[過去ログ] アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ9 (454レス)
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245: 疑う剣持  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:52:07 ID:b4pYdb3U(11/11)調 AAS
高遠の指差す先にあるのはその“ファミリーネームが無い名前”の数々であった。
“ヴィラル”から始まり“ランサー”まで、既に高遠が出会ったキールを除く24名。

「恐らくこの内の少なくとも一体はガッシュ君と同じ魔物でしょう
 ガッシュ君の話の通りならば、もしパートナーが死亡した場合、魔界の子供達は呪文を使えず一気に弱者へと成り下がる……
 それは恐らく螺旋王の本意ではない……
 だから本のルールを捻じ曲げ、誰でもパートナーになれるようにした……というところでしょうか。
 ガッシュ君、その本を貸していただけますか?」

マジシャンである高遠は予想も付かない手段でこちらを欺く。
故に剣持は高遠に物を渡すことに危機感を覚えたが、止める暇も無くガッシュから本が手渡される。
――よっぽど結論を聞きたいのであろう。
そんなガッシュの心情を考えるとそれを止めるわけにも行かず、
高遠が本を受け取り、次々とページに目を通して行くのを注意深く見ているしかなかった。

「……お前も読めるのか?」
「いえ、残念ながら。どうやら本を読むには何らかの条件があるようですね。
 そして剣持警部はそのお眼鏡にかなった、ということのようです。
 今のところ、推理できるのはその程度でしょうか」

推理はこれで終わり、とでも言いたげに本を閉じ、ガッシュに返す。
ガッシュはそんな高遠を子供特有のきらきらとしたまなざしで見上げる。

「オオ……すごいぞ高遠! オヌシ、清麿と同じぐらい頭がいいのだな!」
「おや、それは光栄ですね」

笑顔になり高遠を褒めるガッシュと先ほどまでと変わらぬ笑みでそれに答える高遠。
だがその一方で剣持は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
それは推理するその様子が皮肉にも自分の味方であり、彼の敵であるはずの“名探偵”そのものだったからだ。
いつもとキャストが逆転してしまったかのような関係に苛立ちが強まる。
その場所には頼りになるあの少年か、それか口を開けば嫌味が出るあの男にいて欲しい場所なのだから。
そんな剣持の心理を知ってか知らずか、高遠は何処か芝居がかった仕草で視線を海面にずらすと大きくため息をついた。

「しかし――これは少々まずいことになりましたね」

高遠の呟きにガッシュは首をかしげる。

「ウヌウ? 一体何がまずいのだ?」
「考えてもみてください。私は今までここを訪れた数名に“船を反主催の拠点とする”と言っているのですよ?
 その近くで爆発が起これば……どう考えます?」
「「あ……」」

高遠がアレンビーたちに託した情報を踏まえたうえで、豪華客船付近での爆発を見たものが考えることは2つ。
『船がゲームに乗ったものの襲撃を受けた』、もしくは『船に呼ばれたこと自体が罠だった』の二種類だ。

「襲撃と思われるならともかく、罠と思われるのは私としても不本意ですからね。
 今からこの船を確実に目視できる範囲――そうですね、E-3ブロックを一回りしてみようかと思います」

さも当然のように船から出て行くことを宣言した高遠の前に剣持は立ち塞がる。

「ちょっと待て! お前みたいな凶悪犯罪者をむざむざ一人にすると思ってるのか!」
「では同行しますか? ええ、剣持警部ほどの腕があればこちらとしても歓迎ですよ。
 剣持警部が遭遇したような、殺人遊戯に乗った輩が襲って来る可能性がありますからね」
246: 2007/11/26(月) 07:52:20 ID:StGxnH4u(4/16)調 AAS

247: 2007/11/26(月) 07:54:39 ID:StGxnH4u(5/16)調 AAS

248: 2007/11/26(月) 07:55:27 ID:StGxnH4u(6/16)調 AAS

249: 2007/11/26(月) 07:57:12 ID:StGxnH4u(7/16)調 AAS

250: 2007/11/26(月) 08:00:01 ID:StGxnH4u(8/16)調 AAS

251: 代理投下 2007/11/26(月) 08:02:38 ID:StGxnH4u(9/16)調 AAS
あっさり同行を申し出る高遠。その態度に剣持は逆に戸惑ってしまう。
剣持は知っている。この高遠という男が人の心に付け込み、2重、3重に巧妙な罠を仕掛ける男だと。
だが巧妙な罠というのは罠だと分かっていてもかからざるを得ないものらしい。
そう、剣持に最初から選択肢などない。
この男から目を離すことが出来ない以上、この探索にも付いていかざるを得ないのだ。
剣持もそれを分かっているからこそ、せめて高遠の一挙手一投足を見逃さないように凝視する。

「……分かってるだろうが何か怪しい真似をしたら即効で取り押さえるからな」
「ええ、お好きにどうぞ。ではまずは西側から回ってみますか」

   *   *   *

そして1時間後、剣持たちは埠頭へと戻ってきていた。
結局彼らは誰とも会わなかった。いや、それどころか何も起こらなかった。
元々E-3ブロックは豪華客船が停泊するための湾岸部が大半を占めており、
あまり建物が存在しない開けた場所が多かったことも手伝い、大した手間もなく捜索は終了したのだった。
そして問題であった高遠の行動にも二人が見る限りでは不審な所はなく、
一挙手一投足に気を配っていた剣持とガッシュに疲労が溜まるだけという結果に終わってしまった。
そんな二人に対し高遠は、
『どうやら幸いなことに人はいなかったようですね。
 これで私も安心して船内で人を待てるというものだ』
とだけ言い残し、客船へと戻っていった。

そして今現在、高遠の姿が完全に船内に消えてから数分後――
剣持はガッシュに支給されたアンパンを分けてもらい、並んで食べていた。

「……ずっとここで見張り続けるのか、勇?」

アンパンを食べ終え、何ともなしに豪華客船のほうを眺めていたガッシュが口を開く。
剣持はその言葉の裏にあるガッシュが清麿を心配する感情を見て取った。
自分だってできるならば一緒に清麿という少年を探してやりたいと思う。
だがしかし――

「ああ……俺は高遠を見張り続ける」

これだけは譲れないのだ。
252: 代理投下 2007/11/26(月) 08:03:46 ID:StGxnH4u(10/16)調 AAS
地獄の傀儡師、高遠遙一。
あの男の恐ろしさは複雑なトリックを考え付く頭脳だけではない。
長年刑事を務めてきた剣持は知っている。
平穏な暮らしをしていたものが殺人を犯すのはかなりの覚悟がいるものだということを。
だがあの男は唆すだけで、他人にいとも簡単にその一線を越えさせる。
人を操り破滅へと誘う――まさに地獄の傀儡師という二つ名が相応しい男であるのだ。
あの男の仕掛けた罠など自分に見破れるはずもない。それは皮肉にもさっきの出来事でそれを痛感してしまった。

しかし――それは決して無駄ではないはずだ。
少なくとも自分がここにいることで高遠は行動を制限されるはずだし、
もし噂を聞いて誰かがここにやってきた場合同行を申し出て、
高遠の奴が妙なことを吹き込まないかを監視するぐらいはできるはずだ。
だからあの男がここを動かない限り、自分もここを動くことはないだろう。

だがそれにガッシュが付き合う必要は無い。
本来のパートナーである清麿を一刻も早く探したいだろうし、
誰か信頼できそうな人物がこの船に来たならばその人に同行を頼むのが最善だろう。
そう考え、ガッシュにその旨を伝える。だが、

「いや、私も勇に付き合おう。イザという時にこそ、私のザケルはきっと役に立つはずだ!」

返ってきた答えは、剣持と一緒にいるという意思表示であった。

「ガッシュ、無理することはないぞ。おまえは清麿君を探さにゃあいかんのだろう?
 こう見えても俺は強いんだ。さっきの電撃がなくても何とかなるさ」
「大丈夫だ! 清麿は強い! だからきっと死なぬ! 私は……そう信じておる!
 それよりも今は高遠のことが気になるのだ!
 もしも……もしも高遠が剣持の心配するとおりの人物であるならば、私としてもほうっておくわけには行かぬ!」

それはどこか自分に言い聞かせるような口調でもあった。
先程の高遠の不愉快な発言で、清麿という少年と離れている不安も一層増したはずなのに、
それを押し込め、自分の“高遠が怪しい”という言葉に賛同し、従っている。
自分のことよりも人のために動ける優しさ――それは何物にも変えがたい心だと剣持は思う。
だから確信する。この子はきっと優しい王様になれるはずだと。

(まったく……子供に気を使われてちゃ世話ないな)

目の前の少年を元の世界に返し、その王様にするためにも、このふざけたゲームを止めなければ。
その為にも今は刑事として、何より一人の人間として己の職務を全うしよう。

「じゃあ、よろしく頼むぞガッシュ!」
「ウム! 私に任せておくのだ!」
253: 代理投下 2007/11/26(月) 08:04:37 ID:StGxnH4u(11/16)調 AAS
【E-3/埠頭/1日目/昼】
【剣持勇@金田一少年の事件簿】
[状態]:打撲(背中・強)、精神疲労(中)
[装備]:ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、
    スパイクの煙草(マルボロの赤)(18/20)@カウボーイビバップ
[道具]:ドミノのバック×2@カウボーイビバップ
[思考]
基本:殺し合いを止める
1:豪華客船付近に留まり、高遠が行動を起こさないか見張る。
2:高遠の言葉に乗って集まってきた人物の対処をどうするか考える。
3:殺し合いに乗っている者を無力化・確保する。
4:殺し合いに乗っていない弱者を保護する。
5:情報を収集する。
[備考]
※高遠遙一の存在を知っているどこかから参戦しています。
※スザクの知り合い、その関係について知りました。(一応真実だとして受け止めています)
※ヴィラルがどうなったのかを知りません。
※ガッシュ、アレンビー、キールと情報交換済み
※高遠を信用すべきか疑うべきか、計りかねています。
※ガッシュの持っていた名簿から、金田一、明智、高遠が参加していることを把握しました。

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、精神疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料:アンパン×8、ミネラルウォーター)
    ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、ビシャスの日本刀@カウボーイビバップ、水上オートバイ
[思考]
基本:螺旋王を見つけ出してバオウ・ザケルガ!!
1:剣持と行動。剣持を守る。
2:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
3:ジンとドモンと金田一と明智を捜す。
[備考]
※高遠を信用すべきか疑うべきか、計りかねています。
※剣持、アレンビー、キールと情報交換済み
※聞き逃した第一放送の内容を剣持から聞きました。
254: []] 2007/11/26(月) 08:05:53 ID:StGxnH4u(12/16)調 AAS
甲板には物がない。
それはある意味当然だ。客船である以上、甲板の役割として大海原を望める展望台としての役割が上げられる。
展望台の主役はあくまでそこから見える“景色”であり、物があればあるほどその景観を損ねてしまう。
ゆえにその甲板には足を休めるためのベンチ以外何もなかった。
だが余程いい設計者に恵まれたのだろう。
甲板はベンチや手すりの形状・位置などが絶妙に計算され、
景色の邪魔にならぬように、かつ殺風景にならぬように一種の調和を紡ぎ出している。
だが今やその甲板の隅に調和を崩すものが鎮座していた。

白い塊。
一言で言い表すならその表現が一番近いだろう。
だが目を凝らせば白い中にうっすらと茶色い影が見える。
そして無人だった甲板に対照的なまでに黒い男――剣持たちと別れたばかりの高遠がやってくる。
高遠は無言のままそれに近づくと、中身を決して傷つけぬように、
支給品のスペツナズナイフで丁寧にそれを切り裂いていく。
そしてそこから出てきたものを見て高岡は唇の端を吊り上げ、笑みを形作る。
白い塊――水に濡れたシーツの中から出てきたのは一人の少女。
今から約1時間前、高速道路から身を投げたはずのティアナ・ランスターであった。

  *    *    *
255: 嗤う高遠  ◇DNdG5hiFT6 代理投下 2007/11/26(月) 08:07:52 ID:StGxnH4u(13/16)調 AAS
時をしばし遡る。

埠頭で爆発が起こった瞬間、高遠は数秒迷った挙句、どちらでもない選択肢を選んだ。
その選択肢とは二人に姿を見せずに様子を探るという、消極的なものだった。
そして扉の陰から様子を窺った彼が見たのは、激しく泡立つ海面とそれを唖然とした顔で見つめる二人の姿だった。

(あれは――海面に爆発物を放り込んだのか? 
 いや、彼らがあそこで爆発させる必要はない上に、それだと彼らの驚き様は不自然だ)

推理を行うにしても情報が少なすぎる。
更なる情報を得るため、彼らに再度接触を図るべきか?
それとも不用意な接触を避け、再び船内に戻るべきか?
どちらのほうがメリットが大きいか思案しつつ、何の気なしにガッシュたちから視線を外し、海のほうへと向ける。
視線をはずした高遠は驚くべき光景を目にすることになる。
それは高速道路から“誰か”が海へと落下する光景――それも続けざまに二人も――であった。
高遠は剣持たちに気付かれないように甲板へ移動し、その後の推移を見守ることにした。
すると2人のうち1人が湾内の海流に乗って結構なスピードでこちらに流されてくるではないか。
このスピードだと30分以内にはこの豪華客船と接触するだろう。

と、そこまで考えた高遠の脳裏にある考えがよぎった。

(――もしもあの人間が生きていれば、船外の貴重な情報源に成り得るのではないだろうか?)

ガッシュと剣持が向いているのは船の舳先の方――方角で言えば西側だし、
そもそも高速道路と少女は船体が陰になって多少行動を起こしても気付かれることはあるまい。
しかし高遠の腕力では例え女子供とはいえ、引き上げることは到底不可能だ。
だが悪魔の頭脳は瞬時に回転し、一つの計画を立てる。
そして高遠はその計画に従って行動をし始めた。
表の剣持たちに気付かれないように細心の注意を払いながら。
256: 嗤う高遠  ◇DNdG5hiFT6 代理投下 2007/11/26(月) 08:10:57 ID:StGxnH4u(14/16)調 AAS
高遠がまず用意したのは数本の救命用ロープと空のポリタンク(20リットル×4)、白いシート、ガムテープ、4本の長いゴムホース
といった客船の備品と支給品のミネラルウォーター4本。
事前に船内を回って物の位置を把握していた高遠はそれらを短時間で集め、行動を開始した。

まずは救命用ロープを結び合わせて長いロープを4本仕立て上げる。
そしてそれらをシーツの四隅に結びつけ、シーツの中央に“水を抜くため”の穴を開けておく。
(なお、その際ガムテープを使用し、穴自体が必要以上広がらないようにする)
ロープのシーツを結んだ方とは反対側に、それぞれポリタンクをくくりつけ、完成したそれを甲板の手すりへと引っ掛けておく。
そして紐付きのシーツを海面にたらし、ティアナの体の下にもぐりこませる
(この際海風が邪魔をすることが想定できたのでシーツとロープを繋いだところに、
 支給されたミネラルウォーターを重り代わりにつけておいた)
その作業が終了した後に、4つのポリタンクの口にそれぞれゴムホースを括り付け、剣持たちに会う前に蛇口を捻る。
そして何食わぬ顔して剣持たちの下へ向かったのである。

彼らが会話している間にも流しっぱなしにした水はポリタンク内に溜まり、重量を増していく。
そしてポリタンク内の水の重量が、ティアナの体重とペットボトル4つ分の重みを上回った瞬間、
自動的にロープのポリタンク側は落下していき、
逆に滑車の原理によってティアナの身体はシーツに包まれた状態で吊り上げられていくのだ。
その際、結び目でロープの長さを調整しておけば、ポリタンクが着水した時点で上昇は終わり、
ティアナの身体は頂上付近で停止する、というわけである。

――詰まる所高遠は、穴を開けたシーツを網代わりに、水の重さと滑車を利用してティアナの身体を引き上げたのだ。
257: 嗤う高遠  ◇DNdG5hiFT6 代理投下 2007/11/26(月) 08:11:38 ID:StGxnH4u(15/16)調 AAS
ただし、これらは急ごしらえのトリックなのでいくつもの穴がある。
まず一つ目の穴は豪華客船に吹き付ける海風の存在である。
シーツを海上に下ろす際はマジシャンである自分の技量を用いれば音を立てずに操るのは難しいことではなかったが、
自動的に引き上げる際はそうはいかない。
海風によって水の少ないポリタンクが船体にぶつかれば奇妙な音を周囲に撒き散らすことになる。
そんな音がすれば不審に思った剣持警部はこの船に乗り込んでくるだろう。
したがって高遠は剣持とガッシュをトリックが完了するまで何処か別のところへ引き離す必要があったのである。
そのため高遠はマジシャンの基本にして奥義――ミスディレクションを行った。
ミスディレクションとは例えば右手でマジックを行う間、左手に観客の注意をひきつけておく技術である。
今回の場合、マジックを行う右手は船、注意をひきつける左手は高遠遙一本人だ。
剣持が注視していたのはあくまで“高遠遙一”自身が行う行動であり、
彼が既にトリックを仕組み終えていたなどとは夢にも思っていないだろう。
また、彼は高遠を監視せざるを得ず、先導していけば剣持たちも船を離れざるを得ない。
またこれには第2の穴である『自分の不在中に船を誰かが訪れる』ことを阻止することもできる一石二鳥の作戦であった。
そして最も大きな第3の穴――トリックの途中で彼女が目を覚ました場合である。
吊り上げる途中でティアナが目を覚まし、暴れることによって海面に落ちる。
恐らくその場合は誰にも知られること無く、溺死体が一つ出来上がるだけである。
また、最悪なのが甲板上に上がった状態で目を覚まされた場合だ。
しかも帰ってきたときに剣持たちと鉢合わせしてしまえば言い逃れの出来ない状況になってしまう。
だから彼はポリタンクに流れる水量と周囲を調査する時間を調整し、トリックが完了する時間とほぼ同時に船に帰還したのだ。

甲板に横たわる少女に息があることを確認し、しばし高遠は対処の方法を考える。
まずは何にせよ情報を引き出さねばなるまい。
少女が会場を回り、何を見、何を知ったか――主観が混じることは避けられないものの、
豪華客船にこもりっきりの自分にとってそれは貴重な情報源となる。
そしてその会話の中で彼女が人を殺める“動機”を覗かせれば、その時こそ“地獄の傀儡師”の出番だ。
心を揺さぶり、唆し、自らの芸術的な犯罪計画の手駒として役に立ってもらうこととしよう。

その来るべき時を想像して、高遠遙一は嗤う。
ひたすら邪悪に、ひたすら楽しそうに。
その嗤いを見たものがいたならば、きっと十人が十人とも同じ感想を述べただろう。
悪魔の笑みとはこういうもののことを言うのだろう、と。
258: 嗤う高遠  ◇DNdG5hiFT6 代理投下 2007/11/26(月) 08:12:33 ID:StGxnH4u(16/16)調 AAS
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:全身打撲、肋骨にひび、体力消耗(大)、精神力消耗(大) 
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本思考:???
1:???
[備考]
※キャロ殺害の真犯人はジェットで帽子の少年(チェス)はグル、と思い込んでいます。
 これはキャロのバラバラ遺体を見たショックにより齎された突発的な発想であり、
 この結果に結びつけることで、辛うじて自己を保っています。
 この事実が否定されたとき、さらなる精神崩壊を引き起こす恐れがあります。
※銃器に対するトラウマはまだ若干残っています、無理に銃を撃とうとすると眩暈・吐き気・偏頭痛が襲います。

【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ@現実x6
[道具]:デイバッグ、支給品一式、バルカン300@金色のガッシュベル!!、豪華客船のメインキーと船に関する資料
[思考]
基本行動方針:心の弱いものを殺人者に仕立て上げる。
0:善良な高遠遙一を装う。
1:少女(ティアナ)から情報を引き出し、場合によっては“操り人形”として仕立て上げる。
2:しばらくは客船に近寄ってくる人間に"希望の船"の情報を流し、船へ誘う。状況によって事件を起こす。
3:殺人教唆。自らの手による殺人は足がつかない事を前提。
4:剣持と明智は優先的に死んでもらう。
5:ただし4に拘泥する気はなく、もっと面白そうなことを思いついたらそちらを優先
[備考]
※ガッシュから魔本、および魔物たちの戦いに関する知識を得ました
259
(1): 2007/11/27(火) 00:35:24 ID:RcGN8y6l(1)調 AA×
>>1

260
(1): 2007/11/27(火) 00:47:28 ID:J9QyvLN8(1)調 AAS
前から思うんだけどさ
そのテンプレって向こう側の作ったルールなんじゃないのそれ
1から作った方が修正する手間も省けるんじゃねぇのって思った
261: 2007/11/27(火) 01:04:50 ID:Fo1BfskT(1)調 AAS
まあ、あくまでもたたき台だからね

なんで否定されたのかの理由にもなるし
262: 2007/11/27(火) 01:12:22 ID:ts4syFMP(1)調 AAS
>>260に同意
最初から作り直した方が早いと思う
263: 2007/11/27(火) 01:23:56 ID:v4U5vb/7(1)調 AAS
まあのんびりとやっていけばよい
264: 2007/11/27(火) 03:00:18 ID:uq7AtmSq(1)調 AAS

265: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:51:50 ID:elFWsWd7(1/14)調 AAS
「ねーこーの 毛皮着るー 貴婦人のつくるスープー♪ いーぬーの 毛皮着るー 貴婦人のつくるスープー♪」

青い空の下に青い海が横たわる海岸線を風浦可符香が行く。
手に金色の剣を持ち、朗々と唄いながらくるくるとステップを踏んで。
傍から見れば、その姿はまるで晴天を祝福する天使のよう。
口ずさむ歌詞の禍々しささえ聞かなかったことにすれば、そこにはただただ爽やかな雰囲気だけが残る。
ここだけを切り取って見れば、誰もここが残虐な戦場だとは気づくまい。

「……なあ、風浦、その歌やめないか。何か不安定になる」

コンクリートで固められ、脇には巨大な高級マンションが立ち並ぶ海沿いの道を金田一一が行く。
手には小型の大砲をぶら下げ、げんなりと肩を落として。
傍から見れば、その姿は疲れ果てて家路につくサラリーマンのよう。
彼の若々しい肉体さえ見なかったことにすれば、そこには擦り切れた中年のような雰囲気しか残らない。
ここだけ切り取って見れば、誰も彼が幾多の難事件を解決した名探偵だとは気づくまい。



「えーいいじゃないですか。だってこんなにいいお天気なんですよ!歌の一つも思わず出ちゃいます!
 中身 聞いたその人 具になった〜♪」
「だからって何で出る歌がそんな不気味なのなんだよ!せめてもっと明るいのにしろ!明るいのに!
 だいたいそんな大声で歌って、誰かに聞きつけられでもしたら……」
「え?いいじゃないですか。人が集まってくれた方が『準備』も早く済みますし!」
「あ……え〜と、それはそうなんだけど……その……
 ほ、ほら!もし、ポロロッカ星へ入国したい奴にいきなり襲われでもしたら……」
「大丈夫です!もし、そういう人が現れても、話せば分かってくれます。人間、目を見て話せば分かり合えないことなんてないんです!
 だから金田一君も一緒に歌いましょ!
 おーばーさんのいなくなった〜住宅街〜♪ スコーップが売れーたよー金物屋さん♪」

風浦は俺の抗議を軽く受け流すと、また今までと同じように、唄い、踊り始めた。
思わず溜め息が出る。

(クソッ……こんなことで俺は本当に風浦の殺人を止められるのか?)

