今は昔、 (43レス)
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16: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)08:43 ID:33d(6/25) AAS
 日暮るるほど、例の集まりぬ。
あるいは笛を吹き、あるいは歌をうたひ、あるいは唱歌をし、あるいはうそぶき、扇を鳴らしなどするに、翁、出でていはく、かたじけなく、きたなげなる所に、年月を経てものし給ふこと、極まりたるかしこまり、と申す。
翁の命、今日明日とも知らぬを、かくのたまふ君達にも、よく思ひ定めて仕うまつれ、と申すもことわりなり、いづれも、劣り優りおはしまさねば、御心ざしのほどは見ゆべし、仕うまつらむことは、それになむ定むべき、と言へば、
これ、よきことなり、人の御恨みもあるまじ、と言ふ。
五人の人々も、よきことなり、と言へば、翁、入りて言ふ。

 かぐや姫、石作の皇子には、仏の御石の鉢といふ物あり、それを取りて賜べ、と言ふ。
庫持の皇子には、東の海に蓬莱といふ山あるなり、それに白銀を根とし黄金を茎とし白き珠を実として立てる木あり、それ一枝、折りて賜はらむ、と言ふ。
いま一人には、唐土にある火鼠の皮衣を賜へ、
大伴の大納言には、龍の頸に五色に光る珠あり、それを取りて賜へ、
石上の中納言には、燕の持たる子安の貝、一つ取りて賜へ、と言ふ。
省3
17: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)08:47 ID:33d(7/25) AAS
なほ、この女見では、世にあるまじき心地のしければ、天竺にある物も持て来ぬものかはと思ひめぐらして、
石作の皇子は、心の支度ある人にて、「天竺に二つとなき鉢を、百千万里の程行きたりとも、いかでかとるべき」と思ひて、
かぐや姫のもとには、「今日なむ天竺へ石の鉢とりにまかる」と聞かせて、
三年ばかり、大和国十市の郡にある山寺に、賓頭盧の前なる鉢の、ひた黒に墨つきたるをとりて、錦の袋に入れて、造り花の枝につけて、かぐや姫の家に持て来て見せければ、
かぐや姫あやしがりて見るに、鉢の中に文あり。
ひろげて見れば、

  海山の道に心をつくし果てないしのはちの涙ながれき

 かぐや姫、光やあると見るに、蛍ばかりの光だになし。

  おく露の光をだにぞ宿さましをぐら山にて何もとめけむ

とて返しいだす。鉢を門に捨てて、この歌の返しをす。
省5
18: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)08:50 ID:33d(8/25) AAS
 庫持の皇子は、心たばかりある人にて、公には、「筑紫の国に湯あみにまからむ」とていとま申して、かぐや姫の家には、「玉の枝取りになむまかる」と言はせて下りたまふに、仕うまつるべき人々皆難波まで御送りしけり。
皇子、「いと忍びて」とのたまはせて、人もあまた率(ゐ)ておはしまさず、近う仕うまつる限りして出でたまひぬ。
御送りの人々見奉り送りて帰りぬ。
おはしぬと人には見えたまひて、三日ばかりありて漕ぎ帰りたまひぬ。

 かねてこと皆仰せたりければ、その時一の宝なりける鍛冶匠六人を召し取りて、たはやすく人寄りて来まじき家を造りて、かまどを三重にしこめて、匠らを入れたまひつつ、皇子も同じ所にこもりたまひて、しらせたまひたる限り十六そを、かみにくどをあけて、玉の枝を作りたまふ。
かぐや姫のたまふやうにたがはす作りいでつ。
いとかしこくたばかりて、難波にみそかに持ていでぬ。

 「舟に乗りて帰り来にけり」と殿に告げやりて、いといたく苦しがりたるさましてゐたまへり。
迎へに人多く参りたり。
玉の枝をば長櫃に入れて、物おほひて持ちて参る。
省2
19: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)08:53 ID:33d(9/25) AAS
 かかるほどに、門をたたきて、「庫持の皇子おはしたり」と告ぐ。
「旅の御姿ながらおはしたり」と言へば、会ひ奉る。皇子のたまはく、
「命を捨てて、かの玉の枝持ちて来たる」とて、「かぐや姫に見せ奉りたまへ」と言へば、翁持ちて入りたり。
この玉の枝に文ぞ付きたりける。

