結標「私は結標淡希。記憶喪失です」 (841レス)
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抽出解除 必死チェッカー(簡易版) レス栞 あぼーん

758: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:38 ID:2z6G7I5Go(1/26) AAS
あへあへバトルパートはこれでラストや長かったね

投下
759: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:39 ID:2z6G7I5Go(2/26) AAS
S10.距離

 第七学区と第一〇学区の境界線にある、吹き抜けで一階と二階が繋がった大型の倉庫。建物内は荒れていた。
 爆風が巻き起こり、砂煙が舞い、建物は揺れ、金属と金属が激しくぶつかり合うような音が幾度とも鳴り、崩れた天井が次々と床へと落下していく。
 災害とも言えるような現象。これは一人の少女と、一〇〇にも近い数の機械の獣によって起こされたものだった。

 少女の方は木原円周。
 ロケットのような速度で床から壁へ、壁から天井へ、天井から床へと、高速移動し、機械の獣を追う。
 彼女の拳を受けた壁はガラスのようにひび割れ、彼女の蹴りを受けたコンテナは針で突かれた紙のように穴を開けた。
 自分の体を顧みず暴れるように動き回る少女だったが、その体には砂煙による汚れのようなものが見えるが、致命傷のような傷は一切負っていなかった。

 機械の獣の方は暗部組織『メンバー』で作られた犬型のロボット『T:GD(タイプ:グレートデーン)』。
省26
760: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:40 ID:2z6G7I5Go(3/26) AAS
博士「どんな物語にも道化は必要ではないかね? 木原数多君」

数多「うっとおしいジジイだ」

博士「ところで、呑気に私などと談話などしていていいのかね?」

数多「あ?」
省25
761: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:41 ID:2z6G7I5Go(4/26) AAS
 怪訝な表情をする博士。駅前で裸踊りをしている男を見るかのような目だ。
 しかし、数多は気にせず続ける。

数多「あれってな、手玉の形や重さ、キューの先端の硬さや摩耗率、並んだ一五個の玉の位置関係、細かい反射角やその場の空気の流れ、テーブルの上に乗るチリ一つ一つ」

数多「他にもいろいろあるが、そういうのきちんと計算すれば誰でも一発で一五個の玉を、全てポケットに落としてやることができるんだぜ?」

 数多はウンチクでも語っているように得意げな表情をする。
 その意図がわからない博士は解せない様子で、
省31
762: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:41 ID:2z6G7I5Go(5/26) AAS
博士「――ま、まさか貴様っ、オジギソウをビリヤードの玉のように弾いて、あの工場に開いた穴から外へ全て放出したと言うのか!?」

博士「ありえん!! ナノサイズの粒子だぞッ!? たしかにそれが物理的な現象であれば不可能はない!! しかし、その計算結果を導き出すためにどれだけの情報量がッ、天文学的な数字がッ、それを再現する技術がッ!?」

 はぁ、と数多はため息をつく。

数多「もういいか?」
省27
763: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:43 ID:2z6G7I5Go(6/26) AAS
 外部に目立った外傷はない。木原円周に破壊されたわけではない。
 つまり、制御している側で何かあったということ。
 具体的に言うなら、襲撃。

 いつの間にか木原数多は博士の目の前に立っていた。
 見下ろす数多に対し、博士は見上げるように目を尖らせる。

博士「木原貴様ッ……!」

数多「何だその目は? 別に俺は何にもしてねえぞ」
省18
764: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:43 ID:2z6G7I5Go(7/26) AAS
 木原数多や博士がいる二つの学区を跨いで建てられた倉庫。
 そこから約一キロほど離れたところにある大型車両用のパーキングエリア。
 その中に一台の大型トレーラーが駐車している。
 暗部組織『メンバー』の遠隔地からのサポートを任務としている構成員の一人。馬場芳郎がそのトレーラーの中にいた。

 トレーラーの中は部屋のような構造をしており、中には通信機器や分析用のコンピュータ、そしてメンバーが使用しているロボットの制御装置を積んでいる。
 電子制御で開閉する扉は防弾・防爆仕様で、彼がここの扉を自発的に開けることがない限り、外からの侵入を許すことはない。
 いわば、ここはメンバーの司令室のようなものだ。馬場芳郎はこの中で指示やサポートを行っている。

 そんな鉄壁の部屋にいる馬場は椅子から転げ落ちるかのように、床に尻もちをついていた。
 彼の目線の先は部屋の入り口の扉。扉が壁側にスライドし、外から冷たい空気を室内へ送り込んでいた。
省33
765: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:44 ID:2z6G7I5Go(8/26) AAS
美琴「……やっぱりその声、あのときのヤツと同じだわ。婚后さんを傷付けやがったクソ野郎とまったく同じ」

 パチッ、と美琴の周囲に火花が走る。

馬場(ま、不味い。コイツ、まだあのときのことを根に持ってやがる……!)

