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【仮面】オペラ座の怪人エロパロ第9幕【仮面】 (243レス)
【仮面】オペラ座の怪人エロパロ第9幕【仮面】 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/
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1: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/04(木) 09:36:17 ID:hpCIZTZ4 落ちていたので立てました。 引き続き天使様の御降臨をお待ちしております。 エロ無しを投下する天使様は、注意書きとしてその旨のレスを入れてから SSを投下してくださいませ。 過去スレ 第1幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1107434060/ 第2幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1117948815/ 第3幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1127032742/ 第4幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1132843406/ 第5幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1138109683/ 第6幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1145801742/ 第7幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1158433917/ 第8幕http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1190850492/ 関連 【仮面】オペラ座の怪人エロパロ【仮面】:まとめサイト http://lot666.fc2web.com/ 【仮面】オペラ座の怪人エロパロ【仮面】:新まとめサイト http://movie.geocities.jp/eroparo2005/top.html http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/1
2: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/05(金) 00:11:40 ID:vtbXMDUl 乙! 落ちたのか。 連載中の天使様もいらっしゃるし 落ちない程度に賑わうといいね http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/2
3: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/05(金) 06:24:00 ID:Sy4B3Ftl 乙 金ロー効果で賑わうといいなと思った矢先に落ちるとは http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/3
4: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/05(金) 15:38:17 ID:b8Jv21v/ 容量かな?とは思ったけど 書き込みなかったからなのかな http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/4
5: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/05(金) 16:17:17 ID:Sy4B3Ftl 今回のデッドラインは11月1日の深夜の時点で9日間レスがなかったスレらしい 前スレの最後のカキコは10月21日だったから… 普段は圧縮なかなかない過疎板にいるからこんな死に物狂いの保守合戦があるとは知らなかった http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/5
