[過去ログ] アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ9 (454レス)
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176
(1): 2007/11/24(土) 03:33:06 ID:nG5Mxbs7(1)調 AAS
…まあ、作品なんぞより正義を優先するのなら、
書き手も含めて断罪も仕方ないのでは…ね・・・
177: 2007/11/24(土) 03:34:44 ID:tsa6ZqxD(1)調 AAS
書き手がゼロでも、完結できなくても構わないと思う

したらばはすべて切り離せ
178: 2007/11/24(土) 03:35:21 ID:KEsuxBpl(4/5)調 AAS
>>174
つっても、お前以外の単発全部俺の自演だし。

表の顔の俺は許すという。
裏の顔の俺は切れという。
そして>>166すらも俺。
暇なんだよ。
179
(1): 2007/11/24(土) 03:36:08 ID:R1X5jGR4(1)調 AAS
(…証拠がないという面では両方とも同じなんだが・・・)
(・・・ま、いっか・・・)
180: 2007/11/24(土) 03:37:41 ID:WvHqicSe(1)調 AAS
かまわん

スレ的にはID:KEsuxBplのすべて自演でも構わんよ

だが、したらばは切る。
181: 2007/11/24(土) 03:38:38 ID:KokLlvjJ(1)調 AAS
投下作品もすべてID:KEsuxBplの自演かもなwwwwww

そうなりゃ話早えwwwwwwwwwwwwww

んなこたぁねえかwwwwwwwwwww
182: 2007/11/24(土) 03:41:28 ID:/s+lhz08(1/2)調 AAS
ばっかちげぇよ全部俺の自演に決まってんだろうが
183: 2007/11/24(土) 03:43:02 ID:SMTdBhOk(1)調 AAS
言っておくが、われらは動く気無いぞ何一つとしてな

キャプテンが荒らしたと言うが、彼は荒らしはやってないからな
なあ?キャプテン
184
(1): 2007/11/24(土) 03:43:31 ID:VHaFVXtm(11/11)調 AAS
ゴメンさっき寝るという前に言ったのはウソだ……

その代わり、初代スレの1から全部俺の自演なんだ!
185: 2007/11/24(土) 03:45:22 ID:U/R7CPgG(1)調 AAS
何言ってんだキャプテンはいい人だよ

自らのSSを否定されたから、自らの今まで書いたSSをすべて撤廃しろっていった人でしょ?

なんと男らしい人なんだ。彼は良書き手だよ!!
186
(1): 2007/11/24(土) 03:46:56 ID:OQadmHLQ(5/6)調 AAS
ゴメン、俺はキャプテンで今までの2ch派としたらば派の意見は全部俺が言ってたんだ!
ウソついてごめんね!
187
(1): 2007/11/24(土) 03:47:16 ID:m92cJCJu(1)調 AA×

188: 2007/11/24(土) 03:48:38 ID:RTO474sR(1)調 AAS
どういう理由であれ、したらば移転と大量アク金の理由が
キャプテンなんてのはありえないんだよ
189: 2007/11/24(土) 03:48:56 ID:OQadmHLQ(6/6)調 AAS
>>187
ありがとう、実は>1から>186まで全部俺の自演なんだ、許してちょ♪
190
(1): 2007/11/24(土) 03:49:18 ID:KEsuxBpl(5/5)調 AAS
許す、すべて許す。
だって俺のしたことだもん。これ以上俺を責めないで!
191: 2007/11/24(土) 03:49:42 ID:3Edg5Mbm(1)調 AAS
あいつはただ書いてただけだからな
あと予約制度みたいなのでごちゃごちゃしてたようだが

だから、移転の理由が無い。
192
(1): 2007/11/24(土) 03:50:06 ID:/s+lhz08(2/2)調 AAS
それも私だ
193: 2007/11/24(土) 03:50:52 ID:3LdF1fWd(1)調 AAS
もう2chで、すべてやり直しでええんちゃう?
194: 2007/11/24(土) 03:51:52 ID:ttWeUI5f(1/2)調 AAS
したらばの方を移転したけりゃ、アニサロ池

こちらは削除依頼を出す、それでいいだろ
195: 2007/11/24(土) 03:53:49 ID:ttWeUI5f(2/2)調 AAS
ああ、このスレにしたらばのSSを投稿したら削除依頼
あとは原則誘導。

書き手のSSが消える可能性があろうと知らない…とはいうが

ほうっておくわけにもいかないから、アニサロに移してやるか。
削除依頼を出すんだったら
196: 2007/11/24(土) 03:55:29 ID:ifC/kTHe(1)調 AAS
そりゃ道義的措置だな

まあ、それでいいか
197: 2007/11/24(土) 03:58:23 ID:3taiqNNb(1)調 AAS
削除依頼するレスは別スレに張りなおして、消された時用にアニサロに保護しておく。
ここでは削除依頼

書き手の中にはしたらばにほだされて、まったく知らないのもいるかもしれない。
だが、SSが消される、データが消えるのはいやだろうからな
議論したデータや不都合な内容を消すのは大好きなようだが
198: 2007/11/24(土) 04:00:53 ID:zLayKRAL(1)調 AAS
このスレに投稿されたものに関しては削除依頼する
ここにはここの決まりがあり、引き受けるわけにはいかない。

ただ、まあ、保護はします。できるだけ・・・って?
199: 2007/11/24(土) 04:02:21 ID:U1BlyqDo(1)調 AAS
まあ、それはやりましょ

削除依頼出すときと同じなんだから

向こうも、それで実は問題ないはずだからな
200: 2007/11/24(土) 04:03:24 ID:b3WEjDZi(1)調 AAS
んじゃ、そんな感じか

仮に向こうが落ちたら立て直せばいいだけだしな
依頼で立てることなら出来るし
201
(1): 2007/11/24(土) 04:04:03 ID:+vAWTXcX(1)調 AAS
もうそろそろ寝ろ
202: 2007/11/24(土) 04:04:43 ID:syYPyMrn(1)調 AAS
んじゃ、そういう感じで
203: 2007/11/24(土) 04:12:57 ID:7UlFupd2(1)調 AAS
寝るか・・・
204: 2007/11/24(土) 06:44:24 ID:6RVjlxvO(1)調 AAS
お休み。相手してもらえて大喜びだったんだろうけど、改行の仕方でバレバレだったよ。
まあ、それ以前の問題なんだけど。

あと、自治権言うなら、まだ始まってもいない2ch派の人が作品投下スレにいる時点でおかしいから。
準備議論スレでも立ててそっちで思う存分話し合ってくれ。
重複どうこういうんなら某Cばりに頭にリニューアルでも付けてくれればいいから。
205
(1): 2007/11/24(土) 12:41:59 ID:LB9etdiU(1)調 AAS
そもそも作品投下スレがあること自体おかしいだろ
始まってもいないんだからさ

それに、仮に2chの作品投下が始まったって
実際は運営・作品投下・感想などすべてこのスレで賄うよ

それが同意だからね。
「作品投下スレ」という名前はそのままだけどなwww
206: 2007/11/24(土) 13:23:59 ID:1YemQw/W(2/2)調 AAS
自分に都合の悪い情報には証拠を求めるのに、都合のいい情報は喝采でもって受け入れるのか。
さすがだなw
207: 2007/11/24(土) 14:26:20 ID:ZI6a9zp5(1)調 AAS
うん、さすがしたらばだよね
208: 2007/11/24(土) 14:33:56 ID:yxrGS0FT(1)調 AAS
だの
209: 2007/11/24(土) 15:49:23 ID:DQfzueyr(1)調 AAS
まあ、とっととあのSSども削除依頼だしてこい
210: 鉄の、無敵の、 A ◆P2vcbk2T1w 2007/11/24(土) 17:53:19 ID:vLCDYkUL(1/2)調 AAS
   @ @ @ @ @ @

紫に膨れ上がった顔にめり込んだそれを引き抜くと、
ぬちゃりと言う、粘りとしたような、サラリとしたような、奇妙な音がした。
殴り殺された死体からは、大して血は出ない。
大体が、脳をやられるか、血を飲んで窒息するかして死ぬからだ。
つまり、素人目には、死亡の確認が取り辛い。
なので、念のために頚の骨も折っておく。
尤も、この男が万一生きていたとしても、大した問題も無いのだが。

思ったよりも時間を食った。
あの女共は、それなりに遠くに逃げたことだろう。
さっさと止めを刺すべきだっただろうか。少し慎重になりすぎたか。
だが、弾の入った銃を手に入れられた。とりあえずの目的は達せられたことになる。
欲を言えば刀剣類の方が望ましいが……まあ良い。
予想外の収穫もあった。

懐から取り出したその機械。
ご丁寧に「レーダー」と銘打たれている。
ここへの道中、血溜りの中に放置されていたものだ。
その信頼性がどれほどのものか訝しんではいたが、この男達との遭遇でその機能は確認できた。
他者への接触を、より効率的に行うことが出来る。
つまり、これを使えば、逃げ隠れるような獲物に接近することが極めて容易になるわけだ。

そして、男の荷物から使えそうな物を抜き取り、そろそろ女共を追うか、そう思った時。
ふと、海の彼方を動く物体が目に止まった。

「……チッ」

そして、全てを悟る。
袋小路のこの地形から脱出できる、唯一の手段。
それが、今自分の眼前を悠々と通り過ぎてゆくあの物体――モノレールだ。
そう、つまりはそういうことだ。
この男にしてやられた、ということか。

「まあ、いい。獲物は、まだ沢山残っている」
211: 鉄の、無敵の、 B ◆P2vcbk2T1w 2007/11/24(土) 17:54:25 ID:vLCDYkUL(2/2)調 AAS
【パルコ・フォルゴレ@金色のガッシュベル!! 死亡 】

【C-1/1日目/昼】
【ビシャス@カウボーイビバップ】
 [状態]:健康
 [装備]:鉄パイプ、ジェリコ941改(残弾16/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実
 [道具]:支給品一式、レーダー@アニロワオリジナル、マガジン(9mmパラベラム弾16/16)×1、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、防弾チョッキ@現実
 [思考]
  基本:参加者全員の皆殺し。元の世界に戻ってレッドドラゴンの頂点を目指す。
  1:皆殺し。
  2:武器の補充、刀剣類の獲得。
[備考]
※地図の外に出ればワープするかもしれないと考えています

※キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! の入ったデイバックは、フォルゴレの遺体の傍に放置されています。

ローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
柊かがみのデイパック(中身:支給品一式[水入りペットボトル×1消費]、かがみの靴)
柊つかさのデイパック(中身:支給品一式)
はB-2観覧車前に放置されています。
212: 2007/11/25(日) 13:56:11 ID:vBx4t6vu(1)調 AAS
いつのまにテンプレ変えてないか?あいつら
213: ◆hNG3vL8qjA 2007/11/25(日) 14:01:57 ID:e+nL+0VK(1/6)調 AAS
「うっかりしてたよ。おねーさんの形見を忘れるなんて、失職モンだ」
「しょげるなよジン。それだけお前がヨーコさんのことを引きずってたんだよ」
「引きずってたら尚のこと、そのまま『引退』したほうがいいんじゃ……」
「もう彼女の支給品はちゃんと回収したんだし、今は目の前の事に集中しようハッハッハ」
「……言ってるアンタが引きずっちゃってどうすんの。目が死んでるぜ清麿」

森を漸進する天才と王泥棒。高嶺清麿とジンは共にしょんぼりしていた。
C-7に安置されているヨーコの支給品一式を、完全に失念して一度家を出てしまったからだ。
清麿は自分の迂闊さとヨーコの死で戦術的基本行動がおろそかになっていた事を戒め、
ジンは自分の至らなさとヨーコの死で職業病すらまともに発揮できないほど動揺していることを恥じた。
彼らは決してヨーコの死を軽んじているわけではなかったが、だからこそヨーコ以外の事に目が入らなかったことが許せないのだ。
2人の最善の手を捜し求める頭脳と己のスタンスを貫く胆力は、まだ完全な状態ではないらしい。
214: ◆hNG3vL8qjA 2007/11/25(日) 14:03:05 ID:e+nL+0VK(2/6)調 AAS
「ジン、そろそろ森を抜けるぞ。ラッドの奴がカンカンになってそうだな」
「沸騰した頭で旨いサニーサイドを作ってたりして」
「朝飯時はもうとっくに過ぎてるだろ……ところでジン、消防車に乗ったら聞いてほしい話があるんだ」
「へぇ、森で話さなかったところをみると、あまり人に聞かれたくない話なのかな? 」
「あくまで俺の推察だが、重要な話には違いない。紙にもまとめてある」
「仕事が速いね。覗いてみたくなったよ、あんたのその頭の中のゼンマイをさ」
「冗談は止せよ。ま、そういう事で宜しく……な!? 」
「……マズイぜ清麿。ラッドの怒りが町を焼き上げちまった」

清麿とジンが森を抜けたとき、彼らの目に入ってきたのは火の海と化したエリアC-6だった。
崩れ落ちる瓦礫と反響する放出音。戦闘による無機物たちの唸り声が聞こえている。
その惨状を見たとき、2人がどう行動するのかは明白だった。
体を労わないスピードで、自分の達の元の鞘――消防車のもとへ戻り、スタンバイすること。
彼らの一連の行動にどれほど時間がかかったかはわからないが、その動きは実に無駄のない流れだった。
215: ◆hNG3vL8qjA 2007/11/25(日) 14:04:39 ID:e+nL+0VK(3/6)調 AA×

216: ◆hNG3vL8qjA 2007/11/25(日) 14:06:04 ID:e+nL+0VK(4/6)調 AAS
「……おいおい、それじゃ最初から病院に行くしか手が残されてないじゃないか!」
「そんなこと言ったってコイツは救命が本職じゃないし。どのみち誰かを病院に連れていくのなら、ね」
「確かに、誰が読んでも『病院に行く』と気づかないメッセージを残したのは助かるけどさ」
「清麿ならどんなに無茶なメッセージを書いても上手くやってくれると思ってたのさ」

巨大な体躯を振り回し、消防車はD-6を進む。
『D-7へ一旦下り安全なD-6へ渡る。次に病院とC-6を行ったり来たりし、消防活動をしながら火災の被害を受けた人たちを助ける』
運転者ジンとナビゲーター清麿が導き出した最良の結論はこれだった。
といっても、ジンの不本意な置き言葉に清麿が無理矢理辻褄を合わせた形になってしまったのだが。

「清麿の『耳』の負傷を知ってるのはラッドとあのヤバそうな2人だけ。
 んで清麿はラッドと互いに取引している。その耳の治療のためにいずれ病院に行くはずだったんだし、流石にピンとくるでしょ。
 一番の問題はラッドにご足労願って来てもらった後、また殴られ……」
「ちょ、ちょっと待てジン! 車を止めてくれ! 」
「え? 」
217: ◆hNG3vL8qjA 2007/11/25(日) 14:07:31 ID:e+nL+0VK(5/6)調 AAS
清麿の静止に納得がいかない顔をするも、ジンはブレーキを踏む。
そして自分の顔を見ず青ざめた顔でサイドミラーを見る清麿にハッとし、彼も窓から顔を出した。
彼らの目に映るのは、全身を血化粧で纏うE-6なデパートの大炎上。彼らにとってはさっきまでごく普通の建造物だったものだ。

「どうにも、今日の太陽はカゼ気味らしいね。もう一発くしゃみをされたらココも燃えるかな」
「おいジン! 」
「……俺だってジョークでも言わなきゃこんなのやってられないぜ。で、どうする? 」
「火災は2箇所、消防車は1台、俺たちは2人。こんな状況で……何とかしろっていうのか! クソッ! 」

前門の虎と後門の狼に挟まれし少年たち。
ジンと清麿をあざ笑う焔の秒針は全てを刻み、彼らを追い詰める時の両針はもうじき天を仰ぐ。
彼らの心は、決断という歯車に少しづつ少しづつ締め付けられていた。
2人の最善の手を捜し求める頭脳と己のスタンスを貫く胆力は、もう完全な状態になっているはずなのに。
218: THE WAY OF THE ANSWER TAIKER ◆hNG3vL8qjA 2007/11/25(日) 14:08:48 ID:e+nL+0VK(6/6)調 AA×

219: テンプレ議論再開 2007/11/25(日) 16:06:16 ID:llUam1e+(1)調 AA×
>>1

220
(1): 2007/11/25(日) 16:19:50 ID:Ky8I2Jht(1)調 AAS
>本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
>  ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
>  その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。

原則的に修正は禁止って、だれがどう決めたの?
221: 2007/11/25(日) 20:11:02 ID:fnNiOpKl(1/2)調 AA×

222: 消えない憎悪 ◆jbLV1y5LEw 2007/11/25(日) 20:44:46 ID:77tKtwTX(1/2)調 AAS
「何だ、これは……」

スカーは目の前に現れた奇妙な木造建築物を見て思わず呟いた。
疲労困憊により気を失ったスカーだったが、森の中にまで届く女の声によって目を覚ました。
途中からしか聞き取れなかったものの、声は自分の仲間を探してくれるように頼み、自分が北へ行くことを伝え、諦めるなと告げ、止んだ。
太陽の傾き具合からそう時間が経っていない事を確認した後、スカーはその声の主を探して歩き、この場所にたどり着いたのである。

スカーは改めて目の前のそれを見た。
木で組まれた扉のない門のような形をしたそれは鳥居と呼ばれるものなのだが、スカーには知る由もない。
が、脇に連なる石の柵に刻まれた「螺旋神社」の文字からここが神社であることを把握した。
スカーは地図を含む支給品を失っていたものの、その大体の地形は頭に叩き込んである。
特に『神社』や『古墳』、『温泉』といった施設は最初に見た『海』同様、未知であるがゆえに印象は強く残っていた。
その記憶によれば、神社は地図の南端に存在していた。
先の声の女も北へ行く、といっていた以上、やはりここは北へ進む余地がある場所ということになる。
自分は地図の北端でドモンとの戦闘に入り、川沿いに移動したはずだ。
わずかな時間で北の端から南の端へ移動する。
スカーの常識からすればありえない事態である。

(いや、『ありえない』ということこそが『ありえない』か……)

螺旋王が居たあの最初の広間に移動したときも一瞬で移動したとしか思えない唐突さだった。
その広間から最初の地点に移動したときも一瞬だ。
意識を奪われたという可能性もあるが、自分は気づいた時も立っていたし、自分が手もなく意識を奪われたとは考え難い。
では一瞬で移動したとして、どういう条件で移動したのか?
それもスカーには推測が可能だった。

(端と端がつながっている、のか?)

