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326(4): 2010/04/25(日) 18:04:54 ID:ZywIlU3z0(1/5)調 AAS
生モノ注意
タイガードラマ製作スタッフ&中の人の捏造ギャグです。
チーフD→竹地中の人というか、
チーフDは竹地中の人を美しく撮ることに命をかけています。
ちょっと竹地中の人の出演映画ネタバレもあるので注意。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
327: 恐るべき監督たち(1/3) 2010/04/25(日) 18:06:25 ID:ZywIlU3z0(2/5)調 AAS
1
O共「えー、これからディレクター会議を行いまーす」
W鍋・M奈辺「うぃーす」
O共「では、まず『O盛君のうなじをいかにセクシーに撮るか』ということについて、
D同士の見解を一致させておきたいと思います」
M奈辺「・・・・・・」
W鍋「他に話し合うことあると思うんですけど」
O共「もちろん。これは話し合いのとっかかりだよ」
M奈辺「ははは、そりゃそうですよね」
O共「そう。大事なのはうなじだけじゃないんだよ。O盛君のいいところっていうのはね、手、目、腰のライン・・・」
W鍋・M奈辺「・・・・・・」
O共「つまり全身・・・そう、全体だ。映像作品とは全体の調和によって、初めて価値が高まるものだからね」
W鍋「前半は意味わかんないけど、後半の意見には賛成です」
O共「そう。だからこそ、O盛君の撮り方について、意見を一致させておくべきなんだよ。
でないと、竹地の描かれ方に、我々の解釈の相違がそのまま反映されてしまう。
O盛君は製作者の心の鏡のような存在だからね。彼をいかに撮るかで、その人間の本心がわかるんだよ」
M奈辺「じゃあ、O共さんの本心って・・・・」
W鍋「しーっ」
328: 恐るべき監督たち(2/3) 2010/04/25(日) 18:07:07 ID:ZywIlU3z0(3/5)調 AAS
2
W鍋「とにかくさぁ、バンバーンと派手に行こうよ派手に」
O共「O盛君の出てた映画あったじゃない・・・・笑う景観ってやつ・・・・」
M奈辺「うーん、あんまり騒がしくしすぎるのもよくないでしょ」
W鍋「でも、幕末なんだから騒がしいもんだろ?」
O共「・・・・O盛君の撃たれるシーンあったんだよね・・・・俺なら、俺ならもっと色っぽく撮ったのに・・・・」
M奈辺「けど、対象はお茶の間なんですから」
W鍋「だからって、毒にも薬にもならない画じゃつまんないじゃないか」
O共「しかも、後輩から殴られるシーンもあったんだ。そういうのもさ、もっとこう・・・・」
M奈辺「やっぱり、フツーの演出が一番だと思います」
W鍋「でも、どの層を基準にした普通なんだよ」
O共「しかも、M佐湖君と一緒にヤクザに殺されそうになり、そこから絆が生まれるというおいしい設定が・・・・
その設定が完全に死んでいたんだよ! ああああ!」
W鍋・M奈辺「(泣いてる・・・!)」
3
カメラ「W鍋さーん、ちょっとこれ見てくださいよ」
W鍋「ん? どうした」
カメラ「なんかこう、竹地のセクシーショットが撮れたんですけど」
W鍋「あー、これは・・・・・・セクシーだな。なめらかだ。半開きだ。まさに光と影の奇跡だな・・・」
カメラ「で、どうしましょう。本編にはちょっと使えるかどうか微妙っすけど・・・」
W鍋「こういうのはな、持ち主に返すんだよ。O共さーん、O共さーん、いい画取れましたよー」
カメラ「持ち主なんだ・・・・・・」
329: 恐るべき監督たち(3/3) 2010/04/25(日) 18:08:16 ID:ZywIlU3z0(4/5)調 AAS
4
O共「こ、これは・・・」
W鍋「まー、本編にはちょっと使えなそうな画なんですけど」
O共「・・・・・・・・・」
W鍋「ああ、・・・まずかったですか? すいません、勝手にO盛さんのセクシーを撮っちゃって」
O共「・・・・・・・・・」
W鍋「うん、わかってます。こういうのは、O共さんの求めるセクシーじゃないんですよね。
どちらかというとO共さんの求めるセクシーってのは、ストイックというか、
追い詰められた中に発揮される何かであって・・・・」
O共「(ガッ!と手を握る)」
W鍋「!?」
O共「素晴らしい映像だ・・・・ついに君も・・・・この領域に」
W鍋「(うわぁ・・・仲間になったと思われたくないな・・・・)」
5
W鍋「なんか向こう盛り上がってるね」
M奈辺「O盛さんが砂糖君にポッキーを両端から食べるゲームをけしかけてるらしいです」
W鍋「ふーん、和むねえ」
M奈辺「なんか砂糖君も熱くなってるらしいですよ」
W鍋「そりゃまあ、O盛君に舌入れられそうになったら必死になるわな」
M奈辺「いえ、それがフラン使ってやってるせいで、どちらがチョコのついてる端からはじめるかについてのバトルが・・・」
W鍋「譲れよ。O盛が」
330: 恐るべき監督たち(3/3) 2010/04/25(日) 18:08:43 ID:ZywIlU3z0(5/5)調 AAS
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
331: 2010/04/25(日) 22:08:31 ID:/z9Zdb9y0(1)調 AAS
これは酷い
332: 2010/04/25(日) 23:40:52 ID:AjzDbz86O携(1)調 AAS
よしよし、携帯小説HPに帰ろうね……
333: 2010/04/26(月) 00:08:05 ID:q6RHMdoU0(1)調 AAS
>>326
超どストライク!
監督sの掛け合いにニヤつきながら楽しませて頂きました
334: 2010/04/26(月) 00:22:21 ID:+qKJH+3R0(1)調 AAS
>>326
これが小説…だと…?
酷すぎる
335: [sage] 2010/04/26(月) 00:31:51 ID:2lex2dgY0(1)調 AAS
>>326
わいわい会話してる情景が目に浮かぶようでした
チーフDの強すぎる思い入れ、イイです!
336: 2010/04/26(月) 00:41:29 ID:/Je6gXNjP(1)調 AAS
>>317
(6)感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬や、書き手個人への賞賛レスはほどほどに。
作品について語りたいときは保管庫の掲示板か、作品が収録されたページにコメントして下さい。
337: 2010/04/26(月) 01:08:59 ID:FFrZI4lXO携(1)調 AAS
作品はけなされるし
感想は保管庫へ追っ払われるし
最悪だなここ
338(2): 笛と猫 1/6 2010/04/26(月) 02:03:46 ID:SBSewMxT0(1/6)調 AAS
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマから三條×武智。描写は少しあるけどエロくは無いです。多分…
その夜、自分の前に現れたのは一匹の猫だった。
月の光が落ちる、庭に臨む廊下の板の上。
寝つかれず、寝所を出て柱にもたれるように腰を下ろし、手慰みにと吹いていた笛の音が
不意に横合いからの気配を察し、止まる。
向けた視線の先、あったのは闇の中で煌々と輝く二つの目だった。
迷いの黒猫か。
夜の影の中に輪郭を滲ませた、その正体を三條はそんなふうに思う。
けれど無言で見つめる自分の方へ、やがてゆっくりと近づいてきたその毛並みは、月明かりが
射す場所まで出てこれば、驚くほどの真白だと知れた。
ただ染まりやすいその色は今、闇と月光の双方を吸い取り、鈍い錫色の光沢を放っている。
そんな曖昧な色合いは瞬間、自分の脳裏に一人の男を思い出させた。
だからだろう。
「おいで。」
半ば無意識に唇から零れた言葉と、差し出した手。
手招く己に、その時猫は逃げなかった。
それゆえ、ゆるりと近づいてきたその体を静かにすくい上げ、夜着一枚の胸元にそっと抱く。
柔らかな毛並みだった。
優しく撫でれば輝く瞳は心地よさそうに細まり、小さな口からは短な鳴き声が洩れる。
その素直さがまたしても自分の違う記憶に触れる。
思い出す。
彼は自分の前でけして、こんなふうに素直に啼きはしなかった。
339: 笛と猫 2/6 2010/04/26(月) 02:04:55 ID:SBSewMxT0(2/6)調 AAS
彼が初めて自分の館を訪れたのは盛夏の折りだった。
うだるような京の暑さの中まみえたその姿は、質実にもどこかひんやりとした冷気を
帯びているようだった。
土イ左の荒くれ下司200人を束ねる人物としては、想像していたよりはいささか細身の、しかし
時折上げられる瞳の意思の強そうな光にはやはり目を引かれるものがある。
事実彼が退出した後、周りにいた者達は皆、彼を評して黒曜の石のようだと口にした。
しかしそれをあの時自分は、違和感を持って聞いていた。
黒曜の石。
そんな煌びやかにも輝く玉石ではないだろうと。その実はおそらくは泥に塗れたものであろうと。
三條家は土イ左の山宇知家とは縁戚関係にある。それ故に噂ながらにも知っている。
かの国の苛烈なまでの身分に対する偏重を。
そんな中で下級層出身である彼がどのような手を使い、どのようないきさつを経て、藩の実権を
握るまでになったか。
興味は沸いた。それは周りの者達と同様に。
公家の身の悪癖だ。
遥か昔に政り事の実権は武家に奪われ、残されたのは飾りばかりの高い位と、それと引き替えに
そんな武家に頼らねば生きてゆけぬ程の御家の窮乏。
そして傷つけられた自尊心を紛らわす為とばかりに身を浸したのは、恋と呼ぶには面映ゆいほど
誠の無い色事の享楽。
ゆえの、それは彼自身まったく預かり知らぬ所で起きていた自分達の水面下での駆け引きだった。
朝廷への働き掛けを餌に、皆が彼を手元に引き入れようとする。
それは戯れでもあり、退屈しのぎでもあり、中には本気になる者もあり……
そんな中、自分は果たしてどうだったのか。
利害関係上、彼に一番近い位置にいたのは自分だった。
その自負が自分に優越感を持たせ、同時に……焦燥感も与えた。その末での言葉だった。
『今宵、私のもとに』
座を同じにした宴席の最中、酔いで口を滑らせたようにひそりと告げた自分の囁きに、あの時
彼の肩は見間違えようのない程の震えを帯びた。
彼は酒が飲めなかった。その性質は生真面目で、ごまかす事も出来なかった。だから、
『……はっ…』
やがて短く返されたのは、声と言うよりは吐息に近かった。
そしてそれに潜む彼の胸の内の感情は、この時怒りでも侮蔑でもない、ただひたすらの諦めのようだった。
340: 笛と猫 3/6 2010/04/26(月) 02:06:09 ID:SBSewMxT0(3/6)調 AAS
主の意を汲みすぎる使用人と言うのも困りものだと、その夜御簾越しに彼の姿を見留めた時、
自分の脳裏に浮かんだのはそんな言葉だった。
淡い行灯の明かりだけが灯る寝所に、綺麗に身支度を整えられて一人座らされている。
その、こんな時にまでひどく良い姿勢は、いっそ奇妙に可笑しくさえ思えた。
部屋に足を踏み入れれば、それに彼は顔を上げる。
そこに浮かんだ表情には、これまで昼の光の下では見た事が無かった幼さのようなものが一瞬見て取れた。
ほのかな明かりを受けて黒い瞳が揺れる。印象の幼さはそのせいかもしれなかった。
意外さに思わず目を奪われる。
けれどそんな自分から視線を引き剥がすように、その時彼は再び顔を伏せるとそのまま自分の前に
身を折った。
発せられた声。何やら懸命な口調で告げられる。それは今彼が身に纏う夜着について触れていた。
真白く繊細な織りの、それは絹だった。
それについて彼は言った。
下司であるこの身は絹を纏う事は許されない、と。
正直、驚きながらも少しだけ…呆れた。
こんな自分達以外誰もいない秘め事の場でまで、国元の因習の縛りに捕らわれる彼が滑稽にも……
どこか憐れだった。
だからきっと、正面から答えても彼には届かないのだろう。ならばすべて戯れにしてやろうと思った。
『着れぬのやったら、すぐに脱ぎますか?』
静かな慇懃さで、告げた言葉に彼はもう一度顔を上げた。
己でも無意識だろう、その反射的に上げられた瞳には明らかに傷ついた色が見えた。
人は昼の彼を黒曜の石のようだと言った。
しかし今自分の前にいる彼は、触れる事にすら躊躇を覚える柔らかな殻のようだった。
あまりに違う印象に戸惑いが隠せない。それでいて、伸ばす指を止める事も出来なかった。
髪に触れ、頬に触れ、ゆっくりと抱き込むように腕をその肩に回し、引き寄せる。
それに彼は一瞬硬く身を強張らせた。けれど結局はそれも頬を埋めた肩先、ひそりと零された
吐息と共に弛緩する。
伝わってくる彼の諦めと瞬間胸に覚えた微かな疼き。
それが痛みだったのだと自分が知るのは、もう少し後の事だった。
341: 笛と猫 4/6 2010/04/26(月) 02:07:17 ID:SBSewMxT0(4/6)調 AAS
何もかもが危うい均衡の上に立っているようだった。
厭うた着物越しに触れただけでその目は堅く閉じられ、その質感ゆえにするりと滑り落ち
露わになった肩口に唇を寄せれば、その呼吸は詰められた。
そのくせその内は熟れていた。
香油を纏わせた指で中を探れば、抱き留めた背筋に小刻みな震えが走る。
傷つけるつもりはなかった。
だから戯れを装いながらゆるく内側を擦り、その身が痛みを覚えぬよう徐々にその数を増やそうとする。
けれど彼はその時、そんな自分の意図を拒絶するように首を横に打ち振った。
『ええです…そんな…』
労わってくれんでも―――
声にならない声までもがはっきりと耳に届いたような気がした。
行為そのものに嫌悪を抱きながら、しかしその肌は触れるほどにその温度を上げ、でも心の芯は
どこまでも潔癖な。
この繋がらなさはどこから生じたのか。
想像はある意味容易かった。
彼の身分とその国の事情を思へば、さもありなんと邪推が出来た。
しかし、だからこそとも思う。
今彼がいるのは彼の国では無い、京だ……自分の手の内だ。だから、
『私が、こうしたいのや』
宥めるように告げた、その言葉に一瞬彼は目を開けた。
信じられないものを見るように、その視線を自分に向け上げてきた。
それは不安定に無防備な、子供のような顔だった。
だからこんな時にそんな表情を浮かべる彼を、自分は刹那、稚くも痛ましく思う。
愛おしいと…想ってしまった。
それから、始め方を間違えたこの抱擁は、与えるばかりのものになった。
遊びでも真実でも、人の恋情には多かれ少なかれ打算が混じる。
気を引き、寵を競い、相手を自分のものにする為に懸命な手を尽くす。
しかし彼には何も無かった。
ただ己が身を貪り食う相手の欲に狂わされ、奪われるばかりだった。
憐れだった。
自分自身が彼を喰らう矛盾を止められないまま、傲慢でも身勝手でも、そう思わずにはいられなかった。
342: 笛と猫 5/6 2010/04/26(月) 02:08:21 ID:SBSewMxT0(5/6)調 AAS
ことりと横で音が聞こえ視線を向ければ、そこには膝から落ち廊下を転がる笛の影が見えた。
胸元に抱かれていた猫がにゃあと鳴く。
それらに物思いに耽りすっかり意識を飛ばしていたと気付き、三條はこの時抱えていた猫を今一度
腕の中深く抱き直すと、もう一方の手を落とした笛へと伸ばした。
拾い上げる、それはあの日吹いていたのと同じ物だった。
視線も言葉も、肌以外何も交わせない情事の後、眠るように気を失った彼を残し自分は寝所を出た。
その手には笛があった。
体にはわだかまる気怠い疲れがあった。それでも寝つける気配は無かった。
それゆえ襖を開け、庭の見える廊下へと下り立ち、その場に腰を下ろす。
そして構える。
笛は三條の家に代々課された家業。幼い頃から手に馴染んでいる。
ゆえの音色はかそけき優美さで夜のしじまを渡った。
どれくらいそんな時間を過ごしたか。
ふいに指の動きが止まったのは、背後に何やら気配を感じたからだった。
振り返る。
そこにはいつの間に目を覚ましたのか、ふらりと立つ彼の影があった。だから、
『起こしてしもたやろうか』
笛を脇に置き、声を掛ければ、しかしそれに返される彼のいらえは無かった。
彼はただ立っていた。光の無い目をして立っていた。
その不安定さが自分の中で言い様の無い焦りを生む。それゆえ、
『こちらに来なさい』
まっすぐに見つめ、差し伸べた手。
それに彼は……静かに足を踏み出した。
一歩一歩近づき、手が重ねられる。それを自分は引いた。
落ちるように崩れたその体を腕の中に抱き留める。
それに彼は抗わなかった。
床の中で長く解けなかった強張りは今は無く、ただ大人しく自分の腕にその身を預けてくる。
その力の抜けた冷えた背を自分は優しく撫でた。
視線を落とす白い夜着は、蒼白い月の光を受けて淡い錫色に染まっているようだった。
それを自分は綺麗だと思う。
だからこの色にしようと思った。
343: 笛と猫 6/6 2010/04/26(月) 02:10:41 ID:SBSewMxT0(6/6)調 AAS
今、朝廷に上奏している幕府への勅使の議が通れば、自分は江戸へと立つ事になるだろう。
それに彼も連れてゆく。
身分を偽らせてでも、側におこう。その為に
着物を用意させる。絹で。
腕の中の動かぬ体を抱きながら、密かに思う。
自分ならば、彼をその身相応に扱ってやれるものを。
しかし彼の心がここに無い事は朧げながらもわかっていた。
孤高で、不安定で、人の手に怯えて……それでいて人の手に馴染み、その中でしか眠れない。
だからそのいびつさを埋める為に、彼は今夜も誰かの腕の中にいるのだろう。
それはまるで罰でも受けるように……
手が背を撫でる。
自分が今触れるのは、彼ではない、温かくも柔らかな毛並み。
それに密かな声が零れ落ちた。
「今夜は、おまえがここにいておくれ」
彼の、武智の代わりに―――
猫は妖しに近い獣だと言う。
だから言葉を解する事が出来るのだろうか。
腕の中で上がる瞳。
それは自分と目が合った瞬間、人と聞き間違う声で、鳴いた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
三條様に癒しを求めるあまり夢を見過ぎてる自覚はあるw
専スレで家業を教えて下さった姐さん、ありがとうございました。
344: 2010/04/26(月) 11:50:26 ID:9G0jwrp70(1)調 AAS
>>326
小ネタ、いいね!
