[過去ログ] アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ7 (321レス)
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135: 虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc 2007/11/03(土) 07:21:18 ID:t4+r2/Ue(7/12)調 AAS
「ところで、自己紹介がまだだったわね。あんまり興味深い話題だったものだから、つい興奮してしまって」
「えっ?」
 少女の唐突な話題変更に、かがみは戸惑いを覚える。正確には、自己紹介という行為に対する動揺であった。
 目まぐるしく移り変わる状況に感けて、彼女が不死者であるかもしれないということを失念していた。
 厭世的な気分に入り浸り、もはや他の参加者に出遭う可能性など思考の外に放り出してしまっていたらしい。
 ここでひとつの分岐点が生まれる。名を名乗ることを、相手が不死者か否かの判定に用いるべきかということだ。
「私は木津千里。アニロワ高等学校の生徒よ。あなたは? 珍しいデザインの制服だけど、どこの生徒なの?」
 低確率ながら、疑われるリスクを負ってでも相手が不死者かどうかを確認すべきだろうか。
 それとも、ここは素直に本名を名乗って、信用を崩さないべきだろうか。
「えと……り、陵桜学園、高等部……」
 千里の振った話題に乗り、ひとまず時間を稼ぐかがみ。制服についての雑談でも交わしていれば、少しは尺が取れるだろう。
 何せ命に関わる選択である。慎重に判断材料を並べ、じっくりと吟味したい。
「ふぅん、中高一貫校というやつかしら。道理で、洒落た制服を着けていたわけね」
「そ、そうなのよ。なかなか可愛いし、気に入ってるんだ。いいでしょ?」
「……」
「……」
「……それから?」
 ところが、その目論見はたったの一言で消化されてしまう。
 まだ結論は出ていない。仕方なく、付属情報で茶を濁すことにする。
「さ、三年……」
「私よりひとつ年長だったの。人は見かけによらないわね」
「あはは、よく言われる。目は尖ってるくせに顔は丸っこいとか」
「……」
「……」
「……で?」
 またも一言で途切れてしまう。その上、返しを考えることが想像以上に思考領域を奪い、結局何も結論は出せていない。
 さすがにこれ以上主旨を逸れては、それ自体怪しまれる要素になりかねなかった。
 それに、初対面の相手と共有し得る学校についての話題など、そう次々と出るものでもない。
「あの……えと」
「ああ、じれったい。早く名前を言いなさいよ! 私はもう、きちんと名乗ったでしょう。
 一方的に相手の事だけ知ろうだなんて、虫が良すぎないかしら。それとも、何か後ろめたいことがあるとでもいうの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「だったら、はっきりなさい!」
 癇癪を起こす千里。どうにも彼女は、堪忍袋の容量が小さいらしい。
 自他共に認める短気なかがみがそう感じるほどなのだから、相当に気が短い人物なのだろう。
 かがみは慌てふためきながら、ついに決断をする。
「ふ……風浦可符香」
 そうして、咄嗟に浮かんだ名前を口走った。口走ってから、途方も無く自虐的な気分になる。
 何故よりにもよって妹殺害の容疑者の名が出るのか。自分でも理解不能であった。
 尤も、全くの適当な名前をでっちあげる訳にもいかず、参加者の中で知っている名が他に無かったのだから仕方ない。
 青いアホ毛が脳裏を過ったのは、そこまで自分への言い訳を煮詰めた後のことだった。
「へぇ……そう。変わった名前ね」
 千里はかがみにじわりと詰め寄り、口元に微笑を浮かべる。ただし、目は笑っていない。
 嫌な汗が背中を伝う。もしや、嘘をついていることがばれたのだろうか。
 まさか、そんなことはないだろう。あの大人数の中から、彼女の知り合いを引き当ててしまうことなど。
 そもそも、可符香は常人離れした異能を持つ殺人鬼なのだ。自分と同じ学生の身である千里に、関わりがあるはずがない。
 そう、信じたかった。しかし、千里は悪戯な笑顔を見せ、きっぱりと言い放った。
「でも、それはあなたの名前じゃないわ。あなたの嘘は、私にはきっちりお見通しよん。
 何か思うところがあってのことでしょうけど……残念だったわね、“柊かがみさん”」
 かがみは、全身から血の気の引いていくのを感じた。
136: 2007/11/03(土) 07:23:01 ID:HDqBqPR4(3/6)調 AAS

137: 2007/11/03(土) 07:23:12 ID:bXlMM53e(5/8)調 AAS
 
138: 虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc 2007/11/03(土) 07:24:29 ID:t4+r2/Ue(8/12)調 AAS
「やあぁぁあぁぁぁっ!!」
「なっ?!」
 気付けば、かがみは千里に掴みかかっていた。痛む脚に鞭打ち、一気に肉薄。さらに腰の刀に伸びる手を叩き落とす。
「あ、あなた。いきなりどうしてしまったの!?」
「てえぇぇえぇえぇぇいぃっ!!」
 渾身の力を込め、かがみは千里を地面へ押さえつけた。そして腹部に圧し掛かって、脚での抵抗を防ぐ。
「今更しらばっくれないで。あんたも、不死者なんでしょ!」
 偽名が通じず、本名を見破られたということは、千里もまた、かがみと同じ不死者に違いない。
「……は?」
 千里は目を丸くした。最後までシラを切るつもりらしいが、そんなことは構わない。
「そう簡単にやられてたまるか……喰われる前に、こっちが喰ってやるッ!!」
 よもや、血迷っている暇はない。やられる前に、こちらから仕掛けるしか生き残る道はない。
「な、なにをするの! ちょっと、やめなさい!!」
 両脚と左手とでしっかりと動きを封じてから、震える右の手をじわり、じわりと、千里の頭へと差し伸べる。
 そして指先が彼女の艶やかな黒髪に触れた瞬間……視界が暗転した。

 黒く長い髪が、蛇の如く四肢に纏わりつく。次いで強いガム臭がしたかと思うと、突然目の前が真っ暗になった。
「な、なんなのよ、これ……ぎゃ!」
 突然の怪異現象に怯える最中、胸倉を掴まれ地面へ叩きつけられる。
 堪らず這い逃れようとするも、途端セーラー服の襟を引っ掴まれ、首が絞まって身動きが取れなくなってしまう。
「ぐへぇ!」
 鳩尾に正拳が食い込み、黄味がかった胃液を吐き出す。飛び散った水滴が、陽光を受けてきらきらと輝いた。
 千里は仰向けで悶えるかがみの体を跨ぎ、前屈してかがみの顔を覗き込んだ。
「どうしてくれるのよ、これ」
 低い声でぼそりと言い放ち、千里は自らの頭を指差した。彼女の髪は、生物のように荒々しくうねり続けている。
「ど、どうって言われても……」
 不死者に対する恐怖をも忘れるその剣幕に、いよいよ半べそになるかがみ。
 髪が乱れたことに憤りを感じているようだが、普通そのためだけにここまで怒るものだろうか。
 第一、触れただけで髪が暴走するなどと誰が予想できるというのか。
 しかしそんな言い分を聞き入れてもらえるほど、事態は甘くなかったようである。
「これ、セットし直すのにどれだけ苦労するか、あなた解っているの?」
 菱形の眼をぎらつかせ、少女は恨めしそうにかがみを睨み付けた。
 かがみは愕然とした。髪のセットのためにこれだけの恐怖に晒されている事実には、もはや開いた口が塞がらない。
「きっちり、落し前つけさせてもらうわよ。きっちりと……」
「ひぃっ……!!」
 そして、かがみは地獄を見た。


139: 2007/11/03(土) 07:25:59 ID:bXlMM53e(6/8)調 AAS
 
140: 2007/11/03(土) 07:26:05 ID:HDqBqPR4(4/6)調 AAS

141: 2007/11/03(土) 07:27:14 ID:HCkm1BB/(12/16)調 AAS
 
142: 虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc 2007/11/03(土) 07:30:17 ID:t4+r2/Ue(9/12)調 AAS
「まったく、そういうことは先に言っておきなさい。いきなり馬乗りになられたって、どうしていいか困るわよ」
 髪を櫛やらブラシやらで整えながら、千里は説教を垂れた。語気とは裏腹に、表情はどこか晴れやかである。
 対照的に、かがみは心身ともにズタボロの状態に陥っていた。
 千里の報復は執拗に続き、もはやストレスの捌け口にされたとしか考えられないほどに粘着質であった。
 背中に跨ってツインテールをぐいぐい引っ張られたり、未だ痺れの抜けない脚を踵で思い切り踏みつけられたり、
 あらぬ方向に鼻を捩じられそうになったり、刀の柄を尻に突っ込まれたり……思い出すだけで背筋が凍り付く。
 結局たっぷり十分近く嬲られ、かがみは号泣しながらひたすら許しを乞うほかなかったのである。
「次からは、きっちり確認してから行動すること。わかった?」
「はひ……ごべんなざい」
 真っ赤に泣き腫らした目を擦りながら、かがみは鼻声で応える。
 彼女が不死者であるというのは全くの誤解であった。
 名乗った偽名を見破られたのは風浦可符香が彼女の知人、ちなみに彼女と同じ女子高生であったためで、
 本名を言い当てられたのは、つかさの名を聞いて、関連のありそうな名を言ってかまをかけただけだったという。
 まったくもって、独り相撲の嬲られ損だったという訳だ。
「それにしても……また興味深い話を聞かせてもらったわ」
 そして騒動を鎮めるにあたり、不死者に関する情報を洗い浚い吐かされてしまうこととなった。
 不死の酒の基本情報に始まり、アイザックというもう一人の不死者の存在まで、知っていることは全部話した。
 だが、致し方なかった。こうでもしなければ、拷問は夜まで続く勢いだったのだから。
「たしかに、あれだけ苛め……揉み合いになったっていうのに、今は傷ひとつないわね」
 かがみの肢体を舐めるように眺めながら、千里は唸り声を上げた。
 体中に満遍なくついた痣はひとつ残らず消えており、かがみの全身は血色の良い肌色に戻っていたのだ。
 転嫁されたストレスによってやつれた、幽霊のごとく蒼白な顔面を除けば。
「う、うん、そうなのよ。信用してもらえてよかったわ」
 苛めてる自覚あったのかよ、と突っ込みたいところだが、ここはぐっと堪える。
 できるだけ千里を刺激しないように、細心の注意を払わなければならない。
 どうやら千里はかがみの話を真と受け取っているらしく、疑心を深めることだけは免れひとまず安堵する。
 ところが、千里の次なる挙動はかがみの思考の斜め上を行くものであった。
「でも、不死と証するにはちょっと生温いわね。より本格的な実験をしてみましょう」
「え…………?!」
 実験という語に嫌なデジャヴを感じるかがみ。刹那。ずぷり、という耳障りな音と共に、全身がどっと熱くなった。
 何が起きたかわからず、かがみは首を曲げ、自分の体を眺めた。見ると、腹に棒状の何かが突き立っている。
 かがみの腹を、千里の持つ刀が貫通していた。
「な……な……」
 その事実を認識した途端、その熱さが痛みであることに気付く。だが、痛いという心の叫びすら、幾ら捻り出しても声にならない。
 両手で傷口を庇うが、止め処なく溢れ出る血液は五指の間からするすると零れ落ちていく。
 四肢が痺れ、急激な脱力感に襲われる。口から、ごぽ、と血の塊が飛び出した。
 足ががくがく震え、もはや自分で立っていることもままならなくなる。地面に突っ伏すと、血の海が盛大に飛沫を撒き散らした。
 どくどくと血は流れ、頭の中が徐々に空っぽになっていく。痛いという感覚は、既になかった。
 自らの血で深紅に染まった手をただ茫然自失として見詰めながら、かがみは死んだ。


143: 2007/11/03(土) 07:31:23 ID:HDqBqPR4(5/6)調 AAS

144: 2007/11/03(土) 07:31:55 ID:HCkm1BB/(13/16)調 AAS
 
145: 虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc 2007/11/03(土) 07:35:52 ID:t4+r2/Ue(10/12)調 AAS
 数十秒の後、かがみの体は何事も無かったかのように元の姿を取り戻していた。
 腹部を襲った痛みは綺麗さっぱり消え去り、残ったのは肉を引き裂く刃の感触と、
 地べたに這い蹲って情けなく悶絶していたという記憶ばかりだった。
 一方の千里は、物欲しそうにかがみを見詰め、指を唇に添えて恍惚の表情を浮かべていた。
「すごい……あなた、本当に死なないのね」
「だからそうだって何度も言ってるじゃない!! ってかさ千里さん、これって立派な殺人っすよ、マジな話!!」
 半狂乱になりながら、かがみはあらん限りの大声で千里にブーイングを浴びせた。
 今にもはち切れんばかり青筋を立て、目は真っ赤に充血している。
 ところが千里はやはり受け合おうとせず、唇に添えた人差し指をかがみへ向けながら言った。
「あら、死なないと理解したうえで刺したんだから、殺意があったわけじゃないわ。
 第一、あなた死んでないじゃない。傷痕も残ってないし、何も気にすることはないわ。
 それに、あなただって不死者を一度殺してるんでしょ。これできっちり痛み分けじゃない」
「どこがどう痛み分けなのよ……!!」
 暖簾に腕押しな態度にまた腹を立てるが、震える拳をゆっくりと鎮め、さらなる罵声を浴びせることは思い止まった。
 千里は不死の体を持つかがみに少なからぬ興味を示しており、また刀を抜かせる事態だけは避けたかったので。



「ふぅ……さて、気分……いや、あなたの誤解も晴れたことだし、そろそろ行きましょうか」
「は? 行くって、どこへ?」
 この上なく反抗的な眼つきで千里を睨み付けるかがみ。千里は再度人差し指を立て、かがみへ言い聞かせるように得意気に言った。
「決まっているでしょう。アイザック・ディアンを捜すのよ。捜し出して、喰われる前に喰ってやるの。
 さっきあなたが、私を喰おうとしたときのように、ね」
「あ、あれは喰われるかと思って咄嗟に……」
「問答をしている暇はないわ。こうしている間にも、状況は刻一刻動いているのよ。
 こんなところで油を売っている時間は、一秒たりともありはしないの」
 言い切ると、千里はかがみの手を強引に引き寄せる。今さっきの再生により、吊った脚は元の通りに動くようになっていた。
「……離してっ!!」
 だが、かがみは動こうとはしなかった。千里の手を振り解き、彼女へと背を向けた。
「どうしてしまったの、かがみさん」
「行きたくない……」
 かがみは、くぐもった声で答える。
「は? あなた、何を言って……」
「私はもう、どこにも行きたくない!!」
「…………」
 かがみの尋常でない拒絶ぶりに、さしもの千里も言葉を失った。
 かがみは、震えていた。地面のただ一点を、焦点の合わない視線で見詰めている。
「私……恐いのよ……独りで歩くのが」
 のらりくらり、かがみは枯葉を踏んで千里から遠ざかっていく。
「だから、こうして私が一緒に行ってあげるじゃない」
「違う! 私は、つかさが居ないと歩けない! つかさが居なきゃ、何もできないのッ!!」
 かがみはその場で座り込み、膝を抱えて小さく縮こまった。
 突然訪れた心情の変化に自分でも戸惑ったが、考えてみれば当然のことだった。
 死にたくないと足掻いたのも、かがみ自身の意志というよりは、単純な生存本能が働いたに過ぎない。
 当面の危機を脱した今、かがみの行動の決定権は、かがみ自身の意志に戻されている。
 そしてかがみは、つかさの形見すら失い、生きる糧を完全に見失っていた。
146: 2007/11/03(土) 07:36:50 ID:HDqBqPR4(6/6)調 AAS

147: 2007/11/03(土) 07:36:54 ID:Cq9mYoVG(1/3)調 AAS
 
148: 2007/11/03(土) 07:38:14 ID:HCkm1BB/(14/16)調 AAS
 
149: 2007/11/03(土) 07:38:41 ID:bXlMM53e(7/8)調 AAS
 
150: 2007/11/03(土) 07:41:32 ID:HCkm1BB/(15/16)調 AAS
 
151: 2007/11/03(土) 07:43:32 ID:Cq9mYoVG(2/3)調 AAS
 
152: 虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc 2007/11/03(土) 07:43:33 ID:t4+r2/Ue(11/12)調 AAS
「あのままずっと、つかさと二人一緒で居られると思ってた。
 なのに、私はつかさと一緒に居られる手段さえ失くしてしまった!
 私にはもう、何も残ってない。何もしたくないし、する理由も……」
「寝言は寝てから言いなさいな!」
 すぐ背後からの怒声に驚き、かがみは首を捻った。次の瞬間、かがみの体は地面から無理やり引き剥がされた。
 千里はかがみを抱え上げ、自分の足で直立させると、今度は両手をかがみの肩に置き、神妙な面持ちでかがみを凝視した。
「あなたの決心は、そんなに容易く投げ出してしまえる程度のものなの?
 死ねない身体になってまで全力を尽くそうと思ったのは、ただの気まぐれ?
 一度は失敗したとはいえ、あなたは妹のために何かしようと努力したんでしょう。
 それなら、もう少し頑張ってみなさいよ。最後まで、自分の思う道を進むべきだわ。
 妹のために。何より、あなた自身の、つかささんの姉としての誇りのために」
 千里の目には、情熱の火が宿っていた。その真剣な眼差しに、かがみの鬱屈した心は強かに打ちのめされた。
「姉としての、誇り……」
 かがみは、心の片隅に置き忘れたちっぽけな勇気と、海のように深い罪悪感を感じていた。
 私は、何をやっていたんだろう。今、私がこのゲームから目を背けたら、つかさは二度と帰ってはこない。
 つかさは、私のすべてだった。こうして失ってみて、その気持ちが揺るぎないものであることにも気付いたはずなのに。
 このまま逃げ続けても、いずれ自分は死ぬ。死ねない体になったって、何もしない人間が勝者になることなんてあり得ないのだ。
 それならば、居直ってでも最後まで戦い抜く道を選ぶべきではないのか。否、そもそも、他に道など無かったはずである。
 つかさが生きられる唯一の可能性が、そこにあるというのなら。
 私はそれを、自らの手で投げ出そうとしていた。つかさがもう一度、自分に微笑みかけてくれる未来を。
 こんな風に叱咤をされなくとも、わかっていたはずなのに。諦める事など、できるはずがなかったのに。
「私……どうかしてた。ごめんね、つかさ。つかさを見殺しにするなんてこと、私にできるわけがないじゃない……」
 涙が、止まらなかった。悔しくて。悲しくて。何より、自分のしてきた決断が、どうしようもなく情けなくて。
 千里はかがみの肩をしっかりと握ったまま、さらに力強く訴えた。
「行きましょう。行って、つかささんを救い出すの。あなたの……他の誰でもない、あなた自身の手で」
「うん……うん……」
 そして、かがみは感じていた。ああ、彼女はやはり、弱者を導くリーダーの器を持つ人間なのだと。
 弱りきってしまった自分を立ち直らせるために現れた、掛け替えのない存在なのだと。

