[過去ログ] 【艦これ】提督「…さて、と」 (1002レス)
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863: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/04/13(月)23:32 ID:Wgr8l8Cj0(1/9) AAS
すれ違い様に見えた榛名の横顔は、幸せそうだった。

様々な思いが一瞬で胸を去来し。
冷徹の仮面が落ち、感情が溢れ、泣きそうになって。

その時、加賀は後ろから走って来ていた瑞鶴に、高速で激突された。
不安定な姿勢から突き飛ばされる加賀。抱いていた感情は、その時思わぬ形で表に出た。

加賀「痛い……!」

それは、普段加賀の発する事がない声色。最も幼稚で本能的で単純な心の発露。

驚いて振り返る龍驤ら。
加賀は強かな雨の中、うつ伏せのようになって、腕で上体を起こしていた。

864: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/04/13(月)23:34 ID:Wgr8l8Cj0(2/9) AAS
その声は提督の耳にも届き、彼の歩みを縛った。
息が詰まる。
どうやら加賀は転んだらしい。
加賀の声が体の中を反響して、振り返りたい衝動に駆られる。
加賀は足腰が悪いのだ。今すぐ駆け寄って、無事を確認してやりたい。
しかし、提督は真っ直ぐ前を向いたまた、眉根を寄せて目を瞑り、唇を噛んでその感情をやり過ごした。
そんな提督と後ろの加賀を、榛名は不思議そうに交互に見比べる。

榛名「提督?」

小さく首を傾げ、愛しい人の顔を下から覗く榛名の目には、提督の行動が些か奇異に映った。まるで、何かを我慢するような仕草は、何を示しているのか。

提督「……いや……」

提督は榛名の声で、ふ、と我に帰った。
その背後では、龍驤や日向がうわずった声で加賀に何やら話しかけている。だが、あれだけ仲間が居るのなら、大丈夫だ。そう自分に言い聞かせ、提督はその場を離れようとする。
その時、あの声がもう一度聞こえた。ザァザァと、自己主張の激しい雨の中、決して大きくない、加賀の声がはっきりと。

加賀「痛い……」

提督の呼吸が震えた。
瞳が揺れ、目が泳ぐ。
榛名には、その声は聞こえなかった様子で、いよいよ怪訝な表情になった。提督の左手を掴む手に、少し力がこもる。

提督は再び立ち止まった。
逡巡の後、彼はチラリと後ろを伺う。我慢出来ずに。
再び交錯する視線。
自分を取り囲み、心配する仲間を他所に、加賀は提督だけを見つめていた。いつか見た、泣きそうな顔で。
それは雨粒のカーテン越しに、やけにはっきりと見えた。

提督「……すまない、榛名。傘を頼む」

865: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/04/13(月)23:36 ID:Wgr8l8Cj0(3/9) AAS
榛名「え?」

確かに掴んでいた提督の左手は、驚くほど簡単に、スルリと榛名の元から抜け出した。
突然の事で榛名が呆気にとられているうちに、番傘を半ば押し付けるように彼女へ渡し、提督は雨の中を駆ける。加賀の元へ。

龍驤「ちょ、加賀!立てるか?」

加賀「……」

瑞鶴「……ごめんなさい……!」

日向「落ち着け、瑞鶴……とりあえず加賀を濡れない所へーー」

沈黙を貫く加賀に、北の艦娘達は焦りを募らせるが、それも提督の到着までだった。

提督「……すまない、少し退いてくれるか」

日向「!」

加賀「……ていとく」

提督「何処が痛む。腰か、足か」

加賀「……わからない」

提督は無言で加賀を抱き上げた。

加賀「ぁ……」

提督「この状態でどこか痛むか」

加賀「いえ……」

提督「……良し。取り急ぎ、私は加賀を船渠まで運ぶ。北の艦隊にも同行願いたい」

日向「……わかり、ました」

提督「ありがたい。……榛名!ドックに行くぞ!」

礼を述べた後、提督は少し遠くで佇む榛名に向かって大声で告げた。
ややあって、わかりましたー!と反応がある。
よし、と提督は呟き、加賀を抱いたまま船渠へと向かった。

ああ、私はこの人に甘えてしまった。
この人は、やっぱり優しい。
不思議な安心感を加賀は覚えた。
提督の首に手を回し、姿勢を安定させる。
チラリとこちらを確認する提督と目が合った。こんな近くで。私を案じて。
それが加賀には、堪らなく嬉しい事だった。

866: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/04/13(月)23:38 ID:Wgr8l8Cj0(4/9) AAS
船渠は訓練所に程近い場所にあり、所謂風呂のような出で立ちで、さながら湯治を行っているかのように艦娘を癒す。
北の艦隊と提督及び榛名は、道中全員が全くの無言で船渠まで来た。ただ一人、加賀だけは安らかな雰囲気に包まれていたが。

