【デレマス】 偶像ルネッサンス (91レス)
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52: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/23(火)23:40 ID:8+PeY8Rzo(42/42) AAS
今日ここまで
不定期マイペース更新
53: 2019/04/24(水)04:27 ID:Ym4xYWUSo(1) AAS
続けて
54: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:41 ID:LYkOi8G4o(1/11) AAS
 
──────

同事務所所属、またグループリーダーでもある長富をアイドルとして高く評価する安部。
下積み時代の長かった安部に対し、それ以前のキャリアがない状態からデビュー初年でトップアイドルの仲間入りを果たした長富、
一見して正反対の性質を持つ者同士にも感じ取れるが、彼女が長富をリスペクトする要因はアイドルとしての内面の奥深くにあると語る。

そんな二人のファーストコンタクトは、346プロダクションではなかった。

──自主活動をなさっていた安部さんのライブ会場に観客として訪れた長富さんと出会ったのが、お二人の初対面だと伺いました。

安:そうなんです。
省7
55: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:43 ID:LYkOi8G4o(2/11) AAS
AA省
56: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:46 ID:LYkOi8G4o(3/11) AAS
 

  “あらあら、劇場に迷い込んじゃったんですか?”

    “ごめんなさい……”

  “心配要りませんよ。 一緒に交番へ行って、お母さんを探しましょう!”

    “あ、ありがとう……”
省6
57: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:48 ID:LYkOi8G4o(4/11) AAS
 
 *

アイドルを目指して東京で活動を続けてきて幾年経つ間に安部菜々が見てきたものは、決して夢の世界へ続く明るい光ばかりではなかった。

その多くは、叶わぬ夢を追い続けることへの焦りと、挫折、周囲からの重圧、あるいは現実を突きつけられたことによるある種の達観、諦観。
自分の足下すら確かでない道のりは果てしなく伸びて映り、
残してきた足跡は涙でぬかるんでいる。
両脚にこびりつくその泥を払いのける暇もなく突き進んだ結果の、「ウサミン星人」としての自分の姿。
この地下劇場に囚われの身と成り果てた哀れな偶像の姿は、きっと見るものにこう思わせるだろう。

彼女は“アイドルのはみ出し者”だと。

共に高みを目指すことを誓い合った初めての仲間は、今どこにいるのだろうか。
省2
58: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:49 ID:LYkOi8G4o(5/11) AAS
 
それでも自分だけは投げだしたくなくて、今日まで地道にアイドルをやってきた。
一度も報われないまま、気づけば菜々も17歳。
来年には17歳になってしまうし、あと3年もすればすっかり17歳。
さすがに17歳ともなれば、身体的にもこうやって自主的にアイドル活動を続けるのは困難になってくるかも知れない。
もう少し若い頃……17歳の頃なら、まだこの道に希望を見いだしていたものだが。

──冗談にもならない自虐は、本当に笑えない。

それでも菜々にはアイドルしかないのだ。
人並みの幸せは故郷に置いてきた。
例え日の目を見なくとも、泥臭く、無様にしがみついてアイドルをやっていくしか菜々は知らない。
省4
59: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:50 ID:LYkOi8G4o(6/11) AAS
 
──────

 2017年・4月

──────
60: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:52 ID:LYkOi8G4o(7/11) AAS
 
 *

今日のステージはいつにも増して観客が少ない。
両手で数えられる程度だろうか? ほとんどが常連の、見覚えのあるファンの面々だった。
平日とはいえ、余計に広く感じるこの地下劇場を、それでも菜々は最大限に盛り上げようと努めた。
菜々にとっては毎日こなしているこのステージでも、今いるこの観客、彼らにとっては彼女を見る最後の機会かもしれない。
この場にいる全員に心から楽しんで帰ってもらいたい。それがアイドルとしての義務だと菜々は心得ていた。

何曲か連続でパフォーマンスをしてきたので、すでに声は枯れる寸前で、
腕振りやジャンプといった一つ一つの振り付けに筋肉は軋み、削り取られていく心地すらする。
滝のような汗は目に入って視界も歪むし、体格に似合うサイズしかないであろう肺の膨縮はもはや息継ぎすら満足にこなすに足りない上、
省9
61: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:53 ID:LYkOi8G4o(8/11) AAS
 