某ネタスレでも書いてた方かな
チーフD最萌えの自分には嬉しい…
>>338
待ってました参上さん
離れられなくなる位優しくしてやって!
345: 2010/04/26(月) 17:52:47 ID:E6GPK4s4O携(1)調 AAS
>>338
参上様きたー読みたかったので嬉しいです
やっと先生に優しくしてくれるお方が…それなのに矛盾だらけでやっぱり痛々しい先生に萌えました!
もしかして以前にも投下してくれたのと同じ人かな…?
姐さんの文章と先生受すごく好きです
346(1): 春の夢 1/4 2010/04/26(月) 20:58:15 ID:FIP/a4FQO携(1/4)調 AAS
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
俺屍
男主人公・菊人
日常のひとこま。
性描写はありません。
主人公の性格捏造してますので苦手な人は気を付けて下さい。
「今年でこの桜も見納めかァ」
中庭の桜を見上げながら、男がしみじみと口にした。そっと木の幹に触れて、撫でる。幹のざらりとした感触が皮膚の上を過ぎていった。
「なあ菊人、お前は来年も見られていいよなあ」
妬みや、不満でなく、本当に羨ましいといった風に男は言う。子供のような純粋さで。
「……何が羨ましいんだか」
彼はまだ生まれてから一年少ししか経っていない。
短命の呪い。彼の一族にかけられた呪いは、異様な成長速度と、あまりにも短い寿命をもたらした。四季を経てようやく次の年を迎えたあたり、来年を迎える前に彼らは死ぬ。
「人間様はキミみたいに桜をありがたがるけどさ、何がそんなに良いんだかねェ。
僕にはサッパリわかんないや、春にはぞろぞろ行列引き連れて宴会、酒飲んで酔っ払って、騒いで歌って……まっ、祭り好きな君たちの事だ、そういう乱痴気騒ぎが好きなのは分かるけどサ」
「菊人は桜が嫌いか?」
菊人はさぁね、と誤魔化すように笑ってみせた。
「考えたこともなかったなそんな事。ああ、花びらが地面に散らばって踏まれてンのはみすぼらしいと思うけど」
「そうかあ、俺は好きなんだけどなあ……」
はらはらと花弁が男の肩に舞い落ちる。男は肩に視線を移し、そっと拾いあげた。
347: 春の夢 2/4 2010/04/26(月) 21:00:45 ID:FIP/a4FQO携(2/4)調 AAS
「ほら、見てみろよ綺麗だろ?」
「ふぅん、綺麗だから好きなんだ」
「ああ。綺麗なものは好きだ、花も女も……お前もな」
菊人が馬鹿にしたような視線を男に向け、鼻で笑い飛ばした。
「はぁ?! なあに言ってんだか、とうとうモウロクしちゃった?」
「死期は近ェだろうけどよ、そこまでボケてねぇよ。この通りピンピンしてらあ」
死期が近い。冗談めかした台詞にある鋭さに、菊人は一瞬返事を躊躇った。
「それじゃあ春に毒されでもしたんだろ」
「ハハ、相変わらずきっついな」
菊人は桜に近づく。男の隣に並んで、空を仰ぐ。
「俺もさ、前はそんなに好きじゃなかったんだよ桜って。
すぐ散っちまうし、縁起悪いだろ。
でもさぁ、最初に咲いた桜が散ってよ、夏になって……葉桜になって秋になって……でさあ、冬になって待ってるうちに、待ち遠しくなってる自分がいて……あ、俺って桜好きなんだって気付いたわけさ」
「ふぅん。割とどうでもいいね」
「ひでぇなお前。人が真剣に話してんのに……」
「ハハハッ、悪い悪い」
菊人は桜を見た。男が「縁起悪い」と言った通りにすぐ散ってしまう儚い花。
男が不吉を感じたのは、おそらく花に人の生を重ねたからだろうと思った。
永劫を生きる神からしてみれば人間の生は米粒のようなもの。その刹那の生を、咲き誇ろうと藻掻きあらがい、消えていく。
人はあまりにも脆く弱い。
だからこそ、この男を見ていると思うのかもしれない。
「もし、君たちが、朱点を倒して君たちと僕の呪いが解けたらさ、花見に行こう」
人に秘められた可能性を。
神の力だけでは為しえない奇跡。
神と人が交じりて子を産した時、その子は神をも超えし力を持つという。
348: 春の夢 3/4 2010/04/26(月) 21:05:03 ID:FIP/a4FQO携(3/4)調 AAS
「僕、いい庭を知ってるんだ。紅い華が咲いてそりゃあ目も眩むほど美しいんだから……」
男は返事をしなかった。
菊人の言葉を聞いて、目尻を緩ませうっすらと微笑んだだけだった。
来年も桜は咲くだろう。
その頃、自分はいない、と。
聡いからこそ、彼は自分の行く末を知っていた。
菊人は歯噛みする。本当に憎たらしい。せめてもう少し愚鈍であったなら、甘い夢に酔わせ続けてやれたものを。
「……だからおいで。僕を殺しに」
自分以外には誰にも聞こえないように囁くと、「何か言ったか」と肩に声が降りてきた。
「ううん、何でもないサ、ちょっとね、他愛いない独り言だよ」
「そっか、それならいいんだかな。なあ菊人」
「ん?」
振り返る。御天道様みたいにカラッと晴れた顔がそこにあった。
「案内、楽しみにしてるな。お前と見る花は綺麗だろうから。ああ、そん為にも朱点を討たないとなあ」
「だっらしないなァ、面倒臭そうにしてさ、嫌なのかい?」
「いやあ、そんなことはねェけど。だってよ、朱点を倒したら、お前元の姿に戻れんだろ?」
まさかそれを言われるとは夢にも思っていなかったので、返答が遅れた。
「え?……ああ、ウン」
今一度向けられた視線は菊人をしっかと捉えて離さない。
「だったら張り切らねえとな」
349: 春の夢 4/4 2010/04/26(月) 21:10:01 ID:FIP/a4FQO携(4/4)調 AAS
菊人はそこで初めて知った。
この男は。
この風変わりな男は。
「死ぬ前によ、一度くらいは好きな奴の手に触りてぇじゃねえか」
己の為でも、一族の悲願の為でもなく。
「……我が儘」
「我が儘で悪かったな」
ただ自分が肉体を取り戻せるようにと戦おうとしていることを。
なんて……愚かな奴だ。
家族より血族より、恋した相手をとるなんて。
「ご先祖様が見たら鼻水垂らして泣いちゃうかもね」
「泣かしとけ泣かしとけ。男の人生は一度きり、誰の為に闘うも生きるも、そして死ぬのも全て俺が決めるさ。なあ菊人、今日は随分と暖かいな……なんだか眠くなっちまうぜ、ははっ」
男はゆっくりと瞼を伏せ寝息を立て始める。
声はぬくもりを宿してそこに留まり続ける。
「桜か……ま、悪くない、ね」
半透明の肉体――触れることができず、温かみの通わないはずの身体に、春が滲んだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
350: 2010/04/26(月) 21:19:25 ID:bwwPneTV0(1)調 AAS
>>346
リアルタイムでご馳走様でした。
このゲームに限り、性格捏造ってことはないですよ。
まちがいなく他の誰でもない「彼」がプレイ内に存在していたとおもいます。
良ゲーの良レポをありがとうございます。
351(2): 「俺たちの季節」 0/3 2010/04/27(火) 01:40:52 ID:h3fH79pF0(1/4)調 AAS
SilverSoul(和訳)劇場版より 銀×ヅラ
エロ無しの駄文で失礼します。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
352: 「俺たちの季節」 1/3 2010/04/27(火) 01:43:06 ID:h3fH79pF0(2/4)調 AAS
戦場と化した高杉の船から、無事に脱出できた銀時と桂だったが
パラシュートが風に流されて、海の上に落ちてしまった。
なんとか岸まで泳ぎ着いた頃には、もう日も落ちて
うらぶれた海岸には、小さな街灯が遠くに灯るだけで
辺りは人影もなく、ひっそりと静まりかえっていた。
「・・ったく、もうちょっとマシなやり方はなかったのかよっ!」
ざばざばと波を蹴って、海から上がってきた銀時が
濡れた銀髪をかき上げながら毒づくと
「どさくさで俺にくっついて来たくせに、文句を言うな」
こちらも、濡れて頬に張り付く黒髪を耳の後ろへなで付けながら、桂が返す。
「へーへー、どうもすいませんでした。・・ってか、ココどこだよっ!」
周りを見渡しても、見覚えのない景色ばかりで、銀時が焦りだす。
「随分流されたからな、まぁ、心配はいらん。
どこに居ようと、エリザベスが迎えに来てくれる」
いつもと変わらず鷹揚とした桂の態度に、銀時は仄かな期待を込めて尋ねた。
「え?なに?お前、からくり嫌いのくせにケータイとか持ってんの?GPSとかGTOとかそういうの?」
「いや。気配で」
「は?」
「エリザベスは、俺の気配が分かるらしい」
「あー・・・そうですか」
『んなワケねえっ!』と心の中だけで突っ込んで、銀時は不毛になりそうな会話を打ち切った。
353: 「俺たちの季節」 2/3 2010/04/27(火) 01:46:45 ID:h3fH79pF0(3/4)調 AAS
とにもかくにも、このずぶ濡れの着物をなんとかしようと、二人は近くの松林まで歩いた。
そこで、重くなるほどに海水を含んだ着物をやっと脱いで、両手で絞ると、手近な枝に干し掛けた。
銀時が、脱いだブーツを逆さにして、中の海水を振り絞っていると
ふと傍らの、夜目にも白い肢体が目に入った。
月光の下、白く浮かぶ艶やかな肌。
そこには不似合いな赤黒い傷が、一筋貼りついていた。
「それは、紅桜に、やられた跡か?」
岡田に、とは言いたくなかった。
銀時の脳裏に、桂の黒髪に頬ずる岡田のにやけ顔が甦る。
胃の辺りがきりきりと痛んだ。
「ああ」
傷の主は、さして気にする風もなく、そう一言頷いただけだった。
「見事にバッサリいかれちまって。よく死ななかったもんだな!」
不快感を吐き出すように言い放った銀時を、桂は横目でちらりと見やって
すっと視線を足元へと移した。
そこには、刀傷のついた古ぼけた本が、潮風に吹かれて僅かに頁をめくっていた。
「・・・この本のお陰で太刀傷が浅くなった。
もう少し深くやられていれば・・・危なかったろうな」
354: 「俺たちの季節」 3/3 2010/04/27(火) 01:49:42 ID:h3fH79pF0(4/4)調 AAS
ふいに銀時の腕が伸びて、桂を体ごと引き寄せた。
銀髪がふわりと、傷を負った桂の胸に当たる。
「銀時?」
「他人事みたいに言ってんじゃねぇ!俺が、どんなに・・・っ」
桂の胸に顔を埋めた銀時が、言葉を詰まらせる。
傷を気遣うように、桂の背にゆるく回された銀時の両腕が小刻みに震えている。
自分の胸を暖かい滴が伝うのを感じた桂が、驚いたように声をあげる。
「なっ・・泣いているのか?・・・銀時?」
桂の問いに、一息、鼻を啜り上げて、低い声が応えた。
「うそみたいだろ」
「・・・ありえないだろ」
ため息と共にそう呟くと、桂は胸の中の銀髪を
両腕で包み込むように抱きしめた。
「お前が俺の腕の中で泣く日がくるなんてなぁ」
「全くだ・・・ガラじゃねぇ」
ずずっとまた鼻を啜って、銀時が顔を上げた。
「なんとも、情けない面だな、銀時」
「オメーもな。ヅラ」
気付かぬうちに桂も涙目になっていたようだ。
「ヅラじゃない、桂だ」
いつものように返して、桂は優しく笑った。つられたように、銀時も微笑う。
そうして、ゆっくりと、お互いに唇を寄せ合った。
静かに重なる二つの影を、遥か中天に懸かる月だけが見ていた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
なんか中途半端ですいませ…っ! お目汚し、失礼しました。
355(2): キスしてみたい 1/7 2010/04/27(火) 07:56:07 ID:EzFYsspH0(1/7)調 AAS
ナマモノ注意
邦楽バンド原始人ズの唄×六弦
また書いてしまいました。
以前の話と続いています、すみません。
ローカルルールでシリーズ物執筆者はトリップ推奨とありましたが、
今後の予定が未定ですので、とりあえず今回は名無しで失礼します。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
キスしてみたい(あるいは友情と恋情のあいまいな境界)
356: キスしてみたい 2/7 2010/04/27(火) 07:56:41 ID:EzFYsspH0(2/7)調 AAS
最近、俺にはちょっとした悩みがある。
ほんの些細なことさ。お気に入りのレコードに針を落とせば、すぐに頭のすみっこに追いやられてしまうほどの。
例えるならそう、のどに引っかかった魚の小骨みたいなもんだ。
気にはなるけど、別に死にゃしない。
何より大切なことは俺の心の真ん中にどっしりと居座っていて、きっともう、どんな事があってもびくともしない。
大切なことは一つだけ、他はどうだっていい。
だから魚の小骨だって、放っておいたって構やしないんだ。
でも―――、やっぱり、気になるじゃんか。
のどに刺さった小骨って、すごく気持ち悪いじゃんか。
好きな音楽聴いてたって、いつの間にかそのことばっかり考えちゃってるじゃんか。
だから、これって些細な悩みなんかじゃないのかも。
もしかしてすごく重大なことなのかも。
そう認識すると、余計に気になって気になって仕方がない。
どうして―――、なんであのとき俺は、マーツーにキスをしたんだ?
