を飛びながら歩調を合わせるのはなおのこときつい。

 無事に残っている馬を探す途中で、シャルロットは散乱する死体に目を向けた。
本来であれば敵だったとはいえ、死ねばそれで終わりだ。敵も味方もない。
無惨な亡骸を埋めて形だけでも整えてやろうかとも思うものの、後々のことを考えればそういうわけにもいかない。
時間的にも惜しい。放置していくしか選択肢はなかった。

 シャルロットはあれほどの大激闘の中でも暴走せずに、かつ生き残った、優秀で屈強な軍馬を馬車の裏側に一頭見つける。
多少火傷を負っているようだったので、治癒魔法を掛けてやると馬の鞍に跨った。
その間にキッドは、散乱したガーゴイルは放置して"スキルニル"だけを回収していた。

 "スキルニル"。血液を基に容姿に人格、その能力までも再現するという脅威の魔道具。
古代の頃はそのスキルニルを使って、戦争ごっこに興じたという話もある。
今でこそ数は少ないが、スキルニルを使うことで今回の策は成り立ったと言って良かった。
旧ガリア王家の遺産。非常に希少なマジック・アイテム。
ウェールズと側近数名と、シャルルの血液を使って、スキルニルは魔法人形としてある種の"命"を保有した。
642: ゼロのドリフターズ-12 2012/07/25(水) 23:40:52.03 ID:W/Y5xTEC(3/9)調 AAS
 『ミョズニトニルン』。魔道具を自由自在に操る能力。
それは当然魔道具が強力であればあるほどに、ミョズニトニルンが保有する戦力も強大なものとなる。
ガンダールヴは自身が地を駆け、眼前の敵を打ち倒す、一騎当千の猛者ならば――。
ミョズニトニルンは道具次第で、文字通り一個軍団を、自由に扱える将軍なのだ。

 首都からのパレード。傭兵部隊の撃退。貴族派の情報入手。敵の捕縛。
これら全てが実質的に、シャルロットとキッドのたった二人によって挙げられた大戦果である。
ミョズニトニルンとスキルニルが組み合わさったことで実現したこと。

(姉さんに感謝・・・・・・)
遠くトリステイン魔法学院にいるイザベラ。本来"スキルニル"は彼女の私物だ。
シャルロットの持つ"地下水"と"土のルビー"。ジョゼットの持つ元オルレアン家の由緒ある"長杖"と"始祖の香炉"。
それらと同様に、伯父ジョゼフへと分けられイザベラに継承されたのがスキルニル他魔道具類。
ミョズニトニルンの話を聞いたイザベラは「どうせ使わないから」と、全部よこしてくれた。
最初こそ悪いと断ったものの、今回のアルビオンへの極秘特使の折。
「一応・・・・・・」と借り受ける形で、改めて預かってきた物がこれ以上ないくらいに役に立った。

 スキルニルとガーゴイルの混成部隊。実際の人間は僅かに二人のみ。
本物のウェールズは安全を確保しつつ、かつコピーの方がパレードで国を沸かせ貴族派を抑える。
それはある意味国民を騙す行為であった。本物だと思っているのが人形なのだから――。
しかしスキルニルの精度は本物と遜色ないほどで、それもまた一つの命と言えるほどである。
ウェールズに扮したスキルニルの思考や態度は、本物のウェールズのそれとなんら変わらない。

 さらには偽物のウェールズは、それ自体が餌の役割を果たす意義もあった。
護衛の数も最低限にして、未だ明瞭としない貴族派を燻し出す試み。
それらがピタリと嵌まってくれた。ウェールズ人形が焼かれたのは想定外だったが、目的地は既に近く。誤魔化しはどうとでもなる。

 背に腹は代えられぬ――後顧の憂いを取り払う為にも、国と民の為にウェールズが決断したこと。
王党派はお世辞にも安定しているとは言えず、正直危うい状況であった。
言い方は悪いが、ウェールズはアンリエッタほど・・・・・・理想主義者でもなく甘くもない。
必要とあれば今回程度の措置は辞さないくらいの心持ちはあったのだった。

 シャルロットとキッドは用を終えるとすぐにその場を離れる。
相当な修羅場だった。派手なドンパチ、街道沿いである以上すぐに誰かしらがやって来る。
以降は問題ないだろう、皇太子一行が襲われたことは一目瞭然だ。
ウェールズの死体は影も形もない。真実を知る者は自分達しかいない。
メンヌヴィルの炎の所為で相当燃えて灰になったが、逆にそれがガーゴイルの多さなどを包み隠してくれる。
643: ゼロのドリフターズ-12 2012/07/25(水) 23:41:49.60 ID:W/Y5xTEC(4/9)調 AAS
 後は襲われながらも無事ロサイスへと辿り着いたウェールズは、卑怯にも刺客を差し向けた貴族派を糾弾するようなシナリオになるだろう。
シャルロットが得た情報も役に立つし、残党の一人も尋問するか、スキルニルを使って記憶を引き出せばより明らかになる。
しかも『白炎』のメンヌヴィルは名の売れたメイジで、その部隊も精強で知られている。
そんな傭兵部隊を退け生き残ったウェールズは、強き英雄としてより一層の支持を得ることだろう。

 上手く行き過ぎていることに、シャルロットはなんとなく一抹の不安を感じた。
自分が死に掛けたものの――大局的・戦略的に見るならばあまりにも出来過ぎている。
(もし私が死んでいたとしても・・・・・・)
特に問題はなかった。メンヌヴィルはどの道、死を待つ状態だった。
現場検証を行えば、不自然に埋められた穴の中の紙にも気付くことだろう。
後はそこからどう推理するかであるが――その名がどういう意味を持つのか。
いずれにせよ書かれた貴族が槍玉にあげられるのは間違いない。

(神経過敏になっている、か)
一度は己の浅慮によって"己の死"を垣間見たのだ。何事も警戒するのも無理はない。
シャルロットは深呼吸をしつつ、馬上でようやくはっきりと気を抜いた。
新鮮な酸素が体の先々まで駆け巡り、頭の中がクリアになっていく。

 ――戦場が遠く眺めるくらいまで馬を走らせ、その後はゆっくりと並走ならぬ平歩になる。
そんな頃にはようやくもって落ち着いてきていて、僅かばかりの心の安寧にシャルロットは浸った。



「人質!?」
「あぁ、もちろん無事に済んだけどね。ただその時に――」
シャルルのスキルニルがやられたとキッドは説明する。

 セレスタンと言う名の残党はシャルルとキッドから逃げ切れぬと見るや、直近の森に入って撒こうとした。
森の中には村があり、しかもタイミング悪く住民らしい少女が人質にとられた。
脅えてうずくまる少女に残党は魔法の刃を突きつけた。

 キッドとしては別に見ず知らずの他人が死のうが構わなかった。
しかしシャルルとしてはそう割り切れるものでもなかった。ましてスキルニルであるから惜しむ命でもない。
性格まで反映されるスキルニルならではの人形の感情。
キッドはミョズニトニルンの力で無理やり"命令"を下すことも出来たが・・・・・・しなかった。
無関係な人間が死ぬのも仕方ないと思う反面、ウェールズへの心象は悪くなるだろうと。
どうせなら完璧に任務をこなした方が、何の負い目も気兼ねもなく報酬を要求出来る。

 シャルルは杖を捨て、素手の身を晒した。
当然残党は人質を解放する気などなく、杖に絡みつく刃でシャルルを貫いた。
刃を刺したことで止まった手を、キッドはクイックドロウで撃ち抜く。
さらにミョズニトニルンの効果で、機能を失いつつあるスキルニルを強引に動かした。
644: 2012/07/25(水) 23:41:59.02 ID:dRfWjHQ2(2/2)調 AAS
支援するよー
645: ゼロのドリフターズ-12 2012/07/25(水) 23:42:23.66 ID:W/Y5xTEC(5/9)調 AAS
 手が撃たれたことで杖を落とした残党を、シャルルは体術によって組み伏せる。
魔法の刃も解かれ、穴が空いたスキルニルはそのまま機能を停止し、キッドはすぐさま追い打ちをかけて気絶させた。
人質だった少女は無事救出され、セレスタンは縄で四肢を厳重に縛られた。
シャルルが既にいないのでキッドは迷った挙句、まずシャルロットと合流することにした。
残党はとりあえずそのまま捨て置き、村で馬を借りて戻って来た――というのが仔細であった。

「なるほど・・・・・・わかりました。最良の判断かと」
「連絡はどうする?」
キッドが懐から全く別の人形を取り出す。それもまたイザベラから預かった魔道具だった。

「ん・・・・・・そうですね、まずは残党を回収しましょう。伝達内容をまとめる必要もありますし」



 森に着くと、少し前までその身を置いていた戦場とはうってかわって、別空間であった。
木漏れ日が差し込み、木々の香りが漂う自然の音しか存在しない柔らかな森林。
どこかで荒みつつ震えていた心が、そこにいるだけで静けさを取り戻していく。
さらに進んでいくと、木々の合間に同化するように素朴な家がいくつか、寄り添うように建っていた。

「あ!!さっきのヒゲ!!」
「ヒゲだー」
「おひげ〜」
するとたちまち小さい広場にいた子供達がわらわらと集まってくる。
キッドは何人もの子供に囲まれて、馬の上からでもたじたじのようだ。

「ねーちゃんだれ〜?」
一人の好奇心旺盛な子供が寄ってきて、ピョンピョンッと飛び跳ねる。
両手を上へ万歳しながら、馬上のシャルロットに掴まろうとでもするように。
シャルロットはスタッと馬から降りると、子供の頭を撫でた。
「私はシャルロット、あなた達は?」
すると子供達は皆、素直に自己紹介していってくれる。純真な子供達であった。

 そしてもう一人、木の陰に隠れて様子を窺うように見ている人物に気付く。
「ティファニアお姉ちゃん」
「お姉ちゃん!!」
「テファお姉ちゃん何やってるの?」
シャルロットへと群がっていた子供達は、最後にそのティファニアと呼ばれた少女へと集まっていく
お姉ちゃんと呼んで忙しなく動き回る姿を、思わず微笑ましく眺める。
昔の頃を思い出す――ちっちゃい頃の妹はよく「おねーちゃんおねーちゃん」と後ろをついてきたものだった。
646: ゼロのドリフターズ-12 2012/07/25(水) 23:42:57.09 ID:W/Y5xTEC(6/9)調 AAS
「すまない。馬を返しに来たよ」
キッドがそう言って馬から降りる。つまり馬の持ち主が少女ティファニアなのか。
流水のようにストレートな金髪が陽光に美しく輝く少女、帽子を深めに被っていて顔はよく見えない。
少女は何故か帽子を手で抑えながら、ペコリと控えめにおじぎをした。どこかよそよそしさが残る。

「お騒がせしてすみません。村長さん・・・・・・?は、いらっしゃいますか?」
「あっ・・・・・・一応わたしが代表者です」
透き通るようでいて、芯に嵌まるかのような声が耳まで伝わる。
「そうでしたか、人質にとられたのも・・・・・・?」
「彼女だね」
キッドが先に答える。それを聞いたシャルロットは少女へと頭を下げた。

「この度はこちらの不手際で危険な目に遭わせてしまい、大変申し訳ありませんでした」
シャルロットに倣うようにキッドも頭を下げる。
実際に人質をとられた失敗は、自分とシャルルにあった。
問題なく助けられたものの、シャルロットだけに頭を下げさせるのは憚られた。

