[過去ログ] 【防衛】要塞を守りきれ!ファンタジーTRPGスレ4 [無断転載禁止]©2ch.net (343レス)
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271: ルーク(赤眼) ◆ELFzN7l8oo 2017/02/09(木)18:53 ID:MPYt/491(3/3) AAS
うーん……!! やっぱ羽根は12枚に限るね……!! この解放感、最高!!

>……勇者……ではないね

聞きなれた声だ。遥か昔に何度も耳にした――懐かしい賢者の声。

>2000年ぶりか……。しかし、君には眠っていてほしかった。それがこの世界のためには最善の道なのだと、君もわかっていたはずだ
>……長い眠りのうちに、忘却したかね?

眠り? 2,000年? あはっ! 僕が……この僕が……眠ってたって?
違うよ。僕は眠ってなんかいない。見ていたよ。ここから。君たちを。この大陸すべてをね。
省39
272: ワイズマン ◆YXzbg2XOTI 2017/02/14(火)18:56 ID:6zWaVgT8(1/2) AAS
>ってね……

自らを魔王と名乗る、ルークの姿をしたアウストラ・ヴィレンの饒舌な言葉を、黙して聞く。
そして2000年前にも聞いた誘いの文言を耳にし、それが終わると、

「……ふ……。ふふふ……、ふははははッはははは……ははは、ははははははは……」

ワイズマンは静かに、しかし心の底から可笑しいと思っているであろうことが容易にわかる調子で、笑い始めた。

「明星の如く輝けるその姿。荘厳な六対の翼に、すべてを圧倒する魔気。まさに、わたしの知るリュシフェールだ」
「この地上に生きる万物を遥かに凌駕する高みに存在する、大神の最高傑作。至高の天使」
省28
273: ワイズマン ◆YXzbg2XOTI 2017/02/14(火)19:01 ID:6zWaVgT8(2/2) AAS
「リュシフェール、そして我が旧き友ミアプラキドス。わたしは、長いこと君たちを欺いていた」

大神の聖紋が描かれた法陣、聖法陣とでも言うべきか――の中で、ワイズマンが告げる。

「と言っても、わたし自身今の今まで忘れていたことだがね……。わたしはわたし自身の記憶を封じていたのだ」
「そして、リュシフェールの復活と共にそれを思い出すよう細工をしていた。自らが何者であるのか」

コツリ、と床を杖で叩く。
いつしか、ワイズマンの身体から噴き出る気が瘴気でなくなっている。
研究棟を埋め尽くす強烈な晧白色の光は、瘴気とはまったく属性を異にするもの。生命の、いやもっと神聖な――。
省20
274: ミアプラキドス ◆ELFzN7l8oo 2017/02/16(木)05:36 ID:+Wcb5Tam(1/3) AAS
「賢者……貴方は……貴方様は……」

神が降臨した。いや、とうの昔から「していた」。
何処からともなく突如現れた稀代の天才魔導師。
人の世を離れ、魔王の封を守ることを選択した数多の霊従えし叡智の源。
生まれい出たその時にはすでに漆黒のローブで身を隠し、人目を避けていたかつての友。

腑に落ちた。
わが身を以て封と成すと宣したは奢りではなく。
省14
275: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/02/16(木)05:40 ID:+Wcb5Tam(2/3) AAS
転移の最中(さなか)、光が見えたと思った。
要塞全体を包む至高の光。人はおろか、この世に生を受けたすべての生命を凌駕する恐るべき光。
――焼け焦げた大地が瞬時に黄金の草原(くさはら)に変わったかに見えたが――いったい?
その訳を知るのは少し後になる。

転移先は要塞地下回廊内。
フワリと大理石の床に降り立つ。フェリリルと自分、二人分の影が足元にわだかまる。
普段の光景を知るであろう自分だからこそ感じる異様さだった。
省26
276: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/02/16(木)05:41 ID:+Wcb5Tam(3/3) AAS
声高く笑う声が止んだ時、すべてが消滅していた。
美しく設えられた回廊の柱、磨き上げられた大理石の床、魔法の陣散りばめられた研究棟、いやこの要塞そのものが。
真夏の夜の風はこれほど冷たかっただろうか。
満天の星空だった。
巨大な蟻地獄の穴の底でなくば、西に傾く宵の星がいつになく明るく輝くのが見えたかも知れない。

≪ツイニ……ここマデ来タカ≫

蘇った魔王の声が、蟻の地獄穴を震わせた。
277: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/02/17(金)18:23 ID:Wa1bKbiq(1/2) AAS
神とは不遜で、一方的で、理不尽なものである。
一方で、神は地上の者に絶望だけを与えはしない。
神代の時代、幾多の災いが飛び出した箱の底にただひとつ、希望が残されていたように。
神はそれに打ち克てると思った者にしか試練を与えない。
試練とは人々を阻むものではない。人々に乗り越えられるためにあるのだから。

「……これは……いったい……」

シャドウと共に地下研究棟のある回廊へと転移した瞬間、膨大な波動がその場に満ちているのを感じる。
省37
278: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/02/17(金)18:26 ID:Wa1bKbiq(2/2) AAS
この大陸の意思、竜戦士。黄金の波動たる竜気を纏う、『ヒトの姿をしたドラゴン』。
そして――
魔王軍最強と謳われた……今となっては最後の魔将軍、皇竜将軍リヒト。
それが抜き身の竜剣ファフナーを携え、ルークへと駆け寄らんとしたフェリリルの進路を塞ぐように立っている。

フェリリルにとって、リヒトは魔狼の森で共に育った間柄だ。
父リガトスはリヒトを息子と呼び、実子のように扱ったし、自分もそうだった。
エレンと共に、三人は本当に兄妹のように過ごしてきたのだ。
省31
279: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/02/20(月)06:34 ID:dt2pE+TJ(1/4) AAS
巨大なすり鉢状の穴の底。ひんやりと流れ込む空気に混じる草原の匂い。
澄み切った夜空の星は、いつ降ってきてもおかしくないくらいキラキラ輝く星でいっぱいだ。

――あ! 流れ星! 

