[過去ログ] スクールランブルIF16【脳内補完】 (756レス)
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208: 04/11/04 00:48 ID:WsjzX8Gk(6/9)調 AAS
「フラフラの女の子を一人で家に帰すわけにはいかねぇだろ。心配すんな。お前を運んだら
すぐに戻るからよ」
天満を後部座席に座らせて自分も運転席に飛び乗る。天満は何も言わなかった。播磨の好
意に甘えることにしたのか、播磨の背にしがみついてきた。こんな自分を信じてくれた天満
に播磨は感謝の念を抱かずにはいられなかった。
「ゴメンね。病院に行く前に家に行かないと・・・」
播磨は天満を後ろに乗せてツーリングがしたかった。だが、こんな状況でそれが適ってし
まうとは皮肉なものだ。自嘲的に笑う
(俺はこんなシチュを望んでないわけじゃなかった。だが、やっぱり元気な天満ちゃんが一
番だぜ・・・弱ってる君は見たくない)
「播磨君・・どうしたの?」
天満の言葉が物思いに耽っていた播磨を現実に引き戻す。
「おお!わりぃ、わりぃ!出発するからしっかり掴まってな」
播磨はゆっくりバイクを流す、普段は絶対に守らない法定速度をちゃんと守り、無理な
走行もしない。教習所で習った模範的な運転をする。今、自分の背にいるのは宝石よりも
どんな大金よりも大切な女性を乗せているのだから、慎重かつ丁寧な運転が必要だ。
209: 04/11/04 00:51 ID:WsjzX8Gk(7/9)調 AAS
運転中に播磨は天満から色々なことを聞いた。今朝から体調があまり良くなかった、保健
室で休んで一次的に体調は回復したが帰り道で急激に悪くなっていったこと、播磨が来てく
れて嬉しかったこと、最後のは播磨にとって、とても嬉しい言葉だった。
「播磨君って私の家どこか知ってたっけ?」
背中越しから天満が声をかけてくる。天魔の記憶によると播磨は塚本家に来たことは無い
はずだった。だが、天満のナビゲート無しで家に向っている、ちょっと不思議だった。痛い
所を付かれて播磨は焦る。天満を上手く誤魔化すための言い訳を考える
「前にここらをフラフラしてた時、お前の家をたまたま見つけたんだよ」
播磨は苦し紛れの嘘をついた。たまたまではない、高校入試の際に血眼になって探した末に
ようやく見つけたとはとても言えない。それを聞いて天満はクスクスと笑う
「嘘ばっか・・・播磨君は八雲の彼氏だもんね。知らないわけないよね」
「あのな塚本、妹さんとはなぁ・・・」
天満は相変わらず勘違いしている。確かに八雲は播磨の家に泊まったこともある、今
も世話にもなっている、播磨が誤解を解くための言葉を選んでいる時に、無常にも塚本
家の前に着いてしまった
210: 04/11/04 00:57 ID:WsjzX8Gk(8/9)調 AAS
「あっ、着いたんだ・・・ありがとう。播磨君」
礼を言って天満はバイクから降りる。フラフラとした不安定な足取りで自宅に戻る。
バイクに乗っている間にも病は進行して体調はより酷くなっているようだった。そんな
天満を見て播磨は己の無力感を痛感していた。ズボンのポケットから独特の振動があ
ったのに気づくのに少し時間を要した
「ん・・・こんな時にメールかよ。誰からだ?」
ポケットから携帯を取り出して内容を確認する。登録してないアドレスだったが相手
はすぐに分かった、いつも八雲と一緒にいる金髪の娘しかいない。播磨と関わりのある
下級生の女子など八雲と彼女しかいないのだから
題名:八雲が・・・
本文:多分知ってると思いますけど、八雲が風邪で学校を休んじゃいました。
後でちゃんとお見舞いに行って下さいね。
携帯を閉じてポケットにしまう。新たな目的ができて、播磨の身に力が入る。まだやる
べきことがある。
「ちっ・・・このまま学校に戻るわけには行かなくなっちまったぜ!」
急な事態に舌打ちする。妹の八雲まで倒れてしまっている以上、自分が天満を連れて
いくしかない。例え嫌がっても連れていくと覚悟を決める。
「妹さんがいなかったトコで気がつくべきだった・・・」
播磨は天満に会うことのみで頭がいっぱいで肝心なことを失念していた。何故、妹の八雲
が天満の付き添いでいなかったのかを、己の愚鈍さを呪わずにはいられなかった。
211: 04/11/04 00:59 ID:WsjzX8Gk(9/9)調 AAS
この板重過ぎますね。続きは早い内に
212: 04/11/04 01:23 ID:b0B7OBL2(1)調 AAS
王道?播磨カコイイ!
期待支援
213: 04/11/04 02:03 ID:239o2ozc(1)調 AAS
姉妹どんぶり上げ。
214: 闇夜 ◆PMny/ec3PM 04/11/04 02:34 ID:0yEKhHZU(1)調 AAS
乙。
失神高校ワロタw
215: 04/11/04 02:36 ID:K7HiWp2A(1)調 AAS
今は軽いぞぅ。
216: 通りすがった麻生サラ好き 04/11/04 12:39 ID:SDB9OAw.(1)調 AAS
ちょっと文章が説明的ですね。
後、『・・・』ではなく、『…』にした方が良いと思われます。
ちなみに、「てん」と打って変換で出ます。
後、単体で使うよりもふたつ繋げた方が若干、見やすい……かどうかは人に
よりますので一概には言えませんが、大抵の小説やSSでは
『〜…〜』より『〜……〜』を多用している事は間違いないと思います。
最後に、「入らずべきか」というのは、播磨が不良(=若干、学力が足りない)だと
いう事を差し引き、敢えてこういう文にしたのでしょうか?
普通は「入らざるべきか」だと思いましたので。
では、続きをお待ちしています。
217(1): 04/11/04 15:18 ID:VdsAnPcI(1)調 AAS
久々に犬サソキター、GJです
…と、犬サソ自体に反応している人がいない
今の住民は犬サソを知らないと思ったら、ちと悲しい
218: クズリ 04/11/04 16:15 ID:OavXA192(1/8)調 AAS
犬さん復活おめでとー。
ということで最近、こちらに書いていない私でしたが、やはり原点はここだと思い直して、
またちょくちょくお邪魔させていただこうかしら、と。
そう思いながら、書き始めた頃のことを思い出しながら書いていたんですが……
元々、大したことない実力が、さらに落ちてる気がする……どうにもこうにも…… _| ̄|○
それでも投稿はするんですが。
ちなみに今回の作品は、某絵師さんから頂いた絵と、そこに寄せられた文に感銘を受けて
書かせていただきました。本当にありがとうございますm(_ _)m
ということで、お目汚しになるやもしれませんが。
『My Place』
副題は、「〜そして私は、この場所に至った〜」
219: My Place-1 04/11/04 16:16 ID:OavXA192(2/8)調 AAS
幼馴染という言葉に甘えていた。
いつまでも傍にいるものと思い込んでいた。
突きつけられた現実から、もう目を背けられない。
失いたくない、人だから。
My Place
〜そして私は、この場所に至った〜
空が、目に痛いほど赤い。雲が綺麗な茜色に染め上げられ、風の河の流れに乗って去っていく。
わずかに開けた窓から入り込み、カーテンを揺らす空気は冷たく、冬の訪れが間近に迫っているこ
とを感じさせる。
少女、周防美琴は一人、ベッドに横たわって天井を見つめていた。その顔、そしていつからかま
た長く伸ばし始めた髪が、差し入る赤光を照り返して微かに朱い。やがて小さく、その形の良い唇
が動く。
「……やっぱ、このまんまじゃ、いられないよな……」
紡ぎ出されたは言葉であり、苦悩の欠片だった。顔を一瞬、顰めた後、美琴は勢いをつけて上体
を起こす。そのまま横に顔を向け、窓の外を見つめる。広がる、いつもの風景。空、そして彼の部
屋の、窓。こんなにも近い距離で過ごしてきたんだな、と美琴は改めて思う。
灯る光、おそらく彼は今、勉強をしているのだろう。今は高校三年生の秋。大学の入試が間近に
迫っているからだろう、日付が変わるぎりぎりの時間まで彼の部屋の明かりが消えることはない。
ホント真面目な奴だよな、と彼女は小さく笑う。隣人であり、幼馴染である花井春樹が、入試の
勉強に励みながら今でも、朝四時に起きていることも知っている。文武両道を地で行く男だ、彼は。
窓から呼びかけようとしてふと、思いとどまる。何も変わらないじゃないか、それじゃ。鞄の中
から携帯を取り出して、メールを作る。
『花井、暇か?ちょっと付き合えよ』
短い内容。なのに何故か、送信ボタンを押すのに勇気がいった。笑い声が心に響く。
何やってんだよ、美琴さんともあろう人がさ。決めたんだろう?迷うなよ。
大きく息を吸い込んで、覚悟を決める。
そして送信ボタンを、深く、押し込んだ。
220: My Place-1 04/11/04 16:17 ID:OavXA192(3/8)調 AAS
「遅いぞ、周防。そっちから声をかけたのに、待たせるとは何事…………?」
「悪ぃ、悪ぃ。ちょっと、用意するのに時間がかかってさ」
扉を開けて出てきた美琴を責めようと振り返った花井は、そこに見た姿に一瞬、息を飲んだ。そ
の反応に、美琴はひそかに満足する。
普段、彼女が花井と二人で会う用事と言えば、大体が組み手であり、今日もおそらくそうだと思
っていたのだろう。そしてそういう場合、彼女はすぐに道着に着替えられるように、ラフな格好だ
った。だが、今日の美琴は違った。
惜しげもなく肩を出した白のワンピースは、小粒のパールの上品な輝きが、胸元をあしらってい
る。グロスを塗った唇は艶々と薄桃色に輝き、首筋に振った香水の甘い香りがほのかに身を包む。
「周防、どうしたんだ、その格好」
目を丸くする花井に、美琴は照れ臭そうに笑いながら、
「これ?この前、買ったんだ。どうかな?」
言いながら、美琴はポーズを取ってみせる。背が高いこともあって、なかなかに様になっている
のだが、花井はと言えば、
「そんなに肩を出して。風邪をひくぞ、周防」
「……そういう奴だったよな、お前って」
思わず、一つ溜息。
だがそれが彼らしい。そう思うと、自然に浮かぶ微笑。顔を上げて美琴は、
「なぁ、花井。ちょっと歩かないか」
いつも通りの、気軽な気持ちで彼を誘う。一瞬、不思議そうな顔をした花井だったが、
「ふむ。まあ、いいだろう」
と鷹揚にうなずく。その様が、あまりに想像通り過ぎて、美琴は小さく噴出した。
そうだよな。これが、花井だよな。
思うと、何故か、心が楽になった。
「それにしても、一体、どういう風の吹き回しだ?」
「ま、いいじゃん。たまにはこういう日があっても、さ」
並びはしない。先を歩く美琴、その後を花井が付いていく。
沈む夕陽を遠くに眺めながら歩いている彼女の脳裏に、ふと浮かぶ既視感。
いつだったか、こんな風にして歩いたことがあったような……
「懐かしいな」
背中からかけられた声に、歩みを止めることなく、美琴は肩越しに振り返る。
221: My Place-1 04/11/04 16:18 ID:OavXA192(4/8)調 AAS
「……何が?」
「小学校の頃は、こうしてよく、二人で歩いたものだったな」
ああ。そうだったっけ。美琴はそれで思い出す。
今の彼からは想像も出来ないが、昔の花井は美琴よりも弱く、性格も大人しかった。
そして、いじめられていた。
何かのきっかけがあって彼は変わったのだが、それが何なのかを美琴は知らない。ただ、自分が
ついていてあげなければ、と思っていた存在が、独り立ちしたことを嬉しく思いながら、それでも
拭いきれない寂しさがあった。
あれから随分と年月が経つ。そんな想いがあったことを、忘れてしまうぐらいに。
「懐かしいな」
だから美琴は、彼の言葉を繰り返す。万感の思いを込めて。
「それで――――何があったんだ」
ただ、歩き続ける二人。会話のないままに、いつしか美琴の足は矢神神社へと向いていた。階段
をゆっくりと上る途中で、花井の静かな、そして深い言葉が空気を震わせる。
足が止まる。
唐突に吹いた一陣の風が、髪とスカートを撫でていった。
花井に背を向けたまま、美琴は軽く空を仰ぎ、そしてわずかに微笑む。
ほんと、何でそんなに私の事、よくわかるんだよ。
幼馴染。その言葉が不意に、胸の奥に浮かんでくる。
「早いよな、一年って」
「ん?ああ、そうだな」
戸惑うような彼の声を受けながら、振り向かないままに、美琴は喋り続ける。
「もうすぐ、卒業なんだよな、私達」
「……まだ半年もあるぞ」
「一年があっという間なのに、半年なんてすぐだろ?」
その言葉に、花井が軽く肩をすくめる気配が伝わってきて、彼女は小さく苦笑する。
「去年の秋だっけ。お前が塚本の妹に、フラレタのって」
空気が、凍った。
222: My Place-1 04/11/04 16:18 ID:OavXA192(5/8)調 AAS
「……ああ、そうだな」
だがそれも、一瞬のことだった。彼の声は感情を押し殺したものだったが、それでもはっきりと、
力強く答えた。
詳しいことを、彼女自身は知らない。ただ、花井が塚本八雲に告白をし、フラレタという事実だ
けが、彼女の耳に入ってきていた。もっとも、それでなくても、彼の腑抜け具合を見ればすぐに、
わかったことではあったが。
「……辛かった?」
その問いかけに、惑う雰囲気。
また吹く、風。
「ああ。辛かった」
「――――そっか」
正直な答えを、美琴は全身で受け止める。まだ彼女は、振り向かない。
花井の顔を、見ようとしない。
流れる雲。随分と歩いたように思えて、それほどの時が経っていないことを、遠くに沈もうとし
ている夕陽が教えてくれている。
「それが、どうしたんだ、周防」
彼もまた、何かを振り切るのに時間を必要としていたのだろう。しばしの沈黙のあと、やっと、
花井は口を開いた。
「ん……」
小さく相槌を打ってから、美琴はまた、天を仰ぐ。
階段の脇に植えられた木々、揺れる枝。
いつも来る場所なのに、こんなにも美しいことを、今まで気付かなかった。
「……周防?」
後ろ手に手を組み、再び黙ってしまった彼女の様子に、彼は案じるかのように問いかけてくる。
そして彼女は口を開く。
「一昨日、さ」
「ああ」
「私、告白されたんだ――――今鳥に」
223: My Place-1 04/11/04 16:19 ID:OavXA192(6/8)調 AAS
「…………そうか」
彼の答えは、それだけだった。
美琴も、それ以上の言葉を聞けるとは、思っていなかった。だから、目を細めて、小さく笑うだ
けだった。
「知ってたんだろ?」
一歩、足を踏み出すと同時に、背の向こうの彼に問いかける。
逡巡する気配の後、花井は重々しく答えた。
「ああ」
きっと、今、私を見てないだろうな。振り向かずとも、彼女にはわかった。事実、彼は美琴の背
中から目をそらしていた。
「だと思った」
「……すまん」