先ほどから何度も心に浮かんでいる問いがまた、心に浮かぶ。
俺がわざわざ妄想に付き合ってまで同行しているのは、風浦に殺人を犯させないためだ。
もし、風浦が嘘をついていないとするならば、こいつは既に人間を一人殺している。
しかも、襲われたから仕方なく、というやむを得ない事情からではなく、ポロロッカ星が云々という自分勝手な妄想を理由にだ。
そんなことが許されていい筈がないし、そうやった殺された人は絶対に浮かばれない。

(だが……)

正直な話、俺はこいつと合流して以来、一方的に振り回されてばかりだ。
さっきのやりとりだけに限ったことじゃない。
俺の意見を風浦は独自の論理でいちいち受け流し、ほとんど言うことを聞いてくれない。
思わず怒鳴りつけてやりたくなることもあるけど、風浦に合わせることを決めた以上、あまり強く出るわけにはいかない。
だから結局、ほとんどの場面で俺があいつに同意せざるを得ない。
そんな状況で、もし、風浦が人を殺すと言いはじめたら、俺は果たしてうまく説得できるのか?
唄ひとつ歌うのもやめさせられないのに?

(もしかしたら、こいつを使わなきゃいけないかもしれないな……)

俺はわずかに顔を俯かせ、右手の大砲を、確かめるように握りこむ。
もし、説得がうまくいかなかった最悪の場合、暴力を使うことも考えておかなきゃならない。
もちろん、風浦を殺す気はないけど、だからといって、殺人をただ見ていることなんて俺にはできない。
こんな武器、使ったこともないし、素手での戦いもからっきしだけど……覚悟だけはしておかなけりゃな。
266: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:53:33 ID:elFWsWd7(2/14)調 AAS
そうやって決意を固め、顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは……
風浦の顔のアップだった。

「うわっ!!!」

思わず飛び退る俺。だって、顔上げたらいきなり目の前にいるんだぜ!?
それも唇と唇が軽く触れそうな……って何考えてんだ俺は!?

「な、な、な、なんだよ風浦。いきなり!?」

邪な思考を誤魔化すように、訊く。
だが、次に彼女の口から出た言葉はどうにも予想外のものだった。

「だって、金田一君、何かとっても思いつめた顔してたから」
「……え?」

焦る俺に投げかけられたのは、優しい言葉。
てっきりまた頭のおかしい妄言を聞かされると思っていたのに。
不意を衝かれた俺は、思わず固まってしまう。

「そうですよね。記憶を奪われて、いきなりこんなところに連れてこられて……不安ですよね」

風浦は俺の目を何かを探すかのように覗きこむと、穏やかに言う。
それは紛れもない、慰めの言葉。
コイツは、元気がなさそうにしている俺を見て、心配してくれているのだった。

「主人のミリアさんは試練に巻き込まれるし、螺旋王を説得できるかどうかも分からないし
 元の世界のお友達とは離れ離れだし……心配ですよね」

今までの底抜けに明るいだけの口調じゃない。子供をあやす母親のような暖かい口調。
俺は、イライラの原因がそもそも風浦にあることも忘れ、ただその心地よいリズムに身を任す。

「でも、大丈夫!」

彼女は今まで唄うときにしていたように、ひらりと綺麗に一回転をきめる。
制服のレースが日の光を反射してキラキラと輝いた。
風浦はその細く美しい両腕を真っ直ぐ伸ばすと――

「私がついてます!きっと何とかなりますよ!」

――俺の手を取り、ニッコリ微笑んだ。
その笑顔は、燦々と輝く太陽に照らされて、まるで天使のように見えた。
彼女の笑顔を見ていると、もう何も心配はいらない、きっと何とかなるさ、そんな気持ちが無根拠に湧いてきて――
267: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:54:06 ID:elFWsWd7(3/14)調 AAS
「バ、バカッ!何、恥ずかしいこと言ってんだよ!」

俺は何故か“危機感”を覚え、目を逸らし、手をほどいて、少しだけ距離をとった。

(……イカン、イカンぞ。俺としたことが、思わず一瞬『ドキッ』としちまった。
 思い出せ、金田一一。
 コイツ、確かに顔はかわいいが、中身はアレだぞ、ポロロッカだぞ。電波の人だぞ。
 しかも、コイツは人を一人殺したかもしれない殺人容疑者なんだぞ。仮にも探偵と呼ばれてるこの俺がそんな……
 ……ああ、でもさっきのは正直グッときたというか何というか……ってだからダメだって俺!!)

どうもマズいことに、動揺は一瞬では収まってくれないようだ。
気の遣りどころに困った俺はそのとき、無意識にもう一度、風浦の顔に目を遣った。
あの『ドキッ』が気のせいであることを確かめるために。
だが……

ガガガガッ

ドサッ

確かめるべき笑顔は、突然の銃声によりかき消された。
反射的に音源の方を見る。
前方にあるマンションの影で、バイザーをした長身の男が嗤っていた。
杖のような銃の口が、こっちへ向けられる。
268: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:54:50 ID:elFWsWd7(4/14)調 AAS


「ハアッ……ハアッ……ハアッ……ううっ!」

コンクリートで固められた非常階段で俺はうめき声をあげた。
右肩を見る。服が破れ、わずかに削れた肉と骨が露出している。
傷から流れ出した血は既に俺のシャツの四分の一を染めていた。

あのとき、銃を向けられた俺はとっさの判断で、手近にあった高級マンションの一つに飛び込んだ。
というか、俺たちが歩いていた道は、景観のためか、障害物が少なく、他に射線を遮れそうなところがなかったんだ。
海に飛び込むことも考えたが、運動音痴の俺がそれをするのは自殺行為でしかない。
まあ、結果的に、ここしか逃げる場所がなかったんだけど
だからといって、ここに逃げたことが状況を悪くするかといえば、実はそうでもない。
エントランスに入ってしまえばとりあえず射線は切れるし、建物の中で逃げ回れば、簡単に銃撃を受けることもない。
あとは逃走経路が問題になるくらいだけど、運のいいことに、俺の入ったマンションは団地型の巨大なモノ。
四つの棟が渡り廊下でお互い連結されている造りになっている。
つまり、俺はこの四つの棟を場所を悟られないように逃げ回り、適当なところでどこかの棟で下に降りればいい。
それで問題なく逃げ切れるだろう……そう思っていた。

「金田一くぅ〜ん、そこにいるんだろぉ?隠れても無駄だよ?僕、かくれんぼは得意なんだから」

いやらしく、ねちっこいあの声が聞こえてくる。
音の響き方から考えて多分、二、三階下のフロアから。

「クソッ!何で!?」
「言っただろぉ?僕はかくれんぼが得意なんだ。
 ねぇ?そろそろ、男らしく出てきて戦ったらど〜ぉ?君も武器はいいのを持ってるんだろう?」

コツコツ。靴音が響く。真っ直ぐこっちに向かっている。
俺は急いで立ち上がり、隣の棟へ向かう渡り廊下を駆け抜ける。もちろん、銃撃を受けないよう身を低くして。

「あれぇ?また逃げるんだ。そろそろ分かってもいんじゃないかなぁ、無駄だってこと」

階下から俺をあざ笑う声が聞こえる。
俺はわざと聞かないフリをして、廊下を走りぬけ、階段を上がり、下がり、また廊下を駆ける。
……もう何度目だろう?
269: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:55:26 ID:elFWsWd7(5/14)調 AAS
そう。実際のところ、俺はこの声から、風浦を撃ったバイザーの男から逃げられずにいた。
男は、どうやっているのか分からないが、俺の位置を把握し、下に降りようとしたところを正確に狙ってくる。
適当にフェイントをかけながら走り回ってやれば、簡単に敵を撹乱できると考えていた俺にとって、これは想定外の事態だった。
奴は俺を見つけてもすぐに撃ち殺そうとはせず、さっきのように言葉をかけて逃がし続けている。
おそらくは俺の疲労を待つつもりだろう。
じっくりと、いたぶってから殺す……最悪に趣味の悪いやり方だ。

「クソッ……こんなところで時間を食っている暇はないのに……風浦」

俺は風浦が撃たれるところは確かに見たが、死亡まで確認したわけじゃない。
そう、銃で撃たれたからって、死んだとは限らない。当たり所が悪くなければ助かる可能性は十分にある。
……確かに、風浦は妄想にとりつかれた、人殺しかもしれない人間だ。
だが、だからって!だからってこんな形で死んでいい筈がない!
だから助ける。助けにいかなきゃいけない。病院に運んで、応急措置をして、それから……

「くくく……君、もしかして、まだ風浦可符香を助けようとか考えてるわけじゃないよねぇ?」
「!?」

まただ。早すぎる!
もう追いつかれたっていうのかよ!?

「甘い!まったく甘すぎるよ君は。他人のことより自分の心配をしなよ」
「……クッ、お前どうやって?」
「さぁ?どうしてだろうねぇ。そんなことよりいいの?早く逃げないと追いついちゃうよ?」
「くっ……」

ハンターに追われる兎のように、今の俺にはただ駆け出すしかできない。

(だが……いつまでもそうだと思うなよ『バイザーの銃士』!!
 どんな方法を使ってるか知らないが、俺は必ず謎を解き、ここを脱出して、風浦を助けてみせる!
 ジッチャンの名にかけて!)
270: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:56:06 ID:elFWsWd7(6/14)調 AAS


「……これでよし……と」

部屋の扉を開け、廊下へと出ながら、頭の中で作戦を確認し直す。
『バイザーの銃士』に対抗するため、今回俺が用意した作戦は二つ。
逃げながら作った急ごしらえで粗も多いが、とりあえずの目的を達成するのに問題はないはず。

「ねぇ、僕そろそろ疲れてきちゃったよ。もう終わりにしない?」

『バイザーの銃士』の足音が聞こえる。ここからが俺とお前の勝負だ。
廊下で捕捉されないように、できるだけ速く走り、さっさと隣の棟へと身を隠すと、階段を昇り降り。
とりあえずの居場所を分からないようにする。
ここまではいつもと同じだ。だが、ここからが違う。

数分後、既に計画通りの位置についた俺は、じっと息を殺し、ある現象が起こるのを待っていた。
時計を確認し、タイミングを見計らう。

(そろそろのハズだけど……)

俺がそう思ったのとほぼ同時にその現象は起こった。
さっきまで俺のいた部屋が大音響とともに爆発したんだ。
今いる棟のちょうど向かいにあたるそこを、階段の縁から確認する。
見ればドアは吹き飛び、部屋の中からは灰色の煙がモクモクと吐き出されている。

「よし!うまくいった!」

俺は爆発が起こったのを見ると、一気にダッシュ。
階段を下へと向かって猛然と駆け下りる。

ズバリを言えば、第一の作戦の目的は陽動。
実際に自分がいるのとは逆の棟で爆発を起こし、『バイザーの銃士』の注意をそちらに引きつけることだ。
単純で使い古された手だけど、この局面では効果がある。
ちなみに、爆発の種はごくごく簡単。
剥き身の砲弾を部屋のコンロで火にかけてきただけだ。

(……『バイザーの銃士』はたとえ陽動の可能性を考えても、あの爆発を無視できないはずだ。
 何故なら、ここは殺し合いの真っ只中。常に新しい敵が襲ってくる危険と隣り合わせの場所だ。
 そんな場所で、あれをただのこけおどしと100%言い切ってしまえるか?――おそらく答えはノー。
 そんな風に決め付けた結果、第三の敵にしてやられましたじゃ話にならないからね)
 
作戦の成功を信じ、俺はひたすら下へと降り続ける。
一階、二階……フロアーを下るたび、俺の心に成功の実感が芽生え始める。
だが……
271: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:57:01 ID:elFWsWd7(7/14)調 AAS
「陽動とはまた古い手だねぇ。しかも見え見えだ。
 何かいろいろ考えたみたいなんで期待してたけど、この程度なら、僕、ちょっとガッカリだなあ」

……三フロアー下ったところで、忌々しい声がする。

「……お前」
「さあ、次はどうやって遊んでくれるの?それとも、もうお終い?」
「ふざけんなッ!」

歯を食い締め、きびすを返す。
第一の作戦は失敗に終わった。
……けど、こうなることを予想してなかったわけじゃない。

(これでハッキリした。間違いなく『バイザーの男』はレーダーのようなものを持っている)

参加者を探知するレーダーの存在。
俺はこの追いかけっこが始まって間もなく、その可能性に思い当たっていた。

(『バイザーの銃士』の動きは、俺より速く動くことで先回りしてる奴のそれじゃない。
 どっちかって言えば、俺の動きを予想して、その行き先にいち早く動いてる感じだ。
 じゃあ、その動きをするのに必要なのは何だ?
 もちろん、一番いいのは相手の考えを読み取ることだろうが、これは現実的に考えてあり得ない。
 じゃあ、もし、相手がレーダーのようなものを持っていたとしたらどうだ?
 そうすれば、俺の動きを完璧に捉えられるだけじゃなく、ある程度先を読むことも可能になるんじゃないのか?)

そう考え、それを確かめる意味も込めて第一の作戦を決行した。
だが、それが失敗に終わった以上、相手がレーダーを持っているのはほぼ確定だと思っていいだろう。
……そして、だとするならば『バイザーの銃士』に次の作戦を破ることはできない!

俺は第一の作戦が失敗して以来、ずっと走り続けている。
これは俺が恐慌状態に陥っていると相手に錯覚させるためのフェイクであると同時に
次の作戦の肝を悟らせないためのシールドでもある。
……さすがにもう小一時間もの間、走ったり止まったりを繰り返しているから息がかなり苦しいが、もう一頑張りだ。
この作戦さえ成功すれば、今度こそ地上へと抜けることができるはず。

第二の作戦、それはエレベーターを使った脱出。
とは言っても、ただエレベーターを待ってたんじゃ『バイザーの銃士』に嗅ぎつけられてしまう。
だから、エレベーターを使うことを悟られないよう、四つの棟を走って移動しながらボタンを押し
走りながら到着を待ち、長いマラソンの終着点でエレベーターに乗る。
もし、作戦の途中でエレベーターの使用を悟られてしまったら終わりのリスキーな作戦だが
このリスクは、『バイザーの銃士』がレーダーを使っている限り、相当緩和される。

(何故なら、俺は今、お前に道筋を読ませないため、がむしゃらに走り続けているからな。
 お前は、少ししか動かなかった光点が激しく動き出したことで、レーダーから目を離せなくなったはずだ。
 果たして、その点の動きを観察しながら、エレベーターにまで気を回す余裕があるかな?)

もちろん、幾ら緩和されたといっても、リスクがなくなったわけじゃない。
運悪く、俺が乗ったエレベーターの真下に奴がいたら、多分、俺はおしまいだ。
だが、これ以上、風浦を待たせるわけにはいけない。アイツを助けるためには、今は一秒だって惜しい。
……ここは賭けるしかないんだ。

「……ポロロッカ星人だったっけ。もしいるなら、あの電波娘を守ってやってくれよな」

そう呟くと、俺はこの作戦の目的地に向かい、最後の走行に入った。
272: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:57:43 ID:elFWsWd7(8/14)調 AAS


階段を駆け上り、左折。
無機質に伸びる廊下の向こう側に、隣の棟の建物と、エレベーターホールが見える。
……あそこが目的地だ。
俺はなけなしの酸素を肺から吐き出しながら、最後の短距離走を走りぬいた。
肺が痛い。足が痛い。肩の傷も痛む。……だが、まだ倒れるわけにはいかない。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」

膝に手を置き、肩で息をしながら、エレベーターをちらっとだけ見遣る。
エレベーターの現在位置を示す電光表示には「8」の文字。
ちゃんと想定どおり、今俺がいるこの階の数字が掲げられている。
どうやら、何とかうまくいったようだ。

「よし、これで……」

荒い息を吐き、腰から体を折り曲げながら扉を開けるボタンを押す。
すると、機械音が鳴り、エレベーターの扉が両側に開いた。
本当なら、顔を上げてちゃんと乗り込むところだが、疲労が溜りすぎてそれさえもままならない。

「もともと体力がないのは分かってたけど、まさかここまでとは……
 今度からもうちょっと体を鍛えた方がいいかもな……こりゃ」

「僕も同感だねぇ。次の人生があったら是非、そうしてよ」

驚きで、上がらなかったはずの首を上げると、そこには邪悪に嗤う『バイザーの銃士』がいた。
273: 2007/11/27(火) 17:58:30 ID:PE1RG2oO(1)調 AAS
 
274: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:58:47 ID:elFWsWd7(9/14)調 AAS


ハハハハハッー!!クヒーッヒッヒッヒッヒッヒッ!!!!
ブハァーッハッハッハッハッ!!ヒィヤーッハッハッハッハッハッハッ!!

全く滑稽だ。滑稽すぎるにも程がある。
見た?ねえ、見たかい、あの顔?誰のって決まってるじゃないか!!この自称名探偵君の顔だよ!!
こんなに哀れを誘う顔が他にあるもんかい!!
勝負に完敗した負け犬の顔だ。全ての希望が絶望に変わった人間の顔だ。
まったくもって可笑しすぎるよ。可笑しすぎて笑いしか出てこない。

僕がゆっくりとエレベーターから外に出ると、金田一もずるずる下がり、後ろにこけて尻餅をついた。
……本当に、情けない姿だねぇ。

「残念だったねぇ。あの短時間でいろいろ考えたのは褒めてあげるけど、如何せん僕に使うには幼稚過ぎたみたいだ」
「……何故だ!何故こんなことをする!何故、風浦を殺した!?」

僕が勝利宣言をしてやると、金田一は勇ましく僕の方をにらみ返して、質問を返してきた。
ていうか何でお前は負けたのに偉そうなの?……あーあ、だから嫌なんだよねぇ。負け犬の遠吠えは。

「何でかって?そんなの簡単だよ。あの風浦可符香とかいう女を殺したのは――うるさかったからさ」

シータやあのガキと分かれてから、個人に対して集中させるのを避けて、できるだけ広く薄く展開していた
僕のギアスに始めにひっかかってきたのがあの女だった。
……正直、近づくのは止めようと何度も思ったよ。
何故かって?だから言ってるじゃない。あの女の心の声は他の奴に比べてあまりにも煩かったんだよ。
自己主張が激しくて、言ってる内容も意味不明。その上、極端に明るい思考と極端に暗い思考が混ざり合ってる。
ギアスをあまり深くまで向けて展開してないのに頭痛がしたよ。
あの女の深層意識まで読み取った時のことを考えたら、身震いがしたね。

……だから、本当は逃げようと思ったんだ。
あんな奴に係わり合いになってる場合じゃない。早くC.Cを見つけなくちゃってね。
……でも、そこまで考えてふと気づいたんだ。それじゃダメなんじゃないかってさ。
だって、もしかしたら、そういう奴がC.Cを持ってるかもしれないだろ?
だったら、C.Cを少しでも早く手に入れたい僕としては、近づかないわけにはいかない。
だけど、また頭が痛くなるのは嫌だ。
じゃあ、どうすればいいか?

