インディーアイドル板 交流スレ / しまむじろ / すの▲かぼ / ポチひとし / イモタオサム (741レス)
上下前次1-新
162: 2023/12/29(金)16:26 AAS
「お茶をよばれに来たよ。ゆれるかい。」大博士はにやにやわらって言いました。老技師が答えました。
「まだそんなでない。けれども、どうも岩がぼろぼろ上から落ちているらしいんだ。」
163: 2023/12/29(金)16:27 AAS
ちょうどその時、山はにわかにおこったように鳴り出し、ブドリは目の前が青くなったように思いました。山はぐらぐら続けてゆれました。見るとクーボー大博士も老技師もしゃがんで岩へしがみついていましたし、飛行船も大きな波に乗った船のようにゆっくりゆれておりました。
164: 2023/12/29(金)16:28 AAS
地震はやっとやみ、クーボー大博士は起きあがってすたすたと小屋へはいって行きました。中ではお茶がひっくり返って、アルコールが青くぽかぽか燃えていました。クーボー大博士は器械をすっかり調べて、それから老技師といろいろ話しました。そしてしまいに言いました。
「もうどうしても、来年は潮汐ちょうせき発電所を全部作ってしまわなければならない。それができれば今度のような場合にもその日のうちに仕事ができるし、ブドリ君が言っている沼ばたけの肥料も降らせられるんだ。」
165: 2023/12/29(金)16:28 AAS
自然に対する人間のありようについて考えさせられる
166: 2023/12/29(金)16:29 AAS
空海の灌漑事業
167: 2023/12/29(金)16:30 AAS
自然のコントロール
でもそうたやすくコントロールされない自然
168: 2023/12/29(金)16:30 AAS
人間は自然とどう共存していくのか
169: 2023/12/29(金)16:30 AAS
「旱魃かんばつだってちっともこわくなくなるからな。」ペンネン技師も言いました。ブドリは胸がわくわくしました。山まで踊りあがっているように思いました。じっさい山は、その時はげしくゆれ出して、ブドリは床へ投げ出されていたのです。大博士が言いました。
「やるぞ、やるぞ。いまのはサンムトリの市へも、かなり感じたにちがいない。」
老技師が言いました。
170: 2023/12/29(金)16:31 AAS
「今のはぼくらの足もとから、北へ一キロばかり、地表下七百メートルぐらいの所で、この小屋の六七十倍ぐらいの岩の塊かたまりが熔岩ようがんの中へ落ち込んだらしいのだ。ところがガスがいよいよ最後の岩の皮をはね飛ばすまでには、そんな塊を百も二百も、じぶんのからだの中にとらなければならない。」
大博士はしばらく考えていましたが、
「そうだ、僕はこれで失敬しよう。」と言って小屋を出て、いつかひらりと船に乗ってしまいました。
171: 2023/12/29(金)16:32 AAS
老技師とブドリは、大博士があかりを二三度振って挨拶あいさつしながら、山をまわって向こうへ行くのを見送ってまた小屋にはいり、かわるがわる眠ったり観測したりしました。そして明け方ふもとへ工作隊がつきますと、老技師はブドリを一人小屋に残して、きのう指さしたあの草地まで降りて行きました。みんなの声や、鉄の材料の触れ合う音は、下から風の吹き上げるときは、手にとるように聞こえました。ペンネン技師からはひっきりなしに、向こうの仕事の進み具合も知らせてよこし、ガスの圧力や山の形の変わりようも尋ねて来ました。それから三日の間は、はげしい地震や地鳴りのなかで、ブドリのほうもふもとのほうもほとんど眠るひまさえありませんでした。その四日目の午前、老技師からの発信が言って来ました。
「ブドリ君だな。すっかりしたくができた。急いで降りてきたまえ。観測の器械は一ぺん調べてそのままにして、表ひょうは全部持ってくるのだ。もうその小屋はきょうの午後にはなくなるんだから。」
172: 2023/12/29(金)16:32 AAS
ブドリはすっかり言われたとおりにして山を降りて行きました。そこにはいままで局の倉庫にあった大きな鉄材が、すっかり櫓やぐらに組み立っていて、いろいろな器械はもう電流さえ来ればすぐに働き出すばかりになっていました。ペンネン技師の頬ほおはげっそり落ち、工作隊の人たちも青ざめて目ばかり光らせながら、それでもみんな笑ってブドリに挨拶あいさつしました。
173: 2023/12/29(金)16:33 AAS
老技師が言いました。
「では引き上げよう。みんなしたくして車に乗りたまえ。」みんなは大急ぎで二十台の自動車に乗りました。車は列になって山のすそを一散にサンムトリの市に走りました。ちょうど山と市とのまん中どこで、技師は自動車をとめさせました。「ここへ天幕てんとを張りたまえ。そしてみんなで眠るんだ。」みんなは、物をひとことも言えずに、そのとおりにして倒れるようにねむってしまいました。その午後、老技師は受話器を置いて叫びました。
「さあ電線は届いたぞ。ブドリ君、始めるよ。」老技師はスイッチを入れました。ブドリたちは、天幕てんとの外に出て、サンムトリの中腹を見つめました。野原には、白百合しらゆりがいちめんに咲き、その向こうにサンムトリが青くひっそり立っていました。
174: 2023/12/29(金)16:33 AAS
サンムトリというアイヌ風の山名
175: 2023/12/29(金)16:34 AAS
にわかにサンムトリの左のすそがぐらぐらっとゆれ、まっ黒なけむりがぱっと立ったと思うとまっすぐに天までのぼって行って、おかしなきのこの形になり、その足もとから黄金色きんいろの熔岩ようがんがきらきら流れ出して、見るまにずうっと扇形にひろがりながら海へはいりました。と思うと地面ははげしくぐらぐらゆれ、百合の花もいちめんゆれ、それからごうっというような大きな音が、みんなを倒すくらい強くやってきました。それから風がどうっと吹いて行きました。
176: 2023/12/29(金)16:34 AAS
「やったやった。」とみんなはそっちに手を延ばして高く叫びました。この時サンムトリの煙は、くずれるようにそらいっぱいひろがって来ましたが、たちまちそらはまっ暗になって、熱いこいしがばらばらばらばら降ってきました。みんなは天幕の中にはいって心配そうにしていましたが、ペンネン技師は、時計を見ながら、
