[過去ログ] 【WHITE ALBUM2】冬馬かずさスレ 砂糖58杯目 [転載禁止]©bbspink.com (366レス)
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179: 2015/10/30(金) 19:01:25.65 ID:YqTqJTaI0(1/8)調 AA×

180: 2015/10/30(金) 19:07:48.05 ID:YqTqJTaI0(2/8)調 AAS
 日本を飛び出して、あの日から何も変わっていない。

11年前のあの日から変わらぬこの部屋。大きく変わる事のなかった部屋。変わる事の出来なかった部屋。
 そう、11年たって尚、俺達は二人だった。別に避妊をしていた訳じゃない。寧ろ、毎日のように何も考えずにお互いの体を求めあった。貪り合い愛し合った。
 だが、それでもかずさが妊娠した回数はたった3回。その全ても流産という最悪の結果で終わった。

 神に、咎人に祝福は与えないと頬を殴られたような気がした。罪人は罪人同士で、何も残せず死ねばいいと告げられた気がした。
 神を憎んだ事もある。恨んだこともある。だが、それに意味などないと何度も実感した。

流産の度に慟哭の声を上げるかずさ。かずさを抱きしめながらも俺もかずさに見られないように何度も涙を流した。

 そして、三度目の流産と同時に曜子さんの訃報が知らされた。懸命の治療に関わらず、帰らぬ人となった。
181: 2015/10/30(金) 19:13:34.30 ID:YqTqJTaI0(3/8)調 AAS
「あ゛ぁ”あ゛」

 分かっている。そんな事分かりきっている。
 あぁ、そうだ。かずさは死んだんだ。

 曜子さんと同じ病。ただ、それと同時に風邪を患ってしまってそれが災いした。ただの風邪だったモノが数日もしない内に肺炎となり、そしてあっけなく命を奪ってしまった。
 たった数日前まで元気にピアノを弾いていたかずさ。こちらが呆れる程に俺に甘えてきたかずさ。窘めるぐらいに甘いモノを口に頬張っていたかずさ。

 だっていうのに、たった数日で帰らぬものとなってしまった。

 今でも、かずさが傍にいない事が信じられない。探せばどこかにいると思ってしまう俺がいる。
 だけど、葬儀の準備をしたのも、棺に納められ埋められたかずさの事も俺は覚えている。俺は、覚えているっ!
182: 2015/10/30(金) 20:13:06.70 ID:YqTqJTaI0(4/8)調 AAS
「パパっ!」

 俺とかずさの家が見えなくなって雪菜を振り切るように歩きかけたその時に、その声は聞こえた。

 同時に、胸元へとドンっとぶつかる音と衝撃。

「パパッ!」

 おいおい、俺がパパって。俺は、神様に親になる事が許されなかった人間だっていうのに。

 抱きしめ、涙すら流している目の前の少女。
 そこには、栗色と黒の中間という欧州では珍しい髪の色。
 目の前の少女には悪いけど、きちんと親の元に帰さないと。

 ぐいっと、引き離して女の子の顔を見る。
 顔立ちはやはりこちらでは珍しいアジア系の顔。それも、顔立ちと服装から日本人の子供。
 俺から離れるのがよほど嫌なのか、イヤイヤと首を振って力いっぱい近づいてくる女の子。
 顔立ちは、誰だろう。何故だか、嫌な予感が止まらない。あぁ、そうだ、そうだ。雪菜の家で見た、小さいころの雪菜に、よく…………似ている。

「私の、子供だよ」

 何時の間に泣き止んだのか。いつのまに降りてきたのか。後ろの方で赤い眼をしてそう断言する雪菜の顔がよく見えない。

 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!

「私と、春希君の子供、だよ」

 目の前の子供は十歳ぐらい。確かに、それなら辻褄が合う。かずさの手を取るまでは当たり前のように体を重ね合っていた。安全日も考えてはいたが、その日は付けていなかった。

「あ゛ぁあ゛あ」

 声が出ない。
 そうか。そうか、そうか。そうかっ! そういう事かよ、神様。俺とかずさの子が出来なかったのは、俺に、雪菜との子供がいるから!
184: 2015/10/30(金) 20:46:37.99 ID:YqTqJTaI0(5/8)調 AAS
 体から力が抜けて音を立てて、地面に膝がついた。

 俺は、俺には、かずさとの愛さえ貫けては、いけないというのかっ!

