教えて! アルクェイド先生 (33レス)
教えて! アルクェイド先生 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/
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1: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:03:03.81 ID:FpkFq5Eu0 注意事項 ・リメイク前の旧作(アルクGoodEnd + シエル先輩残留)を基準に書いています ただし話の本筋には関係ない小ネタでリメイクのネタが出てきます ・リメイク版のみプレイした人でも大丈夫な内容(コメディ)になっています ・資料を確認しながら書きましたが、新旧月姫の知識がごちゃ混ぜになっている状態です 間違い等がありましたら申し訳ありません 「シエル。あなたはなぜ学校に通っているの?」 ほのかに漂う甘い香りと、鼻をつくスパイスの匂い。 口で味わう前に自然と鼻で味わってしまいながら、スプーンですくったカレーを口元に運んでいる時だった。 そんな白い服でカレーを食べて大丈夫なのかという心配を「“任せて!”」と意気込んで答えたはいいものの、薬品の調合をしているかのような慎重と緊張でスプーンを操り、恐る恐る一口ずつルーを食べていたアルクェイドから飛び出た質問である。 「――――――――――」 本当に意外だったのだろう。 目をパチクリと見開いた先輩は、その驚きを口にしようとして――自らの口がカレーでいっぱいな事を思い出す。 答える前に先輩は急いで口の中の物を咀嚼《そしゃく》し始めた。 その仕草は上品ではなかったけれど愛嬌があり、リスみたいだと言ってしまえば怒られるだろうか。 咀嚼を終えて呑み込んだ先輩は気を静めるように冷水を一口含み、ついで額《ひたい》に浮かんだ汗をハンカチを拭った。 そりゃあ汗もかくだろう。かくいう俺も汗をかいている。汗は汗でも冷や汗だが。 視線を少し下げればテーブルに並んだ食事が目に映る。 ここはカレーショップ“メシアン”。 このテーブルに居並ぶは先輩とアルクェイド、そして俺の三人。 この三人でこの店に入ることになろうとは……! SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1632736983 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/1
14: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:14:08.03 ID:FpkFq5Eu0 いったい誰に何を言われたのか。 うつむき加減で不敵に笑い始める。 というか二人の知り合いが教会にいたとか今初めて知った。 「今のところ埋葬機関としての仕事はありませんし、期せずしてあなたと奇妙な友好関係を築けたわたしが監視役として最適なのだから黙ってろとは言ってるんですがね。 別にあなたの肩をもつわけではありませんが、わたし以外の教会の人間が監視していたらあなたも嫌でしょう?」 「ん〜、マーリオゥなら我慢してあげなくもないけど、メレムは付きまとってきてうっとおしいし、それ以外は問答無用で潰すかな?」 ……なんだろう。 今初めて存在を知ったしどういう奴なのか知らないけど、今俺はそのメレムさんをすごく不憫《ふびん》に感じている。 何だか二人からの扱いが何というか――――――雑でした。 「つまりシエルってばお仲間に嫌味を言われながら、それなりに忙しい中で時間を割きながら学校に通っているわけよね?」 「そうですね。そしてそれをあなたは不思議に思っている」 ほほ笑ましそうに答える先輩の様子は、学校での俺や有彦と一緒に話している時のもので、年上のお姉さんとしてアルクェイドと向き合っていた。 「人間は仕事とそれに関する事、それ以外は休息だけという生き方をしていれば体ではなく心が壊れてしまう。だから趣味や娯楽が必要になる。 それは知っているんだけど、なら今みたいにカレーを食べたり、さっき貴方が言ってたみたいに違うお店を探して別のカレーと出会ったりすればいい。それ以外にも、ほら……あなた銃火器が好きだったじゃない。武器の手入れをしたり、カタログを読んで楽しんだり。そういった仕事以外の過ごし方があるでしょ? それなのに一日の大半を学校で過ごしちゃって、学校はそんなに楽しいの? あなたにとってカレーや銃火器と並んだり、ともすればそれ以上に優先しかねないものなの?」 アルクェイドの言いたいことはわかる。 俺自身ロアの件が片付いた以上、先輩は学校から去ってしまうものとばかり思っていたから、こうして通い続けてくれるのは予想外の喜びだった。 しかし今の先輩は言ってみれば社会人が仕事終わりに夜間大学に通っているようなもの。いや、夜間大学より高校の方が拘束時間も長く融通も利かないからもっと厳しいか。 そのうえ“昨夜の仕事”のように突発的な事も起こりえる。今日は日曜で学校は休みだったが、仮に平日なら先輩は徹夜明けの状態で学校に顔を出していただろう。 アルクェイドでなくとも疑問に思う事で、俺だって考えた事はある。 けどそれを訊いてしまえば先輩が学校に来なくなってしまうような気がして、怖くて一度も口に出せなかった疑問だ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/14