「何で、謝るんだよ」
「いや……」
普段の大きな声ではない。迷うような、小さな声。
「やっぱり、花井は花井だよな」
「どういう意味だ、それは」
「隠そうとしたって、無駄だった、ってこと」
一歩、また一歩と踏みしめるように階段を上る美琴。やがて見えてくる、境内と神社の本殿。
「何で、わかったんだ?その……私が、今鳥に告白されたこと」
「見ていれば、わかる」
「……そういうもの?」
「ああ――――多分、な」
「…………でも、ほとんどの奴らは、気付いていないみたいだったけれどね」
いつも通りに振舞っていた筈だ。馴れ馴れしく振舞ってくる今鳥を、普段と変わらずあしらって
見せた。
『相変わらずね、今鳥君って』
そう言ったのは、親友の一人でもある沢近愛理。塚本天満もまた、それに頷いていた。ただ一人、
高野晶だけは意味深な目をしていたが、そのことに触れようとはしてこなかった。
「やっぱり、花井は、花井だね」
再び繰り返す言葉。俯いて見つめる石段に、蟻が一匹、歩いていた。
「私のこと、よくわかってる」
224: 04/11/04 16:21 ID:rqskEJoU(1/2)調 AAS
支援
225: My Place-1 04/11/04 16:22 ID:OavXA192(7/8)調 AAS
「どうしたんだ、周防。一体」
こらえられなくなったのだろうか。一段飛びに階段を上り、距離を縮めてくる彼の手が、彼女の
肩に触れそうになった瞬間。
最後の一段を登り終えた美琴は、振り向いた。
ほんのわずかな距離で、向かい合う少女と少年。
彼は美琴の瞳に浮かぶ、切なさに射すくめられて、その場に立ち竦む。
「周防?」
「あのさ、花井」
戸惑う彼の、眼鏡越しの目をしっかりと見つめながら、美琴は言葉を口にした。
「今日から、幼馴染をやめないか?」
遠くで、烏が鳴いている。カー、カーと。
226(1): クズリ 04/11/04 16:23 ID:OavXA192(8/8)調 AAS
ということで、リハビリ……
性懲りもなく連載になりそうですが、皆様、長い目でお付き合いいただけると、嬉しく思いますm(_ _)m
それでは、よろしくお願い致します。
227: 04/11/04 16:27 ID:rqskEJoU(2/2)調 AAS
支援になってなかったカナ??
クズリさんの連載物は大好きです!!
美琴さんの言う「幼なじみをやめないか?」とはどういう心境で
言ったのだろう。。。
気になります!続き待ってます!頑張って下さい!!
228: 04/11/04 18:26 ID:J5kF.RMw(1)調 AAS
>>217
反応してないのは以前のようなことを起こさないためじゃないのか?
俺は犬さん復活喜んでるが
前みたいなことになると嫌なんであんまり話題には出さないようにしてるんだが
229(2): 04/11/04 20:51 ID:H/IHZ7H2(1/3)調 AAS
縦笛なんかで連載すんのかよ…
('A`)イラネ
230: 04/11/04 20:52 ID:H/IHZ7H2(2/3)調 AAS
縦笛なんかで連載すんのかよ…
('A`)イラネ
231: 04/11/04 20:52 ID:H/IHZ7H2(3/3)調 AAS
縦笛なんかで連載すんのかよ…
('A`)イラネ
232: 04/11/04 22:39 ID:IxrIc3Qg(1)調 AAS
そう言わずに(´Д`;)
233: 04/11/05 00:46 ID:mGkFfNVI(1/2)調 AAS
分からんでもないけど三回も言うことじゃないのは確かだな
234(1): Rumble fish 04/11/05 01:04 ID:yn0nVX/Y(1/11)調 AAS
舞来たよ舞、ということであえて設定無視して勢いで。
ただ単純にあの二人にぶつけてみたかっただけなので、所属軍が違うのは気にしない方向で。
さて、では。
235: Rumble fish 04/11/05 01:07 ID:yn0nVX/Y(2/11)調 AAS
シーン3
暗い廊下。無音。
累々たる『死体』――敗北者。
「くそっ、どこだ!」
「……おい、こりゃ一旦引いた方が」
「バカ言うな、ここ抜かれるワケにゃいかねぇだろ? しかも相手は」
小声の二人、その背後に音もなく立つ人影。
「たった一人」
「っ!」
「な!?」
驚愕する二人の表情を映し、暗転。
銃声。
「――ごめんなさい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お疲れさま。よかったわよ、つむぎ」
そう言って舞が笑顔で差し出したペットボトルを、はにかみながらも、ありがとう、と
受け取るつむぎ。一口含めば、喉を駆け下りていく炭酸の刺激が快く感じられる。
「急造のバンドにしては上々だったでしょ?」
「言わなきゃ誰も信じないわよ、そんなの。同じクラスの私からしてみれば、異色のメンバー
だとは思うけどね」
「うん、それは私も。その辺は冬木君らしさだと思うけど」
236: Rumble fish 04/11/05 01:10 ID:yn0nVX/Y(3/11)調 AAS
つむぎの言葉に、変なところですごいのよね、と舞も頷く。単なるカメラ小僧と思わせる
ようで、意外に鋭い目を持っている冬木。なんだかんだと問題を起こしながらも、ある意味で
クラスの中枢を担っている一人である。
「それで、クラスの方はどう? 舞ちゃんは見に行かなくてもいいの?」
「盛況だと思うよ、それなりに。私の方の仕事は準備段階でおしまい、当日までの裏方、かな」
「そういうの、舞ちゃんらしいよ」
若干苦笑混じりのつむぎ。
「せっかくなんだから、準備だけじゃなくて本番も楽しめばいいのに」
「楽しんでるって、十分。裏方の仕事だって昔からそっちの方が好きだったしね」
こちらも自覚しているのか、やはり苦笑混じりの舞。
「……ところでさ」
「何?」
「おかしなこと訊くんだけど……どこも変じゃないわよね、私」
わずかに表情を曇らせ、唐突にそう尋ねてきた舞に眉をひそめるつむぎ。
「えっと、別にそんなことないと思うけど……どうして?」
「それがね――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シーン7
教室。荒い息遣い。
背中合わせに立つ二人の男女――沢近と播磨。
「……ちょっと、離れなさいよ」
「うるせぇ。ヘタに動けねぇんだから仕方ねぇだろ」
「……フン」
237: Rumble fish 04/11/05 01:11 ID:yn0nVX/Y(4/11)調 AAS
慎重に辺りをうかがう。
人の姿は見えない。
「このままじゃどうしようもないわね。動くわよ」
「……いけんのか?」
「あっちは一人よ? それに」
「それに?」
沈黙。
耳に痛いような静寂。
「この私と」
画面は播磨の正面から。
沢近の表情は映らない。
「――アンタで負けるわけないじゃない」
一拍の間。
「けっ、言ってくれんじゃねぇか。んじゃあっさり死ぬんじゃねぇぞ」
「その言葉、そのまま返すわ」
二人、口の端に笑み。
死線を抜けてきた者だけに許される、壮絶な笑み。
238: Rumble fish 04/11/05 01:14 ID:yn0nVX/Y(5/11)調 AAS
「Ready――」
沢近、笑みの引いた正面からのカット。
「――Go」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「視線を感じる?」
「そうなの。最初は勘違いかと思ったんだけど、なんだかずっと……ほら」
言われたつむぎが舞の視線の先に目をやれば、何やらこちらを見ている二人連れの女生徒。
何故か二人とも両手を胸元で組んでいて、心なしか潤んでいるような瞳。やがて逆に見られて
いることに気がついたのか、はっとした表情になってきゃーきゃーと走っていく。
「……何あれ」
「こっちが聞きたいの。午前中はあそこまでじゃなかったんだけど……」
はあ、と舞が溜息をついたところに。
「なになに? どうしたの?」
「あ、嵯峨野さん」
つむぎと同じバンドのメンバーだった恵が話に食いついてくる。
「えーとね」
かくかくしかじか、と事情を話すつむぎ。それを聞いて、ふうん、と何かを考える素振りを
見せていた恵が文化祭のパンフレットを取り出す。
「文化祭の前まではそんなことなかった……って言うより、今日からなんだよね」
「え? あ、うん」
さらに問は重ねられる。
「そして、時間が経つごとに気になる回数も増えてきた、と」
「うん……なんだか段々派手になってきてる気もするし」
「派手、って言うと?」
「……さっき、なんか男の子に敬礼されたの」
「あこがれの表情に敬礼、ね」
239: Rumble fish 04/11/05 01:15 ID:yn0nVX/Y(6/11)調 AAS
やがて、出展の一覧を追っていた彼女の目が一点で止まる。
「じゃ最後に一つ確認ね。ちょろっと噂で聞いたんだけどさ、大塚さんってこの間のゲームで
大活躍だったんだって?」
「そうなの? 舞ちゃん」
「……活躍とかじゃなくて、私はああいう馬鹿げたお遊びは早く終わらせないと、って思って」
ちょっとがんばりすぎたかも、と次第に尻すぼみになる声。それを聞いて、だったらさ、と
パンフレットのある出展題目を指し示す嵯峨野。
「もしかして、コレのせいなんじゃない?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シーン9−3
カタン、という小さな物音。
振り返る沢近。
視界の中で動く黒い影。
「そこっ!」
「待てお嬢、そいつは」
その影に当たり、カン、と軽い音を立てて跳ね返る銃弾。
「鏡!?」
「くそ、逃げろ沢近――!」
声に被さるようにして、沢近の後頭部に静かに突きつけられる銃口。
「チェックメイト、かしら」
「……参ったわね」
240: Rumble fish 04/11/05 01:16 ID:yn0nVX/Y(7/11)調 AAS
両手を上げた沢近の手から二丁の銃が落ちる。
その正面に立つ播磨は動けない。
「ここにきてトラップとはね」
「二対一、だったしね」
「まあいいわ。それじゃ」
笑顔の沢近。
「あとは任せたわよ」
そして――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こらーっ!」
目指す教室のドアを勢いよく開け、そのまま怒鳴り込む舞。後ろには、苦笑いを浮かべる
つむぎと恵の姿。
「どういうことなの!? 高野さん!」
「それはこちらの台詞だと思うけど」
臆せず淡々と答えたのは、この部屋で行われている『個人撮影映画』の出展者である高野晶
その人。大入りの客の前、大画面に映し出されているのは先日行われたサバイバルゲームの
模様であり、そして。
『――なんてね』
『え――?』
カチン、と撃鉄の落ちる音だけが響く。
『もう弾切れなの』
さばさばとした表情で、愛理の後頭部に突きつけていた銃を下ろす舞の姿だった。
241: Rumble fish 04/11/05 01:18 ID:yn0nVX/Y(8/11)調 AAS
「撮影の許可は取ったと思うけど?」
「それはいいの。高野さんのことだから、こういう風になるのはなんとなく予想出来てたし」
「だったら何か問題が?」
しれっと言ってのける晶に、遂に舞が沸点を突破する。
「だからどうして私の扱いがこんなに大きいの!?」
――そう。
前半部での鬼神のごとき活躍、そして終盤においても愛理と拳児――それぞれに様々な意味で
有名人たる二人を敵に回し、最後まで戦い抜く。ある種主役とさえ言えるポジションが、その
映像の中では舞に与えられていた。
それ故に、この映像を見た生徒から口コミで評判が伝わり、仮名も何も使っていない登場人物
たちを捜すのはそう難しいことではなかった、というのがことの真相。
で。
「その方が面白いと思ったから」
「な……そんな!」
またもあっさり言い放つ晶に、舞が一瞬言葉に詰まる。そこでさらに、ねえ、と客席に向かって
問いかける晶。え、と振り向いた舞の視界に映ったのは。
「舞さん、ですか?」
「握手してください!」
「サイン!」
「え、あ、ちょ、待っ――」
にわかファン、とでも言うべきか、文化祭の空気にも後押しされてテンションの高くなっていた
観客たちにもみくちゃにされる舞。晶はと言えば、すっとその隙間を縫うようにいつのまにか抜け
出し、つむぎや恵と一緒にその騒ぎを眺めている。
242: Rumble fish 04/11/05 01:21 ID:yn0nVX/Y(9/11)調 AAS
「言わない方がよかったかな……」
「そんなことないと思うよ、嵯峨野さん。だって舞ちゃん、嬉しそうだもん」
確かにつむぎの言葉通り、先程まで言っていたほどに舞に嫌がる素振りはなく、その表情には
心なしか笑顔さえ見える。
「舞ちゃんは裏方だけでいい、って言ってたけど、こういうのも、ね」
高野さんもそう思ったからなんでしょう、と話を振るが、さあ、と晶はやんわりそれをかわす。
「それに、これを見て慌てるのは大塚さんだけじゃないよ」
「……それって」
「……やっぱり」
つむぎと恵が顔を見合わせたところに。
「どういうことだよ!」
「どうなってるのよ!」
怒鳴り込んできたのは、サングラスの少年に金髪の少女。火に油を注ぐ、という言葉さながらに、
その場の混沌はさらに度合いを増していく。
「――――!」
「――――――」
「――!?」
喧騒と熱狂。
日常とは違う様々な空気を飲み込んで、文化祭の初日はその熱をますます上げていく――
243(4): Rumble fish 04/11/05 01:25 ID:yn0nVX/Y(10/11)調 AAS
……とりあえず反則的に板が重いのはどうにかならないものか、と思いつつ。
内容に関しては……ええ、まあ、その。ごめんなさい、ということで。すべては勢いです。
そしてリハビリ、などと言ってるお二方は既に本格復帰と勝手に認識しております。
今後のご活躍にも期待しておりますので。
244: 04/11/05 01:40 ID:wTiBDC2I(1/2)調 AAS
>>226
続きが激しく気になる。
夕陽に彩られた光景が目に浮かぶようでイイ
245(1): 04/11/05 02:34 ID:wTiBDC2I(2/2)調 AAS
リロードしてなかったら新作がきてた
>>243
楽しく読ませてもらいますた。GJ
舞ちゃんカコイイヨ舞ちゃん
ラストの旗コンビもいい感じ
246(1): 04/11/05 04:31 ID:FgiYABl.(1)調 AAS
>>229
読みたくなければ読まなきゃいいだけだ。
俺は読まない
247(2): 04/11/05 11:57 ID:slGcJBLM(1)調 AAS
>243
面白かった。
凄く面白かったのだが……一つだけ。
舞 は 演 劇 派 で は ?