「あ゛ぁ”あ゛あああああああああああ—————————————————」

 雪は降り続けている。
 辛い事、哀しい事。そして、見たくもない真実を覆い隠してくれようとしている。

 ただ白く、綺麗なだけの世界を目の前に広げ、俺達をそこに置き去りにしようとしている。

 だけど、だけど、これは。

 雪よ、頼む。俺の罪を覆い隠さないでくれ。俺から罪を消さないでくれ。

 雪よ、雪よ、頼む。俺を優しく包み込まないでくれ。俺に温もりを与えないでくれ。

 雪よ、雪よ、これより溶ける事のない万年雪よ。どうかどうかすべてを覆い隠して冬すら感じさせないようにしないでくれ。俺から、かずさを奪わないでくれ。

 雪は降り積もる。二度と溶ける事のない雪が降りしきる。

 そう、哀しい事に、現実はいつだって————
185: 2015/10/30(金) 20:57:17.04 ID:YqTqJTaI0(6/8)調 AAS
・ウィーン

小男「うん。ありがとう。気が利くね、キミ。ワザワザボクの故郷から好物を持ってきてくれるなんて」
春希「ええ。この度はいろいろ誤解を解きたく思って…」
小男「曜子ちゃんも大変だろうけど、事情は聞いたよ。アンサンブル編集長あんな目に遭っちゃったからね。『ボクはあんな目に遭いたくないナァ』って、ついつい冬馬かずさちゃんと距離おいちゃってね」
春希「(あなたほどの人が『距離置きたい』なんて周囲に漏らすと、ウィーン界隈で仕事できないんですよ!)」
小男「うーん。でも、やっぱり君たちの活動に口添えするトコまでは協力できないかな?」
春希「!? なぜですか!? 誤解は解けたんじゃ…」
小男「いや、誤解してたワケじゃないと思うケド。だって、キミたちが日本で活動してないのって、その時の件のせいでしょ?」
春希「それは…」
小男「キミも日本避けてて、アンサンブル編集長にも頭下げに行かなかったらしいし、開桜社側から呼んでもアメリカの方しか行かなかったらしいし。
 そんな様子じゃね。ボク、そういうコ大キライ」
春希「…(企業同士のトラブルは『もう仲直りした』と周りに示すのが一番難しい、か)」
小男「かずさちゃんは伸びしろあると思うよ。でも、3回に1回は120%以上の演奏するけど、あとの2回は80%足らず。こういうコってオススメしにくいよね。
 あと、黙ってるから評判悪い一方で、控え室荒らして某会場出入り禁止とか良くない話聞くし」
春希「…(それは事実だしな)」
小男「でも、同じ日本人が活躍してくれるのは嬉しいからね。『陰ながら』応援させてもらうよ」
春希「…(『陰ながら』か。積極的には応援できないということか)わかりました。どうも、今日はすいません」
小男「うん。じゃあ頑張ってね。ハチコさんにもよろしく」
春希「ぐ…。その話ご存知でしたか」
小男「当たり前だよ。あの話、テレビになっちゃったでしょ。いやあ、良い奥さんでうらやましいね。…活動は少し楽になったでしょ。良かったね」
春希「はい…」
186: 2015/10/30(金) 21:07:06.98 ID:YqTqJTaI0(7/8)調 AAS
・国際電話

春希「すいません。かずさがメール消してしまいまして」
曜子「あら。いいのよ、ギター君。どうせつまらない仕事の案内だったから。…でも、かずさはやっぱりまだ怒ってるのかしら?」
春希「怒ってる、というより、距離を置いてる感じです。ちょっと時間が経てばきっと…」
曜子「まあ、あの子に疎んじられるのはこれが最初でもないしね。それだけの事を何度もしてきたし。自業自得だわ」
春希「いえ、曜子さんの事情はお察しします。仕方なかった事だと思います。時間さえ経てば…」
曜子「時間か。私にはいったいあとどれくらいやり直せる時間が残っているのかなあ?」
春希「…まだ大丈夫ですよ。いつまでも元気でいて下さい。そしてかずさと…」
曜子「……」
春希「そこで口ごもらないで下さいよ…」
曜子「あら、ゴメンね。ちょっとおセンチになっちゃったかな。
 あ、そうそう。美代子ちゃん、もうすぐ彼氏とゴールインしそうよ」
春希「そうですか。おめでたいですね」
曜子「まだ、式とかそういう話はまだだけどね。
 でもね。あの子もね、かずさの日本公演できる日を心待ちにしているの。
 結婚して仕事続けられるか解らないし、その前にかずさが1日でも戻って来てくれたらなあ、なんてね」
春希「…いえ。美代子さんが幸せになる日の方が早いかもしれませんね」
曜子「つれないわね。結婚式にピアノ弾きに来てくれたっていいのに」
春希「美代子さんがお幸せになられることをお祈りさせていただきます」
曜子「そんなお祈りなんかより、本人からの一言の方がずっといいのに」
春希「善処します」
曜子「頼んだわよ。私にはもう、残りの時間待っていることしかできないし」

