【ミリマス】人形の願い (51レス)
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23: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:31 ID:o0P+gXsG0(23/49) AAS
「……アイドルの話は、前向きに検討させてもらいます」

「それは何よりです」

プロデューサーさん、嬉しそう。
単なる社交辞令なのに。

……うん。
でも、ちょっと違うかな。

正直に言って、アイドルへの興味はない。
でも、この人なら大丈夫かもって、そんな気がする。
何の保証もないけど。
省6
24: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:32 ID:o0P+gXsG0(24/49) AAS
***************************

プロデューサーさんは、桃子のことを心配してた。
会ったばっかりなのに。
きっと、アイドルじゃなくてもいい、みたいなことまで言おうとしてた。
桃子のことをスカウトしに来たのに。

でも、その言葉は聞きたくなかった。
最後まで聞いちゃったら、向き合わなくちゃいけないから。

時々感じてた疑問とか、不安とか。
そういう、ボンヤリとしたものがはっきりしちゃいそうだったから。
省4
25: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:32 ID:o0P+gXsG0(25/49) AAS
演技のお仕事は好き。
それはずっと変わらない。

じゃあ子役のお仕事は?
今はもう、すぐに好きって答えられなくなってる。
別に嫌いになったわけじゃない。
ただ、何かが邪魔して、簡単には答えられないんだ。

『その時の空虚な表情が、今も脳裏にこびりついているんです』

あの時のプロデューサーさんの言葉が耳に残ってる。
こうやって冷静になれて、気付いちゃったんだ。
省6
26: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:33 ID:o0P+gXsG0(26/49) AAS
「……人形、か」

いつか聞いた泰葉さんの言葉を思い出す。
泰葉さんは子役の時、自分を人形って言ってた。

でも、この前テレビで見た泰葉さんはそうじゃなかった。
人形なんかじゃなくて、泰葉さんだったんだ。
アイドル岡崎泰葉を演じてたわけじゃない。
それくらいは分かるもの。

桃子もあんな風になりたいの?
……分からない。
省8
27: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:33 ID:o0P+gXsG0(27/49) AAS
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今日の収録は予定通りに進行したから、まだ時間はある。
でもやっぱり、待たせるのはよくないよね。
だって、桃子がお願いして来てもらってるんだし。

小走りでスタジオを出ると、もうプロデューサーさんは待っていた。
約束の時間まで、まだ三十分くらいあるんだけどな……

「遅れてごめんなさい」

「はは、仕事柄待つのには慣れてますから」
省6
28: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:34 ID:o0P+gXsG0(28/49) AAS
「……どういうこと?」

謝るくらいなら最初から言わなければいいのに。
ジト目でプロデューサーさんを見上げる。
ま、言い訳くらいは聞いてあげましょう。
桃子は優しいからね。

「今日も周防さんの仕事を見学してましたので」

……全然気づかなかった。
桃子、スタジオ内の人たちのことは一通り把握してたと思ってたんだけどな。
っていうか、それならそれで声をかけてくれればいいのに。
省9
29: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:34 ID:o0P+gXsG0(29/49) AAS
「ありがと、プロデューサーさん」

ともかく、桃子のことを考えてくれたお礼を伝える。
プロデューサーさんは目を丸くして頭を掻いてる。
別に変なことを言ったわけじゃないと思うんだけどな。

「あなたは……いえ、行きましょうか」

歩き出したプロデューサーさんの後について行く。
何を言おうとしたんだろう。

背中を見ながら歩いていると、すぐ近くの駐車場に着いた。
プロデューサーさんは後部座席のドアを開けてこっちを見てる。
省4
30: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:35 ID:o0P+gXsG0(30/49) AAS
車が走り出しても、しばらくの間は無言だった。
こういう時、どうやって話せばいいか分からない。
話を聞いてもらいたいって思ってたのに、声が出てこない。

膝の上の自分の手と、ミラー越しのプロデューサーさんの顔を見比べて。
何度か口を開いて、また閉じて。
そんなことをずっと繰り返していた。

赤信号で車が停まると、コポコポって音が聞こえてきた。
何だろうって顔を上げると、目の前に紙コップが差し出されている。
思わず受け取って、プロデューサーさんを見る。
省11
31: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:36 ID:o0P+gXsG0(31/49) AAS
「そういえばさっき、何を言おうとしてたの?」

自分でも驚くくらい、スッと言葉が出てきた。
信号が変わって、車がゆっくりと動き出す。

「さっき?」

「駐車場に行く前、何か言いかけてたでしょ?」

あの時のプロデューサーさんは、なんだか悲しそうに見えた。
驚いてるようにも見えたし、何かを我慢してるようにも見えた。
何でそんな顔をしたのか、桃子には全然わからない。
省4
32: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:36 ID:o0P+gXsG0(32/49) AAS
「周防さんは私が口にしていないことまで察していましたよね」