248: 通りすがった麻生サラ好き 04/11/05 12:20 ID:IEs01jPQ(1)調 AAS
>>247
>>234
249(1): 04/11/05 13:06 ID:ilgynSfo(1)調 AAS
>>243
普段作品投下以外はROMってんですけど感想言わせてください。
とんでもなく、と言っていいほど構成が上手い。
二つの異なる状況を平行に進めてくのは、ある種映画的な感じがしました。
それから地の文に、××は○○だと思った、というような登場人物単体の
思考描写を排して視点を一つに統一したのも上手かったです。
スペースの開け方も秀逸。
同じ書き手として感服というか自信喪失というか…Good jobでした。
…最後ちょっとだけ旗にしてくれたのもニヤニヤモンでした。
250(1): 04/11/05 15:10 ID:p7Z7aIuM(1/2)調 AAS
>>229>>243
職人さんのやる気をなくすようなことを言うな
IFスレなんだからどの派閥の作品を投下しようとその人の自由だろ
251: 04/11/05 15:25 ID:p7Z7aIuM(2/2)調 AAS
↑>>246
だった
252(1): 04/11/05 17:24 ID:bqM1fKE6(1)調 AAS
>>250
まぁ、いちいち宣言することじゃないわな。
好きじゃない派閥、気に入らない展開のSSがあれば見なくていいだけで
わざわざそのことを書き込む必要はない。
253: 04/11/05 19:34 ID:K4SKRNO6(1)調 AAS
急に軽くなったな
254: 04/11/05 22:14 ID:/TBxHsys(1)調 AAS
>>252
そのとおりですね
255: 04/11/05 22:49 ID:B3jLzP0A(1)調 AAS
禿になった時、天満・周防・高野・沢近がバラしたと考えずに花井がバラしたと播磨は思ったわけですが
全裸で口を押さえた時、高野と沢近が皆に話していないので信頼?のようなものがあるかもしれないけど天満・周防を信頼するのはどうしてだろうか?
特に信頼関係が強いのは沢近-播磨ラインと高野-播磨ラインではないだろうか?
そう考えると高野-播磨SSが書かれてもいいのではないかと思う。
高野は書きづらいから、沢近でもぃぃょ。
256: 04/11/05 23:13 ID:xYTzUOCw(1)調 AAS
黙って頭頂部全部剃られるまでジッとしてたとも思えんが。
お嬢の最初のひとカットだけで抵抗して、あとはバランス取るため
泣く泣く自分でカットしたとかそんなじゃないのかと。
だもんだから、完全に剃りあがってることは仲良し四人組は知らないんじゃ
ないのかなーとか思ったり。
257: 04/11/05 23:15 ID:mGkFfNVI(2/2)調 AAS
雑談はやめとけ
258(1): 243 04/11/05 23:17 ID:yn0nVX/Y(11/11)調 AAS
何と言うか、自分では手探りタイプの作がうけると不思議な感じがします。
まさしくなんとかも数打ちゃ、の世界。
>>245
地味に舞はフェイバリットなキャラクタなのですが、今号のあれを見てしまうと。
と言うか、あれなら騎馬戦でも活躍出来たような気がしないでもありません。
>>247
その辺はお察し下さい。話の筋が先行していて、確認したら演劇だったけどまあいいや、が真相なのは
ここだけの話。
>>249
ぽっと出の思いつきをそこまで買っていただけると、嬉しいやら恥ずかしいやら。
並行進行は遠い昔のリベンジ、晶は映画で出展する、というのが下地で、なら台本っぽいフォーマットに
してみるか、と大雑把に。
いろいろ書き込まないでいくのがどうなるか、といった感じだったんですが、概ね好評のようでほっと一息。
沢播は展開がああだったので必然的に。熱くなると二人ともカメラのことなんて忘れそうですし。
最近まったくあの二人で書いてなかったので、自分内でのバランスとりにも。
259(1): 04/11/06 10:02 ID:yqphVWYc(1/2)調 AAS
執事の中村というペンネームで入賞してしまった為に沢近が播磨に謝罪
「だったら漫画描いてみろよ ま・ん・が!ま・ん・が!」
260: 04/11/06 12:12 ID:4CV/tF4Y(1)調 AAS
本編もつまんねーけどSSもつまんねーな
261(1): 04/11/06 13:19 ID:llJNT9h.(1)調 AAS
>259
そして沢近の才能の前にひれ伏し、自身は断筆してアシ専門になる播磨
262: 04/11/06 14:11 ID:yqphVWYc(2/2)調 AAS
播磨と伊織の中身が入れ替わってしまうSSなんぞ
誰か書いてたもれ
263: 04/11/06 15:43 ID:laXXz6lo(1)調 AAS
>>258
活躍しようにも馬がやる気の無い今鳥じゃ無理だよ。
264: 04/11/06 20:15 ID:1ctYa2tA(1/2)調 AAS
GJ!!
265: 04/11/06 20:27 ID:1ctYa2tA(2/2)調 AAS
あっ、上は>243に対する意見ね
266: 04/11/06 21:47 ID:0KE8iOJI(1)調 AAS
>>261
意外と播磨を尊敬しちゃいそうな気もする。
自分はピアノ諦めたけど、播磨は頑張ってるからね。
とマジレスw
267: 04/11/07 00:38 ID:Btk0AG0E(1/23)調 AAS
約3ヶ月ぶり3度目の投下いきます。
268: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:39 ID:Btk0AG0E(2/23)調 AAS
「あ〜、明日はとうとう文化祭か〜」
塚本天満が感慨深げに呟いた。その声はいつも元気な彼女らしからず、
少しばかり固かった。そんな天満に美琴が悪戯げに微笑みながら言った。
「大丈夫か〜? あんたはいざって時にポカやらかすタイプだからね〜〜」
「言わないでよ美コちゃん〜〜」
美琴の言葉に情けない声で天満が答える。それというのも天満が2ーCの
出し物である演劇の主役に選ばれたからだ。天満の演技自体はなんというか
学芸会のような雰囲気はあるものの、元気と思い切りの良い演技は彼女らしい
愛らしさがあり悪くなかった。だが演技とは関係無い部分で、転んだり、背景や
小道具を破壊したり、共演者に体当たりをかましたりと失敗が多く、それは結局
最後まで治ることはなかった。天満の発言はこれを気に病んだものだった。
「ま、なるようになるわよ」
頭を抱える天満に沢近が言った。そう言われても天満はそうかな〜、といまだ
不安そうだった。想い人である烏丸の前でみっともない姿は見せられないのだ。
あ〜、烏丸クンはバンドできっとカッコイイんだろうな〜。
「でも、早いものよね〜。もう文化祭か〜」
「そうだな、二年になってからもう半年経っちまったってことだもんな〜」
「そっか〜もう半年なんだね〜」
沢近と美琴の言葉に天満が思い出したように言った。言ってから天満は自分で
言った言葉になにか引っかかりを感じた。烏丸クン、二年、半年、烏丸クン……。
269: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:40 ID:Btk0AG0E(3/23)調 AAS
「あーーーーーっ!!!」
「キャッ」
「ぐわっ」
突然叫び声を上げた天満にクラス中の視線が集まる。至近距離で喰らった
沢近と美琴はたまらず耳を塞ぐ。
「どうしたんだ塚本!?」
「ホント、アンタってば唐突なんだから!」
二人の声も耳に入らず、天満は一人深刻な表情で俯いていた。不審に思った
美琴が恐る恐る顔を覗き込んでみるがそれにすら気づかない。
「……忘れてた…」
ポツリと天満の唇から漏れた呟きに美琴が怪訝そうな顔をする。
明日が文化祭、ということは今日は10月29日金曜日。烏丸大路の誕生日
は10月28日である。良くも悪くも一つのことしか目に入らない天満は劇の
練習やらなにやらですっかり想い人の誕生日を忘れてしまっていた。
もうダメだ、いやまだだ! あと半年、文化祭、バンド、今こそが転機なの
かもしれない。ちょっとぐらい遅れても恋人同士になってから祝ったっていいん
だし。
天満は顔を上げるとグッと拳を握りしめ小さく、だが力強く呟いた。
「…やるしかない!」
270: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:41 ID:Btk0AG0E(4/23)調 AAS
文化祭といえば学校生活のなかでも一大イベントである。この日のために
熱心に準備を重ねてきた生徒たちは待ちに待ったこのときを存分に満喫し、
積極的に関わらなかった者たちでさえ熱気にあてられ浮き立つ気持ちを抑える
ことが出来なかった。
それはこの男も例外ではなかった。
たくさんの人々が行き交う廊下をサングラスをかけた偉丈夫が悠然と歩いていた。
播磨拳児である。その足取りは軽く元々険のある顔立ちがどことなく緩んでいる
ことから、彼もまたこの文化祭に浮かされていることがわかる。
そのせいか、彼の脳内で繰り広げられる空想も一段と磨きがかかり、彼の表情
が目まぐるしく変化していく。
やがてフッと引き締まった表情になると播磨は小さく呟いた。
「やるしかねェゼ…」
この3週間というもの、文化祭の演劇の主役に選ばれた播磨はヒロイン役の
塚本天満とともに多くの時間を過ごしてきた。それによって二人の距離はもはや
触れ合わんばかりに近づいたはずだった(播磨主観)。加えてこの祭り独特の
開放的な空気、王子と王女というシチュエーション、文化祭というイベント
そのものが持つ力が播磨を後押しする。告白するならば今日をおいて他はなかった。
271: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:42 ID:Btk0AG0E(5/23)調 AAS
校舎の中をくまなく歩き回りながら播磨は天満の姿を探していた。
サングラスの奥の瞳が想い人を見つけようとせわしなく動き回る。
(まずは劇が始まるまでのこの自由時間に二人きりで文化祭巡り。
そこで親密さをさらに高めたのち俺の情熱的演技でシビれされる!
