[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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1(28): ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/03/26(月)00:00 ID:3kJPE1Eho(1/7) AAS
特撮ドラマ『牙狼〈GARO〉』と『魔法少女まどか☆マギカ』のクロスオーバーSSです。
まどか☆マギカは基本的に第10話時点での設定で進めていますが、その後のストーリーも取り入れられる部分は取り入れていきます。
ですが、勝手な妄想、設定の改変等は入るかと思います。ご了承ください。
時系列としては、まどかは最初から。
牙狼は暗黒魔戒騎士篇(TV本編)→白夜の魔獣篇(OVA)→RED REQUIEM(劇場版)終了後から更に後、
使徒ホラーをすべて封印した直後くらいと考えています。
牙狼の映像作品はすべて目を通しましたが、設定資料集は未読。
小説は読んでいる途中です。
その為、設定と食い違う可能性があります。また、意図的に改変する場合もあります。
詳しい方はどんどん突っ込みを入れていただければと思います。
その際、軌道修正できるものは修正。できなければ独自設定ということで補完をお願い致します。
PS2ゲーム、パチンコはプレイしていません。これに関しては今のところ予定はありませんので、
経験者の方、使えそうなネタがあれば是非教えていただければ幸いです。
以上、長々と前書きを失礼致しました。
前スレ
まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇
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2: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/03/26(月)00:05 ID:3kJPE1Eho(2/7) AAS
ガロは左手に握った轟天の手綱を引く。轟天は高らかに嘶き、前足を掲げる。
使い魔の群れの中に在っても、その雄姿は埋もれることなく少女たちの眼に映った。
闇に瞬く、唯一の希望として。
地面に叩きつけた前足から生じた衝撃波が、使い魔をまとめて吹き飛ばし、道を作る。
マミの許まで一直線に駆け抜ける道を。
それだけではない。踏み鳴らした蹄の音はガロの右手の牙狼剣にも変化を促す。
金色の光に包まれた牙狼剣は、より長く、厚く、幅広の剣に巨大化した。
牙狼斬馬剣。
堅牢な皮膚を持つホラーをも容易く切り裂く、破壊力に特化した大剣である。
「ふっっ!」
ガロは左から右へと斬馬剣を薙ぎ払う。
ただ一振りで、衝撃波にも耐えてしつこく纏わりついていた使い魔が、完全に一掃される。
当然、こんな雑魚の為の斬馬剣ではない。斬馬剣は名の通り、馬ごと断ち斬ることを可能とする剣なのだ。
これは予備動作。ガロの緑の瞳には、魔女とマミしか見えていない。
魔女が捕らえたマミを振り被った。幾度も同じ場所に叩きつけられた壁面は今、彼女の血で真紅に染まっている。
その材質はコンクリートか未知の物質か。
いずれにせよ、度々の衝撃に耐えきれず破砕した壁は、尖端を剥き出しにしてマミを待ち受けていた。
いよいよ最後の時が訪れようとしていた。これに耐えることは流石の魔法少女でも不可能だろう。
後は喰われるか、薔薇の養分になるだけ。最早、一刻の予断も許されなかった。
しかし、あと少し、あと少しだけ距離が足りない。轟天の脚を以ってしても、マミが串刺しになる方が僅かに早い。
そうガロは判断し、そして轟天の脚が止まった。
3: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/03/26(月)00:22 ID:3kJPE1Eho(3/7) AAS
馬上のガロは右に薙ぎ払った剣を、更に右に流す。腰を落とし、限界まで身体を捻じる。
鋼牙の筋肉の震えを伝えて、黄金の鎧と剣がカタカタと鳴った。
待っているのだ。最大の力で、最高のタイミングで解き放たれる瞬間を。
狼の面のせいで読めはしないが、見つめる先はただ一点。
「ぉおおおおおおおっ!!」
雄叫びを上げ、ガロが身を起こす。斬馬剣を固く握った両腕を振り、伸び切ると同時に――放した。
深い溜めから、さながらハンマー投げのように斬馬剣を投げた。
放たれた剣は遠心力も手伝って、凄まじい速度で飛ぶ。
その時になって魔女が気付くが、もう遅い。既にマミに止めを刺すべく触手を動かしているのだ。
今さら回避行動には移れず、余った触手で防御を試みる。
取れる対抗策はひとつしかなかったとはいえ、それこそが最大の誤算。
牙狼斬馬剣の超重量と破壊力は、行く手を阻む触手を物ともせず、目標への道を切り開く。
慎重に狙い澄まして放たれた一投は、軌道を変えず、勢いも落とさない。
そして"たまたま途中に在った"魔女の胴と顔面を斜め下から貫き、遂にはマミを捕らえる触手を根元から断ち切った。
直後、金属を思い切り擦り合わせたような悲鳴に混じり、轟音と震動がドームを揺らす。
悲鳴は魔女から発せられたもの。斬馬剣は魔女の胴体の約三分の一、顔面の半分を切り裂いて、壁に食い込んだ。
「ぁっ……」
そんな状況で、一人の少女が漏らした呻きなど誰の耳にも届かないだろう。
ようやく触手から解放されたマミだったが、自力での着地すら叶わないほど満身創痍だった。
枝から落ちる花弁か木の葉の如く落下するマミ。
このまま墜ちても、どうせ結果は死。それを何となく予感しながらも、マミは抗えなかった。
4: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/03/26(月)00:37 ID:3kJPE1Eho(4/7) AAS
後頭部を強打し、意識は曖昧。ただでさえ霞む視界は、流れた血で赤く染まっている。
五感のほとんどを奪われ、身じろぎひとつできず、為す術もない。
奇しくも、昨夜のホラーに敗北した時と同じ状態。
だが、閉じかけられた目蓋に、絶望に暮れかけた昏い瞳に飛び込んできたもの。
黄金の光。
これも昨夜と同じだった。
光を映した瞳が、光を吸い込んでいくように徐々に輝きを帯びる。
目を見開くと、黄金の騎馬に跨った黄金の騎士が駆けてくるのが見えた。
蹄の音が次第にはっきりと聞こえ、空気の流れまで肌で感じ取れる。
認識した瞬間、朦朧とした意識が鮮明になっていく。
ガロが近付いているだけではない。マミの無意識が全身に魔力を送り、五感を働かせ、
痛みを遮断して、身体を動かそうとしていた。その姿を、もっと目に焼き付けようと。
しかし、全身が砕ける寸前だった身体を、落下までの1,2秒で修復できるはずもなく。
辛うじて動くようになったのは両腕だけだった。
ガロは手綱を繰り、轟天は手綱から伝わる意思を受け、壁に向けて跳ぶ。
以心伝心――ザルバ同様、言葉を介さなくとも轟天は主の要求に正確に応えた。
ドームの壁を四足で踏み締め、間を置かず跳躍。主をマミの許に送り届ける。
「掴まれ!」
僅かに足りない距離を埋めるべく、右手を差し出そうとするガロ。
マミも手を伸ばすが――そこで不意にガロの伸ばしかけた腕が止まった。
マミが手を握り返したとして、どうなる?