「ブドリ君、うまく行った。危険はもう全くない。市のほうへは灰をすこし降らせるだけだろう。」と言いました。こいしはだんだん灰にかわりました。それもまもなく薄くなって、みんなはまた天幕の外へ飛び出しました。野原はまるで一めんねずみいろになって、灰は一寸ばかり積もり、百合の花はみんな折れて灰に埋まり、空は変に緑いろでした。そしてサンムトリのすそには小さなこぶができて、そこから灰いろの煙が、まだどんどんのぼっておりました。
その夕方、みんなは灰やこいしを踏んで、もう一度山へのぼって、新しい観測の器械を据え着けて帰りました。
177: 2023/12/29(金)16:35 AAS
七 雲の海
それから四年の間に、クーボー大博士の計画どおり、潮汐ちょうせき発電所は、イーハトーヴの海岸に沿って、二百も配置されました。イーハトーヴをめぐる火山には、観測小屋といっしょに、白く塗られた鉄の櫓やぐらが順々に建ちました。
ブドリは技師心得になって、一年の大部分は火山から火山と回ってあるいたり、あぶなくなった火山を工作したりしていました。
178: 2023/12/29(金)16:37 AAS
次の年の春、イーハトーヴの火山局では、次のようなポスターを村や町へ張りました。
「窒素肥料を降らせます。
ことしの夏、雨といっしょに、硝酸アムモニヤをみなさんの沼ばたけや蔬菜そさいばたけに降らせますから、肥料を使うかたは、その分を入れて計算してください。分量は百メートル四方につき百二十キログラムです。
雨もすこしは降らせます。
旱魃かんばつの際には、とにかく作物の枯れないぐらいの雨は降らせることができますから、いままで水が来なくなって作付さくづけしなかった沼ばたけも、ことしは心配せずに植え付けてください。」
179(1): 2023/12/29(金)16:37 AAS
その年の六月、ブドリはイーハトーヴのまん中にあたるイーハトーヴ火山の頂上の小屋におりました。下はいちめん灰いろをした雲の海でした。そのあちこちからイーハトーヴじゅうの火山のいただきが、ちょうど島のように黒く出ておりました。その雲のすぐ上を一隻せきの飛行船が、船尾からまっ白な煙を噴ふいて、一つの峯から一つの峯へちょうど橋をかけるように飛びまわっていました。そのけむりは、時間がたつほどだんだん太くはっきりなってしずかに下の雲の海に落ちかぶさり、まもなく、いちめんの雲の海にはうす白く光る大きな網が山から山へ張りわたされました。いつか飛行船はけむりを納めて、しばらく挨拶あいさつするように輪を描いていましたが、やがて船首をたれてしずかに雲の中へ沈んで行ってしまいました。
180(1): 2023/12/29(金)16:37 AAS
受話器がジーと鳴りました。ペンネン技師の声でした。
「飛行船はいま帰って来た。下のほうのしたくはすっかりいい。雨はざあざあ降っている。もうよかろうと思う。はじめてくれたまえ。」
ブドリはぼたんを押しました。見る見るさっきのけむりの網は、美しい桃いろや青や紫に、パッパッと目もさめるようにかがやきながら、ついたり消えたりしました。ブドリはまるでうっとりとしてそれに見とれました。そのうちにだんだん日は暮れて、雲の海もあかりが消えたときは、灰いろかねずみいろかわからないようになりました。
181: 2023/12/29(金)16:39 AAS
受話器が鳴りました。
「硝酸アムモニヤはもう雨の中へでてきている。量もこれぐらいならちょうどいい。移動のぐあいもいいらしい。あと四時間やれば、もうこの地方は今月中はたくさんだろう。つづけてやってくれたまえ。」
ブドリはもううれしくってはね上がりたいくらいでした。
この雲の下で昔の赤ひげの主人も、となりの石油がこやしになるかと言った人も、みんなよろこんで雨の音を聞いている。そしてあすの朝は、見違えるように緑いろになったオリザの株を手でなでたりするだろう。まるで夢のようだと思いながら、雲のまっくらになったり、また美しく輝いたりするのをながめておりました。ところが短い夏の夜はもう明けるらしかったのです。電光の合間に、東の雲の海のはてがぼんやり黄ばんでいるのでした。
ところがそれは月が出るのでした。大きな黄いろな月がしずかにのぼってくるのでした。そして雲が青く光るときは変に白っぽく見え、桃いろに光るときは何かわらっているように見えるのでした。ブドリは、もうじぶんがだれなのか、何をしているのか忘れてしまって、ただぼんやりそれをみつめていました。
182: 2023/12/29(金)16:39 AAS
受話器はジーと鳴りました。
「こっちではだいぶ雷が鳴りだして来た。網があちこちちぎれたらしい。あんまり鳴らすとあしたの新聞が悪口を言うからもう十分ばかりでやめよう。」
ブドリは受話器を置いて耳をすましました。雲の海はあっちでもこっちでもぶつぶつぶつぶつつぶやいているのです。よく気をつけて聞くとやっぱりそれはきれぎれの雷の音でした。
ブドリはスイッチを切りました。にわかに月のあかりだけになった雲の海は、やっぱりしずかに北へ流れています。ブドリは毛布をからだに巻いてぐっすり眠りました。
183: 2023/12/29(金)16:40 AAS
八 秋
その年の農作物の収穫は、気候のせいもありましたが、十年の間にもなかったほど、よくできましたので、火山局にはあっちからもこっちからも感謝状や激励の手紙が届きました。ブドリははじめてほんとうに生きがいがあるように思いました。
184: 2023/12/29(金)16:40 AAS
ところがある日、ブドリがタチナという火山へ行った帰り、とりいれの済んでがらんとした沼ばたけの中の小さな村を通りかかりました。ちょうどひるころなので、パンを買おうと思って、一軒の雑貨や菓子を買っている店へ寄って、
「パンはありませんか。」とききました。するとそこには三人のはだしの人たちが、目をまっ赤かにして酒を飲んでおりましたが、一人が立ち上がって、
「パンはあるが、どうも食われないパンでな。石盤セキパンだもな。」とおかしなことを言いますと、みんなはおもしろそうにブドリの顔を見てどっと笑いました。ブドリはいやになって、ぷいっと表へ出ましたら、向こうから髪を角刈りにしたせいの高い男が来て、いきなり、
「おい、お前、ことしの夏、電気でこやし降らせたブドリだな。」と言いました。
「そうだ。」ブドリは何げなく答えました。その男は高く叫びました。
「火山局のブドリが来たぞ。みんな集まれ。」
すると今の家の中やそこらの畑から、十八人の百姓たちが、げらげらわらってかけて来ました。
185: 2023/12/29(金)16:41 AAS
