[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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725: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/27(土)02:59 ID:U5eNztmHo(1/7) AAS
命が放った蹴りは、寸分違わず零の眼前で炸裂した。
が、零が仰け反り倒れ伏すことも、命が勝利の微笑を浮かべることもなかった。
打撃音の後は再び静寂が還る。漆黒の闇の中、どちらも動きはしない。
特に零は、その黒尽くめの服もあってか、完全に闇に同化していた。
右足は高々と上げられたまま、空中で不自然に停止していた。
しかし完全な静止ではなく、絶えず小刻みに前後している。
命の足は、零の顔を蹴り砕くには至っていなかった。
むしろ拘束された足を振り解かんと足掻いているのだ。
直撃の瞬間、零は回避は不可能と、右腕で受け止めていた。同時に、左手は足首を掴んで離さない。
まだ人の姿を取っていると予測したから。なおかつ、狙うなら首か顔だろうと思っていたから防げた。
2,3秒の間、両者は拮抗していた。
命は思うように動きが取れず、零は零で空いた右手で反撃をしない。
「やっと出てきたな、ホラーさんよ……!」
しないのではなく、できなかった。呼び掛けも、少しでも時間を稼ぐ為。
少々無理な態勢で防御したせいか、上手く衝撃を殺し切れなかった。
右手が痺れと、痺れを上回る痛みで拳を握れない。
暫くすれば回復するだろうが、そんな暇を与えてくれるはずがない。
たかが十数秒でも、ホラーとの死闘では生死を分けることもある。
仕方がなかった。
零の左手の甲にはシルヴァがいる。
左手で受ければ、シルヴァを傷つける恐れがあった。
もう二度と、彼女が代わりに傷付き、壊れるのは嫌だったから。
726: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/27(土)03:01 ID:U5eNztmHo(2/7) AAS
かつてシルヴァは、零の胸にペンダントのように掛かっていた。
だがある時、零の胸を貫いた攻撃によって半壊。
修復されて以後は、左手に装着されている。
シルヴァが攻撃を受けてくれたお陰で的が逸れ、零は致命傷を免れた。
それは己が未熟の証。
だからこそ誓ったのだ。もう二度と、彼女に急所を守らせないと。
たとえ命が懸かっていようと、自分が死ぬことになろうと、この誓いが揺らぎはしない。
双方共に膠着状態の中、命が口を開く。
「そんなに、その魔導具が大事? 私と同じホラーなのに」
余裕の表れだろうか。内容は他愛のない雑談。
そして零への挑発。
零がシルヴァを庇って傷を負ったのは、命にも見破られていた。
「同じ? 冗談」
呼吸を整えながら、零も応じる。
もっとも、鼻で笑ってあしらう程度の、つまらない話題だったが。
「強気ね……そうでなくちゃ。つまらないわ。
右手をぶら下げて言ってちゃ少し不格好だけれど」
互いに互いを嘲笑しても、目は眼光鋭く敵を見据えて外さない。
握った足に力が入るのを感じ、零もググッと腕を震わせた。
「クールな振りして、意外と情深いのかしら。その魔導具も、あの娘のことも」
「へぇ、誰のことかな」
727: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/27(土)03:04 ID:U5eNztmHo(3/7) AAS
「あなたと一緒にいた魔法少女。彼女も同行させた方が良かったんじゃない?
あなたが連れてくれば、魔法少女一人と素質のある娘一人、食べ損ねた分を補えたのに。
それとも、大事なものほど遠ざけたがるタイプなの?」
「どうかな。あれはあれで、どっちも、あんたよりはよっぽど魅力的だと思うけど」
「そう。残念ね……!」
先に動いたのは命だった。
捕らえられた右足を踏ん張って、左足で床を蹴る。
グッと身を縮めて、抱き着くように。
身体を捻り、爪先を尖らせる。狙いは変わらず側頭部。
足を掴んでいる限り、そこを軸に蹴りの軌道を変化させる。
そんな軽業師のような芸当も、命はやってのけるだろう。
チャンスが一転、裏目に出る形となってしまった。
ならば、と零は捕らえた足を放す。空中で支えを失い、命は大きくバランスを崩した。
すかさず身を屈め、強く一歩を踏み込むと共に、左拳でがら空きの胴を突く。
命は吹っ飛ばされ床を転がるも、転がる勢いのままに立ち上がった。
手応えはあった。打撃は効いているはず。
だというのに、攻撃をした零が右肩を押さえて呼吸を荒げていた。
吹っ飛ぶ瞬間、踵が右肩に振り下ろされていたのだ。
「ちっ……!」
舌打ちして、闇に溶けた命に悔しげな視線を送る零。
これで肩と手、合わせて右腕を封じられた。格闘戦においては、かなりの不利。
敵にしてみれば、この好機を逃す手はない。
728: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/27(土)03:06 ID:U5eNztmHo(4/7) AAS
命が零に突進し、フォン、と風を切りながら左足が振られる。
零は後ろに下がろうにも、微妙に挙動が遅れるのを感じた。
傷付いた右肩と右腕が思うように動かず、体捌きに違和感を生じさせるのだ。