神社があった辺りと自分がドモンとの戦いに入った辺りは、東西の位置関係で言えばそれなりに近い。
地図に描かれたこの会場の端と端がつながっていると考えれば、ある程度は納得がいく。
原理は不明だが、己の体験した事実は事実。
スカーはこの不可解な現象をそのまま受け入れた。

(うまく使えば移動時間を節約できるが……)

この仕掛けを有効利用するには地図が必要である。
まっすぐ南に戻り、荷物を取りに戻ることも考えたが、参加者を殺して奪う方が手っ取り早い。
猫の写真は少し、否、かなり惜しかったが、スカーはその執着を抑え、休憩のために神社へと入って行く。
最初は声の主を探して殺すつもりだったものの、歩くうちに自分の疲労の度合いを知ったのである。
気絶している間に多少は休めたとはいえ、まだ疲労が残ることに変わりはない。
黒の男、ホムンクルス、ドモン・カッシュ。
この殺し合いの場に放たれた者たちはいずれも相応の実力者なのだろう。
先の声の主が同様の手練であった場合、今度こそスカーの敗北は必至。
スカーは国家錬金術師を殲滅するその日まで死ぬわけにはいかない。
はやる気持ちを抑え、まずは体力の回復に努めることにしたのだった。

 ■
223
(1): 消えない憎悪 ◆jbLV1y5LEw 2007/11/25(日) 20:47:34 ID:77tKtwTX(2/2)調 AAS
中へ入ると、スカーはこの施設の本来の用途を悟った。

(どうやらここは神域らしいな)

スカーも元はイシュヴァールの武僧である。
この建物に漂う宗教関係の場所特有の匂いを嗅ぎ取っていた。
とはいえ、そこかしこの柱に螺旋状の溝があることと、祭壇があることを除けば、これといって不審なものはない。
もっとも、この神社で祭られている宗教と縁も所縁もないスカーに判断できないだけで、おかしいところがあるのかもしれない。
奥や別の建物を探ればもっと何かあるかもしれないが、無闇に神殿を荒らすのは本意ではないし、スカーの目的は体力の回復。
入り口から見えぬよう、柱の陰に座布団を敷き、座って休息をとることにした。
休憩しつつ、今後の行動を考える。
先の声の主は北へ向かう、といっていた。
自分もやはり北、すなわち中央へ向かうのが妥当であろう。
東西両方に道があったが、スカーは最初から西のルートについては選択肢として考えていない。
西から向かう場合、モノレールなる鉄道のようなものを使うのだろうが、この会場でそれが動いているか分からない。
動いていたとしても奇襲を旨とするスカーの戦闘スタイルは目立つ上に空間の限定された列車よりも、遮蔽物がありいざというとき八方どちらにも逃走できる森に適している。
それに加えて、ここからほぼまっすぐ東へ行った場所にある温泉というものにも興味があった。
泉というからには水が湧き出ているのだろう。
人は水が湧き出る場所に集まる、という乾いた土地に住む者らしい経験に従い、スカーは次の目的地を温泉に定めた。
近くに禁止エリアがあったはずだが、螺旋王の放送によれば警告後に一分間の猶予があるという。
太陽の位置から方角を確認しながら注意して進めば大事には至るまい。

(温泉へ向かい、そこのいる参加者を皆殺しにする)

そう決めたスカーの脳裏に、ドモンの言葉が浮かぶ。

『復讐は何も生みはせん。
 それどころか貴様のその怒りと悲しみは誰かに利用され、更なる悲劇を引き起こすだろう』

先に感じた怒りがぶり返し、思わず舌打ちする。
確かに今の自分は螺旋王によって殺し合いに利用されている、といえるかもしれない。
だが、現状は同時にスカーにとっても怨敵の国家錬金術師やホムンクルスを殺す機会ともいえる。
仮に脱出を目指すにしろ、奴らが居る限り自分の胸の内の憎しみが協力を許さない。
そして国家錬金術師はともかくホムンクルスはこの会場に何体潜んでいるか分からないのだ。
ならば、全ての命を摘み取り、元の国へ戻ることをスカーは選ぶ。

スカーは柱にもたれ、身体を休める。
消えない憎悪を胸の内に抱え、名を捨てた男は密かに牙を研いでいた。

【H-4/神社/1日目-午前】
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
 [状態]:左脇腹と右脇腹、右手の親指を除いた四本それぞれ損傷中(応急処置済)。疲労(大)
 [装備]:なし
 [道具]:
 [思考]
  基本:参加者全員の皆殺し、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
  1:皆殺し
  2:体力の回復
  3:東へ進み、温泉を経由して中央へ向かう
  4:地図他、支給品一式を手に入れる
 [備考]:
 ※会場端のワープを認識しました。
 ※スカーが耳にしたのは、はやての拡声器による放送です。制服のくだり以前は聞き逃しています。
224: 2007/11/25(日) 20:58:27 ID:fnNiOpKl(2/2)調 AAS
削除依頼だしとこか?
225
(1): >>45修正版 ◆10fcvoEbko 2007/11/25(日) 23:22:27 ID:IgaZmg2i(1/6)調 AAS
「…ねぇ」
「ん…何?」
かがみの様子の変化を察したのか、千里も立ち止まりかがみの方を向く。
「…あなたは何でそんなに普通にしていられるの?」
「…ごめんなさい、言ってる意味が良く分からないわ」
「友達が心配じゃないのかって言ってるのよ!」
迷いなく優勝を目指すための方法を聞くはずが、実際にかがみの口から出たのはそんな言葉だった。
小首を傾げる千里に、かがみの口調がさらに激しく、非難するものへと変わっていく。

「会ってからずっと自分のしたいことばかり言って!
友達がいるなら早く合流したいとか、どこにいるんだろうとか、そういうことは考えないの!
…何で、そんなに自分のことばかり考えていられるのよ!」
「そうでないと私の気が済まないから、というのが答えなのだけれど。別に、心配でない訳ではないのよ?
まぁ、可符香ちゃんが怯えるとこなんて想像できないし、先生も死ぬ死ぬ言って自殺まがいのことはするけど結局死なないから、何となく安心できるというのはあるかしら」
それにあわよくば先生と、と続けられた部分ははかがみの耳には届かなかった。
「そんな…それだけの理由で…」
千里の言葉は余裕とも冷徹ともとれるものだった。
その泰然とした態度こそかがみの欲していたもののはずなのに、口を開けば否定するようなことを言い、反発する意思ばかりが強くなった。
まるで、千里の態度が本当は気に食わないものであるかのように。
泣き出しそうなかがみを見かねたように、千里が言った。

「強いて言えば二人を信頼しているから、ってことになるのかしら」
安っぽい表現だったが、それはあるいはかがみのことを思った故の言葉だったのかも知れない。
続けられた言葉には、はっきりとかがみのことを案じる響きがこめられていた。
「私のことより、あなたはどうなのかしら?」
「…え?」
何を言われたのか分からないというように、きょとんとした表情でかがみは顔を上げた。
「…まったくもう。しっかりしなさいな」
だだっ子の扱いに困った母親のようなため息を一つついて、千里はかがみに近づいた。
また何かされるのではとかがみは身を震わせ、ぎゅっと目をつぶる。
だが千里はそんなかがみの手をそっと自分の手で包み込むと、穏やかな声で言った。

「あなたはこう言いたいのでしょう?自分の友達が心配だって」
「え…」
「つかささんだけいればなんて言っても、他のお友達のことが気になるのでしょう?
私にはそうとしか聞こえなかったけれど?」
初めて聞く優しい声色に乗せられた千里の言葉は予想外のものであり、かがみは戸惑った。
ただ、握られた手の暖かさだけが強く感じられた。
自分が言っていたのはそういうことなのだろうか。
つかさのために優勝を目指す決意を固められずにいるのは、そもそも現実味を感じられないというのもあるけれど、それ以上にすぐこなた達のことを思い出してしまい、考えたくなくなるからだ。
だから、友達などどこ吹く風と言わんばかりの千里の態度を羨ましく思った。
思った、はずだ。
では、何故さっきの千里の言葉にあんなにも強く反発したのかという、その理由は良く分からなかったのだけれど。

「私…私は…」
感情を表す言葉が見つからず、かがみは顔を上げることしかできなかった。弾け飛んだ千里の頭部が目に入った。
「……」
続いてかがみの体にも衝撃が走り、意識を失った。


226: >>47修正版 ◆10fcvoEbko 2007/11/25(日) 23:23:44 ID:IgaZmg2i(2/6)調 AAS
ニコラス・D・ウルフウッドは相変わらず鬱々とした感情を抱えながらも、無言でたった今殺した少女達の荷物を回収した。
もっとも、片方の少女は手ぶら同然だったため回収したのは実質一人分である。
警察署に銃はなかった。
というか、地図で警察署と記された場所に在った建物は、ウルフウッドの想定していた警察署とは大分様相が異なっていた。
警察署と言えば、ならず者やら賞金稼ぎやらが起こすトラブルにすぐに対応できるように作られており、逆恨みの襲撃にさらされることも多い場所である。
常にどこか壊れたり薄汚れたりしているものだ。

拳銃は詰めている者が携帯するにせよ、ショットガン級の武器の一つや二つは示威のために分かりやすいところに置いているはずだ、と思っていた。
ところが、訪れた場所は奇妙にこざっぱりした建物で、中は数々の部屋に仕切られ多くの事務机が置かれているだけという、何というかよっぽど上流の企業のような雰囲気だった。
こんなにお上品で警察業務が務まるとは、とても思えなかった。
務まるとしたら、その国の連中はよっぽど平和ボケをしているに違いない。
銃が手に入りそうにないことに歯噛みしながら、探索の途中で荷物の整理をした。
あの銃使いの女から奪った物は支給品一式と変わったデザインのコンピュータ、そして一枚の音楽CDだった。
「自殺交響曲『楽園』」というタイトルと、「一度再生するとデータは失われます」という補足文が書かれていた。
何や、死にたくなったらこれ聞け言うんか。
今すぐにでも流しっぱなしにしたい気分ではあったが、不機嫌極まりない声でそう呟くに留めてデイパックに収めた。
入り口付近の部屋をいくつか漁っただけで、ウルフッドは失望とともに建物を後にした。
まさか、たかが銃ごときを建物の奥深くで後生大事に保管、などということもあるまい。
ショッピングモールにも一応行って見るが、やはり誰かから奪うしかないかもしれない。
と、思ったところで前方から少女が二人やってきたので、気付かれないように近づいて射殺した。
特に抵抗されることもなく、実に簡単に済んだ。

「銃を持っててくれたら良かったんやけどな…。武器っちゅても、刀は上手いこと使われへん」
片方の少女が腰に差していた二本の刀に失意混じりの視線を注ぎながら、ウルフウッドはそう言った。
今の襲撃でヴァッシュの銃は弾が尽きてしまった。
「…胸糞悪い」
仕方なしにもう片方の少女にはデリンジャーを使ったが、やはりどうしようもなく気分が悪い。
それに、一度に装填できるのが二発だけであり、射程も短いデリンジャーは性能的に見ても頼りになる武器とは言いがたかった。
いっそ刀振り回してサムライ気取ったろかい。
227: >>49修正版 ◆10fcvoEbko 2007/11/25(日) 23:25:09 ID:IgaZmg2i(3/6)調 AAS
むかつく思いを抱きながらウルフウッドは次の獲物を求めてその場を立ち去ろうとした。
そのときに、ふと違和感を覚える。
確かに殺したはずの少女の体が、まるで生きているかのように震えていた。
(死体の痙攣…いや、そういうのとはちゃう。
まさか生きとるんか?確かに命中したはずやぞ)
さっき死体を改めたときは確かに死んでいた。その場を切り抜けるための演技だったとはとても思えない。
弾が骨にでも引っ掛かったかと、できるだけ現実的に解釈してウルフウッドはデリンジャーの銃口を向けようとして、止めた。
この銃を持つとどうしても持ち主であるメリル・ストライフのことを意識してしまう。
メリルと併せて想起される人物は、ヴァッシュ・ザ・スタンピード以上にウルフッドの心をざらつかせた。
ウルフウッドはデリンジャーを収め、入手したての刀を鞘から抜き放った。
それを、少女の体を道路に縫い付けるかのように両手で深々と少女の背中に突き立てる。
垂直にそそり立つ刀は、少女に僅かな悲鳴を上げさせただけで今度こそ確かにその命を奪った。
少女が動かなくなったのを確認して刀を引き抜いた。
途中筋肉か何かに引っかかったが、傷口を抉るようにして無理やり作業を完了させた。
そして、今度こそ立ち去ろうと歩き出す。
だが、一歩踏み出した直後に少女の死体に起きた異変を見て、再びウルフウッドの足が止まった。
(再生…しとる)
流出し後は道路にしみこんでいくだけのはずの血液が、少女の体に少しずつ戻っていく。
見る間に再生は完了し、ウルフウッドが自らの手で付けた傷は跡形もなく塞がった。
そして、うっ、と言ううめき声とともに少女の体に力が戻った。
ウルフウッドは今度は袈裟懸けに背中を切りつけた。ぐぁっという声を上げ少女が苦しそうに転がるが傷はすぐに回復した。
血の集まる部分を狙って切った。慣れない得物で上手く傷つけられなかったが、それでもかなりの量の血が吹き出る。たが排出された液体は全て体へと戻っていった。
再生が完了するのと同時に逃げようとしたので反射的に足元へ刀を振り下ろした。骨に食い込む程の切れ味を見せたが、振り抜いた少しあとには傷は消えた。

「普通の方法ではあかんっちゅう訳か…」
俄かには信じがたい光景に驚きながらも、ウルフウッドは冷静に行動し、少女が立ち上がるより早く眼前に回りこみ退路を塞いだ。
刀の切っ先を突き付けて、聞く。
「何で死なへんねん、お前。まさか、不死身ちゅう訳でもないやろ?」
「あ……あ……」
恐怖で竦んで何も喋れない、といった様子だ。
「ちっ」
舌打ちした。少女の正体が分からないためだが、今自分がした猟奇的ともとれる行動への嫌悪も多分に含まれている。
まるで化け物退治でもするかのように体を切り刻んだが、恐怖に怯えるこの顔は紛れも泣く人間の、少女のものだ。
最早誰であろうと殺すことにためらいはないが、女をいたぶって楽しむかのような真似をしてしまったことは、ウルフウッドの自己嫌悪をさらに酷くさせた。

「答えられへんのやったらええわい。
気絶させて、禁止エリアにでも放り込めばさすがに死ぬやろ」
たとえこの少女が本当に不死身だったとしても、螺旋王が用意した舞台にいる以上、ルールを越えて生存することはできまい。
刀を下ろしながらウルフウッドはそう考えた。
禁止エリアと口にしたときに少女が怯えるような仕種をしたことからも、推測は正しかったようだ。
とっとと終わらせてしまいたい、色々含めて全部。刀を鞘に納めた。
その際に、血どころか脂や肉の一片さえも刀身に残っていないことに気付く。つくづく常識外れだ。
「面倒な手間かけさせよるで、ほんまに」
少女の前に戻り、鞘ごと刀を振りかぶる。
感情のこもらない目で少女を見下ろし、一言だけ言った。
「ほなな」
228: >>51修正版 ◆10fcvoEbko 2007/11/25(日) 23:26:13 ID:IgaZmg2i(4/6)調 AAS
一気に刀を振り下ろそうとしたウルフッドは危険を感じとっさに前のめりに転がり込んだ。
「何やっ!?」
突如発生した風に煽られ何度か前転を繰り返したが、すぐに体勢を立て直す。
片膝の姿勢で振り返ると、荒れ狂う赤色と黒色の衝撃波が、周囲に暴風を撒き散らしながらたった今までウルフウッドがいた場所をずたずたに引き裂いていた。
叩きつけられる風圧に、訳が分からず呆然とする。道路に破壊の痕を付けるだけつけると、しばらくして衝撃波は止んだ。
代わりに、傷跡を刻み込まれ荒れ果てた姿となった道路の対岸に一人の男が立っていた。