「つきましては、何らかの形で追って慰謝料が支払われると思いますので――」
アルビオン王室に言えばそれくらいは出してくれるだろう。
こっちの落ち度でもあるので個人的に出しても良かった。

「そ・・・・・・そんな、困ります――」
少女は"とある理由"から断ろうとした。森の外から来られると色々と面倒なことになりかねない。
"その理由"は・・・・・・、少女が焦って顔を上げた時に帽子の端からふと見えてしまっていた。

 今までに実際に直接見たことはなかった。しかし知識としては、ハルケギニアの殆どが知っていることだろう。
取り巻く子供達とも違う――"特徴的な耳"が見えたのだった。
「エルフ・・・・・・!?」
意識せず言葉を漏らし、左手でナイフに指を掛けていた。
ティファニアは目を鋭く睨むシャルロットの態度に気付いて、帽子をまたギュッとかぶって俯く。

 ――エルフ。東の砂漠、サハラに住む亜人の一種。
始祖ブリミルが降誕してより6000年に及ぶ長い歴史の中。
互いが互いを理解せず、互いに仇敵。人類とエルフは種族同士で相争ってきた。
容姿は基本的に人間種族と同一だが、人の価値基準で見れば例外なく見目麗しい。
そして区別出来る身体的特徴というのが長く尖るような耳。ゆえに素のままであれば見分けるのはそう難しくない。
『先住魔法』という系統魔法とは違う魔法に長けていて、数は人間より少なくてもその力は強大である。
647: ゼロのドリフターズ-12 2012/07/25(水) 23:43:38.24 ID:W/Y5xTEC(7/9)調 AAS
「・・・・・・どうした?」
不穏な空気に対して、わけがわからないキッドがぶち壊すように聞いてくる。
召喚されて最初の頃にある程度説明はしていただが、詰め込み気味であったので覚えていなくとも無理はない。
「なになに?」
「どうしたの?」
子供達も不意な態度の変化にざわつきだす。

 停滞した状況で、シャルロットの尖った感覚が徐々に丸みを帯びてくる。
先住魔法で既に罠に嵌められている・・・・・・――可能性はあっても、どうにも考えにくかった。
ティファニアという少女に毛ほどにも敵意が感じられなかったからだ。子供達も懐いている。
「ごっ、ごめんなさい!その・・・・・・わたし"混じりもの"で・・・・・・」
まるで小動物のような雰囲気にシャルロットも毒気を抜かれた。一人だけ糞真面目に対応している自分が馬鹿みたいに思うほどに。

 それに待ち伏せをするのであれば、耳は隠して然るべきだ。
先住魔法であればそれも容易いことをシャルロットは知っていた。
人間社会に溶け込み潜む吸血鬼と同様、エルフも紛れようと思えば顔ごと変えて隠れることが可能だ。
そうしなかったということは、つまるところその気がないということだ。
「純粋なエルフではない・・・・・・と?」
「はい、母がエルフなんです」
聞かれたティファニアはおずおずと帽子を脱ぎ取りながら答えた。

 見ればまるで名画の中から出てきたように完璧で、この世のものとは思えない妖精のような美しさ。
あどけなさを残しつつも、少女らしさと同時にどこか高貴な雰囲気まで備えている。
エルフはただでさえ綺麗所揃いと聞くが、その中でもさらに抜きん出ているような気がした。
「つまりハーフというこ・・・・・・と――」
シャルロットは言葉に詰まる。すらりと立った少女。"それ"が何なのか認識出来ずに目を疑った。
さっきまで俯いていてわかりづらかったものの、最初から"それ"はそこにあったのに気付けなかった。
エルフ特有の耳、妖精のような美しさ、そしてそんなものすら霞むほどの"巨大な胸"。

 いや胸と言っていいのかも疑問に思うほどに主張する大双子山。
到底人が持ち得るものではないと思わせ、神が創りたもうたと言われれば納得し頷いてしまえるほどの奇跡。
シャルロットよりも二回りは大きいキュルケですら、彼方に霞みゆく"おっぱい"。
女性としての魅力云々――勝ち負けすらどうでもよくなるほどの産物。
648: ゼロのドリフターズ-12 2012/07/25(水) 23:44:19.41 ID:W/Y5xTEC(8/9)調 AAS
「やっぱり驚くよな」
釘付けになっていたシャルロットの視線を察して、キッドから発せられた言葉。
「・・・・・・セクハラですよ、キッドさん。それに失礼です」
シャルロットはジトっと冷ややかな目を向ける。
「いっ、いやいやまだ何とは言ってないだろう!?」
されどキッドは責められない。老若男女問わず驚愕しない人間がいる筈はない。
既存の常識をぶち壊される。エルフであることすら些末に感じるほど。

「・・・・・・コホンッ、まぁその・・・・・・ごめんなさい」
種族同士としての確執こそあれ、個人はまた別である。
謝辞を示すべき相手に対して払った無礼に、シャルロットは改めて謝る。
「いえ、わたしが変わってるのは知ってますから」
「そう言って頂けるとありがたいです。私の名前はシャルロット。ティファニアさんでよろしいですか?」
「はい、その・・・・・・よろしくおねがいします」
「これはご丁寧に」

 シャルロットは会釈し返す。一段落が着いたところでシャルロットはキッドへと頼む。
「キッドさん、捕えた残党を連れて来てもらえますか?」
「オーケー」
キッドはすぐに縛り上げてある傭兵を連れに、シャルロットが乗っていた軍馬と交換して置き場所へと行く。
「馬、ありがとうございました」
「はい」
シャルロットはややくたびれた馬を引いて手綱を渡す時に、ティファニアの指で光る物に気付く。

 少女のたおやかな指にある、二つの指輪の内――無色の宝石が嵌められた片一方。
透明な宝石そのものに覚えはないが、指輪そのものの意匠にはとても見覚えがあった。幼き頃から見てきたから見紛う筈もない。
それはルイズが嵌めていたものとも同じ。シャルロットの持つものとも同じ。
石の色が違うだけ。――ルイズのそれは鮮やかで全てを包み込むような青色。――シャルロットのそれは深く雄大な茶色。
「・・・・・・?」
動きが止まったシャルロットに疑問符を浮かべるティファニア。

 シャルロットは無言のままに、ガリア王国に伝わっていた"土のルビー"を取り出すと、指に着けて見せた。
一瞬呆気にとられたティファニアもすぐに察したようであった。
同時に思わずはっとして指輪をしている手を後ろに隠す。
「・・・・・・すみません。エルフのこと――込み入ったことかと思って聞かないようにと思っていました。
 しかし少々事情が代わりました。貴方の指にあるそれは・・・・・・"風のルビー"で間違いありませんね?」

 ルイズがアンリエッタ王女から賜ったのは、トリステイン王国に伝わる"水のルビー"。
ロマリア皇国に伝わる"火のルビー"は燃え盛る炎を閉じ込めたような紅色と聞く。
そしてアルビオン王国に伝わるのが、澄み切った透明色の"風のルビー"。

「あの・・・・・・わたしの家で、お話します」
ティファニアは観念したような――それとも逆に聞きたいことがあるのか――複雑な表情を浮かべていた。
649: 2012/07/25(水) 23:45:42.74 ID:W/Y5xTEC(9/9)調 AAS
以上です、支援どうもでした。
次回と次々回の半分ほどでティファニアフラグ消化したらほぼオリジナル路線に入っていきます。

それではまた。
650: 2012/07/26(木) 01:41:15.71 ID:E3ZMjXhA(1)調 AAS
乙っしたー
651: アクマがこんんちわ ◆wg35mxeotnaW 2012/07/26(木) 10:53:12.06 ID:h7IIqGb8(1/9)調 AAS
投下します。
652: アクマがこんんちわ ◆wg35mxeotnaW 2012/07/26(木) 10:56:42.59 ID:h7IIqGb8(2/9)調 AAS
ルイズと人修羅の二人が、ロンディニウムを脱出してから丸一日。
遠くまで広がる草原と、牧草地を隔てる林という、のどかな景色を眺めつつ、轍のある街道を進んでいた。

街道は見渡す限り起伏のある草原が広がっており、見晴らしが良い。
時々、荷物を積んだ馬車や、兵士の駆る軍馬が通りすぎていくが、ぼろぼろの服を着て、革袋を背負った二人には目もくれない。
ルイズに背負わせた革袋は、藁を詰めて膨らませてあるので軽いが、慣れぬ長歩きに疲れはある。
夜になれば人修羅が背負って走るが、昼間は人目があるため、人一人を背負って馬よりも早く走るなど目立つ真似もできない。
「……ふうっ……」
時々、隣を歩くルイズが呻きとも取れる吐息を漏らす。
人修羅はそれを気にしてゆっくり歩こうとするが、それに気づいたルイズが持ち前の負けん気を発して頑張って足を速める。と、今度は人修羅がルイズに速度を合わせる。
しかしすぐにルイズも吐かれてしまい、元の速度に戻ってしまう。そんな風に歩いていた。

「今のところ、追手も、竜も見当たらないな。……野生の馬か竜でもいれば捕まえるんだが」
「捕まえてどうするの?」
「そりゃもちろん、乗せてもらう。馬なら移動にも楽だし、竜ならラ・ロシェールまで行けるだろうし」
「野生の竜なんかとても乗りこなせないわよ、それに、馬だって簡単には捕まえられないわよ」
「そうかな」
「そうよ。それに、ラ・ロシェールがどっちなのか解らないじゃない」
「そうだな…確かに方角も解らないよな。間違って逆方向に出たら大変だからなあ」
「私は海の真ん中で取り残されるなんて嫌よ」
「俺も嫌だなあ。この案は保留か」

疲れを感じながらも、ルイズにはお喋りをしながら歩く余裕はあった。
召喚されて間もない頃を思い出してみると、今のルイズは随分落ち着きがあるように見える。

名誉の死を享受すべく最後の晩餐を楽しんだアルビオン王党派の面々、目の前で殺されかけたウェールズ、ワルドの裏切り、それらを見つめて何か変わったのだろうか。
ニューカッスル城内では、普段の威勢はこれっぽっちも見られなかった、戦争を目の当たりにして口数も少なかった。
ワルドに裏切られて意識を失い、目を覚ましてからは何か心に一本芯が通った気がする。…気のせいでなければだが。

「ん、草の色が違う…麦か何かかな」
人修羅が何かに気づき、呟いた。
ルイズの目ではとても見えないが、人修羅には草原の向こうに耕作地が見えている。麦のような作物がびっしりと植えられ、風になびいている。更に向こうには建物も見えた。
「私には見えないけど」
「この感じだと10リーグ(10km)ぐらい先じゃないかな。寄ってみるか。道を教えて貰うか、食べ物でも分けてもらえればいいんだが」
「10リーグ…わ、わかったわよ、行きましょう」
「おっと、その前に一休みしよう。ちょうどいい所だからな」
そう言って指差した先には、幾本の木々が調度良い日陰を作っていた。
牛飼いか羊飼いかが一休みするのに使うのか、旅人が野宿したのか、よく見れば焚き火の跡も見られる。
ルイズはひとまず腰を下ろし、人修羅に寄りかかった。
「少しの休憩でも靴は脱ぐほうがいい、足の裏も揉めば、疲れが残りにくい」
「うん」