「この野郎、きさまの電気のおかげで、おいらのオリザ、みんな倒れてしまったぞ。何なしてあんなまねしたんだ。」一人が言いました。
ブドリはしずかに言いました。
「倒れるなんて、きみらは春に出したポスターを見なかったのか。」
「何この野郎。」いきなり一人がブドリの帽子をたたき落としました。それからみんなは寄ってたかってブドリをなぐったりふんだりしました。ブドリはとうとう何がなんだかわからなくなって倒れてしまいました。
186: 2023/12/29(金)16:42 AAS
気がついてみるとブドリはどこかの病院らしい室の白いベッドに寝ていました。枕まくらもとには見舞いの電報や、たくさんの手紙がありました。ブドリのからだじゅうは痛くて熱く、動くことができませんでした。けれどもそれから一週間ばかりたちますと、もうブドリはもとの元気になっていました。そして新聞で、あのときの出来事は、肥料の入れようをまちがって教えた農業技師が、オリザの倒れたのをみんな火山局のせいにして、ごまかしていたためだということを読んで、大きな声で一人で笑いました。
187: 2023/12/29(金)16:43 AAS
この辺がいい人過ぎるのよ
賢治にとってはそれが理想だったのだろうけど
もちろん彼自身にも無理だったと思う
俺はもういっぺん甲助を睨みつけなければならん
188: 2023/12/29(金)16:45 AAS
その次の日の午後、病院の小使がはいって来て、
「ネリというご婦人のおかたがたずねておいでになりました。」と言いました。ブドリは夢ではないかと思いましたら、まもなく一人の日に焼けた百姓のおかみさんのような人が、おずおずとはいって来ました。それはまるで変わってはいましたが、あの森の中からだれかにつれて行かれたネリだったのです。二人はしばらく物も言えませんでしたが、やっとブドリが、その後のことをたずねますと、ネリもぼつぼつとイーハトーヴの百姓のことばで、今までのことを話しました。ネリを連れて行ったあの男は、三日ばかりの後、めんどうくさくなったのか、ある小さな牧場の近くへネリを残して、どこかへ行ってしまったのでした。
189: 2023/12/29(金)16:46 AAS
ネリがそこらを泣いて歩いていますと、その牧場の主人がかわいそうに思って家へ入れて、赤ん坊のお守もりをさせたりしていましたが、だんだんネリはなんでも働けるようになったので、とうとう三四年前にその小さな牧場のいちばん上の息子むすこと結婚したというのでした。そしてことしは肥料も降ったので、いつもなら厩肥まやごえを遠くの畑まで運び出さなければならず、たいへん難儀したのを、近くのかぶら畑へみんな入れたし、遠くの玉蜀黍とうもろこしもよくできたので、家じゅうみんなよろこんでいるというようなことも言いました。
190: 2023/12/29(金)16:46 AAS
またあの森の中へ主人の息子といっしょに何べんも行って見たけれども、家はすっかりこわれていたし、ブドリはどこへ行ったかわからないので、いつもがっかりして帰っていたら、きのう新聞で主人がブドリのけがをしたことを読んだので、やっとこっちへたずねて来たということも言いました。ブドリは、なおったらきっとその家へたずねて行ってお礼を言う約束をしてネリを帰しました。
191: 2023/12/29(金)16:47 AAS
九 カルボナード島
それからの五年は、ブドリにはほんとうに楽しいものでした。赤ひげの主人の家にも何べんもお礼に行きました。
192: 2023/12/29(金)16:47 AAS
もうよほど年はとっていましたが、やはり非常な元気で、こんどは毛の長いうさぎを千匹以上飼ったり、赤い甘藍かんらんばかり畑に作ったり、相変わらずの山師はやっていましたが、暮らしはずうっといいようでした。
193: 2023/12/29(金)16:47 AAS
ネリには、かわいらしい男の子が生まれました。冬に仕事がひまになると、ネリはその子にすっかりこどもの百姓のようなかたちをさせて、主人といっしょに、ブドリの家にたずねて来て、泊まって行ったりするのでした。
194: 2023/12/29(金)16:48 AAS
ここでめでたしめでたしで終わると思いきや
195: 2023/12/29(金)16:48 AAS
ある日、ブドリのところへ、昔てぐす飼いの男にブドリといっしょに使われていた人がたずねて来て、ブドリたちのおとうさんのお墓が森のいちばんはずれの大きな榧かやの木の下にあるということを教えて行きました。それは、はじめ、てぐす飼いの男が森に来て、森じゅうの木を見てあるいたとき、ブドリのおとうさんたちの冷たくなったからだを見つけて、ブドリに知らせないように、そっと土に埋めて、上へ一本の樺かばの枝をたてておいたというのでした。ブドリは、すぐネリたちをつれてそこへ行って、白い石灰岩の墓をたてて、それからもその辺を通るたびにいつも寄ってくるのでした。
196: 2023/12/29(金)16:49 AAS
そしてちょうどブドリが二十七の年でした。どうもあの恐ろしい寒い気候がまた来るような模様でした。測候所では、太陽の調子や北のほうの海の氷の様子から、その年の二月にみんなへそれを予報しました。それが一足ずつだんだんほんとうになって、こぶしの花が咲かなかったり、五月に十日もみぞれが降ったりしますと、みんなはもうこの前の凶作を思い出して、生きたそらもありませんでした。クーボー大博士も、たびたび気象や農業の技師たちと相談したり、意見を新聞へ出したりしましたが、やっぱりこの激しい寒さだけはどうともできないようすでした。
197(1): 2023/12/29(金)16:50 AAS
ところが六月もはじめになって、まだ黄いろなオリザの苗や、芽を出さない木を見ますと、ブドリはもういても立ってもいられませんでした。このままで過ぎるなら、森にも野原にも、ちょうどあの年のブドリの家族のようになる人がたくさんできるのです。ブドリはまるで物も食べずに幾晩も幾晩も考えました。
198: 2023/12/29(金)16:50 AAS
ある晩ブドリは、クーボー大博士のうちをたずねました。
「先生、気層のなかに炭酸ガスがふえて来れば暖かくなるのですか。」
「それはなるだろう。地球ができてからいままでの気温は、たいてい空気中の炭酸ガスの量できまっていたと言われるくらいだからね。」
199: 2023/12/29(金)16:50 AAS
地球温暖化、気候変動
200: 2023/12/29(金)16:51 AAS