357: キスしてみたい 3/7 2010/04/27(火) 07:57:37 ID:EzFYsspH0(3/7)調 AAS
夜更けのスタジオに2人きり。
一緒に晩メシを食べに出かけたあと、なんとなくまた連れだってスタジオに戻ってきて、そのままだらだらと居残っている。
昼間、ばったり出会ったレコード店で見つけた掘り出し物のレコードは、プレイヤーの上でもう何巡目になるのか。
マーツーはと言えば、お気に入りの1人掛けのソファにすっぽりと収まって読書なんか始めちゃって、完全に長居モードだ。
そして俺は、さっきからそんなマーツーの様子をちらちらと盗み見ていた。
なんでだ。何でこんなことしてんだ俺。
こそこそする必要なんて全然ない。堂々と、思う存分見つめてたっていんだ。俺とマーツーの間にいまさら、変な遠慮なんかないんだから。
マーツーが俺の視線を訝しく思ったとしても、「お前の顔を見ていたいんだ」って正直に言えばいい。そしたらマーツーはきっと「なんだそりゃ」って呆れて笑うだけで、あとは別に気にしないでいてくれる。あいつはそういう男だ。
それなのに、俺はさっきから通学の電車の中で気になる女子を盗み見ている中学生よろしく、数メートル先の男をこっそりと観察している。
バンダナしてないとやっぱり若く見えるなあ、とか、髪の毛ふわふわだなぁ柔らかそうだなぁとか、あ、白髪発見、とか。
伏せた目元に差すまつげの影や、高く繊細に通った鼻筋にドキドキしてみたりだとか。
なんなんだ俺、中学生男子そのまんまじゃないか俺。
そして困ったことに、観察の目が行きつく先は、常にマーツーの口元で。
今はほんの少し口角が上がって、なんだか猫みたいだ。控え目に色づいてる薄い唇。
ドキドキ感が加速する。
……あの唇に、俺はキスしちゃったんだよな……。
毎回毎回、最終的に思考はそこに辿りつく。
そして、思い出すのだ。あの時のことを。
358: キスしてみたい 4/7 2010/04/27(火) 07:58:15 ID:EzFYsspH0(4/7)調 AAS
心を閉ざし、俺から離れていこうとしていたマーツーが、もう一度俺の手をとってくれた時。
マーシーの望みが、俺と同じ「ずっと一緒にロックンロールをやっていきたい」ってことだと分かったあの時、
俺は嬉しさのあまりマーシーに抱きついて、顔中にキスの雨を降らせていた。
喜びが、あいつへの愛しさが濁流のように俺の心に渦巻いて、そうやって表現でもしなきゃいてもたってもいられなかったんだ。
マーツーはそんな俺の行動を黙って受け入れて、優しく俺の背中を撫でてくれた。
そして、笑ったんだ。穏やかに、目を閉じて。
それはとても満ち足りた、幸せそうな顔だと、俺には見えたんだ。
衝動的に俺は、マーツーの唇を塞いでいた。
その上、突然のことでガードのゆるかった歯列を割って、俺はマーツーの口の中に舌まで差し入れていた。
さすがに俺を押しのけて、非難の声を上げたマーツー。
けれど、言い訳にもならない俺の弁明を聞いて、ため息をひとつ、それだけで俺のしでかしたことを、あっさり水に流してしまったのだ。
キスされたのに。男にキスされて、舌まで入れられたと言うのに。
加害者(?)の俺が言うのもなんだが、ちょっと能天気すぎるこの対応。
真縞昌俊とは、そういう男だ。
359: キスしてみたい 5/7 2010/04/27(火) 07:58:58 ID:EzFYsspH0(5/7)調 AAS
その後は何もなかったみたいに、以前の俺たちのまま。
むしろ以前より更に関係は良くなったのかもしれない。
マーツーは前みたいに―――、それ以上にリラックスしてよく笑うようになったし、俺はそんなマーツーの笑顔で幸せな気持ちになる。エネルギーを貰ってる。
新しく始める俺たちのバンドはそりゃもういい感じで、日々、スタジオに来ることが楽しくて仕方なくて。
わくわくとした毎日。
万事が順調だ。
ただひとつ、俺の心に引っかかる「魚の骨」を除いては。
ささいなことなのかもしれない。
嬉しくて、テンションが上がってつい、勢いでしてしまったこと。ライブ中に脱いじゃうのと同じレベルの出来事。マーツーだってすっかり忘れてくれている。
でも俺は―――、忘れられなかった。
ささいな出来事だって思い込もうとして、でもできなくて、こんなにもぐるぐる悩んでる。
360: キスしてみたい 6/7 2010/04/27(火) 08:00:37 ID:EzFYsspH0(6/7)調 AAS
あのときだって、本当はものすごく動揺してたんだ。
衝動的に友情の範囲を超えたキスをしてしまった俺を、少し赤い顔をしたマーツーが非難の目で見つめていたあの時。
笑ってごまかしてみせながら、俺の心臓はドキドキと暴れ出しそうだった。
だって、俺にとってはキスは重要なことだもん。特別な人としかキスはしたくないんだもん。
こう見えても俺は慎み深いんだ―――、ライブ中に全裸になったりはするけれど。
だから、あんなにあっさりと無かったことにされても、それはそれで困るんだ。
何にも気にしてないって態度に、正直ヘコんでたりするんだぜ。
なあ、マーツー、お前、なに考えてる?
それ以前に、俺は――、俺自身のこの気持ちの正体は、一体何なんだろう…?
俺はマーツーと一緒にいると安心する。
楽しくて、ふわふわとした、幸せな気持ちになる。
ドキドキしたりもする。
そして―――、キス、したくなる。
中学生男子と、同級生の女の子なんていう2人だったら、簡単に説明ができるその感情。
でも俺たちはそうじゃない。40をとうに過ぎたオッサンと、その長年の相棒。
ありえない。
マーツーは大切で、かけがえのない存在だけれど、だからこそ、簡潔な“あの単語”ひと言で俺の気持ちが表現できるわけがない。
でも――、だったら、青臭くて甘酸っぱい、このドキドキの正体はなんなんだ?
361: キスしてみたい 7/7 2010/04/27(火) 08:01:35 ID:EzFYsspH0(7/7)調 AAS
こんな状態で俺の思考は堂々巡りを続けていて、今この部屋にかかっているレコードと同じだ。ぐるぐる考え続けて、もう何巡目なんだろう?
スーヅー・クア卜口のライブ盤は何べん聴いたって最高だけど、こうやって思い悩むのは、正直もう飽き飽きなんだ。
「……………」
俺は大きく息を吐きだした。それは、決意のため息だ。
うだうだと考え込んでたって仕方ない、何にも変わりゃしないんだから。
思い切って行動するしかないんだ。このままじゃ嫌だから。
――そしてこんなにも俺はいま、マーツーにキスしてみたいんだから。
もう一度あの感じを確かめてみようと思う。そしたらきっと分かるはず。
マーツーとするキスの意味が。
俺の中で苦しいほどに存在を主張している、この感情の正体が。
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
10レス超えてしまうので、ここで区切ります。
長々とすみません。
362: 2010/04/27(火) 09:37:34 ID:U561mAp70(1)調 AAS
>>351
なんとタイムリーな!ありがとうございます!
EDの歌詞の使い所がいいと思いました
363: キスしてみたい 1/6 2010/04/27(火) 13:34:49 ID:FJP9bEts0(1/6)調 AAS
>>355の続きです。ナマモノ注意
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「ねえ、マーツー」
意を決して呼びかけると、「なーにー?」と間延びした声が返ってきた。
それでも目線は広げた本に向けられたまま、どうにもこちらを向いてくれそうにない。
仕方ないので俺は、とりあえず読書に夢中な俺の相棒の元へ近寄って行った。
ソファに座るマーツーの前に立つと、「どうかした?」とでも言いたげな無言の上目づかい。その仕草に、心臓をキュッと鷲づかみにされる。
高まる緊張。なんて陳腐で古典的な、俺のこの反応。
どこか冷静な部分が内心で苦笑いしているのを感じながら、俺は気持ちを落ちつけようと、2度3度大きく呼吸をした。
そして、まっすぐにマーツーの目を見て言った。
「ねえ、キスしてもいい?」
言った。言っちまったよ。
ずいぶん唐突な話だ。ムードなんて皆無、不自然極まりないって、我ながら思う。
だってフランス映画みたいに、いいムードに持ってって自然な流れでキスするなんて芸当、俺にはぜったいに無理。
だから潔く直球勝負で行くしかないんだ。びっくりして目をまんまるくさせているこいつには、不意打ちかけたみたいで悪いなぁとは思うけど。
いつもは少し眠たげな目をめいっぱい見開いて俺を凝視しているマーツーは、まるで人に馴れない猫のよう。息をひそめてこちらの様子を窺っている。
悪意はないんだよ、と俺はマーツーに目で訴えかけた。
別にからかってるわけじゃないんだ。そして、強要するつもりもないんだ。
お前がどんな対応をしたって、俺はがっかりしたりしないよ。
俺たちの関係は何にも変わったりしない、そうだろう?
364: キスしてみたい 2/6 2010/04/27(火) 13:37:59 ID:FJP9bEts0(2/6)調 AAS
だから、そんなに警戒しないでくれ――――。
そんな俺の想いを読み取ってくれたのかは分からない。
しばらくひたと俺の目を見つめていたマーツーは、ふ、と短い息を吐き出して、いつものようなのんびりとした口調で言った。
「……いいよ」
こんなにあっさりOKをもらえるとは思わなかった。
少し拍子抜けした気持ちでマーツーの目を覗きこむと、見返すまなざしが、ほんの少し強いものになって。
「でも、舌、入れるのは……、だめ」
「…………………………」
そんなとんでもないことを、いたずらを嗜めるみたいな「めっ」って顔をしながらさ、舌足らずのあどけない口調で言っちゃって、おまえは俺をどうしたいの…?
……そしてまたこれがほぼ100%天然なんだから、余計たちが悪い。
ほんっと、真縞昌俊という男の生態は、未だ謎に包まれている部分が多いよなぁ……。
なんだかもう色々な意味で腰が砕けそうになりながら、それでも俺はとりあえず、マーツーに神妙な顔をして頷いて見せた。
「分かった」と。
365: キスしてみたい 3/6 2010/04/27(火) 13:39:23 ID:FJP9bEts0(3/6)調 AAS
「うん、じゃあ約束だからな」
そう言いながら、マーツーがおもむろに立ち上がる。
向うから動かれたことに、俺は驚いた顔をしていたらしい。
怪訝な表情のマーツーが、「座ってた方がいいのか?」と尋ねてくる。
俺はあわてて首を横に振った。
「いや、別に……。返ってありがたい、デス」
「……ソウデスカ」
「………うん、じゃあ…」
「ハイ………」
変に畏まって、ぎくしゃくとした妙な雰囲気。俺はそれを振り払うように咳払いをして、改めて目の前の男と向き合った。
緊張で背筋が伸びる。すると目線が少しマーツーをを見下ろす形になって、そう言や俺の方が背が高かったんだっけ、と再認識。
うつむき気味のマーツーが、ちらりと不安げな視線をよこしてくる。その上目づかいにまたしても心を持ってかれる俺。
やばい、かわいい。心臓飛び出しそう。
俺がみっともなく震えながら細い肩に手を置くと、ピクン、とほんの少しだけマーツーの身体が揺れた。
そして意を決したように顔を仰向かせたマーツーは、「ん、」という短い声と共に目を閉じた。
潔いほど無造作なキスの催促。けれど、俺にはこいつが精いっぱい無理をして、強がって、平気なふりをしているのがよく分かる。
よくよく見れば細かく震えている瞼、緊張に引き結ばれた唇。
全てがかわいくて、愛しくて仕方がない。
俺は、できうる限りそうっと優しく、マーツーの唇を塞いだ。
366: キスしてみたい 4/6 2010/04/27(火) 13:39:49 ID:FJP9bEts0(4/6)調 AAS
「……ん…」
吐息交じりの声はいったいどっちから出たものなんだろう。
触れ合わせた唇は、べつに甘いなんてことはなくて。
少しかさついた、薄い唇だ。触れていても現実味が薄くて、どこか儚いようなマーツーの唇。
もっと確かな手ごたえを感じたくて、確かにいま、マーツーとキスをしているのだと実感したくて、俺は触れているだけだった唇を深く重ね合わせた。
「……………っ」
おののく身体をぎゅっと抱きしめ、その背中をあやすように撫でさする。
そうすると安心したのか、抱きしめた身体のこわばりが段々と解けていく。
それが嬉しくて、俺の腕の中でリラックスしていくマーツーが愛しくて、この前みたいに、気持ちが溢れだしそうになって。
「…………ふっ…」
悩ましく漏れた吐息と一緒に、引き結ばれていた唇がうすく開かれた。
そうやって無意識なんだろう、マーツーが俺のキスに応えてくれたのが、俺が自制心をあっけなく放り出した直接のきっかけだった。
「……っ、んんっっ!!」
さらに深く重ねた唇、差し入れられた舌。突然激しくなったキスに、当然のことながら驚いたマーツーが抵抗を始める。
けれど俺はその抵抗を許さずに、もがく身体を抑えつけてマーシーの唇を、口内を貪った。
怯えて縮こまる舌をちょん、とつつき、おじゃましますの挨拶をして、並びのいい歯の裏側や、上あごや、口の中の触れられる所を、くまなく差し入れた舌で暴いていく。
押し入った口の中はつるりとして、熱くて、すごく気持ちが良くて。
俺はマーツーとするキスにすっかり夢中になった。
「……ん、ふ……っ、ぅ………」
そうして、長く続くキスで、腕に抱く身体が力を無くしてくったりしてしまうまで。
367: キスしてみたい 5/6 2010/04/27(火) 13:40:24 ID:FJP9bEts0(5/6)調 AAS
名残惜しい気持ちで唇を離して見れば、半開きのマーツーの唇の端からどちらかのものとも分からない唾液がひとすじ垂れている。
それを俺はベロリと舐めとった。
とたん、思い切り突き飛ばされる。
「っ、うわ……っ、と……っ」
大きく体勢を崩して2、3歩後ずさった俺を、マーツーが手の甲で乱暴に唇を拭いながら睨みつけていた。
「お前……っ、約束違反だろ……っっ」
好き勝手しやがって馬鹿野郎、と語気荒く俺を責めるマーツーの、赤みを増した唇、涙をためた瞳、目の周りを染める赤く上った血の色。
たまらない。
俺は、こみ上げる衝動を抑えるように、ごくりと唾を飲み込んだ。
いや、なんかもう、これは、もう……
認めないわけにはいかないな、と髪の毛をかきあげながら俺は思った。
やっぱりこれはさぁ、愛情ってやつだよ、と。
もちろん友情だって感じている。
愛情と言っても家族に感じるそれと同じなんじゃないかと言われたら、それもそうだと俺は頷くだろう。
俺がこの男に抱く想いは今やいろいろなものを内包して、とてつもなく巨大になっていて。
その大きな袋の中に、俺は未知の感情を発見してしまったんだ。
その未知の感情に、たったいま、はっきりとした名前がついたんだ。
368(2): キスしてみたい 6/6 2010/04/27(火) 13:42:25 ID:FJP9bEts0(6/6)調 AAS
俺は、真縞昌俊を愛している。真縞昌利に恋している。
そして―――、どうしようもなく俺はいま、この男に欲情している。
認識してしまえば、すとん、とその感情は俺の心の棚に整理され収まって、我が物顔で激しく主張を始める。
友情に愛情に、欲情まで感じちゃうだなんて、なんてパーフェクトな感情。まったくもって素晴らしいじゃないかと。
早くマーツーと、この感情を共有してみたくはないか、と。
その心の声にそそのかされるように、突き動かされるように。
俺は、妙に晴れやかな気分でマーツーに告げた。
「やっぱり俺さ、マーツーのこと好きだわ」
と。
「だからさ―――――、俺とセックスしてみない?」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
貴重なスペースをどうもありがとうございました。
369: [sage] 2010/04/27(火) 19:20:59 ID:w+PXmnKg0(1)調 AAS
>>368
長編乙です!でもなんという寸止め!!
