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ファンタジー剣士バトルロワイアル 第三章 (1002レス)
ファンタジー剣士バトルロワイアル 第三章 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/
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509: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 17:37:26 ID:Wh87d64u 昨日の>>505のものです。 とりあえず>>506,>>508さんの言うように動きがあったってことで補完話が書かれるの待つことにします。 ただ、誤解のないように断っておきますがあのレスは別に悪意があってのものじゃありません。 単純に分からなかったのと疑問があったから質問しただけです。 このロワのことは応援してます。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/509
510: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 18:54:20 ID:Wh87d64u とりあえず読み返した感じだと・・・ ・健太郎、式、海にセイバーが襲いかかる。 ・途中でヒュンケル、サトリ乱入 ・セシリーが戦いの制止にやってくる。 ・最終的に錆白兵が無敵結界破って健太郎殺害 こんな感じなのでしょうか? http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/510
511: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 19:55:26 ID:IQxLxyLc 全編錆白兵の視点で描かれてるからキャラの名前が出ないのは当然なのに、それで理解できなくて書き手に文章力がないとか・・・ もうちょっと頭使えよと言わざるを得ない http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/511
512: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 20:10:46 ID:OfIi3zrx そりゃ読み手に伝える力が書き手に足らないからだろう http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/512
513: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 20:21:43 ID:X4wpfdSc 一人の視点で書いていても分かりやすいものは分かりやすいよ ちょっと力不足だね http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/513
514: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 20:31:56 ID:IQxLxyLc はぁ、じゃどの辺が分かり辛かったか例に出してくれるかな 当然ぱっとでてくるようなひどい文章なんだろ? http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/514
515: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 20:36:33 ID:cJU7psTH 投下がなければ廃墟だと言い、投下があれば駄作だと騒ぐ 荒らしに目をつけられたらかなわんなーまったく http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/515
516: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 20:39:49 ID:45mHz6Jd ていうか疑問なのは誰の視点か、じゃなくてなんでこのキャラが前のSSからこんな行動をしてるか、だから そこに目をつぶればいろんな疑問を吹き飛ばすほど面白くもない、よくある死亡話ってだけだからみんなわざわざ修正だ何だと言わないんだよ いちいち掘り返すな鬱陶しい http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/516
517: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 20:48:18 ID:Q+0t7wIT ・全体的に装飾過多 ・>>475辺りから一人称と三人称が混同してる部分が増える ・>>476以降、「起きた出来事」を脈絡なく書き散らしてるだけで、全体の流れが掴みづらい 読みづらいのは大体この辺が理由だと思う まあエロゲキャラの処理に文句つけてる読み手様にしか見えないからそろそろ自重しろ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/517
518: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 21:22:40 ID:X4wpfdSc ここはピラニアが棲む池だ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/518
519: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 21:23:38 ID:mt27N+JV 読み返してみたら錆以外の台詞が全くなくて吹いた 多分どのキャラも把握してなかったんだろうな・・・ それならそれで健太郎だけはぐれさせて錆で殺せば良かったのに どの道無理があるんだからそれでも通るだろ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/519
520: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/29(金) 22:41:25 ID:PU0HPhf1 わざわざこんな面倒な乱戦にしなくても健太郎くらい首輪ぶったたけば殺せたのに http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/520
521: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 04:28:25 ID:gs69DR/4 こんな糞では巻き返しは無理ですよ、奥さん http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/521
522: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 10:02:31 ID:ObYBPpZT 単発ばっかだな これだからエロゲオタは http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/522
523: 創る名無しに見る名無し [] 2010/10/30(土) 10:18:40 ID:VknMQKsk 健太郎みたいな誰特キャラが死んでエロゲオタが騒いでるとか初耳だわ 今までどこにそんな情報があったのやら 君の脳内ではそうなのかなwww こっちは単にSSが糞って主張してるだけなのにwww 君には伝わらないなんてwwwこんなに悲しいことはwwwないwww http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/523
524: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 14:15:06 ID:0/jNUwBc エロゲキャラを活躍させればエロゲアンチが暴れ エロゲキャラを冷遇すればエロゲ厨が暴れる まともなロワにエロゲキャラを出してはいけない それがわかっただけでも このロワには意味があった http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/524
525: 創る名無しに見る名無し [] 2010/10/30(土) 14:32:46 ID:VknMQKsk つまりFATEはやめろってことですね、わかります http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/525
526: 創る名無しに見る名無し [] 2010/10/30(土) 14:40:52 ID:MDLlCz/u つまり剣客はまともじゃないということか…。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/526
527: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 14:43:41 ID:veH9doE3 別にエロゲのせいじゃねえよ 把握が厳しい作品が多かっただけだろ それでいえばやっぱ剣客はすげーな http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/527
528: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 14:44:18 ID:0/jNUwBc エロゲはエロゲでもニトロ作品や笛みたいなしっかりしたストーリーの作品は別で ランスとかいう下賤な抜きゲーは出しちゃだめってことだよ 言わせんな恥ずかしい http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/528
529: 創る名無しに見る名無し [] 2010/10/30(土) 14:51:20 ID:VknMQKsk \笛厨だー!/ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/529
530: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 14:52:28 ID:uc1uv7xM 妄想癖が多いスレだな http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/530
531: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 14:55:16 ID:C9LWRaQX エロゲとか関係ねー 殺されるキャラどころか、殺すキャラ以外の描写と台詞が皆無な時点で違和感しかないってんだ これ普通に書き手追放ルール使って追い出すべきレベルだろ もう五人も書き手いないから無理だけど http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/531
532: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 15:01:26 ID:4EjuLyi3 ここまで人が減ったらもう1読み手のわがままなんて聞いてられんわ 投下されたSSに文句があるなら消えろ、もう質を選り好みできる状況じゃないって気付け http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/532
533: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 15:08:02 ID:/2sdUSCM なんだ、またアニロワの奴らが来てるのか 定期的にご苦労様です http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/533
534: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/30(土) 15:13:45 ID:uc1uv7xM 本当に妄想癖が多いスレだなぁ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/534
535: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/10/31(日) 16:34:49 ID:UCY8OZe1 アニ3住人に常に誰かを叩いていないと我慢できない人種が居るのは確定的に明らか 本スレが沈静化してきて溜まってるんだろ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/535
536: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/01(月) 00:05:03 ID:aJnTGoLg 妄想で他のロワを貶めるのか 最低だな http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/536
537: 創る名無しに見る名無し [] 2010/11/01(月) 08:56:09 ID:BxnMl3U0 妄想妄想うるせーよ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/537