6: 0/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:43:05 ID:8M4zNz5b スレ立て乙です。 ちんたら書いてたら落ちてました。すみません。 原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。 作中の事件で死者はおらず、怪人が少し暴走しちゃったという話になってます。 ・エロ無し ・キャラ崩壊 ・続き物 ・原作設定 ・ちょっと三角関係 ・でもオチるよ ・基本的にはギャグ これまでのあらすじ。byクリスティーヌ。 むかしむかしあるところにオペラ座がありました。 そこにはたいへんうつくしいむすめがおりました。 なまえはクリスティーヌ・ダーエ。とってもうたがうまいです。 (中略) くりすてぃーぬには たいせつな おともだちが います。 えりっくという おんがくのてんし だけど てんしじゃない おとこのひと と らうるという やさしい おさななじみ の おとこのこ です。 ふたりは くちでは 「きらい」と いってるけど、きっと とっても なかよしさん です。 なんか めんどくさくなったので あとのひとに まかせます。 本当のあらすじ。 クリスティーヌとラウルに文字通り心を砕かれたエリックは二人を地上に送り出した…… が、二人は何故か頻繁に地下に遊びに来るようになる。 エリックは自身の起こした事件を元に「オペラ座の怪人」という台本を書き上げ、 それをオペラ座で上演しようと奮闘する。 支配人を困らせたり、カルロッタの我が儘でこちらが困ったりしながらも完成していく舞台。 その中でエリックはラウルに淡い友情の期待を抱く。 しかしふとしたきっかけで今まで積み重ねてきたものが完全に崩壊。 またそのことでラウルがまだ自分を拒絶していると思ったエリックは深く傷つく。 「好きになりかけてるから傷ついた」のだと〈ペルシャ人〉に指摘されるも素直に認めることが出来ない。 舞台の初日が明日に迫ったある日、 エリックはクリスティーヌとラウルが何やら秘密の計画を練っているのを目撃してしまう。 直前に見た夢の影響で彼らが結婚するものだとエリックは考えて……? 詳しいお話はこちらをどうぞ。 http://u3.getuploader.com/eroparo/download/74/kari.zip 作業用の使ったメモ帳のままであることを予めご了承ください。 修正したいところがありすぎて手に負えないので投下時のまま。 パスはpoto http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/6
7: 1/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:43:59 ID:8M4zNz5b 原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。 ラウル編 ビッシリと並べられた数字にラウルはめまいを覚えた。 数字って苦手だ。1やら2やら、お行儀よく並んでるだけ。そこには一片の感情もない。 では何が得意かと訊かれたら、ラウルは「さあ」と答えただろう。 そんなことを教える義理はないし、それを知ったところで何になる? 感情を悟られぬように努めて笑顔で、紙の上に並ぶ数字に目を通す作業を続行する。 といっても内容を完全に理解出来ているかは怪しかったが。 そういえば。と先ほどのことを思い出す。 さっきの彼は一体どうしたんだろう。屋根裏がどうとか言ってたけど、そこに住みたいのかな。 あまり住み心地の良い場所とも思えないが、どこだって地下よりはマシか。 「はあ」 深いため息が漏れ聞こえ、顔をあげると向かいのモンシャルマンが誤魔化すように咳き込んだ。 このまま見つめ合っているのも何なのでラウルは軽い調子で訊ねてみる。 「何かお悩みでも?」 「我が儘なスポンサーがうるさくて」 彼の言わんとすることはわかったが、弁明の必要性を感じなかったので ラウルは「大変ですね」と柔和に返した。対するモンシャルマンは再びため息をつく。 「子爵は悩み事などなさそうで羨ましいですな」 「褒めないでくださいよ」 「褒めてません」 「これでいいですか?」 ラウルは話を切り上げるべくニッコリと笑いかけると、片手間に紙にサインして差し出した。 「感謝します」 受け取ったモンシャルマンは有無を言わさずラウルをロビーまで案内した。はやく帰れということらしい。 長居するつもりは更々なかったので、彼に別れを告げて馬車に乗り込んだ。 悩み事がなさそう、か。そう見えたのなら僕も少しは本心を隠すのがうまくなったってことかな。 ラウルはふっと窓に映る自分を見やった。 人当たりの良い笑みを浮かべた青年が映っている。 窓に映る彼は表情を崩さぬまま目を伏せた。 僕の生きるこの煌びやかな世界は、虚飾と欺瞞に塗り固められた世界。 兄や周りの大人達が望むように無垢で純粋な子供の心のままでいようとしたけれど、 みんなが思うほど器用には生きられない。 世界の悪意に気づいた日、自分は今までどれほど大事に守られて生きてきたかを知った。 目をつぶって、耳を塞いで、それから遠ざかろうとしたけどだめだった。 この世界からは逃げられない。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/7