  いたづらに身はなしつとも玉の枝を手折らでただに帰らざらまし

 これをあはれとも見でをるに、竹取の翁走り入りていはく、
「この皇子に申したまひし蓬莱の玉の枝を、一つの所あやまたず持ておはしませり。
なにをもちてとかく申すべき。
旅の御姿ながら、わが御家へも寄りたまはずしておはしたり。
はやこの皇子にあひ仕うまつりたまへ」と言ふに、物も言はで、つらづゑをつきて、いみじう嘆かしげに思ひたり。この皇子、「今さへなにかと言ふべからず」と言ふままに、縁にはひ上りたまひぬ。
省5
20: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)08:58 ID:33d(10/25) AAS
 翁聞きて、うち嘆きてよめる、

  くれ竹のよよの竹取り野山にもさやはわびしきふしをのみ見し

 これを皇子聞きて、「ここらの日ごろ思ひわびはべる心は、けふなむ落ちゐぬる」とのたまひて、返し、

  わがたもとけふかわければわびしさのちぐさの数も忘られぬべし

とのたまふ。
省19
21: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)09:12 ID:33d(11/25) AAS
 かの憂へをしたる匠をば、かぐや姫呼びすえて、「うれしき人どもなり」と言ひて、禄いと多く取らせたまふ。
匠らいみじく喜び、「思ひつるやうにもあるかな」と言ひて、帰る道にて、庫持の皇子、血の流るるまで懲ぜさせたまふ。
禄得しかひもなく、皆取り捨てさせたまひてければ、逃げ失せにけり。
かくてこの皇子は、「一生の恥、これに過ぐるはあらじ。
女を得ずなりぬるのみにあらず、天下の人の、見思はむことの恥づかしきこと」とのたまひて、ただ一ところ、深き山へ入りたまひぬ。
宮司、さぶらふ人々、皆手を分かちて求め奉れども、御死にもやしたまひけむ、え見つけ奉らずなりぬ。
皇子の、御伴に隠したまはむとて年ごろ見えたまはざりけるなりけり。
22: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)12:50 ID:33d(12/25) AAS
 さて、かぐや姫、かたちの世に似ずめでたきことを、帝聞こし召して、内侍中臣のふさ子にのたまふ、「多くの人の身をいたづらになしてあはざなるかぐや姫は、いかばかりの女ぞと、まかりて見てまゐれ」とのたまふ。
ふさ子、承りてまかれり。
竹取の家にかしこまりて請じ入れて、会へり。
女に内侍のたまふ、
「仰せごとに、かぐや姫のかたち優におはすなり。よく見てまゐるべき由のたまはせつるになむ、まゐりつる」
と言へば、「さらば、かく申しはべらむ」と言ひて入りぬ。

 かぐや姫に、「はや、かの御使ひに対面したまへ」と言へば、
かぐや姫、「よきかたちにもあらず。いかでか見ゆべき」と言へば、「うたてものたまふかな。帝の御使ひをばいかでおろかにせむ」と言へば、
かぐや姫答ふるやう、「帝の召してのたまはむこと、かしこしとも思はず」と言ひて、さらに見ゆべくもあらず。
生める子のやうにあれど、いと心恥づかしげに、おろそかなるやうに言ひければ、心のままにもえ責めず。
省5
23: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)12:52 ID:33d(13/25) AAS
 この内侍帰り、この由を奏す。
帝聞こし召して、「多くの人殺してける心ぞかし」とのたまひてやみにけれど、なほおぼしおはしまして、この女のたばかりにや負けむ、とおぼして、仰せたまふ、
「なむぢが持ちてはべるかぐや姫奉れ。顔かたちよしと聞こし召して、御使ひをたびしかど、かひなく見えずなりにけり。かくたいだいしくや慣らはすべき」と仰せらる。