「カルボナード火山島が、いま爆発したら、この気候を変えるくらいの炭酸ガスを噴ふくでしょうか。」
「それは僕も計算した。あれがいま爆発すれば、ガスはすぐ大循環の上層の風にまじって地球ぜんたいを包むだろう。そして下層の空気や地表からの熱の放散を防ぎ、地球全体を平均で五度ぐらい暖かくするだろうと思う。」
201: 2023/12/29(金)16:51 AAS
「先生、あれを今すぐ噴かせられないでしょうか。」
「それはできるだろう。けれども、その仕事に行ったもののうち、最後の一人はどうしても逃げられないのでね。」
202: 2023/12/29(金)16:51 AAS
うわあ
203: 2023/12/29(金)16:51 AAS
「先生、私にそれをやらしてください。どうか先生からペンネン先生へお許しの出るようおことばをください。」
「それはいけない。きみはまだ若いし、いまのきみの仕事にかわれるものはそうはない。」
「私のようなものは、これからたくさんできます。私よりもっともっとなんでもできる人が、私よりもっと立派にもっと美しく、仕事をしたり笑ったりして行くのですから。」
204: 2023/12/29(金)16:52 AAS
「その相談は僕はいかん。ペンネン技師に話したまえ。」
ブドリは帰って来て、ペンネン技師に相談しました。技師はうなずきました。
「それはいい。けれども僕がやろう。僕はことしもう六十三なのだ。ここで死ぬなら全く本望というものだ。」
205: 2023/12/29(金)16:52 AAS
「先生、けれどもこの仕事はまだあんまり不確かです。一ぺんうまく爆発してもまもなくガスが雨にとられてしまうかもしれませんし、また何もかも思ったとおりいかないかもしれません。先生が今度おいでになってしまっては、あとなんともくふうがつかなくなると存じます。」
老技師はだまって首をたれてしまいました。
206: 2023/12/29(金)16:53 AAS
それから三日の後、火山局の船が、カルボナード島へ急いで行きました。そこへいくつものやぐらは建ち、電線は連結されました。
すっかりしたくができると、ブドリはみんなを船で帰してしまって、じぶんは一人島に残りました。
207: 2023/12/29(金)16:53 AAS
ヤシマ作戦を思わせる
208: 2023/12/29(金)16:54 AAS
『新世紀エヴァンゲリオン』第六話『決戦、第3新東京市』のラミエル戦にて行われた作戦の名称。
作戦名は、屋島合戦で扇の的を射抜いた那須与一の故事にちなむ。
別名「二子山決戦」。
これで流れたBGMは「DECISIVE BATTLE(ディサイシブ・バトル)」。
残念ながらyoutube等では認知度が低いからか、だいたい曲名では引っかからず「ヤシマ作戦 BGM」で出ることが多い。
209: 2023/12/29(金)16:54 AAS
経緯
第5使徒ラミエルが第3新東京市に侵攻する。
ラミエルはビームによる遠隔攻撃を備えており、エヴァ初号機は一度敗退していた。
近づくことすら困難な状況。これに対して、葛城ミサトは遠距離からの狙撃を提案する。
だが、作戦に使用する陽電子砲(ポジトロン・スナイパー・ライフル)には、大量の電力が必要だった。
そこで、全日本国民の協力の下、日本中の電気の供給をストップし、すべての電力を陽電子砲に集めることとなる。
射撃者は初号機に搭乗する碇シンジ。
サポートは零号機に搭乗する綾波レイ。
210: 2023/12/29(金)16:55 AAS
他媒体におけるヤシマ作戦
テレビシリーズ第壱話から第六話までをセルフリメイクした劇場用アニメ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』でも、同様の作戦が行われた。
211: 2023/12/29(金)16:56 AAS
ゲーム『スーパーロボット大戦シリーズ』でも、何度かこの作戦が登場している。
その際クロスオーバーが行われることが多く、『F完結編』ではゴラオン(聖戦士ダンバイン)から、『α』では光子力エンジン(マジンガーZ)とゲッター炉(ゲッターロボ)をトロニウムで繋げたものから、『MX』では電童のハイパーデンドーデンチ(GEAR戦士電童)からエネルギーが供給された。『第3次Z』では原作通り日本全国から電力を集めたが、最後の一撃は出撃ユニットすべてにあらかじめ付けておいた外付けプラグでエネルギーを集めて仕掛けている。
『V』では第6の使徒襲来直前までNERVの戦力を接収しようとする地球連邦軍と戦っていたため、前述にあるような凝った準備は出来なかった(零号機の盾は準備できていた)が、ポジトロンライフルは地球連邦軍の別動隊で動いていたヤザン・ゲーブルとジェリド・メサが初号機に手渡しし、エネルギーはヤマトの波動エンジンから直接送るというやり方で実行に移すことが出来た。
212: 2023/12/29(金)16:56 AAS
PSO2では新劇場版をモチーフとしたコラボクエストが配信。
巨大船団の居住区に突如現れた第6使徒(PSO2には「幻創種」という「人々の恐怖や願望、想い」等が実体化した敵性存在が存在する。この第6使徒はその幻想種で、作中登場するシンジ達もその幻想種に分類される)に対し、艦の動力源の97%をポジトロンライフルに集中させている間機動兵器のA.I.Sに乗ったプレイヤーが陽動を担当するスパロボに似た流れ。
アクションRPGと言う土俵でとにかく新劇場版以上に様々な形に変わり、コアの位置もそれに伴って変化する為手応えのあるクエストになっている。また、その前後のストーリーも作品の世界観に併せて構成されており隙がない作り。
213(1): 2023/12/29(金)16:57 AAS
東日本大震災における「ヤシマ作戦」
2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震による発電所被害の影響を受け、関東圏内では電力供給能力が著しく低下している。
この事態を乗り切るため、電力消費のピークとされる18:00~20:00に節電を呼びかける運動がTwitterによって行われはじめた。
ハッシュタグは「#84MA」。
また、エヴァンゲリオン公式ブログでもこの活動をキャッチし、賛同を表明している。
この時間帯に限らず、各自でできうる限りの節電をよろしくお願いします。
214: 2023/12/29(金)16:57 AAS
NERV本部から支援物資が届きました!!
