[過去ログ] 【小説】スナック眞緒物語【けやき坂応援】 (1002レス)
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482: (東京都) 2019/07/22(月)23:15 ID:0m+wXHt30(1) AAS
保守
483: (東京都) 2019/07/23(火)22:21 ID:xvm5a5xY0(1) AAS
妖精の詩(その1)
2017年の夏は酷暑だった。
東京タワーの特別展望台の屋根の上に妖精ムーは座っている。
人が思っている心の声も妖精は聞くことができる。
東京タワーは改修作業中で、数人の作業人たちの心の声がムーには聞こえていた。
「なんて暑さだ!高所での作業の上にこの暑さじゃ目が回りそうだ」
「暑くて作業が進まん。この調子だと工期を守ることができんな」
「早く終えて涼みたい。こうも暑いとアイスクリームよりやっぱかき氷だな」
下界で騒々しい声がした。
下を見た作業人の一人が大声で叫ぶ。
省4
484: (東京都) 2019/07/24(水)22:36 ID:7bynllLi0(1) AAS
妖精の詩(その2)
嘆き悲しみ呆然と佇むムーを心配して、妖精ナガルがやってくる。
「ムーちゃん、気持ちはわかるけど、人間にかかわろうとし過ぎじゃない?」
「ナガルちゃん、ずっと考えていたことがあるの。私、人間になりたい」
「え?あんな悲惨な事故を見たばかりなのに、そう思うの?人間って限られた命しかないんだよ」
「人間って、色というものを見ることができるらしいね。私も色を感じてみたい」
「だから、その色を見るためには生身の体を持つしかないんだよ。そして、それはいつか滅んでしまうので、死ぬ運命から逃れられない」
「あの生身の肉体が私は羨ましい。永遠に漂うよりも自分の重みを感じてみたい。大地に立って、生きる者だと実感したい。寒さも暑さも感じてみたい。かき氷も食べてみたい」
「・・・・・」
「そして、あのコともお友だちになりたい」(続く)
485: (神奈川県) 2019/07/25(木)20:17 ID:ZlKlWVc40(1) AAS
続き〜
486: (東京都) 2019/07/25(木)23:36 ID:jhiQGeC20(1/2) AAS
どうもどうも。
でも、あんまり期待しないで。
487: (東京都) 2019/07/25(木)23:37 ID:jhiQGeC20(2/2) AAS
東京・妖精の詩(その3)
ムーは一人の少女をずっと見守り続けていた。
あるアイドルグループに所属していて、名前を今泉佑唯といった。
ムーが佑唯を初めて見たのは、そのアイドルグループの握手会場にたまたま舞い降りたときだった。
何千人もの話し声が聞こえたが、心の声だけを聞くことにムーは集中した。
「今日が初めての握手だ。緊張するなあ」
「運営のボケカス。いつまで待たせてんだ。もうちょっと要領よく列を整理しろよ」
「おい、人の体に気やすく触るんじゃねえぞ。剥がそうとしなくても、離れようとしていることくらい気づけ!」
その中に今までに出会ったことのない心の波形を感知した。
その主が佑唯だった。
省2
488: (東京都) 2019/07/26(金)22:44 ID:NWHmd2kV0(1) AAS
妖精の詩(その4)
その後、佑唯を観察し続けて、佑唯がどのような状況であるのかをムーは知った。
佑唯にはグループのセンターに立ちたいという強い願望はたしかにあった。
だが、自分ではない別のメンバーをセンターに固定していくという運営の固い方針にも一定の理解を示していた、
その願望を押し殺し、問題なく日常を過ごしていたようだった。
ところが、思慮の足らないあるいは悪意のある一部のファンの変な働きかけのせいでその安定が崩された。