消える前に願う。贅沢は言わない。たったひとつだけ。

俺達を囲む……四方にゆるゆる広がる傾斜。何処かで……と思ったら思い出した。闘技場だ。
……あはは! 懐かしいなあ! ほんの数日前のことなのに!
客の居ない闘技場。聖アルカヌスを何十倍もでっかくしたような。
省15
280: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/02/20(月)06:35 ID:dt2pE+TJ(2/4) AAS
足元が冷たい。胴体も、手足も、髪の毛も凍るくらい。

魔王と同化した俺だから解る。遥か昔。この地に降りた魔王には――身体が無かった。身体はあそこに置いてきたからさ。
降りて……その時思ったんだ。地上はなんて寒いとこだろうって。
ま……あれか。
降り立った衝撃で発生した黒雲のせいで例の氷河期に突入したわけだから、ガチで寒かったのかも知れないけど。
そうだ。この力を、「魔気」をこの地に与えよう。この地に住まう全ての種に潤いを。魔法の力を。
その時の魔王の魔気が、人間を人間以外の何者かに造りかえもした。エルフやドワーフ、オークにゴブリン。
省22
281: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/02/20(月)06:36 ID:dt2pE+TJ(3/4) AAS
独白にも似たルークの言葉。その願いに、神が応えたのだろう。
ひと際大きな星がひとつ、ほうき星となって空を流れた。
虹色に輝く彗星、夜空一面を覆うほうきの尾。息を呑んだ。これほど美しく、壮大な光景をかつて見ただろうか。
前方に立ちはだかるリヒトまでもが、天を仰ぎ見入っている。
その彗星の流れる音が次第に高く、大きく――――

刹那、ルークの身体より赤く明滅する黒い魔気が立ち昇った。
グラリとよろめき、地に手をついたルークがそれを見上げる。見る間に形を成す魔王の気塊(きかい)を。
省12
282: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/02/20(月)06:36 ID:dt2pE+TJ(4/4) AAS
その場に立つ誰もが動揺と戸惑いの色を隠せずにいる。
当然だ。相対すべきは禍々しき気を持つ魔王であり、神々しく光り輝く天使ではないのだ。

呪文を唱えるべきか否か、しばし悩む。父はと見ると、魔王ではなくリヒトに目を向けている。
リヒト動かずして魔王動かず。そう読んでいるのか。

≪リヒトよ 其はいまだ――『魔将』か≫

魔王が問う。八大魔将が一人、リヒト。その姿がかつてとはまるで異なる故か。
魔王の魔気は消え失せ、肌に届くは竜そのものの気。大地の具現と言われる五の竜すべての結集。
省32
283: 皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE 2017/02/20(月)22:19 ID:fECy1U8u(1/3) AAS
父親が、三人いる。

一人は元無影将軍ベテルギウス。
赤子であった自分を見出し、前皇竜将軍ドレイクの亡骸から長年かけてサイフォンのように抽出した竜気と――
魔王の羽根から抽出した魔気とを融合させ、身に付けさせた『生みの親』。

一人は魔王リュシフェール。
言わずと知れた、リヒトの魔気の源。万物万象の王たる『尊崇すべき親』。

一人は元覇狼将軍リガトス。
省29
284: 皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE 2017/02/20(月)22:22 ID:fECy1U8u(2/3) AAS
しかし、かりそめの復活を果たした魔王の精神体に謁見した瞬間、長年抱いていた疑問は氷解した。

――そうか。

魔王が何を望んでいるのか。何を求めているのか。
真の願いとは、いったい何か――。

それを理解したリヒトは九曜のメダイを下賜され、正式に皇竜将軍を継ぐと同時に行動を開始した。
魔王の命令通りに、その真の力を解放するために。完全体としての復活を促すために。
すべては魔王の望みを叶えるため。魔王の欲するものを与えるため。
省35
285: 皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE 2017/02/20(月)22:25 ID:fECy1U8u(3/3) AAS
ゴアッ!!!!

リヒトの全身から黄金色の闘気、竜気が放たれる。
しかし、それはライアンの命を救った生命の息吹たるエネルギーではない。すべてを薙ぎ払い吹き飛ばす、破壊の力。
膨大な黄金色の気が荒れ狂い、すり鉢状の一帯に吹き荒れる。

そして。

「――く!?」

フェリリルが驚嘆の声をあげる。
省27
286: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/02/22(水)19:06 ID:i+I1lu9q(1/3) AAS
>無論、――――――――死ぬまで

強い言葉だった。力だけじゃない。強い心。強い意思。吹き荒れる――黄金色のサイクロン。

「――フェル!! 父さん!!」

叫ばずには居られなかった。父さんの番えた矢、彼に取っては脅しにも何にもならない。
速すぎるんだ。
リヒトの剣を受けるフェルの全身から噴き出した血飛沫が赤い霞になり。
拳をもろに喰らった父さんが派手にふっとび。はずみで放り出された弓矢が宙を舞い。
省38
287: ミアプラキドス ◆ELFzN7l8oo 2017/02/22(水)19:07 ID:i+I1lu9q(2/3) AAS
忽然として現れた竜戦士。彼の意図やいかに?
ガシャリと鳴る金擦れ音に混じり、覚えのある「音」が耳をくすぐる。音の主は――ルーク。
なるほどアウストラ。其方がそうと見るならばこの私も迷うまい。すぐさま呪文の詠唱に入る。

――見ているかベテルギウス。
其方が敬い、傅きし魔王――天使の長がまさにいま其処に居る。其方に代わり見(まみ)え、この目に焼き付けてくれよう。
その姿と真の意思を。
リヒトのそれとおそらく変わらぬ――真の願いを。
省20
288: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/02/22(水)19:07 ID:i+I1lu9q(3/3) AAS
リヒトがフェリリルの眼前に居た、と思った時は彼女も自分も飛ばされていた。
これが呪文の力を一切借りぬ「戦士」のスピード。
手から離れた弓と矢が乾いた音を立てて転がる――その瞬きの間にリヒトは次なる攻撃を仕掛けていた。目標は……僧正!
あのモーション、奥義だ。速い。相手に呪文詠唱の隙を与えぬ速さ。
額の紋に意識を移し、何気なく腹に手を当て驚いた。損傷がまったくない。

>フェル! 父さん! 遠慮なくやっちゃって!