15: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:14:49.54 ID:FpkFq5Eu0 「学校は確かに楽しいものですが……楽しいから通っているかというと、少し違いますね」 そんな俺も知りたかったけど知るのが怖い問いかけに、先輩は穏やかな表情で答えた。 「私が学校に通っているのは……憧れ……心残り……そういったものです」 在りし日の事を――まばゆい光のように思い返しながら、そう口にする。 「あなたには共感しづらいとは思いますが、わたしたち人間は子どもの頃は、数歳年上の相手が大人びて見えて憧れるんです。 小学生の時は中学生が大人っぽくて素敵に見えて――ああ、わたしもいつかは中学生になるんだ。あんな風に素敵なお姉さんになれるかな、なりたいなあ。中学校では何をするんだろう? わたしはこんな事をしてみたいなあ……と」 「先輩……」 子どもの頃の懐かしいオモチャに触れていたような楽し気な口調は、尻すぼみに途切れていく。 「……想い描いていたものは、全て無駄になりました。 それからはもう、子どもの頃の夢など考えないように、考えないように生きてきたのですけど……」 アルクェイドが目を見開き、前のめりになって先輩を見る。 俺だって同じ気持ちだ。 だって―――― 「遠野君の学校に潜入して、クラスの皆にクラスメイトとして接してもらえて……皆で授業を受けて、休み時間に些細な事で笑い合って……そんな当たり前の、わたしが失ったはずの夢が……どうしようもないほど、楽しくて仕方なかったんです」 今にも泣きだしそうなのに、心底嬉しそうに笑う先輩が――――とても、きれいだったから。 「アルクェイド。あなたが今の在りようを過去の自分に糾弾されているように、わたしも今の自分を過去の罪に咎められています。 咎人の身で、何をのうのうと生きている。生きているのなら戦えと。 一匹でも多く吸血鬼を滅ぼせ、一人でも多くの人を助けろ、一つでも多くの善行を為せ、と」 それは許されない者の言葉。 誰よりも、何よりも――自分自身に許されない者の、己への弾劾。 「でも卒業までの数ヵ月……どうかこれだけは許してください、見逃してください。 のうのうと生きる事が許される身でないと、重々承知していますが……どうかこの、失われたはずだった夢だけは」 そう、静かに言い終えて。 涙があふれ出そうになったからか、先輩は目を伏せた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/15
16: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:16:17.83 ID:FpkFq5Eu0 「――――――――――」 沈黙が流れる。 言いたい事があった。 話しかけたい事があった。 しかし――今俺が口にしてはならない。 だって先輩がこうして胸の内を明かしたのは、アルクェイドに対してだ。 そこに居合わせただけの俺が、今の先輩に語りかける権利は無い。 それができるのは、許されるのは、しなければならないのは、ただ一人のみ。 「…………………………シエル」 どれだけの時間が経っただろうか。 長く長く感じて、でも実際はそうでもないだろう時の砂。 先輩の胸の内を、自分のただ一度の吸血《あやまち》によって引き起こされた、数多くの悲劇の一つを明かされて―― 「ありがとう」 先輩を真っすぐに見据えながら。 アルクェイドは謝罪ではなく、感謝を口にした。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/16