8: 2/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:44:48 ID:8M4zNz5b 虚飾と欺瞞の華やかな社交界で、最初に覚えたことは微笑みの仮面を絶えず被り続けること。 周りに合わせて笑みを浮かべること。 例え投げ掛けられた言葉が耳を塞ぎたくなるようなものだとしても、 知らないふりで笑っていれば何事もうまく流れていくように思えた。 誰が何を言おうと、嫌われようと、微笑みを絶やさずにいれば傷つくことはない。 まだ未熟だから時々微笑みを忘れてしまうけど、周りは気づかないふりをしてくれた。 しかし自分を偽り続けるのはつらいから、本当の自分を曝け出せるのはとても心地が良かった。 クリスティーヌと一緒にいるときは偽りのない自分でいられるような気がした。 けど、それは本当に偽りのない自分? どこまでが本当で、どこからが嘘なのか、わからなくなる。 身を守るための処世術がいつの間にか自分そのものにすり替わっていく。 でもだいじょうぶ。そんなときは笑っていれば、万事うまくいくのだから。 けれど微笑みが通用しない相手が突然現れて、 僕の世界は天と地がひっくり返ったみたいにおかしくなった。 彼は今までの誰とも違う。何より違っていたのは僕に剥き出しの嫌悪感を向けていること。 ここまで憎悪を向けられて、嫌われたことなんてなかったから、 わからなくて、怖かった。わからなくて、怖いから、知ろうとした。 でも近づけば近づくほど、遠くなってわからなくなる。 嫌われて、痛くて、苦しくて、死んでしまいたいと思ったのは今回で二度目。 一度目はクリスティーヌに嫌われたと思ったとき。そして二度目は今。 こんなこと、今までずっとなかったのに。嫌われても笑っていれば平気だったのに。 わからなくて、怖かった。わからなくて、怖いから、もっと知ろうとした。 でも近づけば近づくほど、おかしくなってわからなくなる。 終いには自分自身さえわからなくなってしまった。 窓枠に切り取られた四角い空。 太陽が傾き、その身を焦がしながら地平線の彼方へ沈んでいく。 空が真っ赤に染まる。血染めの夕焼け。しかしその赤もやがて黒に変わるだろう。 目を見張るほどの鮮血が時間経過と共に黒く変色するように。 そしてその真っ黒な闇の中には仄白い光。月は無慈悲な輝きで地上を微かに照らす。 幾度となく繰り返される天上の華麗な交代劇。 急に体が重くなったように感じられ、ラウルは背もたれに体を預けてそっと目を閉じた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/8
9: 3/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:45:28 ID:8M4zNz5b 「ラウル?」 クリスティーヌの呼びかけに我に返ると、ラウルはどこかの一室にいた。 ここはどこだろう? 振り返ると真っ白なドレスのクリスティーヌがいて優しく微笑んでいる。 その笑みにラウルは先ほどの疑問を放りだした。 彼女が傍にいてくれるのならどこだって構わない。 ああ、可愛いクリスティーヌ。天使のように可憐な少女。 彼女が僕の隣にずっといてくれて、僕の名前を名乗ってくれるなんて夢みたいだ。 林檎色の頬をした小さな花嫁さんがたまらなく愛おしくて、引き寄せて腰を絡め取る。 すると彼女は俯いた。震える声で訴える。 「だめよ、天使様が許さないわ」 「天使?神様のこと?神様が許してくれなくても構うものか」 「私は構うもの」 クリスティーヌが腕を振りほどいたかと思うと、ラウルの体は宙に浮かんだ。 いつの間にか首に紐が巻きついていて、その紐先はクリスティーヌが握っている。 二人の間にピンと張られた紐はまるで今にも切れてしまいそうな二人の絆のようだった。 「勘違いしないで、私は天使様と一緒に行くの」 彼女のすぐ隣にどろんと純白のタキシードに身を包んだエリックが「出現」する。 クリスティーヌはうっとりと彼にしなだれかかり、彼もそれに応じた。 「もう邪魔してほしくないの。二度と私の前に現れないで」 彼女はいつもと寸分変わらぬ笑みを浮かべて、二人を僅かに繋ぎ止めていた絆を手放す。 「だからさよなら、お邪魔虫さん」 目の前が真っ暗になる。 地面が裂けて、その底に、闇の中に吸い込まれるように落ちていく。 立ち上る水しぶき。四肢がもぎれそうな強い痛み。 一瞬遅れて突き刺さる冷たさと息苦しさ。 水の中に落ちたのだと理解したのは水中をもがき始めてからだった。 