ルークの声を聞き始めて合点がいった。噂に聞く勇者の呪文。仲間の鋼鉄化。良く呪文を唱える暇があったものだ。
省25
289: 皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE 2017/02/26(日)19:29 ID:5o5AHmFR(1/2) AAS
味方を瞬時に鉄身と化し、脅威から守る勇者の魔法。
本来ならば一撃で悶死しているはずの勇者のパーティーが健在でいるのは、勇者の唱えたその呪文のお蔭だという。
リヒトは静かに佇立すると、自分の必殺の攻撃を受けてもなお存命している戦士、魔法使い、僧正を見た。

大陸最強の竜戦士の攻撃さえ凌ぐ魔法は絶大と言う他ないが、万能ではない。
弱点はふたつ。ひとつは、鉄身と化している者は無敵の防御力を得るが、攻撃もできないということ。
そしてもうひとつ――ひとたび使えば、時間を経ない限りもう一度使うことはできないということ。
少なくとも、現在の最終決戦で再度使用することはできまい。
省32
290: 皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE 2017/02/26(日)19:31 ID:5o5AHmFR(2/2) AAS
グロロロロロロロオオオオオオオン!!!

咆哮。
くろぐろと開いた戦場に、巨大な叫び声が轟き渡る。
闇の竜が放った漆黒の吐息は、魔王には当たらない。
そのブレスは魔王を直撃する寸前、上空から降下してきた緑色の竜が身を挺することによって不発に終わった。

「物事には段階がある。今戦う相手を見誤るな」
「失策だな、魔法使い。素直にオレ一人を相手どっていれば、オレも奴らを召喚することはなかったというのに――」
省26
291: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/02/27(月)17:37 ID:lED9uuaq(1/2) AAS
「なん……だとっ!!?」

ダークドラゴンが放ったブレスが直撃したのは魔王ではなかった。
地を揺るがし倒れたそれは……緑の竜。

>物事には段階がある。今戦う相手を見誤るな
>失策だな、魔法使い。素直にオレ一人を相手どっていれば、オレも奴らを召喚することはなかったというのに――
>おまえたちは、自らを死地へ追い込んだに過ぎん

リヒトの言うとおりだ。何という失策だろう。あの五体の竜の存在を今の今まですっかり忘れていたのだ。
省24
292: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/02/27(月)17:44 ID:lED9uuaq(2/2) AAS
ああ……やっぱそうなるんだ……。

リヒトの鎧が鳴っている。規則正しいリズムを刻んでる。竜達と父さん達がやり合ってるけど……振り向きもしない。
ドレイクが言ってたっけ。
人間らのなす事やる事、すべてに愛想が尽きたって。だから魔王の方に付くって。
……解らなくもない。
あの時は何処に行っても戦争ばっかりやってた。俺の口からはとても言えない酷いこと、たくさん見た。聞いた。

あのさリヒト。
省28
293: 皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE 2017/03/02(木)07:59 ID:OoqKPFc4(1) AAS
勇者の感情が、言葉が、リヒトの心に流れ込んでくる。
配下の五竜と勇者のパーティーが戦闘を繰り広げる中、リヒトは抜き身のファフナーを提げたままで勇者と対峙した。

>俺ほんとは今でも解らない。
>俺、人間があまり好きじゃない。

逡巡と嫌悪。迷いと拒絶。
勇者がいまだ積極的に戦おうとしないのは、それが原因なのだろうか。
だとすれば笑止であろう。ここはすでに最終決戦の地。迷いなどはとうに捨てていて然るべきなのだ。
省34
294: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/03(金)17:38 ID:qq0gRQlK(1/2) AAS
チェスって知ってる? キングを守るために駒を動かすゲーム。

まだ小さい頃、父さんが彫って作った石の駒で良く遊んだっけ。あ、遊ぶなんて言ったら怒られるかな。
お前も誰かと戦うことがあったら、きっと役に立つとか言われたから。
正直言ってあんま面白くも得意でも無かった。キングを守るために捨て駒になるナイトにビショップ。
クイーンより弱いくせにふんぞり返って威張ってるキング。
何て言うか、王を守るために犠牲になってく駒は……どこにいくの? 何てことばっかり考えたり。
ルーク……ルークかあ。俺もその駒みたいに、もっと強かったら良かったのになあ。
省23
295: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/03(金)17:40 ID:qq0gRQlK(2/2) AAS
全身を突き抜ける竜気と風圧。
あれ? 俺……まだ立ってる?

目を開けた俺の視界に入ったのは、リヒトの気と同じ色の気を迸らせた剣と、それを握る一人の男。
懐かしい後ろ姿。

「ライアン!!!?」

ギチギチと鳴るその剣はインベルだ。何だか……前より……

「ルーク。お前が今考えた事、ルカインに胸張って言えるか?」
省19
296: ◆khcIo66jeE 2017/03/06(月)23:52 ID:iMhg2VDV(1) AAS
【遅れて申し訳ありません。明日投下します】
297: ◆ELFzN7l8oo 2017/03/07(火)04:00 ID:feigjO+E(1) AAS
【了解です。二人しか居ませんし、○日ルールも気にせず行きましょう。もうひと踏ん張り!】
298: 皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE 2017/03/07(火)18:26 ID:SNqc4sU+(1/3) AAS
竜戦士の最強技、ゴルド・エクスプロジオンを受け止めたのは、やはりウィクス=インベル。
しかし、勇者ではない。それを握るのは、要塞の地上部で対決したルーンの皇子ライアンだった。
自分が竜気を分け与え、つかの間の再生を施した男。
それが、ファフナーの刃を受け止めている。

>ライアン!!!?