17: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:16:52.95 ID:FpkFq5Eu0 辛い過去――などという生ぬるい表現では済まない事をまざまざと思い返しながら、先輩は今の自分の生き方を語ってくれた。 それもこれまで幾度となく争ってきた自分に、何の打算も無く、一人の友人として。 これに謝るのは間違っている。 先輩はそんなつもりで胸の内を明かしたわけではない。 アルクェイドを糾弾するためではなく、アルクェイドの悩みと疑問に応えるためなのだから。 もちろんアルクェイドは申し訳ないと思っただろう。 けど先輩の心境をくみ取ったあいつは、決して謝罪の言葉を口にしてはいけないと理解し――――“ありがとう”という一言に万感の思いを込めた。 「……いいですよ。先に胸の内を明かさせたのはわたしの方なんですから」 先輩はアルクェイドの感謝の言葉に、静かに――でも本当に嬉しそうなほほ笑みを浮かべる。 ああ、良かった。 二人が胸の内を明かし合って、こうして互いに理解を深める事ができて。 似た者同士な二人だからこそ、一歩間違えれば致命的な決裂になる事も起こりえた。 でも、それはもう大丈夫。 ここでお互いの大切な事を理解し合えた二人は、例えこれから先争う事があったとしても、それはどうしようもない理由があっての事で。 決して憎悪で争う事は無いのだから―― http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/17
18: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:18:25.48 ID:FpkFq5Eu0 ※ ※ ※ 「はじめまして、アシスタントティーチャーのアル美です! みんな、今日はわたしのためにありがとーう!」 なんであの流れからこうなるんだ、このばか女ああああぁぁっ!! ざわめく教室、血の気が引く酩酊《めいてい》感。 教壇から放たれるあっけらかんとした破壊光線《あいさつ》。 奴の顔には一度は危険物として没収したはずの丸眼鏡がかけられ、メガネ属性まで付加されている。 間違いない。 魔眼の力でなんやかんや有耶無耶《うやむや》にした特別講師・アル美先生まさかの再来か――――ッ! 待ってくれ。いや、ホント待ってくれ。 普通こういうのは予兆というか前触れがあってしかるべきだろう。 こっちだって心の準備というものがある。 こう、ほらね? 朝は翡翠に起こしてもらって、居間で秋葉と兄妹水入らずな胃が締めつけられる事で暖かくなる会話をして、琥珀さんが用意してくれた朝食を食べるじゃないですか。 そして登校している途中に、例えば下駄箱とか階段で何か違和感を覚えるとかですね、そういう前段階が必要になるでしょ。 それをコイツは一切合切無視した。 もうダメだ……おしまいだぁ…… 頭を抱えながら横目で頼れる生徒《なかま》たちを見る。 当時の記憶《さんげき》を忘れてしまっている仲間たちは、あの日を繰り返すようにチャット会話を始めていた。 『どうしよう。いい匂いがして頭がクラクラする』 『我、有識者ノ意見求ム』 『やばいめっちゃ近いめっちゃ美人』 『あれ? この美人さんどっかで見たような気がするというか、この展開に覚えがあるような』 『知り合いなら紹介しろ』 『どうしよう。目が合っただけなのに顔が熱くなってきた』 『黒板前である事に神に感謝しています』 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/18
19: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:19:08.91 ID:FpkFq5Eu0 「ぐお……っ」 「遠野くん……!?」 あまりの絶望に頭を抱える勢いが止まらず、机に額を叩きつけるように突っ伏してしまう。 クラス中が喧噪に包まれているおかげで目立たなかったが、この異様な雰囲気に吞まれていなかったのが弓塚が驚いて振り返る。 それに手を軽く振って大丈夫だと応えながら、有彦が朝からサボっていることを神に感謝いややっぱしねーわ、こんな事態を引き起こしやがって。 今なら心の底から神に呪われたと、ガッデムと叫べるぞ俺は。 「わたしはあくまでアシスタント役なんだけど、英語の先生は今日はお休みだから代わりに進めちゃいま〜す♪」 ま〜すじゃねえよ。 おまえアシスタントティーチャーなんだろ。アシスタントを止めてメインになろうとすんなお願いだから。 しかし誰もこの暴走機関車を止められない。 ノエル先生の時と違って男子たちだけではなく、女子まで熱をあげている。 さもありなん。 アルクェイドほどの美人ともなれば、常人なら同じ場にいるだけで気後れしてしまうものだが、アルクェイドの無邪気な振る舞いは一般人の緊張を和らげる。 それはノエル先生の、男心をわかっている者が振り回して楽しむあざとさとは対極に位置するもので、女子に敵対心を持たせるものではない。 かくして絶世の美女の予期せぬ来訪にテンションを上げる野郎どもと、ハリウッド女優もかくやといわんばかりの美貌とスタイルに羨望と憧れの目線を向ける女性陣。 熱狂した民衆は自らをひき殺さんとする鉄の塊を、もろ手を挙げて迎え入れんとしていた。 そりゃあノエル先生に「“うふふ。この子たち、頭の程度は大丈夫なのかしら”」と言われるわけだ我が学級よ。 「さぁてと! それでは早速授業に入……ろうと思ったけど、なんだか皆それどころじゃない感じよね。 あ、そっかそっかゴメン! 自己紹介のあとは質問コーナーで、それから授業だもんね。 はい、というわけで先生に質問ある人!」 どうやらアル美先生とやらの自己紹介はあれで終わりらしい。 頼む、気づいてくれみんな。 コイツは自己紹介でアル美とかいうカタカナと漢字が混ざった名を名乗り、自分の肩書をアシスタントティーチャーと自称しただけだぞ。 これで教師役としての自己紹介が終わったつもりなヤベー奴だぞ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/19