2011年3月14日夜、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』にて、主にクライマックスのヤシマ作戦部分を中心に画コンテを担当した樋口真嗣氏が、上記非公式節電キャンペーンを応援すべく、スタッフと共に輪番停電(計画停電)の該当エリア表示用イラストを作成し、pixivにアップした。
イラストは停電対象外地域のものも含めて数種あり、自分が該当する地域を選択して利用するかたちとなっている。
215: 2023/12/29(金)16:58 AAS
そしてその次の日、イーハトーヴの人たちは、青ぞらが緑いろに濁り、日や月が銅あかがねいろになったのを見ました。
けれどもそれから三四日たちますと、気候はぐんぐん暖かくなってきて、その秋はほぼ普通の作柄になりました。そしてちょうど、このお話のはじまりのようになるはずの、たくさんのブドリのおとうさんやおかあさんは、たくさんのブドリやネリといっしょに、その冬を暖かいたべものと、明るい薪たきぎで楽しく暮らすことができたのでした。
216: 2023/12/29(金)17:00 AAS
おとら狐ぎつねのはなしは、どなたもよくご存じでしょう。おとら狐にも、いろいろあったのでしょうか、私の知っているのは、「とっこべ、とら子」というのです。
「とっこべ」というのは名字でしょうか。「とら」というのは名前ですかね。そうすると、名字がさまざまで、名前がみんな「とら」という狐が、あちこちに住んでいたのでしょうか。
217: 2023/12/29(金)17:01 AAS
さて、むかし、とっこべとら子は大きな川の岸に住んでいて、夜、網打ちに行った人から魚を盗とったり、買物をして町から遅く帰る人から油揚げを取りかえしたり、実に始末におえないものだったそうです。
218: 2023/12/29(金)17:01 AAS
慾よくふかのじいさんが、ある晩ひどく酔っぱらって、町から帰って来る途中、その川岸を通りますと、ピカピカした金らんの上下かみしもの立派なさむらいに会いました。じいさんは、ていねいにおじぎをして行き過ぎようとしましたら、さむらいがピタリととまって、ちょっとそらを見上げて、それからあごを引いて、六平を呼び留めました。秋の十五夜でした。
219: 2023/12/29(金)17:02 AAS
「あいや、しばらく待て。そちは何と申す」
「へいへい。私は六平と申します」
「六平とな。そちは金貸しを業わざと致しおるな」
「へいへい。御意ぎょいの通りでございます。手元の金子きんすは、すべて、只今ただいまご用立致しております」
「いやいや、拙者せっしゃが借りようと申すのではない。どうじゃ。金貸しは面白かろう」
「へい、御冗談、へいへい。御意の通りで」
220: 2023/12/29(金)17:02 AAS
「拙者に少しく不用の金子がある。それに遠国に参る所じゃ。預かっておいてもらえまいか。もっとも拙者も数々敵を持つ身じゃ。万一途中相果てたなれば、金子はそのままそちに遣わす。どうじゃ」
「へい。それはきっとお預かりいたしまするでございます」
「左様か。あいや。金子はこれにじゃ。そち自ら蓋ふたを開いて一応改めくれい。エイヤ。はい。ヤッ」さむらいはふところから白いたすきを取り出して、たちまち十字にたすきをかけ、ごわりと袴はかまのもも立ちを取り、とんとんとんと土手の方へ走りましたが、ちょっとかがんで土手のかげから、千両ばこを一つ持って参りました。
221: 2023/12/29(金)17:03 AAS
ははあ、こいつはきっと泥棒だ、そうでなければにせ金使い、しかし何でもかまわない、万一途中相果てたなれば、金はごろりとこっちのものと、六平はひとりで考えて、それからほくほくするのを無理にかくして申しました。
「へい。へい。よろしゅうござります。御意の通り一応お改めいたしますでござります」
222: 2023/12/29(金)17:03 AAS
蓋を開くと中に小判が一ぱいつまり、月にぎらぎらかがやきました。
ハイ、ヤッとさむらいは千両函ばこを又一つ持って参りました。六平はもっともらしく又あらためました。これも小判が一ぱいで月にぎらぎらです。ハイ、ヤッ、ハイヤッ、ハイヤッ。千両ばこはみなで十ほどそこに積まれました。
「どうじゃ。これだけをそち一人で持ち参れるのかの。もっともそちの持てるだけ預けることといたそうぞよ」
どうもさむらいのことばが少し変でしたし、そしてたしかに変ですが、まあ六平にはそんなことはどうでもよかったのです。
223: 2023/12/29(金)17:04 AAS
「へい。へい。何の千両ばこの十やそこばこ、きっときっと持ち参るでござりましょう」
「うむ。左様か。しからば。いざ。いざ、持ち参れい」
「へいへい。ウントコショ、ウントコショ、ウウントコショ。ウウウントコショ」
224: 2023/12/29(金)17:08 AAS
「豪儀じゃ、豪儀じゃ、そちは左程さほどになけれども、そちの身に添う慾心が実げに大力じゃ。大力じゃのう。ほめ遣わす。ほめ遣わす。さらばしかと預けたぞよ」
さむらいは銀扇をパッと開いて感服しましたが、六平は余りの重さに返事も何も出来ませんでした。
225: 2023/12/29(金)17:08 AAS
さむらいは扇をかざして月に向って、
「それ一芸あるものはすがたみにくし」と何だか謡曲のような変なものを低くうなりながら向うへ歩いて行きました。
226: 2023/12/29(金)17:09 AAS
六平は十の千両ばこをよろよろしょって、もうお月さまが照ってるやら、路みちがどう曲ってどう上ってるやら、まるで夢中で自分の家までやってまいりました。そして荷物をどっかり庭におろして、おかしな声で外から怒鳴りました。
「開けろ開けろ。お帰りだ。大尽さまのお帰りだ」
227: 2023/12/29(金)17:09 AAS
六平の娘が戸をガタッと開けて、
「あれまあ、父さん。そったに砂利しょて何しただす」と叫びました。
六平もおどろいておろしたばかりの荷物を見ましたら、おやおや、それはどての普請の十の砂利俵でした。
228(1): 2023/12/29(金)17:10 AAS
六平はクウ、クウ、クウと鳴って、白い泡あわをはいて気絶しました。それからもうひどい熱病になって、二か月の間というもの、
「とっこべとら子に、だまされだ。ああ欺だまされだ」と叫んでいました。
229: 2023/12/29(金)17:10 AAS
みなさん。こんな話は一体ほんとうでしょうか。どうせ昔のことですから誰たれもよくわかりませんが多分偽うそではないでしょうか。
どうしてって、私はその偽の方の話をも一つちゃんと知ってるんです。それはあんまりちかごろ起ったことでもうそれがうそなことは疑いもなにもありません。実はゆうべ起ったことなのです。
230: 2023/12/29(金)17:11 AAS
おお、メタ発言ww
231: 2023/12/29(金)17:11 AAS
さあ、ご覧なさい。やはりあの大きな川の岸で、狐きつねの住んでいた処ところから半町ばかり離れた所に平右衛門という人の家があります。
平右衛門は今年の春村会議員になりました。それですから今夜はそのお祝いで親類はみな呼ばれました。