そしていよいよ告白だぜ!!)
自らの素晴らしいプランに胸を馳せていると、視界の隅でピコピコと動く
黒い影がよぎった。(あれは!? 間違いねぇ)
「天…塚本ッ!」
ようやく見つけた想い人に向かって呼びかける、だが天満はそれに気づかず
歩き去ってしまう。
くそっ、と呟きながら天満を追いかけるが、小柄な体で人ごみをすいすいと
通りぬけていく天満に対して、体格の大きい播磨はなかなか追いつくことが
できない。
天満の後を追って行くうちに渡り廊下を抜け、体育館の前まで辿り着いて
しまった。体育館の前では校舎の中よりもさらに群集が集まっていた。小柄な
天満はその中に埋もれてしまい、播磨は不覚にも見失ってしまった。
ここまできて諦められるか! 播磨は乱暴に人ごみを掻き分けながら血眼に
なって天満の姿を探した。そして播磨が体育館の中に入るとスッと体育館の
照明が次々に消されていく。何事かと播磨が天井を見上げると同時に、体育館に
想い人である塚本天満の声が大きく響いた。
「烏丸く〜〜ん!」
(この声は!? 天満ちゃん!)
慌てて声のほうへ振り返ると、ステージの上に2−Cのクラスメートたちが
各々の楽器を手に上がってきていた。その中にはギターを掲げ持った烏丸大路の
姿もあった。
(か、烏丸! ってことはもしや!)
播磨がステージの手前に目を向けると、そこには恐れていたとおり最前列で
手を振る塚本天満の姿があった。
272: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:43 ID:Btk0AG0E(6/23)調 AAS
その姿を見た瞬間、胸に重い鉛の杭を突きこまれたようだった。耐え難い
胸の痛みを堪えながらも播磨は天満の方へ足を進めた。その足取りはうって
かわって重く、現実のどんな痛みよりも辛い痛みに胸を押さえながらヨロヨロ
と歩いていく。
そのうちに演奏が始まったが、播磨の耳には入らない。今の播磨に感じられる
ものは天満の姿と、自身の痛み以外には無かった。天満に近づくほどに播磨の
歩みは遅くなっていく。近づけば近づくほどに天満の顔がはっきりと見える。
これまで見たどんな表情よりも綺麗な、自分には決して向けられない、恋する
乙女の表情が。やがて天満のすぐ傍まで近づいたが、天満は播磨に気がつかない。
すぐそこにいる彼女を遠く感じながら、播磨は魅入られたように天満の横顔を
眺めていた。
薄暗い中に浮かび上がる白い肌が、光を映した瞳が、朱に染まった頬が、あどけ
ない唇が最高に綺麗で愛おしく想えた。それでも声をかけることはできなかった。
愛しい人の喜びをどうして奪えるのか。
気がつけば演奏は終わりを迎えようとしていた。最後に烏丸のギターが大きく
掻き鳴らされ、このときのために練習したであろう決めポーズがこれ以上なく
キマッた。そして大きな拍手と歓声が湧き起り、それをいっぱいに浴びながら
烏丸たちは舞台袖へと姿を消していった。
天満は演奏が終わった後もホゥと悦に入ったような表情で動かなかった。
だがしばらくするとモジモジと身悶えするように体をくねらせ、そしてグッと
拳を握り締め「よし!」と気合を入れるように呟いた。
273: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:44 ID:Btk0AG0E(7/23)調 AAS
「天…つ、塚本?」
さすがに不審に思った播磨が声をかけると、天満はびっくりしたように
播磨へ振り返った。
「わ! 播磨クンいたんだ」
「あ、ああ」
「そっかー、ごめん気づかなかったよ〜」
「いや…」
「播磨クンも見てたんだね〜。ねぇ、烏丸クン格好良かったよね〜〜♪」
播磨は答えることができなかったが、天満はそれに構わず話しつづけた。
カレリンもすごい歌上手かったし、冬木クンもドラムできるなんて意外〜〜
などと喋りつづけていたが、やはり中心は烏丸だった。
天満は一通り喋り終えると、ハッと気づいたように口元に手をあてた。
「ごめん、私行かなきゃ! またあとでね!」
そう言うと天満はサッと身を翻して走り去ろうとした。
「ちょ、塚本!」
播磨は思わず呼び止めるが、天満はそのまま行ってしまった。彼女の
髪の横に飛び出た二房が激しく上下していることからもひどく慌てている
ことがわかる。
播磨は自分でもわからぬまま彼女を追いかけた。天満はステージ脇の
倉庫の扉の前で一旦立ち止まると、やがて意を決したように中へ入っていった。
播磨も扉の前までやってくると、中から誰かが出てこようとする気配を感じた。
慌てて物陰に隠れると、倉庫の中から冬樹、結城、嵯峨野の三人が連れ立って
出てくるところだった。
274: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:44 ID:Btk0AG0E(8/23)調 AAS
「じゃあ、俺達は機材のことで実行委員とちょっと話があるからさ」
冬木はそう言って倉庫の中に向かって小さく手を振った。扉を閉めると
冬木はいかにも楽しそうに小さく笑いだした。
「あ〜、でも出てっちゃうのがちょっともったいないな〜」
嵯峨野が残念そうに呟いた。
「俺も凄く気になるけどね、でもここで二人きりにしてあげないってのは
ちょっと可哀想でしょ」
「そうそう、応援してあげなきゃ」
「それはまぁ、ね。あぁ、私も恋したいな〜〜」
そんなことを話しながら三人は歩き去っていった。播磨は出るに出られず
三人がいなくなるまで物陰に潜んでいようと考えたが、壁の向こうから聞こえる
天満の声に身動きがとれなくなってしまった。播磨が身を寄せる壁の足元に穴が
開いており、そこから倉庫の中の会話が漏れていた。
275: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:46 ID:Btk0AG0E(9/23)調 AAS
天満は覚悟を決めたつもりだったが、いざ烏丸を目の前にするとやはり緊張
してしまい上手く言葉を紡ぐことができなかった。小さく深呼吸をしてどうにか
心を落ち着けると、烏丸を真正面からグッと見つめた。が、やはり恥かしくて
すぐに赤くなって目をそらしてしまう。
烏丸はといえばいつもとなんら変わらぬ無表情のまま、焦点が合っているのか
解からない目で天満をジーッと眺めていた。
やがて天満は正面から見つめることを諦めたのか、少し俯きながら上目遣いで
烏丸を見やりながらおずおずと口を開いた。
「か、烏丸クンお疲れ様」
天満がそう言うと烏丸はコクリと頷いて返した。
「私、一番前で見てたよ。その、か、か、か、か……カレー! じゃなくって!!」
カレーという単語に烏丸がビクッと反応するが、そうではないと解かると
また元の無表情に戻ってしまった。
「か、か、格好良かったよ! スゴク!」
顔を真っ赤にして天満がそう叫ぶと、驚くことに烏丸は微かに微笑みながら
ありがとうと小さく言った。天満はその微笑みにますます赤くなりながらも
ありったけの勇気を振り絞ってずっと言いたかったことを、本当に伝えたかった
ことを言おうとした。
「あの、その、私ね、ずっと烏丸クンに、言いたいことが、あったの」
緊張のあまりに思うように動かない喉をどうにか動かしながら言葉を続けた。
「あのね、あの……」
しかし、それ以上がどうしても言えなかった。興奮と緊張にわけもわからず
涙がにじみ、喉は震えて声にならない吐息だけが漏れる。今にも零れ落ちて
しまいそうな涙を精一杯堪えながら、言葉を搾り出そうとする。
276: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:47 ID:Btk0AG0E(10/23)調 AAS
呼吸を繰り返すたびに次こそ言おうと心に決める。
それでも言えずその次こそ、
次の次こそ。
だが、やはり言えない。訳も無く泣き叫んでしまいそうだった。それでも
耐えるのは、ここで泣いてしまったらきっともうお終いなのだと、二度と
こんな勇気を持つことはできないと、そう感じていたから。
でも、もう限界だった。天満の大きな瞳から涙は溢れ出てしまった。頬を
伝う温かなモノは彼女のなけなしの勇気を折り取るには十分過ぎた。
駄目だ、終わってしまったと、深い絶望が心を満たした。本当は何も
終わってなどはいない、しかしそれでも彼女からはもう何一つ声を上げること
は出来なかった。
天満は両手で顔を抑えると、その場に崩折れてしまいそうになった。それを
押し留めたのは烏丸の言葉だった。
「塚本さん」
ずっと口を開かなかった烏丸が静かな、それでもはっきりとした声で言った。
自分の名前を呼ばれたことで天満は取り乱した心を少しだけ取り戻す。
「間違ってたらごめんね。もしかして、4月に僕に巻物を送ってくれたのは
塚本さんじゃないかな?」
天満は何も言えなかった。ただただ驚いていた。
「あれ、違ったかな?」
天満はブンブンと音が鳴るほど激しく首を振った。まさか気づいていて
くれたとは思いもしていなかった。そして今あの巻物について言い出すという
ことは、自分が何を言おうとしていたのか判っているということに他ならな
かった。そう考えると天満は急に恐ろしくなった。
「ああ、やっぱりそうなんだ。この前、練習見に来てくれたときに思いついて、
なんとなくそうなのかなって」
277: 04/11/07 00:47 ID:GW0epRa2(1)調 AAS
支援?
278: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:48 ID:Btk0AG0E(11/23)調 AAS
そう言うと烏丸は再び押し黙ってしまった。そして何かを逡巡するように
視線を巡らすと再びゆっくりと口を開いた。
「あれは…嬉しかった。僕のこと引き止めてくれる人、いるなんて思わな
かったから」
変わらぬ無表情に抑揚のない声、それでもそこには滲み出る確かな感情が
あった。
思わず天満は耳を疑った。疑いながらも喜びに身を震わせた。自分の気持ち
は確かに届いていたのだ、そしてそれを嬉しいと言ってくれているのだ。
「だから……、塚本さんが言おうとしてくれたこと、なんとなく、分かる気がするんだ」
そう言う烏丸の表情はどこか苦いものを含んでいた。それは僅かな変化で
しかなかったが烏丸を見続けてきた天満にはそれがわかった。
嬉しいと言ってくれたのに何故?
