[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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121: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:23 ID:wsWWwCFYo(1/7) AAS
 また夜が来た。
 空は薄紫に染まり、吹く風は心なしか冷たい。
18時を回った頃。陽が沈み、景色だけでなく匂いや人の流れまで、街全体を包む空気が夜のそれに変わっていく。
その、ちょうど夜へと移り変わろうとしている時間を、三人の少女は出会ったばかりの女性と迎えていた。

 夕木命。
 魔女の呪いを受けて自殺を図った女性は今、三人の前で穏やかに笑っていた。
 ここは、彼女を見つけた魔女の棲み家となっていたビルから歩いて数分のオープンカフェ。
街や人がそうであるように、この店も夜の顔を持っているが、今はまだ早めの仕事帰りの会社員などが散見される程度で、
人はまばら。その内の一席、円形のテーブルに四人は腰掛けていた。

「へぇ……魔女、かぁ……」

「やっぱり信じられませんか……?」

 一通りの説明を終えたマミが、おずおずと尋ねる。掻い摘んで説明している間、命はずっと緊張した面持ちで、
一言も発さず聞き入っていた。向こうから言い出した手前、まさか冗談とは取られまいが、素直に現実と受け入れられるかは別問題。
 命はマミの不安を察したのか、

「まさか。信じるわ、この目で見たんだもの。信じざるを得ないわよ」

 両手を胸の前で振って、マミの言葉を否定した。
 真剣な眼差しでマミの眼を見据え、

「そりゃあ驚いてはいるけど、命の恩人の言葉だしね。疑うなんてとんでもない」

 そして、にっこりと笑いかける。
122: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:25 ID:wsWWwCFYo(2/7) AAS
 包み込むような大人の女を感じさせる顔は、マミに、信じてもらえたという安心と、
それとは別の安らぎと喜びをもたらした。

「ほっ……そうですか、良かったです」

 マミも釣られて笑う。
 弛緩を隠せない表情は、彼女の中で後者が大半を占めていることを示していた。
 だが自分自身、弛んでいると気付き引き締め直すと、今度はこちらから質問に入る。

「それでは、夕木さんが見たという恐ろしいモノについて、
それと、操られていた時のことで覚えていることがあれば話していただけますか?」

「そうね……ハッキリとは覚えてないんだけど、最初にあのビルに行ってから、
ともかく辛くて、苦しくて……そんな気持ちが膨れ上がって。
今日も引き寄せられるみたいにあそこに行って……ごめんなさい、そこからはほとんど……」

「覚えていないと?」

「ええ、でも屋上の夕陽が不思議とすごく綺麗で……けれど風がとても冷たくて……。
そんなことは覚えてるの」

 命が語った経緯は大凡、想像した通りだった。ただ、最初にあのビルに行った、それだけが気に掛かった。
 あんな場所に、いったい何用があって訪れたというのか。
詳しく訊きたかったが、話が脱線するかと思い後回しにする。
 
「では、夕木さんが見た恐ろしいモノとは?」

 マミが問うと、命は怯えを露わにし、唇を震わせる。辛抱強く待っていると、やがて震える唇が開いた。
123: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:27 ID:wsWWwCFYo(3/7) AAS
「薔薇……そう、薔薇に囲まれて、薔薇で飾られた巨大な何か……」

 曖昧な記憶を辿っているらしい。額に指を当て、ぽつり、ぽつりと言葉を紡いでいく。

「蠢くそれの周囲には白い……タンポポの綿帽子に髭と鋏をくっ付けたような……何だろう、ともかく変なモノがいたわ」

「魔女と使い魔……」

 呟くマミ。僅かに喜色の混じった声遣いは、倒した魔女で良かったという安堵。
これで彼女が危険に遭うことはもうないだろう。それが素直に嬉しかった。
 すると、マミの小声の呟きを拾ったのか、命が身を乗り出してくる。

「やっぱり! あれが、その魔女っていう怪物なのね!?」

「しっ! 声が大きいです……!」

 マミは慌てて命を宥めて身体を押し戻す。彼女はばつが悪そうに着席した。
 周囲を見回して、こちらを見ている人間がいないことを確認すると、マミは続ける。

「安心してください。魔女は……"私が"、倒しましたから。夕木さん、今でも自殺したいと思いますか?」

 命はぶるぶる首を激しく横に振った。

「まさか! あんなの一度でたくさん。思い出すだけで身震いするわ……」

「なら、私も戦った甲斐がありました。でも、魔女が死に絶えることはありません。
そうそう出くわすものじゃありませんけど、これからも人気のない暗闇や怪しい場所には注意してくださいね?」