ソウルメタルの鎧に包まれた手で彼女の手を取れば、彼女の皮膚が張り裂けてしまう。
そうなれば、今のマミの状態では命取りになる。完全に盲点だった。
5: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/03/26(月)01:17 ID:3kJPE1Eho(5/7) AAS
或いは、人間とは異なる魔法少女なら結果は違うかもしれない。その頑強さ故に持ち堪えるかもしれない。
その身に纏う衣装は、激しい戦いに耐え得るよう魔法で生成された物。
覆われていない素肌にも、不可視の魔法の障壁があっても不思議ではない。
だが、いずれも確証はなく、剥き出しの手以外を掴む余裕もなかった。
確実なことはひとつ。ここでマミを助けなければ、彼女は確実に死ぬ。
指が触れるか触れないかの距離で互いに交差し、そして離れていく。
ガロが意を決して手を掴もうとした瞬間。
黄色いリボンがマミの手から伸び、ガロの手に巻き付く。
ガロの迷いを察したのかはわからない。
ただ、驚き混じりに見た彼女の瞳に困惑は既になく、戦意に満ちた輝きが宿っていた。
安堵したのも束の間。血に塗れたマミの唇が動いた。
血が喉に絡んで上手く話せないらしかったが、掠れた声でたどたどしく伝えた言葉は。
「逃げて……! 魔女が……!!」
目を遣ると、まだ息のあった魔女が再び触手を振り上げていた。明らかな重傷でありながら、その執念は凄まじい。
復讐に燃える魔女の怒りの鉄槌。下る寸前、ガロがマミに視線を戻すと、彼女もまたガロを見ていた。
一瞬の視線の交錯。そして、マミが力強く頷いた。
「応っ!」
ガロが吼えると同時に、マミはリボンを可能な限り手繰り寄せる。少しでも互いの距離を縮める為に。
振り下ろされる触手。ガロは両足を踏ん張る代わりに轟天の腹を締め、両手でリボンを握る。
それを頭上でマミごと振り回し、斬馬剣と同じく勢い良く投げた。
直後、激しい衝撃がガロを襲う。宙に在った轟天とガロが一瞬で地に叩き伏せられる。
土埃が舞い、地面を覆い隠しただけでなく、煙の如く立ち込めたそれは、魔女の視界をも奪った。
見えていたのは、ただ一人。
魔女よりも高みにいたマミだけだった。
8: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/03/26(月)02:19 ID:3kJPE1Eho(6/7) AAS
ガロは決して適当にマミを投げてはいなかった。
魔女を確実に仕留める方法、マミ自身の安全も確保できる場所はひとつ。
マミは慣性に身を任せつつも姿勢を整え、頭を進行方向に向ける。見る見るドームの壁面が、突き刺さった牙狼斬馬剣が迫る。
手に握ったリボン、ガロが放したリボンを斬馬剣に伸ばして結んだマミは、勢いを殺しながら身体を引き寄せた。
深々と食い込んだ斬馬剣は、マミが乗ったくらいではビクともしない。つまりは安定した足場となる。
眼下では、魔女が自身で巻き上げた土煙に苛立ち、闇雲に触手を振り下ろしている。それが更に土煙を立てるというのに。
ガロを探すのに夢中で、上から悲しげに見下ろすマミには、まったく気付いていないようだった。
「あなたが元は魔法少女だとしても、私はあなたを倒さなくちゃいけない……」
――それは何故?
魔法少女としての使命?
鹿目さんと美樹さんを救う為?
冴島さんへの対抗心?
それとも……――
心の声が問いかける。
迷いが再び顔を出しそうになる。
マミは首を振って、疑念を払う。
今は考えない。言い訳もしない。
「……ごめんなさい」
魔女に気取られる訳にはいかないので、そっと小声で呟く。
それでも言わずにおれなかったのだ。
リボンが螺旋に広がり、銃身を形作る。
背中を壁に押し付け、巨大な銃を抱え、両足に力を込める。
身体を射撃体勢で固定したマミは、ゆっくり下方に狙いを付けて引き金を絞る。
「ティロ……フィナーレ……!!」
必殺の光弾は完全に無防備な魔女の頭上から発射され、直撃した。
今度こそ、魔女は跡形もなく爆散しただろう。
閃光に照らされたマミの頬を、一筋の涙が伝った。
10: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/03/26(月)02:27 ID:3kJPE1Eho(7/7) AAS
ここまで。遅れを取り戻したいので、短めでしょうが近日中にもう一度くらい。
スレタイを変えようかと思ったのですが、あまり気の利いたスレタイが浮かびませんでした。
ともあれ、このスレでもお付き合い頂ければ幸いです。
>>6-7>>9
おお!早速ありがとうございます!助かります。
しかし一部は目にしていたのですが、技名はカッコいいけど
イマイチ牙狼の世界観にそぐわないような気がしないでもないですね。
叫ばせる訳にもいかず。ともあれ、こういったことができるというのは大いに参考になります。
重ねてありがとうございました。
36: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/01(日)23:57 ID:Tr+qzrIFo(1) AAS
土煙と混じった爆煙が立ち込め、下の様子は一切窺えない。
が、音や影、何より気配から察するに、少なくとも魔女は倒した。
彼女たちはどうしているだろうか。マミは残してきた二人の少女に目を向ける。
マスケットのバリアは健在。二人は見えない壁にかじり付くくらい接近して、こちらを見ていた。
両の眼にいっぱいの涙を溜めて。
みっともないところを見せてしまったと恥じ入ると同時に、本気で心配してくれる人がいることが嬉しい。
彼女たちが仲間になってくれたら、どんなにいいだろう。そうなれば、この孤独からも解放される。
もう一人でビクビクしながら結界を進む必要もなければ、今日のような予想外のピンチでも切り抜けられる。
――でも、それはたぶん許されない……。
あの娘たちが自らの望みの為に契約するならまだしも、私から誘うことは絶対に。
こんな真実なら、いっそ知らなければ良かった――
いや、勝手に決めつけて絶望するには早い。まだキュゥべえに確認もしていないというのに。
そうだ。だからこそキュゥべえを問い詰めて、はっきりさせなければならない。
どれだけ怖くても、結果的に大事な友達を失うとしても、もう目を背けることは許されないのだ。
マミは一人、拳をきつく握り締めた。
爆煙は未だ晴れない。
彼はどうしただろう。投げられた直後、黒い物が過ぎり、ガロの姿が一瞬で消えた。
触手の一撃によるものだった。
それからは確認できなかったが、かつてない威力だったのは間違いない。
地を割り、衝撃がドームを揺らした。普通なら、潰れて生きているはずもないが。
だが、あの眼は。あの瞬間のガロの眼は、犠牲を受け入れて死にゆく者の眼ではなかった。
彼なら、或いは。そう思わせる何かが黄金騎士にはある。
固唾を呑んでマミは目を凝らす。煙が完全に晴れるまでは十数秒を要した。
やがて視界は明瞭になり――。
37: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/02(月)00:13 ID:qak/jpDJo(1/5) AAS
「あれは……!」
どんなに離れてもわかる金色の輝き。轟天とガロが変わらず、そこに立っていた。
悠然と、雄々しく。
共に黄金の鎧に一点の傷もへこみもない。少なくとも、ここから見る限りでは。
上から触手が叩きつけられた瞬間、衝撃に備えていたガロは轟天を走らせた。
唯一の武器を投げたガロは、マミを逃がし、自分は黄金の鎧の防御力と轟天を信じたのだ。
激しい一撃は轟天を一瞬で地上に叩きつけたが、その蹄は確と地を踏み締め、蹴り出し、
その身とガロが圧砕される前に滑り抜けた。
まさしく刹那の攻防。
マミを斬馬剣まで投げ飛ばさなければ、もっと安全に切り抜けられただろうが、
魔女との戦いは振り出しに戻っていた。それも重傷のマミを抱え、剣を手放した状態でだ。
だからこそ魔女を倒す最大の好機を逸したくなかった。
そして、それもマミが戦う意志を示したからこそ。
マミは瀕死の状態にありながら、魔女を倒す千載一遇のチャンスに賭けた。
言葉を通じなくても、互いの意思を汲み取ることができた。
噛み合わなかった歯車が、この瞬間だけは確かに合わさっていた。
互いが為すべきことを為す。故にガロはマミに、マミはガロに託したのだ。
しかし極限の状況が過ぎてしまえば、再び心はすれ違いを始める。
マミは口元を小さく綻ばせた後、目を細めた。嬉しいとも、悲しいともつかぬ表情。
――あんなに反発していた私を救っただけでなく、信じ、命まで託した。
やはり彼が、私が逢いたくて、逢えなくて、逢いたくなかった本当の戦士なのかしら……。
でも、だとしたら私は……私の価値は――
38: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/02(月)00:32 ID:qak/jpDJo(2/5) AAS
また堂々巡りに迷い込みそうな思索を断ち切って、マミは顔を上げた。
鎧を送還すれば、斬馬剣も消える。
ならば今の内にと、投げられた時そうしたように、マミはリボンを柄に結び、ロープ代わりに身体を降下させる。
今の身体に飛び降りの衝撃は辛く、だからといって鋼牙の手も借りたくなかった。
マミが危なげなく着地したことを確認すると、ガロは鎧を送還する。