不安に駆られながらも天満は彼の言葉を待った。
「塚本さんの気持ちは嬉しい。だけど、僕は来年には転校してしまうんだ。
……今度は、引き延ばせないと思う」
それでもいいのかと、烏丸の目が寂しげに問い掛けていた。
それはあまり考えないようにしていたことだった。だが、考えずにはいられ
ないことだった。考えて、それでも止められない想いなのだから、迷いは無い。
「うん…、わかってる。でもあと半年あるよ、それだけあればたくさん想い出が
つくれる。離れ離れになっちゃうのはきっととても悲しいけど、悲しいだけじゃ
ないよ。それでも幸せだったって、私、烏丸クンのおかげで幸せだったって
きっと言えるから……」
一度はもうダメだと思えた。でも、今ならば言える。烏丸クンがチャンスを
くれたのだ。おそらく彼にはそんなつもりはなかっただろう、それでも応えたい
と感じている。だから言おう、目をそらさずに、はっきりと、今度こそ。
279: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:49 ID:Btk0AG0E(12/23)調 AAS
「……だって私、烏丸クンのことが好きだから」
言えた。とうとう好きだと言えたのだ。強い達成感とともに、心が吹き抜ける
ように軽くなっていく。もう隠す必要は無い、もう躊躇うこともない、自分は
彼が好きなのだから。こんなにも人を好きになれるということがどこか誇らしかった。
烏丸は少しだけ目を伏せ、やがてポツリと言った。
「僕も、そんなふうに思えるかな…?」
「思えるよ、きっと思える! 私ガンバルよ、私も、烏丸クンも、幸せに思えるようにって」
天満が力強く応えると、烏丸は顔を上げ真直ぐに天満を見つめた。その瞳には
感情が揺れていた。同じように彼もまた一歩を踏み出そうとしていた。そしてはにかむ
ように少しだけ微笑みながら言った。
「塚本さん」
「はい!」
「たとえ離れることになっても、塚本さんには僕のこと覚えていて貰いたい
って、そう思った」
「だから、こんな僕でよければ、その、付き合ってもらえるかな…」
「はい!」
その途端だった。あっという間に視界が曇り何も見えなかった。こみ上げてきた。
止まらなかった。涙が先程とは比べ物にならない熱さで頬を焼いた。天満は泣いた。
泣きながら微笑った。全てが喜びでできた何よりも綺麗な笑顔だった。
280: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:50 ID:Btk0AG0E(13/23)調 AAS
一つの恋が終わりを告げた。
播磨は屋上の腕を乗せ手すりに寄りかかりながら、文化祭を楽しむ生徒たちを
遠くに見下ろしていた。
これまでに何度と無く恋の挫折を味わってきた播磨だが、今度ばかりは決定的な
何かが違っていた。胸を満たすのは哀しみよりも、後悔にも似た寂寥感だった。
あれから播磨は結局天満の告白が終わるまでその場から動くことができなかった。
そして彼女が倉庫から出て行くとき、播磨は見てしまった。
誰よりも幸せそうな彼女の顔を。それを見たとき、播磨は不覚にも嬉しく思って
しまったのだ。一時とはいえ打ちのめされていた心の痛みを忘れ、ただ彼女の
幸福を祝福していた自分に気づいてしまった時、播磨の中で何かが終わりを告げた。
それは天満の話を聞いてしまったからかもしれない。天満がどれだけ深く烏丸を
想っていたのか、同じように彼女を想い続けてきた播磨には我が身の如く理解し、
共感できてしまった。
そして、自分の出る幕など無いのだと思い知らされた。
あの幸せそうな天満の表情を思い浮かべる。その姿は今まで見たどんな時より
も美しく心惹かれた。もし、彼女を奪い取るとするならば自分は彼女にあれ以上の
顔をさせることができなければならない。そこまでの自信は到底持てそうに無い。
播磨は手すりに背を預けると、そのままずるずると崩れ座り込んでしまった。
締めつけられそうな喪失感に胸を押さえながら空を見上げる。
せめてしっかりと告白することができていればもう少しマシな終わり方が出来たの
かもしれない。玉砕することもできず、欠片すら彼女に残せぬまま終わってしまった
ことが心残りだった。
浮かべた涙がとうとう溢れ出し頬を伝った。風にさらされた涙は冷たく、一層心を
凍えさせた。
281: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:52 ID:Btk0AG0E(14/23)調 AAS
その時、ガチャリと屋上のドアが開いた。播磨は顔を背け慌てて身を隠そうとする。
「あぁ、ここにいたのね」
しかし間に合わず、さらに声をかけられては今更隠れるわけにもいかない。乱暴に
涙を拭い、恐る恐る振り返ると、何時の間に近づいたのか小柄な少女がすぐ目の前に
立っていた。
「塚本の友達の、え〜〜っと、た、た、た、竹田?」
「高野。ま、いいけど」
呆れたような顔をして晶が言った。
「そ、それでなんか用か?」
播磨が僅かばかりうわずった声で尋ねると、晶は僅かに眉を顰め言った。
「もう、劇の最後の打ち合わせの時間だから」
「それでわざわざ呼びに来たのか?」
「呼びにこなかったら忘れてたでしょう?」
晶が何を言ってるのやらという顔をすると、播磨はバツが悪そうに頬を掻いた。
「あ〜、そりゃ…ワリィ忘れてた」
そう言って慌てて播磨が立ち上がろうとすると、晶は播磨の肩を押さえ再び座らせた。
「……なんだよ?」
「もう少し、落ち着いてからでいいよ」
晶はそう言うと播磨の隣に腰を下ろした。何をするでもなくただ隣に座り、
訝しげな播磨の視線を気にした風も無く晶は無言で空を見上げていた。播磨は
何がどうなっているのかさっぱり理解できず、居心地悪そうに背を丸めていた。
しばらくすると晶は播磨へ向き直り唐突に言った。
「落ち着いた?」
「いや、むしろ気になって仕方ねぇっつうの」
そう、と小さく呟くと晶は再び空を見上げた。播磨は晶の意図するところが
全くわからず、何かを思案するような晶の横顔をただ眺める他なかった。
282: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:53 ID:Btk0AG0E(15/23)調 AAS
「一体なんなんだこりゃ?」
この奇妙な空気に耐えかねた播磨がたまらず聞くと、ほんの少し間を置いて
晶がポツリと言った。
「天満がね、つかまらないのよ」
「天…塚本が?」
晶はコクリと頷いた。
天満ちゃんがつかまらないとはどういうことか、と考えて播磨はすぐに思い
至った。あの至福の表情、きっと興奮と喜びで余計なことなどみんな吹っ飛んで
しまっているに違いない。
「塚本は…きっとそれどころじゃねぇんだろ」
「そうね。だから播磨君もきっとそれどころじゃないんだろうなって」
そこで何で俺が…、そう聞こうとして播磨はハッと気がついた。
「オメェ、もしかして知ってたのか?」
播磨が尋ねると晶は播磨の方を見ず、前を向いたまま頷いた。
「天満のことが好きなんでしょう? たぶんもうずっと前から」
播磨は驚き、不安げな表情を浮かべたが晶が、安心して誰にも言ってないから、
と付け加えるとほっと胸を撫で下ろした。
「私は天満の友達だから、今日天満が何をしようとしていたのか分かってた。
もし、失敗していたら今頃美琴さんとかが慰めているはずだから、上手くいった
んだなって思った」
晶はそこで一旦言葉を止め、言った。
「貴方には悪いけど、私はそれが嬉しい。でもそうすると今度は貴方が使い物に
ならなくなってるんじゃないかなって」
「それで様子を見にきたってとこか?」
「そんなところ。主役二人に居なくなられたんじゃ困るし。本当は八雲に任せた
かったんだけどね、花井のせいでどこかに行っちゃって捕まらなかったし、愛理
じゃ逆にあの子のほうがどうにかなりそうだったから」
そこでなんで妹さんとお嬢が出て来るんだよ、と播磨は思ったが口には出さなかった。
「でも、思ったより平気そうで良かったわ」
283: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:54 ID:Btk0AG0E(16/23)調 AAS
「平気ってわけじゃねぇ。実際すげぇキツイんだが……妙に落ち着いててな」
自分でも理解できぬ今の心境に戸惑い胸を押さえながら播磨が言った。
今までの経験では漫画を描いたりヒモになったり悟りを開いたり漁船に乗ったり
しているというのに、それまでと段違いなはずの今回に限って何故こうも冷静で
いられるのだろう?
その空虚で空しい冷静さが、逆に播磨の心を苛んでいた。
「そう、きっと貴方の中でもう整理がついてるのね」
「整理?」
「ええ、諦めって言った方がよかったかしら」
播磨はカッとなり荒々しく立ち上がり
「俺はッ……」
諦めてなどいない、と言おうとした。だが何かが引っ掛かったように言葉が出ない。
言葉にできぬやるせない苛立ちに奥歯を噛み締める。
「わかるわ。認めてしまうと今までの気持ちが全部嘘だったみたいに思えるのよね」
播磨が俯いていた顔をハッと上げると、晶の真直ぐに播磨を見据えていた。その目は
真剣でそしてひどく穏やかだった。
「でもね、嘘じゃないよ。何一つね」
晶の言葉に播磨は胸を震わせた。それこそは望んでいた言葉、信じたかった想いなのだ。
「なんでわかる…?」
播磨が震える声で問うと、経験者だからねと遠い目で晶は答えた。
「私も長いこと片思いして、結局上手くいかなかった。その時はなにもかも無くなって
しまったような気がしたけど、それだけじゃないってわかった」
かつての自分に思いを馳せているのか、晶の声には懐かしむような温かさがあった。
そして深く息を吸うと何かを誇るようにゆっくりと力強く言った。
「少なくとも今の私は、恋をして、そして手に入れたものも失くしてしまったものも、
同じように愛しているから」
284: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:55 ID:Btk0AG0E(17/23)調 AAS
晶の言葉は胸に沁みるようだった。
そしてふと播磨は天満の言葉を思い出した。やがてくる別れを受け入れながら
それでも幸せだと、幸せになれるといった彼女の言葉を。自分もこうやって想いが
届かぬまま終わるかもしれないということを、心のどこかで分かっていたはずだ。
それでも彼女が好きでいられて幸せだった、それは絶対に間違いない。
彼女に恋をしたおかげで俺は変われた、馬鹿で自分でも仕様が無え野郎だと思うけど
今の自分が嫌いじゃない。たとえ願いが叶わなくとも望んだものの尊さも、俺がやって
きたことも変わらない。振られたからといって無意味だったなどと思うのは、天満ちゃん
にも俺にも、世話になった絃子や妹さんにとってもとんでもなく失礼なことだ。
悲しいことも辛い事もたくさんあったが、…っていうかそっちのほうが多いんじゃねぇか?
まぁそれでも嫌になったことなんて一度も無いし、喧嘩しか知らなかった俺に天満ちゃんは
恋を教えてくれた、幸せを教えてくれた。やっぱり天満ちゃんのことを好きでよかった。
なにがどうあろうと、結局はそういうことなのか。
静かに微笑みを浮かべる播磨に、晶は訝しむように見つめた。それに気づいた播磨は
しみじみと万感の想いを込めて言った。
「いやな、俺は天満ちゃんが好きで良かったなってよ」
「そうね、見る目があると思うわ」
そう言って晶は微笑んだ。初めてみるその表情に少なからず驚きながらも、播磨は
どうにか平静な声を保ち言った。
「その、ありがとよ。オメェのおかげで色々楽になった」
「役者のメンタルケアも監督の仕事のうち」
なんでもないように言う晶に播磨は肩をすくめた。
285: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:56 ID:Btk0AG0E(18/23)調 AAS
「それに、偉そうに言ってたけど本当は私が言えた義理じゃないし」
「なんでだ?」
播磨が聞くと晶は小さく溜息をつき、嘲るように言った。
「まだね、諦めきれてないから」
だがすぐにいつもの無表情に戻った。播磨もそれ以上は聞かなかった。
何事も無かったようにいつもの抑揚のない声で播磨に言った。
「気持ちが落ち着いたんだったら、教室に戻りましょう。もう時間も余り無いわ」
「ああ。でも、天満ちゃんが居ねぇんだろ、どうすんだ?」
「代役は愛理に頼んだ。あのコはこういうことに機転が利くからなんとかなる」
お嬢かよ…、と嫌そうに言う播磨を横目に晶は目を光らせ妖しく微笑んだ。
「あぁ、そうだ。結局サングラスは外さないの? サングラスの王子様ってどうか
と思うんだけど」
そう言われて播磨は無意識にサングラスに手をかけた。練習中何度もサングラスを
外すよう多くのクラスメートからせっつかれたのだが、播磨は断固としてそれを拒んで
いた。外さないと言おうと思ったが、そこで思い改めた。
向きは変わってしまったが気持ちは前を向いていた。だからあとは何か踏み出す
きっかけが欲しかった。
「いや、外す。まずはこれからだ」
286: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:58 ID:Btk0AG0E(19/23)調 AAS
意を決したように言うとサングラスをゆっくりと外した。播磨は手に持った
それをじっと見つめ、やがて目を閉じると強く握り締めた。そしてバキリ、と
手の中で砕けたそれを無造作に放り捨てた。サングラスは破片を舞い散らせ
ながら放物線を描いて屋上の外へと落ちていった。地面の上で一度跳ねたそれを、
行き交う誰かの足が踏み砕いていった。
播磨は落ちていったサングラスに一瞥をくれ、心の中で追い駆け続けた彼女の
笑顔に小さく別れを告げた。そして歩き出した、一歩進むごとに心が彼女から
離れていく気がした。七歩進んだところで再び目から涙が零れた。
晶は立ち止まり隠そうとすらせず涙を流す播磨にハンカチを握らせると、
先に行ってると小さく言って屋上から去っていった。
一人残された播磨は何度目になるかわからず空を見上げた。秋の空は淡い
青色に染まり、白い雲が薄く伸びゆっくりと流れていた。気がつけば風が
吹いていた、暖かな南風だった。
涙を拭おうとすると、サングラスの欠片が手の平に貼り付いているのに
気がついた。秋の透明な光が溶けるように欠片を温かく色付けていた。
播磨は手の平を見つめ、やがて残されたその欠片を摘み上げそっと
胸のポケットに忍ばせるともう一度歩き出した。
287: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 01:01 ID:Btk0AG0E(20/23)調 AA×
![](/aas/entrance2_1099026765_287_EFEFEF_000000_240.gif)
288: FAREWELL, MY LOVELYの人 04/11/07 01:12 ID:Btk0AG0E(21/23)調 AAS
と、こんな感じで王道?? SSでした。
本当はもう少し続くのですが、ここから雰囲気がかなり
変わるし、うまくいかず書き直しているのでここでスッパリ
と分けてしまいました。続きはたぶんそのうち書くかと。
題名はレイモンド・チャンドラーの「さらば愛しき女よ」から
ちょっと訳違いますが。
賛否両論あると思いますが、楽しんでいただければ幸いです
289(1): 04/11/07 01:26 ID:2JOh9veU(1)調 AAS
リアルタイムで拝見させていただきました
続きに期待!!!
自分は王道好きなのですがココで引かれるとどう
転ぶ(展開する)か分からないので読み手としてワクワク
烏丸イイ 天満オメデト 播磨ガンバレ
GoodJob!
290(1): 04/11/07 01:29 ID:pPBFiHXc(1/2)調 AAS
おー、いい感じだ。
実際、播磨は天満と結ばれない方が絵になると思うのは漏れだけか?
