【デレマス】 偶像ルネッサンス (91レス)
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抽出解除 必死チェッカー(簡易版) レス栞 あぼーん

11: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:17 ID:8+PeY8Rzo(1/42) AAS
 
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 2017年・3月

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12: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:19 ID:8+PeY8Rzo(2/42) AAS
 
春の346プロダクション。
アイドル部門はこの日、また新たな一員を迎える。

「受付から連絡来ました。今エレベーターに乗ってると」
「わかった」

“アイドル”という長く短い歴史の中で、既に見捨てられつつある一つの生き様。
この時代にたった一人しかいないであろう逸材は、その生き様に自らの使命を見いだし、逆風吹き荒ぶこと覚悟の上、この道を選んだという。
その道を照らすのは、『復活』という一つの希望。
時代の埃を被った夢を愛する者たちにとっての一つの希望。

「もうすぐ来ますよ」
省12
13: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:21 ID:8+PeY8Rzo(3/42) AAS
 
「は、はじめまして」

蓮実は一礼をして、促されたまま用意されていた席に着いた。

「おう、よく来てくれたね」
「あ、プロデューサーさん……あの、この間はありがとうございました!」
「なんのなんの」

プロデューサーと呼ばれたこの男が、オーディション会場で結果を出せずうなだれる蓮実を見つけ、
その場で彼女をスカウトしたのはほんの一週間前の出来事である。
対面の席に座り、目の前で緊張の面持ちを隠せない少女と裏腹に、ずいぶん落ち着いた様子で彼女を迎え入れた。

「それにしても、プロデューサーさん自らスカウトなんて珍しいですね。普段はあまりそういうことされないのに」
省5
14: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:23 ID:8+PeY8Rzo(4/42) AAS
 
「あっ、申し遅れました。 私、346プロダクションの事務を担当しております千川ちひろです。よろしくお願いしますね」
「千川さん……はい、よろしくお願いします」
「私はプロデューサーさんみたいに直接蓮実ちゃんのお世話をさせていただくわけではないですけど、
 これからのアイドル活動のサポートを全力で行いますからね」

珍しいライトグリーンのスーツに身を包んだ若い女性が右手を差し出すのを見て、蓮実は安心したように握手に応じた。
同時に、『アイドル活動』という言葉を一事務員とはいえ業界に身を置く人間から直接耳にした事実に、蓮実の背筋はピンと張る。

「まあまあ、そんな堅くならずにさ。 んじゃま、早速だけど……ちょっと軽くミーティングでもしよっか」

一方でプロデューサーは終始リラックスした──というより、少々気の抜けたような──様子を崩さずにいた。こちらは蓮実にとって意外だった。
スカウトを受けた日のこの人の言葉、瞳の奥に感じた熱――もっと厳格で、力強くて、頼もしい――そんなイメージを抱いていたのだが。
省6
15: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:24 ID:8+PeY8Rzo(5/42) AAS
 
 *

「……趣味は古着屋巡りに、ボウリング……? マイボールまで持ってるんですね! すごい!」
「いえ、たしなむ程度ですので……」

履歴書に目を通しながらちひろが賞賛の声を上げ、蓮実はただ恥ずかしげに相づちを打っていた。

「またまた、謙遜しちゃって。ベストスコアは?」
「うーんと……確か、200を超えたことくらいは……」
「へぇ〜、すごい。そりゃ男でもなかなかいないよ…… ちひろちゃんはボウリングやったことある?」

プロデューサーの質問にも、遠慮がちに答えていく。
省8
16: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:26 ID:8+PeY8Rzo(6/42) AAS
 
「いや、だって、ミーティングって言いましたよね?」
「コミュニケーションは大事だろ。 堅い話ばっかりじゃ疲れるし、なあ?」

まぁ、そうですね――と一応肯定しておく。
本心ではこれからについてのまじめなお話でも、こうやって気楽に談笑して事務所の空気に慣れておくのも、蓮実にとってはどちらでも良い。

「私は、まだここで何をして良いかも全く分からないので……プロデューサーさんにお任せします」
「だって」
「信頼されてるんですから、ちょっとはしっかりして下さいよ?」
「……むー」

まるで子供のように、小さくふくれっ面をしてみせるプロデューサーが少し可笑しくて、ふふと笑みをこぼした。
省8
17: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:29 ID:8+PeY8Rzo(7/42) AAS
 
「そりゃもう、みんな個性的な奴らばっかりだぜ」
「……はい」
「プロデューサーさん、いったい何が言いたいんです?」

彼の問いたいことは蓮実にはなんとなく察しがついた。
今やアイドルとは個性の時代だ。業界全体だけでなく同じ事務所内であってもこれだけの競争相手がいる中で、
自分を売り出すにはどうすれば良いか考えろ、ということなのかも知れない。
――自分は、古くさくありきたりで不器用な人間だから。

