【咲−Saki−】照「春期限定マンゴーパフェ事件」菫「白糸台・春の陣」 (35レス)
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1: 2019/09/28(土)01:39 ID:y2kfcPur0(1/29) AAS
−プロローグ−

 魔が差したのだ。

 そんな言い方をするのは卑怯だと理解しているし、照に悪いとも思う。だとしても、この状況を一言で説明するとしたらこの言葉が適任になってしまう。
 いま、ここの寮の一室には私と照しかいない。鍵は掛けられカーテンも閉ざされている。つまり今後他者の介入はない、ということだ。これまでにも二人きりになることは多々あった。しかし、今までは照に手を出そうだなんて頭の隅に過ることさえなかった。

 照の身体を汗が滴る。照の頬が紅潮しているのがわかる。ああ、自分の心音がドクンドクンと煩い。外に漏れ出ていないといいのだが。
 私は照に信用されて、少し自惚れるなら信頼されていると思う。だからこそ今日ここにいる。そう自負していた。けれどそれも今日までかもしれない。動揺か緊張か、上手く回らない頭でそんなことを考える。いや、今さらそんなことを考えるのも不毛だな。
 思考を切り換えて照の白い体躯に触れんとすると、

「ん……っ」
省5
16: [saga] 2019/09/28(土)02:04 ID:y2kfcPur0(16/29) AAS
 さあ、それより今はこの場をどうするかだろう。亦野と大星を帰らせた今、この一室には私と照しかいない。
 目的は大星が照のアイスパフェを食べたのを隠すこと、そのためにまず部屋を見渡す。鍵は掛けられカーテンも閉ざされている。つまり今後他者の介入はない、ということだ。これまでにも二人きりになったことはあるが、こんな状況は初めてだ。今から私は、一人で隠蔽工作を行わなければならない。
 照はあれでいて切れ者だ、中途半端な隠蔽ではすぐさまバレるだろう。

 部屋に入ったときも抱いた質素な景観という印象は変わらない。変わった点があるとすれば大星や尭深や亦野、加えて自分自身が訪れたことによるものだ。その中から特に、パフェの関わった部分に注意を向ける。
 大星から受け取った後のパフェの移動経路を考えても、主なポイントは三点だろう。一つは私がパフェを締まった冷凍庫。一つはパフェを食べるときに卓として使われた勉強机。そしてもう一つはパフェのカップと、それを入れていた紙の箱が捨てられている屑籠だ。

 手始めに私は屑籠に目を向ける。鼻をかんだとおぼしき大量のティッシュと亦野の持ってきたレジ袋、その上に堂々とカップと折り畳まれた紙箱が乗っている。
 これを照に見られたら一発でアウトだ。最優先で隠滅するべきそれらを、私の鞄の中にあるレジ袋に押し込む。箱のほうはそのままでは上手く入らなかったため、二つ折りの状態からさらに半分に折り畳んだ。

 よりいっそうの安全を求めるならば外のどこかに捨てに行ったほうがいいのだろう。探せば寮内にも屑籠はあるだろうし、マナー違反だがコンビニに行くという手もある。しかし寝ている家主を余所に鍵も掛けずに離れるわけにはいかないし、それにいつ照が起きるかわからないんだ。もし私が離れた数分に照が起きたとしたらその状況はあまりに危険だ。
余裕が出来れば後から試みるがひとまず後回しとして、次に私は机を見た。
17: [saga] 2019/09/28(土)02:05 ID:y2kfcPur0(17/29) AAS
 一時的にカップを置かれただけの机には、屑籠のようにパフェの存在を示すものは無いとは思うが念のためだ。それにどちらかと言うと、私はそれを示唆するものがあってほしいと考えていた。
 照の机は白色のプラスチック製で、椅子に座った場合の左奥に照明が設置されている以外は殺風景だ。そこにペン立てと、黒のブックエンドで支えられた教科書が数冊並んでいるが他には何も乗っていない。

 ……いや、ある。よく見なければ気付かないが机の中央手前に、微かに水滴の円がまばらにいくつか形成されている。大きさからして冷えたカップにより出来たものだ。照の枕元に置かれているティッシュを一枚引き出し、一応その水滴を拭き取った。

