[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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508: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2013/12/31(火)23:33 ID:lRiFGPIro(1) AAS
今年中に投下したかったのですが間に合いませんでした
12月は時間的精神的にあまり書き進められず……
正月中に頑張ります
509: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水)04:24 ID:uzRuPgNDO携(1) AAS
あけおめー
のんびり待ってますー
510: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/01/26(日)21:19 ID:HuDQMRgv0(1) AAS
一ヶ月近く音沙汰ないけど、具合でも悪いのかな?
511: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2014/01/30(木)02:22 ID:eH4riDISo(1) AAS
言い訳になりますが、風邪と流行りのノロウィルスのコンボで半月ほど手につきませんでした
皆様も身体には気を付けてください
近日中に予定の半分程度ですが投下したいと思います
まずは生存報告まで
512: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/30(木)17:20 ID:259L3W/go(1) AAS
ホラーに憑依されたわけではないようなのでひとまず安心
513: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/31(金)23:22 ID:1ijnCqX60(1) AAS
そりゃ執筆どころか生存報告も厳しかっただろうに

無理せずご養生ください
514: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/02(日)18:02 ID:xOKm7WZSO携(1) AAS
復旧したしそろそろ来るといいが
515: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:42 ID:sq6YS7+5o(1/6) AAS
 そこは異様としか形容できなかった。
 まず、そこらじゅうに大きなアイスクリームやドーナツが転がっていたり、ケーキが景色に溶け込んでいた。
本物かは定かでないが、触りたくもないし、まして口に入れるなんて絶対に御免だった。

 漂う甘ったるい臭い。
 甘いもの好きとしては食欲をそそられそうだが、とんでもない。
 チョコレートもフルーツも焼き菓子も何もかも一緒くたな上に、全体に暗く淀んだ色調の空間では気分が悪いだけ。
 しかもメスやハサミなどの医療器具も、それらと混ざり合っているのだ。見ていると逆に食欲が失せる。

 魔女の結界は、それぞれ主である魔女の特徴が顕著に表れている。
それは元となった魔法少女の心象風景――希望、祈り、執着、そして絶望の形なのだろう。
 これまでなら然して気に留めなかったが、先日の魔女結界では感傷を抱き、同情もした。申し訳なくさえ思った。

 しかし今、マミからそんな余裕は消え失せていた。 
 あるのは恐怖と怯懦。
 こんなに結界の内が怖いと思ったのは、魔法少女になって最初の戦い以来だった。
 
 自棄になって死んでもいいと踏み入れた結界だが、その場で使い魔に身を投げ出す気にはなれなかった。
 たぶん、やるだけやったと言いたいのだ。他の誰でもなく、自分自身に言い訳がしたいのだと。
 おそらく最奥に待つ魔女に勝てはしないだろう。魔力も心許なく、体調も万全とは言い難い。そして精神はガタガタ。

 そのはずなのに。
 引き摺るような遅々とした足取りでも、マミは止まらず進み続ける。
おっかなびっくり、些細な物音にも過敏に反応しつつではあったが。
 道中の使い魔は、すべて一撃の下に葬り去る。一切の反撃を許さず、時には発見されるよりも早く。
微塵の油断もなければ余裕もない。
516: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:45 ID:sq6YS7+5o(2/6) AAS
 そんな戦い方は心身共に消耗を早めてはいたが、どの道、生きて帰れるなんて思っていない。
 誰かを守る必要もない。誰も傍にいないだけでなく、今のマミは誰かを守りたいという考え自体が頭にない。
自身を含め、守るべきものが存在しない。気負いというものが消えていた。

 結界に入る前の弛みように反し、いざ敵とまみえた時、身体は戦いを覚えていた。
とても戦える精神状態とは思えなくとも。
 むしろ、こと戦闘に限ればいつになく冴えている。絶好調と言っていいかもしれない。

 今、あらゆる軛から解き放たれたマミは自由だった。
 しかしマミ自身、不思議でならなかった。

――せめて形だけでも魔法少女として……でも、本当にそれだけなの?