「わかってくれたなら、いいのよ……」
 千里はかがみの肩から手を持ち上げると、そのままかがみの顔へとゆっくりと手を差し延べる。
 しかし、その表情に先程までのリーダーの面影は無く、目はいつか見た菱形をしていた。
「……へ?」
 そういえば、何やら背筋に悪寒がする。そう、千里の頭に触れてしまったときに感じた、あの感覚である。
 しかし気付いたときには既に遅く、千里は指先でかがみの頬を撫で……思い切り抓った。
「いだだだだだだだだだだだだだだ!!」
 かがみは、重大なことを忘れていた。感動的な台詞を吐いたこの女は、どうしようもなく凶悪な粘着質暴力女、木津千里なのだ。
 いくら口先で美辞麗句を並べようと、その本質が変わることはない。
 こうしてかがみが、御人好しにも彼女の気遣いに幾度となく騙されてしまうのと同じように。
「わかったら、今後は手間をかけさせないでね♪」
「……ふぁい」
 かがみの胸で膨らみだしたちっぽけな勇気は、一気に萎えてきってしまった。


153: 2007/11/03(土) 07:44:25 ID:bXlMM53e(8/8)調 AAS
 
154: 2007/11/03(土) 07:44:42 ID:Cq9mYoVG(3/3)調 AAS
 
155: 2007/11/03(土) 07:46:18 ID:HCkm1BB/(16/16)調 AAS
 
156: 虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc 2007/11/03(土) 07:48:40 ID:t4+r2/Ue(12/12)調 AA×

157: 迷走Mind ◆1sC7CjNPu2 2007/11/03(土) 10:52:48 ID:XSDgVP/+(1/6)調 AAS
 高町なのはは、ティアナ・ランスターにとって特別な人だ。
 力を求めて道に迷っていた自分を、心から心配してくれた恩人だから。
 流石に恥ずかしいので、面を向かって言うつもりはない。無論、誰にも話すつもりもないが。
 ふと、考えてしまう。
 ……あの人なら、こんな異常な状況でどうするんだろう?
 ……きっと、絶対に諦めないだろうな。

 勝手な幻想で、決め付けかもしれないけど――私はそう信じている。

 ■

 ティアナ・ランスターが目を覚ましたのは、明智健悟が駅を出ておおよそ一時間ほど立ってからだった。
 加えて言うなら、ジェット・ブラックとチェスワフ・メイエルが駅を通り過ぎてからもおおよそ一時間でもある。

 『おはようございます、マスター』
 「……クロスミラージュ?」

 ティアナは首筋を押さえながら、ソファから身を起こす。
 荒立っていた気持ちは、強制的に眠らされたおかげで落ち着きを取り戻していた。
 周囲を見渡すと、どうやら場所は駅の詰所のようだ。どういう理由か、自分を捕らえたはずの明智という男は見当たらない。
 ――ダメ、ぜんぜん状況が分からない。
 机の上にある、双銃に目を向ける。分からなければ聞けばいい、簡単なことだ。

 『マスターは錯乱しているところを明智健悟警視に無力化されました。一時間ほど前のことです』
 「……ああ、そう」

 主の失態を何のフォローも無しに報告する相棒に、ティアナはちょっぴり傷ついた。
 続けて話を聞くと、どうやらクロスミラージュは支給品として明智という男に支給されたらしい。
 当初はおもちゃのふりをして様子を探り、男が安全だと判断しコンタクトを取った。
 そして錯乱していたティアと出会い、無力化した。
158: 迷走Mind ◆1sC7CjNPu2 2007/11/03(土) 10:54:46 ID:XSDgVP/+(2/6)調 AAS
 『その後マスターを説得することを約束し、彼とは別行動を取ることになりました』
 「……そう」

 ティアナは考え込む。明智という男の、真意についてだ。
 見当はつく。おそらく先ほどのジェットという男と同様に、ティアナを懐柔するつもりなのだろう。
 キャロの事を思い出し、苦い思いが蘇る。
 ――同じような手に、二度も引っかかるもんですか!

 「……殺し合いを優位に進めるために、手ごまが必要ってとこかしら」
 『……マスター?』
 「敵を見かけたら襲い掛かる狂犬だと思っているなら、それが妥当かな」
 『マスター!』

 あまりにも物騒な主の言葉に、クロスミラージュは焦った。
 目覚めてからの様子で落ち着きは取り戻したものと思ったが、どうやら精神の変調は続いているようだった。
 必死になって、続ける。

 『Mr.明智がマスターを拘束しなかったのは、私を信じた故の行動です!』
 「違うわよ、クロスミラージュ」

 ティアナは、どこか底冷えする声で否定した。
 その瞳には、暗い憎悪が浮かんでいる。

 「機動六課の人間以外は、全員この殺し合いに乗っているのよ」

 さも当然のように、彼女は言った。
 クロスミラージュは一瞬、目の前にいる人物が分からなくなった。
 ――これが本当に、自分の主なのか?
 ――いったい彼女に、何が起きたのか?
 その答えは、まるで計ったかのように本人の口から告げられた。

 「私の目の前で、キャロが殺されたわ。わざわざ私が殺したみたいに見せかけてね。
  その後は親切面して接触してきて、危うく懐柔されかけたの」
159: 迷走Mind ◆1sC7CjNPu2 2007/11/03(土) 10:56:20 ID:XSDgVP/+(3/6)調 AAS
 クロスミラージュに、その話を確認するすべはない。だからといって、鵜呑みにするつもりもないが。
 彼は悩む。どうすれば、主の正気を取り戻せるのか。

 『マスター、少なくともMr.明智はこの殺し合いに乗ってはいません。私が保証します』
 「……そう?」
 『また、彼と同様に殺し合いに乗っていない参加者は他にもいるはずです。
  まずはそういった仲間を集めることを優先すべきでは』
 「……ああ、そっかなのほど。そういうことね」

 ティアナは、納得したかのように頷く。
 すんなりと説得が成功したようで、クロスミラージュはホッとする。
 しかし機械であり本能というものから無縁のものである彼は、それでも何か嫌なものを感じていた。
 そして、世の中には嫌な予感ほど当たるという法則がある。

 「アンタ、偽者でしょ」

 案の定だった。しかも予想しなかった言葉である。
 ティアナの視線は本気のもので、冷ややかなものだ。
 冗談であって欲しいという彼の願いは、どうやら聞き届けられそうにはない。

 「そもそも、目が覚めたら自分のデバイスが転がってたって状況から疑うべきだったのだのよ。
  これも、懐柔の手段の一つでしょう?そうよね?うんそうなのよ。それなら、納得がいくもの」

 自分自身を無理やり納得させるように、ティアナは一人で呟く。
 その間にクロスミラージュは自身の全機能をフルに稼動させ、次の手を捜す。
 必ず、説得しなければならない。
 クロスミラージュは、彼女のパートナーだ。故に、ここで終わるつもりはない。
 自身のことも、彼女のことも、こんな所で終わらせるわけにはいかないのだ。
160: 迷走Mind ◆1sC7CjNPu2 2007/11/03(土) 10:57:40 ID:XSDgVP/+(4/6)調 AAS
 『高町なのはが今の貴女を見れば、どう思うでしょうか』

 まずは軽いジャブから牽制して……と考えて、実は苦し紛れに放った言葉はクロスミラージュの予想外の効果を挙げた。
 良い意味にも、悪い意味にもだ。
 ティアナは雷に打たれたように硬直し、目を見開く。

 「ああ、そうだなのはさんだ。なのはさんがいれば『どうにかなる』」

 どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったのか。そう彼女の顔は語っていた。
 その時のクロスミラージュの複雑な思考回路を簡単にすると、次の通りである。
 ――あ、やべ、地雷踏んだ。
 事実、やばいものを踏んだ。

 ティアナは、魔法を行使する。
 使用する魔法の種別は、変身魔法。魔力の光に包まれ、ティアナの姿が変わる。
 その燈色の髪は、栗色に。
 その体は、成人の大人のものに。
 その声は、あの人のものに。

 「『私』なら、きっと大丈夫」

 ティアナ――『高町なのは』の姿を被ったティアナは、優しげに微笑んだ。

 クロスミラージュは、彼女の行動を考察する。
 元々、彼女の本質は不器用なものだ。劣等感や焦燥感をうまく処理できず溜め込み、爆発させてしまうこともあった。
 そんな彼女が、錯乱して無差別に襲い掛かるほどのストレスを受けたのだ。心は無意識に、逃げ場を求めるだろう。
 そして逃げ場の一つとして、『高町なのは』の存在を見つけたのではないか?

 ――もちろん、そんな誤魔化しがいつまでも続くわけがない!

 人に名を聞かれたら、きっと彼女は名簿に載っていない『高町なのは』と名乗るだろう。
 そのことを突かれたら、彼女はどう反応するのだ?
 それに機動六課のメンバーと無事再会できたとしても、平穏無事に終わるのか?
 不安の種は、無尽蔵に湧き出てくる。
161: 迷走Mind ◆1sC7CjNPu2 2007/11/03(土) 10:59:49 ID:XSDgVP/+(5/6)調 AAS
 デスクの上で激しく明滅するクロスミラージュに、ティアナはいつの間にか近づいていた。
 震える手でクロスミラージュに触れ、待機モードである金属製のカードに戻す。
 銃器にトラウマがあるとは知らない彼は、それを破壊のための前準備と捉えた。
 短い人生?だったかと絶望しかけるクロミラージュに――優しい言葉がかけられた。

 「お願い、クロスミラージュ。手伝って」

 先ほどとは打って変わって、真摯な声だった。
 そろそろ、クロスミラージュのAIは爆破しそうである。

 『……何を、手伝えばいいのですか?』
 「この殺し合いを、止めるの」

 姿を変えたことで、その思考すら変えたのだろう。
 戦闘力を持たない民間人は優先的に保護。殺し合いに乗っている者は、無力化して拘束。
 急激な方針の転換だが、機動六課としては正しい選択だ。
 しかし、クロスミラージュの目的は成されていない。
 彼の目的は、主を正気に戻すことだ。『高町なのは』のように振舞う彼女は、とても正気とは思えない。
 だが彼の言葉では、彼女の心には届かない。

 「11時くらいに明知さんが戻ってくるんだよね。それじゃあ私たちは周りを回って、他の参加者がいないか探してみようか」
 『分かりました、Mr.明智が戻ってくるまで後2時間ほどあります。時間的余裕は十分にあります』

 主を助けるには、スバル・ナカジマが必要だ。
 自分よりももっと深く確かな絆がある彼女の言葉と拳なら、主は正気に戻るかもしれない。
 クロスミラージュはそう結論し、広域探査を行う。
 駅を通り過ぎ、螺旋博物館へ向かっただろう二人の人物については報告しない。
 できるだけ、他の参加者との接触を避けるためだ。わざわざ導火線に火をつける理由は無い。
 ――スバル・ナカジマが近くにいればいいのだが。
 都合のいいこととは承知しつつも、彼はそう願わずにはいられなかった。

 ――Mr.明智と六課のみなさん、ごめんなさい。とりあえず私は頑張りましたので。
162: 迷走Mind ◆1sC7CjNPu2 2007/11/03(土) 11:01:34 ID:XSDgVP/+(6/6)調 AAS
【D-4・D-4駅駅員詰所/一日目・午前】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:精神崩壊、『高町なのは』の外見、(血塗れ)
[装備]:クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/4) x2
[道具]:なし
[思考]
基本思考:『高町なのは』のように行動する
1:殺し合いを止める
2:周囲を探索し他の参加者を探す。
3:11:00までにはD-4駅に戻る

[備考]
※キャロ殺害の真犯人はジェット、帽子の少年(チェス)はグル、と思い込んでいます。
 これはキャロのバラバラ遺体を見たショックにより齎された突発的な発想であり、この結果に結びつけることで、辛うじて自己を保っています。
 この事実が否定されたとき、さらなる精神崩壊を引き起こす恐れがあります。
※銃器に対するトラウマはまだ若干残っていますが、相手に対する殺意が強ければなんとか握れるものと思われます。
※冷静さを多少欠けていますが、戦闘を行うことは十分可能なようです。
※血塗れですが、変身魔法により隠されています。
※『高町なのは』に変身することでまともな思考に戻っています。
 しかし矛盾を指摘されたり、ジェットや帽子の少年と出会ったらどうなるか分かりません。

[全体備考]
※D-4駅には戦闘の痕跡が残っており、明智の上着が放置されています。
163: 2007/11/03(土) 11:48:56 ID:grdGxxzn(1)調 AAS
企画の話も進んでないから少しは話し合うか
164: 2007/11/03(土) 14:15:49 ID:zRm7+QGg(1/4)調 AAS
 
165: そして最後に立っていたのは唯一人 1 ◆P2vcbk2T1w 2007/11/03(土) 14:16:33 ID:CwGw5/j1(1/6)調 AAS
「おいおいなんだよ、逃げんのかあ? 鬼ごっこかあ!? 
いいねえ、いいねえ、まさに命懸けのゲームってカンジになってきたじゃねえかよオイ? 
ええ? どうする、どうするの、どうしちゃうのねえ!!?」

背後から、下卑た男の笑い声が聞えてくる。
この煩い追っ手を撒くのも、僕にとっては極めて容易い事なのだが、
僕は決して逃げているワケでは無い。あくまで後退しているだけだ。

人間は、我々ラムダに比べれば非力で劣った存在だ。
だが、時として侮れない動きを見せることがある。
事実、自分はこれまでに、そういった場面に何度も出くわしている。
昨晩、苦汁を舐めさせられた時のように。

これがもしテッカマン・ランスであったならば、敵に背を向けることなど決して無かっただろう。
『虫ケラに臆する必要など無い!』等と言いうかもしれない。
馬鹿げたプライドだ。
だが、僕の目的は唯一つ。
人限共や己のプライドなどどうでも良い。
ただ一人、兄さんをこの手で殺すことが出来たなら、それでいいのだ。
そのために、最も効率の良い行動を取る。ただ、それだけだ。
さあ、気高き獅子として、間抜けな兎を狩ってやろう。

さて、そろそろ良い頃合だ。

「あれあれ? もう追いかけっこは終わり?
 いいの? こんな狭い路地じゃあ逃げ場ねえぞ? おいおい、撃っちゃうよ、蜂の巣だよオイ!?」
男が、ノコノコと僕の目の前に姿を現す。
迂闊な人間だ。自ら墓穴に飛び込もうとは。
「つーかさあ、こんな狭いトコに逃げ込んじゃってどうすんの? 逃げ場ないじゃん!
 何、お前って馬鹿なの? 後先考えずに走り出しちゃう馬鹿なの!?」

「それは、お前自身のことだろう……?」
言うが早いか、地面を蹴る。
そして、次の地面を蹴る!
そしてまた、次の地面を……!!

「お、おお!? 何だコリャ? ゴムマリかテメェは!?」
“3次元的”な動きに対応できない男の戸惑いが手に取るように分かる。
そう、確かにこの、四方を壁に囲まれた狭い路地において、平面状の“2次元的”な動きでは回避できる範囲が著しく制限される。
だが、僕にとっては、この壁は地面も同然。
すなわち、跳躍と共に壁を蹴り、また壁を蹴るという、ジグザグの回避運動が可能になるのだ。
人間如きが、この縦横無尽の動きについてこられる訳が無い。

案の定、男は僕を目で追うので精一杯、とても銃を撃っているだけの余裕も無いようだ。
無理も無い。そもそもあの銃、確かに威力は高いが、その大きさから見るに、長距離射撃に特化した狙撃銃なのだろう。
とてもこのような至近距離での乱戦に対応できるとは思えない。
さあ、もう終わりにしてやろう。
こんなところで、こんな奴に、無駄に時間を浪費してやる義理も道理も無い。
「死ねッ!」
跳躍の軌道を男の体へと向ける。
このまま、串刺しに――――
166: 2007/11/03(土) 14:17:30 ID:zRm7+QGg(2/4)調 AAS
 
167: そして最後に立っていたのは唯一人 2 ◆P2vcbk2T1w 2007/11/03(土) 14:17:48 ID:CwGw5/j1(2/6)調 AAS
「お前さ、完全調子に乗ってるよな。『僕は超人! だから死んだりする筈無い!』ってよォ!?」

瞬間、男と眼が合った。

ドォン!!
男の銃が火を噴く。
だが、照準は明後日の方向だ。僕に当たる筈は無い。
そして、その制御するに余りある威力の代償、強力な反動が男の体を――
しまった!

「簡単なことだよなあ? どんだけピョンピョン跳ね回ろうが、
 結局お前は俺様のトコに突っ込んで来るんだよ!
 『一撃必殺!』とかカッコ付けたがる勘違い野郎はなぁ!?」

発砲の衝撃によって、男の体が、僕の射線上から外れる。
既に最後の壁を蹴った今、空中での方向転換は不能。
紙一重で、男に攻撃を回避されてしまう。
だが、問題はそれだけでは無い……!

「で、避けさえすりゃあ、次にてめぇを狙うのも簡単だよなあ!?
 何せ、さっきまで俺が居たところにテメェが突っ込んで来るんだもんなあ!?!?
 この近距離、その崩れた体勢……コレでもまだ避けられるッてんなら……避けてみやがれ!!」

「ちぃッ、人間の分際でッ!!」
なんと言うことだ! またしても、人間如きに一杯食わされた状況に陥っている!
だが、この“瞬間”はまだ終わらない!
奴にはまだ、重大なライムラグ――銃の再装填という時間――が残っている。
残されたこの“瞬間”、無駄にはしないッ!!
奴が2度目の引き金を引くより前に、その首、落としてやろう!

「オラァッ、死んじまいなぁぁぁあああッ!!」
男が、引き金を引く。
「死ぬのは貴様だぁああッ!!」
剣が空を切る。

そして、結末が訪れる。
168: 2007/11/03(土) 14:18:39 ID:zRm7+QGg(3/4)調 AAS
 
169: そして最後に立っていたのは唯一人 3 ◆P2vcbk2T1w 2007/11/03(土) 14:19:03 ID:CwGw5/j1(3/6)調 AAS
ドゴォォオオン!!