 *

「以上! 新曲『ウサミン伝説最終章・第4話・その8』を聴いていただきました−!
 みんなー、自主制作CD、良かったら買ってくださーい!」

ぱらぱら、とまばらな拍手が寂しく広がる。
客席にいた何人かは曲の終わりと同時に帰ってしまったし、
照明が点いて明るくなった地下劇場は垂れ幕で壁を覆っているだけのあまりに殺風景な場所で、
演奏が終わった後のこの時間は菜々にとってあまりに心細い。それでも笑顔は絶やさない。

「……それじゃあ、またステージでお会いしましょうー!!」
「おーうナナちゃん、またなー」
省11
62: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:55 ID:LYkOi8G4o(9/11) AAS
 
「あれあれ、あの人たち、帰られないんですかね?」
「……あ、あぁ……そういえばそうだね」
「あの、私声かけてきます!」
「そうかい……なら頼むよ」

いってきます、と小走りで向かっていった菜々に、先ほどの二人がようやく気づいた。

「本日はお越しいただきありがとうございます! あの、今日の公演はもう終わってしまって……」
「あぁ、悪い。 この子が気になるからってちょっと覗きに来ただけなんだ」

二人組の片割れ、若い男がそう言って隣の少女を指さした。
明らかに大人の男性と、まだ高校生くらいの女の子がなぜこんな場所に揃って居るのか、
省6
63: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:56 ID:LYkOi8G4o(10/11) AAS
 
心の奥底がざわつくのをはっきりと感じた。
名も知らぬその少女は、キリッとした細い眉と対照的な、穏やかなる下がり目。強さと儚さを同時に含んだような、特徴的で綺麗な顔立ち。
彼女が美人だから目を引かれたのだろうか?
──それもあるだろうけど、なんだか……。

確信の持てない引っかかりを表情の後ろへ隠すように、菜々はあくまでいつも通りの営業スマイルを貫いた。

「……あ、もしかして握手をご希望ですか? でしたら、ささ、こちらへ!」
「いや、別に握手は……なぁ、長富」
「あ、いえ……その」
「……あら……違うんですね……」
省5
64: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/28(日)23:58 ID:LYkOi8G4o(11/11) AAS
 
一日で二人以上のファン──たまたま来てみただけとも言っていたが、一度会えば彼女にとってはもう大切な──と交流をしたのは久しぶりだった。
それだけで菜々のこの一瞬は満たされたものになる。
先の見えないアイドル活動であったとしても、少なくとも明日への活力にはなる。

「改めまして、永遠の17歳、メルヘンアイドル・ウサミンこと安部菜々をよろしくお願いいたしまーす!!」

本日最後のお客さんを元気よく見送って、菜々の長い一日もようやく終わった。
劇場の扉がうるさく閉じられたのを確認して、うっすらと綻んだ顔のまま、菜々はそそくさと管理人の元へ戻る。

「ふぅ〜……今日もバッチリでしたね!」
「あぁ…………あのさ、ナナちゃん、言いにくいんだけどね」
「はい? なんでしょう」
省4
65: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/29(月)00:01 ID:uFnZQdOAo(1/26) AAS
 
 *

ノイズ混じりの裂けるようなギターソロ、そしてくぐもったベース音が頭にガンガン響きわたり、クラクラした心地すら覚える。
いつも浴びているはずの大音量も、ステージ上と観客スペースでは感じ方がこうも違うのかとぼんやり考えながら。

数日経って、菜々は出番の合間、衣装の上から一枚だけ羽織って控え室から飛び出し、同僚アイドルのステージを眺めていた。

菜々が数年来立ち続けたこのステージも、どうやらあと一月待たずになくなってしまうらしい。
今になって考えれば、日々のあの客足で大丈夫かと早々に心配しておくべきだったのに、そこまで経営が苦しいとは想像していなかった。
要するに自分のことのみで精一杯だったのだ。
劇場の管理人は優しい男だし、これまで菜々自身も良くしてもらっていた。お人よしの少々気弱なおじさまだ。
だがそういう甘さで乗り切れるほど、この地下アイドルの世界も優しくなかったということだ。
省8
66: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/29(月)00:05 ID:uFnZQdOAo(2/26) AAS
 
「休憩中か?」

曇ったスポットライトの光を長時間見つめていたせいか、慣れない暗闇の先から話しかけられても姿が認識できない。
ただ、その声には聞き覚えがあった。

「あっ、この間の……あれから、何度か来てくださってますよね」
「どうした? 辛気くさい顔して」
「あ、いえ、なんでもないんです! すみません」

思わず男の居ない方を向いて、顔をパンパンと叩いた。

「今日は、あの女の子とは一緒じゃないんですか?」
「あいつは今日は別用でな。 俺だけここに来た」
省8
67: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/29(月)00:07 ID:uFnZQdOAo(3/26) AAS
 