前回のも今回のも、2人のじれじれした感じやまっすぐなかんじに禿萌えました
もし良ければ、続き、お願いします。
370: 音→日 0/5 2010/04/27(火) 22:46:08 ID:ZhRu8l+yO携(1/7)調 AAS
今期アニメ・Angel Beats!より。4話後を音無視点で捏造
音無→日向止まりです
二人に萌えが抑えきれない今日この頃
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
371: 音→日 1/5 2010/04/27(火) 22:51:50 ID:ZhRu8l+yO携(2/7)調 AAS
空の眩しさに、打ち上がった白球が溶けて見失いそうになる。
彼の目がその行方を捉えきれていたのかはわからない。
けれど、掲げたグローブにボールが吸い込まれていくのがフラッシュバックした瞬間、俺は叫んでいた。
たとえ届かないとしても、走らずにはいられなかった。
「あーあ。優勝目前だったのになー」
「チーム結成すら無理そうな状況からよくやったよ」
「ほんと、人望の差が歴然でしたからねっ!」
「黙れチビレスラー」
「なんですってえぇ!」
グラウンドを後にする道の途中、後ろから日向に肩を引き寄せられた俺は、されるがまま、引きずられるように歩いている。
過剰スキンシップにもそろそろ慣れてきた。端からは間に合わせピッチャーの奮戦を労っているようにも見えるだろうか。
負け試合だったのに、日向はいつもと変わらないどころかそれ以上に、人好きのするまっすぐな笑顔を隠しもせずに向けてくる。
敗北に貢献したユイも相変わらず賑やかだ。こんなことを言ったら容赦なく関節を決められそうだが、
同じレベルでいじり倒し合える日向をわりと気に入ってそうな感じがする。
俺はというと、きっとどこかばつが悪いような、照れくささと安堵が混じったような、よくわからない表情をしていると思う。
「おまえなんてこうだっ」
「いでっ!」
ものすごい音がして、ブーツを履いたユイの渾身のローが無防備な日向の膝下に入った。
「わ」
肩を組まれているから、当然崩れる日向と一緒に沈みそうになる。腰を掴んで体重を支えた。なんとか転倒は避けられた。
俺にぶら下がった状態で日向が背を震わせている。
「大丈夫か?」
「あのアマ……」
ユイは、汗臭い野郎二人がべたべたあつくるしいんだよ! と俺を巻き込んだ捨て台詞を吐き、親衛隊の女の子達の輪へと駆けていった。
最後尾の俺達にきゃんきゃんくっついて歩くのも飽きたんだろう。
でも俺は、彼女に内心ものすごく感謝していた。
あの時ユイが日向に―――。
でも、日向への仕打ちを考えると礼を口にするのもなんとなく憚られて、そのことは黙っていた。
372: 音→日 2/5 2010/04/27(火) 22:56:36 ID:ZhRu8l+yO携(3/7)調 AAS
俺達は、死んだ世界戦線という妙な組織に所属している。
ここは死後の世界で、仲間はみんな死んだ連中。
しかも、俺には生きてた頃の記憶がなく、死んだ理由さえわからない。
現世で自分がどんな人間だったかは知らないが、免許もなしに銃火器を使うことになるとは想定していなかったと思う。
それも一人の女の子相手にだ。
記憶が飛んでるのであいにく有効活用できないが、そういった武器の類は生前の知識をもとに製造・調達するという、
とんでもDIY設定がおまけでついてくる。
現実世界なら間違いなくあの世逝きであろう怪我を負ったって、もう死んでるから死にはしない。
時間が経てば治癒してしまうのだから、本当に何でもありだ。
とにかく、挙げればきりがないくらいにまともじゃない。戦線のメンバーも相当な個性派揃いである。
でも悪い奴等じゃない。オペレーションの一環とはいえこうやってつるんだり、本部で他愛のない雑談をしてる時なんかは、
置かれている状況の奇怪さがどうでもよくなることが、最近はたまにある。
けれど、この前の作戦中の出来事は、頭から離れそうにない。
実行部隊が天使エリアでの侵入ミッションを行っている間、陽動部隊は体育館で大規模なライブを始めていた
373: 音→日 2.5/5 [sage ミスorz] 2010/04/27(火) 23:00:26 ID:ZhRu8l+yO携(4/7)調 AAS
その最中にオーディエンスの前で消えた岩沢。
彼女が話してくれた、無念のうちに絶たれた短い生涯。
かき鳴らされるアコギのストロークと静かな激情を湛えた歌声が、まだ耳に残っている。
歌いきった後、ギターだけを残して岩沢はどこにもいなくなってしまった。
誰にも何も告げず、彼女は彼女の最期を迎えたのだ。
既に肉体的には死んだ人間が死を迎えるとはどういうことなのか。
それは、ここで抗うことを辞めた時に訪れる。
天使に従って模範生徒になるか、あるいは、生前の苦悩から解放されて満たされたと感じるか。
どちらにせよ、思い残すことがなくなったら、俺達は消滅してしまう。
死んだ世界における最期とはそういうことだ。
374: 音→日 3/5 2010/04/27(火) 23:04:10 ID:ZhRu8l+yO携(5/7)調 AAS
生徒会チームとの決勝戦。アウトあと一人の場面で、日向がこの世界に来た理由の断片を教えてくれた。
日向は震えていた。そんなあいつを見たのは初めてだった。
日向自身よく覚えていない、とは言っていた。野球少年だった日向は野球によって人生を狂わされ、
そして恐らく自責の念を抱えたまま、ある日敢え無く命を落とした。
「何も考えられなくて、あの時と一緒で。俺とボールと空しかない感じも」
9回裏1点差でツーアウトランナー2・3累、打球はセカンドフライ。
グローブを構える彼の姿に岩沢が重なった。
日向が消えるイメージが脳内で再生される。
俺はあいつに消えて欲しくないと強く願い、叫び、走っていた。衝動だった。
その時だ。ユイが力の限り突っ込んでいったのは。
それがなければ日向は捕球していただろう。今考えても背筋が寒くなる。
「けど、全然同じじゃなかった。だいたいこのチームめちゃくちゃだからな」
「確かにな」
「それに、ここにはお前がいるから」
―――今、なんて。
不意を突かれて相槌も打てない俺に、日向は続ける。
「今日はちゃんと思い出せるぜ。音無、俺の名前を呼んだだろ」
「……」
「ありがとうな」
日向の声がくすぐったい。耳が熱くなる。
お前のこと結構気に入ってるとか、俺にはお前が必要だとか、こいつのストレートな物言いに多少の免疫ができた頃だと
思っていたのに。
強く胸が締めつけられて、何も言えずに俯いた。
あんなところで勝手に消えさせない、ぐらい吐いて格好付けられたらいいのに。
お前に消えて欲しくなかった、と今ここで言えるほど素直になれたらいいのに。
どっちもできなくて、ただ下を向いて、自分の気持ちをかみしめる。
375: 音→日 4/5 2010/04/27(火) 23:08:32 ID:ZhRu8l+yO携(6/7)調 AAS
知り合ってほんの短い間に、日向が俺を気にかけてくれるのを、自然と受け入れていた。
それが元々の日向の性格によるもので、たとえ俺だけに向けられるものじゃなかったとしても、それでもいい。
失いそうになってわかった。
俺も日向のことが大事だ。
日向が好きだから大事にしたい。失いたくない。
強く湧き上がる感情を何度も確かめる。
これからも、お前が一人で勝手に満足していなくなってしまおうとしたら、俺は全力で妨げる。
俺にもお前が必要なんだ。
この思いだけは、お前が消えるなんて形で終わらせたくない。
「そんな顔しなくても、お前を残して成仏なんて心配だからできない!」
「……おう! 頼むぜ」
どんな顔してた、とは聞けなかった。
間近の日向はやっぱり笑っていた。置いていかれそうになった子どもに向けるような、優しくてあたたかい笑顔を見て、
日向の言葉はきっと嘘じゃないと思った。
死ぬ前の記憶をなくした俺は、いったい何をしたら満たされたと感じるんだろう。
俺が消えそうな時は、日向に引き留めて欲しい。
そう願っている。
376(1): 音→日 5/5 2010/04/27(火) 23:14:36 ID:ZhRu8l+yO携(7/7)調 AAS
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
勢いで書いてから本編見返して辻褄合わせたのは内緒
そうだね侵入班はライブ見れなかったね…
二次創作が増えるといいなーと思っています
ありがとうございました
377: 2010/04/27(火) 23:31:00 ID:HvdMEDQJO携(1)調 AAS
グッドマッスル!!
音無は乙女だなあ音無は乙女だなあ
378: 2010/04/28(水) 00:39:17 ID:ygVZyVbl0(1)調 AAS
>>351
GJ!棚で銀ヅラが読めると思わなかったw
タイムリーで萌えましたありがとう
「岡田に、とは言いたくなかった」の一文がすごく好きです。
379: 2010/04/28(水) 02:54:34 ID:m8VG3I030(1)調 AAS
>>376
GJGJGJ!!!
萌え禿げるってこういう事なんだな
380: 恋心0/4 2010/04/28(水) 16:34:01 ID:zMGd80Fq0(1/5)調 AAS
※ナマモノ・エロ有り注意
紙川氏×空澤氏です。
紙川氏が結婚する前の設定
遅いですが具ー単で紙空に萌え過ぎるあまりやってしまいました
初投下です
全くの捏造なので細かい所はスルーしてやってくださいw
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
381: 恋心1/4 2010/04/28(水) 16:34:50 ID:zMGd80Fq0(2/5)調 AAS
初めて彼に会ったとき、その大きな瞳に吸い込まれた。
彼は自分よりも歳上とは思えない程童顔で
驚くほど小さな顔の中に収まっている二つの黒目がちな瞳で興味深げに覗きこんできた。
「紙川です。よろしくお願いします。」
「おうっ、よろしく。紙川って言いづらいから下の名前で呼んでもいい?」
「はぁ…、?」
「それじゃ、ノリpじゃなくてタカpでw」
「…」
初対面なのになんて慣れ慣れしいんだと内心、少し腹立たしく思いつつ
彼が冗談を言って突っ込まれたがっているのは
極度の寂しがりやのせいだということに徐々に気付いた。
そして、誰とでもすぐに親しくなれてどんな場所でもリーダーシップをとってしまう彼に
軽い嫉妬を覚えながらも、何となく一緒にいるのが心地良くて二人でいる時間が増えてきた。
親しくなるまでさほど時間はかからなかったように思う。
「今日は後、何か予定あるのか?」
「いえ、空澤さんは?」
「いや、それならお前んち行ってもいい?」
彼主催の恒例の飲み会の後、いつもそんな会話が続いた。
382: 恋心2/4 2010/04/28(水) 16:35:53 ID:zMGd80Fq0(3/5)調 AAS
「冷蔵庫の中ビールばっかだなー」
一応一言断った後、勝手に冷蔵庫の扉を開いて中を物色している。
「一人暮らしの男の家なんてみんなそんなもんですよ。」
缶ビールの中から見つけたらしいミネラルウォーターを
喉を鳴らしてごくごく飲み始めている。
「ー空澤さん」
「ん?」
後ろから両腕を回して抱きしめた。
項のあたりに口づけたら急に彼が焦り出した。
「水飲んでんだよ!」
「…そのつもりで来たんでしょ?」
「…」
こっちを向かせると少し潤んだような視線が絡まった。
「隆哉…」
自分の名前を呼ぶ彼の唇に口づけた。
唇を割り、歯列を舐め舌を無理矢理中に挿れて絡ませる。
もっと奥に入りたい、彼の奥の奥まで感じたいー
そんな欲望が疼く。
383: 恋心3/4 2010/04/28(水) 16:36:53 ID:zMGd80Fq0(4/5)調 AAS
ベッドへ移動し、お互いに服を全て脱いで抱き合った。
素肌が触れ合う感じが気持ちいい。
空澤さんの耳の中に舌を差し入れ、首筋から下って乳首を舐めると一瞬びくっとされた。
彼の中心に触れて、上下にゆっくり優しく扱いでやると段々硬く熱を帯びてきた。
感じる部分を気持ちよくさせながら、中指を少しずつ挿れていった。
「んっ…」
中指、人指し指、薬指、と自分の指が彼の中に徐々に飲み込まれていく。
中を探っていき、ある一点を擦ると突然空澤さんが「あっ」と声を上げた。
そこを強く刺激してやる。
「あっ…、あっ、隆哉ぁ、もう…」
普段と違う甘い口調で名前を呼ばれて顔を上げると、空澤さんの大きな目に少し涙が浮かんでいる。
自分のものが熱を持ってかなり大きくなるのを感じた。
「挿れていいですか?」
「ん…」
少しずつ自分の張りつめたものを空澤さんの中に埋めていく。
十分ほどこしたにも係わらず中はまだかなりキツかった。
彼の中に入って一つになる、そう考えただけでイきそうだ。
全て中に収めてしまうとゆっくり腰を動かした。
ふと、空澤さんの顔を見ると眉間のあたりに皺を寄せて苦しげに顔を仰け反らせている。
そんな彼を見ていたら抑えが利かなくなってきて
さっき見つけたイイ場所に当たるように激しく腰を動かした。
「…あっ、あっ、あっ、ん…ひっ、あっ」
「空澤さん…!」
「隆哉…隆哉ぁ…、俺、もう駄目っイクっ…」
「空澤さん…!俺も…」
その瞬間、頭の中で火花が散った。
384: 恋心4/4 2010/04/28(水) 16:37:46 ID:zMGd80Fq0(5/5)調 AAS
あれから結局何回もしてしまった…。
隣ですやすや寝息を立てて眠っている彼の横顔を見つめる。
まぁ、忙しくてあまり会えないんだから仕方ない、なんて自分に言い訳をして。
後で体がキツかったらまたうるさく言われるんだろうなー、
このまま時間が止まってしまえば良いのに、なんて思いつつ
こうして彼の隣で眠れることに幸せを感じている自分がいる。
ただ今だけ、今だけ彼は自分だけのものだ。
気持ち良さそうに眠る空澤さんを後ろから静かに抱きしめた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
385: 2010/04/28(水) 17:33:50 ID:1Hzxrww60(1)調 AAS
>>355
GJ!!!
2人の台詞・表情・仕草…すべてがそれっぽくて目に浮かぶようです!
そしてタイトルをはじめとして各所に散りばめられた小ネタ(?)にもニヤリ
次もあっさりいいよって言っちゃうのかマーツー…期待してます
386: 2010/05/01(土) 00:09:25 ID:6/swhsuz0(1)調 AAS
>>368
ものすごくこの二人らしくてもうニラニラが止まらないです!
387(1): 陽気な強盗の終末の馬鹿 2010/05/03(月) 02:32:12 ID:IY3UQAC10(1/6)調 AA×
388: 陽気な強盗の終末の嘘1/3 2010/05/03(月) 02:33:12 ID:IY3UQAC10(2/6)調 AAS
「当然の疑問じゃないか。食事と空気は、生きるのに必然な物だぞ。
そもそも、方舟と言う名が気に喰わない。
方舟というのであれば、人だけではなく動物も乗せるのが必然だろう。
それに、考えても見ろ。
例え小惑星の衝突から生き延びたとしても、生き延びたのが人間だけならそれ以降何を食べて生きていれば良い。
人か?共食いをしろというのか?共食いをしても繁栄できるほど、方舟に人は入るのか?ほら、見ろ。どう見たって行き詰っているじゃないか。全く、後々餓えと酸欠で苦しい思いをしながら死ぬ為に生き延びるなんて馬鹿らしい」
「……そこまで考えられるのは、お前ぐらいだろうな」
響/野の所へと「方舟」の関係者が来たと言う事を聞いた時、成/瀬はあまり心配はしなかった。その代わり、よりにもよって彼の元へ来たその人物の運命に、哀れみを覚えた。
避けられない終末をネタに優越感を得た挙句、人を馬鹿にしようとした報い、という言葉も当てはまるのだが。
結果は全く想像通りで、その上、恐らくは関係者へと語ったのであろう演説を延々と受ける羽目になった。事の顛末を尋ねた時、簡潔に、と言ったはずなのだが、やはりと言うか、予想通りと言うか。結果は見えていたはずなのに、聞いてしまう己が憎らしい。
ああそれとも、予想通りだったから聞いていたのだろうか。
別れた妻の嘘偽りの無い言葉より、的確に未来を示す息子の言葉より。
今はこの男の、ばかばかしくてありえない、ほぼ100%近くを嘘と屁理屈で持って塗り固められている、本当にどうしようもないほどの与太話を、聞きたい。
理由なら――解る。
後少しで、世界が終わるからだ。
389: 陽気な強盗の終末の嘘 2/3 2010/05/03(月) 02:35:24 ID:IY3UQAC10(3/6)調 AAS
一年ぐらい前に聞いたアナウンサーの言葉からは嘘は聞き取れなかった。
大丈夫と言う救いの言葉(つまりは響/野の元へと赴いた、方舟だのなんだのという連中の言ったのと同じ言葉だ)は、耳へと届いた瞬間に「嘘」の一文字に変換されて、終わった。
慰めの言葉は全て嘘。となれば、思いつく言葉は一つしか、無い。
この世界には、逃げる場所など何所にも無いのだ。
持ち前の能力でその事を看破してしまった成/瀬だが、だからなんだ、と言う訳でもない。
今になって度胸が据わった訳でもない。
嘘を見抜ける。真実が解る。全てが見抜ける。
そのお陰で今までやってきて来れたし、捕まることも無かった。
だから、なんだ。
何時かは死ぬだろう。自分も。仲間達も。例え、それがどんな理由であっても。
「真実」と暮らしてきた成/瀬にとって、それぐらいの事実で動揺する事は無かった。
成/瀬を動揺させたと言えば、妻と別れた事と、数年前の事件で犯人の一人の電話からリダイヤルをしたら響/野が出てきた事ぐらいだ。その他はまだ、そう。自分の想定内の範囲で動いている。
例えば…それが、自分や大切な人たちの死に直面していた、としても。
響/野特有の不味い珈琲を入れながら、響/野は明るく笑い話を続ける。
まだ外は落ち着かない。
優越感に満ちた笑みを浮かべた人が来て、何かを言っても、成/瀬も響/野も騙される事は無い。
彼等は騙し、奪い取る方だ。騙される方じゃない。
長年騙し、真実を見抜き、中身の見えない話で人を誤魔化してきた自分達に、軽い言葉は通じない。
まるで彗星など無かった頃のように、まるで昔に戻ったかの様に。
ゆっくりとのんびりと、時間が過ぎていく。
390: 陽気な強盗の終末の嘘 2/3 2010/05/03(月) 02:54:48 ID:IY3UQAC10(4/6)調 AAS
「全く、あの時のお前の作戦と言ったら…いや、私はちゃんと解っていた。解っていたぞ?
