[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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797: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/26(月)02:25 ID:DfgLvHbDo(1/8) AAS
 飛び込んできた杏子に、零はまたも平然と片手を上げて、親しげな挨拶を送った。
 ついさっき嘘をついて利用したこと。
 ここが戦場であり、自分が今もって危機の最中にあることなど、気にも留めていないかのよう。

 杏子の答えは、冷たく鋭い視線と、眼前に振り下ろした槍。
しかも、零が上体を逸らさなければ額に刺さっている位置である。

「なにヘラヘラしてんだテメーは……。あたしを引っ掛けて都合良く使いやがって。
まさか忘れたわけじゃねーだろうな……。
あと、あたしをあんこちゃんて呼ぶなって何回言やわかるんだ……!」

 杏子は両者の間に立ち、左半身をモロクに、右半身を零に向けている。
 警戒はしているが、武器と顔を零に向けている現状は、かなり危険だろう。
それでも、それだけ、零に言ってやりたい思いが勝っていた。

「ま、あんこちゃんも、そう怒らないでさ。
とりあえず積もる話は後にして、まずは"そっち"を一緒に片付けない?」

 と、零は杏子を宥めつつ、彼女の左を指差す。
 ぽつんと置いてきぼりにされていたホラーは、酷く間抜けだった。
 だが、闖入者に呆然としていたのも数秒。杏子が魔法少女と知るモロクは、彼女も敵と見なして排除を開始する。

 零に言われるまでもなくモロクの攻撃を察し、杏子は首だけを回した。
 モロクの左肩から火炎弾が発射される。
 杏子は迷わず仰け反って炎弾をかわした。

 モロク、杏子、零の位置は直線で結ばれている。
零からすれば、杏子の身体で塞がれていた視界が開け、いきなり火球が出現したに等しい。
798: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/26(月)02:29 ID:DfgLvHbDo(2/8) AAS
「っと――」

 間一髪、零も首を傾けると、
耳を掠めて火炎弾は壁に当たり、焦げ跡を残して消滅した。
 
「ふぅ……」

 と、溜めた息を吐き出す零。
 杏子は防ごうと思えば防げたものを、わざと嫌がらせに避けた。
そして彼なら当たらないという見立ては、やはり間違っていなかった。

「ざけんな。何であんたと協力しなきゃなんないのさ」

 吐き捨てるように言って、杏子はモロクに槍を構える。
 一歩間違えれば死んでいたところを零は怒る様子もなく、
一本となった魔戒剣を手に、杏子の右に並んだ。

「あんこちゃんも戦う気があるから来たんだろ? だから俺も呼んだ」

 確かに。
 零との決着だけが目当てなら、待っていればよかった。
もし死ぬような力量なら、所詮それだけの奴だったと幻滅するだけ。
 むしろ、そうでないと確信しているからこそ、杏子はここにいる。

 零とホラー、同時に相手できるとは思っていない。
 自分だけでホラーを倒す。それも現状では無理がある。
ムキになって反発すれば、逆に二人仲良く死にかねない。

 ただ――。
799: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/26(月)02:31 ID:DfgLvHbDo(3/8) AAS
「あんたと慣れ合う気はないね」

 これだけ言っておかずにいられなかった。
 下らなくても、絶対に譲れない意地。

「なら30秒でいい。こいつの相手よろしく」

「はぁ? あんたは?」

「俺は盗られたもんを取り返さなきゃな」

 剣を握った左手を軽く上げ、零は言った。
 その視線を追うとホラーの後方、剣を手の甲から突き出した左腕に行き着く。
本体が二人の敵と対峙しているのに、不自然に遠ざかっている。

――ああ、なるほどね……。

 一瞬で看破した。
 敵は、双剣が零の手に戻るのを恐れているのだと。
 そこに彼の秘密があるのだろうが、それが何かまでは知る由もない。

 重要なのは、ひとつ。奴が片手で零と杏子を相手取ることよりも、双剣を警戒していること。
 今だってホラーが眼前に立っているのに、
のん気に会話していられるのは、零が睨みを利かせているから。

 十全でない零はまだしも、杏子の存在を軽く見ている。つまり舐められているのだ、自分は。
 そう思うと、闘志が沸々と湧いてきた。
 今すぐにでも目に物見せてやりたくなる。
800: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/26(月)02:34 ID:DfgLvHbDo(4/8) AAS
「終わったら決闘でもご馳走でも付き合うからさ。な?」

 そんな気持ちもあったからか。
 迷っている暇がなかったからか。

「っ〜〜たく……30秒だけだ。ひとつ借しだからな!」
 
 杏子はガシガシ髪を掻いた後、人差し指を立てた。
 相変わらず、本気の戦いと食事の奢りを同列に語るあたり、
余裕っぷりが垣間見えて気に入らないが。

 杏子の答えに満足したのか、零はまたも口元を僅かに歪め、鷹揚に言い放つ。

「そうこなくっちゃ」

 その一言が引き金だった。
 二人は弾かれたように飛び出した。 
 零は右へ。
 杏子は前へ。

 跳び上がった零の足が壁面を踏み締める。
 零の目的を悟ったモロクの右腕はさせまいと動くが――。

「ほらほら! テメーの相手はこっちだ!」

 振り下ろしながら鎖を伸ばした槍に薙ぎ払われる。
 右手を叩き落とした杏子は槍を縮め、流れるように斜めに斬り上げた。
 魔法の刃は魔獣の皮膚を走り、浅く裂いた。
801: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/26(月)02:40 ID:DfgLvHbDo(5/8) AAS
 モロクの注意を杏子が引き付けた隙に、零は壁を伝って横を走り抜ける。
 左腕はあくまで剣を返すまいと離れていくが、零は逃げる以上の速さで追い縋る。

