[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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174: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/03/18(月)04:18 ID:7w+pZ8Vdo(1/13) AAS
前スレにも書きましたが、
キャラクターに対しては荒れる原因にもなりますので、言葉を選んでいただければと思います
もちろん「俺の〇〇はこんなじゃない」「魅力が出せていない」「捉え方がおかしい」
といった形なら、つまりSSへの批評批判でしたら歓迎ですが

ネタ、妄想に関しては、(上記の件についてもですが)
気になるかもしれませんが、悪気あってではないでしょうし、あったならなおのことスルーでお願いできないでしょうか

小ネタを書く方は自由ですが、書き込む前に他の方が不快にならないかどうか御一考ください
それと技名等データについては私がお願いしたものなので、ご理解ください

以上の理由から分ける必要はないと考えます

ですが、このスレ、SSとまったく関係ないものとして立てるのでしたら止める権利はありません

遅くなりましたが、投下します
175: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:20 ID:7w+pZ8Vdo(2/13) AAS
 だとしたら、零の指摘は正しい。
 おそらく彼は違う意味で言ったのだろうが。

「いえ、あなたの言う通りかもしれません。私は、私のことを知らない……。
でも、だからこそ、会わなくちゃいけないんです。でないと私……」

 目蓋が震える。
 マミは太股に落ちた拳をギュッと固く握った。気を抜くとまた泣いてしまいそうだった。
 ダメだ、まだ泣くなと、必死で己に言い聞かせる。
 
「生きる意味を見失ってしまう。何も残らなくなる……」

――キュゥべえに裏切られた私に残された……ううん、裏切ったのは私。
彼は私が友達だと思う限り友達だと言った。
彼は鏡のような存在で、大事なのは私の心ひとつ。
だからこそ、疑いと憎しみを抱いたら二度と友達とは見られなかった。

だからキュゥべえと決別した。
命さんは成り行きとはいえ私の正体を知り、受け入れてくれた。友達になってくれた。
命さんがいてくれれば、もう彼はいらないと思ったのかもしれない。

美樹さんは冴島さんに憧れている。それに今日のことで、きっと私にも幻滅したはず。
鹿目さんも美樹さんも、魔法少女の真実を知ってしまった以上、仲間には誘えない……。

一緒にいたら彼女たちはともかく、私は二人を求めてしまう。
二人は魔女とも、魔法少女とも……私とも関わりを持たない普通の生活に戻るべき。
私にはもう命さんしかいないのに、あの人を失ったら私は――
176: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:22 ID:7w+pZ8Vdo(3/13) AAS
 マミは俯き、沈んだ。
 あれこれ独りで考えていると、どうしても悲観的になってしまう。
 そこへ頭上から軽い調子の声。

「生きる意味なんて考えてる人の方が珍しいよ。
かくいう俺も意味なんてよくわかんないしね」

 だから生きる意味なんてなくたって平気だとでも言うのか。
そんなふうに、気楽に生きられない人間だっているのに。
 最初からないのと、あったものを失うのとでは、大きな差異がある。 
世界が色褪せて、何もかもが無味乾燥に感じられるのだ。

 その気楽さへの呆れは怒りに変わり、ひとこと言ってやろうとマミが顔を上げると――。
 同時に黒い物体が鼻先に突き出された。

「それでも、美味いケーキとお茶があれば、ちょっとは生きてて良かったって思える」

 ふわりと鼻腔をくすぐる香しさ。
 この香りは――チョコレート。
 零が注文していたチョコレートケーキだった。
 
「ほら。マミちゃんも食べなよ」

 いりません、と突っぱねようとした瞬間。

 クゥ〜、という音が。
177: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:24 ID:7w+pZ8Vdo(4/13) AAS
「あ……」

 発生源はマミのお腹からだった。
 小さな音だったが、マミは露骨に表情に表してしまった。
当然、耳聡い零が聞き逃すはずがない。

 そういえば昨日の夕方から何も食べていないと、今になって思い出す。
 泣き疲れて眠り、惰性で登校し、授業中も昼休みも物思いに耽っていただけだった。
その間、食事のことなど忘れていたし、空腹も感じなかった。
 心に引き摺られて、身体までもが生きるのを拒んでいた。

 それがどうだ。
 チョコレートケーキの香りを嗅いだ瞬間、死んでいた全身の細胞が生き返ったかのよう。
 灰色だった世界が色付いていく。

 目に飛び込んできたのは、テーブルに所狭しと並べられたスイーツの数々。
 彩り鮮やかなデコレーションが眩しく、甘い香りは否応にも食欲を刺激する。
今の今まで目にも映らなかったのに、自分でも不思議だった。
 
 ごくり――と、無意識に唾液を嚥下する。
 今度は最初より大きく腹の虫が鳴いた。

「や、やだ……」
 
 マミは顔を真っ赤にして恥じらい、両手で腹を押さえながら縮こまった。
 零は、くつくつと苦笑しながら、マミの前に新しいフォークを添えて皿を置くと、
 
「さ、どうぞ召し上がれ」

 右手を差し出し、恭しげに促した。
178: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:26 ID:7w+pZ8Vdo(5/13) AAS
 マミは悔しそうに零を見上げて数秒。
 観念したように息を吐いた。
 身体が求めている以上、虚勢を張っても仕方がない。言い訳の余地がない完敗だった。
 
