[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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87: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:00 ID:7WDhRFYso(1/6) AAS
振り返ると、ちょうど目と目が合う。
大量のデザートを注文したのは――声から察しが付いていたとはいえ――意外にも若い男だった。
それも、マミが見覚えのある。
――この人、確か……。
「やぁ、マミちゃん」
やたら気さくに片手を上げたのは、一昨日の朝、マミに声を掛けてきた男だった。
彼は謎めいた雰囲気を纏い、マミが魔法少女だと言い当てた。
ただならぬ気配に危険を感じたマミは、絡んできた不良を零が締め上げている隙に逃げたのだった。
「涼邑零さん……でしたっけ」
すると零は人懐っこい笑顔を浮かべて、
「嬉しいな、覚えててくれて。それより、まずは……はい」
差し出したのは――袋に入ったままのお絞り。
意図がわからずに困惑していると、零は苦笑して自身の目を指差した。
「顔、拭いたら?」
「あっ……」
と、声を上げるマミ。
今になってようやく、視界がぼやけているのに気付いた。
瞳には涙が滲み、触れると頬には乾きかけの涙の跡。
88: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:02 ID:7WDhRFYso(2/6) AAS
こんな情けない顔を知らない男性に晒していたなんて。
慌てて自前のハンカチで顔を拭う。
拭いている最中も顔面は朱に染まり、火が出そうなくらい恥ずかしかった。
「それで、マミちゃんはどうしてここに?」
どうして泣いていたかは訊かれない。彼なりに気を遣ってくれているのだろうか。
その気配りをありがたくも恥ずかしく思いつつ、マミはぽつりと答える。
「どうしてって、人を待ってるんです」
「へぇ、誰を?」
零が追及した直後、
「……そんなの、あなたに関係ありません」
ツンと無愛想に、マミは顔を背けた。
せっかく気遣いのできる人だと思ったのに、踏み込んでくるなんて。
そんな落胆もあれば、待ち人が本当に来るのか不安からの苛立ちもあった。
「ごめん。怒らせたなら謝るからさ。機嫌直してよ」
「別に、もういいですから」
実際それほど怒っていなかった。怒るほど興味がなかった。
目下、マミの関心は夕木命にしか向いていなかったからだ。
にも関わらず、零は一人で話し続ける。
89: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:08 ID:7WDhRFYso(3/6) AAS
「けどマミちゃん。人を待つにしても、中学生が一人でいるには遅い時間だよ。
連絡してみるなり、日を改めるなりした方がいいんじゃない?
最近このあたりも物騒だから。さっきも警察らしき人を見掛けたし」
聞き流していたマミがピクリと反応した。
「それは……でも……」
言い淀む。
命とは連絡先の交換もしていない。今日を逃せば、次にいつ会えるかわからない。
いや、会えるかどうかさえも。
ただでさえ不安定だった心は容易く揺さ振られ、零の発言に言及するのも忘れていた。
目線や立ち振る舞い、身体つきから私服警官を見抜いた彼を訝る余裕もなく、
彼が魔法少女の存在を知り言い当てたことも、頭の片隅から消え去っていた。
もしも警官に見咎められ、帰れと言われれば帰らざるを得ないだろう。
店外のどこかで待とうにも、制服姿では目立つ。
二度目は学校や親戚へ連絡されるかもしれない。
深々と溜息をつくマミ。
いつだって、ままならないのだ。
常識、世間、社会。
如何に人が恐れる怪物を葬る力を手にしていても、
人の中で生きていくには、それらの枠組みを逸脱できない。
この力は、どこまで行っても暴力。排斥されない為には、隠して生きていくしかない。
自分を取り囲む人の世界に対しては無力に等しい。
彼女のように欲望に任せて力を振るうことも、こっそり小賢しく利用することも、
マミにはできそうになかった。
90: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:09 ID:7WDhRFYso(4/6) AAS
進退窮まったところへ、零が奇妙な提案を持ちかけた。
「俺でよかったら保護者役、引き受けるけど?」
マミは一瞬ハッとなり、
「何が目的ですか……?」
即座に眉間にしわを寄せ、不信感を露わにした。
明らかに胡散臭い。何か罠があると警戒するのは当然だった。
「別に。今日は俺も振られちゃったからさ。
俺が店にいる間、話し相手になってくれるだけでいいよ。もちろん、君のお相手が来るまで」
しかし、渡りに船の申し出だったのも確か。
まだ帰りたくない。帰れない。ただ、それだけしか頭になかった。
だからこそ。
91: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:11 ID:7WDhRFYso(5/6) AAS
「それじゃあ、よろしくお願いします……」
マミは長く逡巡した末に、その提案を受け入れた。
零を信用した訳じゃない。
軽薄な男の戯言に、いっとき付き合うだけで済むならよし。
もしも零が何か良からぬ企みをしていても、対抗できる自信があった。
魔法少女の力を人界で振るえるとしたら、それは不当な暴力に対してのみ。
自分と誰かの身を守る為にだけ、人間への行使を許される。
そう、マミは考えていた。
単純に力で捩じ伏せていいなら、こんな簡単なことはない。
彼が何者であろうと負ける気はない。
魔法少女以外で自分に対抗できるとしたら、それは数少ない例外だけ。
魔戒騎士、冴島鋼牙。
またの名を黄金騎士、牙狼。
彼のような例外中の例外が、そうそう現れるはずがないと、マミは高を括っていた。
92: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/03/06(水)03:16 ID:7WDhRFYso(6/6) AAS
短いですが、ここまで
もう少しで一区切りなので、明日も短いでしょうが書きたいと思います
映画は冴島鋼牙、最後の戦いに相応しい内容でした
ラストシーンとEDは何度でも見たくなります
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