勇者が叫ぶ。驚くのも無理はない。
しかし、ライアンは忖度しない。
省28
299: 皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE 2017/03/07(火)18:31 ID:SNqc4sU+(2/3) AAS
リヒトのゴルド・エクスプロジオン同様、ウィクス=インベルから黄金の波動が迸る。
それは竜気と変わらない――いや、竜気と同様の性質を持ちながら、それとは異なるもの。
竜気に加え、この場所に満ちる清浄な気の融合したもの――

――神気、か……!

神剣ウィクス=インベルは周囲の力を取り込み、無限に強くなってゆく剣。
賢者の残した神気を吸収し、さらなるパワーアップを図ったとしてもなんら不思議ではない。

リヒトの放った竜気と、勇者の剣が生み出した神竜気とでも言うべきものが激突し、激しくせめぎあう。
省35
300: ◆khcIo66jeE 2017/03/07(火)18:35 ID:SNqc4sU+(3/3) AAS
リヒトが戦闘を放棄すると同時、それまでシャドウたちと戦っていた五竜が次々に空へと飛び立ってゆく。
主人が戦いをやめたのであれば、もう自分たちの戦うう理由もないということなのだろう。
これで、勇者のパーティーの前に魔王への道を阻むものはなくなった。
周囲に満ちる神気がルーク、シャドウ、ミアプラキドス、フェリリルの身体に浸透してゆく。

「これは、いったい……」

フェリリルの身体の傷跡も、短くなってしまった髪も、瞬く間に元に戻ってゆく。
魔法による治癒ではない。神気、すなわち神の奇跡による『再生』か。
省12
301: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/10(金)05:27 ID:HqevBAQP(1/3) AAS
インベルの放った光だか竜気だか良く解らない何かの――とにかく物凄い「気」の力はハンパじゃなかった。
重い鎧をつけたリヒトが地面に落ちた時も、凄い音がした。ズドンッ! て。

――うわやっちゃった? 
話が違うよインベル! 俺、「殺せ」なんて頼んでない!

でも、視界が晴れるか晴れないかって時に、リヒトが立ちあがるのが見えたんだ。
ホッとしたよ、心底。

――え? まだそんな事言ってるのかって? まあいいじゃん。硬いコト言いっこなし。 
省24
302: ミアプラキドス ◆ELFzN7l8oo 2017/03/10(金)05:43 ID:HqevBAQP(2/3) AAS
自身のブレスを呑みこんだ竜達はブレスの能力をしばし失いはしたが、物理的な攻撃はむしろ増した。
我が「水」の防御呪文など紙きれほどの役にも立たぬ。尾の攻撃を避け切れず、弾き飛ばされる。
フェリリルはその驚異的なスピードとバネを以てあらゆる攻撃を避けてはいるが、優勢に転じられず。
ドラゴンの鱗が師剣の攻撃を受け付けぬ故、仕方ない。
目、口中を狙うが良しと思えばそうも行かぬ。
我ら以上に、彼等自身が己が弱点を知る故に、隙を見せぬのだ。
息子が背の矢(おそらくオークの)を射かけたが、空しく弾かれ、矢は尽きた。
省33
303
(1): ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/10(金)05:48 ID:HqevBAQP(3/3) AAS
「神様、ありがとう」
飛び立つ竜達の背中に向けて、思わず呟く。これで心置きなく戦える。リヒトが剣を引いてくれたから、後は心置きなく……

≪心置きなく……どうすると言うのだ勇者よ≫

天と地を震わす声。
俺は見てしまった。ゆっくりと……硬く閉じた瞼を開く魔王の眼。血よりも赤い、二つの眼を。
迫力、なんて言葉で言い表せるレベルじゃない。
あの星のひとつが、ほんの気まぐれでこの星に降りてきて、人の形を取ったら……きっと――
省36
304: ◆khcIo66jeE 2017/03/11(土)19:38 ID:WhoiGPL2(1) AAS
>>303
>戦闘中は魔王をNPC化しません?

【了解です。投下は14日の予定です】
305: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/03/14(火)19:03 ID:HZSxPJtl(1/3) AAS
≪リヒト。永の忠誠、大儀である≫

リヒトを一瞥し、魔王がその忠勤を慰労する。
が、その抑揚に心は籠っていない。ただただ淡々とした、通り一遍の文言。
だが、その言葉だけで報われるに余りある。リヒトは深々と一礼した。

≪其方が剣を引いたということは、認めたということなのであろう……この者たちが。魔王を滅ぼすに足る者だということを≫
≪されど。されど……よ。それは眼鏡違いというものだ。誰も魔王を葬ることはできぬ。魔王は滅びぬ、魔王は――≫
≪地に根を下ろし。天に翼を広げ。永劫の刻を歩み、すべてを虐げ滅するモノ――なのだからな!!≫
省31
306: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/03/14(火)19:06 ID:HZSxPJtl(2/3) AAS
だが、今はどうか?魔王に毛筋ほどの傷をつけて、満足して死んでいけるか?
一片の悔いもないと言えるか?あの世で父や仲間たちに胸を張れるのか?
……そんなはずがない。
恨みはある。怒りもある。恐怖と絶望も、今なお胸の中に息衝いている。
しかし。
ルークの言葉によって、それらの感情はいっとき鳴りを潜め、心の奥底に埋没した。
代わりに、フェリリルの四肢の隅々にまで行き渡るのは――
省31
307: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/03/14(火)19:08 ID:HZSxPJtl(3/3) AAS
≪ぐ……、覇狼将軍……ごときが……!≫

「覇狼将軍ではない!我が名は黒狼戦姫フェリリル――勇者ルークの、戦士……だ!!」

顔を歪める魔王に対し、フェリリルは決然と言い放った。

≪なぜだ……、其方は我が力に怯えていたはずだ。勝てぬと分かっているはずだ!≫
≪だというのに……なぜ刃向かう?なぜ反旗を翻す?それがリガトスの遺志か?主従にして盟友であった者に弓を引くことが?≫

「わたしはきさまが憎い!きさまはわたしの大切なものを奪った!二度と手の届かないところに投げ捨ててしまった!」
「だが、父上はそうではない……!父上にとって、きさまは唯一の王!無二の友であったはずだ!そして、それは今も変わらぬ!」
省30
308: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/17(金)05:49 ID:fDRp+2D9(1/5) AAS
>この戦いを楽しめだと?負ければ死は確実、この大陸に生きる者たちも根こそぎ絶望するこの戦いで?バカも休み休み言え!
>……だが、そのバカがいい。魔王を向こうに回して戦うなど、バカにしかできん!ルー、おまえはこの大陸で一番の大バカだ!