黄金の鎧と轟天が、鋼牙から抜けるように掻き消えた。
細身の剣に戻った魔戒剣が零れ落ち、地に突き立つ。
傷ひとつなく平然としている鋼牙。ボロボロで今にも崩れ落ちる寸前のマミ。
両者はどこまでも対照的で、決して埋まらない溝があるようにマミには思えた。
鎧という特性があったにせよ、何故こうまで違うのかと。それを認めた瞬間、酷く惨めな気分に苛まれる。
マミは覚束ない足取りで、一歩ごとに左右に頼りなく揺れながら、なおも進む。向かう先は二人の後輩が待つ出口。
彼女たちには、これ以上の醜態を晒したくなかった。せめて二人の前でだけは頼れるかっこいい先輩でありたかった。
歩み寄って身体を支えようとした鋼牙を睨み、手を振り払ったも、その為。
「大丈夫です……構わないでください。少し休めば治りますから……」
そうとも、少し休めば治る。常人なら明らかに潰れている衝撃でも、失血死する出血でも生きているのだから。
昨夜もそうであったように。
考えてみれば、今まで気付かなかったのがおかしい。
これまでも助からないような怪我、状況でも何とか生き延びてきた。切り抜けてきた。
それは自分の幸運故だと思っていた。いや、思い込もうとしてきた。
――でも違った。当たり前よね。とっくに人間じゃなかったんだもの……。
唇を歪め、自嘲した。
崩壊を始めていた結界はマミが歩いている間に完全に消滅して、今は暗い廃ビルの開けた空間に戻っている。
さやかとまどかを隔離していたバリアは消え、高低差もなくなった。
39: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/02(月)00:47 ID:qak/jpDJo(3/5) AAS
「マミさん!!」
「ちょっと……大丈夫なんですか!?」
口々に叫んで駆け寄ってきた二人に、
「ええ、大丈夫よ……かっこ悪いとこ見せちゃったわね……」
マミは精いっぱいの力で微笑みを浮かべた。
いくら平静を装おうとしても、笑顔のか弱さは隠せない。二人は何も言わず左右からマミを支えた。
その様を後ろから傍観していた鋼牙に、さやかが振り向く。
「まどか、冴島さんにも手伝ってもらって――」
「それは止めて!」
思わぬ強い調子に、さやかは肩を震わせ、マミ自身もハッとなる。
だからと言って、口から出た言葉は呑み込めない。焦って後から補足するしかない。
「あの、本当に大丈夫だから……傷も治りかけてるし、ね?」
鋼牙は背後からマミを観察していた。
彼女の髪飾りのソウルジェムには濁りが見られるが、まだ余裕はある。
傷も彼女の言う通り、治癒魔法の効果か徐々に回復してきている。じきに一人で歩けるだろう。
このまま帰しても問題はないだろうが、何か言い知れない引っ掛かりを覚えた。
どうしたものかと考えていると、
『放っておけ、鋼牙』
と、ザルバが呆れ声で顎を鳴らした。
40: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/04/02(月)01:01 ID:qak/jpDJo(4/5) AAS
確かに、マミが何やら意固地になっているだけなら捨て置いてもいいのだが。
「あの、マミさんには私たちが付き添いますから」
「あたしたちは一人でも帰れますし……」
マミと鋼牙の亀裂を察したのか、二人は明らかに気を使っている。
鋼牙は黙考した末、
「なら、俺は少しここを調べていく。これを持っていけ」
言って、マミに手の中の物を差し出した。魔女が落とした黒い宝石、グリーフシードである。
「それは……っ……」
それを見たマミは眉根を寄せ、口を固く引き結ぶ。何か言いたげな苦い顔。
自分だけでは間違いなく死んでいた。鋼牙に救われ、力を借りて、命辛々もぎ取った勝利である。
自分の実力と胸を張って勝利を誇れない以上、素直に受け取るのは抵抗があった。
「魔女を倒したのはお前だ。それに、どうせ俺には無用の長物だ」
鋼牙は、まだ受け取り渋るマミの代わりに、肩を支えるさやかにグリーフシードを手渡す。
そして、それきり何も言わず背を向けて、魔戒剣を拾いに歩き出した。
マミは暫らく苦い顔のまま鋼牙を見つめていたが、やがて同じように背中を向けて歩き出した。
*
マミとさやかとまどか。三人が部屋を出ると、待ち受けていたのだろうか、黒髪の少女が立っていた。
暁美ほむらだ。
傷だらけのマミを見ても揺るぎない無表情。嘲笑うでも、気遣うでもない。
41: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/02(月)01:22 ID:qak/jpDJo(5/5) AAS
ここまで。次は目標まで出来次第。
それほど遅くはならないはず。
近日中と言いつつ遅くなりました。
というのも、どうせなら切りのいいところまで書きたいと思い、
しかし手こずって進みませんでした。マミの描写が納得いかず……。
映画第二弾の朗報に狂喜していますが、実はまだ最後の二話を見れていなかったり。
近い内に視聴して、拙作を見つめ直したいと思います。
55: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:19 ID:7tfJJhllo(1/11) AAS
「ほむらちゃん、どうしてここに……」
まどかが問いかけても、ほむらは答えない。
しかし、どうしてここにいるかはわからなくとも、いつからいたかは明白だ。
結界が崩壊したのは、つい先ほど。マミの状態に微塵も反応しなかったことから考えても――。
「あんた……ずっと見てたの!?」
目を吊り上げたさやかがほむらに詰め寄るも、やはり答えは返らない。
ただ冷やかな目で詰問を受け流すばかり。
「本当なの、ほむらちゃん……?」
「だったら何?」
まどかが訊いて、初めて口を開いた。平然と、飄々と、まるで悪びれずに。
「何? じゃないでしょうが! マミさんと冴島さんがあんなに頑張って、
苦戦して魔女を倒したってのに……あんたは手助けもせずに見てたって!?」
「それはあなたたちも同じでしょう? 実際に戦った者ならともかく、
見てただけの人間に言われる筋合いはないわ」
「そんな……だって私たちは何の力もなくって……助けたくても、どうしようも……」
ほむらとさやかの口論を、まどかの苦悩を、マミはじっと黙って聞いていた。
口を開く気力も乏しい、というのもあったが、別段彼女に意見もなかったのが一番の理由。
かつての、一途に魔法少女の正義を信じられた頃なら苛立ちを覚えたかもしれないが、
今は何の感情も湧いてこない。戦うでもないのに結界の奥まで来るなんて、御苦労なことだとすら思った。
56: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:22 ID:7tfJJhllo(2/11) AAS
――まぁ、だいたい察しは付くけれど……。
わざわざ指摘するのも億劫だった。むしろ、さやかとまどかの言葉の方がマミを追い詰めた。
力ある者には戦う義務がある、なんて言葉は、きっと力のない人間が言い出しっぺだと思う。
だとしたら、力を持ったマミは、自分を捨てて大衆に奉仕しなければならない。
無関係な誰かの為に戦うなんて、さやかが思うほど簡単なことではないのだ。
それが奇跡の対価だとしても、合意のうえでの契約だとしても、真実は少女には重過ぎた。
何も知らないあなたたちごときには計り知れない懊悩があるのよ、と言えるものなら言いたかった。
過酷なこれまでと、暗いこれからに、薄々疑問と不安を抱き始めていた矢先に、昨夜から続く出来事。
意地も信念もプライドも、強大な力の前に容易く手折られ、自己満足にもならなかった。
身を犠牲にしてまで助けたかったさやかとまどかを救うこともできず、救ったのは、より強大な力。
挙句、いつか自分は屠ってきた魔女になるかもしれないと言う。忌み嫌っていた災厄そのものに。
力のあるなしなんて関係ない。戦いたい奴が戦えばいい。
それが今のマミの偽らざる気持ち。
もし、鋼牙のような強い人間が代わりに戦ってくれるなら。
もし、戦わざるを得ない理由がなければ。
今すぐにでも投げ出して、そして逃げ出したかった。
支えにしていた矜持を砕かれ、か細くとも残っていた人々を救うという使命感も意味を失うかもしれない。
もうどうでもいい、何もかもが虚しいという思いが、マミの胸中に芽生え始めていた。
彼女たちも、いつかこんな気持ちを抱えるのなら、やはり、
「……そうね。だったら、もう関わらない方がいいわ。
足手纏いになるだけ。あなた自身も傷つくだけ。
魔法少女にも、魔女にも、あいつ……キュゥべえにも。そして魔戒騎士、冴島鋼牙にも」
ほむらの忠告に従った方がいいのだろうか。
故にマミは口を出さず、ただ語る少女の黒い瞳をぼうっと見ていた。
57: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:24 ID:7tfJJhllo(3/11) AAS
「何で冴島さんが出てくんのよ……キュゥべえも、そんなこと言ってたけど」
「彼には心を許さない方がいい。いいえ、もう近付かない方がいい。それがあなたたちの為でもある」
忠告だとしても、鋼牙を誹るとも取れる言い方に、さやかがほむらをキッと睨みつけ、声を荒げる。
「冴島さんは損得とかじゃなく、あたしたちを助ける為に戦って、盾になってくれた。
今日だって命懸けでマミさんを救ってくれた。あの人は正真正銘、本物の正義の味方なんだ!