ボロボロになった靴の代わりに、人修羅がどこからか探してきた粗末な革靴は、ルイズの足には少し大きい。
紐を緩めて靴を脱ぐと、ホコリのせいでの裏が黒くなっていた。
ルイズは、自分の足が真っ黒になるなど子供の頃以来だと思いつつも、足の裏を揉んだ。
「うー…。やっぱり痛い」
「見せてみろ」
「えっ」
返事を待たずルイズの足を掴み、足の裏をマッサージする。
「こう、足の真ん中あたりから押していくんだ。ついでに膝近くのツボも押しておくと、多少違う。確か、これは三里って言ったか」
流れるようにルイズの足から膝へと手を移し、三里のツボを押していく。
「いたた…ねえ、ホントにこれで疲れが取れるの?」
「本当は出発前か睡眠前だといいんだが、何もしないよりは、調子いいはずだ。…なんかこう、重くなった足が軽くなる感じはないか」

左右の足で違いを感じるのか、ルイズは首を傾げながら足を振った。
「よくわからないけど、揉んだ方は軽くなった気がするわ」
「じゃあ続けるぞ」
「うん」
653: アクマがこんんちわ ◆wg35mxeotnaW 2012/07/26(木) 10:58:15.46 ID:h7IIqGb8(3/9)調 AAS
(あ…この感じ、癖になるかも)
毎日やってもらおうかな…。と密かに考えるルイズだった。

休憩を終えると、二人はまた街道を歩き出した。
太陽の傾きから見て、午後三時頃といったところか。水分はなんとかなるが、食べ物は心もとない。
集落があれば食べ物を分けてもらえないだろうか、それとも動物を捕まえて食べようかと考えながら歩いていると、人修羅の目が何かを捉えた。
「…ルイズ、馬車が来る。少しうつむいて、前髪もフードで隠してくれ」
「うん」
人修羅の警告からしばらくして、一台の幌馬車とすれ違った。
馬二頭で引く大きなもので、詰めれば十人は乗れそうなものだ。ゴトゴト、ゴトゴトという音からして、それなりの人数か荷物を積んでいるらしい。
二人には目もくれずすれ違った馬車だが、人修羅がふと歩みを止め、今さっきすれ違った馬車を見据えた。

「ルイズ…。血の匂いがする」
「えっ」
「今の馬車だ。気のせいじゃなければ、女の子の声が聞こえたような…」
「それって、どんな声」
「嫌がるような声だ。考え過ぎかもしれないが」
「…じゃ、じゃあ」

ルイズは、もし誰かが助けを求めているなら、人修羅の力を使うべきだと考えた。
しかし目立つ事をすればレコン・キスタの耳に入るかもしれない。
それに人修羅は”考え過ぎかもしれない”と言っているのだから、このまま知らぬふりをするのが一番賢い選択だろう。
しかし…しかし見捨てられない、逃げられないというのが今のルイズだった。
王党派の貴族たちが名誉の死を選ぶ気持ちは到底理解できないが、もし自分に力があるのなら、やるべき事を後悔のないようにやるべきだと学んだような気がする。
だからルイズは、焦る気持ちとは裏腹に、何をすべきかを冷静に考えることができた。

「…人修羅、私はここで待つわ。だから確かめてきて。人修羅の足ならすぐでしょう…よね?」
「わかった。すぐ戻る。 …その前に身を守る魔法をかける、何かあったら逃げろ。”ラクカジャ”」
人修羅の魔法により、ルイズの体に不可視の力が漲る。ラクカジャは防御力を上昇させる魔法だ。

「デルフ、詳しい様子を頼む」
『あいよ』

ボロ布に包んでいたデルフリンガーを、鞘ごと抱き抱えるように胸の前で構えると、人修羅は風を切って走りだした。

人修羅は馬車を追いかけつつ、ひとつの嘘を心中で詫びた。血の匂いがしたというのは本当、嫌がるような声というのは嘘だ。
第六感もしくは心眼とも言うべき感覚が、弓矢で足を射抜かれ、頭を斧で割られながらも馬車にしがみつく男の姿を見させた。ボルテクス界で見かけた思念体にも似ているそれは、強烈な思念を発していた。

む す め を は な せ

人修羅の足が大地を蹴りった。

どっ、と砂煙の上がるような音がした。御者が音の鳴った左側を見る…と、馬車に並走している男がいた。
先ほどすれ違った二人のうち一人だと気づく前に、顔に施された刺青に驚く。
「なんだ、あんた」

「デルフ」
『女が一人だ。手足縛られて、転がされてる』
「そうか」

「おい、なんだよてめえ! ぶっ」
御者が声を荒げると同時に、人修羅が御者台に飛び乗り顎に一撃。すかさず手綱を握り馬を止める。
「どうどう、止まってくれ止まってくれ、よーし、いい子だ」
馬車を止めつつ、荷馬車部分の仕切りをめくろうと手を伸ばす…と、布を切り裂いて槍が飛び出した。
「おっと」難なく槍を掴む。
ぐぐぐ、と力を込めているのが分かるが、人修羅の敵ではない。
無造作に力を込めて捻り上げ槍を折り、下がっていた幌を持ち上げると、中では三人の男が武器を持っていた。
「女の人は…そのでかい箱か」
654: アクマがこんんちわ ◆wg35mxeotnaW 2012/07/26(木) 11:04:05.45 ID:h7IIqGb8(4/9)調 AAS
「て、てめえっげぶ」
一人がナイフを構える、が、一瞬早く人修羅の指が喉に突き刺さる。
すかさず左手でデルフリンガーを振るい、残った二人を叩きのめした。

男四人を縛り上げ、馬車に乗せてルイズのもとに戻るまで、たいして時間はかからなかった。

■■■

「う…」
「…目が覚めた?」
「あ、ひっ」

目を覚ました女性が最初に発したのは、小さな悲鳴だった。

「落ち着いて、もう怖い人はいないわ」
ルイズができるだけ優しく接しようとするが、女性は自分を抱きしめて身を震わせるばかり。
女性は、手ひどく乱暴されたのではないか、そんな考えがルイズの頭をよぎった。
知識としては”そういう事もある”と知っているが、本当だとすれば、実際に見るばかりか接するのは初めてのことだ。
「あいつらは退治されたから、もう大丈夫だから」
どう接すべきか悩んだが、結局は優しく声を変える以外に選択肢はない。
そっと背中を撫でていると、女性は次第に自分の周りを見るようになった。狭い箱の中ではなく、大きな樹の下に寝かされていたのだと気づく。

「あ、え、あ、あう、ここは、あ、あなたは…」
「私はルイズ。従者が偶然あなたを見つけて、助けたの」
「あ…」
安堵のためか、体の力が抜ける感じがした。

気が落ち着いたところで、ルイズはこれまでの経緯を話した。

自分たちはロンディニウムからトリステインに帰る途中だということ、従者が盗賊の馬車を見つけ、それを退治したということ、盗賊は手足を縛って手も足も出ない…等々。

話を聞いた女性は、今度は自分のこと話しだした。
彼女の名はイルマ。街道から山へ向かうと小さな水源地があり、そこの管理を任されている一家だという。
普段は街で暮らしているが、戦火から逃れて水源地近くの別荘に移り住んだところ、盗賊の襲撃にあったらしい。
「あの…私、父がいるんです、その馬車は、うちの唯一の財産で、父も私を心配していると思います。ロンディニウムから南へ出たのなら、街道からも近いはずです。なんのお礼もできずに申し訳ありませんが、どうか、家に帰してもらえませんでしょうか」
「うーん。ちょっと待ってね」
立ち上がり、馬を撫でていた人修羅に近づいて、話をする。
「あの人、イルマって名前だそうよ。帰りたいって言ってるけど、どうしたらいいと思う?」
「あの人、女一人で馬車を引いて帰るつもりだろう」
「そうなるわよね」
「また襲われるかもしれないな」
「うん…私もそう思ったわ」
「ルイズ。気持ちはわかる。一度関わったら、用意には見捨てられない気持ちは、よく分かる。でも、いいのか?俺達が彼女について行ったらトリステインへの報告は、間違いなく一日遅れる」
「…そうだけど、でも…お願い人修羅、一日だけ、時間をちょうだい」
「分かった。ルイズの意に従おう」

イルマの元に戻ると、ルイズは膝をついて優しく語りかけた。
「あなた一人じゃ心配だから、私達もついていくわ。すぐ出発しましょう」
「ありがとうございます。あの…大変申し訳ありませんが、貴族様…ですよね」
「ええ。トリステインの貴族よ」
「知らなかったとは家申し訳ありません!あの、助けていただいた上、私はとても失礼なことを」
「気にしてはいけないわ。たまたま、あなたを助けられた、それだけだから」

地面に手をついて謝ろうとするイルマ、そしその手を取ろうとするルイズ。
人修羅はその光景を見て、ルイズの姉、カトレアの姿が重なる気がした。
(カトレアさん、何度もルイズを慰めたとか言ってたなあ。今のルイズ、カトレアさんそっくりだよ。 きっと優しくされた分、優しさを育んだろうなあ)
655: アクマがこんんちわ ◆wg35mxeotnaW 2012/07/26(木) 11:04:49.33 ID:h7IIqGb8(5/9)調 AAS
ちらりと街道から草原を見る。周囲には誰の姿もない。
「念のためだ、なにか目印でも作っておくか」

■■■■

その頃…ニューカッスル城では、王党派の生き残りが居ないかが入念に調べられていた。
名城と謳われた城も、度重なる砲撃で城壁は瓦礫同然となり、焼けただれた死体が無数に転がっている。
もはやこの城には王党派の一人も生き残りはない。反乱軍と呼ばれたレコン・キスタが新たな城主であり、アルビオン新政府となっていた。

その新政府の尖兵となった傭兵たちは、ニューカッスル城内を我先にと荒らし、金目の物を瓦礫の下から漁ろうとしている。
先陣を切ったレコン・キスタの兵達も瓦礫に埋まっているが、そんなものを気にするような連中ではない。
盗賊まがいの傭兵たちにとって、死んだ奴は、運と知恵が足りなかっただけだ。

それにしても死体の数は多い。
ワルドの手引きで王党派に混乱が生じたものの、王党派は驚くほどの結束を見せた。
三百人に満たない王党派が、二千人の貴族派を道連れにして倒れていった。重軽傷者は更に二千人ほどいるだろう。

しかし、その被害も、貴族派にしてみれば朗報である。
ニューカッスル城は岬の突端にある、地上からは、正面突破をかける以外に攻めこむ方法はない。
貴族派の戦艦や竜騎兵が活躍すれば、損害を減らすことも出来たろうが…あえてその手は取らなかった。

ニューカッスル城に残った古参のメイジが、一矢報いんと何をしてくるかが怖かったのだ。
だから徹底的に傭兵を消耗させることにした。空からも攻撃していたが、あくまでも安全な距離をとって砲撃を繰り返すばかりであった。

そのような戦法を取る貴族派に、最後まで戦った王党派の勇士たちは何を思っただろうか……。

ワルドは、貴族派が前線基地として使っていたロンディニウム郊外の陣地にいた。
遠目に見えるニューカッスル城の瓦礫を眺め、ふとセンチな気持ちになっていると気づいた。
なるほど何かを徹底的に破壊すると、良くも悪くも影響を受けるものだな、と。

「失礼致します。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵どの、総司令官閣下が貴殿を呼ぶようにと」
「わかった。案内していただこう」
「はっ、こちらです」