 何もかもを失くして、恐れていた孤独に行き着いて。
 それでも絶望はしていない。限界まで追い詰められているが、
宙に張られた、か細いロープの上に立つように、不安定でも最後の一線を保っている。
 だが、いったい何がその歩を進めているのか。何が引き金を引いているのかは曖昧だった。

 迷いながらでも、身体は慣れ親しんだ動きをなぞる。
 眼に映るすべては敵。無差別に殺戮を撒き散らしながら、マミは結界を行く。
 心と身体の乖離は、次第に現実感を奪い去っていく。奥へ奥へと進むうちに、ますます自分がわからなくなる。

 思考は飛び、記憶は巻き戻る。
 脳裏をかすめるのは楽しかった思い出ばかり。
 最後の記憶は一昨日の夜。零との食事だった。

 あの日もテーブルには色取り取りのスイーツが並び、落ち込んでいた心が弾んだ。
 灰色だった世界が鮮やかに色付いた。
 何故だろう、ここはまるで違うのに。もしかすると、甘い臭いに中てられたのだろうか。
517: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:49 ID:sq6YS7+5o(3/6) AAS
 そんなどうでもいいことを考えている間も、指は引き金を引き、もう一方の手は次の銃を握っている。
 自動化された精密機械の如く、感情の介在しない正確無比な射撃。

 バラバラに散らばる思考の片隅で、ふと気付けば考えている。自分のソウルジェムはどうなっているだろうと。
 後先考えずに魔力を消費しているのだから、きっともう大半が黒く染まっているに違いない。
 
――あぁ……。でも、それも悪くないかもしれないわね……。

 口元に薄ら笑いを浮かべながらも、マミの動作には寸分の狂いも生じない。
 それすらも彼女の内で些事と化しつつあったから。
 しかし――無意識なのか、時折空いた手がポケットを上から撫でる。 
その手のひらに伝わる硬い感触が、ふわふわと今にも遊離しそうなマミの精神を、風船の糸のように繋ぎ止めていた。

 無数の薬瓶が並ぶ空間を抜け、暫く歩くと明るく開けた空間に出た。
 おそらく、ここが魔女の待つ結界の最奥。
 あちこちに極端に脚の長いテーブルとイスが、いくつも置かれている。

 群がってくる使い魔を同様に蹴散らすと、その中央のイスに、
女の子を模したような――小さなぬいぐるみに似た物体がふわりと着地した。

 マミは即座に直感した。あれが魔女だと。
 他の使い魔とは造形が異なり、見た目は可愛らしいが、その可愛らしさが逆に不自然極まりない。
 マミはゆっくり魔女の座るイスに接近するが、魔女は微動だにしない。

 このまま撃てば倒せそうなくらい無防備だったが、それで片が付くと思うほど楽観的でもなかった。
取り分け、警戒心と猜疑心の塊のような今のマミは。
 襲いかかってくれば相応の反撃ができるのだが、まったく動かないのでは却ってやり辛い。
と言って攻めなければ、いつまで経っても決着はつかない。
518: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:52 ID:sq6YS7+5o(4/6) AAS
 それを理解していながら、マミは攻撃しなかった。できなかった。
 この戦いで自分は死ぬかもしれない。いや、確実に死ぬ。
 こちらから戦いの火蓋を切れば、これまでのように受け身ではない。
能動的に死に向かって一歩を踏み出すことを意味する。
 
――私は……何を今さら躊躇っているんだろう。結界に足を踏み入れた時点でわかっていたはず……。

 マスケットをきつく握り締める手は小刻みに震えていた。
 そして数秒、マミは銃をひっくり返し、銃身を握った。

――何でもいい……始めなければ終わりもしない。私は終わりを望んでいるんだから……。

 迷いは晴れない。覚悟は定まらない。全身に絡みついたまま、マミを苛み続ける。
 だから結論を待たず、銃把でイスの脚をへし折った。
 思考を放棄し、状況の流れに身を任せた。
ひとたび戦いを始めてしまえば、余計なことを考える余裕は消える。
 
 脚を折られ崩れるイスから投げ出された魔女は、抵抗もなく落ちてくる。
 バットのように銃を振り被ったマミは、魔女を殴り飛ばし、空中で連射を浴びせた。
 避ける暇もない連続射撃。胴を貫かれた魔女は壁で跳ね返り、床に落ちた。

 その頭に銃口を押し当て、撃つ。
 撃ち込んだ銃痕からは糸が伸び魔女を拘束、空中に固定した。
 ここまでの動作に一切の無駄はなく、また同情が混じりもしなかった。
 
 あとは大威力の砲撃――ティロ・フィナーレで終わらせる。
 普段のマミでも、おそらく同じ戦法を取っただろう。マミの戦法としては基本中の基本だが、
それ故に最も確実で、最も信頼が置ける。
 しかし、やはり反撃はない。反撃の隙を与えなかったとはいえ、その素振りすらないのはおかしい。
519: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:56 ID:sq6YS7+5o(5/6) AAS
――おかしい。いくらなんでも、うまく行き過ぎてる……。

 あまりの手応えのなさに拍子抜けしそうになる。
 半面、じわじわと不安に侵食されるような感覚もある。
 もしかしたら、魔女は何かを隠しているのか?