フェルが笑ってる。口を開けて。腹の底から。どう見てもこの俺を笑ってるみたいだけど、いい。何でもいい。
人が笑えば笑うほど魔王は弱くなる。力が出せなくなる。
大笑いしてるフェルを見た父さんと長老が、呆気に取られた顔を見合わせた。
ほらほら長老も父さんも見習って! あるでしょ!? 面白かったことのひとつやふたつ! 何の為に無駄に永く生きてんの!?
ブロックサインを送る。両手の人差し指でぐいっと口の端を持ち上げたり、一文字で「W」を作ったり。
省35
309: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/17(金)05:51 ID:fDRp+2D9(2/5) AAS
「うおおおおおおお!!!!!!!」

精いっぱいの気合いを入れて地を蹴った。
純粋な、【光】をイメージした勇者とインベルの一撃。
上で待機してた12発の炎球も唸りを上げて降りてきた。
「ううっ!!」
ひとつ、ふたつと炎の球がインベルに吸い込まれていく。結構な衝撃。インベルの「気」が膨らむのが解る。
輝き、熱くなったインベルの柄に負けじと握り返す。魔王の眼が更に見開く。
省38
310: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/17(金)05:51 ID:fDRp+2D9(3/5) AAS
「嘘でしょ!? あの渾身の一撃を!? 少しはダメージあるかと思ったのに!!」

父さんがまたまた首を振った。
「魔王は『天使』だ。物理的な攻撃も、魔法攻撃も、すべて無に帰し、または跳ね返す力を持っている」
「待ってよ! 【闇】に対抗出来るのは【光】なんじゃないの!?」
「違うのだルーク。真の光の力とは違うのだ。先程のはただの暴力。【光】を以てした力技に過ぎん」
「そうなの!? じゃあどうすればいいのさ!?」
「それは私にも解らん」
省41
311: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/17(金)05:53 ID:fDRp+2D9(4/5) AAS
こっちに向かってやたらキラキラ輝いた顔して見せた長老が、再び一歩、二歩とステップを踏み出した。
――お……お祖父さま……!?

「勇者よ! 私は今の今まで堪えていたのだ!」
「たえてたって……なにを……!?」
「『笑い』に関する全てをだ! 笑えば人は争いを忘れる! すべての負の感情を凌駕する感情! それが『喜』なり!」

長老の動きが早くなる。目まぐるしいけど、でも変な動き。

「礼を言おう勇者よ! この私に『笑』と言ってくれた其方に!」
省38
312: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/17(金)05:59 ID:fDRp+2D9(5/5) AAS
「ルーク!?」
父さんが眼を丸くして、柄だけになってしまったインベルを見つめた。

「いいんだ。もうこれは必要ないんだ」
「必要ないって……なにを馬鹿な・」
「そんなことより父さん! 遠くの人に言葉を伝える魔法、使えるよね?」
「――は?」

話を逸らした俺の言葉に、父さんが間の抜けた声を出す。
省24
313: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/03/18(土)23:18 ID:MqYVy5bJ(1/2) AAS
「ルー……おまえ、いったい何を考えてる?」

フェリリルは首を捻った。
魔王を滅ぼす。その事だけを考えて、この決戦の地に降り立った。
そして、その想いはこの場にいる魔王以外の全員が同じであったはずだ。
魔王の腹心、最後の魔将――義兄リヒトでさえも。
そういえば、しばらく姿が見えないエレンは今、何をしているのだろう。
エレンもまた魔将の称号とメダイを授かっていたはずだ。それなのに、この最終決戦の場に姿を見せないとはどういうことか。
省36
314: 皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE 2017/03/18(土)23:23 ID:MqYVy5bJ(2/2) AAS
≪させる……ものか!≫

ルークがフェリリルに治癒の詠唱を教えている、そのとき。
魔王はぎろりとその方向をねめつけると、六対の翼を一度大きく打った。
すぐさま烈風が迸り、一心不乱に舞踏していたミアプラキドスの全身を叩く。
さしもの魔王も舞いに見入ってしまい、一時的な行動不能に陥っていたが、いつまでもその呪縛が有効なわけではない。

≪弾け飛べ!何もかも――!!≫

ゴウッ!!!
省33
315: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/03/21(火)06:04 ID:JvqnOxdV(1/4) AAS
なんと息子は全世界の生き物をして【治癒】を唱えさせよと言う。簡単なことではない。渾身の攻撃呪文を行使するよりもよほど大仕事だ。

伝令のレンジは半径1ヤード(約1.6km)。
タリスマンやら魔法陣やらで強化をはかったとしてせいぜい1リーグ(約4.8km)。
ここベスマは大陸(※)の中心。半径にして200リーグ(約1,000km)。遠い所で400はある。
(※オーストラリア大陸程度の大きさ)
少なくとも複数の発信元が必要だ。
……腹を決めねばなるまい。父の体力もそろそろ限界に近い。
省38
316: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/03/21(火)06:07 ID:JvqnOxdV(2/4) AAS
≪お願(ねげ)えだガら、ワだぢ(我々)の頼み、聞いでくれねべガ!!≫