若い従卒に案内され、郊外には似つかわしくない石造りの砦に入ると、中には大きなテーブルが鎮座しており、その向こうには粗末な椅子に座った聖職者のような男がいた。

「おお、子爵! ワルド君! 君は素晴らしい働きをしてくれた!」
男は椅子から立ち上がると、ワルドを歓迎するかのように両手をささやかに広げた。
年の頃は三十半ば、マルイ帽子をかぶりローブとマントを付けているその男こそが、レコン・キスタの総司令官お、オリヴァー・クロムウェルである。
「件の手紙はまさしく、アンリエッタの花押だ。軍議でまさしく本物だと声が上がった時、君という味方がいて良かったと思った。見事な働きだ」
「もったいないお言葉でございます」
ワルドは跪くと、首を振って、クロムウェルに応えた。
 
「始祖ブリミルへの誓いを立てながらも、アンリエッタがゲルマニアの皇帝に嫁ぐというのは、まったく…いや嘆かわしい」
芝居がかった言葉に、ワルドが再度頷く。
「ところで子爵、ウェールズも討ち取ったと聞いたが」
「はっ」
「ふむ…しかし。ニューカッスル城を検分した者によると、瓦礫の下にも遺骸は見つからぬそうだ。火の魔法か油で焼かれた遺体もあったが、これはどう考えるかな」
「…ウェールズが生きているとでも」
「いや、君を疑っているわけではない。しかし考えてもみたまえ。死体だとしても、その場に無ければ『まだ生きている』と思うものも多いだろう。後々まで王党派の影響を残すために死体を隠したとすれば、厄介なことだ」
「…私の考えが浅かった為に起こったことです。閣下、私に罰をお与えください」
656: アクマがこんんちわ ◆wg35mxeotnaW 2012/07/26(木) 11:05:16.58 ID:h7IIqGb8(6/9)調 AAS
「トリステインとゲルマニアの同盟を阻止するのは重要なことだが、今の我々に最も必要なものが他にもある…それが何か解るかね」
「閣下のお考えの深さは、私にははかりかねます」
頭を垂れてワルドが答えると、クロムウェルは目を見開き、両手を振り上げて、大げさな身振りの演説を始めた。
「『結束』だ、鉄の『結束』こそ必要なのだ!ハルケギニアは我々選ばれた貴族たちによって結束し、あの忌まわしきエルフどもから『聖地』を取り戻さねばならない!
そのためには我々は仲間を信用しなければならぬ。だからこそ子爵、君を罰するようなことはしない。」
ワルドは深々と頭を下げる、と、クロムウェルが肩に手を置いた。
「頭を上げたまえ子爵、そろそろ我々もニューカッスル城へと入ろう。そこで君にも、余が始祖ブリミルから賜った力の一端を見せたい」

笑みを浮かべるクロムウェルは、どこか、その力に酔っている気がした。

■■■■

「な、なあ、あれ火竜じゃないか?」
「ただの鳥よ。ギーシュ、ビクビクして間違ったことを言うのはやめてくれるかしら?ねえ未来の元帥さん」
「そうはいってもだね。こう暗くなっては、遠くにいるものまでハッキリとは…」
「タバサ、どう?」
「…見つからない」

夕方、タバサ達はシルフィードに乗って、アルビオンの沿岸を飛んでいた。
トリステイン側、すなわち首都ロンディニウムから南下するルートである。

タバサは、いつも読んでいる本も読まず、ひたすら大地を見下ろして人修羅たちの姿を探している。
読書以外で、こんなにも熱心なタバサの姿など、キュルケでも見たことはない。

「これだけ心配させてるんだから、ちゃんと生きてなさいよ。人修羅、ヴァリエール」

時間は少し戻り、ニューカッスル城からほど近い鍾乳洞。
その奥には、秘密港として使われていた桟橋があるばかりで、他にめぼしいものは一つとしてない。
たまに兵士が見に来るか、金目の物はないかと傭兵がやってくる。だが何もないと分かればすぐに引き返してしまう。
「ちぇ、なんもねえや」
「引き返すぞ、城の方がまだ物が残ってそうだ」
今も、何人かの傭兵が桟橋の周囲を漁っていたが、何もないと分かり愚痴をこぼしている。
「お、ちょっと待ってくれ。おっ…お、お〜」
「小便かよ」
「ほーら恵みの雨だ」
「ちげえねえ!はははは」

下品な笑い声を上げながら傭兵たちが去った後、桟橋の下から「ばっちい」と声がした。
声は、桟橋から30メイルほど下の横穴からだ。
横穴は穴というよりシェルターのような形をしており、中は大人でも十人は入ることができるだろう。
そこには、ラ・ロシェールで別れたキュルケ、タバサ、ギーシュ、そして使い魔のヴェルダンデがいた。

「まったく、あれがアルビオンの人間か!雨を何だと思っているんだ!」
「ギーシュ、静かにしないと放り出すわよ」
「そ、それだけはやめてくれ」
激昂したギーシュは、さすがに放り出されるのは嫌なのか、キュルケに従った。

「で、これからどうしましょうか。この上はアルビオンのお城みたいだけど」
キュルケがつぶやく、ギーシュは一刻もはやく帰ると言いたかったが、ここまで来る間にシルフィードの背でさんざん主張した。
なんとかするには…と考えれば、ギーシュは土系統らしい答えを出す。
「やはり、ヴェルダンデに穴を掘ってもらうしか無いんじゃないか。ミス・ヴァリエールの場所まで」
「でも、ヴァリエールの持ってた宝石の匂いは…ここで途切れてるんでしょう」
「正確に言えば、ここが一番強く、匂いが散らばってる。散らばってるということは…壊されたんじゃないかと」
657: アクマがこんんちわ ◆wg35mxeotnaW 2012/07/26(木) 11:05:59.50 ID:h7IIqGb8(7/9)調 AAS
「……じゃあどうやって探すのよ。あんたの使い魔は、つい宝石を目指しちゃうんでしょうが」
「えっと、それは……」
三人の間に、思い沈黙が流れた。

「二人は死んでない」
沈黙を破るように、タバサが言った。
「人修羅は私達が来ることを知らない。でも、期待はしているはず。だとすればここから脱出して一番近い沿岸の、トリステインよりの岸を移動するはず」
「しかしだね、ミス、アルビオンには火竜が豊富な上、戦艦も多い、のこのこと出て行ったら僕達も捕まってしまう」
「一番大きい戦いが終わって間もない。今が唯一の機会だと思う…シルフィードで、一日だけ南側の岸にそって飛ぶ。それでダメなら…」
思いつめたような顔をして、珍しく自分の意見を言ったタバサに、ギーシュが驚く。
キュルケはタバサの態度に、どこか思いつめたようなものを感じた。
「タバサ…無茶を言うわね。でも、一番確実よね」
「正気かい?」
「もちろん正気よ。嫌ならここから一人で飛んで帰りなさいよ」
「そんな無茶な!」
「じゃあ賛成ね。出発は何時ごろ?」
「今すぐ」
「ギーシュ、その子を載せる準備しなさい」
「わかったよ。ああ、始祖ブリミルよ、どうかご加護を…」

時間は戻り、アルビオン上空。

空が暗くなり、月明かりが大地を照らすようになった頃、シルフィードが何かに気づいた。
「きゅい!」
「行って」
タバサが命令すると、シルフィードは草原に描かれた何かに向かってゆっくりと下降していく。
「何を見つけたの?」
キュルケの問に、タバサは無言で大地を指差した。
よく見れば草原に奇妙な模様が描かれている。平行な二本の線と、そこから枝分かれするように伸びる左右二本づつの線。

「あっこれ、人修羅の顔の模様ね!」
「多分そう」
それに気づいたキュルケが声を上げ、タバサが肯定した。
「ギーシュ。ヴェルダンデに匂いを嗅がせてみて」
「わかったよ。よしよし、頼んだよヴェルダンデ」
地面に降りたシルフィードの背からギーシュが降りると、シルフィードに掴まれていたヴェルダンデも地面に降りて、くんくんと匂いを嗅ぎ始めた。
「間違いないって言ってる、宝石の匂いがわずかに感じるそうだ」
「なら何処に向かったか分かる?」
「ヴェルダンデ、匂いを追ってくれないか。ちゃんと見つけたらミミズのご褒美をやるから」

ヴェルダンデがきゅう!と鳴いた。任せろ、と言っているようだ。
一行は、ヴェルダンデの鼻を頼りに、ルイズたちの匂いを追った。

■■■■■■■■■■■■

ガリア、プチ・トロワ。
イザベラの身辺を守る近衛兵のうち一人であり、花壇騎士団の一人でもあるハロルドは、イザベラの変化に驚いていた。

「ヒーホー」
ヒーホー、というのが口癖なのだろうか。
イザベラの使い魔、ヒーホーは思いがけぬところで見かける。
プチ・トロワはイザベラに与えられた離宮だが、監獄のようなものであった、イザベラは身の安全のため、なかなかそこを出ようとしないし、出る必要もない。
658: アクマがこんんちわ ◆wg35mxeotnaW 2012/07/26(木) 11:06:52.45 ID:h7IIqGb8(8/9)調 AAS
王族が魔法の練習に用いる小さな運動場にすら、イザベラは出てこない。
父であるジョゼフ王は魔法の才能がない、それは周知の事実であるが、イザベラもまたその血を引いていた。
ドットの中でも、訓練を起こったら者らしい貧弱な精神力は、貧弱な魔法しか行使できない。イザベラはその典型だった。

実力もないのにプライドだけは高いイザベラにとって、宮殿は自分だけの王国であり、自分だけの監獄なのだろう。

しかし、そんな小さな王宮のそこかしこで、ヒーホーの姿を見かけるようになってからは、ヒーホーを探しに来たイザベラの姿も見られるようになった。
お気に入りのペットは自分で探さなければ気がすまないのだろう、というのがイザベラを見た者の共通認識だった。

だからこそ、運動場でイザベラを見かけたハロルドが、驚くのは無理もなかった。
「下から上にすくい上げて、捻りつつ引き戻して、つき出す瞬間に体を落として…」
「じょうずだホ〜」
身の丈より長い杖を持ったイザベラが、運動場で体を動かしている、傍らにはヒーホーがいてイザベラを応援していた。
「右手は添えて、杖を軸に、右、左、右…」

ゆっくりと踊るような動きに見えるため、何をやっているのか理解できないが、それが反復練習なのは間違いはない。

「こんにちわホ〜」
「ん?」
ハロルドに気づいたヒーホーが挨拶をして手を振ると、イザベラも気がついたのかハロルドを見る。

「これはこれは、汗をかく程熱心に何かをしておいでで、思わず見惚れてしまいました」
半分は世辞だが、半分は本当だ。ひたいに汗を浮かべて鍛錬するという行為は、どんな分野であろうと馬鹿には出来ぬものだからだ。
「世辞はいい。なんだ、何時から見てたんだい」
「今そこを通りかかった所です。身の丈より長い杖が見えたので、驚きました」
「ああ、この杖か…何かと便利だ」
「そろそろお休みするホ?かき氷作るホ?」
「この間ちょっと食べ過ぎたから…今日はいい」

そう言うとイザベラは、ハロルドに向き直った。
「なにか言いたいことがありそうだね?」
「…その、殿下はお変わりになられました。使い魔を召喚してからというもの、明るくなりましたな」
「そう見えるか」
「はい」
「ふぅん、まあいい。そう見えるならそうなんだろ。仕事に戻るといい」
「はっ…」
「ヒーホー、部屋に戻るよ」
「はいだホ〜」
イザベラは飛びついてきたヒーホーを抱えると、杖に座った。
そのまま地上1メイルを滑るように移動していく、レビテーションさえ使えれば出来る技だが、その動きに淀みがない。『フライ』程ではないが、速い。『レビテーション』ほど遅くないが、カドをほぼ直角に曲がるような動きは再現しにくい。