 見つかって良かった。照の目に止まる前に、というよりはそれがあって良かったという気持ちが強い。ここで " 大星がパフェを食べた " という証明になるからだ。私がそれを食べてから一時間半は経過している。それだけあれば水滴は消えているはずなのでこれは大星によるものだ。

 ついさっき「パフェの経路は三点」と断じたのは、あくまで私のわかる範囲の話。大星が別の場所でも食していた場合どこかに溶けたアイスの粒が垂れていることも有り得たわけだが、しかしこれでその線もまずないと思っていい。望みのものがあったことに胸を撫で下ろして、机の周りにアイスが垂れていないか一通り確認してから三つ目のポイントの前に足を運ぶ。
18: [saga] 2019/09/28(土)02:06 ID:y2kfcPur0(18/29) AAS
 冷凍庫、もしかしたらここが一番厄介かもしれない。机と同じくパフェの存在を直接示すものは残っていないが間接的にそれを示すものはある。配置の変わった冷凍の品々、これら全てが指し示すのは「冷凍庫が使用された」ということだ。照が元の配置を覚えているかはわからないが甘く見積もるのは危うい。照は普段からこの冷凍庫を使っているわけだし、中身が菓子ならなおさら覚えている可能性は高くなる。

 これに対して私の取るべき対応は至ってシンプルだろう、元の配置に戻してしまえばいい。幸い冷凍庫の中身は少ないため元の状態を覚えている。
 白のプラスチック容器にラップで包装された豚肉推定300g、冷凍食品のグラタン四人前、氷の詰まった300㎖のペットボトル、二つに折れるチューブ状のアイスキャンディー15本ほど、手のひらに収まるくらいの紙容器のラクトアイス(バニラが一つ、チョコが二つ)。

 パフェを入れるために冷凍庫中央のスペースを空けるように広げたそれらを、私は記憶を辿りながら元に戻した。

 これで元通りのはずだ。一度冷凍庫を閉じ数秒待って意識をリセットして、再度開いて確認する。うん、完璧だ。間違い探しをするならば一点だけ異なる点はあるがこれは問題にはならない。ペットボトルの中の水が凍っているという、起きて然るべき変化だからだ。完璧だ。私は満足して冷凍庫を閉じる。

 ……待て、本当にそうか? 拭えない違和感に逆らえず、三たび冷凍庫を開ける。そして、気付いた。……気付けてしまった。
ペットボトルの中の氷、その " 側面に空洞がある " ではないか!
省2
19: [saga] 2019/09/28(土)02:08 ID:y2kfcPur0(19/29) AAS
 まず思い付くのは一度溶かして、縦向きの状態で凍らせることだ。しかしこれは現実的ではない。時間がかかりすぎる。例えばコンロでお湯を沸かしてそこにつければ多少は時短して溶かせるかもしれないが……照が眠りについて約三時間、いつ目を覚ますかも定かではない。その状況で、湯を沸かし、氷をある程度溶かし、再度冷凍庫に入れて凍らせる。少なく見積もっても三十分はかかる。

 それを照に見られたら間違いなく何をしているのか訊ねられる。冷凍庫に入れた後でも凍っていないペットボトルを見れば不自然に思うだろう。そして私は、残念ながらそれに対する言い逃れは思い付かない。なのでこのやり口はあまり取りたくはない。
 仕方ないので私は別の手を使うことにする。多少強引で、ともすればちゃぶ台を返す行為だが時間は格段に短くて済む。

 そうと決まれば即実行、私は冷蔵庫を開けた。そして照が飲んでいいと言っていたオレンジジュース、1 ℓ のボトルに二割ほど残っていたそれをコップに注ぎ飲み干した。
 さらにそこに、水道水を九割目くらいまで注ぎ込んで冷凍庫に押し込む。これでよし、冷凍庫内部の配置を戻す行為は無駄に終わったが、これならば「大きめの氷枕を作ろうとした」という大義名分で冷凍庫内の配置は問題でなくなる。必然的に300㎖ボトルが縦だろうが横だろうがおかしくないわけだ。

