[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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521: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:02 ID:7QRuSRZOo(1/12) AAS
――嫌……。

 それは思考ではなかった。

――嫌……!

 心の底から込み上げる声。

 叫びだった。

――死ぬのは嫌!!

 瞬間、マミの最も奥の部分で何かが弾けた。
 一瞬でマミのすべてを塗り潰す魂の絶叫。
 強い衝動が、感情の昂りが思考を凌駕した時、マミは悟った。

 それは生物としての本能以上に、己の本心であり、本質だったのだと。
 
 気付いた時には、魔女は目と鼻の先にまで接近していた。
白い牙と、口内の果てのない虚無の如き闇が視界を覆い尽くす。
 今からでは、たとえ身体が動いたとしても回避は不可能。

 それでもマミは死を恐れ、拒絶し続けた。
 ただひたすら死にたくないと強く念じ、そして――。
 
522: ◆ySV3bQLdI. [saga] 2014/03/08(土)00:05 ID:7QRuSRZOo(2/12) AAS
 *

 ガチン――と、歯が噛み鳴らされる音が結界に響く。
 魔女の牙は隙間なく閉じられ、何も挟まっていない。
 目を白黒させている魔女の横を、すり抜けるように影が過ぎった。

 マミだった。
 本人も頭と胴が繋がっていることが不思議そうに、魔女を横目で見ている。
 一歩も動いていないはずなのに何故。両者が同じことを考えていただろう。

 魔女がマミの頭を咥える寸前、誰かが横合いからマミの手を引いたのだ。
 身体ごと浮き上がるほど乱暴で強い力だったが、お陰で命は助かった。
 しかし、いったい誰が?

 微かな期待を胸に、今も引かれている自らの手に視線を移す。
 救いの主を確認したマミは、大きく目を見開いた。

 一瞬で理解して、自嘲気味に、しかし悲しそうに口元を歪めた。

 それは鋼牙でもほむらでもない。まして零や命であるはずがなく。

 手を引いていたのは、ただ一本のリボン。

 すっかり存在を忘れていたが、マミが手に巻きつけていたリボンだった。
壁の弾痕から伸びたそれが、マミの身体を引き寄せていたのだ。 
523: ◆ySV3bQLdI. [saga] 2014/03/08(土)00:10 ID:7QRuSRZOo(3/12) AAS
 *

 何故このリボンを手に握っていたのか。
 問われたとしても答えられない。特に理由などなかった。
あるとすれば尖りきった警戒心が、奥底にある臆病さが保険を掛けさせた。
結局は忘れていたのだが、それでも生きたいという強い想いが、この土壇場で無意識に魔法を発動させたのだろう。
 
――冴島さんが二度も都合良く現れるはずがない。暁美さんも同じ、そんなことはあり得ない。
まして、あの娘が来るだなんて……そんなこと一瞬でも思うなんて、ほんと……馬鹿みたい――

 この瞬間、マミを救ったのは紛れもなくマミ自身だった。

――最後の最後に頼れるのは自分だけ。
そんな簡単な真理も忘れるくらいに、たった数日で私は腑抜けてしまっていた。  
この身体は戦い方を覚えていて、自棄になった愚かな私を生かしてくれたのに――

 まだ他人に何かを期待し、甘え、縋ろうとしていた自分。
 生き抜く力を持っていながら、それを捨てようとしていた自分。
 表面上は諦めながら、本心では浅ましくても生きたいと願う自分。

 すべてが情けなくて、しかし言い訳しようもなく事実で。
 ありのまま受け入れるしかなかった。
 
 孤独も、いつか必ず訪れる末路も、アイデンティティの喪失も、自分を絶望させるには至らなかったと。

 いや、そんな見下げ果てた自分に絶望してはいるが、どうやらまだ魔女にはならないらしい。
 零の言葉を借りるなら、すごく痛くて、辛くて、寂しくて、苦しいけれど、耐えられないほどではない。
524: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:12 ID:7QRuSRZOo(4/12) AAS
 むしろ曖昧だった意識も、もやが晴れて、すっきりクリアになっている。
 それどころか、視覚、聴覚、嗅覚――あらゆる感覚が覚醒して、世界が新鮮に感じられた。
 たとえるならそう、たった今この世に生まれ落ちたばかりのような。

 それは、あながち錯覚でもなかったのかもしれない。
 あの日、あの事故で、人間としてのマミは死んだ。そして新たに魔法少女として生まれ変わった。
 この瞬間、マミの精神状態は、あの日とそっくり同じだったから。

 死の淵に立たされていたマミは強く、強く願った。

 死にたくない、生きていたい。
 純粋な生の渇望。
 それが、マミの望み叶えた願い。

 魔法少女としての原点。同時に、ある意味で汚点。
 きっと、友も仲間も誇りも、すべてを失った今だから気付けた。思い出せた。
 鋼牙と出会ったあの日からの出来事で、何かひとつでも違っていれば、こうはならなかっただろう。
 