翁かしこまりて御返りごと申すやう、「この女の童は、絶えて宮仕へ仕うまつるべくもあらずはべるを、もてわづらひはべり。さりとも、まかりて仰せごと賜はむ」と奏す。
これを聞こし召して、仰せたまふ、「などか、翁の手におほし立てたらむものを、心に任せざらむ。この女もし奉りたるものならば、翁に冠を、などか賜はせざらむ」
24: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)12:55 ID:33d(14/25) AAS
 翁喜びて、家に帰りてかぐや姫に語らふやう、
「かくなむ帝の仰せたまへる。なほやは仕うまつりたまはぬ」と言へば、
かぐや姫答へていはく、「もはら、さやうの宮仕へ仕うまつらじと思ふを、しひて仕うまつらせたまはば消え失せなむず。御宮冠仕うまつりて、死ぬばかりなり」。
翁いらふるやう、「なしたまひ。宮冠も、わが子を見奉らでは、なににかはせむ。さはありとも、などか宮仕へをしたまはざらむ。死にたまふべきやうやはあるべき」と言ふ。
「なほそらごとかと、仕うまつらせて、死なずやあると見たまへ。あまたの人の、志おろかならざりしを、むなしくしなしてしこそあれ。昨日今日帝ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし」と言へば、翁答へていはく、
「天下のことは、とありとも、かかりとも、御命の危さこそ、大きなるさはりなれば、なほ仕うまつるまじきことを、まゐりて申さむ」
とて、まゐりて申すやう、
「仰せのことをかしこさに、かの童を、まゐらせむとて仕うまつれば、宮仕へにいだし立てば死ぬべし、と申す。
造麻呂が手に生ませたる子にもあらず。
昔、山にて見つけたる。
省1
25: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)12:59 ID:33d(15/25) AAS
 帝仰せたまふ、「造麻呂が家は、山もと近かなり。御狩りみゆきしたまはむやうにて、見てむや」とのたまはす。
造麻呂が申すやう、
「いとよきことなり。なにか、心もとなくてはべらむに、ふとみゆきして御覧ぜむに、御覧ぜられなむ」
と奏すれば、帝にはかに日を定めて、御狩りに出で給うて、かぐや姫の家に入り給うて見給ふに、光みちて清らにてゐたり人あり。
これならむとおぼして近く寄らせ給ふに、逃げて入る袖をとらへ給へば、面をふたぎて候へど、
はじめて御覧じつれば、類なくめでたくおぼえさせ給ひて、許さじとすとて、ゐておはしまさむとするに、かぐや姫答へて奏す、おのが身は、この国に生まれて侍らばこそ使ひ給はめ、いとゐておはしましがたくや侍らむと奏す。
帝、「などかさあらむ。なほゐておはしまさむ」とて、御輿を寄せ給ふに、このかぐや姫、きと影になりぬ。
はかなく、口惜しとおぼして、げにただ人にはあらざりけりとおぼして、
「さらば御供には率て行かじ。もとの御かたちとなりたまひね。それを見てだに帰りなむ」
と仰せらるれば、かぐや姫もとのかたちになりぬ。
省4
26: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:03 ID:33d(16/25) AAS
 かやうに、御心を互ひに慰めたまふほどに、三とせばかりありて、春の初めより、かぐや姫、月のおもしろくいでたるを見て、常よりももの思ひたるさまなり。
ある人の、「月の顔見るは忌むこと」と制しけれども、ともすれば人間にも月を見ては、いみじく泣きたまふ。
七月十五日の月にいでゐて、せちにもの思へるけしきなり。
近く使はるる人々、竹取の翁に告げていはく、
「かぐや姫の、例も月をあはれがりたまへども、このごろとなりては、ただごとにもはべらざめり。いみじくおぼし嘆くことあるべし。よくよく見奉らせたまへ」
と言ふを聞きて、かぐや姫に言ふやう、
「なんでふここちすれば、かく、ものを思ひたるさまにて、月を見たまふぞ。うましき世に」
と言ふ。
かぐや姫、「見れば、世間心細くあはれにはべる。なでふものをか嘆きはべるべき」と言ふ。

