[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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472: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)02:47 ID:17HWZDeAo(1/10) AAS
*
マミは当て所なく街を彷徨っていた。
制服姿で平日の街を歩いていても、気にする様子はない。
それどころか、その目は何も映していないかのように暗く、虚ろ。
かつての仲間が、近くで自分を見ていたことになど気付きもしなかった。
どうせ道行く誰も気にしていないだろう。その証拠に、マミに視線を投げかける人間はほとんどいなかった。
マミにとってそうであるように、
他者にとってのマミもまた顔のない存在でしかないのだろう。興味も関心も、ありはしない。
こんなはずじゃなかった。
少なくとも、今朝の時点では確かな決意と目的を持っていた。
自分の気持ちに決着をつけて、新たな一歩を踏み出そうと思っていた。
――なのに、どうしてこんなことに……。
歩きながら、マミは記憶を遡る。
473: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)02:49 ID:17HWZDeAo(2/10) AAS
朝、マミはいつものように家を出た。ただし、目的地は見滝原中学ではない。
普段の通学路を外れ、向かった先は市内のとある会社。
昨夜、夕木命の手掛かりがないかと考え、彼女の着ていた服を思い出した。
調べてみたところ、ここの制服とほぼ一致していた気がする。
訪ねてみて違ったなら、その時はその時。
いざ入ってみると、女性社員の制服は命のものと同じ。しかし、命の姿はない。
もっとも、まだ勤務開始時間には早かったらしく、オフィス内では数人が始業の準備などしているだけだった。
恐縮しながらも、手近な女性を捕まえて訊いてみる。
こちらに夕木命さんという方はいらっしゃいますか、と。
命と同じ年頃の女性社員は、怪訝な顔をしてマミを見た。
こんな時間に中学生が訪ねてきたから不審がられていると思ったが、それだけではなかった。
彼女の次の言葉に、マミは愕然とする。
夕木命は確かに在籍していたが、3ヶ月も前に退職している――。
口を開けたまま暫し硬直するマミ。
だとしたら、制服を着ていた命は何だと言うのか。
だが、そんなショックも序の口に過ぎないと、すぐに思い知る。
474: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)02:59 ID:17HWZDeAo(3/10) AAS
マミは命について、今どこにいるのか、住所を教えてほしいと頼み込んだ。
親戚だ従妹だと出まかせを並べもしたが、断られた。
マミが肩を落として帰ろうとすると、外に出たところで呼び止められる。
追ってきたのは、応対してくれた女性だった。
彼女は話していいものか迷っている様子だったが、話の続きを聞かせてくれた。
人前では話せなかったが、あまり熱心なので教えないのも可哀想に思ったとのこと。
自分の嘘を信じてくれたのだとわかり後ろ暗く感じたが、素直に好意に甘えることにした。
そして元同僚の口から語られる真実。
命には付き合っている恋人がいたが、彼が事故に遭って以来、命は塞ぎがちになったという。
かつての朗らかさは消え、ある日を境に人が変わったようになったそうだ。
原因は、事故でヴァイオリンを弾けなくなった恋人が自殺したこと。
決定的に精神の均衡を崩した命は、ほどなくして自ら社を去っていった。
彼女は何もしてやれなかったと悔やんでいるらしい。
ここから彼女は、さらに口ごもる。
その後の命とは連絡も途絶えてしまったが、街中で命らしき人物を見かけた同僚はいた。
黒衣に落ち窪んだ目、痩せこけた頬――にも関わらず、近寄りがたい異様な迫力を放っていたそうだ。
その後、警察が職場に命について訊きに来たりもした。
詳細は知り得なかったが、何らかの事件に関与した疑いが持たれている。
と、他にも彼女は訊いてもいない情報まで話してくれた。一部、噂や憶測も含まれていたが。
475: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)03:02 ID:17HWZDeAo(4/10) AAS