 最初に定めた三点にひとまず目を通したことに満足して、念のため再度床を見ておくかと部屋をうろつき本棚辺りまで戻ったそのときだった。

「う……ん」
省3
20: [saga] 2019/09/28(土)02:11 ID:y2kfcPur0(20/29) AAS
 まるで天から見られていたかのようなタイミングだ。なんて、誰に向けるでもないがこの偶然に感謝の意を抱く。
 もっともこの偶然があと数分早くても同じ言葉を浮かべていただろうし、その場合に抱くのは感謝とは異なるものだったと思うので我ながら人間らしい。

「今何時?」

 まだ眠気が残っているのか、照が眉間を押さえながら訊ねる。寝る前より声の通りがいい。

「十二時半くらいだな。体調はどうだ?」

「火照ってる感じはあるけどさっきよりはだいぶ楽かも。汗かいたからかな、喉がカラカラ」
省20
21: [saga] 2019/09/28(土)02:12 ID:y2kfcPur0(21/29) AAS
 二回の訪問というのはイレギュラーだと思う。照が大星にパフェの一つ目を食べていいと言ったのなら、それを思い出した大星が戻ってきたように聞こえなくもない。余計な疑念を抱かれるのは当然避ける。

「いつ頃、だったかな」

 方針は決まったがまだ答えられない。より正確な時間を思い出すふりをして考える時間を確保する。次の選択肢は淡が来た二回のどちらを正史とするか、だ。
 売り切れていたという話に合わせるなら二度目の来訪だろう。日が上ればそれだけ売り切れの可能性は高くなる。反面、リスクもある。

 例えば照から大星への頼み事の際に「売り切れるかもしれないから早めに行ってほしい」などと伝わっていた場合、それに従わずみすみす変えなかった大星の印象はよくない。
朝のうちに売り切れるほどの人気商品なのかは不明だが、それは今日家から出ていない照も同じはずだ。そろそろタイムリミットだろうと結論を出す。

「たしか九時四十分ちょうどくらいだったな。見舞いのポカリとヨーグルトだけ押し付けて嵐のように去っていったのをよく覚えてる」
省18
22: [saga] 2019/09/28(土)02:13 ID:y2kfcPur0(22/29) AAS
 いや、決めつけるのは早い。このスプーンは照が使ったという可能性はないだろうか。食欲がないと言ってもいっさい何も口にしていないとは限らない。
 しかしその楽観はすぐに自分の脳に否定されてしまう。見るからに使われていないキッチン、未開封だった米の袋、スプーン以外にお椀などが置かれていないシンク。到底照がなにか作って食べたとは思えない。

 調理を必要としない食べ物もあるがその場合は容器が存在するはずだ。屑籠の上層には大量のティッシュペーパーと亦野の残したコンビニ袋だけがあり、スプーンを使用して何かを食したようには思えなかった。
 このスプーンそのものは大した問題ではない。現在照が腰かけているベッドとキッチンは対角線上に位置するため私の行動は視界に入るだろうが、なにも凝視されているわけではない。ざるを洗うのに便乗すれば元の置き場に戻すのも容易いだろう。

 ただ問題は、ここに「照の家のスプーンがある」ということ、つまり「パフェに備えられていたスプーンは使われていない」ということだ。そして恐らくはまだ「あのスプーンは冷凍庫の中」にある。

 ぬかった。自分基準で大星も店のスプーンを使っていると勝手に思い込んでいた。
 そうでなければ冷凍庫の整理をしたときに気付けたはずだ、いかに透明と言えど普通は見落とすわけがない。

 照はペットボトルの水を凍らせていた。いつ冷凍庫を開けるために動き出してもおかしくはない。あのスプーンも照に見つかれば一発でアウトの代物だ。先手必勝。
省10
23: [saga] 2019/09/28(土)02:15 ID:y2kfcPur0(23/29) AAS
 ない。
 ボトルを退けても、肉を退けても、アイスキャンディを退けても、透明のスプーンが存在しない!
そんなはずは……もう一度隅から隅まで目を走らせる。しかしやはり見つからない。なぜ……そうか、亦野!