538: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/05(金) 17:13:05 ID:6g1nhPQj 保守☆彡 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/538
539: 創る名無しに見る名無し [] 2010/11/18(木) 07:44:48 ID:GPm2Fpd+ F剣ロワ終了のお知らせ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/539
540: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/19(金) 18:06:07 ID:9UD1K6lh 予約来てるのな http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/540
541: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/20(土) 13:23:55 ID:VS/ziRof ゾロの話書いた人か これは期待 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/541
542: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:52:26 ID:u4av9ZCZ 期限を大幅にオーバーしてしまって申し訳ありません。 投下します。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/542
543: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:53:08 ID:u4av9ZCZ 誠刀『銓』は刃なき刀。 秤は天秤を意味し、己自身を測る。 自分を試し、自分を知る刀。 敵ではなく自分を切り、自分自身を測る刀。 志葉丈瑠はこの刀を用いて自らの迷いを断ち斬った。 全ての虚飾を取り去った根源である自分とは何か。 丈瑠にとってそれはまさしく平和を守る「侍」であり、シンケンジャーの将たる「殿」だった。 では今現在、誠刀を握る少年ノヴァはどうか。 彼と志葉丈瑠は違う。 ノヴァはそもそも勇者と呼ばれる自分を否定してはいないし、自らの行いに疑問を持ってもいない。 クレアを悪と断定した自らの判断は絶対だと信じているし、またそれを成すだけの力も備えている。 ならば誠刀が指し示す道とは何か? もしここにいるノヴァが勇者ダイと邂逅した後ならば、魔王軍が尖兵であるハドラー親衛騎団に敗れた後ならば――誠刀はノヴァを正しき道へと導いただろう。 しかし、それは叶わない。 何故ならノヴァはダイの名は知っていても会ったことはないし、自分以外に勇者と呼ばれる彼の存在を疎ましがってもいた。 溢れる剣才は齢十六にして並み居る騎士たちを凌駕せしめ、世に跋扈する魔獣どもも敵ではなく。 自らが世界の中心と信じて疑わない無垢な童子の心のままで、ノヴァはこの戦に招かれた。 だから、誠刀を手にしてもノヴァの精神は何ほども揺らぐことはない。 彼の持つ特異技能、自らの闘気を刃へと変換する資質も原因の一つと言えるだろう。 丈瑠は誠刀に何がしかの意味があるのではないかと推測し、理解しようとすることでその本質に触れた。 だがノヴァは誠刀に別の意味を見出してしまった。 すなわち、武器としての一面を。 万人に問えば万人が否と断ずるであろう、柄と鍔だけしかない刀に。 故に、誠刀は沈黙する。 ノヴァは誰よりも誠刀と相性が良く、あるいは誰よりも相性が悪い。 おそらくは刀工四季崎記紀とて予想し得なかっただろう、誠刀のただ一人の使い手。 それがノヴァなのだ。 もしこれが王刀『鋸』であれば、毒気を滅するその特性はノヴァに正しく作用し、彼に正道を歩ませることとなっただろう。 ノヴァは決して悪ではない。ただ我が強すぎるだけだ。 しかし誠刀に王刀のような毒気を失くす作用はない。あくまで道を示すだけだ。 誰よりも強いが故に誰も強制させることが出来なかったこの欠点が、状況をどうしようもなく混乱させていく。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/543
544: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:53:51 ID:u4av9ZCZ ◆ 「行くぞっ!」 気勢を上げ、ノヴァがクレアへと突進する。手にするのは光輝く闘気剣(オーラブレード)。 その熱は離れた場所にいる丈瑠の肌をもちりちりと焦がす。 生身で受ければどうなるかなど、考えるまでもない。 「下がれ!」 クレイモアの戦士クレアが、一振りの刀を手に前に出る。 それなりに重量のある絶刀・鉋を片腕で構えられるのは、彼女が人間ではなく半人半妖の戦士、クレイモアだからこそだ。 人間を遥かに超えた膂力と運動能力を誇り、標的である妖魔が発する妖気を探知する技能も備えている。 治癒力にも優れていて、腕が千切れたとしてもその部位が無事ならば時間をかければ自力で繋ぎ直すことができるほど。 その上一週間は何も口にせずとも身体機能に翳りが見られないなど、身体機能も並みではない。 そんな彼女であっても、状況は甚だ不利であると言えた。 まず今のクレアは隻腕だ。右腕の肘から先がない。 クレアにとって右腕は利き腕であり、旧世代のクレイモア・イレーネから受け継いだ腕でもある。 この右腕は切り札である超高速の多段斬撃『高速剣』の基点だ。左腕でも放てないことはないが、右腕と比べれば威力と剣速は見る影もない。 この時点でまずクレアの戦力は半減したと言ってもいい。 次に、彼女たちクレイモアは妖魔専用の殺し屋だ。 クレイモアと妖魔の戦いでは、対峙する妖魔の妖気を感知して動きを先読みしたり、居場所を特定することが当然に行われている。 妖気とは人ならざる者が発する気配。当然、人間であるノヴァや丈瑠からはそんな気配はしない。 つまり妖魔を相手にするような通常通りの戦い方は出来ないということだ。 そして何より、ノヴァが『人間』だということがクレアにとって最大のディスアドバンテージ。 妖気は言わば『クレアが斬っても構わない』相手の証明でもある。 数刻前に剣を合わせた銀髪の男からは妖気と似たような気配を感じ取ることが出来た。 だから躊躇わず斬りかかったし、直後に現れた黒い剣士からはその気配がなかったので即座に退いた。 妖魔相手なら手加減など必要なく、全力で滅することが出来る。 だが人間は駄目だ。いかなる理由があろうとも人を殺してはならない、これがクレイモアが所属する『組織』の掟。 半人半妖の身であるクレイモアが人の側の存在であることを示す唯一にして最大の掟であり、これを破れば仲間のクレイモアに粛清されることになる。 たとえ自衛や護身のためであっても、人間側に明らかな非がある場合でも、この掟の例外ではない。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/544
545: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:55:13 ID:u4av9ZCZ もちろん、すでに組織から離反したクレアにとってこの掟に強制力はない。 だがもし人を殺してしまえば、その瞬間にクレアは妖魔と同等の存在へと成り果てることになる。 妖魔を狩るのはクレイモアだからだ。 だがそれだけではなく、クレアにとって人間とは守るべき存在でもある。 共に旅をし、心を通わせた少年――ラキ。 彼は人間だ。その彼を捕食するような存在になるなど、クレアは決して自らに許しはしない。 戦乱の中離別してしまったが、いつか再会できると信じている――だからこそ、クレアはこの場でも掟を守る。 ラキともう一度出会ったとき、彼が知っているままのクレアでいるために。 クレアがこの場でするべきことは、人間を守り妖魔を狩り尽くすこと。 あの覚醒者と思しき銀髪の男、そしてロワと名乗った女。どちらも人ではあり得ない。 ならば討伐する。そのために邪魔をするのが人間ならば、殺さずに無力化する――殺しさえしなければ、適度に戦闘力を奪えばそれでいい。 そしてこのとき、クレアが守ると決めた者の中には志葉丈瑠もいた。 腕が立つのはわかっているが、クレイモアでもない丸腰の人間と共に戦うことは出来ない。そう考えていたからだ。 ノヴァの攻撃を絶刀で弾く。とたん、左腕に重い衝撃が走った。金属や妖魔の硬質な皮膚とは違う、異質な手応え。 握った感触でこの絶刀・鉋という剣は異様なほどに丈夫だとクレアは感じ取っていたが、それでもノヴァの振るう闘気剣と正面からぶつかる気にはならなかった。 いかに光の剣とは言え、剣の形状をしていれば対処法も同じ。 平べったく伸びる光剣の側面を叩き剣筋を逸らす。 闘気剣の威力は刃の部分に集中しているようで、数度の応酬でも絶刀が砕かれることはなかった。 これならば、と思ったクレアの一瞬の隙を突き、ノヴァが誠刀の柄から片手を離す。 そのまま地面に落ちている瓦礫を掬い上げ、流れる動作でクレアへと投擲した。 光に包まれる石。凄まじい速度。とっさに刀で弾く。自壊して弾け飛ぶ石片。ずしりと思い衝撃。左腕に一瞬の痺れ。 「もらった!」 脱力した一瞬を狙い済まし、ノヴァの一撃がクレアの手から絶刀をもぎ取っていった。 ヒュンヒュン、と刃が風を切る音が聞こえ、絶刀が飛んでいく。 両腕ならば耐えられた衝撃だ。左腕だけでもやれる、と浅慮したクレアの失策。 愕然と立ち尽くす。ノヴァは眼前で剣を振りかぶる。背中を見せれば一刀の元に両断されるだろう。 だが立ち向かっても同じことだ。剣のないクレアではノヴァの攻撃は止められず、よしんば回避したとしてもまた石を投擲されれば今度は避けられない。 死神の鎌がクレアの首元へと添えられる。 刹那が永遠へと引き伸ばされ、近づいてくる光剣がひどくゆっくりと見えた。 閃光がクレアの瞳を焼いた。思わず目蓋を閉じてしまう。間を置かず、甲高い金属音がした。 ゆっくりと目を開いたとき、クレアはまだ生きていた。 彼女の前に刀を構えた侍が立っている。 志葉丈瑠が弾かれていた絶刀を手にノヴァの一撃をいなし、逆に刃を巻き込んで撃ち落としていた。 大地に走る亀裂が闘気剣の威力の程を物語っている。まるで大型の覚醒者が巨腕を振り下ろした後のような、ぱっくりと割れた路面。 驚愕に打たれていたのはクレアだけではなく、ノヴァも同じことだ。 必殺の一刀が容易くあしらわれた。あり得ないはずの出来事に動揺しノヴァの動きが止まる。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/545
546: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:55:53 ID:u4av9ZCZ 隙を逃さず、丈瑠は一歩踏み込んだ。 手首を返し柄頭をノヴァの腹部へと打ち込む。危ういところでノヴァが反応し、左腕を滑り込ませた。 柄頭は受け止められる。ノヴァの左掌に痺れが走る。 安堵させる間も与えず、丈瑠は絶刀に添えていた片手を放し拳を握って少年の顎を下から突き上げた。 「がっ!?」 丈瑠はそのまま絶刀を振るいノヴァの握る誠刀を弾き飛ばそうとした。 だが、ノヴァは半ば意地だけでその衝撃に耐えた。視界は今だ空を映したまま、がむしゃらに闘気剣を振り回す。 ふ、と圧力が消失する。 ノヴァが一歩引いて体勢を整えたとき、丈瑠もまたクレアを伴って後退していた。 「た、丈瑠……」 「無理をするな。ここは俺がやる」 と言って絶刀を肩に担ぎ構える丈瑠の姿は堂に入ったものだ。 クレアが普段使う大剣とかなり勝手の違う刀をこうまで使いこなすということは、丈瑠にとっては得手の武器ということである。 たった今死地から救い出されたクレアは絶刀を返せとも言えず、人間に戦いを任せてよいものか激しく葛藤した。 「……やれるのか?」 「殺さずに、となると厳しいな。何をするにしろ、俺とお前が二人で戦える状況を作らねばならないだろう」 クレアが絶刀を持てば丈瑠は丸腰となる。 丈瑠が絶刀を持てばクレアが丸腰となる。 武器が一つしかない以上どちらかが無力になるのは自明の理。 二人はノヴァとは違い、光剣を生み出すことも、投石に一撃必殺の威力を持たせることも出来ないのだ。 絶刀に鞘がないことも劣勢要素の一つだ。絶刀はあらゆる刀を凌駕する硬度を誇っているが故に、鞘は付属していないのだ。 が、それでもなお活路を見出そうとすれば。 クレイモアのクレアが人間の丈瑠に背を任すことをよしとするなら、一つだけ打てる手はあった。 「……少しの間、時間を稼いでくれ。できるか?」 「時間を稼ぐ、か。そのくらいならやれるが、どうする気だ」 「説明している時間はない。私を信じてくれ」 「何をゴチャゴチャと! 魔王の手先と、裏切り者が!」 さらに憤慨したノヴァが猪武者の如く闘気剣を叩き付けてくる。 無手のクレアを守るためには丈瑠が応戦せざるを得ない。 前に出て、背後のクレアへと叫ぶ。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/546