「ほう…かわしおったか」
男の持つ葉巻に独りでに火が点いた。
「何やねん…お前」
一切の気配を感じさせずに唐突に現れた男を、何も分からないままウルフウッドは睨み付けた。
男の放つ鉛のような強烈な威圧感に耐え、油断なく身構える。頬を汗が伝うのを感じた。
「ふん。一度は捨ておこうかと思ったが、やはり貴様のやり口は少々気に入らんのでな。
邪魔をさせてもらう」
「そのお嬢ちゃんを助けよ言うんか?そないな正義漢にはみ見えへんけどな」
ウルフウッドは、自分を何の脅威とも感じていない様子で堂々と葉巻をくゆらせる男から、少女に視線を移す。
少女の体もまた、目の前の男の仕業と思われる衝撃波に吹き飛ばされ、今は男の足元でぐったりと横たわっていた。

「こんな娘なぞどうなっても構わん。
だが、不死の能力者は貴重なのでな、貴様なんぞにくれてやるには惜しい。
それに、さっき貴様があの女を殺したせいでワシの予定が少々狂ってしまってな。
その仮も、ついでに返しておく」
偉そうな態度で話す男の声を最後まで聞かず、ウルフウッドは刀ではなくデリンジャーを構えた。四の五の言っていられる状況ではない。
ほう、と男が小馬鹿にしたように顔を歪ませた。
「まさか、そのような子供騙しで十傑集たるこのワシを倒すつもりか?」
「お嬢ちゃんが気に入ったなら連れてっても構わんけどな、ここにおるからにはどうせいつかは戦わなあかんのやろうが。
ほんなら、今終わらせていけや」
男が、手練などという言葉でも生ぬるい程の相手だということはひしひしと感じられたが、そのうえでわざと挑発するような口調で言った。
狙い通り、男は吸いかけの葉巻を不機嫌そうぺっと吐き捨て、ウルフウッドに向き直った。
銃の次に、あるいは同じくらい渇望しているそれを無造作に扱う様を見せられ、鬱積がさらに高まる。
229
(1): >>52修正版 ◆10fcvoEbko 2007/11/25(日) 23:27:16 ID:IgaZmg2i(5/6)調 AAS
この男を倒すにはパニッシャーが三つは必要だろうが、どうでもいいことだった。
「あんまり美味そうに吸うなや…むかつくっちゅうねん!」
「死にたがりの馬鹿に付き合っておる暇はない!づぇあ!」
相手をデリンジャーの射程内に収め一気に勝負をかけようとしたウルフウッドに、男はそう叫ぶと腕を振った。
ただそれだけの動作で発生した衝撃波にウルフウッドは容易く捉えられ、大きく吹き飛ばんだ。
コンクリートの塀に叩きつけられる。息を吐く間もなく追い打ちで放たれた衝撃波に、全身を切り刻まれた。
体を丸めて痛みに耐えながら、次の衝撃に備える。
しかし、ウルフウッドがそれ以上の攻撃に襲われることはなかった。
衝撃波はそれっきりで、ウルフッドの周囲の風もすぐに止んだ。
ゆっくりと目を開ける。

男の姿は、足元に転がっていた少女の姿と共に、影も形もなくなっていた。
後に残っていたのは、半ば倒壊しかかっている塀の中に埋もれるウルフウッドと、頭を弾け散らしたもう一人の少女の死体だけだった。
衝撃波によりウルフウッドの体中に切り傷が生まれたが、どれも浅く致命傷には程遠いものばかりだった。
あの男が、自分をまともに相手にしていなかった証拠である。
うなだれ、視線を落としたまま、ウルフウッドは静かに呟いた。
「……何やっちゅうねん」
別に、今ので殺してくれても良かったというのに。

【A-6/警察署近くの道路/一日目/昼】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:更に不機嫌。かなりイライラ 全身に浅い裂傷
[装備]:デリンジャー(残弾1/2)@トライガン デリンジャーの予備銃弾18
[道具]:支給品一式 (食糧:食パン六枚切り三斤+四枚、ミネラルウォーター500ml 2本) 士郎となつきと千里の支給品一式
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガン、ムラサーミャ&コチーテ、暗視スコープ、エドのコンピュータとゴーグル、びしょ濡れのかがみの制服
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)
[思考]
基本思考:ゲームに乗る
1:自分の手でゲームを終わらせる。
2:銃を持った人間を確認次第、最優先で殺してそれを奪う。
3:女子供にも容赦はしない。迷いもない。
4:ショッピングモールで武器を調達。
5:できればタバコも欲しい。
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。ゆえに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの鬱屈した感情が強まっています。


230: >>60修正版 ◆10fcvoEbko 2007/11/25(日) 23:28:17 ID:IgaZmg2i(6/6)調 AA×

231: 2007/11/26(月) 00:16:14 ID:tFSKYrS0(1)調 AAS
修正ごときでいちいち張りなおさないで下さいって言ってるよな
232: 誓うカミナ ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:31:15 ID:b4pYdb3U(1/11)調 AAS
「あー……つまり、お前は自分で考えられるガンメンみないなモンだってワケか」

E−3、高速道路上に一人の男が胡坐をかいて座っている。
男の名はカミナ。獣人たちに対抗する組織“グレン団”のリーダーにしてガンメン“グレン”のパイロットでもある男。
さて、そのカミナが今現在何をしているかというと、これでもかというほどに眉間にしわを寄せている。
一見何をしているのか分かりづらいが彼は頭を使っていた。近年、稀に見るほどに。

『はい。貴方にとってはその認識が一番近いものと推測します、Mrカミナ』

人影が無いにもかかわらず、カミナとは違う声が響く。
その声の主はカミナの正面に落ちている手のひら大の銀色のプレート。
待機モードに入ったデバイス・クロスミラージュであった。

約1時間前、ギリギリのところで“高町なのは”へと偽装したティアナを倒したカミナ。
だが倒したはずの女の姿は変わるわ、しかもその女の制服はやっぱり自分を襲ったのものと同じだわ、極めつけには板が喋るわで、
『俺にはさっぱりわからねえ!』と混乱の極みに陥った。
一方で事情を説明するクロスミラージュもどう説明したものかと迷っていた。
話しかけては見たものの、ここまで驚かれるとは思っていなかった。
最初に出会ったMr明智が非常に理知的な反応を返してくれたので忘れていたが、この世界に召喚された人間の中には文明レベルが低いものもいるのだ。
そんな相手に対して魔法やデバイス、平行世界や時空管理局など専門用語の飛び交うことを理解させるのは、
四則計算を覚え始めた相手に対し微分方程式を教えるより難しいことであろう。
だがしかしクロスミラージュは決意する
主のため、機動六課のため、目の前の男と意思疎通を図ろう、と。
そして――その結果がこれである。
元々カミナのいた世界は人間の文明レベルがあまり高くない。
それに加えカミナ自身が物事を感覚と直感で理解するタイプであったため、
互いの認識の溝を埋めるため、相当な時間と労力を要したのだった。
233: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:32:35 ID:b4pYdb3U(2/11)調 AAS
(しかしまさか、ここまで苦労するとは……)
意外なところで異文化コミュニケーションの難しさを意外なところで思い知ることとなったクロスミラージュ。
だがデバイスの地道な努力のかいあって、何とかある程度の相互理解を得ることに成功したのであった。

『私のマスターであるティアナ・ランスターと共に時空管理局――人を守るための組織に属していたというわけなのです』
「オイオイ、だったら何でいきなり襲ってきやがった」
『先程までマスターは錯乱状態にありました。恐らくはその原因は……仲間の死なのです』

“仲間の死”――その言葉にカミナの表情が変わる。

『私も先程再会したばかりで詳しい事情は聞けていませんが、
 マスターは眼前で妹のように思っていた少女を殺されたようです。
 その際に恐らくは……ショックを受けて、錯乱してしまったのではないかと推測します』

放送でシモンが死んだと聴かされた時の感情が甦る。
あの時、自分は『シモンを殺したのが自分達を襲ってきた女かもしれない』と思ったときどうしようとした?
時間がある程度たった今なら冷静に思い返せる。
――ああ、俺は確かにあの女を殺そうとした。
結局思いとどまったが、首へと手を懸けるところまでいったのだ。
もしもあの時激情に身を任せていたら、自分も俺も“ああ”なっていたかもしれない。
そう考え、未だに倒れている少女へと憐憫を含んだ視線を向ける。

(あん時いきなり襲ってきた女が目の前でシモンを殺してたとしたら、俺もお前みたいになってたのかもな……
 ……ってオイ、それだとおかしくねえか?)

そう、それだと筋が通らない。
だったら何故、“彼女”はこっちを襲ってきたのだ?

「おい、俺は放送より前にもう一人茶色い服を着た女に襲われたんだが、それはどう説明するってんだ?」
『!?』

見るからに動揺する銀の板。
カミナという男は馬鹿ではあるが、決して嘘をつく人間ではない。
それがクロスミラージュが一時間に及ぶ会話で分析したカミナのパーソナリティだ。
つまりもう一人、錯乱したマスター以外にこのゲームに乗ってしまった六課の女性がいる。
いや、良く似た服を着た他人という可能性もまだ捨てきれない。まずは冷静に情報を集めなければ。
そう判断し、クロスミラージュは会話を進める。

『その女性の名前などは聞きましたか?』
「さあな。名前を聞く前にヴィラルって獣人野郎とどっか行っちまったよ。
 外見は――確かこんぐらいの金髪で、耳にこんなわっか付けてやがったな」
『……!』
234: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:33:48 ID:b4pYdb3U(3/11)調 AAS
クロスミラージュはその条件に該当する人間を一人知っている。
この場に唯一召喚されたヴォルケンリッター・湖の騎士シャマル。
勿論、似たような服を着て、似たような格好をしている別人かもしれない。
何か事情があって、背格好の似た人物が服を奪ったのかもしれない。
だが機械としてのクロスミラージュは冷徹に判断を下す。
この戦場でシャマルと似た個体に遭遇する確立はきわめて低い、と。
そして彼女が同様に参加させられた主・八神はやての存命のためにゲームに乗ってしまう可能性を否定し切れなかった。

『……悲しいことですが、このゲームに彼女は乗ってしまったのかもしれません。
 ですが、機動六課のメンバー全体がそうというわけではありません。
 どうか、それだけは信じてください』
「……悪いが俺は自分の目で見たものしか信じねえ。お前がどう言ってもそれだけは譲れねえんだ」

カミナの言っていることも無理はない。
二度も同じ制服の奴に襲われておいて、『人を傷つける組織でない』などとはどう考えても筋の通らない話だ。
いや、それどころかまったく逆の判断をされても無理は無い。
ならばせめてマスターを見逃してもらえるように説得すべきだろう。
そう考えクロスミラージュは電子音声を紡ぎ出そうとする。だが――

「だがな、俺にはお前が嘘をいってるようにも思えねえ」
『!!』

カミナの顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
シモンが信じ、ヨーコが惹かれた男の笑みだ。

「だからとりあえず……ティアナつったか、あの女と暫く行動して、それからお前の言葉がホントかどうか見極める!
 ……それでいいんだろ?」
『……! は、はい!』

――捨てる神あれば拾う神あり
整備課のシャーリーがいつか話していた、高町教官の世界のことわざだ。
Mr明智が最初に出会ったロイ・マスタングや先程までのマスターのようにゲームに乗ってしまった人間も確かにいる。
だがMr明智や目の前のこの青年のようにこんな場所でも“正義”をもって行動する人間も確かにいるのだ。
彼の力を借りればマスターもきっと――

『Mrカミナ。マスターのことを……お願いします』
「おうよ、任せとけ! 後な、その“みすたー”はいらねえ。
 俺はカミナだ! グレン団のリーダーにして」
『了解しました、カミナ!』
235: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:34:52 ID:b4pYdb3U(4/11)調 AAS
***

まだ、まどろみの中にある意識の中で思い出す。

私は“高町なのは”ではなかったのだ。
管理局のエース・オブ・エース。決して負けない、決して道を間違えない強い人。
彼女なら絶対に間違わない――そうやって弱い私はあの人にまで責任を押し付けようとしたのか。
どこまで私は――ティアナ・ランスターという人間は堕ちれば気が済むのか。
どこまで間違いを重ね、道を踏み外すせばいいのだろう。

ああ、そういえばクロスミラージュには酷い事をしてしまった。
さっきは偽者扱いまでしてしまった。そんなはずはないのに、それは私が一番わかっているのに。
まず、クロスミラージュに謝らなきゃ……
そして視線を泳がせた私の元に飛び込んできたのは、

『Mrカミナ、――お願いします』

さっきまで戦っていた男を頼っているクロスミラージュの姿だった。
その光景を見て、ぼんやりとした頭で理解する。
ああ、そうか――私は見捨てられたのだ。あまりにも頼りなく、不甲斐ないせいで。
なんて無様なんだろう。
目の前でキャロを死なせ、6課のみんなを守るために殺すと決めたのにそれもかなわず。
更にはすべての責任を尊敬するなのはさんに押し付け、そして踏みにじった。
こんな人間……デバイスに見捨てられるのも当然だ。
私に最早クロスミラージュを手にする資格はない。
いや、それどころか6課のみんなとも顔を合わせるわけにはいかない。
一刻も早く、ここから消えてしまいたい。

「おうよ、俺に任せとけ!」
『ありがとうございます、カミナ』

会話の内容は途切れ途切れにしか聞こえないが、どこと無くクロスミラージュも嬉しそうではないか。
その姿を見るのが辛くて視線を逸らす。
その先に広がるのはまるで私の今の心みたいに無機質な灰色の壁。
だけど無限に続くかと思われたその壁に一つだけ、青い世界が広がっている場所があった。

***
236: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:43:14 ID:b4pYdb3U(5/11)調 AAS
「よし、そうと決まれば今後の方針ってやつを話し合うか。
 俺はとにかくシモンとヨーコを探したいんだが……特に目標地点があったわけじゃねえからな」
『シモン? ですがその名前は……』
「前にも言ったろ? 俺は自分の目で見たものしか信じねえってな!」
『……わかりました。私達もあなたに従いましょう。
 人を探すのならば11時までに駅に向かったほうがいいでしょう。
 Mr明智ならばきっと協力してくれるはずで――』

だがその時、爆発音がクロスミラージュの言葉をさえぎった。
大気を震わせる爆音にカミナは手元にあった剣を掴み、周囲を警戒する。

『カミナ、爆発に付随すると思われる魔力を検知しました! この壁の向こう側です!
 距離はそれなりにあるのでこちらを狙ったものではないと思いますが……』

クロスミラージュの警告に視線を向けるとそこには高速道路脇を防護するコンクリート壁が広がっている。
継ぎ目無く視界をふさいでいる上に、それなりの高さがあるため少なくともカミナの周辺では爆発地点を視認出来そうも無い。

「おい、マリョク……ってことは“キドウロッカ”となんか関係があるのか?」
『稀にですが生まれつき魔力をもったものもいるので一概にそうとはいえませんが……可能性は有ります』
「よっしゃ! じゃあまずはそこに向か……って……」

だがそこで立ち上がろうとしたカミナがふらつき、膝を突く。
クロスミラージュはそこでようやく思い出した。
この青年は一見ピンピンしている様に見えるが、あれほど大量の魔力弾を喰らったのだ。
どんな頑丈な人間だろうと無傷などと言うことはありえない。

『……カミナ、どこか安全な場所での休息を推奨します。
 そのままでは先にカミナが参ってしまう』
「何、心配すんな。無理を通して道理を蹴っ飛ばすのがこの俺カミナ様! そしてグレン団の心意――」

言葉を途切れさせるカミナ。
その態度を不審に思ったクロスミラージュが視線の先へ視覚素子を追わせると
そこには――幽鬼の様に脚を進めるティアナの姿があった。
その先にあるのは、かつてヴィラルが持っていた爆弾で作り出した巨大な穴。

『マスター!?』

クロスミラージュの目的語も、動詞すら無い呼びかけ。
だがその声にティアナは虚ろな笑みを返し――空中へと身を躍らせた。
カミナが急いで駆け寄るも、既に少女の身体は海中に没しており、水飛沫の残滓だけが見て取れた。

「ちっ、あの馬鹿野郎! お前、しっかり捕まってろ!」

――下が水なら死にはしねえ!
そう判断したカミナはディパックを引っつかみ、クロスミラージュを首にかけると、後を追うように跳躍、海中へ飛び込んだ。
確かに下が水ならば死にはしないだろう。
だがカミナには誤算があった。彼は――海を知らなかったのだ。

「!!??! ぐぁがばっ!? なん、だ、こりゃ! しょっぺえぇぇえええ!」

口に入った海水の塩辛さに驚きの声を上げるカミナ。

『! まさか海を知らないのですか!?』
「うみ゛!? なんだぞりゃ、がはっあ!」

カミナは生まれてからの17年間を穴倉の中で過ごしてきた。
故に知らなかった。海と言う存在を。
口の中に入った海水の塩辛さ、そして行動を制限する波。
カミナは初めて実感する“海”という存在にパニックを起こしかけていた。
237: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:44:30 ID:b4pYdb3U(6/11)調 AAS
クロスミラージュは焦っていた。
溺死するほとんどの原因がパニックに陥ることだ。
ティアナは心配だが二次災害は最悪のパターンだ。
まずはこの男を落ち着かせないと――!