――その答えに辿り着くのは思ったより簡単だったよ。
そもそも、ここは殺し合いのための場所なんだ。だったら殺せばいい。
僕の頭を痛くするような奴等は、一人残らず殺していけばいいんだ。

「うるさかったから殺しただって!?……それはどういう……」
「あー細かいことはいいだろぉ?どうせ君はこれから死ぬんだからさ」

……と、まあ、そんな事情を知らない金田一がめんどくさい質問をしてきたから、僕はステッキの先を突きつけてやった。
しかし、コイツはどうしようかなぁ?
もともと、風浦可符香を殺すのを見られたから、ついでに殺してやろうと思っただけなんだけど
予想外に楽しませてくれたしなぁ……せっかくだから、もうちょっと遊んでやるか。
275: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:59:25 ID:elFWsWd7(10/14)調 AAS
「……しかし、金田一君、君、もといた国では名探偵なんて呼ばれてるんだってねぇ?」
「!? 何でそんなことを知ってるんだ!?」
「ふふ……君のことならなーんでも、知ってるよ。
 金田一一。私立不動高校の2年生。探偵、金田一耕介の孫で自身もIQ180の名探偵。
 過去、警視庁に協力して数々の難事件を解決している。
 幼馴染の七瀬美雪とは友達以上恋人未満の関係をもう長く続けているが、本当は――」
「お、お前……そんなことまで……どうして?」

金田一の顔がみるみるうちに青くなっていく。
動揺で心が乱れているのが分かる。

「さぁね。そんなことはどうでもいいじゃないか。
 ……しかし、そんなにお偉い名探偵様が、今回は随分と苦労してるみたいだねぇ?
 殺し合いは怖がる、妄想少女を改心させられない上、自分の不注意で殺される……
 あぁ、困ったねえ、ここに来てからいいトコが一つもないじゃないか」
「………………」

クックックッ、動揺してる動揺してる。
歯なんか食いしばっちゃってかわいいなぁ。
……フフ、しかし、コイツ、名探偵とか名乗っておきながら本当に間抜けだ。
これだけやられたら、そろそろ、僕の能力に気づいてもよさそうなモンなのに。
いやあ、常識に縛られるってのは怖いねぇ。

「そんなことじゃ偉大な“ジッチャン”の名が鳴くよぉ?
 ああ、こんなんじゃもういっそ“ジッチャン”の看板を使うのはやめた方がいいかもしれないなあ」
「……確かに、今までの俺は失敗ばかりだった。いいところがなかったのも認める。だけど……」

嗚呼、追い詰められた人間ってのは、どうしてこうも同じ行動ばかりとるんだろう。
どいつもこいつも、痛いところを衝かれると、揃ってお決まりの自己弁護を始めるんだ。
でも、僕は知ってる。
そこを突き崩せばその人間は“終わり”なんだってことをね。

「『だけど、そんな俺にもできることはある』って?わかってないなぁ、金田一君。
 君は今回、その『できること』つまり、得意分野で僕に負けたんだよ?」
「!!」
「名探偵って呼ばれてるくらいだもんねぇ、頭での勝負にはさぞ自信があったんだろうねぇ?
 でも、僕には敵わなかった。この世界では、所詮、君はその程度なんだよ
 分かったかい?君は狭い井戸の中で自分が凄い奴のつもりでいた、滑稽な蛙なんだ」

見れば、金田一は既に前を向いていない。
虚ろな瞳を床に向け、唇を噛んで、瞼を震わせている。
アッハッハッ……君はやっぱり最後まで面白い奴だよ金田一君。サイコーだ。
……でも、もうそれもお終い。

「つまりね、金田一君、この世界で君ができることなんて何一つ無いんだよ。
 誰かが君を頼っても、君は期待に答えられない。むしろ、結果を悪くするだけ。
 風浦可符香のように死なせてしまうのがオチなのさ。
 結局、君はただ、自分の無能を呪いながら、惨めに一人、死んでいくしかないんだ。
 ……こんな風にね」

ステッキを突きつけ、僕は引き金を引いた。
……だが、その弾は金田一に当たらない!??

「そんなことありません!!
 金田一君はポロロッカの真理に気づいた立派な男性です!!
 それに、金田一君は私が還させません!!」

一瞬後、無様に転んでしまった僕は、後ろを振り向いてようやく事態を理解した。
……なんてことだ。
いつのまにか上がってきた血だらけの風浦可符香が、僕の腰に組み付いていた。
276: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 18:00:17 ID:elFWsWd7(11/14)調 AAS


「ふ、風浦……どうして?」
「金田一君はミリアさんの大事な従者です。こんなところで現実に還ってもらっては困るのです」
「グ……ちくしょう!!この電波女が!!」

マオは体を捻り、可符香を振りほどこうとするが
その腕の力は、女のものとは思えないほど強く、いくら暴れても外すことができない。
見れば、可符香の真新しかった制服は血に塗れ、無残な赤に染め上げられている。
その様は、彼女に刻まれた傷の深さと、天国への近さを如実に示すものである。
にもかかわらず、可符香の腕は外れない。

「早く!金田一君!私の乗ってきたエレベーターに乗って逃げてください!」

見れば、エレベーターのドアが開いている。
彼女はこれに乗ってやってきたのだ。

風浦可符香がここまで来れた過程は、言ってしまえば奇跡に近い。
金田一の行った第一の作戦――砲弾の爆発――によって意識を取り戻した可符香は
ミリアの従者である金田一を救わなければという一心で
エレベーターホールまで這い進み、エレベーターを呼んだ。
彼女が「8階」のボタンを押したのは、もともとこのエレベーターがいた階が8階だったから
そこで誰かが降りたのかもしれないという、理由というにはあまりに薄いものに縋った結果に過ぎない。
さらに言うなら、もし、ボタンを押すタイミングがあと少し早かったなら
その行動は殺人者マオを呼び出し、自らの命を無駄に散らすことになっただろう。
逆に、もし、ボタンを押すタイミングがあと少し遅かったなら
金田一はマオによってあえなく銃殺され、可符香は無残な死体と対面することになったであろう。
爆音、エレベーターの位置、ボタンを押すタイミング。
あまりに狭い偶然の道を通り抜け、しかし、奇跡は確かに起きた。
これはいったい誰の御技か?
あるいはポロロッカに祈った金田一の祈りが、時空を越え、空間を越え、彼らの星まで聞こえたのかもしれない。
277: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 18:00:50 ID:elFWsWd7(12/14)調 AAS
「逃がさないよ……ここまでやったんだから。
 ここで逃がしちゃ、何が何だかわからないだろおっ!!」

マオはどうにか右腕の自由を取り戻すと、そのまま懐から鉄扇を取り出し、それで可符香を打ち据える。

「風浦!」
「……私のことは気にしないでください。それよりも早く行ってください。
 残念ながら、そんなに長くは持ちません」

打撃の痛みを感じないかのように、可符香は悲鳴一つあげず、鉄扇の殴打を受け続ける。

「このォ!!うっとおしいんだよォ!!死ねッ!死ねッ!」

その様子が火に油を注いだのか、マオはより激しく、苛烈に可符香を痛めつける。
マオにとって我慢ならないのは、金田一の処刑を邪魔されたことよりもむしろ
彼女の心の騒音を間近で聞かなければならないことの方だった。
一度は排除したはずの波動が、彼の頭をギリギリと痛めつける。
その痛みのお返しをするように、鉄の塊が可符香の肉体を叩き、削り取る。

「さあ、金田一君、……早く」
「けど……けど……このままじゃお前の命が……」

金田一は動けない。
マオに打ち砕かれた心が、事態の変化についていけない。
可符香はその様子を見てとると、柔らかく頬を緩ませ、優しく微笑んで――

「やだなぁ、私が死ぬなんてそんなことあるわけないじゃないですか。
 私は現実に帰って、また普通の学生生活をおくるだけです。
 ポロロッカ星に行けないのは残念ですが、まあ、生きてれば、またきっと機会がありますよ。
 ――だから、金田一君は先に行って待っていてください。
 私がそっちに行けるその日まで」

金田一には、血に濡れて、眼球が飛び出しかけたその笑顔が、やっぱりさっきと同じ天使に見えた。
278: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 18:01:28 ID:elFWsWd7(13/14)調 AAS


「あ"……あ"あ"……」

ディスプレイの数字が減っていく。
エレベーターは、とうとう行ってしまった。

「よかった……これで一安心です」

可符香が息も絶え絶えに呟く。
その声はいつもと同じ、明るくて伸びやかなモノだった。

「お前……よくもやってくれたな!!よくも僕の邪魔を……
 そうだ……そもそも悪いのはお前なんだ。お前が僕の頭を痛くするから……
 ……許さない、絶対許さないぞォ!!!!」

グシャ。
マオが怒りと憎悪に任せた一撃を彼女の頭に叩きつけると、そこから湿った音が響いた。
見れば、彼女の側頭部が醜く変形している。
だが……

「ああ。あなたもそんなにしてまでポロロッカ星に行きたいのですね。
 その気持ち、すごく分かります。
 もう少し早くお話できればよかったですね。そうすれば、皆でポロロッカ星に行けることをご説明できたのに。
 残念です。
 でも、せっかくですから、せめて今からでもお話をしましょう」
「話だと!?ふざけ……!?」
「大丈夫ですよ。お互いの眼を見て話せば、どんな人だって分かり合えるんです」

その達者な口を封じるため、鉄扇を振り上げたマオは、不運なことに彼女の“眼”を見てしまった。

眼は口ほどにモノを言う。
何の能力も持たない音無芽留にさえ多くのことを伝えた彼女の眼は、心を直接知ることのできるマオに一体どれだけのことを伝えたのか。

「イギャアアアアハアアアアアアハアアアアハアアアアハアアアアアアアアハアアアアアアハ!!!!!!!!!」
279: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 18:02:21 ID:elFWsWd7(14/14)調 AA×

280: 2007/11/27(火) 22:15:55 ID:VTRjsz88(1)調 AAS
このスレって下らないSSあぼーんするとだいぶ議論が進むよ
281
(1): テンプレ議論再開 2007/11/27(火) 23:22:55 ID:d3TyTFPb(1)調 AA×
>>1

282: 2007/11/28(水) 01:23:51 ID:EmSMYOx/(1)調 AAS
>>281
したらば工作員乙
283
(1): 2007/11/29(木) 20:24:54 ID:WNbPmY9g(1)調 AAS
適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
人物背景はできるだけ把握しておく事。
過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
一人称と三人称は区別してください。
ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。

ここもいるのか?というより独りよがりな内容すぎて点プレにふさわしくないと思われ
284: 2007/11/29(木) 22:15:07 ID:dQILeIXr(1)調 AAS
>>283
そんなとこよりもっと指摘するべき部分があるだろ
ああ、あんたもしたらばの工作員か
285: 2007/11/29(木) 23:30:00 ID:ce9r5qmZ(1/2)調 AAS
 
286: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:30:36 ID:2yxgsgr/(1/7)調 AAS
 言峰綺礼は一人、陽光が照らす森林の中を歩いていた……はずだった。
 土色の大地を靴底で踏み締め、草木茂る視界に自然の情緒を感じていると、異変は唐突に訪れた。
 飛び込んできたのは、灰色の群集である。
 乱雑していた木の葉のカーペットは無機質なアスファルトによって舗装され、雄大な木々は物言わぬ電柱へと変わり果てた。
 数年かけて達成できる開拓を、一瞬で終えてしまったかのような異変である。
 しかしそれを目にしての混乱や戸惑いは、言峰の胸中にはなかった。

「なるほど」

 静かに驚嘆し、ドモン・カッシュが語っていた情報の矛盾、その真相を理解する。
 景色の一変。言峰の視覚が捉えた異常は、現実的に考えてありえない事象だった。
 しかしそれも、魔術という現世の枠から外れた概念を知る言峰にとっては、さして混乱を覚えるような異常ではない。

「ふむ。方位磁石が狂ったか。魔術ではない、螺旋王が用いる科学力によるものと考えるべきか?
 この世界――もしくは惑星が持つ磁場に働きかけたのか、いずれにしても興味深い技術だ」

 言峰が握るコンパスの針は、目まぐるしい勢いで回転し、もはや使い物にならなくなっていた。
 このコンパスが故障したのは、ちょうど言峰を囲う景色が急変した瞬間。
 つまりその瞬間、支給物である安っぽいコンパスを狂わせるほどの磁力が働きかけ、同時に景色の変化に繋がった。
 言峰はこれを、魔術的な干渉ではなく、科学的な干渉であると推測した。

「科学技術による長距離瞬間移動……螺旋王は未来人かなにかか?」

 自身の方向感覚だけを頼りに、言峰は雑多な住宅地を南下し、やがて高速道路を目視した。
 ドモン・カッシュが衛宮士郎と戦闘を行ったという舞台、地図を見れば遥か北に位置していたはずのそれが、今は言峰の目の前に聳えている。
 言峰が南へと歩を進める際、出発点としたのがH-2の学校だった。
 周囲の景色が変化を見せたのは、ちょうど六百メートルは歩いたかという頃。
 そこからさらに五百メートルほど南下し、高速道路を発見した。
 以上の事柄から、言峰は現在地をH-2の南ではなく、会場最北のA-2だと推定した。
 最南地点から南下し最北に移動するなど、物理的に考えれてありえない。が、ここが会場の外である可能性のほうがもっとありえない。
 つまり、この会場は地図で見ればそれこそ平面だが――実際の形は球。廻れば周回する地球と同じように、端と端とで繋がり合っているのだ。

「ドモン・カッシュの言にも頷ける。褐色肌の男と戦っているうちに、北を突き抜け南へとやってきたというわけか。
 しかしなるほど……参加者を隔離するという意味では、これ以上に有能な柵はないな」

 高速道路上を歩き、言峰は『ワープ』という超技術について考察していた。
 ドモン・カッシュの告げる矛盾に興味を持ち、会場の南端へと躍り出たのが発端。
 南から北への瞬間移動という形で矛盾は解消されたものの、螺旋王が有する能力に関しては、ますます謎が深まった。
 とはいえ、その謎は興味という範疇を抜け出しはしない。
 絶対的に解明したい欲求もなく、その必然性もないため、言峰はこの事象を頭の片隅に留める程度にしておいた。
 彼の目的は愉悦。それは、螺旋王との敵対という形で齎されるものではない。
 他者との接触と教授、それによる変化。彼にとっての殺し合いの趣旨はそれだ。
 パズー、八神はやて、間桐慎二、ドモン・カッシュ……彼らは、言峰との出会いによりどんな変化を齎すのか。
 そして、正午を目前にしたこの時間。
 神父たる言峰の前に、新たな子羊が迷い込む。

 ◇ ◇ ◇
287: 2007/11/29(木) 23:31:32 ID:ktlJV0bE(1/4)調 AAS
 
288: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:31:52 ID:2yxgsgr/(2/7)調 AAS
 お昼が近づいて、それでもエドは、無邪気に先頭を走っていた。
 両腕を翼のように広げ、飛行機のようなスタイルでキーンと飛び回ってみたり、
 四つん這いに屈み、ねずみのようにちょこまかと動き回ってみたり、
 時折背後に回りこんで、俯くシータをばぁ〜っと驚かせてみたり、
 壁に覆われた人気のない道路(彼女は高速道路を知らない)でなければ、こんな風に遊んではいられない。
 ……でも、もしかしたら。
 エドには、そんな心配も常識も、まったく通用しないのかもしれない。

「だーれもいません、だーれもいません、管とみんなとごはんはどこですか〜」

 リズムを刻みながら、エドは陽気な声を上げて進む。
 その後ろを、シータが無言のまま追う。
 マオから逃げ出して、シータはエドの示す方向のまま、会場内をあてもなく周旋していた。
 鉄扇子から身を守ってくれた鎧は、重いので道中に脱ぎ捨ててきた。
 何者かに襲われればあの鎧は役に立つだろうが、その前にあの重量では逃げることもままならない。
 機敏なエドと行動を共にするための、苦渋の判断だった。

(あと、何分くらいなんだろう……)

 手元に時計はない。が、刻々と近づく時を感じて、シータは思わず息を飲む。
 マオの急変は衝撃的だった。彼の思わぬ行動により、シータの精神はさらに苛まれた。
 その後エドの爛漫さに癒されはしたものの、二回目の放送が近づくにつれて、心のざわめきはまた騒々しさを取り戻す。
 この六時間の結果報告。いったい何人の人間が死んだのか。それが気になった仕様がない。
 これじゃ駄目だとは思いつつも、シータは押し寄せる不安を振り払うことができなかった。

「んにゃ? どうかしたおねえちゃん?」
「……ううん、なんでもない」

 エドの不謹慎な笑顔も、今では疎ましく思えてしまう。
 度胸が違うのか、それとも単純にそういう性格なのだろうか、エドは放送への恐怖心など微塵も持ち合わせていないようだった。
 現在位置も、現在時間も、マオの真意も、エドの真意も、パズーたちの行方も、なにもわからない。
 手ぶらのまま過ぎていく時が、シータの歩みを重くした。

「あ、はっけ〜ん! はっけんはっけんはっけぇ〜ん!」

 エドの急な報告を受け、シータは俯かせていた顔を上げる。
 進路上、両壁に隔てられた道路の先に、神父の格好をした男性がいた。
 エドは、神父の下へと一目散に駆けてく。
 シータは咄嗟に辺りを見渡し、退路がないか確認した。
 進むか戻るか、道は二つしかなかった。

 ◇ ◇ ◇
289: 2007/11/29(木) 23:32:41 ID:ktlJV0bE(2/4)調 AAS
 
290: 2007/11/29(木) 23:32:58 ID:Du49i2Xo(1/7)調 AAS

291: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:33:12 ID:2yxgsgr/(3/7)調 AAS
「こぉんにちわあー!」

 元気よく挨拶を投げるエドに、言峰は訝しげな視線を送った。

(……なんだ、この娘は?)

 進む先は前と後ろの二つしか存在しない高速道路上。言峰の前方に、二人の少女の姿があった。
 その片方、一見して少年とも思える赤毛の娘は、ここが殺戮の舞台であるなどまったく意に介していない様子で、言峰に笑顔を振りまく。
 しかも、誰もが肩に提げているはずのデイパックが見当たらない。服装も、武器など隠し様がない簡素なシャツ姿だった。
 正真正銘の手ぶらのまま、見ず知らずの男にこんにちわと声をかける。まるで馬鹿のようだった。
 警戒心を微塵も抱かず、そしてあの特徴的な赤毛……無論、言峰の知人に該当する者などいなかったが、一つだけ心あたりがあった。
 ドモン・カッシュの情報の中にあった、エドという名の少女である。
 名簿を見る限り、エドという名に該当する参加者は二名いた。
 一人はエドワード・エルリック……これは明らかな男性の名であり、そもそも第一放送で死亡が知らされている。
 となれば、目の前の少女こそがドモンが出会ったというエド……エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世だろう。
 その長ったらしい本名からしてどこかの貴族かとも思ったが、格好から感じるイメージは、どちらかというストリート・チルドレンを思わせる薄汚さだ。

「こんにちわ。君は……エドか」
「ありー? たしかにエドはエドですけどー、なんで知ってるのぉ?」

 猛ダッシュで駆け寄ってきたエドに挨拶を返し、言峰は改めてその容姿を観察する。
 おどけた表情に、天真爛漫な瞳。恐怖や憎悪など、殺人劇に付き物であるはずの感情が、ごっそり抜け落ちたかのような平静。
 もしくはこのエドという少女は、そんな感情は元々持ち合わせていないのかもしれない。
 純真でまっさらな心に種を植え付け、彼女という人間の本質を歪めるのもそれはそれでおもしろそうだが、酷く骨が折れそうでもある。

(それよりも……)

 警戒心ゼロで周囲をぐるぐると回るエド。言峰はそんなエドから視線を外し、遥か前方を見やる。
 そこには、エドの同行者と思わしきおさげの少女が、硬直したままこちらを眺めている姿があった。

「あちらの女性は?」
「あれはー、シータおねえさんだよー。エドを怖い人から守ってくれたんだ」

 シータという名を耳にし、言峰は僅かに口元を緩めた。
 そのままシータへ向けた視線を固定し、一歩進む。
 遠方に立つシータの身が、僅かに退いたように見えた。

「ところで、おじさんのお名前はぁ?」

 間延びした声を発し、エドは言峰の進路を塞ぐように、前方に躍り出た。
 言峰はエドに対し朗らかな笑顔を見せ、語る。

「ああ、まだ名乗っていなかったな。私の名は言峰綺礼。なんということはない、ただの神父さ」

 名乗った、次の瞬間。
 エドの体は、力なく崩れた。

 ◇ ◇ ◇
292: 2007/11/29(木) 23:33:40 ID:Du49i2Xo(2/7)調 AAS

293: 2007/11/29(木) 23:34:16 ID:Du49i2Xo(3/7)調 AAS

294: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:34:24 ID:2yxgsgr/(4/7)調 AAS
 マオ、エドに続く三人目の遭遇者。それは、教会の神父らしき壮年の男だった。
 一見しただけでは、敵か味方かも判断つかない。
 聖職者ならば殺人など言語道断なはずだが、そもそも格好だけでは本当に神父と決定付けることもできない。
 だというのにエドは、その性格からか、まったくの躊躇もせず男に歩み寄っていってしまった。
 第一に警戒心が働いたシータは、エドのように歩み寄ることはできず、その場で竦んでしまった。
 数秒、エドと男が言葉を交わしている様子を、遠方から眺めることしかできない。
 そして今、異常事態は唐突に起こった。
 男の周りを忙しなく飛び跳ねていたエドの身が、不意に地面に倒れふしてしまったのだ。
 一部始終を眺めていたシータだったが、その突然すぎる事態を理解することはできなかった。
 神父であると同時に一流の武術家でもある言峰の手刀が、瞬速のスピードでエドの首下を打ち気絶させたなど――
 距離の離れた場所にいるシータの動体視力では、理解などできるはずもなかった。
 理解が追いつかないため、事態の推移も把握しきれず、目の前の光景をただ見守ることしかできない。
 エドが倒れ、男はそれを気にも留めず、ゆったりとした歩みでシータの下に近寄ってくる――そんな現実を。