響き渡る轟音。
それは果たして、ライフルの着弾音か?
それとも、剣の生み出す衝撃か?

――否!

「そこまでだッ! この勝負、東方不敗、マスターアジアが預かったッ!!!」

それは、第三の闖入者が巻き起こした爆音だった。

「……誰って?」
その白スーツの男の一言で、僕はやっと我に帰ることが出来た。
そして、状況をなんとか理解しようと勤める。
突然現れた、この老人。
恐るべき速度で2人の間に突入したというだけでも驚嘆すべきだが、それだけではない。
その一瞬の間に、僕の腕を抑え、男の銃を足で踏み据えたのだ。
崩れた体勢からの一撃とは言え、僕の攻撃を止めるとは、この老人……一体!?

「つ、つーか、人の喧嘩の邪魔するたぁ何様のつもりだこのジジィ!?
 人が折角気持ちよくやってたのに、このオトシマエどうつけるつもりだァ!?
 あー決めた、もう決めた! てめえから先にぶっ殺してやるぜ、覚悟しなぁああああああ
 あああああああああああんじゃこりゃあああああああああああ―――――!?!?!?」

「今はおぬしには席を外して貰おう。今はこの小僧の方に用がある」

言い終わらない啖呵を引きずりつつ、そのまま白スーツの男は空の彼方へと飛んで行ってしまった。
アレも支給品の一つなのだろうか。老人のデイバックから飛び出した、小型の飛行機のような何かと共に。

それはそうと――
「ちぃッ、いつまで腕を掴んで――」
ペースを握られたままの現状に苛立ち、掴まれた腕を力任せに振りほどこうとしたが――断念する。
出来ない。力もさることながら、この老人、全く隙が無い。
悪手を打てば、そのまま一気に斃される。そんな凄みを、この老人は持っている。
「ほう、相手の力量を測るぐらいのことは出来るようだな」
じろりとこちらを睨む、その眼力。
矢張りこの老人、只者では無い……!
170: そして最後に立っていたのは唯一人 4 ◆P2vcbk2T1w 2007/11/03(土) 14:20:06 ID:CwGw5/j1(4/6)調 AAS
「貴様、何者だ……?」
「人に名を聞くのなら、先ずは自分から名乗ったらどうだ?」
張り詰めた空気が、ピリピリと肌を刺す。
一触即発の緊迫感が、空気を刺激物へと変質させてゆく。
「僕は、エビル。誇り高きラダムのテッカマン・エビルだ。 改めて聞こう。貴様の名は?」
「我が名は、東方不敗、マスターアジア。覚えておくが良い!」
バチバチと、目の前で火花が散る。
そんな錯覚が、身を焦がす。
「……そのマスターが何の用だい? わざわざ僕に殺されに来るとは、殊勝な心がけじゃないか」
殺意と敵対心を向き出しの僕に対して、しかしこの老人は一歩も怯まない。
「童が、抜かしおる。だが、一々貴様の戯言に付き合う暇も無い。
 一つだけ答えろ。貴様、あの螺旋王とやらについて、何か知るところは有るか?」
……この期に及んで、情報を求めるとは老獪な。
「あんな奴のことなんて知らないね。冥土の土産をあげられなくて残念だけど」
緊張が高まってゆく。
その最後の一線が破られる瞬間が近づく。
だが――
「そうか。ならば、もう貴様には用は無い。『今は』、な」

「何……?」
この男、ここに来て……どういうことだ!?
「まさか、このまま逃げるつもりなのかい、ご老体?」
「ふむ。ここで貴様と遊んでやるのも一興。
 だが、生憎と儂には、貴様の相手をしてやる、義理も道理も無いのでな」
飄々と答えるこの老人。
しかし、僕はこの老人の真意を測りかねていた。
「まさか、そんな下らない事を聞くためだけに、この場に飛び込んで来たのかい?」
「フン、何を馬鹿な。儂はただ、貴様らの様な『騒乱の種』をここで散らすのは惜しい、そう考えただけのこと。
 貴様らが暴れてくれる方が、人数が減って有り難いと言うものよ」
「へえ、大した自信だ。だが、過ぎた自信は身を滅ぼすよ?
 このまま、僕がおめおめと貴様を逃がすとでも思っているのかい!?」
そのまま、開戦の火蓋を気って落とそうと構えた僕を、
まるであざ笑うかの様に、その男はニヤリと笑った。

「まだまだ青いな。精進が足りん」

「――!!」
先制の一撃を、食らわせるつもりだった。
だが、そこにはもう、男の体は無かった。
地面を蹴った老人の体が、吸い込まれるように上空へと上ってゆく。

老人が、飛んでゆく!

「飛行能力だと!? 人間がどうやって――」
その時、老人の手元で、何かが光る。
あれは――糸!?
そう、あの糸だ。見覚えがある!
忘れもしない、あれは昨晩、あの少年が使っていた――
「フン! 小癪な小道具ではあるが、中々どうして使い勝手が良いものよ!」
これは……またしても一杯食わされたのだ!
先ほど、白スーツの男を連れ去った、妙な飛行機。
あの老人はその飛行機に、あの極細の鋼線を結んでいたのだ。
そして、自分はそれにつかまり、悠々と逃げおおせる。
……その主管、あまりにも鮮やか。
みるみると、老人の姿が小さくなってゆく。
171: 2007/11/03(土) 14:20:57 ID:zRm7+QGg(4/4)調 AAS
 
172: そして最後に立っていたのは唯一人 5 ◆P2vcbk2T1w 2007/11/03(土) 14:21:14 ID:CwGw5/j1(5/6)調 AAS
「待てッ! 行く前に答えろッ!!
貴様、相羽タカヤという男を――テッククリスタルという結晶の事を、知らないか!?」

それが、僕に残された、せめてもの代償行為だった。
だが、その結果は臨むべくも無く。

「知らぬ! だが、覚えておいてやろう! 貴様と再びまみえる、その時までな!
 それまで、精々暴れるが良い! 滾る本能の赴くままに!!
では、さらばだ!!」

そして、老人の姿は、完全に視野の外へと消えていった。

「……」
その場には、僕一人だけが残された。
「フ……」
傷も無い。奪われたものも無い。
「フフ、ククク、ハハハハハ」
手強い敵を相手にしながらも、損失という損失も全く無い。
「ハハハハハ、アーッハッハッハッハ!!」
だが。
「クソッ!!」

ドゴォッ!

僕の拳を受けたビルの壁に、円形の傷跡が刻まれる。
だが、その程度では発散しきれないモヤモヤが胸の中に立ち込めていた。
不快だ。極めて不快だ。イライラする。

「ああ……早く、早く会いたいよ、兄さん……」

一人、荒野に立つ。

我が心の平穏は遠く。
173: そして最後に立っていたのは唯一人 6 ◆P2vcbk2T1w 2007/11/03(土) 14:22:21 ID:CwGw5/j1(6/6)調 AAS
【B-7北西部/路地/一日目/朝】
【相羽シンヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:健康。苛立ち。
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、ファウードの回復液(残り700ml)@金色のガッシュベル!!
[思考]
1:適当な参加者を殺し、首輪を手に入れる。
2:制限の解除。入手した首輪をロイドに解析させ、とりあえず首輪を外してみる。
3:テッククリスタルの入手。
4:Dボゥイの捜索、及び殺害。

【???/1日目/朝
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康。
[装備]:フラップター@天空の城ラピュタ、 超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾20/25)
[道具]:支給品一式(ランダム支給品0〜1を含む)、ファイティングナイフ
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
1:地面に降りる。
2:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
3:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
※フラップターに乗って飛行中。

【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:中程度疲労。全身、特に腹にダメージ。螺旋力増大?
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム、レガートの金属糸@トライガン
[道具]:支給品一式、ソルテッカマン一号機@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝する
1:一時休息を取る。
2:情報と考察を聞き出したうえで殺す。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
4:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
5:できればドモンを殺したくない。
※フラップターに結ばれたレガードの金属糸で飛行中
174: まずはこれからだな 2007/11/03(土) 18:31:38 ID:5quh4te5(1)調 AAS
・参加者リスト・(作中での基本支給品の『名簿』には作品別でなく50音順に記載されています)

5/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
○スバル・ナカジマ/○ティアナ・ランスター/●エリオ・モンディアル/●キャロ・ル・ルシエ/○八神はやて/○シャマル/○クアットロ
5/6【BACCANO バッカーノ!】
○アイザック・ディアン/○ミリア・ハーヴァント/●ジャグジー・スプロット/○ラッド・ルッソ/○チェスワフ・メイエル/○クレア・スタンフィールド
5/6【Fate/stay night】
○衛宮士郎/○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/○ランサー/●間桐慎二/○ギルガメッシュ/○言峰綺礼
4/6【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ/●枢木スザク/○カレン・シュタットフェルト/●ジェレミア・ゴットバルト/○ロイド・アスプルンド/○マオ
5/6【鋼の錬金術師】
●エドワード・エルリック/○アルフォンス・エルリック/○ロイ・マスタング/○リザ・ホークアイ/○スカー(傷の男)/○マース・ヒューズ
3/5【天元突破グレンラガン】
●シモン/○カミナ/●ヨーコ/○ニア/○ヴィラル
4/4【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル/○ジェット・ブラック/○エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世/○ヴィシャス
3/4【らき☆すた】
○泉こなた/○柊かがみ/●柊つかさ/○小早川ゆたか
3/4【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗/●シュバルツ・ブルーダー/○アレンビー・ビアズリー
4/4【金田一少年の事件簿】
○金田一一/○剣持勇/○明智健悟/○高遠遙一
4/4【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿/○パルコ・フォルゴレ/○ビクトリーム
3/4【天空の城ラピュタ】
○パズー/○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ/●ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ/○ドーラ
4/4【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/○玖我なつき/○藤乃静留/○結城奈緒
2/3【R.O.D(シリーズ)】
●アニタ・キング/○読子・リードマン/○菫川ねねね
2/3【サイボーグクロちゃん】
●クロ/○ミー/○マタタビ
3/3【さよなら絶望先生】
○糸色望/○風浦可符香/○木津千里
2/3【ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
○神行太保・戴宗/○衝撃のアルベルト/●素晴らしきヒィッツカラルド
2/2【トライガン】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド
2/2【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ/○相羽シンヤ
2/2【王ドロボウJING】
○ジン/○キール
【残り69名】
175: 2007/11/03(土) 18:49:51 ID:rtp5ATAY(1)調 AAS
参加キャラの限定をしちゃうと、参加できないのは永遠に参加できないと思うんだ
176: 2007/11/03(土) 23:52:33 ID:Yju8G9Xh(1)調 AAS
それはいえるかも
177: 賽は投げられた・side b ◆10fcvoEbko 2007/11/04(日) 00:07:13 ID:UfyUUtG3(1/8)調 AAS
『地響きがする――と思って戴きたい』

店を出て少し歩いた時点で、スパイクは読子がデイパックを置き忘れたことに気付いていた。

『地響きといっても地殻変動の類のそれではない』

指摘してやろうとしたが読子は再び読書に夢中になっており、スパイクの声を届かせるには結構な手間がかかると予想された。
まぁいいか、スパイクはそう思った。

『一定の間隔をおいてずん、ずん、と肚に響く。所謂これは跫なのである』

どうせ中には大したものは入っていなかった。
高価そうなペンダントはスパイクの手で、本人は気付いていないが、読子の首へと移されている。

『たかが跫で地響きとは大袈裟なことを――と、お考えの向きもあるやもしれぬが、これは決して誇張した表現ではない』

それに、先程のはやてという女はしっかり者のようだった。
後で追い付くと言っていたし、ついでに持ってきてくれるかもしれない。

『振動は、例えば戸棚の中の瀬戸物をかたかたと揺らし、建付けの悪い襖をぎしぎしと軋ませ、障子紙をびんびんと震わす程の勢いであった』

読子の本を読むスピードは大したもので、かなりの分厚さであるそれを歩きながらであるにも関わらず、ついさっき読み終えていた。

『子の刻である。折からの雪が、しんしんと江戸の町に降り積もっている』

読み終えてしばらくは頬に手をあてぽ〜っと陶酔の表情を浮かべていたのだが、それが済んだと思ったら再び1ページ目に戻り、再読を始めた。

『つまり冬場の深夜である。だから殆どの者は眠っていた』

スパイクにしてみれば、下らないことでぎゃあぎゃあ騒がれるよりは、おとなしくしてくれている方がありがたい。

『当然音はなく、その所為か余計にそれは遠くまで響いた。』

だが、隣でえんえん本の内容を読み上げられるのは、うっとおしくて仕方がなかった。
178: 2007/11/04(日) 00:07:38 ID:ne2mSuz7(1)調 AAS
 
179: 賽は投げられた・side b ◆10fcvoEbko 2007/11/04(日) 00:08:52 ID:UfyUUtG3(2/8)調 AAS
「やかましい」
「耳を澄ますと、その重低音……ああっ!本、私の本っ!」
スパイクが本を取り上げる。
すると読子は幼児のような慌てぶりで、本を取り返そうと飛び付いてきた。
頭上に掲げると、本しか見えないといった様子でぴょんぴょんジャンプを繰り返し手を伸ばしてくる。
スパイクは押しつけられる体をうっとおしそうにはねのけながら言った。

「うるせぇつってんだ。読むんなら声に出さずに読め。ぶつぶつ呟かれると気持ち悪いんだよ」
「あ、ごめんなさい。私、そんなことしてました?」
照れくさそうに笑いながら、眼鏡を押さえる。
「素敵な文章だと思って、つい」
「だからって2回も3回も読むのかよ」
そもそも本を読まないスパイクには理解できない感覚だ。気持ち悪いものでも見るかのように本の表紙をにらむ。

「面白い本は何度読んでも面白いですよ。
一度読んだ本はそうでない本より少し面白がるのに手間がかかるだけだって、その本の作者さんも書いてます。
ほんとにその通りだと思います」
「そんなもんかねぇ」
「ちなみにその本は47人のお相撲さんが偉い人のお屋敷を襲撃するとっても斬新なお話なんですよ」
「どんな話だよっ!?」
スパイクは思わず本を地面に叩きつけ、土に汚れる直前で読子によってジャンピングキャッチされた。

「本〜〜。駄目ですよ、乱暴しちゃあ」
読子は倒れこんだ姿勢のままスパイクを叱った。
鼻がすりむけていることなど構いもしない。
スパイクは相変わらずの本への執着ぶりに引きつつも、ちょうど読子の意識が読書から外れたので、デイパックについて伝えることにした。
「そりゃ悪かった。ところでリードマン」
「はい?」
本をしっか、と抱き締めながら立ち上がり、ずれた眼鏡を直す。
「お前荷物忘れてきただろ」
「え?あ〜、本当ですねぇ。さっきのお店に置いてきちゃいました」
自分の体をあちこち見下ろしながら言う。
「どうする、戻るのは面倒だぞ」
そこそこの距離を歩いてきた。はやては未だ追い付く気配もない。
「ん〜、別にいいです。もともと私のじゃありませんし、本はちゃんと持ってきてますから」
「その本ももともとお前のじゃないんだが。まぁ、それならとっとと先を急ぐか」
「ご飯はスパイクさんのを分けて貰えばいいですし」
「戻るぞ」
スパイクは全力で道を引き返し始めた。
180: 賽は投げられた・side b ◆10fcvoEbko 2007/11/04(日) 00:10:45 ID:UfyUUtG3(3/8)調 AAS
来た道を戻る途中で放送が流れた。
「何か鳴ってますよ」
「町内放送か何かだろ」
「死亡者とか禁止エリアとか言ってますけど」
「見た目より物騒な街なんだな」
「なるほど。確かに、人の気配のしない街ですねぇ」
「オンセンってのは寂れた街にあるもんだって聞いたぜ」
「なるほど。ところで八神さん、追い掛けてきませんねぇ」
「死体でも隠してんじゃねぇのか」
「なるほど。って、そんな訳ないじゃないですか」
そんなことを話しているうちに、いつの間にか放送は終わっていた。

「……まさか本当に死体を隠してたとはな」
「凄いですスパイクさん。どうして分かったんですか?」
スパイクと読子が昼食をとったラーメン屋の、そのすぐ近くの路地裏で二人は身を潜めていた。
二人の視線の先には、ついさっき別れた八神はやての姿がある。
だが、そこにいたのは先程までの理知的な印象を与えるきっちりしたスーツ姿の女ではなかった。
まず下着姿である。血で真っ赤に染まっているのもお構いなしで土を掘り返している。
そして、はやての脇には死んでから間もないと思われる死体が置かれている。
現在のはやては、下着姿で黙々と穴を掘るという、凄惨な光景を繰り広げていた。
真剣な表情からは、昼食を振る舞ってくれたときの溌剌とした様子は完全に消え去っている。
181: 2007/11/04(日) 00:11:22 ID:TAvvfFeQ(1/2)調 AAS
 
182: 賽は投げられた・side b ◆10fcvoEbko 2007/11/04(日) 00:12:06 ID:UfyUUtG3(4/8)調 AAS
「何で服を着てないんでしょう?」
「血が付くのが嫌だったんだろう。余裕だな」
「あ、見てください。骨、骨が出てきましたよ!」
スパイクは気付かれないように慎重に顔を出した。
確かに掘り返した穴から骨らしき物体がでてきたようだ。
「前に殺した奴の分って訳か。よく見りゃ土を掘るスピードも早すぎる。
どうやら、殺した奴は毎度あそこに埋めてるらしいな」
「ええ?じゃあ八神さんはずっとこの辺りに住んでるんですか?」
「というよりあの店に、だろうな。
俺だって一歩間違えれば今頃あそこに埋まっていただろうさ」
出会い頭に発砲されたことを思い出しながら、納得したようにスパイクは言った。

「でもでも、スパイクさんを撃ったのは勘違いって言ってましたよ」
「最初奴は俺達が二人だとは知らなかった。
2階から降りてきたお前に2対1じゃ適わないとみて、咄嗟にそう嘘をついたんだろ」
「そんな風には見えませんでしたけど……」
「目の前の現実から目をそらすな。
考えても見ろ、奴は俺たちに本当なら窃盗と不法侵入で突き出すところと言った。
そんなことを言うのは警察か、その家の持ち主だけだ」
「あ……」
真実に気付き悲しげに読子は目を伏せた。私達騙されてたんですね、と呟く様が痛々しい。
「とってもいい人そうだったのに……。どうして殺人なんて」
「そうでもしないと、この街では生きていけないのさ」
「え?」