なのに、何で信用しちゃいけないのよ!」
さやかは相当、鋼牙に傾倒しているらしかった。昨日、出会ったばかりだというのに。
だが、無理もない。まどかとほむらに見捨てられ、頼りのマミは敗北。
独り絶望して死を待つだけだった時、救いの手を差し伸べてくれた唯一の希望。
今日だって二度も三度も助けられ、最早、単なる命の恩人以上に憧れの対象になっている。
マミはさやかが尊敬する鋼牙を賛美する度、心底彼に気を許していると知る度、
胸が疼き、黒い淀みが渦を巻くのを感じずにいられなかった。
「それは充分わかったわ。彼は冷厳な正義の執行者にして守護者、だからこそよ」
ほむらはさやかを否定しなかった。肯定した上で関わるなと言った。
訳もわからず、さやかとまどかは唖然として反論もできないでいる。
ほむらは詳しく説明もせず、言いたいだけ言い終えると、三人に背を向けた。
58: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:26 ID:7tfJJhllo(4/11) AAS
「覚えておくことね。正義の味方は、絶対に私たちの味方にはならないと」
去り際にそう言うと、最後にマミを一瞥して言葉を放つ。
「あなたなら、その意味がわかるでしょう?」
マミの虚ろな目が、徐々に見開かれる。
マミの中で、すべてが繋がった。
自分が鋼牙に抱く想いの名前も、さやかのように彼に縋りたくない、縋れない理由も。
――彼は……黄金の光は私の形を照らし出す。欺瞞に満ちた虚像を暴き、その実、矮小な正体を曝け出す。
そう……私は、彼に嫉妬している。黄金の光は、暗闇に迷う人間にとっては、さぞ美しい希望の灯に見えるでしょう。
でも、暗闇に慣れ切った私には眩し過ぎる……。闇に潜む獣が陽の下に出られないのと同じ。
だから私は、あの光を二度と見たくないと思ってしまう。だって太陽を直視すれば、きっと私の目は潰れてしまうから――
すべて理解したマミは蚊の鳴くような震える声を、
「ええ……。そう……かもしれないわね……」
とだけ絞り出した。
伝わったのかどうかは定かでないが、ほむらはマミを顧みることなく去っていった。
疑惑はほぼ確信に至った。
正義の味方は、私たちの味方にはならない――これが意味するものは、ひとつ。
魔法少女が、いつか人に仇為す存在と化すから。
――暁美ほむら。もしかして、あなたも私と同じ気持ちを抱いたの……?
いつか魔法少女は魔女になる。
だとすれば彼と私は……私たちは相容れない存在なのだと――
59: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:28 ID:7tfJJhllo(5/11) AAS
「マミさん……マミさん!?」
「あの……大丈夫ですか? 何だかぼぅっとしてましたけど……」
「美樹さん……鹿目さん……」
二人に呼びかけられて、ようやく我に返るマミ。どうやら、またしても自分の世界に没入していた。
不安げな目線を左右から送られ、
「大丈夫……本当に大丈夫だから、もう一人で歩けるわ」
腕を掴む手を振り解いた。
まだ万全とは程遠いが、歩く分には問題ない程度には回復している。
仮に無理だとしても、弱みを悟られるのは先輩としての体面が許さない。
故にマミは虚勢を張り、背後からひたひたと付いてくる足音を聞きながら出口を目指した。
ほむらは何もせずに帰ったらしい。ビルの玄関脇では、変わらず助けた女性が寝息を立てていた。
マミは彼女を抱き起こして首筋を確認。魔女の口付けは消えていたので、軽く身体を揺する。
「う……ん……」
やがて女性は目を瞬かせ、ゆっくり覚醒した。 意識が戻り、現状を認識するにつれ、彼女は身を震わせる。
面倒なのは、ここからである。
「やだっ……私……どうして、あんな……!」
彼女は酷く怯えていた。
魔女に操られている間の記憶は朧げでも残っているのだろう。
特に落下時の迫る地面を、身を切る風の感触や寒さを、身体は鮮明に覚えているのかもしれない。
60: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:31 ID:7tfJJhllo(6/11) AAS
「大丈夫ですよ……。もう何も心配いりません。ちょっと悪い夢を見ていただけ……」
およそ二十代前半から半ばくらいだろうか、マミよりもずっと年上の女性。それが幼子のように震えている。
マミは彼女を抱き寄せ、そっと背中や頭を撫ぜる。優しく、彼女が落ち着くまで、ずっと。
ずっと張り詰めていたマミが今日初めて見せた、さながら慈母の如き笑み。
マミの心に、温もりと共にじわりと湧き起こるのは、誰かを救った、救えたという実感。
この瞬間だけは魔法少女をやっていて良かったと思える。
取り分け今は、崩れそうな、壊れそうな自分を繋ぎ止めてくれる気さえした。
数分後、どうにか落ち着いた彼女は涙を拭いて息を整える。
マミは身体を離し、
「もう大丈夫みたいですね……。それじゃ、私たちはこれで……」
立ち去ろうとした。その時、
「待って!」
名残を惜しむかのように、彼女の背中を撫でていた右手が握られる。
振り向くと、彼女の真剣な眼差しがあった。
「私……うっすらと覚えてる。ここで何を見たか、何をしようとしたのか。
とても恐ろしい怪物だった……。
それに、あなたの黄色いリボンが私を受け止めてくれたことも覚えてる。
お願い、少しでいいから話を聞いて。それと、よければ話を聞かせて。何でもいい、私にお礼をさせてほしいの」
彼女の瞳は、未だ不安に揺れていた。
魔女は人の心の隙間に浸け込む。操られる人間には操られるだけの理由が、多少なりともある場合がほとんど。
だからといって、普通なら助けた人間に深入りなんてしない。
あれこれ追求されたり、秘密をばらされても面倒だからだ。
61: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:33 ID:7tfJJhllo(7/11) AAS
――でも今は、今だけは……。
彼女の悩みを聞いてやることも、彼女を救うのに必要なのではないか。つまり、これも魔法少女として当然の責務。
常ならあり得ない思考が生まれた。
自覚はあった。
そんなもの、自分を誤魔化し、納得させんとする詭弁に過ぎないと。
だが、止められなかった。
自分を魔法少女として、敬意を持って見てくれる人物を求めていた。
唯一の存在意義を認めてくれるなら誰でも良かった。
まして黄金騎士なんて知りもしない人間なら尚更いい。
もうひとつ。
彼女は年上で、包容力もありそうな大人の女性だった。
これだけは、まどかやさやかには望めない条件。
彼女はマミの左手も取って、両手で包み込む。
重なる手から、しっとりと柔らかい感触と温度が伝わってくる。
この瞬間、はっきりと理解した。
自分がしてきたことは、そのまま自分がして欲しかったこと。
与えるだけでなく、与えられることを欲していた。渇望していた。
「はい……少しなら」
数秒後、マミは微笑んで頷く。
表面上は迷う振りをしながらも、内心は怒涛のような歓喜に支配されていた。
マミの了解を得て、彼女は喜びも露わに、遅い自己紹介をする。
「ありがとう! 私の名前は命……夕木命(ゆうき みこと)。あなたは?」
62: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:35 ID:7tfJJhllo(8/11) AAS
*
鋼牙は左手を胸まで上げながら、廃ビル内を歩く。ビルの中には一切の気配はなく、
しかし粘りつくような淀んだ空気が溜まっていた。
「どうだ、ザルバ?」
『残留思念を感じる。これは相当な数の人間が喰われてるな』
薄暗い廃墟を見回しても、あるのはコンクリートの壁と瓦礫と寒々しい空白。
結界内で行われる殺戮と捕食は、目で見る景色からは痕跡を発見できない。
魔戒騎士の勘が何かあると告げてはいるものの、詳細までは知る由もなかった。
頼みの綱は、やはりザルバなのだ。優秀なレーダーがなければ、騎士も力を振るえない。
鋼牙は時折ザルバと会話を交わしつつ、十数分かけてビルを一通り歩き、屋上まで上がってきた。
夕暮れの冷たい風は少し寒いが、戦いで火照った身体には心地いい。
遠くビルの谷間に日は沈み、じきに夜の帳が下りようとしていた。
『ふぅ……ようやく、すっきりしたぜ』
「ザルバ。何故、ここに来るまで探知が曖昧だった?」
ザルバが一息ついたのを切っ掛けに、鋼牙は、ずっと引っ掛かっていた疑問を口にした。
マミの部屋を出て、ここに向かう間、ずっとザルバの受け答えは曖昧だった。
普段の彼であれば、まず考えられない不調。
場合によっては魔戒法師にメンテナンスを頼まねばならないが、今は問題ないのが不思議だった。
63: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:38 ID:7tfJJhllo(9/11) AAS
『ああ、言っただろう、この街は異常だってな。ただでさえ魔女もホラーも一緒くたになって、居場所が掴み辛いってのに。
おまけに、あいつ……まどかだ。あんな強烈なのが近くにいたんじゃ、ろくに探知もできやしない』
「そういえば鼻が利かないと言っていたな」
ザルバがどのように感じているのか、以前に聞いた記憶があるが、多分に感覚的なもので説明し辛いと言っていた。
だが敢えて人間で言えば嗅覚だとも。では、今は嗅覚が狂った状態に近いのか。
広範囲に種々様々な臭いを配置して、識別する様を想像してみる。ひとつひとつの臭いが強ければ強いほど、識別は困難になる。
そこへ格別に強いものが間近にあれば、個々の判別は不可能。
まどかの潜在能力は表出こそしてないが、鋼牙やマミ、ほむらも感じている。
昨日の朝のように、ザルバであれば更に強く感知しているに違いない。
『お前たち人間にわかるように言うなら、そんなところだ。ま、優秀過ぎるのも玉に瑕、ってことだな』
冗談めかして言うザルバに構わず、鋼牙は黙考する。
魔導具とは異なり、魔法少女のソウルジェムは魔女のみを指して発光する。
意思も言葉も介在しないが、それ故に単純で明快。今の見滝原の、こと魔女狩りで言えば、ソウルジェムが最も有効だろう。
それを知っていれば、マミが何やらむきになる必要もなかっただろうに。
64: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:39 ID:7tfJJhllo(10/11) AAS
すると突然、ザルバの声で思考が中断された。
『まだ終わっちゃいないぜ、鋼牙。ホラーの気配を感じる、と言っても、今はいないようだがな』
「今は……だと?」
『あぁ、このビルにゲートが開き、ホラーが拠点にしている。まず一体は確実に。どんな思惑か知らないが、魔女と共存してな。
用心しろよ。ここは差し詰め、魔女とホラーの城だ』
だとすれば、易々と侵入を許すはずがない。
たまたまホラーが街に出ていた?