「こんにちわ、シータ」
「っ!」

 混乱の渦中でただ呆然としたシータは、逃げるという思考に辿り着く間もなく、男の接近を許してしまった。
 遠方で倒れたままのエド、目の前で自身を見下ろす長身の男、これらの現状が、シータの危機感に火をつける。
 顔に動揺の色を浮かばせ、そっと後ずさった。
 シータの様子を見て、男は苦笑する。

「ふふふ……そう怖がることはない。私はただ、君の名がシータであると知り、伝言を伝えようとしたまでのこと。
 あの娘には、少しばかりお休みいただいたまでさ。彼女にも興味はあるが……それは君の後だ」

 ここに来てから、シータが出会ったのは僅かに二人。
 数人しか知らぬはずのシータの名で呼びかけられ、また一歩後ずさる。
 不安と危機感に苛まれながら、それでも常の気丈さを取り戻そうと、シータは男の目を見て発言した。

「どうして、私の名前を?」
「必ず助けてやる。だから心配するな」

 質問を投げるが、返ってきたのは回答ではなく、男が預かったという伝言のほうだった。

「……とまぁ、これが君への伝言だ。名乗り忘れたな。私の名は言峰綺礼……見てのとおり、しがない神父さ」
「コトミネ、さん……? その伝言は、誰から?」

 言峰と名乗った神父の怪しさに、喉が鳴る。
 エドを気絶させた真意が見えず、戸惑う。
 そして、伝言とやらの内容をやや遅れて頭に入れ、一つの可能性にいきつく。

「――っ! あなたは、ひょっとして!」
「パズー――私のこの伝言を託した少年は、たしかそう名乗っていたかな」

 思わぬ人物から探し求めていた少年の名が飛び出て、シータは目を見開いた。
 言峰の身に縋りつき、覇気ある言葉で尋ねる。

「パズー、パズーに会ったんですか? 教えてください。パズーは、パズーは今どこに――」
「ほう……そのパズーという少年の身が、よほど気にかかると見える」
295: 2007/11/29(木) 23:34:32 ID:ktlJV0bE(3/4)調 AAS
  
296: 2007/11/29(木) 23:34:58 ID:Du49i2Xo(4/7)調 AAS

297: 2007/11/29(木) 23:35:57 ID:Du49i2Xo(5/7)調 AAS

298: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:35:56 ID:2yxgsgr/(5/7)調 AAS
 ほとんど取り乱したような所作で、シータは言峰の返答を待った。
 パズー。あの日スラッグ渓谷に落ちたシータを助け、ムスカの下から救い出してくれた少年。
 その後ラピュタを発見し、一緒にこんなところにまで拉致されてしまった。
 シータはパズーを巻き込んでしまったという負い目から、真剣に彼の身を案じていた。
 それこそ自らの身を投げ出さん勢いで――それを本人が自覚していたかどうかは、また別の話だが。
 言峰はもったいぶったような間を空けて、そんなシータの様子を眺める。
 口元の緩みは声を発さずとも、心配で震える少女を嘲笑しているかのように見えた。

「落ち着きたまえ。私がパズーに出会ったのは、もう十時間も前のことだ。彼が今どこにいるかまでは知らん」
「そう……ですか」

 シータは見るからに落胆し、失意の表情を俯かせる。
 希望からの転落。言峰はシータの感情変化に若干の愉悦を覚え、言葉を続ける。

「そう落ち込むことはない。先の伝言にあったとおり、パズーは『心配するな』と言っている。
 君がどれほど彼を心配しているかは知らぬが、あまり彼の気遣いを無碍にするものじゃない」
「……そうですね」

 口ではそう言いつつも、シータはまだ、希望へは這い上がれていなかった。
 目的の達成、その足掛かりになるかと思われた情報は、しかしなにも齎しはしなかった。
 誰であろうと落胆せずにはいられない。あと一歩というところで掴み損ねた希望は、より大きな反動として返ってくる。
 失意に溺れ、希望を見失った感情が誘う先は――絶望しかない。

「――それにその心配自体、もうすぐ不要となるやもしれん。時間にして、あと数分後にはな」
「えっ?」

 言峰の意味深な発言に釣られ、シータは彼の顔を見上げる。そして、反射的に身を離した。
 なにか嫌な予感がして、本能的に言峰を拒絶したのだ。

「忘れていたわけではあるまい? それともまさか、時計をなくしでもしたか?
 もうすぐ12時……螺旋王による二回目の放送が始まる時間だ。あるいはそのときに」
「……あなたは、その放送でパズーの名前が呼ばれるとでも言うのですか?」

 シータは動揺を制し、確かな敵意を持って言峰に接した。
 少女ながらもシータが放つ雰囲気は毅然としていて、言峰に感嘆を促すほどのものでもあった。
 とはいえ、シータは少女だ。ラピュタの王族という言峰の知り得ぬ正体を持とうと、その本質は変わらない。

「一つの否定できない可能性だよ。いつ、どこで、誰がなにをするか……そんなことが把握できるのは、監視者たる螺旋王だけだ。
 私と別れた後のパズーが、どのような道程を歩み、現在はどうしているかなど、知る由もない」
「なら、どうして心配が不要になるなんてこと」
「言っただろう? 一つの否定できない可能性だと。では訊くが、パズーとはいったい何者かね?
 何者にも屈さぬ無敵の超人か? 何者にも殺されぬ不死の化物か? 私には、いたって普通の少年に見えたのだが」
「パズーは普通の男の子です。銀鉱で働いていた、単なる優しい男の子です。
 でもパズーはとても強いわ。こんな殺し合いには決して屈しない。私はパズーと一緒に生きて帰ります」
(ほう……)

 ――強い。
 言峰はシータの反論を耳にし、胸中で賛嘆した。
 言の節々には未だ不安が在沖しているものの、視線は確固として言峰の瞳と対峙している。
 常人らしからぬ物腰は生まれついてのものか、それともパズーとの日常で育まれたものか。
 それだけに、惜しい。
 彼女の精神は、とても不安定だ。余裕が見当たらない。
 言峰の言葉に揺さぶられながらも、懸命にシータという意志を保っている。
 懸命に――辛うじて、とも言い表すことができる。
 罅割れたガラスを、ガムテープで補強しているような状態だ。
 現実という槌で叩いたら、さてどう砕けるものか。
299: 2007/11/29(木) 23:36:23 ID:ktlJV0bE(4/4)調 AAS
 
300: 2007/11/29(木) 23:36:52 ID:ce9r5qmZ(2/2)調 AAS
 
301: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:37:01 ID:2yxgsgr/(6/7)調 AAS
 ◇ ◇ ◇

「一つの可能性、などという曖昧な根拠でつい失言を吐いてしまった。謝罪しよう」
「いえ、謝るほどのことでは……」
「さて、では迎えるとしようか――二回目の放送を。パズーへの心配を募らせて、な」
「はい」

 言峰が振り返り、倒れたエドの下へと歩み寄っていく。
 シータは言峰の言葉に賛同し、しかし足を動かすことはできなかった。

(――あれ?)

 両足が、地面に植えつけられたかのように動かない。
 遠ざかっていく言峰の姿を視線で追うが、その焦点は定まらない。
 心が、ざわついた。

「……んー……あり、朝ぁ?」
「いや、昼だ。間もなく放送が始まる。君も静聴したほうがいいだろう」

 言峰は倒れていたエドを起こし、気絶状態から再起させた。
 それら、光景として視界に映る映像を受け止め、しかし介入することができない。
 まるで、世界の外枠から外れてしまったようだった。
 シータは心の中で反芻する。これから待ち受けるものを。

「放送。ここ六時間における死者の名と、新たな禁止エリアを発表する簡素な儀式だ。
 螺旋王にとっては、それによって齎される我々の変化が、主な目的なのだろうがな」

 言峰のふとした発言が、シータの奥底で重なる。
 死者の発表。放送のメインイベントとも言える事柄に、並々ならぬ不安を抱えている自分がいた。
 言峰の根拠のない言、パズーの死を否定して、なお放送を恐れるという矛盾に気付く。

「恐れることはない。恐れようとも、逃れる術はないのだからな。
 仮に目を背け、耳を塞ごうとも、放送の内容は我々の頭に入り込んでくる。
 意識するなというほうが無理なものだ……心配するにせよ、感傷を抱くにせよな」

 パズーの名が放送で呼ばれる……パズーが、既に死亡している。
 言峰の言うとおり、一つの可能性にすぎなかった。それが的中している確率など、シータにも言峰にも計れはしない。
 誰の名が、どれだけの名が呼ばれるのか。
 興味ではなく、知ることへの恐れ。
 待ち遠しくもあり、忌避したくもあるもの。
 しかしシータは、ただ黙って放送を待ち構える。
 選択肢など、他にはなかったからだ。

「時間だ。さぁ、静聴しようではないか――螺旋王による、放送を」

 それは小さな、とても小さな不純物。
 シータはその正体を知る間もなく、第二回の放送を迎える。
302: 2007/11/29(木) 23:37:59 ID:Du49i2Xo(6/7)調 AAS

303: 2007/11/29(木) 23:38:12 ID:Fz3D+avd(1)調 AAS
  
304: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:38:15 ID:2yxgsgr/(7/7)調 AAS
【A-3・高速道路/一日目/昼(放送開始)】

【言峰綺礼@Fate/stay night】
[状態]:左肋骨骨折(一本)、疲労(中)
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:荷物一式(コンパスが故障)
[思考]
基本:観察者としての姿勢を崩さない。苦しみを観察し、検分し、愉悦とする。
1:この場で放送を聴く。
2:殺し合いに干渉しつつ、ギルガメッシュを探す。
3:風浦可符香に興味。
[備考]
※制限に気付いています。
※衛宮士郎にアゾット剣で胸を貫かれ、泥の中に落ちた後からの参戦。
※会場がループしていることに気付きました。

※もちろんパズーが既に死亡しているという事実は知りません。
 そのことを前提にシータに揺さぶりをかけているわけではないので、あしからず。

【エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労、強い使命感
[装備]:アンディの帽子とスカーフ
[道具]:なし
[思考]
1:言峰からもっと話を聞く。
2:アンチシズマ管を探す。

【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労、迷い、若干自暴自棄、右肩に痺れる様な痛み(動かす分には問題無し)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
0:放送に対する得体の知れぬ不安
1:エドに付いて行く
2:エドを守る
3:マオに激しい疑心
[備考]
マオの指摘によって、パズーやドーラと再会するのを躊躇しています。
ただし、洗脳されてるわけではありません。強い説得があれば考え直すと思われます。
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※エドのことを男の子だと勘違いしています。
※日出処の戦士の鎧@王ドロボウJINGは、A-4の高速道路入り口付近に脱ぎ捨ててあります。
305: 2007/11/29(木) 23:38:49 ID:Du49i2Xo(7/7)調 AAS

306: 2007/11/30(金) 23:55:44 ID:NMNxf7Cd(1)調 AA×
>>259

307
(1): 2007/11/30(金) 23:57:41 ID:VKkmqrIb(1)調 AAS
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
 優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
 「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【舞台】
画像リンク


【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

----------------------------------------------------------------------

最初の1行だけはいるんじゃないけ?
308: 2007/12/01(土) 00:08:24 ID:HBm64YuR(1)調 AAS
>>307
そもそも殺し合わせようって話が間違い
平和的に麻雀にしようぜ
309: 2007/12/01(土) 01:08:48 ID:obTRFMvq(1)調 AAS
死んでも生き返ればいい
310: 2007/12/01(土) 02:04:15 ID:weo97iJ+(1)調 AAS
それも理想の一つだな
311
(1): 2007/12/01(土) 21:40:43 ID:VzUj3XoU(1)調 AAS
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
 優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

       ■          ■           ■

正直こういうようなパターンも飽きてきた
312
(1): 突っ走る女たち ◆jbLV1y5LEw 2007/12/01(土) 21:40:48 ID:a4dkH3fm(1/4)調 AAS
スバル・ナカジマは走っていた。
人命を救うべく、ただ前だけを見つめ、全速力で。

(速さ! 速さが足りない!)

今、彼女がすべきは一刻も早くはやてと合流し、さらにシャマルを見つけ出し、瀕死のロイ・マスタングを救うこと。
そのために必要なのは速さだ。
川を回りこんで北上してくるであろうはやてが全速力で駆けるスバルよりも早くE-7のT字路に到達する可能性は低い。
だが、万一、はやてが高速で移動する支給品を持っていたら、この仮定が覆るかもしれない。
マッハキャリバー、でなければローラーブーツでもあればと思うが、あいにく彼女の支給品はいずれも移動に使えるものではない。
残った一つは『アンチ・シズマ管』とだけ説明書に書かれた、用途不明のガラス官である。
だから彼女はできる限りの速さで駆ける。
急いだ甲斐もあり、彼女は驚異的な速さでT字路にたどり着いた。

「これ、なら、大丈夫、だよね……」

焦るあまり無茶なペース配分をしたため、さすがに息が切れていた。
あとはここではやてが来るのを待つだけである。
呼吸を整えて一息つきながら、やってくるかもしれない殺し合いに
乗った者に備えてT字路を見張れる位置にある民家に隠れ、周囲を警戒する。
いっそのこと、自分からはやての来るであろう南へ迎えに行きたくなるが、すれ違いの危険を考え、彼女はじっと待機していた。


313
(1): 突っ走る女たち ◆jbLV1y5LEw 2007/12/01(土) 21:41:49 ID:a4dkH3fm(2/4)調 AAS
「八神部隊長! ……じゃない」

その人影は髪の長い女性だった。
走り方からローラーブーツを履いているのかとも思ったが、どうも似て非なる物のようだった。
その形相は鬼気迫る物があり、スバルは心の中で身構え、彼女の到着を待った。



藤乃静留は走っていた。
愛する女性を救うべく、ただ前だけを見つめ、全速力で。
目指すは燃え盛るデパート。
そこに彼女の想い人がいるかもしれないのだ。

もちろん、聡明な彼女はこの不安に何の根拠もないことを理解している。
だが、もしも万一、そこになつきがいたら?
すでに同行者であったジャグジーが殺され、放送で9人もの名前が呼ばれている。
殺し合いは始まっているのだ。
あのデパートで彼女が死に瀕していることだってありうる。
その確率一割にも満たないその可能性が、彼女を走らせる。
その道中、もう少しでデパートというところで、彼女は前方に一人の女の子を見つけた。
その容貌は明らかになつきではないが、彼女は少し迷った。
彼女がなつきの安否を知っているかもしれない。
訊いてみるか?
それとも、やはりデパートへ急行すべきか?
考えている間にもみるみる彼女の姿が近づいてくる。
静留は決断した。


314
(1): 突っ走る女たち ◆jbLV1y5LEw 2007/12/01(土) 21:42:50 ID:a4dkH3fm(3/4)調 AAS
その女性、すなわち藤乃静留は、スバルの前で急停止すると、スバルの警戒など意に介さない様子で尋ねた。

「あんた、なつきを見とらんどすか!?」
「え?」

突然の質問と剣幕、そして聞きなれないイントネーションに、スバルは即座に対応できない。
思わず聞き返してしまった。

「だから! あんた、なつきを見とらんどすか!?」

再度聞かれたところで、スバルは気づく。
その慌てぶりは先ほどまでの自分を思い出させるものであり、
彼女もまた、誰かの危機を救おうと全力を尽くしているのだと。
だから剣幕に押されつつも、スバルは誠実に答える。

「な、なつきさん、ですか? いえ、見ていません」
「おおきに!」

言うなり、静留は再び駆け出そうとする。
その瞬間、はっとしてスバルはその手を取り、静留を引き止めた。

「なんどすか!?」
「あの! 南から来たんですよね? 八神部隊長に会いませんでしたか!?」
「知りませんえ!」

まるでバスケットボールのように勢い良く反応が返ってくる。

「もうええどすか!? うちは急いでるんどす! 行かせてもらいますえ!!」

静留は突き放すようにいい、また猛スピードで燃え盛るデパートへと向かっていく。
あそこに「なつき」がいれば助けるのだろう。

呆気に取られてそれを見送ったスバルだったが、彼女の行動を見て、決心がついた。
デパートへと向かい、救助すべき人がいれば救助するのだ。
いずれここをはやてが通るとしても、火災の起きているデパートを放置していくとは思えない。
それはシャマル他、機動六課の仲間たちも同様だろう。
彼女たちが駆けつけるまでにあれが事故ならば救助を済ませ、罠ならば粉砕する。
その後で仲間と合流し、次いでロイの救助に向かう。
やはりここでも必要なのは速さだ。
スバルは既に遠くなり始めた長髪の女性を追い、再び全速力でデパートへと駆け出した。

しかし、彼女は知らない。
既にこの時点で彼女を待つヒューズたちが、他でもないロイ・マスタングによって殺害されていることを。
眼前の火災は事故でも罠でもなく、自分と同じ、脱出を目指す者によって引き起こされたものであることを。
自分の前を行く女性が捜し求める人物は既に死んでおり、それを知った彼女が何をするか分からないことを。

間もなく、運命を分かつ放送が始まる。
315
(1): 突っ走る女たち ◆jbLV1y5LEw 2007/12/01(土) 21:43:50 ID:a4dkH3fm(4/4)調 AAS
【E-6/道路/1日目/昼(放送直前)】
【藤乃静留@舞-HiME】
[状態]:健康 、衣服が半乾き
[装備]:雷泥のローラースケート@トライガン、サングラス@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式、マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、 巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、
    ジャグジーの首輪、包丁、不死の酒(不完全版)@BACCANO バッカーノ!
[思考]:
基本思考:なつきを守る。襲ってくる相手には容赦はしない。
1:全速力でE-6のデパートに向かう。
2:デパートになつきがいたら全力で助ける(いなかったら、なつき、なつきの事を知っている人間を探す)。
3:万が一の時は不死の酒に望みをかける?
4:F-5の駅、ビクトリーム、温泉に向かった集団、豪華客船にゲームに乗っていない人間を集めるのは後回し。
5:首輪を詳しく調べられる技術者を探す。
6:あまり多人数で行動するつもりはない。

【備考】
※「堪忍な〜」の直後辺りから参戦。
※なつきがデパートの火災に巻き込まれているのではと考えています。
※ビクトリームとおおまかに話し合った模様。少なくともお互いの世界についての情報は交換したようです。
※マオのヘッドホンから流れてくる声は風花真白、もしくは姫野二三の声であると認識。
(どちらもC.C.の声優と同じ CV:ゆかな)
※不死の酒(不完全版)には海水で濡れた説明書が貼りついています。字は滲んでて本文がよく読めない模様。

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:バリアジャケット、疲労(小)
[装備]:リボルバー・ナックル(左手)(カートリッジ:6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:デイバック、支給品一式(食料-[大量のじゃがいも、2/3][水])、ジャガイモカレー(特大)
    アンチ・シズマ管、予備カートリッジ(×12発)
[思考]
 基本:仲間を集めて事態の解決を目指す
 1:火災現場へ急行。要救助者がいれば助け、殺し合いに乗った者がいれば確保する
 2:1の際、長髪の女性(静留)が協力してくれるようなら協力する
 3:火災現場に来るであろう八神部隊長他、六課の仲間と合流
 4:八神部隊長と合流できたら、協力して他の仲間を捜索する
 5:シャマルと合流できたら、彼女を連れてヒューズの元へと戻る(F-5/商店街・布団屋の中)
 6:その後は、八神部隊長やヒューズの指示を仰いで行動する
 7:キャロや他のみんなもまだ生きていると信じたい
316
(1): 2007/12/01(土) 23:15:47 ID:aNoMnFVt(1)調 AAS
>>311-315

削除依頼ね
317: 2007/12/01(土) 23:45:29 ID:nUrIrpPa(1)調 AAS
>>316
なんで?
318
(1): 2007/12/02(日) 01:28:41 ID:6ASACNS/(1)調 AAS
既にアニサロ移転が決まってますからね
当然でしょう
319: 2007/12/02(日) 01:40:13 ID:nzaGjab1(1/2)調 AAS
>>318
ざっとしたらば見たけどそれらしい記述みつかんないんだけどいつ決まったの?
320: 2007/12/02(日) 01:40:18 ID:s8q7YhSt(1)調 AAS
したらばのずうずうしさにはあきれ果てる
321: 2007/12/02(日) 01:50:30 ID:nzaGjab1(2/2)調 AAS
最近ここ知ったんで良く分からないんだが
したらば何かやっちゃったのか
322: 2007/12/02(日) 10:41:33 ID:0lSVs2mw(1)調 AAS
何もやっとらんよ
自称2ch派さんがぐちぐち文句垂れ流してるだけ
323: 2007/12/02(日) 14:52:21 ID:/7v/e0yU(1)調 AAS
としたらばさんがほざいてます
324: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:02:48 ID:lsYZ3mKS(1/11)調 AAS
「だからその紙を置け、紙を」

