[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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347: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:05 ID:2bCS3gDYo(1/8) AAS
 頭で考えていたこととは異なる言葉が口をついて出て、マミはハッと唇を押さえた。
 最も肝心な魔女の正体について問うつもりが、ほぼ無意識に喋っていた。
 それは未だ思考と乖離した感情の仕業、言わば心の声。

 マミは大いに困惑したが、どの道はっきりさせておかなければならない。
でなければ、彼が秘密を明かしたとして正直に受け取るか疑うかも違ってくる。
 妙な話だが、彼に対する感情でマミの真実は変わり得るのだ。
 そして、特に迷う素振りもなくキュゥべえは言う。

「君は僕をどう思っているんだい?」

 肯定でも否定でもなく、逆に質問で返された。
 それを確かめたくて訊いたのに、そのまま返されては答えようがない。
 だがマミは、

「私は……あなたを友達……だと思っているわ」

 と、言葉に詰まりつつも答えた。
 嘘ではない。信じたい気持ちは今も変わらない。
 
「じゃあ僕は君の友達だろうね」

 だが、キュゥべえは即答だった。
 しかし、そんな引っ掛かる物言いでマミが納得できるはずもなく。
 むしろ怒りに火を点けた。

「じゃあ? だろう? どういう意味? 変な誤魔化しは止めて!」

 マミが激昂しかける。
 いっそ、否定された方がまだ良い。それなら諦めもつく。
仕方がないと、自ら離れたのではなく彼に切り捨てられたのだと自分を慰められる。
348: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:09 ID:2bCS3gDYo(2/8) AAS
「誤魔化しでも何でもないよ」

「なら、私に合わせて答えを変えたの!?」

「君に合わせて変えたのでもない。君の答えが、そのまま僕たちの関係の答えなんだ。
これは似ているようで違うことだよ」

 ますます釈然としない。
 煙に巻かれているよう。そういえば、これまでにも何度かあったことだ。
それも、決まって彼の秘密に触れようとした時に。

「僕はただ魔法少女をサポートする存在だからね。
君が僕を友達と思うなら僕は友達になるし、ただの道具だと思うなら、そうなる。
とどのつまり、僕は"そういうもの"なんだ」

「……敵だと思えば、敵になる?」

「敵と言われるのは心外だけど、君がそう思ったとしても咎める権利は僕にはないよ。
実際、契約が済んでしまえば、僕が魔法少女にできることは少ない。
君にも僕にも、さほど不都合はないと思う」

 キュゥべえが何かを強制したことは一度たりともない。
相手の意思を尊重していると言えば聞こえはいいが、
本当は一切の執着がないだけなのだと気付いたのはいつだったろうか。

 そんな彼が執着し、場合によっては強制するとしたら。
 それは、きっと契約のみだろう。
349: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:10 ID:2bCS3gDYo(3/8) AAS
「僕を天使と呼ぶ少女もいた。不本意だけど悪魔ともね。妖精なんていうのもあったかな。
わかるかい? 君たちにとっての僕は、君たちの価値観次第でどうにでも変わる。
僕に対する認識なんて、それくらい曖昧なんだ」

「じゃあ、私をどう思っているの? あなたは私を……」

 執着がないということ。それは関心がないのと同義だ。ひいては愛も同じ。
 それでもマミは訊かずにおれなかった。
敵と思われても構わないなどと言っている時点で、わかりきっているのに。

「君はとても優秀な魔法少女だよ。誇っていい。僕が見てきた中でもかなりの――」

「そうじゃない! 私が聞きたいのはそんなことじゃないわ! あなた個人の意思を訊いているの!」

 キュゥべえの台詞を遮って叫ぶマミ。瞳にはいっぱいの涙が溜まっている。
 本当に、彼にとっての自分の価値は利用価値の有無でしか測れないのか。
 友達だと思っていたのは自分だけだったのか。

 目覚めて挨拶する相手がいることに感謝した朝。
 休日や学校帰りに一緒にお茶を飲んで安らいだ昼。
 魔女との戦いで傷ついた心身が、彼を抱いて眠ることで癒された夜。
 
 数えきれない時間を一緒に過ごした。
 キュゥべえがいてくれたから寂しくなかった。
 すべての想い出が嘘だなんて信じたくなかった。

 しかし、マミがいくら泣こうが叫ぼうが、キュゥべえは微塵も揺れることなく訊き返す。
350: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:13 ID:2bCS3gDYo(4/8) AAS
「それは、君たちで言うところの"友情"が存在するのか、という意味かな?」