或いは誘い込まれたか。それとも――。
一瞬で数多の可能性が浮かぶが、鋼牙は何より先に屋上のフェンスに駆け寄り、人がいないかを確認する。
下にはマミたちも、自殺を試みた女性の姿もなかった。
マミが保護して離れたのだろう。ひとまず安心してもよさそうだ。
これから訪れるホラーの時間に、自分がどうすべきか。
思索を再開する鋼牙だったが、言い知れぬ漠然とした不安は、いつまでもこびり付いて離れなかった。
65: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/07(土)02:42 ID:7tfJJhllo(11/11) AAS
ここまで。次はできれば日曜ですが、たぶん来週中になるかと
これから更新が少し遅れるかもしれません。まどポでなくスパロボで申し訳ないのですが
ここまでで二話も半分過ぎのApartというか、番組で言えば20分過ぎあたりのCM
嫉妬だったり神聖視だったり、少女たちが鋼牙を勝手な見方をしてすれ違う、黄金騎士という偶像に振り回されるのを書きたかったのですが
かなり手間取ってしまいました
一話みたく不良とか青年とかじゃ据わりが悪いので、マミさんに助けられた女性に便宜上名前を付けてみました
これからも多々あるかと思います
ちなみに名前は牙狼の登場人物の名前を少し変えて組み合わせたもので、
今後もこういった形で、漢字の読みを変えたり、分解して組み合わせたり、アナグラムにしようかと
今回は簡単なので、よければ元ネタを考えてみてください
97: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/04/16(月)02:19 ID:Jj/plRwho(1) AAS
いつもありがとうございます
申し訳ありません。来週と書きましたが、もう少し時間を頂きたいと思います
2話のここまでを少し修正と加筆をしてwikiにまとめていました
まだApartのみと中途半端な範囲ですが、自分が暇な時に携帯で見返す際に、wikiの方が見やすいので
121: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:23 ID:wsWWwCFYo(1/7) AAS
また夜が来た。
空は薄紫に染まり、吹く風は心なしか冷たい。
18時を回った頃。陽が沈み、景色だけでなく匂いや人の流れまで、街全体を包む空気が夜のそれに変わっていく。
その、ちょうど夜へと移り変わろうとしている時間を、三人の少女は出会ったばかりの女性と迎えていた。
夕木命。
魔女の呪いを受けて自殺を図った女性は今、三人の前で穏やかに笑っていた。
ここは、彼女を見つけた魔女の棲み家となっていたビルから歩いて数分のオープンカフェ。
街や人がそうであるように、この店も夜の顔を持っているが、今はまだ早めの仕事帰りの会社員などが散見される程度で、
人はまばら。その内の一席、円形のテーブルに四人は腰掛けていた。
「へぇ……魔女、かぁ……」
「やっぱり信じられませんか……?」
一通りの説明を終えたマミが、おずおずと尋ねる。掻い摘んで説明している間、命はずっと緊張した面持ちで、
一言も発さず聞き入っていた。向こうから言い出した手前、まさか冗談とは取られまいが、素直に現実と受け入れられるかは別問題。
命はマミの不安を察したのか、
「まさか。信じるわ、この目で見たんだもの。信じざるを得ないわよ」
両手を胸の前で振って、マミの言葉を否定した。
真剣な眼差しでマミの眼を見据え、
「そりゃあ驚いてはいるけど、命の恩人の言葉だしね。疑うなんてとんでもない」
そして、にっこりと笑いかける。
122: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:25 ID:wsWWwCFYo(2/7) AAS
包み込むような大人の女を感じさせる顔は、マミに、信じてもらえたという安心と、
それとは別の安らぎと喜びをもたらした。
「ほっ……そうですか、良かったです」
マミも釣られて笑う。
弛緩を隠せない表情は、彼女の中で後者が大半を占めていることを示していた。
だが自分自身、弛んでいると気付き引き締め直すと、今度はこちらから質問に入る。
「それでは、夕木さんが見たという恐ろしいモノについて、
それと、操られていた時のことで覚えていることがあれば話していただけますか?」
「そうね……ハッキリとは覚えてないんだけど、最初にあのビルに行ってから、
ともかく辛くて、苦しくて……そんな気持ちが膨れ上がって。
今日も引き寄せられるみたいにあそこに行って……ごめんなさい、そこからはほとんど……」
「覚えていないと?」
「ええ、でも屋上の夕陽が不思議とすごく綺麗で……けれど風がとても冷たくて……。
そんなことは覚えてるの」
命が語った経緯は大凡、想像した通りだった。ただ、最初にあのビルに行った、それだけが気に掛かった。
あんな場所に、いったい何用があって訪れたというのか。
詳しく訊きたかったが、話が脱線するかと思い後回しにする。
「では、夕木さんが見た恐ろしいモノとは?」
マミが問うと、命は怯えを露わにし、唇を震わせる。辛抱強く待っていると、やがて震える唇が開いた。
123: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:27 ID:wsWWwCFYo(3/7) AAS
「薔薇……そう、薔薇に囲まれて、薔薇で飾られた巨大な何か……」
曖昧な記憶を辿っているらしい。額に指を当て、ぽつり、ぽつりと言葉を紡いでいく。
「蠢くそれの周囲には白い……タンポポの綿帽子に髭と鋏をくっ付けたような……何だろう、ともかく変なモノがいたわ」
「魔女と使い魔……」
呟くマミ。僅かに喜色の混じった声遣いは、倒した魔女で良かったという安堵。
これで彼女が危険に遭うことはもうないだろう。それが素直に嬉しかった。
すると、マミの小声の呟きを拾ったのか、命が身を乗り出してくる。
「やっぱり! あれが、その魔女っていう怪物なのね!?」
「しっ! 声が大きいです……!」
マミは慌てて命を宥めて身体を押し戻す。彼女はばつが悪そうに着席した。
周囲を見回して、こちらを見ている人間がいないことを確認すると、マミは続ける。
「安心してください。魔女は……"私が"、倒しましたから。夕木さん、今でも自殺したいと思いますか?」
命はぶるぶる首を激しく横に振った。
「まさか! あんなの一度でたくさん。思い出すだけで身震いするわ……」
「なら、私も戦った甲斐がありました。でも、魔女が死に絶えることはありません。
そうそう出くわすものじゃありませんけど、これからも人気のない暗闇や怪しい場所には注意してくださいね?」
「ええ、なるべくなら二度と近寄りたくないわね。でも……もしもの時はまた助けに来てくれるのかしら?」
「え、それは……」
124: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:28 ID:wsWWwCFYo(4/7) AAS
命に問い返され、マミは俯き、沈んだ。到底、不可能だからだ。
昨日も今日も、マミが駆けつけたのは偶然でしかなかった。
あと一分遅ければ、まどかたちも命も死んでいただろう。それは鋼牙と自分たちにも同じことが言える。
返事に窮して命を見ると、彼女は笑っていた。それも少し悪戯っぽく。
ああ、と納得。
つまり、彼女は絶対の保証を求めているのではなかった。
「ごめんなさい、困らせてしまって。真剣に悩む顔が可愛かったから。
深く考えないで。あなたにも事情があるものね」
約束を。
仮初でも安心を得たかった。
彼女は大人だ。無理だと知った上で言ったのだろう。
ならば、マミの答えも決まっている。
「いえ……はい、必ず助けに行きます」
大真面目に断言して、数秒ほど見つめ合う。
やがて、どちらからともなく、
「ぷっ……ふふふふ――」
吹き出して笑った。自分でも何がおかしいのかもわからず、ただ何もかもがおかしかった。
横を見ると、まどかとさやかも笑っている。
それからは他愛ない雑談を中心に、魔法少女としての武勇伝も時折だが交えつつ、お茶と会話に興じた。
125: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:31 ID:wsWWwCFYo(5/7) AAS
落ち着きを取り戻した彼女は明るく朗らかで、よく笑う人だった。その上、気さくで会話上手。
人の心の機微を知り、それはマミよりも豊富な人生経験を想像させる。
数十分前に出会ったばかりなのが嘘のように、四人は急速に打ち解けていく。
さっきまでとは比べ物にならないほど穏やかに流れる時間。久しく感じていなかった喜び。
いつしかマミはすっかり命に心を開いていた。
今は何も考えず、この時を楽しもう。
魔法少女とキュゥべえへの疑惑。
鋼牙に対する劣等感。