「長いことここで頑張ってきました……いつまで経っても全然売れないし、昔の同僚は結婚とかしていってるのに、ナナはずっと変わらずアイドルやってるまま
 ……きっと笑われちゃいますよね」

珍しくこんなにあっさりと弱音を吐けることが、自分のことながら不思議に思えてくる。
ようやく男の顔がうっすらと判別できるようになってくると、今度は何だか気恥ずかしくなってもう一度、
フィルムを被せて原色に染めただけの安っぽいライトの照らす先を見つめた。

「んー……ま、そうかもな」
「分かっていただけますか、ナナの気持ち……」
「確かにあんた、今時ベッタベタな設定てんこもりだもん」
「ちょっ……せっ、設定とか言わないでください! ナナはこれでも真剣なんですっ」
省7
68: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/29(月)00:12 ID:uFnZQdOAo(4/26) AAS
 
「アイドルっていうのは弱肉強食です。 表舞台に立つチャンスに恵まれなかった私は、こういう日陰の場所に追いやられる……
 私はただ、大人になれずにいつまでも夢にしがみついているだけの惨めな“ウサミン星人”」
「ウサミン星人ねぇ……」
「メルヘンだの永遠の17歳だの、バカバカしいと思いますか? だったらそれでもいいんです。
 それが子供の頃からの憧れでした……だから、こうやってずっとそれを守ってアイドルをやっているんです」

無意識に語気が強まるのを感じ取って、とっさに冷静さを保つよう努めた。

「自分のアイドル像を認めてくれる人が少ないのなんて分かってるんです。 時にはバカにされたり、笑われたりなんて普通です。
 それでもナナは、自分にだけは嘘はつきたくないと思って……これでも一生懸命やってきました」
「……だろうね。 あんたみたいなの、今時珍しいと思う」
省10
69: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/29(月)00:13 ID:uFnZQdOAo(5/26) AAS
 
「これからどうしましょう。 他に歌わせてくれる劇場を探さなきゃ……
 もっとも、こんな実績も何もないアイドル、受け入れてくれる場所なんてないかもしれませんけど……」

──もし他の劇場が見つからなかったら、そのときこそ本当に、メルヘンアイドルは死ぬんだろうな。

「……あは、あはは……さすがに自分で言ってて悲しくなってきました」
「いや、違うな」
「えっ……?」

思わず男の顔を見て、次の一言を待った。

「俺、別にまだあんたのファンになったわけじゃない」
「えぇっ!? い、今さらそこに反応するんですか!?」
省7
70: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/29(月)00:15 ID:uFnZQdOAo(6/26) AAS
 
頭を抱えたまま固まった菜々は、そのままのポーズで男を見上げた。

「ちょうどあんたみたいなのを探してたんだ、俺。 よかったら、あんたにぴったりな場所があるんだけど、興味ある?」
「へ?」

男の差し出した小さな紙っぺら──大きさや手触りで名刺か何かだということはわかった──を暗がりで受け取ると、
ステージの照明を借りて何とか記された文字列を読み取っていく。

「み、し、ろプロダク……」
「ま、そーゆーこった」
「……へ? ……へ??」

プロデューサー ――差し出してきた名刺の肩書きにそう記されていた男――が、もう一度ハッキリと言い放ってみせる。
省2
71: ◆AsngP.wJbI [saga] 2019/04/29(月)00:17 ID:uFnZQdOAo(7/26) AAS
 
 *

城のように絢爛な社屋、広大な敷地、すれ違う女性たちは皆、菜々も一度は目にしたことのある有名人。
見るもの全てが彼女を圧倒する。
ここが芸能事務所――今までいたような、薄暗い場所とはまるで大違いの、まさに芸能界の“表側”。
自分が今日からここの一員となることがにわかに信じられない。

「そ、それにしても……まさか芸能プロダクションのプロデューサーさんだったなんて……もっと早く言って下さいよぅ」
「だって聞かれなかったんだもん」

菜々はツカツカと廊下を進むプロデューサーに慌ただしくついていきながら、通り過ぎる事務所内の景色を右と左と眺めては驚嘆の声を漏らしていった。
その度によぎる小さな疑問を、思い切ってプロデューサーにぶつけてみる。
省4
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