苦しい、息が出来ない。 水面へ上がろうともがくけど、どちらが上か下かもわからない。 そうこうしているうちに体はどんどん重くなり動かなくなっていく。 沈みながら見上げた水面。揺らいで見えるは真っ黒な夜空。 何も見えない。感じない。漆黒のカーテンが全てを隠してしまった。 落ちながらきらめく水面。僅かに射し込む青白い月明かり。 冷たさも苦しさも何も感じない。泡沫のように溶けていく。 ゆらゆら水面に浮かぶ月。掴もうと腕を伸ばしても、届かない。 月はただ無慈悲に水底へ沈む僕を照らすだけ。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/9
10: 4/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:46:10 ID:8M4zNz5b ふいに誰かが伸ばした腕を掴んだ。水底から引き上げられる。 目をあけると優しい兄の姿。肩越しに見えるのは月ではなく見慣れた天井。 「ここ、は?まだ水の中?苦しくて息が出来ない……?」 「おまえの部屋だよ」 兄が酷く心配そうにラウルを覗きこみ、哀れみを込めた調子で続ける。 「ラウル、頼むから目を覚ましてくれ。医者を呼ぼうか?」 兄はかねてから弟がおかしくなってしまったのではないかと思っていた。 もしそうだとしたら、何をしてでもそこから救ってやらなくてはとも。 「じゃ、あれは夢?」 「そうだよ。帰ってきてすぐにベッドに倒れ込んで、どうしたものかと思っていたら 今度はうなされて大声で呻きだして……はやく目を覚ましてくれ」 もう見ていられないというように兄は目を伏せる。 よかった、あれは夢なんだ。でも夢だとわかっても震えが止まらなかった。 ラウルは起き上がり、震える肩を抱いて、兄の胸に体を預けた。 兄は何も訊かずに抱きしめてくれる。まるでそうしないと壊れてしまうというように力強く。 触れ合った箇所から体温が戻っていく。伝わるぬくもりに涙が溢れそうになる。 もしも周りの人間がみんないなくなっても、兄だけは一緒にいてくれるとそう思えた。 「昔と何も変わらないな。幼い頃のおまえは悪い夢にうなされるといつも私のところに来て、 わんわん泣いて、疲れたらしがみついて眠りこけて。私は一晩中動けなかった」 恥ずかしさもあって何も言えなかった。 僅かに上気した体温に気づいたのか、兄はおかしそうに笑う。 「悪い夢だけでなく夜が怖い、闇が怖いと泣いて私や皆を困らせた。終いには月まで怖がるから、 私達は夜が来たら全ての窓を覆って、部屋中に明かりを灯さなければならなくなった」 部屋が昼間のように煌々と明るいことに気づき、ラウルは少しばつが悪くなった。 「今も夜の闇は怖いか?」 「まだ少し苦手だけど」 夜は冷たく月は無慈悲だと思っていたけど本当はそうじゃなかった。 「でも昼の青空に太陽が力強く輝くように、夜の暗闇は月が優しく照らしだす。 昼の世界に音楽があるように、夜の世界にも音楽がある。 光は全てを平等に照らし、闇は全てを平等に隠す。 光があるから闇があって、闇があるから光がある。 そう教えてくれた人がいるから、もう怖くない」 目を閉じて波のように絶え間なく続く鼓動に身をゆだねる。 ラウルはそっと意識を手放した。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/10
11: 5/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:47:05 ID:8M4zNz5b ・ ・ ・ 兄のフィリップと共にオペラ座にやってきたラウルは、ロビーで身なりのいい紳士に呼び止められた。 「お久しぶりです、シャニー伯爵。最近お見かけしないから心配していました」 「色々ありましてね」 「お察しします」 紳士がしきりにこちらを見てくる。 不躾な好奇に満ちた視線であったが、ラウルは気にも留めなかった。にこりと微笑で応じる。 そういうのは慣れっこだったし、どうでもいい人からどう思われていようと関係ない。 みんな右から左へすり抜けていく。上辺だけを滑っていくから、心には残らない。 何よりラウルが思いを馳せていたのは昨夜の夢のこと……ではなく、今し方の出来事であった。 兄に叩き起こされ、窓を見ると綺麗な朝焼けで何だってこんな時間にと文句を言ったら、 朝焼けで無く夕焼けなのだと説明された。昨夜の一件もあってだいぶ寝過してしまったらしい。 それはともかく兄には傍若無人な点が多々あった。 彼はラウルに対して「馬車を用意してくるから二分で身支度を整えろ」と無茶ぶりをしたのだ。 「ちょwムリwww」と言い終わる頃にはラウルは寝巻のまま首根っこを掴まれ馬車に放り込まれていた。 幸い馬車の中は広く、着替えるのには困らなかった。