291(1): [sage 播磨×晶ってのも] 04/11/07 01:40 ID:oYPs0AaM(1)調 AAS
播磨、強く生きろ…
播磨は天満の幸せを邪魔してまでってのは、できないっぽいですよね。
烏丸がもう少しまともに動いてたら原作でもこういう展開は十分にありえますよねえ。
実際はアレなので到底進展はなさそうですが
なにはともあれ、GJ!
続き、ぜひ読んでみたいです。
できればおにぎりか旗か、もしくはお子様ランチや超姉等で播磨に明るい未来を…
292(2): FAREWELL, MY LOVELYの人 04/11/07 02:01 ID:Btk0AG0E(22/23)調 AAS
感想ありがとうございます
>289
続きは書いているのですがほとんど書き直しなのでまだ先になりそうです。
もともとギャグというかコメディを書きたかったのに書いてるうちに興が乗って
色々変えたら今のようなシリアスの原型が。後編もコメディ色が強い話だったので
シリアス色に変えようとして、ただいま迷走中です。
>290
自分もそう思います。天満とくっついた播磨というのが想像できないので。
もしくっついたら幸せで頭がどうかなってそうですし、ここはやはり恋を知り
破れて成長というのが自分好みです。
>291
まだ3作ですが自分は旗、超姉、そしてコレと節操ないあげく、ほとんど
新しく書き直しているのでどうなることやらって感じです。でも播磨にも
救いの手を、とは思ってます。
293: 04/11/07 02:34 ID:YapEBlQk(1)調 AAS
GJです。
慰める?役に晶を持ってくる辺りが良いですね。
お嬢や八雲では薄っぺらくなりがちですし。
>でも播磨にも救いの手を、とは思ってます。
期待してます。そして、この後の晶も見たいなあと・・・
294(1): 04/11/07 03:31 ID:BIW3itCg(1/2)調 AAS
くそ、ハードボイルドだなぁ。
295: 04/11/07 03:32 ID:BIW3itCg(2/2)調 AAS
あ、>294は褒めてます。播磨がこう、ハードボイルド的にカッコいいなぁと。
296(1): 04/11/07 04:59 ID:94fLKSjQ(1)調 AAS
>292
GJ!播磨がカッコいいなあ。惚れそう。
次は是非旗モンでよろしくおながいします。
297: 04/11/07 07:57 ID:4AVWWfw.(1)調 AAS
>>292
>自分もそう思います〜 のくだり。
私はそうは思いません。
想像できないのは単に貴方の想像力の問題だと思います。
どうしても言っておきたかったのでこれだけ書きました。
失礼ですみません。
298(1): 04/11/07 08:55 ID:njcUlTIM(1)調 AAS
こういう展開なら播磨は一人でいいよ。
下手にお嬢や八雲を出すと台無しになると思う。
それよりも王道な話なら、これで烏丸と天満サイドの描写が終わり、
なんて事にならないでくれな。
299: 04/11/07 11:53 ID:.2Pq/Zvc(1)調 AAS
>>298
それはお前が言うことじゃない。何様だお前は。
>>292
GJ!
締めがとても良かったと思います。晶(・∀・)イイ!
どんな展開であれ、続きを楽しみにしています。
300(1): FAREWELL, MY LOVELYの人 04/11/07 13:04 ID:Btk0AG0E(23/23)調 AAS
>294 >296
そういう風に書きたかったハードボイルド好きな自分としては、
そう言ってもらえると嬉しいです。
>293 >299
本編にでてくるキャラでしっかり失恋してるのは美琴ぐらいなの
で、ここは失恋しててもおかしくなさそうで深い話ができそうな晶
に登場してもらいました。これは自分の晶好きとは無縁ではないですw
締めはここで区切るに当たって凝った部分なので嬉しいです。
>297
想像力が足りないというのは全くそのとおりなのですが、それも含めて
個人の嗜好ということで。
>298
話の展開についてはまだなんとも。たぶん天満も烏丸もでますがメインからは
外れると思います。特に烏丸は
301: 04/11/07 14:23 ID:144OclFc(1)調 AAS
>>300GJです!
自分はこういうジャンルの失恋話、大好きです。播磨かっこいい……
播磨はこれからも天満の幸せを願い続けるんでしょうな。
なにはともあれ、楽しませてもらいました!
302: コンキスタ 04/11/07 14:55 ID:SIxVkHh.(1/13)調 AAS
どうも。コンキスタです。また書いたので投下に参りました。
もとは長編連載にできればなと思っていたのですが、結局書けなかったので単発です(笑)
それに需要があるかどうかも疑わしい^^;
それでも、この二人ってほとんど見ないなーと思ったので書きました。
お付き合いしていただけると幸いです。では、投下します。
タイトル 『 Have a date with.... 』
303: Have a date with.... 04/11/07 14:58 ID:SIxVkHh.(2/13)調 AAS
『Have a date with....』
その日、今鳥恭介は公園のベンチに座って、空を見上げていた。
空は青く澄み渡り、白い雲がゆっくりと流れている。外にいるだけで気持ちよくなるような天気。まさに絶好のデート日和と言えるだろう。
しかし今鳥は、半ばやけくそ気味に空に向けて愚痴をこぼした。
「ったく、なんでこうなんだよ〜」
公園は日曜日ということもあり、暖かな家族や熱々のカップルなどがちらほら見受けられる。みんなとても幸せそうだ。
だがそれらとは対称的に、今鳥の心は地の底よりも深く沈んでいる。
今鳥はがっくりとうなだれて、こんなはずじゃなかったのにと、いまさらながら自分の迂闊さにため息をついた。
彼は今、待ち合わせをしている。つまり今日はデートだ。
相手の女の子を、彼は自分から誘った。……たしかに自分から誘ったのだが、結論から言えば相手を間違えたのだ。
もう一度ため息をついてから今鳥が顔を上げると、少し先できょろきょろしている女の子が目についた。
白のロングスカートに、ピンクのシャツ。おとなしめの服装は彼女に良く似合っている。
彼女はベンチに座っている今鳥に気づいたようで、彼のもとへと慌てて走りだした。
今鳥は幾分緊張しながら、腰を上げた。ただし、彼の緊張というのはデートすることによる緊張ではない。
それは、今日一日無事でいられるだろうかなどという、相手に対して失礼極まりない心配によるものだった。
走ってきた彼女は今鳥の前で足を止めると、少し息を切らしながら頭を下げ、言った。
「す、すいません! あの……待ちました?」
「いやっ! オ、オレも今来たとこだから!」
下手なことを言うと殺されると思い、今鳥が必死にフォローする。
そんな彼の心中も知らずに、恋人のような会話をした嬉しさで一条かれんは頬を染めるのであった。
304: Have a date with.... 04/11/07 15:01 ID:SIxVkHh.(3/13)調 AAS
二日前、金曜日の話だ。今鳥恭介はまたもバイト代が入ったことでうかれていた。
「バイト代入ったからにはデートだよな、やっぱ」
教室で彼は腕を組み、うんうんと一人納得する。目の前の席、正確には後ろの席に座っている彼女にわざと聞こえるように。
椅子に普通とは逆に座っている今鳥は、背もたれに腕をのせ、多少前のめりになって彼女に聞いた。
「ねえ、ミコチンはどう思う?」
「知るか」
周防美琴はそんな彼をあしらって、前の授業で黒板に書かれた内容の写し残しをノートに書き写す。
「つれないなー。いーじゃん、一回ぐらいさあ」
「ほら、ちょっと邪魔だよ。黒板見えないって」
前に座っている今鳥を避けて黒板を見ようと、体を横に傾けた美琴だったが、それに合わせて今鳥も同じように動く。
それにより黒板へと続くはずの美琴の視線は再び遮られた。
不敵に笑う今鳥。
その顔に少しむっとしながら美琴は傾けていた体を元に戻し、今度こそ黒板を――――見ようとしたら今鳥も体を起こしてきた。
またも見えなくなる黒板の文字。睨みあう二人。
そしてその後数分間、二人の壮絶なかけひき争いが行われた……。
305: Have a date with.... 04/11/07 15:04 ID:SIxVkHh.(4/13)調 AAS
「やっと書き終わったぁ……」
美琴がため息をつきながらノートを閉じた。ちなみに前の席では今鳥が、美琴に殴られた頭を抑えている。
「あー、もう。お前のせいでせっかくの休み時間を無駄に過ごしちまったじゃないか」
そう言いながら美琴は立ち上がり、歩き出した。
「あれ、どこ行くのミコチン?」
すると今鳥も立ち上がり、彼女のあとについていく。
美琴はそれに気づかないふりをして歩いていたが、廊下に出てもまだ彼がついてきているので、辛抱ならなくなって振り向いた。
そして、呆れて頭を抱えながら言う。
「今鳥。お前どこまでついてくる気なんだよ」
「ミコチンがデートするって言うまで、たとえトイレにだって――」
「わかってんならついてくんなあっ!!」
微かに頬を染めて美琴が怒鳴り、彼を蹴り飛ばした。壮大に、人目を集めながら今鳥が廊下を滑っていく。
しかし本日の今鳥の勢いは、とどまることを知らなかった。
さっきも言ったとおり、彼はバイト代が入ってうかれていたのだ。
「そういわずにさぁ。ミコチンは映画とカラオケどっちがいい?」
蹴飛ばされても何事もなかったかの如くすぐ起き上がり、詰め寄り、また口説きはじめる。
「だけどさ、これぐらい天気のいい日だったら公園ってのもいいんだぜ。たとえばさあ――――」
美琴に背を向けると、窓の外を見ながら話をはじめる今鳥。窓枠に腕をのせ、空を眺め、自然を語る。
しかし彼は、そうしている間に美琴が立ち去っていったのに気づかなかった……。
306: 04/11/07 15:08 ID:h37MHLN.(1)調 AAS
支援?