「いつの間にあれほど上達したのだ」
花壇騎士団員ハロルドは、自分の主…イザベラとは別の、ほんとうの主の姿を思い出し、きたるべき時が近づいたと感じた。

「イザベラちゃんは、キョーダイとか居ないホ?」
「ん?」
「ヒーホーにはたくさんキョーダイ居るホ」
「兄弟か…なんでそんなこと、聞くのさ」
「メイドさんが『キゾクは兄弟が多いとタイヘンだから一人のほうがいい』って言ってたホ。キョーダイたっくさんいたほうが楽しいと思うホー」
「ああ、それは…」
659
(1): アクマがこんんちわ ◆wg35mxeotnaW 2012/07/26(木) 11:07:16.18 ID:h7IIqGb8(9/9)調 AAS
イザベラはどう説明しようか、少し悩んだ。
兄弟が多いと大変だ…その言葉で思いつくのは、兄弟が殺しあい、知らない兄弟が命を狙いに来るという貴族の姿である。
身にしみて知っているが、それを説明する気にはなれない。
「ニンゲンのキョーダイって、仲が悪いホ?」
「ああ、そうだね。喧嘩ばっかりさ」
「そんなの嫌だホー…。イザベラちゃんにも仲の良いキョーダイがいたら、きっと楽しいホ」
「……仲が良くても、取り巻きがいたら何にもならない」
「ホ?」
「いや、なんでもないよ。さあ部屋についた、氷の椅子を作ってやるからちょっと待ってな」

窓から部屋に戻ると、イザベラは水球を作り出し、氷の椅子を作った。
「ほら、グラン・トロワの玉座そっくりだ。お前は使い魔の王様だよヒーホー」
「オウサマ?オウサマホ〜」
ヒーホー用に作られた椅子は小さいが、造形にこだわりがある。
イザベラの魔法の腕は、いつの間にかかなりの上達を見せていた、氷細工を作れるほどに集中力が増している。

「ね、ね、イザベラちゃん」
「んー?」
「いつかボクタチのオウサマにも会って欲しいんだホ」
「ヒーホーたちの王様? どんなでっかい雪だるまだい?」
「ニンゲンのカタチしてるんだホ。でも、ボクタチすべてのオウサマだホ〜」

*********************

今回はここまでです。
姉妹スレの仮面はもうちょっとおまちくさいい・・・
660: 2012/07/26(木) 12:17:01.19 ID:gd6wz9en(1)調 AAS
乙っした!
661: 2012/07/26(木) 12:28:12.66 ID:T2BQiYqg(1)調 AAS
乙です!
仮面も大好きなSSなので楽しみに待ってます
662: 2012/07/26(木) 13:10:38.14 ID:OjGOFxSv(1)調 AAS
アクマさん乙!
でも名前間違えてるw
663: 2012/07/26(木) 15:28:35.05 ID:MVdRee2B(1)調 AAS
メガテン繋がりで葛葉ライドウを召喚。
香水イベントでシエスタを叱ってるギーシュの肩を手近にあったワイン瓶でトーントンと叩く。
それを「後にしてくれたまえ」と適当に流して、シエスタを叱る方を優先するギーシュを、今度は後頭部をトーントンと…
流石にイラッときたギーシュが嫌々振り向くと、そこには凄く良い笑顔でワイン瓶を振り上げるライドウさんが…みたいな。
664: 2012/07/26(木) 17:42:40.34 ID:8omwxqe2(1/2)調 AAS
メガテン系はアニメしか見たことないなあ
フェンリルとアバドンの漫才コンビが昔クラスの話題になってたっけ
665: 2012/07/26(木) 20:11:18.53 ID:A5jBLWyu(1)調 AAS
>>659
投下乙! 
良かった……続きの投下があった
666
(1): 2012/07/26(木) 20:24:05.67 ID:A/okz3Xv(1)調 AAS
ラスボスのユーゼスみたいにルーンの洗脳≠ェ効かないキャラってやはり少ないよね。

ましてやガンダールヴの力さえも意味がない、キャラはもってのほか。
667: 2012/07/26(木) 21:01:36.70 ID:u5mkzQFG(1)調 AAS
アクマの人、乙でした!! 待ってて良かった
ほかの職人さんたちも待っています
668: 2012/07/26(木) 21:04:45.43 ID:dkzbOojz(1)調 AAS
こんなに好きな作品同士なのに今まで仮面さんと同一人物だとは気づかなかった俺はド低脳・・・orz
669: 2012/07/26(木) 21:10:20.12 ID:cplf7NN9(1)調 AAS
待ってましたアクマ乙ー!!
イザベラちゃん&ヒーホー和むわぁ。
670: 2012/07/26(木) 21:55:07.09 ID:8omwxqe2(2/2)調 AAS
>>666
洗脳といえるほど強力な効果だっけか。明文はされてなかったと思うが
才人はルイズに反抗してるし、ブリミルはサーシャに殺害されてるからあまり強くないんじゃない?
671: 2012/07/26(木) 21:58:47.23 ID:+ZEYmMmh(1)調 AAS
乙、人修羅の続きが読めるとは…悪い夢…いや、良い夢…だった…
女神転生Wも楽しみだ
672
(1): 2012/07/26(木) 22:02:39.35 ID:5Bd7LVlP(1)調 AAS
主人が近くにいる時は思い出に浸ってホームシックになったりせず帰りたいという願望が薄くなる
虚無の詠唱を聞くと戦意高揚して恐怖感が欠如しどんな死地にでも躊躇なく飛び込める

くらいか
673: 2012/07/26(木) 22:44:37.50 ID:hWn4wfIk(1/2)調 AAS
復活きたな
最近流行ってんの?
674: 2012/07/26(木) 22:46:02.77 ID:hWn4wfIk(2/2)調 AAS
>>672
主人が好きなだけ
戦闘で脳内麻薬ドバドバ

てなだけじゃない?これが洗脳?
675: 2012/07/26(木) 23:44:40.51 ID:cIfyL5Tn(1)調 AAS
洗脳よりはマインドコントロールに近いかもね
676: 2012/07/26(木) 23:52:28.57 ID:jC/qaymO(1)調 AAS
亀レスだがミント様も人修羅さんも乙です

ところでミント様、ヴィンダールヴの能力を得たルウ君
すなわち、ヴィンダールウ君の出番は来ないのですか?
677: 2012/07/27(金) 01:13:09.94 ID:RCsqKMzY(1/2)調 AAS
アクマの人待ってました!!!投下お疲れ様ですありがとうございます!
活気が戻ってきたみたいで嬉しいなあ
678: 2012/07/27(金) 01:31:09.10 ID:WGFEM3+m(1)調 AAS
就活終わったのか、いや中間テストか
679: 2012/07/27(金) 11:55:06.02 ID:f78Cz7hv(1)調 AAS
続きキタァー
人修羅の人乙乙乙ぅー!!!

しかも仮面ってあの仮面?
まさか同じ人だったとは
どっちも大好きです
次回更新楽しみに待ってます
680: 2012/07/27(金) 12:10:44.07 ID:yjcjNpf4(1)調 AAS
思うにサイトの場合はルーンによる洗脳ではなく、ストックホルム症候群では?
681: The Legendary Dark Zero 2012/07/27(金) 12:17:13.00 ID:ZsNvgWUa(1/9)調 AAS
残りの容量が少し危なそうですが、12:21頃から続きを投下したいと思います。
682: The Legendary Dark Zero 2012/07/27(金) 12:21:46.62 ID:ZsNvgWUa(2/9)調 AAS
Mission 31 <深淵の魔女> 後編

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
夜のチクトンネ街の通りをティファニアは全力で駆けていた。
ウェストウッドの森の中で暮らしてきたとはいえ華奢な体である上に元々体力があるわけではないし、おまけにこの修道服では思うように走ることができない。
走っては止まり、走っては止まり、と何度も繰り返していた彼女の体力はもう限界に近づいていた。
喉の奥からは荒い呼吸が絶えず吐き出され続けている。胸を押さえればはっきりと心臓が激しく動いているのが分かるくらいだ。
だが、ここで足を止めるわけにはいかなかった。
(スパーダさん……)
自分は決して、彼の力にはなれないのだろう。
戦う力もない自分が悪魔を倒すことはおろか、まともに相手をすることすらできないのだろう。
それでも、せめてその戦いだけは見届けなければならなかった。

……だが、あの三人は一体どこにいるのだろう。
裏通りは危ないとスパーダやマチルダは言っていたために人が多い通りを走り続けているのだが、悪魔と争っているのであればどこかが騒然とした状態になっているはず……。
「悪魔だ!」
「魔女だ!」
「化け物だああぁっ!」
何度目か分からぬ小休止を行なっていた時、通りにいくつもの悲鳴が上がった。
何十人という男達が血相を変えて逃げ惑っている姿が道行く人はもちろん、ティファニアの目にも映っていた。
その騒ぎに酒場からは何事かと僅かな客が顔を出し、外の様子を窺いだす。
相当混乱しているのか、勢いあまって倒れてしまう者まで出る始末だ。
「邪魔だっ! どけぃ!」
その中には貴族の人間もおり、他の平民の男達を押し退けていた。
(悪魔……)
やがて、最後の一人と思われる男が足をもつれさせながら地べたを這うようにして逃げてくるのを見届けた。
ティファニアはまだ少し息を切らしてはいたものの、ゆっくりと歩いて前へ進むことにする。
どうやら彼らが逃げてきたお店に例の悪魔がいるらしい。彼らが逃げてきた跡にはうっかり靴や帽子などといった小物が落ちている。
胸元で重ねた手を、母の形見の指輪と共にぎゅっと握り締める。
未だ心臓は呼吸と共にいつもより強く高鳴っていた
683: The Legendary Dark Zero 2012/07/27(金) 12:25:54.88 ID:ZsNvgWUa(3/9)調 AAS
妖雷婦<lヴァンはその二つ名の通り、強力な稲妻の力を操る上級悪魔である。
格の上では中の上といった所であり、同じ稲妻使いだったアラストルとは同等の地位と力を持っていた。
身に纏うドレスや従えているコウモリ達は彼女の魔力から生み出されているものであり、主にこのコウモリ達を介して自らの稲妻を相手にぶつけたり己を守る盾や鎧、
武器はおろか移動手段にも利用するという変幻自在な扱いができるのであった。
事実、今のネヴァンが纏うドレスはコウモリ達をさらに集めることによって三メイル近い高さにまで大きくなっており、
コウモリの群れによって運ばれて浮かんでいるネヴァンは酒場の中を素早く流れるように動き回っていた。
その軌跡を、アニエスの砲銃から放たれた砲弾が縫っていく。
「ちょこまかと!」
外れた砲弾は床に転がる椅子やテーブルを粉砕し吹き飛ばす。
アニエスは次の弾を込めようとせず、ネヴァンが腕を振るってコウモリ達と共に放ってきた無数の雷弾をかわしていった。

