遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」 (296レス)
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184: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:34 ID:KfriHW7I0(12/15) AAS
……マスターの言うとおりだ。
いったい俺はいつから、こんなにも弱くなってしまったのだろう。
例え初めての経験だろうと、その勇気をもって臨むのが勇者ではなかったか。
その名に恥じぬ男ぶりを見せないで、何が勇者であろうか。

俺は、覚悟を決める。

彼女の目に正面から向かう。
遊び人は相変わらず疑問符を頭上に浮かべたままキョトンとしている。

「今夜、俺の部屋に泊っていけ」
省18
185: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:34 ID:KfriHW7I0(13/15) AAS
――――――

光が収まり、バーは再び間接照明の落ち着いた色に染まる。
静けさを取り戻した店内には、老いた店の主人の姿しかなかった。

「二人とも消えたということは、あの娘も彼を受け入れたとみて良さそうかな」

マスターは、店内に誰もいないことを確認すると、鼻をズズッとすすり、懐から出したハンカチで目元を拭った。

「まったく、世話の焼けるお客様だ」
省6
186: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:35 ID:KfriHW7I0(14/15) AAS
――――――

朝日が、カーテンの隙間から部屋に差し込んでくる。
大きなあくびを一つ上げ、ググっと伸びをする。

アルコールの強烈な香りが鼻をついてくるせいで、とても清々しい朝だとは言えなかった。
床には割れたワインの瓶が転がっている。昨晩、彼女と飲みなおそうと教会から貰ってきたものだ。
宿屋の主人には悪いが、あの自家製酒はもう口にしたくなかった。

「まだ、結構残っていたはずだ。勿体ないことをしたな」

シャツを脱ぐと、襟から胸元にかけて赤いシミがべっとりついていた。
どうやら、頭からワインを被ってしまったらしい。いったいどんな寝ぼけ方をしたのやら。
省11
187: 今日はここまでです◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/03(金)16:36 ID:KfriHW7I0(15/15) AAS
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3杯目 カクタル思い

おわり

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188: 2019/05/03(金)19:59 ID:Ux4VZ+H6o(1) AAS
おつおつ
こっちが恥ずかしくなったわ!
これは読み直して二度面白い奴だな
189: 2019/05/04(土)00:44 ID:6qKfvimDO携(1) AAS

勇気が有るって良いな…
190: 今日はここまでです◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/07(火)20:44 ID:WrTit5G+0(1) AAS
 春の陽気のせいか、身にまとったクロークの下は汗でびっしょりだった。
 だが、これを脱いでしまうと、時折吹く冷たい風に誘われて身体が震えてしまう。これがいっそのこと、ひたすら暑ければ諦めもつくし、寒ければ身にまとう服の枚数を増やせばいいさ。だが、春は中途半端に過ぎる。だからこそ、俺は春が嫌いなのだ。

 この半年間、俺は酒を飲んでは飛び、酒を飲んでは飛びと、千鳥足テレポートを繰り返した。
以前の失敗から、千鳥足テレポートの要領は得ていた。ただ酒に酔うのではダメなのだ。陽気な気分で足を右へ左へ自由気ままに進め、まるでステップを踏むかのようにリズミカルに、それでもなお前のめりに。そういう心持ちでなくては千鳥足テレポートは成功しない。
 俺は、千鳥足テレポートを使うたびに、彼女との旅の思い出を呼び起こした。その短くも濃厚な時間は、俺の20数年積み上げてきた、どんな思い出よりも楽しく、鮮烈で、俺を千鳥足へと容易に誘ってくれた。そして、千鳥足テレポートの成功は、まるでその代償と言わんばかりに、彼女が消えてしまったという強い喪失感を俺に思い出させるのだった。

 最近は、魔王軍関連の場所にはあまり飛べなくなってきた一方で、知らない酒場へとたどり着くことが増えてきた。千鳥足テレポートは、行使者の願いと強く結びついた魔法だ。その名の通り、ふらふらと何処に飛ばされるかわからないというランダム性を持ちこそすれど、確かに前には進んでいる。すなわち、行使者が望む場所へといつかはたどり着く。そういう魔法だ。
 俺がたどり着いた酒場は、ことごとく彼女好みの旨い酒を出していた。……いつしか俺は、勇者としての使命を忘れ、憎き魔王の首よりも愛らしい彼女の尻を望むようになっていたのだ。

 今の俺は、果たして『勇者』と呼べる存在なのだろうかと、ふと疑問に思う。いや、ここにいるのはタダの間抜けだ。その身にかけられた使命を忘れ、国が禁じている酒を、毎晩浴びるように飲み、夜が明けぬ内にベッドの中から消えた女に思いを馳せるだけの男が、どうして勇者であるなどと呼べるだろうか。