だがな、いきなり連れされられるだなんて久/遠は解っていないだろうから、事前に言っておけばあいつの動揺も少なくて済んだ、というかな」
明るく笑い話を続ける響/野。その内容は、本来で有れば人々へと隠し通すべき事のはず。
だが、もうそれも必要ないだろう。
警察など、あって無き者。
自分達の話を聞いて誰かに通報する人なんて居やしない。
店には客は成/瀬一人。響/野の奥方は、昨日から、我等がチームの紅一点や某劇団の俳優達と一緒に騒いでいる。
そう。
店には響/野と成/瀬だけ。昼夜等の関係無く、まるで学生だった頃の様に、強盗だ何て想像せず、地球の未来なんて思いもせず計画を立てる前の如く、あの日あの場所で、成/瀬が一人だけ、イグアナの行進を見ていた頃の様に。
嗚呼それも今となれば「今更」と言う単語に移り変わるのか。
銀行強盗よりもっと悲惨な事になっている外へと思いを廻らし、成/瀬がどうしようもないと微笑み。
そして、釣られるように笑った響/野が口を開いた。
あっけらかんと紡がれる言葉は何の問題も無い、自分や相手のところに来た「方舟」関係者ともう一人の仲間についてだ。
「そう言えば聞いたか。いや、聞いていないだろうな…聞いたら驚くぞ」
「何の事だ?」
「久/遠は、方舟と言うなら動物も乗せろ、と言ったらしいぞ。この間、電話で聞いた。なんともあいつらしいじゃないか」
「ああ……そうだな」
ちなみに当の本人は、数ヶ月前からオーストラリアだ。
このご時勢、一人でちゃんと向こうに行けたかどうだかを心配していたが、先日奇跡的にかかってきた電話で動物達が食べられる為に殺されている、と嘆いていたから元気なのだろう。
何時か嘆くだけではなく、実力行使に出ないか、と言う事が心底心配ではあるが。
391: 陽気な強盗の終末の嘘 3/3 2010/05/03(月) 02:55:38 ID:IY3UQAC10(5/6)調 AAS
自分達の心配は何知らぬと言う様に、空にはぽっかりと現実味の欠片も無く、彗星の軌道が映っている。
成/瀬は知って居る。
あれが何時か人類を滅ぼすと言う事を。そして、きっと響/野も信じているのだろう。
テレビに言われたから、気象庁が言っていたから、と言う訳ではなく、ただ、成/瀬が「そう」と言ったから。
ああそれとも、日に日に大きさを増す彗星に、現実と言うものを突きつけられたからか。
きっと今も空を見れば、さんさんと輝く太陽と、それに負けじと己の姿を主張する、彗星の姿が見えるのであろう。
全ての嘘を見抜ける力を持ちながら、大切な人に対して嘘をつき続けている自分を嘲け嗤う彗星が。
「なぁ、響/野。…もしも明日で世界が終わるなら……」
嘲け嗤う彗星に対抗する様、成/瀬は精一杯の言葉を紡ぐ。
「その瞬間まで、お前と一緒に居たい」
成/瀬の言葉と、響/野の返答にある間は、気心の知れ渡った相棒として、必要不可欠な分しかなかった。
「おおそれは偶然だな。実は私もそう思って居た」
笑って、あっけらかんと言う響/野が嘘をついているわけではない、と言う事は成/瀬には解っていた(そもそも、彼の前では一切の嘘は無効だ)。
だが、自分と同じ思いでその言葉を言っている訳ではない、と言う事も知っていた。
それでも、非常に珍しく、嘘偽り無く笑う響/野を見ていると、己を嘲け嗤う彗星の姿が擦れる。
そうして、それでもまぁ良いか、と言う気分になっていく。
自分の力を持たずしても解る様な嘘をあっけらかんと付き、そして、自分の力が無くては解らないような嘘は決して付かない。
きっと彼は最期まで彼のまま、笑って不味い珈琲を作り、彼の妻に愛を囁き、自分へと信頼と親愛を紡ぎ、仲間達へ微妙な気遣いをして逝くのだろう。
そうして自分は人知れぬまま言うに言えぬ想いを抱き、「一緒に居たい」と言った言葉に返された「私もそう思って居た」を支えに、彗星の日を待つのだろう。
嗚呼、これも、ある意味ではロマンなのかもしれない。
392: 陽気な強盗の終末の嘘 2010/05/03(月) 02:57:45 ID:IY3UQAC10(6/6)調 AA×
393: 2010/05/03(月) 03:14:25 ID:5ONyaVcAO携(1)調 AAS
>>387
素敵でした。その手があったか!という新鮮な感覚
彼ららしさが表現されていて楽しかったです
ありがとう
394(5): 板缶 その6 2010/05/03(月) 22:46:12 ID:5Gvd0exD0(1/6)調 AA×
395: 板缶 その6(ホワイトデー) 1/5 2010/05/03(月) 22:47:22 ID:5Gvd0exD0(2/6)調 AAS
閏年でなければ、2月は4週間ぴったりしかない。
2月の14日が日曜日だったということは、・・・つまり翌月の14日も日曜日だということだ。
もちろん、特/命係は休みだった。組織犯/罪対策五/課の奥にぽっかりと開いた戸口はまるで洞窟の暗い入り口のようだったし、壁に掛けられた名札は二枚とも裏返されたままだった。
しかしそろそろ日も暮れようかという時刻、その部屋に灯りがついた。
不思議に思った組対五/課の刑事たちが窓越しに覗き込んでみると、見慣れた姿がそこにはあった。
神部だった。
神部はいつものようにコートを脱ぎ、空いた椅子にばさりと放った。今日はMACを持ってきていなかったので、デスクに座っても少しばかり手持ちぶさただった。
わざわざ休日出勤しなければならない用事など、もとよりなかった。もし隣の課長にでも見とがめられたら、確認したい書類があった、と言い訳するつもりだった。さぞ怪訝な目で見られることだろうが、怪しまれたところで神部は困りもしない。
ブラインドの隙間から、弱い西日が射していた。
神部はそれを見てため息をつき、ポケットから携帯を取り出した。
半時間過ぎてもまだ来ない、伊民からの返信を待っているのだった。
***
神部が伊民を誘って飲みに行ったのは、ちょうど一ヶ月前の夜だった。
あの二時間は楽しかったな、と神部はぼんやり思い返して、頬を緩めた。
汗をかいた生ビールのジョッキ、炭火焼きの焼鳥の香ばしい香りが思い出される。
にっくき「杉/下警/部」について滔々と文句を述べ立てながら、そのビールとタバコを交互に口にしていた伊民の横顔も。
カウンターにぐんにゃりともたれかかってこちらを向いた伊民は、確かに微笑っていた。
・・・しかし、その後のことを思い出すと、神部は自分の頬をひっぱたきたくなってしまうのだった。
なぜ別れ際に、あんなことを言ってしまったのだろうか。
確かにチョコレートは持っていった、バレンタインデーだったからだ。つまらないジョークにかこつけてでも、きっとあの男に押しつけてやろうとは思っていた。
だがまさか、まさかあれほどバカなことを口走ってしまうなどとは思ってもみなかった。
396: 板缶 その6(ホワイトデー) 2/5 2010/05/03(月) 22:48:49 ID:5Gvd0exD0(3/6)調 AAS
酔っぱらっていた、魔が差した、口が滑った、・・・この一ヶ月の間、神戸はいろんな言い訳を考えてみたが、そのどれにも心は慰められなかった。
脳裏に蘇るのは、あの瞬間の自分の声ばかりだ。腹に力の入らない、小さな声だったと思う。
『あなたのことが好きなんです』
よりにもよって、バレンタインの夜にチョコレートを渡したタイミングで、そう言ってしまったのだ!
あのときの浮ついた高揚感を覚えている。そしてその後しばらく経って、やっちまった、と自覚したときの頭から冷水を浴びせられたような気分も。
『あなたのことが好きなんです』
「・・・あー、もうっ!」
神部は勢いよく立ち上がって、頭を振った。
相手の性的許容範囲どころか好みのタイプさえ、さらには現在つきあっている女性がいるのかいないのかすらも訊かずに、あんなことを言ってしまった。
どう控えめに考えても大失態だった。
その後、現場で顔を合わせたときも伊民はこれまでどおりの冷ややかな態度を保っていたが、それこそが神部には拒絶を感じさせた。仮にも一晩酒を酌み交わした相手であれば、すこしは親しげな様子を見せてもよさそうなものではないか?
だが伊民はそんな様子はまったく見せなかった。神部にはそれこそが、伊民の「答え」に思われてしかたがなかった。
だというのにいまも、情けないことには神部は伊民の返事を待っている。
あれからちょうど一月経って、忘れたふりをして誘うにはいい頃合いだと思ったのだ。
今日がホワイトデーだということも頭の隅にはあった。
期待するだけ傷つくに決まっているというのに、千に一つ、万に一つの可能性を捨てきれずに出てきてしまった自分を、神部は嫌いになりそうだった。
やっぱり帰ろうか、と思い始めたとき、デスクに置いた携帯がガタガタと震えだした。
***
397: 板缶 その6(ホワイトデー) 3/5 2010/05/03(月) 22:50:54 ID:5Gvd0exD0(4/6)調 AAS
前回と同じく、伊民が待ち合わせに指定してきたのは警/視庁のエントランスだった。エレベーターを降りてホールへ出てきた伊民に、神部は笑って会釈した。伊民も軽く頭を下げて、それに応えた。
「また急に誘っちゃって、すみません」
心にもない台詞だったが、伊民は律儀に答えた。
「いいえ。前から約束してたところで、行けるかどうかはわかりませんから」
「今日はどこへ行きますか?」
「どこでもけっこうですよ。ただし、勘定は俺持ちです」
「割り勘でいいですよ」
「次は俺が奢ります、と申し上げたはずですがね?」
互いに、なんとなく声が硬いと、神部は思った。やはり伊民は、バレンタインの夜に神部が言ったことを忘れてはいないのだ。
すっかり暗くなった官庁街へ出ると、伊民はさっさと先に立って歩き出した。店はどこでもいいと言ったくせに、神部がどこへ行きたいかと訊くこともせず、勝手に方角を決めて歩いてゆく。神部はおとなしくその背中を見ながらついていった。
伊民の足が向かったのは、やはり有楽町方面だった。歩けば20分はかかるが、地下鉄を乗り継いで行くほどの距離でもない。もしかして前回と同じ焼鳥屋へ行くのかな、と神部が思い始めたころ、伊民が不意に足を止めた。
たまに市民ランナーとすれ違うくらいの、人通りのない歩道の上だった。
「警/部補殿、これはこの前のお返しです」
そう言ってポケットから取り出されたものを見て、神部は目を丸くした。
伊民の大きな手のひらに載っていたのは、小さな紙袋だった。百貨店の小袋だ。リボンはかかっていないが、銀色のシールでちゃんと封がされていた。
「なんです、これ?」
「先月、高そうな菓子をいただきましたんでね。もらいっぱなしってのは気が引けるんですよ」
チョコレート、ではなく、菓子、と伊民は言った。
神部はその意味を考えながら、紙袋を受け取った。中身は布だろうか。やわらかい手触りで、軽い。我知らず心が浮き立ち、口もとが緩むのを抑えきれなかった。
398: 板缶 その6(ホワイトデー) 4/5 2010/05/03(月) 22:55:03 ID:5Gvd0exD0(5/6)調 AAS
「ありがとうございます。いま開けてみていいですか?」
「だめです」
「えっ、どうしてです?」
「たいしたもんじゃないんで、うちに帰ってから開けてください」
「いいじゃないですか。伊民さんが何くれたのか、早く見てみたいですよ」
「・・・どうしてもいま開けるとおっしゃるなら、俺はここで帰ります」
低く、ぴしゃりとはねつけられて、神部は言葉を失った。街灯のもとで見た伊民の顔は険しく、彼が本気で言っているのだということが窺えた。束の間の幸福感が砂のようにさらさらと、神部の指の間をこぼれ落ちていった。
「・・・じゃあ、開けません。だから行きましょう」
「ええ」
今度は神部が前を歩く番だった。余裕を失ってこわばったままの顔を、見られたくなかったのだ。
その背中から、伊民の声が容赦なく追ってきた。
「警部補殿、あとひとつ。・・・この間みたいな冗談は、ごめんこうむりますよ」
神部はそのまま走り出したくなったが、ぐっとこらえた。
喉元に鉛の塊のようなものが急にこみあげてきて、顔がかっと熱くなるのがわかった。
最初から、わかってたことじゃないか。
俯いて歩き出しながら神部は胸の中でそう繰り返し、破裂しそうに騒ぐ心臓が落ち着くのを待った。伊民がくれた紙袋をコートのポケットに突っ込み、後ろを振り返らずに速い歩調で歩いた。いかにも不審すぎる態度だと自分でもわかっていたが、止めようがなかった。
背後から、すこし離れて、伊民の靴音がついてくる。
ゆっくりとした足取りだった。
***
399: 板缶 その6(ホワイトデー) 5/5 2010/05/03(月) 22:56:33 ID:5Gvd0exD0(6/6)調 AA×
400: 2010/05/04(火) 00:40:55 ID:XK/xQOBV0(1)調 AAS
>>394
板缶好きです
切ないけど萌える……!!
401: 針歩多(孫世代) 2010/05/04(火) 01:06:02 ID:osywE6MG0(1/5)調 AA×
402: 針歩多(孫世代)-1/4 2010/05/04(火) 01:09:49 ID:osywE6MG0(2/5)調 AAS
「何を」
見下ろせば、血の気の失せた頬はいつもに増して青白かった。シーツの上に散った髪はプラチナ、困惑に揺れている瞳は青灰色。冷たい色ばかりに彩られるスコ/ーピウスの顔の中で、荒い吐息に震えている唇だけが朱い。
「……ジェーム/ズ」
唾液に濡れた唇がもう一度動いて、仰向いた己の上に馬乗りに座って、自由を奪っている年上の少年の名を呼んだ。
「何って、うーん、賢い君らしくないことを訊くんだな」
ジェーム/ズは首を傾げて、右手に握った杖をふらふらと振った。
スコ/ーピウスは、所在なげにジェーム/ズの杖先を目で追いながら、頭の中の混乱を鎮めようと努力しているようだった。
ベッドの上でねじ伏せられて、唇を奪われて、その次に何が起るかなんて、四年生にもなってわからないわけがない。けれどスコ/ーピウスには信じられないのだろう。
グリフィンドールの監督生で、親友の兄で、同時に親しい友人でもあるジェーム/ズが、自分に対してこんなことをするのを。
「それよりも、スコ/ーピウス。キスの最中に噛むなんて酷いな」
ジェーム/ズは非難がましく言い、血のにじんだ唇を杖先で指した。淡い色の瞳にたちまち動揺が走った。
「あ。ごめ、なさい、ジェーム/ズ」
白い歯列の陰に、震えて縮こまる小さな舌が見えた。
ああ、可愛い。ジェーム/ズは満足した。スコ/ーピウスは、向こう気が強くて気に入らない相手にはすぐ噛み付くくせをして、好いている相手にはちょっと強く言われただけですぐに、こうやって怯えたような顔をする。まるで嫌われることを怖がっているみたいに。
403: 針歩多(孫世代)-2/4 2010/05/04(火) 01:11:41 ID:osywE6MG0(3/5)調 AAS
「いいよ、別に。これくらい」
そう言ってやるとスコ/ーピウスがほっと表情を緩めたのが可笑しくて、ジェーム/ズはくっくっと喉で笑いながら、スコ/ーピウスの両手首を纏めて縛って、ベッドのヘッドボードに括り付けた。
使ったのはスコ/ーピウスの襟首から外したタイだ。緑と銀のスリ.ザリン色が、真っ白い肌に良く映えた。
「これから、僕のほうがもっと痛くて怖いことを、君にするんだからさ」
ジェーム/ズはスコ/ーピウスの、一番上まできっちり釦の止められた首元に杖を差し込みながら、目を細めて、にっこりと笑った。いつものように。
金縛りの呪文でもかけられたように、スコ/ーピウスはただ目だけを見開いて、ジェーム/ズを仰ぎ見ている。
ジェーム/ズは杖先で前立てを持ち上げた。ぷつ、と釦が飛んだ。
スコ/ーピウス・マル.フォイとアルバ/ス・ポッ.ターは、スリ.ザリンとグリフィ.ンドールの垣根を越えた親友同士だった。
放課後ともなれば規則破りすれすれの遊びの相談ばかり。そこに悪戯に関する英知ならホグワーツで一番のジェーム/ズ・ポッターが入れ知恵をすれば怖いもの無し、というのが周囲の評判だ。
いつの頃からだろう。アルバ/スがふとした瞬間に、隣にいるスコ/ーピウスから目を逸らすようになったのは。
ジェームスが、最初におやと思ったのは、そっぽを向いてうつむいたアルバ/スの眦が、微かに朱に染まっているのを見た時だった。
きっと誰も、スコ/ーピウスだって、まだ気付いてはいないだろう。秘密を暴くのが大好きで大得意な、ジェーム/ズが一番最初に気付いた。
アルバ/スの、父親似の緑色をした瞳が、どんなに甘い表情でスコ/ーピウスの横顔を見つめるのかを。
404: 針歩多(孫世代)-3/4 2010/05/04(火) 01:12:48 ID:osywE6MG0(4/5)調 AAS
「ずっと前から、こうしてやろうって決めてたんだよ」
まだ子供の華奢さの消えきらない脚を押し開き、一番奥の、柔らかくて温かい粘膜に楔を打ち付けながら、うっとりとジェーム/ズは囁く。
啜り泣くような悲鳴が、スコ/ーピウスの唇から絶え間なく上がった。
どうして。嗚咽の合間、かろうじて聞き取れるのは、繰り返し理由を問う言葉。どうして。理由など、ジェーム/ズには一つしかない。
「何故って、だってね、優しくして甘やかすのは、アルの方が上手だから」
ふ、と獣のように吐息して、ジェーム/ズはスコ/ーピウスの鎖骨に唇を寄せた。噛み付いたら、白い肌に真っ赤な痣が咲いた。
素直で正直で優しい弟。アルバ/スと同じことをしても、絶対に自分が負けると、ジェーム/ズにはよくわかっている。だから、正反対のやり方を選んだ。
怖がらせて脅しつけて、逃げ道を塞いで他の誰も見られないように仕向けて、手に入れてしまおうと決めていた。
「アル……アルバ/ス、アル……!」
泣き声も悲鳴もジェーム/ズの耳に甘かったけれど、助けを求めるように名を呼ぶのは耳障りだったので、ひたりと杖先を額に当てて黙らせた。
「アルは来ないよ。今夜君を呼び出したのは僕だし、この必要の.部屋は、今は僕の望みを聞いてくれているしね」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃのスコ/ーピウスを見下ろして、ジェーム/ズは笑った。
見上げてくる淡い色の瞳を占めるのは、絶望に似た光だった。仕打ちに対する怒りでも嫌悪でもなく、裏切りへの絶望。
ずいぶんと、この後輩は自分のことを好いていてくれたのだと、ジェーム/ズは改めて知った。けれど後悔はしていない。傷は大きければ大きいほど、この少年と自分とを深く結びつけてくれるだろう。
「……泣いてくれて嬉しいよ、スコ/ーピウス」
ジェーム/ズは微笑み、杖をシーツの上に放り捨てた。
405: 針歩多(孫世代)-4/4 2010/05/04(火) 01:16:13 ID:osywE6MG0(5/5)調 AA×
406: 2010/05/04(火) 20:10:38 ID:/eXJcC+i0(1)調 AAS
>>394
続きが読めて嬉しいです!