それでもあんなところで着替えたくなかったけど。 ラウルは顎を撫でる。髭は伸びていない……と思う。 馬車には何故か剃刀などの生活用品も備え付けられており、何不自由なく身支度を整えることが出来た。 さすが兄さん、朝帰りする男は違う。とか尊敬の念を覚えたのはまた別の話。 「今度絵画を集めてオークションでもと思うのですが、伯爵もいかがですか」 「それは素晴らしい。書斎の壁が寂しいと思っていたところです」 例の紳士はどうやら兄の知り合いで文部省のお偉いさんらしい。 ラウルは二人のやり取りに口を挟むわけでもなくぼんやりと眺めていた。 兄は話に横槍を入れられるのを大変嫌っていたし、ラウルはそれほど芸術や文化に明るくなかった。 「失礼。弟さんはこのようなお話はお好きでないようですね」 「弟は難しい話は苦手なんですよ。ラウル、向こうに行ってなさい」 「はい。では失礼します」 随分な言われようだったが、ラウルは気にしなかった。 それどころか解放されたと内心ほっとしたくらいだ。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/11
12: 6/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:47:46 ID:8M4zNz5b のんびりとロビーを歩いていると激しく背中を叩かれた。 「痛っ」 「こんばんは、シャニー子爵」 振り返るとそこには〈ペルシャ人〉がいた。彼が叩いたらしい。「こんばんは」と軽く会釈する。 「今宵はチケットをありがとうございます。先ほど席を拝見させてもらったのですが、 とてもいい席ですね。今晩は楽しめそうだ」 「僕は支払いをしただけです」 「相変わらず都合のいい財布か。この分だと知らないうちにだいぶ払わされてるんだろうな」 「えっ」 ぼそりと呟いた〈ペルシャ人〉の言葉をうまく聞き取れず、ラウルは聞き返した。 しかし〈ペルシャ人〉はその問いに答えず曖昧に微笑む。 「とにかくチケットありがとうございました」 「いいえお礼なら彼に言ってください」 「では私はこれで。そうだ、背中に気をつけてください」 「?」 〈ペルシャ人〉は謎の言葉を残してどこかに行ってしまった。 背中って何のことだろうか。考えても答えが見えないので、ラウルは忘れることにした。 幸いすぐに忘れるような出来事が起こり始めた。 すれ違う人々がしきりにこちらを振り返り、笑っている。 少し気味が悪かったけど、僕は(色々な意味で)有名人だからと都合よく解釈した。 階段の踊り場で階下を見下ろしていると兄に名前を呼ばれ、凄まじい勢いで背中を叩いた。 つんのめって転げ落ちそうになる寸のところで襟首を掴まれる。 〈ペルシャ人〉の言っていた「背中に注意」とはこういうことなのだろうか。 「ラウル、何をやっている!」 ラウルはどうして怒鳴られているのかわからず首を捻った。 兄に怒られるようなことは「今日は」していないはずである。 けれどもラウルはわかっていなかった。 しっかり者の兄にとって、のんびりしている弟はそれだけで苛立ちの対象になるということを。 といっても兄は弟のそういうところも長所だと認識していたので、その件で怒ることはあまり無かった。 「何ってナニがですか?」 とんちんかんな答えを返すと兄が額を押さえる。 「何故笑われているのかわからないのか?」 「僕が有名人だから?」 「こんなものを背中に貼り付けて歩いているからだ!」 兄はまた背中を叩いた。今度はベリッと何かが剥がれる音がして目の前に翳される。 ラウルはそれを受け取ると表と裏を丁寧に観察した。 「手紙?」 宛名も差出人の名前も書いていないが、背中に貼られていたのだからラウル宛には間違いないだろう。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/12
13: 7/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:48:32 ID:8M4zNz5b 「誰がこんなことを。大体気づかずにニコニコしているおまえもおまえだ。 ラウルの鈍感さにはほとほと呆れるよ。もっとしっかりしてほしいものだ。 おまえにはシャニー家の男として、いや成人男性としての自覚が足りない!」 兄が何やら言っているがラウルの耳は都合よく全てを聞き流した。 「誰からだろう?」 封筒の中には一枚のカードが入っていた。几帳面そうな字が並んでいる。 数行を読んでラウルは頭が真っ白になった。 でも彼がいなくなればクリスティーヌは――そこまで考えて己の醜さに胸を掻き毟りたくなる。 「聞いているのか?」 「行かなくちゃ」 「どこへ?」 「クリスティーヌの元へ」 彼女にこの手紙の内容を伝えなくてはならない。 