スパイク・スピーゲルは温泉に入りながら微妙に命の危機を感じていた。
目の前には紙を構えた読子・リードマンがおり、その紙がなぜかは不明であるが鋭利な刃物となることを知っていたからである。
混浴だからと言って一緒に入ったのが問題であったらしい。
とはいえ、リードマンの裸などに興味はない。

「水着着てるんだから、見られて困るようなモンはないだろ」

それにリードマンは混浴だということを事前に知っていたため何処かから調達した水着を着ていたのだ。
これでは裸を見られるも何もあったものではない。それを知っていたが故に自分は混浴の温泉に入っているのだ。
流石に、裸婦のいる浴場に突入して紙手裏剣や風呂桶が飛んでこないことを予測できないわけがない。

「……むぅ」

読子は膨れっ面で紙や本を入れている風呂桶を持って湯から上がり、

「俺も上がるか」

スパイクも重い腰を上げ後に続く。
H2Oという空間からスパイクの裸体が介抱され、周囲に晒される。
手ぬぐいという邪魔なものなど一切身に着けてはいない。
正真正銘の丸裸である。
その体は180を超える長身を誇り、日々欠かさなかった普段の鍛錬で引き締まった筋肉は女性を魅了するに相応しい。
引き締まった筋肉、幾つにも割れた腹筋、無駄な贅肉が付かない肉体。
どれを取っても男が憧れるのも無理はないと言うべき姿である。
だがこの場に唯一存在する女性にはまったく魅了の効果を発揮せず、
逆に背中を向きスパイクの方を見もせずに顔を背けさせる効果しか持たなかった。

「スパイクさんには恥じらいが足りません」
「わりぃ、貧乏なんだ」

スパイクの方に振り向こうともしない読子の非難に、彼は至極あっさりとした冗談を返した。


325: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:04:30 ID:lsYZ3mKS(2/11)調 AAS
「なあ、機嫌直そうぜ」

体を拭き服を着たスパイクと読子は廊下を歩いていた。
だが読子の機嫌は斜め右下に進んでいた。
30というおばさん呼ばわりされても不思議ではない年齢の彼女とて、スパイクの無神経ぶりには御立腹なのであった。

「俺が悪かったからさぁ」

図太い神経を持つスパイクでも流石に調子に乗りすぎたと考え、
なんとか機嫌を直してもらおうと浴場を出てから何度か謝罪の言葉を紡ぐがいっこうに効果は上がらない。
読子がスパイクの先を歩いているため彼に彼女の表情など窺えないが、背中越しからでも考えていることが理解できる。
ああ、流石のこいつでも怒るんだ。と。
数時間ほどの付き合いで流石も何もあったものでは無いが、
これまでの行動からスパイクはリードマンのことをあまり怒らない人種の人間だと判断していた。

「もういいッ!! 全員黙れッッ!!!!」

そんな二人が廊下を当ても無く歩いているときだった。玄関先から聞こえた若い青年の声が耳朶を振るわせたのは。
スパイクと読子はお互い顔を見合わせ疑問符を浮かべる。
いったい何が起こっているのか?
二人は無言で小走りに廊下を歩き、曲がれば何かが起こっているであろう場所の手前で立ち止まり壁に隠れながら玄関の様子を窺う。

「突然だが、ここはゼロを筆頭とする、反螺旋王組織『黒の騎士団』の指揮下に置かれる!
 以降は、そこに居られるゼロが全ての指揮を取る! 異論は認められない!!」

玄関では複数の人間と猫達がいた。
先ほどまで共に行動していたはやて達である。
他にも見知らぬ学生達にどこぞのヒーロのコスプレにメカメカしい猫、と奇人変人のオンパレードである。
いったい何をしているのか?
スパイクは読子と共に様子を窺うことにした。自分でも知らず知らずの内に銃を握り締めながら。
だがスパイクが予想していたような血なまぐさい展開は起こってはいなかった。
ただ青年が声を張り上げ演説をし、全員の注目を集めているだけであった。
326: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:05:55 ID:lsYZ3mKS(3/11)調 AAS
ただ青年が声を張り上げ演説をし、全員の注目を集めているだけであった。
しかも内容は非常におざなりなものと言わざるえない。目的だけ駆け足で言っているだけだ。
あれならば、まだビシャスの方が口が達者だ。案の定、八神達からは非難の声が聞こえる。
だがたった一声で、非難の声が突然止まる。こちらに背を向け全員の注目を集めている青年の一言で。

「やって欲しいことはこれだけだ。 エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。
 我々に害を為すようなら排除する。それだけだ。頼む。協力してくれ」

青年がそう言い放った瞬間、その場にいたほぼ半数の者達が同意する。
そのまま八神達は屋外へと出て行ってしまった。なぜか倒れた青年を無視して。

「……なんだぁ?」

スパイクには何が起こっているのか理解できない。声を掛けるという発想すら思いつけないほどに奇妙な状況であった。
そんな彼の側でただじっと目の前の光景を見つめる人物がいた。読子・リードマンである。
彼女はただ黙ってことの成り行きを考えながら、一人思案に暮れていた。
いったい何が起こっているのか?
読子はそう思わざるおえなかった。青年が八神達に一方的に早口で正論を捲し立て、八神達があっさりと要求を受け入れた。
言葉にすれば至極単純なその光景を普段は流されやすい読子ですら違和感を感じずにはいられない。
なぜならば八神達はルルーシュの言葉に対して、かなり否定的な言葉と困惑や呆れたといった感情を投げかけており
とても笑顔で承知するとは全くと言っていいほど予想できなかったからだ。
元々八神は北に行くらしいということを聞いてはいたがそれにしても不自然だ。
パンツも穿かずにどこに行こうというのか?
そう、パンツである。読子は八神はやてと再会した際に、彼女がパンツを穿いていなかったことを見抜いていたのだ。
読子はどういった事情かは不明ではあったが、初対面の時には存在していなかった気恥ずかしさを八神から感じ
座る際や立ち上がる際に下半身を気にするしぐさから、何を気にしているかを考えすぐにパンツを穿いてないという答えに行き着いた。
30という人生経験を経た彼女にとっては辿り着くのが難しい問題ではなかったのだ。
温泉に入ったのも、流石に男性だらけの室内でパンツを取りに行くという行動すら気恥ずかしさを覚えるであろうことを察し、
スパイクが付いてきたのは予想外ではあったが入浴という建前を利用し脱衣所に潜入したからなのだ。
たかがパンツと言って馬鹿にしてはいけない。パンツを穿かなかった故に死んでしまった女性も世に存在していたと伝えられる事件があった。
そう、日本の都市災害史に残る大火災の一つであるかつて1932年12月16日に起こった
クリスマスイルミネーションを出火原因とする火災により14名の死者を出す日本初の高層建築物火災となった白木屋火事のことだ。
当時の女子従業員は和服で、下着をつけていなかったため、裾の乱れを気にしてロープによって救助されることを躊躇した者が多く、
犠牲者を増やしたといわれている。この説は井上章一により否定されてはいるが、神保町の青空の下でドラム缶風呂に入り茹で死に一歩手前まで追い詰められ
タオル1枚すら持たない状況で人目を気にしながらほぼ裸で脱出する破目になり、死ぬほど恥ずかしい思いをしたことがある読子としては、
白木屋火事に巻き込まれた女性店員は死と恥ずかしさの境で本当に生きるか死ぬかの瀬戸際だったのであろうと感じることができる。
そんな読子にとって女性としてパンツを穿きもせずに行動を始めることが信じられなかった。
327: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:07:32 ID:lsYZ3mKS(4/11)調 AAS
そして読子の見立てでは、八神はやてからは今だパンツ穿いてないオーラが漂っている。
何をするにもどこに行くにも、まずはパンツのはずだ。
数秒で簡単にこの施設でパンツを見つけることは可能であり、現に自分のコートのポケットには脱衣所から拝借した予備のパンツがある。
「ちょっとお花を摘んできます」などと言って出立する前に男性達から離れれば、この施設で見つけることができるのだ。
故に読子には八神はやてがパンツを探さないで外に行くとは考え難かった。
それにベースキャンプである温泉施設を別グループにあっさり譲り渡すのもおかしい。
先ほどの話の内容から、別グループは同じ反ロージェノムではあるらしいがお互いに面識はないようだ。
しかも、完成するまでは梃子でも動く気がないと言っていたマタタビと名乗る喋る猫までどこかに行ってしまった。
これでは蛻のからと言ってもいい。それに自分達を放っておくのも気に掛かる。
スーパーマンの敵役として出てきそうなあやしい仮装男達を、ロージェノム派の人間と自分達が勘違いしてしまう危険もあるのだ。
故に、はやて達三人が温泉をなんの準備も挨拶もなく早急に後にするということを読子はおかしいと考える。
自分から外に行く理由があったとしてもすぐに出て行くとは思えなかった。ならば、八神達はなぜ外に出て行ったのか?
少なくとも自分の意思で出て行ったようには見えず、まるで意識を操られたために温泉施設から退去させられたようにしかみえない。
それはどういったことを指すのか?
極めて簡単に答えを出すのならば催眠術である。催眠術により意識を操られたために八神達は外に追いやられたのだ。
催眠術、それは一般的には意識を操る術であるために特殊な力と思われがちであるが少し違う。
誰でも扱えるわけではないが、素人でも誰かに弱い催眠術を掛けることは結して不可能ではない。
例として歴史上で催眠術を使える偉人をあげるのならばアドルフ・ヒトラーが有名であろう。
彼は集団催眠を用いて民衆を煽り、軍に狂気の殺戮を行わせるに至ったのだ。
なにより、催眠術の証明としてマタタビの仲間と思しきドラえもんよろしくな猫型ロボットには効果があるようには思えない。
生物には掛かると思える催眠術がロボットに掛かる訳が無い。
しかもルルーシュという名の青年は、ヒトラーが演説を敢て遅らせ民衆の意識を自分に集めるという催眠術を掛ける側にとって
重要な行動をなぞるかのように全員を自身に注目させていた。
故にあの青年が催眠術をマスターしており、八神達を操ったとしても不思議ではない。
しかし、あの青年が催眠術を使えると仮定したからといって、幾つもの疑問がいまだ存在する。

一つ目は青年が、如何にして無手で催眠術を掛けたのか?
二つ目は催眠術を本当に掛けられる状況であったのか?
三つ目はなぜ自分やスパイクが掛かっていないのか?
四つ目は本当に催眠術なのか?

一つ目の疑問は、催眠術を掛けたと思われる青年がデイパッグを背負っていたものの、両腕を体の横にしてきつく握り締めていた状態では
催眠術を掛けるための動作をとれないことだ。通常、催眠術を掛ける際にはライターの火やライトの灯を使うことで
相手を誘導しトランス状態に陥れなければいけない。だが読子の見立てでは、青年はトランス状態に移行したと思われる間や
相手をトランス状態に落す前振りすら無く催眠術を成功させたことになる。
二つ目の疑問は、あの場が八神達を催眠術に掛ける場であったかということだ。
突然の青年の主張により、それなりに騒がしい状況であったあの場ではトランス状態に移行する間がなく失敗する可能性の方が高い。
三つ目の疑問は催眠術が音声や臭いで掛けるものである場合は自分達も掛かっていなければならないことだ。
たいした距離が離れているわけでもない以上は自分達も掛かっていなければおかしいが、
読子がスパイクを観察してみても彼が外にいく前兆すら見つけられない。
四つ目の疑問はは以上の理由や別の理由により、催眠術が八神達に掛かっておらずに自分の意思で出ていったということだ。
多少の不自然さも現実に起こっていることならば納得するしかない。普通の人間ならばそう考える。
だが読子・リードマンは普通の人間とは違う。彼女は異能力を持ち、なおかつ殺人舞台における参加者一の読書量を誇るエージェントなのだ。
328: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:08:48 ID:lsYZ3mKS(5/11)調 AAS
その彼女の知識と経験が彼女自身に囁く。
あの少年は催眠術を特殊能力にまで昇華した力を持つのだと。その力を持って八神はやて達を操っているのだと。
おそらく何かを見せられたために洗脳の異能が発動してしまったのだ。
なぜかゼロや少女には効かないかは読子にとっては不明ではあったが、彼女の考えでは問題ない。
特殊能力を使用するのに、それぞれ条件やデメリットというべきものが存在することが事実であることを知っていたからだ。
例としては、紙使いは紙が無ければ能力を使用できず、透過能力者は水中では無力であることなどだ。
故に少女と仮面の男に青年の力が通用しないのは、何らかの条件を満たしているためと予想が付く。
逆に青年が意図的に外したことも考えられるが、その場合は仮面の男と少女が青年とグルということでしかない。
仮面の男は表情が隠れているため何を考えているかは不明であるが、少女の方は青年が能力を使った際に全く動じていなかった。
それは少女が青年の力を理解していたが故のことだ。青年の能力を知らな素振りを見せてはいたが、
唯一効果が発揮されなかった機械猫がいたために知らぬ振りをしているだけだ。
知らないならば、簡単に物事が進んだことに疑いを持つはずなのだ。
故に仮面の男を始めとした三人は、青年の力を始めから使用するつもりで八神はやて達に接触したと読子は判断する。
そう始めからだ。八神はやてがあの場で放送を行っため彼らは彼女の存在を知り、迷いながらも立ち上がろうとした彼女を利用するつもりで近づいたのだ。
おそらくあの放送を聞き彼らはこう思ったはずだ、あの女と仲間達は対ロージェノムの弾除けがわりになると、
面倒なことや危険なことは彼女達に任せてしまえばいい、と。
なんと卑劣なのか。人を操り、弾除け代わりにするなど許せない。まるで以前戦った冷徹な策士一休だ。

読子はかつての戦いを思い出す。

偉人軍団の策士一休宗純。人類殲滅という策の為なら仲間や恋人ですら切り捨てる男だ。
彼によって死んでいった者達は数知れず、策が終わり用済みだからといってシャレコウベの付いた杖を三蔵法師の首に突き刺し、
彼の恋人であったやさしいナンシー・幕張をまるでゴミでも捨てるかのようにあっさり裏切ったのだ。
あの頃の憤りが自身の心の中に灯る。絶対に阻止しなければ。
読子はそう心に決め、手を握り締め黒の騎士団への怒りに燃える。
だが実際のところは、たまたま糸色望達が温泉に来ただけであり、カレンは既にギアス使用済みによる制限で
糸色望はゼロの仮面という透過率の悪い物で視界を遮ることによってルルーシュのギアスを防ぎ、
糸色望とカレンはルルーシュの暴走に巻き込まれただけであるが、怒りに駆られる読子にはそのことに気づけない。
許せずにエージェントとしての思考をさらに推し進め、どう物事を進めていくかを読子は考える。
本来ならば説得から始めたいところであるが、八神達のことも気に掛かり洗脳という能力を相手が持つ以上は
最初から力づくの対応をした方がいいだろう。
洗脳する能力者は背後からみたために今一能力の発動条件を特定し難いが八神達の視線から判断するに、胸より上を見なければおそらく大丈夫だ。
奇襲を仕掛け速攻で相手の体を紙で包み込んでしまえばいい。
読子はそう判断し、スパイクと共に一時的にこの場を離れることにした。
329: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:10:05 ID:lsYZ3mKS(6/11)調 AAS
「スパイクさん、ちょっとこちらへ」

読子は彼の腕を掴み、以外な力を発揮してその場から移動する。

「おい、痛いって……」
「静かにお願いします」
「どこに連れて……」
「黙っていて下さい」

スパイクは言葉を紡ごうとは思ったが、読子から発せられる何かに押しとどめられ黙ってしまう。
リードマンからは先ほどまで発せられていた朗らかな空気は消え去っており、
逆に自分のようなカウボーイたちが発する硝煙の臭いに似た何かに取って代わっていた。
リードマンは真剣な表情でそんな気配を纏いながら、自分を手近な部屋へと連れて行く。

「スパイクさん、たぶん非常に厄介なことになっていると思います」

部屋の扉を閉めると、開口一番に何を言おうとしているのか分からないことを言い放つ。
何が厄介なのか、この女の一言ではまったく分からない。

「いや、いきなり厄介なことになったと言われても……」
「あの男の子は特殊能力を持っているんですよ」
「ハァ?」
「だから、相手の行動を操る類の能力を持っているんですよ。一般には催眠術と呼ばれるようなものを」

リードマンの答えは予想を遥かに超えた珍解答であった。
とりあえず黄色い救急車を呼んで、病院に連れて行くのが一番だろう。

「いいかリードマン。温泉に入ったからといって脳までふやけるのは人間としてどうかしているぞ」
「ふざけないで下さいスパイクさん」
「ふざけているのはお前だろうが」
「スパイクさんも見たはずです、いきなり八神さん達の行動が変化したのを。あれは彼の仕業です」
「……たまには人間変わったことをしたくなるもんさ」
「それでもおかしすぎます。温泉に入っていた私達を放っておいてどこかに行くものでしょうか?」
 あんなに不満そうな声を上げていましたし」
「そりゃあ……」

そこで言いよどむ。たしかにリードマンの言うとおり、あっさり自分達を放って一言もなしにどこかに行くのは妙である。
330: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:11:23 ID:lsYZ3mKS(7/11)調 AAS
猫と男の方は我が強く人の言うことを簡単に聞くとは思えず、はやての方も何か一声ぐらいは掛けそうな性格だ。
それに、八神はやてはたしか自分が風呂に入る前にリードマンに鞄を返したいなどと言っており、
その時にはリードマンが風呂に入っていたために、上がってから返すつもりだったはずだ。
あの少年が青臭い正論を吐いたからと言って、彼の言葉を第一目標にするのはおかしい。
そうするにしても、相談の一つぐらいあっても良さそうなものなのだ。
しかし、人を操る超能力をあの少年が持っているなどと言われ簡単に信じるのは馬鹿がやることだ。

「いや、エスパーじゃあるまいし。そんな馬鹿な……」

そこまで言って、言葉が詰まる。
目の前の女も同じ特殊能力を持った人間のはずなのだ。紙を操る能力がなんらかの嘘やトリックならばこの女も紛い物なのだろう。
だがそうとは感じれず、以前に不死身であった少年と遭遇し、先ほども喋る猫などに遭遇した身では異能という力を嘘とは思えなかった。

「私だって紙使いなんですよ。あの少年が異能を持っていたからといって不思議じゃありません」
「つうてもなぁ。俺やお前、それにコスプレと嬢ちゃんは別に操られてるとは思えないんだが?」
「おそらく何らかの条件があるんでしょう」
「条件?」
「目下の所検討中です。でもおそらくは何かを見せることで操るんだと思います」
「いや、条件が違うだろう。コスプレその他一も小僧の視界に入っていたはずだ」
「仲間に掛からないように意識的に外したか、掛からないための別の手段を用いたと考えられます」

スパイクの疑問に読子はあっさりと答える。

「条件のことですが、いくつかは思い浮かびますが全て推測の段階までで確かなことは言えません。
 何か知っているはずの彼らに聞くのが一番早いのではないんでしょうか?」
「そりゃあまあ、たしかに」

ここまで会話しスパイクは嫌な予感がした。会話をしている間にリードマンが上目遣いに自分の瞳を覗き込んでいる。
なんとなくではあるが、この女が妙なことを自分に頼もうとする気がしてならない。

「スパイクさんに頼みごとがあります」

ほら当った。
スパイクはそう胸中で漏らす。おそらくはリードマンは自分になんとかしてもらうように頼むつもりだ。
誰が聞くものか。ただ働きは嫌いなのだ。

「八神さん達のサポートをお願いしたいんです」

だが読子の言葉はスパイクの想像を少し外れたものだった。
言われたスパイクは一瞬呆気に取られる。

「……へ?」

サポートってなんですか、リードマンさん?
スパイクは読子の言葉の意味が分からずに僅かに困惑する。
だが読子はそんなことに気付けずに先を続ける。

「八神さん達の行動がおかしくなった時に、ルルーシュさんは真中に行って仲間を集めるように、でも邪魔したら排除しろって言いました。
 これでは八神さん達やこれから接触する人たちが危険に陥る可能性が高いと思うんです」
「……それで俺にどうしろと?」
「スパイクさんは八神さん達に付いていって、接触する人たちに事情を説明してもらうんです。
 八神さん達と会話してもらっても構いません。邪魔だと思われなければ何をしてもらっても。
 そうやって効果が途切れるまで適当にやってほしいんです」

適当に邪魔と思われないようにはやてたちの邪魔をしろ。
そう言われても正直困る。ただ働きの限度を超えている。
催眠術師を抑えるのがよっぽど楽だ。
331: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:12:05 ID:lsYZ3mKS(8/11)調 AAS
「……で、お前はどうするんだよ?」

自分に厄介なことを押し付けた女はいったい如何するのか?
楽なことをするようならば怒鳴りつけてやろう。

「ルルーシュさん達を説得してあの能力を使わせるのを止めて貰います」

が、読子の提案はスパイクの考えたものと真逆であった。
スパイクは呆れる。いくら何でも無茶がすぎる。人を操る能力を持つ人間を相手に目の前の女では如何こうされるのがオチだ。

「説得って、無理だろう。話している間に操られて終わりだろうが」

スパイクは止める。だが読子の意思は固い。

「……じゃあ、やっぱり力ずくで」
「まてまてまて、余計に駄目だろうが。自殺しろって言われて終わりだろ」
「大丈夫です。私の考えが正しければ、上半身から上を見なければなんとかなります」
「目でも瞑るのか? それ以前の問題としてフルボコだろうが。銃もあるしよぉ」

当然の如く、スパイクは突っ込みを入れる。
赤い髪の女学生が持っていたのは、相棒の使っている物と同じ銃だ。リードマンが銃相手に如何こうできる姿を想像できない。
紙如きを操れるだけでは、数の不利も、銃の脅威も退けられるはずがない。
スパイクの認識ではそうでしかなかった。だが読子としてはそうではなかった。

「大丈夫ですスパイクさん。私、こう見えてもちょっと強いんですよ」
「……………………」

スパイクは無言で愚かな言をほざく読子の頭に右手を翳す。

「はい?」

そのままスパイクの右手は呆ける読子の頭にチョップを打った。

「いひゃい?」

奇妙な鳴き声を上げ読子は崩れ落ちる。

「よわ」
「いきなり何をするんですか、スパイクさん!?」

崩れ落ちた彼女は、すぐさま起き上がりスパイクの呟きに非難を浴びせる。

「あのなぁ、そんなんで力技も何もあったもんじゃないんだろうが」
「……私、本番じゃないと実力が発揮できないんですぅ……」

スパイクは読子の戯言を聞き流しつつ、彼女の眼鏡を見つめ、溜息をついた。
厄介ごともただ働きもは嫌いではあるが、どうやら自分がなんとかしなければいけないらしい。
せめて、はやて達に恩を売って不良債権の回収ぐらいはしたいが、ロージェノムの圧政がある状況では無理だろう。たぶん。
このまま状況に流されたとしても、悪い方向に転がるだけだ。
332: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:13:44 ID:lsYZ3mKS(9/11)調 AAS
「もういい、俺が何とかするから付いて来い」

部屋を出て廊下に立ち、辺りを見回す。

「はい?」
「だから俺が何とかする。タカ派の黒の騎士団をボコって、催眠術みたいな強行路線を取らせないようにしてから八神達に合流。
 八神達に掛けられた催眠術が解けるまで尻拭いをして、解けたらロージェノムの圧政を民衆が打ち倒すのを黙って見守る。
 これでいいだろ、たぶん」

半場口から出任せであるが、背中越しにリードマンにこれからの一様の行動方針を伝える。
もちろん全部達成するつもりもない。悪魔で適当な行動方針だ。
正直に言えば超能力大戦などから抜け出し、とっととビバップ号のベッドで惰眠を貪りたい。
そう思いつつ適当な道へと足を運ぶ。

「あっはい。そうです、とりあえずそれでいいです」

慌ててリードマンが付いてくる足音が聞える。
背後に女の気配を感じながら考える。さて、あの三人をどう探そうか?
見つからなければ、放っておいてはやて達の方に行こうか?