 望みは薄かったが、僅かな期待を込めてマミは頷く。
 そうだ。この関係が友達と呼べるのか、そんなことはどうでもいい。
 大事なのはひとつだけ。
 自分が彼を大切に想っているように、彼が同じように想ってくれているのかどうか。
それを確認しなければ、不安に駆られてどうにかなりそうだった。

「友情か。それが僕に理解できたなら、僕と君が出会うことはなかっただろうね」

 最初、キュゥべえの言葉が何を意味しているのか理解できなかった。
 が、どうやら答えが"否"であるらしいことは伝わった。 
 そして、

「僕には感情というものは存在しない。個々の意思も、個の概念もね。
僕はただ契約を交わし、願いを叶える代わりに少女を魔法少女にする。
そして魔法少女をサポートする、その為だけの存在だよ」

 直後、儚い望みは粉砕され、マミは手をついて項垂れる。
 じっとフローリングの床を見つめる眼差しは虚ろ。
心の中が空っぽになったみたいだった。残ったのは無力感と虚無感、微かな寂寥感。
 憎しみも、何も感じなかった。怒ることすら馬鹿馬鹿しかった。まだ、この時までは。

「……っ!」

 マミは左胸に右手をやり、きつく握り締めた。噛んだ唇から呻きが漏れる。
身体が痛みを訴えてもなお、力を込め続けた。

 何なのだろう、この感覚は。
 空っぽになったはずなのに、その隙間を埋めんと、やるせなさが涙と一緒になって止め処なく湧いてくる。
 身体の痛みなんかより遥かに痛かった。
351: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:15 ID:2bCS3gDYo(5/8) AAS
「でも、感情の有無がそんなに大事なことかな? 
少なくとも、僕たちは良好な関係を築けていたじゃないか。
僕は君の、君は僕の、お互いに利益となってきたはず。
愛、なんてあやふやなものがないくらい、何の問題もないと思うけどね」

 キュゥべえは、そんなマミを見下ろして平然と告げる。
 痛みを痛みで紛らわせても相殺しきれず身悶えるマミに、キュゥべえの言葉を受け止める余裕はなかった。
それでも心と別に、思考は薄ぼんやりと理解してもいた。

 キュゥべえの言葉は、それでも間違ってはいないのだと。

 知らなければ、ずっと彼を友達と信じていられた。小さな棘のようなわだかまりは胸に刺さったままでも、
自分が死ぬか壊れるまで騙し騙しやっていけたと思う。
 キュゥべえは、騙していたという認識などないのだろう。感情がない彼は常にあるがままだった。
ただ役目を果たしていた彼を、友達として見ていたのはマミの方。

――そう、だから悪いのは私……。
 キュゥべえは蓄積したそれらしい反応を、状況に合わせて見せていただけ。
 それを唯一無二の好意と勘違いして、私が勝手にショックを受けているだけ。
 でも、それはあくまで理屈。
 そして、この気持ちは理屈じゃない――

 だからこそ、こんなに胸が苦しい。
 彼も、あの日々も、最初から虚構だった。もう二度と戻ってこない。
 キュゥべえは、これまで通りの日常を送ることを拒まないだろう。
しかし、マミには到底、許容できなかった。
 
「もういいわ……。結局、私の一人遊びだった訳ね」

 マミが静かに、自嘲気味に呟く。
 口に出して、少しだけ心が諦めに傾いた。
352: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:17 ID:2bCS3gDYo(6/8) AAS
 ずっと支えとしてきたものが、お人形遊びに等しかったと思い知らされた。
 馬鹿な少女が現実を知って、ひとつ大人になった。
 辛くて悲しいことだが、これをバネに成長すればいい。幸い、自分には新たに支えてくれる人がいる。