『手足の力を抜いてください! 早く!』

いきなり手足の力を抜け、と言われて早々出来る人間はいない。
案の定、カミナはより一層強く手足を動かし、さらに海水を飲んでしまう。
だがそれでもクロスミラージュは必死に呼びかける。

『人間の身体は構造上水に浮くようになっています! カミナ、私を信じてください!』

必死なその声に何かを感じ取ったのか、意を決したカミナは思い切って身体の力を抜いた。
――人体の構造上、肺に空気が入っている以上は手足こそ沈むものの口と鼻は確実に水面上に出る。
カミナのように上半身に服を着ていないならなおさらだ。
波のせいで時々水をかぶるものの、呼吸を行う邪魔になるほどのものではない。

『そのままゆっくりと手足を動かしてください』

アドバイス通りに手足を動かすと僅かながら水中を体が移動する。
それを数回繰り返すうち、カミナはコツを掴んだのかそのまま泳ぎ始め、何とか運良く高速道路の橋脚に手を懸けることに成功する。
だが周囲を見回すもそこには少女の姿は無かった。
どうやら湾内はいくつもの水路が合流する故か、流れが入り組んでいる上に速く、既に何処かへ流されてしまったらしい。
しかもカミナたちがいたところは肝心のティアナを見失ってしまったのだ。

「くそっ……どこへ流されちまったんだ……すぐに助けにいかねえと」
『いえ、あなたが溺れてしまっては元も子もありません。
 ……とりあえず陸地に上がっての休息を推奨します』
「無茶は承知だ! 今追いつかねえと……」
『その身体で追いついて、二人して溺れるつもりですか!』

初めて聞く、声を荒げるようなクロスミラージュの声にカミナは言葉を引っ込める。

『流れが速いということは何処かに流れ着いている可能性も高いということです。
 ……そう信じて、今は陸地に上がりましょう』

そうだ、本当に辛いのは自分よりもパートナーを見失ったクロスミラージュなのだ。
例えば自分が身動きできなくなって、目の前でシモンやヨーコと別れざるを得なくなった時に、
さっき出会ったばかりの赤の他人を心配できるだろうか? ――いや、出来ないだろう。
変わらずに無機質に光る銀色の板。だがカミナはそれに歯を食いしばって耐える“漢”の魂を感じた。
それにクロスミラージュの言うとおり、こうしている間にも、意識が飛びそうになっている。
いつも通り道理を蹴っ飛ばそうにも――あまりにも力が足りない。

「……すまねえ」

自分の力不足に奥歯を噛み締める。
だがカミナはただ“くやしい”で終わらせない。
壁があるならば気合で突き抜けるのがグレン団、そしてカミナの生き様だ。
238: 2007/11/26(月) 07:46:07 ID:StGxnH4u(1/16)調 AAS

239: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:46:09 ID:b4pYdb3U(7/11)調 AAS
「……もう一度だ」
『え?』
「俺が必ずお前とあの女をもう一度会わせてやる!
 これは――男と男の約束だ!」

カミナの言葉に根拠は無い。
この広い殺戮場で同じ相手に二度再び会える確率は極めて低いといっていい。
だが、クロスミラージュはカミナの瞳に決意の色を見る。
その輝きはかつて、己のマスターが、六課の仲間達が持っていた決意と良く似ていた。
だから信じてみようと思った、この男を。不屈の勇気を持ったこの男を。

『……お願いします、カミナ』
「おう、俺を信じろ!」

そう答えてカミナは陸地に向かって泳ぎだした。
今にも気絶しそうな精神を“約束”の二文字で奮い立たせて。

【E-3/海上/1日目/昼】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(大・気絶一歩手前)
    体力消耗(大)、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
[道具]:支給品一式、ベリーなメロン(3個)@金色のガッシュベル!!(?)、ゲイボルク@Fate/stay night
    クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4)
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。
0:とりあえず陸地へ泳ぐ(どの方向へ向かうかは次の書き手さんにお任せします)
1:ティアナを探す
2:ヨーコと一刻も早く合流したい
3:グレンとラガンは誰が持ってんだ?
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
[備考]
※グレンとラガンも支給品として誰かに支給されているのではないかと思っています。
※ビクトリームをガンメンに似た何かだと認識しています。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
 警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
240: 2007/11/26(月) 07:47:36 ID:StGxnH4u(2/16)調 AAS

241: 疑う剣持  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:47:51 ID:b4pYdb3U(8/11)調 AAS
  *   *   *

(な……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!)

剣持勇は呆然としていた。
本に書いてあった文字を何の気なしに読んだ瞬間、ガッシュの口から電撃が放たれ海面を爆発させたのだ。
柩木スザクとの接触によって、自分とは世界から集められたことを理解していたつもりの剣持だったが、
まさか口から電撃をぶっ放す子供がいるとは流石に想定の範囲外であった。
いきなり突きつけられた非現実に剣持は呆然と未だ泡立つ海面を眺めることしか出来ないでいた。

(ウ、ウヌウ……どういうことなのだ、これは!?)

ガッシュ・ベルは困惑していた。
ガッシュの魔本は世界中でただ一人、パートナーである清麿にしか読めないはずのものだ。
だが事実、剣持は本を読み、ザケルは発動した。
本来ならありえない事態に、ガッシュもまた泡立つ海面を眺めるしか出来ないでいた。

「「………………」」

無言のまま、二人の視線が絡み合う。
見知った隣人が一瞬にして正体不明の宇宙人へと変わってしまったような感覚。
互いに微妙な疑心暗鬼の渦の中、その均衡を互いに崩せないまま早10分が経とうとしていた。

――ええい、このままでは埒が明かん!
状況を打破するべく、まず動いたのは剣持のほうであった。
混乱する頭を無理やり動かし、目の前の少年から事情を聞かねばならない
しかし――少なくとも剣持は――口から電撃を出す子供に対して事情聴取を行ったことはない。
『何故、雷を口から撃てるのか?』、『この赤い本は何なのか?』など聴きたいことは沢山有る。
だがその根底にあるのはたった一つの問題だ。
だからストレートにこう訊くしかないだろう。

「……ガッシュ、お前はいったい何者なんだ?」
242: 2007/11/26(月) 07:49:09 ID:StGxnH4u(3/16)調 AAS

243: 疑う剣持  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:49:11 ID:b4pYdb3U(9/11)調 AAS
  *   *   *

そして数10分後、ガッシュの口から語られた物語に剣持は頭を抱えた。

魔界、術、王様を決める戦い……
枢木スザクとの接触によって異世界については認識していたものの、これはまたえらくファンタジーな話だ。
クルクル君のいた世界がSFなら、ガッシュのいた世界はファンタジー寄りらしい。
そしてガッシュが問題としているのは『世界で一人しかいないパートナーしか読めないはずの本が自分にも読めてしまった』ということらしい。
自慢ではないが剣持は現場からの叩き上げで、座学には強くなく簡単な英語でさえ正直なところ自信が無い。
だがこの本に書かれているものは、明らかに日本語で書かれていないのに読めるのだ。
それを何故読めるかと聞かれても答えようが無い。というかむしろ剣持のほうが理由を聞きたいぐらいだ。

これを解決するには文殊様の知恵が必要な気がしたが、人間の身でその域に到達するには一人ほど人数が足りない。
そんな益体のないことを考えていたからかもしれない。彼らの前に知恵を持った3人目が現れたのは。
――ただしそれは剣持が最も会いたくない人物で、文殊様のイメージからはかけ離れた人物だったが。

「まったく、あなた達は次から次へと問題を起こしてくれますね」

笑みを浮かべながらタラップを一歩一歩優雅に降りる男。
薄暗い船内と違い、今は天高く輝く太陽が彼を照らしているが、彼の持つ闇色の雰囲気は薄まる気がしない。
それは彼を犯罪者という色眼鏡で見ているせいかも知れない。
だが目の前の男――高遠遙一は今までにそれだけのことをやってのけているのだ。
自分には金田一や明智のような頭脳はない。
だからせめて騙されないように、一切友好的な雰囲気は出さずに剣持は口を開いた。

「……貴様、何しに出てきた?」

無駄とは知りつつも凄みを利かせる剣持。
日々凶悪犯罪者達を震え上がらせるそれも、高遠にとってはそよ風同然らしい。
眉一つ動かさずに剣持たちへと近づいてくる。

「“何しに出てきた?”とは奇妙なことを仰いますね。決まっているでしょう?
 謎の爆発が起こってから約30分……危険かどうか分かりかねて様子を見ていましたが、
 二人とも微動だにしないのでこうして痺れを切らせてやってきた……という次第ですよ」

“痺れを切らせた”と言う割りに落ち着いた仕草で二人の顔、
そして数十分前まで泡立っていた海面を見回した後、高遠はゆっくりと口を開く。

「さて……先程何があったのか聞かせていただきましょうか?
 ここで起こったことです……私にも知る権利があると思いますけどね」
244: 疑う剣持  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:51:00 ID:b4pYdb3U(10/11)調 AAS
*    *    *

「……なるほど。本はパートナーである清麿君以外に読めない”はず。
 しかし何故か剣持警部がそれを読めてしまった、と」

そう言って高遠は笑みを崩さぬまま頷いた。
当初、高遠に情報を渡すことを剣持は渋っていたが、
事態の打開を最優先としたガッシュの説得により結局は押し切られる形となった。
そして先程彼らの身に起こった出来事、ガッシュの出自などについて高遠は的確な質疑を行い、
僅か5分足らずで剣持の20分間と同等の成果を得ることに成功していた。
そしてガッシュが最後に問うたのは彼が最初に抱いた疑問そのものだった。

「とりあえずこの場合、二つほど可能性が考えられますね」

疑問に対し、瞬時に回答の存在を示した高遠とそれに驚きの表情を見せるガッシュ。
だが高遠とも長い付き合いである剣持はそれぐらいは想定の範囲内だったのか憮然とした表情を崩さない。

「そ、それはどんな可能性なのだ高遠!」

焦る気持ちを隠そうともせず、先を急かせるガッシュ。
それに対して高遠はあくまで笑みを崩さないままで、

「ええ、まず一つ目の可能性は……パートナーである高嶺清麿君がすでに死亡している可能性です」

冷酷な一言を平然と口にした。

“死”という単語にガッシュの表情が固まる。
それはガッシュも心のどこかで考えていたことだったからかもしれない。
この世界に来る前にも様々な戦いを潜り抜けてきたガッシュたちであったが、
だが幸運なことに“パートナーが死亡する”という事態に出くわしていない。
それ故に“パートナーが死亡した際のパートナーの変更”というルールも十分ありえることなのだ。

「最後の生き残りを決めるというルール上パートナーは消耗品。
 代替の利くものでなくてはならないでしょう。
 そう考えればそんな機構がついていたとしても不思議ではありません」

しかし高遠はそんなガッシュの心などお構い無しに話を続ける。
相手のことを考えない割り切った、冷酷とも言える視点で。
その様子を見て剣持はどうしようもないほどの怒りを覚える。

「高遠、貴様……!」

怒りを込めた剣持の視線。それに込められた怒気は先ほどの比ではない。
気の弱い人間であれば気絶してしまうほどの憤怒がその視線には込められている。
だが高遠はそれを涼しい顔で受け流し、話を続ける。

「ですがこの可能性は低いでしょうね」

先ほどまでの持論をあっさりと取り下げる高遠。
その言葉に歯を食いしばり下を向いていたガッシュの顔が上を向く。

「考えても見てください。これが本来のルールだった場合、
 ガッシュ君とは明らかに違う世界の剣持警部がパートナーに選ばれるのはおかしい。
 まさかここから脱出した後、ガッシュ君たちの世界に剣持警部が行くわけにもいかないでしょう。
 ですからこの場合はもう一つの可能性――螺旋王とやらの小細工の可能性のほうが高いと思われます。
 まずはこの名簿を見ていただけますか?
 気付かれているかもしれませんが名簿の中にはフルネームがかかれた者とそうでないものがあるんですよ」
245: 疑う剣持  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:52:07 ID:b4pYdb3U(11/11)調 AAS
高遠の指差す先にあるのはその“ファミリーネームが無い名前”の数々であった。
“ヴィラル”から始まり“ランサー”まで、既に高遠が出会ったキールを除く24名。

「恐らくこの内の少なくとも一体はガッシュ君と同じ魔物でしょう
 ガッシュ君の話の通りならば、もしパートナーが死亡した場合、魔界の子供達は呪文を使えず一気に弱者へと成り下がる……
 それは恐らく螺旋王の本意ではない……
 だから本のルールを捻じ曲げ、誰でもパートナーになれるようにした……というところでしょうか。
 ガッシュ君、その本を貸していただけますか?」

マジシャンである高遠は予想も付かない手段でこちらを欺く。
故に剣持は高遠に物を渡すことに危機感を覚えたが、止める暇も無くガッシュから本が手渡される。
――よっぽど結論を聞きたいのであろう。
そんなガッシュの心情を考えるとそれを止めるわけにも行かず、
高遠が本を受け取り、次々とページに目を通して行くのを注意深く見ているしかなかった。

「……お前も読めるのか?」
「いえ、残念ながら。どうやら本を読むには何らかの条件があるようですね。
 そして剣持警部はそのお眼鏡にかなった、ということのようです。
 今のところ、推理できるのはその程度でしょうか」

推理はこれで終わり、とでも言いたげに本を閉じ、ガッシュに返す。
ガッシュはそんな高遠を子供特有のきらきらとしたまなざしで見上げる。

「オオ……すごいぞ高遠! オヌシ、清麿と同じぐらい頭がいいのだな!」
「おや、それは光栄ですね」

笑顔になり高遠を褒めるガッシュと先ほどまでと変わらぬ笑みでそれに答える高遠。
だがその一方で剣持は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
それは推理するその様子が皮肉にも自分の味方であり、彼の敵であるはずの“名探偵”そのものだったからだ。
いつもとキャストが逆転してしまったかのような関係に苛立ちが強まる。
その場所には頼りになるあの少年か、それか口を開けば嫌味が出るあの男にいて欲しい場所なのだから。
そんな剣持の心理を知ってか知らずか、高遠は何処か芝居がかった仕草で視線を海面にずらすと大きくため息をついた。

「しかし――これは少々まずいことになりましたね」

高遠の呟きにガッシュは首をかしげる。

「ウヌウ? 一体何がまずいのだ?」
「考えてもみてください。私は今までここを訪れた数名に“船を反主催の拠点とする”と言っているのですよ?
 その近くで爆発が起これば……どう考えます?」
「「あ……」」

高遠がアレンビーたちに託した情報を踏まえたうえで、豪華客船付近での爆発を見たものが考えることは2つ。
『船がゲームに乗ったものの襲撃を受けた』、もしくは『船に呼ばれたこと自体が罠だった』の二種類だ。

「襲撃と思われるならともかく、罠と思われるのは私としても不本意ですからね。
 今からこの船を確実に目視できる範囲――そうですね、E-3ブロックを一回りしてみようかと思います」

さも当然のように船から出て行くことを宣言した高遠の前に剣持は立ち塞がる。

「ちょっと待て! お前みたいな凶悪犯罪者をむざむざ一人にすると思ってるのか!」
「では同行しますか? ええ、剣持警部ほどの腕があればこちらとしても歓迎ですよ。
 剣持警部が遭遇したような、殺人遊戯に乗った輩が襲って来る可能性がありますからね」
246: 2007/11/26(月) 07:52:20 ID:StGxnH4u(4/16)調 AAS

247: 2007/11/26(月) 07:54:39 ID:StGxnH4u(5/16)調 AAS

248: 2007/11/26(月) 07:55:27 ID:StGxnH4u(6/16)調 AAS

249: 2007/11/26(月) 07:57:12 ID:StGxnH4u(7/16)調 AAS

250: 2007/11/26(月) 08:00:01 ID:StGxnH4u(8/16)調 AAS

251: 代理投下 2007/11/26(月) 08:02:38 ID:StGxnH4u(9/16)調 AAS
あっさり同行を申し出る高遠。その態度に剣持は逆に戸惑ってしまう。
剣持は知っている。この高遠という男が人の心に付け込み、2重、3重に巧妙な罠を仕掛ける男だと。
だが巧妙な罠というのは罠だと分かっていてもかからざるを得ないものらしい。
そう、剣持に最初から選択肢などない。
この男から目を離すことが出来ない以上、この探索にも付いていかざるを得ないのだ。
剣持もそれを分かっているからこそ、せめて高遠の一挙手一投足を見逃さないように凝視する。

「……分かってるだろうが何か怪しい真似をしたら即効で取り押さえるからな」
「ええ、お好きにどうぞ。ではまずは西側から回ってみますか」

   *   *   *

そして1時間後、剣持たちは埠頭へと戻ってきていた。
結局彼らは誰とも会わなかった。いや、それどころか何も起こらなかった。
元々E-3ブロックは豪華客船が停泊するための湾岸部が大半を占めており、
あまり建物が存在しない開けた場所が多かったことも手伝い、大した手間もなく捜索は終了したのだった。
そして問題であった高遠の行動にも二人が見る限りでは不審な所はなく、
一挙手一投足に気を配っていた剣持とガッシュに疲労が溜まるだけという結果に終わってしまった。
そんな二人に対し高遠は、
『どうやら幸いなことに人はいなかったようですね。
 これで私も安心して船内で人を待てるというものだ』
とだけ言い残し、客船へと戻っていった。