 否定しようとも否定しきれず、すべての虚飾を取り払った後に残された唯一。
 どれほど穢れていても、それが真実。
 願いは、同時に呪縛でもあったと気付く。

――私は願いを裏切れなかった……。
たとえ、どんなに願いに裏切られても――
525: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:16 ID:7QRuSRZOo(5/12) AAS
 考えていた時間は、長いようで一秒にも満たなかった。
 眼前には急速に迫る壁。マミはリボンを放し、壁を蹴って反転する。
 魔女は顔をぷんぷん怒らせて追ってきていた。

 これも予想通り。マミには魔女を含む戦場のすべてが把握できていた。
 すかさず横っ跳びで魔女の牙から逃れながら、別方向からのリボンを伸ばす。
使い魔を掃討する際に撃ちまくっていたので、仕掛けには事欠かなかった。
 
 逃げれば逃げるほど、魔女の動きは単調になっていく。
そうでなくとも元々あまり賢いタイプではないようで、逃げるのは難しくなかった。
障害物に身を隠し、鋼線のように細く頑丈に作り変えたリボンで罠を張り、使い魔を身代わりにして。
 結界内を縦横無尽に飛び回る。

 ホラーとの戦いで偶然編み出した、リボンの性質を利用して自分の身体を素早く移動させる方法。 
 件のホラーとの相性は悪かったが、この魔女相手なら存分に効果を発揮できる。
 
 魔女が熱くなればなるほど、反対にマミは冷めていく。
 もちろん恐怖は変わらずある。生を渇望するからこそ。
だが、その恐怖に思考を乱されることなく飼い馴らしつつあった。

 より強い存在を頭に描くことで勇気を奮い立たせ、具体的な対処の糸口とする。
 イメージするのは、知る限りで最強の戦士――黄金騎士、牙狼の姿。
 
 "かつて"彼に対しては複雑な感情を抱いていた。
 無様な姿を晒した。後輩の前で意地を張ったりもした。
 それもこれも、今にして思えば羨望の裏返しだったのかもしれない。
526: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:21 ID:7QRuSRZOo(6/12) AAS
 彼のようになりたかった。
 彼のようでありたかった。
 でも、届かなかった。
 
 だから嫉妬した。
 その頃が遠い過去のように感じられる。

――諦めた? うぅん、似ているけれど少し違う。
関心が薄れた。
私と彼は、まったく別種の存在だと思い知った。
私は……守りし者にはなれない……。そして、そんなつもりも……――

 ほんの少しの間に自分は変わったと、改めてマミは自覚する。
 鋼牙の戦闘力には感嘆する。尊敬も、あのように強くなれたらとも思う。その気持ちは変わらない。だが、所詮そこまで。

 過去、理念、信念、矜持――おそらく彼を黄金騎士たらしめているもの。彼の力と両足を支えているであろうすべて。
それらに対する興味は消え失せていた。思い巡らせても無意味だと。

――決して彼の力に執着していたんじゃない。
 その眼差しに、揺るぎない心の強さに憧れた……。
いくら勝算があったとはいえ、美樹さんを庇う為に槍の束を全身で受け止めた。一瞬の躊躇いもなく。
 堅固な鎧よりも、無双の剣よりも、その魂は金色に輝いて見えた。

 同じ人を守りし者として、並び立てる私でいたい。
そう思うから、ままならないことに反発もした……。
  
 けれど根源の理由が消え、憧れも捨てた今、嘘のように妬心は消えている――
527: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:25 ID:7QRuSRZOo(7/12) AAS
 今はただ、この状況を彼ならどう切り抜けるか。その体捌きと、冷静な思考をなぞる為だけに鋼牙のことを考える。
 それ以外の一切が、マミにはどうでもよかった。

 その後もマミは逃げ回りながら知恵を巡らせるが、反撃には移れないでいた。
 生き残る意志は取り戻した。
 戦う為の技は、最初からこの身にあると思い出した。

 足りないものはひとつ。
 魔力。

 ソウルジェムを手に取って見ると、9割近くが黒く染まっていた。
 マミは動揺するが、予想はしていたのでショックは少なくて済んだ。
 それよりも、この残り少ない魔力でどう生き残るかに思考を切り替える。

 結界の外まで逃げ切るのは無理だ。入り組んだ道もある結界を戻ることになる。
 単純な速さでは魔女が上を行く。隠れる場所もない一本道で襲われれば逃げようがない。
しかも怒り狂っている敵は執念深く追ってくるだろう。牽制しようが、多少のダメージや障害は物ともしないはず。
 ここは敵の巣の中だ。まだ知らない罠や仕掛けもあり得るのに、追われながら逃げるのは不安が残る。

 かといって、この場に留まって戦うのも難しい。何発か撃ってみてわかったが、小技はほとんど通用しない。
倒すには充分な攻撃力が必要になるが、仮にティロ・フィナーレが撃てたとしても、それで魔力が尽きては意味がない。

 技術、策略、精神力では補えない不足。ガソリンがなくては車は動かないように。
このままでは、いずれ魔力が切れたところを仕留められる。 

――まだ……こんなところで終われない……。
あれさえあれば……どんな状況でも、相手が誰でも、絶対に抗ってみせるのに――
528: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:27 ID:7QRuSRZOo(8/12) AAS
 生きたいという願いに従うマミは、なおも諦めず足掻こうとする。
 強い意志に衝き動かされ、彷徨う手は自然とポケットに伸びていた。
 手のひらから伝わる硬い感触。探ってみると、
 