父の話す竜の言葉は、良く良く耳を傾ければ理解可能だった。なるほど。訛りだ。 
正確に言えば大陸北端の訛りと、西方、南方のイントネーションが少々。
さすがはエルフの長老。竜語の北方訛りまで会得しているとは。

≪ワイハぁ(何と)!? ワンドノ(我々の)言葉バ(を)!!?≫

ドラゴンの態度が一変した。いきなり和気あいあいとしゃべくり出した父と竜達。ここは任せて良さそうだ。
ゆっくりと息を吐き――自分の意識を静かに保つ。
省34
317: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/03/21(火)06:09 ID:JvqnOxdV(3/4) AAS
魔法陣のすぐ上に、巨大な宝珠(オーブ)が出現した。
宙に浮く水滴を集めたオーブだ。風の力にて浮き、大地の重力にて完全なる球体と成し、炎の力で赤々と照らしだされるオーブ。
地水火風それぞれの精霊達は、この場にて我らの行動を見、記憶している。

【水よ! 其処らに宿るすべての「水」を通じ、我らが様を映し出せ!】
【風よ! 其が大元は流れ! 気流! 水が映しし“映像”を蠢く“動画”と成せ!】
【地よ! この地は音と想いを伝える媒体なり! “音声”を須(すべから)く伝播、伝達せよ!】

ひとつ、ひとつは単純で容易な仕事。
省31
318: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/21(火)06:10 ID:JvqnOxdV(4/4) AAS
≪天地(あめつち)の命 現(うつつ)と虚(うつろ)の命 しばしその断片をかの者に分け与えん≫

さざ波のように聞こえてきたのは呪文だった。集まったみんなが口ずさんでる、治癒のスペル。
あの時を思い出す。剣闘士村で、腕折った俺をみんなが治してくれた時の事。
シオとリリスと、ライアンと祖父ちゃん、ベリル姉さんが一晩中それを唱えてくれた時のこと。
あの時は5人だったけど、今度は大陸のみんなが唱えるんだ。これって――すごくない?

何度も何度も合わせる声は、次第に「旋律」を持ちはじめた。
なんだろう、子守唄? それとも家帰る途中父さんが歌ってくれたあの歌?
省17
319: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/03/25(土)17:03 ID:g+lfIMSk(1) AAS
歌が、聴こえる。

それは母親がいとし子を胸に抱くような、心の一切の結ぼれを解きほぐすかのような、優しい旋律。
癒しの詠唱(スペル)。
戦いの場だ。刃に傷つき、魔力に冒された肉体を回復させるための呪文が聴こえるのは何も不自然ではない。
……が、違う。
その詠唱は、勇者のパーティーを蘇生させるために紡がれているのではない。
魔王を。この世界に根付く病巣を癒すために唱えられている。
省34
320: ◆ELFzN7l8oo 2017/03/28(火)17:14 ID:/fCGF5ZY(1/8) AAS
【このまま倒しちゃっても味気ないので、魔王ロール挟みます】
321: リュシフェール ◆ELFzN7l8oo 2017/03/28(火)17:20 ID:/fCGF5ZY(2/8) AAS
初めてこの地に降りた時、雪が降っていた。

凍てつく大地、突き刺す冷気
静かだがしかし「ヒト」の気はそれぞれに滾っていた。
方々にて戦の気配。
それぞれの長を立て、他を侵食せんと画策する人間の浅ましき感情が色濃く沁み渡る。
なるほど原因は「飢え」であろう。
大地が万年の雪を抱き、ごく短い春のみが生活の支えとなる以上、争いは止まぬ。奪わねば死ぬのだ。
省32
322: リュシフェール ◆ELFzN7l8oo 2017/03/28(火)17:22 ID:/fCGF5ZY(3/8) AAS
勇者の一行が現れた。

勇ましき者。賢き者。武具の扱いに長けた者。魔気を操り、それを攻撃へと転じる者。または防御と癒しに徹する者。
彼等は自らを五要と名乗った。

五つの要(かなめ)とは良く言ったもの。
この地に設えられし五つの場、竜が守りし結界に己が身をなぞらえるとは。

勇者達は実に脆かった。玉座より腰を上げる必要すらないほどに。
脆いが諦めは悪かった。死して尚その意思を引き継ぐ者が現れた。
省18
323: リュシフェール ◆ELFzN7l8oo 2017/03/28(火)17:23 ID:/fCGF5ZY(4/8) AAS
つい先日、一味違う「儀式」を見た。

四肢の封印は同様。しかしまさか、勇者自ら体内に賢者の石を携えるとは。より強固なる結界を成す為か。

「僕と一緒に行こう」

今でも忘れぬ。
我が軍の猛者、リガトスとドレイクをも叩きのめした勇者の軍。その先導たる勇者の言葉とは思えぬ言葉。

「地の底って、きっと暗くて寒くて寂しい所なんでしょ? だから一緒に行ってあげるよ」
省13
324: リュシフェール ◆ELFzN7l8oo 2017/03/28(火)17:28 ID:/fCGF5ZY(5/8) AAS
アウストラの肉体が朽ちたその後も魂はここにあった。互いに言葉を交わした。幾度となく。
二千の年月とはこれほどに短かったろうか。

無事復活を果たした我が前に現れたは、手足となるべく八体の魔将。否。今や四体。
うち二体は身知った顔。
ほか二体は知らぬ顔。
無影は相も変わらず陰気、百鬼は蛮族の王者なる風格そのまま。
リガトスが娘、フェリリルは父親に良く似ていた。光を軸とした勇なる者の面影も。
省11
325: リュシフェール ◆ELFzN7l8oo 2017/03/28(火)17:31 ID:/fCGF5ZY(6/8) AAS
≪裏切り者め!!≫