そして今現在、高遠の姿が完全に船内に消えてから数分後――
剣持はガッシュに支給されたアンパンを分けてもらい、並んで食べていた。

「……ずっとここで見張り続けるのか、勇?」

アンパンを食べ終え、何ともなしに豪華客船のほうを眺めていたガッシュが口を開く。
剣持はその言葉の裏にあるガッシュが清麿を心配する感情を見て取った。
自分だってできるならば一緒に清麿という少年を探してやりたいと思う。
だがしかし――

「ああ……俺は高遠を見張り続ける」

これだけは譲れないのだ。
252: 代理投下 2007/11/26(月) 08:03:46 ID:StGxnH4u(10/16)調 AAS
地獄の傀儡師、高遠遙一。
あの男の恐ろしさは複雑なトリックを考え付く頭脳だけではない。
長年刑事を務めてきた剣持は知っている。
平穏な暮らしをしていたものが殺人を犯すのはかなりの覚悟がいるものだということを。
だがあの男は唆すだけで、他人にいとも簡単にその一線を越えさせる。
人を操り破滅へと誘う――まさに地獄の傀儡師という二つ名が相応しい男であるのだ。
あの男の仕掛けた罠など自分に見破れるはずもない。それは皮肉にもさっきの出来事でそれを痛感してしまった。

しかし――それは決して無駄ではないはずだ。
少なくとも自分がここにいることで高遠は行動を制限されるはずだし、
もし噂を聞いて誰かがここにやってきた場合同行を申し出て、
高遠の奴が妙なことを吹き込まないかを監視するぐらいはできるはずだ。
だからあの男がここを動かない限り、自分もここを動くことはないだろう。

だがそれにガッシュが付き合う必要は無い。
本来のパートナーである清麿を一刻も早く探したいだろうし、
誰か信頼できそうな人物がこの船に来たならばその人に同行を頼むのが最善だろう。
そう考え、ガッシュにその旨を伝える。だが、

「いや、私も勇に付き合おう。イザという時にこそ、私のザケルはきっと役に立つはずだ!」

返ってきた答えは、剣持と一緒にいるという意思表示であった。

「ガッシュ、無理することはないぞ。おまえは清麿君を探さにゃあいかんのだろう?
 こう見えても俺は強いんだ。さっきの電撃がなくても何とかなるさ」
「大丈夫だ! 清麿は強い! だからきっと死なぬ! 私は……そう信じておる!
 それよりも今は高遠のことが気になるのだ!
 もしも……もしも高遠が剣持の心配するとおりの人物であるならば、私としてもほうっておくわけには行かぬ!」

それはどこか自分に言い聞かせるような口調でもあった。
先程の高遠の不愉快な発言で、清麿という少年と離れている不安も一層増したはずなのに、
それを押し込め、自分の“高遠が怪しい”という言葉に賛同し、従っている。
自分のことよりも人のために動ける優しさ――それは何物にも変えがたい心だと剣持は思う。
だから確信する。この子はきっと優しい王様になれるはずだと。

(まったく……子供に気を使われてちゃ世話ないな)

目の前の少年を元の世界に返し、その王様にするためにも、このふざけたゲームを止めなければ。
その為にも今は刑事として、何より一人の人間として己の職務を全うしよう。

「じゃあ、よろしく頼むぞガッシュ!」
「ウム! 私に任せておくのだ!」
253: 代理投下 2007/11/26(月) 08:04:37 ID:StGxnH4u(11/16)調 AAS
【E-3/埠頭/1日目/昼】
【剣持勇@金田一少年の事件簿】
[状態]:打撲(背中・強)、精神疲労(中)
[装備]:ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、
    スパイクの煙草(マルボロの赤)(18/20)@カウボーイビバップ
[道具]:ドミノのバック×2@カウボーイビバップ
[思考]
基本:殺し合いを止める
1:豪華客船付近に留まり、高遠が行動を起こさないか見張る。
2:高遠の言葉に乗って集まってきた人物の対処をどうするか考える。
3:殺し合いに乗っている者を無力化・確保する。
4:殺し合いに乗っていない弱者を保護する。
5:情報を収集する。
[備考]
※高遠遙一の存在を知っているどこかから参戦しています。
※スザクの知り合い、その関係について知りました。(一応真実だとして受け止めています)
※ヴィラルがどうなったのかを知りません。
※ガッシュ、アレンビー、キールと情報交換済み
※高遠を信用すべきか疑うべきか、計りかねています。
※ガッシュの持っていた名簿から、金田一、明智、高遠が参加していることを把握しました。

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、精神疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料:アンパン×8、ミネラルウォーター)
    ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、ビシャスの日本刀@カウボーイビバップ、水上オートバイ
[思考]
基本:螺旋王を見つけ出してバオウ・ザケルガ!!
1:剣持と行動。剣持を守る。
2:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
3:ジンとドモンと金田一と明智を捜す。
[備考]
※高遠を信用すべきか疑うべきか、計りかねています。
※剣持、アレンビー、キールと情報交換済み
※聞き逃した第一放送の内容を剣持から聞きました。
254: []] 2007/11/26(月) 08:05:53 ID:StGxnH4u(12/16)調 AAS
甲板には物がない。
それはある意味当然だ。客船である以上、甲板の役割として大海原を望める展望台としての役割が上げられる。
展望台の主役はあくまでそこから見える“景色”であり、物があればあるほどその景観を損ねてしまう。
ゆえにその甲板には足を休めるためのベンチ以外何もなかった。
だが余程いい設計者に恵まれたのだろう。
甲板はベンチや手すりの形状・位置などが絶妙に計算され、
景色の邪魔にならぬように、かつ殺風景にならぬように一種の調和を紡ぎ出している。
だが今やその甲板の隅に調和を崩すものが鎮座していた。

白い塊。
一言で言い表すならその表現が一番近いだろう。
だが目を凝らせば白い中にうっすらと茶色い影が見える。
そして無人だった甲板に対照的なまでに黒い男――剣持たちと別れたばかりの高遠がやってくる。
高遠は無言のままそれに近づくと、中身を決して傷つけぬように、
支給品のスペツナズナイフで丁寧にそれを切り裂いていく。
そしてそこから出てきたものを見て高岡は唇の端を吊り上げ、笑みを形作る。
白い塊――水に濡れたシーツの中から出てきたのは一人の少女。
今から約1時間前、高速道路から身を投げたはずのティアナ・ランスターであった。

  *    *    *
255: 嗤う高遠  ◇DNdG5hiFT6 代理投下 2007/11/26(月) 08:07:52 ID:StGxnH4u(13/16)調 AAS
時をしばし遡る。

埠頭で爆発が起こった瞬間、高遠は数秒迷った挙句、どちらでもない選択肢を選んだ。
その選択肢とは二人に姿を見せずに様子を探るという、消極的なものだった。
そして扉の陰から様子を窺った彼が見たのは、激しく泡立つ海面とそれを唖然とした顔で見つめる二人の姿だった。

(あれは――海面に爆発物を放り込んだのか? 
 いや、彼らがあそこで爆発させる必要はない上に、それだと彼らの驚き様は不自然だ)

推理を行うにしても情報が少なすぎる。
更なる情報を得るため、彼らに再度接触を図るべきか?
それとも不用意な接触を避け、再び船内に戻るべきか?
どちらのほうがメリットが大きいか思案しつつ、何の気なしにガッシュたちから視線を外し、海のほうへと向ける。
視線をはずした高遠は驚くべき光景を目にすることになる。
それは高速道路から“誰か”が海へと落下する光景――それも続けざまに二人も――であった。
高遠は剣持たちに気付かれないように甲板へ移動し、その後の推移を見守ることにした。
すると2人のうち1人が湾内の海流に乗って結構なスピードでこちらに流されてくるではないか。
このスピードだと30分以内にはこの豪華客船と接触するだろう。

と、そこまで考えた高遠の脳裏にある考えがよぎった。

(――もしもあの人間が生きていれば、船外の貴重な情報源に成り得るのではないだろうか?)

ガッシュと剣持が向いているのは船の舳先の方――方角で言えば西側だし、
そもそも高速道路と少女は船体が陰になって多少行動を起こしても気付かれることはあるまい。
しかし高遠の腕力では例え女子供とはいえ、引き上げることは到底不可能だ。
だが悪魔の頭脳は瞬時に回転し、一つの計画を立てる。
そして高遠はその計画に従って行動をし始めた。
表の剣持たちに気付かれないように細心の注意を払いながら。
256: 嗤う高遠  ◇DNdG5hiFT6 代理投下 2007/11/26(月) 08:10:57 ID:StGxnH4u(14/16)調 AAS
高遠がまず用意したのは数本の救命用ロープと空のポリタンク(20リットル×4)、白いシート、ガムテープ、4本の長いゴムホース
といった客船の備品と支給品のミネラルウォーター4本。
事前に船内を回って物の位置を把握していた高遠はそれらを短時間で集め、行動を開始した。

まずは救命用ロープを結び合わせて長いロープを4本仕立て上げる。
そしてそれらをシーツの四隅に結びつけ、シーツの中央に“水を抜くため”の穴を開けておく。
(なお、その際ガムテープを使用し、穴自体が必要以上広がらないようにする)
ロープのシーツを結んだ方とは反対側に、それぞれポリタンクをくくりつけ、完成したそれを甲板の手すりへと引っ掛けておく。
そして紐付きのシーツを海面にたらし、ティアナの体の下にもぐりこませる
(この際海風が邪魔をすることが想定できたのでシーツとロープを繋いだところに、
 支給されたミネラルウォーターを重り代わりにつけておいた)
その作業が終了した後に、4つのポリタンクの口にそれぞれゴムホースを括り付け、剣持たちに会う前に蛇口を捻る。
そして何食わぬ顔して剣持たちの下へ向かったのである。

彼らが会話している間にも流しっぱなしにした水はポリタンク内に溜まり、重量を増していく。
そしてポリタンク内の水の重量が、ティアナの体重とペットボトル4つ分の重みを上回った瞬間、
自動的にロープのポリタンク側は落下していき、
逆に滑車の原理によってティアナの身体はシーツに包まれた状態で吊り上げられていくのだ。
その際、結び目でロープの長さを調整しておけば、ポリタンクが着水した時点で上昇は終わり、
ティアナの身体は頂上付近で停止する、というわけである。

――詰まる所高遠は、穴を開けたシーツを網代わりに、水の重さと滑車を利用してティアナの身体を引き上げたのだ。
257: 嗤う高遠  ◇DNdG5hiFT6 代理投下 2007/11/26(月) 08:11:38 ID:StGxnH4u(15/16)調 AAS
ただし、これらは急ごしらえのトリックなのでいくつもの穴がある。
まず一つ目の穴は豪華客船に吹き付ける海風の存在である。
シーツを海上に下ろす際はマジシャンである自分の技量を用いれば音を立てずに操るのは難しいことではなかったが、
自動的に引き上げる際はそうはいかない。
海風によって水の少ないポリタンクが船体にぶつかれば奇妙な音を周囲に撒き散らすことになる。
そんな音がすれば不審に思った剣持警部はこの船に乗り込んでくるだろう。
したがって高遠は剣持とガッシュをトリックが完了するまで何処か別のところへ引き離す必要があったのである。
そのため高遠はマジシャンの基本にして奥義――ミスディレクションを行った。
ミスディレクションとは例えば右手でマジックを行う間、左手に観客の注意をひきつけておく技術である。
今回の場合、マジックを行う右手は船、注意をひきつける左手は高遠遙一本人だ。
剣持が注視していたのはあくまで“高遠遙一”自身が行う行動であり、
彼が既にトリックを仕組み終えていたなどとは夢にも思っていないだろう。
また、彼は高遠を監視せざるを得ず、先導していけば剣持たちも船を離れざるを得ない。
またこれには第2の穴である『自分の不在中に船を誰かが訪れる』ことを阻止することもできる一石二鳥の作戦であった。
そして最も大きな第3の穴――トリックの途中で彼女が目を覚ました場合である。
吊り上げる途中でティアナが目を覚まし、暴れることによって海面に落ちる。
恐らくその場合は誰にも知られること無く、溺死体が一つ出来上がるだけである。
また、最悪なのが甲板上に上がった状態で目を覚まされた場合だ。
しかも帰ってきたときに剣持たちと鉢合わせしてしまえば言い逃れの出来ない状況になってしまう。
だから彼はポリタンクに流れる水量と周囲を調査する時間を調整し、トリックが完了する時間とほぼ同時に船に帰還したのだ。

甲板に横たわる少女に息があることを確認し、しばし高遠は対処の方法を考える。
まずは何にせよ情報を引き出さねばなるまい。
少女が会場を回り、何を見、何を知ったか――主観が混じることは避けられないものの、
豪華客船にこもりっきりの自分にとってそれは貴重な情報源となる。
そしてその会話の中で彼女が人を殺める“動機”を覗かせれば、その時こそ“地獄の傀儡師”の出番だ。
心を揺さぶり、唆し、自らの芸術的な犯罪計画の手駒として役に立ってもらうこととしよう。

その来るべき時を想像して、高遠遙一は嗤う。
ひたすら邪悪に、ひたすら楽しそうに。
その嗤いを見たものがいたならば、きっと十人が十人とも同じ感想を述べただろう。
悪魔の笑みとはこういうもののことを言うのだろう、と。
258: 嗤う高遠  ◇DNdG5hiFT6 代理投下 2007/11/26(月) 08:12:33 ID:StGxnH4u(16/16)調 AAS
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:全身打撲、肋骨にひび、体力消耗(大)、精神力消耗(大) 
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本思考:???
1:???
[備考]
※キャロ殺害の真犯人はジェットで帽子の少年(チェス)はグル、と思い込んでいます。
 これはキャロのバラバラ遺体を見たショックにより齎された突発的な発想であり、
 この結果に結びつけることで、辛うじて自己を保っています。
 この事実が否定されたとき、さらなる精神崩壊を引き起こす恐れがあります。
※銃器に対するトラウマはまだ若干残っています、無理に銃を撃とうとすると眩暈・吐き気・偏頭痛が襲います。

【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ@現実x6
[道具]:デイバッグ、支給品一式、バルカン300@金色のガッシュベル!!、豪華客船のメインキーと船に関する資料
[思考]
基本行動方針:心の弱いものを殺人者に仕立て上げる。
0:善良な高遠遙一を装う。
1:少女(ティアナ)から情報を引き出し、場合によっては“操り人形”として仕立て上げる。
2:しばらくは客船に近寄ってくる人間に"希望の船"の情報を流し、船へ誘う。状況によって事件を起こす。
3:殺人教唆。自らの手による殺人は足がつかない事を前提。
4:剣持と明智は優先的に死んでもらう。
5:ただし4に拘泥する気はなく、もっと面白そうなことを思いついたらそちらを優先
[備考]
※ガッシュから魔本、および魔物たちの戦いに関する知識を得ました
259
(1): 2007/11/27(火) 00:35:24 ID:RcGN8y6l(1)調 AA×
>>1

260
(1): 2007/11/27(火) 00:47:28 ID:J9QyvLN8(1)調 AAS
前から思うんだけどさ
そのテンプレって向こう側の作ったルールなんじゃないのそれ
1から作った方が修正する手間も省けるんじゃねぇのって思った
261: 2007/11/27(火) 01:04:50 ID:Fo1BfskT(1)調 AAS
まあ、あくまでもたたき台だからね

なんで否定されたのかの理由にもなるし
262: 2007/11/27(火) 01:12:22 ID:ts4syFMP(1)調 AAS
>>260に同意
最初から作り直した方が早いと思う
263: 2007/11/27(火) 01:23:56 ID:v4U5vb/7(1)調 AAS
まあのんびりとやっていけばよい
264: 2007/11/27(火) 03:00:18 ID:uq7AtmSq(1)調 AAS

265: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:51:50 ID:elFWsWd7(1/14)調 AAS
「ねーこーの 毛皮着るー 貴婦人のつくるスープー♪ いーぬーの 毛皮着るー 貴婦人のつくるスープー♪」

青い空の下に青い海が横たわる海岸線を風浦可符香が行く。
手に金色の剣を持ち、朗々と唄いながらくるくるとステップを踏んで。
傍から見れば、その姿はまるで晴天を祝福する天使のよう。
口ずさむ歌詞の禍々しささえ聞かなかったことにすれば、そこにはただただ爽やかな雰囲気だけが残る。
ここだけを切り取って見れば、誰もここが残虐な戦場だとは気づくまい。

「……なあ、風浦、その歌やめないか。何か不安定になる」

コンクリートで固められ、脇には巨大な高級マンションが立ち並ぶ海沿いの道を金田一一が行く。
手には小型の大砲をぶら下げ、げんなりと肩を落として。
傍から見れば、その姿は疲れ果てて家路につくサラリーマンのよう。
彼の若々しい肉体さえ見なかったことにすれば、そこには擦り切れた中年のような雰囲気しか残らない。
ここだけ切り取って見れば、誰も彼が幾多の難事件を解決した名探偵だとは気づくまい。



「えーいいじゃないですか。だってこんなにいいお天気なんですよ!歌の一つも思わず出ちゃいます!
 中身 聞いたその人 具になった〜♪」
「だからって何で出る歌がそんな不気味なのなんだよ!せめてもっと明るいのにしろ!明るいのに!
 だいたいそんな大声で歌って、誰かに聞きつけられでもしたら……」
「え?いいじゃないですか。人が集まってくれた方が『準備』も早く済みますし!」
「あ……え〜と、それはそうなんだけど……その……
 ほ、ほら!もし、ポロロッカ星へ入国したい奴にいきなり襲われでもしたら……」
「大丈夫です!もし、そういう人が現れても、話せば分かってくれます。人間、目を見て話せば分かり合えないことなんてないんです!
 だから金田一君も一緒に歌いましょ!
 おーばーさんのいなくなった〜住宅街〜♪ スコーップが売れーたよー金物屋さん♪」

風浦は俺の抗議を軽く受け流すと、また今までと同じように、唄い、踊り始めた。
思わず溜め息が出る。

(クソッ……こんなことで俺は本当に風浦の殺人を止められるのか?)