提督「着いたな……」

提督はドックの中に入ると、加賀をいきなり入渠させず、艦娘が各々のコンディションチェックに用いる個室の前まで運んだ。

提督「これから少し加賀の状態を確認するが……北の艦隊から誰か一名、残ってくれるか。その他は、ずぶ濡れだから風呂に入ってこい。北提には私が連絡を取る」

瑞鶴「……私が、残ります」

日向「私も残ります」

龍驤「ぜ、全員残ります!」

提督「……どうせ加賀は入渠させるが」

日向「それまで待ちます」

提督「……ではそこで待て。榛名も頼む」

日向「あの」

提督「……なんだ」

日向「部屋はお二人だけ、ですか」

加賀と提督が密室で二人きりになる事に危険を感じたのか、日向が提督に尋ねる。
それには提督が口を開くよりも先に、加賀が反応した。

加賀「大丈夫」

日向「っ……」

提督「……という事だ。暫し、加賀を預かる」

そう言って、提督は加賀を抱いたまま個室へ入った。
867: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/04/13(月)23:41 ID:Wgr8l8Cj0(5/9) AAS
加賀を、部屋の真ん中に置かれた台の上に寝かせ、その状態で問う。

提督「どこが痛む?」

少し考え、首を振る加賀。仕方が無いので、提督は。

提督「少し、脱がせるぞ」

加賀「ん……」

提督は手慣れた様子で、濡れそぼり加賀の肌に張り付く着物を脱がしてゆく。その下から現れる肢体もやはり濡れて、部屋の照明に艶かしく光った。

下着だけになった加賀を見て、思う。決して綺麗な体では無いと。
その肌は戦闘や訓練の傷跡が目立ち、かつて酷いダメージを受けた脇腹から太ももにかけては白く変色している部位も多い。
女性らしい部分といえば、その胸の豊かな膨らみだけで、体躯は基本的に細く、そして筋肉質である。
決して綺麗では無い。しかし、これは美しい。提督は思う。生きている証だと。

868: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/04/13(月)23:43 ID:Wgr8l8Cj0(6/9) AAS
加賀「あの……提督……あまり見られては、恥ずかしいのだけれど……」

頬を薄っすらと染め、恥ずかしさに身を捩る加賀の瞳に、提督の姿が写る。濡れて張り付く髪が煽情的だ。
しかし、提督はそんな加賀を直視して尚動じず、冷静に答えた。

提督「今更気にする仲でもあるまい……それよりも、腰と足のサポーターはどうした」

加賀は少し困ったような顔をした。

加賀「……最近調子が良かったから……」

宿題を忘れてしまった子供のような顔で、上目遣いのまま告げる。

提督「仲間に隠しているのか?故障の事を」

加賀「……そういうことではなくて……あれ、蒸れるの……すごく……」

提督「……とりあえずプラスチックテーピングで固定してから入渠させる。良いな」

提督はやれやれと言った風で、個室に据えられた引き出しから耐修復液仕様のテーピングテープを取り出した。

869: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/04/13(月)23:44 ID:Wgr8l8Cj0(7/9) AAS
そして提督は加賀をうつ伏せになるように転がし、告げる。

提督「下、脱がすぞ」

加賀「……はい」

赤面し、もぞもぞと動く加賀をよそに、提督は手早く下着を外した。
やはり筋肉質な臀部が露わになる。

提督「確かお前がダメなのは大腰筋と大臀筋、大腿筋あたりだったな……」

提督は事務的な動きでテープを次々と貼っていった。

提督「……きちんと食事は取っているか」

提督はテーピングする手を止めずに問う。

加賀「……ええ」

加賀もうつ伏せのまま答える。
それから暫く、提督は加賀に質問を重ねた。今の艦隊はどうか、司令官はどうか、無理はしていないか……
他愛も無い物ばかりだが、全て自分を慮る質問だった事を、加賀は覚えている。

提督「……そう言えば、酒を飲み過ぎて暴れたりしてないだろうな」

加賀「……」

提督「お前……」

加賀「……あなたを、悪く言う人が悪いのよ」

870: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/04/13(月)23:46 ID:Wgr8l8Cj0(8/9) AAS
背面の固定を終えた提督は、はぁ、と溜息をついて、仕置とばかりに前触れも無く加賀を裏返した。躰が露わになる。
突然の事に、彼女の口から、やっ……と小さな声が漏れ、咄嗟に腕で顔を隠した。

提督「少し我慢してくれ」

提督はそう言い、太ももにテープを手際よく貼っていく。
内股に手が擦れる度、ん、と加賀の口から吐息が漏れた。
暫くの間、無言の空間にテープをロールからはがす音と、加賀の吐息だけが響く。
最後のテープを貼り終えると、提督は戸棚からバスタオルを取り出し、加賀に被せた。

提督「そのまま入渠してこい。それで良くなるだろう。……あと、隠している訳でないのなら、今日からはきちんとサポーターを着けろ。良いな」

そのまま提督は部屋から出て行こうとする。

加賀「……提督。あなたはーー」

提督「……なぁ、加賀」

提督は言葉を重ねる事で、強引に加賀を遮った。そして、ドアに手を掛け、困ったような笑顔を加賀へ向ける。

提督「その、なんだ。……すまない」

その微笑みは水平線に沈み行く夕陽のように、儚くて。そして、優しかった。

加賀「……待ってーー」

提督は加賀の声を最後まで聞かずに部屋を出てしまった。

加賀「……提督……」

残された者の感じる寂しさは、まるで夜。
871: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/04/13(月)23:53 ID:Wgr8l8Cj0(9/9) AAS
ここまで
色気を出すのは難しいですね

第1章、もう少し?結構?続きます


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