 警戒心に背中を押されるように、マミは壁に開いた無数の銃痕から一本のリボンを伸ばし、手に取った。
拭いきれない違和感に迷い、数秒ほど動きを止める。

 それでも、始めてしまった以上は止まれない。毅然と顔を上げ、マミはマスケットに魔力を注ぐ。
 これしかない、たとえ罠が待っているとしても。
 奥の手は、ここぞという時まで隠しておくもの。ここぞとは、往々にして自分か相手が追い詰められた瞬間。

 魔女が尻尾を出すとしたら、おそらく後者。ならば小競り合いは消耗を招くだけ。
それは現状の分析と、過去の経験からの類推。
だが最大の根拠は、こんなに落ちぶれた今でもマミの内側で燻り続けている魔法少女の――戦士の勘。

――分の悪い賭けだわ……。絶対の不利を知りながら攻めなければならないのだから。
先に手の内を晒した方が不利になる。特に魔法少女の戦いは、そうした側面を持っている。
それも今回は、私の能力、状態、魔女の性質、相性――あらゆる条件がマイナスに働いている気さえする――  
 
 マミの持つ銃が光を放ち、巨大化する。
 台座に固定した大砲の狙いを定め、

「ティロ……フィナーレ!」

 マミは運命の引き金を引いた。

 耳をつんざく轟音。
 それと共に撃ち放たれた光弾は、狙い違わず魔女に届いた。
 届いたが――。
520: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:59 ID:sq6YS7+5o(6/6) AAS
 弾は魔女を容易く貫いたが、魔女そのものを滅していないのは一目瞭然だった。
 魔女の口から押し出されるように、ぬるりと何かが飛び出した。
 小さな身体のどこに収まっていたのか、魔女を遥かに上回る巨体だった。

 手も足もない黒蛇のような身体。先端の顔は魔女同様に可愛らしい。
大きく開かれた口に、鋭く尖った牙が生え揃っていなければ、だが。 

 魔女相手に物理法則など通用しないとわかってはいたが、改めて度肝を抜かれる。
 これが、この魔女の正体?
 それとも、もうひとつの姿と言うべきか?
 どちらにせよ、これこそが魔女の隠し玉だったのだ。

 迫る牙を、マミは呆然と見ていた。
 思考は加速するのに、身体は動かない。行動に移せない。
ティロ・フィナーレの反動が身体を包んで、まだ消えない。
それ以上に、あの顎に頭を噛み砕かれる数秒後の未来のイメージに竦んでいる。支配されてしまっている。

――そんな……私は……ここで終わってしまうの?
こんな場所で、死んだことすら誰にも知られずに?――

 最初に浮かんだのは、そんな疑問。
 覚悟していたはずだった。終わらせる為に、死ぬ為に来たはずなのに。
 一秒にも満たない時間で、過去の出来事や人の顔が脳裏に現れては消える。
走馬灯の中には、出会ったばかりの鋼牙や零の顔もあった。
521: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:02 ID:7QRuSRZOo(1/12) AAS
――嫌……。

 それは思考ではなかった。

――嫌……!

 心の底から込み上げる声。

 叫びだった。

――死ぬのは嫌!!