救済を…ぜひとも救済をお願いします!
切な萌え、ごちそうさまです。
407: 2010/05/04(火) 21:33:28 ID:lKoFWUHoO携(1)調 AAS
>>394
GJ!と言いたいけど、ぜひ救済を…
心臓に悪いので早目に救ってあげてください!
408(1): 某王求団 頭首×保守 2010/05/04(火) 22:09:13 ID:GbEJwnlf0(1/9)調 AA×
409: 某王求団 頭首×保守 1/7 2010/05/04(火) 22:10:06 ID:GbEJwnlf0(2/9)調 AAS
そこをならすのは保守自身だ。
慣れた手つきでクリームを塗り、できるだけ滑らかな挿入ができるよう予防する。
頭首は、すでに昂っている。
話しが頭に入る状態では無いのだ。
こちらが冷静でいるしかない。
いつからだろうか。
試合前のこの時間、保守はロッカーで頭首を受け入れるようになった。
ある日、先/発を任された頭首に頼まれたのがきっかけだ。
最初こそ断ったが、あまりの頭首の気迫に折れたのだ。
バッ手リーは運命共同体。信用と信頼。
そうする事で何かが変わるとは到底思えなかったが、
連敗続きだったその当時、藁にもすがる思いだった。
その日、チームは連敗をストップした。
偶然にすぎない。そんな事はわかっていた。
しかしそれ以来その頭首が先/発の日には必ずロッカーで彼を受け入れた。
ロッカーでの行為は、当然他のチー/ムメイトにも知れ渡る。
結果、その日の頭首が望めば、保守は誰でも受け入れるようになった。
恋愛感情など無い。
ただその昂りをぶつけられるだけの行為に、保守は耐えた。
最近はほとんど求めてこなかった彼が、今日は目の色を変えて保守の所へやってきた。
410: 某王求団 頭首×保守 2/7 2010/05/04(火) 22:10:44 ID:GbEJwnlf0(3/9)調 AAS
彼は中/継の頭首だ。
今日の先/発は保守を求めなかったので、安心していた矢先だった。
それは昨日の試合。
チー/ムは必死の思いで同点までこぎつけた。
ここを抑えて次の回で逆転する。誰もがそんな願いを持ってその試合に挑んでいた。
次の回の裏を投げるのは抑えの頭首だ。
その抑えの頭首にたすきを渡すのが彼の仕事だ。この回、なんとしてでも点を入れてはならない。
しかし彼は打たれてしまった。
サヨナラのランナーが彼の目の前を笑顔で駆け、仲間たちに迎えられているのを、ただ呆然と見ていた。
その頭首を、保守は見ていた。
頭首は、保守のリードする場所よりもやや高い位置に投げてしまった。
そして、打たれた。
頭首の落ち込みは計り知れない。戦犯と言われた。
「いいですか。」
そう言うと、頭首は保守の返事を待たず、ロッカーに向かった。
前日にこっぴどい負けを味わった時、たまにこの目をする、と保守は思った。
こういう時の彼は誰にも近づけない。
濃い色のオーラが渦を捲いているのが見えるかのようだ。
自分より一回り以上年下の彼が、少しだけ怖く思えるほど。
保守はいつものように自分でならそうとクリームを取り出す。
そのクリームを、頭首が取る。
「俺がやります。」
「あ…?」
411: 某王求団 頭首×保守 3/7 2010/05/04(火) 22:11:48 ID:GbEJwnlf0(4/9)調 AAS
頭首はクリームを指につけると、保守を前から抱き込んだ。
そこをグルリと撫でる。
「…てめ…っ」
挿れる以外の行為はした事が無い。
愛撫などもちろん無い。相手自身を受け入れる事しか知らない。
クルクルと撫でられたあと、そのまま中指が挿入された。
意思を持った別のものに支配され、中を掻き回される感覚。
保守は戸惑った。
「…いい、自分でやるからちょっと待ってろ」
「いえ、ちょっと我慢できないんで。」
「わぁかったからいいから指抜け」
「いえ、…」
まるでマウ/ンド上でサインに思い切り首を振られたかのように。
ここに向かってこいとグラ/ブを構えているのに逆に投げられた時のように。
言う事を聞かない。
保守の下腹にゾワゾワと知らない感覚が湧きあがる。
立っていられなくなり傍にあった机によろめくと、そのまま仰向けに倒れた。
その上に頭首が覆いかぶさる。
いつも主導権は保守が握っていた。
挿れられていても、支配しているのはこちら。
そういう意識があった。
頭首がジッと保守の顔を覗き込んできたので、
柄にもなく顔が赤くなるのを感じた保守は目を逸らした。
412: 某王求団 頭首×保守 4/7 2010/05/04(火) 22:12:23 ID:GbEJwnlf0(5/9)調 AAS
うちの球/団には似合わぬ整った顔の子が入ってきた。
入/団当時の頭首はそんな風にもてはやされていた。
最近では整った顔の新人が次々と入り珍しくもなくなったが、結婚してもなお彼の周りには女性ファンが絶えない。
その整った顔が保守を見降ろし、下では長い指が保守の中を掻き回す。
保守は反応しそうになっている自分に気づいた。
このままでは翻弄されてしまう。
「…もういいから入れろよ」
声が上ずらないよう、平静を装って促す。
「…はい。」
今度は素直に従った。指を抜き、そこに自身をあてがう。
そして、ゆっくりと挿入した。
正常位で突かれるのは初めてだ。
いつもは顔を合わせないようバックから挿入させる。
自分の昂りを治めるためだけに集中しろ、と、頭首には自由に突き上げさせた。
それは保守にとって苦痛でしか無かった。
それなのに。今日の頭首は挿入してからもユルユルと動くばかりでずっと見つめてくる。
実にやりにくい。
「…っさっさと動けこの野郎!こんなもんに時間かけんじゃねぇよ」
「…今日はこうしたいんです。僕の好きにさせてください。」
「あぁ?」
「お願いします。」
いくら威圧しても、組み敷かれ挿入されている状態ではどうにもならない。
中をこするようにユルユルと動く腰はとても居心地が悪い。
自分の中の何かを壊されそうな恐怖感が保守を襲う。
頭を振って正気を保つしかない。
その視線から逃れるようにギュッと目を瞑り、早くこの行為が終わるよう願った。
そのなんとも言い難い時間は、突然変化した。
413: 某王求団 頭首×保守 5/7 2010/05/04(火) 22:13:12 ID:GbEJwnlf0(6/9)調 AAS
保守の腰がビクリと跳ね、息を飲むような声が漏れてしまったのだ。
驚いて目を開けると、そこにはまじまじと自分を見つめてくる頭首の目があった。
いつもと違う色をした頭首の目が、また別の色に変わるのを見た。
頭首は保守の膝裏から手を回し、足を持ち上げる。そしてそこを擦るように執拗に腰を動かし始めた。
やめろと叫びそうになる。
身体が痺れたように自由が効かない。
何かに飲み込まれそうな感覚に保守の全身に鳥肌が立つ。
その反応を見て、頭首はだんだん速度をあげ、小刻みに擦った。
保守の口から荒い息が漏れる。
こんな事は初めてだ。このままでは本当に飲み込まれてしまう。
抱えあげられた足がビクビクと動くのがわかる。
今まで経験した事の無い違和感が絶えず下腹部に湧きあがり、自分では抑える事ができない。
たまらず首を振る。
頭首の唇が保守の頬に落ちた。
なんてことしやがる
そう毒づきたかったが、保守はもうどうにもならなかった。
完全に翻弄されている。
そんな自分を自覚し、赤面した。
下腹部を湧きあがる波が広範囲に広がり、いよいよ昇りつめてきそうになった。
「やめろ…てめぇ早くイけ馬鹿」
絞り出すようにそう呟くと、保守は浅くなった息を整えようと、深く息をした。
だが、それがかえって快感の波を誘った。
今まで感じた事の無い強い快感に、保守はとうとう飲まれた。
414: 某王求団 頭首×保守 6/7 2010/05/04(火) 22:14:21 ID:GbEJwnlf0(7/9)調 AAS
「うぁっ…あ…あ!」
腰が浮く。
勝手に溢れてきた涙が一筋頬を伝う。
絶頂を迎えているような気がする。
しかも、その状態が通常より持続している。
保守には自分に一体何が起こっているのかわからない。
できる限り声を出さないように、体を痙攣させないように、ただただ絶頂が去るのを待った。
頭首の胸元を押しこの行為を拒否しようと試みるが、腕に力が入らない。
行為は続く。
絶頂は去った。
しかし、しばらくするとまたやってくるのだ。
頭首は止まらない。
幾度目かの絶頂を迎えた時、保守はもう懇願するしか無かった。
首を激しく横に振り、頭首の胸を押す。
「………む、無理………」
「はい。わかりました。」
やはり素直に言う事を聞いた頭首は、体制を変え、いつものように好きなように腰を動かし、自身の熱を放った。
やっと終わった、と安堵し、ぐったりと目を瞑る保守の頬に、また頭首の唇が落ちた。
だからなんてことしやがる
と思ったが、もう言い返す気力も無かった。
415: 某王求団 頭首×保守 7/7 2010/05/04(火) 22:15:12 ID:GbEJwnlf0(8/9)調 AAS
「てめぇ…これから試合だっつーのに…」
保守の腰はわずかに抜けているようで歩くのがままならない。
「今日スタ/メンじゃないみたいです。」
「…あ?」
「今日は○○が…。」
「…なんで知ってんだよ。」
「さっき保守さんがトイレに行ってる間に言ってました。」
「…じゃあなんでおめーは俺に頼んだんだよ」
「え、今日スタ/メンじゃないって言ってたから…」
「逆だろ!受ける保守にやって貰えよ馬鹿野郎」
「いや、自分は保守さんなんで。」
「はぁ?!」
意味がわからない。
何だか知らないが自信たっぷりの顔でそんな事を言ってくる頭首に保守は呆れた。
彼がどういう人間かは保守にはわかっている。
単純に、大真面目なのだ。
突然あんな事をしたのも、理由はなんとなく察する事ができる。
だが理解はできない。
しかし頭首に「説明しろ」と言ってもよくわからない空中分解した答えが返ってくるのは目に見えている。
保守は諦めた。
「なんか、良かったです。ちゃんとできて。」
整った顔が爽やかにそんな事を言ってくる。
保守は眩暈がした。
「おめーには二度とやらせねぇからな」
爽やかな顔が目を見開く。
困惑した顔でわけがわからないながらも謝ってくる。
保守は、諦めた。
416: 2010/05/04(火) 22:16:48 ID:GbEJwnlf0(9/9)調 AA×
417: 東京がす1/3 2010/05/04(火) 22:21:01 ID:BctKmqGR0(1/3)調 AAS
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!東京gasCMより
俺の名前はシマブキヒトシ。
東京のガス会社の社員だ。
今日も俺は自社製品のメンテナンスに勤しんでいた。
上品だが、なぜか俺にはいつも厳しい老婦人のもとを訪れるのはこれで何回目だったか…
「ねえ貴方、割のいいアルバイトに興味ない?」
俺がガス機器のチェックをしていると、不意に老婦人がそう切り出してきたので、俺は生返事を返した。
「ああ、最近不況ですからねえ。残業代も出ないし、興味あるかも…」
「じゃあ決まり。うちの留守番一泊二日で。報酬は、お宅んとこの新製品の設置を考えるってことでよろしくね」
俺がなんちゃって、と続ける前に、老婦人がそう言い放ったので俺は二の句が継げなくなった。
副業は基本的にアウトである、が、自社製品の購入をちらつかされては…俺が迷っているのを見て取ったのか、
老婦人は「あんた、うちのミーちゃん(仮名)がどうなってもいいの、前回なんてペットホテルに預けたらかわいそうにやつれちゃって(以下略)…!」
となったので、俺はもう降参するしかなかった。最初から選択肢もなかったような気はしたが。しかし、俺は最後のあがきと思いついた。
「あ!あの、そういえばいらっしゃいますよね、下宿人の方が!鎧?の!!その方に…」
「ああ、ノブナガ?あれに防犯が務まると思ってんの?くれぐれもよそ者とか入れないようにして頂戴よ」
剣呑な目つきで老婦人にそう言われ、本当にノブナガだったんだ…と感慨にふける間もなく、「頼んだわよ」と言われてしまい、
俺はその頼みを引き受けることになったんだ。
418: 東京がす2/3 2010/05/04(火) 22:22:19 ID:BctKmqGR0(2/3)調 AAS
*
「おじゃましま〜す・・・」
俺が勤務を終え、老婦人宅に向かったのは日が暮れてからだった。ダイニングには家のカギと、伝言が置いてある。
【ノブナガには台所に触れさせないこと。森に注意。留守頼む。 ミーチャンの母より】
「一番目はわかるけど、森・・・?」
俺が悩んでいると、後ろから突然肩を叩かれた。まったく気配を感じなかったので思い切りおののく。
「あれ、お客さん?」
後ろから呑気にそう言ってきたのは、噂の主、ノブナガ(下宿人)であった。俺は心臓を押さえながら、挨拶を切り出した。
「こんばんは、あの、私ガス会社の…ってもしかして何にも伝わってなかったりします?」
「ん?何が??」
「本日お留守番を言いつかりました、シマブキヒトシです」
「ああ!君ね!!ふーん…」
俺が自己紹介すると、ノブナガは俺を興味深そうに眺め始めた。何なんだろう、この人。っていうか、
この人って本当に『あの人』なんだろうか。俺がこの際聞いてみようとしたところ。
「ガスの人ってことは、アレ使えるよね!ねえ〜何か作ってよ〜」
ノブナガと思われる人は、急におねがい☆モードになり、周囲をうろうろし始めた。アレというのは調理器具を指すらしい。
改めて冷蔵庫の中身を確認してみる。
「何かって、そんな急に言われても…」
「ふうん…君ってあんまり器用じゃないタイプ?前の子はちゃっちゃとやってくれたんだけど」
俺は思わず冷蔵庫の物を取り落してしまう。その反応こそがダメなんだ、と思ったが、遅かった。
「しかも粗忽者…何、ドジって言うの?というより、出来の良い兄貴を気にしてるダメな弟タイプ?」
ノブナガからはさっきまでの子供のような表情が抜け落ちている。俺のほうを見下ろしながら、厭らしい感じの笑みを浮かべている。
猫が鼠を構うときの感じによく似ていた。ミーちゃんはどこに行ったんだろう、と俺はふと思ったが、口から出たのは全然違うことだった。
419(2): 東京がす3/3 2010/05/04(火) 22:23:29 ID:BctKmqGR0(3/3)調 AAS
「やっぱり、あんた、気づいてたんだな」
「そりゃあ気づくよ〜そっくりなんだもん。何その眼鏡。双子?」
ノブナガは俺の眼鏡に手を伸ばそうとしたので、俺はその腕を引いて阻止した。
「弟だよ。兄貴は…あんたがあっちの世界に『帰って』、気にしてたんだよ。それを呑気に…」
「気にしてたんならよぉ、引きとめたり追いかけたりしてくれてもよかったんじゃね?」
ノブナガは急にヤンキーのような座り方で言い出す。彼のしゃべり方は本当に安定しない。俺はイラッとした。
「兄貴はなあ、まだ例のプリクラ貼ってるんだぞ!おまえは知らないと思うけど…」
「プリクラって、これのこと?」
ノブナガは急に懐から携帯を取り出してきた。確かに色あせたプリクラが貼ってある。しかも最新機種のようだ。俺に見せつけるようにしながら語る。
「メルアドも教えたのに、彼ったら器用だしモテるじゃない?連絡くれないのよ〜」
「って…えっ!?メル友??今あんたがこっちにいるの知ってるの!?」
「そりゃ、こっちの世界の友達少ないから。まあ、あっちでもそうだったんだけどね」
言いながらノブナガは笑っている。さっきまでの嫌な感じはもうしない。さっきは、何だったのか…というか、俺は単なるおせっかいだったのか。
「俺、てっきりあんたが兄貴のことも忘れて好き勝手やってるとか思って…ごめん」
「いいけど、まあ年長者への口の利き方がなってないよね、現代っ子は。謀反レベルだよ」
「すぐ!今すぐぱぱっとコンロやりますんで!!」
「気まぐれクッキングじゃ駄目だからね」
俺とノブナガとの邂逅はこんな風に始まったのだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!モウチョットツヅクヤモ。
420: 2010/05/04(火) 22:37:31 ID:Oqt1dt4J0(1)調 AAS
>>394
板缶姐さんキテター!!
規制解除おめでトン!
片思いぽくきゅんと来ましたが、やはり可哀相なので早く救済してやってください。
421: 2010/05/05(水) 09:40:03 ID:gyGUncnw0(1)調 AAS
>>419
そのCM大好き。超GJ!!
422(1): 2010/05/05(水) 13:35:38 ID:iA+tx9JfO携(1)調 AAS
>>394
ああ、板缶姐さん久しぶりです!待ってました。
切ない系でくるとは…缶と同じく自分の胸まで痛い…
救済!?ああ、良かった…缶救済編待ってます!