 そんなふうに思えたかもしれない。
 話が、これで終わりだったなら。
 マミが、ただの人間だったなら。

「でも、これで遠慮なしに訊けるのは、良かったのかもしれない……」

 立ち上がり言うや否や、マミの身体は光に包まれ、魔法少女の衣装を纏う。
 マミは毅然とキュゥべえを見降ろし、言った。

「あなたが隠していることを話して。全部、一切、包み隠さずに」

 空気が張り詰める。マミは全身を緊張させ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 キュゥべえはまだ動かず、答えようともしない。
 マミはキュゥべえの無機質な瞳から一瞬たりとも目を逸らさないが、思考はフル回転していた。

 マミが魔法少女の衣装を纏った理由。
 ひとつは、前の質問からの切り替えの為。
 これから別のことを問わねばならない。ただの少女でなく、魔法少女として。

 もうひとつは、自分が本気であるという決意の証。そして絶対に逃がさないという意思表示。
 キュゥべえが逃げれば拘束してでも問い質すつもりだ。

 もし万が一抵抗したり、明らかに虚偽とわかる回答をしたならば――。
 いや、そうでなくても真実の闇の深さによっては、そのまま衝動に任せて縊り殺してしまうかもしれない。
 故にマミは理性を総動員し、様々な意味で自身を律する必要があった。

 それほどまでに重いことは、知る前から察しがついていた。
 鋼牙が推理しながらも敢えて口を噤み、ほむらが自分の胸だけに秘めなければならなかったのだ。
 だからこそマミも、暗闇の中で己を見失わないよう、不安に押し潰されないよう、他者との繋がりを求めた。
命が心の支えとなったのも、今になってキュゥべえとの絆を必死に再確認しようとしたのも、その為。 
 だが、おそらく杞憂に終わるだろうとも思っていた。
353: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:19 ID:2bCS3gDYo(7/8) AAS
「あなたが何者で、どこから来て、何の為に契約しているのか。
魔女とは、魔法少女とは、ソウルジェムとは何か。
あなたの口から聞かせてほしい。あなたの言うことなら、私……信じるから」

 これまで隠したり、話を逸らしたりはしても、彼は一度も嘘をつかなかった。
 また、マミの予想が真実だとしたら、それを知ることは魔法少女にとって絶望の宣告であると同時に、
少なからずメリットにもなる。
どうせ彼は人の心など汲み取ってくれないのだから、損得勘定の天秤さえ動かせば、冷徹に、淡々と語ってくれるだろう。

 これまでのような無条件の信頼とは違う。いくつかの材料から判断しただけの冷たい論理。
 自分の内に、まだ彼への友情や親愛と呼べる感情が残っているかは、マミにもわからない。
ただ、目の前で装束を身に付け暗に脅迫している時点で、最早そんなものを信じていないのは確かだった。

「わかったよ、マミ。君に本当のことを話そう」

 彼の中で天秤の釣り合いが取れたのだろう。キュゥべえがマミを見返して言った。
 マミは答えず首肯すると、自分も着席しようと移動する。
その間も、キュゥべえを警戒するのは忘れない。

 この部屋でキュゥべえと二人きり。
 つい昨日までは、マミが唯一安心できる状況だった。
 友達である彼を捕らえようなんて思いもよらなかった。

 それを今は自然に警戒している自分に、マミは内心で驚くが、表情を殺すと同時に頭の中から消し去った。
 優雅ながらも、決して隙を見せない動作で着席する。魔女と相対するように。
 キュゥべえは身動きせず声も発さなかったが、やがて一言。

「ただし――君に、その勇気があるのなら」

 マミに意思確認をした。
 言うまでもなく、答えは決まっている。
 軽く目を閉じ、再び開くと、キュゥべえと視線が交差した。

「いいわ……話して」

 マミの長い夜は、まだ始まったばかりだった。
354: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/06/28(木)03:29 ID:2bCS3gDYo(8/8) AAS
ここまで第二・2話。まだ次回予告とサブタイトルが完成していないので、明日か明後日あたりに
思えば2話は、バトルも説明もと欲張って詰め込み過ぎたと反省しています
ここまで応援、お気遣いありがとうございました
ちょっと喉の炎症の痛みで集中できなかっただけで、通院した今は問題ありません

>>346
特に意識していませんでしたが、言われてみれば似ているかもしれません
でも、そこに至った経緯で反応は違ってくると思うので、そのへんもご期待下さい
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