 瞬間、マミの最も奥の部分で何かが弾けた。
 一瞬でマミのすべてを塗り潰す魂の絶叫。
 強い衝動が、感情の昂りが思考を凌駕した時、マミは悟った。

 それは生物としての本能以上に、己の本心であり、本質だったのだと。
 
 気付いた時には、魔女は目と鼻の先にまで接近していた。
白い牙と、口内の果てのない虚無の如き闇が視界を覆い尽くす。
 今からでは、たとえ身体が動いたとしても回避は不可能。

 それでもマミは死を恐れ、拒絶し続けた。
 ただひたすら死にたくないと強く念じ、そして――。
 
522: ◆ySV3bQLdI. [saga] 2014/03/08(土)00:05 ID:7QRuSRZOo(2/12) AAS
 *

 ガチン――と、歯が噛み鳴らされる音が結界に響く。
 魔女の牙は隙間なく閉じられ、何も挟まっていない。
 目を白黒させている魔女の横を、すり抜けるように影が過ぎった。

 マミだった。
 本人も頭と胴が繋がっていることが不思議そうに、魔女を横目で見ている。
 一歩も動いていないはずなのに何故。両者が同じことを考えていただろう。

 魔女がマミの頭を咥える寸前、誰かが横合いからマミの手を引いたのだ。
 身体ごと浮き上がるほど乱暴で強い力だったが、お陰で命は助かった。
 しかし、いったい誰が?

 微かな期待を胸に、今も引かれている自らの手に視線を移す。
 救いの主を確認したマミは、大きく目を見開いた。

 一瞬で理解して、自嘲気味に、しかし悲しそうに口元を歪めた。

 それは鋼牙でもほむらでもない。まして零や命であるはずがなく。

 手を引いていたのは、ただ一本のリボン。

 すっかり存在を忘れていたが、マミが手に巻きつけていたリボンだった。
壁の弾痕から伸びたそれが、マミの身体を引き寄せていたのだ。 
523: ◆ySV3bQLdI. [saga] 2014/03/08(土)00:10 ID:7QRuSRZOo(3/12) AAS
 *

 何故このリボンを手に握っていたのか。
 問われたとしても答えられない。特に理由などなかった。
あるとすれば尖りきった警戒心が、奥底にある臆病さが保険を掛けさせた。
結局は忘れていたのだが、それでも生きたいという強い想いが、この土壇場で無意識に魔法を発動させたのだろう。
 
――冴島さんが二度も都合良く現れるはずがない。暁美さんも同じ、そんなことはあり得ない。
まして、あの娘が来るだなんて……そんなこと一瞬でも思うなんて、ほんと……馬鹿みたい――

 この瞬間、マミを救ったのは紛れもなくマミ自身だった。

――最後の最後に頼れるのは自分だけ。
そんな簡単な真理も忘れるくらいに、たった数日で私は腑抜けてしまっていた。  
この身体は戦い方を覚えていて、自棄になった愚かな私を生かしてくれたのに――

 まだ他人に何かを期待し、甘え、縋ろうとしていた自分。
 生き抜く力を持っていながら、それを捨てようとしていた自分。
 表面上は諦めながら、本心では浅ましくても生きたいと願う自分。

 すべてが情けなくて、しかし言い訳しようもなく事実で。
 ありのまま受け入れるしかなかった。
 
 孤独も、いつか必ず訪れる末路も、アイデンティティの喪失も、自分を絶望させるには至らなかったと。

 いや、そんな見下げ果てた自分に絶望してはいるが、どうやらまだ魔女にはならないらしい。
 零の言葉を借りるなら、すごく痛くて、辛くて、寂しくて、苦しいけれど、耐えられないほどではない。
524: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:12 ID:7QRuSRZOo(4/12) AAS
 むしろ曖昧だった意識も、もやが晴れて、すっきりクリアになっている。
 それどころか、視覚、聴覚、嗅覚――あらゆる感覚が覚醒して、世界が新鮮に感じられた。
 たとえるならそう、たった今この世に生まれ落ちたばかりのような。

 それは、あながち錯覚でもなかったのかもしれない。
 あの日、あの事故で、人間としてのマミは死んだ。そして新たに魔法少女として生まれ変わった。
 この瞬間、マミの精神状態は、あの日とそっくり同じだったから。

 死の淵に立たされていたマミは強く、強く願った。

 死にたくない、生きていたい。
 純粋な生の渇望。
 それが、マミの望み叶えた願い。

 魔法少女としての原点。同時に、ある意味で汚点。
 きっと、友も仲間も誇りも、すべてを失った今だから気付けた。思い出せた。
 鋼牙と出会ったあの日からの出来事で、何かひとつでも違っていれば、こうはならなかっただろう。
 