「君がここに来た理由……アイドルになりたい理由、どんなアイドルになりたいか、それは初めて会ったときに聞いた」
「……はい」
省9
18: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:31 ID:8+PeY8Rzo(8/42) AAS
 
「私は、自分のように遠い昔の清純派を好きで、本気で憧れているような、私みたいなアイドルは他にいないと思っています。 
 今時受けは悪いとしても、それが自分の最大の強みです」
「……うん」
「だから、私に求められているのは――きっと、同じように清純派を愛する人たちへのメッセージになること。 
 かつてのアイドルのスピリットを現代に伝える、『最後の清純派』として一花咲かせることだと思います。 
 ……そして願わくば私は、清純派を次の時代へ伝えたいと、そう思っています」

少々気取った答えになってしまったかも知れない。
心配をよそに、プロデューサーはうんうんと頷き――そして、重ねて尋ねた。

「清純派アイドルになって、トップを目指そうって思ったことはない?」
省11
19: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:34 ID:8+PeY8Rzo(9/42) AAS
 
「……OK。それが今の長富の答えってワケだ」
「……ダメだったでしょうか」
「うんにゃ、そんなことないよ。 まだまだ腹割って話しにくいところもあるだろうしな。 ありがとう」

初めての話し合いで印象を悪くしてしまったかもという不安がほんの少し残る蓮実に対して、プロデューサーは何事も無かったかのように続けた。

「んじゃ、まずは他の新人と同様、基本的なレッスンで現時点でのスキルを測る。
 後は取引先に軽く挨拶回りして、そんで一通りの基礎トレが終わったら、
 ウチと提携してるライブハウスのうちの一つで早速ステージに立って一曲披露してもらう――まあ、今から2週間後ってとこかな」
「そ、そうなんですか?」

――たった2週間でステージデビュー?
省9
20: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:36 ID:8+PeY8Rzo(10/42) AAS
 
「……ちょっと、難しいお話ですね」

イメージしたとおりのステージ――そう聞くと、蓮実がかつて数え切れないほど想像してきた伝説たちのきらめく光景が瞳の奥によみがえる。
当然、今の自分はあれほどの喝采を浴びるには足りないけれど、先へ進むにはやるしかない。
どのみちその最初のステージがどういう結果に転ぼうと、「ちょっと待って」とプレイバックなどできやしない。

「でも…………分かりました。 蓮実、頑張ります!」
「よしきた」

今日初めての力強い返事に、プロデューサーもニヤリと笑ってみせた。

「んじゃ、週明けから早速始めようか」
21: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:37 ID:8+PeY8Rzo(11/42) AAS
 
 *

「……うん。 発声はまだまだ練習しないとだけど、音程はきっちりとれてますね」
「本当ですか? ありがとうございます♪」

初めてのレッスンがボイストレーニングだと知り、蓮実は嬉しくてたまらなかった。
大好きな歌。ダンスも自信はないしえくぼもできないけれど、こればかりはいつだって欠かさずずっと続けていた大事なものだ。
プロとしての第一歩を歌で飾れるというだけで、何だか上手くいっているような気がして、浮かれたようにレッスン室の扉を叩いた。
トレーナーの女性も親身に練習を見てくれて心強い。

30分ほど続けた後、一旦休憩を取ってしばし世間話。

「歌の練習、ずっとしてたの?」
省4
22: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:38 ID:8+PeY8Rzo(12/42) AAS
 
……数分後、やはりというか結局夢中になってしばらく話し込んだところでハッと我に返る。

「すみません、私語り出すと止まらなくて、つい……」
「いいのいいの。 ……そうだ、今回の課題曲とは違うけど、なにか歌ってみてくれない?」

意外な提案だったが、とくに断る理由もない。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

せっかく歌ってみてと言われたのだから、思い切りやらせてもらおう。
幸いこれは今までみたいなオーディションでもない。この人なら笑わずに聴いてくれるはず。
省4
23: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:40 ID:8+PeY8Rzo(13/42) AAS
 
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大サビまで歌い終わり、腕の最後の一振りを終えたところでトレーナーは少しの間唖然と口を開け、そして思い出したかのように拍手をし始めた。

「すごい……振り付けまでバッチリ」
「あ、ありがとうございます……」
「素直に驚いた。 すっごく良かった!」

蓮実はホッとした表情でよかった、と一言だけ漏らした。

「今の、ずっと昔のCMソング? どこかで聴いたことあるかも……」
「ご存じでしたか? 洗剤の……」
「だよね、詳しくは知らないけど。 でも、とにかくその歌が大好きだっていうのが伝わってきたわ。 とっても良かった」
省8
24: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:41 ID:8+PeY8Rzo(14/42) AAS
 
