[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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290: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:25 ID:tOv9yjbAo(1/9) AAS
夜の病院、廊下を歩く。
病院特有の臭いと混じって、夕食の匂いが漂ってくる。
もうそんな時間かと時計を見ると、もう面会時間はギリギリ。
病院食には食欲をそそられないけれど、空きっ腹に食事の匂いは辛い。
もしかして彼も食事中だろうかと不安を覚えつつも、
それならそれで片手は不便だろうと食事を手伝ってあげるのも有りだろうか。
「ご飯を取って口に運んで、あ〜ん……って何を妄想してるんだ、あたしは……」
さやかは緩んで火照った頬を、ぴしゃりと叩いて引き締める。
途中トイレで身嗜みと髪型を軽く確かめてから、彼の個室の前に立つ。
高鳴る胸を押さえ深呼吸。笑顔を作ってドアを叩く。
「恭介、あたしだけど……」
「どうぞ」
遠慮がちに尋ねると、答えはすぐに返ってきた。
ドアを開くと、ベッドに彼が座っていた。真っ白の患者衣を着た灰色の髪の少年。
さやかの幼馴染の少年、上条恭介が笑顔で歓迎してくれた。
「いらっしゃい、さやか」
「ごっめーん、遅くなっちゃった。ひょっとして、これから晩ご飯? 迷惑じゃない?」
「いや、さっき食べたところだよ」
「そっか、よかった」
291: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:27 ID:tOv9yjbAo(2/9) AAS
そう聞いて、さやかは胸を撫で下ろした。
食事を手伝えなかったのは残念だが、邪魔にならなかっただけで良しとしよう。
普段は家族の来る時間と被らないようにとか、訪ねる時間にも気を使っているのだが、今日はそんな余裕もなかった。
理由は勿論、魔女と魔法少女、ホラーと魔戒騎士の説明会。そして魔女退治の見学と、その後始末である。
「昨日も結局来れなかったし、今日もだったら悪いからさ」
さやかは手近なイスに腰掛けながら言った。
ほぼ毎日見舞いに来ているさやかだったが、昨日は来れず仕舞い、今日は滑り込みと、
恭介を後回しにしているようで、なんとなく気に病んでいた。
「別に毎日のようにお見舞いに来てくれなくてもいいんだよ? さやかだって大変だろ?」
「いいのいいの、来たくて来てるんだから。暇潰しの話し相手くらいにはなるでしょ?
それとも、あたしじゃ不満?」
少しの謙遜と照れ隠しを込めて探りを入れてみたつもり。彼が自分をどう思っているのか知りたかった。
少なくとも、さやかは彼に幼馴染以上の感情を抱いている。たぶん、物心ついた頃から、ずっと。
すると恭介は、にこやかに言い放つのだ。
「暇潰しなんてとんでもない。いつも来てくれてありがとう、凄く嬉しいよ」
その優しい微笑みに、さやかは頬が熱くなるのを抑えられなかった。
指で頬を掻きながら、笑って誤魔化す。
「あはは……そうストレートに言われると照れるなぁ」
恭介の顔を直視できなかった。顔を背けるしかなった。
きっと今、自分の顔はこの上なく赤く染まっているだろうから。
しかし、喜びに浸っていられたのも束の間。
292: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:29 ID:tOv9yjbAo(3/9) AAS
直後、さやかは密かに肩を落とした。
長い付き合い故に知っている。彼は、この手の台詞をごく自然に、しれっと言ってのけるのだ。
つまり、深い意味はない。
いつからだろう。そんな言葉に期待してしまうようになったのは。
その真実に気付いて落胆するようになったのは。
彼の言葉や仕草に一喜一憂し、その度に馬鹿だと呆れる。
だが、さやかは慣れているだけあって立ち直りも早かった。軽い溜息ひとつで気分を切り替える。
「あんまり時間もないから手短に。はい、これ。恭介が前に言ってたやつね」
鞄から一枚のCDを取り出すと、ベッドの上に置いた。クラシックのアルバムである。
本当は他にもあったのだが、昨日は結局買いそびれてしまったので、これ一枚だ。
「うわぁ、ありがとう。これ聴きたかったんだよ」
喜ぶ恭介をさやかは見ていた。
湧き上がる気持ちの正体は、自分でもはっきりしない。
ただ、誇らしく微笑ましいような、それでいて悔しくもあり切なくもあるような――清濁混じり合った感情。
確かなことは、恭介が嬉々としてCDを開く様は、さやかが訪ねてきた時よりも遥かに嬉しそうだった。