「菫、どうしたの?」

「いや。なんだ……」

 長く冷気を漏らしすぎたのか照から訝しげな声がかかった。300㎖ボトルを取りだして誤魔化す。

「このボトル、使うと言っていたから気になってな。何に使うんだ?」
省12
24: [saga] 2019/09/28(土)02:15 ID:y2kfcPur0(24/29) AAS
 照から言葉は発せられない。私より遅れてちまちまとアイスを食べ進めて、ベッドから立ち上がり籠に捨てる。

「ふぅ。おいしかった」

 スプーンもカップも回収した。ここを越えれば今度こそ、例のアイスパフェの存在を示すものはなくなるはずだ。ここさえ……ここさえ乗り切れば……。

「思ってた以上に食べ物が喉を通るかも」

 照が冷蔵庫を見回す。
省16
25: [saga] 2019/09/28(土)02:17 ID:y2kfcPur0(25/29) AAS
 対応が完璧だったとは思わない。しかし決定打は避けたはずた。見抜けるはずがない……。どういう意味だ、などとぼやかしてしらを切ればまだ乗り切れるかもしれない。

「……気づいてたのか」

 なんて、無理だ。照の細められた目は私に悪あがきが無駄だと知らしめた。余計な抵抗は傷口を広げるだけとなる、事実上の白旗宣言だ。

「認めるんだね」
省17
26: [saga] 2019/09/28(土)02:18 ID:y2kfcPur0(26/29) AAS
「いや……ダメだろ。それは出来ない、部活の話じゃないか」

「そんなことないよ。だってお菓子の減量を言い出したのはあくまで部長の菫でしょ? だったら菫が認めれば丸く収まる」

「そういう話ではなく……。私がやらかしたことの代償に持ってきていいものじゃない。あれは部の抱えるれっきとした問題点だ」

「真面目だね」

 真面目ってのは悪いことじゃないだろうに、照のそれには明らかに呆れたような感情が入っている。
省12
27: [saga] 2019/09/28(土)02:21 ID:y2kfcPur0(27/29) AAS
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 煮詰まったお粥を二皿に分けて、片方を照に渡しつつ尋ねる。

「なあ照、気になるんだがどうして私がパフェを食べたとわかったんだ?」

 小さく一口食した照は、まだ熱いと判断したのか湯気の治まらない皿をかき混ぜる。

「そんなこと、知りたいの?」
省16
28: [saga] 2019/09/28(土)02:23 ID:y2kfcPur0(28/29) AAS
 私は顔をしかめた。なんとなく照の言わんとすることがわかったからだ。

「その二点が繋がったわけか」

「うん。菫が淡からお見舞いの品を丸々受け取ったって言うなら袋ごとだろうけど、それなら菫の鞄に入ってるのはおかしい。まず考えられるのは菫がアイスを屑籠から取り出すより前に淡の袋で他のゴミも持ち帰ろうとしてたこと。でも行動や言動からしてゴミの回収は初めての行動なのが見て取れたから」

 実際にはあのとき、私の鞄に入った袋の中には大星が持ち寄った紙の箱とパフェのカップがあった。なので照が途中に言ったように他のゴミを持ち帰ろうとしたというのは事実なのだが、照の話は私がでっち上げた「淡がコンビニで買った見舞いの品を持ってきた」という前提の話なので関係はない。
 照の言葉が続く。

「それじゃあ実際にはその袋は最初から菫の鞄に入ってたんじゃないかんじゃないかなって。そうなると今度は、菫が話した淡からの手土産と話が合わない」
省23
29: 2019/09/28(土)02:25 ID:y2kfcPur0(29/29) AAS
以上です。
読んでくださった方はありがとうございます(ございました)
30: 2019/09/28(土)02:33 ID:mQWrmE8m0(1) AAS

米沢先生早く続きかいて
31: 2019/09/28(土)02:45 ID:/MTATNyg0(1) AAS
乙 関係ないけど咲日和は本編よりエンゲル係数高そう
32: 2019/09/28(土)06:00 ID:ItQ+LLow0(1) AAS
乙です
33: 2019/09/28(土)21:52 ID:T3Sc3BjG0(1) AAS
シャルロットだったかな
34: 2019/09/28(土)23:16 ID:nclM6KXe0(1) AAS
京太郎は?
35: 2019/09/29(日)16:03 ID:sCb6px0Ko(1) AAS
おつ
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