そして、案の定、4thシングルでもセンターは今まで通りで、佑唯ではなかった。
部屋の中で一人でいると、「ずーみん、フォース、センター、おめでとう」という声が聞こえてきて、
何度も頭の中で繰り返され、その度ごとに大きくなっていった。
センターへの渇望が刺激され、現状との乖離に苦しみ、やがてはシンバルのような大きな音が頭の中でガンガン響くのだった。
省4
489: (東京都) 2019/07/27(土)23:23 ID:qeOoh17b0(1) AAS
妖精の詩(その5)
この日もムーは佑唯の部屋に舞い降りた。
相変わらず気持ちが沈んだままの佑唯の心の声をムーは聞く。
何も考えないようにしよう・・
でもあの声はまた忍び寄ってくる・・・
今日もまた夜が怖い・・・
耐えられない・・・
アイドルはもう辞めよう・・・
その苦しみを自分のことかのようにムーは受け取った。
救いを与えるように佑唯を強く抱擁しても、やはりムーの手は佑唯の体を通り抜けるだけだった。
省6
490: (東京都) 2019/07/28(日)23:00 ID:yeWXq8BG0(1) AAS
妖精の詩(その6)
佑唯は全快し、幕張メッセでのライブで復帰することとなった。
バックヤードでは佑唯には特別に個室が与えられた。
見守り続けていたムーは安心しきっていた。
ところが、テーブルの上にあったコップを佑唯は落としてしまい、その破壊音によってフラッシュバックが起こった。
頭の中でシンバルが鳴る。
恐怖のあまり佑唯はぎゅっと目をつむり、膝から崩れ落ち、頭を抱えた。
今までの苦しかったことが佑唯の脳裏には次から次に去来した。
「大丈夫、大丈夫」と言いながら、ムーは佑唯をぎゅっと抱きしめる。
苦しかった出来事を見えない誰かと一緒に佑唯は向き合った。
省6
491: (東京都) 2019/07/29(月)22:32 ID:+3b2FOVl0NIKU(1) AAS
妖精の詩(その7)
佑唯を見守っているムーの様子を見に来ていたナガルは、ムーが出て行った後に部屋に舞い降りた。
なぜムーちゃんがあれだけ人間に関わろうとしているのかが今なら分かる気がする。
死という絶対的なゴールが人間には待ち受けている。
だけど、限りある人生だからこそ必死に生きて、その短い生涯の中で泣き笑いのドラマが濃密に詰め込まれている。
その中で苦しみや不幸にも見舞われるんだ。
でも、喜びに満たされるときもやって来る。
その時間はどれだけ大切でかけがえのないことか。
それに引き換え、私たちは単調なことの繰り返し。
苦しみもなく喜びもなく終わりなき日常を過ごすだけ。
省11
492: (東京都) 2019/07/30(火)22:00 ID:0AIhYPry0(1) AAS
妖精の詩(その8)
次元のトンネルの入り口にムーとナガルは立っていた。
「私はまだ一線を越えられないけど、ムーちゃんの決断はもう止めない」とナガルは言う。
「ありがとう」とムーは返す。
「ここから次元の流れに入るのね。岸などなく、次元の早瀬を下っていくと、その先で人間に生まれ変わることができる」
「うん」
「ところで、ムーちゃん、人間としての名前は決めたの?」
「ええ、上村莉菜にした」
「いい名前ね、実は私も長濱ねるという名前に決めたの。まだ、人間になることも決断していないのにおかしいでしょう。
では、気を付けてね。ムーちゃんの幸運を祈っている」
省2
493: (東京都) 2019/07/31(水)23:28 ID:zBaRpw3n0(1) AAS
妖精の詩(その9)
気絶していた上村莉菜は公園の中で目覚めた。
それまでモノクロにしか見えていなかった世界がカラーとなっている。
これが色というものなの!