 かぐや姫のある所に至りて見れば、なほもの思へるけしきなり。
省8
27: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:08 ID:33d(17/25) AAS
 八月十五日ばかりの月に出でゐて、かぐや姫いといたく泣きたまふ。
人目もいまはつつみ給はず泣きたまふ。
これを見て、親どもも、「なにごとぞ」と問ひさわぐ。
かぐや姫泣く泣く言ふ、
「先々も申さむと思ひしかども、かならず心惑はし給はむものぞと思ひて、いままで過ごし侍りつるなり。

さのみやはとて、うち出で侍りぬるぞ。
おのが身はこの国の人にもあらず。
月の都の人なり。
それを昔の契りありけるによりてなむ、この世界にはまうで来たりける。
いまは帰るべきになりにければ、この月の十五日に、かのもとの国より、迎へに人々まうで来むず。
省16
28: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:13 ID:33d(18/25) AAS
 このことを帝聞こし召して、竹取が家に御使ひつかはさせたまふ。
御使ひに竹取いで会ひて、泣くこと限りなし。
このことを嘆くに、ひげも白く、腰もかがまり、目もただれにけり。
翁、今年は五十ばかりなりけれども、もの思ふには、かた時になむ老いになりにけると見ゆ。
御使ひ、仰せごととて翁にいはく、「いと心苦しくもの思ふなるは、まことか」と仰せたまふ。
竹取泣く泣く申す。
「この十五日になむ、月の都より、かぐや姫の迎へにまうで来なる。
たふとく問はせたまふ。
この十五日は、人々賜はりて、月の都の人まうで来ば捕へさせむ」と申す。
御使ひ帰りまゐりて、翁のありさま申して、奏しつることども申すを聞こし召して、のたまふ、
省14
29: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:17 ID:33d(19/25) AAS
 これを聞きてかぐや姫は、
「さしこめて、守り戦ふべき下組みをしたりとも、あの国の人を、え戦はぬなり。
弓矢して射られじ。
かくさしこめてありとも、かの国の人来ば、皆あきなむとす。
相戦はむとすとも、かの国の人来なば、たけき心つかふ人も、よもあらじ」。
翁の言ふやう、
「御迎へに来む人をば、長き爪して、眼をつかみつぶさむ。
さが髪を取りて、かなぐり落とさむ。
さが尻をかきいでて、ここらの公人に見せて、恥を見せむ」
と腹立ちをり。
省13
30: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:19 ID:33d(20/25) AAS
 かかるほどに、宵内過ぎて、子の時ばかりに、家の辺り昼の明さにも過ぎて光りわたり、望月の明さを十あはせたるばかりにて、ある人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。
大空より、人、雲に乗りており来て、土より五尺ばかりあがりたるほどに、立ちつらねたり。
これを見て、内外なる人の心ども、物におそはるるやうにて、あひ戦はむ心もなかりけり。
からうじて思ひ起こして、弓矢をとり立てむとすれども、手に力もなくなりて、なえかかりたり。
中に心さかしき者、念じて射むとすれども、ほかざまへ行きければ、あれも戦はで、心地ただしれにしれて、まもりあへり。
立てる人どもは、装束の清らなること、ものにも似ず。
飛ぶ車一つ具したり。
羅蓋さしたり。
31: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:24 ID:33d(21/25) AAS
 その中に王とおぼしき人、家に、「造麻呂、まうで来」と言ふに、たけく思ひつる造麻呂も、ものに酔ひたる心地して、うつぶしに伏せり。
いはく、
「汝、をさなき人、いささかなる功徳を翁つくりけるによりて、汝が助けにとて、かた時のほどとて降ししを、そこらの年頃、そこらの金賜ひて、身をかへたるがごと成りにけり。
かぐや姫は、罪をつくり給へりければ、かく賤しきおのれがもとに、しばしおはしつるなり。罪の限果てぬれば、かく迎ふるを、翁は泣き嘆く、能はぬことなり。はや出したてまつれ」
と言ふ。
翁答へて申す、
「かぐや姫を養ひたてまつること廿余年に成りぬ。かた時とのたまふにあやしくなり侍りぬ。また、異所に、かぐや姫と申す人ぞおはすらむ」と言ふ。
「ここにおはするかぐや姫は、重き病をしたまへば、えいでおはしますまじ」と申せば、その返りごとはなくて、屋の上に飛ぶ車を寄せて、「いざ、かぐや姫。きたなき所にいかでか久しくおはせむ」と言ふ。
立てこめたるところの戸、すなはち、ただ開きに開きぬ。
格子どもも、人はなくして開きぬ。
省2
32: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:28 ID:33d(22/25) AAS
 竹取心惑ひて泣き伏せるところに寄りて、かぐや姫言ふ、
「ここにも心にもあらでかくまかるに、上らむをだに見送りたまへ」
と言へども、
「なにしに、悲しきに見送り奉らむ。われをいかにせよとて捨てては上りたまふぞ。具していでおはせね」

