農業総合スレ (2688レス)
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2112(1): とはずがたり 2017/06/22(木)21:54 AAS
■教育改善を妨害した規制
山本幸三地方創生大臣は5月30日の会見で加計学園の獣医学部新設計画をめぐり、「長年にわたって新設を認めなかったことで、残念ながら日本の獣医学部の質は落ちている」と発言した。何かとたたかれている山本大臣だが、この発言は正しい。
獣医学教育の内容は医学教育とほとんど同じで、内科、外科などの臨床科目から生理、解剖、薬理などの基礎科目まで多数が並ぶ。これらの科目の講義と実習のために最低70名の教員が必要というのが基準なのだが、それだけの教員をそろえている大学はない。一方、海外の獣医科大学では100-200名の教員と補助者を配置している。要するに日本の獣医学教育システムは欧米のレベルよりはるかに遅れているのだ。
1970年代初めから始まった6年制教育実施を目指す動きのなかで、国公立大学の獣医学学科を学部に格上げして教員数を基準の70名まで増やすことが計画された。これに対して財務当局から、教員数を70名に増やす条件として、30~40名であった入学定員を70~80名に増やすよう求められた。大学教育に税金を投入する以上、費用対効果のバランスが重要という考え方である。しかし規制の壁のため入学定員増は不可能だった。6年制教育実施をきっかけにして日本の獣医学教育システムを欧米のレベルに充実しようという努力はあえなく挫折して、学部昇格も大幅な教員増もないまま形ばかりの教育年限延長が実施された。
その後、小動物臨床の市場はさらに拡大し、多くの学生がこの分野を志望した。他方、公衆衛生や大動物臨床志望の学生は減少して社会が必要とする数を供給できない状況になり、地方自治体は公務員獣医師の確保に苦労する時代が続いている。
■公衆衛生や大動物臨床は希望者が少ない
供給不足の対策は3つある。第1は獣医師の数を増やすことだが、これは規制の壁に阻まれている。2番目は待遇の改善で、これはある程度行われているがまだ十分ではない。3番目は教育の充実である。学生は教育を受ける中でその分野の重要性や面白さに気が付き、就職を決めるからだ。しかし、大学は希望者が多い小動物臨床教育の充実に取り組まざるを得ず、限られた数の教員しかいないなかで公衆衛生や大動物臨床の教育の充実は必ずしも十分ではなかった。
この状況を改善するために獣医学関係者が努力したのが国立大学獣医学科の再編整備である。もし3つの獣医学科を統合すれば入学定員約100名、教員数約100名となり、現在と同じ経費で欧米に近い立派な獣医学教育が可能になる。この案には獣医学教育関係者だけでなく日本獣医師会も賛同して協力してその実現を目指した。当時の文科省は全国に設置された過剰な数の教育学部の統廃合や、「遠山プラン」と呼ばれた全国99の小さな国立大学を30程度にまで統廃合する努力を続けていた時期であり、獣医学分野の再編にも全面的に協力した。しかし、これらの教育改革の努力は大部分の大学や地方自治体の「こちらに来るなら受け入れるが、そちらには出せない」という主張に押しつぶされて、すべてが未完に終わった。
そこに再び浮かび上がったのが単独大学の改革案だった。大阪府立大学は2009年のキャンパス移転を機に獣医学担当教員数を50名まで大幅に増やすなどの教育改革を行った。当然のことながら、教員の増加に見合う入学定員の増加を府議会から求められ、それまでの入学定員40名を60名に増員することを文科省に要望した。
しかし、この要望は獣医師会だけでなく獣医学教育関係者の支持を得られず、文科省は定員増を認めなかった。もしこれが実現していれば、国立大学も同様の教育改善が可能になったのだが、「規制の維持は教育改善より重要」というのが獣医界と文科省の意向だったのだ。
こうして入学定員を一人たりとも増やさないという「岩盤規制」が獣医学教育の改善を阻み、教育内容の偏りを生み、社会が必要とする分野への獣医師の供給不足を生んだといえる。筆者はこの時から規制に強く反対するようになった。
2114(1): とはずがたり 2017/06/22(木)21:54 AAS
>>2111-2114
■欧米レベルの教育水準に