423: 2010/05/05(水) 16:52:56 ID:V7pBmrI70(1)調 AAS
ローカルルール追加分再掲
(6)感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬や、書き手個人への賞賛レスはほどほどに。
作品について語りたいときは保管庫の掲示板か、作品が収録されたページにコメントして下さい。
424: 2010/05/05(水) 20:06:34 ID:SOplfbt5O携(1)調 AAS
「ほどほど」にしか見えないんだけどな
拡大解釈はやめなよ
425(1): 2010/05/05(水) 21:25:29 ID:0FnrXbRN0(1)調 AAS
相棒801ジャンルって頭のおかしい霊前の姉の人とかの粘着飼ってて
棚もばっちり目つけられてるのに投下できる&姐さん姐さんと
信者感想を連ねるのは相棒スレ住人流石だな
ただ>422のレスの書き方はモメサーのわざとらしさぷんぷん
426: 2010/05/05(水) 21:35:15 ID:vx96O09zO携(1)調 AAS
>>425が知りすぎてる件w
自重してればバレないのに、馬鹿なモメサだな
427: Ground Zero(前編) ◆SXgBVRgXXw 2010/05/05(水) 21:37:35 ID:1tf2ouLN0(1/7)調 AA×
428: Ground Zero(前編)1/5 ◆SXgBVRgXXw 2010/05/05(水) 21:38:04 ID:1tf2ouLN0(2/7)調 AAS
男が治療室を訪れた時、部下は文字通り死んだように眠っていた。
肉体の損傷は既にないも同然、記憶データの修復も完了している。
しかし、あとは目覚めを待つばかりという状況にもかかわらず、
寝台に横たわる彼の姿は、生気というものをほとんど感じさせなかった。
褐色の肌はやや青褪め、鍛えられた手足は無防備に投げ出されている。
呼吸のたびに上下する胸の動きも、注意深く観察してようやく見えるほどだ。
心拍と脳波を測る計器の音がなければ、遺体安置所と見紛うほどの静謐。
男は寝台の縁に腰を下ろし、改めて部下の姿を覗き込んだ。
シーツの上へと無造作に置いた手が、横たわる褐色の指先と触れ合う。
意図せずして触れたそれは見た目より冷たく、男をわずかに驚かせた。
無論、冷たいとはいえ死人のそれではない。
微かな湿気も感じるところからして、清拭の直後ででもあったのだろう。
しかしその冷たさはやはり、男の記憶にある部下の印象とは程遠い。
――要らぬことをしてくれる。
今はもういない、自らと同じ遺伝子を持つ者に対し、男は内心で呟く。
自らもクローンでありながら、いや、クローンであったからこそなのか。
まだ利用価値のある戦力を、独断で使い潰そうとした愚かな男。
確かに、組織の誇る科学技術は、戦力としての人間を容易に生み出せる。
優れた戦闘員を規格品のように複製し、量産品のように使い潰せるほどに。
だが、男のクローンであった彼は、ひとつ重大な履き違えをしていた。
規格品だろうが量産品だろうが、生み出すには相応のコストを要するのだ。
まして、組織が擁する技術の粋をもってしても、自我までは複製できない。
優れた身体能力と安定した精神、そして忠誠心を全て兼ね備えた人員は
幹部を含めた組織全体を見渡しても、未だ数えるほどしかいないというのに。
その貴重な戦力を、かのクローンは惜しげもなく捨て駒として用いたのだった。
429: Ground Zero(前編)2/5 ◆SXgBVRgXXw 2010/05/05(水) 21:38:51 ID:1tf2ouLN0(3/7)調 AAS
男がそれを知ったのは、作戦が失敗に終わり、事後処理も完了した後のこと。
だが、男は悼むことなどしなかった。組織の技術は、そのためにこそ存在する。
母体から生まれた人間であろうと、培養槽で生まれたクローンであろうと同じ。
不用な者は廃棄される。だが有用な者はそうある限り、死ぬことを許されない。
それこそが己も含め、組織に属する者の宿命なのだと男は考えていた。
肉体の損傷を修復し、あるいはその代替を用意する。
一時は消去された記憶データを復元し、生前のそれと繋がるよう再構成する。
そうした、いわば人間として最低限の蘇生にすら、一年以上の時間を要した。
実戦に参加できるレベルにまで回復するには、さらに時間がかかるだろう。
だが、そのために必要不可欠な――当人の意識が、未だに戻らない。
青年の蘇生が始まってからというもの、男は毎日この部屋を訪れていた。
横たわる彼の傍にしばし留まり、経過を観察してから本来の職務に就く。
肉体の蘇生は成功した。理論上は、いつ意識が戻ってもおかしくない。
だが彼は目覚めなかった。男は毎日訪れ、そのたびに期待を裏切られた。
有能な人材だ。健在でさえあれば、直近の作戦にも同行を命じただろう。
彼の死を悼んだことこそなかったが、不在を惜しんだことは数知れない。
たとえば今、横たわる彼を、片時も目を離すことなく見守るこの瞬間も。
しかし、総帥から直接に与えられる任務は、当然ながら私用に優先する。
時計を見れば、文字盤は既に立ち去るべき刻限を示しつつあった。
戻らねばならない。男は腰を上げ、寝台に置いていた手を離そうとして――
その時不意に、指先に小さな手応えを感じた。
振り返る。
何気なく触れ合ったままでいた、青年の手が震えていた。
目視では見逃しそうなほどの、微かな動き。
だが肌で感じ取るには十分の、確かな動きで。
430: Ground Zero(前編)3/5 ◆SXgBVRgXXw 2010/05/05(水) 21:39:44 ID:1tf2ouLN0(4/7)調 AAS
――意識が、戻ったのか。
男はすぐさま寝台に向き直り、部下の顔を覗き込んだ。
しかし彼はそれ以上動くことなく、変わらぬ無表情で眠っている。
生気を感じさせない姿のまま、呼吸だけを規則的に繰り返して。
ただ指だけが、解けるでも縋るでもなく留まっている。
離そうと思えば振り払うことすら要しないほどの、極小の力で。
何故か、ひどく弱々しいと感じた。
十分な戦闘能力を持つ部下であることは、熟知している。
当然だ。彼はそのように造られ、強化を受けてきた。
しかし、意識の戻らぬまま、男の指に触れて眠る彼の姿は
それとは無関係に脆く見え、このまま立ち去ることを躊躇わせた。
再び寝台に腰を下ろし、先刻微かな震えを感じさせた手を取る。
両の掌で包み込むと、またしても応えるように指先が震えた。
それは目覚めの前兆なのか、単なる筋肉の反射にすぎないのか。
組織の科学技術をもってしても、他者の意識までは読み取れない。
しかし男は、その手を離さずにいた。
それで部下が目覚めるなどと、予測したわけではない。
ただ、そうせずにはいられなかった。理由も、根拠もなく。
最初に感じた冷たさは、時間の経過と共に薄れていった。
当然だ。人工的に創り出されたとはいえ、生身の肉体である。
本質は母体から生まれた人間と変わらぬ、血の通ったそれだ。
負傷すれば出血を伴う。死が迫れば、恐怖を感じる。
違いなどない。何一つ。
431: Ground Zero(前編)4/5 ◆SXgBVRgXXw 2010/05/05(水) 21:40:54 ID:1tf2ouLN0(5/7)調 AAS
ふと。
傷痕に横切られた、青年の瞼がわずかに動いた。
見守る男の眼前で、それはゆっくりと開かれる。
長い眠りから覚めた青年は、無防備な表情でひとつ息をついた。
眩しげに数度瞬きをした後、当て所なく視線を彷徨わせる。
やがて彼は、手を取られているのに気づいたようだった。
未だ焦点の曖昧な視線が、男の手から腕、上半身へと伝う。
そして視界に男の顔が入り、二人の目が合ったその瞬間――
青年は突然その瞳を見開き、怯えたように顔を強張らせた。
「どうした」
呼びかけても、青年は応えなかった。否、応えられなかったのか。
喉の奥からは声の代わりに、引き攣った呼吸音が漏れるばかりだ。
握っていた手は緊張に強張り、瞬く間に冷たい汗を帯び始めていた。
心拍数を測る計器の音が、まるで警告信号のように速さを増す。
視線が合ったことがきっかけであったかのような、唐突な豹変。
男は少なからず驚いたが、同時に思い当たる節もあった。
蘇生の際に再現した、青年が一度死を迎える直前の記憶データ。
現場の崩壊に伴い、本部の指示を仰いだ彼の瞳に映ったのは
自らを切り捨てると宣告した上司の顔――男と同じ形のそれであった。
実際にその宣告を行ったのは男ではなく、そのクローンであったのだが
同じ造作の顔を目にしたことが、想起の引き金となったのだろうか。
意識が戻って間もないのは、かえって僥倖であったかもしれない。
身体を十分に動かせる状態であったなら、彼はすぐさま手を振り解き
状況もわからぬまま跳ね起きて、半狂乱で逃げ出した可能性もある。
その想像すら容易にさせるほど、彼の表情が示す絶望は深かった。
432: Ground Zero(前編)5/5 ◆SXgBVRgXXw 2010/05/05(水) 21:41:29 ID:1tf2ouLN0(6/7)調 AAS
本来なら直ちに医療班を呼び、引き継ぐべきであったろう。
たとえば薬で眠らせてしまえば、落ち着かせるのも容易だ。
だが、男はそうしなかった。
今はそれよりも、必要なことがあるように思われたのだ。
見開かれた瞳を覗き込み、呼びかける。
「私だ」
名は、あえて名乗らなかった。
男のみならず、彼のクローンにもしばしば用いられるその名は
それに裏切られた青年にとって、恐慌を深めるものでしかない。
「00だ。……判るか」
代わりに男はコードネームを名乗り、青年の手を強く握った。
自分こそがオリジナルであり、敵対の意思がないことを伝えるために。
はたして青年は、半ば朦朧としながらも、男の意図を理解したようだった。
クローンとオリジナル――姿形は同じでも、態度は違うのが伝わったのか。
未だ弱々しくはあったが、握り返してくるのが今度は明確に感じ取れた。
口を開き、掠れた声で何か言おうとするのを、男は首を横に振って制する。
意識が戻ったばかりなのだ。今は、負荷をかけるべき時ではない。
話を聞くのは、青年が心身ともに落ち着いてからでも遅くはないはずだ。
何より、長らく拠り所を失っていたその表情が、あまりに痛ましかったので。
青年が意識をはっきりと取り戻すまで、男はただその手を取って傍にいた。
433: Ground Zero(前編) ◆SXgBVRgXXw 2010/05/05(水) 21:43:30 ID:1tf2ouLN0(7/7)調 AA×
434(2): 2010/05/05(水) 21:49:52 ID:Bw4b6rlG0(1)調 AAS
生。短い。オチなし。矛盾あり。アニバーサリー。
>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「貴方の人生において、貴方がもっとも名を呼んだ人が貴方の名をもっとも呼んだ人であるならそれは幸いである」
突然すぐ近くで聞こえてきた声に目を開ける。
二部屋続きの楽屋の自分の側に――というより寝ている自分の目と鼻の先に――先ほどまでいなかった人物がいた。
「おまえ来たん?」
「ん、来た」
寝起きに相方のどアップを見せられても特に驚くことはない。いつもの事だ。
こいつは良くこうやって俺の寝顔を覗き込んでいる。
いつもは気遣ってか息さえ遠慮しているのに、今日はどうしたことだろう。
さっきのセリフは?
貴方がもっとも名を呼んだ人物が・・・
「お前か」
じっと黙って俺を見ていた相方はきょとんとした表情ををした。
自分からふっといてそれか。
「ちゃうか。俺とお前、か」
ふわっと笑うと相方は正解、といって俺の頭をなでた。
「たいした意味はあらへんよ。ただ今日はこどもの日やったからなんとなく」
撫でて撫でて、気が済んだのか鼻歌など歌いながら自分の楽屋側に戻っていった。
相方が立ち上がったタイミングで抱きしめようと伸ばした俺の手は宙に浮いたまま。
まあいいさ。相方の機嫌がよければそれでいい。
出会ってから今日で19年、『これまで』が作り上げたそんな二人の関係。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!シャッチョサンニハアシムケテネレナイYO!
435: 2010/05/05(水) 23:31:58 ID:lGT1WhItO携(1)調 AAS
>>434
ほのぼの可愛い、GJです!
ほんとシャチョサソに感謝だYO
436: 2010/05/06(木) 12:47:49 ID:RJ/iEC5S0(1)調 AAS
>419
謀反レベルワロタ。GJ
続き楽しみにしてます。
437: 2010/05/06(木) 12:49:21 ID:qL19s1uvO携(1)調 AAS
保存庫で芸人って書かれてるけど、
芸人ではないよね?
438(1): 二つのスプーン 0/5 ◆Cf6pwGhzSc 2010/05/07(金) 00:36:09 ID:dzzXtVS90(1/6)調 AAS
ピンポン ドラチャイ 最終話です。エロ有ります。
このあと5レス消費いたします。
いろいろとご迷惑をおかけしました。
読んでくださった方、本当にありがとうございました。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
439: 二つのスプーン 1/5 ◆Cf6pwGhzSc 2010/05/07(金) 00:38:26 ID:dzzXtVS90(2/6)調 AAS
目をぎゅっとつぶって涙を押し出すと、まだ潤みが残っている瞳で孔は風間の目を見つめ、
「背中、見せて」
と囁いた。
風間が布団をはねのけてベッドの脇に立った。
着ていたスウェットの上を無造作に脱ぎ、背中をこちらに向ける。
明りのない部屋の中でも、風間の鍛えられてきれいに盛り上がった筋肉がわかった。
孔はベッドから降りると、カーテンを閉めていない窓の外からの、常夜灯の明りで薄暗く照らされた風間の身体に、そっと近づく。
「ここ…」
つぶやいて手を伸ばし、指の先でそっと肩甲骨のあたりを撫でると、孔は小さく息を吐いた。
「ここに、赤く、痕が…」
赤い痕を思い出す毎に、孔は見知らぬ指に嫉妬した。
自分には付けようのない傷を付けることの出来る指。
一緒に歩く時、風間の背中を意識するとどうしようもない感情が孔を襲った。
風間の逞しい身体と寝る自分を想像したこともある。俺はいかれている、とその度に孔は思った。
身をかがめ、風間の肩甲骨にキスを落とす。
軽く噛む。
風間の身体がぴくりと反応し、口づけたまま孔は囁いた。
「風間…好き、」
その瞬間、勢いよく振り返った風間にベッドに押し倒され、噛み付くような口づけを落とされた。
暗闇の中でぎらぎらした風間の目が孔を見つめる。
お互い、引きむしるように身に付けていたものを脱ぐと、深く舌を絡めたまま相手の下半身に手を伸ばす。
押し付けられるそこが熱い。
一度唇が離され、触れるか触れないかのところで、風間の舌が孔の唇を愛撫する。
唇を開いて誘うと、また唇が落ちてきた。
舌を絡める。
キスだけでもいってしまいそうだ。
440: 二つのスプーン 2/5 ◆Cf6pwGhzSc 2010/05/07(金) 00:40:21 ID:dzzXtVS90(3/6)調 AAS
あと何回か上下されたらいく、と孔が思った瞬間、風間が孔を愛撫していた手を離し、自分の唾液を指につけると、孔の脚を広げさせて小さなすぼまりにゆっくりと塗り付けた。
「あ、あっ、風間、なに」
知らぬ感覚にぞくぞくと背中を何かが這い上がる。
耳元で風間に囁かれ、孔はきつく目をつぶった。
「ここに、孔の中へ通じる扉がある…」
「かざま、…あっ」
ぬめりの助けを借りて、風間の指先、ほんの少しが窄まりの中に入った。
異物感に孔が声を上げる。
「あっ、あぁ、」
「私がゆっくり時間をかけて鍵を開けてやるから、」
孔が握る屹立したものを、意識させるように動かす。
「これを、入れさせろ」
未知の快感が孔の身体を走り抜ける。
再び孔の一部は風間の手に翻弄されていた。
「お前が私の背中に痕を付けろ…孔」
「は、あっ、…は、」
これ以上ないというほど張り詰めてとろとろと透明の液体を落としていた孔は、その声を聞いて、達した。
途中で理性を失しかけると言う経験を、風間は初めてした。
本当は、もっと時間をかけるつもりだった。
しかし、これはどうだ。
ブレーキが利かない。
孔に触れる度、孔の顔を見る度、孔の視線に見つめられる度、風間の胸の中に激しい何かが沸き起こる。
一体孔の何が風間をこうも駆り立てるのか、全くわからなかった。
相手は男だ。
しなやかではあるが太い骨格を持ち、鍛えられた筋肉をその上に張り付け、張り詰めた皮膚が覆っている。
孔が自分に触れる、それだけで興奮する。
大声でこの男は自分のものだと怒鳴りたくなる。
441: 二つのスプーン 3/5 ◆Cf6pwGhzSc 2010/05/07(金) 00:42:36 ID:dzzXtVS90(4/6)調 AAS
自分の恋は不毛のままに終わると思っていた。
思いを伝えることも出来ないと思っていた。
と同時に、もし孔を手に入れることが出来るなら、この自分の乾きは治まるかもしれないとも思っていた。
けれども、孔に触れれば触れるだけ、乾きが強くなる。
もっと。
もっと。
孔、お前を私にくれ。
私を好きだと言え。
舌を絡め、ぬめる口内を吸い上げながら、こんな寓話がなかっただろうか、と考える。
飲んでも飲んでも咽喉が渇く、王様の話。
なかったか?
