[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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576: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/09/03(月)01:57 ID:cjJ5eeRJo(1/5) AAS


 遡ること約三十分。
 涼邑零は屋外に並べられたイスに腰掛け、ひと時の休息を楽しんでいた。
 流行りの店だけあって人は多いが、男の一人客は彼だけである。
だが、まったく気にする様子はなく、テーブルにはケーキやパフェが所狭しと並んでいた。

『相変わらず、甘い物ばかりよく食べるわね。それも二日続けて。
そんなに燃費の悪い身体でもないでしょうに』

 零の左手首のアクセサリが、小声で囁く。
 母親のような口調で零をたしなめるのは、魔導具シルヴァ。
 シルヴァの言う通り、零がこの店を訪れるのは、二日連続。
そして、その時もテーブルには色とりどりのデザートが散りばめられていた。

 甘い物嫌いでなくとも胸焼けを起こしそうな、普通の人間には明らかな糖分と脂肪の過剰摂取。
 しかし零は、常人の数倍の運動量を日々こなし、肉体の造りからして異なる魔戒騎士。
必ずしも過剰ではない。

 他に必要な栄養も摂っており、その証拠に彼の身体は体調を崩すことも、
贅肉を蓄えることもあり得ない鋼の肉体。
 その点は、何年も行動を共にしているシルヴァは心得ている。
それでも、たまにこうして難色を示すことはあったが。

 また、甘党である零だが、そう毎日毎日、甘味を必要としている訳でもない。
 では何故、零は今日もこの場にいるのか。
 夜を迎える前のささやかな休憩と補給。それもあるが、本来の目的は他にある。
 シルヴァの小言に、またひとつ皿を空けた零が苦笑しながら答えた。

「少なくとも、誰かさんみたいに安い菓子で口寂しさを紛らわす必要はないけどな」
577: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/09/03(月)01:59 ID:cjJ5eeRJo(2/5) AAS
『ふぅ……、そんなこと言っているから来たようよ、その"誰かさん"が』

 シルヴァが言ったのと、ほぼ同時だった。視界の遠くに赤い髪が躍る。
近くまで来ているとはシルヴァに聞いていたが、意外に早かった。
 彼女もこちらに気付いたらしく、急速に向きを変えて疾駆する。
土煙を上げる勢いで迫ってくるのは佐倉杏子。昨日、零と戦い勝利した魔法少女だった。
 
「テメー……こんなとこにいやがったのか!」

 真横まで飛んできた杏子は開口一番、牙を剥く犬のような形相で握り拳を振り上げる。
 一応、勝利したのは杏子だったものの、その勝利は望む形とはほど遠く、
逆に彼女の自尊心を著しく傷つけたらしかった。

 その様子から察するに、昨夜から今日の日中に掛けて零を探していたのかもしれない。
しかし、まさか決闘の後に同じ店に戻り、しれっと翌日も通っていたとは思わなかったのだろう。
それはつまり、零が杏子を警戒していない、逃げも隠れも必要ないと言ったも同然。
杏子が激怒するのも頷けた。

「待った、あんこちゃん」

 問答無用に振り下ろされた拳を、零はスプーンを持たない左手で制止した。
だが止められてもなお、憎い男の顔面に食い込まんと激しく暴れる。
魔法少女の腕力を受け止める手にもまた相当の力が加わって震えるが、零は表には出さない。

 故に周囲の人間は気付かない。
その小さな拳が直撃すれば容易く骨を砕き、歯の数本もへし折る力を持つ凶器だと。
 魔法少女の拳を受け止める騎士と、魔戒騎士の力と拮抗する少女。
どちらも常識の埒外にあると。
578: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/09/03(月)02:02 ID:cjJ5eeRJo(3/5) AAS
「場所を考えろよ。こんな場所でやり合っても騒ぎになって邪魔が入るだけだぜ?」