このようなデータから、その地域に獣医学部を作れば、その地域の人口に見合った数の学生が入学し、ほぼ同数がその地域に就職することが見込まれる。四国全域を対象地域とする新しい獣医学部が、四国の産業動物・公衆衛生獣医師の不足解消に一定の役割を果たすことは間違いないと思われる。
「疑惑がもたれる経緯で獣医学部設置が決まったのだから、そんな獣医学部で十分な教育などできるはずがない」という批判もある。これはプロセスが悪ければ結果も悪いはずという思い込みだが、新学部の内容については文科省大学設置審議会が中立で公正な審査を行い、欧米レベルの大学になるよう指導を行っている。
たとえば既設の大学の獣医学担当教員は多くても50名程度だが、新設大学では70名の教員を置くことが求められている。要するに、新設と既設はダブルスタンダードということになる。これは長年にわたる獣医学教育改善に新たな一歩を刻む措置であり、既設大学が一日も早く新設大学のレベルに追いつくことで、国際的に通用する獣医学教育が実現するという道筋が期待される。
■規制は国民のメリットか?
最後に、今回の獣医学部設置は例外的に1校に限り認可されたものであり、「岩盤規制」が解除されて獣医学部の設置や入学定員の増加が自由化したわけではない。しかし既設大学が入学定員を順守することで減少する獣医師の数を現在の数まで戻すためには、入学定員をさらに増加する必要がある。
「岩盤規制」により獣医師の数を抑制することは小動物臨床獣医師のビジネスを守るために必要であることは間違いない。しかし規制は国民にとってメリットがあるのだろうか。規制賛成派の論理は、獣医師教育には多額の国税を投入するので、獣医師免許が不要な職域に人材供給をすることは税金の無駄遣いと断罪する。一見もっともらしいこの論理が正しければ、獣医師だけでなく医師、歯科医師、薬剤師などの国家資格教育も同じことになり、それぞれの免許が必要な職域にしか就職できないことになる。
しかし、筆者自身は獣医師免許が必要ではないライフサイエンスや公衆衛生の職域で働いてきた。筆者の教え子の中には金融、広告など獣医師免許が不要な職種で活躍している人材もいる。そして重要なことは獣医学教育という背景がその活躍を支えていることだ。それは税金の無駄遣いどころか獣医師の職域を広げ、その社会的地位の向上にもつながるだけでなく、税金を投入して教育を行うだけの価値があるものと筆者は考えている。
■獣医科大学間の競争がほとんどない
獣医界にとって規制のもう一つのメリットは獣医科大学間の競争がほとんどないことだ。文科省の調査によれば、平成28年度の獣医科大学全体の志願倍率は15倍を超え、私立大学に限れば20倍に近い。黙っていても受験者が集まってくるのであれば、大学は教育改善の意欲が高まらないのは当然のことだ。その結果、欧米のレベルからはるかに劣る教育システムが長年にわたって温存されている。
そしてそのような教育を受けた卒業生自身が、日本の教育システムの問題点についてほとんど知識がないため、大学に改善を要求することもない。もちろんそこには数少ない教員による教育の質の維持のための献身的な努力があるのだが、そんな無理が長続きしないことは、臨床系教員募集への応募が少ないことにも表れている。規制緩和による競争原理の導入が教育改善にも絶対に必要なのだ。
文科省にメールがあったとか、忖度があったとかの議論も必要なのかもしれないが、以上のような獣医界の大きな問題にも国民の目が向くことを願っている。
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唐木英明(からき・ひであき)
東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長
1964年東京大学農学部獣医学科卒業。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008~11年日本学術会議副会長。11~13年倉敷芸術科学大学学長。著書に『不安の構造―リスクを管理する方法』『牛肉安全宣言―BSE問題は終わった』などがある。
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(東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長 唐木 英明)
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