[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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674: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/15(月)02:18 ID:QhBuy+iGo(1/5) AAS
 シルヴァの心配を見越したのか、零は走る足は止めず、左手を胸元まで持ち上げた。

「構わないさ」

 言って、口の端を上げる。

「あいつは根っこのところで甘いし、そこまで馬鹿じゃない。
その前に必ず気付く。自分が担がれたってな」

 シルヴァの指摘はもっともだった。
 零も彼女の力は認めているが、杏子を手放しに信用しているとは言い難い。
 強いて理由を挙げるなら、彼女からの信用を感じたから。同時に、自分に対する不信感も。
それらを逆手に取って利用したのだ。 

 たびたび挑まれて何をと思われるだろうが、彼女が毎度それなりに話し合いに応じる事実が、
 多少なりと信用されている証――と受け取るのは自惚れだろうか?
 躾が良かったのか、それとも根の性格が善良なのか。
擦れているように見えて、彼女は純真な部分を残している。

 だが、純粋さは時に足枷となる。
 彼女自身、理屈ではわかっていても、自分がそうである自覚はないようだ。
 でなければ半信半疑でも騙されてはくれない。
人の姿をしたホラーを殺すことに躊躇いを覚えたりしない。

 また、零を信用しきっていないからこそ、言葉を疑い、真の意図に気付けるのだ。 
 杏子を騙すのは心が痛まないでもなかったが、零には使命がある。
迷いを抱えて足手纏いになる可能性がある杏子は、なるべく切り離したかった。
 
『そんなこと言って、本心では彼女が心配だから連れて行きたくないんじゃない?
なら、あなたも充分……』
675: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/15(月)02:20 ID:QhBuy+iGo(2/5) AAS
「違う。そんなんじゃないよ」

『どうかしら』

 シルヴァが続けるのはきっと、優しい、とか、甘い、といった言葉だろう。
 だから零は苦笑した。
 別に、そんなつもりはない。あくまで打算の積み重ねによる判断だ。
自分とさやかも含め、メリットとデメリットを秤にかけて、メリットが勝っただけ。

「おっと。お喋りはここまでみたいだぜ、シルヴァ」

 そんな会話を交わしているうちに、目的に着いたらしい。
 命が足を止めず駆け込んだそこは、街灯もなく、ビルや家々の明かりもネオンもない。
屋内であることに加え、月が雲に隠された今では、月光さえ届きはしない完全な闇。
 
 そこは打ち捨てられた廃ビル。
土地の所有者はもちろん、浮浪者も不良も寄りつかず、野良猫やネズミすら住んでいるか怪しい。

 つい昨日まで、魔女の巣窟として多くの人間を誘い入れて逃がさなかった死の廃墟は、
巴マミが魔女を討ち、自殺を試みた夕木命を救出した場所。
 そして、彼女が敢えてここを戦場に選んだということは、
ホラー・モロクと化した夕木命とも関係があるはずだ。

 つまり、この先は相手の縄張り。中でホラーが息を潜めて待ち受けているのは間違いない。
しかし零は微塵も臆することなく、堂々とした足取りで踏み込んでいった。
676: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/15(月)02:23 ID:QhBuy+iGo(3/5) AAS
 入口から数歩も進むと、外のか細い光も完全に途絶える。
 一歩進むごとに積っていた埃が舞う。
 埃とカビの臭い。歩くたび砂利やガラス片を踏み鳴らす音。
嗅覚と聴覚に頼っての索敵は厳しそうだった。
  
 まずはその場に留まり、眼が暗闇に慣れた頃、零は移動を開始する。
 とはいえ、こちらから熱心に探す必要はない。 
敵が魔戒騎士をやり過ごすつもりでもなければ、どこかで必ず姿を現す。
どの道、こちらの存在を隠す術がない以上、奇襲を迎え撃つ方が手っ取り早い。

 双剣は鞘に収めたまま、両手もポケットに収めたまま、靴音を鳴らして歩く零。
 暗闇に目が慣れても、物陰は至るところにある。扉や柱の陰、放置された机などの陰。
それでなくても、数メートル先は漆黒に塗り潰されていて見えない。何が潜んでいてもおかしくない。
 
 普通ならば想像して恐怖するあまり、一歩も動けなくなるだろう。
 このような状況において、零と彼ら常人との違いはいくつかある。
 ひとつは、修業と実戦経験で研ぎ澄まされた第六感。
 ひとつは、恐怖を克服した心。
 もうひとつは、

「どうだ、シルヴァ」

『近いわ。でも、まだそれほどじゃない』

 頼れる相棒。
 零が小声で語りかけると、シルヴァも声を落として答えた。
 ホラーの気配を探知する魔導具は幼少時から知っている。阿吽の呼吸という奴だ。
 異常な街でも、これだけ近く閉じられた環境、
しかも魔法少女のような他に魔力を持った存在が傍にいなければ探知は可能なのだ。
677: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/15(月)02:24 ID:QhBuy+iGo(4/5) AAS
「なら、ここはもういいな。他を当たるか」

 一階を一通り見て回った後、零は階段を上る。
 ビル内の空気は淀んでいるが、割れた窓から吹き込む風が、微かに空気の流れを生んでいた。
 どうやら二階に上がってすぐ、開けた空間になっているようだ。

 コツンと靴を鳴らし、最後の段を上り終えた時、

『ゼロ……!』

 呼ばれた零は答えなかった。たったそれだけで、シルヴァの意図を理解した。
 警告しているのだ。ホラーが近いと。
 零も闇の中に輪郭が浮かぶように、その先に何者かの気配を感じていた。

 両手をポケットから抜き、やや腰を落とす。
まだ剣は抜かなかった。両手は自由の方が、不測の事態に対応しやすい。
 忍び足をするでもなく、変わらぬ歩調で進む。
一歩ずつ床を踏み締めるごとに、皮膚の表面に伝わる刺激が強まっていく。

 広間に足を踏み入れた零は、心の中でカウントを取る。
 そしてカウントがゼロになった瞬間。

 確かな殺気が膨れ上がり、扉の陰から何かが飛び出した。

 音もなく現れたそれは、獲物を狩る肉食獣さながらの俊敏な動作で肉迫。
 僅かな距離をゼロにする。
 辛うじて零の目に映ったのは、白いブラウス。そして視界を覆う白い足。
 
 直後、ゴッ――と、命のハイキックが零の顔面を捉えた。   
678: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/10/15(月)02:29 ID:QhBuy+iGo(5/5) AAS
ここまで、次も日曜日だと思います
いっぱい書いた気がするのに、あまり進んでいないような
そろそろ生身の格闘戦をしてみたいですが、なかなか上手く書けない……

映画はまだ見ていませんが、TDSはとても面白くて
おかげで方針も決まってきました
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