「ええ、なるべくなら二度と近寄りたくないわね。でも……もしもの時はまた助けに来てくれるのかしら?」

「え、それは……」
124: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:28 ID:wsWWwCFYo(4/7) AAS
 命に問い返され、マミは俯き、沈んだ。到底、不可能だからだ。
 昨日も今日も、マミが駆けつけたのは偶然でしかなかった。
あと一分遅ければ、まどかたちも命も死んでいただろう。それは鋼牙と自分たちにも同じことが言える。

 返事に窮して命を見ると、彼女は笑っていた。それも少し悪戯っぽく。
 ああ、と納得。
 つまり、彼女は絶対の保証を求めているのではなかった。

「ごめんなさい、困らせてしまって。真剣に悩む顔が可愛かったから。
深く考えないで。あなたにも事情があるものね」

 約束を。
 仮初でも安心を得たかった。
 彼女は大人だ。無理だと知った上で言ったのだろう。
 ならば、マミの答えも決まっている。

「いえ……はい、必ず助けに行きます」

 大真面目に断言して、数秒ほど見つめ合う。
 やがて、どちらからともなく、

「ぷっ……ふふふふ――」

 吹き出して笑った。自分でも何がおかしいのかもわからず、ただ何もかもがおかしかった。
 横を見ると、まどかとさやかも笑っている。
 それからは他愛ない雑談を中心に、魔法少女としての武勇伝も時折だが交えつつ、お茶と会話に興じた。
125: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:31 ID:wsWWwCFYo(5/7) AAS
 落ち着きを取り戻した彼女は明るく朗らかで、よく笑う人だった。その上、気さくで会話上手。
人の心の機微を知り、それはマミよりも豊富な人生経験を想像させる。
 数十分前に出会ったばかりなのが嘘のように、四人は急速に打ち解けていく。
 さっきまでとは比べ物にならないほど穏やかに流れる時間。久しく感じていなかった喜び。
いつしかマミはすっかり命に心を開いていた。

 今は何も考えず、この時を楽しもう。
 魔法少女とキュゥべえへの疑惑。
 鋼牙に対する劣等感。
 それらから一時でも逃避できるなら。

 事情聴取という当初の目的も、僅かな違和感も既にどうでもよくなっていた。
 彼女が自殺なんてする訳がない。あれは魔女の呪いによる気の迷いに違いないと。 
 
 時間を忘れて話すこと十数分、辺りは人工の明かりで溢れていたが故に気付くのが遅れたが、
空は完全に闇に覆われていた。
 さやかはふと自分の携帯電話を見るなり、

「あ、ヤバっ……! 面会時間終わっちゃう!」

 慌てて席を立った。何事かとマミと命は見上げ、まどかは察したような視線を送る。

「ひょっとして、上条君の病院?」

「え? あ、うん、まぁね……。昨日は行きそびれちゃったから、今日くらい顔出しとこうかな〜って」
126: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:32 ID:wsWWwCFYo(6/7) AAS
 さやかは照れ臭そうに鼻を掻く。夜でなければ頬が赤らんでいるのが、はっきりわかっただろう。
いかにも軽い野暮用を装っているが、彼女にとって非常に大事な用事であることをまどかは知っている。
 だから、それ以上は何も言わずに送り出すのだ。

「ってことで、すみません。あたしはこれで……あ、お代は――」

「いいのいいの。今日はお姉さんの奢り。これでも大人なんだから、ね?」

 そう言って、命はトンと自らの胸を叩く。
言葉とは裏腹に、自慢げに胸を張っているところは子供みたいで微笑ましい。

「いいんですか!? ありがとうございます! それじゃ、失礼します!」

 目をキラキラ輝かせて一気にお礼を捲し立てると、さやかは頭を下げて去っていった。
 まったく遠慮せずに好意に甘えるのが彼女らしい。
 たぶん急いでいたせいもある。その証拠に、さやかはそこら中の席にぶつかり、
最後には黒いコートの男性のジュースを零して必死に頭を下げていた。

 それがマミと命からは見えない位置だったこと。
 不様な姿を晒したのがまどかだけだったことは、さやかにとって不幸中の幸いだったと言えるだろう。
127: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/23(月)01:35 ID:wsWWwCFYo(7/7) AAS
話が進んでいない上に短いですが、ここまで。
次は一週間も開かないと思います。
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