怪訝そうにスパイクを見る。
スパイクははやての行動を冷徹な眼差しで観察しながら言った。
183: 賽は投げられた・side b ◆10fcvoEbko 2007/11/04(日) 00:13:23 ID:UfyUUtG3(5/8)調 AAS
「さっきお前が自分で言っただろ、リードマン。
この街は人の気配がしなさ過ぎる。確かにそうだ。
これだけ歩いて出会ったのはあのはやて、これも今となっちゃ偽名かもしれねぇが、あの女ただ一人だ」
神妙な顔でうなずく読子を横目で見ながら、スパイクは続ける。
「恐らく、この街はなりは綺麗だが実情はかなり悲惨で、ほとんどスラムみたいなもんなんだろう。
だから、ああやって何も知らない連中から金品を奪いでもしないと生活が成り立たないのさ。
それならさっきの物騒な内容の放送だって合点がいく」
「そんな……。……私、あの人と話してきます!」
「行ってどうする!」
飛び出しかけた読子を、スパイクの鋭い声が制した。
固まった読子の背中に向けて言う。
「行ったってどうにもならねぇよ。俺達にできることなんざ、何もありゃしねぇんだ」
重々しい口調で話しながらスパイクは、何となく煙草が欲しいと思った。
視線を空へと向ける。薄汚い路地の壁の上に、恨めしいほど青い空が広がっていた。

「……わかり、ました」
押し殺したように呟かれた読子の言葉は、かすかに震えていた。
ゆっくりとした足取りで路地裏に戻る。
その背中には自らの力の無さに対する絶望が重くのしかかっていた。
「……デイパックは、置いていきます」
かすれた声で紡ぎだされた言葉に、スパイクはそうか、とだけ答えた。

重苦しい沈黙が路地裏に満ちた。
スパイクは再び視線を薄幸の女に移す。死体はほぼ埋め終えたようだ。
誰かは知らないが死んだ者はこの場でのルールをわきまえていなかった己の無知を、あの世で呪うしかないだろう。
すぐに、あの女は家の中に戻るだろう。
そして、自分達が立ち去れば、この場のことは全てお仕舞いとなる。
読子を見る。あれだけ執着していた本を脇に置き、膝を抱えていた。
丸められた背中は、小刻みに震えている。
スパイクは大きく息を吐いた。
本ばかり読んでいても暮らしに困らなかったのだろうこの女にいきなり突き付けるには、辛過ぎる現実だったか。
だが、いつまでもこの場に留まる訳にもいかない。
自分達にできることはせいぜい温泉に入り、この街に僅かばかりの金を落としていくことだけである。
その内の何割がこの街のために使われるかは分からないが。
184: 2007/11/04(日) 00:13:59 ID:TAvvfFeQ(2/2)調 AAS
 
185: 2007/11/04(日) 00:14:36 ID:YU9qJq+4(1/2)調 AAS

186: 賽は投げられた・side b ◆10fcvoEbko 2007/11/04(日) 00:14:53 ID:UfyUUtG3(6/8)調 AAS
スパイクは、努めておどけた口調で言った。
「にしても、あの女あんだけ汚れたら下着だって透けかねねぇぞ。
分かってんのか?」
「…え?み、見ちゃだめです!」
スパイクが考えた程沈んではいなかったのか、読子は想像以上の大声をあげてスパイクに掴み掛かってきた。

「声がでけぇよ!聞こえるだろうが!」
「スパイクさんだってぇ!と、とにかく見ちゃだめですぅ!」
腕を掴み路地に引きずり込もうとする読子にスパイクは抵抗する。
「馬鹿野郎、あんなガキの裸見ていちいち喜ぶか!
そんだけ元気があるならとっととここから……」

『くぁwせdrftgyふじこlp;@!!!!!!!』
スパイクの言葉を遮るように、二人の間に奇声が飛び込んできた。
声のした方に顔を向けると、女の姿は既に無く、奇声は店の中から女があげたもののようだ。
続いて大慌てで作業するような騒がしい音が、スパイク達のところにまで響いてきた。
スパイクはゆっくりと顔を、腕を掴んだままの、読子へと戻した。
「……見ろ。見つかっちまったじゃねぇか」
「……多分、スパイクさんが悪いんだと思います」
そのままの姿勢で二人ともしばし固まる。

やがて家の中から立てられる音が止んだ。
スパイクと読子が次の行動をとりあぐねて息を殺していると、
結構な時間をおいてラーメン屋の窓のが開き、スピーカーだけがにゅうと姿を現した。
「本人は姿を見せないな」
「そりゃ、あんな姿見られたら恥ずかしくて表になんて出れませんよ」
スパイクは、こいつにも人並みにそういう感覚はあるのかと思ったが、口には出さないでおいた。
スピーカーがガガ、と耳障りな音を立て声を発する。
187: 2007/11/04(日) 00:16:05 ID:YU9qJq+4(2/2)調 AAS

188: 賽は投げられた・side b ◆10fcvoEbko 2007/11/04(日) 00:16:24 ID:UfyUUtG3(7/8)調 AAS
『あーあー、あーあー……ちゃんと電源入っとるんかなぁ、コレ?
 ……ええかな?
 えーと、いきなりこんな声が聞こえて来て、ビックリしている人もいると思います。
 私は――ううん、私だけやない、同じような考えを持っとる人の言葉、全部を代弁して言わせて貰います』
下着女の言い訳が始まった。

『――皆、迷っとるやろ?
 おっかない、他人が信用出来ない、死にたくない……何もしないでいても、そんな気持ちばかり湧いて来る。
 いっそ、殺し合いに乗ってしまおうか。そうすれば楽になれるんじゃないか。
 分かるで……私もほんの今の今までそーんな、グチャグチャした考えで頭の中が一杯やった』
「やっぱり、相当苦しい生活をされてきたんですね」
「……ああ」

『せやけど、ちゃうで。
 これは夢なんかやない。全部、全部現実なんや。
 今、銃や刃物を持って目の前の誰かを手に掛けようとしている人がいたとしたら、もう一度考えて見て下さい。
 あなたの目の前に居るのはちゃんとした人間。
 私達と同じように息をして、笑って涙も流すし、ご飯だって食べる、血の通った人間なんや!
 人形なんかやない。本物の……人なんや』
「……なんだ?」
殺人は生活のためであるしこの街では当然のことのようであるから、死体には触れずに下着姿を見られたことへの言い訳に終始するのだろう。
そう思っていたスパイクは予想とは違う話の内容に違和感を覚えた。
たった今慣れた手つきで死体を隠蔽した者の言葉とは思えない。
「……きっと私達に見つかったことがきっかけになって、改心しようって思ったんですよ」
「確かに声を掛けてくるまで妙に長い間があったが……。んなことあるか?」

『そして……な。今、一人で脅えてる子がいたら聞いて欲しいんよ。
 私が、そして同じような気持ちの人が絶対他にもおる! だから心配する必要なんてないんや!
 必ず助けたる、そんで皆一緒にココから脱出して、ロージェノムを捕まえるんや!』
「ほら見てください!
ロージェノムっていう人がこの辺りの人達に苦しい生活を強いている人で、八神さんはそれに抵抗することを決めたんです」
「俺達がクーデターの引き金になったってのか?いくらなんでも無理があるぜ」
目を輝かせて熱弁を振るう読子にスパイクは胡散臭げに応じた。
何か変だ、という思いが胸の中で増大していくのを感じながら。
189: 賽は投げられた・side b ◆10fcvoEbko 2007/11/04(日) 00:17:42 ID:UfyUUtG3(8/8)調 AAS
『それと……そや、制服! 茶色い布地で胸の部分に黄色のプレートが付いてる制服を着ている人間を探してください。
その人達は皆、私の仲間――五人……今は四人に減ってしもうたけど……四人とも、本当に信用出来る仲間です。
 名前は……すいません。今は……言えません。
 だけど、私はコレから北に向かうつもりです。
 例の制服を見かけたら声を掛けて下さい。多分、後は声で分かって貰えると思います。
 最後に……皆、絶対に諦めたりしたらあかんで!!』

「既に犠牲者が……。
きっと凄く長い時間をかけて準備してきたんです。
仲間の人が潜伏してるって言ってるじゃないですか。
スパイクさんは最後に背中をちょっと押しただけなんです。
いえ、スパイクさんがいなくても八神さんはきっと近いうちに行動を開始するつもりだったんですよ」
「相当都合よく解釈してないか……それ?」
読子の想像が広がるのに比例して、スパイクの中の不安は大きくなっていった。
自分達が足場だと思っていたところが実は泥船の上だと気付いたような、そんな感覚だ。
そこまで喋ったところでスピーカーは引っ込んだ。
そして、それほど間を置かず、八神はやてと名乗った女が飛び出してきた。
気分が高揚しているのは確かなようで、頬を紅潮させている。
はやては不思議そうに一度だけ頭を捻ると、強い決意を感じさせる足取りで足早にその場から立ち去っていった。

「あ!八神さん行っちゃいましたよ。私達いなくなったと思われちゃってます。
早く追い掛けましょう。私達にもできることがあると思います」
「ああ…そうだな。あ、いや、本当にそうなのか……?」
「スパイクさん!」
全力で腕を引っ張る読子に引きずられながら、スパイクは思った。

俺達、何かとんでもない勘違いしてねぇか?

【G-4ラーメン屋そばの路地裏 一日目・午前】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
 [状態]:健康
 [装備]:デザートイーグル(残弾8/8、予備マガジン×2)
 [道具]:支給品一式
 [思考]
0.何かおかしくねぇか?
1.とりあえずオンセンに行ってから帰る。
2.読子と一緒に行動してやる。

【読子・リードマン@R.O.D(シリーズ)】
 [状態]:健康
 [装備]:○極○彦の小説、飛行石@天空の城ラピュタ
 [道具]:なし
 [思考]
1.はやてに協力したい。
2.スパイクと一緒に温泉に行ってから帰る。
※はやてがやろうとしていることを誤解しています。
※国会図書館で隠棲中の時期から参加。

※冒頭の読子の音読は京極夏彦著「どすこい(仮)」から引用しました。
190: 2007/11/04(日) 00:37:17 ID:Sp5lZGf+(1)調 AAS
で、ルールとかはどうするんだ?

こんな腐ったルールじゃどうしようもあるまい?
191: 2007/11/04(日) 01:16:26 ID:4bQ3F658(1)調 AAS
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
 優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
 「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

↑これ、最初の一文以外いらないんじゃないか?
192: 2007/11/05(月) 09:27:52 ID:JmpNnKv2(1)調 AAS
この中にアンチスパイラルならぬアンチロワイアルが潜り込んでるな
ジャンプロワのみならずここも壊滅させようってのか
193: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:12:16 ID:6knpSgqL(1/11)調 AAS
ここがどこだか分からない。
今まで何をしていたのかも理解できない。
耳鳴りが激しく、耳朶が痛む。
だが私は虚無と言うべき暗闇の中を、重たくなった体を引きずりながらも進む。
ほの暗い川の中を泳ぐように進む。
己の望みを果たすために。

スベテヲモヤス

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
194: 2007/11/05(月) 21:13:24 ID:J99GgCxn(1/8)調 AAS

195: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:13:25 ID:6knpSgqL(2/11)調 AAS
F-5の街中を北上する四人組の一行があった。
スバル・ナカジマ、アルフォンス・エルリック、泉こなた、マース・ヒューズの四人である。
近接戦闘を得意とするスバル、頑強な肉体を持つアル、戦闘のできないこなた、特殊な力など持たないが抜け目のない軍人であるヒューズ
という四人であったので、自然とこの並びで進むこととなった。
その四人の表情は険しく、放送前の明るさなど微塵も存在していなかった。
一行が暗い理由は至極簡単、死者の名を告げる放送で全員の知人達が呼ばれてしまったからだ。
軍属であり人の死にある程度慣れているマース・ヒューズに対する影響は少なかったが、
他の三人とっては放送で告げられた名に対する影響はヒューズと反比例するかのように大きかった。
こなたが『放送で呼ばれた名は必ずしも死者であるとは限らない』と告げなければ折れてしまうかもしれないと思えるほどに。
故に三人は仲間達の生存を希望と信じ、とりあえずは人の集まりそうな病院の方へと進むことにしたのだ。
希望に対する疑心は大きく重い足取りではあったが、四人は着実に一歩一歩進んでいた。

「あれ?」

そんな時だった。先頭を歩くスバルが何かを見つけ、立ち止まったのは。
スバルが立ち止まるのに一テンポ遅れ、他の三人も立ち止まる。

「どうしたスバル?」

突然動きを止めたスバルにヒューズが疑問の声をあげる。

「いえね、あっちの方に人影が見えたような気がするんです」

スバルは路地裏の一角に一指し指を向け、ヒューズの疑問に答える。
ヒューズを含め三人はスバルの視線の先を見つめるが、何か気になるようなものを見つけられなかった。

「誰もいないよ」

こなたは目頭に手を当てながらスバルに言う。

「うん、気になるようなものはないよね」
「ああ、そうだな」

後の男二人もこなたに同意した。
だがそう言われても、スバル自身が納得できなかった。彼女は目の良さに自信があるのだ

「ヒューズさん、ちょっと見てきたいと思います。」

スバルはヒューズにそう言った。一度気になった以上は調べないと気がすまない。
ヒューズははやるスバルを前にし、少し悩みつつ口を開く。

「そうだな、もし敵だったら事だ」

慎重に行って損は無いとヒューズは判断する。
196: 2007/11/05(月) 21:14:24 ID:J99GgCxn(2/8)調 AAS

197: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:15:01 ID:6knpSgqL(3/11)調 AAS
呼吸の読めない者同士の集団行動は奇襲攻撃のいい的でしかない。
ならば、その可能性を一つずつ消していくべきだ。

「アル、俺はスバルのバックに付くが、罠かもしれねえからこなたを守れよ」

とはいえ、ヒューズはスバルが何かに気付いたこと自体が罠である可能性も忘れない。
心構えがあるのとないのとでは差がある。
イシュバール戦に参加していないとはいえ、軍人であるヒューズはそれを心得ていた。

「はい、分かりました。」

アルは力強く返事をする。もう失う恐怖など味わってたまるものかとばかりに。

「いい返事だ。いくぞスバル」
「はい」

ヒューズはスバルを先に促し、その後に続く。
そして、スバルがヒューズを案内した場所は数十mほど離れた所にある建物と建物の間であった。
ヒューズは離れたところにいるアル達の方へと視線を移す。
こなたが軽く手を振っている様子が見えた。

「リボルバーナックル、セットアップ!」

突如スバルが叫んだ。ヒューズはスバルの方へと視線を向ける。
そこには茶色い制服から、白をメインにした軽装となったスバルがいた。
一瞬の出来事で何時の間に着替えたのかヒューズは察知できなかったが、
錬金術を見慣れていたためこれは魔法の力なのだろう、と納得しておく。

「いきますよ、ヒューズさん」

スバルが先行し、ヒューズが路地裏の中に続く。
路地裏の中は薄暗くはあったが大人二人ぐらいなら肩を並んで歩いても、ある程度の余裕はあるほどであった。
また、薄暗いといっても日が昇った現在では、不気味さを演出する程度の薄暗さだ。
この場で奇襲をするのにベストとはいえない。
だが二人は、奇襲をするのにベストとはいえないことを認識しつつも慎重に進む。
どこで何が起きるか分からないからだ。
路地裏の中を二人は数十歩進み、スバルが見かけたと思われる存在を発見した。
198: 2007/11/05(月) 21:15:50 ID:J99GgCxn(3/8)調 AAS

199: 2007/11/05(月) 21:16:34 ID:zx/n+gA2(1)調 AAS
 
200: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:17:26 ID:6knpSgqL(4/11)調 AAS
マース・ヒューズの友人である、ぼろぼろとなったロイ・マスタングの姿であった。

「ロイ!?」

ヒューズは変わり果てた親友の姿を見て思わず叫び、思わずスバルを押しのけ彼に駆け寄った。

「おい! しっかりしろ、ロイ!!」

ヒューズはロイの体を抱き上げ、揺さぶる。
だが何の返事も返さない。ヒューズは慌てながら心臓に耳を当てた。
とくん、とくん、という心臓の鼓動をヒューズの耳は確かに聴いた。
さらに、ロイの口元に手を当て呼吸があることを確認し、生きていることを確信する。

「大丈夫なんですか。その人」
「ああ、怪我はしているが気を失っているらしい」

ロイの顔を覗きこむスバルにヒューズはそう返す。
ロイの体はぼろぼろではあったが、辺りに血の跡が見受けられずヒューズは命に関わる負傷はしていないと判断した。

「ほうほうの体で逃げ出した……後って感じか?」
「いったいこの人に何が……」
「決まっている。殺し合いに乗った連中に喧嘩を売って返り討ちにあったのさ」

スバルの疑問にヒューズは即答した。
マース・ヒューズの知るロイ・マスタングは殺し合いに乗るような人物ではなかった。
イシュバール戦で、救えずに自分の手で葬った命を錬成しようとするほどのオオバカ者であり。
争いをなくすために大総統の地位を狙うような愚か者であった。
きっと、なにかの諸悪の根源が大総統であったとしても一人で決着をつけようとするだろう。
エドワード・エルリックとの決闘の際も昔のことを思い出し詰めが甘くなってしまうほどだ。
そんな彼をヒューズは殺し合いに乗る人間とは思えなかった。

「そうなんですか」

スバルはヒューズを信頼するが故に、疑わずに彼の言葉を受け止める。
201: 2007/11/05(月) 21:18:22 ID:J99GgCxn(4/8)調 AAS

202: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:18:42 ID:6knpSgqL(5/11)調 AAS
「ちょっと見ててくれスバル。俺は二人を呼んでくる」
「はい、分かりました」

自分のようなおじさんよりも、スバルのような少女に看てもらった方がいいだろうと思い、
ヒューズはスバルにロイのことを任せ、アルとこなたを呼びに行くことにした。
路地裏から這い出し、視線を彷徨わす。物陰に隠れながらこちらの様子を二人の姿が見えた。
ヒューズが手招きすると、二人は物陰から身をだし彼の元へと駆け寄る。

「ロイの奴がいた」
「マスタング大佐が!?」

ヒューズはことのあらましを二人に伝える。
路地裏の中を探索しボロボロになりつつも生存しているロイ・マスタングを見つけたというだけではあったが、
伝えておいたほうが物事がスムーズにいくだろうという判断をヒューズは下していた。