「絶望した! あまりの本人置いてけぼりっぷりに絶望した!!」

廊下の向こうからゼロと名乗った男の声が聞えてくる。
どうやら探すまでもないらしい。



「絶望した! あまりの本人置いてけぼりっぷりに絶望した!!」
「どうしたんですかゼロ? いきなり大声を上げたりして」

カレン・シュタットフェルトとゼロの扮装をしている糸色望は、
突如意識を失ったルルーシュ・ランペルージを温泉施設の一室である和室へと運び込み、枕を敷きその上へと寝かせていた。
運ぶ際に、邪魔となったルルーシュのザックをゼロが持っているのは些細なことだ。

「どうしたもこうしたもありませんよ!! はやてさん達がどっかに行ったと思えばいきなりルルーシュさんが倒れて、
 しかも運ぶ手伝いまでさせられて。ええ、状況に流されるにしても程がありますよ!!」
「す、すいませんゼロ! あなたの御手を煩わしてしまって」

カレンはゼロに頭を垂れる。
人手がないとはいえ大事なリーダーの手を煩わせるなど、黒の騎士団失格だ。
本来ならば、ルルーシュを放ってでもでも有効な手段を取らなければいけないのだ。
それを自分の我侭でゼロの計画を無視することになるとは。猛省しなければ。

「え、え〜と……いや、別にカレンさんが悪いわけじゃありませんよ。悪いのはルルーシュさんですよ」

しかし、カレンの落ち込む理由を今一理解できていないゼロこと糸色望は慌てて取り繕う。
333: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:15:00 ID:lsYZ3mKS(10/11)調 AAS
「私を無視して、勝手に話を進めるルルーシュさんがいけないんですから」
「本当に申し訳ありません」

なんのフォローにもなっていないゼロの発言にカレンは再び深々と頭を垂れる。

「でも、ルルーシュのことを攻めないでください。あなたの負担を減らそうと思って代わりにやったことなんです。
 もう勝手なことをしないように、私が言い聞かせますから」

カレンの言葉に糸色望は何かを言おうとして、止めた。
これ以上迂闊な発言をしてゼロがカレンの前から失われる結果は、今はゼロを名乗る彼にとって望むものではない。

「……まあ、いいでしょう。私のすべきことを代わりに実行した功績に免じて不問にいたします」

そう言いながら右手の掌を突き出し、今だ何かを言おうとするカレンを押しとどめる。
糸色望は適当な所で話を終わらすことにしたのだ。

「ありがとうございます」

カレンはルルーシュに何の御咎めがないことにほっと安堵しつつ、今だ意識を失っている彼の顔を見つめる。
これ以上勝手な振る舞いをされると、本気で処罰されかれない。
黒の騎士団は弱者の味方であるが、自分勝手に行動する彼に対しゼロの堪忍袋は何時まで持つか分からないのだから。
カレンはルルーシュが目覚めれば文句を言ってやろうと思い、何気なく視線を彷徨わせる。
そして、その瞳がある室内のある一点で止まる。カレンの見つめる物は、鳥の巣箱を模した木製の古い時計であった。
その時計は放送まで数分しか無い事を指し示していた。ぼうっとして下手をすれば放送による情報を聞き逃してしまう。

「もうこんな時間。早く用意をしないと」
「え、用意って?」
「放送の用意です」

この放送は聞き逃すのは不味い。北が禁止エリア南は行き止まりの現状では東か西が設定されただけで移動方向が限られる。
その上でこの場所が禁止エリアにでもなれば、ルルーシュを担いで移動しなければいけない。最悪逃げられなくなる。
拠点にすると言ったこの場所が禁止エリアにならない保障はないのだ。次の放送は自分たちにとって死活問題となる。
せめて放送までに出立した彼らに残って貰えたのならば悩む必要はないのだが、ルルーシュの発言によって出て行ってしまった。
このことが対螺旋同盟にひびを入れることにならなければいいのだが。

「まったく、これだからブリタニア人は」

ついつい愚痴が出てしまう。だがこれ以上は考えない。
せっかくゼロの許しが出たのだ、目覚めてから後でたっぷりと言い聞かせればいい。

「何か言いましたカレンさん」
「いえ、何でもありませんゼロ」

そのやり取りの後にカレンとゼロは鞄の中から、それぞれ名簿と地図と筆記用具を畳の上に取り出し、放送に備える。
できる限り状況が好転することを信じながら、二人は時が訪れるのを待つ。
334: 読子達がみてる  ◆UCRiZtpozI 2007/12/02(日) 17:16:39 ID:lsYZ3mKS(11/11)調 AAS
【H-6/温泉施設/一日目/昼・放送数分前】

【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:健康
[装備]:デザートイーグル(残弾8/8、予備マガジン×2)
[道具]:支給品一式
[思考]
1:状況の把握。
2:はやて達が問題を起こさないようにサポートしに行く。
3:はやてに真相を問い質す。
4:読子と一緒に行動してやる。

【読子・リードマン@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:健康
[装備]:○極○彦の小説、飛行石@天空の城ラピュタ
[道具]:パンツ
[思考]
1:状況の把握。
2:はやて達が問題を起こさないようにサポートしに行く。
3:はやてに協力したい。
4:適当なところで帰る。
5:はやてにパンツを届けたい。
※はやてがやろうとしていることを誤解しています。
335: 2007/12/02(日) 20:56:43 ID:86A9/OjN(1)調 AAS
ほい削除依頼ヨロ
336: 2007/12/02(日) 21:25:46 ID:zAvfk0l/(1)調 AAS
んだ
337: 2007/12/03(月) 00:14:39 ID:cclPutuu(1/8)調 AAS

338: ランチタイムの時間だよ 1/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:15:11 ID:IOnR+U/A(1/11)調 AAS
「見てみろよ、ミリア! ここはお宝の山だぞっ!」
「夢の島だねっ! ドリームアイランドだねっ!」

雲ひとつない澄み渡った真っ青な空と、その頂上から燦々と降り注ぐ眩しい太陽。
その遥か足元。雑多で膨大なゴミが堆く積みあがったデコボコな地面の上を、一組のカップルが走り回っていた。
空に輝く太陽にも負けないような陽気を振りまいて、楽しそうに、とても楽しそうに――……。

「アイザックー……。こんなにもたくさん勝手に持ち出していいのかなー?」
「おいおいミリア〜、ここをどこだか忘れたのか? ここにあるのは全部捨てられた物なんだぜ」
「捨てられたなんて可哀相っ! もうここにある物は誰の物でもないんだね、アイザック!」
「……そうさ、ミリア。だから俺たちがこれからこいつらの面倒を見てやろうってんじゃないか」
「やさしいアイザック! これからはもうこの子たちも寂しくないんだねっ!」
「ああ。これからは俺が父となり、ミリアが母となり、この子たちは新しい人生を歩んでいくのさ」
「リサイクルだね〜、循環社会だね〜!」

ゴミ処分場という施設の中。分別することを諦められたゴミがただただ積まれているだけの場所でも、
アイザックとミリアはいつもの調子であった。
もう日も昇ったというのにアイザックは半裸のままで、ミリアの方は入り口を潜ったところで拾った安全メットを被り
アレンビーから借りたスコップ片手にした姿で、そのゴミ山の上を走り回り、時には何かを掘り出している。
螺旋王を探すという目的も半分忘れ、二人揃っていつもの通りに、子供の様に今という時間を謳歌していた。

そんな二人を遠目に、同行者の一人であるアレンビーは溜息をひとつついた。
彼女は彼らより少し離れた場所。バランスよく積みあげられた古タイヤの塔の頂上に腰掛けている。
ここに入ってきてすぐの頃は彼女も螺旋王の隠れ家を探していたのだが……。

「そんな顔をすると、この青空を写し取ったかの様な君の髪の色も曇ってしまうよアレンビー」

憂鬱に顔を曇らせるアレンビーの頭上を一羽の烏――キールが浮ついた台詞を吐きながら旋回する。

「……やっぱり、おかしいんじゃないかなって思うんだけど」
「おかしいのはこの世界の方さアレンビー。そんな些事に心を囚われて、君の顔から美貌が失われることの――……」

ふう――と大きく溜息をついてアレンビーは烏の戯言を聞き流す。
どうやらこの喋る鳥は物事を真剣には捉えていないぞ、ということをこの1時間ほどでアレンビーは理解した。
そして、ゴミ山の上を駆け回る二人。彼らについても、真剣ではあっても根本的にな部分でおかしい所があると彼女は感じている。
嘘をついて騙しているとは思わないし、アイザックの復活劇も実際に目の当たりにしている。それでも……、

怒涛の勢いで問答無用に理性を押し流す運命の逆流――ポロロッカ(大騒ぎ)。
そこから僅かに取り残されたアレンビーの理性が、彼女にこのままじゃいけないと小さな警告を送り続けていた。

……と、頭上の烏よりアレンビーにとって意味のある言葉が投げかけられた。
「お客さんだよ、アレンビー。しかも二人……」
「その言い方だと、来たのは男の人かしら?」
皮肉っぽくかけられた言葉に烏は空中で器用に首肯する。
「あたり。アレンビーと相互理解が深まって嬉しいよ。来たのは両方とも男。おっさんと小僧さ」

古タイヤの塔の頂上で立ち上がり入り口の方へと振り返ったアレンビー。
その視線の先には、一組の壮年の男性と背の低い少年の姿があった。
339: ランチタイムの時間だよ 2/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:16:23 ID:IOnR+U/A(2/11)調 AAS
 ◆ ◆ ◆

「ゴミ処分場だと……何があるんだろう?」
出会ってより数時間が経ち、そろそろ口数も少しずつ増えてきた同行者の質問にジェットは頭を捻る。
「そうだな。……映画館では映画に、博物館では展示室に何かがあったんだ。
 ということはゴミ処分場だとやっぱり集められたゴミ……、もしくはそれを処理する施設あたりが怪しいな」
その返答にチェスはこくりと頷き、納得したことをジェットに知らせる。
そして視線を上げて、眼前に大きく広がるゴミ処理場をその小さな両目で見渡した。

ゴミ処分場に入ってすぐに見えるのは、廃車となり積み上げられた車の残骸や古タイヤの塔。
真っ赤に錆びた金属製の何かだった物で組上げられた奇怪なオブジェ。同じ様に錆びの浮いた、古びたコンテナの数々。
その間の所々に見えるのは、それもゴミかと見間違うほど汚れたゴミを動かすための重機達。
それらから目を移せば、次に見えてくるのは無愛想な灰色の建物の群れだ。
特徴的なのは、空へと長く伸びる紅白の縞模様に塗られた煙突だけだが、そこから吐き出されるべきである煙は少しも見えない。
そして、更に視線を奥へと進めればそこに見えるのは灰一色に見える巨大な山。
よく観察してみると、一見灰一色なそれは雑多な色が重なりあった結果そういう印象を受けるのだということが解る。
物の死骸を集める場所だけあって、まるで墓場の様にそこは静寂で、
聞こえてくるのは海風に揺られたゴミの群れが奏でる、細波の様な静かなノイズだけだった。

――と、一瞬何かが二人の頭上に降りかかる陽光を遮った。そして、それは軽い音を立てて彼らの目の前にへと着地する。

「はじめまして! 私はアレンビー・ビアズリー。オジサンと少年は?」

それは、この場には似つかわしくない透き通った青い髪の少女――アレンビー・ビアズリーだった。

 ◆ ◆ ◆

「あ……と、驚かせたみたいだね……」

突然に現れて今、目の前で両の手の平を顔の前で振り、照れ笑いする少女にチェスは大きく驚いていた。
視界の中のどこから飛んできたのだとしても、それが尋常な距離ではないと推測できる跳躍力。
そして、目の前のジェットが銃を向けていても、なお平然としていることから窺い知れる実力。
あの螺旋王に集められていた場所でのことを除けば、目の前で見る超人との初めての遭遇であった。

「俺はジェット・ブラック。この子はドモン・カッシュだ」

銃を下ろさずまだ警戒を解かないままに、ジェットはチェスのことを聞かされたとおりにドモンと紹介する。
その瞬間、アレンビーの顔に怪訝な表情が浮かぶのをチェスは見逃さなかった。

「ドモン・カッシュです。こんにちはおねーさん」

あどけない声を使って嘘の自己紹介をすませた裏で、チェスはこの状況を推定していた。それは――、
”目の前の女はドモン・カッシュという人物を知っている。だが、決して不死者ではない”
ならば、問題は想定範囲内だった。前もって考えていた通りにことを推移させればよい……。

「どうしたのおねーさん? なんだか怖い顔をしてるよ」

自分は子供だ。と、最早そう思わなくても自然に出るようになっているその使い古した仮面をチェスは被る。
340: 2007/12/03(月) 00:16:33 ID:cclPutuu(2/8)調 AAS

341: ランチタイムの時間だよ 3/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:17:34 ID:IOnR+U/A(3/11)調 AAS
「アタシの知っているドモン・カッシュとは違うみたいだけど、同姓同名って訳じゃあないよね……」

相手は警戒を強めている。だが、それもチェスの手の内だった。
ある程度緊張を高めた所で拍子抜けするような回答を提示すれば、相手を容易にそちらへと誘導することができる。
水と同じで低きところへと流れるのは人の心でも変わらない。それは300年を生きた彼が信じる世界の法則だ。

「ううん。僕は”チェスワフ・メ……”……――!」

一瞬、ドクンと心臓が脈打ちチェスの仮面に皹が入った。
(馬鹿な。今、私はドモン・カッシュと名乗ろうとしたはずなのに……何故!?)
偽名が名乗れない。それが何故なのかは解りきっている――不死者が近くにいるのだ。見えないどこかに。
そいつが目の前の女と会話をしているうちにひっそりと近づいてきている。

「ご、ご、ごめんなさい。本当……は、チェスワフ・メイエル……です」

それに気付いたことに気付かれてはまずいと、チェスは必死に子供として動揺するという自分を取り繕う。
目の前にいる二人に対しても、そしてどこか近くに潜んでいる不死者に対しても、自分は無害で臆病な子供だと見せかけなければならない。
途端に複雑化した状況と条件に、チェスの頭脳はその回答を導き出すべくめまぐるしく回転を始める。
予め用意していたプランに、このような特殊な条件を設定したものはない。だからこの一瞬で……――、

「おー! チェス君じゃあないか」「無事だったんだねー!」

と、仮面の下で苦悩するチェスの元へ聞き覚えがある声と共に助け舟が降りて来た。
1931年のフライングプッシー号に乗り合わせた、自分の身元を保証してくれる風変わりな男女のカップル。
彼らによってこの苦境から自分は救われるだろうとチェスは確信した。だが、チェスにはその男の笑い顔が――、

――その嘘偽りの全く無い真っ白な笑顔が、死神のそれにしか見ることができなかった。

 ◆ ◆ ◆

結局の所、アレンビーがチェスに抱きかけていた誤解はあっさりと解かれた。
すでに同行していたアイザックとミリアが間に入ったことで、それは単なる臆病な子供がその場の思いつきでついた嘘だったと
チェスの想定していた通りに決着がついた。
興味なさげにその場を離れていたキールも、チェスの同行者であったジェットも最終的にはそれに納得した。

かくして、互いが安全な相手だと確信した彼らはそれまでに得ていた情報を交換し合うのだが……。

 ◆ ◆ ◆

「俺にはどうしてもお前さんがたの言っていることが正気とは思えんのだが……」
「……否定はしないわ」

合流した後、再びゴミ処理場内の探索へと二手に別れたその片方。
ジェットとアレンビー。そして、その頭上のキールの二人と一羽はゴミ処分場内にある焼却施設の中を探索していた。

先程行われたばかりの情報交換の中で、新しく合流したジェットとチェスの二人に語られた
アイザックが螺旋王の息子だという話と、そこから続く荒唐無稽なストーリーをジェットは……、
342: 2007/12/03(月) 00:18:15 ID:cclPutuu(3/8)調 AAS

343: ランチタイムの時間だよ 4/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:18:44 ID:IOnR+U/A(4/11)調 AAS
「意味が解らん。そんな訳ないだろう」

……と、常識という観念で一蹴した。
勿論、それを目の前で物語を熱心に紡ぐ、頭の上にお花を咲かせた二人に直接ぶつけたりはせず、
ていよく別れた所で、比較的常識が通用しそうなアレンビーへとぶつけて探りを入れてみた。
ジェットの見込み通り彼女もあの話には懐疑的な部分があったようだが……、

「でも、彼が不死身だってことはこの目で確認したし、彼は今までもそうだったって……」

そこが問題だった。
彼はこの実験が始まってより繰り返し殺され続けてきた――そういうありえない事実があるからこそ、
またそこから続く信じがたい話もアレンビーは一蹴できないでいるのだ。

「……とりあえず、話に出てきたカフカって娘と会ってみないと解らんな。
 それに、やつが”殺された”という相手にも確認を取りたいところだが……」

そこでジェットも首を捻った。行方知れずのカフカという少女を探すのも骨が折れる話だが、名前も知らない相手を探すのはそれ以上だ。
しかも、アイザックを”殺した”ということは、つまりはその殺意をこちらにも向けてくる危険人物であろうことが容易に想像できる。

床の上を歩く二人は頭を悩ませ、逆に空を羽で叩いて飛ぶ一羽は何も考えずに、ゆっくりと施設の奥へと入り込んでいった。

 ◆ ◆ ◆

片方の組が薄暗い室内で、これまた暗い考えに心囚われている頃。
もう片方の組の方は明るい日差しが降り注ぐ中、あいも変わらず陽気に宝探しを楽しんでいた。

「いやー、チェス君が無事でよかった」「よかったネ!」
「あのおじさんにも何かお礼をしないとな〜」「恩返しだね! 玉手箱だね!」
「よし、と言うわけで玉手箱を掘り当てよう!」「ここ掘れワンワンだね! 大判小判ザックザクだね〜!」

目の前にいる二人は馬鹿だ――クルクル回ってはスコップを振り回す二人にチェスはそう評価を下した。
だが、その二人を目の前に彼の心臓は落ち着かず、身体は足場の悪さを考えてもなおフラフラと揺れていた。

”アイザック・ディアンは不死者である”

それはチェスにとっては最早間違いのないことであった。
先刻の突如として偽名を名乗れなくなった事。そして、その後彼らから聞かされた「手品」の話……。
1931年のフライングプッシーフット号。その食堂車の中にいたチェス以外の不死者。それはアイザック・ディアンだった。