 否定しようとも否定しきれず、すべての虚飾を取り払った後に残された唯一。
 どれほど穢れていても、それが真実。
 願いは、同時に呪縛でもあったと気付く。

――私は願いを裏切れなかった……。
たとえ、どんなに願いに裏切られても――
525: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:16 ID:7QRuSRZOo(5/12) AAS
 考えていた時間は、長いようで一秒にも満たなかった。
 眼前には急速に迫る壁。マミはリボンを放し、壁を蹴って反転する。
 魔女は顔をぷんぷん怒らせて追ってきていた。

 これも予想通り。マミには魔女を含む戦場のすべてが把握できていた。
 すかさず横っ跳びで魔女の牙から逃れながら、別方向からのリボンを伸ばす。
使い魔を掃討する際に撃ちまくっていたので、仕掛けには事欠かなかった。
 
 逃げれば逃げるほど、魔女の動きは単調になっていく。
そうでなくとも元々あまり賢いタイプではないようで、逃げるのは難しくなかった。
障害物に身を隠し、鋼線のように細く頑丈に作り変えたリボンで罠を張り、使い魔を身代わりにして。
 結界内を縦横無尽に飛び回る。

 ホラーとの戦いで偶然編み出した、リボンの性質を利用して自分の身体を素早く移動させる方法。 
 件のホラーとの相性は悪かったが、この魔女相手なら存分に効果を発揮できる。
 
 魔女が熱くなればなるほど、反対にマミは冷めていく。
 もちろん恐怖は変わらずある。生を渇望するからこそ。
だが、その恐怖に思考を乱されることなく飼い馴らしつつあった。

 より強い存在を頭に描くことで勇気を奮い立たせ、具体的な対処の糸口とする。
 イメージするのは、知る限りで最強の戦士――黄金騎士、牙狼の姿。
 
 "かつて"彼に対しては複雑な感情を抱いていた。
 無様な姿を晒した。後輩の前で意地を張ったりもした。
 それもこれも、今にして思えば羨望の裏返しだったのかもしれない。
526: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:21 ID:7QRuSRZOo(6/12) AAS
 彼のようになりたかった。
 彼のようでありたかった。
 でも、届かなかった。
 
 だから嫉妬した。
 その頃が遠い過去のように感じられる。

――諦めた? うぅん、似ているけれど少し違う。
関心が薄れた。
私と彼は、まったく別種の存在だと思い知った。
私は……守りし者にはなれない……。そして、そんなつもりも……――

 ほんの少しの間に自分は変わったと、改めてマミは自覚する。
 鋼牙の戦闘力には感嘆する。尊敬も、あのように強くなれたらとも思う。その気持ちは変わらない。だが、所詮そこまで。

 過去、理念、信念、矜持――おそらく彼を黄金騎士たらしめているもの。彼の力と両足を支えているであろうすべて。
それらに対する興味は消え失せていた。思い巡らせても無意味だと。

――決して彼の力に執着していたんじゃない。
 その眼差しに、揺るぎない心の強さに憧れた……。
いくら勝算があったとはいえ、美樹さんを庇う為に槍の束を全身で受け止めた。一瞬の躊躇いもなく。
 堅固な鎧よりも、無双の剣よりも、その魂は金色に輝いて見えた。

 同じ人を守りし者として、並び立てる私でいたい。
そう思うから、ままならないことに反発もした……。
  
 けれど根源の理由が消え、憧れも捨てた今、嘘のように妬心は消えている――
527: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:25 ID:7QRuSRZOo(7/12) AAS
 今はただ、この状況を彼ならどう切り抜けるか。その体捌きと、冷静な思考をなぞる為だけに鋼牙のことを考える。
 それ以外の一切が、マミにはどうでもよかった。

 その後もマミは逃げ回りながら知恵を巡らせるが、反撃には移れないでいた。
 生き残る意志は取り戻した。
 戦う為の技は、最初からこの身にあると思い出した。

 足りないものはひとつ。
 魔力。

 ソウルジェムを手に取って見ると、9割近くが黒く染まっていた。
 マミは動揺するが、予想はしていたのでショックは少なくて済んだ。
 それよりも、この残り少ない魔力でどう生き残るかに思考を切り替える。

