【ミリマスR-18】徳川まつりにマッサージを要求される話 (17レス)
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2: 筋肉痛になってしまうのです 1/10 [sage saga] 2020/12/26(土)23:56 ID:xxUYYLm80(2/6) AAS
 さっき背伸びをしたのは一時間前だったと、壁の時計を見て初めて気が付いた。アイドル達の、二月までのスケジュールはひとまず形になった。ただこれも、レッスンの予定を増やさなければならなくなることもあるし、急なオファーやオーディションが入ったりするのが常なのだから、これだけ時間をかけて作成したものでさえ、暫定版に過ぎない。時計の短針が一日の仕事を終えるまで、あと四分の一という所だった。

 まだやれる仕事はあったが、せっかく重たい業務が終わったのだから、早く帰れるならそうしたかった。もう事務スタッフは皆退勤しているし、アイドル達が思い思いに「お疲れ様です」と帰っていったのも、二時間以上前のことだ。劇場の戸締りを済ませれば俺も帰れると考えると、手に取ったキーリングが軽かった。

 応接室、よし。控室、よし。忘れ物、無し。仮眠室で眠りこけたままの子もいない。順調だ、このまま……と思っていると、一ヶ所だけ灯りの漏れている部屋がある。居残りでダンスレッスンやボイストレーニングをやっている者がいるのは珍しいことではなかったが、時間が時間だ。今日、帰る姿をまだ見かけていないのは、こんな時間までレッスンルームを使うことがあるのは、誰だったか。頭の中で思い当たる人物を浮かべながらドアを開くと、予想した通りの人物が鏡の前に立っていた。

「あ、プロデューサーさん。お疲れ様なのです」
「ああ、まつりか。遅くまで頑張ってるな」
「ほ? 姫は妖精さんとお話していただけなのですよ?」
「ははっ、そうだったな。すまんが、今日はそろそろ劇場を閉めるんだ。まつりも支度を整えておいてくれ」

 扉を開いた瞬間にターンを決めて、首を傾げていた所までは見えていた。こんなに陰で努力を重ねているのだから別に隠すことも無いのに、とは思うのだが、徳川まつりは、確固とした自分の世界を持っている。無理にこちらの常識で見ようとするのが、時には間違っていることもあるのだ。実際、長時間鏡の前で振り付けの練習をしていたと思しき顔にも体にも、汗の気配は感じられなかった。

 着替え終わったら閉めておいてくれ、とドレスアップルームの鍵も一緒にまつりに手渡し、引き続き劇場の戸締りを続ける。カードキー形式のオートロックにしてくれたらいいのに、と思ったこともあったが、誰かがカードを忘れて面倒が増えるのが目に見えていた。こういう古き良き鍵閉めスタイルは、劇場においては正解なのかもしれない。
 いつもあんなに賑やかなのに、一人で見回る時の廊下には、怖くなるぐらいに革靴の足音が反響する。壁から天井から跳ね返ってくるその音は、抱えることになってしばらく経つ後ろめたさだった。曲がり角の向こう側へ進むのに、一瞬足がすくんだ。

 事務室に戻り、パソコンの電源を落とす頃になって、まつりは鍵を返しに来た。車で送ろうか、と申し出る俺の前に立ち、何か言いたそうに体を傾けている。

「プロデューサーさん、まつり、今日のダンスレッスンで体がカチカチなのです……。帰る前に、マッサージして欲しいのです。……ね?」

 静かに、だが確実に、一歩二歩とまつりが間合いを詰めてくる。

 ライブのステージで踊りながら高揚感のまま飛び跳ねたりすれば、かなりの運動量になる。いくら若くて代謝が良いとはいえ、遅くても翌日には筋肉痛に悩まされる。回復を待てずにすぐ別の仕事が入ることも多かったから、痛みやすい箇所へ応急処置的にマッサージを施すのが、いつの間にか業務の一つに数えられるようになっていた。セクハラじみたことをしているのにも関わらず、疲労の残り方が全然違う、とアイドル達からは好評で、まつりのように何かとせがんでくる者もいた。
 運動部の先輩にコキ使われて嫌々やらされていたことが将来役に立つなんて、あの時の自分はちらっとでも考えたことがあっただろうか。

 まつりの提案へ応えること自体は――男が若い女性の体に直接手を触れることを除けば――それほど非日常のことではない。だが……まつりとのその行為は、ある時に俺が誘惑に屈してしまったせいで、一線を越えたものと化してしまっていた。
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