「これは……」

 そこには求めていたものがあった。
 グリーフシード。
 ソウルジェムの穢れを吸い、魔力を回復させる黒い石。

 何故これが懐にあったのかと考え、

「あっ……」

 と声を上げた直後、マミは頭を抱えたくなった。
 元は三日前に戦った魔女のもので、昨日さやかから渡されたのだった。
そういえば朝、家を出る際に持って出たのをすっかり失念していた。

 言い訳をするなら、あの魔女を倒したのは実質的には鋼牙で、
グリーフシードも彼が得るべきだと気が引けていたのもある。
だからマミは受け取りを拒否して、仕方なく鋼牙もさやかに託したのだが。

 それでも朝の自分は、半ば習慣となった用心を忘れなかったのに。
それに比べて、いろいろあったとはいえ今の今まで忘れていたなんて。
529: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:31 ID:7QRuSRZOo(9/12) AAS
「なんてこと……」

 つくづく勘が鈍っていたらしい。
 誰に求めるまでもなく、必要なすべては最初から手元にあった。
 マミは再び呆れ顔で自嘲気味に微笑んだ。

 ともあれ、これさえあれば、まだ戦える。
 勝機はある。
 生き残ることができる。

 あらゆる感覚が研ぎ澄まされる。
 四肢の先端にまで芯が通ったかのよう。
 全身に闘志が滾っているのがわかる。
  
 飛びかかる魔女に怯みもせず、マミはマスケットを構え、正面から片目を撃ち抜いた。
 涙目になって悶える魔女から距離を取り、掌中のグリーフシードに視線を落とす。
 その瞳は穏やかで優しく、どこか哀しげな色を湛えている。

 戦闘中にも関わらず、マミの胸中には奇妙な想いが渦巻いていた。
 最後に補給した日とは違い、魔女とグリーフシードの正体を知ってしまっている。
正直、使うのが恐ろしくて堪らない。
 だからこそ、マミは自身の心を見つめ直そうとしていた。

――私は、この魔女を倒した。冴島さんの助けを借りた勝利だとしても、止めを刺したのは私。
ただ、それは手柄じゃなく、敢えて言葉にするなら業……とでも言えばいいのか。
ともかく私に責任があるのは間違いない。
確信はなくても、魔法少女かもしれないと疑っていながら彼女を倒したのだから――
530: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:35 ID:7QRuSRZOo(10/12) AAS
 魔法少女も魔女も同じ。どちらにせよ、巡り巡って最後には、ちっぽけな石ころ。
 魔法少女はグリーフシードになり、そこから魔女は生まれ、倒されればまた戻る。
そして魔法少女に使い捨てられ、キュゥべえに回収された後はどこに行くのやら。

 ソウルジェムを砕かれた魔法少女。グリーフシードを落とさなかった魔女。
彼女らはどうだろう。キュゥべえに回収された魂とは別の場所に行くのか。

 それは、死者の魂はどうなるのかという、人間の普遍的な問いに似ている。
土地や宗教によって何種類もの答えがありながら、たぶん誰も真実を知らない。

 魂の存在は疑いようがない。この手の中に確かに在るのだから。
だが、これを砕いたとして、魂だけでも両親や他の人間と同じになれるのか。それすらマミにはわからなかった。

 キュゥべえか、或いは鋼牙かザルバなら、その答えを知っているかもしれない。
 だとしてもキュゥべえはもちろん、きっと鋼牙にも本当の意味では理解できないだろう。
 魔法少女が――真実を知った自分が、魔女に抱く感情は。

――私とあなたたちは同じもの。互いに喰い合って、敗者は勝者の糧になる。
そして勝ったとしても、その先に待つのは生きている限り終わらない戦い。
それが私たちの運命。
だから……だとしても……――
531: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:39 ID:7QRuSRZOo(11/12) AAS
 マミは軽く首を振った。
 まずグリーフシードに、次に魔女に視線を移すと、マミは宣言するように、

「私は……負けない」

 自分に言い聞かせるように呟く。

 勝つか負けるか。
 生きるか死ぬか。
 喰うか喰われるか。

 残酷な二択。
 しかし、どちらかしかないのだとしたら。

 選ぶべきは――。

 きつく食い縛った歯の隙間から荒い吐息が漏れる。
 ギラギラと生気に満ちた獰猛な輝きが、決意と共に瞳に宿る。

 そしてマミは、その手で倒した魔女のグリーフシードに。
 元は同じ魔法少女だった魂の成れの果てに。
 自らの魂――ソウルジェムの穢れを押し付けた。

「あなたを喰らって、私は生きる」
532: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:42 ID:7QRuSRZOo(12/12) AAS
ここまで
時間的な都合もですが、重要な分岐点なので迷ったり書き直したりで遅くなりました
次はそう時間はかからない、はず
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