「調子どう?」
「あっ、プロデューサーさん。 お疲れさまです」

トレーナーが向き直って一礼した。
蓮実も合わせて「お疲れさまです」と挨拶をしてみる。
なんとなく業界人っぽさを感じ取って、浮かべてしまった照れ笑いを隠すように口先をキュッと締めた。

「初日にしては調子抜群、って感じですね。 さっきも、長富さんのお気に入りの歌を披露してもらっていたところです」
「そうなの?」
「はい♪ ステージの曲、それのカバーでも良いんじゃないかって言っていただけました!」
「へぇ……」
省5
25: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:42 ID:8+PeY8Rzo(15/42) AAS
 
「普段ならあまり曲目の変更はしないんですが――他の新人の子たちは、曲にこだわりがない子も多いので――
 長富さんが希望するなら、そういうのもアリだと思います」
「だってさ。 どうする?」
「えっ、本当に……?」

トントン拍子に話が進みすぎて、かえって困惑すら覚える蓮実の返事をプロデューサーとトレーナーが待つ。
二人の顔を交互に見つめた後、おそるおそる尋ねてみた。

「……本当に、私今の歌でアイドルとしてステージに立っても良いって事ですか?」
「本人の希望も聞いた上でステージをやるって言ったろ」

蓮実の表情が一際パッと咲く。
省8
26: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:44 ID:8+PeY8Rzo(16/42) AAS
 
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翌日、レッスンは中休みということでラジオ局へのご挨拶をプロデューサーの付き添いで行うこととなった。

「よっ、久しぶり」
「おー、ずいぶん長い間顔を出さないと思ったら」

プロデューサーは、軽い様子でスタッフらしき人物と言葉を交わしている。

「今日はどうしたの」
「うんにゃ、また新人を担当することになったから挨拶回り」
「そうかい。あんたそういうの肌に合わないんじゃなかったのか?」
省5
27: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:45 ID:8+PeY8Rzo(17/42) AAS
 
「お、おはようございます! 長富蓮実、16歳です」
「うん、すごいべっぴんさんだねぇ。 蓮実ちゃんっていうの? 初めまして」
「は、はい……」
「そんな緊張しなくてもいいよ、ガハハ。 ……んーせっかくだし、もっと蓮実ちゃんらしい何かを見てみたいなぁ」
「私らしい……ですか?」
「うんうん、 なにか特技みたいなのないの?」
「特技……といいますか……」

どうしようか一瞬迷ったものの、ここは自分を知ってもらうチャンス。頑張って自分を売り込まなければ次のチャンスも巡ってこない。
そういう世界なんだろう。蓮実は意を決した。
省11
28: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:46 ID:8+PeY8Rzo(18/42) AAS
 
「いやぁ。346さんまた“濃ゆい”子を連れてきたんだねぇ! 尖ったキャラしてるわ!」
「“濃ゆい”、尖った……そう見える?」

プロデューサーは質問とも言えない口調で一言だけ放った。

「うんうん、上手いよ。 ちゃんと大昔のアイドルっぽくてバッチリじゃない!」
「えっと……ちゃんと、ぽくて、というのは……」
「いやぁ、346さんたまーにすっごく変わった子連れてくるからさ、次も楽しみにしてたんだけど……うんうん、悪くないね」

――これは失敗だったかな。
蓮実はばつの悪そうに下を向いて黙った。

「ただ――その路線だけじゃちょっとインパクト弱いかなぁ」
省11
29: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:48 ID:8+PeY8Rzo(19/42) AAS
 
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「ありゃ何も理解してないな」

局の正面玄関を出て外の空気を大きく吸い込む。もうすぐ4月だが、今日はまだまだ肌寒い。
蓮実に話しかけたのかどうか分からない程度に、プロデューサーがボソリとつぶやいた。
そのまま数歩歩いてから、頬を控えめにポリポリと掻いている蓮実の顔をプロデューサーが覗き込む。

「気を悪くしたならすまない。 あれで悪い奴らじゃないんだけど」
「いえ、 アイドルになる前も――もっとも私はまだ卵ですが――オーディションなんかで、あんな感じでよく思われないことはしょっちゅうでした。 
 今更この程度で折れません」
「……そうかい」
省4
30: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)22:49 ID:8+PeY8Rzo(20/42) AAS
 
話しながらふと、さっきの男の笑い声が頭に響き渡る。
思い出してもモヤモヤした気持ちしか残らないから、と無理矢理追い払った。

「私の憧れのアイドル像を、ようやく皆さんの前で表現できるチャンスだと思ってます。 
 数々のアイドルたちが通った階段を、ようやく私も登り始めたんだと思うと――これくらい、へっちゃらです」
「なら、しばらくは思うように動いてみな」

“思うように”というのが、めげずに今日のような自分なりのアピールを貫いていいということだとすれば、

「俺も長富のやりたいようにやらせてみたい」
「……頑張ります」

少なくともプロデューサーは私を信じてくれている。だったらたった一度の失敗などどうってことない。
省1
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