20: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:19:52.03 ID:FpkFq5Eu0 「し、質問です! アル美先生はおいくつなんでしょうか!」 「好きなブランドは何ですか!」 「誕生日はいつでしょうか!」 「彼氏は!? 彼氏募集中ですか!?」 「どんなタイプが好みですか!?」 ダメだった。 政権支持率脅威の95パーセントを突破。(誤字であらず) 独裁国家でしかあり得ない数字だ。 ……何か来ないかな。 おお、圧制者よ! なんてほがらかな笑みを浮かべた筋肉モリモリマッチョマンが助けに来てくんないかなぁ! 「うんうん、たくさんの質問ありがとう!」 現実逃避する俺とは裏腹に、圧制者は殺到する質問にご満悦だ。 「はい、それじゃあ質問に答えるね。 先生の年齢は――二十歳! そういう設定! 好きなブランドだけど、これって着ている服の製造元の事でいいのかな? 自分で選ばないで用意してもらったからブランドの好みとかは無いよ。 誕生日は12月25日で、彼氏の募集はもう終了しちゃってまーす♪」 ええええぇぇ? という男子たちの悲哀のどよめきと、女子たちの当ったり前でしょ、夢見てんじゃないわよ男子という嘲笑が鳴り響く。 ふっふっふ。わかってないなあ女子のみなさんは。 あれだけの美人なら絶対彼氏いるだろ、いないって言っても隠しているだけで本当はいるんだろと内心気づいていても、美人が彼氏はいないって言ってくれるのはそれだけで嬉しいんです。 夢と希望が持てるのだ。 だからな、アルクェイド。 おまえが二十歳を自称するのはまあいいさ。 おまえの外見年齢と、アシスタントティーチャーをやれる年齢で都合がつくのがそのぐらいの年齢だからいいよ。 そういう設定だって言っちゃうのもいいよ。 世の中には設定年齢19歳蟹座のB型な美形だっているんだから。 でもさ、彼氏うんぬんの時に思いっきり俺を見ながら話すのはもう止めような。 オマエの視線に誘導されてか、弓塚がビックリしてまた振り返っちゃったから。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/20
21: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:20:35.78 ID:FpkFq5Eu0 ……大丈夫だよな。 俺とアルクェイドが知り合いだって気づかれていないよな? 「それで好みのタイプだけど、ふふ」 おいバカ止めろ。 止めろって言っている俺のアイコンタクトが届かないのか? アイコンタクトが届かなくても、打つ手が無くて頭を抱えている俺のジェスチャーは見えているよな? 全人類、全世界に通じる共通言語《ボディランゲージ》だぞ。 「わたしの彼氏ったら、わたしが大切なあまり小言が多くってね。 酷い時はわたしの事をばか女って言うんだよ」 『ええええぇぇ!?』 教室中からアル美先生の彼氏への非難が吹き荒れる。 おいおい。この場にアル美先生の彼氏とやらがいれば、きっと居たたまれない気持ちになったことだろう。 「大丈夫なんですか先生? それって束縛が強いDV野郎じゃないんですか?」 事情を知らない女子の発言に、女性陣を中心に賛同の渦が巻き起こる。 別れちゃえー! なんて無責任な言葉まで飛び交う。 「でもね、しき――じゃなくて彼氏が口が悪いのはわたしだけなの。 基本的には誰にでも優しいのに、わたしだけ例外。 その癖わたしが大変な時は、普段は子犬みたいな顔しているのに狼みたいなカッコいい顔つきで駆けつけてくれるんだ! 口の悪さだって、わたしへの愛情が隠しきれてなくて――――もう大好き! わたしの運命の人!」 『お、おおおおおぉぅ……っ!』 臆面もない壮絶な惚気《のろけ》に、感嘆の息による大合唱。 ……メロ……止メロ……シテ……殺シテ……。 俺がいったい何をしたっていうんですか神様。 自分への惚気話を同級生たちにしている光景を見せつけられるのは、いったい何の罪でどこの地獄に落とされたのでしょうか? http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/21