 結界の外まで逃げ切るのは無理だ。入り組んだ道もある結界を戻ることになる。
 単純な速さでは魔女が上を行く。隠れる場所もない一本道で襲われれば逃げようがない。
しかも怒り狂っている敵は執念深く追ってくるだろう。牽制しようが、多少のダメージや障害は物ともしないはず。
 ここは敵の巣の中だ。まだ知らない罠や仕掛けもあり得るのに、追われながら逃げるのは不安が残る。

 かといって、この場に留まって戦うのも難しい。何発か撃ってみてわかったが、小技はほとんど通用しない。
倒すには充分な攻撃力が必要になるが、仮にティロ・フィナーレが撃てたとしても、それで魔力が尽きては意味がない。

 技術、策略、精神力では補えない不足。ガソリンがなくては車は動かないように。
このままでは、いずれ魔力が切れたところを仕留められる。 

――まだ……こんなところで終われない……。
あれさえあれば……どんな状況でも、相手が誰でも、絶対に抗ってみせるのに――
528: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:27 ID:7QRuSRZOo(8/12) AAS
 生きたいという願いに従うマミは、なおも諦めず足掻こうとする。
 強い意志に衝き動かされ、彷徨う手は自然とポケットに伸びていた。
 手のひらから伝わる硬い感触。探ってみると、
 
「これは……」

 そこには求めていたものがあった。
 グリーフシード。
 ソウルジェムの穢れを吸い、魔力を回復させる黒い石。

 何故これが懐にあったのかと考え、

「あっ……」

 と声を上げた直後、マミは頭を抱えたくなった。
 元は三日前に戦った魔女のもので、昨日さやかから渡されたのだった。
そういえば朝、家を出る際に持って出たのをすっかり失念していた。

 言い訳をするなら、あの魔女を倒したのは実質的には鋼牙で、
グリーフシードも彼が得るべきだと気が引けていたのもある。
だからマミは受け取りを拒否して、仕方なく鋼牙もさやかに託したのだが。

 それでも朝の自分は、半ば習慣となった用心を忘れなかったのに。
それに比べて、いろいろあったとはいえ今の今まで忘れていたなんて。
529: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:31 ID:7QRuSRZOo(9/12) AAS
「なんてこと……」

 つくづく勘が鈍っていたらしい。
 誰に求めるまでもなく、必要なすべては最初から手元にあった。
 マミは再び呆れ顔で自嘲気味に微笑んだ。

 ともあれ、これさえあれば、まだ戦える。
 勝機はある。
 生き残ることができる。

 あらゆる感覚が研ぎ澄まされる。
 四肢の先端にまで芯が通ったかのよう。
 全身に闘志が滾っているのがわかる。
  
 飛びかかる魔女に怯みもせず、マミはマスケットを構え、正面から片目を撃ち抜いた。
 涙目になって悶える魔女から距離を取り、掌中のグリーフシードに視線を落とす。
 その瞳は穏やかで優しく、どこか哀しげな色を湛えている。

 戦闘中にも関わらず、マミの胸中には奇妙な想いが渦巻いていた。
 最後に補給した日とは違い、魔女とグリーフシードの正体を知ってしまっている。
正直、使うのが恐ろしくて堪らない。
 だからこそ、マミは自身の心を見つめ直そうとしていた。

――私は、この魔女を倒した。冴島さんの助けを借りた勝利だとしても、止めを刺したのは私。
ただ、それは手柄じゃなく、敢えて言葉にするなら業……とでも言えばいいのか。
ともかく私に責任があるのは間違いない。
確信はなくても、魔法少女かもしれないと疑っていながら彼女を倒したのだから――
530: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:35 ID:7QRuSRZOo(10/12) AAS
 魔法少女も魔女も同じ。どちらにせよ、巡り巡って最後には、ちっぽけな石ころ。
 魔法少女はグリーフシードになり、そこから魔女は生まれ、倒されればまた戻る。
そして魔法少女に使い捨てられ、キュゥべえに回収された後はどこに行くのやら。

 ソウルジェムを砕かれた魔法少女。グリーフシードを落とさなかった魔女。
彼女らはどうだろう。キュゥべえに回収された魂とは別の場所に行くのか。

 それは、死者の魂はどうなるのかという、人間の普遍的な問いに似ている。
土地や宗教によって何種類もの答えがありながら、たぶん誰も真実を知らない。

 魂の存在は疑いようがない。この手の中に確かに在るのだから。
だが、これを砕いたとして、魂だけでも両親や他の人間と同じになれるのか。それすらマミにはわからなかった。