それらから一時でも逃避できるなら。
事情聴取という当初の目的も、僅かな違和感も既にどうでもよくなっていた。
彼女が自殺なんてする訳がない。あれは魔女の呪いによる気の迷いに違いないと。
時間を忘れて話すこと十数分、辺りは人工の明かりで溢れていたが故に気付くのが遅れたが、
空は完全に闇に覆われていた。
さやかはふと自分の携帯電話を見るなり、
「あ、ヤバっ……! 面会時間終わっちゃう!」
慌てて席を立った。何事かとマミと命は見上げ、まどかは察したような視線を送る。
「ひょっとして、上条君の病院?」
「え? あ、うん、まぁね……。昨日は行きそびれちゃったから、今日くらい顔出しとこうかな〜って」
126: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:32 ID:wsWWwCFYo(6/7) AAS
さやかは照れ臭そうに鼻を掻く。夜でなければ頬が赤らんでいるのが、はっきりわかっただろう。
いかにも軽い野暮用を装っているが、彼女にとって非常に大事な用事であることをまどかは知っている。
だから、それ以上は何も言わずに送り出すのだ。
「ってことで、すみません。あたしはこれで……あ、お代は――」
「いいのいいの。今日はお姉さんの奢り。これでも大人なんだから、ね?」
そう言って、命はトンと自らの胸を叩く。
言葉とは裏腹に、自慢げに胸を張っているところは子供みたいで微笑ましい。
「いいんですか!? ありがとうございます! それじゃ、失礼します!」
目をキラキラ輝かせて一気にお礼を捲し立てると、さやかは頭を下げて去っていった。
まったく遠慮せずに好意に甘えるのが彼女らしい。
たぶん急いでいたせいもある。その証拠に、さやかはそこら中の席にぶつかり、
最後には黒いコートの男性のジュースを零して必死に頭を下げていた。
それがマミと命からは見えない位置だったこと。
不様な姿を晒したのがまどかだけだったことは、さやかにとって不幸中の幸いだったと言えるだろう。
127: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:35 ID:wsWWwCFYo(7/7) AAS
話が進んでいない上に短いですが、ここまで。
次は一週間も開かないと思います。
166: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)01:51 ID:riuFgEhho(1/6) AAS
「クスッ……賑やかな娘ね」
周囲の椅子を蹴散らしながら去っていくさやか。
台風が過ぎた後のように静まり返ると、命が口を開いた。
まどかはというと、自分のことのように身を縮こまらせている。
マミは、自然と笑みを浮かべていた。
さやかよりも、さやかのことで恥じらうまどかが可笑しくて、可愛くて、
もう少し見ていたい気分に駆られる。
とは言え、このままでも可哀想なので、話を逸らしがてら尋ねてみる。
「面会時間とか病院って言ってたけど、誰かのお見舞い?」
「あ、はい。クラスメイトで、さやかちゃんの幼馴染の男の子なんですけど、
先月から交通事故で入院してて……」
「何? ひょっとして彼氏とか?」
命が嬉々として口を挿むも、まどかは力なく首を振った。
「そういうのじゃないんです。でも、さやかちゃんは気に掛けてて、
よくお見舞いに行ってるんです」
命もマミも、暫く何も言わなかった。いや、言えなかった。
まどかが表情を曇らせていたからだ。軽い調子で語れる話でないことは明らかだった。
167: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)01:53 ID:riuFgEhho(2/6) AAS
「……ごめんなさい、からかったりして。ひょっとして重い怪我なの……?」
「幸い、そんなに重くはないそうですけど、手が……。
将来を期待されてたヴァイオリンも、また弾けるようになるかわからないって……」
「そう……」
とだけマミが言うと、それきり沈黙が訪れる。全員が続く言葉を失っていた。
話を逸らすつもりが、思いがけず重い話を聞いてしまったと、マミは後悔した。
まず、さやかへの申し訳なさ。本人が不在なのに深い事情を知ってしまった。
そして辛いだろうに、それを語らせてしまったまどかにも。
次第に騒がしくなりつつある周囲のざわめきから、隔絶されたかのような静寂。
マミは命が上手く空気を変えてくれることを期待したが、
彼女はテーブルに肘をつき、組み合わせた手で目を隠しており、その表情は窺えない。
命でさえ気の利いた慰めが思いつかないのだ。
きっと、今は何を言っても空虚にしか聞こえない。
言葉は口から出た瞬間に力を持つ。相手を、時には自身を傷つけもする。
故に、役に立たない言葉は封印して黙るしかなかった。
「ごめんなさい、湿っぽくしちゃって……私、そろそろ帰らなきゃいけないんで失礼します」
まどかが立ち上がってお辞儀をする。気を遣わせてしまったのは明白だが、止めはしなかった。
この場には居辛いだろうし、帰らなければならないというのも嘘ではないだろう。
「うぅん……こちらこそ、ごめんなさい。今日は色々迷惑かけちゃったし、ここは払わせてちょうだい、ね?」
「ありがとうございます……それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
168: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)01:59 ID:riuFgEhho(3/6) AAS
命の提案にまどかは迷う素振りを見せたが、やがて躊躇いがちに頷く。
そして鞄を持って帰ろうとするところを、マミが呼び止めた。
「ねぇ、鹿目さん。最後にひとつだけ聞いていいかしら?」
「はい?」
マミは振り向いた彼女の顔、その眼をじっと見つめる。
くりっと大きく、まだ純粋で穢れを知らない円らな瞳を。
見ていると、形容し難い複雑な感情――敢えて言葉にするなら保護欲と嫉妬が混ざったような――を覚えたが、
それらは胸の奥に沈めて質問はひとつ。
「あなた、願い事はある? もしも魔法少女になるとして、キュゥべえに頼みたい願いが」
真摯なマミの眼に射竦められたまどかは硬直し、目線だけを忙しなく彷徨わせる。
それから三十秒ほどして、ようやく想いを口にした。
「え……っと……。正直、まだ……わかりません……」
自信なさ気に絞り出した声は、三十秒も待たせた答えがこれで申し訳ないと、
秘めた謝罪の念を感じさせた。
が、マミは責めない。元より予想できていた。
むしろ、突然質問されてすぐに答えられる方がおかしい。そっちの方が真剣さを疑う。
迷うのは、事の重大性を正しく受け止めている証拠だ。
「そう……よく考えてみてね。
魔法少女になれば、今日の私みたいになるかもしれないことも念頭に置いて」
迷える後輩に的確なアドバイスを送る為に。
彼女たちが頼れる先輩だと、誇れる自分で在る為にも。
169: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)02:01 ID:riuFgEhho(4/6) AAS
――私は、真実を知らなければならない。
マミは静かに決意する。
一応の念押しと、勇気と決断の切っ掛けを得たくての問いだった。
だから、もういい。
「ごめんなさい、呼び止めて。家まで送りましょうか?」
「いえ、大丈夫です。失礼します」
そう言って、今度こそまどかも帰っていく。
マミは、ふーっと細く長く息を吐いた。肺の空気と一緒に、心に溜まっていた淀みが流れていく気がした。
そのことに不思議な心地良さを感じ、自然と頬が緩む。
「いい顔になったわね」
「えっ?」
向かいに座った命が、マミを見て目を細めていた。
どうやら、ずっと見ていたらしい。気付くと、途端に恥ずかしくなる。
「そう……でしょうか……」
「うん。さっきまではこう……キッ! と張り詰めて頑張ってる感じがしたけど、
今はリラックスしてるんじゃない?」
命の言う通り、自分を苦しめていた重荷がひとつ下りて、今は少し心が軽い。
現状が何か変わった訳ではないが、覚悟を決めただけで、世界が違って見える気がした。
あくまで気がしただけだが、それで充分。
170: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)02:13 ID:riuFgEhho(5/6) AAS
マミの表情にも雰囲気にも、切れる寸前まで張った弦のような危うさは既になく、
険が取れて柔らかになっていた。
指摘されて初めて、それを自覚する。
「だとしたら……夕木さんのお陰かもしれません」
「私? 私は何もしてないわよ?」
「はい。私が勝手にそう思ってるだけですから」
命が訳がわからないと首を傾げる様が無性に可笑しくて、マミはクスッと小さく吹き出した。