ああくそ、孔。
薄いゴムに覆われた風間が、狭い中に入っていく。
回数と時間をかけるべきなのを十分わかっていて、しかし風間には全く余裕がなかった。
ぬるぬるとぬるつく人工の液体が侵入を助ける。
孔はきつく眉を寄せて、風間を見上げている。
広げられた脚の間に入り込み、ゆっくりと腰を進めていくと、ぎりぎりと差し込むような苦しい喜びが風間の胸を突き上げた。
汗がこめかみから頬を伝って流れ、顎の先から孔の腹の上に落ちる。
額から流れた汗は鼻の先から落ちた。
全てが納まり、皮膚と皮膚が密着すると、孔は背をそらせて呻き声をあげた。咽喉があらわになる。
孔の首筋から汗が流れ落ちるのが見える。
上半身を倒して孔の腰の下に手を差し込み、もっと密着するように抱え上げる。
孔の汗と自分の汗で腕が滑る。
「孔、私の背中に手を回せ」
関節が白くなるほどシーツを握りしめていた指がこわばりながら開き、溺れる人間のように風間に回された。
かき抱かれる。
442: 二つのスプーン 4/5 ◆Cf6pwGhzSc 2010/05/07(金) 00:45:07 ID:dzzXtVS90(5/6)調 AAS
孔、お前が私に痕を付けろ。
あの時付けられた痕とは、全く意味合いの違う傷を。
お前の所有の証を付けろ。
私はお前の物だ。
一体、あれから何度の夜が過ぎただろう。
目が覚めると、カーテンの隙間から明るい日差しが差し込んでいた。
大きく伸びをして、風間は孔を見やる。
孔が目を開き、風間を見て笑った。
「おはよう」
風間が口を開いた瞬間、孔も同時に口を開いて、声が二つ重なった。
少しばかり感動を覚えて、風間は孔を眺めた。
時々、こうやって誰か自分達以外のものが謀ったかのように、孔との行動が重なることがある。
思考を読まれているのかと疑うほど、自分が考えていることを口に出されたりもする。
そう言う時、風間は一冊の本を思い出す。
遠征のために新幹線に乗らなければならなかったことがあった。
スポーツ雑誌でも購入して手持ち無沙汰を解消しようと駅構内の本屋に立ち寄り、文芸誌のコーナーを通りかかった時、普段は目に留まらないハードカバーの本が目に付いた。
作者の名前もかなり個性的なそのミステリは、風間の好奇心をちょっと刺激した。
ほんの2時間程度の旅である。旅の供に、たまにはこう言うのもいいかもしれない。
風間はその黒い表紙の本を手に取ると、レジへと向った。
短編集だった。一話目は、探偵とその助手が、古い友人に助けを請われ、ある屋敷へ赴く話だ。
探偵と助手が、友人の服の裾を掴んでいる子供に挨拶する。
その声が、「二つのスプーンが重なるように」ぴたりと重なる。
読みながら、風間は、男同士でずいぶん仲の良いことだなと単純に思った。
揶揄する気持ちではなく、ただ印象に残ったのだ。
孔と声が重なるように同じことを言うという体験をするようになって、風間の脳裏に浮かぶのは、その短編だった。
二つのスプーンのように重なる二人の声。
そして、少しばかり使い込まれて、瑕が付いていたり、光が鈍くなったりしているそれが、テーブルの上に重ねられて置かれているイメージ。
443(1): 二つのスプーン 5/5 ◆Cf6pwGhzSc 2010/05/07(金) 00:48:06 ID:dzzXtVS90(6/6)調 AAS
これからもスプーンには瑕が付くだろう。使われて、新品の輝きは失われていくだろう。
それでも、一緒に重ねれば、寸分の狂いもなくぴたりと重なって落ち着く。
一緒に暮らしてはいなくとも、孔とそんなふうに時間を重ねられればいい、と、風間は思う。
「どした?」
孔の顔を見つめながら物思いにふけった風間に、いぶかしげに孔が声をかける。
我に返った風間は、「なんでもない」と答えながら、小さく笑った。
「コーヒー、飲むか?」
「ありがとう、貰おうか。午前中、ちょっと田村さんのところまでちょっと出かけてくる」
「田村サン…誰だっけ。私知ってる人?」
「そうか、知らないのだな。星野と月本が小さい頃から卓球をやっていた所の人だ」
日本代表の選抜試合で、風間は負けた。
夢に向かって最大限の努力をし、しかし伸ばした手は届かなかった。
後悔はない。
やるだけのことはやった。
どのような結末であれ、風間はそれを受け入れる。
自分が卓球から離れることなど出来ないことも承知で、夢が手に届かないことも思いしらされて、考えなければならないのはこの先のことだった。
負けについては納得している。
気持ちは穏やかだ。
しかしふと、口の悪い、しかし愛情深い、「オババ」と呼ばれる田村の顔が見たい、と思ったのだった。
「うん、わかった」
「午後には戻る。そうしたら、買い物にでも行くか」
「いいよ。何買う?」
そうだな、と風間は呟いた。
「揃いのスプーンを買いたいのだが、どうかな」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ありがとうございました!
444: 2010/05/07(金) 04:21:20 ID:fEK/E7tV0(1)調 AAS
>>408
勝手にmy保守で読ましていただきました
大変な萌えをありがとうございます
>>434
通じ合ってる2人イイヨイイヨー
アニバおめ!来年は20年か…
445: 2010/05/07(金) 05:15:56 ID:32SfCmd7O携(1)調 AAS
>>443
GJ
うおおドラチャイうおお新しい扉すぎるうおおおお
チャイナの片言とドラゴンの固い喋りがかわいくてたまらんです
お疲れ様でした!
446: 2010/05/07(金) 13:21:17 ID:snapPuF9O携(1)調 AAS
>>438
GJ
長年このカプを好きでいて良かったよ
お疲れ様でした
447: 2010/05/08(土) 23:20:53 ID:PTPwM3Zg0(1)調 AAS
ただ今、棚の保管庫の掲示板にて、作品へのレス・感想について議論しております。
よろしければ下記urlへ
外部リンク:s.z-z.jp
448: 連鎖<三條>1/9 ◆DEP4IVx7X6 2010/05/09(日) 22:30:04 ID:1ys8p8tl0(1/9)調 AAS
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの三條×武智→飛来×武智。エロ少々だが有。起承転結の転しか無い感じになってます。
噛み締める唇を解かせようと指を差し入れれば、それは笛を扱うものだと知っているからか歯を立てない。
情事の最中ですらそんな理性の働く武智を、三條は可哀想にと想う。
明かりを抑えた寝所に二人きり。膝の上に抱え上げ貫く体はすでに溶け、無意識に揺れる腰を
もう止められずにいると言うのに、その表情にはいつまでも苦悶の色が残る。
眉間に深く刻まれた皺。
何故だろう。彼はいつも罰を受けるかのように、この行為に身を沈める。
確かに初め方は間違えた。それでもそれ以来無理を強いているつもりはないのに、武智の体と心の
乖離の溝は一向に埋まる気配を見せない。
それは淋しくも憐れな事だと三條は思う。だから、
含ませた指で口腔内を探り食い縛る歯列を割って、三條はその奥から彼の声を引き出そうとする。
「…あっ…やぁ…っ」
下肢をじわりとした緩やかさで突き上げながら、零れ落ちるその喘ぎが止められなくなるまで。
やがて含みきれなかった唾液が口の端を伝うようになる頃、三條は武智の口からそっとその指を
引き抜くと、それを武智の指と絡ませた。そして、
「自分のええようにしなさい。」
告げた言葉に、それまで力を失くしていた武智の瞳がわずかに揺れる。
傷ついた光をちらりと覗かせ、しかしそれはすぐに閉じられると、両の手を捕らわれたまま、
彼は自らその身を蠢かせだした。
「あぁ…っ…ん…ぁっ…」
快楽を追う。それはけして悪い事ではないだろうと思う。
人を欲しくなり、肌を合わせたくなり、共の快楽に溺れる事を望むのはけして罪ではない。
それを武智の身体は知っているようになのに、心だけは頑なにそれを受け入れようとしない。
「…ひ…ぁっ…もう…」
そして望むのはいつも終わり。
許してくれ。もう早く終わってくれ。その為ならば、と自分の上でその身体が淫らにうねる。
何もかもが裏腹な、そんな彼に沸き上がる感情は憎らしさと愛おしさ。
あぁ、自分までもが引き摺られる。
その自覚に微かな苦笑を浮かべながら、三條はこの時武智の手を引き寄せると、彼の望みを叶える為、
その体を自分の下に組み敷いていた。
449: 連鎖<三條> 2/9 ◆DEP4IVx7X6 2010/05/09(日) 22:31:20 ID:1ys8p8tl0(2/9)調 AAS
「大丈夫ですか?武智。」
事が終わり、名を呼び、言葉なく茫洋と目を開けている武智の頬に手を添え、そう声を掛ければ、
それに彼は瞬間ハッと意識を戻したようだった。
「申し訳ありません…すぐに…」
上げすぎたせいか、すっかり掠れてしまっている声でそう言いながら、三條の腕の中から辞そうとする。
しかしこの時、三條はそれを許さなかった。
「まだ無理でしょう。もう少しここにおりなさい。」
言いながら膝の上、横向きに座らせた武智の身体を抱え直す。
それに武智は逆らわなかった。いや、逆らう力も無いようだった。
ぐったりと手足を投げ出し腕の中に収まる、その身がひどく重く感じるのは彼が疲れきっているからだと、
手に取るようにわかる。
相反する心と体に必要以上の気力と体力を削り取られている。
それでいてそんな行為から逃げようとしないのは、やはりこれが彼にとって罰だからなのだと三條には思えた。
「武智は、私が嫌いですか?」
それ故、思わず口をついた言葉。それに腕の中で武智の瞳が持ち上がった。
「……三條…さま…?」
「おまえはいつも私とこうする時つらそうだ。それは私が嫌いだからですか?」
「…そんな事は…っ」
「ならば好きですか?」
「…………」
「好いた相手にも、このような抱かれ方をするのですか?」
「…この…ような……」
言われた言葉に、戸惑うような武智の呟きが零される。
反応する所はそこなのか、そう思えば少しだけ可笑しくて、三條はこの時腕の中の武智を肩を
強く抱き寄せるとその言葉を続けた。
「別に責めているつもりはないのです。ただもしそうなら、たとえ好いた相手が私でなくとも
それは憐れな事に思えてね。」
「……あわれ…」
「望む相手と肌を合わせて気持ちようなる事は、けして悪い事ではないのですよ。」
「………っ…」
「恥じる事でも、苦痛に感じる事でもない。それどころか自分の腕の中で共の快楽に溺れてくれれば、
それはひどく……愛おしい。」
450: 連鎖<三條> 3/9 ◆DEP4IVx7X6 2010/05/09(日) 22:32:26 ID:1ys8p8tl0(3/9)調 AAS
伸びた指が武智のほつれた髪を撫でる。
それにこの時武智はひどく驚いたような目を向けてきた。
黒い瞳が行灯の淡い光を受けてゆらゆらと揺らめいている。
その動揺が、三條にはひどく不憫だった。それは、
「今まで、おまえにそう教えてくれる者は誰もいなかったのですか?」
彼の、おそらくは自分が知りえる事の無い、過去に対して。
「ならば、それはやはり可哀想な事です。相手も、おまえも。」
告げた言葉に返される声は無かった。
それは図らずしも己の推測の正しさを意味しているようだった。だから、
「変な事を言っていますね、我ながら。でもそう言わずにはおられぬほど、私はおまえが好きですよ。」
少しだけ笑みを含ませた声でそう囁き、三條はこの時もう一度武智の顔を胸元に押し付けるように抱き込む。
それに武智は抗わなかった。
しばしそのまま身を添わせ、その果て、
ありがとうございます―――
ひそりと耳に届いた小さな呟き。
それは好いた相手は自分ではない、別の者なのだと言う事を素直に告げていた。
けれどそれを三條は刹那、これでいいのやもしれぬと思う。
あれは、そんな自分だからこそ言ってやれた言葉だった。
これがもし、この愚直なまでに己に厳しく、それでいて誰よりも人寂しい魂を自分だけのものに出来る
可能性のまだある身であったなら、おそらく自分はこんなふうに彼を思いやる余裕など持てなかっただろう。
抱き寄せて、触れるぬくもりの柔さに知る恋情の深淵。
見える。
この魂が手に入るとなれば彼に想いを寄せる者はきっと、それはその想いが強ければ強いほど、
気が……狂うのだ――――
451: 連鎖<武智> 4/9 ◆DEP4IVx7X6 2010/05/09(日) 22:33:34 ID:1ys8p8tl0(4/9)調 AAS
三條邸を辞し、その日予定していた他藩士との会合を済ませ、藩邸に戻ったのは日が西に傾く頃合だった。
まっすぐに自室へと向かい障子戸を閉めると、武智はそのままその場に座り込む。
頭がひどく重かった。原因はわかっている。昨夜、三條に言われた言葉のせいだ。
『望む相手と肌を合わせて気持ちようなる事は、けして悪い事ではないのですよ』
今日一日脳裏に巡っていたその言葉を、武智はそんな事……と胸の内で一人ごちる。
そんな事、これまで考えた事も無かった。
物心ついた頃から奪われ、汚されるだけの行為は、慣れてゆく身体と共に自分には嫌悪しか感じない。
だからこの身体も道具でいい。
けれどそんな嫌悪をあの人は罪ではないと言う。
好いた相手とならば違うのだと。
それどころか、それを知らなかった自分は可哀想だとまで……
うつむき、落とす視線を動かせぬまま、武智はそんな事はない、と心の中で否定する。
しかしそうする矢先にも、しかし…と揺れる想いが脳裏を埋ずめてゆく。
昨夜から何度この繰り返しに苛まれているのだろう。
その度に目の奥に浮かんでくる一つの面影に、武智はこの時その目元を苦く歪める。
浮かぶ顔はいつも自分を痛ましげに見下ろしていた。
心配そうに、そして時折つらそうに。
それを自分はずっと同情なのだと思っていた。
優しい者だったから、憐れに思い相手をしてくれているのだとも。
でなければ何故、わざわざこんな汚れていると知っている身を………
しかしそれでいて自分が彼に与えてやれるのも、またこの身体しかなかった。
心など伴わなくても男が快楽を追える事は嫌と言うほど知っている。
だから使ってくれればいいと思っていた。思っていたのに……
それすらあの人は互いが憐れだと言った。
ならば自分はどうすればいい。
思考の堂々巡りに知らず、深い息が口をつく。と、その時、
「失礼します。先生、お戻りですろうか?」
障子一枚を隔て、不意に聞こえた声に武智はびくりと肩を震わせた。
咄嗟に背後を振り返り、それでもなんとか返事を返す。
するとそれを合図とするように横に引かれた戸の向こう、姿を見せたのは収次郎だった。
452: 連鎖<武智> 5/9 ◆DEP4IVx7X6 2010/05/09(日) 22:34:42 ID:1ys8p8tl0(5/9)調 AAS
「お疲れ様です……と、どうされたがですか?」
着替えもせぬまま座り込み、動けずにいた自分を見て、収次郎が不思議そうな顔をする。
しかしその眼差しはあらためてこちらをしかと認めると途端、怪訝な色を濃くした。
「なんや顔色が悪いようですが。気分でも悪いがですか?」
少しばかり慌てたように部屋の中に入ってきたその身が、立てずにいる自分の側近くに膝を
付いてこようとする。
しかし武智はそれを遮ろうとした。
「なんちゃあない。ちっくと疲れただけじゃ。」
言いながら逆に立ち上がろうとする。しかしそれはこの時、為される事はなかった。
不意に目の前を襲った暗闇。
それが目眩だと気付く前に、傾いだ肩に手が掛けられた。
「先生っ」
名を呼んでくる収次郎の声と、支える為にこめられた手の力。
それに武智は懸命に体勢を立て直そうとするが、この時目眩はなかなか治まってはくれなかった。
しばし収次郎に支えられたまま目を閉じる。それでも、
「……すまん…」
やがて平衡感覚がようやくに戻り、もう大丈夫だと武智はなんとかその身を起こそうとする。
しかしそれをこの時、収次郎は許してはくれなかった。
肩を掴む手に力を込められたまま、それを不意に強く引かれる。
えっと思う耳元に唇が寄せられ、落とされた言葉。それは刹那、武智の背筋を凍らせた。
「昨夜は三條様のお屋敷でしたか。」
「――――」
「ええ匂いがします。」
それは、おそらくは移り香だった。
昨夜一晩、その腕の中に包んでくれていた人の……
思い至った瞬間、武智は反射的に目の前にある収次郎の胸を強く押し返していた。
寄せていた身が離れる。
するとそんな自分の反応に収次郎は瞬間、困ったような、それでいてどこか悲しそうな顔を見せた。
が、彼はそれをすぐに表情から掻き消す。そしてその代わり、
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