もうみんな大よろこび、ワッハハ、アッハハ、よう、おらおととい町さ行ったら魚屋の店で章魚たこといかとが立ちあがって喧嘩けんかした、ワッハハ、アッハハ、それはほんとか、それがらどうした、うん、かつおぶしが仲裁に入った、ワッハハ、アッハハ、それからどうした、ウン、するとかつおぶしがウウゥイ、ころは元禄げんろく十四年んん、おいおい、それは何だい、うん、なにさ、かつおぶしだもふしばがり、ワッハハアッハハ、まあのめ、さあ一杯、なんて大さわぎでした。
232: 2023/12/29(金)17:11 AAS
整いましたww
233: 2023/12/29(金)17:12 AAS
ところがその中に一人一向笑わない男がありました。それは小吉こきちという青い小さな意地悪の百姓でした。
小吉はさっきから怒ってばかりいたのです。(第一おら、下座しもざだちゅうはずぁあんまい、ふん、お椀わんのふぢぁ欠げでる、油煙はばやばや、さがなの眼玉は白くてぎろぎろ、誰だっても盃さかずきよごさないえい糞くそ面白ぐもなぃ)とうとう小吉がぷっと座を立ちました。
234: 2023/12/29(金)17:12 AAS
平右衛門が、
「待て、待て、小吉。もう一杯やれ、待てったら」と言っていましたが小吉はぷいっと下駄げたをはいて表に出てしまいました。
235: 2023/12/29(金)17:13 AAS
空がよく晴れて十三日の月がその天辺てっぺんにかかりました。小吉が門を出ようとしてふと足もとを見ますと門の横の田の畔くろに疫病除やくびょうよけの「源の大将」が立っていました。
それは竹へ半紙を一枚はりつけて大きな顔を書いたものです。
236: 2023/12/29(金)17:13 AAS
その「源の大将」が青い月のあかりの中でこと更顔を横にまげ眼を瞋いからせて小吉をにらんだように見えました。小吉も怒ってすぐそれを引っこ抜いて田の中に投げてしまおうとしましたが俄にわかに何を考えたのかにやりと笑ってそれを路のまん中に立て直しました。
237: 2023/12/29(金)17:14 AAS
そして又ひとりでぷんぷんぷんぷん言いながら二つの低い丘を越えて自分の家に帰り、おみやげを待っていた子供を叱しかりつけてだまって床にもぐり込んでしまいました。
ちょうどその頃平右衛門の家ではもう酒盛りが済みましたので、お客様はみんなでご馳走ちそうの残りを藁わらのつとに入れて、ぶらりぶらりと提げながら、三人ずつぶっつかったり、四人ずつぶっつかり合ったりして、門の処ところまで出て参りました。
238: 2023/12/29(金)17:14 AAS
縁側に出てそれを見送った平右衛門は、みんなにわかれの挨拶あいさつをしました。
「それではお気をつけて。おみやげをとっこべとらこに取られなぃようにアッハッハッハ」
お客さまの中の一人がだらりと振り向いて返事しました。
「ハッハッハ。とっこべとらこだらおれの方で取って食ってやるべ」
その語ことばがまだ終らないうちに、神出鬼没のとっこべとらこが、門の向うの道のまん中にまっ白な毛をさか立てて、こっちをにらんで立ちました。
「わあ、出た出た。逃げろ。逃げろ」
もう大へんなさわぎです。みんな泥足でヘタヘタ座敷へ逃げ込みました。
239: 2023/12/29(金)17:14 AAS
平右衛門は手早くなげしから薙刀なぎなたをおろし、さやを払い物凄ものすごい抜身をふり廻しましたので一人のお客さまはあぶなく赤いはなを切られようとしました。
平右衛門はひらりと縁側から飛び下りて、はだしで門前の白狐びゃっこに向って進みます。
みんなもこれに力を得てかさかさしたときの声をあげて景気をつけ、ぞろぞろ随ついて行きました。
240: 2023/12/29(金)17:15 AAS
さて平右衛門もあまりといえばありありとしたその白狐の姿を見ては怖さが咽喉のどまでこみあげましたが、みんなの手前もありますので、やっと一声切り込んで行きました。
たしかに手ごたえがあって、白いものは薙刀の下で、プルプル動いています。
「仕留めたぞ。仕留めたぞ。みんな来い」と平右衛門は叫びました。
「さすがは畜生の悲しさ、もろいもんだ」とみんなは悦よろこび勇んで狐きつねの死骸しがいを囲みました。
241(1): 2023/12/29(金)17:15 AAS
ところがどうです。今度はみんなは却かえってぎっくりしてしまいました。そうでしょう。
その古い狐は、もう身代りに疫病やくびょうよけの「源の大将」などを置いて、どこかへ逃げているのです。
みんなは口々に言いました。
「やっぱり古い狐だな。まるで眼玉は火のようだったぞ」
「おまけに毛といったら銀の針だ」
「全く争われないもんだ。口が耳まで裂けていたからな。崇たたられまぃが」
「心配するな。あしたはみんなで川岸に油揚を持って行って置いて来るとしよう」
みんなは帰る元気もなくなって、平右衛門の所に泊りました。
242: 2023/12/29(金)17:16 AAS
「源の大将」はお顔を半分切られて月光にキリキリ歯を喰いしばっているように見えました。
夜中になってから「とっこべ、とら子」とその沢山の可愛らしい部下とが又出て来て、庭に抛ほうり出されたあのおみやげの藁わらの苞つとを、かさかさ引いた、たしかにその音がしたとみんながさっきも話していました。
243: 2023/12/29(金)17:23 AAS
山男は、金いろの眼めを皿さらのようにし、せなかをかがめて、にしね山のひのき林のなかを、兎うさぎをねらってあるいていました。
ところが、兎はとれないで、山鳥がとれたのです。
それは山鳥が、びっくりして飛びあがるとこへ、山男が両手をちぢめて、鉄砲てっぽうだまのようにからだを投げつけたものですから、山鳥ははんぶん潰つぶれてしまいました。
244: 2023/12/29(金)17:24 AAS
なかなか野蛮な冒頭部分だ
245: 2023/12/29(金)17:24 AAS
山男は顔をまっ赤にし、大きな口をにやにやまげてよろこんで、そのぐったり首を垂れた山鳥を、ぶらぶら振ふりまわしながら森から出てきました。
そして日あたりのいい南向きのかれ芝しばの上に、いきなり獲物えものを投げだして、ばさばさの赤い髪毛かみけを指でかきまわしながら、肩かたを円くしてごろりと寝ねころびました。
246: 2023/12/29(金)17:24 AAS
素敵だ
247: 2023/12/29(金)17:25 AAS
どこかで小鳥もチッチッと啼なき、かれ草のところどころにやさしく咲いたむらさきいろのかたくりの花もゆれました。
山男は仰向あおむけになって、碧あおいああおい空をながめました。お日さまは赤と黄金きんでぶちぶちのやまなしのよう、かれくさのいいにおいがそこらを流れ、すぐうしろの山脈では、雪がこんこんと白い後光をだしているのでした。
(飴あめというものはうまいものだ。天道てんとは飴をうんとこさえているが、なかなかおれにはくれない。)
248: 2023/12/29(金)17:25 AAS
面白いことを考えるやつだなw
249: 2023/12/29(金)17:25 AAS
山男がこんなことをぼんやり考えていますと、その澄すみ切った碧いそらをふわふわうるんだ雲が、あてもなく東の方へ飛んで行きました。そこで山男は、のどの遠くの方を、ごろごろならしながら、また考えました。
(ぜんたい雲というものは、風のぐあいで、行ったり来たりぽかっと無くなってみたり、俄にわかにまたでてきたりするもんだ。そこで雲助とこういうのだ。)
250: 2023/12/29(金)17:25 AAS