「二人とも付いて来てくれ」

ヒューズはそう言うと路地裏の中へと入っていき、アルとこなたも後へと続く。
そして、三人は見る。地面に頭を付けないように、バリアジァケットを解除したスバルに膝枕をされるロイ・マスタングの姿を。

「……いいご身分なことで」

ポツリとヒューズは誰にも聞き取れない程度の音量で呟いた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
203: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:20:01 ID:6knpSgqL(6/11)調 AAS
四人は近くの民家へとロイを運びこみ、ソファーの上に寝かせ毛布を被せた。
運ぶまでに罠などはなく、落ちついたのでロイの治療をすることなった。

「治療魔法とかは使えないの、スバルちゃん?」
「ごめん、そういう魔法も道具もないんだ」

こなたの質問にスバルは語気を弱めながら答える。
スバル・ナカジマはフォワードで戦う陸戦魔導師であり、自己修復機能を有する戦闘機人である。
故に彼女自身は治療魔法を習得する必要性はなかった。
そして、残された支給品は魔鏡の欠片であった。これではロイ・マスタングの傷を癒すことはできない。

「なら病院だな。とりあえずは、この家で出来る限りの手当てをしてから向かうのがいいだろう」

そうヒューズが結論をだす。その時、屋外から風に乗った女性の声が聞えてきた。

『あーあー、あーあー……ちゃんと電源入っとるんかなぁ、コレ?
 ……ええかな?
 えーと、いきなりこんな声が聞こえて来て、ビックリしている人もいると思います。
 私は――ううん、私だけやない、同じような考えを持っとる人の言葉、全部を代弁して言わせて貰います』

その声の主はスバル・ナカジマの所属する機動六課課長八神はやてであった。
三人の前で、スバルがまるで彫像のように固まる。
八神はやての宣言が終わるまで、全員が沈黙した。

『それと……そや、制服! 茶色い布地で胸の部分に黄色のプレートが付いてる制服を着ている人間を探してください。
 その人達は皆、私の仲間――五人……今は四人に減ってしもうたけど……四人とも、本当に信用出来る仲間です。
 名前は……すいません。今は……言えません。
 だけど、私はコレから北に向かうつもりです。
 例の制服を見かけたら声を掛けて下さい。多分、後は声で分かって貰えると思います。
 最後に……皆、絶対に諦めたりしたらあかんで!!』

それを最後にはやての声は聞えなくなった。
いつまで経っても聞えなかった。
204: 2007/11/05(月) 21:20:09 ID:IozKLmbn(1)調 AAS
 
205: 2007/11/05(月) 21:20:17 ID:J99GgCxn(5/8)調 AAS

206: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:21:31 ID:6knpSgqL(7/11)調 AAS
「ねえスバルちゃん」

こなたがスバルに声をかける。
スピーカーから流れる女性の声は、スバルの名を挙げたわけではない。
だが、発言の内容とスバルの表情からおのずと声の主とスバルの関係は把握できる。

「……気にしないでこなた。北に行くのならそのうち会えるよ」

八神はやての声が聞えてきたのは南の方角としか分からない。
それでは合流できるかも分からない。いますぐ行けば合流は可能かもしれないが、それでも南のエリアを探し回らないといけないだろう。
だがそのためとはいえ、負傷したロイ・マスタングを南に連れていくのはまずい。
出血していないだけにロイ・マスタングの受けたダメージが怖い。
外傷ならば手当ては可能だが、体の内側の負傷であった場合は病院の機器が必要となるだろう。
もしロイが内臓を痛めていた場合は、出来うる限り早く病院に連れて行かねばいけない。
南のエリアを探索している暇などないのだ。
それを考えれば、スバルとしてははやてを探しに行こうとは口が裂けても言えなかった。

「探しにいけばいい」

だが、スバルの心情を察したヒューズは彼女と反対の答えを出す。

「えっ? でも」
「今見つけないと、次のチャンスがなくなるかもしれねえぞ」

ヒューズはスバルの言葉を遮り、自分の意見を告げる。
彼とて馬鹿ではない。スバルの考えた問題などすぐに頭の中に浮かんだ。
が、打算抜きでメリットデメリットを押し込め、スバルに仲間を見つけさせようと考えた。
スバルがいなければ、ロイを見つけられなかったかもしれないという思いもあったが、
それ以上に彼はスバル・ナカジマのことを気に入っていた。

「ロイの馬鹿がこんなんじゃなけりゃあ、俺かアルが付いて行くんだがな」

そして、一旦言葉を切り、険しい顔つき顔になり言葉を続ける。
207: 2007/11/05(月) 21:22:31 ID:J99GgCxn(6/8)調 AAS

208: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:23:02 ID:6knpSgqL(8/11)調 AAS
「一人で行けるな?」

ヒューズは真剣な表情でスバルの瞳を覗き込みながら、最後の決心を促す。
スバルにやらなければならないことがあるように、自分達にもやらなければいけないことがある。
故に瞳だけで決別と再会の意思を伝える。

自分たちはロイとこなたを守らなければいけない。
お前の仲間を探す手伝いはできない。
だけど一人で頑張れるな? と。

スバルはヒューズの言葉に少し、ほんの少しの間だけ悩み、力強く答えをだす。

「はい」

その返事を聞き、ヒューズは破顔する。

「そうか。なら気をつけていけよ」

そして、スバルの肩をポンと叩く。
が、今だ僅かに躊躇するスバルはロイ以外の全員の顔を見回す。

「マスタング大佐と合流できたんだ。次はあなたの番だよ」
「私達のことは気にしないで」

こなたとアルは、それぞれスバルに激励の言葉を掛ける。スバルが仲間と合流できることを信じながら。
そして、スバルの腹は完全に決まった。

「……ありがとう」

スバルは決意する。一刻も早くはやてを見つけ出し四人と合流することを。
四人が危機に遭う前に、帰って来ることを。

「とりあえず、俺達はこいつを手当てしてから病院に向かう。そこで落ち合おう。
 もし、禁止エリアが敷かれちまったら、E-6,D-7,C-6の順に合流場所を変更だ」
「はい! 行ってきます」

ヒューズの言葉にスバルは強く返事を返し、部屋の戸を潜り、外界へと走り出した。
目指すは八神はやてのいるはずの南。一秒でも早く彼女を見つけ出し四人と合流する。
その目的を胸にしてスバルは駆ける。疾風の如く駆け抜ける。

だが、このときスバルを始め、四人はあるはずの物に気付かなかった。
ぼろぼろの体となったロイが辿った軌跡がなければいけないことを。
そう、負傷していたことを知るよしがなかったとはいえ、ぼろぼろとなったロイの体からは血は全く流れ出ていなかったということに。

ロイ・マスタングの体を蝕むデビルガンダム細胞が侵攻していることなど、四人は気付けなかった。
209: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:24:18 ID:6knpSgqL(9/11)調 AAS
【F-5/一日目/午前】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康
[装備]:リボルバー・ナックル(左手)(カートリッジ:6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
道具]:デイバック、支給品一式(食料-[大量のじゃがいも、2/3][水])、ジャガイモカレー(特大)、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、予備カートリッジ(×12発)
[思考]
基本:仲間を集めて事態の解決を目指す
1.はやてを見つけ、ヒューズ達の所へと戻る。
2.ヒューズに従って行動する
3.六課のみんなと合流する
4.キャロもみんなもまだ生きて居ると信じよう
[備考]:病院で合流。禁止エリアの具合によって、病院,E-6,D-7,C-6の順に合流場所を変更。
210: 2007/11/05(月) 21:24:26 ID:GhPH+b0X(1/2)調 AAS

211: 2007/11/05(月) 21:24:40 ID:J99GgCxn(7/8)調 AAS

212: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:25:37 ID:6knpSgqL(10/11)調 AAS
スバルが民家から去った後、三人はロイの体を手当てするためにそれぞれ動きだそうとしていた。

「さて、と。俺は救急箱でも見つけるかね」
「じゃあ、私も手伝います」
「それじゃあ、僕が大佐を見ておきますね」

とそれぞれのやるべきことを決め、三人は腰を上げた。
そして、こなたとヒューズが別の部屋に探索しに行こうとしたとき、
二人の背中にソファーの上で眠るロイの側に寄っていたアルの声が掛けられる。

「二人とも、ちょっと待って」

アルの制止の声に二人は部屋の外から中へと視線を振り向かせる。

「大佐の腕が変なんだ」

そう言って、アルは二人に見えるようにロイの腕を挙げた。
その右腕は異常としか形容されない状態となっていた。
何時の間にか、銀色の鱗が手の甲から爪先を覆っていたのだ。
アルが袖を捲くるとその鱗はぎっしりと右腕を覆っているのが見えた。
見えない範囲の服の下は本当にどうなっているのか分からないほどに。

「……うっ」

その最中だった。唸り声を上げ、寝転んだままのロイが身じろぎをしたのは。
そして、ゆっくりと眉を挙げる。
意識が戻ったと考えたアルはロイの右腕を下ろし、彼の顔を覗きこみながら名を呼ぶ。

「マスタング大佐、僕のことが分かりますか?」

アルがそう言った刹那、彼の体である鎧の首筋から鈍い音共に銀色の蛇が生えた。
いや、それは蛇ではなかった。先ほど全員が眺めていたロイの右腕であった。
それがアルの首筋を貫いていた。
避けることは出来なかった。まさか知り合いに、仲間と思っている人物に襲われるとはアルは夢にも思えない。

「…………アル君?」

こなたは無意識にアルの名を呟いた。
だが、彼が返事をすることはなかった。ロイ・マスタングの貫手により、魂と鎧とを結ぶ血印を一撃で破壊されていたのだから。
F-5の民家には、生者と言っていい人間は状況の変化についていけないマース・ヒューズと泉こなた以外に残されていなかった。
213: 2007/11/05(月) 21:26:27 ID:GhPH+b0X(2/2)調 AAS

214: 2007/11/05(月) 21:26:31 ID:J99GgCxn(8/8)調 AAS

215: 出会いと別れ  ◆5VEHREaaO2 2007/11/05(月) 21:26:57 ID:6knpSgqL(11/11)調 AA×

216: あと、ここらへんか? 2007/11/05(月) 22:58:47 ID:aEOQ59ZE(1)調 AA×
>>1

217: 2007/11/06(火) 00:07:42 ID:osc7E/5E(1)調 AAS
ほぼいらない
218: 2007/11/06(火) 20:05:49 ID:4LcIheB2(1)調 AAS
だな
219: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:24:28 ID:gJSO33Su(1/12)調 AAS
 時計の短針が、きっちり西の数字を刺そうかという頃。
 読子の残した拡声器で思いの丈をぶつけたはやては、北にあるデパートを目指して一心不乱に走っていた。
 股下を通り抜けていく冷たい風が、はやての足を加速させる。
 走るスピードが上がると、風が余計に冷たく感じ、また速度が上がる。
 そうやって、はやての足はどんどんどんどん加速していく。
 周囲の警戒を怠らせるほど、まるで全力全開の徒競走でもしているかのように。
 なぜ、彼女はこんなにも焦り、スピードを出しているのか。

 だって、なんや気持ち悪いんやもん!

 と、彼女の今の気持ちを代弁するなら、これ以外にはないだろう。
 考えてもみて欲しい。花も恥じらう乙女が、寒空の下で下着未着用。
 ……降りかかる精神的圧力は、並大抵のものではない。
 吹き抜ける冷風の心許なさが羞恥心に上塗りされ、なおもスピードは上がる。
 股下が寒さを訴えているにも関わらず、額から汗が滲み出るほどに。

「ここもあと二時間くらいで禁止区域か……万が一っちゅーこともあるやろうし、ここは回り道するべきやろか」

 と、はやては地図でいうところのG-6とH-6の狭間辺りで葛藤していた。
 制服の下の惨状を思えば、一刻も早くデパートに赴き例のブツを入手したい。
 が、北への最短ルートであるG-6は、11時をもって禁止エリアに指定されてしまう。
 もし、G-6を通過中になんらかのトラブルに巻き込まれ、身動きが取れなくなりでもすれば、即ドカン。
 そんなお間抜けな最後を想定したくはないが、既に色々な出来事が起こっている現状、危険な藪からはできる限り遠ざかりたい。
 というわけで、はやてはG-6を迂回し、H-6の北部を東に向かって走り抜けていた。
 早く下着を入手したいという衝動はあるが、思考はちゃんと冷静に働いていたのである。
 さらに途中、どのルートを通るか迷ったため、多少右往左往したことも付け加えておこう。
 それで迷惑した人物が若干二名ほどいるが、柔肌の状況を第一に心配するはやてにとっては、知るよしもないことだ。

「そういや、パズーは今どの辺にいるんやろか……結構焦っとったからなぁ、禁止区域のこと忘れてへんやろか」
「なぁ、なにをそんなに急いでるんだ?」

 ふと、あの危なっかしくも勇ましい少年のことを思い出していると――何者かの声が、走るはやてを呼び止めた。

「な……なんや、今の声? 空耳、やないよな」
「こっちだこっち」

 足を止め、視線を右に左に。としているうちに、親切にも声はまた発され、はやてはその主が上にいるのだということに気付いた。
 そう、上。森林内の地面に立つはやての上と呼べる場所は、一つしかない。
 それは木の上だった。はやてのちょうど真上、一際大きく聳えるその大樹の枝に、声の主は悠然と立っていた。

「な――」

 顔を上げ、思わず絶句する。
 大樹というからには、当然その全長は人のそれよりもずっと高い。
 そんな高さの木に易々と登り、枝の上に立ってなおバランスを崩さない卓越した体捌きは、元サーカス団員である彼だからこその技だ。
 と、普通ならばその身体能力に目がいくところだろうが、はやてはなにもそんなつまらないことで驚いているわけではない。
 もっと、視覚的にインパクトがあった。
 もっと、脳髄に大打撃を与える映像だった。
 もっと、まともな出会いがしたかったと――後々思うのかもしれない。

 八神はやてに声をかけた木上の男、クレア・スタンフィールドは――腰にタオルを巻いただけの、『ほぼ全裸』だったのだ。

「なんやあんたぁー!?」
220: 2007/11/06(火) 20:25:32 ID:ofN+AgK4(1/5)調 AAS

221: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:25:41 ID:gJSO33Su(2/12)調 AAS
 あまりにも自由自適で無防備な姿に、はやては思わず腰を抜かしてしまう。
 脳裏に数時間前の強姦未遂事件の光景が過ぎり、背筋を怖気が駆け抜けた。
 異常な状況下であるがゆえに、犯罪に走ってしまったあの少年とは違う。
 本能で感じた。目の前の存在は、殺し合いなど関係なしに、生粋の変態だと。

「腰を抜かすな。さすがの俺も少し傷つく」

 言うような気配は微塵も感じさせない飄々とした顔で、クレアは地表目がけて飛び降りる。
 くるっと一回転しながら着地し、やはり身体能力が尋常ではないことをアピールするが、
 あいにく彼の腰を覆っている布が捲れそうになったので、はやては目を背けてしまった。

「ど、どどどどどどちら様でしょうか?」
「動揺するな。まぁ言わんとすることはわかるがな。服はまだ乾いていないんだ。風呂上りで朝風を楽しみたい気分でもあったしな」

 なにやら弁明をしているクレアだが、はやてにとっては知ったこっちゃない。
 彼はどう足掻いても全裸であり、ここは室内ではなくお天道様の下であり、そして健全な婦女子の目の前だ。
 そんな状況で、いかなる理由があればうろたえずにいられるというのか。
 少なくとも、はやての繊細な乙女回路では許容しきれない問題だった。

「……声を聞いたんだ。この殺し合いという事態について、自らの見解を訴える女の声だ」
「えっ?」

 クレアが切り出した本題に反応し、はやては僅かに視線を戻すが、耐え切れずにまたすぐ逸らす。

「この状況に戸惑い怯えている者を救済するかのような言葉だった。それがまたずいぶんと感情入っていたみたいでな。
 それが悪意あるものには思えなかった。それで興味を抱いた俺は、こうして作業を中断し声の主を探していたんだが……」

 視線は合わせず、耳だけを傾けてはやては考える。
 つまり、この裸男ははやての拡声器による主張を聞き、ここまで全裸で馳せ参じてきたらしい。
 そういえば、あのラーメン屋の外周エリアには温泉があった。となると、この男は温泉からやってきたのだろうか。
 服が乾いていないだかなんだか知らないが、なにもそんな姿で来ることはないだろうに……と、はやては心中でぼやいた。

「そ、そですか。なら、こんなところで油売ってないで、早く声のしたほうへ向かったほうがいいんじゃないですか?」

 経緯はどうあれ、このような人とはあまりお近づきになりたくない。
 素直な感情でそう思ったはやては、他人のフリを決め込もうとしたが、

「なにを言ってるんだ。あの放送を行っていたのはおまえだろう?」

 時、既に遅し。

「おまえ、日本人か? よくは知らないが、そんな特徴的な口調の人間はそうそういないだろう」

 クレアがはやての盲点を突くとともに、一歩歩み寄り、一歩分退かれる。
 名簿を見る限り、日本人らしき人物は相当な数がいたが、その中で関西弁の女性が複数いるかといえば、確かに疑問だった。
 迂闊だった。あの放送はもとより人を集めるためのものではなかったため、本人特定の可能性など思慮の外だったのだ。
 どうせ、寄って来るのは殺し合いに乗った人間。だから早々に立ち去る気でいたのに、不幸にもこんな変質者と遭遇してしまうとは。
 回避しようがなかった偶然の不幸だが、禁止エリアを避け温泉に近寄ってしまったことが、はやての最大の不手際と言えた。

「た、確かにあの放送は私が流しましたけど……た、他意はないのでお構いなく」
「あの内容で他意がないわけがないだろう。それに、なにをそんなに怯えているんだ?
 俺の格好に動揺しているのはわかるが、これは考え方を変えれば武器を持っていないというアピールでもあるんだ。
 さっきも言ったが、俺はおまえの訴えに興味を持ち共感したからこそ、ここまでやって来た。
 この悲惨な状況に怯える女を、この俺が助けてやろう、ってな」

 クレアがまた一歩歩み寄り、はやては今度は退かなかった。
222: 2007/11/06(火) 20:26:19 ID:4s8DebEP(1/9)調 AAS

223: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:26:54 ID:gJSO33Su(3/12)調 AAS
「私が……怯えてる?」
「ああ、そうだ。おまえがなにを見てなにを感じ、なにを思ってあんな真似をしたかは知らないが……
 あれは、よほど切羽詰った人間じゃなきゃできることじゃない。なにせ、自分から殺し合いに乗った人間を煽っているんだからな。
 もちろん、おまえの声を聞いて勇気を出す参加者もいるだろう。だが、そんな奴が声の届く範囲に必ずいるという保障はない。
 そんなことは、誰でも考えつく。メリットとデメリットの比率に。それを理解してなお、おまえは訴えかけたかったんだ」