307: Have a date with.... 04/11/07 15:10 ID:SIxVkHh.(5/13)調 AAS
そのとき一人の女生徒が教室から出てきた。一条かれんである。
彼女はいまさっき「昼休みにでもやっておいて」と日直の仕事を任され、そのために同じ日直である今鳥を探していた。
実際は一人でもできそうな仕事なのだが、せっかくだからと、彼女なりに勇気を出したのである。
「あ、いた。今鳥さーん」
教室を出てすぐに、彼女は廊下にいる今鳥を見つけた。呼びかけながら彼に走り寄る。
しかし今鳥は窓の外を眺めながら、なにやら独り言を言っており、一条の存在に気づかない。
「あのぅ、今鳥君……?」
おずおずともう一度声をかける。しかし、やっぱり気づいてくれない。
今鳥は、自分が感じもしない自然の素晴らしさをでっち上げるのに大忙しだったのだ。
そして、その美琴をデートに誘うための壮大な前振りも終わりに近い。
「今鳥く……」
「――――というわけで、日曜デートしよ」
言い終え、くるりと今鳥は振り返った。
そしてもう言うまでもなく、振り返った先には一条かれんが立っていたわけである。
308: Have a date with.... 04/11/07 15:12 ID:SIxVkHh.(6/13)調 AAS
「あれ?」
今鳥は何が起こったのかわからず、首を傾げてしばしそのまま固まった。
「え、あ……え?」
一方の彼女は放心した様子で、戸惑いの声を漏らした。しかし言われたことをしっかり理解できずとも、だんだんと顔は赤くなってくる。
やがて一条は、いまだぽーっとしたまま何度も首を縦に振った。その様子はすごく恥ずかしそうで、すごく嬉しそうだった。
まずい。我に返った今鳥は本能でそう感じた。
「……一条、落ち着いて聞いて――」
「行きます」
「いや、だからね――」
「よ、よろしくお願いします!」
人目もはばからずに、彼女はすごい勢いで頭を下げた。
一条はもう今鳥とデートなんてできないと思っていた。だが、なんと彼の方から誘ってくれたのだ。
あまりの嬉しさで一条には今鳥の声も聞こえず、状況がおかしいことにも気づけない。
わずかな静寂。
おそるおそる今鳥がまわりを見ると案の定、皆の視線が二人に集まっている。
すでに言い訳ができる状態ではなかった。
それに彼は一条のことを『怪力宇宙人』だと思っている。
ここで誘ったことを否定してもし彼女が怒り出したら……。今鳥は、額に冷たい汗が流れるのを感じた。
彼はぎこちない笑顔をつくる。美琴に蹴られた体が、今頃になって悲鳴を上げていた。
309: Have a date with.... 04/11/07 15:17 ID:SIxVkHh.(7/13)調 AAS
そういった経緯で今日、二人はデートすることになった。
現在彼らはとりあえず、映画館を目指して街を歩いている。
しかしつまらなそうに歩く今鳥と、恥ずかしがってはいるが嬉しそうな一条。
道行く人、誰が見ても二人がデートしているとは思わないだろう。その上これから見る映画はまた特撮だ。甘いムードは出ないとみて間違いない。
しかし――――この二人にはそれで良かったようだった。
「あー、面白かったー!」
「ええ、おもしろかったです」
子供や親子連れに混じって、笑顔で映画館を出てくる二人。今鳥だけでなく、一条も前回のデートよりも映画を楽しめた。
今回はドジビロンではなかったが、最近そういう特撮を見るようになった一条にも、特撮のもつ面白さがわかるようになっていた。
だからだろうか。公園に戻り、ベンチに座って映画の話をしている二人の会話も、自然と弾んでいた。
話している内容はとても幼いものだったろうし、もちろん恋人のような雰囲気など皆無だっただろう。
しかし、それでも。二人は誰から見ても、とても楽しそうに見えた。
今鳥も数時間前の憂鬱さなど忘れてしまっている。一条は楽しそうな今鳥を見て、自分もさらに楽しくなる。
いつのまにか二人も、この日の公園に似合うようになっていた。
310: Have a date with.... 04/11/07 15:21 ID:SIxVkHh.(8/13)調 AAS
だが、しばらくして今鳥がそのことに気づいた。
「あれ?」
会話を中断し、なんで楽しんでんだと首をひねる。
彼にとっては今日がつまらない日になることは間違いなかった。だからこそ今の状況は納得がいかない。
周防美琴とのデートだったらともかく、一条かれんとのデートだ。今日一日、びくびくしながら過ごすはずだったんじゃなかったのか。
そんなふうに、今鳥の疑問はどんどんと膨れ上がっていった。
「どうしたんですか今鳥君」
今鳥が考え込んでいることに気づいた彼女が聞いた。
しかし今鳥は、遠くを見つめて首をかしげたままだ。何かよくわからないが、一条は無言で彼を見ていることにした。
サッカーボールがベンチに座る二人の前を転がっていく。続いてばたばたと慌しく走っていく子供たち。
そして、公園の中央にある時計がカチリと、ちょうど4時を指した瞬間に今鳥が言った。
「帰ろう」
なんか変だ。結局そう思った今鳥は、さっさと引き上げることにしたのだった。
しかし唐突なその提案に一条はあっけにとられた。
「え? もう帰っちゃうんですか?」
「ダメ?」
「できればもう少し……一緒にいたいです」
まっすぐに今鳥を見ながら、彼女はそう言った。
少し意外な一条の反応に、今鳥はきょとんした顔を彼女に向けている。
……そして一条は、言ってから『自分が今、何を言ったのか』を理解したようだった。はっとし、慌てて彼女は紅葉を散らしながら笑った。
「な、なんて……だ、だめですよねっ」
しかしその笑顔は寂しげで、強がっていて、今鳥はそれがほんの少しだけ、気にかかってしまった。
なんでだろ。少し経ってから彼はそう思うのだが、気づいたときには――。
「ま、別にいーけど」
そう言っていた。
「ほ、ほんとですか!?」
その言葉に一瞬で輝きだす一条の表情。
そんな彼女の様子を見て、なんとまあ単純なと今鳥は呆れた。しかし、悪い気がしなかったのも事実だった。
「てきとーにどっか店行っても行ってもいいし。あー、エルカドでパフェ食べてーな」
今鳥が思いつきで言うと、彼女はそれに明るい笑顔で答えるのだった。
311: Have a date with.... 04/11/07 15:25 ID:SIxVkHh.(9/13)調 AAS
「ハリケーンパフェです」
喫茶エルカドに入ってしばらく経ってから、注文したハリケーンパフェが今鳥の前に置かれた。
一条は先にきていた紅茶を飲みながら、パフェを見て舌なめずりしている今鳥のことを楽しげに見ている。
彼女が自分を見ていることを、パフェを見ていると勘違いした今鳥は少しパフェを自分に近づけてから言った。
「やらないからな」
そして彼はスプーンを手に取り、パフェを一口食べる。
「甘えー」
「今鳥君って甘いもの好きなんですか?」
今鳥はその質問に素っ気無く答えた。
「結構好き」
「あ、やっぱり」
「……やっぱりってなんだよ。やっぱりって」
「いえ、なんとなく好きそうだなーって」
嬉しそうにしている彼女を、今鳥は相変わらず変な奴だと思いながら、もう一口パフェを口に運んだ。
飲み込んで、何気なしに彼は彼女に聞いた。
「そーいやさ、一条。お前最近アマレスはどーなのよ」
「え?」
今鳥の意外な言葉に、一条は呆然として今鳥を見つめる。
「なんだよ。俺なんか変なこと言った?」
「はい……あ、いえ! そんなことは!」
彼女は慌てて両手を何度も交差させた。
しかしアマレスを、というよりも格闘技全般を嫌っているはずである今鳥のその発言は、一条にとって本当に意外だった。
実際には『青春』というのを毛嫌いしている今鳥がその質問をしたのに、明確な理由はない。
ただ、強いて言うならば。
夏休みのあの日、初めて一条かれんを『一条』として認識した日の彼女の一生懸命な顔が、ふと彼の目に浮かんだからだった。
312: Have a date with.... 04/11/07 15:28 ID:SIxVkHh.(10/13)調 AAS
「……んで、アマレスは?」
「あ、はい。頑張っているつもりです。大変ですけど楽しいですし。えと、今日はサボっちゃいましたけど」
困ったように笑う一条を見て、今鳥は少し呆れながら言った。
「なんだよ。練習あったんならデートなんて断ってくれてよかったのに」
むしろぜひそうしてくれて良かったのにと思いながら、彼は再びパフェに目を向けた。
「いえ、そういうわけには……。せ、せっかく、今鳥さんが誘って……くれたのに……」
顔を真っ赤にし、うつむきながらごにょごにょ言う一条。
しかし今鳥は目の前に置かれたパフェを食べるのに一生懸命で、彼女の言葉はまったく聞いていなかった。
一条もそれに気づき、少し恥ずかしくなるのと同時に、彼の姿を見て微笑ましくなった。
彼には子供っぽいところがある。それは特撮が好きなところだったり、パフェを食べるのに一生懸命なところだったり、普段からだったり。
そんなところも一条は好きだった。そして、ふと彼女は思う。
313: 04/11/07 15:30 ID:ciQBQa7U(1)調 AAS
一応支援
314: Have a date with.... 04/11/07 15:32 ID:SIxVkHh.(11/13)調 AAS
「そういえば、今鳥君にはそういうのないんですか?」
「え? なにが?」
「えっと、だから、その。打ち込めるものというか、真剣になれるものというか……」
それを聞いた瞬間、今鳥は少し顔をしかめた。何故だかわからないが、彼は急に機嫌が悪くなってきた。
「別にないってそんなの」
つまらなそうにそう言った。
しかし、それでも彼女は楽しそうな笑顔で聞いてくる。
「きっとそんなことないと思うんです。なにかありませんか?」
彼女の意味もなく自分の領域に踏み込もうとする言葉に、今鳥は舌を打ちたくなるのを我慢した。
あくまでもおどけた風に、彼は言う。
「ナンパってそれに入る?」
「そ、それは入らないんじゃ……」
「じゃあ、ない」
今鳥には、少しイライラしていて、なのにそれを隠そうとしている自分が不思議だった。だが彼が意図せずとも、自然とその口調も厳しくなっている。
「でも今鳥君」
「なあ、それってなくちゃまずいの?」
「あ、いえ。それは人それぞれだと思いますけど」
「あ、そ。ならいいじゃん、別になくたってさ」
「……はい、そうですね」
しゅんとする彼女に、今鳥は毒気を抜かれた。彼は小さく、彼女に聞こえないようにため息をつく。
しかし、彼は気づこうとしなかった。楽しそうにアマレスの話をした一条に、微かな嫉妬と羨望を覚えたのを……。
315: Have a date with.... 04/11/07 15:37 ID:SIxVkHh.(12/13)調 AAS
たいして寒くないとはいえ、もうすぐ冬だということは間違いないらしい。
まだ5時頃だというのに日は沈みかけており、それは夏の日が長かったことを人にふと思い出させる。
子供達が友達に手を振りながら帰るのと同様に、二人にも別れの時がやってきた。
待ち合わせと同じ場所、公園のベンチ前で二人は向かい合って立っている。
一条が言った。
「今日は本当にありがとうございました」
「いーって、いーって」
彼にとっては、今日一日無事にいられたことだけで十分だった。晴れやかな笑顔を一条に見せる。
その笑顔を見て顔を赤らめた一条は、少しだけ目を逸らして嬉しそうに微笑んでいた。
最後にもう一度、ぺこりと頭を下げると彼女は、彼に背を向けて歩き出した。
彼女の後姿はなんだか嬉しそうで……きっとアイツは笑顔なんだろうなと、今鳥はなんとなく思った。
少しずつ離れていく彼女。ガラにもなく思いにふけりながら彼女を眺めていた今鳥が、ふいに口を開いた。
「一条」
唐突に呼び止められた彼女は、ほとんど無意識に振り向く。彼女の振り向いた先には、いつもと同じような自然体の今鳥が立っていた。
「アマレスがんばれよ」
彼の口から出た意外な言葉。一条は少しの間あっけにとられていたが、首だけでなく体もまっすぐに彼に向けると――。
「はい!」
彼に今日一番の眩しい笑顔を見せた。
今鳥は、何度も振り返りながら笑顔で去っていく一条を、何気なしに眺めていた。
そしてついに彼女の姿が見えなくなってから彼は、さっき自分の口から出てきた言葉の異様さに首を傾げるのだった。
....TO BE CONTINUED?
316(1): Have a date with.... 04/11/07 15:39 ID:SIxVkHh.(13/13)調 AAS
支援ありがとうございます。
というわけで今鳥と一条の話しでした。なんかキャラ変わってるかもと思う次第です。^^;
肝心のデートのシーンが短い・・・。あんまり楽しくなかったかもしれませんが、たまにはということで。
読んでいただいた方ありがとうございます。
ではでは。
317(1): 04/11/07 16:28 ID:FqYkS1aU(1)調 AAS
≫288
GJです
久しぶりに昌がイイ感じでとてもよかったです!あと、
自分は旗派なので続きの劇はとても楽しみです!!
なにはともあれ乙です
318(1): 04/11/07 16:34 ID:pPBFiHXc(2/2)調 AAS
今鳥視点、ってのがいいね。
この2人は、この先どうなるのか判らないところに面白さがある。
その辺をよく表してると思うよ。
319(1): 04/11/07 17:14 ID:dSlfQ8Yc(1)調 AAS
>>316
GJ!
個人的にはララを絡ませて欲スィ
320(1): 04/11/07 23:07 ID:wJyJmcYw(1)調 AAS
読んでて光景が目に浮かんだ。面白いわ。
この二人の話はここでも漫画でもあんまり無いから新鮮だし、続きがあるなら期待してます。
321: 04/11/08 10:26 ID:cuoDP1VQ(1)調 AAS
>>317
「晶」だ
322: 04/11/08 20:48 ID:XG/ttTVA(1/12)調 AAS
203です、続きを投下させてもらいます
323: 04/11/08 20:52 ID:XG/ttTVA(2/12)調 AAS
自分の予測通りに物事が動くのは快感である。正しそれは良い方向のみで悪い方に
事態が動くのは好ましくない。ただ、先のことが予測できれば将来のマイナスを減ら
すことはできる。
「拳児君、君は私の予想通り帰ってこなかったね」
刑部絃子は同居人に顔を合わせた早々に強烈な嫌味をかましてやる。今回の件で同
僚に貸しを作ってしまった。元はと言えばこの男が勝手に出ていったのが悪い。後で
この仮を返してもらおうと思っている。
「君の出席状態はチョッとした細工しておいた。ただし今回だけだぞ」
播磨は留年の危機に晒されていて、授業を欠席するのは許されなかった。絃子は
本来なら欠席のところを出席と書いておいた。同僚の笹倉にも頼み込んで欠席を出
席と記入するように差し向けておいた。
絃子があれこれ言っても暖簾に腕押しで何の反応も無い。当人の播磨は壊れた人形
の様に「天満ちゃんが…天満ちゃんがよぉ…」と力なく呟くだけ。
こんな播磨は何度も何度も見たことがある。想いの人天満にアプローチを果敢にか
けるも見事に失敗、そしてしばらく落ち込み翌日には何事も無かったかのように復活
する。が、今回は違うようだった。
324: 04/11/08 20:56 ID:XG/ttTVA(3/12)調 AAS
「まさかとは思うが、塚本君は重態なのか?」
姉ヶ崎に天満の容態を聞いみたが、風邪とのことだった。播磨も「いや、そうじゃ
ねぇ」と即否定する。
「すまねぇ…人を呼んどいてくれてよ。助かったぜ、俺一人でどうしようって途方
に暮れてたんだ?」
絃子は播磨がようやくまともな事を口にしてくれたので、色々と言ってやろうと
思ったが思いとどまる。コレが復活するには時間が掛かる。今アレコレ言ってヘコ
マスのは愚策と判断した。
「気にするな。妹の八雲君は私が受け持っててね。様子見を兼ねて行かせたのさ」
絃子は自分の受け持っている八雲の現状を知りたかった。どうするかと思案して
いた所、普段から八雲と仲のいい生徒が様子を見に行くと言ってくれたので、渡り
に船とその生徒に任せることにした。一応、播磨もいるだろうから、上手く使って
やってくれと言付けておいた。幸いなことにその娘は播磨と面識があったので疑念
もなく納得してくれた。
「俺は何も考えちゃいなかった。勢いだけで突っ走っただけだ…」
絃子は冷蔵庫からビールを取り出して「飲むか?少しは気が晴れるぞ」と尋ねたが
播磨は「いらねぇ」と言って拒否した。
「まぁ、その辺りをじっくり聞こうか」
播磨は素直に頷き学校を飛び出した後の事をポツリポツリと語り出した。
325: 04/11/08 21:01 ID:XG/ttTVA(4/12)調 AAS
閑散としていた病院の待合室にポツポツと患者が増えてくる、ニュー
スで今年の風邪のウィルスは厄介だと扱っていたのを思い出す。辺りを見
渡すと咳き込んでる人、顔が熱で真っ赤な人、色々な人がいる。
播磨拳児は椅子に深く腰を降ろし項垂れていた。塚本天満は自宅に着い
て早々に体調が更に悪化していった。自宅に着いて緊張が途切れたとか、
色々な理由が考えられるが正確なことは分からない。
播磨は天満を抱えて病院まで走った。バイクを使いたかったが、衰弱して
いる天満を後ろに乗せるのは無理と判断し天満を抱えて病院に行くことにし
た、その時はタクシーという選択肢は頭から消えていた。
幸いな事に午後の診察時間が始まったばかりで、待つことなく天満に診断を
受けさせることができた。播磨は診察が終わるまでの間、備え付けの雑誌や漫
画を読んだりして、時間を潰そうと思ったが、内容は心にまったく入ってこな
い。かえってイライラするので読むのを止めてしまった。
天満が診察室に入っていって1時間以上が経過していた。便りがないのは
元気な証拠というけれど、今の播磨には天満の現状が一刻も早く知りたかっ
た。時の流れは恐ろしく長かった。
(天満ちゃん、もしかしたらひでぇ病気なのかな…それでもし死んじまったら、
俺は、俺は!)