「じゃあ、帰るね」
それを悟られまいと、さやかは立ち上がり、早々に帰ろうとするが、
「あ、待ってよ。せっかくだから少しだけ話していかないか?」
呼び止められて振り向いた顔は微かに笑っていた。
自分自身、本心では引き止められたかったことを否定できない。
軽い足取りでイスに座り直す。
293: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:33 ID:tOv9yjbAo(4/9) AAS
「もう、しょうがないな。いいよ、なに?」
「学校とか、最近どうかなって。何か変わったことはあった?」
変わったこと――そう問われて思い出すのは、何と言っても昨日と今日の出来事。
信じてきた常識や世界を根底から覆され、自分も関わっていると言われた。
これ以上に変わったことなど、これまでのさやかの人生になかった。
「ん、と……そうだ! 昨日うちのクラスに転校生が来たよ」
「へぇ、どんな人? 男子? 女子?」
興味を示す恭介に――自分で言っておいて何だが――さやかは渋面を表した。
さやかにとってほむらは憎き敵であったし、恭介が彼女に興味を示すのも気に食わない。
しかし、本人のいない場所で他人を悪し様に罵る自分を彼はどう思うだろうか。
さやかは迷った挙句、
「う〜ん……まぁ、女子だよ。運動も勉強もできるし、美人だけど、
あたしはあんまり好きじゃないかな。クールで他人を寄せ付けない感じでさ」
ふぅん、と恭介は頷き、それ以上の詮索はしなかった。
彼女にはまだ重大な秘密が隠されているのだが、言えるはずもない。
信じてもらえるとも思えないし、魔法少女としての彼女に興味がなかった。
彼女がどんな魔法少女であろうと、最早ほむらに対する印象は断固として揺るがない。
「それともう一人、ひょんなことから三年の巴マミさんって先輩とも知り合ったんだよ。
すっごい美人で大人っぽい人なんだけど……知ってる?」
「いや、知らないなぁ」
さやかはマミの評価にも嘘を交えなかった。
よくよく考えれば、もしこれで恭介がマミに興味を抱いたら。
女として数段格上のマミにさやかは太刀打ちできないのだが――どうにも、それが彼女の生来の性格だった。
294: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:35 ID:tOv9yjbAo(5/9) AAS
「あ、それから――」
言いかけて、さやかは口を噤んだ。
朝に目を釘付けにされ、夜に劇的な再会を果たし、最も鮮烈な印象をさやかに焼き付けた男性。
魔戒騎士、冴島鋼牙。
「それから?」
「それから、え〜っと……何だっけ。忘れちゃった……」
言えるものなら言いたい。
彼について知っている事実は少ないが、ホラーのこと、黄金騎士のこと、優に一時間は語れそうな気がする。
だが、そうなれば事情を話さざるを得なくなる。彼は裏の世界の人間、情報の拡散を喜ばないだろう。
リスクを承知で話してくれた鋼牙を裏切りたくなかった。
「あはは。相変わらずおっちょこちょいだなぁ、さやかは」
「だよね、えへへ……」
どうやら誤魔化せたらしい。
乾いた笑いを浮かべ、頭を掻きながら、さやかは改めて思った。
魔法少女、魔女、ホラー、魔戒騎士――昨夜の出来事はすべて自分の心の中に留めておこうと。
それから軽く二言三言交わし時計を見ると、そろそろタイムリミットが迫っていた。
「じゃあ、今度こそ帰るね」
「うん、来てくれてありがとう…………さやか?」
295: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:36 ID:tOv9yjbAo(6/9) AAS
恭介が首を傾げた。
帰ると言ったにも拘らず、さやかがイスから立たないからだ。
さやかは思い詰めた表情で俯いていたが、やがて意を決して顔を上げた。
「ねぇ、恭介……もしも、もしもだよ? 願いを何でもひとつだけ叶えられるとしたら、何を願う?」
何故か、これだけは訊いておきたかった。
自分の参考にしたかったのもある。
だが、確かめたかった。彼は今、どんな心持ちでいるのだろうかと。
「何だい、急に?」
「あ〜、いや、今日まどかたちと話しててさ。なんとなく、そんな話題になって」
曖昧に答えたが、嘘は言ってないからいいだろう。
まだ首を傾げる恭介だったが、深く追及する気はないようだった。
腕を組んで真剣に考え始める。
「そうだなぁ……」
恭介は十数秒ほど唸ってから、さやかを見る。
「もっともっとヴァイオリンを上手になって、もっと多くの人に聴いてもらうこと、