22: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:21:19.10 ID:FpkFq5Eu0 あれ? 弓塚まで地獄に落ちたような表情だ。 何で前の席に座っている弓塚の表情がわかるかというと、さっきからテンポが早いメトロノームにように教壇に立つアルクェイドと俺を交互に見ているからだ。 首をあまりに酷使しているせいか顔が真っ青だけど、大丈夫なんだろうか? 「えへへ。まだまだ語りたい事はいっぱいあるけど、これ以上は怒られちゃうからそろそろ授業を始めます」 ああ、そうか。 これ以上は俺に怒られると思ったか。 もうとっくにそのラインを越えちまってるんだよオマエ。 今なら秋葉の気持ちがわかるよ。 辛抱と困惑が頂点を過ぎると、少し愉快な気持ちになってくるってやつ。 俺の口から乾いた笑いが漏れてくるのもきっとそれなんだろう。 え、絶望による自暴自棄だから違う? そっか、秋葉は今の俺よりメチャクチャな心境だったのかな。 今日は寄り道せずに帰って当主さまのご機嫌を伺うとしましょうか。 ――そう心に誓ったところで、アイツが嬉々として黒板にアレやコレを書いている以上、平穏無事に帰宅できるわけがないのだけど。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/22
23: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:22:03.98 ID:FpkFq5Eu0 ※ ※ ※ 「はい。それじゃあ87ページ二段落目からの英文を――」 誰に当てようかと教室をアルクェイドが見渡すと―― 「はい!」 「先生! 俺が読みます!」 「バカ野郎! ここは俺に任せて先に行け!」 男子たちが次々と手を挙げて立候補する。 小学校の授業参観でもここまでの意気込みで手を挙げたりはしまい。 でかい図体になった高校生男子が目をキラキラ、もといギラギラとしながら挙手する見苦しい光景には理由がある。 それは―― 「それじゃあ先に行けって言われたそこのキミ、名前は――山田哲人くん! 読み上げてくれる?」 「シャッ!」 「しま……っ」 この通り指名された生徒はフルネームで呼ばれる権利を手にする。 名前を憶えてもらうには格好の機会というわけだ。 しかし最初はどうなることかと心配だったアルクェイドの授業だが、意外とまともというか――普通にわかりやすくて、その、なんだ……困る。 もともと知識量は並みの人間では太刀打ちできないほど豊富なんだ。 ただ人と会話した経験がほとんど……というよりまったく無かったため、知識を伝えるのが下手だったはず。 しかし俺を相手に少しは話し慣れたんだろう。 そのうえ授業の相手は俺と同年代の集まりで、さらにアル美先生への好感度は全員高く、邪念混ざりとはいえ授業に集中している。 これで相手が小学生だったりしたら、人間の幼体への対応経験が無い事で大苦戦したかもしれないが、このまま無事に授業が終わって―― 「――はい、という風に使い分けることができます。つまりこの文章を和訳したら――あ、手を挙げるのは今回は無しね」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/23
24: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:22:48.23 ID:FpkFq5Eu0 早押しクイズのように今か今かと手を挙げようとしていた男子たちを制止すると、アルクェイドは座席表を手に取る。 「先生が授業をするうえでやりたかった事の一つにね、これがあるんだ。 今日は〇×日だから、出席番号〇×番!」 「オイッス!」 「ん? 鈴木誠也くんはさっき当てたか。じゃあ無しで」 「なん……だと……?」 「う〜んと、今は9時17分だから、9+1+7で――」 どうやら学校の先生がよくやる、その時の日時で生徒を当てるのをやりたかったようだ。 いや、なぜそんな知識を持ってるんだアイツ。 もしかして今日に備えて学園を舞台にしたドラマや漫画をチェックしたのか。 「出席番号17番の宮田……んん?」 出席番号17番の宮田を当てようとしたところで、これまで順調だったアル美先生が初めて戸惑いを見せた。 教室に何とも言えない居たたまれない雰囲気が流れ、宮田は諦めたような笑みを浮かべる。 「ねえ宮田くん。貴方の下の名前は何て呼ぶの? へきくう、で合ってる?」 「……アル美先生。俺の名前は碧空《あとむ》です」 「へえ、音読みも訓読みも把握していると思ったんだけど、この名前はそういうのとは別に歴史的な経緯が生まれた読み方かしら。大和と書いてやまとと読むように」 「いや、歴史的な経緯は……ない……はずですよ?」 日本アニメ史を語る上で欠かすことのできない鉄腕アトムの存在《パワー》に押され、歴史的な経緯は存在しないと言い切れない宮田。 碧空をアトムと読む設定なんて無いから言い切っていいんだぞ、宮田碧空! 「あれ? うん……ちょっと待って」 おっと。 何かに気づいてしまったのか、座席表をまじまじと眺めるアルクェイド。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/24