先ほどから何度も心に浮かんでいる問いがまた、心に浮かぶ。
俺がわざわざ妄想に付き合ってまで同行しているのは、風浦に殺人を犯させないためだ。
もし、風浦が嘘をついていないとするならば、こいつは既に人間を一人殺している。
しかも、襲われたから仕方なく、というやむを得ない事情からではなく、ポロロッカ星が云々という自分勝手な妄想を理由にだ。
そんなことが許されていい筈がないし、そうやった殺された人は絶対に浮かばれない。

(だが……)

正直な話、俺はこいつと合流して以来、一方的に振り回されてばかりだ。
さっきのやりとりだけに限ったことじゃない。
俺の意見を風浦は独自の論理でいちいち受け流し、ほとんど言うことを聞いてくれない。
思わず怒鳴りつけてやりたくなることもあるけど、風浦に合わせることを決めた以上、あまり強く出るわけにはいかない。
だから結局、ほとんどの場面で俺があいつに同意せざるを得ない。
そんな状況で、もし、風浦が人を殺すと言いはじめたら、俺は果たしてうまく説得できるのか?
唄ひとつ歌うのもやめさせられないのに?

(もしかしたら、こいつを使わなきゃいけないかもしれないな……)

俺はわずかに顔を俯かせ、右手の大砲を、確かめるように握りこむ。
もし、説得がうまくいかなかった最悪の場合、暴力を使うことも考えておかなきゃならない。
もちろん、風浦を殺す気はないけど、だからといって、殺人をただ見ていることなんて俺にはできない。
こんな武器、使ったこともないし、素手での戦いもからっきしだけど……覚悟だけはしておかなけりゃな。
266: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:53:33 ID:elFWsWd7(2/14)調 AAS
そうやって決意を固め、顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは……
風浦の顔のアップだった。

「うわっ!!!」

思わず飛び退る俺。だって、顔上げたらいきなり目の前にいるんだぜ!?
それも唇と唇が軽く触れそうな……って何考えてんだ俺は!?

「な、な、な、なんだよ風浦。いきなり!?」

邪な思考を誤魔化すように、訊く。
だが、次に彼女の口から出た言葉はどうにも予想外のものだった。

「だって、金田一君、何かとっても思いつめた顔してたから」
「……え?」

焦る俺に投げかけられたのは、優しい言葉。
てっきりまた頭のおかしい妄言を聞かされると思っていたのに。
不意を衝かれた俺は、思わず固まってしまう。

「そうですよね。記憶を奪われて、いきなりこんなところに連れてこられて……不安ですよね」

風浦は俺の目を何かを探すかのように覗きこむと、穏やかに言う。
それは紛れもない、慰めの言葉。
コイツは、元気がなさそうにしている俺を見て、心配してくれているのだった。

「主人のミリアさんは試練に巻き込まれるし、螺旋王を説得できるかどうかも分からないし
 元の世界のお友達とは離れ離れだし……心配ですよね」

今までの底抜けに明るいだけの口調じゃない。子供をあやす母親のような暖かい口調。
俺は、イライラの原因がそもそも風浦にあることも忘れ、ただその心地よいリズムに身を任す。

「でも、大丈夫!」

彼女は今まで唄うときにしていたように、ひらりと綺麗に一回転をきめる。
制服のレースが日の光を反射してキラキラと輝いた。
風浦はその細く美しい両腕を真っ直ぐ伸ばすと――

「私がついてます!きっと何とかなりますよ!」

――俺の手を取り、ニッコリ微笑んだ。
その笑顔は、燦々と輝く太陽に照らされて、まるで天使のように見えた。
彼女の笑顔を見ていると、もう何も心配はいらない、きっと何とかなるさ、そんな気持ちが無根拠に湧いてきて――
267: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:54:06 ID:elFWsWd7(3/14)調 AAS
「バ、バカッ!何、恥ずかしいこと言ってんだよ!」

俺は何故か“危機感”を覚え、目を逸らし、手をほどいて、少しだけ距離をとった。

(……イカン、イカンぞ。俺としたことが、思わず一瞬『ドキッ』としちまった。
 思い出せ、金田一一。
 コイツ、確かに顔はかわいいが、中身はアレだぞ、ポロロッカだぞ。電波の人だぞ。
 しかも、コイツは人を一人殺したかもしれない殺人容疑者なんだぞ。仮にも探偵と呼ばれてるこの俺がそんな……
 ……ああ、でもさっきのは正直グッときたというか何というか……ってだからダメだって俺!!)

どうもマズいことに、動揺は一瞬では収まってくれないようだ。
気の遣りどころに困った俺はそのとき、無意識にもう一度、風浦の顔に目を遣った。
あの『ドキッ』が気のせいであることを確かめるために。
だが……

ガガガガッ

ドサッ

確かめるべき笑顔は、突然の銃声によりかき消された。
反射的に音源の方を見る。
前方にあるマンションの影で、バイザーをした長身の男が嗤っていた。
杖のような銃の口が、こっちへ向けられる。
268: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:54:50 ID:elFWsWd7(4/14)調 AAS


「ハアッ……ハアッ……ハアッ……ううっ!」

コンクリートで固められた非常階段で俺はうめき声をあげた。
右肩を見る。服が破れ、わずかに削れた肉と骨が露出している。
傷から流れ出した血は既に俺のシャツの四分の一を染めていた。

あのとき、銃を向けられた俺はとっさの判断で、手近にあった高級マンションの一つに飛び込んだ。
というか、俺たちが歩いていた道は、景観のためか、障害物が少なく、他に射線を遮れそうなところがなかったんだ。
海に飛び込むことも考えたが、運動音痴の俺がそれをするのは自殺行為でしかない。
まあ、結果的に、ここしか逃げる場所がなかったんだけど
だからといって、ここに逃げたことが状況を悪くするかといえば、実はそうでもない。
エントランスに入ってしまえばとりあえず射線は切れるし、建物の中で逃げ回れば、簡単に銃撃を受けることもない。
あとは逃走経路が問題になるくらいだけど、運のいいことに、俺の入ったマンションは団地型の巨大なモノ。
四つの棟が渡り廊下でお互い連結されている造りになっている。
つまり、俺はこの四つの棟を場所を悟られないように逃げ回り、適当なところでどこかの棟で下に降りればいい。
それで問題なく逃げ切れるだろう……そう思っていた。

「金田一くぅ〜ん、そこにいるんだろぉ?隠れても無駄だよ?僕、かくれんぼは得意なんだから」

いやらしく、ねちっこいあの声が聞こえてくる。
音の響き方から考えて多分、二、三階下のフロアから。

「クソッ!何で!?」
「言っただろぉ?僕はかくれんぼが得意なんだ。
 ねぇ?そろそろ、男らしく出てきて戦ったらど〜ぉ?君も武器はいいのを持ってるんだろう?」

コツコツ。靴音が響く。真っ直ぐこっちに向かっている。
俺は急いで立ち上がり、隣の棟へ向かう渡り廊下を駆け抜ける。もちろん、銃撃を受けないよう身を低くして。

「あれぇ?また逃げるんだ。そろそろ分かってもいんじゃないかなぁ、無駄だってこと」

階下から俺をあざ笑う声が聞こえる。
俺はわざと聞かないフリをして、廊下を走りぬけ、階段を上がり、下がり、また廊下を駆ける。
……もう何度目だろう?
269: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:55:26 ID:elFWsWd7(5/14)調 AAS
そう。実際のところ、俺はこの声から、風浦を撃ったバイザーの男から逃げられずにいた。
男は、どうやっているのか分からないが、俺の位置を把握し、下に降りようとしたところを正確に狙ってくる。
適当にフェイントをかけながら走り回ってやれば、簡単に敵を撹乱できると考えていた俺にとって、これは想定外の事態だった。
奴は俺を見つけてもすぐに撃ち殺そうとはせず、さっきのように言葉をかけて逃がし続けている。
おそらくは俺の疲労を待つつもりだろう。
じっくりと、いたぶってから殺す……最悪に趣味の悪いやり方だ。

「クソッ……こんなところで時間を食っている暇はないのに……風浦」

俺は風浦が撃たれるところは確かに見たが、死亡まで確認したわけじゃない。
そう、銃で撃たれたからって、死んだとは限らない。当たり所が悪くなければ助かる可能性は十分にある。
……確かに、風浦は妄想にとりつかれた、人殺しかもしれない人間だ。
だが、だからって!だからってこんな形で死んでいい筈がない!
だから助ける。助けにいかなきゃいけない。病院に運んで、応急措置をして、それから……

「くくく……君、もしかして、まだ風浦可符香を助けようとか考えてるわけじゃないよねぇ?」
「!?」

まただ。早すぎる!
もう追いつかれたっていうのかよ!?

「甘い!まったく甘すぎるよ君は。他人のことより自分の心配をしなよ」
「……クッ、お前どうやって?」
「さぁ?どうしてだろうねぇ。そんなことよりいいの?早く逃げないと追いついちゃうよ?」
「くっ……」

ハンターに追われる兎のように、今の俺にはただ駆け出すしかできない。

(だが……いつまでもそうだと思うなよ『バイザーの銃士』!!
 どんな方法を使ってるか知らないが、俺は必ず謎を解き、ここを脱出して、風浦を助けてみせる!
 ジッチャンの名にかけて!)
270: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:56:06 ID:elFWsWd7(6/14)調 AAS


「……これでよし……と」

部屋の扉を開け、廊下へと出ながら、頭の中で作戦を確認し直す。
『バイザーの銃士』に対抗するため、今回俺が用意した作戦は二つ。
逃げながら作った急ごしらえで粗も多いが、とりあえずの目的を達成するのに問題はないはず。

「ねぇ、僕そろそろ疲れてきちゃったよ。もう終わりにしない?」

『バイザーの銃士』の足音が聞こえる。ここからが俺とお前の勝負だ。
廊下で捕捉されないように、できるだけ速く走り、さっさと隣の棟へと身を隠すと、階段を昇り降り。
とりあえずの居場所を分からないようにする。
ここまではいつもと同じだ。だが、ここからが違う。

数分後、既に計画通りの位置についた俺は、じっと息を殺し、ある現象が起こるのを待っていた。
時計を確認し、タイミングを見計らう。

(そろそろのハズだけど……)

俺がそう思ったのとほぼ同時にその現象は起こった。
さっきまで俺のいた部屋が大音響とともに爆発したんだ。
今いる棟のちょうど向かいにあたるそこを、階段の縁から確認する。
見ればドアは吹き飛び、部屋の中からは灰色の煙がモクモクと吐き出されている。

「よし!うまくいった!」

俺は爆発が起こったのを見ると、一気にダッシュ。
階段を下へと向かって猛然と駆け下りる。

ズバリを言えば、第一の作戦の目的は陽動。
実際に自分がいるのとは逆の棟で爆発を起こし、『バイザーの銃士』の注意をそちらに引きつけることだ。
単純で使い古された手だけど、この局面では効果がある。
ちなみに、爆発の種はごくごく簡単。
剥き身の砲弾を部屋のコンロで火にかけてきただけだ。

(……『バイザーの銃士』はたとえ陽動の可能性を考えても、あの爆発を無視できないはずだ。
 何故なら、ここは殺し合いの真っ只中。常に新しい敵が襲ってくる危険と隣り合わせの場所だ。
 そんな場所で、あれをただのこけおどしと100%言い切ってしまえるか?――おそらく答えはノー。
 そんな風に決め付けた結果、第三の敵にしてやられましたじゃ話にならないからね)
 
作戦の成功を信じ、俺はひたすら下へと降り続ける。
一階、二階……フロアーを下るたび、俺の心に成功の実感が芽生え始める。
だが……
271: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:57:01 ID:elFWsWd7(7/14)調 AAS
「陽動とはまた古い手だねぇ。しかも見え見えだ。
 何かいろいろ考えたみたいなんで期待してたけど、この程度なら、僕、ちょっとガッカリだなあ」

……三フロアー下ったところで、忌々しい声がする。

「……お前」
「さあ、次はどうやって遊んでくれるの?それとも、もうお終い?」
「ふざけんなッ!」

歯を食い締め、きびすを返す。
第一の作戦は失敗に終わった。
……けど、こうなることを予想してなかったわけじゃない。

(これでハッキリした。間違いなく『バイザーの男』はレーダーのようなものを持っている)

参加者を探知するレーダーの存在。
俺はこの追いかけっこが始まって間もなく、その可能性に思い当たっていた。

(『バイザーの銃士』の動きは、俺より速く動くことで先回りしてる奴のそれじゃない。
 どっちかって言えば、俺の動きを予想して、その行き先にいち早く動いてる感じだ。
 じゃあ、その動きをするのに必要なのは何だ?
 もちろん、一番いいのは相手の考えを読み取ることだろうが、これは現実的に考えてあり得ない。
 じゃあ、もし、相手がレーダーのようなものを持っていたとしたらどうだ?
 そうすれば、俺の動きを完璧に捉えられるだけじゃなく、ある程度先を読むことも可能になるんじゃないのか?)

そう考え、それを確かめる意味も込めて第一の作戦を決行した。
だが、それが失敗に終わった以上、相手がレーダーを持っているのはほぼ確定だと思っていいだろう。
……そして、だとするならば『バイザーの銃士』に次の作戦を破ることはできない!

俺は第一の作戦が失敗して以来、ずっと走り続けている。
これは俺が恐慌状態に陥っていると相手に錯覚させるためのフェイクであると同時に
次の作戦の肝を悟らせないためのシールドでもある。
……さすがにもう小一時間もの間、走ったり止まったりを繰り返しているから息がかなり苦しいが、もう一頑張りだ。
この作戦さえ成功すれば、今度こそ地上へと抜けることができるはず。

第二の作戦、それはエレベーターを使った脱出。
とは言っても、ただエレベーターを待ってたんじゃ『バイザーの銃士』に嗅ぎつけられてしまう。
だから、エレベーターを使うことを悟られないよう、四つの棟を走って移動しながらボタンを押し
走りながら到着を待ち、長いマラソンの終着点でエレベーターに乗る。
もし、作戦の途中でエレベーターの使用を悟られてしまったら終わりのリスキーな作戦だが
このリスクは、『バイザーの銃士』がレーダーを使っている限り、相当緩和される。

(何故なら、俺は今、お前に道筋を読ませないため、がむしゃらに走り続けているからな。
 お前は、少ししか動かなかった光点が激しく動き出したことで、レーダーから目を離せなくなったはずだ。
 果たして、その点の動きを観察しながら、エレベーターにまで気を回す余裕があるかな?)

もちろん、幾ら緩和されたといっても、リスクがなくなったわけじゃない。
運悪く、俺が乗ったエレベーターの真下に奴がいたら、多分、俺はおしまいだ。
だが、これ以上、風浦を待たせるわけにはいけない。アイツを助けるためには、今は一秒だって惜しい。
……ここは賭けるしかないんだ。

「……ポロロッカ星人だったっけ。もしいるなら、あの電波娘を守ってやってくれよな」

そう呟くと、俺はこの作戦の目的地に向かい、最後の走行に入った。
272: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:57:43 ID:elFWsWd7(8/14)調 AAS


階段を駆け上り、左折。
無機質に伸びる廊下の向こう側に、隣の棟の建物と、エレベーターホールが見える。
……あそこが目的地だ。
俺はなけなしの酸素を肺から吐き出しながら、最後の短距離走を走りぬいた。
肺が痛い。足が痛い。肩の傷も痛む。……だが、まだ倒れるわけにはいかない。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」

膝に手を置き、肩で息をしながら、エレベーターをちらっとだけ見遣る。
エレベーターの現在位置を示す電光表示には「8」の文字。
ちゃんと想定どおり、今俺がいるこの階の数字が掲げられている。
どうやら、何とかうまくいったようだ。

「よし、これで……」

荒い息を吐き、腰から体を折り曲げながら扉を開けるボタンを押す。
すると、機械音が鳴り、エレベーターの扉が両側に開いた。
本当なら、顔を上げてちゃんと乗り込むところだが、疲労が溜りすぎてそれさえもままならない。

「もともと体力がないのは分かってたけど、まさかここまでとは……
 今度からもうちょっと体を鍛えた方がいいかもな……こりゃ」

「僕も同感だねぇ。次の人生があったら是非、そうしてよ」

驚きで、上がらなかったはずの首を上げると、そこには邪悪に嗤う『バイザーの銃士』がいた。
273: 2007/11/27(火) 17:58:30 ID:PE1RG2oO(1)調 AAS
 
274: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:58:47 ID:elFWsWd7(9/14)調 AAS


ハハハハハッー!!クヒーッヒッヒッヒッヒッヒッ!!!!
ブハァーッハッハッハッハッ!!ヒィヤーッハッハッハッハッハッハッ!!