547: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:56:47 ID:u4av9ZCZ 「わかった、やってやる。別に逃げてもいいぞ」 軽く、揶揄するような響きを混ぜる。 丈瑠にとっては本心でもあった。他人を護衛するよりは一人の方が戦いやすい。 「すぐに戻る。死ぬなよ!」 が、クレアが了承するはずもない。 反発の意が叫び返され、クレイモアの脚力を活かして瞬く間に走り去っていく。 「待て! この、邪魔をするな!」 「そうはいかない……!」 ノヴァは目下のところ最重要攻撃対象であるクレアを追おうとするが、鼻先を丈瑠の刀が押し留める。 シンケンレッドに変身せずとも丈瑠の剣腕は健在だ。だが、丈瑠の肉体はあくまで人間のもの。 まともにぶつかれば驚異的な攻撃力と多彩な手数を誇るノヴァとはとても渡り合えないが、この場では勝つことを目的とはしない。 クレアが戻るまで、あるいはクレアが逃げられたと判断できるほどに十分な時間を稼いだら丈瑠も退くつもりだった。 頭に血が昇りやすいらしい少年相手ならば逃走も容易い、と踏んでのことだ。 「だったらお前から倒す!」 問題は、時間を稼ぐどころか本当に倒されかねないこと、だったが。 (この程度の窮地なんて何度も切り抜けてきた。だから今度も……やるだけだ) 炎のような闘争心と氷のような自制心。異なる資質を併せ持つ侍の殿は、今一度強く刀を握りなおし敵と向かい合う。 恐れも迷いも、その表情からは何一つ読み取れない。元シンケンレッド、志葉丈瑠の刀が閃いた。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/547
548: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:57:28 ID:u4av9ZCZ ◆ クレス・アルベインの故郷であるトーティス村は、魔王ダオスの手の者によって滅ぼされた。 剣の師でもあった父、ミゲール・アルベイン。 病床に臥せっていた母、マリア・アルベイン。 親友であるチェスター・バークライトの妹、アミィ・バークライト。 村を空けていた僅かな時間で、十七年間生きてきたクレスの世界は崩壊した。 この悲劇をきっかけにクレスは時を巡る旅へと身を投じることになる。 そして今、何の因果か最強の剣士を決めるというこの催しに呼び出されている。 クレスの脳裏に去来するのは、村が崩壊したあの日のことだ。 家族、妹のように思っていた少女、友人、隣人。親友を除くクレスが知る人々全てが死に絶えた日のこと。 あのときクレスは再度の襲撃を懸念し遠方の叔父の元へと急ごうとした。 だがチェスターは村に残り遺体の埋葬をした。最愛の妹が物言わぬ屍となり野晒しにされているのは耐えられなかったのだろう。 彼らは別にお互いを薄情だとか感傷的だとか思いはしなかった。 村人を埋葬するのももちろん重要なことではあるが、もしまた襲撃されクレスとチェスターが命を落とせばトーティス村の惨劇は世に知られないまま闇に葬られるだろう。 誰かが知らせねばならなかった。都へ行けば騎士団を派遣してもらえる。下手人を捕らえ裁くことも可能だ。 そう考えたから二人は別れた。二人いたから役割を分担することができた。 だが今、クレスは一人だ。 アミィと同じくもはや言葉を紡ぐことなき少女――鳳凰寺風の遺体を背負い、ゆっくりと街の中を進む。 いずことも知れぬ地で家族や友人に知られることもなく果てた少女を思えば、せめて人間らしく弔ってやりたかった。 が、いかに魔王を倒した勇者とはいえ、この修羅の巷では絶対の強者ではない。 先ほどのブルックのような輩に墓穴を掘っているところを襲われれば、クレス自身がその墓穴に入ることは明白だ。 埋葬するにしてもせめて安全を確保した後。周囲に殺人者がいないと確認するか、もしくは信頼できる仲間を見つけてから。 忸怩たる思いを抱えたまま、クレスは目に付いた民家の寝台へ少女をそっと横たえた。 風の首には布を裂いて作った包帯を巻いてある。もう出血はしていない。 と言っても、包帯によって血が止まったのではない。流れ出るべき血が全て抜け切ったから、それだけの話だ。 風の表情は生きていると見紛うほどに穏やかだ。痛みを感じる間もなかったことが唯一の救いなのだろうか。 直視できず、シーツでそっと彼女を覆う。弔いと言えるほどのことではないが、今はこれが精一杯だ。 民家を出て、一人息をつく。流れる汗はぞっとするほど冷たかった。 人の死に関わったことは一度や二度ではない。この手で奪った命だって数え切れないほどにある。 それでも、クレスにとってそれは自分を守るためであり、仲間を守るためであり、平和を取り戻すための戦いだった。 だがこれはどうだ。『最強の剣士を決める』、ただそれだけのために罪もない少女の命が奪われる。 奪った側の人間……であるかどうかはかなり怪しいが、ブルックの心情も理解できないわけではない。 彼は決して快楽殺人者という訳ではなく、殺さねば殺されるというこの状況に従ったに過ぎないからだ。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/548
549: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:58:09 ID:u4av9ZCZ では、ブルックに罪はないのか? 自分が生き残るためなら、同じく生き残りたいと思っている者を殺しても許されるのか? 正当防衛ですらない殺しは果たして許されるのか? これが会話すらままならない魔獣であれば悩むことはないだろう。だが相手は言葉を用い意思を交わすことが出来る人間だ。 当然のように生きたいと、帰りたいと願う、クレスと同じただの人間なのだ。 「わからない……な。今の僕には答えが出せない……」 今ほどミントやアーチェ、クラース、チェスター、すず――仲間たちに傍にいてほしいと思ったことはないかもしれない。 ロワを倒す? どうやって? 当人に気付かれないまま数十人の人間を拉致し、得体の知れない首輪を嵌め、殺し合わせる。かのダオスにだってそんな芸当は出来るかどうか。 最初にいた場所ではクレスは自分と匹敵するかそれ以上の剣気を放つ者を何人も目撃している。 自分も含め、彼ら全てを手玉に取るような超常的な存在など、どうすれば討ち果たせるのか。 答えを返せなかったクレス。答えを放棄し流されると決めたブルック。 どちらが間違っているとも正しいとも言えない。結局、根幹にあるのは死にたくない、生きていたいという欲求なのだから。 思索の海に囚われたクレスの耳に、遠雷のような音が届く。はっと顔を上げ神経を尖らせれば、すぐ近くで戦闘が起こっていると知れた。 ブルックがやったような静かな殺しではなく、憚ることなく連続する炸裂音。 他者の介入を恐れないよほどの強者同士の戦いなのか、あるいはただの馬鹿なのか。 判別はつかないが、とりあえずクレスはその音が聞こえてくる方向へ向けて駆け出した。 距離が離れているため戦闘の余波で風の遺体が傷つけられる心配はないだろう。 戦場が近いと見るやクレスは速度を落とし、忍ぶようにして接近していく。朋友である藤林すずほどの隠形はできないが、足音を殺すくらいなら朝飯前だ。 いくつかの路地を曲がった先に――『それ』はいた。 (いた。怪我をしているのか?) 衣服と同じ色素の薄い白い髪に、銀色の瞳の女――クレアがそこにいた。 片腕がないが、ブルックとは違い明らかに人間とわかる姿だった。 戦闘に巻き込まれたのかと声をかけようとしたクレスは思わず息を止めた。 もしあの女がブルックと同じく殺し合いに乗っていたら、そう思ってしまったから。 (何を迷っているんだ、僕は……!) だが、一呼吸置いたおかげでクレスはクレアが『おかしい』ということに気付いた。 人間が片腕を切り落とされれば当然出血するし、痛みも耐えがたいものだ。 だがクレスの眼前にいる女は痛みを堪える素振りがないし出血もしていない。肉の断面が見えることから、止血を施してあるようにも見えない。 クレアはゆっくりと民家の壁に背を預けると携えていた鞄から何かを取り出した。人間の腕の、肘から先だった。 (あれは、多分あの人の腕……何をする気だろう。法術でも使えるんだろうか?) http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/549
550: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:58:54 ID:u4av9ZCZ クレスの思い人であるミント・アドネードのように癒しの術が使えるのならば、千切れた腕とて繋げられるかもしれない。 ならば是非とも仲間になってもらいたい。傷を癒せる力があれば、殺し合いの中で生き残る確率はぐっと上がる。 そんなクレスの期待に応えるように、クレアはもはや肉塊とさえ呼べるその腕を自らの腕の切断面へと近づけた。 「――ふっ!」 精神を集中し、気合を入れるための発声。 導き出される結果はクレスの想像通り腕の接合。ただし、過程は全く違うものだった。 (なっ……!?) ミントの術のように優しい光が傷を癒すのではなく。 腕と腕、切断面が小虫のように蠢き、泡立ち、片割れへと糸を伸ばす。糸は繋がり、ゆっくりと癒着していく。 シュウシュウと音を立てる腕は何がしかの力に包まれているのか淡い光を放っている。 「――よし、腕を繋げるだけなら何とかなりそうだ。急がなければ――」 クレアは呟き、未だに戦闘音が響いてくる方角へと視線を向ける。 瞳は紛れもない戦意を宿していて、獰猛な気配すらも漂わせていた。 (誰かを、殺すつもりなのか) 法術でも集気法による内力の活性化でもなく、得体の知れない力で腕を再生させる女。 その剣呑な目つきからは、風のような無害な人柄を読み取ることもできない。 人間というより、ダオスやその部下のような魔的な存在に近い――あるいはブルックにも。 動揺は足運びを乱れさせ、クレスの気配を漏れ出させた。 「誰だ!」 瞬時にクレアは気付いた。と同時、クレスもまた物陰から飛び出していた。 向けられた視線は険しく、ともすれば容易く敵意へと変じる危ういものだったからだ。 尤もそれは、今しがた戦線から離脱してきたばかりのクレアにすれば無理もないことだった。 「動くな!」 クレスは瞬きの間に間合いを詰め、クレアの喉元に抜き放ったニバンボシを突きつけた。 反撃されても即座に対応できるよう、油断なくその全身を視界に収める。 クレアが殺人者かどうか、疑わしくはあってもこの段階で断定は出来ない。 だからまず動きを封じてから交渉に臨もうとした、のだが。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/550
551: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 20:59:35 ID:u4av9ZCZ 「僕はクレス、クレス・アルベイン。聞きたいことがある」 「ぐ……あっ」 クレアはクレスを味方とは認識していない。彼が剣を寸止めするつもりであったとしても、そんなことはクレアにはわからない。 当然、刀が抜かれ始めた時点でクレアはクレスに対し警戒の度合いを引き上げ、制圧行動を取ろうとした。 だが、クレアは腕を繋げるために妖力を開放している最中だったのだ。 妖力解放はクレイモアの肉体を妖魔に近づける行為。強い力を得られる代わりに己を侵食されるかもしれない諸刃の剣だ。 当然、妖力のコントロールには多大な集中力を要する。少しの動揺で制御が乱れるほどに。 それでも普段のクレアならまだ対応することができた乱れだ。が、今のクレアは万全の状態ではなかった。 一刻も早く丈瑠の援護に向かわねばという焦り、新手の襲撃者への対応。そして首輪による妖力の抑圧。 この三つが彼女の精神を著しく圧迫し、結果クレアの妖力は彼女の制御を離れ――暴走した。 「ど、どうしたんだ?」 「に……げ、ろ!」 刀を突きつけている側のクレスが戸惑う。クレアの瞳の色は、一瞬で銀から金へと変化していた。 顔つきが変わっていく。人のそれから鋭利な牙を生やす獣のそれに。 刀が弾かれる。そのとき刀身を通じてクレスの腕に伝わってきたのは、ハンマーで殴られたかのような重い衝撃。 後退し、構える。クレスの刀を弾いたのはクレアが繋げようとしていた腕――だったモノ、だ。 肘から先の筋肉が不自然なほど膨張していた。熊のように太く、指先には鋭く尖った爪が伸びている。 右腕を繋げるために集中していた妖力が、コントロールの乱れによって接合ではなく変質を引き起こしたためだ。 その腕はまさしく彼女らクレイモアが『覚醒者』と呼ぶ妖魔の腕そのもの。 クレアの意思に従わず右腕は猛り、獲物を求めるように地面に突き立つ。 「が、く……制御、できん、このまま、では……!」 右腕に引きずられ、クレアの身体に暴走した妖力が駆け巡る。 もっと力をよこせと、自由にしろと喚いている。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ クレアはその衝動に、抗う気持ちが薄れていることに気付き、驚愕した。 妖力解放には性的快楽に近い快感が伴う。が、女性型のクレイモアはその快楽を抑えることができるはずだった。 ならば何故クレアが衝動に抗えないかといえば――クレアが先ほどまで『右腕に』握っていた刀は、絶刀『鉋』。 四季崎記紀の作った完成形変体刀、持つと人を斬りたくなる毒が込められた刀、その一つだったからだ。 絶刀に込められた毒はかの毒刀『鍍』ほど強くはなく、意識を乗っ取られるということはない。 だが、たとえ影響が小さくとも零ではない。判断決断の一つ一つ、その裏にちらりと顔を覗かせるような微々たるもの。 クレアの強靭な精神によって押し込められていたその毒は、抑圧から解放され嬉々として宿主を侵食する。 その小波のような毒は今、人と妖魔の狭間にいるクレアを後押しするには十分すぎた。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/551
