[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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995: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/11(月)00:40 ID:YBVQg99/o(1/5) AAS
「あぁ……」
すっかり忘れていた。熱が冷え切っていた。
あんなに固執していたのに。
ここ数日、零を探して駆け回っていたのも、わざわざ戦闘に乱入したのも、その為だったはずなのに。
「けど、これからもう一勝負ってのは流石に俺も疲れてるし、あんこちゃんだってその足だろ。
また後日、仕切り直しってことで……」
もちろん、エスコートの方なら大歓迎だけど。
そう冗談めかして言う零を、杏子は見ていなかった。
――こいつの目に、あたしはどう映ってたんだろう。
いや、それ以前に、あたしはどんな人間だったろう――
誰にも頼らず、手を差し伸べたりもしない。
ドライな現実主義者。一匹狼の魔法少女。歴戦の古兵。
もっとも、彼にしてみれば血気に逸る未熟者扱いだろうが。
意識して振舞っていた訳ではないが、こんなところだろうか。
他人との関わりを避けてきたので、客観的な自分がわからない。
深く関わったと言えるのは二人だけ。
他にも色々と想像するのだが――。
すべてが"しっくりこない"。
かつてない奇妙な感覚だった。
今なら鏡を見ても同じ感想を抱きそうな気がする。
――あたしは……あたしがわからなくなった……?
996: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/11(月)01:21 ID:YBVQg99/o(2/5) AAS
では何故、何が変わったのだろうかと考える。
原因はすぐに思い当たった。
たぶん、ホラーに見せられた幻。
炎と氷。現実と虚構。
相反するふたつが溶け合う中で、杏子はまざまざと見せつけられた。
まずは二人の男女が愛し合う光景。
二人は幸せそうだった。
自分には手に入らない幸福だが、妬む気が湧かなかったのは経験のなさ故か。
最初こそ理解が追い付かなかったが、次第に悪い気はしなくなった。
公園、レストラン、コンサートホール、二人の部屋、ベッド。
どこでも二人の間には笑顔と愛の囁きがあった。
それだけに、恋人たちの不幸、そして無残な結末には胸が痛みもした。
男の死も、女が堕ちていく過程も、ホラーに憑依される最期も。
哀しいと思う。恐ろしいと思う。
しかし、所詮は他人事。それだけなら、こんな気持ちにはならない。
ホラーが見せた第三幕――いや。
あれは本当に、ホラーが見せた幻覚だったのか。
零に揺り起こされるまでに見ていた夢。
同じように、ある貧しくも幸せな家庭が崩壊するまでの一部始終だった。
997: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/11(月)02:03 ID:YBVQg99/o(3/5) AAS
初めてではなかった。むしろ、嫌になるくらい見飽きていた。
数えきれないほどの悪夢。
それでも夜毎うなされ、目覚めた時には汗だくになった。
最後の幻を見た時、ふたつの悲劇が杏子の中で重なった。
恋人たちと家族、どちらも崩壊の最後の引き金を引いたのは人間だ。
或いは後者は既に人間ではなく、魔法少女という異形だったのかもしれないが。
――そういや、誰かが言ってたっけな……。
幸せは長くは続かないと。
人は変わる。
人は死ぬ。
どんな想いも、いつかは消えてなくなる。
親子も兄弟も友達も恋人も。
強く絆で繋がった大切な者同士でさえ、変化と別離から逃れられない。
人は幸せな時の中で生きていけはしない。
この世界の絶対的な摂理。
なら、愛とは一瞬の幻想に過ぎないのか。
そんなこと、頭ではとっくにわかりきっていたはず。
それでも――。
998: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/11(月)03:13 ID:YBVQg99/o(4/5) AAS
これまで他人が破滅するのを無感情に見過ごす程度には汚れていても、
破滅する様を眺めて溜飲を下げたり、まして自分の手で突き落としはしなかった。
そこまで腐ってもいないつもりだった。
杏子が罪を犯しながらも一線を越えなかった理由。
まだ心のどこかで、この世界を信じていたからかもしれない。
自分の境遇は自業自得と受け入れていても。
それでも、どこかに幸せは転がっていて、
それを掴んだ人間は変わらぬ幸せの中で生きていけると。
故に、二人の結末は痛烈に突き刺さった。
考えてしまったのだ。
たまたま自分が幸福の輪から弾き出されること。
最初からそんなものは幻想で、世界のどこにも存在しなかったこと。
果たして、どちらが真実で、どちらが幸せなのだろうか。
この二人に限らない。
思い起こせば、魔女を追う過程で多くの悲劇を目にし、同時に見過ごしてきた。
自分が見過ごしてきた哀れな魔女の餌たち。その家族、友人、恋人。
魔女の口付けによって引き起こされたであろう不幸の連鎖。
それらは、すべて事前に防ぎ得たのだとしたら。
――だからって……じゃあ……どうすればよかったんだよ……!
グリーフシードの予備も尽き、ソウルジェムの濁りが危うかったことも何度かある。
真面目に使い魔を根こそぎ狩っていたのでは、今頃どうなっていたか。
ただ、確かなことはひとつ。
自分には最初から楽園を夢見る資格すらなかったのだ。
999: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/11(月)03:42 ID:YBVQg99/o(5/5) AAS
――だったら、あたしは……いったい何の為に生きてるんだろう……。
わかっている。
全部、覚悟の上で決めたこと。今さら後悔なんてしない。
不意に感傷的になってしまい、虚しくなっただけ。
思考を打ち切り、立ち上がる杏子。
軽く爪先で床を叩く。ほとんど痛みは消えていた。
冷たい雨に踏み出すと、
「……今日はいいよ。興が殺がれちまった……」
零を見向きもせずに言った。
何の為にここに来て、何をしたかったのか。それを見失って、一緒に戦意も消えてしまった。
もう、ここに留まる意味もない。
ずぶ濡れになりながら杏子が歩みを再開すると、背後で水溜まりを叩く靴音。
その直後に、
『放っておきなさいな。いい薬かもしれないわ。これで迂闊にホラーに近付かなくなるでしょうよ』
とシルヴァの声。
暗い眼差しで振り向くと、零も雨の中を追ってきていた。
彼は何を言うか迷っていたが、やがて杏子の背中に一言を投げ掛けた。
「あんこちゃん! 今日の分の借り、次の機会に取っとくぜ」
杏子はギリ、と歯を噛み鳴らす。白くなるまできつく握られた拳には爪が食い込み、
――何が借りだ……!
命助けられて、あんな醜態晒して……!
とっくに貸しなんて返されて、お釣りがくる。
むしろ借りを作ったのはあたしの方じゃねーか……!――
一瞬、怒りという名の炎が燃え上がるが、それもすぐに雨で掻き消される。
虚しい。今は何もかもが虚しかった。
冷え切った心を抱え、杏子は傷付いた足を引き摺って去っていく。
零は暫し小さくなる背中を見送っていたが――やがて自らも背を向け、逆方向へと歩き出した。
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