大勢の人たちを魅了する音楽を演奏することかな。
それでいつか僕だけの最高の音を奏でられたなら……」
答えた彼の眼は輝きに満ちていた。その光は、さやかの懸念を一瞬にして払拭する。
彼は、また弾けたら、などと口にしなかった。
手首から先が動くか動かないかの瀬戸際に立たされているというのに。
少なくとも今は動かせないままだというのに。
296: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:38 ID:tOv9yjbAo(7/9) AAS
良く言えば前向き、悪く言えば逃避かもしれないが、
さやかは彼が復活の為に必死にリハビリに励んでいると知っている。
だからこそ、さやかの答えも決まっていた。
「うん……恭介ならきっと出来るよ。あたし、応援してるから」
さやかは両拳をグッと握って、ありったけの想いを込めて彼女なりに勇気付けたのだが――。
「そんな簡単なものじゃないさ。
最高の音楽がどんなものかなんて僕にもわからないし、
それこそ神か悪魔の力でも借りないと実現できないものかもわからないしね」
恭介は虚空を見つめ、呟いた。
さやかの秘めた想いは、完全には伝わらなかったようだ。
落ち込む気持ちもあったが、それよりもある単語が気に掛かった。
「えぇっ、悪魔って……怖いこと言わないでよぉ……」
悪魔と聞いて真っ先に連想したのは、この二日間に出くわした魔女と魔獣。
あんなものに恭介が関わるなんて、考えるだけでも嫌だった。比喩だろうとわかっていても。
昨夜以来、神経過敏になっているのは、さやかも自覚していた。
「はは、実際に契約とかしたんじゃないよ。ただ、芸術や音楽には付き物の逸話ってだけ。
自分を追い詰めて追い詰め尽くした果てに得た極限状態での閃きを天恵って言って、
自分以外の何かの力を借りて出来た気がしただけだと思う」
「だよね……なぁんだ、びっくりするじゃん」
297: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:41 ID:tOv9yjbAo(8/9) AAS
ほっと息をつくさやか。
不安は、恭介が軽く笑い飛ばしてくれた。そういえば、そんな話は聞いた覚えがあるような。
やはり杞憂に過ぎなかったのだと気を取り直した。
「でも僕にも似たような経験はある。
頑張っても頑張っても弾けなかった曲が何かの拍子に突然弾けたり、とか。
大げさだけど、そんな時は奇跡が起こってる気さえした。だから真実は誰にもわからない。
ひょっとしたら、天使や悪魔を見た人だっているかもしれないね」
「へぇ……恭介にも、そんな経験あるんだ……」
「勿論あるさ。もっとも、僕はそこまで極限に迫ったことはないけれど。
もし仮に、そんなものが見えるとしたら、それは本当に凄絶な精神状態だろうね。
過去、数多の芸術家や音楽家が狂気に取り憑かれ、身を削り、滅ぼしながらも作品を遺した時みたいに」
たぶん恭介も同じ。彼は音楽しか見ていない。彼を想う自分の気持ちも見えていない。
だが、それでもいいと、さやかは思っていた。
自分のものにならなくても、他の誰かのものにならないなら。
誰より近くにいられるのなら。
それでもいいと、思おうとしていた。
音楽を語る時、往々にして彼は多弁になる。
芸を極めようとする人は、多かれ少なかれ他人と違うものが見えているのかもしれない。
素養も素質もさっぱりなさやかには些か理解し難い感覚ではあったが。
内容は理解できなくても、さやかは彼の話が好きだった。
彼の音楽が好きだった。
彼が好きだから。
理由は、それだけで充分だった。
298(1): ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/11(月)02:53 ID:tOv9yjbAo(9/9) AAS
ここまで。次こそ2話も終わり
恭介や仁美も自分なりに掘り下げられたら
体調不良やらで2週も開いてしまいました
やっぱり切りの良し悪しに拘らず週一は厳守のペースに戻したいと思います
>>273
今のところは内緒、ということで申し訳ありません
ただ、期待させても悪いので、ひとつだけ。翼は出ません、中途半端な扱いになっても嫌なので
外伝などできれば或いはあるかもしれませんが、基本は鋼牙と零と少女に絞りたいと思います
>>288
ペースが遅くて申し訳ありません
自分でもそうしたいのですが、減らし方の加減がわからないというのが正直なところです
なるべく重要な場面を除いて軽く流せるよう努力します
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