すべてを訊き終えたマミの表情からは血の気が失われていた。
想像だにしていなかった重い真実に対する困惑。
自分の中にあった夕木命のイメージとあまりにかけ離れていて、本当に同一人物か疑わしくなってきた。
むしろ、同姓同名の別人であってほしい。
しかし彼女は丁寧にも住所を伝える際、履歴書を持ってきたので、嫌が応にも写真が目に入る。
写真に写っていた『夕木命』は間違いなくマミの知る命だった。
住所のメモを受け取ると、マミは女性社員に礼を言って会社を後にした。
メモを固く握り締め、書かれた住所に向かうマミ。その足取りは鉛のように重い。
胸中は、さっきまでとはまた違った不安でいっぱいだった。
――思えば……私は命さんに勝手な理想を求めていたのかもしれない……。
今になってマミは気付き始めていた。でも、本当は最初からどこかで歪な想いであると自覚してもいた。
だからこそ今日だって命に慰めてもらおう、受け入れてもらおうなんて端から考えていなかった。
ただ会いたかった。ともかく、一目でも会えばはっきりすると思った。
そこで自分の気持ちを確かめて、どんな結果でも心の区切りにしようと。
学校をさぼってまで来たのは居ても立っても居られなかった、というのもあったが、
さっさと決着をつけて、今度こそ先輩として毅然と彼女たちに真実と別れを告げようと。
ただ、それだけだったのに。
476: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)03:05 ID:17HWZDeAo(5/10) AAS
煩悶としながら歩くうち、いつの間にか命のマンションに着いていた。
命は部屋にいるだろうか。階段を一歩上がるごとに心臓が跳ねる。
確かめるのが怖い。いっそ留守ならいいのにとすら考えてしまう。
予想を超える衝撃の連続に決意は萎えかけていた。
マンションが自宅同様オートロックでなかったのは幸か不幸か。
ドアの前に立ち、表札を確かめて呼び鈴を押す。
誰か出てくる様子はない。十秒ほど待ってもう一度。
やはり返事はない。空しく響くチャイムを除いて物音ひとつすら。
――……誰もいないの?
留守なのだろうか。
もやもや気持ちが燻ると同時に安堵してもいた。
本当に命が不在ならば、これ以上現実とのギャップに傷つけられることもない。
でも、それは逃げだ。それじゃ、いつまで経ってもケリなんて付かない。
胸の前でぎゅっと拳を握り、なけなしの勇気を振り絞ると、マミはドアノブに手を掛けた。
「……鍵掛かってない」
駄目元のつもりだったが、開いてしまって困惑する。
そっと覗き込むと、まず目に入ったのは――闇だった。
477: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)03:08 ID:17HWZDeAo(6/10) AAS
と言っても、何のことはない。分厚いカーテンが閉め切られ、日光がほぼ完全に遮断されているだけ。
なのだが、何故か嫌な感じがする。はっきり何かがいるとかではなく、とにかく良くない空気が肌を刺すのだ。
「すみません、どなたかいらっしゃいませんかー」
やや声を張って呼んでみるも、答えはなかった。暗闇は変わらずマミに向けて口を開いている。
半ば誘われるように、マミは靴を脱いで上がり込んだ。
こんなことおかしいと、わかっていても止められなかった。
リビングは薄暗かったが、カーテンを開いたり電気をつけようとはしなかった。
不法侵入の負い目もあったし、視力は優れている。しばらくすれば目が慣れると思い、実際すぐ慣れた。
室内は見事に整然としていた。それどころか無機的で、一切の生活の匂いが感じられない。
あらゆる物が片付いているのに埃は溜まっていたり、
漂う陰鬱な雰囲気は綺麗好きと言うより、真新しい廃屋のようで気味が悪い。
ふと、テーブルの上に目が留まる。綺麗過ぎる部屋で唯一そこだけ生活感が残っていた。
大きなブルーのクリスタルの灰皿。中にはタバコの吸い殻と灰がこんもり積もっている。
彼女がタバコを吸うとは意外だったが、これが手掛かりになるはずもないか。
そう思い、何とはなしに覗き込んだマミだったが――。
478: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)03:10 ID:17HWZDeAo(7/10) AAS
「――っ!?」
息を呑み、素早く跳び退る。
わからない。わからないが、咄嗟に体が動いていた。
灰皿には灰しか残っていないのに。
他の何かが、そこに遺っている。