〈ペルシャ人〉もそれを望んで、この手紙をラウルに託したのだろう。 クリスティーヌの名前を出した途端に兄の機嫌が悪くなった。 「おまえはあの小娘に遊ばれてるんだぞ」 「でも行かなくちゃ。さよなら、兄さん!」 「ラウル、待ちなさい!」 二の腕を強い力で掴まれてラウルは痛みに顔を顰めた。 「離してください」 「私に逆らう気か。おまえがあのような小娘に本気になるとは情けない。 遊びなら許してやったものを。だが本気だというのなら、わかるな?」 「わかりません」 でも行かせてくれないのなら僕にも考えがある。ラウルはニッコリ笑った。 「本当はこんなこと言いたくなかったんだけど」 「言ってみなさい」 「ソレリ」 「げほっごほっ!」 「大丈夫?」 「いや心配ない。で、よく聞こえなかったのだがなんだね?」 兄はかなり動揺しているようで目が泳いでいる。 こんな兄の姿を見るのは初めてなので、ラウルは少しおかしく思った。 「兄さん、ソレリさんってバレリーナの女性と仲が良いんだってね」 「今は私の交友関係でなく、おまえの話をしている」 ひたすら動揺していても兄は年長者の優位を忘れなかった。 威嚇されたところでこれが兄のアキレス腱だということはわかりきっていたので、ラウルは無視して続けた。 「この間、彼女と話す機会があったんだけど兄さんと仲が良いこと知らなくて恥かいちゃったよ」 額に汗が滲んでいる。弟に女性関係を知られたのがよほどショックらしい。 兄は弟のことをまだ子供だと思っている。 でももう大人の割りきった関係も大人の醜さも理解しているつもりだ。 いつまでも子供のままではいられない。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/13
14: 8/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:50:23 ID:8M4zNz5b 「そのときね、ソレリさんが「私のことはお義姉様と呼んでくれて構わないのよ」って 」 「な、何の話だ」 「こっちが知りたいよ。どういう意味だろうね、兄さん?」 「……」 兄は答えなかった。答えられなかったという方が正しいかもしれない。 「あーそっかー!」 わざと甲高い声で叫ぶと周囲の人々が一斉にこちらを向いた。 目配せし合い、視線を逸らすが耳を大きくして様子を窺っている。 結論を述べる前に兄の大きな手がラウルの口を覆った。 「静かにしろ声が大きい。いいからちょっとこっちに来なさい!」 襟首を掴まれ、静かな裏口近くの廊下まで引き摺られる。 兄はしきりに辺りを見回し、ほっと息をついた。 「ここなら誰にも聞かれないな」 「聞かれたら困る話なんだ?」 「……いやまあそれはだな、うむ」 「ふーん?」 普段はしてやられてばかりだけどこういうのも楽しい。ラウルは調子に乗って続ける。 「彼女、僕に凄い嫉妬してたよ。血の繋がりがあるからずるいって。困っちゃうよね」 「彼女は母親を早くに亡くしているから」 「そういう嫉妬とは違ったように見えたけどなあ。 ソレリさんってさ、僕の見立てだと恋愛に本気でなるタイプでないと思うんだよね」 「何を根拠に」 根拠なんてないけど兄さんの反応が面白いから。ラウルはその言葉を呑みこんで代わりにこう言った。 「そういう人が本気になるってアレだよね」 「何が言いたい?」 「相手の男は彼女をとても愛していて、相当入れ込んでるってこと」 「……」 また黙ってしまった。否定しないということはそういうことなのだろうか。 ラウルはからかうようにくすくすと笑いながら止めを刺した。 「兄さん、本気になったらいけないんじゃなかったの?」 「私を脅す気か。この私が踊り子風情に本気になるわけ……」 「そうかな。兄さんは恋に狂った男の目をしてるよ」 「馬鹿なことを」 兄は笑い飛ばそうとして、それが出来ずに視線を落とした。 「僕もそうだったからわかるよ」 「そうだった?今は違うと言いたげだな」 「今は恋愛より大事なものがあるような気がする。まだよくわかんないけど」 「そうかな。おまえは恋に狂った男の目をしてるよ」 「自分もそうだからわかる?」 「さてね」 なんだかおかしくてラウルは兄と顔を見合わせて笑った。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/14