その稲妻の弾丸はアニエスだけでなく、舞台上にいるルイズ達にも向けられて放たれていた。
「How's this?(これはどうかしら?)」
さらにネヴァンがその美しい手を伸ばすと掌から轟音と共に稲妻の嵐が吹き荒れ、ルイズとスパーダに襲い掛かる。
ルイズの前に立つスパーダは正面で閻魔刀をクルクルと回転させてコウモリ達を弾き返し、ネヴァン自身が放った稲妻さえも受け止めていた。
背後ではルイズが杖を頭上に掲げたまま呪文を唱えている。
「――バーストっ!」
唱えたのはキュルケも使うライン・スペルのフレイム・ボールであったが、その呪文によって起こされた爆発はネヴァンをコウモリ達もろとも包み込んでいた。
爆風によってテーブルも椅子も豪快に吹き飛ばされ、四方に飛び散った残骸は三人に襲い掛かる。
スパーダはそのまま閻魔刀で防御を続け、アニエスはアラストルを振り回して叩き斬った。
煙が晴れると、そこにはあれだけネヴァンに従えられていたコウモリの群れはほとんどいなくなり、ドレスも小さくなっていつもの大きさに戻っていた。

(あの小娘……)
ネヴァンとしては攻防一体である己のしもべ達があんな小娘ごときに一瞬で全滅させられたことに驚いていた。
「はあああっ!」
そこにアニエスがアラストルを高く振り上げ、ルイズ達の方に注意が向いているネヴァンに斬りかかる。
まるで急襲を仕掛けた獣のごとき気迫と勢いであったものの、ネヴァンはアニエスの方を振り向こうともせずにショールを振り上げて弾き返し、
さらに振るった手を捻るようにして突き出すと、掌から雷光が迸った。
攻撃を弾かれたばかりのアニエスは咄嗟に態勢を立て直そうとするが、間に合わない。

――ブゥンッ。

不気味な唸りと共にアニエスとネヴァンを挟んだ空間が大きく歪み、ネヴァンの放った雷撃がその歪みの中で刻まれた無数の斬撃によって阻まれていた。
その斬撃にネヴァンは感嘆とし、ちらりと舞台上で閻魔刀による居合いの構えを取っているスパーダを見やった。
千年以上も昔にも目にした、冷徹な魔剣士としての面構え。普段から冷たい表情しか浮かべなかったスパーダであるが、戦いとなれば冷たさはさらに力を増すのである。
その瞳は彼が手にする剣のように研ぎ澄まされ、目の前に立ち塞がる者は全て斬り伏せると言わんばかりの信念がありありと感じられていた。
(変わってないわねぇ……)
思わずぞくりと背筋を震わせてしまったネヴァンは、斬りかかってくるアニエスの猛攻を余裕の動作で避け続けると黒い影と無数のコウモリへと姿を変えて離脱した。
684: The Legendary Dark Zero 2012/07/27(金) 12:30:20.99 ID:ZsNvgWUa(4/9)調 AAS
「何よ。やっぱり平民じゃ駄目ね」
アニエスの後方に姿を現したネヴァンを見てルイズが溜め息を吐く。
あのアラストルとかいう剣は先刻のスパーダとの会話からして、どうやらマジックアイテムか何かのようだがあれを使ってもあんなザマとは。
ここはやはり、メイジである自分の力を持ってあの悪魔を倒してやるしかないだろう。
ルイズは初めて直接、悪魔と戦うことになるわけだがスパーダがいてくれるだけで、恐れを感じずとても安心することができていた。
スパーダが一緒にいてくれれば負ける要素など何もないように感じてしまうのである。
杖を振り上げたルイズが、再び呪文を詠唱しようとしたその時だった。

ネヴァンが両腕を広げ高笑いを響かせながら、その身に稲妻を収束させてきたのだ。
何をやろうとしているか知らないが、すぐにでも吹き飛ばしてやれば良いだけのことである。
「きゃあっ! ちょっと、何をするのよ!」
ルイズは構わずに集中して呪文を唱えていたがスパーダが咄嗟に体を抱え上げてきたため、詠唱を邪魔されたルイズはスパーダの胸を叩きながら文句を言った。
その直後、ネヴァンの頭上から凄まじい轟音と共に巨大な稲妻が降り注いできたのだ。
まるで巨大な鉄槌が叩き込まれたような一閃は一瞬にして床一面に広がり、地上に転がる全てのものを焼き焦がしていた。
テーブルも椅子も黒焦げにされ、客が飲み残していった酒などは一瞬で蒸発してしまった。
スパーダはルイズを抱えつつ宙に飛び上がっていたために問題はなかったが、アニエスは地上に足を付けたままであった。
「……ぐっ」
膝をつくアニエスの体には、それほど大きなダメージはなかった。
床に突き立てられたアラストルが稲妻の力を吸い取り、彼女へのダメージを和らげてくれたのである。
ネヴァンが技を繰り出す直前、アラストルがアニエスの頭に我を突き立てよ≠ニ語りかけてきたため、その言に従ったおかげで重傷を負うのは間逃れていた。
もっとも相手はアラストルと同格の上級悪魔であるため、それでも軽く火傷は負ってしまったのだが。
「まだ、まだだっ……!」
全身から僅かに煙を吹かせ、アニエスはよろめきつつも立ち上がっていた。

「ふぅん。平民にしては根性あるのね」
着地したスパーダに降ろされていたルイズは再びコウモリを纏ったネヴァンに斬りかかるアニエスを見て嘆息した。
ネヴァンが次々と放ってくる雷弾をアニエスはアラストルで叩き落しつつ一気に駆け寄り、ネヴァンを守るコウモリ達を斬り伏せていく。
女なのに男顔負けの気迫を発揮しながら繰り出す怒涛の猛攻はスパーダが愛剣のリベリオンを棒切れのように軽々と振り回すのに匹敵するほどの勢いであった。
一振りする度にコウモリ達は赤い血飛沫を散らせながら霧散し、徐々にネヴァンの防御を崩していく。
「お痛は駄目よ」
もちろん、ネヴァンも黙っているわけではなくその場でクルクルと回転すると、纏っているドレスの一部が巨大な刃となってアニエスを斬り刻もうとする。
アニエスは咄嗟に後ろに跳び退ってかわし、すぐにまたネヴァンへの攻撃を再開した。
ああして諦めずに戦い続けるのは賞賛すべきだろうが、やはり平民では悪魔を倒せないのだ。
685: The Legendary Dark Zero 2012/07/27(金) 12:34:46.65 ID:ZsNvgWUa(5/9)調 AAS
メイジである自分と、頼れるパートナーにして伝説の悪魔であるスパーダに全てを任せておけばあんな淫乱な悪魔など一捻りである。
……というか、どうあっても自分の手で叩きのめしてやらないと気が済まない。スパーダとあんなに親しげにしていたのがそもそも気に入らない。
スパーダが悪魔である以上、色々な悪魔と出会っていたのだろうが……よりによってあんな淫乱女と知り合いだなんて!
「スパーダ! あいつのコウモリをひっぺがしてちょうだい!」
「いや、それは君の役目だ」
杖を振り上げ再び呪文を詠唱しようとしたルイズであったが、スパーダはこちらにも飛ばされてきた雷弾を閻魔刀を回転させて防御しながら言った。
アニエスから逃げ回るネヴァンはこちらとアニエスの両方に向けて次々と同時に攻撃を仕掛けてきている。
「奴の防御を崩すのは君の爆発の方が効率が良い。奴への直接攻撃はアニエスに任せろ」
そのスパーダの言葉に、ルイズは顔を顰めた。
スパーダは自分よりもアニエスにあの悪魔を倒させようとしている。それが気に入らない。
(何よ。何であんな平民の女なんか信頼するのよ!)
平民であるアニエスはあんなに苦戦していて倒せそうにないというのに、何故彼女に任せようというのか。
パートナーである自分に任せないなんて、どういうことなのだ。

「どうしたの? 前みたいに大胆に攻めてきてちょうだい」
ネヴァンが雷弾を放ちながらスパーダの方を見やってきた。
スパーダとしては自分が前に出るとルイズがネヴァンの攻撃の餌食になってしまうので、傍に付いて守ってやらねばならないのだ。
そのために攻撃をアニエスに任せ、ルイズにはそのための援護、スパーダはそのルイズを守るというポジションに付いているのである。
本来、使い魔という存在はこうした状況で主を守るとされているそうだが、今まさにそうした状況なのだ。
もっとも、ルイズが主でなかろがスパーダは彼女を守るのだが。
「そこの小娘が足手まといになってるのかしら?」
そのネヴァンの言葉に、苛ついていたルイズが溜めていた怒りが爆発する。
「な、何ですってぇ!? もう一度言ってごらんなさいよ!」
「何の因果でスパーダと一緒にいるのか知らないけど……スパーダが全然、攻めてこないんだもの。
私はスパーダと刺激を味わい合いたいのに……。そんなザマじゃ、小娘が足手まといになっているものだわ」
つまらなさそうに呟くネヴァンは攻撃の合間を縫って斬りかかってきたアニエスの斬撃をショールで弾いていた。
「相手にするな」
スパーダがルイズの怒りを静めようと語りかけるが、あんな淫乱女にここまで馬鹿にされて黙っていられるわけがなかった。

パートナーである自分が役立たず?

パートナーの足手まとい?

スパーダはメイジでパートナーの自分より平民のアニエスを信頼している?

……冗談じゃない。
自分は、役立たずなんかじゃない!
あんな平民なんかに舐められてたまるものか!
「……落ち着け、ミス・ヴァリエール」
プルプルと肩を震わせているルイズをスパーダが再度抑えようとしたが……。
「うるさい、うるさい、うるさい! うるさいぃっ!!」
「待て、前へ出るな」
けたたましい憤怒の叫びを上げたルイズはスパーダの制止も聞かずにずんずんと前へ出て舞台から下りていった。
「あたしはスパーダのパートナーよ! 足手まといなんかじゃ、役立たずなんかじゃないわっ!」
叫びながら杖を突きつけ、呪文を唱えようとするルイズ。
686: The Legendary Dark Zero 2012/07/27(金) 12:39:41.40 ID:ZsNvgWUa(6/9)調 AAS
ネヴァンは横二メイルほどの長さをした帯状の稲妻を両端に二匹のコウモリ達を付けて飛ばし、ルイズに向けて飛ばしてきた。
縦に三つほど並べられた稲妻の帯は上から順に放たれる。

「伏せろ!」
同じように舞台から下りたスパーダが素早く駆け寄りルイズを抱えて共に床に倒れるように伏せ、稲妻の帯をかわした。
ネヴァンの稲妻はスパーダ達の頭上をすれすれで通り過ぎていった。
「離してよ! このままあんな悪魔に……平民なんかに舐められるわけにはいかないのよっ!」
完全に頭に血が昇り我を忘れてしまっているルイズはスパーダの腕を振り払って立ち上がり、アニエスと交戦しているネヴァンへ近づいた。
「待てっ、ミス・ヴァリエール。奴に近づくな!」
起き上がったスパーダが呼び止めるも、突如足元が光りだしたのを目にし、即座に横転を行なった。
ネヴァンがスパーダがいた場所に轟音と共に巨大な稲妻を落とし、床を砕いてきたのである。
しかも避けたスパーダの移動先にも落雷を発生させてくるため、中々ルイズの元へと行くことができなかった。