 気が付くと、はやてはいつの間にかクレアの不敵な笑みに目を奪われていた。

「おまえは哀れな迷い子だよ。与える影響は二の次。ただ叫びたかったんだ。堪え切れなくなったら泣く子供と同じさ。
 俺はそんなおまえに、少し同情したのかもしれない。なぁ、よければ俺に全部話してみないか? 
 なにがあったか全部。話せばスッキリするし、俺にもなにか協力できることが見つかるかもしれない。
 俺は車掌だが、だからといって乗客以外を切り捨てる気は毛頭ない。助けを求めている奴がいれば助ける。
 なぜなら、俺がそうしたいからだ。逆に、そうしたくなければしないがな。ムカツク奴は無視するし」

 呆然と聞き入るはやてを眼下に、クレアは淡々と語り続ける。
 クレアの考えを理解していくうちに、はやては次第に彼に対する印象を、『視覚的に変な奴』から『全体的に変な奴』に変えつつあった。
 裸身がどうという話ではない。その滅茶苦茶な言動からもわかるように、クレアという存在は、はやてが未だかつて相対したことのないタイプの人間だった。

「私は……」

 それでも、クレアの指摘が見透かしているかのように的を射ているのは事実。
 不思議な言霊に先導され、はやては真実を語りたい衝動に駆られる。
 自らが犯した過ちを、出会ったばかりのクレアに懺悔したくなったのだ。
 ふらふらと立ち上がり、はやてはパクパクと口を上下させる。
 なにもかも吐き出したかった。なおも心の中で渦巻く葛藤に、ケリをつけたくなった。
 そうやって、はやてが上下する口に音を乗せようとして、

「私…………ヴァ!?」

 不意に吹き込んできた風の悪戯が、クレアの腰のタオルを捲り上げた。
 ぺラッと。いや、むしろペロンと。
 そして、タオルに覆われていたアレがはやての目に飛び込んできた。
 チラッと。いや、むしろモロッと。

「ヴァ、ヴァ、ヴァ、ヴァ」

 もちろん、初めてである。
 なにがどう初めてなのかは、語るのも野暮と言うものだろう。
 その辺の事情については、絶賛赤面中のはやての顔を見て察してほしい。

「ヴァ――――ッ!?」

 たまらず、はやてはその場から逃走した。
 なにもかもがエキサイティングで、そのうえショッキングでもあり、チラリズムだった。
 とにかく、筆舌に尽くしがたい状況に陥ったはやての乙女回路は、本能的にクレアからの逃走という命令を下した。

 ……だが、ここは整地された街路ではない。木の葉や小石、木の根が大地を敷き詰める森の中だ。
 そんな場所で、我を忘れて走り出そうものなら……

「あべしっ!?」

 当然、思いっきりすっころぶ。
224: 2007/11/06(火) 20:27:37 ID:ofN+AgK4(2/5)調 AAS
 
225: 2007/11/06(火) 20:28:09 ID:4s8DebEP(2/9)調 AAS

226: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:28:26 ID:gJSO33Su(4/12)調 AAS
「…………たたた」

 柔らかな土に顔面から滑り込み、はやては鼻を押さえた。
 思い切り転んでしまった。こんな見事な転びっぷり、本場のお笑い芸人でも真似できない。
 鼻の穴がむずむずする。どうやら木の葉の欠片が入り込んでしまったらしい。
 手の平がひりひりする。どうやら手をついたとき、軽く擦り切れてしまったらしい。
 おしりがスースーする。木の間を吹ける風が、むき出しの臀部を刺激しているらしい。

(……ん? ちょい待ち。おしりがスースー……って!)

 得体の知れぬ危機感を察知したはやては、うつ伏せに倒れたまま、がばっと後ろを振り向いた。
 その視界の奥には、キョトンとした表情で立ち尽くすクレア。
 目と目が合い、互いに「あっ」と口を漏らす。
 視線の焦点は、二者の間、はやての天に突き上がった尻に向いた。

 機動六課女子制服の短めのスカートが、転んだ際の衝撃で捲れていた。
 ぺラッと。いや、むしろペロンと。
 そして、下着を身に付けていなかったがために、それはむき出しの状態で露出してしまった。
 チラッと。いや、むしろモロッと。

「…………あ、あ、あ」
「……さすがの俺も困惑している。だけど、たぶんここは謝っておいたほうがいいんだろうな。すまん」

 結果から言って、クレアの先立っての謝罪は、残念ながら受け入れてもらえなかった。
 その後のはやての阿鼻叫喚ぶりといったら、六課部隊長の体面もなにもあったものではなく、乙女としては当然の反応とも言えた。
 顔を真っ赤にしながら怒るはやてにクレアは笑顔を作り、それを見てはやてはさらに怒った。
 そんなやりとりが何回か続き、はやては結局クレアからの逃走を果たせないまま、主導権を彼に引き渡すこととなる。

 ――スバルやティアナ等、はやてを尊敬の眼差しで見る六課新人たちからしてみれば、意外な一面と捉えられていただろう。
 だが、この喜怒哀楽に溢れた活発な姿こそが八神はやてという少女の素であり、本質なのである。
 ヴィータやシグナムといった守護騎士たち、高町なのはやフェイト・T・ハラオウンといった親友たちに見せる、朗らかな笑顔。
 騎士カリムによる管理局内部崩壊の予言、闇の書事件の罪悪感などで、しばらく靄がかっていた本性。
 それは先の間桐慎二誤殺の件で再び失われつつあったが、今この瞬間だけは、本来の八神はやてとして存在していられた。
 方法はどうであれ、その変化を齎す要因となったのは他でもないクレアであり、このことは当人たちも気付いてはいないのだろう。
 今はただ、素の感情で言い争いを繰り返すばかりだ。
 ただ、それだけ。
 それだけのことが、はやてにとってなによりの清涼剤だった。

 ◇ ◇ ◇
227: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:29:50 ID:gJSO33Su(5/12)調 AAS
「――で、そいつをここに連れてきたのか」
「ああ。言っておくが、人手として連れてきたわけじゃないぞ。温泉を利用する客として招いたんだ」

 喋るトラネコのマタタビと、服はやっぱりまだ乾いていなかったため全裸のままのクレアの会話。
 あのビックリドッキリハプニングの後、クレアはどうにかはやてを説得し、温泉まで連れてきた。
 ちなみに、そのときの口説き文句がこうだ。

『なにがあったかは知らないが、話すにしてもひとっ風呂浴びて、頭をスッキリさせてからのほうがいい
 それに、これは俺みたいな奴じゃなきゃ気付けないだろうが……血の臭いっていうのは、しつこく染み付くんだ。
 簡単に落としきれるもんじゃない』

 葡萄酒(ヴィーノ)の名で知られる伝説の殺し屋、クレア・スタンフィールドは、職業柄鼻が利く。
 特に、血の臭いには敏感だ。本人はしっかり洗い流したつもりでいても、水洗だけでは肌に染み込んだ臭いまでは落とせない。
 そこで、クレアははやてに温泉で改めて体を清めることを勧めた。クレアの指摘を気にしたはやては、それに乗ったというわけだ。

「あの女も、この僅か数時間でかなり波乱万丈な道程を歩んできたらしい。
 それがまた酷いもので……いや、やめておこう。プライベートに関する話だしな。知りたきゃ本人に聞いてくれ」
「拙者には関わりのないことだ。あの女が客というのなら、おまえが勝手に持て成せ。興味ない」
「そうか」

 器用に握ったトンカチで、木材に釘を打つマタタビ。その横で、クレアは鉋を削りながら喋っていた。
 温泉に移動するまでの道中、はやてはクレアの口車に乗せられたのか、隠していた事情を全て暴露していた。
 少年に強姦されそうになったこと、その少年に抵抗した結果、相手を殺してしまったこと。その、懺悔を。
 事情を知ったクレアは、やはり同情した。ああ、そりゃ災難だったなと。純粋に可哀想だと思った。
 一部では怪物などと呼ばれ恐れられるクレアだが、その性格は決して冷酷ではない。
 自己中心的なのは否定できないが、他者に対する慈悲や哀れみの心は、ちゃんと持ち合わせている。
 むしろ、彼は戦場で泣き叫ぶ子供がいたら、率先して助けるタイプの人間だ。
 現実に甘いわけではない。そうするだけの余裕があるからこそ、彼はそうするだけなのだ。
 だから、この殺し合いの現場でも、悠々と全裸で行動できる。服を着ていなくても、支障がないから。

 ちなみに、クレアが客として招いた八神はやては、現在入浴中である。
 クレアとマタタビは仕事場をわざわざ湯船の見えぬ範囲に移し、はやてが上がってくるのを待っていた。

「ま、人手が欲しいのは否定しないが、おまえが一人で十人分の働きをしているからな。別に困りは……」
「ああ、そのことなんだがな。悪い。ひょっとしたら、もうすぐおまえを手伝うことができなくなってしまうかもしれない」

 手は休めず、不意にクレアがそんなことを漏らす。
 やや遅れて「ハァ!?」と反応したマタタビを無視し、クレアは鉋を置いて明後日の方向を向く。
 そこには、湯上りでほんのり顔が上気した八神はやてが立っていた。

 ◇ ◇ ◇
228: 2007/11/06(火) 20:30:45 ID:4s8DebEP(3/9)調 AAS

229: 2007/11/06(火) 20:30:54 ID:ofN+AgK4(3/5)調 AAS
 
230: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:31:28 ID:gJSO33Su(6/12)調 AAS
 なんであんな迂闊なことをしてしまったのだろう、とはやては今さらながら不思議に思う。
 迂闊なこととは即ち、相手に疑心を与えかねない強姦と誤殺の話を、クレアにひょいっと話してしまったことだ。
 彼は車掌と言っていたが、本当は口の達者な弁護士か交渉人かなにかではないだろうか。
 でなければ、あんな風に口軽く事情を話してしまえるわけがない。
 それとも、単に自分の心がそれだけ磨耗していただけなのだろうか。
 と、はやては数分前のことを思い返しながら、ピンク色に染まった裸身に六課の制服を着込む。やはり下着はない。

「石鹸のいい香りだ。血の臭いは完全に落ちたようだな。俺が言うんだから間違いない」
「それはおおきに。クレアさん、でしたっけ? そろそろ服を着たらどうですか?」
「すまん、まだ服が乾いていないんだ。だが、もういいかげん慣れただろう?
 それに、タオルも短いものではなくバスタオルを巻いた。これでもう安心だ」

 確かに風に吹かれて捲れるような心配はないだろう。だが、そういう問題ではない。ツッコむのも馬鹿馬鹿しいが。
 湯から上がったはやては、その足で再びクレアの下に向かった。
 そっと出て行ってしまってもよかったのだが、温泉にやって来た際、大工仕事をするトラネコの姿が目に入り、無視できなくなってしまったのだ。
 思い出されるのは、喋る黒猫との邂逅。おそらくあのトラネコは、クロの言っていたマタタビに違いない。
 当の本人ははやてになど興味がないのか、クレアに出迎えの挨拶をするだけで、自らの仕事に没頭していた。
 声をかけようとも思ったが、まずは温泉に入り、落ち着いてから情報交換をすべきだと、そのときは判断したのだ。

「おいクレア! さっきの言葉はどういう意味だ!」
「すまないなマタタビ。俺はこの女と話さなきゃならないことがあるんで、少し席を外させてもらう」
「あ、待って。私もその猫さんに話したいことが――」
「そんなのは後だ」

 マタタビに声をかけようとしたはやてだったが、クレアに遮られ、無理矢理連れられて行ってしまう。
 なんとも自分勝手な男やなぁ、とは思いつつも、はやては流されるまま森の奥へと移動させられる。
 タオルで覆う面積が増えたとはいえ、上半身全裸の男に手を握られるのはやはりいい気がしない。
 顔が火照り、心臓の鼓動もどこかペースか速くなっているような気がする。

(本当に、変な人。こんな変な男の人に会うのは初めてや)

 はやてはクレアの引き締まった上半身に目を奪われつつ、そう思った。

 温泉敷地内の片隅で、クレアは足を止めた。どうやら、二人きりで話す空間が欲しかったらしい。
 誰もいない森の中、少女の相手が熊さんなら童謡みたいでファンタジックだが、裸の男とあってはムードも台無しだ。
 とりあえず、クレアは殺し合いに乗っているとかいないとか、そういう次元の人間ではないと思われるため、はやては命の心配だけはしていなかった。
 が、それゆえに彼がなにを切り出すかまったく予想が出来なかった。
 文句も言わず連れて来られたのは、クレアという人間に対して、微かに好奇心が働いた結果なのかもしれない。

「さて、まずはなにから話そうか……」

 顎に手を当て天を仰ぐクレアは、一、二秒考える仕草をしてから、棒立ちのはやてを見つめる。

「そうだな、やはり最初は謝罪といこう。すまん。俺が悪かった」

 にこやかな笑顔に反省の色を僅かに混ぜ、クレアははやてに頭を下げた。
 謝られたはやては、なにがなんだか意味がわからない。目の前の男は、いったいなにをそんなに申し訳なさそうにしているのか。

「なぜそんな不思議そうな顔をする? まさか、俺がデリカシーのない男だとでも思ったのか?
 だとしたら心外だ。こんな格好をしている俺が言っても説得力はないかもしれないが、
 俺はちゃんと女性の羞恥心というものを理解している。いくらあれが風の悪戯だったとはいえ、非は俺にある。
 それを認めているからこそ、こうやって改めて謝罪しているんだ。いや、本当に申し訳ない」
231: 2007/11/06(火) 20:32:13 ID:4s8DebEP(4/9)調 AAS

232: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:32:44 ID:gJSO33Su(7/12)調 AAS
 ああ、なるほど。そういうことか。
 はやてはクレアが『アレ』を見てしまったことに対して謝罪しているのだと理解し、たまらず笑みを零した。
 確かにあの事故による精神的被害は乙女の一大事といえたが、なにもクレアに悪意があったわけではない。
 その辺ははやて自身も理解しているから、今さらとやかく言うつもりもなかったのだが、クレアはそれを気にしてくれていたというわけだ。
 確かに裸という点を考えれば説得力はないが、はやてはクレアに対する認識を少しだけ改めた。

「あーあ、私、もうお嫁にいけへんかもしれんなぁー」

 そんなクレアがおかしくって、はやての悪戯心がついそんなことを口走らせてしまった。
 この、変だけど根はいい人そうな男は、どういった反応を見せるだろうか。そんな好奇心に駆られてしまったのだ。

「そうだろうな。だから、俺は考え決心した。俺は――おまえに対して責任を取ろうと思う。話の本題はそれだ」

 と、予想外にも真面目に切り返してきたクレアに、はやては脳内で疑問符を浮かべる。

「責任? 責任って、なんの責任です?」
「だから、俺が、おまえのアレを見てしまったことに対する責任さ」
「いや、それはなんとなくわかりますけど、責任を取るってどうやって?」

 クレアの真意が読めないはやては、純粋に首を傾げていた。
 幼少から仕事熱心だったせいだろうか。その方面には疎いはやてとしては、本気でクレアの意図がわからなかったのだ。
 そんなはやてに、クレアはさも当然という顔で言う。

「わからないか? ならストレートに言おう。俺と結婚してほしい」

 瞬間、はやての世界が止まった。
 目に映る光景が、凍りついたように動きを止める。
 色彩豊かな森の情景が、灰色の絵の具で塗りつぶされていくような感覚だった。

「おまえも俺のアレを見てるんだし、おあいこだとは思うんだが、やはり男と女では精神的損害が違うだろうしな。
 ただ償いをするだけじゃ男としてどうかとは思うし、このまま帰ったら、キースの兄貴に絶交されかねない」

 口を開いてぽかんとするはやてを尻目に、クレアはのうのうと言葉を続ける。

「あ、ひょっとして愛のない結婚は嫌だとか思ってるか? 大丈夫、愛するから。
 こんなことを面と向かって言うのは照れるが、俺はおまえに一目惚れしたんだ。
 境遇に哀れんだとか、単にアレを見たことに対する責任を果たすためじゃないぞ。
 もちろん軟派な態度で言っているわけでも冗談で言ってるわけでもなく、本気で言ってるんだから問題はないはずだ」

 クレアの言っている意味がさっぱり理解できないはやては、返事も返せぬまま、ゆっくりと顔を赤らめていく。

「返事は今すぐ返してくれなくてもいい。だが、当面はおまえに付いて行こうと思う。
 ここで待っていてもいいんだが、状況が状況だ。俺の知らぬところで、また誰かに襲われでもしたら大変だしな。
 だから、俺はおまえを守りつつともに行動する。返事はここから出るときまでに考えておいてくれ」

 上半身裸での告白。十九歳で初めて受けるプロポーズ。なにかもが、はやてにとって衝撃的だった。

「反応が薄いな。ひょっとして俺の言葉が信じられないか? 言っておくが、俺は無敵だ。
 どんな敵が相手だろうと、絶対に死なない自信がある。なぜなら、世界は俺を中心に回っているからだ。
 俺が殺される心配はないし、俺が守ると決めたものは、確実に守り通せる。
 だから心配は無用だ。そしておまえも信じろ。俺が、絶対に死なない男だと」

 人生で、これほど困惑したことはなかったかもしれない。
 はやては、クレアという今までに相対したことのないタイプの男性に魅せられ、その場に立ち尽くした。
 なにも考えることができない。股下の冷たい違和感も、今に限って言えば気にならない。
 ただ胸が高鳴り、その理由もわからないまま、全身が高揚していく快感に捉われる。
 はやての意識はクレアの真摯な瞳に奪われ、完全に我を忘れていた。
233: 2007/11/06(火) 20:33:35 ID:rTyMJ99/(1/3)調 AAS
 
234: 2007/11/06(火) 20:34:09 ID:ofN+AgK4(4/5)調 AAS
 
235: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:34:24 ID:gJSO33Su(8/12)調 AA×

236: 2007/11/06(火) 20:34:55 ID:rTyMJ99/(2/3)調 AAS
 
237: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:35:38 ID:gJSO33Su(9/12)調 AAS
 ここで裏話を一つ。
 言峰の言葉から狂い始め、慎二の横暴で加速し、自らの意志でどうにか軌道修正したはやての心は、クレアの思わぬ行動で急展開を見せる。
 その裏側、はやてとは比較的関係のないところで、彼女に接触を図ろうと暗躍する影があった。
 そう、スパイク・スピーゲルと読子・リードマンの二人である。