552: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 21:00:27 ID:u4av9ZCZ 人間を殺してはならない。 人間を殺してはならない? 人間を殺してもいいのではないか? そう、剣を向けてくるのなら、相手が人間でも――。 目の前にいる、脆弱な人間を――。 「逃げろ! 私に近づくな!」 ありったけの理性をかき集め、クレアは叫んだ。 クレスはもちろんのことその叫びの意味を理解できない。 彼の本能はうるさいほど危険を警告し、今の内に斬れ、もしくは逃げろとがなり立てている。 だが、クレア自身にはどうも敵意はないように感じるのだ。 左腕のみならず全身を使って右腕を押さえつけるその姿からは、まるで右腕から先が別の誰かに乗っ取られたように見えて。 「まさか……くっ、しっかりするんだ!」 「に、逃げろと……言ってる、だろう」 「僕のせいであなたはそうなったんじゃないのか!? だったら、逃げられる訳ないじゃないか!」 斬り捨てることなど、できはしなかった。 ブルックとは違う、必死にクレスを殺すまいとするクレアという人物を、このまま置いては逃げられない。 「何か僕にできることはないか? どうすればその腕は止まるんだ!?」 「……斬り、落としてくれ。腕を離せば……暴走は止まる、はずだ……」 「斬り落とす……それしか、ないのか」 「やるなら、早くしろ……もう、抑えていられない……」 クレアは苦しげに呻く。見ず知らずの、しか人間であろうクレスを頼ったのは、それだけ追い詰められているからだ。 気を抜けば意識が一瞬で食い潰される。『クレイモアのクレア』ではなく、『覚醒者クレア』と成り果ててしまう。それだけは耐えられない。 逃げればいいのにクレスは残ってクレアを救うと言ってくれる。 彼はクレアを待っているはずの丈瑠と同じ表情をしている。信じられる人間の顔だ。 だからこそ、恥を忍んでクレアは頼んだ。 「……わかった、やるぞ!」 やると決めたら迷いは不要だ。 刀を構え、全身の力を集約させる。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/552
553: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 21:01:33 ID:u4av9ZCZ 「真空……破斬!」 刀身に真空を纏わせ切れ味を上げる剣技。 放たれた斬撃は、クレアの右腕を見事宙へ舞わせることに――失敗した。 ガキンッ、と刀は受け止められた。地に突き立っていたクレアの右腕が、神速で抜き放たれて刀を受け止めていた。 イレーネから受け継いだ切り札『高速剣』。クレイモアを持たぬ空手の状態で放つそれはいわば『高速爪』と言うところか。 右腕はクレアの意思を完全に跳ね除け、一個の妖魔として自己の保全に動いた。 そしてその行いは――クレアが衝動に敗北したことを意味していた。 「が、あ、ァァァァ……ッアアアアアアァァァッ!」 「ぐあぁっ!」 ニバンボシを叩き落し、クレスの胸倉を掴み上げ、壁際へと叩き付ける。 喀血するクレスに構わずクレアは駆け出した。 向かう先は今だノヴァと丈瑠の戦いが続く場所。仲間ではなく獲物が待つ狩場。 掴んだままのクレスがもがくも、剣もなく膂力でも敵うはずがない。 この場でクレスを喰らってもいいのだが、それでは二人の人間を逃してしまいかねない。 三人とも殺してから喰らえば食い残しはない。クレアの中の妖魔はそう思考する。 やがてクレアの視界に二人の人間が映った。双方共に傷ついてはいるが健在だ。 赤いジャケットを着た人間、志葉丈瑠へとクレスを投げつけた。 人体を砲弾とせしめる常識外の膂力は遺憾なく発揮され、クレスもろともに丈瑠は吹き飛ばされた。 「魔物!?」 「――アアアアアアアアアッ!」 魔物と戦い慣れているノヴァの反応は素早かった。が、相手が悪かったと言うべきだろう。 幾重にもぶれて多方向から襲い掛かる爪撃に対応できず、ノヴァはあえなく殴り飛ばされた。 「がっ……」 「クレア! 一体どうしたんだ!?」 丈瑠がクレスを押しのけ立ち上がったときにはノヴァは無力化されていた。丈瑠と戦った疲労もあろうが、それ以上にクレアが速かったのだ。 クレアは一瞬で間合いへ踏み込んでくる。丈瑠はまだクレアに起きた変化を把握していないため、反応が遅れた。 「獅子戦吼!」 あわや首を刈り取られんというところで、獣面の衝撃波が丈瑠の命を救った。 丈瑠の横に全身傷だらけのクレスが並ぶ。激しく息を吐いているが、致命的なダメージを負ってはいない。 「気をつけるんだ、今の彼女は見境がついていない!」 「お前、誰だ? いや、それはいい。どういうことだ、クレアに何があった?」 「僕のせいなんだ……僕が彼女を追い詰めてしまった」 「何だそれ、どういう意味……くっ!」 言葉の途中、左右に飛び離れる。二人の中間を弾丸のように金眼の獣が駆け抜ける。 クレアは勢いのままにその進行方向にあった一軒の民家に突入し、轟音と共に爆砕させた。 ノヴァの闘気剣に匹敵しようかという威力。ノヴァとは何とか戦えていた丈瑠もさすがに戦慄を禁じ得なかった。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/553
554: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 21:04:38 ID:u4av9ZCZ 「クレア……! 俺だ、志葉丈瑠だ! わからないのか!?」 「グゥゥゥゥ――シャアアアァッ!」 地を這い掬い上げるように放たれた爪を、絶刀を逆手に構え地に突き立てることで防ぎ止めた。 絶刀の特性故に刀が砕かれるということはなかったが、地面という緩衝材を挟んで尚、丈瑠の腕に凄まじい負担が圧し掛かる。 が、とにかく動きを止めることには成功した。攻守が拮抗し、丈瑠はクレアと睨み合う。 記憶と違う瞳の色に戸惑うが、おそらく正常な意識を保ってはいないだろうと丈瑠は判断した。 「おい、お前。あいつを連れて逃げろ」 「な……何を言ってるんだ、僕も一緒に!」 「剣もないのに何ができるって言うんだ。それにあのノヴァって奴が意識を取り戻したら、また面倒なことになる」 「しかし!」 クレスは抗弁するが、悠長な言い合いを許すほど妖魔と化したクレアは甘くはない。 まだ人の形を保っている左拳が丈瑠の顔面へ向けられる。 とっさに頭を下げる。危ういところで回避。風を切る音でまともに受ければそれで終わりだと確信する。 「早く行け!」 丈瑠にしてみれば、ノヴァはもちろんのこと新顔であるクレスもまた信用できなかった。 クレスは自分のせいでクレアがこうなったと言った。その言葉を額面どおりに受け取りはしないものの、一因であることは間違いないと思っている。 それに足手纏いであることも方便ではない。先ほどまでの丈瑠自身と同じく、今のクレスは丸腰だ。 ノヴァが持っている誠刀はやはりクレスにも使えない。 ならば不確定要素を減らす意味合いでも、彼らには退いてもらった方が丈瑠は戦いやすくなる。 「放っておけば意識のないあいつから殺される。急げ!」 「く……僕はクレス・アルベインだ! 君は!?」 「志葉丈瑠!」 「丈瑠……丈瑠か。わかった、ここは退く。彼を安全なところに移動させたらすぐに戻る。それまで持ち堪えてくれ!」 ぎりぎりと押し留めるのもそろそろ限界だと推し量った丈瑠を置いて、クレスはノヴァを担ぎ上げ退いていった。 足音が遠ざかる。妖魔となったクレアは獲物に逃げられたことに憤慨したか、さらなる力で丈瑠を押し攻める。 昂ぶる妖気が右腕のみならず左腕、右足、左足と巡り、人ならざる力を生み出していく。 「行ったか……さて、どうする……!?」 戦いやすくなったとは言え、生身の丈瑠と半覚醒状態のクレアとでは自力の差は歴然だ。 ノヴァからは何とか逃げ切る自信があったが、今のクレア相手では逃げても容易く追いつかれてしまうだろう。 威勢よくクレスらを逃がしたはいいが、実のところ打つ手などないに等しい。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/554
555: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 21:07:09 ID:u4av9ZCZ 「クレア、しっかりしろ! 俺の声が聞こえるか!」 それならば。 丈瑠に打つ手がないのならば、クレア自身に何とかさせるしかないだろう。 戻ると言ったクレアの眼差しを、瞳に込められた意思を信じるだけだ。 「お前は俺に、自分を信じてくれと言っただろう。俺はお前を信じて待っていた。ならばお前も、俺に答えろ!」 「ク、ウゥ……?」 「お前は何のために戦う? 答えろ、クレア!」 何のために――クレイモアの存在する意味はただ一つ。 人に仇なす妖魔を狩る、ただそれだけのため。 「人間を斬る訳にはいかない、お前はそう言ったな! なら人を守るために戦う存在、それが本当のお前じゃないのか!」 「――ぁ」 外道覆滅を掲げるシンケンジャーと、妖魔を狩るクレイモア。 魔を討つ者として両者はある意味では近い存在である。 本人ですら気付かないほどに小さな共感を、丈瑠はクレアに感じていた。 だからこそこうして言葉を紡ぐ。クレアとは共に戦えると、信頼できる仲間になれると、確信しているから。 誠刀の導きで自分を知った丈瑠は、同じく己を見失ったクレアを正すべく一振りの刀となる。 斬り捨てるべきは、クレアを取り巻く妖なる力。 「思い出せ、クレア! あるべき自分を……お前が望む、お前の姿を!」 「……わ、たし……は……っ!」 絶刀は無事でも、刀を支える丈瑠の腕が限界を迎える、その刹那の瞬間に。 ふ、と圧力が消失する。 「人間……だ……!」 瞳の色が、妖しき金から気高き銀へと戻っていく。 本能ではなく理性が身体を支配していると、はっきり見て取れる。暴走した妖力の制御を取り戻したのだ。 代償に力を出し尽くしていたか、膝をつく。 「……クレア」 「……丈瑠」 肥大した身体も徐々に収縮し、元に戻る。 完全な覚醒に到る前に、クレアは立ち直ることができたのだ。 「全く。手間をかけさせてくれたな」 「ああ……すま、ない」 動くことも億劫なため絶刀を間に置いてではあるが、自然と笑みがこぼれる。 丈瑠は身を起こし、クレアへと手を差し伸べた。 「だが、良かった。仲間を失わずに済んだからな」 「仲間? 私を仲間と呼んでくれるのか」 「そうだ。俺がそう決めた……不満か?」 「いや……悪くは、ないな」 庇護の対象ではなく、共に戦う仲間。それがクレイモアではなく人間だというのは皮肉な話ではあった。 が、言葉通り、クレアはそれが不快ではなく、むしろ心地良いものとして感じられた。 丈瑠の手を取ろうとし、いまだに変化の解けない右手を見て苦笑する。 すると丈瑠も笑い、それでも右手を引っ込めはしなかった。俺はお前を恐れはしないという意思表示だ。 言葉にしないが深く感謝の念を抱き、クレアは獣の右腕で丈瑠の手を取る。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/555
556: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 21:08:08 ID:u4av9ZCZ 否――取ろうとしたが、叶わなかった。 それは剣というにはあまりにも大きすぎた。 大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。 それはまさに鉄塊だった。 天空より舞い降りた剣が、丈瑠の身長よりもなお長く大きな剣が、クレアの右腕を地面に縫い付けていた。 クレアと自分とを隔てる壁の正体が、一瞬丈瑠は理解できなかった。 それを剣だ、と理解できたのは――剣を追うように空から舞い降りてきた男が、落下の勢いを利用して剣を抜き取り、旋回させてクレアを襲ったからだ。 迷いなくクレアを両断するであろうその剣の軌跡に、丈瑠の身体は意識するよりも先に動き割り込んだ。 引き抜いた絶刀を片手で握り、峰の部分をもう片方の腕で支え大剣を受け止める。 両腕の骨まで砕かれそうな衝撃。 本当に砕かれなかったのは、絶刀の頑強さと直前で丈瑠に気付いた剣の主――金髪の、ツンツン頭の男が力を緩めたからだ。 大剣をひとまず引いて、男はゆっくりと着地する。重力が作用しているのか怪しくなるほどにその速度は緩慢だ。 マントを翻した男は、だが丈瑠の予想に反してそれ以上の攻撃をしてこなかった。 「……どういうことだ?」 金髪の男はそう問いかけてくる。 聞きたいのはこっちだ、と丈瑠が吐き捨てる前に、 「そいつはお前を殺そうとしていたんだぞ。なのに何故庇う?」 そういうことかと得心した。 どうやら男は上空から丈瑠へと爪を生やした腕を伸ばすクレアを確認し、『丈瑠を救うべく』クレアを攻撃したらしい。 確かに今のクレアは一見すれば人よりは魔獣や外道に近い。 傍から見れば――刀を取り落とした丈瑠に止めを刺そうとしていた、と見えても不思議ではない。 理解はできても納得など到底無理な話だったが。 「違う! こいつは……クレアは、俺の仲間だ!」 「だが、そいつの腕は」 「クレアは人間だ。外道なんかじゃない!」 いくら危険に晒されたとは言え、自分の意思で攻撃を止めたクレアはやはり、丈瑠にとっては討滅すべき存在などではなかった。 丈瑠は蹲るクレアを背後に絶刀を構え、男と対峙する。 疲労の極みにあり、もう戦える状態ではないのはわかっていたが、断固として手出しはさせないという意思を視線に乗せて叩きつける。 男はどうしたものかとたじろいでいたが、 「丈瑠……いいんだ」 その丈瑠を静止したのは、庇われているクレア本人からだった。 振り向いた丈瑠を迎えたのは――砲弾のような、クレアの腕。 腹を殴られ突き飛ばされると、金髪の男に受け止められた。 「クレア!?」 「そいつは……間違っていない。私はもう……一線を、踏み越えて……しまったんだ」 顔を上げたクレアの――ぞっとするほど美しい、金色の瞳。 半ばまで斬り裂かれていた右腕が、煙を上げて治癒していく。凄まじい速度。もはや再生と言ってもいい。 クレアは血色を失くした顔に大粒の汗を浮かべている。消耗した身ではもう妖力を制御することができない。 「そいつが止めてくれなければ……私は、お前を殺していた、かも……しれない。だから……これで、いいんだ」 「クレア……だが、まだ何とかなるだろう? さっきみたいに力を抑えられれば!」 「……無理だ。もう、意識が……保てそうに、ない。だから丈瑠、頼みが……ある。聞いてほしい」 「な、何だ? 俺は何をすればいいんだ」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/556