全く滑稽だ。滑稽すぎるにも程がある。
見た?ねえ、見たかい、あの顔?誰のって決まってるじゃないか!!この自称名探偵君の顔だよ!!
こんなに哀れを誘う顔が他にあるもんかい!!
勝負に完敗した負け犬の顔だ。全ての希望が絶望に変わった人間の顔だ。
まったくもって可笑しすぎるよ。可笑しすぎて笑いしか出てこない。

僕がゆっくりとエレベーターから外に出ると、金田一もずるずる下がり、後ろにこけて尻餅をついた。
……本当に、情けない姿だねぇ。

「残念だったねぇ。あの短時間でいろいろ考えたのは褒めてあげるけど、如何せん僕に使うには幼稚過ぎたみたいだ」
「……何故だ!何故こんなことをする!何故、風浦を殺した!?」

僕が勝利宣言をしてやると、金田一は勇ましく僕の方をにらみ返して、質問を返してきた。
ていうか何でお前は負けたのに偉そうなの?……あーあ、だから嫌なんだよねぇ。負け犬の遠吠えは。

「何でかって?そんなの簡単だよ。あの風浦可符香とかいう女を殺したのは――うるさかったからさ」

シータやあのガキと分かれてから、個人に対して集中させるのを避けて、できるだけ広く薄く展開していた
僕のギアスに始めにひっかかってきたのがあの女だった。
……正直、近づくのは止めようと何度も思ったよ。
何故かって?だから言ってるじゃない。あの女の心の声は他の奴に比べてあまりにも煩かったんだよ。
自己主張が激しくて、言ってる内容も意味不明。その上、極端に明るい思考と極端に暗い思考が混ざり合ってる。
ギアスをあまり深くまで向けて展開してないのに頭痛がしたよ。
あの女の深層意識まで読み取った時のことを考えたら、身震いがしたね。

……だから、本当は逃げようと思ったんだ。
あんな奴に係わり合いになってる場合じゃない。早くC.Cを見つけなくちゃってね。
……でも、そこまで考えてふと気づいたんだ。それじゃダメなんじゃないかってさ。
だって、もしかしたら、そういう奴がC.Cを持ってるかもしれないだろ?
だったら、C.Cを少しでも早く手に入れたい僕としては、近づかないわけにはいかない。
だけど、また頭が痛くなるのは嫌だ。
じゃあ、どうすればいいか?

――その答えに辿り着くのは思ったより簡単だったよ。
そもそも、ここは殺し合いのための場所なんだ。だったら殺せばいい。
僕の頭を痛くするような奴等は、一人残らず殺していけばいいんだ。

「うるさかったから殺しただって!?……それはどういう……」
「あー細かいことはいいだろぉ?どうせ君はこれから死ぬんだからさ」

……と、まあ、そんな事情を知らない金田一がめんどくさい質問をしてきたから、僕はステッキの先を突きつけてやった。
しかし、コイツはどうしようかなぁ?
もともと、風浦可符香を殺すのを見られたから、ついでに殺してやろうと思っただけなんだけど
予想外に楽しませてくれたしなぁ……せっかくだから、もうちょっと遊んでやるか。
275: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 17:59:25 ID:elFWsWd7(10/14)調 AAS
「……しかし、金田一君、君、もといた国では名探偵なんて呼ばれてるんだってねぇ?」
「!? 何でそんなことを知ってるんだ!?」
「ふふ……君のことならなーんでも、知ってるよ。
 金田一一。私立不動高校の2年生。探偵、金田一耕介の孫で自身もIQ180の名探偵。
 過去、警視庁に協力して数々の難事件を解決している。
 幼馴染の七瀬美雪とは友達以上恋人未満の関係をもう長く続けているが、本当は――」
「お、お前……そんなことまで……どうして?」

金田一の顔がみるみるうちに青くなっていく。
動揺で心が乱れているのが分かる。

「さぁね。そんなことはどうでもいいじゃないか。
 ……しかし、そんなにお偉い名探偵様が、今回は随分と苦労してるみたいだねぇ?
 殺し合いは怖がる、妄想少女を改心させられない上、自分の不注意で殺される……
 あぁ、困ったねえ、ここに来てからいいトコが一つもないじゃないか」
「………………」

クックックッ、動揺してる動揺してる。
歯なんか食いしばっちゃってかわいいなぁ。
……フフ、しかし、コイツ、名探偵とか名乗っておきながら本当に間抜けだ。
これだけやられたら、そろそろ、僕の能力に気づいてもよさそうなモンなのに。
いやあ、常識に縛られるってのは怖いねぇ。

「そんなことじゃ偉大な“ジッチャン”の名が鳴くよぉ?
 ああ、こんなんじゃもういっそ“ジッチャン”の看板を使うのはやめた方がいいかもしれないなあ」
「……確かに、今までの俺は失敗ばかりだった。いいところがなかったのも認める。だけど……」

嗚呼、追い詰められた人間ってのは、どうしてこうも同じ行動ばかりとるんだろう。
どいつもこいつも、痛いところを衝かれると、揃ってお決まりの自己弁護を始めるんだ。
でも、僕は知ってる。
そこを突き崩せばその人間は“終わり”なんだってことをね。

「『だけど、そんな俺にもできることはある』って?わかってないなぁ、金田一君。
 君は今回、その『できること』つまり、得意分野で僕に負けたんだよ?」
「!!」
「名探偵って呼ばれてるくらいだもんねぇ、頭での勝負にはさぞ自信があったんだろうねぇ?
 でも、僕には敵わなかった。この世界では、所詮、君はその程度なんだよ
 分かったかい?君は狭い井戸の中で自分が凄い奴のつもりでいた、滑稽な蛙なんだ」

見れば、金田一は既に前を向いていない。
虚ろな瞳を床に向け、唇を噛んで、瞼を震わせている。
アッハッハッ……君はやっぱり最後まで面白い奴だよ金田一君。サイコーだ。
……でも、もうそれもお終い。

「つまりね、金田一君、この世界で君ができることなんて何一つ無いんだよ。
 誰かが君を頼っても、君は期待に答えられない。むしろ、結果を悪くするだけ。
 風浦可符香のように死なせてしまうのがオチなのさ。
 結局、君はただ、自分の無能を呪いながら、惨めに一人、死んでいくしかないんだ。
 ……こんな風にね」

ステッキを突きつけ、僕は引き金を引いた。
……だが、その弾は金田一に当たらない!??

「そんなことありません!!
 金田一君はポロロッカの真理に気づいた立派な男性です!!
 それに、金田一君は私が還させません!!」

一瞬後、無様に転んでしまった僕は、後ろを振り向いてようやく事態を理解した。
……なんてことだ。
いつのまにか上がってきた血だらけの風浦可符香が、僕の腰に組み付いていた。
276: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 18:00:17 ID:elFWsWd7(11/14)調 AAS


「ふ、風浦……どうして?」
「金田一君はミリアさんの大事な従者です。こんなところで現実に還ってもらっては困るのです」
「グ……ちくしょう!!この電波女が!!」

マオは体を捻り、可符香を振りほどこうとするが
その腕の力は、女のものとは思えないほど強く、いくら暴れても外すことができない。
見れば、可符香の真新しかった制服は血に塗れ、無残な赤に染め上げられている。
その様は、彼女に刻まれた傷の深さと、天国への近さを如実に示すものである。
にもかかわらず、可符香の腕は外れない。

「早く!金田一君!私の乗ってきたエレベーターに乗って逃げてください!」

見れば、エレベーターのドアが開いている。
彼女はこれに乗ってやってきたのだ。

風浦可符香がここまで来れた過程は、言ってしまえば奇跡に近い。
金田一の行った第一の作戦――砲弾の爆発――によって意識を取り戻した可符香は
ミリアの従者である金田一を救わなければという一心で
エレベーターホールまで這い進み、エレベーターを呼んだ。
彼女が「8階」のボタンを押したのは、もともとこのエレベーターがいた階が8階だったから
そこで誰かが降りたのかもしれないという、理由というにはあまりに薄いものに縋った結果に過ぎない。
さらに言うなら、もし、ボタンを押すタイミングがあと少し早かったなら
その行動は殺人者マオを呼び出し、自らの命を無駄に散らすことになっただろう。
逆に、もし、ボタンを押すタイミングがあと少し遅かったなら
金田一はマオによってあえなく銃殺され、可符香は無残な死体と対面することになったであろう。
爆音、エレベーターの位置、ボタンを押すタイミング。
あまりに狭い偶然の道を通り抜け、しかし、奇跡は確かに起きた。
これはいったい誰の御技か?
あるいはポロロッカに祈った金田一の祈りが、時空を越え、空間を越え、彼らの星まで聞こえたのかもしれない。
277: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 18:00:50 ID:elFWsWd7(12/14)調 AAS
「逃がさないよ……ここまでやったんだから。
 ここで逃がしちゃ、何が何だかわからないだろおっ!!」

マオはどうにか右腕の自由を取り戻すと、そのまま懐から鉄扇を取り出し、それで可符香を打ち据える。

「風浦!」
「……私のことは気にしないでください。それよりも早く行ってください。
 残念ながら、そんなに長くは持ちません」

打撃の痛みを感じないかのように、可符香は悲鳴一つあげず、鉄扇の殴打を受け続ける。

「このォ!!うっとおしいんだよォ!!死ねッ!死ねッ!」

その様子が火に油を注いだのか、マオはより激しく、苛烈に可符香を痛めつける。
マオにとって我慢ならないのは、金田一の処刑を邪魔されたことよりもむしろ
彼女の心の騒音を間近で聞かなければならないことの方だった。
一度は排除したはずの波動が、彼の頭をギリギリと痛めつける。
その痛みのお返しをするように、鉄の塊が可符香の肉体を叩き、削り取る。

「さあ、金田一君、……早く」
「けど……けど……このままじゃお前の命が……」

金田一は動けない。
マオに打ち砕かれた心が、事態の変化についていけない。
可符香はその様子を見てとると、柔らかく頬を緩ませ、優しく微笑んで――

「やだなぁ、私が死ぬなんてそんなことあるわけないじゃないですか。
 私は現実に帰って、また普通の学生生活をおくるだけです。
 ポロロッカ星に行けないのは残念ですが、まあ、生きてれば、またきっと機会がありますよ。
 ――だから、金田一君は先に行って待っていてください。
 私がそっちに行けるその日まで」

金田一には、血に濡れて、眼球が飛び出しかけたその笑顔が、やっぱりさっきと同じ天使に見えた。
278: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 18:01:28 ID:elFWsWd7(13/14)調 AAS


「あ"……あ"あ"……」

ディスプレイの数字が減っていく。
エレベーターは、とうとう行ってしまった。

「よかった……これで一安心です」

可符香が息も絶え絶えに呟く。
その声はいつもと同じ、明るくて伸びやかなモノだった。

「お前……よくもやってくれたな!!よくも僕の邪魔を……
 そうだ……そもそも悪いのはお前なんだ。お前が僕の頭を痛くするから……
 ……許さない、絶対許さないぞォ!!!!」

グシャ。
マオが怒りと憎悪に任せた一撃を彼女の頭に叩きつけると、そこから湿った音が響いた。
見れば、彼女の側頭部が醜く変形している。
だが……

「ああ。あなたもそんなにしてまでポロロッカ星に行きたいのですね。
 その気持ち、すごく分かります。
 もう少し早くお話できればよかったですね。そうすれば、皆でポロロッカ星に行けることをご説明できたのに。
 残念です。
 でも、せっかくですから、せめて今からでもお話をしましょう」
「話だと!?ふざけ……!?」
「大丈夫ですよ。お互いの眼を見て話せば、どんな人だって分かり合えるんです」

その達者な口を封じるため、鉄扇を振り上げたマオは、不運なことに彼女の“眼”を見てしまった。

眼は口ほどにモノを言う。
何の能力も持たない音無芽留にさえ多くのことを伝えた彼女の眼は、心を直接知ることのできるマオに一体どれだけのことを伝えたのか。

「イギャアアアアハアアアアアアハアアアアハアアアアハアアアアアアアアハアアアアアアハ!!!!!!!!!」
279: 金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg 2007/11/27(火) 18:02:21 ID:elFWsWd7(14/14)調 AA×

280: 2007/11/27(火) 22:15:55 ID:VTRjsz88(1)調 AAS
このスレって下らないSSあぼーんするとだいぶ議論が進むよ
281
(1): テンプレ議論再開 2007/11/27(火) 23:22:55 ID:d3TyTFPb(1)調 AA×
>>1

282: 2007/11/28(水) 01:23:51 ID:EmSMYOx/(1)調 AAS
>>281
したらば工作員乙
283
(1): 2007/11/29(木) 20:24:54 ID:WNbPmY9g(1)調 AAS
適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
人物背景はできるだけ把握しておく事。
過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
一人称と三人称は区別してください。
ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。

ここもいるのか?というより独りよがりな内容すぎて点プレにふさわしくないと思われ
284: 2007/11/29(木) 22:15:07 ID:dQILeIXr(1)調 AAS
>>283
そんなとこよりもっと指摘するべき部分があるだろ
ああ、あんたもしたらばの工作員か
285: 2007/11/29(木) 23:30:00 ID:ce9r5qmZ(1/2)調 AAS
 
286: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:30:36 ID:2yxgsgr/(1/7)調 AAS
 言峰綺礼は一人、陽光が照らす森林の中を歩いていた……はずだった。
 土色の大地を靴底で踏み締め、草木茂る視界に自然の情緒を感じていると、異変は唐突に訪れた。
 飛び込んできたのは、灰色の群集である。
 乱雑していた木の葉のカーペットは無機質なアスファルトによって舗装され、雄大な木々は物言わぬ電柱へと変わり果てた。
 数年かけて達成できる開拓を、一瞬で終えてしまったかのような異変である。
 しかしそれを目にしての混乱や戸惑いは、言峰の胸中にはなかった。

「なるほど」

 静かに驚嘆し、ドモン・カッシュが語っていた情報の矛盾、その真相を理解する。
 景色の一変。言峰の視覚が捉えた異常は、現実的に考えてありえない事象だった。
 しかしそれも、魔術という現世の枠から外れた概念を知る言峰にとっては、さして混乱を覚えるような異常ではない。

「ふむ。方位磁石が狂ったか。魔術ではない、螺旋王が用いる科学力によるものと考えるべきか?
 この世界――もしくは惑星が持つ磁場に働きかけたのか、いずれにしても興味深い技術だ」

 言峰が握るコンパスの針は、目まぐるしい勢いで回転し、もはや使い物にならなくなっていた。
 このコンパスが故障したのは、ちょうど言峰を囲う景色が急変した瞬間。
 つまりその瞬間、支給物である安っぽいコンパスを狂わせるほどの磁力が働きかけ、同時に景色の変化に繋がった。
 言峰はこれを、魔術的な干渉ではなく、科学的な干渉であると推測した。

「科学技術による長距離瞬間移動……螺旋王は未来人かなにかか?」

 自身の方向感覚だけを頼りに、言峰は雑多な住宅地を南下し、やがて高速道路を目視した。
 ドモン・カッシュが衛宮士郎と戦闘を行ったという舞台、地図を見れば遥か北に位置していたはずのそれが、今は言峰の目の前に聳えている。
 言峰が南へと歩を進める際、出発点としたのがH-2の学校だった。
 周囲の景色が変化を見せたのは、ちょうど六百メートルは歩いたかという頃。
 そこからさらに五百メートルほど南下し、高速道路を発見した。
 以上の事柄から、言峰は現在地をH-2の南ではなく、会場最北のA-2だと推定した。
 最南地点から南下し最北に移動するなど、物理的に考えれてありえない。が、ここが会場の外である可能性のほうがもっとありえない。
 つまり、この会場は地図で見ればそれこそ平面だが――実際の形は球。廻れば周回する地球と同じように、端と端とで繋がり合っているのだ。

「ドモン・カッシュの言にも頷ける。褐色肌の男と戦っているうちに、北を突き抜け南へとやってきたというわけか。
 しかしなるほど……参加者を隔離するという意味では、これ以上に有能な柵はないな」