そうだったっけ?
でも、そういうのは当たり前だと思ってた。
現場でも、あいまいな指示しか出さない監督さんとかよくいるし。

「これだけ歳が離れていれば、普通はそんなことできないんです」

普通、っていう言葉が引っ掛かった。
それはつまり、桃子が普通じゃないってことだよね。

「そうならなければならなかった環境を思うと、ね」
省13
33: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:37 ID:o0P+gXsG0(33/49) AAS
――――――
――――
――

演技のお仕事が好きなこと。
子役のお仕事に迷いが出始めたこと。
お父さんとお母さんが、段々仲が悪くなってること。
岡崎泰葉さんのこと。

言わなくていいことまで言っちゃった気がする。
だってプロデューサーさん、相槌打つの上手なんだもの。
省3
34: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:37 ID:o0P+gXsG0(34/49) AAS
自然と視線が険しくなる。
運転中のプロデューサーさんは気付いてないみたいだけど。

「同じ芸能界ですから、これまでの周防さんの経験を活かせますよ?」

桃子に見えるように指を一本立てる。
怪しげなセールストークを聞いてる気分になってきた。
ついさっきまで、頼りになる感じだったのになぁ。

「その経験は、我々にとっても大きな助けになりますし」

二本目の指が立った。
そういう打算的な話は、今は聞きたくなかったのに。
省7
35: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:38 ID:o0P+gXsG0(35/49) AAS
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車を降りて少し行くと、遊歩道があった。
木漏れ日の中、二人並んで歩く。

小川を流れる水の音が耳に優しい。
周りの木立が街の音を遠くに感じさせる。

「なぜ周防さんをスカウトしたのか、という答えなんですが」

遊歩道と小川が交差して、小さな橋が架けられていた。
その手前のベンチに腰かけて、プロデューサーさんが話し出す。
省4
36: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:38 ID:o0P+gXsG0(36/49) AAS
ざあって木の葉が鳴って、風が通り過ぎていく。
木漏れ日が小川に反射してる。

なんでか分からないけど、プロデューサーさんは楽しそうな表情だった。
桃子なんかよりもずっと子供っぽい顔をしてる。

どうしてそんな顔ができるの?
どうやったらそんな顔ができるの?

「分かんないよ」

だって、そんなもの必要なかったもの。
ちゃんと演技をして、いい子でいれば問題なかったもの。
省4
37: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:39 ID:o0P+gXsG0(37/49) AAS
「これはあくまで、ウチの事務所の考え方、ですが」

桃子の疑問にそう前置きして、プロデューサーさんが話し出す。

「アイドルに必要なのは、等身大の姿なんです」

無理に求められる役をこなすんじゃなくて、ありのままで。
そういう姿を見せることが大事なんだって。

……そんなの、綺麗事だよ。
それだけでやっていけるほど、芸能界は甘い所じゃないもの。
省9
38: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:39 ID:o0P+gXsG0(38/49) AAS
「さて、周防さん」

プロデューサーさんがこっちを向く。
こうやって話し出してから、初めて目が合った気がする。
桃子を見る目があんまり真っ直ぐだから、気付いたら背筋が伸びていた。

「あなたは、どうなりたいですか?」

その声が、深い所で反響する。
短い質問に、すぐに答えが出てこない。

「桃子が、どうなりたいか……」
省5
39: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:40 ID:o0P+gXsG0(39/49) AAS
最初はただ、言われたとおりにしてただけ。
それだけでお父さんもお母さんも褒めてくれた。
それが嬉しくて、喜んでる顔がもっと見たくて。
だから桃子は、演技のお仕事が好きになったんだ

それが段々と、楽しいだけじゃダメになっていった。
周りの人からの期待を感じるようになって。
それに応えないといけなくなっていった。

普段から子役周防桃子を演じるようになって。
そうしていると、新しいお仕事だって貰えるようになった。
省7
40: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:40 ID:o0P+gXsG0(40/49) AAS
目を開けると、同じ姿勢のプロデューサーさんがいた。
桃子の答えをじっと待ってくれてた。

「桃子、大人になりたい」

桃子にできる事なんて、何もなかったのかもしれない。
でも、だからって、何もしなくていい訳じゃなかったんだ。
探せば、何かあったかもしれない。
ほんの少しでも、今とは違ってたかもしれない。

「もう、同じ後悔はしたくないから」

分からなくても、怖くても。
省5
41: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:41 ID:o0P+gXsG0(41/49) AAS
「私で良ければ、ぜひお手伝いさせてください」

プロデューサーさんの顔を見て我に返る。
桃子、何でこんなことまで喋っちゃったんだろう。

でも、後悔とかはあんまりない。
桃子のことをちゃんと受け止めてくれてるのが伝わってくるから。

……桃子にお兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかな?

「今回のプロジェクトでは、幅広い年齢層から、様々な個性の持ち主を募集する予定です」
省10
42: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:41 ID:o0P+gXsG0(42/49) AAS
「なんで言い切れるの?」

だって、会ったばっかりじゃない。
だって、お互いに知らないことの方が多いじゃない。

それなのにプロデューサーさんは笑ってる。
木漏れ日を浴びながら、自信満々に。

「勘です」

「…………え?」
省3
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