子供として目の前の二人に付き合いながらチェスは考える。
――アイザック・ディアンという男は一体何者なのか? 何を考えているのか?
底抜けの明るい態度。手品やポロロッカという荒唐無稽な話で皆に幸せをもたらせると考えている異常な思考。
チェスの頭の中に思い浮かんだのは、同じ錬金術師であり不死者の一人でもある”笑顔中毒者”のエルマーという男だった。
幸不幸の関係なしにただ”笑えればいい”――それだけが至上命題の、ある意味最も狂っていて、そして傍迷惑な男だ。
果たして、目の前の男はそんなモノなのだろうか? それとも全ては演技なのか? そして――、
――この男は私が不死者だと知っているのか? 私を喰おうとするのか?
それがチェスにとって最も重要な事だった。文字通り、それは死活問題だ。
344: 2007/12/03(月) 00:19:24 ID:cclPutuu(4/8)調 AAS

345: ランチタイムの時間だよ 5/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:19:56 ID:IOnR+U/A(5/11)調 AAS
目の前の男が何を考えているのか解らない。それがチェスにはどうしようもなく怖い。
もし自分を喰おうとしているのならどうすればよいのか? それだけはどうしてもいやだ。死んでもいい。だが喰われたくはない。
こんな汚いものを。こんなおぞましいものを、誰かの中に移し覗き見られるなんてとても耐えられない。それだけは……、

「(……私が、ヤツを喰えば……)」

そうだ。そうすればよい。そうすれば不安は何もなくなる。何も怖がる必要はなくなってしまう。
何よりも、ここはそういう場所なのだ。不死者は不死者でしか殺せない。ならば、どこに躊躇う必要があるのか。

心と水はよく似ている。どちらも低き低き方へと自然に流れてゆく。恐れを抱いたチェスの心も低き方へと――。

 ◆ ◆ ◆

「……で、キールはこれをどう思う訳?」

アレンビーはジェットとの会話が一段落すると、頭上で無関心を貫いていた喋る烏に声をかけた。

「あれ、もしかしてオイラに意見を求めたの?
 でもオイラ、男の声なんか全然頭の中に入ってこないからさ。アレンビーがその可愛い声でもう一度聞かせておくれよ」

はぁ……と、アレンビーは何度目になるかわからない溜息をつく。こんなにも面倒くさいのなら、いっそ無視すればと決め込みたいところだが、
今は鳥の足も借りたいところなので渋々ながら説明を繰り返した。

「ジェットさんが言っていた螺旋王の本当の目的って話。螺旋力ってのはあなたも聞いたでしょ」
「さぁてね。鳥頭って言葉があるぐらいだから、オイラ女の子の話以外は……」
「…………焼却炉に放り込んで焼き鳥にしちゃうわよ」
「おぉ、なんと大胆なアプローチか。不肖ながらこのキース、恋の炎にならば喜んでこの身を投げ込みましょう……」
「たまにはあんたも普通に喋りなさいよ!」

いつ終わるとも知れない一人と一羽のやり取りから離れた場所で、残りの一人であるジェットは大きく息を吐いた。
「(……焼き鳥、か)」
そういえば、ここに来てからろくに食事をしていない。
これから長丁場になりそうなことを考えると、スパイクではないがたんぱく質の補給を期待したいところだ。
だがジェットの記憶が確かならば、自身の鞄の中に肉は入ってなかったはずだ。……と。

「魚の肉も……たんぱく質だよな?」

ジェットの両眼が注視するところ、アレンビーの背中には青々とした巨大なブリが背負われていた……。
346: ランチタイムの時間だよ 6/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:21:06 ID:IOnR+U/A(6/11)調 AAS
 ◆ ◆ ◆

「そーだよ忘れてた!」

突然あがったの大声にチェスはびくりと身体を震わせ、ミリアも何事かとそちらを振り返った。
アイザックは二人が自分に注視していることを確認すると、今までに見せたことののないような真剣な口調でそれを口にした。

「……俺達、メシ喰ってねーじゃん」

その発言に、ミリアはまるでこの世の終わりが目の前にやってきたかのような表情を浮かべ絶叫する。

「どうしようアイザック! このままじゃあ、チェス君も私達もみんな餓死しちゃうようっ!」

涙を浮かべひしと抱きつくミリアを受け止めると、アイザックはその涙を拭いながら次の台詞を吐く。

「安心しなミリア。俺達には心強い味方がいるんだぜ」
「……それは?」
「ブリだ!」
「……アイザック。あのアレンビーさんのお友達を食べちゃうんだね」
「ああ。そうだぜミリア。そして、彼は我々の血となり肉となりて我々に宿りその御魂は永延と受け継がれるんだ」
「リサイクルだね〜、循環社会だね〜!」

という訳で。と、ピタリと直立するアイザックとミリア。

「じゃあ、ミリアはアレンビーさん達とブリさんをここまで呼んできてくれ。
 俺はその間に、みんなで楽しく食事ができるよう見晴らしのイイ場所を探しとく。」
「OK。アイザック! みんなで野原にマットをひいて楽しいランチタイムだね♪」

言い終わるが早いか、ミリアはドレスの裾を翻し安全メットを小刻みに揺らしながらゴミ山の向こう側へと消えていってしまった。
後に残ったのは、ミリアが消えた先へ未だ爽やかな視線を送るアイザックと、呆然とし目が点になっているチェスの二人のみ。

 ◆ ◆ ◆

「じゃあさチェス君、一緒に見晴らしのいい場所を探そうか!」

そう言いながらザクザクとゴミ山を登るアイザックに、チェスは恐る恐るとついて行く。
目の前の無防備な男は一体何を考えているのか。これは罠なのではないか。そんな気持ちを心の中に渦巻かせながら。
347: 2007/12/03(月) 00:21:46 ID:cclPutuu(5/8)調 AAS

348: ランチタイムの時間だよ 7/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:22:20 ID:IOnR+U/A(7/11)調 AAS
「チェス君さー。アレンビーやあのおじさんに”偽名”を使ったんだって?」

先を行く男から何気なくかけられたその言葉に、チェスの身中にある小さな心臓がドクンと大きな音を立てた。
まるで、その音が外に漏れ聞こえてしまうのが心配だという風に、チェスはその手をそこに当てる。
見上げた先、振り向いた男の表情は日の光が逆光になっているため見ることはできない。

だが、チェスには男が自分を見下ろして薄笑いを浮かべているんじゃないかと思えた。

――よ〜くわかるよ。怖いもんな、俺だって泥……ウ…………時ハ…………。

ドクンドクンとまるで自分の身体がひとつの心臓となったかと思うぐらいに、その音は響き、身体を揺らす。

――だ……ら、チェス君も………………………………だロ…………?

ドクンドクンと一つ音を打つたび、身体が恐怖に引き絞られる。まるで見えない蛇が音を打つたびに絡み付いてくる様に。

――で…………「安心」…………ヨ。…………で、……………………「喰ったら」………………って!

身体を縛り付けていたは恐怖という感情だったが、それを解放したのはそれよりも強い恐怖だった。

「うわああああああああああああああああああ――――っ!」

ゴミ山の上に蕩う濁った空気を切り裂くような絶叫を上げ、まるで手負いの獣かと思えるような様でチェスは突進した。
足場も悪く、チェスは短躯なために速さはそれほどでもない。だが、眼前へと迫る彼の気迫にアイザックは動くことができなかった。
いつの間にかに抜き出されていた短剣を前に構え、弾丸となったチェスはそのままアイザックへとぶつかり――押し倒した。

グシャリと音を立ててゴミの中に埋まったアイザックの上を這い、チェスは彼の頭へと短い右手を伸ばす。
その手がそこに届いた次の瞬間、それは始まった――、

張り付いたチェスの右手から中身を吸い出されているかの様に、アイザックの身体が萎み始める。
最初は手や足の末端部分から、血が肉が骨が吸い取られ残された皮膚が乾いた紙の様にくしゃくしゃになる。
そして中身が吸われた後、残された皮膚も同じ様に右手の中へと吸い取られた。
髪の毛の一本、歯の一本、爪の一枚、何一つ残さずにアイザックという存在をその中へと吸い込んで「喰った」。

その場に残ったのは彼が身に纏っていた衣服と荷物。そして、彼の名前が刻まれた首輪が一つだけだった。
だが、アイザックがここにいたという証であるその首輪も、持ち主が居なくなると重力に従いゴミ山を転がり落ち、何処かへと姿を消した。

そして、残された人間は孤独な不死者であるチェスワフ・メイエルが一人。

彼は思っていた自身は最悪の存在であると。この世で最も汚い物の一つだと。だから、もうどの様な悪行を尽くしても変わらぬと。

だが、信じていた己の最悪よりもまだ邪悪で汚らわしい存在があるということを今此処で彼は知った。

「――――――――――――――――――――――――――!」

自身の魂を内側から切り裂くような無音の絶叫を上げ、チェスワフ・メイエルはただ独り……逃げた。
349: 2007/12/03(月) 00:23:07 ID:cclPutuu(6/8)調 AAS

350: ランチタイムの時間だよ 8/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:23:32 ID:IOnR+U/A(8/11)調 AA×

351: 2007/12/03(月) 00:24:15 ID:cclPutuu(7/8)調 AAS

352: ランチタイムの時間だよ 9/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:24:42 ID:IOnR+U/A(9/11)調 AAS
 [備考]
  ※テッカマンのことをパワードスーツだと思い込んでいます
  ※ティアナについては、名前を聞き出したのみ。その他プロフィールについては知りません
  ※チェス、アレンビー、アイザック&ミリア、キールと情報交換をしました
  ※監視、盗聴されている可能性に気づきました
  しかし、それは何処にでもその可能性があると考えているだけで、首輪に盗聴器があるという考えには至っていません

 【アレンビー・ビアズリー@機動武闘伝Gガンダム】
 [状態]:健康
 [装備]:ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:生きてる)
 [道具]:デイバック、支給品一式、爆弾生物ポルヴォーラ@王ドロボウJING、注射器と各種薬剤
 [思考]
  1:ミリアと一緒にアイザックとチェスを探し、その後みんなでブリを食べる
  2:ポロロッカのことについては、もう一度考え直したい
  3:豪華客船へとゲームに乗っていない人間を集める(高遠の伝言)
  4:悪いヤツは倒す! (悪くなくとも強い人ならばファイトもしてみたい……)

 [備考]
  ※キールロワイアルのアレンビーver.「ノーベルロワイアル」を習得
  ※参加者名簿はまだ確認していない
  ※シュバルツ、東方不敗はすでに亡くなっている人として認識している
  ※ガッシュ、キール、剣持、アイザック&ミリア、ジェットと情報交換をしました
  ※高遠を信用できそうな人物と認識しています

 【キール@王ドロボウJING】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:デイバック、支給品一式、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING
 [思考]
  基本:可愛い女の子についてゆく(現在はアレンビー)
  1:居なくなった男二人を適当に探し、アレンビーと優雅なランチを楽しむ
  2:他のことは……、まぁ、あんまりどうでもいい
  3:女性は口説く! 野郎? 別に興味ない

 [備考]
  ※参加者名簿はまだ確認していない
  ※ガッシュ、キール、剣持、アイザック&ミリア、ジェットと情報交換をしました
  ※高遠を信用できそうな人物と認識しています

 ※アイザックの遺品がゴミ山の中に放置されています
 デイバック、支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師
 カウボーイ風の服とハット、アイザックのパンツ、アイザックの首輪
 アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜3

 ※アイザック&ミリアがゴミ山から掘り出したガラクタは多分ただのガラクタです
353: ランチタイムの時間だよ 10/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:25:51 ID:IOnR+U/A(10/11)調 AAS
 ◆ ◆ ◆

チェスはただ闇雲に走り続けていた。その小さな身体で。何かに追われる様に。何かから逃げる様に。
バクバクと心臓が激しい収縮を繰り返し、全身から汗が噴出し、身体中の筋肉が悲鳴を上げている。

彼は不死者である。歳は負わないし、身体が傷ついてもそれは瞬く間に元通りとなる。
だが、それはあくまでそうであるというだけのことであって、常時の肉体の働きは普通の人間と変わりはない。
疲労が限界を超え筋肉の断絶が起きた時になって、やっと悪魔の定めたルールに基づいて肉体は修復を開始する。

走りながら何度もそれを繰り返したチェスの身体が、糸の切れた操り人形の様にアスファルトへと叩きつけられた。
全身の修復箇所が身体を動かすのに必要な分を超えたからだ。それが修復されるまでの間、チェスは物の様にそこへ横たわる。

冷たい地面に触れて、乱れていたチェスの思考が少しずつ戻ってくる。狂ったままなら楽だったろうにと思っても、否応無しに……。

不死者が不死者を喰うということは、ただその片方に死を齎すという事だけではない。
喰った方が喰われた方の全てを得るということだ。脳の中の記憶だけでなく、身体の覚えた技術、体術までをもだ。
その人間の人生を受け継ぐといっても変わりはない。

そしてチェスは知った。アイザックが――愚かで、無自覚で、それでいて、とても善良な人間であることを。

彼は自身が不死者であることにすら気付いていなかった。それ故に記憶を探ってもどうして彼が不死者だったのかは解らない。
そう――だから、彼が自分を喰らおうとしているということなどは、全て卑小で愚かな自分の妄信だったのだ。
自身の記憶と同じ様に、近い記憶ほど鮮明に読み取れる。彼の最後の記憶は――「これも手品か」――だった。

その愚かさに、チェスの両目から涙が溢れた。とめどなく流れ、筋をつくり、地面にそれは溜まった。

最初に人を「喰った」のはフェルメートという男で、彼は同じ錬金術師であり、保護者であり、また自身を虐げる者であった。
「喰った」のは自衛のためであったが、直後にそうしたことを後悔した。
フェルメートの中にあったモノは己に向けられていた歪んだドス黒い欲望ばかりで、それは己の中に元よりあった
彼を恐れる気持ちと同居し、その身体を裏返しにして吐き出したくなる様な汚く重い膿を心の中に生み出した。
虐げる者と虐げられる者が同居するという、誰にも見られたくない汚らわしい自分。

それを誰にも見られたくないかった小さなチェスは、いつしか自分以外の全ての不死者を喰らおうとまでに思いつめていた。
そして、そんな自分が最悪のものであるという自覚はあったのに――。

穢れていないもの。真っ白なもの。無垢なもの。それらを踏み躙り、己の中に取り込んでしまうことのなんと悲しいことか。
真っ白なものが世界から失われ、自身の中で汚物に侵され黒ずんでいくことのなんと悲しいことか。

身体が再生を終え立てるようになっても、チェスはまだ横になったまま泣いていた。

――ただただ、アイザックがこの世からいなくなったことを嘆いて泣いていた。

 【アイザック・ディアン@BACCANO バッカーノ! 死亡】
354: 2007/12/03(月) 00:26:43 ID:cclPutuu(8/8)調 AAS

355: ランチタイムの時間だよ 11/11  ◆AZWNjKqIBQ 2007/12/03(月) 00:27:01 ID:IOnR+U/A(11/11)調 AAS
 【D-3/市街地/1日目-昼(放送直前)】

 【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ!】
 [状態]:健康
 [装備]:アゾット剣@Fate/stay night
 [道具]:デイバック、支給品一式、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
 [思考]
  基本:最後の一人になる。または、何らかの方法で脱出する
  0:ミリア達とは会いたくない
  1:…………………………

 [備考]
  ※アイザック・ディアンを「喰って」その知識や技能を得ました
  ※ミリアが不死者であることには気付いていません
  ※なつきにはドモン・カッシュと名乗っています
  ※不死者に対する制限(致命傷を負ったら絶命する)には気付いていません
  ※チェスが目撃したのはシモンの死に泣く舞衣のみ。ウルフウッドの姿は確認していません
  ※ジェット、アイザック&ミリア、アレンビー、キールと情報交換をしました
  ※監視、盗聴されている可能性を教えられました。
  ※無意識の内に急激に進化する文明の利器に惹かれつつあります。
356: 2007/12/03(月) 00:28:31 ID:BODwRXf/(1)調 AAS
フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)

経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。

キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。

キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。

『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。

書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
 携帯からPCに変えるだけでも違います。

--------------------------------------------------------------------------

ここらへんもいらないですね
357: 2007/12/03(月) 00:36:21 ID:eGl9PTCN(1)調 AA×

358: 2007/12/03(月) 00:43:05 ID:pCMJRTvp(1)調 AAS
外部リンク[html]:keiyasuda.ddo.jp

2ちゃんねる板対抗バトルロワイアルの遊び方
        キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

0)2ちゃんねる板対抗バトルロワイアルとは

板対抗潰し合いゲームです。  (*´д`*)ハァハァ
1)2ちゃんねる板対抗バトルロワイアルの目的

数ある2ちゃんねるの板を戦争でぶっ潰して頂点に立とうって言うゲームです(・∀・)
はっきり言ってよそのバトロワとはスクリプトは同じでも、やってる連中の脳みそは違うので
「バトロワとは(ry」とか言い出して厨房扱いされないように
2)2ちゃんねる板対抗バトルロワイアルの参加条件&禁止行為
2ちゃんねらーなら誰でも参加汁!
だけど荒らし君は勘弁な。
んで、初心者は必ず初心者の方へを読めよ
読まないで教えて君・クレクレ君・厨房扱いされたよヽ(`Д´)ノウワーンって言ってもおいらは知らないぞ

荒らされるスレッドはsage進行した方がいいけど、サブ板にある避難スレはガンガン上げていいよ。
んで、避難所じゃなくて本板にスレがあるけど、参加者を増やしてえよって言う場合は・・・
まああくまで軍の判断でよろしく。
スレを上げてなにかあってもおいらのせいにしちゃいやずら( ̄ー ̄)
それと参加する軍の板は必ず見ること。コレ大事、テストに出るよ。

スタキラ(スタータに攻撃はできない)は駄目。F5の連打や過剰なリロード禁止、負荷厨は自動的にアク禁。
多重登録、チート行為をすること聞くこと教えることは禁止。
行動記録荒らしもいやずら。
敵だろうが味方だろうが参加板のスレッドは荒らすな、正々堂々とゲームでヌッ殺しあえ!
裏切り行為= 自軍等のキャラに対して攻撃。
スパイ行為= 他軍で入り作戦内容等を自軍に報告。
その他、他人を不快にさせる行為に対しては厳しく取り締まります。
こういうことしたやつらははクビチョンパ→アク禁→接続業者に報告→友達のスーパーハカーに(ry
連続リロードによるアク禁解除はオフィシャルページから。

             ■                ■                 ■

そんなことよりこれ、どう思う?
359: 2007/12/03(月) 00:50:21 ID:pvQtBXfL(1)調 AAS
>はっきり言ってよそのバトロワとはスクリプトは同じでも、やってる連中の脳みそは違うので
>「バトロワとは(ry」とか言い出して厨房扱いされないように

>はっきり言ってよそのバトロワとはスクリプトは同じでも、やってる連中の脳みそは違うので
>「バトロワとは(ry」とか言い出して厨房扱いされないように

>はっきり言ってよそのバトロワとはスクリプトは同じでも、やってる連中の脳みそは違うので
>「バトロワとは(ry」とか言い出して厨房扱いされないように

>はっきり言ってよそのバトロワとはスクリプトは同じでも、やってる連中の脳みそは違うので
>「バトロワとは(ry」とか言い出して厨房扱いされないように

おいwwwwww
360: 2007/12/03(月) 01:24:57 ID:DTWLnPI7(1)調 AAS
したらば厨どもめ
外にとびだしやがったな
361: 2007/12/03(月) 23:11:28 ID:BnAwu2aW(1)調 AAS
そのバトロワ、面白そうだな
362: 奪え、全て、その手で 1/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:35:21 ID:f25l5XK/(1/10)調 AAS
 アルベルトは不死の少女を小脇に抱えながら、ある場所を目指して走っていた。

 ――放送まであと数十分といったところか。

 アルベルトは、軽い苛立ちを積もらせていた。
 伝言が思うように伝わらないことから、アルベルトは別の手立てを考える必要があった。
 しかし、これといったものが考え付かなかったのだ。
 十傑衆の一人としてどうかと思ったが、そもそも初めの段階で最良と考えたのが伝言なのだ。
 その伝言と比べると、どれもこれも最良とは言いがたいものばかりになってしまう。
 どうも手詰まりな感触に、アルベルトがさらに苛立つと――目的の建物が見えた。

 「ふん、あれか」
 「え?」
 「黙っていろ、舌を噛み千切るぞ」

 アルベルトは声に反応した少女に、素っ気なく注意しておく。
 そして――アルベルトは、その場に急停止した。

 「ぐがはっ!」

 アルベルトの抱えた少女が、いささか下品な悲鳴を上げる。
 少女はアルベルトの注意を聞かなかったのか――というより、理解できなかったのだろう。
 慣性の法則というものがある。移動しているものはずっと移動しており、静止しているものはずっと静止しているという法則だ。
 少女もバスが急停車する時になど、その法則を実感することがある。
 少女は慣性の法則通りに進行方向に引っ張られ――胴体はアルベルトの腕でがっちり固定されているため、体が引き千切られそうな痛みに襲われたのだ。
 車以上の速度で駆け、人を握りつぶすぐらい朝飯前の腕力である。
 アルベルトとて、相手が不死身でもなければまずやらない。……苛立ち混じりだったのはいささか大人気ないと言うしかないが。