557: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 21:09:31 ID:u4av9ZCZ 何かできることがあるなら何でも言ってくれ。 お前を助けられるなら何でもしてやる。 丈瑠はそう言おうとした。 「私を、殺してくれ」 だが、告げられた言葉はそんな丈瑠の決意を容易く粉砕した。 耳から入ってきた言葉を脳が理解するまで数秒、必要とした。 「な……何を言ってる。何故俺がお前を殺さなければならない!?」 「私は、妖魔には……なりたくない。人でいたいんだ……人のままで、死にたいんだ」 「……っ!」 クレイモアが妖力の解放に失敗し、妖魔の意識に支配されたとき。 そのクレイモアは、自らが希望するクレイモアに自分を殺してくれと願う。 剣の中に忍ばせてある黒の書と呼ばれる紙を渡し、介錯を頼むのだ。 「クレイモアでない、丈瑠に頼むのは……酷だと思う。だが……クレイモアである私を知っているのは……今は、丈瑠だけなんだ」 「そんなこと……!」 「早く……もう、持たない……!」 瞳孔が開き、鋭い視線が丈瑠を睨め上げる。 懇願しているようでもあり、憎々しげに睨みつけているようでもあり――クレアの中で、人と妖魔の意識がせめぎ合っているのだと知れた。 そしてその均衡はもう長くは続かないことも。 「クレア……」 「……下がっていろ。俺がやろう」 丈瑠を押しのけ、黙って成り行きを見守っていた男が大剣を構えてクレアの前に進み出る。 「俺はクラウド、クラウド・ストライフだ。済まない、俺が余計な横槍を入れたせいだ」 「気に……するな。わからないんだ……あのとき止められなければ、私は本当に、丈瑠を襲っていたかも……しれない。だから……これで、いい」 「……責任は取る。恨んでくれて構わない」 「いいさ……丈瑠を、頼む」 二人の話を聞いている内、男――クラウドは自分の行いがこの事態を招いたのだと知った。 申し訳なく思う。後悔もする。だが、だからこそ、せめてクレアの最期の願いは自分が果たそうと思った。 仲間である丈瑠にやらせる訳には行かない。消えることのない傷になる―― 「……俺が、やる」 剣を振り下ろす寸前、クラウドの肩を握り潰さんほどの力を込めて丈瑠が掴んだ。 その瞳には強い力があった。決して自棄になった訳ではなく、自ら選んでこうすると言う意思があった。 「いいのか?」 「ああ。クレア……俺が、介錯を勤めさせてもらう。いいか?」 「ふ……」 クレアはただ微笑んだだけだ。 もう口を開くことすら困難――そしてこれ以上言葉を重ねる必要もない。 絶刀『鉋』を強く握り直す。クレアの剣。クレアを斬る剣。 「志葉丈瑠、これを」 クラウドが懐から何かを取り出し、丈瑠へ渡してきた。 それは一見すると変哲もない携帯電話。だがそうでないことは丈瑠自身が一番よく知っている。 ショドウフォン。 普通の人間が持てばただの携帯電話だが、モヂカラを有する者が用いれば違う意味を持つ道具。 不意に、笑い出したくなった。これがあればノヴァを速やかに取り押さえられて、クレアもこんな有様になることはなかったかもしれなかったのに、と。 傍から見れば泣き笑いのような顔だっただろう。丈瑠は混沌とする感情を抑え付け、ショドウフォンを筆モードに変形させた。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/557
558: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 21:11:41 ID:u4av9ZCZ 「一筆……奏上」 虚空に描く『火』の一文字。 火のモヂカラを現出させ、身に纏う――戦うための力、真紅のスーツ。 だが、かつてないほどに心が冷えている。『火』を司るシンケンジャーとは思えないほどに。 絶刀を握り締め、肩に担いだ。 「シンケンレッド――志葉丈瑠」 シンケンジャーの『殿』。 一度はその資格がないと自ら捨てた姿に、自らの意思で変身する。 しかし斬るのは外道ではない。 外道ではなく――人。人間のままで死にたいと願う、友だ。 「それが……丈瑠、お前の本当の……」 「そうだ。俺は戦う。そしてこの戦いを止めてみせる。必ず……必ずだ!」 「ああ……信じるよ。お前ならきっと……でき、る……」 「クレア……!」 絶刀をクレアの首に押し当てる。 視線が合う。これが最後と、どちらが言うまでもなく理解した。 やれ、とクレアが目で促す。 ギリ、と歯を食い縛る。 そして、 「これで……人のまま、死ねる。礼を言う、シンケンレッド。志葉……丈瑠」 「……あああああああああああぁぁぁっ!」 刀を――振り抜いた。 肉を裂き、骨を砕き、血を撒き散らし――クレアの首を両断した。 (礼を言う? 礼、礼だと……俺はお前を殺したんだぞ! なのに……!) 剣を振り抜いた体勢のまま、丈瑠は振り返らない。 背後で重たげな音が二つした。クレアの身体が倒れたのと――首が落ちてきたのだろう。 振り返って確認する気にはなれない。 この手で、人を――仲間を斬った。 望まれたから、人のまま死なせてやりたいと思ったから。 だが―― 「ぐ……くっ、あ――うあああああああああああああああっ!」 心に突き刺さる痛みだけは、どうしても。 我慢することが出来なかった。 【クレア@CLAYMORE 死亡】 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/558
559: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 21:12:53 ID:u4av9ZCZ ◆ 落としていたニバンボシを回収し、ノヴァを風が安置されている民家へ移した後、クレスはすぐさま取って返すつもりだった。 だが、走り出そうとした足は急停止した。 寸前で、ノヴァが苦しげに呻いたからだ。 このまま一人にしておけば、もし誰か悪意を持つ者に襲われれば一溜まりもない。 「くっ……志葉丈瑠、それにクレア。まだ二人が戦っているかもしれないのに、僕は何をやっているんだ……!」 焦りばかりが先行し、どうにもままならない状況に翻弄されている。 落ち着け、まずすべきことは――と、クレスは必死に自己の安定に努めた。 「まず、このノヴァという人に事情を聞こう。クレアという人が本当に殺人者なのか、僕は何もわかってはいない……」 呼吸を落ち着けて、クレスはそう独り言ちた。 今の状況で二人と再会しても、クレスの側に情報が揃っていなければ何も切り出せはしない。 ならば当事者の一人でもあるノヴァから情報を得るが最善――そう、判断した。 死人が一人、怪我人が一人、そして自分。 相談する相手が誰もいない暗闇の中、クレスはじっとノヴァが起きるまで待ち続ける。 焦燥だけが加速していく。 クレスの掌は、じっとりと汗ばんでいた。だが、背筋が凍るほどに冷たい汗だった。 【G-2/市街/一日目/黎明】 【ノヴァ@ダイの大冒険】 【状態】疲労(中)、気絶 【装備】誠刀・銓@刀語 【道具】支給品、ランダムアイテム×1 【思考】基本:『勇者』として『悪』を倒す。 1:…… 【備考】 ・この状況を魔王軍の仕業だと思っています。 ・クレアの妖力を暗黒闘気だと思っています。 【クレス・アルベイン@テイルズオブファンタジア】 【状態】疲労(中) 【装備】ニバンボシ@テイルズオブヴェスペリア 【道具】支給品×2、 ランダムアイテム×2、バスタード・ソード@現実、 【思考】基本:仲間を募り、会場から脱出する……? 1: ノヴァを介抱するか、それとも……? 2:丈瑠ともう一度会って誤解を解きたい 【備考】 ※参戦時期は本編終了後です http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/559
560: ◆k7QIZZkXNs [sage] 2010/11/21(日) 21:13:58 ID:u4av9ZCZ ◆ 「十蔵が、俺を?」 「ああ。あんたを連れて来るように頼まれた」 戦地から離れ、街の外の平原。 目に付いた木の根元に穴を掘り、クレアを埋葬した後、丈瑠はようやくクラウドとゆっくり話す機会を得た。 クレアの荷物及びノヴァが放ったミニチュアサイズの剣も回収し終え、傷の手当も済んでいる。 沈んだ面持ちの丈瑠の手の中には、クレアの首に巻かれていた首輪があった。 その金属の冷たさが、否応なくクレアを斬ったときの記憶を脳裏に刻み付けてくれる。 「日の出まで待っていると言っていた。もう時間はあまりないんだが、どうする」 「……行こう。あいつを野放しにはしておけない」 「いいのか? 俺が言うのも何だが、あいつはお前と戦いたがっているぞ」 「ああ。いずれ決着を着けなければならないとは思っていた。いい機会だ」 そう言う丈瑠の瞳は、クラウドが思わず心配になるほどに思い詰めているようにも見えた。 丈瑠としても、クレアを斬ることになった間接的な原因であるクラウドと共に行動するのは忸怩たる思いはある。 だがノヴァと違いその行動に悪意や含むところがあった訳でもないということもまた、はっきりとわかっている。 だからこそ――鬱屈した感情をぶつける訳にもいかず、半ば八つ当たりのような形で敵を求めているのかもしれない。 冷静に自己の内面を分析している自分に気付き、丈瑠は深く息を吐いた。 「……行くぞ。急がなければあいつを逃がしてしまう。これ以上無用な犠牲を出す訳にはいかない」 「あ、ああ」 クラウドを待つことなく、丈瑠は早足で北へ向かって歩いていく。 その胸中からクレスを待つ、という選択肢は消えていた。 ノヴァ、クレス、クラウド――誰もが余計なことをして、起こるはずのない事態を招いた。 共にクレアの最期に立ち会ったクラウドはともかく、ノヴァやクレスに会えば自分でもどうしてしまうか本当にわからないのだ。 今はただ、どうしようもなく胸に燻ぶるこの熱を、思うさま解き放ってしまいたい―― クレアの形見である絶刀『鉋』を強く握り締め、丈瑠は宙を睨み迷いなく進んでいく。 求めているのは、今この瞬間、一番目の前にいてほしいのは―― (人に仇なす外道を……いいや、敵を、斬る。ただそれだけだ。それだけでいい……) 外道ならば。 十蔵ならば。 迷うことなく叩き斬ることができる。 伝説の刀鍛冶である四季崎記紀が創生した完成形変体刀十二本が一本、絶刀『鉋』の毒は。 誠刀『銓』によって打ち直された志葉丈瑠という刀を。 仲間を斬ったという傷、罅に、その毒は音もなく忍び寄り、溶け込んでいって。 僅かではあるが、黒く、暗く――歪め、澱ませていた。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/560
561: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/21(日) 22:43:06 ID:u4av9ZCZ 【G-4/平原/一日目/黎明】 【クラウド・ストライフ@ファイナルファンタジーZ】 【状態】健康 【装備】ドラゴンころし@ベルセルク 【道具】基本支給品、風のマント、ランダムアイテム(個数、詳細不明) 【思考】基本:殺し合いに乗る気はない。 1:丈瑠を十蔵の元へ案内する。 2:裏正の捜索。見つけたら十蔵に届ける。 【備考】 ※原作終了後からの参加。 【志葉丈瑠@侍戦隊シンケンジャー】 【状態】疲労(中)、精神的に動揺 【装備】絶刀・鉋@刀語、ショドウフォン 【道具】レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはシリーズ(待機状態)、 支給品、ランダムアイテム(個数内容ともに不明)、クレアのランダムアイテム×1 【思考】基本:争いを止めるため戦う。 1:外道は倒す。だが殺し合いに乗った人間は……? 2:十蔵と決着を着ける http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/561
562: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/21(日) 22:45:03 ID:u4av9ZCZ 投下終了です。タイトルは「受け継ぐ者へ」。 予約期限を過ぎてしまって申し訳ありませんでした。次はちゃんと間に合うように気をつけます…… http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/562