「もぉ〜! スパイクさんがのろのろしてるから、八神さんを見失っちゃったじゃないですか!」
「俺のせいかよ」

 人気のない森の中。大胆なことに、そこはあと数時間で禁止エリアとなるG-6あたりだったろうか。
 この現状を殺し合いと認識していないスパイクと読子には無用な心配ではあったが、このままここに留まれば首輪が爆発してしまう。
 いくらなんでも、この実験のルールを認識もしないまま事故死したとあっては、笑い話にもならない。
 だが、現実は非情である。この間抜けな二人に現実を教授してやれる者はこの場には居らず、勘違いだらけの珍道中はまだまだ続く。

「なぁ、リードマン。やっぱなんかおかしくねぇか?」
「もう、まだウジウジ悩んでるんですか? そうこうしている間にも、八神さんは一人ロージェノムさんと戦ってるかもしれないんですよ!?」

 なにやら強い使命感のようなものを覚えている読子だったが、反対にスパイクのほうは、正体の掴めぬ違和感に捉われ続けていた。
 はやてが真に伝えたかったこととはいったいなんなのか。今思うと、やはり読子の見解はどこか外れているような気がする。
 スパイクは思考の海と森の大地を同時に進行し、今はそのせいで見失ってしまったはやてを探すため、彷徨い歩いてる最中だ。
 どちらにせよ、読子の荷物の件もある。はやてとの再会は必須だろう。
 スパイクは考え直し、はやての捜索に専念しようと顔を上げるが、

『なんやあんたぁー!?』

 突如として響いてきた奇声に反応し、後ろを振り向いた。

「聞いたか、リードマン?」
「ええ。今の、八神さんの声でした」
「ああ。しかもありゃ悲鳴だ。こりゃ、面倒なことになってるかもしれねぇぞ」
「急ぎましょう、スパイクさん!」

 スパイクと読子は声の響いてきたほうへ、一目散に駆け出した。
 あの奇声、恐らくはクーデターがバレ、ロージェノムの一派に粛清されようとしているに違いない。
 面倒事は御免だが、はやてには朝食を振舞ってもらった恩がある。それに、読子もやる気満々のようだ。
 スパイクは急ぎ、先頭に踊り出ると、程なくして二つの人影を発見する。

「――ィッ!?」

 と、その人影を発見するや否や、小さく喘いでなぜかユーターン。
 後方の読子を立ち止まらせ、力ずくで彼女の顔を横に向かせた。

「ふ、ふパイクさん!? な、なんでふか、どうひたっていうんでふか!?」
「見るな。おまえは見るな。とりあえず待て。あれを大勢の目に晒すのは――残酷すぎる」

 両手で読子の頬をサンドイッチにし、スパイクは彼女の視線を明後日の方向に誘導させようとする。
 が、読子もそれに抗い、唇の尖った不細工面を作りつつも、スパイクの奥にいるはやてを視認しようと試みる。
 おかしな攻防戦だったが、スパイクの表情は至って真剣な――哀れみの顔だった。

 ……スパイクが先駆けて視認したはやての姿は、よりにもよって天に向かって半ケツを晒している状態だったのだ。

 あれはある意味、血に濡れて透けた下着姿を見られるより恥ずかしい。なにせ、ポージングがあり得ない。
 読子がいくら理解ある同姓であろうと、あの姿をより多くの人間に見せるのは酷すぎる。自分だったら死にたくなる。
 だから、衝動的に読子の視線を背けさせた。これ以上はやての傷を増やさないために。
 これは、はやての人権に対する配慮などではなく、人として彼女に憐憫の情を抱いたからこその行動である。
 ……つまり、あんな格好をしているはやてに、スパイクは心の底から同情したのだ。
238: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:37:12 ID:gJSO33Su(10/12)調 AAS
「ん〜……もう! いきなりなにするんですかぁ〜!?」
「怒るな。あと騒ぐな。とりあえず様子を窺うんだ」

 拘束を解き、ぷりぷりと怒る読子を宥めると、スパイクは適当な茂みに彼女を連れ込んだ。
 木々の隙間から、数十メート先にいるはやてを観察する。
 どうやら、地面に倒れ込み半ケツを天に突き上げるという珍妙すぎる姿勢からは脱出したようだ。
 ホッとするスパイクだったが、またすぐにギョッとすることとなる。
 よく見ると、はやての側にいるもう一つの人影が、また常識ではあり得ない格好をしていたのだ。

「……おい、ありゃいったいどういう状況だ? あいつの側にいる男、なんでタオル一丁の裸なんだ?」
「わ、私に聞かれても……あ、それになんか、八神さん泣いてるみたいです……と思ったら怒ってる」
「おいおい、まさか、人気のない森で裸の男に襲われそうになったってんじゃないだろうな?」
「いえ、でもあの男の人、なんだか八神さんを慰めてるみたいですよ。謝ってる風にも見えます。あ、付いて行っちゃった」
「……さっぱり状況がわからん」
「わかりませんねぇ」

 茂みの中でう〜んと唸る二人は、はやてと裸の男が去っていくのも構わず、その場で考え込む。

「少なくとも、あの男は八神の敵じゃないよな? だとしたら、例の味方か? 裸だったけど」
「う〜ん……そういえば、温泉ってこの近くじゃないですか? ひょっとしたら、温泉をベースにしているのかも」
「クーデターの前線基地がオンセン? いや、だとしてもフツー全裸で歩き回るか?」
「でも、あの人がロージェノムさん側の人間だとしたら、八神さんも簡単に付いて行ったりはしないでしょ?」
「ま、そりゃそうだが……」

 そのまま茂みの中で数分、あーだこーだと話し合う。
 その討論は一見真面目なように見えたが、話の本題は実際の事情には掠りもしていない。
 傍から見たら馬鹿丸出しの、当人たちにしてみればたぶん大真面目な、二人だけの世界が続く。

「ってか、本人に直接聞いたほうが早いなこれ」
「そうですねー。私たちも温泉に向かう予定でしたし……とりあえず、温泉で八神さんと合流しましょうか」

 勘違いは紆余曲折してさらに高速旋回しながらなおも加速していくが、やはり正す者はいない。

 ◇ ◇ ◇

「ここか? オンセンってのは」
「ですねー」

 森をまたしばらく彷徨い歩き、スパイクと読子は湯気の立ち上る施設へとやって来た。
 最初に目に映った建物は酷く廃れているようだったが、付近を回ってみると、湯はちゃんと存在しているようだった。
 はやてと出会った町と同じで、人気はない。とりあえずはやてを捜すことにした二人は、温泉の外周を探索していた。

「気をつけろよ。ここが本当に八神たちのアジトだとしたら、罠の一つや二つあるかもしれねぇからな」
「はい。でも、肝心の八神さんはいったいどこにいるんでしょう?」

 そもそも、二人ははやての後を追ってここに辿り着いたわけではなく、はやての味方らしき男が裸だったという判断材料から、ここに立ち寄ったにすぎない。
 本人は北に向かうと言っていただけに、イマイチここにはやてがいるという確証が得られなかった。

(ま、いなきゃいないでこいつを風呂に入れるだけだがな)

 と、スパイクは楽天的に考える。捜し人を見つけたのは、そんなときだった。
239: 2007/11/06(火) 20:38:02 ID:ofN+AgK4(5/5)調 AAS
 
240: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:38:36 ID:gJSO33Su(11/12)調 AAS
「あ、いました。はやてさんと、さっきの男の人です」

 先ほどとまったく同じ状況。森の中で、以前より若干長くなったタオルを腰に巻いただけの裸男と、はやてが対峙していた。
 そしてそれを覗き見するスパイクと読子も、反射的に茂みの中へと身を潜ませていた。
 数十分前とは違い、今度は十分に声が聞き取れる距離だ。二人ははやてと裸男の会話に聞き耳を立て、デバガメのように様子を窺う。
 聞こえてくるのは、なにやら異様に滑舌のいい男の演説のみ。聞き手に回っているのか、はやてはまったく喋っていない。
 そしてその演説の内容がまたおかしなもので、二人から零れた感想は、

「これってひょっとして……愛の告白、ですか?」
「だな。しかもプロポーズだ」

 と見事に合致した。
 結婚だの、愛するだの、一目惚れだの、本気だの、守るだの、やたらと情熱的なことを語っているように見える。
 しかしこれはどういうことか。読子の推測が正しければ今はクーデター真っ最中のはずの彼女らが、温泉で愛を語り合っているなんて。

「戦場で盛り上がる恋もあります。いわゆるつり橋効果ですね。はぁ……ロマンチックな恋愛小説みたい」

 と読子は分析しているが、スパイクは険しい表情で再度考え直す。
 この状況、やはりおかしい。おかしすぎる。自分たちは、なにか究極的にアホな勘違いをしているのではないだろうか……。
 スパイクの疑念は、ここにきて再燃する。そもそもが遅すぎなのだが。
 とにかく、今度こそ当人であるはやてに真相を問い質すチャンスである。
 スパイクは腰を上げはやてたちの下に歩み寄ろうとするが、

「おい。おまえら、そんなところでなにをやっている?」

 寸前で、いつの間にか後ろに立っていたネコに、呼び止められた。
 ネコに、呼び止められた。
 ……ネコに。

「……ネコ?」
「……ネコ、ですね」

 振り返り、唖然とするスパイクと読子。
 彼らを呼び止めた声の主はどこからどう見てもネコであり、さらに詳しく説明するなら、二足で立つ隻眼のトラネコだった。
 そのトラネコが、流暢に人間の言葉を喋り、スパイクたちを見上げている。
 衝撃のあまり数瞬思考することを忘れてしまった二人だったが、やや遅れてそのあり得ない光景を受け止めると、

「ネコぉぉぉぉぉ〜!?」

 大袈裟に驚いてみせたり。その声は、温泉全体に響き渡った。
241: 2007/11/06(火) 20:38:39 ID:rTyMJ99/(3/3)調 AAS
 
242: せーのでコケてごあいきょう ◆LXe12sNRSs 2007/11/06(火) 20:39:54 ID:gJSO33Su(12/12)調 AAS
【H-6/温泉の外れ/一日目/昼】

【マタタビ@サイボーグクロちゃん】
[状態]:健康
[装備]:大工道具一式@サイボーグクロちゃん、マタタビのマント@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式、メカブリ@金色のガッシュベル!!(バッテリー残り95%)
[思考]:
1:クレアからさっきの言葉の真意を問い質す。
2:クレアが駄目ならこの二人に手伝わせるか?
3:この建物を直す。建物に来た奴には作業を手伝わせる。
4:建物が完成したらリザを待つ。
5:出来ればキッド(クロ)とミーとの合流。
6:戦いは面倒だからパス。
7:暇があれば武装を作る。
[備考]
※大工道具は初期支給品の一つです。中身はノコギリ、カンナ、金槌、ノミ、釘
※建物の修理はあとおよそ10時間で完了しますが、妨害行為などで時間が延びることがあります。
※クレアが手伝うことによって、完成予定時間が短縮されました。
※修理に手を貸す人がいれば修理完了までの時間は短くなります。H-6の周囲に建物を修理する音が響いています。

【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:健康
[装備]:デザートイーグル(残弾8/8、予備マガジン×2)
[道具]:支給品一式
[思考]
1:ネコが喋ってやがるー!?
2:はやてに真相を問い質す。
3:とりあえず温泉に入る。
4:読子と一緒に行動してやる。

【読子・リードマン@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:健康
[装備]:○極○彦の小説、飛行石@天空の城ラピュタ
[道具]:なし
[思考]
1:ネコが喋ってるー!?
2:はやてに協力したい。
3:スパイクと一緒に温泉に行ってから帰る。
※はやてがやろうとしていることを誤解しています。
※国会図書館で隠棲中の時期から参加。
243: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 22:56:55 ID:F68nI5NF(1/15)調 AAS
 水を掻き分けて移動する。腹部の傷に容赦なく当たる水流に、ヴィラルは苛立たしげに顔を顰めた。
 下水道の中ほどで立ち止まると、糞、と吐き棄て側面のコンクリートに腰を降ろす。天井には小さな電灯が並んでおり、内部は暗いものの真の闇ではない。
 下水、そう呼ばれる地下水道は汚らしいものだと思っていたのだが、臭いこそあるものの、水は思いのほか澄んでいた。
 いや――よく見れば下水の端に、滑った汚れが張り付いている。しばらく前は、生活廃水が流れていたはずだ。水が澄んだのは、
この会場から営みが消えてからだろう。

「……螺旋王も、一体なにを考えているのだろうな」

 瞳を閉じながら、小さく呟く。声は思いのほか反響していた。
 自分はこういった『索敵』は行わなかった。
 小さな勢力には部下を向かわせるし、自分が向かうような相手はダイガンザンなどの戦艦でも確認している。
 そう、ヴィラルは戦艦から射出され、目的地に降り立ち、愛機たるエンキで焼き払う――それが、今までの彼の戦い方だった。そして、
数日後にも同じような任務を執り行うはずだったのだが――

「いや、止そう」

 考えても仕方がない。ありえたかもしれない未来を夢想し、現実から目を逸らすのはなんと愚かな事か。
 自分は人間掃討軍極東方面部隊長なのだ。そのような些事を気にかけている暇があれば、一人でも多くの人間を殺さねばならない。
 その為にも、今は休まねばならないのだが――

「……どうやら、そうも言ってられないらしい」

 足音が徐々に、けれど確実にこちらに向かってきていた。
 思わず舌打ちをしてしまう。万全の――いや、せめて十全の状態であれば、飛んで火に居る夏の虫とばかりにその命を断ち切ってやる自信はある。
 だが――じくじくと痛む腹部の傷が、そして体全体を圧迫するように圧し掛かる疲労が鎖となり、ヴィラルの身体能力を奪っていた。
 黒光りするワルサーを闇に突きつけ、立ち上がる。幽鬼のように、ゆらゆらと体が揺れてしまう。
 銃という武器はあまり慣れてはいないのだが、今、この場面においては好都合だ。
 なにせ、この狭い通路での遠距離武器だ。間合いにさえ入れなければ、例え立ち止まっていたとしても相手を殺す事が出来るだろう。
 己の疲労を隠すように、力強く言い放つ。

「わざわざ殺されに来るとはな……つくづく愚かだよ、貴様らニンゲンは」
「はっ――誰が、誰に殺されるってんだ?」

 自信に満ち満ちたその声、けれど、奥底には燃えるような怒りがあるように思えた。
 それは、まるで炎。全てを覆い、焼き尽くす紅蓮の灼熱。
 遠く響いていた足音は、既に手が届きそうなほどに近くから聞こえている。

「獣人倒すと心に決めて、ガンメン奪ってぶちのめす。妙な場所に連れてこられようと、貫き通すぜ男の意地を!」

 小さな電灯に照らされ、ぎらり、と何かが輝いた。それがV字のサングラスだと気づいた瞬間、男は腰の剣を抜き放っていた。

「よう、まさかこんな場所で会うとは思わなかったぜ……ヴィラル」

 V字のサングラスに覆われた剣呑な瞳、それを煌かせて、言った。
 ――しばし、秒針が半周ほど巻き戻る。
 銃を構えたまま、ヴィラルは頭を回転させる。
244: 2007/11/06(火) 22:57:25 ID:4s8DebEP(5/9)調 AAS
 
245: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 22:58:06 ID:F68nI5NF(2/15)調 AAS
(……誰だ、このハダカザルは)

 青い短髪に、がっしりとした体躯。デイバックは右肩に引っ掛けている。
 肌には刺青が彫られたその姿は、ニンゲンの中でも更に存在意義の薄い荒くれ者にも見える。
 だというのに――この男はなぜ、自分を知っている?
 
(エンキを用いて焼き払った村の生き残り、か?)

 なるほど、それは正しく思える。例えニンゲンであろうとも、仇の相手を覚える頭はあるはずだ。
 だが――それならば、この男はなんだ?
 圧倒的な力で捻じ伏せれば恐怖が残る。現に、獣人に対してレジスタンス活動を行っている黒の兄弟とて、真っ向からぶつかってくる事はなかった。
 けれど、この男は、王都の戦士の如く真っ向から現れた。
 ただの愚か者か、それとも――真っ向から戦っても勝てると思っているのか。

「どちらにしろ――腹立たしい限りだ!」

 銃声が二つ、重なるように響く。大気を穿ち、宙を疾駆する鉄の弾丸。
 左右に道はない。あるのは壁と下水だけだ、逃げ道などありはしない。
 容易かったな、と思いながら銃を収めようとし――目を剥いた。
 
     ◆     ◆     ◆

 獣の牙とは、引き千切るためにある。
 そう、食いつき、引っ張り――そのまま千切るのだ。
 故に、噛み付かれたからといって、引き剥がそうとすれば逆効果。獣の牙にプラスアルファを加える事になってしまう。
 なら、どうしたらいい?
 ……簡単だ、逆に押し込めばいい。
 
「俺をっ! 誰だと思っていやがるッ!」

 地を這うに肉食獣の如く体勢を低くし、疾駆。ざりっ、と背中の皮が削れるような感触に顔を顰めながら、剣を振り上げた。

「見下してんじゃねぇ斬りィ――ッ!」

 心から湧き出してくる魂の叫びを剣に載せ、一気に振り下ろす!
 だが、遅い。
 ぎり、と痛みを発する左肩。それがカミナの剣から速度を奪う。
 ――そう、剣を振り下ろすには左手が中心である必要がある。
 右手が張った状態では体を大きく傾けないかぎり、とてもではないが真下まで振り下ろす事など叶わない。
 故にその剣捌きは、普段の彼よりも予備動作が大きく、そして愚鈍だった。
 鋼の音色が二人きりの観客の耳に届く。
 刃金と銃口が重なり合い、軋むような音を響かせる。 

「知らんよ、ハダカザルの名前なんてなぁ!」
 
 獰猛な獣のような――いや、そのものな表情を浮かべ、引き金を引く。
 衝撃音。
 跳ね飛ばされた剣を掴んでいたカミナは、まるでバンザイでもするかのように仰け反る。
246: 2007/11/06(火) 22:58:26 ID:vH00WhMF(1/3)調 AAS
sien
247: 2007/11/06(火) 22:59:05 ID:4s8DebEP(6/9)調 AAS
 
248: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 22:59:16 ID:F68nI5NF(3/15)調 AAS
「はっ……消えうせろ、ハダカザル!」
(マズ――!?)