 馬場は過去、婚后光子という少女と交戦し、倒し、痛みつけたことがあった。
 その少女は御坂美琴と友人関係にあったらしく、馬場はその件で激怒した彼女から手痛い報復を受けることになった。
省25
766: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:45 ID:2z6G7I5Go(9/26) AAS
美琴「ねえ。電磁波レーダーって知ってる?」

馬場「あが、あがが、がが、あば、ばばが」

 美琴が発した電撃波で舌がしびれて、うまく喋ることが出来ない様子だった。
 だが、気にせず美琴は話し続ける。

 
美琴「周囲に発した電磁波が物体に接触したときの反射波を利用して、周りの空間を把握できるってヤツなんだけど」
省27
767: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:45 ID:2z6G7I5Go(10/26) AAS
 一方通行は体の力を抜いたように両腕を垂らし、背筋を曲げながら立っていた。
 曲がっている背中から噴射するように飛び出した黒い翼は上へ上へと、核ミサイルにも耐える天井を突き破るように伸びている。
 長さは何メートルあるのかわからないが、あの先にあるあらゆる障害物は粉微塵に粉砕されていることだろう。

佐久「……何でだ」

 佐久は怪物を目の前にして恐怖を覚えた。
 体が震える。全身から絶えず嫌な汗が滲み出る。唾液が消えたように口の中が渇く。

佐久「何で能力が使えやがるんだテメェ!!」
省29
768: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:46 ID:2z6G7I5Go(11/26) AAS
一方通行「――――」

 何かをブツブツと呟きながら、ゆっくりと、まるで狙いをつけるかのように、一方通行は左手を目の前にかざした。
 それを見た佐久はブチッ、と血管が切れるような頭で鳴った。

佐久「――だから動くなと言ったはずだろうがッ!! 馬鹿かよテメェえええええええええええええええええッ!!」

 咆哮する佐久。
 その感情は指示通り動かない目の前の少年に対する怒りなのか。
 それとも正体不明のチカラに対する恐怖心からなのか。
 佐久はナイフを握った右手の力を強める。
省23
769: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:47 ID:2z6G7I5Go(12/26) AAS
 ダンッ!!

 見えない何かが佐久と激突した。
 トラックと正面衝突したような衝撃が、佐久の体全体に襲いかかる。
 彼の体はなすがまま後ろへ吹き飛ばされ、後方にあった硬い壁へ背中から叩きつけられた。
 肺に溜め込んだ空気が一つ残らず漏れ出ていく。

佐久「――ごぷっ」

 佐久へ与えられる苦痛はまだ終わらない。
 叩きつけられた体がそのまま壁に磔にされた。その見えない何かに押し付けられて。
 プレス機のように重く、ゆっくりな力で圧迫されて、肉体が壁の中へとめり込んでいく。
省21
770: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:48 ID:2z6G7I5Go(13/26) AAS
一方通行『……ここはどこだ? 俺は何をしていた?』

 一方通行は寝起きのようにぼーっとした表情で辺りを見回した。
 狭い通路のようだった。四、五メートルほどの幅で、長さは端から端まで二〇メートルくらいあるだろうか。
 通路の左右にある壁のようなところには、等間隔で扉のようなものが取り付けられていた。

 先ほどから『のような』と曖昧な表現をしているが、それには理由がある。
 この目に映る景色はたしかにそれらの物だったが、それぞれの物の輪郭がゆらゆらと揺れていた。
 まるで陽炎のようだ。触ったら消えてしまいそうな、本当はここに何もないのかと思えるような。

 曖昧な世界の中には一方通行以外の人がいた。
 いや、人と称するのは間違いかもしれない。その人影一つ一つの輪郭も揺らめいていたのだから。
省26
771: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:49 ID:2z6G7I5Go(14/26) AAS
 一方通行はもう一歩踏み出す。さらに歪む。