563: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/22(月) 15:46:29 ID:hqSgPQtU 投下乙です ノヴァを撃退して何とかうまく収まるかと思えば…でもクラウドも善意の行動だからやりきれないな 殿も変体刀の毒が回ってきてちょっとやばい 黒の書にちなんだクレアの最後は予想できなかった http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/563
564: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/22(月) 18:23:30 ID:ZwJHRhwg 投下乙ー 仲間なのに斬らなきゃいけないってのはきっついな・・・ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/564
565: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/22(月) 18:57:31 ID:4xVrxz4P 投下乙! クレア…人のままで死ねただけ良かったのか…悪かったのか 介錯した殿も精神的にヤバげだしこの先どうなるか…GJでした! http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/565
566: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/23(火) 00:10:00 ID:WVdt3TJP 投下乙! 正義と善意の空回りが悲しい… 迷いを斬った殿が暗黒面に落ちるかどうかか http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/566
567: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/11/26(金) 22:34:05 ID:woURpBIv ちと遅れたけど投下乙! クレアと殿は間違いなく仲間だった 会って間もないんだけどシンケンジャーとクレイモアの類似性とか、 互いを信頼しているさま、認めている様がすごい上手く書かれていて、 だからこそこの結末が切ない クレアにとってはこの最後は救いなんだけど、殿はそれを分かっていてもやりきれないな 果たしてこの先どうなっちまうのか。面白かったです http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/567
568: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/12/06(月) 04:01:50 ID:llEVNu6a 保守 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/568
569: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/12/07(火) 17:44:49 ID:6vHfRXVV >>536 開始早々、したらばに毒吐きスレが立ったりと明らかに妄想じゃすまないけどな 少女、深夜は毒吐きなんて話題にすら出なかったし まあ終わったロワだから良いけどね http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/569
570: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/12/12(日) 00:55:44 ID:3+quIBqn アニ3に開始早々毒吐きスレが立ったことと このスレが荒れたこととの間にどんな因果関係があるんだよ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/570
571: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/12/12(日) 01:02:51 ID:TG74sQMf アニ3じゃなくてこのロワのしたらばに毒吐きスレが立ったんだよ 早々に消されてたけど、毒吐きスレが無いから誤爆で文句を言う事を正当化した辺りねえ… 十中八九アニロワのカスの仕業だろうねぇ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/571
572: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/12/12(日) 03:47:06 ID:3+quIBqn そこまでしてアニ3の仕業にしたいのかよ http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/572
573: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/12/12(日) 11:34:48 ID:PUCX7TTr なんでこのロワ死んでしまったの? 最初あれだけ勢いがあったのに http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/573
574: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/12/12(日) 15:16:35 ID:eIgksZu/ 色々あるけどやっぱり書き手側もキャラの把握が出来なかったんじゃないか 参戦キャラも多ジャンルやカオスみたいな面々だし http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/574
575: 創る名無しに見る名無し [sage] 2010/12/14(火) 20:49:00 ID:zse8/zcm おまいら、勝手に殺してやるなw ゾロとかクレアの人がまた予約してるぜ あの人の作品は熱いから好きだな http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/575
576: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:46:12 ID:6mwJWgVL 思えば、あの城攻めの時から全ての歯車は狂い始めたのだろう。 何もかもが宝石のように輝いて見えた、あの時代。鷹の団が健在であったとき。 現世の理の外にある、不死の怪物との戦い。 その怪物から放たれた滅びの預言。 そう、預言を聞いたあの瞬間から――ガッツの世界は歪み始めた。 眼前にそびえ立つ古城を見上げ、ガッツは述懐した。 暁の空が白み始め、朝焼けの光が街を照らしている。 不思議とこの数時間、夜だというのにガッツの周りに悪霊は現れなかった。 生贄の烙印を刻まれたガッツに安息の眠りは決して訪れはしない。 現世と幽界の境界が曖昧になる夜の時間は、すなわち彼に絶えず付き纏う悪霊たちとの血で血を洗う闘争の時間だ。 当然、この場でもガッツはそれら魔的な存在の襲撃を警戒し、一睡もせず常に気を張って城下を忍び歩いていたのだが。 (夢魔の一匹も出やがらねえとは……あの女、使徒じゃねえくせにゴッド・ハンド並みの力を持っているってことか?) ここまで完璧に幽世の存在の侵食を抑えられるというのなら、使徒どもの首領であるゴッド・ハンドと並ぶだけの力を有していると考えてもいいだろう。 そうしてみると、この戦い。 神の剣に相応しい剣士を見定めるというこの戦いは、ある意味ではゴッド・ハンド転生の儀式『触』に近いものと言えるかもしれない。 数多の人間を生贄に捧げたった一人の剣士を選び出す。その剣士は神にも等しい力を得る――触、そのものだ。 ギリッ、と奥歯が鳴る。 ガッツの中で、未だあの日の惨劇の記憶は薄れてはいない。 共に戦場を駆けた朋友たちが、ただ一人愛した女が、抗えない圧倒的な運命に呑み込まれ蹂躙されたあの日。 その中心にいた親友――親友だと思っていた、男のことも。 ユーリと名乗る男と戦った後、ガッツは一人夜の街を彷徨っていた。 目的は主に二つ。身を休める場所の確保、そして索敵である。 夜闘い朝眠るという昼夜逆転の生活を日常としていたガッツに取り、暗闇は長年連れ添った相棒のようなものだ。 黒い甲冑にマントは闇と同化し視認性を薄める。 悪霊にどれほど有効かはわからないが、今となっては黒でなければ落ち着かないというのもあった。 が、結局悪霊は現れず、敵の姿も見出せないままガッツは城下町の中で一番目立つ場所、すなわち城へとやってきた。 何か使えるものがあるかも知れないし、なくても一時身を休めるにはちょうどいい場所でもあったからだ。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/576
577: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:46:57 ID:6mwJWgVL 城門は開かれている。十分に周囲を警戒しつつ、ガッツは城の内部へと足を踏み入れていく。 背負う大剣アスカロンを振り回す空間があるかと危惧したものの、城内は意外なほどに広々としていた。 外見はともかく中身は、ガッツの記憶にあるあの城とは似ても似つかない。 まあそんなものかと適当に納得しつつ、ガッツは通路の奥へ進み二階へと続く階段に一歩足をかけた。 「ふあ……また、客か」 ガッツの足を止めたのは、気の抜けたような欠伸と気だるげな声。 視線を上に向けて数段階段を上がると、あぐらをかいた線の細い男がいた。 すっきりとした短髪のガッツと対照的に、背中まで伸びた長髪。 男は鞘に収まった刀を腰に差したまま、眠そうにガッツを見やる。 「……悪いな、起こしちまったか?」 「あんた、歩くたびにガチャガチャ鳴ってうるせえんだよ」 甲冑と背中のアスカロンは、ガッツが移動すれば当然のことこすれ合って音を立てる。 音には気をつけていたつもりだが、こればかりはどうしようもない。とはいえ、音が反響する屋内だから気づけるという程度のものだが。 「……ったくよ、さっきのにいちゃんと言いあんたと言い。おれをゆっくり眠らせちゃくれないのかい」 「オレの前に誰か来たのか」 「ああ、来た。名前はなんだったかな。忘れちまった」 「ふうん。斬ったのか?」 「……なんでそんなこと聞くんだ?」 「なんでって、そりゃおまえ」 両腕を突っ張ればそれでいっぱいだという、そんな狭い通路で。 ガッツは隠す素振りもなく腰を落とし、背中の剣に手を伸ばす。 「自分の前に立ったやつは誰だろうとすべて斬る。あんた、そんな目をしてるぜ」 鋭い刃のような殺気と共に、告げる。 「……あんたに言われたくねえな。むしろ、あんたこそ誰かを斬ってきた後じゃないのかい? 血の匂いがするぜ」 その殺気に動じることなく、男――宇練銀閣は平然と言い返す。 ガッツもそれを否定しない。ユーリ・ローウェルの返り血はべったりとガッツの全身に付着している。 何よりも、ガッツも銀閣も、ともに殺気を隠そうとはしていない。 仕合う気がある二人が出会ったのだから、仕合う。ただそれだけのこと。 両者ともに剣を振ることを生業にしてきた生粋の剣士。言葉もなくごく自然に同じ結論に行き着いた。 ガッツはアスカロンを構え、剣尖を上げて高い位置にいる銀閣を狙う。 「怖い怖い。まさに殺る気満々ってやつか」 「立てよ。そのくらいなら待ってやる」 「そいつはどうも……って、なんだそりゃ」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/577
578: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:47:47 ID:6mwJWgVL 立ち上がった銀閣にも下にいるガッツの剣が視認できたのだろう。彼は驚きの声を漏らした。 それもそのはず、ガッツが握るアスカロンは全長3.5m、総重量200kgというもはや剣と呼ぶことさえおこがましい代物だ。 施された装飾や多様なギミックなど、職人の精緻な仕事ぶりを暴力的な方法でガッツが否定した結果、やや軽くなってはいる。 なってはいるが、依然その主よりも重い質量を有しているこの剣は、戦国時代を生きていた銀閣にとっても初めて目にするほどに規格外だ。 「よくそんなもの持てるな……」 「まあな。おまえの得物はそれか?」 「ああ。ちっと物足りねえが……そうだ、あんた。斬刀『鈍』って刀を知らねえか?」 「知らねえな」 「そうかい」 「もういいだろ。行くぜ」 これ以上語ることもないと、ガッツはアスカロンを突き出した。 そう、ただ突き出しただけ。何の駆け引きもなく、ただ全力で大剣を前へと送り出す。 一階と二階をつなぐ階段通路には、とてもアスカロンを振り回せるだけの空間はない。 ガッツが繰り出せる攻撃は刺突のみ。だがアスカロンの刃は通路の半分を埋め尽くすほどに巨大。 そして刃渡りの上でも銀閣の刀より圧倒的にアスカロンが勝っている。 近づいてこなければ攻撃できない銀閣。遠間から攻撃できるガッツ。 防げるわけがない。ガッツはこのとき、確かにそう思っていた。 しゃりんしゃりんしゃりん! と、高く澄んだ音がした。 何の音だ――とガッツが思考した瞬間には、銀閣を串刺しにするはずのアスカロンは直進の軌跡を曲げ、銀閣の右手の壁へと突き立っていた。 ガッツの手には鈍い痺れ残る。ガッツが意図して外した訳ではなく、別の力が働いた証拠だ。 しかし対峙する銀閣の刀は未だ鞘の中にある。 (こいつ……ッ!) ガッツはアスカロンに力を込め、壁から引き抜くと同時に後方へ跳んだ。 一息に階段を下り、茫洋とした瞳で見下ろしてくる銀閣と視線を絡ませる。 「いけねえな。こいつは斬刀じゃねえってのに、その剣を斬ってやろうと思っちまった」 「てめえ……!」 ガッツには銀閣が何をしたのか、はっきりと目で認識することはでいなかった。 が、鞘に収まったままの刀で繰り出せる攻撃となれば予想はつく。 (抜き打ち……か。グリフィスもたまに似たような技を使ってたな。だが、こいつの技は……グリフィスとは比べ物にならねえくらい速え!) 思い返せば、銀閣が刀の柄に手を伸ばしたあの瞬間。 あのとき響いた澄んだ音は、あれは鍔鳴りの音だったのではないか。 抜刀と納刀がほぼ同時という、想像を絶した速度。 これこそが因幡は下酷城の城主、宇練銀閣が誇る必殺の剣。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/578
