【ミリマス】人形の願い (51レス)
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3: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:20 ID:o0P+gXsG0(3/49) AAS
「……アイドル?」
突然出てきた言葉に、頭がちゃんと回ってくれない。
アイドルって、あれだよね。
ステージで歌って踊って。
時にはバラエティタレントみたいなお仕事もして。
そのアイドルに、桃子が?
「はい」
しっかり目を見て頷いた男の人から名刺を受け取る。
芸能事務所765プロダクション。
省6
4: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:21 ID:o0P+gXsG0(4/49) AAS
「今、弊事務所では新プロジェクトを立ち上げているところなんです」
これまでの少数精鋭から一転して、大規模な新人募集を行う。
併せて新設する劇場を拠点として活動していく。
プロデューサーさんは、そういう説明をしてくれた。
「そのプロジェクトに、桃子を……?」
「やってみたいと、そう思ってもらえるなら」
省8
5: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:21 ID:o0P+gXsG0(5/49) AAS
……じゃあなんでこの話を桃子に?
そんな疑問が浮かんできて、一つ閃いたことがある。
この人は、変に誤魔化さずにちゃんと答えてくれる。
何となくなんだけど、そんな気がするんだ。
「何で桃子なの?」
これはきっと、イジワルな質問だと思う。
だから、逆に聞いてみたくなった。
「桃子が、子役の周防桃子だから?」
きっと、あの時の事を思い出したからだ。
省2
6: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:22 ID:o0P+gXsG0(6/49) AAS
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家に帰っても誰もいない。
だからご飯も一人で食べる。
そんなことにもいつの間にか慣れちゃった。
ご飯を温め直してる間にリビングのテレビをつけて。
ニュースにバラエティ、ドラマ……
適当にチャンネルを変えるけど、これっていうのがない。
「まあ、見たいものも特にないんだけど」
独り言をこぼすと、画面に音楽番組が映った。
省7
7: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:22 ID:o0P+gXsG0(7/49) AAS
「いただきます」
きちんと手を合わせる。
もちろん返事なんてないんだけど。
用意してくれたお母さんに、ありがとうを忘れないようにしたいから。
テレビからはアップテンポな曲が流れ出した。
三人組の男の人が踊りながら歌ってる。
誰だっけ、どこかで見た気がするんだけど。
「うん、美味しい」
一人の食事は味気ない、なんて話はよく聞く。
省3
8(1): ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:23 ID:o0P+gXsG0(8/49) AAS
『それでは、続いてのゲストです』
ふと気づくと、さっきのグループの出番は終わっていた。
真面目に聞いてたわけじゃないけど、サビの部分が耳に残ってる。
後で曲名調べておこう。
『近頃人気急上昇中のアイドル、岡崎泰葉さんです』
「え……?」
手が止まって、目は画面に釘付けに。
聞いたことのある名前が、聞いたことのない紹介をされていたから。
省5
9: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:23 ID:o0P+gXsG0(9/49) AAS
『いやー。久しぶりだねぇ、泰葉ちゃん』
『ふふ、その節はお世話になりました』
『あの泰葉ちゃんが、今や立派なアイドル!』
『いえ、まだまだです』
画面の向こうでは、親しげなやり取りが交わされている。
この司会の人とは一緒にお仕事をしたことがある。
省4
10: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:24 ID:o0P+gXsG0(10/49) AAS
『それでは岡崎さん、よろしくお願いします』
記憶を辿っているうちに、泰葉さんのステージが始まる。
最初は別に、そんなに興味もなかった。
一緒にお仕事をしたことはあっても、仲良しってわけじゃないし。
泰葉さんを意識してたことはあったけど、それも昔の話だし。
ただ、チャンネルを変える理由が見当たらなかっただけ。
……そのはずだったのに。
いつの間にか、画面から目が離せなくなっていた。
歌もダンスも、特別上手ってわけじゃない……と、思う。
省13
11: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:24 ID:o0P+gXsG0(11/49) AAS
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どんな答えが返ってくるんだろう。
答え次第では、もうちょっと考えてあげてもいいかな、なんて。
「……ふぅ」
小さなため息が聞こえた。
その表情は降参、って言ってるみたい。
「そうですね。それがないとは言い切れません」
省8
12: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:25 ID:o0P+gXsG0(12/49) AAS
「ですが、あくまでそれはきっかけです」
プロデューサーさんがこっちを真っ直ぐに見てる。
相変わらず柔らかい表情だけど、声は真剣だ。
この人はきっと、本当のことを話してる。
それが伝わってきた。
「じゃあなんで?」
「周防桃子さんを見たくなったんです」
「……意味分かんない」
省10
13: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:25 ID:o0P+gXsG0(13/49) AAS
「だから余計に、気になったんです」
プロデューサーさんの表情が引き締まる。
重要で、でも言いにくい何か。
本当にそれを言っていいのかどうか、迷ってるみたいな顔だった。
「いいよ。怒らないから言ってみて」
先回りしてあげると、少しだけ緊張が解けたみたい。
小さく息を吐き出した後、続きの言葉をくれた。
「出番が終わったあとの表情が、です」
省5
14: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:26 ID:o0P+gXsG0(14/49) AAS
「ですが、現場の皆さんから周防さんへの意識が切れた時です」
えっと……?