「平民っ! そこをどきなさいっ! そいつはあたしが仕留めるわ!」
ネヴァンを守るコウモリの群れはアニエスの猛攻によって大分剥がされている。これならば自分の爆発を直接叩き込むこともできるはずだ。
これまでスパーダの指導の下、自分の新しい魔法として特訓を続けてきたバースト(炸裂)≠ヘ、
唱える魔法の呪文の長さによって爆発の規模が変わるということが判明していた。
系統魔法は下から順にドット、ライン、トライアングル、スクウェアと分かれており、高位のランクほど呪文の詠唱が長くなる。
つまり高ランクの呪文ほど威力が増すので、今度はトライアングルクラスの魔法の呪文を唱えることにした。もちろん、その分精神力の消耗も大きくなってしまうが……。
「ヴァリエール殿! 待て! ……ちっ!」
アラストルの加護により身体能力が強化されていたアニエスはネヴァンの頭上を身を翻しながら飛び越えた。
当然、ネヴァンは頭上のアニエスに稲妻を放ってきたが、不安定な体勢であるにも関わらずアニエスは巧みにアラストルを振るって攻撃を逸らしていた。
反対側に着地したアニエスはルイズの前に立ち、スパーダの代わりに盾になろうとする。
「ヴァリエール殿。前に出ては危険だ」
「平民が貴族に命令するんじゃないわ! 黙ってなさい!」
だがルイズは貴族としてのプライドと意地を露にし、アニエスを威圧すると杖を振り上げ、呪文を詠唱しようとする。
「くっ! おのれっ……!」
アニエスはネヴァンが右手の掌から放ち続けている稲妻の嵐をアラストルで防御するので手一杯だった。
おまけにまるで獲物をいたぶるかのように徐々にその力を上げつつ一点に集中させてきており、先ほどのダメージで消耗していたのが祟って押されている。
ネヴァンは冷たいしたり顔を浮かべながら二人を見下ろしていた。
ちらりとスパーダの方を見ると、未だ落とし続けている落雷をかわしながらこちらへ向かってきている。
「ぐっ……ぬぬっ……くぅ……!」
吹き飛ばされぬように全身に力を込めるアニエスであったが、もはや限界だ。

「うあっ!」
「バース――」
ルイズが呪文の詠唱を終え、いざ爆発を叩き込もうと杖を振り下ろそうとした時、閃光と共に巨大な轟音が鳴り響いた。
喉からそれ以上の声が出ることはなく、漏れてきたのは呻きのみ。全身に、この世のものとも思えぬ激痛が駆け巡る。
ネヴァンがさらに力を上げて放った稲妻がアニエスの体を弾き飛ばし、盾が無くなったことでルイズにも襲い掛かったのだ。
風系統の魔法にも存在する電撃で相手を攻撃するライトニング・クラウドは直撃すれば人間の命を奪うことなど容易いものである。
だが、ネヴァンの放った稲妻の嵐はそれを遥かに超える威力であり、一瞬にしてルイズの全身に浸透し、その身を内側まで焼き焦がしていく。
稲妻に打たれたルイズは苦痛の悲鳴を上げることはおろか、自分の体が稲妻に焼かれていることすら認識できなかった。
やがて、その華奢な体がビシャンッ、という鋭い音と共に豪快に吹き飛ばされ、舞台の上に無残に叩きつけられ転げまわった。
アニエスはアラストルの加護により耐えることができた一撃が、何の加護も受けていない、平民となんら変わらない人間の肉体であるルイズが耐えられるはずもなかった。
仰向けに力なく横たわるルイズは服もマントも杖さえも焦がされ、それを握っていた右手は指先から腕までほとんどが炭化していた。
生気の失せた虚ろな目を開けたままのルイズの体は、弱々しくピクピクと痙攣している。
既にその小さな口からは、呼吸一つ漏れてはいなかった。
687: The Legendary Dark Zero 2012/07/27(金) 12:45:10.62 ID:ZsNvgWUa(7/9)調 AAS
「This's the end.(これでおしまい)」
突き出していた手を下ろし、ネヴァンは呟いた。
生意気な小娘はこれで仕留めた。女剣士の方も生きてはいるが、あれではもう戦えまい。
吹き飛ばされたアニエスは崩れたテーブルと椅子の残骸に突っ込み、気絶している。手放されたアラストルは壁に突き刺さっていた。
「さあ、これで二人きり……っ!」
邪魔者を排除し、いざスパーダと刺激を味わい合おうと顔を向けた途端、ネヴァンは珍しく吃驚した。
いつの間にか目前に迫っていたスパーダが閻魔刀の柄頭をネヴァンの腹に打ち据えてきた。
「……!!」
ドコンッ、と音を立てて繰り出された一撃は上級悪魔であるネヴァンでさえ苦悶の呻きを漏らすほどに強烈だった。
以前はスパーダに剣で叩き斬られたり、貫いたりされたものだが、これも中々に堪える。
「……っ。ふふっ、その小娘は大事だったみたいね……」
後ろによろめき体を折りながらもネヴァンはスパーダの顔を見上げる。
千年以上も前のあの時、スパーダは何を思ったか人間達を守るために魔界を裏切り、剣を振るった。
その際、彼が浮かべていた時と同じ強い信念と戦意が込められている。

そして、今回はさらにもう一つの感情がその気迫ある冷徹な顔に刻まれていた。
……守るべきものを傷つけられた怒り≠ニいう感情を。

スパーダが瞬時にコートの中の背中腰に手を回し取り出してきた二丁の短銃。
ネヴァンに突きつけるなりスパーダの両腕には赤黒いオーラが湧き出て、握っている銃を包み込んでいった。

――バウンッ!

まるで大砲を撃ったような凄まじい銃声と共に、二つの銃口から通常より大きな魔力の弾丸が放たれた。
その反動と衝撃に耐えられず、スパーダの腕と共に跳ね上がった銃は粉々に砕け散ってしまう。
「はぐっ!!」
スパーダ魔力の全力を持って作られた弾丸は赤い光の尾を引きながらネヴァンの腹に直撃し、爆ぜた。
爆風に包まれるネヴァンはその強烈な一撃に耐えられず、床に倒れこんでしまう。
「……ああ、すごい。刺激的だわ……。前より力は衰えているはずなのに……」
その口から出てきた快感の呻きを漏らすネヴァンであったが、壊れた銃を投げ捨てるスパーダは静かに閻魔刀を鞘から抜き出し、歩み寄ってきていた。
ふと気付けば、朧げにスパーダの姿と共に彼本来の悪魔の姿が浮かび上がっている。
「っ……」
倒れこんでいるネヴァンの首を掴み上げ、無理矢理立たせたスパーダは閻魔刀を無造作に垂らしたまま冷たい目付きで睨みつけている。
何の感情も窺えない、だが見る者をゾッとさせる恐ろしさで満ちていた。
(ああ……素敵……)
思わず、ネヴァンは酔い痴れたように目付きをトロンとさせる。
『これ以上、他の人間達を傷つけてみろ。……三度は無い』
悪魔としての本性を露にした冷酷な声に、ネヴァンは更なる愉悦を感じていた。

ティファニアがある路地の近くまで来た時、凄まじい轟音が鳴り響いていた。
それは地の底から響いてくるような不気味な轟きであり思わず足を止めてしまったが、同時にそれが路地の奥から聞こえてくるものであることを察していた。
路地の奥で見つけた地下の扉を開け、恐る恐る中を覗き込んでみると、そこは地獄のような場所だった。
酒場とは思えない広さの空間には焼け焦げた椅子やテーブルが無残に転がっているのだから。
やはりこの中でスパーダ達は戦っていたことを確信するが、それにしてはとても静まり返っている。
(どうしたのかな……)
不安を感じ、そっと静かに扉を開けていく……。
そして、思わず目にしてしまった光景に絶句してしまった。
(ス、スパーダさん!?)
そこにいたのは紛れもなく、スパーダであった。
右手に持つ刀で土気色の肌をしている女の腹を容赦なく串刺しにしていたのだ。
688: The Legendary Dark Zero 2012/07/27(金) 12:49:46.46 ID:ZsNvgWUa(8/9)調 AAS
ボタボタと刀からは体を仰け反らせている女の血が滴り落ちている。
(あれが、悪魔……なの……?)
悪魔というと、ティファニアも目にしたあのおぞましい姿ばかりなのかと思ったのに、今スパーダが貫いている悪魔は息を呑んでしまいそうに美しい姿をしていた。
その妖しい美貌を持つものであろうと、スパーダは容赦なくその身を手にする剣で貫いている。
悪魔を睨みつけるスパーダの表情は、一見するとどんな感情を抱いているのか窺うことができない。
だが、ティファニアは察していたスパーダは……怒っている。
あれだけ自分に優しく接して父性を見せてくれた人が、今まさに悪魔らしい冷酷な姿を見せていることにティファニアは思わず恐怖を感じてしまった。
(大丈夫……。スパーダさんは、悪魔なんかじゃない……)
緊張で高鳴る胸を押さえ、ティファニアは店内へと足を踏み入れていた。

「ふふ、ふっ……。やっぱり、スパーダはスパーダね……。何一つ変わってないわ……」
その身を閻魔刀で刺し貫かれているにも関わらず、ネヴァンは妖しく笑いながら呟いて体を起こしスパーダの背と首に手を回していた。
スパーダはネヴァンを抱こうとはせず、閻魔刀を握る手を離さない。
「いいわ……。また一緒に付き合ってあげる……。これからも刺激を味わい合いましょう……ダーリン」
そう呟き、ネヴァンはスパーダの首を擦るとその頬にそっと口付けをした。
ネヴァンの体は雷光と共に眩い光に包まれ、消え去った。
代わりにスパーダの腕に抱えられていたのは、一振りの装飾を施された大鎌だった。
およそ140サントほどの長さで、鎌というだけあってその先端には鋭く弧を描く刃は備えられている。

電刃ネヴァン

上級悪魔ネヴァンの魂が肉体と共に姿を変えた魔具の一つであった。
スパーダはネヴァンの大鎌をじっと見つめて細く溜め息を吐くと、その手の中で淡い光に包まれながら小さくなっていく。
小さな光球へと姿を変えたネヴァンはそのまま透けるようにして消え、スパーダの魔力の一部となっていた。

(スパーダさんの、知り合い……?)
ティファニアはずいぶんとスパーダと親しげにしていたあの悪魔が鎌に変わってしまった光景に呆気にとられていた。
「付いてきたのか。もう終わったがな」
「あ、あの……ごめんなさい」
閻魔刀を鞘に収めつつ振り向いてきたスパーダにティファニアは思わず謝ってしまう。
「構わん。気にするな」
特に責めることもせず、スパーダは急いで舞台の方へと駆けていった。
「……ルイズさん!」
ティファニアは舞台の上で倒れているルイズの姿を目の当たりにすると、自分も思わず舞台へと駆け上がって行った。
全身を焼き焦がされたルイズの凄惨な姿に、悲痛な顔を浮かべる。
スパーダはルイズの体を抱え上げ、その顔に耳を近づけ、胸に手を触れた。
(呼吸が止まっている……)
それどころか心臓さえも止まってしまっていることにスパーダは深刻そうに顔を顰めた。
バイタルスターは持ってきてはいるものの、これでは体の傷を治すことはできても助かる可能性は著しく低い。
肉体の外傷は治せても、蘇生させることはできないのだ。
「Damm it!(くそっ!)」
拳を床に思い切り叩き付け、スパーダは呻いた。

※今回はこれでおしまいです。
現地調達の銃が壊れたので、そろそろ光と闇を持たせようか……。
689: 2012/07/27(金) 13:52:46.60 ID:AlFsSiMO(1)調 AAS