通りがかった中年女性に木の葉を指差しして莉菜は尋ねた。
「あの色は何ですか?」
「え?あなた、からかっているの?」
「いえ、そんなつもりは・・・。信じてもらえないかもしれませんが、私、ついさっきまで色が見えなかったんです」
「なにか事情がありそうね。いいわ、教えてあげるわ。あれは緑ね」
郵便ポストを指差して、「あれは?」と莉菜は尋ねる。
省11
494: (東京都) 2019/08/01(木)22:05 ID:yT8DRTM50(1) AAS
妖精の詩(その10)
中年女性が去った後、様子を見ていた若い女性が近寄って話しかけてきた。
「あなた、もしかして?実は、私もそうだったのよ。どう、生身の体の調子は?」
「調子はいいんだけど、色が見えるって不思議な感じ。まだ慣れないかな。けっして不快じゃないんだけど生々しすぎる」
「うふふ。その色が幻想と言ったら、驚くよね」
「え?どういうことなの?」
「色を付けるというのは人間の脳の仕業なのよ。
長い波長の可視光には赤を、短い波長の可視光には紫を脳は色付けするの。
その可視光というのは電磁波の一種で、赤色の可視光よりも長いか、紫色の可視光よりも短いかの電磁波は人間の目には見えない。
可視光とそれ以外の電磁波とでは単に波長が違うだけだから、可視光を特別なものとしているのは脳の仕業にすぎないのよ」
省2
495: (東京都) 2019/08/02(金)22:08 ID:O0fuHc750(1) AAS
妖精の詩(その11)
「じゃあ、あなたと私とでは、緑色と赤色とが逆になっているかもしれないとしたらどうかしら?」
「え?本当にそうなら、混乱して、コミュニケーションが取れなくなるんじゃない?」
「目を閉じて、緑色をイメージしてみて」
莉菜は言われたとおりにする。
「簡単にイメージできるわよね」
莉菜はうなずく。
「じゃあ、その緑色のイメージを言葉で説明できる?」
「『葉っぱの色』と答えたら、説明したことにならないの?」
「葉っぱの色ってどんな色?」
省7
496: (東京都) 2019/08/03(土)23:30 ID:ffGqHU+m0(1) AAS
妖精の詩(その12)
莉菜は下を見て考え込んで黙ってしまう。
しばらくしてゆっくりと頭を上げながら、莉菜は言う。
「あなたの言いたいことがようやく分かった。
人間の内在する感覚は異なっているかもしれないし、その感覚でとらえられた色そのものは他の誰にも見せることができないので、
それが違っている可能性もあるってことね。
だったら、色というものは脳によってつくられた幻想にすぎなく、本当は存在しないということになる。
でも、やっぱり、幻想であるというにはあまりにも色は生々しすぎる」
「うふふ。色が生々しすぎるということには私も同感なのよ。色だけでなく五感でとらえられるすべてのものが生々しい。
人間の体というのは果てしない神秘ね。
省7
497: (東京都) 2019/08/05(月)22:53 ID:AYzsGU1g0(1/2) AAS
妖精の詩(その13)
佑唯は人探しのため街中をさまよっていた。
探偵事務所にも依頼したが、何の情報量もないということで断られて、途方に暮れていた。
容赦なく照り付ける日差しと地面からの照り返しとが道路も人もビルも揺らめかすほど暑かった。
街角に女性易者を見つけ、藁をもすがる思いで占ってもらった。
「その人は男性?女性?」
「たぶん女性だと思います」
「名前は?」
「わからないんです」
「どんな顔しているの?」
省6
498: (東京都) 2019/08/05(月)22:56 ID:AYzsGU1g0(2/2) AAS
妖精の詩(その14)
脱水症状で限界まで達しようかとしている佑唯はようやくかき氷屋を見つけて入った。
カウンターが7席で二人掛けのテーブル席が3つの鰻の寝床のような店内だった。
暑さでびっしょり濡れていた佑唯の体から大粒の汗が床にしたたり落ちる。
色とりどりのシロップがかけられているかき氷をカウンターの奥の席で食べている女性がいた。
その横顔を見て、佑唯は涙が止まらなくなった。
探している人だと直観したのだった。
店員から席に誘導されるが、佑唯にはその言葉が耳に届かない。
大きく深呼吸して、その女性の隣の席に向かった。
その軌跡を示すかのように点々とした汗が続く。
省3
499: (東京都) 2019/08/07(水)22:54 ID:l9h9AulB0(1/7) AAS
妖精の詩(後書き)
原案
ヴィム・ヴェンダース監督の映画「ベルリン・天使の詩(うた)」

参照
森田真生著「数学する身体」

ジョアン・エクスタット&アリエル・エクスタット著「世界で一番美しい色彩図鑑」
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(1): (東京都) 2019/08/07(水)22:56 ID:l9h9AulB0(2/7) AAS
「ベルリン・天使の詩」は詩的イメージでつくられ、論理の飛躍や矛盾が散見される映画である。
また、いろんな解釈ができるのだが、「人間の命には限りがあるからこそ輝く」というテーマもその一つになっていることは間違いない。
それを骨子とした。
501: (東京都) 2019/08/07(水)22:59 ID:l9h9AulB0(3/7) AAS
おおよそのストーリー展開も真似たが、天使を妖精に置換した。
天使はキリスト教(や源流が同じユダヤ教やイスラム教)の概念であり、妖精はケルト神話の概念ではある。
だが、少なくとも表向きは、「ベルリン・天使の詩」はキリスト教臭はほとんどしないので、その置換はごく自然にできた。
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