 キュゥべえか、或いは鋼牙かザルバなら、その答えを知っているかもしれない。
 だとしてもキュゥべえはもちろん、きっと鋼牙にも本当の意味では理解できないだろう。
 魔法少女が――真実を知った自分が、魔女に抱く感情は。

――私とあなたたちは同じもの。互いに喰い合って、敗者は勝者の糧になる。
そして勝ったとしても、その先に待つのは生きている限り終わらない戦い。
それが私たちの運命。
だから……だとしても……――
531: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:39 ID:7QRuSRZOo(11/12) AAS
 マミは軽く首を振った。
 まずグリーフシードに、次に魔女に視線を移すと、マミは宣言するように、

「私は……負けない」

 自分に言い聞かせるように呟く。

 勝つか負けるか。
 生きるか死ぬか。
 喰うか喰われるか。

 残酷な二択。
 しかし、どちらかしかないのだとしたら。

 選ぶべきは――。

 きつく食い縛った歯の隙間から荒い吐息が漏れる。
 ギラギラと生気に満ちた獰猛な輝きが、決意と共に瞳に宿る。

 そしてマミは、その手で倒した魔女のグリーフシードに。
 元は同じ魔法少女だった魂の成れの果てに。
 自らの魂――ソウルジェムの穢れを押し付けた。

「あなたを喰らって、私は生きる」
532: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/08(土)00:42 ID:7QRuSRZOo(12/12) AAS
ここまで
時間的な都合もですが、重要な分岐点なので迷ったり書き直したりで遅くなりました
次はそう時間はかからない、はず
533
(1): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)00:50 ID:3aOm2Rg7o(1) AAS
乙ですよ
さてこれは対立フラグとも見れるが…

ZERO今日からだっけ
534: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)01:18 ID:zcqlDQbg0(1) AAS


>>533
魔戒騎士との対立はたぶんないだろう
別種だと割り切ってしまったんだし、信頼とは別に必要とあれば協力する(主にホラー)とかギブアンドテイクな感じかと
寧ろ守りし者になるつもりがないって事は以前のように使い魔を狩ったりせず放置して
自分の利益を追求する杏子みたいな魔法少女になる可能性が高い
だから魔法少女になって、人を守ると志したさやかと対立しそう
535
(1): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)02:39 ID:WDR19urAO携(1) AAS
乙乙乙乙乙〜!!
遂に来た!ここまでの長い道のりは今回の投下の為にあったと言っても過言じゃない。Credens justitiam「正義を信じる者」が大音量で轟くぜ!!
大復活のマミさん!自力でカッコ良くなっちゃえば良かったんですよ。燃え上がれ〜〜〜っ!!(感涙)

あっ、べべ……
536
(1): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)02:57 ID:oVNrRcwq0(1) AAS
>>535
「守りし者」である事をやめたこのマミに「Credens justitiam-正義を信じる者-」は似合わないだろ
今回の描写を見てると正義の味方である事をやめてしまった様に見えるし
見方がズレ過ぎてないか?
537
(2): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)03:07 ID:UYJpV37SO携(1/2) AAS
このマミをあえて歌に例えるならSAVIOR IN THE DARKの2番か闇を駆けるキバの2番なイメージ
538: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)03:15 ID:UgouGk950(1) AAS
>>537
後者だと完全に闇堕ちor敵対フラグだな
個人的に「闇を駆けるキバ」はほむらのイメージだな
叛逆見てると本質的にほむらが一番バラゴに近いと思う
539: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)11:15 ID:xCHsEc1Lo(1) AAS

SS速報が無くなるまでには書き終えてくれ
540
(1): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)19:22 ID:ZEmP/NQqo(1) AAS