 軽く会釈した後、フォークを手に取ると、まず全体を見回す。
 チョコを練り込んだ生地。
 層になったチョコクリーム。
 表面を白く覆う雪のような粉砂糖。

 シンプルで派手さはないが、他のケーキに微塵も見劣りしない。
見た目ほとんど黒と茶だけなのに、むしろ高貴ですらある。
 今まで見ていた、褪せた灰色の景色とは比べ物にならない美しさ。

 既に零に対する屈辱感は頭になく、マミの胸は期待に踊っていた。
 いつもお菓子を前にすると、日々の疲れや不安を束の間でも忘れ、幸せな気分に浸れた。
 流石に普段ほどではないが、無気力、無感動に錆ついていた心は確実に動き出していた。
 
 フォークで突き刺して、一部を口に運ぶ。
 甘さとほろ苦さが絶妙に組み合わさり、舌の上で解ける。
 一口にチョコレートの美味しさが凝縮されていた。

 食べ進めるごとに、忘れていた食欲が目覚めていく。
 もっと、もっと食べたいと欲している。
 生きる意味も見失い途方に暮れていたのに、身体は生きたいと渇望していた。

 大げさだが、今この瞬間だけは心の底から思う。
 生きていて良かった、と。

 
179: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:27 ID:7w+pZ8Vdo(6/13) AAS
 たった一個のケーキに、こんなにも揺さ振られるなんて。
 こんなことが堪らなく嬉しい単純な自分が情けなかしかった。

 そして、悲しくて寂しかった。
 キュゥべえや杏子と、何度も一緒に談笑しながら食べた想い出が蘇って。
 まどかやさやかと食べることがもう叶わなくて。

 お菓子が美味しかった理由。お茶会が幸せだった理由。
それは単に味だけじゃない。大切な誰かと時間を共有できたから。
 もし一緒だったなら、どんなに楽しかったろう。きっと何倍も美味しかったはず。

 でも、ここにいてほしい人は誰もいない。
 それでも、ケーキはやっぱり美味しかった。

 喜怒哀楽。
 様々な感情が一気に押し寄せて、胸が詰まって言葉にならない。
 瞳の端から、ずっと堪えていた涙が溢れる。

 ポロポロ零れて止まらない涙。
 マミは拭うこともせず、一口一口を大事そうに噛み締めた。
 口内を満たすのは甘味と苦味。それと少しの塩味――。
180: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:29 ID:7w+pZ8Vdo(7/13) AAS
  
 皿を綺麗に平らげたマミは、紅茶を含んで口を洗う。
鼻から息を吐くと、紅茶の香りと心地良い満足感だけが残った。
 不安から逃げる為、がぶ飲みしても得られなかった精神の安定。
それが僅かだが戻ってきた。
 
 何故だろう。それほど長く、激しく泣いた訳でもないのに、心が軽くなった。
独りの時は、何時間泣いても澱のように溜まっていく一方だったのに。
 零の前で泣いたことも後悔はしていない。彼のおかげで気持ちが楽になったのは紛れもない事実。
 
 ただ、ひとつ問題がないではなかった。

――は、恥ずかしい……。

 落ち着くと、猛烈な羞恥心が湧いてきた。
 そう思えるだけの余裕が戻ったのは喜ばしいのかもしれないが。
 マミは伏せた顔をなかなか上げられずにいた。

 泣きながらケーキにがっつく女を見て、彼はどう思っただろうと。
 また笑われるか。それとも、親身になって同情されるか。
 
 数十秒の後、そ〜っと上目遣いで零を窺う。
 結果は、どちらでもなかった。
 零はこちらに見向きもせず、頬杖をついて窓の外を眺めていた。
食べている間、ずっとそうしていたのだろうか。
 
 今がチャンスと、急ぎ取り繕うマミ。
 顔と口元を拭いて、お絞りで頬の火照りを冷まし、深呼吸。
 ようやく人に晒せる表情になってから、もしかしたら、と思う。
181: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:31 ID:7w+pZ8Vdo(8/13) AAS
――これも、この人なりの気遣いだったのかしら……。
それとも、本当に深入りする気がなかっただけ……?
どっちにしても、私にとって一番嬉しい対応だったけど――

 マミも零の視線を追ってみた。
 彼が見上げる空には、欠け始めた月が雲の切れ間から覗いていた。
 雨脚も弱まっている。

 それから長い間、マミと零は月を見上げていた。
 二人とも一言も発しなかったが、気まずい沈黙とは無縁だった。
 周囲の雑音も気にならない。何も語らなくてもいいのだと思えた。

 もしかしたら、もしかして。
 このまま、すべてがうまくいくんじゃないか。
 雨がいつか必ず上がり、黒雲が晴れ、夜明けが来るように。
 甘えた考えだとしても、期待せずにいられなかった。