いつか同じ言葉を、「彼女」に向けた。

>……御身のためを、思えばこそ

その「彼女」も同じ言葉を。

リヒトが胸を押さえ、膝をついている。我が魔気にて貫かれた心の臓。長くは持つまい。
そうだ。二千年前と同じ。彼女――アシュタロテを葬ったあの時と。
頼りを置く愛しき同胞、身内である筈の者に裏切られた、その憎さは百倍。
省25
326: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/28(火)17:32 ID:/fCGF5ZY(7/8) AAS
たぶんこれが最後の最後。
落ち着いて……心を落ち着けなきゃ。
魔王に何だか優しい顔で「名前は?」なんて聞かれた時は心臓が飛び出るかと思ったけど、もう大丈夫。
そう。最後の最後でしくじったら元も子もないもの。

「……準備はいい?」

一応聞いてみる。だって、最後に言い残すこととか、あるかもだから。

≪何の……準備だ≫
省22
327: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/03/28(火)17:33 ID:/fCGF5ZY(8/8) AAS
大地の律動が止む。
大気がピーンと張りつめてる。フェリリル、俺の鼓動を聞いて。俺の魔力、感じとって。
そうだよ。君も俺と同じ光と闇を持ってるから、解るよね?
ううん。君と俺だけじゃない。この世に生まれたすべての生き物は、光と闇を同じくらい持ってるんだ。
俺、ナバウルの人達を殺したよ。何百、何千。そして君も。
けどさ、それと吊り合う分の光も持ってるんだ。じゃないと生き物はどっちかに偏って壊れちゃう。
魔王だって同じさ。
省17
328: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/04/01(土)19:13 ID:4wJuH76T(1/2) AAS
巨木の洞を利用して造られた館の中、中央に切られた炉の前に、年老いた人狼が胡坐をかいて座っている。
その胡坐の上には年端もゆかない少女がおり、大きな瞳を輝かせて年老いた人狼の顔を見上げている。

「――そうして、陛下は勇者アウストラと共に眠りについた。今から2000年前の話じゃ」

そう言って、人狼――老狼リガトスは膝上の愛娘フェリリルの豊かな髪をいとおしげに撫でた。
フェリリルは物心つく前から、父から魔王に関する様々な話を聞かされて育った。
魔王が天から降臨した話。魔王軍を率い、地上を侵攻した話。世界を支配した話。
フェリリルはそれらの話を父に幾度となくねだり、ほとんど諳んじることができるほどになった。
省30
329: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/04/01(土)19:14 ID:4wJuH76T(2/2) AAS
ルークの心臓の鼓動が聴こえる。
その鼓動と自分の鼓動が同調し、ひとつに融け合う。
身体の中に息衝く魔気が。聖なる力が。互いに引き寄せ合い、より大きな力となって膨れ上がってゆくのが分かる。
ひとりだけでは、とてもここまでの力を得ることは不可能であっただろう。

>ひとつになろう。みんな、ひとつに。
>光も、闇も。ほんとはみんな同じなんだよ。だから――

――ああ。わかるよ、わかる。
省25
330: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/04/03(月)06:04 ID:MYUV4u4U(1/2) AAS
>悠久浄化……エターナル・プリフィケ―――――――ション!!!!

音の無い光が俺達を包みこんだ。真っ白な光だ。
眩しくない。……何て言うかこう……霧? ううん。もっと優しい何か。フェルがつけてくれた言葉通り、「浄化」の波。
不思議だ。
ただここに立ってるだけなのに、光が大陸全体を包みこんでるのが解るんだ。
胸があったかい。立ってる地面も。初めてだ。この大地が生きてるって実感したの。

グッと親指を立てて俺を見たルカインが光の粒になった。
省25
331: ◆ELFzN7l8oo 2017/04/03(月)06:14 ID:MYUV4u4U(2/2) AAS
【そろそろエンドロールと行きますか!】
【余った容量について何か案あります? (無くてもこちらで責任持って埋めますが……)】
332: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/04/06(木)19:51 ID:yQVvuD7T(1/3) AAS
戦いは終わり、魔王の脅威は去った。

魔王軍を構成していた魔物たちは指揮官を失って散り散りになり、完全に消滅した。
ただし、世界を脅かしていた魔王という存在がいなくなったということは、そのまま平和の到来を意味はしない。
魔王がいなくなっても、魔王の残した爪痕はいまだに色濃くこの大地に残っている。
多くの生命が喪われ、幾つもの街が、国が滅んだ。人々はまだその衝撃から立ち直っておらず、今後もその後遺症は続くだろう。
大陸に生きるすべての人々が、動物たちが、真の平和を享受できるようになるには、まだ暫しの刻が必要である。

だが、それは決して悲観すべき事柄ではない。
省33
333: 黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE 2017/04/06(木)19:54 ID:yQVvuD7T(2/3) AAS
廟の中には祭壇があり、小さな木像が安置されている。
十二枚の翼をもつ大天使と、それに寄り添うように佇む女性の像だ。

祭壇の前に跪き、フェリリルは瞑目して祈りを捧げる。
かつての主君の魂が、安らかな眠りにつけるように。義姉エレンが主君の傍にずっと侍っていられるように。
ふたりが睦まじくあるように――。

――向後のことは、我らにお任せを。きっと、争いのない平和な世の中を。この大地に顕現させてご覧に入れましょう。

魔王の脅威がなくなり、すべての種族が手に手を取り合うことを知ったとは言っても、それは必ずしも恒久的平和には直結しない。
省37
334: ◆khcIo66jeE 2017/04/06(木)20:00 ID:yQVvuD7T(3/3) AAS
【私のレスはこれにて終了です。あとはそちらにお任せ致しますので、エンディングを宜しくお願い致します】
【容量については、恐らくそちらがエンディングを書いたら丁度くらいでは?と思います。もし余りができたときの処遇はお任せ致します】

【長らくのお相手、ありがとうございました。とても楽しかったです。最初は要塞を守るだけの戦いだったはずなのに、気付けば凄い長編に……】
【でも、それも良かったと思います。こちらは大変伸び伸びやらせて頂きました】
【拙いレスでしたが、お相手して頂いたすべての方々に感謝を――】
【それでは。名残は尽きませんが、これにて失礼致します。お疲れさまでした】
335: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/04/09(日)07:05 ID:Un2YQ17Q(1/2) AAS
フェリリルと父さんが要塞の再建に勤しむ頃、俺はナバウルに居た。