 「……もう……ちょっと、女の子は……労わり、なさいよ」

 息も絶え絶えのかがみの文句を黙殺し、アルベルトは眼前の建物に目をやる。
 まるで城のような建物だ。中央に四角形の城塞じみた建物に、左右に中央の四角形よりゆうに二倍の大きさはある塔が繋がっている。
 塔の二倍の大きさというのは縦もそうだが、横にも二倍の大きさなのだ。二かける二で、四倍と言った所か。
 その大きさのせいで、中央の建物がとても小さく見える。
 窓は、どういうわけか一切見当たらない。唯一内部を覗けるのは中央の建物に設けられた自動ドアだけだ。
 さらに自動ドアの上には達筆で書かれた看板が掲げられており、それが唯一その建物の役割を表している。

 私立図書館『超螺旋図書城』

 「断じて図書館には見えん」
 「城ってなんだ、城って」
 二人は思わず突っ込んだ。
363: 奪え、全て、その手で 2/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:36:33 ID:f25l5XK/(2/10)調 AAS
 アルベルトがこの図書館を目指した理由は、割とシンプルなものだ。
 四方八方に散った参加者たちは、おそらく地図上の施設を目的地として行動するはず。
 戴宗もまた、人が集まりそうな場所を目的地として行動しているだろう。
 アルベルトは地図上にある施設をすべてか、あるいは幾つかを回ればいずれ戴宗に出会うだろうと考えたのだ。
 空振りであっても書置きなどの手段があるし、人がいた場合は伝言という手がある。
 ……ただやはりアルベルトは、どうも十傑衆としていささか考えが安直すぎる気がしてならないのだった。

 ■

 
 ガラス張りの自動ドアが開き、アルベルトたちを館内に迎え入れる。
 外観通りかなり大規模な――そして、奇妙な造りだった。
 正面玄関からすぐに貸し出しのためのカウンターがあり、そこから左右に塔へ続く通路がある。
 通路の先には、螺旋状の書架がところ狭しと並べられていた。
 螺旋状の書架はそれ自体が柱として機能しているのか、床から天井まで繋がっている。
 書架の前には螺旋階段が作られており、それを上がって本を取れということだろう。
 螺旋状の書架の隙間には、読書のためと思われる机と椅子が幾つかあった。

 ――変わっているどころか、文字通り捻くれた図書館だな。

 上にある資料を取るためには、馬鹿みたいに高い所まで螺旋階段を上らなくてはならない。
 利用者にとって、わざとらしいほどに不親切な作りとなっている。
 ……もっとも現在この舞台において利用者とは参加者に他ならず、不親切な作りになっているのも頷ける話であるが。

 「本を読んでる暇があったら、他の所に行けということか」
 「は?……痛っ!」
 「そこらで適当に待っておれ。逃げても無駄だとは分かっているだろう」

 少女を床に放り出し、アルベルトは単身で貸し出しカウンターの奥に進む。
 カウンターの奥には、おそらく従業員用の通路が続いていた。

 ■

 アルベルトは、館内に入った時から人の気配を探っていた。
 しかしこれといった反応はなく、後は人が潜んでいそうなのはこの通路しかなかった。
 何者かが――特に戴宗が身を潜めていることを期待していたアルベルトだが、残念なことに期待は外れることとなった。
 通路の奥には会議室や職員用の更衣室など様々な部屋があったが、人が潜んでいるということはなかった。
 階段があり、上がってみたがどこも同じようなものだった。

 ――戦闘が起きた時お荷物にならぬように不死の娘を置いてきたというのに、無駄足か。

 アルベルトの苛立ちはさらに積もる。
 念のため他の参加者たちの書置きなどがないか調べ、アルベルトは最後に『書庫』とプレートに書かれた扉を開いた。
364: 奪え、全て、その手で 3/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:38:02 ID:f25l5XK/(3/10)調 AAS
 書庫は、一般利用者の立ち入りが禁止される資料や文書を保管する倉庫だ。
 本の劣化や損傷を防ぐため、基本的に窓はなく温湿度はほぼ一定に保たれている。
 基本的に希少だったり貴重な資料や文書を保管しているものだが、所詮は螺旋王によって作られた舞台装置。
 そうたいした物はない――そう、アルベルトは思っていた。

 「……これは、ロボットの設計書か」

 『ガンメンの設計図まとめ』。アルベルトが何気なしに手に取った本のタイトルだ。
 特に期待もせず本を開いてみると、そこにあったのはBF団の所有するロボットと並ぶほどのロボットの設計図だったのだ。
 数枚ページをめくり、それから今度は書架にある本のタイトルを凝視していく。
 『獣人の製造法』、『トビダマの原理』、『カテドラル・テラの運用について』、『アンチ・スパイラルに対しての考察』。
 どれもこれも、アルベルトの知らない単語ばかりだ。

 ――惜しい。

 そう、アルベルトは思う。
 これだけの未知の資料だ。持ち帰れば、BF団に取ってどれだけの利益になりえるだろうか?!
 しかし、今はこれだけの資料や文書を持ち運ぶことはできない。この殺し合いの場で、余分な荷物を抱え込む余裕などないからだ。
 そして一刻も早く戴宗との再戦を望むアルベルトに、これだけの資料に目を通す時間はない。
 しかたなくアルベルトは手に持った本だけをデイパックに詰め、書庫を後にすることにした。
 何も焦る必要はない。後々にBF団の力を持って奪取すれがいいだけのことだ。

 ――しかし、これだけの資料を会場に放置しておくだと?
 ――螺旋王とやらはいったい何を考えている?

 ■

 不死者の少女――柊かがみは、ひたすら落ち込んでいた。
 思えば、この殺し合いに参加させられてからいきなり襲われたのは初めてのことだ。
 木津千里との時とは違う。完全に、人を殺すのを躊躇しない襲撃者。
 あっという間に千里とかがみは殺され――かがみだけが、こうして生き残った。

 「いいのよ、別にあんなやつ……」

 不思議と襲撃者の恐怖より、千里が死んだことの方がかがみには重苦しかった。
 かがみはできるだけ、千里の悪いところを思い出すことにした。
 あいつは最低の人間だ。死んでもよかった、数時間だけ一緒にいただけの人間だ。
 そう思わなければ、やっていられなかった。

 『あなたはこう言いたいのでしょう?自分の友達が心配だって』
 『つかささんだけいればなんて言っても、他のお友達のことが気になるのでしょう? 私にはそうとしか聞こえなかったけれど?』
365: 奪え、全て、その手で 4/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:39:06 ID:f25l5XK/(4/10)調 AAS
 「――っ!!」

 激しく頭を振って耳に残る、暖かな千里の言葉を忘れようとする。
 思い出してはいけない。意識してはいけない。でないと、柊かがみは勝ち残ることができない。
 そう思い込まなければ、やっていられなかった。

 つかさが死んだとき時のことを思えば、千里の死んだことなんてどうということはない。
 無理矢理に考えを締めくくり、かがみは今後のことについて考えを巡らせた。
 第一に考えたのは、自分を助け出したズタボロのスーツの男についてだ。

 ――あの男は、不死の能力者は貴重だと言ってたわよね。
 ――そして、貴様のためにやった訳ではないと言った。

 ツンデレ、ということではないだろう。かがみは、不死者である利用するために助けたのだと予想する。
 だけど、いったい何に利用するというのだろう?
 あれこれ考えたものの検討が着かず、かがみは頭を抱えた。
 ――まあ、いいわ。とにかく私を利用するつもりなのは間違いないだろうし……
 だとしたら、自分はどうすべきか。
 立ち向かった所で、不死者である以外は普通の女子高生であるかがみに勝ち目はない。
 逃げたところで、あの脚力だ。間違いなくに追いつかれるだろう。

 ――逆に、あいつを利用する?

 そう悪くない考えだと、かがみは思った。
 あの男が何を考えているかは分からない。けど、あの男は間違いなく強い。
 支給品かアニメのような特殊能力なのかは分からないが、赤と黒の衝撃波をかがみは確かに見ていた。
 あの男を上手く他の参加者たちにぶつければ、自分は楽に勝ち残ることができる。

 ――こなたや、ゆたかちゃんだって……あの男をぶつければ。

 そこまで考えて、かがみは自分に嫌悪を覚えた。

 ――最悪だ、私。

 とにかくその事だけを思考から追い出し、考えを再開させる。
 とりあえず、従順なふりをして男の気を惹いてみよう。話し合えば、あの男を操作する手段が思いつくかもしれない。
 そこまで考えて、かがみは自分があの男を篭絡しようとしているのだと気づいた。
 苦い顔をして、思う。

 ――こなたに知られたら、趣味が良いって言われそうね。

 あの親友なら趣味が悪いとは絶対に言わないと、かがみには確信できた。

 ■
366: 奪え、全て、その手で 5/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:40:26 ID:f25l5XK/(5/10)調 AAS
 とりあえず、待っている間にあの男に好印象を与える策を考えておくべきだ。
 そう思い、かがみはカウンターの辺りを調べることにした。
 何か役に立ちそうなものを見つけてあの男に渡せば、少しぐらい印象は良くなるだろうという考えだ。
 『アイテム渡して好感度UPってやつだね』
 ……なぜかこなたの声が聞こえた気がしたが、幻聴だ。かがみは、無視して調べを進める。

 「……流石にそう簡単に見つかるわけないか」

 特にそれらしい物はなかったため、かがみは男が入っていった通路を覗く。
 どうやら真っ直ぐ行くと裏口と繋がっているようで、それまでの道に幾つか十字路がある。
 ドアは幾つか見受けられ、男が点けていったのか照明の明かりがドアの隙間から漏れている。
 入ってきた時の大きさからして二階か三階ぐらいあるはずだが、ここからでは死角になっているのか階段もエレベーターも見当たらない。
 とりあえず、かがみはすぐ近くにある部屋に入ってみることにした。

 「……休憩所、てところかしら」

 ロッカーに、パイプ椅子と簡素な長机。長机の上には電気ポットと紙コップ、お茶葉にインスタントコーヒー、ティーバックが置かれている。
 それが図書館では一般的なものなのか、図書館について詳しいわけではないかがみには分からない。
 かがみとしては、そこにあるものを使わせてもらうだけだった。

 ■

 「べ、別にあんたのために作った訳じゃないからね!」

 貸し出しカウンターに戻ってきた男を、かがみはそう言って出迎えた。
 かがみは近くの読書スペースに座っており、机の上には自分用に入れた紅茶にと男用に入れたコーヒーが置いてある。
 好感度稼ぎの一つとして入れたのものだが、待っている間になんと声をかけようかと迷い、なんか恋する乙女っぽくないかと自身に邪推を抱き、自分に突っ込みを入れながら結果として出た言葉がそれであった。
 こなたが見たなら、ナイスツンデレと絶賛したことだろう。
 年頃の男たちから見てもおそらく十人中の十人は『可愛い』と称するだろうものだが――残念なことに相手が悪かった。

 「そうか」

 それだけ言い、かがみの対面に座りコーヒーを一口飲む。
 まずい、そう呟くのがかがみに聞こえた。
 て め ぇ。
367: 奪え、全て、その手で 6/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:41:34 ID:f25l5XK/(6/10)調 AAS
 「自己紹介がまだだったな。ワシの名はアルベルトだ」
 「……私の名前は、柊つかさ。……嘘よ、柊かがみ」

 つかさと名乗ったときに、男――アルベルトはかがみを強く睨みつけた。
 かがみは元々すぐに名乗るつもりだったので、あっさりと本名を告げる。
 アルベルトが不死者とは思えなかったが、念のためというやつだ。

 「まあいい、お前は戴宗という男を知っているか?」
 「……いいえ、知らないわ」

 小さく、アルベルトは舌打ちをした。
 かがみは少しビクっとしたが、出来るだけ平静を装う。
 ――戴宗、その人を探してるのかしら?
 幾つか疑問が浮かんだが、今は覚えるだけに留まる。

 「助けてもらった事もあるし、私から知ってることを話すわね」

 一口紅茶を含んで、かがみはこの会場に着てから判明したことを話す。
 会場の端と端が繋がっていることと――不死者についてだ。
 不死者について話すのにはもちろん、打算がある。
 何に利用されるにしろ、デメリットは把握してもらわなければならないからだ。
 偽名が使えないことは、その最もなことだろう。
 またこの会場に他に不死者がいるとすれば、対抗する手段としてかがみ自身が非常に有効なはず。
 そう考え、そのことをアピールするようにかがみは話す。
 そう話は長くなく、かがみは全て話し終える。そして、全てを聞いたアルベルトが少し時間を置いて口を開く。

 「この舞台には『不死の酒』なるものが支給されており、飲んだものは不老不死――不死者となる。
  不死者となったものは同じく不死者となったものに『食われる』他に死ぬ手段はなく、
  そして食った方の不死者は食われた方の不死者の知識と経験を我が物にできる。……そういうことだな?」

 確認するようなアルベルトの言葉に、かがみは頷く。
 ふと、かがみは疑問に思う。確認するにしては、アルベルトが言ったことは不死者のルールの一部だ。
 なぜ、その部分だけを確認するのか?
 かがみの疑問をよそに、アルベルトはゆっくりと口元を釣り上げて言う。

 「その不死の酒、まだ貴様は持っているか?」
 「……いいえ、持ってないわ」

 どこか、薄ら寒いものを感じながらかがみは答える。
 ひょっとしたら瓶に数滴分ぐらい残っているかもしれないが、あえて言うつもりはない。
 不死の酒を求めるということは、不老不死になりたいというのだろうか?
 ならば、そのことを餌に他の参加者たちを襲わせることは出来そうだが……。

 なにか違うと、かがみは思った。
368: 奪え、全て、その手で 7/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:42:36 ID:f25l5XK/(7/10)調 AAS
 アルベルトは、かがみを見ている。まるで物色しているような目だ。
 雄が雌を見るような厭らしさは感じない。ただ、使えるか使えないかを品定めされているような感じだ。
 知らず、かがみは冷や汗を流していた。

 「小娘、貴様はワシを利用しようとしているだろう?」
 「っ!……ええ、そうよ」

 ――見透かされてた!
 けど、まだ取り返しは利く。そう思い、かがみは不敵な笑みを浮かべる。
 ちゃんと考えた通りの表情になっているかは、自信がなかった。

 「なに、お前も気づいていただろう?ワシがお前を利用しようと考えていることに」
 「……ええ、とても分かりやすいセリフだったからね」

 やけに饒舌になったと、かがみは思った。
 喜んでいるのか、焦っているのか、何か考えがあってなのか。まったく分からない。
 とにかく、クールになることをかがみは心がける。

 「最初は、その不死の能力を目当てにお前を助けた。貴重な能力であり、死なぬことからメッセンジャーに仕立て上げようとした。
  しかし、お前の話を聞いてその利用方は随分と変わった」
 「……何?」
 「なに、お膳立てをしてやる。お前にも協力してもらうことになるがな」

 アルベルトは、さも愉快に笑う。
 かがみは、アルベルトから不気味なプレッシャーを感じていた。
 何か、恐ろしいことを要求される。なぜか、そう思った。
 そして、アルベルトは告げる。

 「お前に、螺旋王を食ってもらいたい」

 ■
369: 奪え、全て、その手で 8/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:43:40 ID:f25l5XK/(8/10)調 AAS
 「……螺旋王を食うって……そんな、どうやって!」
 「それはまだ検討がついとらん」
 「何よそれ!」

 かがみの悲鳴じみた言葉に、アルベルトは飄々と答える。

 「なに、まだ情報が足りないだけのことよ」
 「……情報?」
 「そうだ。螺旋王の目的に始まり、この忌々しい首輪に、この舞台のこと。
 それらの情報を集めれば、活路は見出せるかもしれん」
 「……可能性の話でしょう」
 「確かにそうだ。しかし、それを言うならば螺旋王が願いを叶えるというのも可能性の話ではないか?」
 「そ、そうだけど……そもそも、螺旋王が酒を飲んでる保障なんて」
 「飲んでいないなら、飲ませればいい。
 この舞台のどこかにまだ残っているかもしれんし、不老不死となる妙薬を、サンプル一つ残さず参加者に分けるとは考えられん。
 おそらく、螺旋王の根城にまだ残っているはずだ」
 「……」

 かがみの疑問は、アルベルトによってことごとく叩き伏せられる。
 アルベルトの言葉は、あくまで可能性の話だ。
 かがみはそれを理解している。
 しかし――かがみはその可能性に、希望を見出していた。

 かがみの目的は、つかさを生き返らせることだ。
 そのために殺し合いに乗り、螺旋王に願いを叶えてもらうつもりだった。
 しかしアルベルトの言う通り、螺旋王が願いを叶えるかは可能性の話だ。
 なら、どうやって願いを『必ず』叶えるか?

 ――私が、螺旋王を食えば。
 ――願いは、思いのままだ。
 ――つかさを、生き返らせることが出来る。
 ――木津千里だって、生き返らせることが出来るかもしれない。
 ――こなたや、ゆたかちゃんを殺す理由なんかなくなる。

 それに、優勝するためには目の前のアルベルトや千里を殺した襲撃者たちを相手にしなければいけない。
 そう考えると、かがみには螺旋王を食うという手段の方が願いを叶えやすそうな気がした。
 ならば、かがみには拒む理由なんてどこにもない。
 ハッキリとした声で、告げる。

 「利用されてあげるわ。螺旋王は、私が食う」

 ■
370: 奪え、全て、その手で 9/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:45:03 ID:f25l5XK/(9/10)調 AAS
 ――乗り気になったようだな。

 かがみの宣言を聞き、アルベルトは満足げに頷いた。
 どうやらかがみは自分に対するメリットのことで頭が一杯のようで、アルベルトに対するメリットにまで頭が回らないようだ。
 アルベルトに対するメリット――それは、かがみが螺旋王を食うこと。
 正確には、かがみが螺旋王の知識と経験を得ることだ。

 アルベルトは書庫にあった本や、かがみの語った舞台がループしているという話を聞いて確信したことがある。
 螺旋王の持つ技術はBF団と同等か――認めたくないことだが、BF団以上のものである。
 その技術を、BF団が手に入れるにはどうすればいいか?
 螺旋王を直接BF団に連行するという手もあるが、それは難しいと言わざる終えない。
 しかし螺旋王の知識を持った、ただの小娘ならば?
 不死の能力に加え、かがみは最上の土産になるはずだ。

 ――本人が望むのなら、BF団のエージェントにしてやってもいいかもしれんな。

 不死の能力と、螺旋王の知識があるならそれも可能かもしれん。アルベルトは冗談交じりにそう考えた。

 ■

 「さて、取らぬ狸の皮算用はここまでするか」
 「……そうね」

 アルベルトの言葉に、かがみは静かに同意する。
 かがみは若干興奮した心を落ち着けるために、紅茶を一口飲む。
 図書館内の掛けられた時計を見ると、もうじき放送が始まる時刻だった。

 「放送を聞いた後にこれからの方針を話し合う。いいな」
 「あ、それなんだけど。提案があるの」

 なんだ。とアルベルトが眉根を寄せる。
 かがみはそれに構わず、一度深呼吸をする。
 今まで、あえて忘れていたことを思い出したからだ。
 必要なことだから、かがみは思い出した。
 それが自分の心の傷を抉る行為だとは分かっていたが、今はその先に希望があるから。

 「私、同じエリアにいる人間の名前と位置が分かるレーダーと、首輪が落ちている場所を知ってるわ」

 つかさの、首のない死体が横たわっている場所。
 そこに、かがみの希望があった。
 アルベルトが何か口を開こうとした時――ちょうど、放送が始まった。
371: 奪え、全て、その手で 10/10 ◇1sC7CjNPu2 2007/12/04(火) 05:46:17 ID:f25l5XK/(10/10)調 AAS
【B-4/図書館/一日目/昼(放送直前)】

【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
[状態]:疲労中、全身にダメージ、右足に刺し傷(それぞれ消毒液や軟膏・包帯で応急措置済み)、スーツがズダボロ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、シガレットケースと葉巻(葉巻4本使用)、ボイスレコーダー、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、 赤絵の具@王ドロボウJING、
自殺用ロープ@さよなら絶望先生、ガンメンの設計図まとめ、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:
基本方針:納得の行く形で戴宗との決着をつける。
1:戴宗を再び失うことに対する恐れ。そうならないために戴宗を探し、情報を集める
2:複数の施設を回って人がいたら伝言を、いなかったら書置きを残す。メッセージの内容は決まっていません。
3:放送後、かがみの言ったことを確認する
4:かがみに螺旋王を食わせ、BF団に持ち帰る
5:脱出の情報を集める
6:いずれマスターアジアと決着をつける
7:他の参加者と馴れ合うつもりはない
8:脱出不可能の場合はゲームに乗る
[備考]:
※上海電磁ネットワイヤー作戦失敗後からの参加です
※ボイスレコーダーにはなつきによるドモン(と名乗ったチェス)への伝言が記録されていますが、 アルベルトはドモンについて名前しか聞いていません。
※会場のワープを認識

【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、私服に切り傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本方針:つかさのために、もう少し頑張ってみる
1:螺旋王を、食う
2:1の目的のため、レーダーと首輪と不死の酒の入っていた酒瓶を回収する(B-2の観覧車前へ)
3:アルベルトに利用され、利用する
[備考]:
※第一放送を聴きましたが、つかさの名前が呼ばれたということ以外は覚えていません(禁止エリアはB-1のみ認識)
※会場端のワープを認識

【『ガンメンの設計図まとめ』『獣人の製造法』、『トビダマの原理』『カテドラル・テラの運用について』『アンチ・スパイラルに対しての考察』】
 タイトルそのままの書籍の数々。
 その他多くの書籍あり。
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