えっ?w
251: 2023/12/29(金)17:26 AAS
そのとき山男は、なんだかむやみに足とあたまが軽くなって、逆さまに空気のなかにうかぶような、へんな気もちになりました。もう山男こそ雲助のように、風にながされるのか、ひとりでに飛ぶのか、どこというあてもなく、ふらふらあるいていたのです。
(ところがここは七つ森だ。ちゃんと七っつ、森がある。松まつのいっぱい生えてるのもある、坊主ぼうずで黄いろなのもある。そしてここまで来てみると、おれはまもなく町へ行く。町へはいって行くとすれば、化けないとなぐり殺される。)
252: 2023/12/29(金)17:26 AAS
すげーぶっとんだ展開だ
253: 2023/12/29(金)17:27 AAS
山男はひとりでこんなことを言いながら、どうやら一人ひとりまえの木樵きこりのかたちに化けました。そしたらもうすぐ、そこが町の入口だったのです。山男は、まだどうも頭があんまり軽くて、からだのつりあいがよくないとおもいながら、のそのそ町にはいりました。
254: 2023/12/29(金)17:28 AAS
はじめからなんだか浮遊感があるんだよね
255: 2023/12/29(金)17:28 AAS
入口にはいつもの魚屋があって、塩鮭しおざけのきたない俵たわらだの、くしゃくしゃになった鰯いわしのつらだのが台にのり、軒のきには赤ぐろいゆで章魚だこが、五つつるしてありました。その章魚を、もうつくづくと山男はながめたのです。
(あのいぼのある赤い脚あしのまがりぐあいは、ほんとうにりっぱだ。郡役所の技手ぎての、乗馬ずぼんをはいた足よりまだりっぱだ。こういうものが、海の底の青いくらいところを、大きく眼をあいてはっているのはじっさいえらい。)
256: 2023/12/29(金)17:28 AAS
面白い比較だ
257: 2023/12/29(金)17:29 AAS
山男はおもわず指をくわえて立ちました。するとちょうどそこを、大きな荷物をしょった、汚きたない浅黄服あさぎふくの支那しな人が、きょろきょろあたりを見まわしながら、通りかかって、いきなり山男の肩をたたいて言いました。
「あなた、支那反物たんものよろしいか。六神丸ろくしんがんたいさんやすい。」
258: 2023/12/29(金)17:29 AAS
怪しいやつではござんせん
259: 2023/12/29(金)17:29 AAS
山男はびっくりしてふりむいて、
「よろしい。」とどなりましたが、あんまりじぶんの声がたかかったために、円い鈎かぎをもち、髪をわけ下駄げたをはいた魚屋の主人や、けらを着た村の人たちが、みんなこっちを見ているのに気がついて、すっかりあわてて急いで手をふりながら、小声で言い直しました。
「いや、そうだない。買う、買う。」
すると支那人は
「買わない、それ構わない、ちょっと見るだけよろしい。」
と言いながら、背中の荷物をみちのまんなかにおろしました。山男はどうもその支那人のぐちゃぐちゃした赤い眼が、とかげのようでへんに怖こわくてしかたありませんでした。
260: 2023/12/29(金)17:30 AAS
本能的に危険を察知
261: 2023/12/29(金)17:30 AAS
そのうちに支那人は、手ばやく荷物へかけた黄いろの真田紐さなだひもをといてふろしきをひらき、行李こうりの蓋ふたをとって反物のいちばん上にたくさんならんだ紙箱かみばこの間から、小さな赤い薬瓶くすりびんのようなものをつかみだしました。
(おやおや、あの手の指はずいぶん細いぞ。爪つめもあんまり尖とがっているしいよいよこわい。)山男はそっとこうおもいました。
262: 2023/12/29(金)17:30 AAS
悪魔のイメージか
263: 2023/12/29(金)17:31 AAS
支那人はそのうちに、まるで小指ぐらいあるガラスのコップを二つ出して、ひとつを山男に渡わたしました。
「あなた、この薬のむよろしい。毒ない。決して毒ない。のむよろしい。わたしさきのむ。心配ない。わたしビールのむ、お茶のむ。毒のまない。これながいきの薬ある。のむよろしい。」支那人はもうひとりでかぷっと呑のんでしまいました。
264: 2023/12/29(金)17:31 AAS
怪しすぎる、幻術使い
サスケで見た
265: 2023/12/29(金)17:35 AAS
山男はほんとうに呑んでいいだろうかとあたりを見ますと、じぶんはいつか町の中でなく、空のように碧いひろい野原のまんなかに、眼のふちの赤い支那人とたった二人、荷物を間に置いて向かいあって立っているのでした。二人のかげがまっ黒に草に落ちました。
266: 2023/12/29(金)17:35 AAS
やばいよ、やばいよ
267: 2023/12/29(金)17:35 AAS
「さあ、のむよろしい。ながいきのくすりある。のむよろしい。」支那人は尖った指をつき出して、しきりにすすめるのでした。
268: 2023/12/29(金)17:35 AAS
飲んじゃらめー!
269: 2023/12/29(金)17:36 AAS
山男はあんまり困ってしまって、もう呑んで遁にげてしまおうとおもって、いきなりぷいっとその薬をのみました。
270: 2023/12/29(金)17:36 AAS
あーあ、飲んじまった
271: 2023/12/29(金)17:36 AAS
するとふしぎなことには、山男はだんだんからだのでこぼこがなくなって、ちぢまって平らになってちいさくなって、よくしらべてみると、どうもいつかちいさな箱のようなものに変って草の上に落ちているらしいのでした。
(やられた、畜生ちくしょう、とうとうやられた、さっきからあんまり爪が尖ってあやしいとおもっていた。畜生、すっかりうまくだまされた。)山男は口惜くやしがってばたばたしようとしましたが、もうただ一箱の小さな六神丸ですからどうにもしかたありませんでした。
272: 2023/12/29(金)17:37 AAS
ところが支那人のほうは大よろこびです。ひょいひょいと両脚をかわるがわるあげてとびあがり、ぽんぽんと手で足のうらをたたきました。その音はつづみのように、野原の遠くのほうまでひびきました。
それから支那人の大きな手が、いきなり山男の眼の前にでてきたとおもうと、山男はふらふらと高いところにのぼり、まもなく荷物のあの紙箱の間におろされました。
おやおやとおもっているうちに上からばたっと行李の蓋が落ちてきました。それでも日光は行李の目からうつくしくすきとおって見えました。
(とうとう※(「穴かんむり/牛」、第4水準2-83-13)ろうにおれははいった。それでもやっぱり、お日さまは外で照っている。)山男はひとりでこんなことを呟つぶやいて無理にかなしいのをごまかそうとしました。するとこんどは、急にもっとくらくなりました。
(ははあ、風呂敷ふろしきをかけたな。いよいよ情けないことになった。これから暗い旅になる。)山男はなるべく落ち着いてこう言いました。
273: 2023/12/29(金)17:38 AAS
すると愕おどろいたことは山男のすぐ横でものを言うやつがあるのです。
「おまえさんはどこから来なすったね。」
山男ははじめぎくっとしましたが、すぐ、
(ははあ、六神丸というものは、みんなおれのようなぐあいに人間が薬で改良されたもんだな。よしよし、)と考えて、