 思考思考思考、思考だ! 考えろ!
 親父の死骸を見た時のように、時間の流れが遅くなる。
 ヴィラルの勝利を確信した笑みが腹立たしい、ゆっくりと引き金を引く指に焦りを覚える。
 糞、と内心で吐き棄てる。
 こんな時に、シモンがいてくれりゃぁ――
 アイツは、いつでも諦めなかった。
 そして、気弱なところもあるが熱いハートとクールな頭脳も持ち合わせていた。
 そうだ、チミルフとの戦いの時もそうだった。
 自分が無鉄砲に突っ込んで行った時に、策を用いて退けた。螺旋王直属の部下相手にだ!
 
(畜生。俺は……この程度の男なのかよ)

 心の奥底にある炎が凍えるのを感じた。
 極寒の中、潰えていく気合の炎。それが、ゆっくりと消滅――

 ――――ふと、誰かの泣き言と強がりが聞こえてきた。

(――こいつは)

 深い深い穴倉の中。抜け出そうとして仲間を連れ出した時の話だ。
 仲間だけじゃ不安なんで、村一番の穴掘り名人に声をかけた。だが、岩盤は崩れ、自分たちは閉じ込められた。
 焦った。皆に発破をかけても、泣き言を言って掘るのを止めてしまった。
 そう、もう駄目だと。
 そう、ここで死ぬのだと。
 ――だから、あのひたむきな背中が輝いて見えた。
 最後まで自分を信じてくれた、
 最後まで諦めなかった、
 それがシモンだった。
 それが自分の魂の兄弟だった。
 それが――相棒だった。
 そんな彼に笑われなかった、
 そんな彼を裏切りたくはなかった。
 だっていうのに――

「なにやってんだ、俺はァァアァア!」

 その叫びと共に、剣を放り投げた。

     ◆     ◆     ◆

 男が叫び声と共に剣を投げ捨てるのを見て、頬に笑みが浮かんだ。
 ――諦めたか。
 しょせんはハダカザル。威勢はよくても、結局は脆く、弱い生物だ。
 散れ、と引き金を引き絞る。その瞬間、
249: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 23:00:40 ID:F68nI5NF(4/15)調 AAS
「な――ッ!?」

 赤い旋風が、眼前まで迫っていた。
 慌てて頭を逸らすが間に合わない。ざり、と頬の肉がこそげ落ちた。

「ぐ――き、さま!」
「はっ。奇策はきかねぇ、って言ってたくせに、ざまぁねぇな」

 赤い雫を垂らす真紅の槍。それを棒切れでも扱うようなぞんざいな握りで持つ眼前の男。
 失態、なんという失態だ。そもそも、戦闘中だというのにデイバックを降ろさなかった時点で、バックに注意を向けるのは当然だろうに!
 全身の血液が沸騰し、思考を犯す。咆哮を上げ、奴に掴みかかりたいという衝動に駆られる。
 だが、その衝動も疲労には勝てなかった。
 ほとんど連戦のこの状況、ここまで動けただけでも僥倖と言えるだろう。けれど、これ以上戦闘して、勝利するまで体が動くかどうか。
 ――自信は、なかった。

「貴様、名をなんという」
「へ、嫌な事は忘れちまう性質か? まぁ、いいぜ。その緩んだ頭引き締めた後、耳かっぽじってよーく聞きやがれ!」

 ぶおん、と真紅の長槍を一回転。そして、その槍先を天井に――いや、天に向け、吼えた。

「狭い穴倉に押し込まれようと、天井拳で打ち砕き! 獣人どもを蹴散らして、向かう先は天の月! 
 大グレン団リーダー、カミナ様だ!」

 馬鹿か、と内心で思う。
 だが――その馬鹿が自分に傷を与えたのだ。甘く見ていて、倒されるのは自分だ。
 噛み締めるように、呟く。

「カミナ、か。ああ、覚えたよ」
「へっ、今度は忘れねぇようにしとくんだな」
「ああ、忘れたくても忘れられん」

 五メートル程度の距離を維持しながら、じりじり、と二人の足が動く。
 それは、束の間の停滞。間奏のようなものだ。
 そう――主旋律は、すぐそこまで来ている。

「カミナ、この勝負、預けるぞ!」
  
 そう吼え、駆けた。
 男の瞳が鮮烈なまでに鋭くなり、自分を射抜く。両手で握った槍を、草でも刈るように横薙ぎに振るってくる。
 それを、ありったけの体力を使った跳躍で回避。轟、と寸暇の間だけ自分がいた場所に赤色の軌跡が描かれる。

「ぐ――!」

 じわり、と傷口から血液が吹き出す。応急処置したとはいえ、この動作だ。開いてしまったらしい。
 だが、あと数分だけ持てばいい!
 滞空するヴィラルは、側面に手を当て――力を込め、急落下。カミナの元に疾駆する。
 これで隙を見つけたら殺してやろうと思ったが……このカミナという男、随分と戦いなれている。この三次元の動作に、ぴったりと食いついてきている。
 恐らく、今攻撃しても、その長槍で受け止められるだけだろう。
250: 2007/11/06(火) 23:00:43 ID:vH00WhMF(2/3)調 AAS
支援。
251: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 23:01:49 ID:F68nI5NF(5/15)調 AAS
「なら!」

 落下の速度を利用し、踵を振り下ろす。案の定、その長槍でガードしてくるカミナ。
 だが、ヴィラルは焦る事無く更に力を込める。
 カミナの表情が引き攣った。左肩の裂傷が疼きだしたのだ。
 瞬間、ほんの僅かな間に力が緩まる。その間隙を縫うように――一気に押し出す!

「うお――ぁあ!?」

 水柱を立て、下水に落下するカミナを確認する事無く、ヴィラルはすぐさま下水を逆走した。
 呼吸は荒い。腹部の傷は開ききり、血涙を流している。
 だが、いつまでもここで立ち止まっていれば、自分は殺されてしまう。そう、螺旋王の期待に添えないままに。
 それだけは許せなかった。人に近い肉体になるという屈辱を受けながら、殺したのが一人だけとは、笑い話にもならない。
 
「この――待ちやがれ!」

 背後から響くカミナの声に、思わず舌打ちを漏らす。
 予想以上にリカバリーが早い。これでは、下水から出たとしても逃げ切れるかどうか――
 そこまで考えて下水から飛び出て……それを見た。

「……はっ」

 ああ。もし神という存在がいるとしたら、今くらいは感謝してもいいかもしれない。
 目の前にある『ソレ』には車輪がついており、内部にはガンメンとは構造が違うもののコックピットのようなものがあった。
 ヴィラルは知らなかったが、それはゴーカートと呼ばれる乗り物である。
 
「丁度いい、使わせてもらおう」
 
 最初はデタラメにハンドルやペダルなどに触れ、この乗り物の反応を確かめる。
 幸い、機械関連はガンメンの扱いで多少は慣れていた。起動さえすれば、後は様子を見ながら動かせるはずだ。
 
「この――ってっめえ! 人のモン勝手に使いやがって!」
「ッ!? くそ、動け!」

 既にカミナは下水道から抜け出し、こちらに向かって駆けてきている。
 追いつくまで、あと数十秒といったところか。
 早く早く、という気持ちとは裏腹に、コックピットはなんの反応も返してこない。
 糞っ! と。苛立たしげにペダルを踏み込んだ。

「ッ!」

 瞬間、背後のシートに体を押し付けられるような感覚。それと共に、車輪が急回転し、運動エネルギーを地面に伝え加速する。

「……動いた、のか」

 遠くで吼えるハダカザルの声を聞きながら、ふう、と息を吐いた。
 ハンドルを回す。すると、車体もその方向に向きを変えた。どうやら、この乗り物はペダルとハンドルを用いて前に進むモノらしい。
 道をジグザクに進み、追撃をさせないようにする。これが頭のよい奴なら目的地を理解できるだろうが、あのカミナという男は、さして頭が良さそうには見えなかった。
252: 2007/11/06(火) 23:02:39 ID:4s8DebEP(7/9)調 AAS
 
253: 2007/11/06(火) 23:02:57 ID:qK18NDHs(1/2)調 AAS

254: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 23:03:02 ID:F68nI5NF(6/15)調 AAS
「早く、休まねば――」

 一番手近な建物である空港。そこに入ると、格納庫らしき場所に入り込んだ。
 中は異常な程にだだっ広い。本来は戦艦サイズのガンメンも入りそうなのだが、今はツギハギの見えないコンテナが複数、置いてあるだけだ。

「――ふう」

 小さく息を吐き、シートに体を預けながら、そのコンテナを見やる。
 サイズはみなバラバラだ。ガンメンが複数入りそうな物もあれば、ギリギリ一体入るかどうか、という物もある。
 疑問に思い、ゴーカートを近くまで寄せてみるが、やはりツギハギは見えなかった。

「この首輪と同じ、か?」

 自身の首を覆う金属質のそれに触れながら、少し残念そうに呟く。
 もし開けられたら、そして運良く中にガンメンがあれば、クルクルやケンモチ、そして蛇女やカミナというニンゲンに苦戦する事はなかったろうに。
 だが、無い物ねだりをしても仕方がない。それならば、この乗り物を調べた方がずっと有意義――

「む?」

 そう思いながら背後に視線をやって、ようやくその存在に気づいた。
 まず、デイバックが二つ。一人に一つだけ支給される物なのだから、おそらくカミナが殺して奪ったものだろう。
 まあ、それはいい。武器や道具が増える事は喜ばしい事だ。だが、

「女……?」

 金髪の女性だった。
 豊満の体躯を覆うのは茶のスーツにタイトスカート。耳にはリング状のピアスが揺れている。
 その豊満の体は、マントに縛られる事によって更に強調されたその姿は、とても蠱惑的であった。
 ごくり、と一瞬息を飲むが、すぐさま頭を振る。

「全く、ニンゲンとは下劣な生き物だ」

 女性を昏倒させ、縛り上げた男。その男がその後どうするか――想像に難くない。
 もっとも、案外そちらの方がよかったのかもしれないな、とも思う。
 その姿態を蹂躙されるのと、今ここで殺されてしまう事。どちらかといえば、前者の方がマシだろう。
 す、と両手を女性の首に伸ばす。首は細く、獣人の力で握り締めれば、容易く引き千切れてしまいそうだ。 

「運がなかったな、女」

 そう言って、両腕に力を込め――――

「……なんだと?」

 その違和感に気づいた。

     ◆     ◆     ◆

「畜生、逃がしちまった!」

 がんっ! と地面に拳を叩きつけながら漏らす。
255: 2007/11/06(火) 23:03:05 ID:uIlNDMWb(1/2)調 AAS

256: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 23:04:18 ID:F68nI5NF(7/15)調 AAS
 苛立ちがつのる。もし、あいつをこのまま放っておいたら、今度はヨーコたちも殺されてしまうかもしれない。
 
「いや――」

 小さく呟き、頭を振る。
 それでは、シモンの死を認めてしまったようではないか、と。
 
「俺は、自分の目でみねぇかぎり、ぜってぇ信じねぇ」

 アイツがそう簡単にくたばるはずがない。カミナはそう信じていた。
 だが、もし、もし本当に殺されていたら――

「そんときゃ、魂の底から泣いた後に、胸に刻めばいい」
 
 悲しみという存在は図々しいものだ。
 今まで大切な誰かがいた場所に、居なくなると同時に滑り込んできやがる。
 そんな奴らをどう追っ払うかって? 
 簡単だ、泣けばいい。
 心の底から、魂の底から泣きまくって、その濁流で悲しみなんぞ押し流す。
 そして――空いた空洞には思い出を詰めるんだ。
 そいつがどんな奴だったのか、
 どんなすげぇ奴で、
 どんなに助けられたかを。
 誰かに、笑って語れるようにすりゃあいい。
 
「だよなぁ、親父」

 父の亡骸を見つけた時を思い出しながら、剣を腰に差し、槍をバックに仕舞いこんだ。
 やっぱり、剣の方が性にあっているな。そう思いながら、どこかに歩き出そうとして――

『あーあー、あーあー……ちゃんと電源入っとるんかなぁ、コレ?
 ……ええかな?
 えーと、いきなりこんな声が聞こえて来て、ビックリしている人もいると思います。
 私は――ううん、私だけやない、同じような考えを持っとる人の言葉、全部を代弁して言わせて貰います』

 遠くから、誰かの声が響いてきた。

「な、なんだぁ!?」

 ガンメンに乗って喋る時も、外からはこんな感じで聞こえてたよな、と思いながら、耳を欹てる。

『――皆、迷っとるやろ?
 おっかない、他人が信用出来ない、死にたくない……何もしないでいても、そんな気持ちばかり湧いて来る。
 いっそ、殺し合いに乗ってしまおうか。そうすれば楽になれるんじゃないか。
 分かるで……私もほんの今の今までそーんな、グチャグチャした考えで頭の中が一杯やった』

「……そりゃぁ」
257: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 23:05:29 ID:F68nI5NF(8/15)調 AAS
 あのガンメンモドキの心ない言葉によって頭が沸騰した時、あの女を絞め殺してやろうかとは思ったのは確かだ。
 遠くから響いてくる女の声を聞きながら、ふう、と息を吐く。
 オーケー、落ち着いてきた。
 やっぱりケンカは熱いハートにクールな頭脳だ。

「なんだ、マトモな奴も、いるんじゃねえか」
『そして……な。今、一人で脅えてる子がいたら聞いて欲しいんよ。
 私が、そして同じような気持ちの人が絶対他にもおる! だから心配する必要なんてないんや!
 必ず助けたる、そんで皆一緒にココから脱出して、ロージェノムを捕まえるんや!』
 
 ガンメンモドキに、カマイタチのようなモノを放つ男、そしていきなり銃をぶっ放してきた女。
 誰も彼も、妙な奴ばかりだ。
 だから、こういう普通の言葉に、少しだけ安堵を覚えた。

『それと……そや、制服! 茶色い布地で胸の部分に黄色のプレートが付いてる制服を着ている人間を探してください。
 その人達は皆、私の仲間――五人……今は四人に減ってしもうたけど……四人とも、本当に信用出来る仲間です。
 名前は……すいません。今は……言えません。
 だけど、私はコレから北に向かうつもりです。
 例の制服を見かけたら声を掛けて下さい。多分、後は声で分かって貰えると思います。
 最後に……皆、絶対に諦めたりしたらあかんで!!』

「――――ちょっと、待て」

 この女、今、なに言った?
 茶色の布地に、黄色のプレートがついた服――ああ、そりゃ分かるさ。けれど、

『ごめんなさいね。
 今死ぬあなたに名乗る名前はないわ』

 だけどそれは、自分たちに銃をぶっ放してきた、あの女が着ていた服じゃないのか?

「……へっ、そういう事かよ」

 頭の中でピースが噛み合う。
 ――そうやって人を集めて、殺してるんだな、テメエらは。
 怯えてる奴は、きっとなにか支えを欲しがるだろう。そしてこの声は、その支えになり得るものだ。
 そうして現れた弱い誰かを、一人一人、殺して行ってるのだ、この声の主は。

「――んのやろう、ふざけやがって」

 ぎり、と拳を握りしめる。
 紅蓮の炎のような苛立ち。それと同時に、なるほどとも思えた。
 シモンだって、いきなり後ろから刺されりゃ、諦めないも糞もねぇよな――と。
 もし殺されたとしたら、この女が言ったみてぇな手で殺されたんじゃねぇのか? と! 
 
「誰だか知らねぇが、んな企み、ぶっ壊してやるよ!」
 
 剣を抜き放ち、天に突き付ける。
 それは宣誓するように、それは宣言するように。

「このカミナ様がなぁ!」
258: 2007/11/06(火) 23:06:18 ID:qK18NDHs(2/2)調 AAS

259: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 23:06:39 ID:F68nI5NF(9/15)調 AA×

260: たった一つの強がり抱いて ◆oRFbZD5WiQ 2007/11/06(火) 23:07:55 ID:F68nI5NF(10/15)調 AAS
「ありがとうございました。僕たちは訓練に戻りますね」
「シャマル先生、ありがとうございましたー!」

 ええ、気をつけてね。そう言って手を振ろうとしたその時、なぜだか、奇妙な不安に囚われた。
 あのまま行かせていいのだろうか?
 このまま見送ってしまうと、世界が崩れてしまうような気がして、酷く恐かった。

「二人とも――!」

 待って、と叫ぼうとした、その瞬間。世界は水面のようにゆらめき、溶けて行く。
 それは夢の終り。現実への回帰。
 幸せだった夢を潰え、暗く澱んだ現在に意識は戻る。そう、否応なしに。

 目を覚ますと、自分はゴーカートの中で寝転んでいた。
 なぜだか肌寒い。寝ぼけた頭で外を見ると、ここが倉庫のような場所である事が分かった。
 ……えっと、私……。
 
「気づいたか?」

 不意に、見知らぬ男の声を聞いた。
 そちらに視線を向けると、歯がサメのようになっている奇妙な男がいた。
 どこの世界の住人だろうか? 少なくともミッドチルダでも地球でもないと思うのだが。
 ああ、しかし肌寒い。自分が着ている制服は、こんなにも風通しが良かっただろうか?
 そう思いながら視線を自分の体に落とし――

「……え?」

 固まった。
 自身の瞳には、やはり自身の処女雪の如く白い肌が映っていた。
 その肌を覆うのはレースの上下だ。豊満な双丘を覆うそれは花の模様があしらわれ、肉付きのよい尻を覆う白い布地は、内部から圧迫されぴっちりとしている。
 ――数瞬の沈黙。
 あー、今日のわたしってなんかすごく薄着ねー、とぼやけた頭が思考するが、すぐさま「んなわけねぇだろ」という正常な思考が押し寄せてくる。
 下着姿の自分、目の前の男、暗い倉庫。
 ――これらから導き出される結論は一体?
 
「き、きゃあああ!?」

 思わず悲鳴を上げて後ずさる。だが、ゴーカート内部でそうそう動けるはずもなく、すぐさま壁にぶち当たる。
 性的な危機。それと同時に、ここが殺し合いの場だという事をようやく思い出した。
 そう、殺し合いの場だ。法などありはせず、無法が法となるこの状態で、男と半裸の女。導き出される結論など一つしかない!
 
「怯える必要はない、少々確かめていただけだ」

 確かめるってなにを!? とは思ったが、とりあえず今、ここで襲う気がない事は伝わった。
 慌てて近くにあったマントで体を包みながら、問う。
261: 2007/11/06(火) 23:08:16 ID:4s8DebEP(8/9)調 AAS
 
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