気付けたのは、魔法少女の霊感とでも言うべきか。
きっとソウルジェムは反応を示さないだろうが、培った直感が危険信号を発していた。
薄暗い室内でなお暗く、黒い何か。形もなく、ただ僅かに残留している。
しかし、マミはその残り滓から意志も思念も感じられなかった。
或いは、鋼牙やザルバなら感じ取れたのかもしれないが。
結局マミは灰皿に手を触れず、部屋を出た。
あれを自分に、どうこうできるかどうか。いや、それ以前に必要もないだろう。
そもそも人を直接に害する力があるとも思えなかった。
マンションを出たマミは、とぼとぼあてもなく街を歩いた。
もう命とは会えない。根拠はないが、そんな気がした。
命は生きているのか、死んでいるのか。探せば、まだ手掛かりはあるかもしれないけれど。
でも、もういい。
あれほど強かった命への執着が急速に失われていくのを感じていた。
この感情をどう表していいのかわからなかったが、やはり失望と呼ぶのが適当だろう。
479: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)03:12 ID:17HWZDeAo(8/10) AAS
――私、なんて馬鹿で身勝手だったんだろう……。
たった一日話しただけの、何も知らない人に期待していたなんて。
彼女の真実なんて何ひとつ見えていなかった。見ようともしてなかった――
価値も誇りも無くした自分がやっと助けられた人は、一時でも信頼を寄せた人は。
こんな理不尽で、不確かな形で消えた。別れの言葉も決別の儀式もなく。
マミの瞳から涙が溢れる。
キュゥべえも、命も、望まない形だったにせよ、自分から別れを決めた。
そのことに後悔は多々あるけど、どうしようもなかった。
もう盲目的に信じられるほど、強い自分を保てなかったから。
ただ、今度こそ本当に独りになったのだと思ったら泣けてきたのだ。
子供みたいに泣きじゃくりながら、それでも足は止めなかった。
立ち止ってうずくまったら、二度と立ち上がれない気がした。
どれくらい歩いただろうか。
ひとしきり泣いて泣き疲れたマミはソウルジェムを手に取る。
黄色く、美しい輝きを放っていたソウルジェムは――マミの魂は、半分以上が黒く濁っていた。
――ここで、これを砕いてしまえば終わりにできる……。
マミは虚ろな眼でソウルジェムを掌中に押し包む。そして、きつく強く力を込めた。
480: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)03:17 ID:17HWZDeAo(9/10) AAS
――これを……砕いてしまえば何もかも……。
だが、できなかった。
ソウルジェムが硬かったのか、無意識に力が緩んでしまったのか。
どうしても砕くことができなかった。
マミは諦めて握り締めた手を開くと、再びソウルジェムを見つめる。
――馬鹿みたい。砕くなら、もっと手っ取り早い方法がいくらでもあるのに。
もう私の中は空っぽ……何も残っていない……。
自害を選ぶ誇りも、勇気も。魂すら、こうして外にあるのだから――
そうして自嘲していると、不意にソウルジェムが輝きを増す。
「これは……」
身体を回して方向を確かめると、すぐにそれは見つかった。
病院の裏手の壁に突き刺さったグリーフシード。しかも穢れを吸い、今にも孵化する寸前。
こんな近付くまで気付かなかったなんて。注意力が致命的なまでに落ちている証拠だった。
発見するのとほぼ同時、周囲の景色が歪む。
逃げるなら、まだ辛うじて間に合う。しかしマミは一歩も退かず、そこに留まった。
そして生まれた結界に、逆に足を踏み入れていく。魔女に魅かれるかのような、緩慢な足取りで。
意味などなかった。グリーフシードの確保も、他人を守ることも、もうどうでもよかった。
その行動に強いて理由があったとするなら――死に場所を求めて。
481: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/11/07(木)03:24 ID:17HWZDeAo(10/10) AAS
ここまで
続きは11月中には完成させたいと思います
遅れた割に地味な展開ですが次回こそは
叛逆は設定など盛り込むのは難しいですが、
キャラや戦闘描写は大いに参考になりました
黄金歌集も買って、絶狼やゴウライガンもあるので今後も頑張れそうです
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