「そこぉ!!! モタモタすんなぁ!!!」
「いって! あ、いやすんませんっ!!」

ヒリヒリする足をさすりながら、怖い顔して睨む棟梁の脇を走り抜ける。積まれてた角材持ち上げようとして……痛てて……腰が……
すぐそばを、ガタイのいい人間の男達が早足で追い越していく。
みんな軽々とでっかい木だの石だのを肩に担いでる。……みんな……すごいなあ……
「てめぇ! クソ勇者! やる気ねぇんならおうちに帰んな!」
省36
336: ◆ELFzN7l8oo 2017/04/09(日)07:06 ID:Un2YQ17Q(2/2) AAS
【こちらこそ、本当にありがどうございました!】
【『賢者』が来てくれたお陰で、毎回ドキドキワクワクしてました。レスポンスが貰えるってホント、幸せだなあって】
【エンディングはちょっと時間かかりそうなので、何回かに分けて投下します】
【もし余った時は感想その他で埋めるつもりです。初期参加の方や名無しの方も、いろいろと書いて下さって構いませんので!】
337: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/04/10(月)06:03 ID:qkducYBY(1) AAS
完成した大回廊は見事な出来栄えだった。
石造りの壁、天井、柱、丁寧に磨かれた大理石の白い床が、淡い光に照らされぼんやりと光っている。
おそらくこの大陸で唯一存在する魔法の光だ。
大神の残した神気と、リュシフェールの残した僅かな魔気が、この回廊にだけは残っているのだ。

「賢者よ。貴方はここには……居ないのだな」

小さく独りごちた声の木霊が、一瞬にしてあの時の音を呼び覚ます。
賢者が放った魔法の槍が虚空を切り裂く音。傷ついたイルマが賢明に訴える声。祈りの声。
省37
338: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/04/11(火)06:17 ID:Qw6O6Iil(1/5) AAS
要塞の外壁はほとんど出来あがっていた。
ほとんど。
そう。正門を除いて。つかこれ、作るつもりも無いのかな? 資材とか綺麗に片付いてるし。

「ありがとうロキ!」
ロキが、背中から降りた俺の顔をペロペロ舐めた。そのままノロノロ歩いて中庭に。たぶん噴水の水を飲むつもりだろう。
だよね。さすがに三日三晩も誰かを乗せて走ったら、いくら魔狼でもくたびれるよね。
その中庭からは、賑やかな子供達の声と、駆け回る音。
省25
339: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/04/11(火)16:16 ID:Qw6O6Iil(2/5) AAS
かのベスマにおける一夜の出来事、復活せし魔王の事、亜人達の末路に至るまではすべて詳細にしたためた。
しかる後、ベルクらが王立図書館に保管するだろう。

ベリルとルカインの子が生まれたとの知らせを受け、父ミアプラキドスはエレド・ブラウへと帰還した。
魔王が滅び、魔法そのものが消滅した今、勇者の血は貴重なれば、その育成も務めだと。
いずれこの要塞に向かわせると言っていた。ルークとフェリリルが良い父親、母親となろう。
魔王は消えたが脅威が消えた訳ではないのだ。未だ姿を見せぬ冥界の王について口にする者は居ない。

ひとつだけ、腑に落ちぬことがある。
省13
340: シャドウ ◆ELFzN7l8oo 2017/04/11(火)16:24 ID:Qw6O6Iil(3/5) AAS
鮮明なる記憶の糸を手繰るうち、不意に扉を叩く音。
こちらの返答も待たず、ガチャリとドアが開く。そこには小ざっぱりとした格好のルーク。

「帰ったのか。そうか、長老が気を利かせたな?」
「うん。ほんとはもう少し居たかったんだけど」

息子の行動力にはほとほと驚かされる。八つ裂きにされる覚悟あり、その上でナバウル再建に手を貸したいなどと。
そのあたり、マキアーチャに似たのだろう。

「あ、いいって! 起き上がったりしなくても! てか大丈夫なの?」
省28
341: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/04/11(火)16:45 ID:Qw6O6Iil(4/5) AAS
父さんがこの世を去ってから、あっと言う間に17年の月日がたった。

俺は相変らす要塞に居た。薬草を育てたり、狩りをしたり。たまに街に出かけて毛皮を服や食料に替える毎日。
え? あれから変わりは無かったかって? あったよ! すごくたくさん!

激しく剣を打ち合わせる音が、中庭いっぱいに響いてる。
フェルが両手に持つ二振りの武具と、カインの手にするコンクルシオが打ち合う音。
「母さん! もっと遠慮してよ!」
「何を言う! それでは冥王に勝てぬぞ!?」
省30
342: ルーク ◆ELFzN7l8oo 2017/04/11(火)16:50 ID:Qw6O6Iil(5/5) AAS
いきなり空が暗くなって、あれれ? なんて思ってたらドッカーンとすごい音がしてふっ飛ばされた。
どうも庭の真ん中に稲妻が落ちたらしい。黒い煙がもうもうと立ち込めている。

「なんだよこれ!? 冥王の戦士でも攻めてきたのか!?」
大急ぎでコンクルシオを構えるカイン。でもフェルがその正体を見て相好を崩した。
……ってことは……やっぱり。

「リヒト! 何で普通に門から入ってこないんだよ!!」

俺の抗議なんかなんのその。
省21
343: ◆ELFzN7l8oo 2017/04/12(水)05:54 ID:3cJOWct5(1) AAS
長らくご愛読くださった方々、支援してくださった方々、ありがとう御座いました。
まだ容量残ってますので、いろいろ思うところを。

【ルカイン(ルカイン・コンクルシオ)】
読者様のご提供支援NPC。
ラファエルが仕組んだであろうルーク達を嵌める罠!
刑場に引き出された囚われの金髪の男――シャドウかと思わせ実は鉄仮面を外してみてびっくり――って……誰?
てな感じで登場。
省25
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