「言っただろ。もう、そんなことはどうだっていいんだよ、あたしは」

 それは嘘ではないだろうが、まだ脅しの段階だ。杏子が槍を出すかどうかは、零次第。
 彼女は言葉使いや態度こそ粗暴だが、なかなか頭は切れる。
 零としても、今こんなところで騒ぎを起こされるのは面倒だった。
杏子より誰より最優先すべき使命、その為に自分はここにいるのだ。

「取りあえず座ったら? 話くらいは聞くし。
俺は、あんこちゃんと戦わないとは言ってないよ」

 杏子の拳から僅かに力が抜けるのを感じた。
 零はもしもの事態に備え、全身の神経を集中させながら、包んでいた左手を広げた。
 杏子は右手を引っ込めつつ、向かいの席にどっかりと腰を下ろす。
 
「上等じゃん……。だったら聞きたいね。いつ、どこで、あたしと戦うつもりなのか」

「まぁ、まだ時間はあるさ。とりあえず食うかい? 何でも好きなの、取っていいよ。
もちろん、俺のオゴリ」

 笑顔でデザートを勧める零。対する杏子は不機嫌そうにそっぽを向き、

「いらねーよ! いいから、さっさと本題に入れっての」

 などと言いつつも、視線はテーブル上を彷徨っている。
 内心では興味を引かれているのは誰の目にも明らかだった。
もっとも、直接それを指摘すれば杏子はへそを曲げてしまうだろうが。

「そっか。頼み過ぎちゃったからなぁ。じゃあ残すしかないかな」
579: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/09/03(月)02:19 ID:cjJ5eeRJo(4/5) AAS
 その一言を零が発した瞬間、空気が変わった。
 どうやら、一言でも杏子を刺激するには充分だったらしい。

「テメー……」

 杏子は静かに身を乗り出し、零の胸倉を掴む。声こそ荒げていないが、彼女の怒りは本物だ。
 昨日、挑発した時もそうだった。嵐の前触れのように穏やかになっているのが、逆に危険信号なのだ。
 その髪は赤く、しかし表情は青いまでに白い。
 
 青く静かに燃える炎。
 今の杏子を表現する最適の言葉。
 その青い炎に間近で晒されても、零は薄い笑みを絶やさなかった。

「ぶっ殺すぞ……あたしは食い物を粗末にする奴は許せねーんだ……!」

 テーブルにはまだケーキ、プリン、タルトなどなどが大量に残っている。
どれもこれも、まだ手も付けられていない。ドロドロに溶けたアイスなど、残っても捨てられるだけだ。
 大量に頼んでおいて半分近くを残すなど、杏子でなくとも眉をひそめる行為。

 ただ彼女の場合、他にも隠された何かがある。零に対する怒りも、そこから来ている。
 その何かの正体に朧気にでも気付いていながら、敢えて零が口にしたことも杏子を駆り立てていた。

「だったら、あんこちゃんが手伝ってよ」

 と、零は胸倉を掴まれたまま、しゃあしゃあと言ってのけた。
 あからさまな挑発。が、単なる挑発ではない。
彼が無意味にこんなことをするはずがないと、杏子もまた見抜いたのだろう。
でなければ、とっくに槍を握り、零に向けている。

 だからこそ、企みに乗るのは癪と考えた。怒りよりも、いいように動かされる方が気に食わないと。
 その証拠に杏子は零を睨んで動かない。零も口を開かない。
 そして、先に折れたのは杏子だった。
580: ◆ySV3bQLdI. [sage saga] 2012/09/03(月)03:30 ID:cjJ5eeRJo(5/5) AAS
今回はここまでです
実は今回の投下で他の方のスレに誤爆してしまった為、暫く反省して書き溜めに専念しようと思います
読んで下さっている方にはご迷惑おかけします
週一回の更新を心がけてきましたが、このところ細切れにしか投下できませんでしたので、
十分な量を準備して万全の態勢で再開したいと思います
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