「おれは魚屋の前から来た。」と腹に力を入れて答えました。すると外から支那人が噛かみつくようにどなりました。
「声あまり高い。しずかにするよろしい。」
山男はさっきから、支那人がむやみにしゃくにさわっていましたので、このときはもう一ぺんにかっとしてしまいました。
「何だと。何をぬかしやがるんだ。どろぼうめ。きさまが町へはいったら、おれはすぐ、この支那人はあやしいやつだとどなってやる。さあどうだ。」
274(1): 2023/12/29(金)17:38 AAS
支那人は、外でしんとしてしまいました。じつにしばらくの間、しいんとしていました。山男はこれは支那人が、両手を胸で重ねて泣いているのかなともおもいました。そうしてみると、いままで峠とうげや林のなかで、荷物をおろしてなにかひどく考え込こんでいたような支那人は、みんなこんなことを誰たれかに云いわれたのだなと考えました。山男はもうすっかりかあいそうになって、いまのはうそだよと云おうとしていましたら、外の支那人があわれなしわがれた声で言いました。
「それ、あまり同情ない。わたし商売たたない。わたしおまんまたべない。わたし往生する、それ、あまり同情ない。」山男はもう支那人が、あんまり気の毒になってしまって、おれのからだなどは、支那人が六十銭もうけて宿屋に行って、鰯いわしの頭や菜っ葉汁じるをたべるかわりにくれてやろうと思いながら答えました。
「支那人さん、もういいよ。そんなに泣かなくてもいいよ。おれは町にはいったら、あまり声を出さないようにしよう。安心しな。」すると外の支那人は、やっと胸をなでおろしたらしく、ほおという息の声も、ぽんぽんと足を叩たたいている音も聞こえました。それから支那人は、荷物をしょったらしく、薬の紙箱は、互たがいにがたがたぶっつかりました。
275: 2023/12/29(金)18:13 AAS
「おい、誰だい。さっきおれにものを云いかけたのは。」
山男が斯こう云いましたら、すぐとなりから返事がきました。
「わしだよ。そこでさっきの話のつづきだがね、おまえは魚屋の前からきたとすると、いま鱸すずきが一匹ぴきいくらするか、またほしたふかのひれが、十両テールに何片ぎんくるか知ってるだろうな。」
「さあ、そんなものは、あの魚屋には居なかったようだぜ。もっとも章魚たこはあったがなあ。あの章魚の脚つきはよかったなあ。」
「へい。そんないい章魚かい。わしも章魚は大すきでな。」
「うん、誰だって章魚のきらいな人はない。あれを嫌きらいなくらいなら、どうせろくなやつじゃないぜ。」
276: 2023/12/29(金)18:13 AAS
この会話、笑える
277: 2023/12/29(金)18:13 AAS
「まったくそうだ。章魚ぐらいりっぱなものは、まあ世界中にないな。」
「そうさ。お前はいったいどこからきた。」
「おれかい。上海しゃんはいだよ。」
「おまえはするとやっぱり支那人だろう。支那人というものは薬にされたり、薬にしてそれを売ってあるいたり気の毒なもんだな。」
「そうでない。ここらをあるいてるものは、みんな陳ちんのようないやしいやつばかりだが、ほんとうの支那人なら、いくらでもえらいりっぱな人がある。われわれはみな孔子聖人こうしせいじんの末なのだ。」
278: 2023/12/29(金)18:14 AAS
「なんだかわからないが、おもてにいるやつは陳というのか。」
「そうだ。ああ暑い、蓋ふたをとるといいなあ。」
「うん。よし。おい、陳さん。どうもむし暑くていかんね。すこし風を入れてもらいたいな。」
「もすこし待つよろしい。」陳が外で言いました。
「早く風を入れないと、おれたちはみんな蒸むれてしまう。お前の損になるよ。」
すると陳が外でおろおろ声ごえを出しました。
「それ、もとも困る、がまんしてくれるよろしい。」
279: 2023/12/29(金)18:14 AAS
「がまんも何もないよ、おれたちがすきでむれるんじゃないんだ。ひとりでにむれてしまうさ。早く蓋をあけろ。」
「も二十分まつよろしい。」
「えい、仕方ない。そんならも少し急いであるきな。仕方ないな。ここに居るのはおまえだけかい。」
「いいや、まだたくさんいる。みんな泣いてばかりいる。」
「そいつはかあいそうだ。陳はわるいやつだ。なんとかおれたちは、もいちどもとの形にならないだろうか。」
「それはできる。おまえはまだ、骨まで六神丸になっていないから、丸薬さえのめばもとへ戻もどる。おまえのすぐ横に、その黒い丸薬の瓶びんがある。」
「そうか。そいつはいい、それではすぐ呑のもう。しかし、おまえさんたちはのんでもだめか。」
「だめだ。けれどもおまえが呑んでもとの通りになってから、おれたちをみんな水に漬つけて、よくもんでもらいたい。それから丸薬をのめばきっとみんなもとへ戻る。」
280: 2023/12/29(金)18:15 AAS
「そうか。よし、引き受けた。おれはきっとおまえたちをみんなもとのようにしてやるからな。丸薬というのはこれだな。そしてこっちの瓶は人間が六神丸になるほうか。陳もさっきおれといっしょにこの水薬をのんだがね、どうして六神丸にならなかったろう。」
「それはいっしょに丸薬を呑んだからだ。」
「ああ、そうか。もし陳がこの丸薬だけ呑んだらどうなるだろう。変らない人間がまたもとの人間に変るとどうも変だな。」
281: 2023/12/29(金)18:15 AAS
これが落ちの伏線
282: 2023/12/29(金)18:15 AAS
そのときおもてで陳が、
「支那たものよろしいか。あなた、支那たもの買うよろしい。」
と云う声がしました。
「ははあ、はじめたね。」山男はそっとこう云っておもしろがっていましたら、俄にわかに蓋があいたので、もうまぶしくてたまりませんでした。それでもむりやりそっちを見ますと、ひとりのおかっぱの子供が、ぽかんと陳の前に立っていました。
283: 2023/12/29(金)18:16 AAS
陳はもう丸薬を一つぶつまんで、口のそばへ持って行きながら、水薬とコップを出して、
「さあ、呑むよろしい。これながいきの薬ある。さあ呑むよろしい。」とやっています。
「はじめた、はじめた。いよいよはじめた。」行李こうりのなかでたれかが言いました。
「わたしビール呑む、お茶のむ、毒のまない。さあ、呑むよろしい。わたしのむ。」
284: 2023/12/29(金)18:16 AAS
危機一髪
285: 2023/12/29(金)18:16 AAS
そのとき山男は、丸薬を一つぶそっとのみました。すると、めりめりめりめりっ。
山男はすっかりもとのような、赤髪あかがみの立派なからだになりました。
286: 2023/12/29(金)18:17 AAS
陳はちょうど丸薬を水薬といっしょにのむところでしたが、あまりびっくりして、水薬はこぼして丸薬だけのみました。さあ、たいへん、みるみる陳のあたまがめらあっと延びて、いままでの倍になり、せいがめきめき高くなりました。そして「わあ。」と云いながら山男につかみかかりました。
287: 2023/12/29(金)18:17 AAS
山男はまんまるになって一生けん命遁にげました。ところがいくら走ろうとしても、足がから走りということをしているらしいのです。とうとうせなかをつかまれてしまいました。
288: 2023/12/29(金)18:17 AAS
悪夢だ
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