それは、マミが久しく見せなかった素の笑顔。
後輩の前で見せる上品で優雅なそれとも異なる、歳相応の子供らしい顔。
クラスの友人の前でも滅多に見せたことがない。家族を亡くしてからというもの、
どこか他人に対して一線を引き、強く頑なな自分を作ろうとしていたから。
それが崩され、否定され、打ちひしがれていた時に、その価値を認めてくれたのが彼女だった。
人と人との仲は、必ずしも時間と共に深まるとは限らない。
少なくとも、一方的に好意を抱く分には、時間はさほど重要ではない。
例えば自分とまどか、鋼牙とさやかのように。
前者のように共通する物は何もないし、後者ほど劇的な出会いでもない。
ほんの些細な巡り合わせ。
それでもマミは、命に好意を抱き始めていた。
171: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)02:26 ID:riuFgEhho(6/6) AAS
短いですが、ここまで。結局、一週間も開いてしまいました
何日か書いていないと勘が鈍ってしまい、思うように手が進みませんでした
しばらく文体も二転三転すると思いますが、頑張って取り戻したいと思います
たくさんの感想ありがとうございます。参考にさせていただきます
議論雑談も、脱線し過ぎない程度なら好きにして下さって構いません
現状のマミのキャラ付けに不満を感じる方もいらっしゃるようで、申し訳ありません
ただ、クロスオーバーを書く際に、どちらか一方だけを贔屓はしたり貶めたりはしないよう心がけています
下げることがあっても、上げるための前振りだと思っていただければ
176: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/05/07(月)02:25 ID:5I3lt98Io(1) AAS
筋は決まってるのですが、上手く文章化できず……ちょっとスランプ気味です
もう2.3日お時間を頂きたいと思います
185: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/11(金)02:28 ID:Lb8eNkgno(1/9) AAS
それからマミは、趣味、学校、進路などを聞かれるがままに話し、またマミから命に尋ねたりもした。
短いけれど充実した時間。赤の他人だからだろうか、いつになく多弁になっていく。
学校とも親戚とも魔法少女とも接点のない、行きずりの関係。だからこそ気楽だった。
しかし反面、今日この場限りで終わってしまうのが寂しくもあるような――。
時間が過ぎ去るのが惜しい。
情けないことに、如何に覚悟を決めても、この後のことを考えると多少は気が重い。
キュゥべえはまだ家にいるだろうか。いや、いなくとも彼なら呼べば来るだろう。
つまり、すべてはマミの心ひとつ。
そして命が時計を確認した時、マミは次に続く言葉を恐れ、
「あら、もうこんな時間。あなたも、そろそろ帰った方がいいかもしれないわね」
不安は見事に的中した。
マミの表情が目に見えて陰る。
できるなら、もう少しだけ。
後ろ髪を引く思いが、自然と口をついて出る。
「いえ……私はまだ大丈夫ですけど……」
「でも、親御さんが心配するんじゃない?」
「っ……! どうせ……どうせ、家に帰っても誰もいませんから……」
顔を伏せ、口の端を歪め、自嘲気味に吐き捨てた。
ひゅっ、と息を呑む音が聞こえたが、命を見ることはできなかった。
ただ唇を噛み締め、膝に乗せた震える握り拳を見つめる。
186: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/11(金)02:33 ID:Lb8eNkgno(2/9) AAS
胸が苦しい。
いつもなら、こんな程度で動揺したりしない。
自分では立て直したつもりでも、未だ不安定な感情は意のままにならず、
親の件に触れられた途端、容易く暴走した。
そして訪れる再びの静寂。マミは、じっとそれに耐えた。
やがて、頭の上から声が届く。
「ごめんなさい……また私、無神経だったね」
ハッと顔を跳ね上げると、命もまた沈痛な面持ちで俯いていた。
どうして彼女が謝る。命は何ひとつ悪いことをしていないのに。本当に謝るべきなのは――。
マミは深い罪悪感に襲われ、
「あ、いえ……私の方こそ、ごめんなさい。ちょっと思い出しちゃっただけで、
夕木さんは悪くありません。むしろ楽しかったから、暗い家に帰るのが少し寂しくなって……」
適当に取り繕う。
思い出したのは嘘ではないが、それだけではなかった。
だが、本当の理由を口にできるはずもない。
やっと命が顔を上げたのを確認したマミは、目を閉じ深呼吸。
それから数秒して目を開け、おもむろに切り出した。
「あの、良ければ少しだけ私の話に付き合ってもらえませんか……?」
互いに毅然とした視線が交差し、命が黙って頷くと、マミは語り始める。
魔法少女の契約を交わした理由と、それからどうやって生きてきたのかを。
187: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/11(金)02:34 ID:Lb8eNkgno(3/9) AAS
両親を喪った交通事故。
キュゥべえとの契約で生きたいと願い、自分だけ生き長らえてしまったこと。
遠縁の親戚と折り合い悪く、見滝原で独り暮らしてきたこと。
魔法少女として魔女と命を懸けて戦ってきたこと。
五分ほど掛けてマミは語り終えた。
人に語るのは初めてだが、涙は出なかった。淡々と、詰まりもせずに話し続けられた。
すべては過去。何十回、何百回と枕を濡らした夜も、気付けば随分と昔のように思える。
「そう……だったの……」
命が、どうにかといった感じで一言だけ発した。
突然過ぎて何と言ったらいいのかわからないらしい。
どれだけ待っただろう、心の整理がついたのか、命は口を開いた。
「でも、どうして私なんかに、こんな大事な話を?」
「何となく、でしょうか。誰かに聞いてほしかった……いいえ、夕木さんが優しかったから、
つい甘えてしまったんだと思います。ごめんなさい。こんな重い話、聞かされても迷惑ですよね?」
不安げに反応を窺うマミに、命はゆっくりと首を横に振る。
柔らかな光を放つ眼も、唇の狭間から覗く形の良い歯も、今は隠して。
「ううん、とんでもない。嬉しかった。私を信用してくれて話してくれたことも、
私を助けてくれたヒーローが、とっても立派な人だったのも」
「立……派? 私が、ですか? それにヒーローって……」
きょとんと目を丸く、首を傾げて、次々に質問をするマミ。
188: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/11(金)02:37 ID:Lb8eNkgno(4/9) AAS
命は軽く苦笑して続けた。
「ほんとはね、最初にあなたに助けられたと知った時、警戒したの。
だってそうでしょう? 女の子が、あんな恐ろしい怪物と戦う力を持ってるなんて信じられなかった。
理解してからも、きっと普通の人間と根本から違う、もっと何か超然とした存在だと思った」
マミは答えられなかった。
昨夜までなら、面と向かって答えられただろう。
自分はあなたと同じ人間だと。
だが、魔法少女の生命の在り方に疑問を持ってしまった今となっては不可能だった。
「でも違った。話してみて、よくわかった。
あなたは普通の中学生……って言ったら失礼かもしれないけど、心は普通の女の子。
ちょっと寂しがり屋な、普通の――」
戸惑うマミの頭に、そっと手のひらが乗せられ、温かい手は金髪を優しく掻き撫でる。
マミがしてくれた行為と厚意を、そのまま返すかのように。
「なのに私を助けてくれた。怖くて辛いのに、それでもなお人の為に戦えるあなたは魅力的だわ。
鋼のように揺れない心の正義の味方よりも、よほどね」
初めてだった。こんなふうに自分の弱さを魅力的だと言われたことは一度もなかった。
それ以前に、魔法少女の事情を誰にも明かしたことがなかったから。
「だからあの娘たちも、昨日今日出会ったばかりでも、あなたを慕ってるのね。
あれは単に命を助けられたからってだけじゃないと思うわ」
「そうなんでしょうか……」
「ええ。あなただって彼女たちのこと、まるで妹みたいに気遣ってるように見えたけど?」
「妹みたいに……」
189: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/11(金)02:40 ID:Lb8eNkgno(5/9) AAS
自覚はまったくなかった。傍から見ると、そう映ったのだろうか。
ただ、同じ魔法少女の素質がある二人を放っておけなかった。
彼女たちが心から望む最良の選択をして欲しかった。
仲間になってほしいという願望が根底に潜んでいたことは否定できない。
けれども、無理強いは絶対にしたくなかった。
何故か。
――大切にしてほしいと思ったから……。