 だが、安心してほしい。どうやら俺の酒浸りの毎日も、今日で年貢の納め処のようだ。もう、酒を飲む理由が無くなってしまったのだ。あの日から、日を追うごとに飲む酒の量が増えていった俺だけど、ついに許容量を超えてしまったらしい。
省4
191: 2019/05/08(水)00:34 ID:617mB4UDO携(1) AAS

192: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:42 ID:uG8tzRkA0(1/5) AAS
「ねえお兄さん。悪いけど、このまま飲み続けられると他のお客さんの分がなくなっちゃうよ」

 千鳥足テレポートを使うべく、一心不乱に酒を喉に流し込みつつ、彼女との楽しい思い出に耽っていた俺は、店主に声をかけられるその時まで、自分が周囲から奇異の目で見られていることに一切気づいていなかった。俺の机の周りには、既に空となった酒樽がいくつも転がっている。

「……妙だな」

 これだけ飲んだというのに、俺の足元はしっかり地面を踏んでいる。剣士として鍛えた体幹は、いっさい揺るぎない。まるで根を下ろした大木のような安定感だ。とても千鳥足を踏めるような状態ではない。
省11
193: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:44 ID:uG8tzRkA0(2/5) AAS
 久しぶりの故郷の空気を吸い込んでも、俺には何の感慨も沸き上がらない。俺は、そもそも孤児だったし、幼い頃から勇者としての厳しい訓練や教育を受けていたためか、ここには何の楽しい思い出もない。浮かぶのは、せいぜいが、勇者としての責務を果たしきれていないことへの罪悪感ぐらいのものだ。

「ほっほっほ、久しいのう勇者様。帰ってきたということは、遂に魔王を打ち取ったか? 」

 俺を出迎えたのは、女神正教の司教。かつて、俺に勇者としてのありよう、教会の戒律をしこたま教え込んでくれた人だ。

「申し訳ありません司教様。残念ながら、行き詰って助けを求めに帰って参りました」

 司教とは、特に親しいわけではない。だが、教会でも有数の情報通であると言われる彼なら、俺の抱える問題に一筋の光を差し込んでくれるかもしれない。俺は、差しさわりのない程度に俺の置かれている状況について説明をした。
省6
194: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:45 ID:uG8tzRkA0(3/5) AAS
「かつて、お主と同じように女神から力を授かった勇者はたくさんおる。不死の力、莫大な魔力、全てを見通す目、まあ力は様々じゃが、共通している点がひとつ……」

「そ、それは……」

 ごくりと唾を飲み込む。

「魔王を打ち倒した後は、力を失い平穏な日常を享受したということじゃ」

「魔王を……」
省7
195: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:45 ID:uG8tzRkA0(4/5) AAS
「……あるが、どうするのじゃ?」

「いえ、酔えなくはなったのですが、せっかくですからここのワインの味ぐらいは確かめて帰ろうかと……」

 もし、俺の言葉が司教の怒りに触れたのなら、その時は素直に鞭を受けよう。どうせ、耐性の力のおかげで、たいして痛くはないのだから。そう思った俺は、正直に本音をそのまま司教へと伝えた。

 司教は、目をつむり手を顎にあて「うんうん」と唸りだした。

「耐性の力を抑える方法はないが。魔王を見つける手段なら……実のところ……ある」
省10
196: 今日はここまでです◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/08(水)19:46 ID:uG8tzRkA0(5/5) AAS
「少なくとも、幹部級がいるとのことじゃ」

「なぜ、そのような情報をお持ちであったのに、もっと早く知らせていただけなかったのですか!?」

 
 俺の怒りの乗った言葉に、司教には一切悪びれる様子がない。それどころか、口をとがらせて口笛を吹く素振りまで見せている。

「儂が知っている勇者は、戒律どころか法律にも雁字搦めにしばられた男じゃった。そんな男に、こんな俗的な話を聞かせたら、逆に儂を鞭で叩きかねんかったからな。それどころか怒り狂って大聖堂内で綱紀粛正を叫びかねん」

「では、なぜその情報を伝える気になられたのですか?」
省7
197: 2019/05/08(水)20:20 ID:K0tUgFXlO携(1) AAS
おつおつ
198: 2019/05/09(木)00:20 ID:WgKj7BqDO携(1) AAS

メチルはやめとけメチルはwwでも耐性有るから平気か
199: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/09(木)21:58 ID:2o8X2YGF0(1/2) AAS
 魔王の秘密基地への奇襲攻撃は、十日後の深夜から明け方にかけて行われることとなった。司教の情報によると、基地内には魔王軍でも精鋭と呼ばれる魔物たちが溢れているらしい。当初は一人で乗りこむつもりだったが、司教の勧めもあって教会の僧兵たちを引き連れていくこととなった。その準備に日を要するとのことだ。手数が多ければ、魔物を逃がしてしまう恐れも少なくなる。断る理由はなかった。