 再びの跳躍。
 壁を蹴って左腕を飛び越し、逃げ道を塞ぐつもりだろうが。

 突然、左腕は目標を変え、空中の零を狙って動いた。
 自身の手の甲から突き出た剣を、攻撃に利用するつもりなのだ。
  
 零は杏子との戦いでも、何度か空中で攻撃をかわす荒業を見せた。
 しかし鎖とは違い、相手は意思の通った身体の一部。
離れていようと命令の伝達速度は、武器として操る槍の比ではないはず。
そう易々と避けられるだろうか。

 危機を伝えなければ。
 何故か咄嗟に思い、大きく息を吸う。

「――っ!」

 しかし、言葉にはならなかった。
 ホラーが杏子を目掛けて蹴りを繰り出した。 
 鈍重なように見えて、意外に素早い。おまけに重い。

 辛うじて槍の柄で防御したものの杏子は大きく後退し、
そちらに注意を取られて声を出せなかった。

――ヤバい!

そう感じたのは、どちらに対してだったのか。
とにかく、杏子は無意識に零を目で追い――その目を見張った。
 剣を捨て、迫り来る刃を両掌で挟んで止めたのだ。それも空中で身を捻った不安定な体勢で。
802: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/26(月)02:45 ID:DfgLvHbDo(6/8) AAS
 腕一本でも人間一人を持ち上げるホラーの腕だが、
零の体重と落下の勢いを支えるには至らなかった。
 零はモロクの左腕ごと落下。
 途中で刃を回したのだろう。刃を床に突き刺し、腕を縫い止めた。

 初めて目にした真剣白刃取り。これには杏子も舌を巻いた。
 言葉にすれば簡単だが、同じことができる自信はなかった。
もっとも、同じやり方である必要はないのだが。
 それぞれ持てる特性も技術も違うのだから、杏子は杏子なりのやり方で回避を試みただろう。

 だが単純な身体能力と身のこなしでは、零が杏子より一枚上手なのは疑いようのない事実。
 劣等感を抱いているつもりはない。ただ、負けたくないと強く思う。
 その気持ちが杏子を衝き動かした。

 鎖を巻きつけ足技を封じ、火炎弾を払い落す。
杏子の攻撃は苛烈になり、モロクは徐々に防ぐのがやっとになっていった。
 そして遂には、その腹を深く槍で貫く。

 ずぶりと肉に刃が入る奇妙な感触。魔女相手ではなかなか得られない経験だった。
 モロクが悶えている間に引き抜こうとする杏子だったが、
 
「そうだ、あんこちゃん! ホラーの間近では戦うなよ!」
 
 そこへ思い出したような零の声。
 零は頑として剣を放そうとしない腕を靴で踏み、逆に柄を押し込みながら抉っていた。
  
「俺はあんこちゃんを斬りたくないからさ」

 何故か、そんな言葉を続けて。
803: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/26(月)02:49 ID:DfgLvHbDo(7/8) AAS
 それは果たして、どういう意味なのか。杏子は疑問に思い、一瞬そちらに気を奪われる。
 が、真意を問う前に、モロクの咆哮が正面の杏子を直撃した。
おそらく、零が剣を強引に引き抜いたせい。

 耳をつんざく苦痛の叫び。生臭い風に髪を煽られ、杏子は飛び退きながら槍を抜いた。
 傷口からは黒い体液がパッと舞い散る。
返り血は杏子の手前の床に落ち、やがて吸われるようにして消えた。

 距離を取った杏子は顔に玉の汗を浮かばせ、荒く息を吐いた。
 危なかった。零がいきなり謎の発言をするものだから不意を突かれた。
 その緊張は悲鳴に驚いた為であって、返り血を浴びる危険にではない。
零の忠告がなければ、杏子は返り血を物ともせずに追撃していただろう。

 彼女はまだ、その意味を知らなかった。
 また、その場では聞き直すこともできなかった。
 ようやく双剣を取り戻した零が立ち上がったから。
 まだ彼が駆け出してから15秒と経っていない。
 
 二三度、右手を握っては開き、感覚を確かめる零。
 これなら問題ない。痺れも痛みも完全に消えていた。
 そして零は両手の魔戒剣を順手に持ち替えると――。

 双剣を交差させた後、天に掲げた。

――……? 何を……

 杏子が首を傾げたのも束の間。

 零が手首を回転させると、それぞれの剣先が白く光の軌跡を描く。
 生まれた双つの円は直上で重なってひとつとなり、紋章が浮かんだかと思うと、眩い光が溢れる。
 そして、膨大な光のシャワーが零を包んだ。
804: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/26(月)02:51 ID:DfgLvHbDo(8/8) AAS
一旦ここまで
あと1レス投下したかったですが、半端にもしたくないとこなので明日
いろいろ不調で長く間が開いてすみませんでした
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