 実際は何も変わっていない。気持ちがやや上を向いたに過ぎない。
 なのに、映る世界は違って感じられた。
 
「あの……せっかくですから、少しお話しませんか……?」

 切り出したのはマミから。
 一歩を踏み出せば、何かが変わるかもしれない。
そんな、何の根拠のない漠然としたプラス思考。
 その瞬間、マミは希望を垣間見ていた。
182: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:32 ID:7w+pZ8Vdo(9/13) AAS
 共通の嗜好を持つ者同士だった為か、それなりに話は弾んだ。
 この街で美味しい店を教えたり、
逆にこれまで行った店で特に美味しかった店を聞いたり。

 零は自分が注文したスイーツを気前よくマミにも分けてくれた。
 マミも最初こそ遠慮したものの、最後には誘惑に抗えず、厚意を受け取った。

 彼は本当に命とは真逆だった。
 他人に深入りしないし、胡散臭い発言もある。
かと思えば、妙に紳士的だったりもする。
 温かいのか冷たいのかわからなくて、どうしていいか混乱してしまう。
 
――何て言ったらいいんだろう。本当に掴みどころのない人……。
でも、不思議と嫌いじゃない――

 命との会話がひたすら安らぎに満ちていたのに対し、零は気が抜けない。
良くも悪くも緊張感のある時間。少なくとも退屈はしなかった。
もし彼を詳しく知る機会があったなら、それが良い方に傾いただろうか。

 そう思う程度には、マミは零に心を開きつつあった。
 態度も軟化し、ぎこちない笑顔を浮かべもした。

 しかし――。
183: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:34 ID:7w+pZ8Vdo(10/13) AAS
 閉店が近付くにつれ、マミは次第に無口になっていった。
 命はまだ来ない。
 零と話す前より強い焦燥に駆られる。

 笑顔が翳っていくのは止められなかった。
マミ自身にも、零にも、誰にも。

 そしてオーダーストップを経て、閉店。
 肩を落として店を出たマミに、零が言った。

「それで、マミちゃんはこれからどうする?」

「私も、帰ります」

 訊かれるだろうと、あらかじめ用意していた答えだった。
 零は真剣な顔つきで何か言いたげにしていたが、

「そっか。じゃ、気を付けて」

 と、背を向けて去っていく。
 その背中を、マミは一礼して見送った。

「ご馳走様でした。それと……ありがとうございました」

 暫く反対に歩いたマミは立ち止って振り返る。
 零が見えなくなったのを確認すると踵を返し、また店の前まで戻ってきた。
184
(1): ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:35 ID:7w+pZ8Vdo(11/13) AAS
――涼邑さん……ひょっとして私の嘘に気付いてたかも。
最後まで読めない人だったな……――

 零との時間は楽しい。しかし、求めていたものではない。
 彼では命の代わりにはなり得ないし、代わりなんて零にも失礼だ。
もうキュゥべえの時のような自己嫌悪に苛まれるのは嫌だった。

 運良く通りから見えにくく、店の周囲を見張れる物陰に入る。
 自分の執着が異常だという自覚はある。でも、どうしても諦めきれなかった。
せめて、もう一度だけでも会って確認したかった。

 故にマミは、この場に残ることを選択した。
 零には悪いと思っているが、心配を掛けたくなかったのだ。

 もう春だが、まだ雨が降ると冷える。ずっと暖かい店内にいたせいか、外は余計に寒かった。
 一応ここは建物の陰ではあるが、雨を完全には凌げない。
冷たい雨が時間を掛けて全身を濡らし、体温を奪う。

 それでもマミは吐息で手を温めながら、命を待った。
 待って、待って、待ち続けて。

 いつの間にか日付が変わっていた。
185: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:37 ID:7w+pZ8Vdo(12/13) AAS
 月は再び分厚い雲で覆い隠され、雨は勢いを増す。
 髪の毛や服から滴るほど、マミは全身くまなく濡れていた。

 最早、信じて待つのも限界だった。
 魔法が解けたかのように、今では悲観的な思考しか浮かばない。
 希望を抱いた分、失望も大きかった。
 暗がりで独り、ぬか喜びの代償を噛み締める。

 眺める街の明かりがひとつ、またひとつと消え、マミの瞳からも光が失われていく。
 灰よりもなお暗い色に変わっていく。
 やがて世界が漆黒に染まっても。
 遂に夕木命は現れなかった。
186: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/18(月)04:41 ID:7w+pZ8Vdo(13/13) AAS
ここまでで一区切り
3話Aパートでしょうか
続きは少し後になるかもしれませんが、来週また経過報告は

基本的には、さやかまどかほむらを鋼牙担当というか主に絡む役割、マミ杏子を零が担当と考えています
2話3話はマミと杏子が中心だったので、必然的に零が目立ったと

>>130

私見ですが、零が本当の意味でシルヴァに感謝と愛情を抱くようになったのは、庇って壊れてからじゃないかな
と思っています
大人と子供で言えば、一期の途中までは子供っぽさがあり、それがミステリアスな雰囲気にも繋がっていた
「俺たちは魔戒騎士じゃないのか!」のあたりから変わったような気がします
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