579: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:48:29 ID:6mwJWgVL 「秘剣、零閃。この刀を手にして以来、おれの零閃をかわした奴はあんたで二人目だぜ」 「……ってことは、俺の前に来た奴もかわしたんだな。自慢げに言うことじゃねえぞ」 「そう言うなよ。そもそもがもう破られた技なんだ……今さら傷がついたところでどうということもねえよ」 まだ眠そうに、銀閣は呟く。その眼はガッツではなく、もっと別の誰か――を、見ているように思えた。 「ああ……そういや、名乗ってなかったな。おれは宇練銀閣ってんだ。おにいちゃんはなんてんだ?」 「……ガッツだ」 「変わった名だ。そして剣は見たこともないほどでかい。さしずめ、虚刀流ならぬ巨刀流……ってところか」 落ち着いて銀閣を観察すれば、その体格はガッツとは比較できないほどに細い。 腕力、体力、耐久力においては勝っているだろうが、瞬発力では一歩譲るかもしれない。 (だが、その一点……速さという点において、こいつの剣は俺のはるか上を行っていやがる) 銀閣の剣の正体は、視認できずともおおよそ掴むことはできた。 鞘を発射台にした神速の抜刀。 ガッツは居合い抜きという技術は知らないが、それでも起こった結果から事実を組み立てるとそういうことになる。 その神速を以て、こちらも高速で迫るアスカロンの剣尖を横から叩き強引に軌道をずらした――言うのは簡単だが、やれと言われてもガッツには不可能だろう。 まず質量からして違いすぎるのだ。多少の衝撃が加わったとてアスカロンの進撃を止めることなど不可能。 ならば銀閣の剣には、質量差を埋めるほどに凄まじい速度があった、と見るべき。 衝撃力とはすなわち重量×速度。どちらかが劣っているなら、もう片方を高めれば拮抗するのは道理だ。 つまりアスカロンの重量に匹敵するほどの速度を、銀閣の剣が叩き出したということになる。 「どうした巨刀流。もう終いか?」 「変な名で呼ぶんじゃねえ。オレの名はガッツだ」 「気にするな。おれは虚刀流に負けたんだ……だからあんた、巨刀流に勝って少しでも溜飲を下げさせろよ」 「知るか」 毒づく。が、ガッツはこの状況をまずいと感じていた。 横に動く空間はない狭い通路。前に進むか後ろに退くかしか選べない。 平地ならともかくここは階段、段差があるため自由に動くことも難しい。 開けた場所ならともかくここではアスカロンは突くことしかできず、そして軌道が読まれやすい刺突は速度に勝る銀閣の零閃にとり格好の餌食だ。 運良く銀閣が動かなかったから剣を引き戻せたものの、距離を詰められればガッツに打つ手は―― (いや、違う。こいつは動かなかったんじゃなく) 「気付いたか。そう、おれの零閃は待ち専門の剣法でな。自分から攻めるってことはできねえんだ」 「……そいつはどうも、ご丁寧なこった」 ガッツの瞳に閃いた思考を看破したか、銀閣が言い添える。 秘剣の正体を明かすということは、ガッツを取るに足らないと侮っているか、それともそれを知ったくらいで敗れはしないという自信があるのか。 どちらにせよ、生半可な手で突破できないという点は認めざるをえない。 腕のみならず、その腕を最大限に活かす戦場の選び方も見事という他ない。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/579
580: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:49:18 ID:6mwJWgVL 「以前、おれに勝った奴は……上から来たな。まさしく奇策ってやつだ。真上の敵に居合抜きも何もねえからな」 銀閣の言葉に、ガッツも頭上を仰ぎ見る。 階と階を繋ぐだけあり、十分な空間がある。が、もちろんガッツにはそんなところまで跳べる脚力などない。 隠し持っているワイヤーフックを使えばやれないこともない、が―― 「……退くか。ふぁ……ま、良い判断じゃねえかな」 するすると後退していくガッツを眺め、銀閣は欠伸交じりにそう漏らした。 追ってきてくれればしめたものだったが、さすがにそこまで間抜けではないかとガッツは舌打ちする。 が、半分は予想通り。 待ちの剣と言うのなら、自分から攻めてくることはないはず。つまり逃げるのは容易ということだ。 勝てない相手から逃げることは別に恥ではない。相手が使徒ならともかく、ただの人間だ。危険を冒してまで討ち取る必要はない。 「なあ、にいちゃん。一つ聞いていいか?」 「……何だ?」 「いや、詰まらんことなんだが……にいちゃんは、何のために闘うのか、って思ってよ」 しかし、撤退しようとするガッツを、銀閣が呼び止めた。 こちらももう構えを解きあぐらをかいている。もちろんガッツが戦意を見せれば立ちどころに対応してくるだろうが。 「どういう意味だ?」 「おれはさ……結構、どうでもいいんだ。守ろうとしてたものも、もうないことだしな」 宇練銀閣は、砂に呑み込まれていく因幡にあって、最後の、そしてただ一人の住人だった。 自分以外は誰もいない下酷城の一室で、ひたすらに斬刀を守り続ける日々。訪ねてくる者は誰だろうと斬り捨てた。 役人だろうと、強盗だろうと、商人だろうと、そして忍者だろうと。誰一人として例外はなく。 ある日唐突に現れた二人組――奇策士と名乗る女と、その刀と名乗る虚刀流の使い手に敗れ、絶息する瞬間まで。 国も、城も、刀も、そして命も。すべてを失って、銀閣は眠りについたはずだった。 なのに、今もこうして刀を握っている。以前と何一つ変わることなく。 「にいちゃんには、何ていうか……そう、守りたいものがあるか? ってことなんだよ。 おれは守るものがあったから戦えた。でも今はもうない。だから……おれは何のために今ここにいるのか、わからねえんだ」 「…………」 「見たところ、あんたは誰に命令された訳でもなくおれを斬ろうとした。そうするだけの理由が、あんたにあるのかって、気になってな」 「……理由なら、ある。守りたいものも、斬るべき敵も」 「へえ。そいつは何だい?」 「おまえに言う気はねえ」 「そうかい」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/580
581: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:50:04 ID:6mwJWgVL すげなく切って捨てたガッツに落胆するでもなく、銀閣はひらひらと手を振った。 「引き止めて悪かったな。話は終いだ」 「……じゃあな」 踵を返す。階段から離れ、そのまま数分歩き続ける。 銀閣は、追ってこない。 「……チッ。オレのことなんざ気にも留めてねえってことか」 おそらく銀閣はまた眠りに就いたのだろう。城の中は再び静寂に包まれている。 とはいえ、ガッツもまだ城を出る気はない。ここに来たのは休息のためでもある。 ガッツは目に付いた小部屋を片っ端から捜索し、役に立ちそうな物を探し始めた。 (守りたいもの……決まってる。キャスカだ。他にはねえ、何も……) だが、そうしていながらもガッツの脳裏には銀閣の言葉が残響している。 そして――銀閣だけではなく、別の言葉も。 ――おめえ……逃げてやしねえか。戦に……憎しみによ ここに来る直前に立ち寄った、馴染みの鍛冶屋ゴドーの言葉を、銀閣の言葉を引き金にして思い出してしまう。 牧師でも何でもない鍛冶屋の言葉は、剣を鍛えることを生業とする故に、剣を振るうことを生業とするガッツの心中を正確に言い当ててもいた。 ――おめえの心にゃでっけえ刃毀れが……恐怖って名の亀裂が走っていやがる 恐怖。 あのとき、ガッツからすべてを奪った『蝕』の恐怖は今もなおガッツの心身を蝕み続けている。 かけ替えのない仲間たちを襲った、無慈悲にして無残にして無常たる死の宴。 ――そのかけ替えのないものをおっぽり出して、お前は一人で行ったんだ 悪夢を振り払うため、借りを返すため、落とし前をつけさせるため。 ガッツは一人、夜の世界へと飛び込んだ。 誰も頼らず、誰も信用せず、ただ己の剣にすべてを託して。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/581
582: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:51:03 ID:6mwJWgVL ――かけ替えのないものの傍らにいて、一緒に悲しみに身を浸すことに堪えられずに。お前は一人、自分の憎悪で身を焼くことに逃げ込んだ。違うか? だが、それは――守りたいものを、本当に守っていたのだろうか。 ガッツと同じか、それ以上の傷を負ったキャスカを放り出して、一人悲しみから目を逸らして戦い続けることは。 本当に、キャスカを守っていたことになるのだろうか。 「肝心なときになると……オレは一人を、戦を選んじまう……か」 宇練銀閣とガッツとは、ある意味では同類なのだろう。 守りたかったものを奪われ、しかしそれを受け止めることなく戦いに逃避する。 違いがあるとすれば、ガッツには『まだ』守りたいものがあり、銀閣には『もう』何もないということか。 残ったものは剣だけ。剣があるから戦い続ける。剣があるから止まることもできない。 「……それでもオレは、今さら止まる訳にはいかねえんだ……!」 キャスカだけは――最後に残った大切な女だけは、失う訳にはいかない。 だから一刻も早くここから脱出せねばならない。 最後の一人になってでも、他の人間を殺し尽くしてでも――たとえ相手が自分と同じ傷を抱えていたとしても。 「……そうだ。迷ってる暇なんてねえ。立ち止まって手に入るものなんざ何もねえんだ」 いや、だからこそ。銀閣はガッツにとって、避けて通ることはできない敵なのだ。 自分自身と瓜二つだからこそ――逃げない。斬って乗り越える、でなければガッツは前に進めない。 背にあるアスカロンを意識する。 愛剣ドラゴン殺しとは違うが、アスカロンもまた竜を狩るべくして作り上げられた剣。 この大剣ならどんな敵が相手だろうと不足はない。 たとえ目にも留らぬ神速の剣が相手だろうと、ガッツの鋼鉄の意志と剣を砕くことはできない、それを証明するために。 「戦場がどうのとか、不利だからどうとか……そんなことは全部、どうでもいい。オレはただ、前に進むだけだ」 敵を斬り、使徒を斬り、最後にはあの女も斬って。ただキャスカの元へと参じるのみ。 無用な危険を冒す必要はない? 逆だ。危険だからこそ、飛び込み突き抜けなければ道は拓けない。 銀閣やユーリ――ガッツはこの名を知らない――には、悪いと思わなくもない。 が、剣士である以上、お互いに剣を抜いた以上はどちらかが散るのも覚悟の上のこと。 ガッツもまた、敗れれば命を落とすことに異を唱えるつもりはない。そもそも負けるつもりもないが。 医務室らしきところで適当に道具を頂戴し、ガッツは部屋を飛び出す。 駆けて、駆けて――たどり着いたのは、銀閣が眠る階段の間。 見上げる。ただし今度は、不退転の決意とともに。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/582
583: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:52:06 ID:6mwJWgVL 「うるせえな……また来たのかよ、巨刀流」 はたして、銀閣は――さっきと寸分変わらぬ体勢で、そこにいた。 おそらく何時間、何日、何年経とうともそうしているのだろう。そうするしかないのだろう。 剣にすがり、剣を振るうためだけに生きている。あり得たかもしれないもう一人のガッツの姿。 だからこそガッツは、迷いを消し去るために銀閣を斬ると決めていた。 「銀閣、って言ったな。オレもてめえに聞きたいことがある」 「あん……?」 「守りたいものがなくなって……てめえはどう思った。許せねえとか、復讐してやるとか思わなかったのか?」 「……ふぁ」 ガッツの問いに、銀閣を欠伸を一つ。 そして、おもむろに立ち上がり、構えを取る。 宇練一族の秘剣、零閃の構えを。 「いいや……肩の荷が下りた、ってところかな。正直……そう、重荷だったんだ。俺にとっては」 「……そうかい」 銀閣の答えを聞き、ガッツもまたアスカロンを構える。 先ほどと同じく、切っ先を押し出した突きの構え。 一度防がれた技を二度使うその無謀に、しかし銀閣は笑わない。 銀閣を見据えるガッツの瞳は、先の手合わせとは比べ物にならない戦意に燃えているからだ。 「その答えを聞いちゃあ、オレもいよいよ立ち止まる訳にはいかねえ。てめえみたいにはなりたくないから、な」 「ほう……あんたはどこか俺と似てるって、思ってたんだがな。あんたにゃ戦い続ける理由があるってことか……今は、まだ」 「ああ。そのために……悪いが、斬らせてもらうぜ」 「……いいぜ、来な。おれも本気で……相手してやるよ」 しゃりん! ガッツはまだ攻撃していないにも関わらず、銀閣の剣が走る。 ただし斬ったのはガッツではなく、銀閣自身――左肩から、血が勢いよく噴出した。 銀閣の足元には見る見るうちに血だまりができる。かなりの出血と、一目でわかる。 突然の奇行に戸惑うガッツを尻目に、銀閣は苦痛に顔を歪めながらもにやりと笑みを浮かべた。 「生半可な零閃じゃ、あんたを止められねえだろうからな」 「訳がわからねえな。どういうつもりだ?」 「みんな同じことを聞く。いいぜ、教えてやる……こういう、ことさ」 銀閣が、後ろに置いていたバッグを放る。ガッツにも支給されている道具袋だ。 しゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりん。 銀閣はそこに零閃を繰り出した。バッグは一瞬で両断――否、『八つ裂きにされた』。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/583