と泣きて伏せれば、心惑ひぬ。
「文を書き置きてまからむ。恋しからむをりをり、取りいでて見たまへ」とて、うち泣きて書くことばは、

「この国に生まれぬるとならば、嘆かせ奉らぬほどまではべらで過ぎ別れぬること、かへすがへす本意なくこそ覚えはべれ。
脱ぎおく衣を形見と見たまへ。
月のいでたらむ夜は、見おこせたまへ。
見捨て奉りてまかる空よりも、落ちぬべきここちする」と書き置く。
省12
33: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:30 ID:33d(23/25) AAS
 「かくあまたの人を賜ひてとどめさせたまへど、許さぬ迎へまうで来て、取り率てまかりぬれば、口惜しく悲しきこと。
宮仕へ仕うまつらずなりぬるも、かくわづらはしき身にてはべれば。
心得ずおぼしめされつらめども、心強く承らずなりにしこと、なめげなるものにおぼしめしとどめられぬるなむ、心にとどまりはべりぬる」
とて、

  今はとて天の羽衣着るをりぞ君をあはれと思ひいでける

とて、壺の薬添へて、頭中将呼び寄せて奉らす。
中将に天人取りて伝ふ。
中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁をいとほしく、かなしとおぼしつることも失せぬ。

この衣着つる人は、もの思ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して上りぬ。
34: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:33 ID:33d(24/25) AAS
 そののち、翁・女、血の涙を流して惑へどかひなし。
あの書きおきし文を読み聞かせけれど、
「なにせむにか命も惜しからむ。たがためにか。何事も用もなし」
とて、薬も食はず、やがて起きも上がらで、病み伏せり。
中将、人々引き具して帰りまゐりて、かぐや姫を、え戦ひとめずなりぬること、こまごまと奏す。
薬の壺に御文添へ、まゐらす。
広げて御覧じて、いといたくあはれがらせたまひて、物も聞こし召さず、御遊びなどもなかりけり。
大臣上達を召して、「いづれの山か天に近き」と問はせたまふに、ある人奏す、「駿河の国にあるなる山なむ、この都も近く、天も近くはべる」と奏す。
これを聞かせたまひて、

  会ふこともなみだに浮かぶわが身には死なぬ薬もなににかはせむ
省6
35: 忍法帖【Lv=3,ゆうしゃ,4Hp】 2016/08/28(日)13:54 ID:33d(25/25) AAS
竹取物語

和田萬吉

 むかし、いつの頃でありましたか、竹取りの翁
といふ人がありました。
ほんとうの名は讃岐の造麻呂といふのでしたが、毎日
のように野山の竹藪にはひつて、竹を切り取つて、いろ/\の物を造り、それを商ふことにしてゐましたので、俗に竹取りの翁といふ名で通つてゐました。
ある日、いつものように竹藪に入り込んで見ますと、一本妙に光る竹の幹がありました。
不思議に思つて近寄つて、そっと切つて見ると、その切つた筒の中に高さ三寸ばかりの美しい女の子がゐました。
いつも見慣れてゐる藪の竹の中にゐる人ですから、きっと、天が我が子として與へてくれたものであらうと考へて、その子を手の上に載せて持ち歸り、妻のお婆さんに渡して、よく育てるようにいひつけました。
お婆さんもこの子の大そう美しいのを喜んで、籠の中に入れて大切に育てました。
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