25: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:23:40.65 ID:FpkFq5Eu0 「ねえねえ、そこの貴方。名前は大野……絆琉《はんる》で合ってる?」 「アル美先生。わたしの名前は絆琉《ほたる》って読んでしまうんです」 「ご、ごめんなさい絆琉ちゃん。間違えちゃって」 「ふふ。いいんです、読めるわけがありませんから」 「?」 沈んだ表情をしていた大野だが、アルクェイドの戸惑ってオロオロとした反応を見て思わず笑ってしまったようだ。 しかし当のアルクェイドはというと、いまいち状況が読み込めていない。 「どうしよう……他にもいる! おっかしいなあ。わたし日本語の読み書き覚えたと思ってたのに」 いや、日本で生まれ育った者でも初見では読めないから。 約束された勝利の剣と書いて、エクスカリバーと読むぐらい無理がある。 しかしキラキラネームの異様さに気がつけるのは日本語に熟達している証拠だ。 『外国の人なのにすごいなあ』 『うろたえるアル美先生も素敵だな』 『うろたえるアル美先生は美しい、きっと明日も美しいぞ』 ――という具合でアルクェイドを全員が見守り続けている中で、それは起きた。 「えーい、じゃあもういいや! 志貴! ここのジョージ・ナカタの言葉を訳してちょうだい!」 「ぐほぉ……っ」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/25
26: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:24:37.06 ID:FpkFq5Eu0 ヤケになったアイツは唐突に俺を名指しした。 待て待て、おまえ生徒はフルネーム呼びで“くん”か“ちゃん”を付けていたよな? なんで急に下の名前だけで呼び捨てにしてんだ! 「あっはっは。アル美先生が日本人の名前にキレた」 「良かったな遠野。わかりやすい名前で」 大丈夫か……? よし、俺が下の名前で呼び捨てにされたのは、アル美先生がキラキラネームに憤慨したからだと受け取められている。 誰も疑ってないぞ! ん、弓塚がカタカタと体を震わせているけど風邪かな? 「ほら、志貴。 早く訳してってば」 おう、おまえはちょっと黙ってろ。 ええと、ここのジョージ・ナカタの言葉だから――ああ、うん。 心を込めて訳せるな。 「――たわけ。口にしてはならない事を口にしたな、コルネリウス」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/26
27: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:25:22.70 ID:FpkFq5Eu0 ※ ※ ※ 「――という事があったんですよ」 「それはそれは……ご愁傷さまでした」 「いや〜、授業が思っていた以上に楽しくってテンションがつい上がっちゃって」 昼休みの茶道室での事。 俺の説明を聞き頬を引きつらせている先輩の横で、自分が何をしでかしたか自覚が足りないアシスタントティーチャーがいる。 俺もメガネ、先輩もメガネ、アル美先生もメガネという“磨伸映一郎のアンソロかな?”という空間を用意するのはそれなりの苦労があった。 急いでアルクェイドをとっ捕まえて事情を問いただしたいものの、相手はこの学校で渦中にいる人物。 うかつに接触して「“どうしたの志貴?”」なんて気安い態度を取られれば、哀れ遠野志貴は非業の死を遂げる。 学校関係者に注目されずにアルクェイドと接触を取り、人目のつかない所に誘導してくれる人物。 そんな頼りになる人、この学校どころか世界中に一人しかいなかった。 「休み時間に遠野くんが息を切らして走り込んで来て、何事かと思いきや……人間社会にここまでガッツリ関わるなんて」 「なにさ〜、みーんなわたしの授業を喜んでくれてるっていうのに」 こめかみを抑える先輩に、アルクェイドは口を突き出してブーたれる。 ――そう、問題はそこである。 このアル美先生によって迷惑をこうむっているのは、今のところ俺だけなのである。 これから三年の授業にも顔を出すなら先輩も被害を受けるだろうけど、基本的にうまくやっている以上頭ごなしに非難できない。 まあ授業中の俺への態度は断固として止めさせるつもりだが。 「しかしアシスタントティーチャーですか。それは確か大学生がバイトでする事が多いと聞きましたが……そこのところはどう設定したのですか?」 「近くに留学生の多い大学があったから、エチオピアからそこに留学している事にしたよ。 長いとボロが出て二人に迷惑かけるかもしれないから、期間は週二回で一ヵ月の短期アルバイト。 文書の方もばっちり!」 「おま……っ」 元気よく文書偽造したと言い張るのに突っ込もうとしたが、先輩が静かに目を逸らしたので止めておく。 うん、先輩も学校に潜入するために色々やらかしたようだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/27