桃子、何か変なことしてたっけ。
思い当たるものがないんだけど。
「その時の空虚な表情が、今も脳裏にこびりついているんです」
いきなり頬っぺたを叩かれたような衝撃だった。
頭の中が真っ白になって、プロデューサーさんの言葉が呑み込めない。
「誰であれ、あんな表情をさせてはいけないと、私は思うんです」
省9
15: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:27 ID:o0P+gXsG0(15/49) AAS
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あれは確か、泰葉さんと初共演した時のこと。
名前のある役が貰えたのは、それが初めてだった。
主演の泰葉さんに挨拶に行って、そこで聞いたんだ。
泰葉さんみたいになるにはどうすればいいの、って。
そのお仕事が貰えた時、お父さんもお母さんも喜んでくれたから。
もっともっと頑張れば、もっともっと喜んでくれるって、そう思ったから。
だから、天才子役、なんて言われていた泰葉さんに聞いてみたんだ。
「私みたいな人形には、ならないほうがいいよ」
省6
16: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:28 ID:o0P+gXsG0(16/49) AAS
それが分かったのは、ずいぶん後になってから。
周防桃子の名前が売れてきて。
メインの役も貰えるようになって。
子役っていうお仕事が分かるようになってからだった。
どんなに凄い演技ができても、子どもじゃダメなんだ。
だって、子どものワガママで迷惑をかけちゃいけないから。
スケジュールの遅れは、関係者全員に影響する。
現場や裏方はもちろん、場合によってはスポンサーにまで。
それがどういうことかを、ちゃんと理解してないといけないんだ。
省6
17: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:28 ID:o0P+gXsG0(17/49) AAS
そんな子ども、どこにいるんだろうね?
そんなの、見た目が子どもなだけの大人じゃない。
役という衣装を着せられて。
ポーズも表情も望まれるままに。
必要のない時は手を煩わせることなく。
……ホント、お人形さんだよね。
でも、桃子はそんなに嫌じゃなかった。
演技のお仕事は好きだし。
それ以外のことだって、プロとして当たり前のことだもん。
18: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:29 ID:o0P+gXsG0(18/49) AAS
でも一つだけ、損したかなって思うことがある。
桃子には、外で一緒に遊ぶような友だちがいない。
別に友だちがほしいとか、そういう話じゃないんだけど。
クラスのみんなには、桃子が別世界の人のように見えるみたいなんだ。
テレビに出るお仕事をしてるんだから、当然だよね。
それに、桃子にとってクラスのみんなは子ども過ぎるんだ。
別にみんなが悪いわけじゃないのは分かってるよ。
だって、子どもが子どもなのは普通のことだもの。
だから、桃子とみんなの間には壁があるんだ。
省1
19: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:29 ID:o0P+gXsG0(19/49) AAS
その壁は、桃子とその周りの大人との間にもある。
みんな、桃子のことをちゃんと見ないで子ども扱いするんだ。
確かに桃子は、お仕事の時は子どもっぽく振る舞ってるよ?
だって、桃子みたいな子どもが生意気なことを言うと、大人は気にするんだもの。
それで現場の雰囲気が悪くなったら、お仕事に影響しちゃうかもしれないじゃない。
大体の人は、そんな桃子の考えまでは理解してくれない。
目に見える分かりやすい姿だけで判断するんだ。
「ま、別にいいんだけどね」
そういうものだっていうことは分かってるし。
省1
20: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:30 ID:o0P+gXsG0(20/49) AAS
……でも。
時々考えちゃうんだ。
もし桃子が子役をやってなかったら、って。
クラスのみんなと普通に友だちになって。
休みの日にはみんなと一日中遊んで。
子ども扱いにモヤモヤすることもなくて。
そういう、ただの周防桃子だったらどうなってたんだろう、って。
子役として有名になっていくと、お父さんとお母さんは段々仲が悪くなっていった。
きっと桃子が、子どもらしくない子どもになっちゃったからだ。
省6
21: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:30 ID:o0P+gXsG0(21/49) AAS
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よく分からない何かが頭の中を掻き回してクラクラする。
閉じた目を開くと、自分の靴が見えた。
視界がまだ少し暗い。
「私はアイドルのプロデューサーです」
静かな声だった。
なんでか分からないけど、スッと耳に入ってくる。
「私にできるのは、周防さんをスカウトすることだけです」
省8
22: ◆Hnf2jpSB.k [sage saga] 2019/06/20(木)01:31 ID:o0P+gXsG0(22/49) AAS
「失礼しますね」
プロデューサーさんが、テーブルに置きっぱなしになってた名刺を裏返す。
何か書いてるけど、これって……電話番号?
「縁が薄い相手の方が言いやすいこともありますから」
そんなことを言いながら、もう一度名刺を差し出してくる。
手書きの電話番号は、表にあるのとは違う番号だった。
個人的な番号、ってことだよね。
愚痴くらいなら聞きますよ、ってことなんだろうけど。
こういうことする意味、分かってるのかな。
省3
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