ついでに次スレもよろしく
690: 2012/07/27(金) 14:03:28.11 ID:ZsNvgWUa(9/9)調 AAS
次のスレ立て完了。

(part314)
2chスレ:anichara
691: 2012/07/27(金) 14:11:04.87 ID:i5UqaICU(1)調 AAS
乙乙です
692
(1): 2012/07/27(金) 15:39:30.01 ID:NDs6xeUN(1)調 AAS
おつー
ルイズ死亡確認
693: 2012/07/27(金) 16:44:37.78 ID:m2MjSebU(1)調 AAS
>>692
王大人乙
694: 2012/07/27(金) 16:45:18.72 ID:RCsqKMzY(2/2)調 AAS
パパーダの人お疲れ様です
695: 2012/07/27(金) 19:28:47.71 ID:eHkMUq9d(1)調 AAS
案の定痛い目に有ったねパパーダ版ルイズ。
696: 2012/07/28(土) 07:55:22.56 ID:qdK1f0pg(1/2)調 AAS
コントラクト・サーヴァントって唇にしないと駄目なの?
ルイズがたまたまそうだっただけで、実は鼻先とか額でも良いなんてことはないの?
697: 2012/07/28(土) 08:03:36.01 ID:eVCAe6MQ(1)調 AAS
First Kissから始まる二人の恋のStoryなんだよ
698: 2012/07/28(土) 12:31:58.54 ID:zBv1U2G1(1/2)調 AAS
亀頭にキスさせたご立派最強
699: 2012/07/28(土) 16:58:39.59 ID:qdK1f0pg(2/2)調 AAS
書く人のさじ加減ってことでいいですかねキス
ジュリオとヴィットーリオの契約も唇だったとか考えたくない
700: 2012/07/28(土) 17:20:19.64 ID:GNNUrafC(1)調 AAS
バグベアーはゼロ魔では目玉の方だったとおもったけど、あれにも口あるんかな

ヤドクガエルみたいな触っただけでもヤバいような生物召喚したらキツいな(笑)
そういうのは召喚されないようになってるだろうけど
701: 2012/07/28(土) 17:47:09.70 ID:lvycvyGv(1/2)調 AAS
ヤドクガエルは火で炙る等の危険を感じないと毒を分泌しなかったり、
人工飼育下では毒を合成できなかったりする
702: 2012/07/28(土) 18:34:18.44 ID:wEdrR2q6(1)調 AAS
聖剣伝説3クロスの「夜刃の使い魔」じゃ、ホークアイが口の中に毒針仕込んでて、ルイズがバッドステータス状態になってたな
703: 2012/07/28(土) 21:55:25.34 ID:zBv1U2G1(2/2)調 AAS
埋め
704: 2012/07/28(土) 22:05:24.17 ID:w2YweLtf(1)調 AAS
梅梅
705
(2): 2012/07/28(土) 22:56:49.22 ID:IYFSnDFl(1)調 AAS
どうせ埋まるなら他愛も無い雑談しようぜ

ルイズが召喚したら喜びそうな人間キャラってどう言うキャラになりそうなのかな?
人間ってだけで誰が召喚されても喜ばないか特定の条件が揃っていれば喜ぶかを
皆に聞きたい、発言に対しての喧嘩は勘弁って事で
706: 2012/07/28(土) 23:05:18.97 ID:WcVZ8Vok(1)調 AAS
>>705
人を召喚していきなり手放しで喜ぶなんて事はないだろうな普通に考えると
だが同じ時間を過ごすうちに次第に好感度が上がっていくということはあるだろうけど
707
(1): 2012/07/28(土) 23:05:52.44 ID:lvycvyGv(2/2)調 AAS
「信念と余裕を持っていて、自分を尊重してくれる人間」は始めは喜ぶけれど
後から劣等感を抱くことに成ると思う
708
(1): 2012/07/28(土) 23:13:06.08 ID:7IpZpy2X(1)調 AAS
イケメンならちょろいだろうなルイズはわりとメンクイだし
サイトいなければ即落ちだよ母親もあれだから遺伝だね
709
(1): 2012/07/28(土) 23:55:17.08 ID:d0Qsjizp(1)調 AAS
>>708
Dは喜んでたな、ハーフだけど
せんべいやならちょろいだろ
710: 2012/07/28(土) 23:59:53.62 ID:QDM5u9YQ(1)調 AAS
>>709
そもそもその二人に抵抗できる女性が殆どいないという事実
711: 2012/07/29(日) 00:05:11.62 ID:fxlfZAOB(1)調 AAS
>>705
ルイズを尊重しなおかつ劣等感を刺激しない、と言うとハードルが山より高くなるからなぁ。
712: 2012/07/29(日) 00:06:17.89 ID:oX0d8SYu(1)調 AAS
煎餅屋は小ネタで喚ばれていた
713: 2012/07/29(日) 00:08:11.17 ID:Lyim/CZM(1)調 AAS
千兵衛?
714: 2012/07/29(日) 00:38:38.45 ID:XiHqt1BA(1)調 AAS
>>707
なんとなく三国無双シリーズの趙雲を想像しました…アイツなら子供の扱いも上手そうだしさ
魔法も使えないし主君と仰いでいるならまず侮蔑とかも言わないから劣等感もそこまで刺激しないでしょ
設定でも美男子だったらしいから顔も水準には達しているんじゃないかな?
715: 2012/07/29(日) 01:06:53.25 ID:5gAC41or(1)調 AAS
趙雲さんは二重あご、マジで
716: 2012/07/29(日) 01:48:09.96 ID:Z40OBwUe(1)調 AAS
ブランカとかなら人間と思わずに喜ぶんじゃね
717
(1): 2012/07/29(日) 02:01:08.12 ID:MbUCeseP(1)調 AAS
ブロッケン伯爵が出てきた場合のリアクションはすごそうだ
718: 2012/07/29(日) 07:56:01.47 ID:blUllkNv(1)調 AAS
ギーシュやマリコルヌに頭をサッカーボールにされそうな気がするw>ブロッケン伯爵
719: 2012/07/29(日) 13:49:43.97 ID:fy08brni(1)調 AAS
ブロッケンと聞いたらワールドヒーローズのヤツを思い浮かべた。
ジャーマンエクスプロージョンを発動させたら後で色々面倒がおきそうだな。
720: 2012/07/29(日) 15:46:44.01 ID:PbsjKRCk(1)調 AAS
>>717
でも伯爵ドイツ人だから名前的に「ゲルマニア人!? この成り上がり!!」とか反発しそう。
721: 2012/07/29(日) 17:44:04.09 ID:dsfeu6GA(1)調 AAS
じゃぁ似たような奴ってことで
ハーメルンのベース(リュート)を呼んでこよう
722: 2012/07/29(日) 19:29:39.42 ID:0f1/zfNA(1)調 AAS
ベルリンの赤い雨ェ
723: 2012/07/29(日) 19:45:53.46 ID:mTVCaKKb(1)調 AAS
もっとジャンプ漫画クロスが読みたい
ゼロ魔と禁書以外に読むのってジャンプぐらいしかないから頼むは
724: 2012/07/29(日) 19:58:15.31 ID:YGQ/p6Mo(1)調 AAS
昔のジャンプでタイムウォーカー零から原作終了後の刹那零を召喚とか考えてるが
どう展開させたものか・・・
お約束の骨董品回収依頼のドタバタでテレポートしようとした矢先に召喚ゲート
これまたお約束な子供のお守
決闘イベントはシエスタがくれた滋養メニューのおかげで回復して影分身

大雑把な内容は考えてるが、ラストまでの展開どうまとめたもんか・・・
終わったら元の世界に帰したいけどそこまでの展開思いつかないしなぁ
725: 2012/07/30(月) 03:47:43.48 ID:Fg/A5K+r(1)調 AAS
あー・・・誰かメタルスラッグとのクロス書いてくんねーかなー(チラッチラッ
726
(1): 2012/07/30(月) 09:47:44.15 ID:O3gIhsZz(1)調 AAS
っ[鏡]
727: 2012/07/30(月) 15:50:31.94 ID:sdF5cdr2(1)調 AAS
>>726
使い魔召喚がこんな所に!?
728: 2012/07/30(月) 16:10:05.61 ID:NunYWRHw(1)調 AAS
嬉々として飛び込んだ先にはチュレンヌ徴税官が…
ご愁傷様www
729: 2012/07/30(月) 21:05:26.70 ID:u30DOUdt(1)調 AAS
HEEEEYYYY!あァァァんまりだアァアァ!
730: 2012/07/31(火) 01:24:55.39 ID:s03AhZjd(1)調 AAS
何KBまでだっけ?
731: 2012/07/31(火) 07:47:28.46 ID:Ru/LNvxs(1)調 AAS
500KB
732: 2012/07/31(火) 10:18:54.65 ID:9YVumHhl(1)調 AAS
流行でインテリ筋肉のベインさん呼ぼうぜ
733: 2012/08/01(水) 00:34:14.26 ID:7nkLbxLt(1)調 AAS
キャプテン・ブラボーが喚ばれたらルイズたちを熱血に導いてくれそう
734
(1): 2012/08/01(水) 18:09:16.17 ID:hGjGWZmW(1)調 AAS
「魔物娘図鑑」のデルエラ様が来たらルイズは巨乳にしてもらえるのだろうか?
シスター姿的にダークプリーストあたりが適役かな。
逆にロリペタのバフォメットにされたらサバトを率いて巨乳組をロリ魔女へ変えてゆく
巨乳撲滅委員会を立ち上げそうだ。
しかしロリになっても変わらないテファの革命おっぱいに憤死しそうw
735: 2012/08/01(水) 18:20:31.43 ID:nMAgSrqa(1)調 AAS
よしキャプテン・ファルコンを召喚しよう、ポルトガルのほうじゃないのを
736: 2012/08/02(木) 07:29:33.07 ID:z/sfbUqj(1)調 AAS
>>734
誰が呼ばれても学園を中心に魔界化していきそう。
737
(2): 2012/08/02(木) 11:42:21.68 ID:rj0sgNr6(1)調 AAS
キャプテン・アトランティスなら…どうなるんだろ
738: 2012/08/02(木) 15:43:12.58 ID:IjBrN+fc(1)調 AAS
>>737
そいつやサモエド仮面とかの変態召喚って、意外と少なかったな
739: 2012/08/02(木) 16:12:08.30 ID:QbYkjMdt(1)調 AAS
>>737
まず確実に背景とBGMを奪って歌が始まる

キャプテーン!
740: 2012/08/03(金) 15:59:55.07 ID:2y4N4ufo(1)調 AAS
そしてランディ・リッグスは訳も分からずハルケに来ることになるのか
741: 2012/08/03(金) 19:33:11.89 ID:t0pYjA1Z(1)調 AAS
?? ワロタw
742: 2012/08/04(土) 20:02:33.42 ID:3lbf8ohJ(1)調 AAS
いい加減コッチを埋めようぜ。
743: 2012/08/04(土) 22:52:11.27 ID:AUGyzog0(1)調 AAS
うっめぇ〜〜
744: 2012/08/04(土) 23:06:55.82 ID:0qiMzM4v(1)調 AAS
オレはルイズではなく、アブソリュート・フェニックスと契約する
745: 2012/08/04(土) 23:24:53.82 ID:ksT9/MCO(1)調 AAS
フォーッフォフォフォ!
746: 2012/08/05(日) 00:27:02.33 ID:xH+sqvzP(1)調 AAS
出たなバルタン星人!
747: 2012/08/05(日) 01:45:09.55 ID:tRwBbm/e(1)調 AAS
埋め
748: 2012/08/05(日) 03:47:11.25 ID:zBWsa9Lz(1/3)調 AA×

749: 2012/08/05(日) 03:47:52.63 ID:zBWsa9Lz(2/3)調 AA×

750: 2012/08/05(日) 03:48:30.15 ID:zBWsa9Lz(3/3)調 AA×

1-
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ

ぬこの手 ぬこTOP 0.493s*