春希「……」
春希「(あの日本での年末のような日々はもう来ないんだろうな…)」
187: 2015/10/30(金) 21:07:55.93 ID:YqTqJTaI0(8/8)調 AAS
・取材後

春希「……」
麻理「ふむ。まあ、固くなるな。もう上司でも部下でもないのだからな。
 事情は曜子社長から聞いた。私はお前が選んだ道を肯定したり否定するつもりはない」
春希「…ありがとうございます」
麻理「だが、お手並みは最悪だ」
春希「!?」
麻理「北原、お前は冬馬かずさを助けたいのか?」
春希「な!? 助けたいに決まっています」
麻理「助けたいがために開桜社にも何も語らなかった。そうか?」
春希「はい…」
麻理「全く、これほど先の見えてない男だとは思ってなかったな」
春希「!?」
麻理「確かに、一時のマスコミの興味本位の報道から免れることはできたな。そのために自らの退社理由を隠し、冬馬かずさが日本を去ることもひた隠しにし続けた」
春希「はい…」
麻理「どうなったと思う?」
春希「ご迷惑おかけしました…」
麻理「…全くわかってないようだから説明しておこう。お前たちの出国から一週間足らずで冬馬かずさがお前と共にウィーンにいることが知れた。
 すぐに事の次第も明らかになった。
 大変だったよ。
 浜田やアンサンブル編集長は矢面に立たされたし、冬馬曜子オフィスと我が社の関係は最悪になった」
春希「そ、それは…」
麻理「新人一人やめた程度と思ったか? 残念ながらお前はただの新人どころかかなりの有望株だった。だから期待もコストもかけていた。
 例えすただの新人でも取り引き相手からの無断引き抜きなんて言語道断の掟破りだ。
 日本から静かに去るために誤情報流すのもな。日本での活動を支援するために方々回っていたアンサンブル編集長がどんな目に遭ったか想像できるか?」
春希「す、すいません…」
麻理「日本から去るから開桜社にはいくら迷惑かけても良いとでも思ったか? 残念ながら、この狭い世界、ましてや狭すぎるクラシック界ではな、お前のやったことは恥知らずの所行にしか過ぎない」
春希「しかし、自分はかずさを…」
麻理「守りたかった。それはわかる。しかし、冬馬かずさをピアニストとして活動させる為には最悪だったと言わざるを得ない。
 迷惑は巡り巡って自分の所に降りかかるものだ。アンサンブルが社内から槍玉に挙げられ、これを機にと社内のメセナ活動でアンサンブルの持ってた枠を奪う動きが起きた。そんなドタバタは社外にも伝わった」
春希「……」
麻理「最初の一年半、全く仕事取れなかっただろ? お前の語学力とかの問題じゃないぞ。英語もできるんだし」
春希「な、何かあったんですか?」
麻理「冬馬曜子オフィスは味方も敵も多かった。そんな中、ウィーンで有力なある日本人が『冬馬かずさを使うのは避けたい』と言った。開桜社とのトラブルを避けたいがために。たったそれだけの事だ」
春希「え?」
麻理「企業同士のトラブルなんて『もう仲直りしましたよ』ということを知らしめるのが一番難しいんだぞ。
 まして、お前たちが日本の仕事避けまくってるから尚更だ」
春希「そ、そんな…」
麻理「あの狭い業界、仲違いしても結局すぐ仲直りしないといけないし、人と仲違いしたらそれ以外の人間から避けられまくるから気をつけろ」
春希「はい…」
麻理「ウィーンの件の人物も悪い人じゃない。甘いもの好きだから、金沢『やまむら』の甘納豆でも買って持って行け」
春希「何から何まで…ありがとうございます」
麻理「本来、新人が取り引き相手に引き抜かれたといっても、双方了解済みの話なら歓迎しても良いくらいの話なんだぞ。新たな方面へのパイプとして期待できるわけなんだからな。
 了解の有無で婿入りと駆け落ちくらいの雲泥の差がある」
春希「そ、そうは言われてましても…」
麻理「まあ、お前の場合はこれからだ。悪いが、期待かけていた分まで働いてもらう。ビジネス相手としてな。
 お前は私が育てあげた男だ。逃げられると思うなよ」
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