あの娘たちには、どんな願いでも叶えられるチャンスが一度だけある。たとえ終わらない戦いと引き換えだとしても。
だって私には、選択の余地すらなかった。
そして、あとひとつは大切にしたいと思ったから。
思い出すのは、とある一人の少女。
一緒に戦い、やがて袂を分かち、今もどこかで独り戦っているであろう少女。
彼女が自分自身の願いに傷付き、私の許から離れていった時。私は彼女を力尽くでも止めようと戦い、しかし止められなかった。
今でも時折、考える。他に術はなかったのかと。
もっと私に何かできていれば、彼女を救えたかもしれない。
あんな冷たい、それでいて切なく辛そうな眼をさせずに済んだかもしれないと。
今度こそ私は間違えたくない。私が、あの娘たちの道標になれるように。でも……――
その想いは、普通の後輩に比べれば、ずっとずっと深い感情だと思う。
しかし、それが果たして肉親に向ける情に近いのかどうか、マミ自身にも判然としなかった。
「そんな、妹だなんて。よくわかりません。私、一人っ子ですし」
「正直言って、少し意外だったのよね。あなたって随分と面倒見がいいから、てっきり……」
190: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/11(金)02:44 ID:Lb8eNkgno(6/9) AAS
実際、そのような目で見られることは多かった。
頼られるのは嫌いではない。だが、時に勝手なイメージを押し付けられて、辟易としていたのも事実。
「私、ずっと姉か妹が欲しかったんです。
昔は友達……の妹を見てて、いいなって思ったりしたんですけど、今は……」
チラリと上目遣いに命を窺うマミの頬は、照れで微かに朱に染まっていた。
彼女は、本当に人の心に入り込むのが上手い。
優しくて、大らかで、会話上手で。これが人生経験だとしたら大したものだと思う。マミはすっかり命に心を許してしまっていた。
そんなマミの気持ちを知ってか知らずか、ふと話が途切れた頃、
「ねぇ、図々しいかもしれないんだけど、もし迷惑でなければ、また会えないかしら」
と命が言った。
耳に届いた瞬間、マミは全ての動作を――呼吸さえ止めて固まった。
まさか、命の方からそんな頼みが聴けると思わなかった。
彼女が何気なく呟いた一言は、マミが切望して止まなかった言葉。
だが、もしも拒絶されたらと思うと、臆病故に切り出せなかった。
「私と……ですか?」
「もちろん。あの二人が一緒でもいいし、あなた一人でも。日頃の息抜きに遊んだり、お茶飲んだりしましょ?
私まだ、こんな程度であなたに恩返しできたなんて思ってないもの。
それとも、やっぱり迷惑? 私じゃストレス解消にもなれない?」
寂しげに眉をひそめる命に、マミは激しく首を振る。
あり得ない。今日この数十分だけでも、どれだけ心が華やぎ、安らいだか。
答えは訊かれる前から決まっていた。
191: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/11(金)02:47 ID:Lb8eNkgno(7/9) AAS
「私の方こそ……是非……お願いします」
恥ずかしくて返事は途切れ途切れ、目線も下がっていく。
すると、またしても頭に柔らかい感触。しかも、さっきよりも強く。
なのに不快感は欠片もなかった。
「もう! 可愛いわね、あなたってば! ほんと、食べちゃいたいくらい」
「ちょっ、夕木さん!?」
戸惑いの声にも構わず髪を掻き撫でる勢いは増し、マミが顔を上げると、覗き込む大きな瞳と目が合った。
「せっかく仲良くなれたんだから、命って呼んでほしいな。私もマミちゃんって呼んでいい?」
「は、はい……命……さん」
「ありがとう、マミちゃん」
たったそれだけのやり取りが、涙が出るくらいに嬉しくて。マミは泣きそうになるのを必死に堪えるだけで精一杯だった。
みっともないところを見せたくない。でも、もし泣いたとしても、きっと彼女は泣き止むまで抱き締めてくれる。
そしてまた涙が流れてしまうのだ。
胸に溢れる喜びと安堵を噛み締めながら、マミは思っていた。
――私を褒めてくれる。労ってくれる。包んでくれる。
私の帰る場所。私がずっと求め続けてきたもの。それは多分……――
もしかしたら、彼女がなってくれるかもしれない。
高望みだと知りながら、マミは更なる期待を抱かずにいられなかった。
192: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/11(金)02:48 ID:Lb8eNkgno(8/9) AAS
それから程なくして二人は別れた。早速、明日また二人を誘って会う約束をして。
帰路、夜空を見上げるマミの表情は晴れやかだった。再会を約束したから、笑顔で別れることができた。
帰ったらキュゥべえを問い詰めるつもりだ。
そこで得られる魔法少女の真実は、おそらく重く厳しいだろう。
キュゥべえとも、これまで通りの関係ではいられないかもしれない。
けれども迷いはなかった。
友達を失うとしても、過酷な現実を突きつけられたとしても、受け止めてくれる逃げ場所があるから。
――命さんに真実を話せなくてもいい。ただ、傍にいて笑ってくれさえすれば。
それだけで、私は独りじゃないって思える。どんなに辛くても耐えられる。
だから私……今はもう、何も怖くない――
193: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/11(金)02:54 ID:Lb8eNkgno(9/9) AAS
ここまで、次は来週中までにはなんとか
どうすればマミさんを籠絡できるのか、そんなことばかり考えていたら遅くなってしまいました
>>177
素敵なMADを紹介して下さってありがとうございます
Sound Horizonは馴染みがなかったのですが、上手く雰囲気が合っていました
>>178
ありがとうございます
こんなに多彩な技があると、参考になります
ここぞという場面ではどれか使ってみたい
224(1): ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/05/19(土)00:56 ID:qWp3uR1Jo(1) AAS
>>223
いえ、全然そんなことはありませんので、誤解されませんようお願いします
影を持たせる為、原作を曲解して更に改変していますので、あくまで別物です
また、だからと言ってキャラや作品のアンチではありませんし、貶める意図も全くありません
正直、私としては、そこまでマミをアレに書いたつもりはないのですが、
いただいた数々のコメントを見ていると、よほど酷く映っているのでしょうか
重大な認識のズレがあるのかと戦々恐々としています
ともあれ、遅くなりましたが、明日には投下できると思います
都合により伸びるかもしれませんが、それでも日曜深夜には必ず
240: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/21(月)02:25 ID:OuKAohIbo(1/8) AAS
*
閑静な住宅街。家々には明かりが灯り、美味しそうな夕食の匂いや団欒の声が流れてくる。
しかし、たまに車が通るだけで、道を歩く者はいない。
いや、一人――ツインテールを揺らしながら、小走りで駆ける少女がいた。
「弱ったなぁ。すっかり遅くなっちゃった……」
はぁ、と息を吐いて、歩を緩めたまどかが独りごちた。
今日は学校が終わってからマミの自宅へ。そこで鋼牙とマミから説明を受け、魔女退治に同行。
更に近くの喫茶店で知り合った命とお茶、と夕方から流されるままに過密なスケジュールをこなしていた。
だというのに。
魔女退治が終わった時点で日は暮れていたのに、ついマミが心配で長居してしまった。
命との会話が楽しく、居心地が良かったせいもある。
母とはどこか似ているようで違うが、かっこいい大人の女といった印象で、まどかも少なからず憧れを感じていた。
加えて魔女の潜んでいた廃ビルが、市内でもあまり馴染みのない場所だったのだ。
地理に明るくないまどかは散々苦労し、どうにか知った街並みまで帰ると、まだ余裕があると思っていた時間はとっくに過ぎていた。
家に連絡を入れようにも携帯の電池は切れていて、つくづく運がない。
多忙な母も普段なら帰っている時間。連日、連絡もなしに遅くまで帰らないとなれば、特大の雷が落ちるのは間違いない。
それだけならまだいいが、もし非行を疑われたり、或いは捜索願なんて大事になったら――。
嫌な想像を振り払うように、まどかは激しくかぶりを振った。
「う〜、やっぱり急がなきゃ! 早く帰らないと、パパとママが心配しちゃう!」
そうして再び走り出したまどかの目が、暫くして脇道に逸れる。
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