28: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:26:09.36 ID:FpkFq5Eu0 「……まあいいとして、何でエチオピアなんだよ」 「国籍なんてどこでもいいでしょ? 最初はパキスタンにしようかと思ったけど、シエルってば国籍をインドにしてなかったから。 それで昨日志貴が食べてたドロワットを思い出してエチオピアにしたの」 ゲームでのプレイングキャラクターの所属をどこにするか、ぐらいの気軽さで答えるアルクェイド。 「アルクェイド、あのですねぇ。 魔眼や暗示を使って潜入する場合は、なるべく相手に違和感を覚えさせないのがセオリーでしょう。 エチオピアって貴女、不穏な情勢の国からの留学生というだけで目立ちますし、あそこの民族構成で貴女のような容姿はいません」 「うん、なんだかそうらしいね。 でも日本にだって両親が帰化して日本で生まれた別民族だっているでしょ」 「貴女はただでさえ目立つのに、悪目立ちする要素を付け足すなと言っているんです」 「何さ〜、悪目立ちなんかしてないも〜ん」 などと暴走機関車は供述しており、教会は余罪を含め厳しく追及していく方針です。 おっと。 余罪といえば、まずこれを確認しなければいけなかった。 「アルクェイド。おまえ、どうして学校に来ようだなんて思ったんだ」 アル美先生の衝撃が強すぎてその対応ばかり考えていたが、そもそもの動機は何なんだ。 その質問にアルクェイドは満面の笑みで答えた。 「うん、昨日食べたカレーが美味しかったから!」 ―――― ―――――――― ――――――――――――――――。 そう……か。 ……カレーが美味しかったから、か。 カレーが美味しかったなら、そりゃあ……仕方ないよな……。 メシアンのカレーは……本当に美味しいもんな。 「?」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/28
29: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:26:50.14 ID:FpkFq5Eu0 何となく……昨日のメシアンでの会話が関係あるんだと考えてたけど……そっか……カレーの方だったか。 あまりに突飛な返答に、頭が追いつかずに処理落ちしてしまっている。 ここは一つ落ち着くために深呼吸でもしよう。 「すうううううううううううぅぅ」 「ん〜?」 深く、深く、深く。 息を吐く事を忘れてしまったように息を吸い続ける。 そんな俺に吸い寄せられたのか、不思議そうに首をかしげながらアルクェイドが俺に顔を寄せる。 よし、肺に空気は満ちた。 敵はこれ以上ないぐらい至近距離。 ゼロ距離で奴の鼓膜を破壊でき――いや、待てよ。 大義は我にあり。 されど茶道室にて大音量でばか女と罵《ののし》る無作法はいかがなものか。 ここは息を吐く事を思い出して落ち着こう。 「はあああああああああああぁぁ」 「ひゃんっ」 吐息を間近から浴びて、猫のように驚きながらアルクェイドは飛びのく。 そんな可愛らしくて間抜けな姿を見て、少し溜飲が下がった。 「……このバカップルは」 いけない、先輩にジト目で見られてしまった。 クセになる前に話を進めなければ。 「――で、だ。 カレーが美味しかった事がなんで学校に来るのにつながるんだよ」 「シエルが言ってたでしょ。 カレーが気に入ったのなら、色んな種類を違うお店で食べたらいいって。 それってカレー以外にも当てはまると思ったの」 「……すると?」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/29