原作どおりなら次の日には上条の八つ当たり&さやか契約だけど
仮に契約しちゃったら、真実伝えるの先延ばしにした件についてまたマミは悩むのかな
541: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)19:46 ID:ze36NEPK0(1) AAS
>>540
「もう何も信じない」ってタイトルに繋がるなら
真実伝えて後は知ったこっちゃないって感じなんじゃない?
寧ろ使い魔を狩るさやかと敵対しそう
542: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)21:25 ID:wOZKAC/Do(1/4) AAS
とはいえ覚悟完了したマミさんは最強故
543
(1): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)22:30 ID:NX2tSK8po(1) AAS
今日絶狼見に行ってきたが初日なのに人少ないな。
蒼哭ノ魔翌竜見に行ったときは人多かったが牙狼メインじゃないと
これくらいなのか。いいところで切られるから早く続きが見たい。
544: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)22:46 ID:LJgC4rkg0(1) AAS
>>543
前も言われただろ?
ssと関係ない牙狼単体の話題は他所でやれよ
何回同じ流れを繰り返すんだよお前らは……
545
(1): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)22:51 ID:wOZKAC/Do(2/4) AAS
細かいことでも受け止める
それが男ってもんさ
546: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)22:51 ID:wOZKAC/Do(3/4) AAS
細かいことでも受け止める
それが男ってもんさ
547
(1): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)22:52 ID:wOZKAC/Do(4/4) AAS
二重投稿しちまった すまない 大変申し訳ない
548: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)22:56 ID:luKpdy+y0(1/2) AAS
>>545>>547
>>1>>345で牙狼なりまどかなり単体で話すのに相応しい場所があるだろ呼びかけてるだろ
しかも、こんな臭い台詞吐いてかっこいいとか思ってんのか?
549: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)23:03 ID:UYJpV37SO携(2/2) AAS
注意でレスが消費されたり険悪になるのが嫌だからスルーしてとも書いてるんですがそれは
いちいち自治すると無駄に荒れる元だよ
550: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)23:09 ID:luKpdy+y0(2/2) AAS
ある程度は自重して頂きもんですけどね
それがネチケットってもんだと思うんだけどな
まあこれ以上は俺もマナー違反なんで打ち切りにするけど
551: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/08(土)23:24 ID:bpB9EqPg0(1) AAS
SSの話という名のネタ潰しも大概だと思うんですけど
552
(1): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/09(日)00:18 ID:KgO5B+LAO携(1) AAS
>>536
そんな事ないよ!
守りし者をやめると言うのは、まどマギ本編でもどこか類型的な正義の味方を気取ってたマミさんが、鋼牙に嫉妬に近い程の憧れを抱いていたマミさんが、自分は自分が信じる自分でしか有り得ないと悟ったと言う事。
これこそ金色の戦士マミさんにふさわしい!魔戒騎士に列せられてもおかしくない最強のマミさんだよ!

>>537
SAVIOR IN THE DARKは最高の曲だけど、マミさんのテーマは1番だよ!
2番はほむらのテーマソングだよ!
553
(1): 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/09(日)00:43 ID:D3YMN68N0(1) AAS
>>552
とりあえず見てる物が違うとしか言いようがない
今までのマミの内面描写の何をみていたのか
このマミは以前から「守りし者」を嫌々やっていたでしょ。じゃあ何で今までやってきたのか?
それは物語冒頭でも言っていた「キュゥべえの恩返し」、人を守る魔法少女というアイデンティティがあったから

それが無くなり自分の内にある本当の願いである「生きたい」という願いに気付いた今
もう以前の様に誰かを守るために戦うとは思えない
よって「守りし者」ではなく、自分が生きるためだけに戦う者になった
そうする義理もないしな、守るべき人々に関心や興味や感慨もなく
野菜や家畜と同じ様にしか見えていないのだから本当は周りなんてどうでもよかった
554: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/09(日)02:06 ID:OMu2CXyvo(1) AAS
>>553
とりあえず1行目だけは心底同意しとくわ
理解の仕方が根本的に違ってる時点で話がそもそも成立しないのに
なんでムダな主張をして話を続けようとするのかが意味不明だけど
555: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/10(月)08:01 ID:CCIFig+AO携(1) AAS
原点に立ち返ってマミさんが覚醒したな胸熱
魔法少女というより戦士の有り様になってきた
556: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/10(月)16:27 ID:BEpTEsFj0(1) AAS
自分自身の決して綺麗とは言い難い欲求と向き直って
開き直るんじゃなくて受け入れた上で再び守りし者に覚醒ルートもあるな
557: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/11(火)00:54 ID:zL9kRmBO0(1) AAS
TDSと違って自殺しなかったのは
段階的に真実に気付き、心の準備ができていた
命がホラーであると知らないままだった
さやかやまどかを魔法少女に引き込んでおらず、さやかも杏子も死んでない
特に最後のが大きいか
限界を超えない程度に追い込むことで解放されたと言うか
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