 高速道路上を歩き、言峰は『ワープ』という超技術について考察していた。
 ドモン・カッシュの告げる矛盾に興味を持ち、会場の南端へと躍り出たのが発端。
 南から北への瞬間移動という形で矛盾は解消されたものの、螺旋王が有する能力に関しては、ますます謎が深まった。
 とはいえ、その謎は興味という範疇を抜け出しはしない。
 絶対的に解明したい欲求もなく、その必然性もないため、言峰はこの事象を頭の片隅に留める程度にしておいた。
 彼の目的は愉悦。それは、螺旋王との敵対という形で齎されるものではない。
 他者との接触と教授、それによる変化。彼にとっての殺し合いの趣旨はそれだ。
 パズー、八神はやて、間桐慎二、ドモン・カッシュ……彼らは、言峰との出会いによりどんな変化を齎すのか。
 そして、正午を目前にしたこの時間。
 神父たる言峰の前に、新たな子羊が迷い込む。

 ◇ ◇ ◇
287: 2007/11/29(木) 23:31:32 ID:ktlJV0bE(1/4)調 AAS
 
288: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:31:52 ID:2yxgsgr/(2/7)調 AAS
 お昼が近づいて、それでもエドは、無邪気に先頭を走っていた。
 両腕を翼のように広げ、飛行機のようなスタイルでキーンと飛び回ってみたり、
 四つん這いに屈み、ねずみのようにちょこまかと動き回ってみたり、
 時折背後に回りこんで、俯くシータをばぁ〜っと驚かせてみたり、
 壁に覆われた人気のない道路(彼女は高速道路を知らない)でなければ、こんな風に遊んではいられない。
 ……でも、もしかしたら。
 エドには、そんな心配も常識も、まったく通用しないのかもしれない。

「だーれもいません、だーれもいません、管とみんなとごはんはどこですか〜」

 リズムを刻みながら、エドは陽気な声を上げて進む。
 その後ろを、シータが無言のまま追う。
 マオから逃げ出して、シータはエドの示す方向のまま、会場内をあてもなく周旋していた。
 鉄扇子から身を守ってくれた鎧は、重いので道中に脱ぎ捨ててきた。
 何者かに襲われればあの鎧は役に立つだろうが、その前にあの重量では逃げることもままならない。
 機敏なエドと行動を共にするための、苦渋の判断だった。

(あと、何分くらいなんだろう……)

 手元に時計はない。が、刻々と近づく時を感じて、シータは思わず息を飲む。
 マオの急変は衝撃的だった。彼の思わぬ行動により、シータの精神はさらに苛まれた。
 その後エドの爛漫さに癒されはしたものの、二回目の放送が近づくにつれて、心のざわめきはまた騒々しさを取り戻す。
 この六時間の結果報告。いったい何人の人間が死んだのか。それが気になった仕様がない。
 これじゃ駄目だとは思いつつも、シータは押し寄せる不安を振り払うことができなかった。

「んにゃ? どうかしたおねえちゃん?」
「……ううん、なんでもない」

 エドの不謹慎な笑顔も、今では疎ましく思えてしまう。
 度胸が違うのか、それとも単純にそういう性格なのだろうか、エドは放送への恐怖心など微塵も持ち合わせていないようだった。
 現在位置も、現在時間も、マオの真意も、エドの真意も、パズーたちの行方も、なにもわからない。
 手ぶらのまま過ぎていく時が、シータの歩みを重くした。

「あ、はっけ〜ん! はっけんはっけんはっけぇ〜ん!」

 エドの急な報告を受け、シータは俯かせていた顔を上げる。
 進路上、両壁に隔てられた道路の先に、神父の格好をした男性がいた。
 エドは、神父の下へと一目散に駆けてく。
 シータは咄嗟に辺りを見渡し、退路がないか確認した。
 進むか戻るか、道は二つしかなかった。

 ◇ ◇ ◇
289: 2007/11/29(木) 23:32:41 ID:ktlJV0bE(2/4)調 AAS
 
290: 2007/11/29(木) 23:32:58 ID:Du49i2Xo(1/7)調 AAS

291: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:33:12 ID:2yxgsgr/(3/7)調 AAS
「こぉんにちわあー!」

 元気よく挨拶を投げるエドに、言峰は訝しげな視線を送った。

(……なんだ、この娘は?)

 進む先は前と後ろの二つしか存在しない高速道路上。言峰の前方に、二人の少女の姿があった。
 その片方、一見して少年とも思える赤毛の娘は、ここが殺戮の舞台であるなどまったく意に介していない様子で、言峰に笑顔を振りまく。
 しかも、誰もが肩に提げているはずのデイパックが見当たらない。服装も、武器など隠し様がない簡素なシャツ姿だった。
 正真正銘の手ぶらのまま、見ず知らずの男にこんにちわと声をかける。まるで馬鹿のようだった。
 警戒心を微塵も抱かず、そしてあの特徴的な赤毛……無論、言峰の知人に該当する者などいなかったが、一つだけ心あたりがあった。
 ドモン・カッシュの情報の中にあった、エドという名の少女である。
 名簿を見る限り、エドという名に該当する参加者は二名いた。
 一人はエドワード・エルリック……これは明らかな男性の名であり、そもそも第一放送で死亡が知らされている。
 となれば、目の前の少女こそがドモンが出会ったというエド……エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世だろう。
 その長ったらしい本名からしてどこかの貴族かとも思ったが、格好から感じるイメージは、どちらかというストリート・チルドレンを思わせる薄汚さだ。

「こんにちわ。君は……エドか」
「ありー? たしかにエドはエドですけどー、なんで知ってるのぉ?」

 猛ダッシュで駆け寄ってきたエドに挨拶を返し、言峰は改めてその容姿を観察する。
 おどけた表情に、天真爛漫な瞳。恐怖や憎悪など、殺人劇に付き物であるはずの感情が、ごっそり抜け落ちたかのような平静。
 もしくはこのエドという少女は、そんな感情は元々持ち合わせていないのかもしれない。
 純真でまっさらな心に種を植え付け、彼女という人間の本質を歪めるのもそれはそれでおもしろそうだが、酷く骨が折れそうでもある。

(それよりも……)

 警戒心ゼロで周囲をぐるぐると回るエド。言峰はそんなエドから視線を外し、遥か前方を見やる。
 そこには、エドの同行者と思わしきおさげの少女が、硬直したままこちらを眺めている姿があった。

「あちらの女性は?」
「あれはー、シータおねえさんだよー。エドを怖い人から守ってくれたんだ」

 シータという名を耳にし、言峰は僅かに口元を緩めた。
 そのままシータへ向けた視線を固定し、一歩進む。
 遠方に立つシータの身が、僅かに退いたように見えた。

「ところで、おじさんのお名前はぁ?」

 間延びした声を発し、エドは言峰の進路を塞ぐように、前方に躍り出た。
 言峰はエドに対し朗らかな笑顔を見せ、語る。

「ああ、まだ名乗っていなかったな。私の名は言峰綺礼。なんということはない、ただの神父さ」

 名乗った、次の瞬間。
 エドの体は、力なく崩れた。

 ◇ ◇ ◇
292: 2007/11/29(木) 23:33:40 ID:Du49i2Xo(2/7)調 AAS

293: 2007/11/29(木) 23:34:16 ID:Du49i2Xo(3/7)調 AAS

294: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:34:24 ID:2yxgsgr/(4/7)調 AAS
 マオ、エドに続く三人目の遭遇者。それは、教会の神父らしき壮年の男だった。
 一見しただけでは、敵か味方かも判断つかない。
 聖職者ならば殺人など言語道断なはずだが、そもそも格好だけでは本当に神父と決定付けることもできない。
 だというのにエドは、その性格からか、まったくの躊躇もせず男に歩み寄っていってしまった。
 第一に警戒心が働いたシータは、エドのように歩み寄ることはできず、その場で竦んでしまった。
 数秒、エドと男が言葉を交わしている様子を、遠方から眺めることしかできない。
 そして今、異常事態は唐突に起こった。
 男の周りを忙しなく飛び跳ねていたエドの身が、不意に地面に倒れふしてしまったのだ。
 一部始終を眺めていたシータだったが、その突然すぎる事態を理解することはできなかった。
 神父であると同時に一流の武術家でもある言峰の手刀が、瞬速のスピードでエドの首下を打ち気絶させたなど――
 距離の離れた場所にいるシータの動体視力では、理解などできるはずもなかった。
 理解が追いつかないため、事態の推移も把握しきれず、目の前の光景をただ見守ることしかできない。
 エドが倒れ、男はそれを気にも留めず、ゆったりとした歩みでシータの下に近寄ってくる――そんな現実を。

「こんにちわ、シータ」
「っ!」

 混乱の渦中でただ呆然としたシータは、逃げるという思考に辿り着く間もなく、男の接近を許してしまった。
 遠方で倒れたままのエド、目の前で自身を見下ろす長身の男、これらの現状が、シータの危機感に火をつける。
 顔に動揺の色を浮かばせ、そっと後ずさった。
 シータの様子を見て、男は苦笑する。

「ふふふ……そう怖がることはない。私はただ、君の名がシータであると知り、伝言を伝えようとしたまでのこと。
 あの娘には、少しばかりお休みいただいたまでさ。彼女にも興味はあるが……それは君の後だ」

 ここに来てから、シータが出会ったのは僅かに二人。
 数人しか知らぬはずのシータの名で呼びかけられ、また一歩後ずさる。
 不安と危機感に苛まれながら、それでも常の気丈さを取り戻そうと、シータは男の目を見て発言した。

「どうして、私の名前を?」
「必ず助けてやる。だから心配するな」

 質問を投げるが、返ってきたのは回答ではなく、男が預かったという伝言のほうだった。

「……とまぁ、これが君への伝言だ。名乗り忘れたな。私の名は言峰綺礼……見てのとおり、しがない神父さ」
「コトミネ、さん……? その伝言は、誰から?」

 言峰と名乗った神父の怪しさに、喉が鳴る。
 エドを気絶させた真意が見えず、戸惑う。
 そして、伝言とやらの内容をやや遅れて頭に入れ、一つの可能性にいきつく。

「――っ! あなたは、ひょっとして!」
「パズー――私のこの伝言を託した少年は、たしかそう名乗っていたかな」

 思わぬ人物から探し求めていた少年の名が飛び出て、シータは目を見開いた。
 言峰の身に縋りつき、覇気ある言葉で尋ねる。

「パズー、パズーに会ったんですか? 教えてください。パズーは、パズーは今どこに――」
「ほう……そのパズーという少年の身が、よほど気にかかると見える」
295: 2007/11/29(木) 23:34:32 ID:ktlJV0bE(3/4)調 AAS
  
296: 2007/11/29(木) 23:34:58 ID:Du49i2Xo(4/7)調 AAS

297: 2007/11/29(木) 23:35:57 ID:Du49i2Xo(5/7)調 AAS

298: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:35:56 ID:2yxgsgr/(5/7)調 AAS
 ほとんど取り乱したような所作で、シータは言峰の返答を待った。
 パズー。あの日スラッグ渓谷に落ちたシータを助け、ムスカの下から救い出してくれた少年。
 その後ラピュタを発見し、一緒にこんなところにまで拉致されてしまった。
 シータはパズーを巻き込んでしまったという負い目から、真剣に彼の身を案じていた。
 それこそ自らの身を投げ出さん勢いで――それを本人が自覚していたかどうかは、また別の話だが。
 言峰はもったいぶったような間を空けて、そんなシータの様子を眺める。
 口元の緩みは声を発さずとも、心配で震える少女を嘲笑しているかのように見えた。

「落ち着きたまえ。私がパズーに出会ったのは、もう十時間も前のことだ。彼が今どこにいるかまでは知らん」
「そう……ですか」

 シータは見るからに落胆し、失意の表情を俯かせる。
 希望からの転落。言峰はシータの感情変化に若干の愉悦を覚え、言葉を続ける。

「そう落ち込むことはない。先の伝言にあったとおり、パズーは『心配するな』と言っている。
 君がどれほど彼を心配しているかは知らぬが、あまり彼の気遣いを無碍にするものじゃない」
「……そうですね」

 口ではそう言いつつも、シータはまだ、希望へは這い上がれていなかった。
 目的の達成、その足掛かりになるかと思われた情報は、しかしなにも齎しはしなかった。
 誰であろうと落胆せずにはいられない。あと一歩というところで掴み損ねた希望は、より大きな反動として返ってくる。
 失意に溺れ、希望を見失った感情が誘う先は――絶望しかない。

「――それにその心配自体、もうすぐ不要となるやもしれん。時間にして、あと数分後にはな」
「えっ?」

 言峰の意味深な発言に釣られ、シータは彼の顔を見上げる。そして、反射的に身を離した。
 なにか嫌な予感がして、本能的に言峰を拒絶したのだ。

「忘れていたわけではあるまい? それともまさか、時計をなくしでもしたか?
 もうすぐ12時……螺旋王による二回目の放送が始まる時間だ。あるいはそのときに」
「……あなたは、その放送でパズーの名前が呼ばれるとでも言うのですか?」

 シータは動揺を制し、確かな敵意を持って言峰に接した。
 少女ながらもシータが放つ雰囲気は毅然としていて、言峰に感嘆を促すほどのものでもあった。
 とはいえ、シータは少女だ。ラピュタの王族という言峰の知り得ぬ正体を持とうと、その本質は変わらない。

「一つの否定できない可能性だよ。いつ、どこで、誰がなにをするか……そんなことが把握できるのは、監視者たる螺旋王だけだ。
 私と別れた後のパズーが、どのような道程を歩み、現在はどうしているかなど、知る由もない」
「なら、どうして心配が不要になるなんてこと」
「言っただろう? 一つの否定できない可能性だと。では訊くが、パズーとはいったい何者かね?
 何者にも屈さぬ無敵の超人か? 何者にも殺されぬ不死の化物か? 私には、いたって普通の少年に見えたのだが」
「パズーは普通の男の子です。銀鉱で働いていた、単なる優しい男の子です。
 でもパズーはとても強いわ。こんな殺し合いには決して屈しない。私はパズーと一緒に生きて帰ります」
(ほう……)

 ――強い。
 言峰はシータの反論を耳にし、胸中で賛嘆した。
 言の節々には未だ不安が在沖しているものの、視線は確固として言峰の瞳と対峙している。
 常人らしからぬ物腰は生まれついてのものか、それともパズーとの日常で育まれたものか。
 それだけに、惜しい。
 彼女の精神は、とても不安定だ。余裕が見当たらない。
 言峰の言葉に揺さぶられながらも、懸命にシータという意志を保っている。
 懸命に――辛うじて、とも言い表すことができる。
 罅割れたガラスを、ガムテープで補強しているような状態だ。
 現実という槌で叩いたら、さてどう砕けるものか。
299: 2007/11/29(木) 23:36:23 ID:ktlJV0bE(4/4)調 AAS
 
300: 2007/11/29(木) 23:36:52 ID:ce9r5qmZ(2/2)調 AAS
 
301: そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs 2007/11/29(木) 23:37:01 ID:2yxgsgr/(6/7)調 AAS
 ◇ ◇ ◇

「一つの可能性、などという曖昧な根拠でつい失言を吐いてしまった。謝罪しよう」
「いえ、謝るほどのことでは……」
「さて、では迎えるとしようか――二回目の放送を。パズーへの心配を募らせて、な」
「はい」

 言峰が振り返り、倒れたエドの下へと歩み寄っていく。
 シータは言峰の言葉に賛同し、しかし足を動かすことはできなかった。

(――あれ?)

 両足が、地面に植えつけられたかのように動かない。
 遠ざかっていく言峰の姿を視線で追うが、その焦点は定まらない。
 心が、ざわついた。

「……んー……あり、朝ぁ?」
「いや、昼だ。間もなく放送が始まる。君も静聴したほうがいいだろう」

 言峰は倒れていたエドを起こし、気絶状態から再起させた。
 それら、光景として視界に映る映像を受け止め、しかし介入することができない。
 まるで、世界の外枠から外れてしまったようだった。
 シータは心の中で反芻する。これから待ち受けるものを。

「放送。ここ六時間における死者の名と、新たな禁止エリアを発表する簡素な儀式だ。
 螺旋王にとっては、それによって齎される我々の変化が、主な目的なのだろうがな」

 言峰のふとした発言が、シータの奥底で重なる。
 死者の発表。放送のメインイベントとも言える事柄に、並々ならぬ不安を抱えている自分がいた。
 言峰の根拠のない言、パズーの死を否定して、なお放送を恐れるという矛盾に気付く。

「恐れることはない。恐れようとも、逃れる術はないのだからな。
 仮に目を背け、耳を塞ごうとも、放送の内容は我々の頭に入り込んでくる。
 意識するなというほうが無理なものだ……心配するにせよ、感傷を抱くにせよな」

 パズーの名が放送で呼ばれる……パズーが、既に死亡している。
 言峰の言うとおり、一つの可能性にすぎなかった。それが的中している確率など、シータにも言峰にも計れはしない。
 誰の名が、どれだけの名が呼ばれるのか。
 興味ではなく、知ることへの恐れ。
 待ち遠しくもあり、忌避したくもあるもの。
 しかしシータは、ただ黙って放送を待ち構える。
 選択肢など、他にはなかったからだ。

「時間だ。さぁ、静聴しようではないか――螺旋王による、放送を」

 それは小さな、とても小さな不純物。
 シータはその正体を知る間もなく、第二回の放送を迎える。
302: 2007/11/29(木) 23:37:59 ID:Du49i2Xo(6/7)調 AAS

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