回避の遅れた零の脇腹に、回し蹴りが突き刺さる。
「がっ……ぁああっ……!!」
耐え難い苦痛に呻きが漏れる。
が、声を発したのは零でなく命。
命の足は、零の右腕で使える唯一の部位、肘と膝の間で挟み潰されていた。
零は回避を捨て、カウンターに賭けた。
結果的に成功したものの、かなり際どかった。
脇腹が疼くように痛い。確実に決める為に、引き付けたせいだ。
それでも、片足に傷を負わせたのだから安いもの。
と思いきや、足を戻した命は、痛む左足を強く踏み込み、もう一方を突き出した。
その目に油断はなく、あるのは本気の怒りだけ。最早、軽口を叩く雰囲気はない。
再び繰り出された蹴りは、槍と見紛うほどに鋭く、素早い。
その速さ故に際立つ風切り音。
攻勢に転じる瞬間の呼吸の変化。
闇に慣れた目は、数メートルなら難なく見通す。
何より命が放つ殺気が、おぼろげながら攻撃の流れを伝えていた。
右足からの蹴りを半身ずらし、回避。
コートの裾を払いながら空を切る足が戻るよりも先に距離を詰め、左腕を振るう。
軽いジャブを数発。それでも、鍛え抜かれた肉体から放たれる拳は重い。
729: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/27(土)03:10 ID:U5eNztmHo(5/7) AAS
零は容赦なく命の顔面を打つ。
これはホラーだ。人ではない。手加減など必要ない。
たとえ、美しい女の顔をしていようと。油断すれば、喰われるのはこちらなのだ。
命は仰け反って、反撃もままならないかに思えたが。
命の重心と、軸足が心なしか動いているのを零は見逃さなかった。
来ると感じた瞬間に、床にブーツを滑らせる。
床に手をつき、左足を大きく前に突き出した格好は一見、滑って転んだかにも見える姿勢。
それがミスではないことを証明したのは直後、返す刀で零の頭頂を掠めた踵。
脚が戻りきる前に零が軸足を払うと、命は堪らず尻餅をつく。
両者が同じ目線まで下がった。
零が見たものは爬虫類を連想させる冷たく光る瞳。感情は読み取れなかった。
驚きもなく、ただあるのは殺意。
けれど危険を察した零は、即座に上に跳んだ。片足のみで、しかも曲げた膝をほとんど伸ばさずに。
ほんの僅かな一手間も惜しかった。
その下――数瞬前まで零の顔があった位置を、ついた両手をバネにした命の両足が貫く。
この時、初めて命の目に驚愕の色が宿った。
零のブーツが、真上から伸び切った命の右脚を踏み砕く。
落ちた、ではなく、踏んだ。
ただでさえ無理な跳躍にも関わらず、逆らおうとする肉体を意志で捻じ伏せ、跳んだその足を強く叩きつけたのだ。
喉から甲高く、それでいて濁った金切り声が絞り出された。
ホラーとて痛みは感じる。痛ければ反応するし、叫びもする。
命は重い両足を震わせながらも、どうにか立ち上がろうとする。
か弱く美しい女性の外見もあってか、痛々しくもあった。
730: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/27(土)03:12 ID:U5eNztmHo(6/7) AAS
しかし、着地からステップで体勢を整えた零は、狙いを定め――。
軽い助走から大きく前に跳び、足を突き出す。
「っぉりゃぁあああああ!!」
勢いのついた飛び蹴りが、無防備な命の胸に叩き込まれた。
一切の慈悲もなく、雄叫びを上げて突撃する様は、いっそ冷酷ですらあった。
直撃を受けた命は、ザザザッ――と床を擦りながら滑り、遂には横たわって動かなくなった。
零は動かない。追撃も、警戒を解きもしない。
この程度で終わるはずがないと知っているから。
むしろ、ここまでは前哨戦に過ぎない。ここからが本番。
しかし、ここで優位に立っておくことは無意味ではなかった。
然してダメージは残せないだろうが、ここからの戦いに有利にはなる。
両手を腰に回し、双剣を抜き放つ。
右手も完全とは言えないが、剣を握れる程度には回復していた。
逆手に持った双剣を胸の前で構えると、命もピクリと動いた。
足を引きずりながら立ち上がった女は、幽鬼の如き表情。
肘から先は黒く刺々しく、岩のように固い異形のそれに変異していた。
他が美しい女なだけに、非常にアンバランスな光景だった。
だが、命が両腕を顔の前で交差させることで、それも終わる。
交差した腕を振り広げると同時に、魔獣は夕木命の殻を脱ぎ捨て、
完全にホラー・モロクの正体を現した。
731: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/27(土)03:21 ID:U5eNztmHo(7/7) AAS
ここまで
日曜は無理かもしれないので、一週間以内に
漫画など見ながら想像のモデルだけで書いているので、
ちょっと人体の構造的な意味で無理な動きをしているかもしれません
何やってるか上手く伝わっているでしょうか
文字で動きを詳細に書くのは、労力の割に面白くないかも
いつもコメントありがとうございます
考察も小話も楽しく読ませていただいています
牙狼のCGは美麗なので、映画は今から楽しみです
もちろん3期も、横山さんが総監督ということで、どんなものに仕上がるのか
>>697
アドバイスありがとうございます
うまく書けているでしょうか
>>714
そのへんも、今後書いていきたいと思います
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