待ち時間が経過していく中、播磨の中の不安はドンドン大きくなってい
く。事態を悪い方向に悪い方向にと考えてしまう。播磨は『診察時間が長い
ということは重病なのだ』と考えている
326: 04/11/08 21:02 ID:XG/ttTVA(5/12)調 AAS
「塚本さんの付き添いの方、塚本さんの付き添いの方、診察室までどうぞ」
項垂れていた播磨を呼ぶ声がする、播磨はゆっくりと顔をあげる。どんな
現状も受け入れる覚悟をしなくてはならない、足取りは重く診察室に向う。
診察室に入ると独特の臭いが入ってきて違和感を感じる。播磨は薬の臭い
が嫌いだった。喧嘩で怪我をしてもあまり使ったことはない。
医師に「座ってください」と言われは椅子に腰を下す。播磨はさっそく
「先生…塚本さんはどうなんですか?」
サングラスと髭を蓄えた体躯のいい男に詰め寄られ、若い女性の医師は少し
たじろいだ。真剣な播磨の態度は威圧感を放つには充分、本人に到って真剣な
のだが、風貌がそれを感じさせない。播磨は静かに尋ねているのだが、相手に
はドスを含んでいるように聞こえてしまう。
医師は播磨に落ち着くようにと言ってから、容態の説明を始めた。天満は風
邪でかなり酷い状態だったらしく診察の時間が長かったのは点滴を使ったため
とのこと。だが、点滴はあくまで栄養補給のためであって決して過信してはい
けないこと、暖かくしてちゃんと食事を摂らせて休ませる、薬を出すからしっ
かり飲ませるようにと言われた。
播磨はそれを聞いて胸をなでおろした。どうやら俺の考えすぎのようだった
と安心する。後は天満を引きとってさっさと退散するにかぎる。
327: 04/11/08 21:06 ID:XG/ttTVA(6/12)調 AAS
中年の女性看護士の案内で天満の寝ている部屋に連れていってもらう。診察室
を出て階段を昇って2階へ、一番手前の質素な個室で天満は寝かされていた。す
でに点滴は外されていて後は迎えの来るのを待つだけだったようで。播磨の姿を
確認すると「播磨君、やっぱり待っててくれたんだ」と言って優しく微笑む。無理
をしてるのはすぐに分かった。
(天満ちゃん…無理しやがって、今はそんな時じゃねぇのに気を使わせてんだな
…なんか情けねぇな。俺って)
播磨はそんな天満を見て思う、暴漢や変な輩に絡まれているなら己の腕力で助
けることができる。しかし病人の女の子とどうやって接していいかは分からなか
った。できる限りの助けをしようと、とりあえず「歩けるか?」と聞いてみる。
天満は上半身を起こして「うん、多分平気だと思う」
播磨は天満に手を貸して起こしてあげる。本来なら看護士の仕事だが、播磨の
放つ独特の威圧感に気押されて立ち尽くすだけだった、『天満ちゃんは俺が助け
る』播磨の補助で天満は立ちあがってみたものの、足取りは生まれた直後の鹿の
赤ちゃんのようにフラフラっとして今にも倒れそうだった。
「しょうがねぇな」
播磨は天満の右手を自分の肩にかけさせる。左手で腰の辺りを掴んで倒れない
ように体を支えてあげる。播磨は「もう少し寝ておいた方がいいんじゃねぇか?」
と言ったが首を横に振られて「八雲を家で一人にしておけないの」と言って播磨に
懇願する。
「播磨君、お願い。家まで連れていって」
播磨は天満を説得しようと思ったが、天満の目に強い意思を感じ諦めた。
328: 04/11/08 21:07 ID:koFOjSJs(1/2)調 AAS
support?
329: 04/11/08 21:07 ID:XG/ttTVA(7/12)調 AAS
「診察料の払いと薬の受け取りは俺が代わりにやる。塚本はここで待ってな」
天満を待合室の椅子に座らせてあげる、また人が増えたようで、今回は空の席を
探すのにちょっと骨が折れた。2階からここまで来る僅かな距離でも天満にはとて
も辛かったらしく「座ったら立てなくなっちゃうよ」と拒否したくらいだった。
しばらく二人の間に沈黙が流れる。播磨は「怒らせちまったかな?強引だったもん
な」とちょっと不安になっていた、天満は俯いたまま動かない。
それからまたちょっとして受け付けから「塚本さーん」と呼ばれた。診察費の会計
のために呼び出しのようだ。播磨はこの気まずい状態から脱出できる助け舟と感謝
した。天満に「行ってくるぜ」と告げる。天満は播磨の袖をクイクイっと引っ張って
「ごめんね…播磨君に迷惑ばっかりかけちゃって」普段の声質より低くくぐもっていた。
会計と薬の受け取りを済ませて、外に出る。播磨は天満に肩を貸し、彼女の歩調に
合わせてゆっくり歩く。
進んではいるものの牛歩のようでいつ家に到着するかまったく見当がつかなかい。
(天満ちゃん、歩くの辛そうだな。これ以上の無理させねぇためには…)
播磨は考える、このままのペースで行ったら、彼女の家に着くまでには結構な時
間が掛かる。その間に天満が体調をさらに崩しかねない、ならば自分が背負うなり
して天満を運べば相当な時間の短縮が可能。天満の体力の負担もかからずにまさに
一石二鳥の名案だ。
330: 04/11/08 21:08 ID:XG/ttTVA(8/12)調 AAS
(でも何て言うかな?ストレートに言っちまうか)
播磨は天満の前では常にクールで頼れる男でありたいと思っている。だからこそ
「天満ちゃんおぶってあげるよ!」とは口がさけても言えない、どうするかと頭を捻
り始める、テーマはどうやって自分のイメージを下げずに伝えるか?
名案が浮かばないまま塚本家に向ってさらに歩を進める。風は冷たく寒い。風が通
り抜けるたびに天満の体がフルフルと震える。肩を貸している播磨にもそれが直に伝
わってくる。
寒さに震えている天満を見かねた播磨は何も言わずに着ていた学ランを脱いで天満
に羽織らせる。天満は「播磨君も風邪ひいちゃうよ」と返そうとしたが「俺は風邪なんか
ひかねぇんだ」と強引に押しきった。
秋風が播磨の体を突き抜けていく、もう冬も近くて寒さが身に染みてくる。天満には
強がってみせたが、このままでは自分も風邪をひいてしまう。お互いの利益のために有
益な打開策を打ち出す。
「塚本、俺にいい考えがあるんだけどよ」
気だるげに天満は「何?」と播磨に返す
ゴクリと唾を飲み一息つく。ごく自然にサラリと言わなくては
「オンブしてやるよ。早く家に帰りてーだろ?」
「ちょ、ちょっと播磨君!何てこと言うの?」
天満が抗議の声をあげる。播磨は「違う!俺はそんなことは考えてねぇ、信じてくれ!」
と否定する。播磨は顔を真っ赤にしながら納得させるための弁解を口にし始める。
331: 04/11/08 21:09 ID:XG/ttTVA(9/12)調 AAS
「お前フラフラじゃねぇか?早く家に帰って休まねーと良くならねぇ。このまま歩いたら
時間くっちまうしよ…それに俺も寒いんだ」
天満は少しの間キョトンしていたが播磨の本音を聞いてクスクスと笑い出した「じゃあ
播磨君に甘えちゃおうかな」と言って
「でも変なこと考えちゃ駄目だよ。播磨君、お猿さんになっちゃうよ」
念を置いて播磨に釘を刺しておいた。
(お猿?なんのことか分かんねーけど、天満ちゃんを失望させるようなことは考えないぜ。
この播磨拳児、君の期待だけは裏切らねぇ)
「おう!俺はそんなことは微塵も考えちゃないぜ」
播磨は天満の言動の意味を履き違えたまま力強く答える。両者勘違いをしていることは
気づかないままに。
播磨は天満を背に乗せて歩き出す。急がなくてはいけない。だがわずかな距離でも播磨は
じっくりとかみ締めしめながら歩く、天満には悪いがこの時間は大切にしたいと思う。
しばらくして耳にスゥスゥと寝息が入ってくる。寝てるのか眠ろうとしてるのかは分から
なかったが、播磨は気を遣ってあまり揺れないように歩くことにする。
(天満ちゃん…前より女っぽくなったよな)
背中越しからでも天満の成長を感じるとることができた。体は前より柔らかくなったし、
出ている所はでるようになっていた、まだ小さいけれど。
時の流れを播磨は感じていた。
332: 04/11/08 21:14 ID:XG/ttTVA(10/12)調 AAS
(天満ちゃんは変わったけど、俺はあの時とあんまり変わってねぇのかもしれねぇな)
自嘲的に笑う、運命とは皮肉なものである、天満と始めて会った時、そして今の自分
達がおかれている状況が似ていることを。また同じ体験をするとは考えても見なかった。
播磨は天満と出会ったあの日のことを思い出していた。
(あの時の俺は天満ちゃんを物程度にしか思っていなかったんだよな)
チンピラに絡まれていた天満を助け、自分の血を見て卒倒した天満を背負って家に運
んだことを思い出す。思えば恋の始まりはここからだった。
(俺は天満ちゃんにとっての王子様なのかもしれねぇ、いや…天満ちゃんには変態扱いさ
れちまったか)
播磨は思う、変態扱いした娘を自分が背負っている。天満ちゃんは俺の正体を知らない。
背徳的な笑みがこぼれる、ニヤニヤしつつも今後の対策を考える。
(これで天満ちゃんを無事に家に連れて帰って…その後は、どうするんだ?天満ちゃんは
まだ動けねぇ、妹さんは寝こんじまったらしいし)
先程、来たメールの内容を思い出す。もしかしたら天満は八雲の風邪が移ってこうな
ってしまったのかもしれない。その八雲に天満を押しつけるのは無責任極まりない。言
えばやるかもしれないが、それは畜生のすること
誰かが二人の面倒を見る必要がある。
(俺がやるか?し、しかしだ!)
播磨は女の子の家にも部屋にも入ったことがない。看病と言う言葉は播磨にとっては
対極の言葉であり、何をしていいか、何をしたらいいのか全く分からない。
播磨の中で不安がドンドン大きくなっていった。
333: 04/11/08 21:15 ID:kWsTT8Tk(1)調 AAS
支援?
334: 04/11/08 21:15 ID:XG/ttTVA(11/12)調 AAS
(できるわけがねぇ…この俺に看病なぞできるわけねぇ)
高揚して熱くなっていた心は冷水をかけられてしまいすっかり冷めてしまった。先程ま
での幸福感はキレイに吹っ飛び、頭の中は今後の不安で支配される。女神を窮地に置き去
りにはできない。だが、その女神を助ける術を自分は知らない。
(どうする、どうする、どうするんだ!)
頭の中で押し問答を繰り返すが、明確な答えはでてこない。いい案えが浮かばないまま
塚本家の前に到着してしまった。すっかり途方に暮れてしまった播磨にに救いの手が差し
伸べられる。
戸を引いて玄関に入る、鍵はかかってなかった。播磨が家にあがろうとすると
「あら、播磨さん」
一人は八雲と親しい金髪の娘、失礼だが名前は忘れてしまった。
「やっぱり塚本さんと一緒だったね」
もう一人はクラスメイトの女子、確か天満の友達で影の薄い女だった。
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