30: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:27:58.55 ID:FpkFq5Eu0 「わたしね、志貴と一緒にいるのがすごく好きなの。 でも志貴が人生で一番多く過ごしている学校という場所を良く知らない。 そこでの志貴をもっと知りたいと思ったの」 「――――――――――」 どうしよう。 こそばゆくて恥ずかしいけど、それ以上に嬉しい。 ずるいぞコイツ。 これじゃ怒るに怒れない。 「あ、ついでにシエルもね。 ふふ、わたしに悪目立ちするなって言っておいて、けっこうな評判じゃない貴方」 「な……っ! いったい何を聞いたんですかアルクェイド!」 「よっ、耶高《やこう》の万能先輩!」 「こ、このエチオピア人が……っ!」 「あっはっは。日系フランス人なのかインド人なのかハッキリさせてから言ってちょうだい」 頬を紅潮させて震える先輩を、ここぞとばかりに攻撃する自称エチオピア人。 「それにね」 今にも先輩と取っ組み合いを始めそうな雰囲気だったが、アルクェイドはふいに頬をほころばせた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/30
31: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:28:42.83 ID:FpkFq5Eu0 「前々から気になっていた学校という場所を、人がたくさんいる普段の状態でもっと見たかったのもある。 今日一日は新鮮な事ばかりで、たくさん笑って、困って、考えさせられた。 大勢の人に自分の考えを伝えるにはどうすればいいかなんて、ここに来なければ考える事は無かったと思う」 アルクェイドは楽しそうに――――幸せそうに笑う。 以前のこいつなら不要だと切り捨てていた無駄を、触れれば壊してしまうんじゃないかと不安に想いながらも、慈しむように愛しむように優しく語る。 「わたしは今、二人が普段過ごす学校という場所の一部になっているんだって感じられて――――人の営みの一部を、少しだけ理解できたように思える」 「――ああ。 理解してもらえたと感じられて、俺も嬉しいよ」 その柔らかな語りに眩しいものを感じて、自然と俺も優しく返事をした。 気づけばついさっきまで言い争っていた先輩も、目を細めてほほ笑んでいる。 こんなに無駄な事を、余分な事を味わって人生を楽しむアルクェイドを見られるのなら……こいつが学校に来るのも、悪くないか。 もちろんこいつが学校に来る事で予期せぬ事態はいくらでも起きるだろうし、その度に俺の心労は積み重なるだろうけど―― 「まあ、なんとかなるか」 この笑顔のためならば、なんて事はないに決まっている。 真昼の日差しが部屋に差し込むなかで、太陽に負けぬほど明るく笑う月の化身を見ながら――そう静かに確信した。 ……この甘い考えは、二日後に朝からサボらずに出席したとある悪友によって木っ端微塵にされるが、それはまた余談。 〜おしまい〜 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/31
32: ◆SbXzuGhlwpak [sage] 2021/09/27(月) 19:29:45.72 ID:FpkFq5Eu0 最後まで読んでいただきありがとうございました。 旧月姫ではアルクェイドとネロ教授が特に好きでした。 リメイク版ではアルクェイド、シエル先輩、秋葉さまが好きです。 また月姫のSSを書く機会があれば、お兄ちゃんと仲が良さそうにしている金髪の女に脳破壊される都古ちゃんを書くかもしれません。 次はデレステでちゃんみお・まゆ限定奉納SSを書く予定なんですが―― 2021. 9.30 MELTY BLOOD: TYPE LUMINA 2021.10.14 鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚 2021.10.14 アイドルマスター スターリットシーズン 次の投稿はだいぶ先になるかもしれません。 普段書いているおきてがみ(黒歴史) 【モバマスSS】凛「プロデューサーにセクハラしたい」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446375146/ 武内P「女性は誰もがこわ……強いですから」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486799319/ 武内P「ノンケの証明」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1602379126 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/32
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage] 2021/09/28(火) 00:42:52.23 ID:cD62eDrto 乙 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1632736983/33
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