584: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:52:56 ID:6mwJWgVL 「な……っ!?」 ガッツはそこに、途方もない速さの斬撃が放たれたのだと直感する。 動体視力に優れたガッツの目にも、まったくの同時にしか映らない無数の斬撃。それが複数―― 「八機だ。それが斬刀のない今のおれの、最高の零閃編隊」 ぽた、ぽたと傾けた刀から血の雫が零れ落ちていく。 傷を負えば剣を振るう速度は落ちる。そんな道理を、銀閣は鼻で笑って一蹴して見せた。 傷ついてなお、否、傷ついたからこそ速い。まさに戦場で真価を発揮する阿修羅の剣技。 「鞘内を血で濡らし、血を溜め、じっとりと湿らせることによって鞘走りの速度を上げる。刃と鞘との摩擦係数を格段に落として――零閃は光速へと達する。 まあ、そうは言ってもこの刀じゃ斬刀ほどの速さにはならないだろうがな。ともかくこれが、今のおれの限定奥義――斬刀狩りだ」 永く戦場に身を置くガッツですら、そんな剣は見たことも聞いたこともない。 血に濡れた剣は錆びて使い物にならなくなる、それが常識なのだ。 なのに銀閣は、その常識を逆手にとって自らの利とする―― (こいつは……読み違えたな。並の使徒なんざ比べ物にならねえ、強敵だ) 八回もの超高速の斬撃を同時に同じ個所へと叩き込まれたのなら――剛剣たるアスカロンとてあるいは砕かれかねない。 まさに、魔人。人の身で使徒すらも超えた、極限まで練り上げられた魔人の剣だ。 「逃げるか? いいぜ、それでも。おれは追わねえよ」 ガッツの戦慄を見取ったか、銀閣が嘲るように言う。 逃げる――そう、逃げればその時点でガッツの勝利は確定する。 あれだけの出血、今すぐに止血しなければ失血死は免れない。 仮に血が止まったとしても、大量の血を失った身体はまともに動かないはずだ。 どう考えても、ここで必然性はない。ついでに言えば勝率も低い。 だが―― 「冗談だろ。言ったはずだぜ……てめえを斬る、ってな」 ガッツは、退かない。 逃げて、敵の自滅を待って、それで得た勝利など――勝利ではない。 何より、そんな形の勝利はすなわち、ガッツ自身が銀閣の生き様に勝てないと認めるようなものだからだ。 使徒ですらない、ただの人間に負ける? 断じて認める訳にはいかない。真っ向勝負で、勝つ。 長大な刀身の隅々まで、ガッツは気迫を行き渡らせる。 斬り裂くものは、敵と、幻影と、そして―― http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/584
585: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 00:54:36 ID:6mwJWgVL 「さあ……行くぜ! 見せてみろ、てめえの全力ってやつを!」 「ああ、良いぜ……ただしその頃には、あんたは八つ裂きになっているだろうけどな」 ガッツの気迫と、銀閣の気迫とが充満し、階段通路に満ち満ちる。 先手は――やはりガッツ。 「オオオオオオオッ!!」 先ほどと同じく、刺突――ただし今度は刃を横に寝かせた、平突き。 横からの攻撃には、刃を縦にして放つ突きより格段に被弾面積は狭くなる。 「甘いぜ――それで零閃を防げると、思っているのなら」 しゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりん! やはりまったくの同時に、八回もの鍔鳴りの音。 瞬間の間に一つの箇所に斬撃を叩き込まれ、アスカロンは――吹き飛んだ。 「……なに!?」 砕けず、吹き飛んだ――ただ、それだけ。 銀閣は手を抜いてなどいない。いや、斬刀ではない点を差し引けばまさに会心の出来の零閃だった。 なのに、アスカロンは形を留めたまま、横手の壁に深く突き立っている―― 「……上か!」 かつての敗戦の記憶から、銀閣はいち早く気配を察知し横手に跳んだ。上階へ続く踊り場のもう半分へ。 そして、ガッツは――突きを放った瞬間、即座にアスカロンから手を離したガッツは。 腰に差していたフランベルジュを抜き、銀閣の頭上へと投擲していた。 一瞬視界を覆った影に気を取られ、銀閣が前方から警戒を解いた一瞬。 ガッツは銀閣が退いたため空いた空間へと深く踏み込み、アスカロンの柄を力の限りに握り締めていた。 「――っ!」 壁に突き立ったアスカロンを引き抜こうとしている――銀閣にはそう見えた。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/585
586: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 01:00:38 ID:6mwJWgVL 「く、お、お――!」 だが――違った。 ガッツはアスカロンを引き抜こうとしたのではない。 「おおおお、おおおおおおおああああああっっ!!」 ガッツは、アスカロンを――振り抜こうとしていたのだ。 石造りの壁に突き立ったアスカロンを。 力任せに、がむしゃらに。 速度で勝てないのならば、力で勝る。それがガッツの見出した、唯一つの零閃への勝利手。 直線的な突きでは容易く軌道を変えられても、薙ぎ払う斬撃なら、居合い抜きでは対処は不可能―― 「ぜ――零閃編隊――八機!」 ガッツが何をしようとしているか察知した銀閣もまた、勝負を決するべく二度目の零閃を放つ。 だが――しかし。 鞘から抜き放たれた刀は、斬刀ではないのだ。 分子結合を破壊する、斬れぬものはない刀――斬刀『鈍』ではなく、質がいいだけのただの刀だ。 零閃は本来斬刀を用いることを前提に編み出された秘剣。当然、刀にかかる負担は想像を絶する。 銀閣の才覚があったからこそ、ただの刀でも八機編隊を可能としたその代償は、もちろん零ではない。 壁を粉砕しつつ迫るガッツの巨刀と、銀閣の零閃編隊八機が激突――すでにひび割れていた銀閣の刀を粉々に粉砕し、アスカロンが駆け抜けた。 勢い余って階段を軽く五、六段は粉砕し、アスカロンは停止した。 残ったのは右腕を斬り飛ばされた着流しの男と、荒く息をつく隻眼の男。 零閃編隊は、竜殺しの巨刀によって吹き散らされた。 『黒い剣士』対『零閃使い』――ここに決着である。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/586
587: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 01:01:42 ID:6mwJWgVL 「無茶苦茶しやがる……力押しで、おれの零閃を……破るとは、な」 「他に……思い、つかなかったんで、な」 アスカロンにもたれかかるようにして、ガッツは銀閣へと言葉を返す。 時間にすれば十秒もない戦いだったが、ガッツの疲労は頂点に達していた。 石壁を斬り裂くなんていう戦法は、ユーリ・ローウェルから奪ったパワーリストがなければ実行に移そうとは思わなかった。 代償は、今にも爆発しそうな筋肉と骨の軋みだ。 アスカロンを手放した理由は二つ。 一つは、剣を無理に固定して、零閃の衝撃を刀身に蓄積させるのを防ぐため。 二つは、銀閣に隙を作らせるべく、フランベルジュを投擲するため。 結果としてうまくいったにせよ、綱渡りだったことは間違いない。 それにしたって、二度目の零閃の速度が落ちていなければ間に合わなかっただろう。 「最初の突きは……鞘の中の血を、消費させるため……か」 「まあ、な。八回もあの技を使えば、そりゃあちょっとは血も減るだろうと思ってな」 速度にして、ほんの僅かな誤差だっただろう。 それでもそのほんの僅かな差が、ガッツと銀閣の生死を分けたことは疑いない。 もし銀閣の刀が斬刀だったなら、誤差程度は関係ないとばかりにアスカロンごとガッツは斬り裂かれていただろう。 しかし斬刀はここにはない。 つまり、それがすべてだった。 「まあ……いいか。これで今度こそ、ゆっくり眠れるって……もんだ」 「ああ、もう起こさねえよ。ゆっくり眠りな」 「頼むぜ……もう、生き返らせないで……くれよ。三度目は……御免だ」 そう、言って。 左右両方の腕から血を流し尽くし、宇練銀閣は死んだ。 「……おい、どういう意味だ」 安らかな顔で。 そう、まさしく眠りについた――そんな顔で。 「おい! 生き返らせるって……おい!」 当然、ガッツの声になど答えはしない。 もう、銀閣は涅槃に旅立ったのだから。 やがて諦め、ガッツは銀閣から手を離し、床に横たえてやった。 その辺の部屋から適当に調達したシーツを、死体にかけてやる。 ガッツなりの剣士への礼儀だ。 だがそうしている間も、ガッツの脳裏に渦巻くのは一つの言葉。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/587
588: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 01:02:26 ID:6mwJWgVL 生き返らせる。三度目。 あれをどう解釈するか。 三度目は嫌だというなら、今回は二度目だと考えていいだろう。 そして銀閣は『虚刀流』に敗れたとも言っていた。その敗北が命を落としたという意味なら、ここにいた銀閣は死んだ後に生き返ったということになる。 「死んだ奴を生き返らせる……そんなことが、本当にできるってのか……?」 ガッツ自身ロワという女の言ったことは話半分程度にしか信用していなかったが、実例が目の前にあるとなると話は別だ。 しかし、それはガッツが死者の蘇生を望むということではない。 そんなことができるのなら。 それだけの力があるのなら。 そう――あの忌まわしきゴッド・ハンドにすら、干渉できるのではないか? 剣士を集める。強い剣士を。 この条件に当てはまる剣士を、ガッツは自分以外に二人、知っている。 「グリフィス……キャスカ……!」 あの『触』以前の二人なら、十分に剣士としての資格を備えていたと言える。 ガッツがこうしてこの場に呼び出されたのなら、ガッツと因縁のあるあの二人がいる確率もまた――零ではない。 どうしてこの可能性に思い当らなかったのか。 グリフィスはともかく、キャスカがいなくなったのはこの戦いに呼び出されたからかもしれないというのに! もちろん可能性の話だ。確証はない。 だがガッツにとっては、その二人が『いるかもしれない』というだけで―― 「……休んでる暇なんてねえ!」 走り出す理由には、十分すぎる。 そして、弾丸のようにガッツは城を飛び出した。 頭の片隅に湧いたノイズは、ガッツという男の天秤を激しく揺らしている。 もし誰かに出会っても、今は戦うという選択肢を第一に持ってくることはまずい。そうしている間にキャスカの身に危険が迫るかもしれないからだ。 使徒相手ならともかく、銀閣のように戦わずに済む相手なら見送るのも一つの手。斬るにしても、まずは情報を取得してからだ。 もし、その二人がいたらどうするのか。 答えを出せないままに、ガッツはひたすらに思い人の影を求め、走り続ける。 その姿にはもはや敵をすべて斬り伏せるという鋼鉄の意志はなく。 ガッツという剣に、亀裂が入ったことを意味していた。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/588
589: 代理:刃の亀裂 ◇k7QIZZkXNs [sage] 2010/12/19(日) 01:04:26 ID:6mwJWgVL 【宇練銀閣@刀語 死亡】 【E-3/城/1日目/黎明】 【ガッツ@ベルセルク】 【状態】疲労(大)、全身にダメージ(小) 【装備】アスカロン@とある魔術の禁書目録、フランべルジュ@テイルズオブファンタジア 【道具】支給品、ワイヤーフック@ワイルドアームズF、パワーリスト@FF7、包帯・消毒液などの医療品 【思考】基本:優勝してさっさと帰る 1:グリフィスとキャスカの存在を確かめる 2:使徒、もどき、敵対的な人間以外はまず情報交換を持ちかけてみる 【備考】 アスカロンはなんかいろいろやって50kgくらい軽くなったようです ワイヤーフックは10メートルほど伸びる射出形のフックです。うまく引っ掛けて巻き戻せば高速で移動できます 引っ掛ける対象が固定されておらず、自分より軽いものなら引き寄せることもできます ※ドルチェットの刀@鋼の錬金術師 は破壊されました。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281446123/589
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