 もう一歩踏み出す。また歪む。

 ニ歩、三歩と近付いていく。顔がグチャグチャになるくらい歪む。

 一方通行は理解した。熊のような大男の影を殺す方法は簡単だったのだ。
 ただ近付くだけでいい。近付くだけで彼は苦しむ。
 つまり、一方通行にとって彼はゴールなのだ。彼との距離がゼロになれば、最上級の苦しみを与え、命を奪うことができるだろう。
 だから一方通行は、進む、進む、進む。道中に居る白い少年や金髪の少年、赤髪の少女や筋肉質な女の影たちへ、気を止めることなく一目散に。
省22
772: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:50 ID:2z6G7I5Go(15/26) AAS
 風斬氷華は『正体不明(カウンターストップ)』と呼ばれる少女だ。
 その正体は、学園都市に住む能力者たちが無自覚に発する『AIM拡散力場』が集まり、人の形をとった集合体。
 普段は『虚数学区』というAIM拡散力場が集合して出来た世界に住んでいる。
 虚数学区は学園都市と常に隣り合うように存在する世界だ。風斬氷華はそんな世界を行き来しながら生活している。

 今、彼女が立っている世界はそのAIM拡散力場で出来た世界だ。
 つまり、目の前に立っている一方通行という少年は、その世界に入り込んでしまった迷人ということになるのか。

 現実はそうではない。彼は一方通行ではなく、一方通行の形をしたチカラの塊だ。
 一方通行は今なお現実世界に存在している。破壊衝動のままに行動する戦闘マシンとして。
 意識が吹き飛ぶほどの衝撃を受けた彼の精神が、彼の能力を通してAIM拡散力場へと溶け出して、この世界へと現出させたのだ。
省22
773: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:51 ID:2z6G7I5Go(16/26) AAS
 具現体は顔をしかめた。自分の根幹を為す部分を否定されたような気がしたからだろう。
 存在意義を揺らされた具現体は考え込むように口を閉じる。
 風斬は畳み掛けるように、

風斬『あなたは結標さんを救い出すためにここに来たはずです。彼女を守るためにこの場所に立っているはずなんです』

風斬『恨んだ敵を殺すためなんていうそんなつまらない理由で、あなたはここにいるわけじゃないはずなんですよ』

 風斬は視線を地面に横たわった結標淡希の影へ向ける。
省27
774: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:51 ID:2z6G7I5Go(17/26) AAS
一方通行『コイツはあの女を傷付けやがった、痛み付けやがった、殺そうとしやがったァ!! クソみてェな理由でなァ!!』

一方通行『俺は排除しなきゃならねェ! 守るためにコイツを殺さなきゃいけねェンだ! コイツの存在そのものがあの女の存在を脅かしてンだよ! 俺が壊してやらなきゃ守れねェンだよォッ!!』

 彼の並べる怒りの文言を聞いた風斬は、反論する。

風斬『そんなことをして、彼女が本当に喜ぶと思っているんですか!?』
省35
775: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:52 ID:2z6G7I5Go(18/26) AAS
 ふらふらとした足取りでも結標淡希は最短距離を進んでいく。黒い翼を持つ白い怪物へ向かって。
 視界の端にいる金髪の少年が何かを言っているようだったが、今の彼女には何を言っているのかわからなかった。
 それほど疲弊した少女は、歩きながらも考える。
 なぜこんなことをしているんだろう。結標は心の中で小さく笑った。

 こんなにも痛いのに、苦しいのに、疲れているのに。
 だけど、震える足をゆっくりと動かして、一歩一歩たしかに前へと進んでいく。

 こんなにも怖いのに、怖いのに、怖いのに。
 だけど、決して目を逸らすことなく、少年を見つめている。

 自分に何が出来るのかなんてわからない。自分が何をすべきなのかなんてわからない。
省33
776: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:52 ID:2z6G7I5Go(19/26) AAS
 結標は決意した。
 少女は自分の腕を一方通行の首へ回し、引き寄せるように身体を密着させる。
 彼の全てを受け入れるように。彼の全てを迎え入れるように。

 二人の距離がゼロとなる。

 ザザザッ!! 一方通行の背中から噴射する翼が、結標の腕を掠めるように接触した。
 皮膚が剥げ、肉が千切れ、血液が飛び散る。意識を刈り取ってしまいそうな激痛が襲いかかってくる。

結標「一方通行……」
省15
777: ◆ZS3MUpa49nlt [saga] 2022/01/15(土)23:54 ID:2z6G7I5Go(20/26) AAS
一方通行「がァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 怪物が咆哮する。それに呼応するように黒い翼が爆発的に噴射される。
 バキバキィ、と抱き寄せている腕から嫌な音が鳴るのが聞こえた。
 だが、結標はやめない。

結標「だってそうでしょ?」

 顔を耳元から離し、一方通行の顔を正面から見据えて、
省18
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