15: 9/9 [sage] 2010/11/05(金) 23:51:09 ID:8M4zNz5b 恋をしたら人は変わってしまうのかな? 変わらない人なんてどこにもいない。 愛しくて、苦しくて、恋は人を変える。 恋しくて、切なくて、恋は人を狂わせる。 全ては甘くつらい恋の魔法のせい。 「ソレリさんのことお義姉様って呼んでもいい?」 「駄目だ」 「今更照れることないのに」 きっぱりはっきり言われてラウルは正直面白くなかった。 せっかくからかうネタが出来たというのに、手放すのはもったいない。 「私のことは兄さんなのに、ソレリはお義姉様だと?ならば私のこともお兄様と呼べ!」 「はぁ?」 「小さい頃は「おにいさま、おにいさま」とあんなに可愛らしかったというのに……。 おまえは一人で大きくなったと勘違いしているな。いつからこんな生意気な口を聞くようになったのか」 そりゃ兄さんには感謝してます。 でも口に出して言うには恥ずかしいので、ラウルは唇をぎゅっと結んだ。 「思えば嫁に行った妹達のことは未だにお姉様と呼んでいるのに、何故私だけ」 「お姉様方には頭が上がらないからに決まってるじゃないか」 弟というのは得てして姉の都合のいい使いっぱしりか、玩具なのである。 大事にしてもらったのは確かだが、ある程度大きくなると、やれあれしろこれしろと大忙しだった。 「この間、帰ってきたときは一日中鏡持ちをさせられたよ」 途中で面倒になって「何を着たって同じ」と口を滑らせたら凄まじい勢いでシメられた。 でも兄や夫の前ではおとなしい妹で、妻を装っているんだろうけど。 まさか旦那さんの前でもあんな態度取ってるわけではないよね? お嫁さんには旦那さんの三歩後ろを歩く奥ゆかしさが必要だとラウルは思っていた。もはや幻想だったが。 「兄さんはお兄様って呼んでほしかったんだ?」 ラウルとしては兄さんの方がお兄様より近しい感じで良いと思っていたのだが、 頭のいい兄さんの考えることはよくわからない。 兄はこの世の終わりのような声で嘆いた。 「最終的には「おい老いぼれ、目障りなんだよ」になるのだな。お兄様は悲しい!」 「あーはいはい、わかりましたよ。お兄様、行ってもよろしいですか?」 ラウルは仰々しく一礼する。兄はそれに応え、深く頷いた。 これが今生の別れというように二人は互いに直立不動で握手を交わす。 「よかろう。男らしく行って来い、ラウル!」 「はい行って参ります、お兄様!」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/15
16: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/05(金) 23:52:21 ID:8M4zNz5b 今回は以上です。 よかれと思って渡した手紙が更なる混乱と暴走を招くのであった。 新スレの一発目がエロ無しですみません。 とりあえず1回分。 即死回避は幾つでしたっけ?足りないようならストック分を纏めて投下します。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/16
17: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/06(土) 12:50:45 ID:ntbmqft3 >朝帰りする男は違う おいwww 最初は兄ちゃんもまとも?だったのに どんどんgdgdになってくなw 即死…、は、この板あるんだっけ? http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/17
18: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/06(土) 20:25:22 ID:MM8EJ98I DLさせてもらいました 読み返すとお兄様は最初から相当キてるw 弟が台本から兄を抹殺しただけで 新たに一冊書き下ろして嫌がらせするレベルの高さw 即死は30までいけばおk 一週間に一度レスがあればおkと諸説あるみたい あと先生の席奪ってすみませんでした 足置きになりますので存分に踏みつけてくださいませ ロープは勘弁してください http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/18
19: O.G. [sage] 2010/11/06(土) 23:31:49 ID:6qAsiCsR >>18 そこまで言うのなら仕方がない。シャンデリアにしてやろう http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/19
20: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/08(月) 19:18:32 ID:rDu+MuoS >>6 GJGJ いつの間にかファントムとラウルの友情物語に・・・ http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/20
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