 司教は、教会の宿舎に泊まれるよう手配すると申し出てくれたが、俺はそれを辞退した。久方ぶりに眠れない夜を過ごしたせいか、頭が割れるように痛く、重かったからだ。人の出入りが多い教会では、ゆっくり休むことは難しいだろう。俺は、街外れの安宿に部屋を取ることにした。

 
 宿のベッドに横になる。安宿だけあって、やたらに固いが文句は言うまい。今は、一刻も早く床につきたかった。宿に辿り着くころには、頭痛はさらに凶悪なものになっていた。

 そういえば、眠れない夜を過ごしたのはいつ以来だろうか。魔王を取り逃がし、一人で魔王を追っていた頃は、まともに睡眠をとれた日のほうが少なかった。そして、たとえ眠ることができたとしても、それは体力と精神が限界を迎えることで僅かな時間だけ意識が飛んでしまうもので、それは睡眠というよりも気絶に近かった。

 当時の俺は、そういう生活に慣れてしまっていた。魔王を取り逃がしてしまったことへの罪悪感や不安、焦燥感に苛まれることはあっても眠れないことは気にも留めていなかった。だが、こうして、たった一晩の徹夜だけで苦しんでいる自身の様子をみるに、それは勇者の耐性の力によるものではなかったのだろう。慣れることで、眠れない苦しみや痛みに鈍感になっていただけで、痛みは確かにそこにあったのだ。
省7
200: 今日はここまでです。いつもありがとうございます。◆CItYBDS.l2 [saga] 2019/05/09(木)21:58 ID:2o8X2YGF0(2/2) AAS
 そう、要は「慣れ」なのである。耐性の力に頼らずとも、慣れてしまえば俺は大丈夫なのだ。彼女に逃げられてしまった悲しみにだって慣れてしまえばいいのだ。……いやまて、俺は逃げられたのか? いや、そうじゃないはずだ。あの晩、俺たちは確かに愛し合った。不手際か?俺が、知らぬうちに何かをやらかしてしまっていたのか?突っ込む穴を間違えた?いやまて、だったら、彼女のことだ笑いながら許してくれる……はずだよな? いやいや、仮にそうだとしても。彼女が怒り心頭したとしてもだ。俺の前から、書置きすらなく急に消えることなんてことはないだろう。逃げられたというのは、妥当な推論から最も遠いところにあるはずだ。ならば、なぜ彼女は姿を消したというのだ。……第三者に攫われたとか? いや、いくら俺が女にうつつを抜かしていたといっても、寝ている隙に女を攫われて気づかないはずがない。伊達にも勇者なのだ、そこまで無能を晒すほどやわな男ではない。では、やはり、彼女は自身の意思で……。

 ああ、だめだ間に合わなかった。遂に、喧噪の夜が始まってしまった。そう、これだ。不安や不満、焦りや怒り。俺の中にあるありとあらゆる負の感情が、俺の意思とは関係なく思考の滑車をくるくるとまわすこの感じだ。止まらない思考から生み出される推測や、憶測は、更なる不安を呼び、その不安がまた思考を回させる。これが始まったら、もうおしまいだ。今晩もまた、俺は眠りにつくことはないだろう。

 慌ててワインを口に含んだところで、それを防ぐことなどできようがなかった。俺はもう、酒に酔うことはできないのだから。

 なんとか朝を迎えるが、疲れは一向にとれていなかった。それどころか、ドラゴンの悲鳴が魔王の断末魔にクラスアップしている。いつか聞きたいと願っていたが、こんなところで耳にすることができるとは実に僥倖僥倖。魔王の野太く響く声が実に心地いい。なんとなしに剣の鞘を抜くと、目の下に確りクマができていた。

 久しぶりの故郷ではあるが、散歩に出かけるような気は起きなかった。魔王の基地を襲撃するまであと六日。俺は、宿にこもり少しでも体力を温存することにした。
省10
201: 2019/05/09(木)22:37 ID:4L93rNi0o(1) AAS
おつおつ
勇者復活か
202: 2019/05/10(金)10:51 ID:tlMiAUiDO携(1) AAS

無粋でスマンが伊達を使うなら、伊達にも〜じゃなく、伊達に勇者を名乗っている〜とかにした方が良いかと
203: 2019/05/10(金)12:15 ID:2AJt9e5po(1) AAS
いえ、誤字や誤用の指摘は助かります。ありがとうございます。
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